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不動産価格評価モデル -ダイナミックDCF法 - 応用金融工学

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不動産価格評価モデル -ダイナミックDCF法 - 応用金融工学
不動産価格評価モデル
-ダイナミックDCF法川口有一郎
明海大学教授
京都大学金融工学センター客員研究員
商業不動産の価格評価
対象:商業不動産(賃貸収益を生み出しているビル,住宅,倉庫など)
実務:投資用不動産の鑑定評価にDCF法を導入(新鑑定基準)
課題:割引率(キャップレート)の推定,リスク分析の方法,予測の方法など.
ダイナミック DCF 法の定義:”A dynamic version of discounted cash flow analysis being
by considering uncertainty cash flows more carefully. Instead of assuming a
predetermined decision path and a single (expected) scenario of future cash flows, the
dynamic version requires the analyst to lay out all important future uncertainties and
the possible future contingent decisions by using a decision tree or a dynamic program
or a Monte-Carlo simulation or an econometric inference or a CCA. .”(Trigeorgis,1995:
33,ただし,下線部は筆者により加筆.)
2
スタティックDCF法
1)DCF法・・・将来キャッシュフローを「時間的割引率のみ」で割り引く.
2)リスクを考慮したDCF法 ・・・①min-max法,②確実性等価法,③リスク調整
済割引率法,④信頼区間アプローチ,⑤決定木分析(感度分析),⑥確率モデ
ルを用いたシミュレーション,⑦資本資産価格モデルを用いたリスク調整済割
引率法
3)実務でよく用いられるDCF法・・・リスク調整済割引率法(リスク・プレミアム
を合理的に決定する方法がないという難点がある).
VRAD R=
=
T
∑
t =1
T
∑
t =1
C Ft
VT
+
T
t
(1 + k )
(1 + k )
C Ft
VT
+
(1 + r f + R P' ) t
(1 + r f + R P' ) T
3
ダイナミックDCF法
①
確率モデルを用いたシミュレーション・アプローチ
用途:価格評価,リスク分析(および予測)
②
エコノメトリック・アプローチ
用途:価格評価,予測
③
条件付請求権アプローチ
用途:価格評価,予測(およびリスク分析)
4
確率モデルを用いた
シミュレーション・アプローチ
(1)既存研究
プロジェクト評価へのMCの導入;Hertz(1966, 1968)
不動産投資分析へのMCの導入;Pellatt(1972),Pyhrr(1973), Wofford(1978)
DCF法へのGBM&MCの導入;Hughes(1995), Baroni, Barthelemy, and Mokrane, 2001
市場リスク以外のリスクプロセスも考慮;刈屋(2001),川口・坪川・薩美(2001)
(2)今後の課題
①シミュレーション・ツールの開発(実務DCF法の拡張というスタンス)
②パラメータ推定方法の開発(データ制約のもとで)
③実務適用のための効率的計算方法の開発(データ整備含む)
5
割引率の時間変化
現在価値モデルは商業不動産の価格評価および不動産投資決定の中心を
なす.
伝統的な評価モデルでは,将来の正味キャッシュフローを予測し,これを一
定の割引率で割り引いて現在価値を求める.このモデルにおいて,割引率
は不動産に投資する際の期待収益率(つまり,IRRあるいは総合収益率)で
ある.また,資本コストとしても解釈される.
実務において,割引率は時間的にはそれほど変化しないものとして扱われる.
その理由は,市場の不動産に対する期待収益率の変化を定量化する方法
がなかったからである.例えば,アメリカの不動産業界で広く利用されている
ベンチマークにKorpacz Indicatorがある.過去5年間(現時点1995)に
±50bps(11.5%から12.5%)変化した.この期間に,短期金利は600bpsポイン
ト下落し,長期金利は300bpsポイント下落している.同様の知見は,Salomon
Brothers(1992)でも報告されている.
6
割引率の時間変化に関する既存研究
近年,①証券市場において割引率は時間的に変化していることが確認さ
れている.Keim and Stambaugh(1986), Fama and French(1988), Ferson
and Harvey(1991), Champbell and Ammer(1993)また,Campbell and
Mei(1993)などの一連の研究は,②株価の変化は期待キャッシュフロー
の変化よりも期待収益率の変化による部分が大きいことを示している.さ
らに,③REITs,小型株,大型株の場合,市場の期待収益率をある程度
予測できることが示されている.つまり,資産価格の変化は従来考えら
れていたよりも予測の可能性がある.また,資産価格のビジネスサイク
ルの転換点を事前に推定できる可能性がある.例えば,市場の次期の
期待収益率が高いとき,次期の価格に比べて今期の価格は比較的に低
い.つまり,次期には資産価格が上昇する.逆に,期待収益率が低い場
合,現在の価格が高く,将来価格は下落する.
7
エコノメトリック・アプローチ
Campbell-Shillerモデル(1988)
(1.4.1)
rt +1 ≡ ln( Pt +1 + Dt +1 ) − ln( Pt )
期末価格
(1.4.2)
rt +1 ≈ k + ρpt +1 + (1 − ρ )d t +1 − pt
対数線形近似(テイラー近似)
∞
(1.4.2)
∞
pt = k /(1 − ρ ) + (1 − ρ )∑ ρ Et [d t +1+ j ] − ∑ ρ j Et [rt +1+ j ]
j
j =0
j =0
簡単化のために,
z d = ∑ ρ j Et [d t +1+ j ], z r = ∑ ρ j Et [rt +1+ j ]
状態変数ベクトルが第 1 次 VAR,
xt +1 = Axt + u t +1
に従うと仮定する.
z d = λ1 ρA( I − ρA) −1 xt ,
z r = λ 2 ρA( I − ρA) −1 xt ,
8
なぜCampbell-Shillerモデルなのか?
不動産DCF法への適用(Geltner and Mei, 1995)
伝統的な DCF 法は期待収益率が非線形の形で取り込まれている.例えば,2 年後のキャッ
シュフローの現在価値は,
PV = E 0 [CF2 /{(1 + r1 )(1 + r2 )}]
で与えられる.ところが,Jensen’s Inequality から,


E 0 [CF2 ]
CF2
E0 
≠

(
1
+
r
)(
1
+
r
)
(1 + E 0 [r1 ])(1 + E 0 [r2 ])
1
2 

である(積の期待は期待の積には等しくない).
9
商業不動産への適用上の注意
商業不動産への適用上の注意】
1.鑑定評価を用いて作成した収益率インデックスはボラティリティが過少評価されいて
いる.
事前処理としてインデックスの非平滑化を行う.
2.REIT収益率を状態変数として採用する.
その理由は,REIT収益率は不動産市場の先行指標となっているから
(Giliberto 1990, Gyourko-Keim 1992, Barkham-Geltner 1995).モデルの予測力が高まる.
【適用とその結果】
・データ;PRISAインデックス(1975-1977),Russell-NCREIFインデックス(1978-1992).
・VAR変数;①総合収益率(インデックスを非平滑化したもの),②不動産キャッシュフ
ロー(集計したキャッシュフローを1974年期末の不動産の集計価値に対する割合として
求めたもの),③鑑定イールド(インデックス),④鑑定総合収益率(インデックス),⑤
REITの総合収益率
10
Campbell-Shillerモデルの不動産DCF法への適用
(Geltner and Mei, 1995)
・VAR推定結果:Table2
ヒストリカルデータに限定すれば,潜在変数モデル(Liu and Mei 1992)を用い
たREITの月次収益率の予測よりもVARを用いた商業不動産の年次収益率の予測力のほ
うが高い.
・投資タイミングの重要性
情報効率性への反証:Shleifer-Summers 1990
期待収益率を定数とみなすことへの反証:Fama-French 1988, Campbell-Mei 1993
不動産市場が証券市場よりも情報非効率であることの例証:Barkham-Geltner 1995.本研
究の上記の結果など.
#VARモデルによる投資タイミングの決定と期末価値のヒストリカル変動;Figure6
・不動産投資リスクの性質
#ヒストリカル不動産現在価値のシミュレーション;Figure8
不動産価値の変動のほとんど多くの部分は期待収益率の変動により説明される.
11
条件付請求権アプローチ(川口2002)
(1)基本的な考え方
a.既存研究(Geltner and Mei 1995 など)の知見:
商業不動産価格は確率変動するキャッシュフローと割引率の期待値である.
b.既存の CCA モデル(例えば,Cochrane
(1.5.1)
:
2001:52)
p = ∑ π ( s )m( s ) x( s ) = E (mx)
s
ここで,
π(s):状態sの生起確率
m(s):確率割引ファクター
x(s):状態sのキャッシュフロー
c.割引ファクターと years purchase
不動産実務では不動産価格 P を年間正味家賃収入 NOI で割った値,
(1.5.2)
yp =
P
NOI year
を“years purchase”と呼んでいる.つまり,実務で用いられているypに確率的な変動を
許せば確率的なypは(1.5.1)の割引ファクターに対応する.
12
日本の投資用賃貸住宅(週刊住宅情報掲載「事業用マンション」,リクルート社)
のempirical years purchaseは平均2.96,±約20%(1987Q1~1998Q4)である
(図参照).
Empirical Years Purchase, Condo-for-Invetment, Tokyo
-YPt=ln(Pt/NOIt)4
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
1998Q3
1998Q1
1997Q3
1997Q1
1996Q3
1996Q1
1995Q3
1995Q1
1994Q3
1994Q1
1993Q3
1993Q1
1992Q3
1992Q1
1991Q3
1991Q1
1990Q3
1990Q1
1989Q3
1989Q1
1988Q3
1988Q1
1987Q3
1987Q1
0
13
不動産価格評価モデル
商業不動産の価格 P を,正味家賃収入 NOI,years purchase,yp,及び時間tの関数,
(1.5.3)
P(NOI,yp,t)
と考える.
定義 1.5.1
(1.5.4)
t時点の不動産の正味家賃収入(NOI)は次式
NOI t = (Total Income − Total cos t ) /(Total Area )
で与えられる.NOI は不動産の資産価格 P とは異なる(NOI を現在価値換算した収益価値
と不動産価格 P は異なる).この価格差は一般に,
(1.5.5)
YPt = ln( Pt / NOI t )
として定量化される.これを“empirical years purchase”と定義する.
14
Empirical years purchaseと
キャップレート
不動産投資実務では years purchase の逆数
(1.5.6)
CAPRt =
NOI t
1
=
Pt
ypt
を capitalization rate(キャップレート)という.キャップレートは実務における不動産投
資分析の主要な instrument となっている.例えば,不動産鑑定評価において収益還元法と
はキャップレートで観測可能な今期のNOIを割り引いて不動産価格を求める−直接還元
利回り法−方法のことをいう.また,英米における不動産投資判断においてキャップレー
トが重要な投資判断指標となっている.さらに,伝統的なDCF法において復帰価格(将
来の売却価格)の推定は将来キャップレート(terminal capitalization rate)を用いた直接
還元利回り法により推定されるのが一般である.なお,不動産市場では取引があるとキャ
ップレートの情報が口コミで即座に流れる(近年,東京でもそうなっている)
.
15
経済学的基礎
不動産市場は空間市場と資産市場の二つからなる.
仮定 1.5.1(Frictionless Economy)一定金利rの無リスク資産があり,すべての市場参加
者に利用可能である.また,次の2つの市場でも流通しているとする.
① 空間市場;空間のサービス(利用)が取引される市場であり,正味家賃収入が決定され
る.
② 資産市場;空間そのものが資産として取引される市場である.不動産の価格が決定され
る.
(1.5.7)
dNOI t / NOI t = µdt + σ X dW X ,t
X t = ln NOI t
の確率変動が
1


dX t =  µ − σ X2 dt + σ X dW X ,t
2


16
つづき
確率割引ファクターに相当するものとして,連続時間 years purchase,πt を導入する.連
続時間 years purchase は不動産価格の確率的な変動を捉えるものである.つまり,
Empirical
years purchase のダイナミックな変動を確率表現する.
仮定 1.5.4 ダイナミック years purchase は次の平均回帰拡散過程
dπ t = κ (θ − π t )dt + σ π dWπ ,t
に従うものとする.また,Xt とπt の間には相関ρ
dW X ,t dWπ ,t = ρdt
17
不動産価格評価モデル
-市場価格PのダイナミックスP( X , π , t ;ψ M )
Ito’s formula,
dP
= µ P dt + η X dWX + ηπ dWπ ,
P
1 
1

µ P =  µ − σ X2  PX + κ (θ − π ) Pπ + Pt
2
P 

1 2
1 2 
+ σ X PXX + ρσ X σ ο PXπ + σ π Pππ 
2
2

1
η X = σ X PX ,
P
1
ηπ = σ π Pπ
P
18
不動産の価格評価
Fundamental partial different equation,
1 2
1 2
1 2
σ X PXX + ρσ X σ π PXπ + σ π Pππ + (r − σ X ) PX
2
2
2
+ (κ (θ − π ) − σ π λπ ) Pπ + Pt = (r + π ) P
終端条件: P ( X , π , T ;ψ M ) = e
解:
Y = ln P = X t −
1
κ
XT
(1 − e −κ (T −t ) )π t

σ π2 
1
1
− θ − σ π λπ + ρσ X σ π − 2 (T − t )
κ
κ
2κ 


σ π2 
1
1
+ θ − σ π λπ + ρσ X σ π − 2 (1 − e −κ (T −t ) )
κ
κ
κ 

σ π2
+ 3 (1 − e − 2κ (T −t ) )
4κ
19
パラメータ推定
-推定モデルT →∞
Y ( X , π , t ;ψ M ) = X t −
1
κ
(π t − θ ) −
1 
3

−
+
λ
ρσ
σ

X
π
π 
2
4κ
κ 


σ π2 
1
1
− lim θ − σ π λπ + ρσ X σ π − 2 (T − t )
T →∞
2κ 
κ
κ

σ π2
θ = σ π λπ − ρσ X σ π + 2 ,
2κ
κ
κ
1
1
Long-run mean of the continuous premium
P ( X , π , t ;ψ M ) = exp(−
1
κ
(π t − θ ) −
1
κ
σ π (λπ − ρσ X +
2
3
σ π ) NAVt ,
4κ
1
PREM t = − π t + f (ψ M )
κ
const
20
パラメータ推定-状態空間表現Transition equation
ξt = [ X t ,π t − θ ]
ξ t = c + Φξ t − ∆t + ηt
1
c = [( µ − σ X2 )∆t ,0]′,
2
0 
1
,
Φ=
−κ∆t 
0 e 
 σ X2
E[ηt ] = [0,0]′, E[ηtη ] = 
 ρσ X σ π
'
s
Measurement equation
Z t = [ X t , Yt ]′
Z t = a + Bξ t + ε t
ρσ X σ π 
 ∆t • δ t , s
2
σπ 
′

1
3


a = 0,− 2 σ π  λπ − ρσ X +
σ π  ,
4κ


 κ
0 
1
B=
,
1
1
/
−
κ


E[ε t ] = 0, E[ε t ε s' ] = Hδ t , s ,
hX2
ε t = [ε X ,t , ε Y ,t ]′, H = 
0
0

hY2 
21
パラメータ推定-Kalman filtering Kalman filtering
初期値設定:
ψ , ξ 0 with Σ 0
観測更新アルゴリズム
ξ t|t −1 = ct + Φ tξ t −1|t −1 ,
Σ t|t −1 = Φ t Σ t −1|t −1Φ′t + Qt .
予測誤差
vt = yt − at − Btξ t|t −1 ,
その分散・共分散
Ft|t −1 = Bt Σ t|t −1 Bt′ + H t .
時間更新アルゴリズム:
ξ t|t = ξ t|t −1 + K t vt ,
Σ t|t = ( I − K t Bt )Σ t|t −1.
Z
最尤推定法
K t = Σ t|t −1 Bt′Ft|−t −11
ψˆ SSM = arg max L( Z T , Z T −1 ,Λ , Z1 ;ψ SSM )
ψ SSM ∈ψ
22
EMアルゴリズム
石井・佐藤(予測と推定の計算理論的基礎)
パラメータΨの推定,下記EステップとMステップを交互に返すことにより対数
尤度が増大することが証明される.
Expectationステップ;
各データに対して,現在のパラメータΨの推定値を用いて隠れ変数の事
後確率を計算する.この隠れ変数の値を含むデータセットに対数尤度の
隠れ変数の予測事後確率について期待値を計算する.
Maximizationステップ;
期待対数尤度をパラメータΨについて最大化する.求められたパラ
メータを新しい推定値として上記にステップに戻る.
23
今後の課題
1.非完備市場モデルへの拡張
2.実証研究
24
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