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C07. 運動量と運動エネルギー

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C07. 運動量と運動エネルギー
埼玉工業大学
テーマ C07:
機械工学学習支援セミナー(小西克享)
運動量と運動エネルギー-1/10
運動量と運動エネルギー (Momentum and kinetic energy)
1. 運動にかかわる様々な物理量
物体の運動に関与している物理量は,質量 m,時間 t,位置 x,速度 v,加速度 a,外力 F
などがありますが,これらの物理量を組み合わせて新しい物理量を作り出す場合,組み合
わせ方は無限に考えられます.すべての組み合わせが意味を持つわけではありませんが,
そのうちのいくつかは運動の特性を表現するのにふさわしいものとなります.
例えば,以下のようなものが挙げられます.
(1) 質量 m と加速度 a を掛けた ma は物体に作用する外力 F に等しい.これは運動の第 2
法則であり,次式で表わされます.
F = ma
(1)
この式を運動方程式といいます.
(2) 質量 m と速度 v を掛けた mv(運動量)は,静止していた質量 m の物体を速度 v まで加
速するのに必要な力 F と時間 t の積(力積)に等しい.
Ft = mv
(2)
(3) 質量 m と速度の 2 乗 v2 を掛けた mv2 は,物体の運動エネルギーE の 2 倍に等しい.
(3)
2 E = mv 2
2
2
(4) 質量 m と位置の 2 乗 x を掛けた mx は,x を半径として回転運動する物体の慣性モー
メント I に等しい.(慣性モーメントの解説は,学習支援・機械工学編「慣性モーメント」
をご覧ください)
このように物体の運動は,簡単な物理量の組み合わせで様々な特性が記述される興味深
い現象なのです.
これらの物理量のうち,運動量と運動エネルギーは共に質量と速度から計算されるため,
混同されることも少なくありません.しかし,実際に物体の運動の問題を解こうとすると
き,運動量を用いたり,運動エネルギーを用いたりと場合によって使い分けなければなり
ません.運動量と運動エネルギーの違いを正確に理解しておかないと対応できなくなりま
す.
そのために,物体の運動を基礎から考察することにしましょう.
2. 慣性の法則(運動の第 1 法則)
床の上に,質量 m [kg] の物体が置かれているとします.何もしなければ,そして何も起
きなければ,物体はこの状態を永久に保ち続けます.これは,物体には慣性があり,静止
しているなら静止した状態を持続し,運動しているなら等速直線運動 (uniform linear
motion)を持続しようとする性質があるからです.これは,慣性の法則 (law of inertia)もし
くはニュートンの運動の第 1 法則 (the first law of motion)と呼ばれています.
実は静止している物体には,地球の中心に向かう重力 mg [N] が外力として働いています
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運動量と運動エネルギー-2/10
が,床が支えているために,床が抜けるようなことが起きない限り動かないだけのことで
す.静止している物体を動かすには,物体に力(外力)F [N] を作用させなければなりま
せん.力を作用させるには,押す,引っ張る,何かを衝突させるなどの方法があります.
何もしなければ,
物体は静止したま
まの状態を保つ
外力 F が作用する
と,物体は外力の
方向に動き出す
F
m
m
3. 運動方程式(運動の第 2 法則)
外力が作用している間,物体の速度は増加し続けます.これを加速度運動と言います.
特に,外力の大きさが一定なら速度の増加割合は一定となり,等加速度運動と呼ばれます.
外力が作用しなくなると,慣性の法則によりその時点の速度を保って等速直線運動を続け
ようとします.外力を与えると加速度が発生することをニュートンの運動の第 2 法則 (the
second law of motion)と呼んでいます.
外力 F,物体の質量 m,加速度 a の関係を式で表わすと
F = ma
(4)
となり,この式を運動方程式 (equation of motion)と呼んでいます. (4)式から, F = 0 なら
a = 0 となり,外力が 0 なら加速度 0,すなわち,静止していれば静止したまま,運動して
いる場合は,等速直線運動をすること(慣性の法則)が分かり,F が一定なら a も一定,
すなわち,外力が一定なら等加速度運動をすることがわかります.運動方程式は,すべて
の運動に適用でき,運動の基礎をなす大変重要な式です.
4. 運動量
加速度 a は速度 v の変化割合ですが,数学的に表わせば次式のように速度 v を時間 t で
微分したものとなります.
a=
dv
dt
(5)
この関係から,(1)の運動方程式は
F =m
dv
dt
(6)
と書き換えることができます.(4)式は次のように積分することができます
Fdt = mdv
∫ Fdt = ∫ mdv
(7)
Ft = m(v + C )
積分定数 C を決定するため,初期条件として t = 0 における速度 v = v0 を代入すると,
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F × 0 = m(v0 + C ) ∴ C = −v0
運動量と運動エネルギー-3/10
(8)
となり,これを(6)式に代入すると次式が得られます.
Ft = m(v − v0 )
(9)
もしくは
Ft = mv − mv0
(10)
(9)式は,速度 v0 [m/s]で運動している物体に,外力 F [N] を t [s]の間作用させると,速度
が v [m/s] になることを意味しています.このとき, F > 0 なら F が運動の方向と同じ方向
に作用し,物体は加速させ, F < 0 なら反対の方向に作用し,物体は減速させることになり
ます.
(10)式の右辺にある mv は運動量 (momentum)と呼ばれる物理量です.(10)式は運動量の変
化量は力積に等しいことを示しています.すなわち,外力 F [N] を t [s]の間作用させると,
物体の速度は v0 から v に変化し,運動量は mv0 から mv に変化することが分かります.左辺
の Ft は力積(impulse)と呼ばれる物理量です.運動量は速度を変化させるときに必要な外力
の大きさと,外力が作用する時間の関係を表わす物理量といえます.
5. 運動エネルギー
エネルギーとは,静止しているものを動かす(例えば荷物を持ち上げる),湯を沸かすな
ど,外部に対して仕事をさせたり,温度を上昇させたりできる能力のことです.
エネルギーにはいろいろな形態(種類)があります.
①
②
③
④
エネルギーの種類
力学的エネルギー
運動エネルギー
位置エネルギー
弾性エネルギー
熱エネルギー
化学エネルギー
電磁気学的エネルギー
エネルギーを理解するには,まず,仕事の概念を理解する必要があります.1N(ニュー
トン)の力で物体を 1m 移動させるとき,1Nm(ニュートンメートル)の仕事をしたと定
義します.力×移動量の値を仕事量といいます.仕事は概念で,仕事量は値というわけで
す.この仕事量をエネルギーと定義しています.仕事量とエネルギーは同じものです.1Nm
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運動量と運動エネルギー-4/10
は 1J(ジュール)に等しいと定義し,J を仕事量やエネルギー全般の単位として使用して
います.
F=1N
F=1N
m
m
1m 移動
物体を水平方向ではなく,鉛直方向に動かすときは,物体の重量と移動距離を掛けた値
が仕事となります.ただし,上向きに動かすときには外部から仕事をもらい,下向きのと
きには仕事を外部に発生することができます.
重力場では物体は存在しているだけですでに,位置エネルギー (potential Energy) を持っ
ています.地球上では,物体の質量を m,重力加速度を g,基準位置からの高さを h とす
ると,位置エネルギーの大きさは mgh です.物体が落下する場合,物体が最初に持ってい
た位置エネルギーを使って,物体自身を運動させる(落下する)仕事,すなわち運動エネ
ルギー (kinetic energy, KE) に変換することができます.運動エネルギーE は,物体の速度
を v [m/s] とすると
E=
1 2
mv
2
(11)
2
kgm
m
で表わされます.単位は, kg ×   = 2 × m = Nm となります.
s
s
6. 運動量保存の法則とエネルギー保存の法則
物体の運動には次の保存則が存在します.
運動量保存の法則 (conservation of momentum) は「外力が作用しなければ,系の運動量の総和
は不変」という法則です.
エネルギー保存の法則 (the law of the conservation of energy) は,「閉じた系の中のエネルギ
ーの総和は不変」という法則です.
これらの法則は,物体の運動を解く上で大変重要なものなので,使いこなせるようにし
ておく必要があります.次に,実例を紹介します.
6.1 自由落下
質量 m [kg] の物体が y [m] 自由落下するとき,重力加速度を g [m/s2] とすると,落下前
と落下後の位置で
PE + KE = 0 + mgy =
1 2
mv + 0 = const
2
(12)
の関係が成立します.結局,最初に物体が持っていた位置エネルギーmgy が運動エネルギ
1
ー mv 2 に変換されることになり,次の式が得られます.
2
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運動量と運動エネルギー-5/10
1 2
mv = mgy
2
(13)
式を変形すれば,物体の速度と落下距離の関係は次式で与えられることになります.
v = 2 gy
(14)
このように,自由落下の問題はエネルギー保存の法則で解けることができます.このと
き,重力が作用するため運動量保存は適用することができません.物体が坂道を転がる場
合も同じです.
運動エネルギ,位置エネルギ
m v=0
m v=0
自然落下
z
坂の転がり
z
v
v
6.2. 衝突問題
(1) 静止物体との衝突
次の図を見て下さい.質量 m の球 A を静止している質量 m の球 B に速度 v で衝突させ
ると,A は静止し B は速度 v B (= v ) で動き出します.
A
m
B
m
v
v
m
m
m
m
これは,
「外力が作用しなければ,系の運動量は保存される」という運動量保存の法則が働
くからです.式で表わすと,
衝突前の系の運動量=衝突後の系の運動量
(15)
となります.衝突前は A のみが運動しているため,系の運動量は mv です.衝突後の B の
速度を v B とすると,
(16)
mv = mv B , ∴ v B = v
となり,B の速度は v になるわけです.しかし,良く考えると,衝突後,A と B が一緒に
v
なって の速度で運動しても運動量は mv となり,運動量保存が成立しますから,これでも
2
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運動量と運動エネルギー-6/10
良さそうに思えます.結局,運動量保存の法則からだけでは,A が止まり,B が速度 v で
動き出す根拠はどこにも見当たりません.単に A が止まると仮定すれば,B は速度 v で動
き出すということしか分かりません.これでは,問題を解いたことにはなりません.次に,
エネルギー保存の法則を考えてみましょう.もし,衝突後に A が止まると仮定すれば,
1 2 1
2
mv = mvB , ∴ vB = v
2
2
(17)
となって,運動量保存から導いた答えと同じになりますが,衝突後,A と B が一緒になっ
て速度 vB で運動すると仮定すれば,運動量保存から
mv = mvB + mvB , ∴ vB =
v
2
エネルギー保存から
1 2 1
1
v
2
2
2
mv = mvB + mvB , v 2 = 2vB , ∴ vB =
2
2
2
2
となって,運動量保存から導いた速度とエネルギー保存から導いた速度が異なった結果に
なり,矛盾が生じます.運動量保存とエネルギー保存の両方を成立させる速度が解となる
ので,結局 A は止まり,B が速度 v で動き出すのが正解となります.
(2) 衝突問題の解法
衝突問題を解くには運動量保存およびエネルギー保存を同時に考えなければなりません.
解法は次の通りです.
衝突後の A と B の速度をそれぞれ vA , vB とおくと,運動量保存およびエネルギー保存から
次の連立方程式が成立します.
mv = mvA + mvB , ∴ v = vA + vB
(18)
1 2 1
1
2
2
2
2
mv = mvA + mvB , ∴ v 2 = vA + vB
2
2
2
(19)
この連立方程式を解くと,(18)式より
v A = v − vB
(19)式に代入すれば
v 2 = (v − vB ) + vB = v 2 − 2vvB + vB + vB
2
2
0 = −2vvB + 2vB
2
2
2
vB (v − vB ) = 0
∴ vB = 0 or
vB = v
vB = 0 の 場 合は , A が B を す り抜 け るこ と にな り ,物 理 的に 不 可能 で す. 結 局 ,
(20)
vA = 0, vB = v
が適解となります.
(3) 追突問題
速度 v2,質量 m の球に速度 v1,質量 m の球が追突する場合
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A
m
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B
m
vA
vA
運動量と運動エネルギー-7/10
vB
m
m
vB
vA2
m
m
vB2
運動量保存およびエネルギー保存から次の連立方程式が成立します.
mvA + mvB = mvA2 + mvB2 , ∴ v A + vB = vA2 + vB2
1
1
1
1
2
2
2
2
2
2
2
2
mvA + mvB = mvA2 + mvB2 , ∴ vA + vB = vA2 + vB2
2
2
2
2
(21)
(22)
(21)式より
vB2 = vA + vB − vA2
(22)式に代入すると
vA + vB = vA2 + (vA + vB − vA2 )
2
2
2
2
= vA2 + (vA + vB ) − 2(vA + vB )vA2 + vA2
2
2
2
= 2vA2 + vA + 2vA vB + vB − 2(vA + vB )vA2
2
2
2
したがって
vA2 − (vA + vB )vA2 + vA vB = 0
2
vA2 =
(vA + vB ) ± (vA + vB )2 − 4vA vB
2
また,
vB2 = vA + vB − vA2
= vA + vB −
(vA + vB ) ± (vA + vB )2 − 4vA vB
=
(vA + vB )  (vA + vB )2 − 4vA vB
2
2
A が B を追い越すことはないので, vA2 ≤ vB2 でなければなりません.この条件を満たす解
は,
vA2 =
vB2 =
(vA + vB ) − (vA + vB )2 − 4vA vB
2
(vA + vB ) + (vA + vB )2 − 4vA vB
2
となります.ここで, vB = 0 の場合
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vA2 =
(vA + vB ) − (vA + vB )2 − 4vA vB
2
(vA + vB ) + (vA + vB )
2
vB2 =
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−4
2
=
=
運動量と運動エネルギー-8/10
(vA + 0) − (vA + 0)2 − 4vA × 0
2
(vA + 0) + (vA + 0)2 − 4vA × 0
2
=
=
vA − vA
=0
2
vA + vA
= vA
2
となって,(20)式と同じ答えが得られます.
6.3. 分裂問題
速度 v で運動している質量 m の物体が半分ずつに分裂する場合を考えます.
m
m/2
v
m/2
vA
vB
運動量保存およびエネルギー保存から
mv =
m
m
v
v
vA + vB , ∴ v = A + B
2
2
2
2
(23)
2
2
1 2 1m 2 1m 2
v
v
mv =
vB +
vB , ∴ v 2 = A + B
2
2 2
2 2
2
2
これを解くと,(23)式より
vA = 2v − vB
(24)
これを(24)式に代入すると
2
2
(
2v − v B ) v B
=
+
(
)
2
v
1
2
v
= 4v 2 − 4vvB + vB + B
2
2
2
2
2
2
vB − 2vvB + v = 0
2
(vB − v )2 = 0
∴ vB = v , vA = v
となり,分裂しても速度は変化しないことが分かります.
m
v
m/2
m/2
v
v
分裂しても速度は変化しない.
このように,衝突・分裂問題は,運動量保存およびエネルギー保存を連立して解くこと
が基本となります.
6.4.
合体問題
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運動量と運動エネルギー-9/10
速度 v で運動している質量 m の物体が,静止している質量 m の物体に衝突し,そのまま
一体となって運動する問題を考えます.
A
mA vA
B
mB
vA m m
A
B
vB
mA mB
運動量保存およびエネルギー保存から
mA
mA vA = (mA + mB )vB ∴ vB =
vA
mA + mB
mA
1
1
2
2
mA vA = (mA + mB )vB ∴ vB = ±
vA
mA + mB
2
2
となって,明らかに速度は矛盾した値となります.このことは,ありそうに思える図のよ
うな合体現象は,弾性衝突としては実際には起こり得ないことを意味しています.これは,
静止している物体の質量には関係なく,質量が小さければ成立するというものではありま
せん.
実際に合体が起きる場合,物体を塑性変形させるための力が作用し,運動エネルギーの
一部が摩擦熱として奪われます.損失エネルギーを ∆E として,エネルギー保存を適用する
と,速度は次のように表されます.
mA vA − 2∆E
1
1
2
2
mA vA = (mA + mB )vB + ∆E , ∴ vB =
mA + mB
2
2
2
結局のところ,∆E が分からないと厳密な速度を得ることは困難です.運動量の変化量は力
積に等しいため,力積 Ft と損失エネルギー ∆E には次の関係があります.力積は,力 F が
t 秒間物体に作用したことを意味しています.
mA vA − 2∆E
mA + mB
2
Ft = mA vA − mBvB = mA vA − mB
この式から,損失エネルギーが大きいほど,力積が大きくなることが分かります.
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運動量と運動エネルギー-10/10
http://www.sit.ac.jp/user/konishi/JPN/L_Support/SupportPDF/Momentum_and_energy.pdf
Copyright ⓒ 2009, 2013 小西克享, All Rights Reserved.
個人的な学習の目的以外での使用,転載,配布等はできません.
2014 年 2 月 4 日改訂
お願い: 本資料は,埼玉工業大学在学生の学習を支援することを目的として公開しています.本資料
の内容に関する本学在学生以外からのご質問・ご要望にはお応えできません.
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