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研究論文
卒 業 論 文 ( 遊休不動産の再生・活用と エリア価値の向上に関する研究 〈 平成 28年 1月 1 9日提出 島田智明研究室 学籍番号 氏名 1242739B 山下智也 目 次 第 1章 は じ め に 1 1 研究の背景と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 ・ −2 研究の方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 1 第 2章 不動産の遊休化に関する基本情報の整理 2 1 遊休不動産の分類・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 2-2 遊休不動産の増加に伴って発生する問題・・・・・・・・・・・・・ 3 2-3 遊休不動産の発生要因・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 〈 2-4 国や自治体、民間事業者の取り組み・・・・・・・・・・・・・・・ 5 2-5 2章のまとめと、 3章以降への指針・・・・・・・・・・・・・・・ 6 第 3章三ノ宮駅周辺工リアの現状と遊休化モデル 3 1 遊休化プロセスに関する仮説・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 3-2 三ノ宮駅周辺工リアの現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 3 33 2の情報整理と三ノ宮駅周辺の遊休化モデル・・・・・・・・・ 19 第 4章遊休不動産のリノベーションによる都市再生案の検討 4 1 先行事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22 4-2 苅象エリアへの応用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26 第 5章 おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28 〈 第 1章 は じ め に 1 1 研究の背景と目的 人口減少や少子高齢化、モータリゼーションの変化、インターネット普及等の様々の影 響により、現代社会はその様々な面において大きく変化し続けている。こうした時代の流 れの中で、多くの地方公共団体において遊休化した不動産の増加が深刻な問題となってき ている。総務省がまとめた「平成 25年住宅・土地統計調査j によれば、 2013年 10月時点 の空き家は 800万戸以上、住宅総数約 6 ,000万戸に対して「空き家率Jは 13.5%と過去最 高を記録することとなった。しかしながら、これはあくまで住宅を対象とした集計の域に とどまっている。空き家が大きな問題であることには変わりないのだが、これに加えて空 き店舗、空きビル、空き地など、企業活動等に利用されずにその使用を休止している「遊 休不動産 Jが多く存在しているのだ。 〈 現在、我々が学生として暮らしている神戸市もこの例外ではない。シャッターが降りて 閑散としている商店街や高架下、人が住んでいるのかどうか疑わしいような外観をした住 宅、営業しているのかわからない店舗など、少しばかり中心街を外れてみたり、裏に入っ てみたりすればこの様な光景に出会うことができるだろう。思い当たる節があるという人 も多いのではないだろうか。以下のグラフは神戸市と全国に関する空き家率の推移を表し たものである。直近の平成 25年時点では、神戸市が 13.1%であるのに対して全国が 13.5% と神戸市が全国平均より少し下回っているものの、全体として空き家は年々増加している 傾向にあると言えるだろう。 図1 1 空き家率の推移(神戸市、全国) 16.00% 《 14.00% 12.00% 10.00% 開併神戸 8.00% 棚砂全国 6.00% 4.00% 2.00% 0.00% 昭和 58 年昭和 63年 平 成5年 平 成 10 年平成 15年平成20 年平成25年 (平成 25年住宅・土地統計調査より) 1 また、先ほども述べたように、これはあくまで、住宅に限った話である。その他にも商店 街やピル等の空きテナントに加え、利用者の減少・老朽化などによって閉鎖されてしまっ た公共施設、廃校になった小中学校など、遊休不動産の問題は民間の域だけにとどまらな い。これらの遊休化した不動産を放置することは、その外観故にエリアの魅力を損なうだ けにとどまらず、生産能力を持たない不動産放置によって経済活力の停滞や雇用の消失と いった深刻な問題を引き起こすことにも繋がってくる。地方の活性化事業と称して新規の 施設建設を行ったり、イベントを開催するなどソフトな部分での活動を行ったりする地方 自治体をよく見かけるが、この効果は一時的なものでしかなく、根本的な解決に繋がらな いのではないだろうかと思う。したがって、これら遊休不動産を積極的に再活用し、エリ アの価値を底上げしていくことこそが地方自治体を盛り上げていくという目的のための重 〈 要なポイントとなるものと考える。 以上のことを踏まえた上で、本研究では、我々の住む神戸市、中でもその中心と言える 中央区の「三ノ宮駅周辺エリア(三宮 1丁目 2丁目、北長坂通 1丁目 2丁目)Jを対象として O不動産の遊休化の根本的な要因を探り、そのメカニズムを明らかにすること 0遊休不動産の再活用施策を提案すること を目的としており、これらを通じて神戸市における遊休不動産の再生・活用に関する意識 を高めるとともに同市の都市再生に寄与することを目指す。 1・2 研究の方法 まず、第 2 章では、資料やインターネットサイト、先行研究を用いて不動産の遊休化に ついて基本情報を収集・整理する。また、本研究の目的である神戸市の都市開発策の提案 に向けてその対象となる遊休不動産の形態を絞りこむ。 《 第 3章では、 2章の’情報に従って仮説を立て、不動産紹介サイトのレビュー調査や統計資料 によって神戸市(中央区の三ノ宮、駅周辺エリア)の現状を把握し、仮説をこれに照らし合わ せて検証する。そして検証結果をもとに、対象エリアにおける不動産の遊休化メカニズム を明らかにする。 第 4章では、先行事例を参考に、遊休化モデルに対する都市再生案を考察する。 最後に、第 5章では本研究の総括を行う。 第 2章 不動産の遊休化に関する基本情報の整理 2・1 遊休不動産の分類 1章でも述べた通り、単に遊休不動産と言っても、民間のものであるか公的なものであ るかなど様々な種類のものが存在する。これを踏まえて、遊休不動産をその形態に従って カテゴライズしておきたい。ここでは、以下の 3つの型に分類するものとする。 2 ①住居型:賃貸マンションや一軒家など。不動産所有者(企業)が物件や土地の貸付・売買 を行い、利用者がこれを居住スペースや住宅地として利用する形態を指す。 ② テナント型:商店街や高架下等。不動産所有者(企業)が物件の貸付を行い、賃貸者が営 利目的でこれを利用する形態を指す。 ③ 公的不動産型:図書館や公民館、庁舎、小中学校等。地方公共団体が所有・運営する 不動産を指す。 大きく分けると、①②が民間、③が地方公共団体とし寸分類になる。①②に関しては、 これらの不動産が遊休化している状態において、不動産所有者(企業)による物件の貸付が行 われていないことを指すという点では同じであるが、貸付対象の目的が①居住②商売等で 異なっているということから別の分類とした。 〈 2 2 遊休不動産の増加に伴って発生する問題点 遊休不動産の増加に伴う問題は都市の様々な面に現れる。遊休不動産の増加によって都市 の活力が奪われ、衰退を進行させる要因となっていることは先ほど述べた通りであるが、それと 同時に深刻となっているのが安全面や衛生面における問題である。 図 2・1 不動産の遊休化に伴う問題点の例 《 全体の傾き、主要構造の腐食 倒壊による被害 屋根・外壁の剥離 飛散による被害 設備、門・塀の老朽化 脱落や倒壊による被害 浄化槽の破損、汚水の流出 衛生上の影響 |ごみ等の放置、不法投棄 l (空き家に関するもの) 衛生上の影響、害獣・害虫の増殖 景観計画に不適合 景観上の影響 窓ガラスの破損、門扉の破損 不法侵入の危険 植栽の不整備 害獣・害虫の増殖、道路通行上の影響 (参考:土地カツ n e t コラム「空き家対策特別措置法を分かりやすく解説してみる」より) 空き家や空きピ、ルなどは適切な手入れがなされないことが多いのに加え、利用者がし、ないが故 に目が行き届かなくなり、様々な危険を呼び込んでしまう。子ども達が遊びのためにいたずらに 侵入してしまうこともあるほか、その人目につかないという点から犯罪の温床となってしまう可 能性をも秘めているだろう。これら遊休不動産の問題は単に所有者だけの問題にとどまらず、周 囲に迷惑をかけるばかりか、地域住民の犯罪や事故に対する不安感を高めてしまうことに繋がる などコミュニティ全体へ様々な影響を及ぼすことになる。 また、空き店舗が増えたシャッター商店街やテナントが空いている空きビルなどは、客足が遠 3 のくなどの影響で人の巡りが悪くなり、残った店舗の経営を圧迫してしまうこともある。遊休不 動産の存在が新たな遊休不動産を生み、加速度的に当該エリアの衰退が進むということも考えら れるであろう。 2-3 遊休不動産の発生要因 2・1の分類に従って、文献資料やインターネット記事を参考に、それぞれに関してその発 生要因を大まかに整理する。 ①住居型:人口減少や少子高齢化の進行、親の家を継がないライフスタイルの増加、まちの衰 退、これらに対してそれでも止まらない新築住宅の供給などが大きな原因となっている場合 〈 が多い。都市中心部から離れたエリアで開発された住宅地などにおいては、売ろうとしても 買い手が付かずに空き家として放置されてしまうというケースもある。 ②テナント型:戦後復興期から高度経済成長期の最中、中心市街地から離れたバイパス沿い に飲食や物販の店舗が乱立したり、商店街等が盛り上がりを見せたりする時代もあったが、 人口減少や大型商業施設との競合によって表退が進んでいるケースが多くある。古い商店街 も同様、空き店舗が大半を占める「シャッター商店街Jは地方都市だけでなく、東京や大阪 など大都市の中でも生まれ始めている。日本の高度成長期を支えてきた工業エリアも、施設 の老朽化や製造業の空洞化によって廃工場が増える。その従業者がいなくなることにより、 社宅や寮が廃止され、福利厚生施設としてのグラウンド等が空き地化するという例も見られ る 。 ③公的不動産型:市区町村の合併統合、大都市への人口集中等により地方自治体の衰退と 共に税収も低減。施設利用者が低迷したり、施設運営費が賄えなくなったりすることで 廃業・遊休化してしまう例が多く見られる。 《 (引用: HOME ’ S PLESS h t t p : / / w w w . h o m e s . c o . j p / c o n t / p r e s s / r e f o r m / ) これらを見ていくと、人口減少・少子高齢化・人口集中、これに伴う不動産関連のニー ズや住民のライフスタイルの変化といった大きな社会の流れがことの発端となっているこ とが分かる。しかしながら、これらの問題を直接的な原因として話を進めてしまうことは、 人口減少や少子高齢化等に対する対策を講じる流れになってしまうため、本研究の趣旨・ 目的から大きくかけ離れてしまう可能性がある。 また、公共機関型遊休不動産についてであるが、これの発生要因はその他①②の発生要 因ともなり得る(地方公共団体の衰退→人口減少、少子高齢化の進行等→①②)。そのため、 ③に関する考察もまた、遊休不動産に関する本研究の趣旨・目的とはかけ離れてしまう可 能性があるだろう。 4 2・4 国や自治体、民間事業者の取り組み このような状況に対して、何も対策がなされていないというわけではない。国や地方公 共団体は、特に「空き家 j の問題について早急に処置を行うため、様々な法案や条例、サ ービス拡充を図っている。 「空き家ノくンク J … 空き家バンクとは、主に自治体が主体となって空き家情報を収集すると共に、移住希望 者に対してインターネット等を通じて情報発信を行うことで空き家の再利用を図る仕組み である。その狙いは、若年層・子育て世帯の定住化、外部からの人口流入を図ることによ る定住人口の増加である。空き家バンクの大まかなメリット・デメリットについては以下 〈 の通りである。 0メリット ・空き家バンクにのみ掲載している物件が存在する。 ・優遇条件付き(助成金や農地、畑が付いている等)の物件が存在する 0 .移住に関する様々な情報を閲覧することができる。 0デメリット ・家財が置きっぱなしになっている、家主がたまに利用したいなど、条件が面倒な物 件が存在する。 ・空き家に関する情報が滞っている自治体も存在するなど、自治体によってサービス 内容に格差がある。 「空き家条例 J… 《 空き家の適正管理、および老朽化の進行と共に倒壊等の危険性がある住宅の強制解体・ 0月に施行された「所沢市空き家等の適正管理 撤去を目的とした空き家条例は、 2010年 1 に関する条例 j に端を発し、その後、同様の条例が相次いで制定された。この流れは急速 な広がりを見せ、 2014年 4月の時点で 211の自治体、 2015年 4月の時点で 355の自治体 がこれを取り入れている。しかしながら、空き家を解体・撤去することができたとしても そこに残るのは空き地であり、遊休不動産の再生・活用という意味ではこれを果たすこと ができていなし、。そこで、 2014年 7月に施行された東京都豊島区の「建物等の適正な維持 管理を促進する条例」においては、空き家の賃貸化や売却を促進するための「老朽化抑制 対策 j が盛り込まれるなど、一歩踏み込んだ条例も発案され始めている。 「空き家対策法」… 倒壊や火災など、コミュニティにおいて何らかの悪影響を及ぼす危険性が高いと考えら れる空き家物件に対して 5 1 :改善への助言と指導 除却(解体)や修繕、立木竹の伐採等の助言または指導。 2 :改善が無ければ勧告 固定資産税の特例対象から除外。 3 :勧告に対しても改善が無ければ命令 4 :改善命令を無視した場合の強制対処 以上のような流れで対処することなどを定めた空き家対策法(空き家等対策の推進に関する 1月に公布され、 2015年 5月に完全施行された。また、同法律に 特別措置法)が、 2014年 1 〈 おいては、これまで空き家の解体や撤去を阻害する一因となっていた固定資産の軽減措置 が見直されることとなった。特定空き家等に対する市区町村の改善勧告があった場合、土 地に対する固定資産税が軽減される特例から除外され、土地の固定資産税は最大で 4倍以 上にまで膨れ上がることになったのだ。これによって、「売りに出したところで採算がとれ る保証がなしリという考え方から現状維持という無難な選択肢を選んでいた不動産所持者 が重い腰をあげる必要性が出てきた。これまで個人で所有されたまま管理の滞っていた遊 休不動産が、これからは民間の不動産事業者に売りに出される流れとなっていくだろう。 また、民間事業者においては、中古物件を再生・活用するリノベーション・リフォーム といった活動を事業の一環とする企業が増加している傾向がある。以下のグラフは、矢野 経済研究所が作成したグラフの引用である。 2000年から 2009年にかけては縮小の傾向が 見られるものの、 2009年以降はやや拡大傾向にあることが見て取れる。政府の「新成長戦 略 j において、 2020年までに住宅リフォーム市場を現状の 6兆円から 1 2兆円に倍増させ 《 る方針が掲げられていることから、住宅リフォーム市場を活性化させる様々な施策が実施 されるものと考えられる。このように政府の後押しもあり、様々な追い風を受けているリ ノベーション・リフォーム業界は、今後大きくその市場規模を伸ばす可能性を秘めている と言えるだろう。 このような状況を見て、大手ハウスメーカーや不動産会社、工務店などもともと建築・ 不動産に携わっていた業界のみならず、ホームセンターや家電量販店もリノベーション・ リフォーム事業への取り組みを始めるなど、様々な企業が住宅リフォーム市場へと参入し ている。 図 2-2 住宅リフォーム市場の市場規模遷移 6 鶴老議渇 予ゑ繍 鶴,銭捻 戦滋調B 総,織 3 0 亀裂滋 鵠,訴訟 〈 雪 3 溜鵠琴 錦尉君事 滋檎車事 議鴻岩手 鎖蝋毒事 鴻鵠毒事 綿織毒事 鵠邸苦手 錦織現存 鵠鱒第 錦織奪 鰭l l若 手 滞1 2選手鰭絡護軍 しヱ!設鰻懸続ゑ~数数漁斐校ゑ点数穂役受託♂主役ぷ波紋たj (矢野研究所 「 2014年度版住宅リフォーム市場の展望と戦略」より抜粋) しかしながら、政府や自治体の取り組みに関しても言えることではあるが、これらの対 策は個人が所有する空き家等を対象としたものであることが多い。その他空きビ、ルや空き 店舗、空き倉庫などを含めた「遊休不動産全体 j に対する取り組みはどうなっているのか と言うと、なかなか思うように進んでいないというのが現状であるだろう。 2 5 2章のまとめと 3章以降への指針 本章では、遊休不動産の現状に関して以下のようなことが分かつた。 《 0遊休不動産について、その形態によって①住居型②テナント型③公的不動産型の 3種類 に分類できる。 0遊休不動産の発生要因としては人口減少や少子高齢化などが挙げられ、遊休不動産関連 以外のその他様々な社会現象と同じく、大きな社会の流れに端を発している。 0住居型不動産、テナント型不動産の直接的な遊休化要因としては、不動産需要と供給の バランスがとれていないことであると考えられる白 0公的不動産の遊休化要因に関しては、地方公共団体の衰退や合併とうによる人口変動が 要因となっている場合がほとんどであると考えられる。 0これら遊休不動産の問題への対策について、国や自治体のみならず民間事業者らによっ ても様々な取り組みがなされている。しかしながら、国や自治体の対策として「空き家」 に限った法案ばかりが取りざたされているほか、民間事業者による取り組みも単に個別の 遊休不動産を再生・活用することに注力されているため、この効果は一時的なものに留ま ってしまっているというのが現状である。 7 以上のことを踏まえると、本論の目的である「遊休不動産の再生・活用によるエリア価 値の向上と都市再生案を講じる」ことについて、最も有意義であると考えられる研究対象 は、「テナント型遊休不動産」であろう D というのも、公的不動産・住居型不動産について は、先ほど述べた通り既に国や自治体、民間事業者によってそれら単体での再生・活用に 対する取り組みが進められている最中であるが、不動産単体を対象としたものに留まって いるからだ。遊休不動産の再生・活用による効果をエリア価値の向上・都市再生というと ころにまで昇華させるためには、単に個別の遊休不動産を再生・活用するだけでなく、遊 休不動産再生が周囲に及ぼす効果を勘案するとともに、エリアを定めて戦略的に不動産再 生を行っていく取り組みが必要であるだろう。従って、以下の章では、対象エリアである 〈 三ノ宮駅周辺のテナント型遊休不動産に関してその遊休化メカニズムを明らかにしていく と共に、都市再生策を提案するものとする。 第 3章 三ノ宮駅周辺エリアの現状と遊休化モデル 3・1 遊休化プロセスに関する仮説 ここで、対象エリアにおける遊休化メカニズ、ムの考察に入る前に、テナント型不動産の 一般的な遊休化モデ、ルを考察し、これが対象エリアにおいても成立しているという仮説を 立てておきたい。テナント型不動産の遊休化については 2 章でも触れた通り、戦後復興期 から高度経済成長期にかけて盛り上がりを見せていた商店街や中心市街地が衰退し、撤退 してしまったテナントに再利用者が付かずに遊休化してしまうというプロセスが一般的で ある。これを簡略化した図は以下の通りである。 1 テナント型不動産の一般的な遊休化プロセス 図3 《 テナントが テナントが 活用されて 遊休化して いる状態。 いる状態。 空きテナントに再利用者が付かない直接的要因となるものとしては、大きく分けて ・人的要因(対象エリアの人口、後背地の人口、歩行者通行量等) ・不動産要因(テナントの立地、価格、面積等) の 2つが挙げられるだろう。 8 まとめると、『テナント型の遊休不動産は、「テナント利用者の撤退後、人的要因・不動 産要因によって、その再利用には至らずに遊休化してしまう J というのが一般的なプロセ スであり、これは対象エリアである三ノ宮駅周辺においても当てはまる。』というのが本章 における仮説である。 3・2 三ノ宮駅周辺エリアの現状 3 2・1 人口と世帯の動向 三ノ宮駅周辺エリアのみに限定されたデータは得ることができなかったため、代わりに 三ノ宮の属する神戸市中央区のデータを利用することとする(下図 4、5 。 ) 神戸市中央区の人口はここ数年やや増加傾向にあり、世帯数も同様に増加傾向にある。 〈 また、神戸市中央区の 1世帯当たりの人員は約 1 . 7人となっている。世帯数が増加傾向にあ るのに対して、世帯人員の数は減少しているのが見て取れることから、一人暮らしの学生 やサラリーマンなどのシングル世帯が多いということが言えるだろう。 図 3-2 神戸市の人口とその区別内訳 人 万 1S哲 主議話 160 主 主 ’ 議 10 犠 主制3 窓誕 主却 義議 玄関} , 4 犠 部 主務 鎚 〈 器議 説3 ・ 2鵠 2 謂 ヰ犠 話 1 1 島 5 5 事 告 事 a む 壱 告 1 描 む 容 ? 5 言 1 E 語 事 魯 告 a む 主 窃 9 む 急 告 器 0 む む 。。 2 2 む 1 5 む 2 6 争 長 2 母語 調蝿東灘;区 覇輔遺産区 観滋畿中央区 盟盟義雛区 鱒輯盟議盤区 概観綴織窓 離麟遊説区 難鶴韓議寝 n E 1 1 1 立 2 9 1 3 主 告 ; 言 4 繍麟北区 相場開貯人岱盤整調書事 議2 愈 掌説襲撃館協勢舗資鎗援に義づ〈議番号人主主である診 2 0 1 1議 事 務t 鱒的人口増鶏寧{約書事擁で倍増瀬率表 壊している鍾 (出典:国勢調査結果及び神戸市統計報告「人口の動き J) 図 3・3 世帯数と世帯人員の推移 9 ( 灘寵韓議事警護主 棚糊酬欝導入議 (出典:国勢調査結果及び神戸市統計報告「人口の動き J) 3 2・2 建築動向 国土交通省所管の建築着工統計調査(基幹統計調査)のデータを利用する。着工件数に関し て(図 3・4、3 5 )は、平成 18年に 3 , 4 6 5件とピークを迎えた後、市全体の流れと同じような 流れで増減を繰り返している状態である。また、着工面積について(図 3・6)は、区別の推移 データを得ることができなかったために神戸市に限ったデータとなる。神戸市と中央区の 着工件数の流れが同様であること、区の中で中央区が最も着工件数が多いことから、着工 面積の推移に関しても同様の流れで変化しているということが予想される。したがって、 8年度にピークを迎えた後数年にかけて急落し、 着工面積に関しでも着工件数と同じく、 1 〈 その後増減を繰り返している状態にあると考えられる。また、いずれの場合を見ても、平 成 20年以降その水準に大きな落ち込みが見られる。これは同年に起こったリーマンショッ クの影響を大きく受けているのであろうということが伺える。 図 3・4 区別新設住宅着工戸数 (単位:戸) I 1 , 0 8 4 11,205 I 2 , 4 2 1 I 1 , 2 8 9 I2,581 , 2 4 0 1 , 8 3 8 1 , 3 2 3 1 , 2 6 2 545 1 , 6 1 8 , 2 7 2 1 , 8 3 5 1 , 3 2 1 998 642 631 2 , 7 0 1 3 , 4 6 5 1 , 8 3 6 1 , 4 0 6 1 , 3 9 0 1 , 7 2 5 , 0 2 2 1 , 8 1 0 1 , 4 7 6 1 , 4 1 4 7 4 1 570 I977 , 5 9 7 2 , 1 8 7 1 , 5 3 3 1 , 4 8 6 990 1 , 0 9 7 I838 10 590 I692 896 973 577 858 434 268 378 656 570 852 1 2 1 1 930 775 1 , 0 2 4 457 1 , 0 3 3 984 541 1 , 2 4 6 1 , 7 2 3 1 , 3 6 2 1 , 9 5 6 1 , 5 7 9 1 , 8 6 1 1 , 2 5 6 1 , 2 4 1 1 , 5 2 2 1 , 2 8 3 2 , 2 9 3 2 , 2 2 1 2 , 0 7 1 1 , 3 3 1 1 , 8 6 9 1 , 0 8 8 1 , 0 9 0 1 , 1 7 1 1 , 0 1 2 1 , 1 7 5 (出典:「神戸市内の建築着工の様子」) 図 3・5 新設住宅着工戸数(神戸・全国) 〈 寧 車 生 n年詰 1 0 0 ) ー叫担圃・神戸?普 1 2 5 , 8 1 3 0 圏全額 骨 噌 刷P 1 2 0 ( no 1 0 0 90 80 70 君 。 40 i J . ま1 各 選 手 t 7岩 手 H J ; 毒 事 捨選手 路線 6 3 . S 者5 . 4 討議事 主 主 要 事 6 7 . 5 議8 . 0 2 3 華 字 討議事 2 5 簿 (出典:「神戸市内の建築着工の様子」) 図 3・6 建築物着工床面積の推移(全国・近畿圏・兵庫県・神戸市) {平成1 7 年コ1 0 0 ) 《 . . . . . . . . . . 圏全 1 1 2 〆 冬 、 財 115 110 1 0 5 1 0 0 95 金8 時金剛治義語震需主 100 87 80 75 70 65 60 55 50 ~ 45 40 ー・ー神戸市 7 9 ......-、ご~'5 55 平成H i年 1 7 年 l8 年 翻 由主》幽遭難欝 均年 20 年 2 1年 54 22 年 23 年 24 年 25 年 (出典:「神戸市内の建築着工の様子 J) 3 2・3 地価公示の動向 グラフは中央区の商業地に関するもの(図 3・7)である。神戸市中央区の地価公示は、平成 11 20年 (2008年)に当時起こったリーマンショックの影響で落ち込み、平成 22年に底をつい た。その後平成 25年にかけて少しずつ安定の兆しは見えているものの、未だやや下落傾向 にある。 図 3・7 地 価 公 示 対 前 年 変 動 率 対吉守年変動率〈湾業地〉 1 5 . 0 1 0 . 0 ( 15 H20 H : 2 1 H22 争 123 開.閉会E 窓 3 . 8 25 ム6 . 1 ム 5.5 ム3 . 8 叩争闘兵庫娯 ム 4.7 ム 2.8 柑働時神戸市 6 . 8 ム 3.4 ム 7.1 欄蜘中央区 125 ム 4.8 ム 10.0 H25 ム3 . 2 ム 2.2 ム1 . 5 ム 23 ム 1.3 ム 0.6 ム 2A ム 1.4 ム 0.5 単{宣:% (国税庁 地価公示より抜粋〉 図 3-8 地価公示推移比較(中央区・灘区・東灘区) (万円/坪) 1800 《 1600 1400 1200 1000 瀦神戸市灘区 800 溺神戸市東灘区 600 綴神戸市中央区 400 200 吋 VHON NHON CHON 12 匂OON 地価公示よりデータ抜粋) ∞CCN 4YCON NOON GOON H ∞ ∞ ∞ ﹂ [ 句 。 。 ﹂ [ 叩 ∞ ∞ H N 4[ (国税庁 O ∞∞−[ 。 。 ∞ ∞ ∞ ﹂ [ ∞ ∞ ∞ − [ 叩 ∞ ∞ ︶ [ ∞∞﹂[ N 。 ∞ ∞ 。 山 。のニドやおれ∼一同士短lhm入 MfνJW1 詳仰心付ノド︵もどやお吋’ uNE 呉川一ト mH似別行状心的必 以ハ古川似の占拠 hwhml’ト ﹂ fJ fJ 4 v N ・的 ’ 初会州mT2P川町匁垣型 1干 に 山 me七選回 4−︵もどやみ但 m何回皐穏溜ハザ曜い MQM掛 U 思様組曲 e MQ 心けの町二いやお﹀初/﹁よれ円一制 ν b w ,機 pm hγ蜘齢、︵も強盗ムヘ Kいてけ一総ど州知州ぽ、町 HJ 判ヤ、高山町川一社 J 一ハ古川仁川に J M 慨トリ一四号νpq思翌︵も凶︽吾川似やみ恒︵も田中翌々恨〆心的必 民 己 主 法 制 。 均 月 わ 円 余 V4E凶 拒 ν眠州嵐長田事穏溜︵も︷一民 υ魚川申。の!千匹堀川叩図患部憎笹川町 ~ ’ 明 u︵ 。。含, ∼ ∞ ・ め 一 凶 ︶ の 叩 4wνJ説心品川∼︵凶灘 wR・凶灘︶之官凶拒同市区州国哩翌︵も凶︽丑拒止走パ仁川明 。 の fJνJ凶二一護制縫製軽泌︵ n 困匝 ∼ c Y : l 、 J 〆 、 図 3・1 1 三ノ宮駅周辺の路線価(平成 27年度) 〈 平成 21年度は 233∼270万円/ぱ、平成 25年度は 205∼236万円/ぱ、平成 27年度は 215∼248万円/ r r fとなっており、小規模の増減を繰り返している様子である。また、国税 庁のホームページからは平成 21年度以前のデータを得ることができなかったが、路線価と 地価公示は同様の変化となるため、この路線価についてもバブル崩壊を皮切りに大きく下 落し、その後微増減を繰り返している状態であると考えられる。地価公示と同じく、元々 路線価の高かったエリアはその上昇・下落の幅に大きく反映されることとなるため、路線 価が落ち着きを見せている現在で、は周辺エリアとの差がやや小さくなっているということ が言えるだろう。 〈 3・2・5 通行量 1 2 )、平成 2年から平成 22年にかけて、神戸市内における自転 データが少し古いが(図 3 車を利用した移動は増加傾向にある。また、平成 23年の歩行者・自転車交通量調査による と、三ノ宮駅周辺における昼間 12時間(7:00∼19:00 )の自転車交通量は 1000台を超えて おり、非常に交通が活発であると言える。また、同調査データから見る歩行者の通行量は 5 , 0 0 0人以上となっており、人の通行 というと、三ノ宮駅周辺、特に三ノ宮センター街は 1 が盛んである。 )J よ 注)参考にした「神戸市総合交通計画一都心・ワォーターフロント−(平成 24年 3月 り、平成 23年度の歩行者・自転車交通量調査のデータ結果をまとめた図・グラフの抜粋を 試みたが、解像度が大変低く、数値や色が読み取り辛くなっているため掲載することを断 念した。 14 図3 1 2 神戸市における自転車利用による移動の推移 襲撃主主:守 トリップ/惑 { }手習はさき総額議議誌 v 5 手続2手 ま 14 毛 3 事 懇 窃 i #.務署長長 (~1:!察機 平擦な若手 ¥ 4 l C 民 総 1 補正織 1告す 立総 l 4 ミ 章 改 箆 争 i 説、機会 〈 20 弘 00 己 母 子 議 幾重量殺 4議3 f 1筏京総 器 官 ;2 1お1 ヰ む ヲ 毛 怒合事ら を き 由 業務; 100 毛 ヲ 都港 縛宅 議本号き 3・ 2・ 6 対象エリアにおける空きテナントの募集状況(面積/家賃/坪単価/敷金・礼金) 対象エリアである三ノ宮駅周辺にてテナントを募集している物件を紹介している不動産 会社のサイトから基本情報(階数・面積・家賃・敷金礼金など)を収集した。調査は 2015年 1 1月に実施し、テナント募集中であることが確認できた北長狭通( 1丁目、 2丁目)の 31物 件、三ノ宮町( 1丁目、 2丁目)の 32件についての情報を得ることができた。調査結果を集計 したものは、以下の表の通りである(図 3・ 13、3・ 14、3 1 5、3 1 6 。 ) 図 3・ 13 階数別集計結果(北長狭通 1丁目・ 2丁目) 《 314.94万円 4 7 . 1 6万円 1 . 8 2万円/坪 1 26.64万円 1 . 6 2万円/坪 I 1 9 4 . 6 7万円 6 1 . 0 8万円 1 . 4 4万円/坪 I 515.oo万円 2 9 . 4 9万円 1 . 1 7万円/坪 j2 19.85万円 3 0 . 7 6万円 1 . 5 6万円/坪 I 313.87万円 332.84万円 図 3・ 14 階数別集計結果(三ノ宮町 1丁目・ 2丁目) 1 5 . 0 0坪 1 5 図3 1 5 階数別集計結果(三ノ宮 1・2丁目、北長狭通り 1・2丁目) 1 5 . 3 9坪 4 5 . 8 1万円 1 . 7 2万円/坪 I 414.97万円 3 8 . 3 3万円 1 . 5 0万円/坪 j2 76.35万円 2 8 . 7万円 1 . 5 9万円/坪 I 254_21万円 図 3・16 丁目別集計結果(三ノ宮 1・2丁目、北長狭通り 1・2丁目) 〈 2 3 . 7 8万円 11.sg万円/坪 1 7 2 . 6 3万円 必. 8 3万円 j2 . 1 4万円/坪 398.76万円 2 2 . 5 1万円 I1.10万円/坪 9 1 . 9 4万円 「a thomeJ のウェブページ情報より表を作成) (参考:「お部屋探しのミニミニ j、 9坪であり、平均家賃は 3 4 . 7 6万円、坪単価 現在募集中の空きテナントの平均面積は約 1 平均は 1 . 7 6万円/坪、敷金・礼金の平均金額は 261.4万円であることが分かつた。 次に、階数別で見てみると、 1階部分の面積が平均して狭いのに対して家賃はその他の階 層より高めになっているため、坪単価が非常に高くなっている。 さらに、丁目別で見てみると、三ノ宮駅から最も近い三ノ宮 1丁目・北長狭通り 1丁目 が、坪単価平均及び家賃の値において高い数値を示している。三ノ宮 2丁目・北長狭通り 2 丁目と、駅から少し離れていくにつれて坪単価平均及び平均家賃が低くなっていることが 《 読み取れる。 注)今回の調査では、敷金礼金が数千万円、家賃が 200万を超える物件が少数入ってし まっているため、その点においてデータと事実には誤差があると考えられる。よって、こ の調査結果の項目で最も信頼できるものは「坪単価」であり、これに主眼を置いた分析と している。 3 2 7 対象エリアにおける現在のテナント出店状況 ここでは特に、対象エリアにおけるテナントの業種構成を見ていきたい。対象エリアの 現地調査により得られたデータを参考にする。調査対象は三ノ宮センター街 1・2丁目、神 戸サンセンタープラザ、 s a n t i c aとする。 対象エリアの現地調査によって確認できた 823件のテナントに関して、以下に業種別の テナント数および構成比を調査対象別に集計した結果を示す(目視によるものであるので多 少の誤差有り)。 1 6 図 3・ 17 調査対象の業種別テナント数 145件 (32%) 26件 ( 14%) 108件 (59%) 48件 (27%) 182件 ( 100%) 7件 (8%) (66%) 57件 (26%) 22件 86件 ( 100%) (0%) 0件 (90%) 9件 ( 10%) 1件 10件 ( 100%) (52%) 49件 (33%) 31件 94f 牛 ( 100%) (77%) 25件 ( 17%) 6件 36件 ( 100%) 477件 (54%) (30%) 253件 857件 ( 100%) 127件 ( 16%) 〈 まず、上の集計結果より、テナント数が最も多かったのはセンター街 1丁目であり、全 体の 50%を超えた。また、業種別のテナント数を比較すると、小売業(452件)が最も多く、 次いで、飲食店( 182件)が多いという状況になっている。また、表には出ていないのだが、三 ノ宮の商店街の特徴として、 1階ファサードに衣料品の小売業を、建物内部や 2 階以上も しくは地下に飲食店を置くとしづ傾向が強く見られた。 また、空きテナントについては、三ノ宮という中心街の最も盛り上がっている場所であ ることもあり、表立つた場所にはあまり見られなかった。三ノ宮センター街 1丁目にはサ ンプラザ・センタープラザが、三ノ宮センター街 2丁目にはセンタープラザ西館が存在し、 これらの商業ピルに空きテナントが集中しているという状況が見られた。サンプラザ・セ ンタープラザ・センタープラザ西館について、階数別に空きテナント数を集計したものが 以下の通りである。(s a n t i c aについては、その名の通り地下 1階に店舗が存在するため、集 計には含めていない。) 《 図 3・ 18 階数別空きテナント数(サンプラザ・センタープラザ・センタープラザ西館) 7件 (50%) ( 12%) 4件 ( 10%) 3件 4件 (28%) 牛 (52%) 17f (52%) 15件 牛 ( 15%) 5f 8件 (28%) 33件 ( 100%) 牛 ( 100%) 29イ ( 100%) 14件 以上の結果から、同一の建物内においては階数が高いほど空きテナントの数が多くなる 傾向にあるということ、特に 3 階以上においてはその数が多くなりがちであるということ が見て取れる。 17 また、今回 S a n t i c a、三ノ宮センター街 1・2丁目という大きな商業エリアを現地にて調 査して気付かされたのが、そのチェーン店の出店数の多さである。コンビニや飲食店、衣 料品店など、実に様々な業種のチェーン店が主にファサード(街路に面している建物の正面 部分のこと)に出店している様子が多く見られた。都市の景観において、チェーン店率が高 いということは、都市の均質化(どこに行っても同じような街並みに感じてしまうこと、ま たその様な街並み)を招くことになってしまう。そこで、調査エリアにおけるチェーン店の 数、構成比率を集計したところ、以下のような結果となった。 図 3・19 調査エリア別チェーン店出店数 内は先ほどの全業種別テナント数に対するチェーン店率を示している ※O 〈 20件 (76.9%) 6件 (85.7%) I 42件 (38.8%) I 33件 (57.8%) 9件 ( 100%) 72件 (64.8%) I 257件 (63.7%) (2 9 . 1%) 14件 (54.5%) 12件 51件 (59.3%) 1件 ( 100%) 10件 ( 100%) 126件 (58.3%) 455f 牛 (62.3%) ここにおけるチェーン店の定義は、「同一の店舗が対象エリア外に 1店舗以上存在するも の」である。結果より、小売業・飲食・サービス・金融のいずれの場合においても、対象 エリアにおける高いチェーン店率を証明するデータを得ることができた。全体としては、 利用されているテナントの 62.3%がチェーン店が占めており、独自の店舗は 4割にも満た ない。金融関連は大手の金融会社の支店が立ち並んでおり、当然ながらその値は 100%とな っている。小売業についても、ブランドショップやファストファッション等のチェーン店 〈 が街の景観の大部分を担っており、センター街 1丁目ではその値が 75%にまで、のぼってい る 。 しかしながら最も注目すべきは飲食店であろう。小売業に関しては、その商品の特性上 チェーン店が多くなるというのも無理はないが、飲食店においてはその独自性を保つこと がいくらか容易になる。ましてや神戸市と言えば「カフェ・スイーツの街j と呼ばれてい ることから、神戸に住まう人、観光客の多くがこのイメージを強く持っていることが伺え る。神戸市もこれを都市の PRポイントのーっとして認めているところであろう。だが現実 はどうだろうか。データは今回現地調査をする対象としたエリアに限られたものではある が、飲食店のチェーン店率はなんと 40%以上にものぼる。 また、 S a n t i c a、三ノ宮センター街 1丁目、 2丁目と、駅から遠ざかるにつれてそのチェ ーン店率が高くなっている点も特徴として挙げられるだろう。地価公示・路線価・坪単価 について、これらは駅から近いエリアでは高く、遠いほど安い値となっていた。これと同 じようなことがチェーン店率にも言えるのである。 18 空きテナント数の増加とチェーン店の増加による都市の均質化、これらは一見すると無 関係であるかのように思えるが、実は密接な因果関係によって結ぼれているのではないだ ろうか。 3・3 3 2の情報整理と三ノ宮駅周辺の遊休化モデ、ル 第 3章、特に 3・2 において見てきた神戸市中央区、もしくは三ノ宮駅周辺エリアの情報 をもとに仮説を検証してし、く。 まず、ここまでの情報を簡単にまとめていくと、 〈 0神戸市の人口はここ数年やや伸びてはいるものの、全体としては横ばいである。また、 世帯数は年々増加傾向にあるのに対して世帯人員は減少傾向にあるため、シングル世帯が 増えてきていることが分かる。 0神戸市中央区の建築着工数は、バブル崩壊後、小さなふり幅での増減を繰り返している。 O神戸市中央区の地価公示は、バブル崩壊・リーマンショック後に落ち込んでいる。丁目 に至るまでのより詳細なデータを得ることができる「路線価」を基準とした分析によると、 三ノ宮駅周辺の地価はここ 20数年で激しく落ち込み、周辺エリアとの地価の差を縮めてき ている。 0三ノ宮駅周辺の休日昼間(7∼ 19時)の歩行者通行量は 15,000人以上にものぼり、人の移 動が盛んで、ある。また、自転車利用者による通行量は年々増加傾向にある。 0三ノ宮駅周辺において、その坪単価は駅から近いほど高い値を、遠いほど低い値を示し ている。また、階数では 1階のテナントがその面積に対しでかなり高額な家賃を設定され ており、坪単価が高くなっている。 《 0三ノ宮駅周辺の商店街・地下街(駅以南が調査エリアである)においては、小売業での出店 が最も多く、また、高いチェーン店率を記録している。次いで多いのが飲食店であり、そ の業態から小売業ほどではないものの、チェーン店率が 40%を超える高い値を示している。 ということになる。 本章冒頭において提起した仮説は、 『テナント型の遊休不動産は、「テナント利用者の撤退後、人的要因・不動産要因によって、 その再利用には至らずに遊休化してしまう J というのが一般的なプロセスであり、これは 対象エリアである三ノ宮駅周辺においても当てはまる。』 というものであった。ここで言う人的要因・不動産要因による遊休化とは、具体的には 19 −人口の減少により、新店舗開設に対して希望する収益が見込めないために空きテナント の再利用者が付かない。 −空きテナントとなってしまった後、賃貸価格が高額になってしまうことで新しい利用者 が付かない。 といったことが挙げられる。三ノ宮駅周辺エリアはどうだろうか。 後背圏の人口規模が小さく、歩行者通行量も少ないエリアであれば、元々あった店舗が 閉店してしまった後にそのまま新規の利用者が付かず遊休化してしまうという仮定した遊 休化プロセスが成り立つものと考えられる。しかしながら、対象エリアである三ノ宮駅周 辺の場合は、ある程度後背圏の人口がある上に歩行者・自転車通行量も多く、人の巡りが 盛んであることが伺える。仮定したプロセスにより遊休化する事例ももちろんあるだろう が、三ノ宮周辺においてはもっと別の遊休化プロセスが存在するのではないだろうか。 〈 ここで注目したいのが、三ノ宮駅周辺エリアにおけるそのチェーン店率の高さである。 なぜ、こんなにもチェーン店が多いのであろうか。こういった都市中心部においてチェー ン店が多くみられる事例は三ノ宮駅周辺エリアだけに留まった話ではない。どこに行って も同じお店がある、昔あったお店が潰れたあとチェーン店が参入していたなどと言った光 景は、誰しもが一度や二度は目の当たりにしたことがあるであろう。三ノ宮駅周辺の調査 でも見られた通り、駅に近いエリアほどその利便性・集客の良さから坪単価が高額になり がちである。高い賃料をまかなうことのできない地元商店・飲食店は参入できずに、これ をチェーン店が支えている状態であることが考えられる。私の仮説を遊休化モデル A とす るならば、チェーン店の参入によってかろうじて表面上の商業エリアという体裁を保って いる状態である遊休化モデル B が存在するというわけであるロ簡略化した図は以下の通り である。 《 図 3・20 遊休化モデ、ル A テナントが テナントが 活用されて 遊休化して いる状態。 いる状態。 20 遊休化モデ、ル B テナントが テナントが 遊休化して 活用されて いる状態。 いる状態。 このように、遊休化のプロセスについては 2 つのモデ、ルが存在することが想定される。 〈 そして、歩行者・自転車の通行量が多く、後背圏人口もそれなりにある三ノ宮駅周辺エリ ァにおいては、 2つのフ。ロセスのうち遊休化モデ、ル B に当てはまるような事例が多く見ら れた。 また、空きテナントに関する考察より、駅に近いほど、そして階数が地上に近づくほど 坪単価が下がることが分かつている。ここで再びチェーン店数を見てみると、チェーン店 の数も坪単価と同様、駅に近いほど、階数が地上に近づくほど多くなっている傾向が見ら れる。したがって、このことから坪単価が高いエリアにはチェーン店が集中するというこ とが言えるだろう。 元来、商業エリアというのは、人が集まる地域に自然発生的に商店が集まることで成り 立ち、現在の形となっているものが多いと思われる。そのため、以前の商業エリアはチェ ーン店が進出しておらず、その地域の老舗や独自性を持った新店舗といった形態のものが 多かったのではないだろうか。しかしながら、社会の大きな動きやみだりに行われた都市 《 開発によってそのような商店が衰退・閉店してしまった後は、賃料設定の高さ・支払能力・ ブランド知名度などの要因が相まって、チェーン店の出店が増えるケースとそのまま遊休 化に向かつてしまうケースがあるのだというのが本項目における推察である。チェーン店 が多く存在するという事態は、その均質化された景観についても問題となっているのであ るが、地域経済の競争優位性・自立性という点においてこそ真に大きな問題を抱えている。 これは、「チェーン店が撤退した後はどうするの? J という疑問に他ならない。これまで見 てきた通り、三ノ宮駅周辺エリアの地域経済は、まぎれもなくチェーン店によって支えら れている状態であると言えよう。これらの地域外資本に依存し、これらの衰退がエリアの 衰退までも招きかねないといった状態を阻止しなければならない。地域に根差した新規事 業等が参入しやすい体制を整え、エリアを経済的に自立させるとともに競争優位性を高め ていくような取り組みが必要であるだろう。 第 4章 遊休不動産のリノベーションによる都市再生の検討 21 第 3 章では、対象エリアである三ノ宮駅周辺において問題となっているのは「チェーン 店への依存によって支えられている地域経済 j であり、これを解消する施策として「地域 経済の自立性・競争優位性を高めるような取り組み」が必要であるということを示した。 本章では、この方法論についての考察を行う。 4・ 1 先行事例 4・ 1 1 北九州市小倉都心地区の事例 エリアを定めて戦略的に不動産再生・活用を行おうとしている国内事例に、北九州市の 小倉都心地区におけるリノベーションと都市再生の事例がある。 北九州市の小倉都心地区においては、平成 20年度当時、商店街の空き店舗や空き床の増 加、就業人口の減少、建造物の老朽化等が大きな課題となっていた。そこで、 2011年 3月 、 〈 一般社団法人 HEAD研究会が主催するリノベーシヨンシンポジウムが北九州にて開催され たことをきっかけに、北九州市が「小倉家守構想」を策定。小倉の中心市街地においてデ ザイン、コンサルタント、メディア、サブカルチャ一、製造・販売、都市観光といった様々 な業種から構成される都市型ビジネスの集積を目指し、エリアの特色を生かした都市型ビ ジネス振興のコンセプトや具体的な遊休不動産の活用方策を示したこの構想、において、リ ノベーション・スクールを創設し、目的達成のエンジンとして位置付けることが定められ た。リノベーション・スクールでは、実際の遊休不動産を題材として、受講生が対象物件 のエリアや建物の状況に応じたリノベーションプランを作成、不動産所有者に対してプレ ゼンテーション・事業化を図る取り組みが行われている。 この事業は、民間の遊休不動産再生事業者である北九州家守舎株式会社などが中心とな って展開しており、平成 27年度 2月の時点で、 7件の物件についてその出資から運営まで を手掛け、その他 4 件の物件に対して建物の用件や資金関係の整理などの事業計画をサポ 〈 ートするなど、精力的な活動を見せている。 ここでは、対象となる遊休不動産の事業化プロセスとその成功要因について見ていきた し 、 。 0事業化プロセス リノベーション・スクールを通じた事業化までのプロセスは以下の図の通りである。事 業化のプロセスは 3段階に分かれており、それぞれ右からスクール前、スクール期間中、 スクール後となる。事業化手法については、オーナーが自ら事業を行うケース、業務委託 をして民間事業者等がこれを行うケースなどをはじめ、様々なパターンが存在する。 22 図 4・1 リノベーション・スクールを通した事業化プロセス 〈 0事業化のカギ F 実事業化できなかった鍵は車輪(家守会社)がなかったことが大きい。そのため第 1凶 リノベーション・スクーノレでは 1つも実現できなかった。その後、物件リサーチ、オー ナーヒアリングを行い精査するようになってから、実現化へ結びつくようになった。 また l人で意志決定がで、きるオーナーだと強しら事業計爾をコンパクトにまとめるのが/鍵。 小さな投資で大きな効果を生む計画だと実業化が進みやすい。』 ( 第 1回家守ブートキャンプ+リノベーション・スクール説明会 〈 質疑応答より) 遊休不動産の利活用を通して事業化を図るのに重要なカギとなる条件は、 ①案件オーナーの決断力 ②事業リスクの最小化 の 2点であることが上記の受け答えから伺える。 ①の案件オーナーの決断力というのは、言わずもがな、決定権が分散せずに一人に集約 している状態であることが、実現へ向けた強い決断力を引き出す要素となることを指して いる。 ②の事業リスクの最小化とは、事業計画をコンパクト化、つまり、初期投資と回収期間 を最小化した事業収支計画を立てることや、その他様々な要素(入居者確定後に事業開始、 最小限の改修内容でのリノベーション)等、事業を行うに際して起こり得る様々なリスクに 対してあらかじめ行うべき取り組みのことを指している。この意味では、初期投資が小さ くて済むと考えられる遊休化モデ、ル A については、リノベーションによる新事業を起こし 23 やすい環境にあると言えるだろう。また、新規事業を行う場合、その信用が担保されると いうのは不動産オーナーにとっても重要な用件であり、これを担うような『車輪』となる 組織が必要不可欠である口 0リノベーション事業のもたらした効果 北九州市によると、リノベーション効果により合計 320人以上の新規雇用が生まれ、魚 町銀天街の 1日の通行量が 2011年から 2014年でおよそ 3000人増加したとのことだ。遊 休不動産についてスクールを設け、事業化に関するノウハウを蓄積した上で戦略的にエリ アマーケティングを仕掛けた努力の賜物である。こうした北九州市に始まった取り組みは、 このエリアにのみ通用するものではなく、全国各地で通用するものがあるだろう。リノベ ーションによる都市再開発の先駆者として今後も目が離せない存在である。 〈 4 1・2 スペインにおけるパラドールの事例 遊休不動産の再生・活用を国という単位において有効に行っている海外の事例として、 スペインのパラドーノレ株式会社を挙げておこうと思う。パラドール株式会社は、スペイン 全土に 93件 ( 2007年時点)ものパラドールを運営するホテルチェーンであり、国がその全株 式を保有する公企業体である。パラドーノレとは、修道院や古城、巡礼者用救護院といった 歴史的建造物を修繕・改修し、それらを宿泊施設として利用ができるよう蘇らせたもので ある。歴史的な建造物に宿泊することは、言わばスペインの歴史を追体験することに他な らず、単なる宿泊施設としてではなく、観光資源の 1っとしても大いに機能している。その 結果、採算性を懸念して民間事業者が進出をためらっている地域に立地しているパラドー ルが全体の約 30%にのぼるとしづ事実にも関わらず、パラドール株式会社は公的補助を受 けることなく黒字での運営を達成している。つまり、歴史的建造物の改修・保全活動(地域 〈 つ)という公的な役割を担いつつ、国からの公的補助なしにホテルというビ 活性化事業の I ジネスを成立させ、またその集客効果で周辺地域の経済活性化、そしてスペイン全土の観 光業の発展に大きく貢献しているのである。 0パラドールの歴史 このパラドールの誕生は、 20世紀初頭、国王アルフォンソ 1 3世から宿泊施設の建設につ いて要請を受けたベガ・インクラン伯爵の構想に端を発する。当時のスペインには旅行者 に宿を提供するシステムがまだ確立されておらず、この状況に対して狩猟愛好家として 様々な土地に赴いていたアルフォンソ 1 3世は、従来から宿泊施設の建設を強く望んでいた そうだ。こうして、 1928年、マドリッドの西、グレドス山脈の中に初めてのパラドールが 誕生することとなった。 パラドールの建設には、その建築費用の抑制を目的に、貴族社会の崩壊に伴って荒廃し た貴族の館や王宮などが活用されることとなった。 24 スペインに観光ブームが到来した 1 9 6 0年、増大する観光需要に対応するためにパラドー ルも拡大していくこととなった。しかしながら、この頃には、歴史的建造物の改築だけで はなく、近代的な建築様式であしらわれた新築のパラドールも多く建設されていた。これ は質の高い元来のパラドールのホテルチェーンの中に矛盾点が生じることに他ならない。 その後 1 9 8 0年代になって観光需要が沈静化するにつれて、これらのパラドールは軒並み廃 業していく流れとなった。 経営危機に陥ったパラドール公社は、 1990年の一般予算法に基づき、 1991年に株式会社 へと移行した。さらに 1993年には、収益性の改善とスペイン各地に散在するパラドールの 情報を一元管理するシステムを向上させることを定めたパラドール 5 ヶ年戦略計画の草案 が作成された。また、予約センターの近代化や販売チャネルの拡大、国際市場における宣 伝活動の活発化のほか、宿泊施設全体の魅力を向上させるための大規模リノベーションが 〈 行われ、現在に至るまで健全な経営状態を維持している。 0パラドール株式会社の経営手法 一時は経営危機にまで陥ったパラドーノレ株式会社で、あったが、現在では見事に黒字収支 を達成している。この背景には、そのビジネスモデルの独自性だけではない、これを支え る練られた経営戦略があった。 《マーケティング》 パラドール株式会社は、運営するパラドーノレ施設を ①自然 ②文化遺産 ③ゴルフ・スポーツ ④太陽・ピーチ ⑤リラックス 〈 ⑥ファミリー ⑦企業 の 7つに分類し、それぞれに対応したマーケティング戦略をとっている口パラドール株 式会社の Webサイトにおいても、これら 7つのカテゴリー別に宿泊施設が表示される。 これは、利用者が旅行の目的に応じたパラドールを選択することを容易にするだけでな く、パラドール側も各カテゴリーの利用者層に対して的確なマーケティングを行うこと が可能になる。 《品質管理》 パラドール株式会社は、 1996年より独自に品質管理基準を設け、民間のホテル事業者 と比較しでも引けをとらないほどの優れた宿泊施設・サービスの提供を行っている。ま た、パラドール株式会社は、ホスピタリティや料理・接客などホテル業務に関するあら ゆる教育を行うホテル専門学校「E scueladeParadorJをリオンに開設したほか、民間ホ テル業者に対して品質管理のノウハウを記したマニュアルを配布・講演会を開催するな 25 ど、スペインのホテル業界においてリーダー的存在となっている。 《ブランド戦略》 パラドール株式会社の運営する 90以上のパラドールはスペイン全土に散在している状 態であるが、そのアメニティグッズや基本的なサービスは標準化されており、どのパラ ドールに泊まっても一定の高品質なサービスを受けられることが保証されている。加え て、地域独自の郷土料理や調度品を取り入れるなど、パラドールごとに独自の異なる工 夫を感じることができるよう工夫されている。 以上のような戦略を駆使し、パラドール株式会社は歴史的建造物のリノベーションホテ ルチェーンというビジネスモデ、ルで、その経営を成功に導いた。しかしながら、この事業モ デルは、単にホテルビジネスと同時に歴史文化遺産の効率的な修復・保全という公的事業 〈 を可能にしただけではない。パラドール自体が観光資源としての魅力を持つことから地域 活性化に繋がるほか、郷土に根ざした調度品の取り入れや郷土料理の提供をそのビジネス モデルに組み込むことで、文化のハード面だけでなくソフト面の伝承をも活性化させるこ ととなったのだ。まさに遊休不動産の再生・活用によってエリア全体が活性化した良例で あると言うことができるだろう。 4 2 対象エリアへの応用 4 1において、これまで、北九州のリノベーション事例とスペインのパラドーノレ株式会社 という 2 つの事例を見てきた。これらの先行事例から、遊休不動産の再生・活用による事 業化とエリア価値の向上を達成するカギとなるものは、 ①事業化オーナーと不動産オーナーの決断力 ②事業リスクの最小化 に ③周辺エリアを巻き込んだ、マーケティング戦略 の 3つであると言えるだろう。これを踏まえて以下の施策を提案するものとする。 4・2・1 三ノ宮駅周辺エリアへの施策 先ほどの遊休化モデ、ル A の発生条件については、 .後背圏人口が少ないこと −歩行者通行量が少ないこと が挙げられ、これらの要素から、不動産単価が低いエリアという条件を導くことができる。 これらの遊休モデ、ルに当てはまる不動産については、その単価が低いという要件から特に 金銭面についてのリスクが比較的取りやすい。この条件下であるなら、様々な事業ノミター ンを選択することが可能である。しかしながら、不動産オーナーの立場からしてみれば、 そのようなエリアにおいて収益が得られるのかという点が 1番の不安要素であると考えら れるため、この点におけるリスクマネジメントの取り組みを十分に行うと共に、不動産オ 26 ーナーの信用と協力を得ることが不可欠である。 また、遊休化モデ、ノレ Bの発生条件については、 .土地単価が高いこと ・特に駅周辺エリアにおいては、小規模テナントであり尚且つ賃貸料が高いこと が挙げられる。これらの遊休化モデ:ルに当てはまる不動産は、現時点ではコンビニやカフ ェ等飲食店のチェーン店などによって支えられており、遊休化を免れている状態にある。 しかしながら、当該テナントが撤退した後、そのままの条件で別のチェーン店が新たに参 入することは考えられるが、一般テナントや新規事業者にとっては参入の敷居が高いもの となってしまうだろう。 先ほども述べた通り、本論で調査対象とした三ノ宮駅周辺エリアでは、遊休化モデ、ル B 〈 に当てはまる不動産がその多くの割合を占めている。このような状態の不動産に関しては、 北九州の小倉の事例でも見られたように、「 jヒ九州家守舎」のような事業の歯車的存在が不 可欠となるだろう。信用あるサポート役の存在によって、事業の再現性・収益性が担保さ れることはもちろん、賃料やその他様々な条件に関する交渉の仲介をこなすことで、一般 テナント・新規事業者の参入に対するハードルを下げることが可能となる。 2 神戸市北野異人館への施策 4・2 三ノ宮駅周辺の今回調査対象としたエリアからは少し外れるが、パラドール株式会社の 事業を神戸の北野異人館へそのまま応用できないだろうか、ということを思いついたため、 考察してみようと思う。 神戸市北野の異人館と言えば、知名度は全国的にも相当なものであろう。現在もなお、 異人館周辺は観光地としてカップルや家族で、賑わっているように感じる。しかしながらそ え の一方で、阪神淡路大震災を経て多くの歴史的建造物が倒壊し、中には廃嘘と化してしま 9 8 1年から 1 9 9 4年まで、ペルシャ美術館として公開されていた「旧 っているものも存在する。 1 パジャージ邸 j がその代表例だ。旧パジャージ邸は、阪神淡路大震災被災後、まったく手 入れされないまま放置され廃嘘と化し、挙げ句の果てに神戸市によって 6割引としづ破格 の値段で叩き売りに出されて話題となった遊休不動産である。歴史的建造物というものは 大切にすべきものであるのは間違いないが、その保存・維持には膨大なお金がかかる。そ れが観光客を呼び込む素材であることも間違いないが、これには流行りと廃りがあり、持 続的に集客ができなかったり、それ単体ではインパクトに欠けていたりするというのが現 実的な問題である。データで見てみると、実際震災前と比べて、異人館エリアである北野 への観光地客は当時の 9割程度に収まっているというのが現状であり、大きく伸び悩んで いる事が伺える。公開施設の再来訪者率は 2、 3割と低迷していることからも、 としての異人館は飽きられてきているのではなし、かと推測される。 27 「見せ物」 しかしながらその反面、近年飲食店等へと転用される異人館の例がし、くつか見られる。 スターバックスの店舗に改装された「北野物語館j がその代表例であろう。こういった例 が見られ始めていることから、異人館を宿泊施設として転用し、文化財としての価値を維 持しつつ保存にかかる費用をまかなうこと、周辺のイメージを遵守しつつ特産品を利用し た料理やアメニティの活用等のマーケティング戦略は、北野エリアの再興をもたらしつつ 市の財政の圧迫を軽減させる施策となり得るのではなし 1かと考える。 第 5章 お わ り に 本研究を通じて明らかになったことを以下に示す。 第 2 章では、住居型・テナント型・公的不動産型という 3種に分類された遊休不動産の うち、エリア価値を高めて都市再生を図るに当たって、対策が最も有意義なものとなるの 〈 は「テナント型j であるということが分かった。 第 3章では、対象エリアのテナント型不動産について、「利用者を失った空きテナントが そのまま遊休化してしまう Jという遊休化モデル A と、「利用者を失った空きテナントにチ ェーン店が参入することによって遊休化を免れている」としづ遊休化モデル B の 2つのプ ロセスモデルが存在することを示すことができた。また、三ノ宮周辺エリアに関しては、 後者の遊休化モデ、ル B に当たるテナント型不動産が現地調査により多く見受けられたこと から、対象エリアにおける課題は「チェーン店に頼らない競争優位性と経済的自立性を兼 ね備えた街づくり施策 j であることが分かつた。 第 4章では、北九州市「小倉家守構想、J、スペインのパラドール株式会社の事例から、遊 休不動産の再生・活用とエリア価値向上を成功させる要因は、①不動産オーナーと事業者 オーナーの決断力②事業リスクの最小化③周辺エリアを巻き込んだマーケティング戦略の 3つであることが分かつた。さらに、これらのことから対象エリアである三ノ宮駅周辺エリ 〈 アで行うべき施策の指針を立てることができた。また、別枠ではあるが、神戸市異人館エ リアにおいて、スペインのパラドールの事例と同様の事業が適用できなし、かという案を提 案した。 現在、全国各地にて遊休不動産の再生・活用を核とした都市再生モデ、ルが検討されてい る。チェーン店が多く進出している都市中心部においては、一見すると街が栄えているか のように見えるため、危機感を抱きにくい。本論にて我々の暮らす神戸市を調査すること が、神戸市も例外ではないのだということ、一刻もはやく官民一体となった施策が必要で あるということの警鐘となり、神戸市のよりよい発展に少しでも寄与できれば幸いである。 28 参考文献 ・総務省統計局:土地住宅統計調査 −国勢調査結果及び神戸市統計報告,“人口の動き”,平成 24 ∼2 6年度, h t t p : / / w w w . c i t v . k o b e . l g . _ i p / i n f o r m a t i o n / d a t a / s t a t i s t i c s / t o u k e i / s o u g o u d a t a / t o u k e i _ b . . Q u k o k u . h t m l , (参照 2 0 1 5 1 2 2 6 ) −新建ハウジング,矢野経済研究所「2014年度版住宅リフォーム市場の展望と戦略j http://www.笠.h9~.ι2忽恕誕主全区QQ与~Q, (参照 2 015-12・2 6 ) −土地カツ n e t コラム「空き家対策特別措置法を分かりやすく解説してみる J http://www.tochikatst~豆主主~Ql立車製建立主二hQ:g_l, (参照 2015・1 2 2 6 ) .国税庁:地価公示データ −国税庁:路線価データ 〈 ・国土交通省:建築着工統計調査データ −神戸市総合交通計画 h t t p : / / w w w . c i t y. k o b e . l g. _ i p / i n f o 1 ・ m a t i o n / p r o i e c t / u r b a n / s o g o k o t s u / i n d e x .h t m l ,( 参 照2 0 1 5 1 2 2 6 ) ・HOME’ S ウェブサイト h t t p : / / w w w . h o m e s . c o . 担金銀協主位呈仕金金主m L (参照 2015・12・26) •a thome ウェブサイト h 凶 www.athome.eo.jp/, (参照、 2015-12・2 6 ) −片岡寛之“リノベーション事業を通じた遊休不動産の利活用による都心再生モデルに関 0 1 5 , する研究”研究報告書 2 h t t p : / / w w w . v a m o r i s h a . c o m / a p p / w p c o n t e n t / u p l o a d s / 2 0 1 5 / 0 8 / e 5 c c b18d67cOl c 7e f i l l deaed78ce0 坐生E蛍,(参照 2016-01・04) 《 −土地総合情報ライブラリー「リノベーション・エリアマネジメントの先行事例 J −北九州市 ウェブサイト https://www. c i t v. k i t a k v u s h u . l g. i P , (参照 2016・0 1 0 4 ) ・北九州家守舎 ウェブサイト http://www.vamorisha.com, (参照 2 0 1 6 0 1 0 4 ) ・メルカート 3番街 ウェブサイト http://www.mer ・ c a t o 8 . c o m / p r ・ o f i l e . h t m l , (参照 2016・0 1 0 4 ) • ParadoresdeTurismo ワェブサイト h t t p : / / w w w . P a r a d o r . e s / e s / p o r t a l . d o (参照 2015・01・1 6 ) −坂東省次ほか「現代スペイン’情報ノ\ンドブック J三修社, 2 0 0 7 , p277-284 ・木下万里.“観光資源としての宿泊施設 2 0 0 7 ,v o l 6 8 , 67 ∼74 スペインのパラドールを事例に”海外交通事情.