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アジア科学技術協力の戦略的推進 地域共通課題解決型国際共同研究

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アジア科学技術協力の戦略的推進 地域共通課題解決型国際共同研究
アジア科学技術協力
アジア科学技術協力の
科学技術協力の戦略的推進
地域共通課題解決型国際共同研究
事後評価
事後評価
「バイオマス持続利用
バイオマス持続利用への
持続利用への環境管理技術開発
への環境管理技術開発」
環境管理技術開発」
機関名:
機関名:慶應義塾大学
代表者名:
代表者名:渡邉 正孝
実施期間
実施期間:
期間:平成19
平成19年
19年度~平成21
平成21年
21年度
目次
Ⅰ.国際共同研究の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
Ⅱ.経費
1.所要経費 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
2.使用区分 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
Ⅲ. 実施結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
1.目標達成度 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
(1)目標の達成状況
(2)採択コメントに対する対応
(3)所期の計画どおりに進捗しなかった場合の理由、対処、実績
2.成果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
(1)研究成果の内容
(2)国内外の各参画機関の共同研究体制
3.計画・手法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
4.実施期間終了後における取組の継続性・発展性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
5.成果の詳細 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
IV. 自己評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・157
1.目標達成度 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・157
2.成果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・157
3.計画・手法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・158
4.実施期間終了後における取組の継続性・発展性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・159
5.その他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・159
Ⅴ.その他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・160
1.代表研究者・国内参画機関研究者への質問
2.国外参画機関への質問
Ⅰ.国際共同研究の概要
■プログラム名:アジア科学技術協力の戦略的推進
持続可能な発展のための環境・エネルギー技術の研究開発
■課題名:バイオマス持続利用への環境管理技術開発
■機関名:慶應義塾大学
■代表者名(役職):渡邉 正孝(環境情報学部教授)
■共同研究機関名:地球環境戦略研究機関(IGES)、国立環境研究所、
中国科学院地理科学与資源研究所、中国科学院遺伝学与生育生態研究所、韓国環境政策評価院
■共同研究機関代表者名(役職):小嶋 公史(IGES グループ長)、藤田 壮(国立環境研究所室長)、
劉 紀遠(中国科学院地理科学与資源研究所長)、San In Kang(韓国環境政策評価院グループ長)
■実施期間:3 年間
■実施経費:89.3 百万円(間接経費込み)
1.課題概要
(1) 研究の目標・概要
1.研究の
研究の目的
食料由来のバイオエタノールの生産と消費の急激な進展により、東アジアの環境資源(水資源腑存量、
水質浄化機能、炭素固定量、土壌肥沃度)のストック量のうち特に水資源腑存量に与える影響が危惧さ
れている。本研究では、環境資源ストック量を定量的に診断する技術、およびストック量を維持・増進させ
環境資源の劣化を防止しつつ食料・バイオマスエネルギーの生産を持続可能とするために有効な技術
(補完・修復・代替技術を含む)・政策を診断・創出する環境管理技術の開発を目的とする。
2.研究の
研究の内容、
内容、手法
食料生産プロセスを含む陸域統合型の水・熱・物質循環モデルと、経済活動による水需要量、汚濁負
荷量、CO2 排出量等の環境負荷推定モデルを統合し、食料・バイオマスエネルギー供給可能量及び環
境資源ストック量を推定する分布型の環境資源管理システムを開発する。また、節水型の資源作物栽培
技術、発酵副産物の再資源化及び土壌還元技術等の環境資源の維持・増進を図る技術システムを各地
の農業生産へ適用可能な技術目録として整備する。一般均衡モデルを用いて推定された国内外の市場
を通じた食糧・バイオマスエネルギーの需要量と供給可能量との需給バランスに基づく、環境資源の持
続的利用を可能とするバイオマスエネルギー生産技術・政策を診断・創出するための環境管理技術を開
発する。
3.実施体制
慶應義塾大学が研究・統括機関となり中国科学院地理科学与資源研究所と共同で環境資源の管理
モデル開発を行なう。環境支持力の強化・補完技術には、この分野での実績を有する国立環境研究所と
中国科学院遺伝学与生育生態研究所が参画する。一般均衡モデルを用いた貿易による環境負荷分析
(2)研究の意義等
1
1.政策的ニーズ
政策的ニーズ
各国で温暖化対策として食料を原料とするエタノール混合型の自動車燃料の使用が推進されており、
食料生産との競合問題、生産のための森林伐採、水資源不足等の環境資源の劣化が指摘されている。
本研究により、バイオマスの生産を持続可能とする各種の修復・代替・補完技術が明らかになり、安定し
たバイオマスエネルギー資源の確保、食料安全保障の政策課題の解決に資するため高い政策的ニーズ
を持つと考えられる。
2.社会経済的な
社会経済的な実効性
本研究では各地の環境資源量が定量的に明らかにされ、環境資源量と農業生産の効率性から資源
作物生産のための適地や、環境資源の維持・向上に不可欠となる技術システムの診断・創出が可能とな
り、バイオマス生産の実効性の向上に資する。
3.本制度による
本制度による取組
による取組からの
取組からの付加価値
からの付加価値
わが国ではバイオマスエネルギーを生産可能な国土面積が限られており、原材料生産と消費を結ぶ
プロダクトチェーンの一貫した研究開発が必要となる。本研究では、環境資源管理による生産活動の維
持と貿易による需給バランスを考慮した食糧・バイオマスエネルギー安定供給のシステムの構築に資す
る。
4.共同研究への
共同研究への参画
への参画
研究代表者と中国科学院地理科学与資源研究所の劉紀遠所長とは1996年から協定書締結のもと共
同研究を進めており、多岐にわたる研究活動の推進に合意している。研究代表者と韓国環境政策評価
院のKang博士は相互に訪問し、共同研究に関する包括的合意を締結している。
5.過去の
過去の蓄積
慶應義塾大学,国立環境研究所,(財)地球環境研究戦略機関,中国科学院地理科学与資源研究所
は「アジア太平洋環境イノベーション戦略プロジェクト(2001年~2006年)」において、MODIS衛星と観測
ステーションを用いた統合環境モニタリング(IEM)を進め、国際ジャーナル、国際ワークショップ等でアジ
ア諸国に情報を発信してきた。(財)地球環境戦略機関と韓国環境政策評価院は2001年より共同で貿易
による環境負荷の分析研究を通じて研究交流を進めてきた。
2
課題の実施体制
○課題分類
「持続可能な発展のための環境・エネルギー技術の研究開発」
○提案課題名 「バイオマス持続利用への環境管理技術開発」
○研究代表者名「渡邉正孝」
○代表機関名 「慶應義塾大学環境情報学部」
1.持続的
1.持続的な
持続的なバイオマス
生産を
生産を可能とする
可能とする
環境資源管理システム
環境資源管理システム開発
システム開発
2.バイオマス
2.バイオマス需給
バイオマス需給バランス
需給バランス
がもたらす環境負荷
がもたらす環境負荷
推定モデル
推定モデル開発
モデル開発
(財
財)地球環境戦略研究機関
地球環境戦略研究機関
水・熱・CO2
インベントシステム
水需要量,排水量,
汚濁負荷排出量,
CO2排出量
水資源腑存量
観測ステーション
観測ステーション
Water,Heat,CO2 Flux
水質浄化機能
衛星データ
衛星データ(MODIS)
データ
環境資源
環境資源
利用
環境資源
国際貿易を
国際貿易を含む食料,
食料,
バイオマスエネルギー
需給バランス
需給バランス
中国科学院地理科学与資源研究所
利用
韓国環境政策評価院
慶応義塾大学
環境資源
ストック量
ストック量
ストック量
ストック量
炭素固定量
土壌肥沃度
陸域統合モデル
陸域統合モデル
食料生産モデル
食料生産モデル
食料・バイオマスエネル
ギー生産した際の水・熱・
物質循環のモデル化
3.環境資源の
環境資源の強化・
強化・補完・
補完・代替技術評価研究
国立環境研究所
中国科学院遺伝学与生育生態研究所
・農地,半乾燥地,乾燥地における
節水型エネルギー作物栽培技術
・節水型植林技術
汚濁負荷抑制技術・有機物農地循環技術
社会経済活動への
社会経済活動への影響
への影響
・経済成長 (GDP)
・食料自給率
・エネルギー自給率
Trade-off
3
環境資源劣化診断
水資源腑存量,炭素固定量,
水質浄化機能,土壌肥沃度
の時系列変化
課題の実施内容
○課題分類
「持続可能な発展のための環境・エネルギー技術の研究開発」
○提案課題名 「バイオマス持続利用への環境管理技術開発」
○研究代表者名「渡邉正孝」
○代表機関名 「慶應義塾大学環境情報学部」
環境資源の
環境資源のストック量
ストック量の定量化
・東アジア地域
アジア地域では
ストック量のうち
地域では、
では、ストック量
特に水資源の
水資源の不足が
不足が顕著である
顕著である
「水資源腑存量」
水資源腑存量」
「土壌肥沃度」
土壌肥沃度」
「汚濁浄化機能」
汚濁浄化機能」
「炭素固定量」
炭素固定量」
環境資源を
環境資源を利用した
利用した経済活動量
した経済活動量および
経済活動量および環境負荷量
および環境負荷量の
環境負荷量の予測
経済活動量:
経済活動量:食料生産量、
食料生産量、バイオマスエネルギー生産量
バイオマスエネルギー生産量・
生産量・工業生産量の
工業生産量の推定
環境負荷量:
環境負荷量:水需要量、
水需要量、排水量、
排水量、汚濁負荷量、CO
汚濁負荷量、CO2排出量
、CO 排出量の
排出量の推定
環境資源
供給可能量
水資源腑存量
フィードバック
土壌肥沃度
食料生産量
経済活動
バイオマスエネルギ-生産量
汚濁浄化機能
炭素固定量
工業生産量
貿
易
需
要
量
汚濁負荷推定
社会経済活動への
社会経済活動への影響
への影響
環境資源の
環境資源のストックの
ストックの劣化診断
・環境資源の
環境資源の利用量、
利用量、環境
負荷量を
負荷量を踏まえ、
まえ、各地域の
各地域の
環境資源
環境資源の
資源のストック量
ストック量を分
布型で
布型で定量的に
定量的に診断
Tradeoff
・経済成長,食料自給率
経済成長 食料自給率
・エネルギー自給率
エネルギー自給率
環境資源を
環境資源を強化・
強化・補完・
補完・代替する
代替する
技術の
技術の選定・
選定・創出
環境資源量の
環境資源量の診断結果から
診断結果から維持
から維持・
維持・増進を
増進を図る
補完・
補完・修復・
修復・代替技術を
代替技術を各地に
各地に適用
2.採択時コメント
本提案は、中国において、バイオマスの持続的な生産と利用を可能にする環境管理技術を開発すること
を目的としたものである。代表者の流域圏・水環境・水資源等の問題に関する国際的な取り組みの実績
をもとに、バイオマスの生産に必要な水理現象と作物生産を再現する陸域統合モデルを開発する点など
課題設定に優れ、また、中国を対象とする戦略性も高いことから、政策的な必要性は高いと判断された。
しかし、中国・韓国との3カ国のパートナーシップの内容がやや不明確であり、その内容の詳細を明確に
して進めるべきこと、テーマが大きすぎ多岐にわたる課題を研究期間中にどのようにまとめ、どのように活
用していくかということについては事前に十分な検討が必要である。
また、アジアへの展開にあたっては、昨年度から本プログラムで進行中の「バイオウェイストのリファイナリ
ー型資源化」と情報交換し、連携することが有益である。
4
Ⅱ.経費 (振興調整費分)
1.所要経費 (間接経費を含む)
(単位:百万円)
研 究 項 目
研 究
担当機関等
1. サブテーマ 1
慶應義塾大学
所要経費
担当者
渡邉 正孝
65.6
持続可能なバイオマス生産を可能とする環境
資源管理システム開発
2. サブテーマ 2
地球環境戦略研究 小嶋 公史
9
バイオマス需給バランスがもたらす環境負荷 機関
推定モデル開発
3. サブテーマ 3
国立環境研究所
藤田 壮
14.7
環境資源の強化・補完・代替技術評価研究
所 要 経 費
89.3
(合 計)
2.使用区分
(単位:百万円)
サブテーマ 1
サブテーマ 2
サブテーマ 3
計
設備備品費
試作品費
(H19、H20 のみ)
人件費
31.2
5.9
37.1
業務実施費
19.5
1.0
11.5
32.0
間接経費
15.0
2.0
3.3
20.3
計
65.6
9.0
14.7
89.3
(H19、H20)
事業実施費
(H21)
※備品費の内訳(購入金額5百万円以上の高額な備品の購入状況を記載ください)
5
Ⅲ.実施結果
1.目標達成度
(1)目標の達成状況
・計画(目標):(申請書から転機)
まず、現状の環境資源(エコシステムサービス)の下でバイオマスの生産量を推定する。環境資源とし
て、「水資源賦存量」、「土壌肥沃度」、「水質浄化機能」、「炭素固定量」の四つの要素を設定し、数値計
算を通じてバイオマスの供給可能量を求める。
特に、水資源については、地下・陸域・大気を含む陸域統合型の水・熱・物質循環モデルを改良して
適用する。これに、農業生産による炭素・窒素・燐の挙動を明らかにできる DSSAT(Decision Support
System for Agro-technology Transfer)モデルを結合してアセスメントのためのモデルとする。特に農
業生態系の水資源、土壌資源、炭素固定量については、代表性のある生態系を対象にして実験地の設
営と実地データの取得と、東アジア地域全土を対象とした炭素固定量評価を行う。(サブテーマ 1)
次に、バイオマスエネルギーの生産活動にともない大量の汚濁負荷、廃棄物が発生することが予想さ
れるため、バイオマスの生産活動による環境負荷量(水需要量、汚濁負荷発生量、CO2 排出量)の推定
を行う。一方、バイオマスエネルギーの流通・消費量は、需要と供給のバランスによって決定されるため、
国際貿易を含めたバイオマスの需給バランスと価格を考慮したモデル開発を行う。GTAP(Global Trade
Analysis)等の国際貿易を表現する一般均衡モデルと、東アジア地域の地域間産業連関表を連結させ
た環境負荷インベントリモデルを作成し、貿易に伴うバイオマスの需給バランスと環境負荷を推定する。こ
れにより持続的なバイオマス生産のフィージビリティを検討する。(サブテーマ 2)
最後に、地域の自然条件(日射量、降雨量、土壌日沃土)や、各種の環境負荷(水需要量、汚濁負荷
発生量、CO2 排出量)により、環境資源の劣化が発生しており、そうした地域では環境支持力の再生が
必要となる。そのため、環境資源の修復・代替・補完技術開発とその技術を用いた再生プログラムの設計
を行う。
そこで、有望と考えられる節水型の資源作物生産技術、汚濁負荷浄化技術、緑化技術ついては、課
題の代表性をもつ実験地を設置して、水資源、熱フラックス、CO2 の観点から技術の効果を比較検証す
る。節水型の作物について、水資源の消費量を抑制し付加価値のあるバイオマスエネルギーを生産可
能なため、実験圃場において現状の主要作物との比較実験を行い水・熱収支を観測し、栽培法の確立
と環境影響評価を行う。圃場での実証試験と合わせて、サブテーマ 1 のモデルを用いて技術を地域に適
用した際の有効性の検討を行う。(サブテーマ 3)
・サブテーマ 1 持続的なバイオマス生産を可能とする環境資源管理システム開発
バイオマスの生産量の推定にあたり、プロセスベースの陸面過程を表現した水・熱・物質循環モデルと
作物の生産管理を行う DSSAT モデルを連結したモデルを開発し、「水資源腑存量」、「土壌肥沃度」、
「水質浄化機能」、「炭素固定量」の四つの環境支持力を分布情報として定量化する。
6
「水資源腑存量」および「水質浄化機能」については、大気―陸面(森林・草地・畑地・水田・湿地・湖
沼・都市域等)間での水・熱・物質循環過程および河川ネットワークと結合し、植生の時間変化を同化し
植生変化に応じた水・熱・物質循環のシミュレーションを可能とする陸域統合型モデル(Nakayama and
Watanabe,2006)を用いて推定する。これに、新規に陸域からの蒸発散過程および地表面から地下へ
の熱移動過程を評価可能とする 3 次元地下水モデルを結合させる。「土壌肥沃度」については、農業生
産活動を通しての水資源利用量を水循環過程に反映させるために、農業生産モデル(DSSAT モデル)
との結合を行い、農業生産を含めた水・熱・物資循環過程を再現できるようにモデル開発を行う。「炭素
固定量」については純一次生産量の推定が基礎となっている。このため代表的な土地利用(水田、畑地、
草地、森林、半乾燥地等)について、温暖化観測ネットワークの各ステーションでの観測データを用いて、
純一次生産量の変化予測モデルを構築する。本モデルの推計にあたっては、詳細な土地利用 GIS デ
ータ、降雨観測 TRMM 衛星データ、MODIS 衛星データ等 GEOSS 計画で得られる衛星データを同化
させるとともに、大気大循環モデル結果を分布データとして同化させることにより、陸域圏での詳細な水・
熱・物質循環量の予測を行う。土地利用分析システムと中国炭素フラックスネットワークを基盤として、中
国における生物生産量分布と炭素吸収量分布モデルを構築する。このモデル開発は、特に水資源が枯
渇しつつある中国北部の黄河流域・河北平原において重要であり、農業生産に用いられる水資源量推
定に不可欠である。代表性のある農地を複数選定し、水、炭素、窒素、リンの物質循環のモニタリングを
行い、その結果を技術パラメータ化して、環境エネルギー資源評価モデルで東アジア全域の効果を検証
する。
・サブテーマ 2 バイオマス需給バランスがもたらす環境負荷推定モデル開発
全世界と東アジア地域を相互に連結させた一般均衡モデルと、東アジア各国産業の環境負荷インベ
ントリを用意して、東アジア地域で貿易によって発生するバイオマスの需給バランスと環境負荷量(水需
要量、汚濁負荷発生量、CO2 排出量)を予測する。まず、エネルギー作物による経済や環境への影響を
評価するために、財・サービスの生産要素である水(水需要,新規水資源消費)・エネルギーの投入量や、
それに伴い排出される CO2 や汚濁負荷(窒素,りん)を定量的に把握可能な「水・汚濁負荷・CO2 インベ
ントリシステム」の開発を行う。
本システムは、内包環境負荷を含め地域内外での流通活動に伴う環境へのインパクトが評価可能な
マクロインベントリモデルと、環境負荷の分布特性が把握可能な分布型インベントリモデルの 2 のサブモ
デルから構成される。前者は産業連関分析モデルをベースとするマクロインベントリモデルによって、地
域単位で産業部門別の環境負荷の排出構造を大局的に把握することが可能となる。分布型インベントリ
モデルは GIS(地理情報システム)を基盤とするモデルであり、グリッドスケールで経済主体別に環境負荷
分布を把握する。
次に、国際貿易による食料・バイオマスエネルギーの需給バランスを推定する。食糧需要量の推定に
は物資の流通量と最終需要量の推定が必要であり、産業連関表の整備が不可欠である。中国各省レベ
ルの産業連関表の中で需要量に最も影響を与える国内省間の移入・移出および各省における国外との
輸入・輸出に関するデータは通常合算して表記されている場合が多く、物質の国内間・国外とのやりとり
が定量化されていない。本研究では、中国国内の省間の移入・移出および各省における国外との輸入・
7
輸出の推定方法を構築する。
GTAP 等の一般均衡モデルと東アジアの地域別産業連関モデル(特に中国の省市別の産業連関表)
を結合させた経済モデルを用いて、生産活動と貿易活動により発生する農産物、工業製品の需要量と価
格から、東アジア地域の生産活動で要求される水・食料・エネルギー等の環境資源の需要量(消費量)を
算出する。
国際貿易を表現する GTAP モデルをベースとして、日中韓およびバイオ燃料、食糧の貿易パートナー
として重要な米国、インド、ブラジル、ロシアなどについては国別、その他の国・地域を含めた国際一般均
衡モデルを構築する。標準 GTAP モデルでは燃料作物を個別に扱うことはできないため、燃料作物に対
応した産業区分見直しを行う。また分布型インベントリモデルが必要とする入力データおよび分布型イン
ベントリモデルから提供される出力データに対応するモデル変更を行う。マクロインベントリモデルは分布
型インベントリモデルへ必要な入力データを提供するとともに、地球全体の食糧自給および地球全体の
温暖化ガス排出量の評価を行う。
・サブテーマ 3 環境資源の強化・補完・代替技術評価研究
東アジアでの環境資源の量・質を向上させる技術として、CO2 排出抑制、汚濁負荷削減、水資源再利
用、自然劣化防止にかかる技術のインベントリを構築して、地域解析と技術適合性評価、バイオマスエネ
ルギー生産システムの設計と農地との有機物循環を実現するための地域拠点の設計を含む、地域マネ
ジメントシステムを構築する。エネルギー作物の栽培、収集および消費主体へのエネルギー供給システ
ム、循環型環境改善システムを含む代替的な技術・政策システムについて、供給製品・エネルギーへの
社会的価格弾力性、作物の地域特性を考慮した上で、その環境・経済効率の高い方策を選定する視点
で構想し、評価、実証を行う。
第 1 に、東アジア地域では、水資源獲得における工業用水と農業用水の競合が存在し、節水型の農
法・農作物の開発が強く求められている。また、塩害等により不良となった広大な耕地が存在することから、
劣化土壌に耐性を持つ作物による土壌再生が求められている。乾燥化と塩害土壌に有望な作物を選定
し、圃場での実証試験を通じて品種改良を行う。圃場は代表性のある農地を複数選定し、水、炭素、窒
素、リンの物質循環のモニタリングを行い効果を検証すると共に、その結果を技術パラメータ化して、環
境資源管理モデルを用いて東アジア全域に適用した際の効果を検証する。
第 2 に、バイオマスエネルギー転換拠点では、余剰物である窒素、リン成分を生物的手法により浄化・
再生し農地に還元する技術開発を進め、実証スケールの検証結果に基づいた統合的なシステム構築と、
東アジア地域、特に農村におけるバイオマス資源循環拠点のシステム設計と立地選定システムを設計す
る。エタノールを精製するプロセスで発生する水資源も再利用し、土壌の保水力を向上させる。
・達成状況:
・サブテーマ 1 持続的なバイオマス生産を可能とする環境資源管理システム開発
環境資源腑存量の現況を再現するため、環境資源影響評価システムのサブシステムとして、水資源へ
の影響に脆弱である東アジアの代表的な地域における気候変動下での水資源量を予測し、農業生産量
8
を定量化可能とする環境資源予測モデルの開発を行なった。これまでに開発してきた統合型流域モデ
ル(Nakayama and Watanabe, 2004)を農地に適用可能なように拡張を行うとともに、従来の手法では
一般的な灌漑量に関する詳細な統計データを必要としない新たな手法の開発を行い、環境資源劣化予
測モデルを構築した。このモデルは土壌水分と熱フラックスを再現する SiB2 モデル、三次元の地下水の
フローを表現する USGS MODFLOW モデル、および分布型の水理モデルを結合したモデルである。
各タイムステップにおいて土壌水分モデルと地下水流動モデルを統合するために、浸透層と地下水層の
水のフラックス(入出力)を計算し、さらに河川流と地下水流の間で移動する有効降雨量と浸出量を考慮
している。このことから環境資源劣化予測モデルは短期予測だけでなく、浸透の機構を含む長期的な河
川流出現象をも再現することが可能となっている。さらに、ICASA(International Consortium for
Agricultural System Application) で 開 発 さ れ た DSSAT(Decision Support System for
Agrotechnology Transfer)モデルの中の、食料生産のプロセス等を追加して開発を行った。開発に当
たっては衛星情報(国立環境研究所で蓄積した MODIS 衛星データ)から得られる土地利用データ・植
生データ・土壌条件・気象データ等の地理情報データを(モデルの初期状態や計算過程での制約などを
決める)境界条件として用い、またモデルにより得られる河川流量・地下水位・蒸発散量等の予測結果を
水循環観測データと比較検証を行い、高い再現性のあるモデル開発を行った。
MODIS 衛星データ受信ステーションと代表的な陸域生態系(草地、灌漑農地、水田、森林、砂漠化
地域)における地上生態系観測サイトより構成される統合環境モニタリングネットワークを構築した。陸域
生態系における水・エネルギー・炭素・窒素循環を明らかにするため,米国モンタナ大学で開発された
Biome-BGC モデルを用いた。それぞれ固有の生態系を有する 5 つの地上観測ステーションで測定され
ている気象データを入力データとして計算を行い、各ステーションで測定された葉面積指数(LAI)や表
面温度(LST)等生態学的なデータおよび水蒸気・炭素フラックスデータと計算結果の比較を行い,モデ
ル再現性の検証を行った。コムギとトウモロコシを対象とした施肥により,光合成生産量(GPP)とエコシス
テム純生産量(NEP)は増大し,農作物による呼吸量(Rm と Rg)も増大するが、土壌呼吸(Rh)はむしろ
化学肥料の大量使用によって減少することが判明し、水・熱と炭素(CO2)フラックス及び吸収固定量に
影響を与えていることが明らかになった。
・サブテーマ 2 バイオマス需給バランスがもたらす環境負荷推定モデル開発
① 経済活動による食料・バイオマスエネルギーの需給バランスに与える影響評価
本研究では国際貿易による食料・バイオマスエネルギーの需給バランスを推定するためのバイオマス
需給バランスモデルについて、世界データベースである GTAP データベースにおいて農産物について
詳細な産業分類を採用するとともに、バイオ燃料を産業セクターとして切り出したデータベースを開発し
た上で、日中韓およびバイオ燃料、食糧の貿易パートナーとして重要な米国、インド、ブラジル、ロシアな
どについては国別、その他の国・地域を含めた国際一般均衡モデルを開発した。またバイオ燃料増産に
積極的である中国のバイオ燃料の現況に関するレビューを行い、バイオエタノール生産と食料利用が競
合する状況となっていることなどが判明した。これらの状況を踏まえ、原油価格に関しベースラインシナリ
オおよび価格高騰シナリオのもとで中国のバイオエタノール増産による農産物・バイオ燃料の均衡価格・
9
需給バランスにつきバイオマス需給バランスモデルを用いて分析した。
② 水・汚濁負荷・CO2 インベントリシステムの開発
中国 31 省市別、47 産業分類で構成された産業連関表を社会会計表のベースデータとして用いた応
用一般均衡モデルを基盤とし、食糧・バイオ燃料の需要と供給バランスを解析するモデルを開発した。こ
のモデルに、食料生産時の環境負荷を評価する項目として付加するため、水資源消費量、汚濁負荷発
生量、土地資源利用量を地域別、産業別の環境負荷インベントリとして開発した。水資源インベントリは、
特に中国華北部において地表水の枯渇(黄河の瀬切れ減少)や、地下水へ依存した結果として地下水
位が低下してきたこと指摘されてきている。よって水資源インベントリのうち地域別に地下水・地表水を区
分したインベントリを開発した。汚濁負荷インベントリでは、特に農業部門、畜産業部門からの負荷量が
大きいことが指摘されてきているが、地域別・作物別に明らかにした研究は少ない。そこで、農業部門の
窒素フローとして、施肥、脱窒、流出、作物収穫、大気降下等の窒素フローの一連のプロセスを考慮して
環境中への流出量を算出した。
・サブテーマ 3 環境資源の強化・補完・代替技術評価研究
複数の作物のうち、節水型の資源作物として有効であるものを生産性(単位面積当たりの収穫量、エタ
ノール精製量等)と環境負荷量(ライフサイクルでの水資源量、二酸化炭素排出量)の観点から選定した。
さらに栽培地の気象条件として、耐寒性、耐乾燥性に優れた芋類(菊芋)を選定し、水資源が少なく土壌
資源などの劣化が著しい甘粛省武威市を対象に、栽培面積:33,500ha、精製エタノール量:12.5 万
kℓと仮定した仮想的な栽培実験を行った。その結果、バイオ燃料の精製だけでなく、発酵残さ等の酵母
を飼料として有効に活用すれば、環境資源を保全しつつ持続的な生産が可能であることが明らかにされ
た。そこで、バイオエタノール精製の副生産物の有効活用の一環として蒸留残渣液の農地還元プロセス
について、宮古島のバイオエタノール事業を対象に検討を行った。実施にあたっては、バイオエタノール
開発を進める株式会社りゅうせきの協力を受け、バイオエタノールの生産工程だけでなく、サトウキビの生
産、製糖の精製という上流工程を含めた各種技術データ(水消費量、エネルギー投入量、化学肥料消費
量等)を効率的収集し、水および窒素収支を中心に、農地循環の可能性分析をおこなった。その結果、
現行のバイオエタノール生産によって発生する蒸留残渣液は約 2,500m3 で、約 13t-N の窒素が排出
されることが明らかとなった。現状のサトウキビの灌漑用水が約 1000 万 m3、化学肥料投入量が 750t-N
であることから、蒸留残渣液の農地への散布は十分可能との知見が得られた。
(2)採択コメントに対する対応
「中国・韓国との 3 カ国のパートナーシップの内容がやや不明確であり、その内容の詳細を明確にして
進めるべき」とのコメントをいただきました。中国科学院地理科学与資源研究所劉紀遠所長と慶応大学と
の MOU を平成 19 年 8 月 20 日に締結し、「東アジアにおけるバイオマス生産と土地利用/土地被覆変
化がもたらす炭素・水循環への影響評価」について共同研究を行うことを合意した。
韓国環境政策評価院 Kang 博士と慶応大学との MOU を平成 19 年 9 月 20 日に締結し、「東アジアに
10
おけるバイオマス需給がもたらす環境負荷への影響評価」について共同研究を行うことを合意した。また
これとは別に、IGES は韓国環境政策評価院と MOU を締結しており、長く共同研究を行ってきた実績を
もっており、3 カ国のパートナーシップの内容は本研究プロジェクト推進に明確に位置づけられている。
「テーマが大きすぎ多岐にわたる課題を研究期間中にどのようにまとめ、どのように活用していくかとい
うことについては事前に十分な検討が必要である」とのコメントをいただきました。研究スタート時に 3 カ国
協議を行い、バイオマス持続利用のための環境管理技術の基本的・共通的な方法論開発に焦点をしぼ
り研究を推進することで合意しました。また開発される環境管理技術は温暖化適応策に最新のニーズが
あり、研究成果のアジアでの活用が可能な共通性を持った技術開発を行うことでも合意しました。
「アジアへの展開にあたっては、昨年度から本プログラムで進行中の「バイオウェイストのリファイナリー
型資源化」と情報交換し、連携することが有益である」とのコメントをいただき、サトウキビ糖蜜からのバイ
オエタノール製造プロセスに対して有益なインプットとさせていただきました。
(3)所期の計画どおりに進捗しなかった場合の理由、対処、実績
中国のバイオエタノール開発は廃棄処分すべき古くなった備蓄用トウモロコシの有効活用から始まっ
た。しかし原油高騰からバイオエタノール生産が急増し、水資源不足やトウモロコシ原料・土地をめぐって
食用とエネルギー用の競合が始まった。2007 年に入り中国国内の豚肉高騰(前年同月比 49%上昇)が
飼料の価格高騰と供給不足が原因であり、その主因がバイオエタノール生産にあるとされた。この結果中
国政府国家発展改革委員会は 2007 年 8 月には「再生可能エネルギー中長期開発計画」を策定し、20
年間で 10 倍のバイオエタノール増産計画を決定しながら、2007 年 6 月にはトウモロコシを主原料とする
新規バイオエタノール事業の禁止を決定する政策転換を行った。本新規課題の採択通知を受領したの
が平成 19 年(2007)5 月 18 日であり、中国政府のバイオエタノール推進事業に深く関わっていた中国
科学院地理科学与資源研究所および韓国環境政策評価院とで 2007 年 8 月に急遽 3 カ国協議を行い、
その対応について検討した。中国・韓国とも経済の急成長によりエネルギー資源と水資源の慢性的不足
に悩まされており、本研究課題の中心的な研究骨格をなす環境資源管理技術開発はそのまま有効であ
り、トウモロコシ以外の節水型エネルギー作物にも対象を広げることで、アジア共通の課題の解決に貢献
できるとの結論に至った。幸い研究化開始直後での中国政府の政策転換であったことから、研究推進の
方向性についての軌道修正を迅速に行うことができたと認識している。また 3 カ国協議において本研究
の Outcome としてどのようなネットワーク形成を設計すべきかについても議論を行った。バイオマスエネ
ルギー資源:食料資源:水資源は相互に連関しており、環境資源管理技術はアジアの持続発展の基本
的共通課題であるとともに、温暖化適応策にとって最重要課題であるとの共通認識を得ることが出来た。
このため Outcome として温暖化適応ネットワーク形成に向けて共同して推進することを確認した。
11
2.成果
(1)研究成果の内容
①地域共通課題の解決につながるどのような成果が得られたか、(その成果が将来的に社会へどの
程度適応できる段階にあるかわかるように)記載してください。
・サブテーマ 1 持続的なバイオマス生産を可能とする環境資源管理システム開発
気候変動の影響として長江・黄河における渇水および洪水の頻度が高まっており、流域管理のための
統合的モデル開発が中国において強く求められている。延長 6300km、高低差 5000m に達する広大な
流域を対象として河川・土壌・地下水および森林・草原・農業生産とそれに伴う灌漑取水までを含めた統
合的なモデル開発とその検証は始めての試みであり、中国における持続可能なバイオマス生産と水資源
管理に多大な貢献を行うことが可能になってきた。開発されたモデルは実用的な計算速度を持っており、
短期的な洪水予測から長期的なバイオマス生産のための水資源管理に至るまでの現実的な中国の水管
理政策に適用可能なローカルスケールまでを計算可能な段階まで到達している。今後の取水制限、流
域を跨いだ南水北調政策の影響評価などにも適用可能となっている。
代表的な陸域生態系(草地、灌漑農地、水田、森林、砂漠化地域)における地上生態系観測サイトより
構成される統合環境モニタリングネットワークは、東アジアの陸域生態系を通しての水・エネルギー・炭
素・窒素循環を観測可能であり、生態学的なデータおよび水蒸気・炭素フラックスの把握に大きく貢献す
ることができる。本環境資源管理システムはアジアの他の地域に対しても適応可能と考えている。
・サブテーマ 2 バイオマス需給バランスがもたらす環境負荷推定モデル開発
本研究では、国際貿易を通じて相互に連関する世界経済を、産業部門間の連関も含めて扱うことので
きる多地域計算可能一般均衡(CGE)モデルにバイオ燃料セクターを反映することで、バイオマスをバイ
オ燃料として利用する場合に懸念される食糧生産との競合に関する影響評価を行うためのツールを開発
することができた。このツールを用いた影響評価を行うための背景シナリオを策定する目的で、バイオ燃
料増産に積極的である中国のバイオ燃料の現況に関するレビューを行い、当初は備蓄費用が問題とな
っていた古い小麦を原料としていた中国のバイオエタノール生産が、現在では備蓄小麦は使い尽くされ
てしまい、バイオエタノール生産と食料利用が競合する状況となっていることなどが判明した。これらの状
況を踏まえ、原油価格に関しベースラインシナリオおよび価格高騰シナリオのもとで中国のバイオエタノ
ール生産が 20%増加した場合の食糧・バイオマスエネルギーの国際市場での均衡価格・需給バランスに
関する分析を行った結果、主要食糧作物への価格高騰の影響はあまり見られなかった。
農業生産における水資源や土地資源等の環境資源の保全と、食料・バイオ燃料を安定的に供給する
システムを構築することは、日中韓が抱える地域共通課題である。しかしながら、これまで同地域におい
て、各国で別個に検討してきた事例はあるものの、水資源インベントリや土地資源インベントリ等の自然
科学的な環境資源の定量評価手法とインターフェイスをもちながら、応用一般均衡モデルのように社会
経済システムを解析する研究基盤は存在しない。そのため、中国での環境資源の劣化が中国の食糧生
産量や食糧の価格に影響を与え、結果として日本、韓国の食糧安全保障が脆弱になるメカニズムを明ら
12
かにし、共通課題として取り組む科学的基盤がなかった。本研究において開発された環境資源統合管理
モデルは、この地域共通課題を解決するものであり、今後の気候絵変動による食糧生産と社会経済活動
への影響評価等に十分活用できる研究基盤である。
・サブテーマ 3 環境資源の強化・補完・代替技術評価研究
本研究では、バイオエタノールの原料となるバイオマスの生産に伴い発生する高濃度廃水の農地還
元プロセスを含めてカーボンフットプリントの基礎的な評価システムを構築することができた。本システム
を宮古島のバイオエタノール事業に適用した結果、蒸留残渣液の農地への散布は十分可能との知見が
得られる一方で、地下ダムに存在する硝酸態窒素の約 22%の窒素が地下浸透する可能性が示唆され
た。本成果から、バイオエタノールの蒸留残渣液の処理という課題に対して、地下水汚染を増長しない適
正な施肥管理に基づいた農地還元が有効との知見が得られた。
資源作物の生産性(単位面積当たりの収穫量、エタノール精製量等)と環境負荷量(ライフサイクルで
の水資源量、二酸化炭素排出量)を比較して、節水型資源作物としての妥当性を検討した。その結果、
過去には菊芋を原料とするバイオエタノールの生産の研究が行われており、平均して生菊芋 100kg から
バイオエタノールが 8.0~8.5ℓ 生産された。この菊芋が他のバイオエタノール原料作物と比較してどのく
らいの優位性を持っているのかを「原料作物の栽培からバイオエタノールの供給地までの輸送」までの
LCA 評価を行った結果、サトウキビは他の作物よりも優れたエネルギー収支となり、これはブラジルで行
われているバイオエタノール産業と同じような成果を中国でも得られることがわかった。そして、トウモロコ
シについては農業副産物をエネルギー利用した場合には良好なエネルギー収支となった。また、現在中
国が非食糧として位置づけてバイオエタノール原料として今後拡大してくると思われるサツマイモも好結
果であった。そして菊芋は、好結果を出したサツマイモを上回るエネルギー収支となり、エネルギー作物
として十分に活用可能であることがわかった。中国の北方地域では、生産性が高くかつ耐乾燥性や耐寒
性に優れた芋類(菊芋)が、資源作物として最も効果的であることがわかった。これを年間降水量が
200mm 程度の甘粛省武威市(栽培面積:33,500ha、精製エタノール量:12.5 万 kℓ)において栽培したと
仮定した場合のライフサイクルコストとライフサイクル CO2 を評価した。この結果、バイオエタノールの売
上は 4 億 5,044 万元になり、減価償却費や借入金利払い、原料栽培から製品の輸送にいたる総経費は
4 億 1,136 万元になる。1 年目の経常利益は借入金の利払いが多く約 280 万元の赤字となるが、発酵残
渣の酵母を飼料として 622.7 元/t で販売し、発酵残渣バイオガスをバイオエタノールの生産と飼料製造
時に利用する石炭節約効果を含めた場合には 5,808 万元の便益が得られることがわかった。また、2 年
目以降は発酵飼料部門を含めずに利益を見込むことができる。
②共同研究によって得られた新しい科学技術面での知見があれば、どのようなものか、わかりやすく
記載してください。
・サブテーマ 1 持続的なバイオマス生産を可能とする環境資源管理システム開発
これまで多くの流域水循環モデルが開発されてきたが、それらの最大の欠陥は農業部門における河
川からの取水効果と地下水くみ上げ効果を含めることが出来なかった点にある。中国黄河流域において
13
は、上流域での黄河からの灌漑用水の取水により下流域での河川流量の極端な減少と、下流域では地
下水のくみ上げにより農業用水の確保を行っているため下流域での地下水位の急速な低下を再現する
ことが今までのモデル計算では困難であった。今回農業生産モデルの追加と地下水モデルに地下水く
み上げ効果を加えることにより、農業用灌漑用水の取水と地下水くみ上げ効果を含めた水循環の再現性
を検証できたことは科学技術における大きな成果と考えられる。
,農業生産における化学肥料の大量使用による人為活動が、水・熱と炭素(CO2)フラックス及び吸収
固定量に大きな影響を与えていることが定量的に分かったことは、今後の低炭素化社会に向けての科学
技術に大きな成果と考えられる。
・サブテーマ 2 バイオマス需給バランスがもたらす環境負荷推定モデル開発
本研究の成果として、バイオ燃料の国際貿易に関しても扱うことのできる多地域計算可能一般均衡
(CGE)モデルを開発した。このようなモデルとして、一般均衡モデルを構成する連立方程式を内生変数
の変化率で記述するソフトウェアである GEMPACK (General Equilibrium Modelling PACKage)を
用いた GTAP モデルをベースとしたものはいくつか開発されているが、GTAP モデルでは変数の水準を
直接扱うことが困難であったり、一般家計と政府の予算制約が分離しておらず政策分析において適用範
囲が限定されているきらいがある。これに対し、本研究で開発したバイオマス需給バランスモデルではより
汎用性の高い GAMS(General Algebraic Modeling System)ソフトウェアを用いているとともに、一般
家計と政府の予算制約の分離も行っており、政策影響評価を行ううえでより優れたツールを開発するベ
ースとして大きなポテンシャルを持っている。
・サブテーマ 3 環境資源の強化・補完・代替技術評価研究
本研究の成果の結果、糖蜜由来のバイオエタノールの生産技術に関連した水および窒素フローは主
に原料(サトウキビ)の生産に必要となるグリーンウォーター及び化学肥料投入により規定され、水は約 9
割が蒸発散、地下浸透という形で系外へと流出し、窒素は 65%がバイオマス原料(サトウキビ)へと吸収
され、製糖段階で 8 割がケーキやバガスとして系外へと出される構造にあることが得られた。さらに、今回
対象とした宮古島においては、将来的に水資源がバイオマス原料の制約条件となる可能性が高いとの
知見が得られた。
土壌、水資源等の環境資源が著しく劣化し、乾燥や気候などで作物生育条件が比較的厳しい土地に
おいても、生育可能な資源作物が存在し、これを飼料や土壌改良資材として資源循環させながらシステ
ム整備を進めることで、土壌・水資源等の環境資源が保全され、かつ農民の所得を向上させる可能性が
あることが明らかにされた。
③研究成果の発表状況
【ワークショップ、国際会議の開催】 3 件
14
・平成 20 年 3 月 25 日「バイオマス持続利用への環境管理技術開発 国際ワークショップ」を慶應
義塾大学丸の内シティキャンパスにて開催した。現在、世界各国でガソリン代替燃料として利用され
ている穀物由来のバイオ燃料は、温室効果ガスの排出抑制政策とされる一方で、水資源等の環境
資源の劣化、食料とエネルギーの競合問題、国際貿易を通じた穀物価格の高騰など多くの副次的
な問題が発生している。特に経済成長による化石燃料の消費量増加が著しい東アジア地域では、
こうした問題が顕著であり、日中韓の 3 カ国における環境資源管理の第一線で活躍する研究者を招
待し、平成 19 年度の研究成果の発表を通じて問題解決のための政策提言に向けて意見交換が行
われ、研究連携が強化された。劉 紀遠教授(中国科学院地理科学与資源研究所)、楊 永輝教授
(中国科学院遺伝値得る養育生物学研究所農業資源中心)、喬 世珊氏(中国水利部水資源管理
中心・副局長)、Sang In Kang グループ長 (Korean Environmental Institute)、Changhoon
Lee (Korean Environmental Institute)、Leejin Kim (Korean Environmental Institute) が
参加し、日本側研究者と平成 19 年度の研究成果と平成 20 年度の共同研究方針を議論した。この
中で研究成果のアウトカムの 1 つとして、開発された環境管理技術を温暖化適応策に活用していく
べく、アジアでの温暖化適応ネットワーク形成に向けて UNEP に対して提案を行い、その準備会合
を平成 20 年度末に開催することを決定した。
・平成 21 年 2 月 2 日・3 日「アジア環境危機情報システム検討ワークショップ」を慶應義塾大学三田
キ ャ ンパス 北館 大ホールに て 開催 した 。 Mr.Asadi (Chair of SBI-UNFCCC), Mr.Thiaw
(Director, Division of Environment Policy Implementation, UNEP), Dr.Youngwoo Park
(Director, Regional Office in Bangkok, UNEP)、各国連機関、中国、韓国、モンゴル、タイ、バ
ングラディッシュ、フィリピン、ネパール、インド、オーストラリア、等約 60 名が参加した。本研究で開
発しているバイオマス持続利用のための環境管理技術についての講演を行い、アジア諸国の人々
から環境管理技術の適応策への有効性について強い関心が寄せられた。この会議の成果として、
UNEP 適応ネットワークをまずアジア・太平洋において設立することが合意され、その準備会議の暫
定議長に慶應義塾大学の渡辺が選出された。
・平成 21 年 8 月 3 日・4 日「アジア環境危機情報システム検討ワークショップ 2009」を慶應義塾大
学丸の内シティキャンパスにて開催した。ここではUNEPアジア・太平洋適応ネットワークに参加予
定の Prof. Bojie Fu(Chinese Ecosystem Research Network CAS)、徐明 博士(中国科学院地
理科学与資源研究所)、Prof. Mozaharul Alam (Bangladesh Centre for Advanced Studies)、
Prof.Jean Palutikof (National Climate Change Adaptation Facility)、Dr. Seongwoo Jeon
(Korean Environmental Institute), Dr. Yong Ha Park (Korean Environmental Institute)、
Dr. Lanhai Li (中国科学院新疆地理生態科学研究所) 他約30名が参加しネットワーク形成に向
けての検討を行った。この結果平成 21 年 10 月バンコクにて UNEP アジア・太平洋適応ネットワー
クのキックオフ会議を開催することを決定すると共に、運営会議議長に慶応義塾大学の渡辺が正式
に就任した。
15
【研究成果発表等】(計 20 件)
原著論文 20 件
【主要雑誌への研究成果発表】(20 件)
サブテーマ
1
Sun,Z., Wang,Q., Matsushita,B., Fukushima,T., Ouyang, Z. and Watanabe, M. 2009:
Development of a Simple Remote Sensing EvapoTranspiration model (Sim-ReSET):
Algorithm and model test. Journal of Hydrology. 376(3-4):476-485. doi:10.1016/
j.jhydrol.,07.054.
Nakayama, T. and Watanabe, M., 2008, Role of flood storage ability of lakes in the
Changjiang River catchment, Global and Planetary Change, 63 , 9–22
Hayashi1, S., Murakami, S., Xu. K., Watanabe, M., and Hua, X., 2008, Daily Runoff
Simulation by an Integrated Catchment :Model in the Middle and Lower Regions of the
Changjiang Basin, China, J. of Hydrologic Eng., DOI: 10.1061/ASCE, 1084-0699, 13:9,
846.
Liu C.,Watanabe M.,Wang Q, 2008. Changes in nitrogen budgets and nitrogen use
efficiency in the agroecosystems of the Changjiang River basin between 1980 and 2000.
Nutr.Cycl.Agroecosyst.. 80(1):19-37, IF:1.116.
Hayashi1, S., Murakami, S., Xu. K., Watanabe, M. 2008, Effect of the Three Gorges Dam
Project on flood control in the Dongting Lake area, China, in a 1998-type flood, J. of
Hydro-environment Research, 2, 148-163.
Hasi, B., Wang, Q., Watanabe, M., Kameyama, S. and Bao, Y. 2008, Land-cover
Classification Using ASTER Multi-band Combinations Based on Wavelet Fusion and
SOM Neural Network, Photogrammetric Engineering and Remote Sensing, 74(3):
333-342.
Sun Z.,Wang Q., Matsushita B., Fukushima T.,Ouyang Z., Watanabe M. 2008. A new
method to define the VI-Ts diagram using subpixel vegetation and soil information: A
case study over a semiarid agricultural region in the North China Plain. Sensors.
8(10):6260-6279, IF: 1.573.
Sun, Z., Wang, Q., Ouyang, Z., Watanabe, M., Matsushita, B. and Fukushima, T. 2007,
Evaluation of MOD16 algorithm using MODIS and ground observational data in winter
wheat field in North China Plain Hydrol. Process. 21, 1196–1206.
Liu C., Wang, Q. and Watanabe, M. 2007. Nitrogen transported to three Gorges Dam from
agro-ecosystems during 1980–2000, Biogeochemistry, DOI 10.1007/s10533-006- 9042-6.
Nakayama, T., Watanabe, M., Tanji, K. and Morioka, T., 2007, Effect of underground
urban structures on eutrophic coastal environment, Science of the Total Environment,
16
サブテーマ 3
Xudong Chen, Yong Geng, Tsuyoshi Fujita, 2010 An Overview of Municipal Solid Waste
Management in China, Journal of Waste Management,vol.30,pp.716-724.
Tadanobu Nakayama, Ying Sun, Nguyen Cao Don, Tsuyoshi Fujita, Yong Geng ;
Simulation of water resource and its relation to urban activity in Dalian City, Northern
China, Global and Planetary Change (accepted 2010.03.25).
Yong Geng , Qinghua Zhu, Brent Doberstein , Tsuyoshi Fujita, 2009
Implementing
China’s Circular Economy Concept at the Regional Level: a review of progress in Dalian,
China, Journal of Waste Management, vol.29,pp996-1002, 02.
橋本禅,若林諒,孫穎,陳旭東,藤田壮,耿涌, 2009,中国大連市の一般廃棄物管理施策を対象とし
た循環経済社会シナリオの設計と評価,環境システム研究論文集,Vol.37,pp.301-310.
Yang Y. and Tian F., 2009, Abrupt change of runoff and its major driving factors in Haihe
River Catchment, China, J. Hydrology, 374, 373-383.
Yang Y., Zhao N., Hu Y. and Zhou X. 2009. Effect of wind speed on sunshine hours in three
cities in northern China, Climate Research, 39, 149-157.
Looi-Fang Wong, Tsuyoshi Fujita, Kaiquin Xu, 2008. Evaluation of regional bio-energy
recovery by local methane fermentation thermal recycling systems, Journal of Waste
Management,vol.28, pp.2259-2270, 11.
Yong Geng, Pang Zhang, Raymond P. Cote, Tsuyoshi Fujita, 2008, Assessment of the
National Eco-industrial Park Standards for Promoting Industrial Symbiosis in China,
Journal of Industrial Ecology, Vol.13, No.1, pp.15-26, 11.
村野昭人,藤田壮,長澤恵美里, 2007, WebGIS データベースを用いた循環施設を中核とする地
域循環支援システムの提案,環境システム研究論文集,Vol.35,pp101-108, 10.
Yong Geng , Raymond Cote, Fujita Tsuyoshi, 2007. A quantitative water resource
planning and management model for an industrial park level, Journal of Regional
Environmental Change, Springer, Volume 7, Number 3 ,pp123-135, 09.
【学会などでの発表実績】 (20 件)
③ 科学的・技術的波及効果
・サブテーマ 1
本件究により、河川・土壌・地下水・土地利用変化を通じての水循環・熱循環を考慮すると共に、農業
生産の推計および農業部門における河川からの取水効果と地下水くみ上げ効果を含めることが可能な
モデルを開発した。これにより黄河上流域での河川からの灌漑用水の取水による下流域での河川流量
の極端な減少と、下流域での農業用水の地下水のくみ上げによる地下水位の急速な低下を再現するこ
とが可能となった。さらに中国全土における河川流量、地下水位、蒸発散、等水循環の再現性を検証す
17
るとともに、農業生産量の推定も可能となった。さらに農業部門のみならず産業部門、生活部門での水資
源量推計もサブテーマ 2 で可能となっていることから、中国における今後の経済成長に伴って発生する
水資源脆弱性評価が可能となり、さらに気候変動に伴う水資源脆弱性とそれに対する適応策の検討が
可能となった。このことは今後予想される気候変動への科学的な影響評価の精度向上と、被害防止又は
適応のための政策・技術選択を効果的に行うことが可能となり、その科学的・技術的波及効果は非常に
大きい。
・サブテーマ 2
本研究の成果として、バイオ燃料の国際貿易に関しても扱うことのできる多地域計算可能一般均衡
(CGE)モデルを採用したバイオマス需給バランスモデルを、同様の既存研究で多く用いられている
GEMPACK (General Equilibrium Modelling PACKage)ソフトウェアではなく、より汎用性の高い
GAMS(General Algebraic Modeling System)ソフトウェアを用いて開発した。さらに、本研究で開発
したバイオマス需給バランスモデルでは一般家計と政府の予算制約の分離も行っており、政策影響評価
を行ううえでより優れたツールを開発するベースとして、大きな科学的・技術的波及効果が期待される。
・サブテーマ 3
本研究の結果、バイオエタノールの原料となるバイオマスの生産と、生産に伴い発生する高濃度廃水
の農地還元プロセスを内包したカーボンフットプリントの基礎的な評価システムを構築することができた。
これらのモデルは糖蜜ベースとするものであるが、糖化プロセスを組み込むことにより、セルロース系のバ
イオエタノール技術の評価にも展開することも可能である。また、本研究成果により、バイオマス生産に伴
う地下水汚染の防止の観点から、新たな農業技術(適正な施肥手法の確立、地下流出しにくい肥料、窒
素吸収率の高い品種への改良、水耕栽培の導入など)の開発および適応の重要性が示された。
(2)国内外の各参画機関の共同研究体制
①研究資源の提供や研究実施における役割について、国内機関と海外機関に分けて記載してくだ
さい。
環境資源管理システム開発にあたっては、国内機関としては慶応大学が研究の実施主体となり、海外
機関として中国科学院地理与資源研究所および中国科学院遺伝学与生育生態研究所農業資源中心
がバイオマス資源と土地資源や食料安全保障との関連についての 3 つのプロジェクトを独自に確保し研
究推進を行った。中国科学院はイーコールパートナーシップに基づき研究実施を行い、本プロジェクトに
関連する部分について研究成果として貢献・提供した。
バイオマス需給バランスモデルの開発にあたっては、国内機関として地球環境戦略研究機関が研究
の実施主体となり、海外機関として韓国環境政策評価院が韓国におけるバイオ燃料の需給バランスに関
する情報収集および予備的環境影響評価を実施した。韓国環境政策評価院はイーコールパートナーシ
ップに基づき独自予算により研究資源を提供したため、実施上は地球環境戦略研究機関のリクエストに
基づき、韓国環境政策評価院の独自研究プロジェクトの中で本研究に関連の深い部分を研究成果とし
18
て、平成 20 年 3 月 25 日「バイオマス持続利用への環境管理技術開発 国際ワークショップ」において発
表した。
②研究全体会議(運営委員会)等を開催した場合は、会議(委員会)メンバー・出席者及び開催実
績(時期・議題・会議の成果等)を記載してください。
・平成 20 年 3 月 25 日「バイオマス持続利用への環境管理技術開発 国際ワークショップ」を慶應
義塾大学丸の内シティキャンパスにて開催した。ガソリン代替燃料として利用されている穀物由来の
バイオ燃料は、温室効果ガスの排出抑制政策とされる一方で、水資源等の環境資源の劣化、食料
とエネルギーの競合問題、国際貿易を通じた穀物価格の高騰など多くの副次的な問題が発生して
いる。日中韓の 3 カ国における環境資源管理の第一線で活躍する研究者を招待し、平成 19 年度の
研究成果の発表を通じて問題解決のための政策提言に向けて意見交換が行われ、研究連携が強
化された。劉 紀遠教授(中国科学院地理科学与資源研究所)、楊 永輝教授(中国科学院遺伝値
得る養育生物学研究所農業資源中心)、喬 世珊氏(中国水利部水資源管理中心・副局長)、Sang
In Kang グ ル ー プ 長 (Korean Environmental Institute) 、 Changhoon Lee (Korean
Environmental Institute)、Leejin Kim (Korean Environmental Institute) が参加し、日本
側研究者と平成 19 年度の研究成果と平成 20 年度の共同研究方針を議論した。また環境管理技術
を温暖化適応策に活用していくべく、アジアでの温暖化適応ネットワーク形成に向けて UNEP に対
して提案を行い、その準備会合を平成 20 年度末に開催することを決定した。
・平成 21 年 2 月 2 日・3 日「アジア環境危機情報システム検討ワークショップ」を慶應義塾大学三田
キャンパス 北館大ホールに て開催した。Prof. Anand Patwardhan (Indian Institute of
Technology), Prof. Bojie Fu (Chinese Ecosystem Research Network CAS),劉 紀遠教授(中
国科学院地理科学与資源研究所), 張 継群 氏 (中国水利部水資源管理中心・所長),陳 曦氏
(中国科学院新疆地理生態科学研究所・所長), Prof. Chuluun Tgtohyn (モンゴル国立大学),
Valentina Kyukova(カザフスタン・Climate Change Coordination), Lee Ming Ho (韓国・
Ministry of Environment), UNFCCC, UNEP, UNDP)、等各国連機関、中国、韓国、モンゴル、
タイ、バングラディッシュ、フィリピン、ネパール、インド、オーストラリア、など約 60 名が参加した。本
研究で開発しているバイオマス持続利用のための環境管理技術についての講演を行い、アジア諸
国の人々から環境管理技術の適応策への有効性について強い関心が寄せられた。この会議の成
果として、UNEP適応ネットワークをまずアジア・太平洋において設立することが合意された。
・平成 21 年 8 月 3 日・4 日「アジア環境危機情報システム検討ワークショップ 2009」を慶應義塾大
学 丸 の 内 シ テ ィ キ ャ ン パ ス に て 開 催 し た 。 Prof. Bojie Fu (Chinese Ecosystem Research
Network CAS)、徐明 博士(中国科学院地理科学与資源研究所)、Prof. Mozaharul Alam
(Bangladesh Centre for Advanced Studies) 、 Prof.Jean Palutikof (National Climate
Change Adaptation Facility)、Dr. Seongwoo Jeon (Korean Environmental Institute), Dr.
Yong Ha Park (Korean Environmental Institute)、Dr. Lanhai Li (中国科学院新疆地理生
19
態科学研究所) 他約 30 名が参加しネットワーク形成に向けての検討を行った。この結果平成 21
年 10 月バンコクにてUNEPアジア・太平洋適応ネットワークのキックオフ会議を開催することを決定
した。
③実施期間中の各参画機関の組織としての関与(支援)について記載してください。
慶応大学 SFC 研究所は研究実施における事務手続き、シンポジューム開催における招聘手続きや事
務的支援、JST との会計・契約手続き等組織的な支援を行った。地球環境戦略研究機関(IGES)、国立
環境研究所は国レベルの国際的ネットワークとの連携活用に対する積極的な支援を行った。中国科学
院および韓国環境政策評価院はバイオマスに関わる国レベルの政策についての情報提供および科学
的データ取得等に多大な支援を行った。
④今後期待される国際連携への政策的波及効果を記載してください。
本研究により開発されたバイオマス持続利用への環境管理技術は、生態系の環境管理により持続可
能な社会を実現することを目指したものであり、今後の地球温暖化に伴う気候変動に対して最も脆弱な
アジアの中で、特に水資源における脆弱性を克服するための環境管理技術として大変有効であり、気候
変動適応策として大きなインパクトをもたらした。
UNEP では、適応策の立案・実施に役立つデータ・情報、優良事例等を提供することにより、途上国
の適応策を支援する「適応の知識ネットワーク」の設立を推進している。アジア太平洋地域では、2009 年
10 月 3 日、バンコクにおいて、タイ首相臨席の下でアジア太平洋適応ネットワーク(Asia Pacific
Adaptation Network : APAN)の立ち上げ式が開催され、正式にスタートした。
課題代表者(慶應義塾大学)が APAN の議長に就任し、本研究の共同研究体制を構成している中国
科学院地理与資源研究所、国立環境研究所、財団法人地球環境戦略機関、韓国環境研究所(KEI)が
APAN に参加している。また中国科学院と韓国環境研究所(KEI)はともに APAN の運営委員会にメンバ
ーとして参加している。
アジア太平洋地域に続きラテンアメリカ・カリブ地域でもネットワークが発足し、アフリカ地域、西アジア
地域においても、それぞれ地域適応ネットワークの立ち上げが検討されている。これらの地域レベルの動
きを踏まえ、コペンハーゲンでの COP15 において世界適応ネットワークの立ち上げが検討され、世界適
応ネットワークの共同議長には日本環境省小沢大臣が就任することが内定した。
本研究により開発された環境管理技術は、これら世界適応ネットワークを通じて、全世界にその成果が
発信されることになる。特にアジア・太平洋地域において日本のイニシアティブに基づき共同研究体制が
構築されたことにより、今後のアジア・太平洋地域における国際連携への政策的波及効果は非常に大き
い。
⑤今後期待される社会経済の活性化効果を記載してください。
本研究により開発されたバイオマス持続利用への環境管理技術は、APAN を通じてアジア諸国に具
体的な適応策として、国・地域レベルでの開発計画に主流化(Mainstreaming)される。従来の日本の
20
経済成長戦略は、ともすればアジア各国のニーズに必ずしも基づかないケースが多かった。しかしこの
APAN を通じて国・地域レベルでのニーズを踏まえて国レベルの開発計画に組み込む形で環境管理技
術が適用されていくことから、日本およびアジア諸国にとって社会経済の活性化に大きな影響を与えるこ
とが期待されている。
3.計画・手法(「Ⅱ.経費」とも関連)
①研究項目毎に適切な予算配分、執行がなされたか記載してください。
環境資源管理システム開発、バイオマス需給バランスモデルの開発および環境資源の強化・補完・代
替技術評価研究にあたっては、それぞれ当初予算計画に沿った形で適切な予算執行がなされた。
②研究目標達成のために取られた手法は適切なものであったか記載してください。
これまでに開発してきた統合型流域モデルを農地に適用可能なように拡張を行うとともに、従来の手法
では一般的な灌漑量に関する詳細な統計データを必要としない新たな手法の開発を行い、環境資源管
理システムを構築した。このモデルは土壌水分と熱フラックスを再現する SiB2 モデル、三次元の地下水
のフローを表現する USGS MODFLOW モデル、および分布型の水理モデルを結合したモデルである。
環境資源管理システムは短期予測だけでなく、長期的な河川流出現象をも再現することが可能となって
いる。
さらに、ICASA(International Consortium for Agricultural System Application)で開発された
DSSAT モデルの中の、食料生産のプロセス等を追加して開発を行った。開発に当たっては衛星情報
(国立環境研究所で蓄積した MODIS 衛星データ)から得られる土地利用データ・植生データ・土壌条
件・気象データ等の地理情報データを(モデルの初期状態や計算過程での制約などを決める)境界条件
として用いている。モデルにより得られる河川流量・地下水位・蒸発散量等の予測結果を水循環観測デ
ータと比較検証を行い、その再現性についての確認を行った。入手可能な限りのデータを用いているが、
場所によっては地域性が強くモデルで表現できない部分も存在する。しかし検証された計算結果は概ね
良く再現性を示しており、取られた手法は適切なものであったと判断している。
バイオマス需給バランスモデルの開発にあたっては、当初は GTAP モデルを改良することでモデル開
発をする計画であったが、研究の進捗につれてより汎用性の高いソフトウェアを用いたモデル開発の必
要性が判明した。これに対し当初計画に拘らずに新たにモデルを開発することで目標を達成しており、
目標達成のために適切な手法がとられている。
21
4.実施期間終了後における取組の継続性・発展性
①実施期間終了後、課題実施により培われた研究及びネットワークを継続する体制や仕組みに対す
る工夫について記載してください。
UNEP アジア太平洋適応ネットワーク(Asia Pacific Adaptation Network : APAN)が 2009 年 10
月に正式にスタートした。課題代表者(慶應義塾大学)が APAN の議長に就任し、本研究の共同研究体
制を構成している中国科学院地理与資源研究所、国立環境研究所、財団法人地球環境戦略機関、韓
国環境研究所(KEI)が APAN に参加している。また中国科学院と韓国環境研究所(KEI)はともに
APAN の運営委員会にメンバーとして参加している。このことにより本課題の実施により培われた研究及
びネットワークが継続される体制が確立していると考えている。
②これまでの研究成果を発展させる明確な研究・交流のビジョンがあれば記載してください。
上記 APAN を通じてさらに研究成果を発展させることが可能であり、研究・交流を深めていくことを予
定している。
22
5.成果の詳細
・サブテーマ 1 持続的なバイオマス生産を可能とする環境資源管理システム開発
① 統合型環境資源管理モデルの開発(慶応大学 渡辺正孝、国立環境研究所 中山忠暢、中国
科学院地理科学与資源研究所 劉昌明)
1. バイオマス生産の持続性を評価する水・熱・物質環境モデルの開発と環境資源の定量評価
環境資源腑存量の現況を再現するため、環境資源管理システムのサブシステムとして、水資源への影
響に脆弱である東アジアの代表的な地域における気候変動下での水資源量を予測し、農業生産量を定
量化可能とする環境資源管理モデルの開発を行う。なお、このモデルは、これまでに開発してきた統合
型流域モデル
1-6) に土壌・気候条件を基に農作物生産管理を計算するコンピュータープログラム
DSSAT(Decision Support System for Agrotechnology Transfer)モデル中の、小麦、トウモロコシ生
産のプロセス等を追加して開発を行った。開発に当たっては衛星情報(国立環境研究所で蓄積した
MODIS(Moderate Resolution Imaging Spectroradiometer)データ)から得られる土地利用データ・
植生データ・土壌条件・気象データ等の地理情報データを(モデルの初期状態や計算過程での制約な
どを決める)境界条件として用い、またモデルにより得られる河川流量・地下水位・蒸発散量等の予測結
果を水循環データと比較検証を行った。
(1) 陸域モデル構造
本研究では、これまでに開発してきた統合型流域モデル を農地に適用可能なように拡張を行うととも
に、従来の手法では一般的な灌漑量に関する詳細な統計データを必要としない新たな手法の開発を行
い、環境資源管理モデルを構築した。このモデルは土壌水分と熱フラックスを再現する SiB2 、三次元
の地下水の流れを表現する USGS MODFLOW モデル、および分布型の河川水理モデルを結合した
モデルである。各タイムステップにおいて土壌水分モデルと地下水流動モデルを統合するために、浸透
層と地下水層の水のフラックス(入出力)を計算し、さらに河川流と地下水流の間で移動する有効降雨量
と浸出量を考慮している。このことから環境資源管理モデルは短期予測だけでなく、浸透の機構を含む
長期的な河川流出現象をも再現することが可能となっている。
1) 土壌水分モデル
土壌中の水・熱の移動過程を記述する SiB2 モデルは、キャノピー層(キャノピーと地表面)を二つの層
に区分しており、さらに土壌層を鉛直方向一次元の 3 層(上層、中間層、下層)に区分されている。SiB2
の支配方程式は、予測変数である温度、中間貯留、土壌水分貯留、水蒸気へのキャノピーコンダクタン
スから構成されている。
【キャノピー、地表面、深層土壌温度】
23
Cc
Cg
Cd
∂Tc
= Rn c − H c − λE c − ξ cs
∂t
∂Tg
∂t
= Rn g − H g − λE g −
(1)
2πC d
τd
(Tg − Td ) − ξ gs
(2)
∂Td
1
=
( Rn g − H g − λE g )
∂t
2 365π
(3)
c はキャノピー、g は地表面、d は土壌層を表現している。Tc、Tg、Td(K)はキャノピー、地表面、土壌
層の温度であり、Rnc、Rng(W/m2 はキャノピーと地表面の放射線吸収量である。Hc 、Hg (W/m2) は顕
熱フラックスであり、Ec and Eg (kg /m2 /s) は蒸発散比率である。 Cc、 Cg and Cd (J /m2 /K) は熱容
量であり、λ (J /kg) is 蒸発熱、 τd (s) は日照時間、 ξcs and ξgs (W/m2) は Mc、Mg における相変化
のためのエネルギー移動を表現している。
【中間貯留】
∂M c
= P − Dd − Dc − E ci / ρ w
∂t
∂M g
∂t
(4)
= Dd + Dc − E gi / ρ w
(5)
ここで、 Mc、Mg(m) はキャノピー、地表面に貯留された水又は積雪量であり、P(m/s) は降水量、
Dd(m/s) はキャノピーの浸透速度であり、Dc はキャノピーの排水速度、Eci と Egi (kg / m2 /s) はキャノ
ピーと地表面の遮断損失、 ρw (kg/m3) は水の密度である。
【土壌水分貯留】
∂W1
1
1
=
[ Pw1 − Q1, 2 −
E gs ]
∂t
θ s D1
ρw
(6)
∂W2
1
1
=
[Q1, 2 − Q2,3 −
Ect ]
∂t
θ s D2
ρw
(7)
∂W3
1
=
[Q2,3 − Q3 ]
∂t
θ s D3
(8)
ここで、Wi が第 i 層(=θi/θs) の土壌水分率、 θi (m3/m3) は第 i 層の容積土壌水分量、 θs (m3/m3) は
飽和土壌水分量、 Di (m) は土壌層の厚さ、 Qi,j (m/s)i 層と j 層の土壌水分のフロー、 Q3 (m/s) は涵
24
養性土壌からの自然排水、 Ect (kg /m2 /s) はキャノピーからの蒸発散量、Egs (kg /m2 /s) は、地表面
からの蒸発散量、 Pw1 (m/s) は土壌層の降雨浸透量である。
【水蒸気へのキャノピーコンダクタンス】
∂g c
= − k g ( g c − g c ,inf )
∂t
(9)
ここで、gc (m/s) はキャノピーコンダクタンスで、 kg (1/s) は時定数であり、 gc,inf (m/s) は、 gc を t→
∞にした際の推定値である。上記の方程式に加えて SiB2 モデルは放射伝達過程、空力抗力、乱流過
程、キャノピーの光合成等を含んでいる。
2) 地下水流動モデル
地下水の挙動を表現する三次元の編微分方程式は(10)式で表現される。
∂h
∂ 
 K xx g
∂x 
∂x
∂h
 ∂ 
 +  K yy g
∂y
 ∂y 
∂h
 ∂ 
 +  K zz g
∂z
 ∂z 
∂h

 + W = S s g
∂t

(10)
ここで、 Kxx、 Kyy、 Kzz (m/s) は、各座標軸に沿った透水係数である。hg (m) は電位差であり、 W
(1/s) は、水のソース、シンクを表現する単位量あたりのフラックスであり、Ss (1/m) は比貯留係数を代表
している。(10)で記述した方程式は二つのセルの間の変数が線形的に変化する推定方法に基づいて離
散化されている。
(
)
(
CRi , j − 1 ,k him, j −1,k − him, j ,k + CRi , j + 1 ,k him, j +1,k − him, j ,k
2
(
(h
)
) + CV
2
(
(h
)
+ CC i , j − 1 ,k him, j −1,k − him, j ,k + CC i , j + 1 ,k him, j +1,k − him, j , k
2
+ CVi , j − 1 ,k
2
+ Pi , j ,k h
m
i , j ,k
m
i , j −1, k
− him, j ,k
2
i , j + 12 , k
m
i , j +1, k
− him, j ,k
)
)
+ Qi , j ,k = SS i , j ,k (DELR j × DELCi × THICK i , j , k )
him, j ,k − him, j−,1k
t m − t m −1
(11)
m
ここで、 hi , j , k はセル i,j,k でタイムステップ m における水頭であり、CV、CR、CC は、水平方向、側
面、鉛直方向におけるノード i,j,k と近傍のノード間の流体コンダクタンス、と branch conductance であ
る。Pi,j,k はソースとシンクからの係数の合計値、Qi,j,k はソースからシンクまでの定数の合計であり、Qi,j,k
< 0.0 の時は地下水流から流れ出し、Qi,j,k
>0.0 の際は流入する。DELRj は全ての行の j 列の幅であ
り、DELCi は j 行の全ての列の幅である。THICKi,j,k は、セル ijk 鉛直方向の暑さである。tm は、タイム
25
ステップ m における時間を表現している。定常状態において、(11)式の右辺は、蓄積量とも言われ、ゼロ
になる。コンピューターシミュレーションの際には、(11)式は以下の式に修正される。
CVi , j ,k − 1 hi , j ,k −1 + CC i − 1 , j ,k hi −1, j ,k + CRi , j − 1 ,k hi , j −1,k
(
2
2
)
2
+ − CVi , j ,k − 1 − CC i − 1 , j ,k − CRi , j − 1 ,k − CRi , j + 1 ,k − CC i + 1 , j ,k HCOFi , j ,k hi , j ,k
2
2
2
2
2
+ CRi , j + 1 ,k hi , j +1,k + CC i + 1 , j ,k hi , j +1,k + CVi , j ,k + 1 hi , j ,k +1 = RHS i , j ,k
2
2
2
(12)
(12)式において、時間の添え字(m)は単純に削除される。HCOFi,j,k は Pi,j,k と蓄積量を表現する項の
マイナス項を含む。それは、現在のタイムステップ m(左辺への移項から導出されるマイナス項)における
水頭を含んでいる。RHS は–Q(右辺への Q の移項によるマイナス項)とタイムステップ(m-1)における
水頭によって計算される蓄積項を含んでいる。セル i,j,k and i,j+1,k 間の水平方向のコンダクタンスは
当量コンダクタンスを用いて以下のようにあらわされる。
1
CRi , j + 1 , k
=
1
1
+
TRi , j , k DELC i TRi , j +1,k DELC i
1 DELR j
1 DELR j +1
2
2
( )
2
( )
(13)
TRi,j,k はセル i,j,k における行方向の浸透率、DELRj は j 列におけるグリッドの幅、DELCi は i 行に
おけるグリッドの幅を表現している。準三次元アプローチでは、半閉鎖的なユニットは水平方向のコンダク
タンス、モデルの各層の蓄積要領に対して顕著な影響を与えない。半閉鎖ユニットの唯一の影響は、モ
デルセル間の鉛直方向のフローに制限されている。これらの推定化で、半閉鎖ユニットの影響は異なっ
たグリッドの離れたレイヤについては除外して計算を行うことができる。上方滞水層の下半分、半閉鎖的
ユニット、下方滞水層の上半分の三つの間隔が、ノード間のコンダクタンスの合計値として表現されてい
るので、鉛直方向のコンダクタンスは次の式で表現される。
1
CVi , j ,k + 1
2
=
1
1
1
+
+
DELR j DELCiVK i , j ,k
DELR j DELCiVKCBi , j ,k
DELR j DELCiVK i , j , k +1
1 THICK i , j ,k
1 THICK i , j ,k +1
THICK CB
2
2
(14)
( )
( )
VKi,j,k はセル i,j,k の鉛直方向の透水係数、VKCBi,j,k はセル i,j,k と i,j,k+1 間の半閉鎖ユニットの
透水係数、THICKCB は半閉鎖ユニットの厚さである。
今回透水係数は 標準値=0.5m/s
Kh:水平透水係数=標準値
(領域全体でほぼ一様)
x Hk
26
Kv:鉛直透水係数=Kh x VANI
ここで Hk=1.0、VANI=1.0
を用いた。
3) 表面流出モデル
表面流出モデルはキネマティクウエーブ法とダイナミックウエーブ法にキネマティックウエーブモデルと
分布型モデルに基づく斜面流出モデルから構成されている。斜面流出モデルは、水・熱収支モデルと表
面流出モデルから構成されている。分布型の表面流出を解析するためのキネマティックウエーブモデル
は以下の式で表現される。
∂ha
1 ∂
+
{q b( x)} = r ( x, t ) cosθ ( x)
∂t
b( x) ∂x
q=
k sin θ ( x)
γ
q=
(15)
ha , ( 0 < ha < d )
,
sin θ ( x )
k sin θ ( x )
( ha − d ) m +
h a , ( ha ≥ d )
n
γ
(16)
ここで、q (m2/s) は単位幅あたりの流出量、r(x,t) (m/s) は、x 地点、t 時における有効降雨量、b(x)
(m) は流束の幅、θ(x) は、川床の傾斜、k (m/s) は地表面近くの深さ D(m)の A 層での透水係数、n
(m-s) はマニング係数であり、m=5/3 である。H(m) が A 層の降雨の深さとして定義されるとき、ha (m)
は見かけ上の水深(= γH)であり、γはΑ層の空隙率であり、d = γD となる。真の水深は ha/γとして与えられ
ha < d and by d/γ + ha – d for ha > d.となる。一次元の非定常流における基本式は(17)式、(18)式で示
される河道ネットワークによって表現される。
∂A ∂Q
+
= ql
∂t
∂x
(17)
∂h
∂Q ∂  Q 2 

 + gA r + gA(I f − i ) = 0
+
∂t ∂x  A 
∂x
(18)
ここで、A (m2) は河道断面積であり、Q (m3/s) は流出量、ql (m2/s) は斜面流モデルによって河道沿
いに計算される側面からの流入量、hr (m) は河川の深さ、g (m/s2) は重力加速度、If は摩擦勾配であ
り、i は底勾配を表現している。
(18)式における左辺の第一項は局部加速度であり、第二項は移流加速度、第三項は圧力であり、大
四項は摩擦推力、第五項は重力単位を表現している。局部加速度と移流加速度は流に対する慣性力の
27
影響を表現している。分布型モデルは(18)式のいくつかの項を除外した連続方程式で形成される。もっ
とも単純な分布型モデルはキネマティックウエーブモデルであり、それは局部加速度、対流加速度、圧力
項を考慮していない。それは、If = i であり摩擦推力と重力が平衡状態にあることを意味している。拡散波
モデルは局部加速度、対流加速度を考慮していないが、圧力項をとりこんでいる。ダイナミックウエーブ
モデルは(18)式においてすべての加速度と圧力項を含んでいる。(17)式と(18)式は以下の(19)式、(20)
式で表現される非線形連立方程式に従う Preissmann の陰解放を用いて離散化されている。
{
}
{
}
1
1
( Ain++11 + Ain+1 ) − ( Ain+1 + Ain ) +
θ (Qin++11 − Qin+1 ) + (1 − θ ) (Qin+1 − Qin )
2∆t
∆x
−
{
}
1
θq n +1 + (1 − θ )q n = 0
∆x
{
(19)
}
1
(Qin++11 + Qin +1 ) − (Qin+1 + Qin )
2∆t
n +1
n +1
n
 Q 2  n
 Q 2  
 Q 2  
1   Q 2 

  + (1 − θ ) 
 − 
 
+
θ   − 
∆x   A  i +1  A  i 
A
A

 i +1 
 i 

 
+
g
{
θ ( Ain++11 + Ain +1 ) + (1 − θ ) ( Ain+1 + Ain )}
2
{
}
{
}
1
1

n +1
n +1
n
n
n +1
n +1
n
n
 ∆x θ (hi +1 − hi ) + (1 − θ ) (hi +1 − hi ) + 2 θ ( I f ,i +1 + I f ,i ) + (1 − θ ) ( I f ,i +1 + I f ,i ) − i  = 0


(20)
ここで、添え字 n はタイムステップ、i はシミュレーションセクションの数、θは重み付け係数(0.5< θ<1.0)
を表現している。(19)式と(20)式がシミュレーションセクション N であり単一の水路に適用される場合、2N
‐2 の方程式は非線形連立方程式で構成され、未知変数は t=(n+1)∆t で、2N 回における流出量と水
深(i=0,1,…,N-1) となる。
単一流における(∆Q0、 ∆h0、 ∆QN-1、 ∆hN-1)未知変数のための二つの方程式は、近似計算と未知
変数の除外を繰り返すテイラー展開によって作られる。それは、各グリッドの水路のマージと分離により流
出量と水深を求めるための継続的な状況を続けるからである、連立方程式は、各グリッドにおける河川路
とグリッドの境界間の交差するポイントでの未知変数だけで構成されている。流域全体での流出量と水深
を求める未知変数の連立方程式は、Gauss 法を用いることで最上流と最下流の末端の境界条件と各グリ
ッドの条件で解かれる。上述した方法は収束計算と近似計算を行うニュートンラプソン法によって、変数
(∆Qi、∆hi) が十分小さくなるまで繰り返される。このようにして、各地点における流出量と水深が与えられ
る。
4) 各モデルの統合
28
標高による傾斜または浸潤前線が十分に小さな地域では、動水勾配線はおおむね鉛直方向に対して
下向きである。そのため、不飽和層の流れは一次元の鉛直方向で推定される。(6)、(7)、(8)式をもとに隣
接した土壌層間の移動は以下のように与えられる。
 ψ − ψ i +1

Qi ,i +1 = K 2 i
+ 1 ,
 Di + Di +1

K=
for i = 1, 2
(21)
Di K i + Di +1 K i +1
Di + Di +1
(22)
ここで、Qi,i+1 (m/s) は土壌層 j から j+1 への下層方向への流れであり、Ki (m/s) は各層間の透水係
数、 K (m/s) は各層間の有効透水係数、 ψi はマトリックポテンシャル、Ks (m/s) は飽和状態における
透水係数、ψs (m) は飽和土壌水分量、B は実験定数である。不飽和流と飽和流を統合するために、水
流 qf は最下層のフローと地下水位間の水理ポテンシャルの勾配で表現され、SiB2 モデルで(23)式で表
現される


Ψg − Ψ3


ψ3
∆Ψ
q f = − K ∇Ψ = − K
= −K
= K
+ 1
D3
∆z
 D3 + ( D g −h g ) 
+ ( D g −h g )
2
 2

(23)
こ こ で 、 K (m/s) は 飽 和 層 と 不 法 和 層 間 の 有 効 透 水 係 数 で あ り 、 Ψg (= hg) と Ψ3 (=
ψ 3 +Dg+D3/2) (m) は地下水流と下方の不飽和層の水流間での水理ポテンシャルであり、Dg (m) は上
方の第 2 層と低層の第 20 層の間の距離、hg (m) は地下水モデルで計算される水頭である。地下水位
が上昇し土壌水分層に達したときは、分圧は土壌水分を計算するために不飽和層(Ψ3 =ψ p ) の底部に
決定される。
水流 qf が各タイムステップで計算された後に、各不飽和層間の水流である Qi,j は、(6)式から(8)式で
土壌水分θi を求めるために陰解法を用いて(21)式、(22)式で計算される。さらに、この水流は上方の境
界条件としてセルに涵養量の形で入力され地下水流になる。
(15)式における表面流モデルの有効降雨量 r の扱いのために、有効降水量は降水 P (m/s)、土壌水
分への浸透率 Pw1 (m/s)、蒸発散量(Ec+Eg) (kg /m2 /s) で計算され、以下の式で与えられる。
r = P − Pw1 −
1
ρw
( Ec + E g )
(24)
土壌水分量θI が飽和水分量θs よりも大きな値をとるとき、各値の超過分は表面流として戻され(24)式
の右辺に加えられる。河川と地下水の収支は各セルの河川と地下水位間の流速の深さの関係で決定さ
29
れる。それらの量の決定は Darcy’s Law による。
Qs = k b Ab , (h g ≤ H b ),
Qs = k b
hg − H b
bb
Ab , (hg > H b )
(25)
ここで、Qs (m3/s) は河川と地下水の収支量であり、kb (m/s) は河床の浸透係数、Ab (m2) は地下水
部の断面積、bb (m) は河床の厚さ、hg (m) は地下水の水頭、Hb は河川の水理ポテンシャルを表現し
ている。最流入時(hg < Hb) においても流量は河川流量の合計を超えない。地下水流の計算において
収束法がなされた際に、分布型流出モデルでの河川流の深さが修正される。
このようにして、地下から地表面までの様々なモデルが流束を考慮して連結され、地下水位と土壌水
分が、気象データ、植生分類、土壌の物性値を用いて計算される。統合型流域モデルでは(24)式に示さ
れるように各タイムステップごとに浸透フラックスの変化が計算されるので、以前の流域モデルで見られた
有効降水量の不明確が回避される。さらに、表面流モデルと分布型表面流出モデル、地下水モデルを
統合することで、(24)式と(25)式で表現されるように浸出過程と流出過程を含むことから河川流出の短期
/長期の両方が正しく計算される。
5) 統合型流域モデルと農業生産モデル(DSSAT)モデルの結合
DSSAT モ デ ル を 基 に ICASA ( International Consortium for Agricultural System
Application)が開発した DSSAT3.5 の中の DSSAT-wheat、 DSSAT-maize モデルを統合型流域モ
デルに組み込んだ。地下水汲み上げ量と作物生産量は互いに密接に関連しているとともに生育時期と
作物の種類によっても大きく異なるため、統合型流域モデルと DSSAT の結合を行った。不飽和層の最
下端から地下水層への排水量 Q3 (m/s) は下記のように与えられる。

θ DW 
2B +3
Q3 = fice sin Θ S K SW3
+ 0.001 S 3 3 
τd 

,
(26)
ここで、Θs は局所的な傾斜角、KS (m/s) は飽和透水係数、B は経験定数、W3 (=θ3/θS) は不飽和層
の最下端での土壌水分量、θ3 (m3/m3) は最下端での体積含水率、θS (m3/m3) は飽和含水量、D3 (m)
は飽和層の最下層厚、τd (s) (= 86 400) は日長さ、fice は土壌凍結時における透水係数の減衰率、であ
る。式(26)の右辺第 1 項は重力排水項、第 2 項は流域の土壌水分量場の非等方性による基定流量成分
である。
統合型流域モデルでは自然地での不飽和層の最下層と地下水層間の水フラックス qf (m/s) は両層
30
間での水理ポテンシャルの勾配によって表現される 1-1)。


Ψg − Ψ3
∆Ψ
ψ
3
q f = − K ∇Ψ = − K
= −K
= K
+ 1
 D3

D3 + ( D −h )
∆z
+ ( Dg − h g ) 
g
g

2
2
,
(27)
ここで、 K (m/s) は不飽和層と地下水層間での有効透水係数、Ψg (= hg) (m) とΨ3 (= ψ3 + Dg +
D3/2) (m) は地下水面及び不飽和層の最下層での水理ポテンシャル、z (m) は鉛直方向への距離、Dg
(m) は地下水層の第 2 層の上端と第 20 層の下端間の距離、hg (m) はモデルによって計算される水理
水頭である。各時間ステップごとに、水フラックス qf が計算された後で各層での土壌水分量が improved
backward-implicit によって計算されるとともに、地下水層へ涵養として与えられる。
本研究では、農地での地下水層への涵養量について、作物に使用される分を差し引いた余剰水 AW
(m/s) とみなし、下記のように与えた。


1
AW =min Q3 ,Pw1 −
ETact 
ρw

,
(28)
ここで、Q3 (m/s) は式(26)によって計算される排水量、ETact (kg/m2/s) は本結合モデルによって
計算される各作物ごとの実蒸発散量、Pw1 (m/s) は有効降水量、ρw (kg/m3) は水の密度、である。式
(28)の右辺第 2 項は理想状態での必要灌漑量である。本結合モデルは、従来の研究に使用されてきた
作物係数(作物の生長段階や作物の種類に依存)や対象領域ごとの経験に頼ってきた有効降水量 Pw1
を必要としない、という長所がある。非灌漑期では AW > 0 となって余剰水は涵養量として地下水へ浸透
するが、灌漑期では AW < 0 となって不足分(必要最少量)は地下水から汲み上げられると仮定した。本
結合モデルでは、農地での人工構造物によって排水量の一部は一時的に不飽和層に留まると仮定する
ことによって、余剰水は式(3)の右辺 2 項のうちの最小値として定義した。
(2) 入力データ及び境界条件
1) 気象・植生・土性及び地質データ
モデル入力の気象データとして、ECMWF(日射量、気温、風速)の 6 時間刻みの再解析データを各
メッシュに入力した。 ECMWF データは 1 画素 2.5 度の緯経度系であるため、モデルの要求する投影
(Albers/ Krasovsky)に整合させるため、画像の投影変換を行った。この際、モデルの画素サイズを
10km にするための再配列にはキュービックコンボリューション法を用いて画素間の補完を行った。
ただし、2002 年の ECMWF データに関しては、8 月でデータ提供が終了している。このため、モデル
計算に必要な代替データとして(財)気象業務支援センターより提供されている GPV(Grid Point
31
Value)データを用いる事とした。しかしながら、この GPV で利用可能なデータは、降雨量、風速、気温で
あり、日射量は含まれていない。このため、計算より求めた直達日射量と散乱日射量から日射量を算出し
て使用する事としたが、GPV データには雲量が含まれていないため計算で求めた日射量は実際よりも過
大に表現される可能性が大きい。このため、4 か所の現地観測点(湖南省:桃源、山東省:禹城、新疆ウ
イグル自治区:阜康、青海省:海北)のデータを用いて計算値の減衰を行う事としたが、実際に利用可能
な現地観測データは 4 か所しかないため広大なテストエリア全域をカバーすることはできない。このため、
テストエリアを 4 つのブロックに分けてそれぞれの観測データの値をその属するブロック内の計算値に適
応させる方法を考えた。具体的には、まず 300pixel x 200line で構成されるデータ領域を以下の 4 ブロ
ックに分け、次に、時刻毎(6 時間毎)に現地観測点での観測値と観測地点に対応するグリッド座標での
計算値の比を求め、その比を対象ブロック内に適応させている。
また使用した降雨データは、総合地球環境学研究所が作成した「アジアの水資源への温暖化影響評
価のための日降水グリッドデータから引用(図 1-1)。約 1km の解像度の全球デジタル標高モデル
(DEM; GTOPO30)を使用して、各 5km メッシュの平均標高データを作成した。また、中国植生土壌図
(1:400 000 000)を用いて、約 50 個の植生及び土性のパラメ-タを算定した。主なパラメ-タは植物被服率、
アルベド、粗度高さ、土壌伝導度、飽和土壌ポテンシャル、及び環境要因に関連した気孔抵抗のいくつ
かのパラメ-タなどである。対象領域の地質構造は、山地(Taihang 山地、Yanshan 山地)の洪積層、低
地・海岸域の沖積層から主に構成される。本研究では、既存の資料をスキャン・デジタル化・カテゴリ-化
し 3 次元的に補間す
ることによって、代表的な 4 種類の地質に分類した。
2) 灌漑量の算定
黄河流域ではほとんど全ての灌漑水は表流水および地下水から汲み上げられ(農地の大半では小麦
及びトウモロコシが栽培されている)、産業用水・家庭用水の一部は深層地下水からも汲み上げられる。
灌漑量として、下記の方法を使用した。各メッシュにおいて DSSAT の計算を行い、
・DSSAT が必要とする量を自動的に灌漑した場合(単位:m^3/sec)
上記について単位面積当たりの灌漑水量を求め、河川側方からの取水として河川流量から差し引い
た。
単位面積当たりの灌漑水量の時系列データは、従来の研究から評価した。トウモロコシは 6 月から 9
月までの夏季に、小麦は 10 月から翌年の 6 月までの期間に生育する。推定された余剰水は、年間の灌
漑量は黄河全域において年に無関係に同一であるという仮定のもとでは便利である。
32
図 1-1 2002 年における 16 日毎の平均降雨強度
(総合地球環境学研究所:「アジアの水資源への温暖化影響評価のための
日降水グリッドデータの作成」から引用)
33
3) 境界条件
観測データのない上流端(森林、草地、非灌漑地) の境界では、地下水は尾根を越えて反対側には
流れないという仮定で反射条件を用いた。東側の境界(渤海湾)では 0m の定水頭を与えた。初期条件と
しては、地表面に平行な水頭を与えた。黄河や海河等の河川セルでは河床からの流入・流出量は地下
水と河川水の水頭勾配として算定した。
4) 農業生産モデルのインプット
データインプットとして土壌状態、灌漑および植え付け、気象データ(日射量、最大・最小気温、降水
量)を与えた。土壌状態については表 1-1 に示す。土壌層における水文パラメータ(飽和水分量、作物成
長にとっての最小水分量、水分量の上限値、飽和水分伝導率)はインプットされた土壌成分、土壌有機
物からモデル内で計算される。作物の種類は地域によって異なり、また生育も季節によっても異なる。図
1-2 に作物栽培分布および作付け・収穫時期を分布で示す。統合型流域モデルに農業生産モデル
(DSSAT)を組み込み作物成長に必要な水分量を推定した。
表 1-1 DSSAT-小麦、 DSSAT トウモロコシの計算に用いた土壌プロファイル
(Luancheng ステーション)
土壌層 (cm)
0-35
有機炭素含量(%)
密度 (g/cm3)
土壌水分下限値(cm3/cm3)
土壌水分上限値(cm3/cm3)
飽和土壌水分量 (cm3/cm3)
粘土成分 (<0.002 mm %)
シルト成分 (>0.002 and <0.05 mm, %)
0.5
1.44
0.096
0.356
0.433
7.0
86.0
35-90
0.2
1.49
0.139
0.338
0.431
12.0
84.0
90-200
0.1
1.55
0.144
0.371
0.451
35.0
55.0
(3) シミュレーションの期間及び領域
水循環の計算対象領域は Albers 座標(WGS 1984)において東西 530km、南北 840km とした(黄河
及び長江流域を含む)。同対象領域について、106 × 168 × 20 メッシュに分割した(最上層 2m とし、鉛直
下方向に等比級数的にメッシュを分割。最下層は-400m。)。シミュレーション期間は、2001 年 1 月 1 日
~2002 年 12 月 31 日の 2 年間とし、時間ステップは 6 時間とした。農地では、小麦及びトウモロコシの
計算を連続的に行った。
また Luancheng ステーションにおける長期のシミュレーションを行ない、観測データとの検証を行なっ
た。
34
Spring wheat
Spring wheat
Winter/Spring wheat
Winter wheat – Summer soybean
Winter wheat – Summer maize
Winter wheat – Summer maize
Winter wheat – Summer maize
Summer rice – Winter wheat
Summer rice – Winter wheat
Double-cropping rice – Winter wheat
Summer rice – Winter wheat
Double-cropping rice – Winter wheat
Double-cropping rice – Winter wheat
Thrice-cropping rice
図 1-2 作物栽培の分布状況
35
(4) 結果及び考察
1) Luancheng ステーションにおける生産高の比較
1987 年~2000 年までのトウモロコシと冬小麦収穫高の計算値と観測値の比較を行なった(表 1-2)。
観測値は Luancheng ステーションにおける水不足の無い状態での栽培実験データ(Liu et al.,2002)
を用いており、実際の気象条件を再現したものとなっている。 1987 年-1996 年までの間は計算値が観
測値より高い値を示している。これはインプットデータとして用いた観測値が 1995 年-2000 年までのも
のであったため、それ以前の観測値にはモデル結果が追随しなかったものと思われる。作付け品種など
が 10 年間で異なっており、収穫高も増加していることが観測値から示されている。しかし全体として計算
値は観測値を良く表現していることがわかる。
表 1-2 1987 年~2000 年までのトウモロコシと冬小麦収穫高の計算値と観測値の比較
作付け季節
1987-1988
1988-1989
1989-1990
1990-1991
1991-1992
1992-1993
1993-1994
1994-1995
1995-1996
1996-1997
1997-1998
1998-1999
1999-2000
2000-2001
トウモロコシ
計算値(kg/ha)
観測値 (kg/ha)
8903
5093
7899
4650
7803
6315
9376
7371
8575
4665
8201
6271
7988
6210
8110
no data
8560
no data
7410
7430
8189
8021
8736
7487
7307
8532
8199
8025
36
冬小麦
計算値 (kg/ha)
観測値 (kg/ha)
6475
5112
6748
4796
6138
5663
4389
4275
5453
4583
6095
6002
6955
5504
7050
6267
5291
5804
6267
6550
5347
5250
6289
6328
7342
6721
6613
6330
2) 2001 年-2002 年におけるトウモロコシと小麦の生産高分布
華北平原におけるトウモロコシと春小麦の生産高分布を図 1-3 に示す。また冬小麦の生産高分布を図
1-4 に示す。これより地域によって生産高に大きな相違があることがわかり、気象条件、水条件、土壌条
件の違いが生産高に影響を与えていることを示す結果となっている。このことから今後環境条件の変化
による生産高への影響評価が可能になった。
図 1-3 2001 年 5 月~10 月のトウモロコシおよび春小麦生産高分布
図 1-4 2001 年 10 月~2002 年 5 月の冬小麦生産高分布
37
3) 2002 年における黄河流域の流量再現
水循環の検証として最も有効な方法は観測点における流量データとの比較である。2002 年における
黄河上流域観測点(蘭州)、中流域観測点(巴彦高勒)および黄河下流域の観測点(小浪底)での計算
値と観測値の比較を行った(図 1-5)。DSSAT が必要とする量を灌漑した場合の計算値は観測値をよく
再現しており、黄河流域でのマクロな水循環過程に関しては灌漑量の影響が水循環に正しくモデル化が
なされていることを示している。中国全土を対象とした水循環モデルにおいては、降雨データの精度が予
測精度を決定することから、今回用いた「アジアの水資源への温暖化影響評価のための日降水グリッド
データ(総合地球環境学研究所)」(図 1-1)は大流域単位での水循環過程を再現するに十分な精度を
持っていることがわかる。しかし細部にデータとの比較を行ってみると、降雨が増加したときに計算値が観
測値を大幅に上回る値が得られている。これは地下水への涵養が少なすぎるのか、蒸発散が少なすぎる
のか、それとも農業取水の効果が少なすぎるのか今のところ不明である。さらに中流域観測点(巴彦高
勒)および黄河下流域の観測点(小浪底)での秋季から冬季にかけて計算された黄河流量は実測値より
高い値が得られている。これは秋季から冬季にかけての灌漑および都市用水としての取水量が計算上
過小に見積もられていることを示しており、今後より精度の高い取水量データを分布として与える必要が
ある。
4) 2002 年における長江流域の流量再現
長江上流域観測点(寸灘)、中流域観測点(宜昌)、下流域観測点(大通)での計算値と観測値の比
較を行った(図 1-6)。いずれの観測点においても良い再現性を得ている 1-1), 1-2)。上流域において春季に
2つの大きな流出が観測されているが、計算値が再現していない。長江上流域は急峻な山岳地帯であり、
インプットした降雨データが十分に局所性を表現していなかった可能性が示唆された。下流域における
流量ピークが計算値と観測値において位相差を生じているが、その原因としては、三峡ダムにおける流
量調節効果、洞庭湖、ハン陽湖における遊水機能が正確に表現されていないことが 1 つの原因と思われ
る
1-4)。また降雨データが局所的な豪雨を反映できなかったことも原因の
1 つと考えられる。サブテーマ2
において推計された長江流域での汚濁負荷発生量から、三峡ダム及び東シナ海に流達する窒素・リン
負荷量の推計が可能となった 1-3), 1-5), 1-7)。
38
黄河流域の流量再現
4000
3500
[m^3/s]
3000
2500
2000
1500
1000
500
0
1
61
121
181
観測値
241
301
361
計算値
図 1-5 ① 2002 年 観測点における黄河流量の比較(蘭州)
4000
3500
3000
[m^3/s]
2500
2000
1500
1000
500
0
1
61
121
181
観測値
241
301
361
計算値
図 1-5 ② 2002 年 観測点における黄河流量の比較(巴彦高勒)
4000
3500
[m^3/s]
3000
2500
2000
1500
1000
500
0
1
61
121
181
観測値
241
301
計算値
図 1-5 ③ 2002 年 観測点における黄河流量の比較(小浪底)
39
361
長江流域の流量再現
80000
70000
[m^3/s]
60000
50000
40000
30000
20000
10000
0
1
61
121
181
観測値
241
301
361
計算値
図 1-6 ① 2002 年 観測点における長江流量の比較(寸灘)
80000
70000
[m^3/s]
60000
50000
40000
30000
20000
10000
0
1
61
121
181
観測値
241
301
361
計算値
図 1-6 ② 2002 年 観測点における長江流量の比較(宜昌)
80000
70000
[m^3/s]
60000
50000
40000
30000
20000
10000
0
1
61
121
181
観測値
241
301
計算値
図 1-6 ③ 2002 年 観測点における長江流量の比較(大通)
40
361
5) 2002 年における長江・黄河流域の地下水位再現
中国全土における地下水位検証地点(図 1-7)における地下水位(地表面からの深度で表示)の観測
値(2005 年の地下水位)と計算値(2002 年の計算地下水位)の比較を表 1-3 に示す。2002 年の計算結
果は源流域での高い地下水位から沿岸域での低い地下水位まで概ね良い一致を示しており(表 1-3)、
妥当な計算結果を示していると言える。特に河北省、浙江省、山東省、江苏 省等低い標高地帯においては、
海水面より低い地下水位も含めて非常に良く再現している。
図 1-7 地下水位検証地点
表 1-3 地下水位の比較
観測地点
経度
緯度
A:北京市
116°49′41″
39°45′39″
16.36
19.52
31.52
B:河北省
116°50′47″
38°00′03″
8.51
2.31
2.52
C:山西省
112°30′48″
37°47′18″
779.03
93.27
76.61
D:内蒙古自治区
106°47′28″
39°40′12″
1085.70
19.72
24.05
E:江苏 省
118°56′43″
33°26′01″
7.96
23.05
23.02
F:浙江省
120°43′31″
30°38′25″
2.7
14.92
14.96
G:安徽省
116°59′02″
33°36′32″
25.62
5.60
4.28
H:福建省
117°02′38″
25°06′09″
349.42
29.90
49.62
I:江西省
113°45′27″
27°38′45″
74.69
5.11
5.82
J:山东 省
119°35′05″
37°05′20″
2.71
11.12
12.98
K:河南省
114°30′10″
35°45′00″
62.00
18.99
18.90
L:湖北省
114°57′58″
30°10′45″
34.12
12.11
24.48
M:湖南省
113°01′35″
28°14′33″
30.90
4.10
10.24
N:陕西省
107°27′07″
34°27′09″
713.30
43.23
9.65
※観測値深度:2005 年の年平均値、
標高(m)
観測値深度(m)
計算値深度:再現結果
41
計算値深度(m)
図 1-8 は中国全体の地下水位の 365 日目の現況分布計算結果を示しており、河北省など沿岸地域で
の低い地下水位が良く再現されている。また計算領域(東西方向 0~300,南北方向 0~200:メッシュサ
イズ 10km)において、365 日目から 720 日目にかけて取水量 100mm/day で均等に地下水汲み上げ
を行った場合の地下水位への影響を図 1-9 に示している。汲み上げを行った場合には海岸に近い土地
での地下水位の低下が明確に計算されており、海面より低い地下水位の領域が広範囲にわたって広が
る様子が計算されている。また都市近郊においては局所的に地下水位が周りよりも急激に低くなる場所
が計算結果より推定できた。中国においては近年地下水位の急激な低下(農村部で年間約1m、北京市
郊外では年間約 2~3mの低下)が報告されているが、一年間の計算においても地下水汲み上げが地下
水位の低下に大きく影響していることを裏付ける結果となった。今後各省での地下水汲み上げ量の正確
なインプットを行うことにより、今後の中国における地下水水資源量の推定を可能にする。
図 1-8 地下水位の再現結果
図 1-9 全域で汲み上げた場合の地下水位計算結果(300 日目)
(領域:全域、取水量:100mm/d)
42
6) 2002 年の蒸発散変化
MODIS データは雲や水蒸気などの影響からすべての領域での値が同時に得られるわけではない。こ
のため 16 日間の中で晴れている日の値を用いてコンポジットを行い 16 日毎の蒸発散量を得ている。す
なわち雲のない条件下での瞬間値を部分的に張り合わせて全体の分布図を得ていることになり、16 日
間平均の蒸発散量ではないことに留意する必要がある。MODIS データから得られたオリジナルの蒸発
散量は 16 日間毎の昼間の蒸発散量を示しており、海北ステーションでの夏期の現地観測蒸発散量デー
タを用いて 16 日間毎の昼間データの平均値を算出し、MODIS データから得られた蒸発散量値と比較
を行い、MODIS 観測値の簡易補正を行い、それを基に中国全土に適用した(図 1-10)。2002 年の同時
期における 16 日間平均の蒸発散量の計算値を図 1-11 に示すが、概ね良い一致を得ている。
一方蒸発散量の計算値(図 1-11)と降水量(図 1-1)を比較してみると、蒸発散量の計算値は降水量の
約 40%~50%となっている。降水量の一部が地下に浸透して地下水となり、一部は表面流として流出し
て河川流量となり、残りが蒸発散量として大気に戻るという、いわゆる水収支を考慮すると、降水量の
40%~50%が蒸発散量という計算値は妥当な値と考えられる。
統合型流域モデルに農業生産モデルを結合することによって、黄河流域での水循環に及ぼす影響
についてシミュレ-ションを行った。 本モデルはトウモロコシ及び小麦の栽培時期における河川水量、土
壌水分、蒸発散、等水循環を良好に再現した。この計算結果は黄河流域におけるすべての農地におい
て節水型エネルギー作物を導入したときの河川流量に与える効果と考えることができ、DSSAT が必要と
する量を自動的に灌漑した場合が節水型エネルギー作物導入効果を表している。この場合黄河河川流
量の著しい改善が見られ、節水型エネルギー作物の導入が河川流量の増大に大きく寄与することが判
明した。
(5) おわりに
統合型流域モデルに農業生産モデルを結合することによって、トウモロコシ及び小麦の生育に必要な
潅漑量を従来の統計データ・文献データよりも精度良く再現した。 また両作物の生産高の計算結果は
1996 年以降の観測値を正確に再現している。1987 年~1988 年における生産高計算結果は観測値より
高めの予測値となっているものの、地域的な変化を良く再現しており、今後の気候変化に伴う農業生産
高への影響評価は可能となったと考えられる。
43
図 1-10 2002 年における複数の MODIS データから算出した 16 日毎の蒸発散量
44
図 1-11 2002 年において統合型流域モデルにより算出された 16 日毎の蒸発散量
【研究成果発表リスト】
1-1) Nakayama, T. and Watanabe, M., 2008, Role of flood storage ability of lakes in the
Changjiang River catchment, Global and Planetary Change, 63 , 9–22
1-2) Hayashi1, S., Murakami, S., Xu. K., Watanabe, M., and Hua, X., 2008, Daily Runoff
Simulation by an Integrated Catchment :Model in the Middle and Lower Regions of the
Changjiang Basin, China, J. of Hydrologic Eng., DOI: 10.1061/ASCE, 1084-0699, 13:9,
846.
1-3) Liu C.,Watanabe M.,Wang Q, 2008. Changes in nitrogen budgets and nitrogen use
efficiency in the agroecosystems of the Changjiang River basin between 1980 and
2000. Nutr.Cycl.Agroecosyst.. 80(1):19-37, IF:1.116.
45
1-4) Hayashi1, S., Murakami, S., Xu. K., Watanabe, M. 2008, Effect of the Three Gorges Dam
Project on flood control in the Dongting Lake area, China, in a 1998-type flood, J. of
Hydro-environment Research, 2, 148-163.
1-5) Liu C., Wang, Q. and Watanabe, M. 2007. Nitrogen transported to three Gorges Dam from
agro-ecosystems during 1980–2000, Biogeochemistry, DOI 10.1007/s10533-006- 9042-6.
1-6) Nakayama, T., Watanabe, M., Tanji, K. and Morioka, T., 2007, Effect of underground
urban structures on eutrophic coastal environment, Science of the Total Environment,
【学会などでの発表実績リスト】
1-7) Watanabe, M., Tanji, K. and Xu, K. 2007. Impact of pollution load from large rivers on
the ecosystem in the Bohai,Yellow and East China Seas,
International Workshop for
Building Integrated Management of Catchment and Coastal Areas of the Yellow and the
East China Seas, Tianjing,
Nov. 23.
1-8) Watanabe, M. 2008, Development of Integrative Environmental Management
Technology in East Asia, March, Keio University, Tokyo.
46
② 土地利用変化による環境資源への影響評価(国立環境研究所
資源研究所
劉紀遠、慶応大学
王勤学、中国科学院地理科学与
渡辺正孝)
1. 研究の背景と目的
近年,東アジア地域では急激な人口増加に伴う大規模な農業開発,急速な工業化と大規模な都市化
などにより,自然環境と人間活動とのバランスが急速に崩れつつある。このような状況下において,東ア
ジア地域の持続的発展を支えるためのツールとして,大陸スケールでの陸域生態系のモニタリングとモニ
タリングデータを主とする膨大なデータを集約した環境情報システムの構築,さらには環境情報を活用し
た水・物質の動態モデリングに関して,それぞれ高度な技術開発を行う必要がある。さらに,これら技術の
統合的な利用によって,大規模な土地利用改変や地球温暖化等が陸域生態系に及ぼす影響の評価手
法を開発することが急務となっている。
衛星データを用いた解析結果を,大気-植生-土壌間での水・物質移動に関する相互作用を表す陸
面過程モデルや生態系モデルへの入力データとして用いることにより,広域においてもより精度の高い
生態系機能の推定や将来予測が可能になりつつある。 衛星データとして MODIS データを利用し,その
データ解析によって陸域における様々な環境情報(例えば,土地利用、地表面温度や,植生指数等)の
算定
1-10), 1-11)
と,地上での生態系観測データを用いた算定結果の検証を通じて解析手法の改良を行っ
ている。さらに,陸域生態系における水・物質循環を詳細に表すモデルの入力データとして,これら解析
結果を用いることによって,広域での生態系の機能,例えば水や熱循環とともに,植生による炭素・窒素
の固定量や穀物生産量などのシミュレーションを実施している(図 1-12)。
図 1-12
研究のフレームワーク
47
2. 衛星と地上観測ネットワーク
MODIS 衛星データ受信ステーションと地上生態系観測サイトならびにデータ解析センターより構成さ
れる統合環境モニタリングネットワークを構築した。この中で,地上生態系観測については,中国におけ
る様々な陸域生態系の中から代表的な草地(青海省,37.48N,101.20E,3200m),灌漑農地(山東省,
36.95N, 116.60E, 20m),水田(湖南省,28.92N, 111.50E, 20m),森林(江西省,26.73N,115.07E,
115m),砂漠化地域(新疆自治区,43.75N,87.75E,1600m)の 5 つの生態系について観測サイトを
設置し,気象,水文,土壌水分,植生等に関する基礎データを観測・収集し,包括的なデータベースを
構築している。図 1-13 は,2003 年の様々な生態系における水蒸気・熱・CO2 フラックスの観測データ例
である。
図 1-13 2003 年の様々な生態系の水蒸気(LE),顕熱(H)と CO2 フラックスの季節変化
(30 分平均の観測データ)
48
3. 生態系モデルの改良と適用
陸域生態系における水・物質循環を明らかにするため,本研究では米国モンタナ大学で開発された
Biome-BGC モデルを選択した。本モデルは,土地利用データ、気象データ及び土壌データの入力によ
って水・エネルギー・炭素・窒素の循環を素過程から詳細に再現するプロセスモデルであることから,植
物による炭素や窒素の固定量を始めとした多くの生態学的要素のシミュレーションができる。東アジア地
域は,北米大陸と比較して人為的土地改変が大きく,生態系の断片化が進んでいる。また,南部の湿潤
な地域での水稲栽培から北部の乾燥地域での灌漑農業まで,多様な農業形態を有している。このため,
アジア地域においてこのモデルの検証が必要であると同時に,農業生態系への適用には,モデルの改
良が必要と考えられた。
そこで,まず,上述したそれぞれ固有の生態系を有する 5 つの地上観測ステーションで測定されてい
る気象データを,Biome-BGC モデルの入力データとして用いて計算を行った 1-9)。次いで,各ステーショ
ンで測定された植生(農作物)の葉面積指数(LAI)や表面温度(LST)を始めとする生態学的なデータと
計算結果の比較作業を通じて,測定結果に対するモデル計算結果の再現性をできるだけ高めるよう,モ
デルパラメータ値の設定を行った。加えて,農業生態系を有するステーションへの適用にあたっては,作
物生育期間,C/N(炭素/窒素)比,光合成率など生理・生態学的パラメータをモデルにおいて新たに設
定した 1-12)。
図 1-14
人為活動の影響を考慮した場合の水蒸気(E)と炭素(Fc)フラックスの
シミュレーション結果と観測データとの比較
49
最後に,MODIS 衛星データを基に作成された土地利用や LST 等の高次プロダクトを改良したモデ
ルへ取り込むことで,1km メッシュの単位の空間分布モデルとしてシミュレーションを行い,東アジア地域
における水・炭素・窒素など物質の時間的・空間的な変動の推定を行った。
モデルの適用結果として,まず,本研究における改良によって,灌漑や CO2 濃度の増加,施肥など人
為活動の影響を考慮した水・熱と炭素(CO2)フラックスのシミュレーションの一例として,2003 年の禹城
ステーションでのコムギとトウモロコシを対象とした,計算結果と観測値との比較結果を示している(図
1-14)。この結果に示されるように,農業生態系を含めた東アジアの様々な生態系における水・炭素・窒
素循環機能および LAI や NPP で表される作物成長状態を,改良された Biome-BGC モデルが精度良
く再現することを確認した。
図 1-15 は同じく禹城ステーションでのコムギとトウモロコシの生産量を対象とした,人為活動の影響あ
る場合とない場合のシミュレーション結果の比較を示している。それによると,光合成生産量(GPP),とエ
コシステム純生産量(NEP)は人為的影響で大きく増大する一方で,農作物による呼吸量(Rm と Rg)も
増大する。しかし,土壌呼吸(Rh)はむしろ化学肥料の大量使用によって減少する結果となった。これに
より,施肥を主とする人為活動が水・熱と炭素(CO2)フラックス及び吸収固定量に大きな影響を与えてい
ることが定量的に分かった。
図 1-15 人為活動の影響あり(Disturbed)と影響なし(Undisturbed)の場合の
シミュレーション結果の比較
:NPP:純一次生産量,NEP:エコシステム純生産量,
GPP:光合成生産量,Rm と Rg:植生の呼吸,Rh:土壌呼吸
50
図 1-16 は改良したモデルが中国のチベット高原の草原地帯で応用した結果である。それによる、草
原地帯では Biome-BGC モデルが現実をよく再現できたと確認した。但し、森林地帯では、多くのパラメ
ータの測定が困難であるため、モデルの検証ができなかった。本研究においては、森林地帯でのシミュ
レーションに使ったパラメータは Biome-BGC モデルの Default 値であった。
さらに,異なる生態系間での炭素・窒素の固定能力を定量的に比較したところ,NPP の場合,トウモロ
コシ>イネ>コムギ>草地>砂漠の順となった。土壌呼吸の場合,イネ>草地>コムギ>トウモロコシ>
砂漠の順となった。その結果,生態系による CO2 の固定能力を表す指標である NEP は,トウモロコシ>
コムギ>草地>イネ>砂漠の順となることが明らかになった。
図 1-16 チベット高原の海北で観測した炭素(Fc)フラックスと
モデルシミュレーション結果との比較
51
4. モデルによるスケールアップと生態系機能の評価
以上のようにステーションでの観測データによって改良されたモデルを用いて,気象,土壌及び土地
被覆などの GIS データを入力することによって広域へスケールアップした。図 1-17 はスケールアップの
手順を示されたものである。それによると,農地で輪作などの土地栽培制度を考慮された場合,農地での
炭素固定量が大きくなる。
図 1-17
改良された生態系モデルによるスケールアップ
最後に,図 1-18 に,図 1-12 に示した MODIS 衛星データから作成された各種高次プロダクトを,改良
した Biome-BGC モデルに入力データとして取り込み,アジア全域1km メッシュ単位で生態系の炭素固
定能力を推定した結果を示した。これによると,南アジア,日本の南部,中国東北部などの地域では,植
生による炭素固定能力は大きく,これらの地域は炭素の主な吸収源であることが明らかになった。
面的な推定結果を検証するため,面的な観測データが必要である。しかし,現実的には面的な観測が
不可能であるため,農業統計データを用いた。図 1-18 で表した計算結果をまず農地だけのメッシュ値を
抽出し,中国の県レベルの行政区毎に集計し,中国農業統計年鑑に集計した食糧生産量と比較した。
ばらつきがあるものの,有意な相関(R2=0.6716)も得られた(図 1-19)。
52
図 1-18
アジア全域における植生による年間(2003)炭素固定量の分布図
図 1-19 モデルで推定した中国の県レベルで集計した農地上での総生産量と
食糧総生産量の統計値との相関
53
【研究成果発表リスト】
1-9) Sun,Z., Wang,Q., Matsushita,B., Fukushima,T., Ouyang, Z. and Watanabe, M. 2009:
Development of a Simple Remote Sensing EvapoTranspiration model (Sim-ReSET):
Algorithm and model test. Journal of Hydrology. 376(3-4):476-485. doi:10.1016/
j.jhydrol.,07.054.
1-10) Hasi, B., Wang, Q., Watanabe, M., Kameyama, S. and Bao, Y. 2008, Land-cover
Classification Using ASTER Multi-band Combinations Based on Wavelet Fusion and
SOM Neural Network, Photogrammetric Engineering and Remote Sensing, 74(3):
333-342.
1-11) Sun Z.,Wang Q., Matsushita B., Fukushima T.,Ouyang Z., Watanabe M. 2008. A new
method to define the VI-Ts diagram using subpixel vegetation and soil information: A
case study over a semiarid agricultural region in the North China Plain. Sensors.
8(10):6260-6279, IF: 1.573.
1-12) Sun, Z., Wang, Q., Ouyang, Z., Watanabe, M., Matsushita, B. and Fukushima, T. 2007,
Evaluation of MOD16 algorithm using MODIS and ground observational data in
winter wheat field in North China Plain Hydrol. Process. 21, 1196–1206.
【学会などでの発表実績リスト】
1-13) Liu Jiyuan, 2008, Effect of bio fuel on greenhouse gas emissions reduction and the
research project of environmental impact assessment in Institute of Geographical
Sciences and Natural Resources Research, CAS, International Workshop on
Development of Environmental Management Technology for Sustainable Utilization of
Biomass, March, Keio University, Tokyo.
54
・サブテーマ 2 バイオマス需給バランスがもたらす環境負荷推定モデル開発
① 経済活動による食料・バイオマスエネルギーの需要バランスに与える影響評価(IGES 小嶋公史、
韓国環境政策評価院 Sang In Kang、Jae Joon Kim、中国科学院地理科学与資源研究所
Jikun Huang)
本研究は、バイオ燃料の生産・使用を促進した場合の食糧保障への影響および水不足・水質汚濁等
の環境影響を評価する綜合的評価ツールの開発の一部として、貿易および生産活動で発生する食料・
バイオマスエネルギーの国際的な需給バランスと環境負荷量を予測する環境負荷インベントリーモデル
の開発と、原油価格や主要食糧輸出国の食糧生産高など国際市場の状況に大きな影響を与える要因
およびバイオマスエネルギー需給に影響を与える政策に関し、環境資源管理システムとリンクするバイオ
マス需給バランスモデルの開発を目的とする。
平成 19 年度は、環境負荷インベントリーモデルにおける国際貿易一般均衡モデルの地域区分および
財区分の見直し、および環境負荷インベントリーモデルにおける国際貿易一般均衡モデルのバイオマス
エネルギーに関する生産関数細分化を行った。さらに環境負荷インベントリーモデルのテストランとして、
原油価格高騰による影響の試算を行った。
平成 20 年度は、環境負荷インベントリーモデルに対し、2001 年以降のマクロ経済データおよび原油
価格データを用いてバイオ燃料生産量をシミュレーションし、実際のバイオ燃料生産データと比較するこ
とでモデルの検証を試みた。また本モデルによる分析の背景シナリオとして、中国のバイオ燃料現況に
ついてレビューを行った。
平成 21 年度はバイオマスエネルギー需給に影響を与える政策に関し環境資源管理システムとリンク
するバイオマスエネルギー需給モデルとして、バイオ燃料セクターを明示的に扱ったデータセットを用い
た国際貿易一般均衡モデルを開発し、このモデルを用いた食糧・バイオマスエネルギーの国際市場での
均衡価格・需給バランスに関する分析を行った。まず環境資源管理システムと国際貿易一般均衡モデル
の連携を図るために、気候および土壌タイプによって土地資本を細分化した農業生態系(AEZ)ゾーンデ
ータを用い、農作物栽培適地と栽培非適地の 2 種類に集計した上で、エネルギー作物生産における農
作物栽培適地投入と栽培非適地投入の間の代替弾性値を食料作物よりも高く設定し、食糧・バイオマス
エネルギーの国際市場での均衡価格・需給バランスを分析する上で重要となる土地利用をめぐる競合を
反映したモデルを国際貿易一般均衡開発した。さらにこのモデルを用いて、原油価格に関しベースライ
ンシナリオおよび価格高騰シナリオのもとで中国のバイオエタノール生産が 20%増加した場合の食糧・バ
イオマスエネルギーの国際市場での均衡価格・需給バランスに関する分析を行った。
1.1 中国バイオ燃料現況レビュー
(1) 代替燃料需要全般
中国は 1993 年以来石油の輸入量が輸出量を上回っており、2006 年には輸入量は石油需要の 47%
に相当する 162.9 百万トンに上っている。IEA によると、石油の輸入依存度は 2020 年には 77%、2030
年には 80%になると予想されている。より楽観的な中国エネルギー報告書でも 2020 年には石油需要の
55
57.6%に相当する 265 百万トンを輸入に頼ると予想されている。いずれにせよ中国政府にとってバイオ
燃料を含む代替燃料の開発は最優先政策課題となっており、代替燃料の需要は極めて大きい。中国政
府は 2020 年までに輸送用燃料の 15%をバイオ燃料で代替したい意向である。
(2) バイオエタノール
中国は米国、ブラジルに次ぐ世界第 3 位のバイオエタノール生産国であり、2007 年の生産量は 133
万トンである。2006 年時点において中国はエタノール輸出国であり、主に日本、韓国および台湾に輸出
されている。年間輸出量は国内原料市場の動向に大きく左右され、2003 年には輸出量は 28 万キロリット
ルに達したが、翌 2004 年には 9 万 7 千キロリットルに落ち込み、2005 年にはやや持ち直したもの 16 万
2 千キロリットルにとどまった。また、バイオ燃料利用の増加により、将来はエタノール輸入国になると見ら
れている。
2005 年/2006 年のバイオエタノール生産による穀物消費量は約 200 万トンと推定されており、そのう
ち約 140 万トンがトウモロコシである。中国の 5 大バイオエタノール工場の概要を表 2-1 に示す。
表 2-1 中国 5 大バイオエタノール工場の概要
場所
Jilin
Heilongjiang
Anhui
Henan
Guangxi
原料
トウモロコシ
トウモロコシ
トウモロコシ
小麦/トウモロコシ
キャッサバ
収量
原料需要
(1000 トン/年) (1000 トン/年)
300
990
100
330
320
960
300
900
200
1440
建設年
2001 年
2001 年
2001 年
2003 年
2007 年
出典:Huang et al. 2008
食料非競合性原料によるバイオエタノール生産については、食料生産に適さない土地(marginal
land)を利用したモロコシ(Sweet sorgham)、キャッサバおよびサツマイモを原料とした生産ポテンシャ
ルは 2020 年までに 1200 万トンに達すると予想されている。
2006 年時点で、Jilin、Heilongjiang、Liaoning、Henan および Anhui の5省ではすべてのガソリン
が E-10(10%エタノール混合)である。また、Shandong、Jiangsu、Hebai および Hubei の 4 省では一
部の地域で E-10 が販売されている。中国当局によると、これら 9 省での E-10 生産量は 1020 万トンに
達している。
(3) バイオディーゼル
2007 年時点で 10 のバイオデーゼル工場が稼動しているが、いずれも廃油(工業用、食用)を原料と
する生産能力 20 万トン以下の小規模工場である。中国は 2007 年に 3000 万トンの植物油を輸入してお
り、植物油を原料とするバイオディーゼル生産は困難である。このため中国はジャトロファを原料とするバ
イオデーゼル生産を検討している。
56
中国のバイオデーゼル生産ポテンシャルに関しては、国家森林局が 2005 年に発表した第 11 次エネ
ルギー林開発 5 ヵ年計画によると、5 年間の間に 83 万 ha の土地にジャトロファを主とするエネルギー林
を植林し、2020 年には植林面積を 1330 万 ha まで拡大する予定であり、これにより年間 600 万トンのバ
イオディーゼル生産が可能になるとしている。
(4) 食料との競合状況
食料および繊維を自給することは中国の主要政策目標の一つであり、2000 年において一人当たり食
料供給量は 3040kcal と世界平均を 8%上回るにいたっている(FAO 2002)。食料の中でも、穀物の自給
は特に重要視されており、1990 年代以前は 100%自給を、1990 年代後半からは 95%自給を政策目標と
して、灌漑施設をはじめとする農業インフラ整備、研究開発および農薬や化学肥料の国産化などを進め
てきている。
高級インディカ米や小麦などを輸入しているものの、中国は 1980 年代前半から現在にいたるまで穀
物の純輸出国である。中国の農産物貿易は農業生産以上に急速に成長しており、1985 年から 2000 年
の 15 年間で食料・飼料の輸出は約 4 倍となった。輸出向け繊維産業による綿花需要の増大などにより
繊維に関しては大幅な輸入超過となっているが、食料・飼料全体としては輸出の伸びは輸入の伸びを大
きく上回っている。 小麦の輸入は 1980 年代前半においては年間 1000 万トンにのぼっていたが、現在
ではほとんどゼロとなっている。トウモロコシについては、中国は 1990 年代後半から主要輸出国の一つ
である。トウモロコシの年間輸出量は 2002 年には 1200 万トン、2003 年には 1640 万トンであった。しか
し将来的には畜産業の急成長に伴う飼料需要増大に対応するために、中国はトウモロコシの輸入が必
要になると予想されている。 中国の食料・飼料および繊維に関する輸出超過データを表 2-2 に示す。
表 2-2 中国の食料・飼料および繊維の 1985 年-2005 年輸出超過トレンド(百万ドル)
品目
食料・飼料全体
・ 穀物
・ 砂糖
・ 植物油・種子
繊維
1985 年
1746
88
-197
434
-131
1990 年
3055
-1739
-71
-223
-879
1995 年
2075
-3350
-614
-1727
-3355
2000 年
4156
1150
80
-3373
-1761
2005 年
2673
196
51
-10397
-5668
出典:Huang et al. 2008
2001 年に操業を開始した Jilin、Heilongjiang および Anhui のバイオエタノール工場は、トウモロコ
シの穀倉地帯に設置され、当初は大量に備蓄された古いトウモロコシを活用していたが、2006 年までに
古いトウモロコシは使い尽くされた。 中国国家穀物油糧情報センター(China National Grain and
Oils Information Center)は、2006 年-2007 年のトウモロコシ生産量を 144 百万トン、消費量を 144.5
百万トンと見積もっており、バイオエタノール生産と食料利用が競合する状況となっている。 これを踏ま
え、中国政府は 2007 年 6 月、食糧を原料とするエタノール生産設備の新設認可を停止し、さらに稼働中
である 4 社の設備を食糧や飼料にならない植物原料へ転換させる方針を明らかにした。
57
小麦をめぐる状況は基本的にトウモロコシと同じである。2003 年に操業を開始した Henan バイオエタ
ノール工場は、当初は備蓄費用が問題となっていた古い小麦を原料としていたが、古い小麦は使い尽く
されてしまい、バイオエタノール生産と食料利用が競合する状況となっている。
1.2
環境負荷インベントリーモデルの開発
(1) 環境負荷インベントリーモデルにおける国際貿易一般均衡モデルの地域区分および財区分の見直
し
環境負荷インベントリーモデルは 2001 年をデータセットの基準年とし、最大 87 地域-57 産業に区分
することがが可能である GTAP モデル バージョン 6.2 を開発ベースとしている。このデータベースをもと
に、本研究の目的に合った地域区分および産業区分を行った。
地域区分については、日本、中国、韓国および、日中韓と地域経済統合を進めるなど影響の大きい東
南アジア諸国連合(ASEAN)についてはできるだけ国別の区分とした。さらにそれ以外の地域のうち、主
要穀物生産国(米国、豪州、インド、ロシア、EU、ブラジル)と主要産油国(ヴェネズエラおよび中近東)に
ついてはできるだけ詳細な区分とした。採用した 18 地域区分を表 2-3 に示す。
表 2-3 環境負荷インベントリーモデル地域区分
1
中国
10
その他東南アジア
2
日本
11
米国
3
韓国
12
豪州
4
インドネシア
13
インド
5
マレーシア
14
ロシア
6
フィリピン
15
欧州連合
7
シンガポール
16
ブラジル
8
タイ
17
ヴェネズエラおよび中近東
9
ベトナム
18
その他地域
58
産業セクター区分については、エタノール生産および植物油のバイオディーゼル利用を勘案した表
2-4 に示す 33 区分とした。
表 2-4 環境負荷インベントリーモデル産業区分
(2) 環境負荷インベントリーモデルにおける国際貿易一般均衡モデルのバイオマスエネルギーに関する
生産関数細分化
GTAP モデルへのバイオマスエネルギー組み込みについては、GTAP データベースにエネルギーデ
ータを追加し、各産業の生産関数における資本財を資本-エネルギー合成財とし、エネルギーを付加価
値形成財として扱う GTAP-E モデルをベースモデルとした。現時点で公開されている GTAP-E(GTAP
6.2 rc7)は 9 地域-9 産業区分データセットのみに対応しており、また天然ガス生産とガス供給業の区分
がなされていない。しかし現行バージョンのエネルギーデータおよび二酸化炭素排出量データは天然ガ
ス生産とガス供給業を区別している。これらに対応するため、まず GTAP モデル バージョン 6.2 データ
セットに必要なエネルギー・二酸化炭素排出データを REPA モデルの地域-産業区分に合わせて作成す
59
るとともに、GTAP モデル バージョン 6.2 プログラムコードに GTAP-E(GTAP 6.2 rc7)のエネルギー代
替・二酸化炭素排出・温暖化対策に関するモジュールを必要な調整を施した上で組み込んだ。
GTAP-E モデルではバイオマスエネルギーに直接的に対応する産業区分がないため、図 3-19 に示
す生産関数の細分化を行った。
Output
Value added and
energy
Labour
Intermediate
commodities
Natural Capital-energy
resources composite
Domestic
Nonelectricity
Imports
Gas
Fuels
Capital
Energy
composite
Electricity
Vegitable
oil
Petroleum
products
Nonelectricity
Oil
Sugar cane
Ethanol
Grains
Wheat
図 2-1 GTAP-E モデル生産関数へのバイオマスエネルギー組み込み
この生産関数細分化にともない、生産関数の代表的なパラメータである投入財間の代替弾性値を推
定する必要があるが、文献値に基づき以下の以下の代替弾性値を使用した。
• バイオエタノール-化石燃料代替弾性値:4.0(全地域共通)
• バイオエタノール原料間代替弾性値:4.0(全地域共通)
さらにバイオ燃料需給変化が食糧需給におよぼす影響のメカニズムを精緻化する目的で、GTAP モ
デルを農業政策分析用に改良した GTAP-AGR モデルを参考に、作物セクターと畜産セクターの間の取
引を組み込んだ。
1.3
環境負荷インベントリーモデルのテストランおよび検証
(1) 原油価格高騰の影響シミュレーション
GTAP-E モデルに上述した改変を加えた環境負荷インベントリーモデルを検証する目的で、仮想的な
原油価格高騰を外生的ショックとして与え、それが各地域の経済指標や食糧価格、バイオ燃料価格にど
のような影響を与えるか試算を行った。
原油価格高騰については、産油国(ヴェネズエラおよび中近東)における原油セクターの製品価格を
外生変数とし、代わりに同セクターの全要素生産性を内生変数とした上で、産油国の原油製品価格が 2
倍となる外生的ショックを与えた。
60
この原油価格高騰による各地域の実質 GDP への影響を表 2-5 に示す。
表 2-5 原油価格高騰による各地域の実質 GDP への影響
中国
-1.5%
日本
-0.6%
韓国
-0.2%
インドネシア
-4.4%
マレーシア
-3.8%
フィリピン
-0.5%
0.1%
シンガポール
タイ
-1.1%
ベトナム
-5.3%
その他東南アジア
-1.2%
インド
-1.6%
豪州
-1.4%
ブラジル
-1.7%
欧州連合
-2.1%
米国
-0.4%
ロシア
-9.9%
-12.4%
ヴェネズエラと中近東
-2.9%
その他地域
予想されたように各地域で実質 GDP に負の影響が出ているが、中でも産油国への影響が最も深刻と
なった。需給バランスが逼迫することによる原油価格高騰であれば産油国が経済的利益を得ると予想さ
れるが、この試算例では石油製品価格の外生的高騰により同セクターの全要素生産性の低下が引き起
こされる設定となっており、産油国の経済全体としての生産フロンティア自体が縮小することにより最も深
刻な経済的打撃を受ける結果となったことは、理論的予想と一致するものである。
61
次に厚生水準の指標である等価変分(EV)への影響を表 2-6 に示す。
表 2-6 原油価格高騰による各地域の等価変分への影響
(単位:百万ドル)
中国
-22,979
日本
-52,569
韓国
-10,970
インドネシア
-5,556
マレーシア
-2,098
フィリピン
-2,323
シンガポール
-2,952
タイ
-3,957
ベトナム
-1,122
-226
その他東南アジア
インド
-15,415
豪州
-5,765
ブラジル
-10,624
欧州連合
-221,528
米国
-98,797
ロシア
-10,468
-6,057
ヴェネズエラと中近東
-78,110
その他地域
予想されたように原油価格高騰により、各地域の厚生水準に負の影響が出た。
62
原油価格高騰によるバイオ燃料価格・需要への影響を表 2-7 に示す。
表 2-7 原油価格高騰による各地域のバイオ燃料価格・需要への影響
中国
バイオ燃料価格
6.2%
バイオ燃料需要
162.3%
日本
3.7%
201.2%
韓国
8.0%
292.7%
インドネシア
2.9%
372.7%
マレーシア
5.7%
204.5%
フィリピン
2.6%
377.2%
シンガポール
4.2%
227.2%
タイ
7.0%
371.4%
ベトナム
5.5%
163.1%
その他東南アジア
3.7%
248.1%
インド
-0.2%
336.3%
豪州
4.8%
279.5%
ブラジル
4.8%
242.7%
欧州連合
6.2%
275.7%
米国
5.1%
349.1%
ロシア
9.0%
308.3%
ヴェネズエラと中近東
5.7%
302.6%
その他地域
5.6%
158.3%
63
2001 年時点でのバイオ燃料生産量が少ないことから、原油価格の高騰により 160%から 400%近くに
上る大幅なバイオ燃料需要増が引き起こされる結果となった。一方バイオ燃料価格への影響は 10%以
下となった。これは大幅なバイオ燃料需要増に対し、バイオ燃料の原料として想定されている穀物、サト
ウキビ・甜菜、食用油などを燃料用に転用することで大幅な増産が起こっていることを示唆している。この
メカニズムに関連し、主要な食料価格への影響を表 2-8 に示す。
表 2-8 原油価格高騰による各地域の食料価格への影響
穀物
サトウキビ、甜
菜
食用油
食料品
中国
8.1%
7.9%
2.4%
1.5%
日本
3.2%
2.8%
3.5%
1.6%
韓国
9.2%
5.5%
4.4%
2.1%
インドネシア
1.8%
2.3%
0.1%
0.5%
マレーシア
4.8%
5.9%
2.0%
2.0%
フィリピン
1.6%
1.4%
-1.9%
-0.4%
シンガポール
3.4%
5.3%
2.0%
1.0%
タイ
4.4%
5.4%
1.0%
1.8%
ベトナム
9.2%
2.5%
1.1%
0.4%
その他東南アジア
3.4%
3.0%
2.2%
2.1%
インド
-1.4%
-0.9%
-0.8%
-0.5%
豪州
4.9%
4.1%
1.9%
1.8%
ブラジル
4.2%
5.7%
3.1%
1.7%
欧州連合
6.3%
5.9%
1.6%
1.4%
米国
4.8%
3.9%
3.2%
1.8%
ロシア
10.3%
7.0%
3.7%
3.0%
ヴェネズエラと中近東
6.1%
7.7%
4.5%
5.0%
その他地域
5.5%
6.6%
3.3%
2.3%
予想されたように主要食料価格の上昇が確認されたが、とくにバイオエタノールの原料である穀物およ
びサトウキビ・甜菜の価格上昇が、バイオディーゼルの原料となる食用油の価格上昇を上回る結果となっ
た。
(2) 環境負荷インベントリーモデルの検証
環境負荷インベントリーモデルを検証する目的で、2001 年から 2003 年までのマクロ経済データおよ
び原油価格変化を外生ショックとして与え、石油産業における化石燃料とバイオ燃料の代替についてシ
ミュレーション結果と実データの比較を行った。
① 検証作業用データ
検証作業に使用したデータは以下の通りである。
64
マクロ経済データ
•
世界開発指標(世界銀行)、
•
パーデュ大学世界貿易分析センター:マクロ経済予測値
•
国連人口統計(国連)
原油価格データ
•
米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)世界原油価格データ(年間平均値)
バイオエタノール生産量
•
国際エネルギー機関(IEA)国別バイオガソリン生産量データ
バイオエタノール価格
•
F.O.Licht Ethanol Prodution Costs: A World Survey
② 検証結果
モデルが実測値をどれだけ再現できるかを検証するために、データベースの基準年である 2001 年か
ら 2003 年までの 3 年間および 2004 年までの 4 年間の世界原油価格年間平均値の変化率を外生ショ
ックとして与えるシミュレーションを実施し、バイオエタノール価格および生産量についてシミュレーション
結果と実測値を比較した。結果を表 2-9 および表 2-10 に示す。
表 2-9 バイオエタノール生産量変化率(%)
期間
2001-2004
(原油価格変化率)
(19.3%)
(52.3%)
実測値
77.1
114.9
計算値
93.5
330.2
実測値
38.7
22.5
計算値
87.1
308.5
実測値
239.1
328.4
計算値
85.7
291.8
アメリカ
ブラジル
EU
2001-2003
65
表 2-10 バイオエタノール価格変化率(%)
期間
2001-2004
(原油価格変化率)
(19.3%)
(52.3%)
実測値
-31.8
9.1
計算値
-1.4
-1.2
実測値
-8.6
-42.9
計算値
-1.6
-1.8
実測値
-4.5
-9.1
計算値
-1.5
-1.1
アメリカ
ブラジル
EU
2001-2003
生産量、価格ともにモデルの計算結果は実測値とほぼ同じ符号を再現しているが、変化率の値につ
いては実測値に見られる国ごとの大きな違いを反映していない。一般均衡モデルは急激な変化の再現
に難があると言われており、今回の結果はそれを裏付けることとなった。
1.4
バイオ燃料セクターを明示的に扱ったバイオマス需給バランスモデルの開発
バイオマス需給バランスモデルの開発にあたっては、バイオ燃料生産による雇用および資本使用のモ
デル化およびバイオ燃料の国際貿易のモデル化を可能とするために、バイオ燃料セクターを追加する作
業を行った。この点で、バイオ燃料を独立した産業セクターとして扱うのではなく、バイオ燃料を原油と代
替可能な石油産業への投入物として生産関数に組み込んだ環境負荷インベントリーモデルとは異なって
いる。
バ イ オ マ ス需 給 バ ラ ンスモ デ ル 用デ ー タセ ット は、 GTAP セン タ ーの Hertel ら の チー ムが 、
GTAP-BIO データセットと最新版の GTAP-E をベースに改良したモデルを用いて、世界原油価格高騰、
米国の MTBE 使用禁止、および欧米のバイオ燃料補助金の 3 つのショックに対して 2001 年から 2006
年の時系列データに対する検証を行った研究を参考に、GTAP version 6 データベースにトウモロコシ
由来のエタノール、サトウキビ由来のエタノール、およびバイオディーゼルの 3 セクターを追加した 87 地
域-60 セクターGTAP データセット(GTAP-BIO データセット)から、本調査に対応した 18 地域-38 セク
ター(2001 年対応)データセットを作成した。 また、バイオ燃料と化石燃料代替を反映するために、生産
過程および消費の双方において石油製品と 3 種類のバイオ燃料が代替可能な構造をモデル化した。
さらに、バイオマスエネルギー需給に影響を与える政策に関し環境資源管理システムとの連携を改善
する目的で、生産要素について資本、熟練労働、非熟練労働、および天然資源に加え、気候および土
壌タイプによって土地資本を細分化した農業生態系(AEZ)ゾーンデータに基づき、耕作適地と耕作非
適地の 2 種類に集計した。そのうえでエネルギー作物生産における耕作適地投入と耕作非適地投入の
間の代替弾性値を食料作物よりも高く設定することにより、エネルギー作物に関し耕作非適地の活用が
期待されている点を分析に反映した。また政策による影響を分析する上で重要となる政府予算制約に関
連し、昨年度のモデルでは一般家計と政府部門が「地域家計」として集計されており明示的に扱うことが
66
できなかった欠点を解消するために、地域別の家計貯蓄率などのデータを活用し地域家計を解消し一
般家計と政府部門の予算制約を明示的に扱える改良を行った。
このような改良作業を行うために、環境負荷インベントリーモデルの開発においては通常の計算可能
な一般均衡モデルによるシミュレーション分析では変数の変化もしくは変化率でもって記述するソフトウェ
ア GEMPACK (General Equilibrium Modelling PACKage)を用いたが、バイオ燃料セクターを明示
的に扱ったバイオマス需給バランスモデルの開発に当たっては、より汎用性の広い GAMS(General
Algebraic Modeling System)ソフトウェアを用いた国際貿易一般均衡モデルを開発した。GTAP デー
タベースは通常の財・サービスの貿易についてはすべての二国間データを含んでいるが、貿易に伴う国
際運輸費用(マージンコスト)に関しては需要側について二国間の詳細な情報が含まれているものの、供
給側については陸運、海運、空輸について各地域が全体としてどれだけ供給しているかしか分からない
ため、この情報の不足を補うために各地域の国際運輸サービス売上の比率が一定であるという仮定を採
用し対処した。地域区分、産業区分については昨年度開発した環境負荷インベントリーモデルと同じ 3
つのバイオエネルギーセクターを含む 38 セクター-18 地域区分としている。
バイオマス需給バランスモデルは、GAMS ソフトウェアを用いて GTAP データベースを入力データとし
て使用する多地域貿易一般均衡モデルである GTAP6 in GAMS モデルをベースに開発されている。ま
ず、生産は、中間財投入と付加価値を要素とするレオンティエフ型生産関数で決定される。中間財の財
別需要もレオンティエフ型で決定されるが、財別需要の国産品需要と輸入品需要の振り分けは CES 型
関数に基づくアーミントン・アプローチを採用している。また、輸入品の国別配分は、レオンティエフ型で
ある。付加価値の生産関数は、資本、熟練労働、非熟練労働、天然資源、土地を生産要素とする CES
型関数と土地に関して耕作適地と耕作非適地を要素とする CES 型関数により構成される入れ子型 CES
型関数になっている。そして、この入れ子型 CES 型関数を制約条件とする代表的企業の費用最小化問
題を解くことで、生産要素需要を決定している。
家計は、企業に労働を提供し、その対価として賃金を受け取る。そして、その賃金により家計消費がな
される。家計は、コブ=ダグラス型効用関数を持ち、費用最小化問題を解くことで、財別の消費を決定する。
財別家計消費の国産品需要と輸入品需要への振り分けは、アーミントン・アプローチに基づいている。な
お、GTAP6inGAMS においては、家計行動は、国全体のマクロ的な家計を想定してモデリングがなされ
ている。しかし、本研究においては、一人当たり変数にすることで、人口変動の影響を評価することができ
るようにしてある。
一方、政府は、生産や貿易などにおいて課せられた租税を収入とし、レオンティエフ型関数でもって財
別の政府支出を決定する。国産品需要と輸入品需要への振り分けは、家計消費の場合と同じく、アーミ
ントン・アプローチによって行う。
また、国際運輸はコブ=ダグラス型関数を、土地や天然資源など産業部門固有の投入に関しては CET
型関数を前提にしてそれらの需要を決定している。なお、投資需要と国際間資本移動については外生
変数としている。
最後に、一般均衡条件として、全ての財市場と生産要素市場において需要と供給が均衡するような均
衡価格が決定されることで解が得られる。
67
1.5 バイオマスエネルギー需給に影響を与える政策に関するシナリオの影響評価
国際市場の状況に大きな影響を与える原油価格を背景シナリオとし、中国のバイオエタノール生産が
20%増加した場合の食糧・バイオマスエネルギーの国際市場での均衡価格・需給バランスを開発した国
際貿易一般均衡モデルを用いて分析した。原油価格については、ベースラインシナリオおよび原油価格
国際価格がベースライン値より 50%高かった石油価格高騰シナリオを設定したうえで、中国のバイオエタ
ノール生産が 20%増加した場合の影響についてシミュレーションを行った。
影響評価指標として、中国のバイオエタノール生産の主原料が含まれる小麦およびその他穀物の 2 つ
の商品の消費者物価指数で実質化した消費者価格と、また土地競合に関し耕作適地と耕作非適地の取
引価格を用いた。ベースラインシナリオにおけるシミュレーション結果を表 2-11 から表 2-14 に示す。
表 2-11 ベースラインシナリオにおける中国バイオエタノール生産 20%増加による
小麦の消費者価格の変化率[%]
CHN
JPN
KOR
IDN
MYS
PHL
SGP
THA
VNM
XSE
IND
AUS
BRA
EU
USA
RUS
MEV
ROW
2004 年
-0.000028
0.000000
0.000001
-0.000003
0.000000
-0.000001
0.000003
-0.000001
0.000002
-0.000002
0.000000
0.000001
0.000001
0.000001
0.000007
0.000004
0.000000
0.000000
2005 年
0.000004
-0.000001
-0.000001
0.000002
0.000000
0.000001
-0.000003
0.000001
-0.000002
0.000002
0.000000
-0.000002
-0.000001
-0.000001
-0.000007
-0.000004
0.000000
-0.000001
2006 年
0.000130
-0.000005
-0.000007
0.000017
-0.000006
0.000008
-0.000025
0.000005
-0.000015
0.000012
-0.000003
-0.000013
-0.000008
-0.000008
-0.000057
-0.000034
-0.000002
-0.000005
2007 年
0.000517
-0.000023
-0.000023
0.000058
-0.000026
0.000025
-0.000102
0.000012
-0.000052
0.000046
-0.000011
-0.000053
-0.000034
-0.000033
-0.000220
-0.000137
-0.000009
-0.000022
68
2008 年
0.000727
-0.000041
-0.000030
0.000081
-0.000048
0.000034
-0.000170
0.000008
-0.000078
0.000071
-0.000016
-0.000088
-0.000056
-0.000057
-0.000351
-0.000227
-0.000016
-0.000041
2009 年
0.000812
-0.000059
-0.000031
0.000090
-0.000068
0.000035
-0.000226
-0.000005
-0.000094
0.000086
-0.000018
-0.000115
-0.000074
-0.000078
-0.000448
-0.000298
-0.000023
-0.000060
2010 年
0.000843
-0.000077
-0.000030
0.000091
-0.000087
0.000032
-0.000278
-0.000021
-0.000106
0.000099
-0.000020
-0.000140
-0.000090
-0.000098
-0.000529
-0.000361
-0.000030
-0.000079
表 2-12 ベースラインシナリオにおける中国バイオエタノール生産 20%増加による
その他穀物の消費者価格の変化率[%]
CHN
JPN
KOR
IDN
MYS
PHL
SGP
THA
VNM
XSE
IND
AUS
BRA
EU
USA
RUS
MEV
ROW
2004 年
-0.000032
0.000000
0.000013
0.000006
0.000030
0.000002
0.000004
0.000004
0.000023
0.000003
0.000001
0.000011
0.000001
0.000001
0.000005
0.000004
0.000000
0.000000
2005 年
0.000017
0.000000
-0.000015
-0.000006
-0.000032
-0.000002
-0.000004
-0.000004
-0.000025
-0.000003
-0.000001
-0.000011
-0.000001
-0.000001
-0.000005
-0.000004
0.000000
0.000000
2006 年
0.000218
-0.000004
-0.000109
-0.000049
-0.000240
-0.000018
-0.000032
-0.000033
-0.000190
-0.000022
-0.000005
-0.000095
-0.000009
-0.000008
-0.000039
-0.000037
0.000000
-0.000004
2007 年
0.000894
-0.000023
-0.000411
-0.000187
-0.000901
-0.000069
-0.000128
-0.000129
-0.000725
-0.000086
-0.000018
-0.000384
-0.000038
-0.000035
-0.000154
-0.000150
-0.000002
-0.000018
2008 年
0.001412
-0.000049
-0.000651
-0.000295
-0.001412
-0.000109
-0.000213
-0.000208
-0.001150
-0.000140
-0.000025
-0.000628
-0.000062
-0.000059
-0.000250
-0.000249
-0.000007
-0.000033
2009 年
0.001778
-0.000078
-0.000823
-0.000373
-0.001770
-0.000139
-0.000284
-0.000267
-0.001459
-0.000180
-0.000029
-0.000818
-0.000083
-0.000080
-0.000325
-0.000328
-0.000013
-0.000048
2010 年
0.002072
-0.000109
-0.000962
-0.000435
-0.002046
-0.000163
-0.000347
-0.000315
-0.001708
-0.000214
-0.000031
-0.000981
-0.000102
-0.000100
-0.000392
-0.000397
-0.000020
-0.000063
表 2-13 ベースラインシナリオにおける中国バイオエタノール生産 20%増加による
耕作適地価格の変化率[%]
CHN
JPN
KOR
IDN
MYS
PHL
SGP
THA
VNM
XSE
IND
AUS
BRA
EU
USA
RUS
MEV
ROW
2004 年
0.000180
0.000009
0.000007
0.000007
0.000024
0.000005
0.000016
0.000004
0.000013
0.000007
0.000002
0.000023
0.000008
0.000009
0.000024
0.000027
0.000003
0.000007
2005 年
-0.000176
-0.000008
-0.000006
-0.000007
-0.000023
-0.000005
-0.000015
-0.000005
-0.000013
-0.000006
-0.000002
-0.000021
-0.000009
-0.000008
-0.000022
-0.000026
-0.000003
-0.000007
2006 年
-0.001226
-0.000068
-0.000041
-0.000058
-0.000186
-0.000039
-0.000126
-0.000040
-0.000103
-0.000050
-0.000016
-0.000171
-0.000070
-0.000073
-0.000176
-0.000220
-0.000023
-0.000059
2007 年
-0.004275
-0.000261
-0.000129
-0.000222
-0.000721
-0.000149
-0.000487
-0.000151
-0.000401
-0.000189
-0.000057
-0.000639
-0.000270
-0.000290
-0.000659
-0.000864
-0.000086
-0.000237
69
2008 年
-0.006237
-0.000413
-0.000165
-0.000348
-0.001145
-0.000234
-0.000776
-0.000234
-0.000640
-0.000294
-0.000084
-0.000979
-0.000430
-0.000471
-0.001012
-0.001388
-0.000133
-0.000390
2009 年
-0.007330
-0.000525
-0.000169
-0.000434
-0.001455
-0.000295
-0.000990
-0.000291
-0.000818
-0.000365
-0.000100
-0.001200
-0.000549
-0.000613
-0.001244
-0.001777
-0.000164
-0.000513
2010 年
-0.008001
-0.000619
-0.000161
-0.000500
-0.001724
-0.000344
-0.001165
-0.000334
-0.000965
-0.000418
-0.000109
-0.001357
-0.000648
-0.000737
-0.001420
-0.002095
-0.000190
-0.000623
表 2-14 ベースラインシナリオにおける中国バイオエタノール生産 20%増加による
耕作非適地価格の変化率[%]
CHN
JPN
KOR
IDN
MYS
PHL
SGP
THA
VNM
XSE
IND
AUS
BRA
EU
USA
RUS
MEV
ROW
2004 年
0.000155
0.000008
-0.000021
0.000005
-0.000021
-0.000021
-0.000018
0.000002
0.000019
0.000024
0.000002
0.000026
0.000008
0.000014
0.000022
0.000044
0.000003
0.000007
2005 年
-0.000154
-0.000008
0.000019
-0.000005
0.000020
0.000019
0.000017
-0.000004
-0.000019
-0.000023
-0.000002
-0.000023
-0.000009
-0.000013
-0.000019
-0.000042
-0.000003
-0.000007
2006 年
-0.001066
-0.000063
0.000150
-0.000040
0.000156
0.000151
0.000133
-0.000026
-0.000152
-0.000189
-0.000017
-0.000187
-0.000067
-0.000114
-0.000157
-0.000355
-0.000025
-0.000063
2007 年
-0.003707
-0.000243
0.000553
-0.000146
0.000581
0.000564
0.000493
-0.000097
-0.000597
-0.000731
-0.000060
-0.000700
-0.000257
-0.000458
-0.000587
-0.001388
-0.000094
-0.000252
2008 年
-0.005403
-0.000385
0.000835
-0.000219
0.000888
0.000868
0.000745
-0.000149
-0.000965
-0.001161
-0.000088
-0.001069
-0.000409
-0.000751
-0.000895
-0.002224
-0.000145
-0.000411
2009 年
-0.006344
-0.000489
0.001010
-0.000263
0.001088
0.001070
0.000903
-0.000182
-0.001247
-0.001472
-0.000104
-0.001306
-0.000522
-0.000982
-0.001093
-0.002838
-0.000179
-0.000538
2010 年
-0.006916
-0.000577
0.001135
-0.000291
0.001235
0.001222
0.001014
-0.000207
-0.001487
-0.001723
-0.000113
-0.001471
-0.000616
-0.001184
-0.001241
-0.003334
-0.000207
-0.000649
予想したように、中国のバイオエタノール生産の原料作物である小麦およびその他穀物に関しては、
中国の消費者価格に上昇がみられた。しかしバイオ燃料セクターのシェアが小さいことから、バイオ燃料
20%増産の影響は極めて小さいものとなっている。一方、耕作適地および耕作非適地の取引価格はい
ずれもわずかではあるが減少している。この点については、バイオエタノール増産の影響をシミュレーショ
ンするために、本来内生変数であるバイオエタノール産出量を外生変数として政策ショックを与え、その
代わりに本来モデルに外生変数として組み込まれている全要素生産性(TFP)を内生化するという操作を
行ったため、産出量増を可能とするために TFP が増加した結果、土地を含めた投入要素価格が減少し
たと考えられる。
次に原油価格高騰シナリオとして、原油輸出価格に 50%の輸出税をかけた背景シナリオに対して中国
のバイオエタノール生産が 20%増加した場合の影響を分析した。原油価格高騰シナリオにおけるシミュ
レーション結果を表 2-15 から表 2-18 に示す。
70
表 2-15 石油価格高騰シナリオにおける中国バイオエタノール生産 20%増加による
小麦の消費者価格の変化率[%]
CHN
JPN
KOR
IDN
MYS
PHL
SGP
THA
VNM
XSE
IND
AUS
BRA
EU
USA
RUS
MEV
ROW
2004 年
-0.000029
0.000000
0.000001
-0.000003
0.000000
-0.000001
0.000003
-0.000001
0.000003
-0.000002
0.000000
0.000002
0.000001
0.000001
0.000007
0.000004
0.000000
0.000000
2005 年
0.000002
0.000000
-0.000001
0.000002
0.000000
0.000001
-0.000002
0.000001
-0.000002
0.000001
0.000000
-0.000001
-0.000001
-0.000001
-0.000006
-0.000003
0.000000
0.000000
2006 年
0.000122
-0.000005
-0.000006
0.000016
-0.000005
0.000008
-0.000023
0.000005
-0.000016
0.000011
-0.000003
-0.000012
-0.000008
-0.000007
-0.000052
-0.000031
-0.000002
-0.000005
2007 年
0.000513
-0.000022
-0.000021
0.000057
-0.000024
0.000027
-0.000097
0.000015
-0.000059
0.000044
-0.000011
-0.000052
-0.000033
-0.000031
-0.000214
-0.000134
-0.000009
-0.000022
2008 年
0.000733
-0.000040
-0.000028
0.000082
-0.000045
0.000038
-0.000164
0.000013
-0.000089
0.000068
-0.000017
-0.000087
-0.000055
-0.000054
-0.000347
-0.000225
-0.000016
-0.000040
2009 年
0.000823
-0.000057
-0.000029
0.000091
-0.000065
0.000041
-0.000219
0.000002
-0.000108
0.000084
-0.000020
-0.000115
-0.000073
-0.000075
-0.000444
-0.000297
-0.000023
-0.000059
2010 年
0.000856
-0.000075
-0.000028
0.000093
-0.000085
0.000039
-0.000268
-0.000013
-0.000121
0.000096
-0.000022
-0.000140
-0.000089
-0.000094
-0.000526
-0.000360
-0.000031
-0.000078
表 2-16 石油価格高騰シナリオにおける中国バイオエタノール生産 20%増加による
その他穀物の消費者価格の変化率 [%]
CHN
JPN
KOR
IDN
MYS
PHL
SGP
THA
VNM
XSE
IND
AUS
BRA
EU
USA
RUS
MEV
ROW
2004 年
-0.000035
0.000000
0.000014
0.000007
0.000032
0.000002
0.000004
0.000004
0.000025
0.000003
0.000001
0.000012
0.000001
0.000001
0.000005
0.000005
0.000000
0.000000
2005 年
0.000014
0.000000
-0.000013
-0.000006
-0.000028
-0.000002
-0.000003
-0.000004
-0.000022
-0.000002
-0.000001
-0.000009
-0.000001
-0.000001
-0.000004
-0.000004
0.000000
0.000000
2006 年
0.000206
-0.000003
-0.000102
-0.000047
-0.000226
-0.000017
-0.000029
-0.000031
-0.000179
-0.000021
-0.000005
-0.000088
-0.000009
-0.000008
-0.000036
-0.000034
0.000000
-0.000003
2007 年
0.000889
-0.000021
-0.000402
-0.000186
-0.000890
-0.000069
-0.000123
-0.000128
-0.000715
-0.000085
-0.000019
-0.000377
-0.000036
-0.000033
-0.000149
-0.000147
-0.000001
-0.000017
71
2008 年
0.001428
-0.000046
-0.000645
-0.000298
-0.001418
-0.000112
-0.000208
-0.000209
-0.001153
-0.000141
-0.000028
-0.000628
-0.000061
-0.000057
-0.000246
-0.000247
-0.000006
-0.000032
2009 年
0.001806
-0.000074
-0.000819
-0.000378
-0.001786
-0.000143
-0.000277
-0.000270
-0.001469
-0.000182
-0.000033
-0.000822
-0.000082
-0.000077
-0.000322
-0.000326
-0.000011
-0.000047
2010 年
0.002107
-0.000104
-0.000958
-0.000442
-0.002069
-0.000168
-0.000339
-0.000320
-0.001723
-0.000217
-0.000035
-0.000988
-0.000100
-0.000097
-0.000389
-0.000396
-0.000018
-0.000062
表 2-17 石油価格高騰シナリオにおける中国バイオエタノール生産 20%増加による
耕作適地価格の変化率 [%]
CHN
JPN
KOR
IDN
MYS
PHL
SGP
THA
VNM
XSE
IND
AUS
BRA
EU
USA
RUS
MEV
ROW
2004 年
0.000195
0.000010
0.000008
0.000008
0.000026
0.000005
0.000017
0.000005
0.000013
0.000007
0.000003
0.000025
0.000009
0.000009
0.000026
0.000029
0.000003
0.000007
2005 年
-0.000154
-0.000007
-0.000005
-0.000006
-0.000019
-0.000004
-0.000013
-0.000005
-0.000011
-0.000006
-0.000002
-0.000019
-0.000008
-0.000007
-0.000019
-0.000022
-0.000002
-0.000006
2006 年
-0.001158
-0.000064
-0.000037
-0.000055
-0.000175
-0.000038
-0.000118
-0.000038
-0.000096
-0.000048
-0.000016
-0.000162
-0.000066
-0.000068
-0.000165
-0.000206
-0.000020
-0.000055
2007 年
-0.004237
-0.000259
-0.000126
-0.000221
-0.000710
-0.000152
-0.000476
-0.000152
-0.000392
-0.000189
-0.000059
-0.000636
-0.000267
-0.000284
-0.000648
-0.000850
-0.000078
-0.000233
2008 年
-0.006280
-0.000416
-0.000164
-0.000351
-0.001146
-0.000245
-0.000769
-0.000241
-0.000638
-0.000297
-0.000089
-0.000991
-0.000432
-0.000470
-0.001010
-0.001388
-0.000121
-0.000388
2009 年
-0.007411
-0.000531
-0.000169
-0.000440
-0.001462
-0.000310
-0.000985
-0.000301
-0.000822
-0.000370
-0.000106
-0.001221
-0.000553
-0.000614
-0.001247
-0.001785
-0.000151
-0.000513
2010 年
-0.008103
-0.000627
-0.000161
-0.000507
-0.001735
-0.000362
-0.001160
-0.000348
-0.000974
-0.000425
-0.000116
-0.001384
-0.000655
-0.000740
-0.001426
-0.002109
-0.000174
-0.000624
表 2-18 石油価格高騰シナリオにおける中国バイオエタノール生産 20%増加による
耕作非適地価格の変化率[%]
CHN
JPN
KOR
IDN
MYS
PHL
SGP
THA
VNM
XSE
IND
AUS
BRA
EU
USA
RUS
MEV
ROW
2004 年
0.000168
0.000009
-0.000022
0.000006
-0.000023
-0.000022
-0.000020
0.000003
0.000019
0.000026
0.000003
0.000028
0.000009
0.000015
0.000024
0.000047
0.000003
0.000008
2005 年
-0.000135
-0.000007
0.000017
-0.000004
0.000017
0.000016
0.000015
-0.000004
-0.000016
-0.000020
-0.000002
-0.000020
-0.000008
-0.000011
-0.000017
-0.000036
-0.000002
-0.000006
2006 年
-0.001007
-0.000060
0.000142
-0.000037
0.000147
0.000142
0.000126
-0.000026
-0.000141
-0.000179
-0.000016
-0.000178
-0.000063
-0.000107
-0.000148
-0.000333
-0.000021
-0.000059
2007 年
-0.003676
-0.000241
0.000551
-0.000145
0.000574
0.000558
0.000489
-0.000099
-0.000582
-0.000726
-0.000062
-0.000700
-0.000254
-0.000452
-0.000578
-0.001370
-0.000084
-0.000247
2008 年
-0.005443
-0.000387
0.000847
-0.000221
0.000891
0.000872
0.000753
-0.000155
-0.000960
-0.001171
-0.000093
-0.001087
-0.000411
-0.000753
-0.000895
-0.002232
-0.000132
-0.000409
2009 年
-0.006416
-0.000494
0.001032
-0.000266
0.001096
0.001080
0.000917
-0.000192
-0.001251
-0.001490
-0.000110
-0.001335
-0.000527
-0.000990
-0.001097
-0.002862
-0.000164
-0.000537
2010 年
-0.007008
-0.000585
0.001163
-0.000295
0.001247
0.001237
0.001033
-0.000220
-0.001501
-0.001746
-0.000121
-0.001507
-0.000623
-0.001197
-0.001248
-0.003369
-0.000188
-0.000649
原油価格高騰シナリオにおける中国のバイオエタノール増産の影響は、原油価格ベースラインシナリ
オにおけるものとあまり違いはなかった。ただし中国のバイオエタノール生産の原料作物である小麦およ
びその他穀物に関しては消費者価格の上昇率がわずかではあるが原油価格ベースラインシナリオにお
けるものよりも高くなっており、原油価格高騰により中国以外のバイオエタノール需要が伸びたことにより
食糧作物-燃料作物の競合がより進んだと考えられる。
72
【学会などでの発表実績リスト】
2-1) San In Kang, 2008. Evaluation of Environmental Load through Free Trade using
Applied General Equilibrium Models and Input-Output Table, International Workshop
on Development of
Environmental Management Technology for
Sustainable
Utilization of Biomass, March, Keio University, Tokyo.
2-2) Kojima, S. 2008. Development of World Econometric Model for Analysis of Effect of
Biofuel on the Balance of Supply and Demand of Food, International Workshop on
Development of Environmental Management Technology for Sustainable Utilization of
Biomass, March, Keio University, Tokyo.
73
水・汚濁負荷・CO2 インベントリシステムの開発(慶応大学
研究所
丹治三則、渡辺正孝、国立環境
岡寺智大)
1. 研究概要
本研究では、食糧・バイオ燃料の需給バランス変化シナリオのもと、環境影響を分析可能な経済モデ
ルを開発することを目的としている。中国の産業別の用水量の内訳をみると、生活用水 650 億 m3(11%)、
工業用水 1220 億 m3(22%)、農業用水 3585 億 m3(64%)であり、農業用水のしめる割合が大きい。一
方で、地域的に水資源が偏在しており北京市、天津市、河北省を含む海河地域は乾燥地帯であり、長
江流域と比較すると、耕地面積あたりの利用可能な水資源量は長江流域の 1/10 程度である(表 2-19)。
このため表流水だけでなく地下水についても年間の水位回復量を上回る速さで利用しており、黄河の断
流や華北平原での地下水位の低下が指摘されている(図 2-2)。
そこで、各産業の単位経済活動量あたりの用水量(地下水、地表水)、排水量、汚濁負荷量(COD、
T-N、T-P)を解析するために、マクロ型と分布型の環境負荷インベントリを開発した。特に、用水量の
60%を占める農業セクター分類を米、小麦、トウモロコシ等の主要作物別に区分して、各作物別に地表
水と地下水を推定可能にし、水資源消耗率を考慮することで、農業での節水技術の効果を水源別に評
価可能に拡張したモデルである。
表 2-19
River system
Water
resources
(%)
中国主要流域での水資源量比較
Cultivated
Population
land
(%)
(%)
Per capita
water
resources
(cubic meter per
year per person)
Water resources
per hectare
cultivated land
(cubic meter per
year per hectare)
Haihe Catchment
1.5
10
10.9
293
3760
Huai River
3.4
16
14.9
389
6310
Huang River
2.6
8.0
12.7
656
5730
Yangtze River
34.2
34.0
24.0
2369
39300
74
図 2-2 華北平原における地下水位の変化(標高 m)
2. 研究方法
(1) 環境負荷インベントリモデルの開発
① 地域分類・産業分類
マクロ型の環境負荷インベントリは、産業区分 46 分類、地域区分 31 省市別に設定した。特に農業セ
クターは用水量が大きいことから、米・粟・雑穀、小麦、大豆・トウモロコシ、野菜、果樹等の主要作物を区
分して環境負荷インベントリを開発した。地域分類及び産業セクター分類を下記に示す(表 2-20)。分布
型のインベントリーについても、マクロ型のインベントリモデルの産業分類を踏襲するが、県単位(日本で
いう市町村単位)の社会経済データを別途整備した。
75
表 2-20
環境負荷量推定の地域分類及び産業分類
地域分類
Region_code
i01
i02
i03
i04
i05
i06
i07
i08
i09
i10
i11
i12
i13
i14
i15
i16
i17
i18
i19
i20
i21
i22
i23
i24
i25
i26
i27
i28
i29
i30
i31
省市名
上海市
江蘇省
浙江省
安徽省
江西省
湖北省
湖南省
河南省
陜西省
重慶市
四川省
貴州省
甘粛省
雲南省
青海省
福建省
広東省
広西壮族自治区
海南省
北京市
天津市
河北省
黒龍江省
吉林省
遼寧省
山東省
内モンゴル自治区
山西省
新疆ウイグル族自治区
寧夏回族自治区
チベット自治区
Sector_code
S_00
S_01
S_02
S_03
S_04
S_05
S_06
S_07
S_08
S_09
S_10
S_11
S_12
S_13
S_14
S_15
S_16
S_17
S_18
S_19
S_20
S_21
S_22
S_23
S_24
S_25
S_26
S_27
S_28
S_29
S_30
S_31
S_32
S_33
S_34
S_35
S_36
S_37
S_38
S_39
S_40
S_41
S_42
S_43
S_44
S_45
76
セクター分類
セクター分類
Sector_name
家計
米、あわ、雑穀
小麦
大豆、トウモロコシ
野菜
果樹
その他作物
豚
ヤギ、羊
その他畜産業
豚肉
その他肉
卵、牛乳
林業
漁業
石炭鉱業
原油・天然ガス鉱業
金属鉱業
非鉄鉱石鉱業
食品
たばこ製造業
繊維工業
衣服,なめし皮,毛皮,その他の繊維製品製造業
木材・木製品製造業
紙
印刷・出版
石油製品・石炭製品製造業
化学工業
窯業・土石製品製造業
鉄鋼業
金属製品製造業
機械器具製造業
輸送用機械器具製造業
電気機械器具製造業
情報通信器具製造業
電子部品・精密機械製造業
機械器具修理補修業
その他製造業
廃棄物処理業
電気・熱供給業
ガス業
水道業
建設業
運輸倉庫業
卸売小売業
サービス業
②用水需要量
a. 農業系
農業系の水消費量を算出するためには、灌漑設備の有無、作付種、作付時期や期間、気候条件(気
温、風向)によって異なる蒸発散量、灌漑効率、地下浸透率等の圃場での水収支を考慮しなければなら
ない(図 2-3)。
図 2-3 灌漑区の水収支(星川ら)
灌漑設備が整備されていない地域では、降雨による農業を実施しているため河川からの用水量は発
生しないため、総農地面積に占める灌漑農地面積を推定しなければならない(表 2-21)。
全世界の紙地図やデジタルデータを集約した灌漑農地の解析によると、中国では灌漑設備が整備さ
れている農地は全体の約 50%~60%程度と推定されている(図 2-4)。華中地域及び華北地域の淮河、
海河では灌漑面積は比較的高く、長江、珠江、南東地域では比較的低くなっている。この結果を用いて
作物別の灌漑面積を推定した。次に、蒸発散量については、FAOSTAT で用いられている(1)式で、国
別、作物別の蒸発散量を算出し、これに基づいて作物の要求量を算出している。
ET0 =
900
U 2 (es − ea )
T + 273
∆ + γ (1 + 0.34U 2 )
0.408∆( Rn − G) + γ
(1)
ET 0 : reference crop evapotrans piration [mm / day ]
∆ : slope of the vapour pressure curve [kPa/ °C]
T : average air temper ature [ °C]
γ : psychromet ric constant [kPa/ ° C]
e s : saturation vapour pressure [kPa]
R n : net radiation at the crop surface [MJ/m2/day ]
G : soil heat flux [MJ/m2/day ]
U 2 : wind speed measured at 2 m height [m/s]
e a : actual vapour pressure [kPa]
e s − e a : vapour pressure deficit [kPa].
77
作物の別の作付面積は中国農業年鑑で得られるため、中国水資源広報から得られた表流水、地下水
別の農業用水量に占める比率、AQUASTAT から得た灌漑効率を考慮して作物別の水資源消費量を推
定した。
WD s s = ε * λ * ET0 * S irg s
WD
g
s
= (1 − ε ) * λ * ET0 * S
(2)
irg
s
(3)
s : 作物種
WSs : 表流水用水量
WGs : 地下水用水量
ε : 地表水使用割合
λ : 灌漑効率
S irg s : 灌漑面積
図 2-4 中国の灌漑農地分布
78
表 2-21 省市別の総耕地面積及び灌漑面積
Province
総耕地面積
1000ha
灌漑面積
Yearbook
Lower limit
Upper limit
Statistical
Computed
Computed
1000ha
1000ha
1000ha
灌漑面積率
%
Beijing
472
304
312
499
64.4
Tianjin
586
378
388
620
64.4
Hebei
10,046
4,482
3,189
4,303
44.6
Shaanxi
3,941
1,308
1,173
2,325
33.2
Inner Mongolia
5,769
2,372
1,092
2,643
41.1
Liaoning
4,327
1,441
715
1,442
33.3
Jilin
5,052
1,315
307
902
26.0
Heilongjiang
10,160
2,032
468
1,116
20.0
532
286
238
352
53.8
Jiangsu
7,977
3,901
3,991
5,887
48.9
Zhejiang
3,638
1,403
1,453
2,869
38.6
Anhui
8,940
3,197
2,393
4,660
35.8
Fujian
3,402
940
884
2,090
27.6
Jiangxi
5,822
1,903
1,809
3,183
32.7
Shandong
12,022
4,825
4,151
5,749
40.1
Henan
13,492
4,725
3,155
4,915
35.0
Hubei
7,880
2,073
1,999
2,690
26.3
Hunan
8,359
2,678
2,320
2,877
32.0
Guangdong
6,228
1,479
1,747
3,825
23.7
Guangxi
7,130
1,502
1,443
2,658
21.1
Hainan
1,023
180
139
618
17.6
Chongqing
3,690
625
545
1,583
16.9
Sichuan
9,983
2,469
1,969
3,944
24.7
Guizhou
4,788
653
514
1,729
13.6
Yunnan
6,323
1,403
908
1,969
22.2
232
157
95
384
67.7
Shanxi
5,050
1,105
980
1,874
21.9
Gansu
3,972
982
795
2,155
24.7
Qinghai
534
211
161
423
39.6
Ningxia
1,051
399
237
507
37.9
Xinjiang
3,630
3,095
1,916
5,386
85.3
166,049
53,821
41,485
76,175
Shanghai
Tibet
total
79
b. 畜産業
畜産系の汚濁負荷量は、家畜 1 頭当たりの汚濁物質の用水量原単位に 8 種類の家畜(牛、馬、ロバ、
ラクダ、豚、山羊、綿羊、鶏)について算出し、その結果を産業セクター分類に沿って集計した。
WDliv = U s liv・P s liv
( 4)
WD liv : 畜産セクター sの汚濁負荷量
U liv : 用水量原単位
Pliv : 家畜頭数
c. 林業・水産業系
林業及び水産業については、中国統計年鑑から得られる林地面積及び内陸養殖場面積と、別途統
計データから得られる面積あたりの用水量原単位を使用して算出した。
d. 産業系(製造業)
産業系の製造業はここで s15~s37 を対象とする。産業系、生活系の用水量は岡寺らの手法を参考に
算出した。製造業の汚濁負荷量は、中国水資源広報から得られる産業系の排水量と、中国環境年鑑か
ら得られる各産業の汚濁負荷排出濃度から算出した。
WDman = (1 −αman )WDman + (1 −βman )( Lu _ man Pu _ man + Lr _ man Pr _ man ) * 1 / 3
(5)
WDman:水資源消費量 _ 製造業セクター
Lu _ man : 用水量原単位 _ 都市製造業 ( m3 / 人)
Pu _ man : 従事者数 _ 都市(人)
Lr _ man:用水量原単位 _農村製造業 ( m3 / 人)
Pr _ man : 従事者数 _ 農村 (人)
αman:工業用水消耗率
βman:工業用水消耗率
e. 産業系(サービス業)
産業系(サービス業)は s38~s35 を対象とする。サービス業については従業者から排出される汚濁負
荷量のみを対象として算出した。中国環境年間に記載されている COD 排出量と COD 除去量の関係か
ら COD の除去率を算出して、これを処理技術係数として用い、汚濁負荷の発生量、技術係数、汚濁負
荷排出量を算出した。
80
WD ser = (1 −βser )( Lu _ ser Pu _ ser + Lr _ ser Pr _ ser ) * 1 / 3
(6)
Lu _ ser : 用水量原単位 _ 都市サービス業( m3 / 人)
Pu _ ser : 従事者数 _ 都市(人)
Lr _ ser:用水量原単位_農村サービス業(m3 / 人)
Pr _ ser : 従事者数 _ 農村(人)
βser:サービス業用水消耗率
f. 生活系
生活系については、都市、農村別に用水需要量を算出した。
WW hou = (1 −βhou )( Lu _ hou Pu _ hou + Lr _ hou Pr _ hou )
L u _ hou : 用水量原単位
(7)
_ 都市 ( m 3 / 人 )
Pu _ hou : 都市人口 ( 人 )
L r _ hou:用水量原単位
_ 農村 ( m 3 / 人 )
Pr _ hou : 農村人口 ( 人 )
βhou:生活系用水消耗率
③ 汚濁負荷発生量
a. 農業系
農業系の負荷量は各作物の物質循環過程によって大きく影響される。そこで、農地への窒素投入とし
て施肥(化学肥料、有機質肥料)、作物の窒素固定、大気降下量、算出として作物による収奪、アンモニ
ア揮散を考慮して土壌に残る余剰窒素を作物別に推計し、余剰窒素量から水域に流出する窒素量を作
物別に推計する方法を用いた。
N s sur = N s fix + N s dep + N s fer + N s man − N s exp − N s vol
ELs agr = EC s ws * N s sur
(9)
s : 産業セクター(ここでは農業のみを対 象とする)
N s sur : 土壌余剰量
N s fix:作物による土壌固定 量
N s dep:大気降下量
N s fer:窒素肥料施肥
N s man:有機質肥料施肥量
N s exp:作物による収奪量
N s vol:肥料からのアンモニ ア揮散量
ELs agr : 作物iの汚濁負荷量
EC s ws : 土壌から河川への流達 率
81
(8)
b. 畜産系
畜産系の汚濁負荷量は、家畜 1 頭当たりの汚濁物質の排出原単位に、有機質肥料としての農地への
投入率、畜舎で発生する排泄物からの大気への揮散率を考慮し、8 種類の家畜(牛、馬、ロバ、ラクダ、
豚、山羊、綿羊、鶏)について算出し、その結果を産業セクター分類に沿って集計した。
ELs liv = (1 − m)(1 − v・
) U s liv・P s liv
(10)
ELs liv : 畜産セクターsの汚濁負荷量
m : 有機質肥料としての農地への投入率
v : 大気中への肥料成分の揮散率
U s liv : 負荷発生量原単位
P s liv : 家畜頭数
c. 林業・水産業
林業及び水産業については、中国統計年鑑から得られる林地面積及び内陸養殖場面積と、別途統
計データから得られる面積あたりの汚濁負荷原単位を使用して算出した。
d. 製造業
産業系の製造業はここで s15~s37 を対象とする。産業系、生活系の汚濁負荷量排出量の算出は岡
寺らの手法を参考に算出した。製造業の汚濁負荷量は、中国水資源広報から得られる産業系の排水量
と、中国環境年鑑から得られる各産業の汚濁負荷排出濃度から算出する。中国の統計書からえられる水
質項目は COD のみであり、我が国の産業別の排水濃度データを用いて T-N/COD、T-P/COD の比率
を求め、ここから中国の産業系(製造業)の T-N、T-P を算出した。
この上で、中国環境年鑑に記載されている COD 排出量と COD 除去量の関係から COD の除去率を
算出して、これを処理技術係数として用い、汚濁負荷の発生量、技術係数、汚濁負荷排出量を算出した。
WWman = (1 −αman )WDman + (1 −βman )(Lu _ manPu _ man + Lr _ manPr _ man ) *1 / 3
(11)
EL man = (1 −αman )WC man WD man + (1 −βman )(WC u _ man Lu _ man Pu _ man + WC r _ man Lr _ man Pr _ man ) * 1 / 3
EE man * rman = ELman
(13)
82
(12)
WDman:水資源消費量_ 製造業セクター
Lu _ man : 用水量原単位_ 都市製造業(m3 / 人)
Pu _ man : 従事者数 _ 都市(人)
Lr _ man:用水量原単位_農村製造業(m3 / 人)
Pr _ man : 従事者数 _ 農村(人)
αman:工業用水消耗率
βman:工業用水消耗率
WCman : 排水濃度 _ 製造業セクター
WCu _ man : 製造業排水濃度_ 都市
WCr _ man : 製造業排水濃度_ 農村
rman : 汚濁物質除去係数
EEman : 汚濁物質発生量
ELman : 汚濁物質排出量
e. サービス業
産業系(サービス業)は s38~s35 を対象とする。サービス業については従業者から排出される汚濁負
荷量のみを対象として算出した。中国環境年間に記載されている COD 排出量と COD 除去量の関係か
ら COD の除去率を算出して、これを処理技術係数として用い、汚濁負荷の発生量、技術係数、汚濁負
荷排出量を算出した。
WW ser = (1 −βser )( Lu _ ser Pu _ ser + Lr _ ser Pr _ ser ) * 1 / 3
(14)
ELser = (1 −βser )(WCu _ ser Lu _ ser Pu _ ser + WCr _ ser Lr _ ser Pr _ ser ) *1 / 3
EEser * rser = ELser
(15)
(16)
ここで各係数は以下のとおりである。
Lu _ ser : 用水量原単位_ 都市サービス業(m3 / 人)
Pu _ ser : 従事者数 _ 都市(人)
Lr _ ser:用水量原単位_農村サービス業(m3 / 人)
Pr _ ser : 従事者数 _ 農村(人)
βser:サービス業用水消耗率
WCu _ ser : サービス業排水濃度_ 都市
WCr _ ser : サービス業排水濃度_ 農村
rser : 汚濁物質除去係数
EEser : 汚濁物質発生量
ELser : 汚濁物質排出量
f. 家計
生活系については、都市、農村別に汚濁負荷量を算出した。中国環境年鑑に記載されている COD
排出量と COD 除去量の関係から都市生活汚水の除去率を算出して、これを処理技術係数として用い、
汚濁負荷の発生量、技術係数、汚濁負荷排出量を算出した。
83
WW hou = (1 −βhou )( Lu _ hou Pu _ hou + Lr _ hou Pr _ hou )
(17)
EL hou = (1 −βhou )(WC u _ hou Lu _ hou Pu _ hou + WC r _ hou Lr _ hou Pr _ hou ) * 1 / 3
EEhou * rhou = ELhou
(19)
Lu _ hou : 用水量原単位 _ 都市(m3 / 人)
Pu _ hou : 都市人口(人)
Lr _ hou:用水量原単位_農村(m3 / 人)
Pr _ hou : 農村人口(人)
βhou:生活系用水消耗率
WCu _ hou : 排水濃度 _ 都市
WCr _ hou : 排水濃度 _ 農村
rhou : 汚濁物質除去係数
EEhou : 汚濁物質発生量
ELhou : 汚濁物質排出量
84
(18)
3. 研究結果
(1) 水資源消費量インベントリ
中国全土で集計した場合主要作物のうち、米、野菜類、小麦の順で表流水、地下水ともに消費量が高
かった。さらに、北京市、天津市、河北省では各産業ともに表流水消費量よりも地下水の消費量が高くな
った。2-3)
表 2-22
セクター別表流水使用量(10 億 m2/年)
(10億?/yr)
家計
北京
天津
河北
山西
内蒙古
遼寧
吉林
黒竜江
上海
江蘇
浙江
安徽
福建
江西
山東
河南
湖北
湖南
広東
広西
海南省
重慶
四川
貴州
雲南
西蔵
陝西
甘粛
青海
寧夏
新疆
合計
0.30
0.23
0.34
0.28
0.52
0.98
0.73
1.00
1.36
3.38
2.42
1.85
1.67
1.79
1.21
1.04
2.41
3.33
6.53
2.93
0.41
1.27
2.50
1.16
1.50
0.16
0.60
0.59
0.21
0.14
0.96
43.80
RiceMillet
0.13
0.40
1.55
0.88
2.80
2.84
3.92
4.06
1.09
13.84
6.56
9.39
4.09
11.28
3.28
2.56
7.14
14.59
7.09
6.93
0.74
2.10
8.09
1.75
4.67
0.37
1.08
0.82
0.07
0.78
2.71
127.59
WHEAT
0.05
0.17
0.88
0.41
0.48
0.06
0.04
0.21
0.07
3.34
0.18
2.60
0.03
0.05
2.74
2.65
0.77
0.13
0.01
0.01
0.00
0.28
1.42
0.26
0.56
0.12
0.72
0.87
0.21
0.43
2.31
22.08
Soybean Corn VEGETABLES Fruit Grapes
0.03
0.12
0.25
0.26
1.53
0.39
0.60
2.93
0.02
1.05
0.43
1.66
0.22
0.41
0.53
0.57
0.52
0.52
0.16
0.40
0.01
0.17
0.55
0.20
0.56
0.03
0.25
0.22
0.06
0.14
0.51
15.30
0.15
0.33
0.73
0.46
1.06
0.60
0.38
0.68
0.55
4.13
1.84
2.30
1.61
1.63
2.90
1.78
2.59
2.45
2.26
1.63
0.31
1.19
3.19
0.85
1.26
0.03
0.51
0.80
0.15
0.30
0.87
39.51
85
0.10
0.10
0.63
0.28
0.12
0.48
0.17
0.11
0.10
0.61
0.62
0.24
0.90
0.53
1.12
0.37
0.43
0.75
1.22
0.89
0.15
0.14
0.56
0.09
0.35
0.01
0.67
0.47
0.02
0.12
1.15
13.48
OtherCrops その他農林水産
業
CottonOtherAg
0.05
0.17
0.64
0.35
1.49
0.29
0.32
0.63
0.33
4.59
2.15
4.35
1.11
3.14
2.10
2.04
3.85
4.32
1.52
2.82
0.23
0.51
2.90
0.92
2.32
0.09
0.40
0.87
0.37
0.31
9.07
54.22
0.05
0.07
0.30
0.13
0.78
0.46
0.46
1.07
0.25
2.65
1.04
1.33
1.07
1.39
0.85
0.73
1.40
2.47
2.63
2.76
0.41
0.42
1.76
0.85
1.53
0.72
0.31
0.78
0.25
0.56
3.61
33.07
製造業
0.37
0.48
0.57
0.60
0.70
1.26
1.50
4.06
10.73
22.96
6.94
6.49
8.98
6.67
1.67
1.88
10.98
9.07
19.70
5.23
0.40
4.12
8.22
3.46
2.09
0.03
1.07
1.48
0.47
0.30
0.08
142.53
運輸・サービス
業
0.03
0.02
0.02
0.02
0.03
0.06
0.04
0.04
0.17
0.21
0.22
0.11
0.12
0.11
0.07
0.07
0.13
0.19
0.49
0.17
0.02
0.08
0.14
0.06
0.08
0.01
0.04
0.04
0.01
0.01
0.05
2.83
表 2-23
セクター別地下水使用量(10 億 m2/年)
(10億?/yr)
家計
北京
天津
河北
山西
内蒙古
遼寧
吉林
黒竜江
上海
江蘇
浙江
安徽
福建
江西
山東
河南
湖北
湖南
広東
広西
海南省
重慶
四川
貴州
雲南
西蔵
陝西
甘粛
青海
寧夏
新疆
合計
0.75
0.16
1.50
0.48
0.43
1.07
0.47
0.67
0.01
0.09
0.09
0.19
0.03
0.08
1.37
1.67
0.08
0.25
0.32
0.13
0.04
0.05
0.16
0.12
0.07
0.01
0.47
0.18
0.04
0.01
0.12
11.10
Rice Millet
0.32
0.28
6.76
1.52
2.28
3.11
2.50
2.72
0.01
0.36
0.24
0.99
0.08
0.51
3.70
4.11
0.23
1.09
0.35
0.30
0.08
0.08
0.53
0.18
0.21
0.02
0.84
0.25
0.01
0.06
0.34
34.07
WHEAT
0.14
0.12
3.84
0.71
0.39
0.07
0.02
0.14
0.00
0.09
0.01
0.27
0.00
0.00
3.09
4.24
0.03
0.01
0.00
0.00
0.00
0.01
0.09
0.03
0.02
0.01
0.56
0.26
0.04
0.03
0.29
14.51
Soybean Corn VEGETABLES Fruit Grapes
0.07
0.09
1.09
0.44
1.25
0.42
0.38
1.96
0.00
0.03
0.02
0.17
0.00
0.02
0.60
0.92
0.02
0.04
0.01
0.02
0.00
0.01
0.04
0.02
0.02
0.00
0.20
0.07
0.01
0.01
0.06
7.99
0.37
0.23
3.17
0.81
0.87
0.66
0.24
0.46
0.00
0.11
0.07
0.24
0.03
0.07
3.28
2.86
0.09
0.18
0.11
0.07
0.03
0.05
0.21
0.09
0.06
0.00
0.40
0.24
0.03
0.02
0.11
15.14
0.24
0.07
2.76
0.48
0.10
0.53
0.11
0.07
0.00
0.02
0.02
0.03
0.02
0.02
1.26
0.59
0.01
0.06
0.06
0.04
0.02
0.01
0.04
0.01
0.02
0.00
0.52
0.14
0.00
0.01
0.14
7.39
その他農林水産
業
Cotton OtherAg
OtherCrops
0.12
0.12
2.77
0.60
1.21
0.32
0.20
0.42
0.00
0.12
0.08
0.46
0.02
0.14
2.38
3.27
0.13
0.32
0.07
0.12
0.02
0.02
0.19
0.10
0.10
0.01
0.31
0.26
0.07
0.02
1.13
15.13
0.12
0.05
1.30
0.22
0.63
0.50
0.29
0.72
0.00
0.07
0.04
0.14
0.02
0.06
0.96
1.16
0.05
0.19
0.13
0.12
0.04
0.02
0.12
0.09
0.07
0.05
0.24
0.23
0.05
0.04
0.45
8.18
製造業
0.92
0.34
2.51
1.04
0.57
1.38
0.95
2.72
0.09
0.60
0.26
0.68
0.17
0.30
1.88
3.01
0.36
0.68
0.96
0.23
0.04
0.16
0.54
0.36
0.09
0.00
0.83
0.44
0.09
0.02
0.01
22.23
運輸・サービス
業
0.09
0.01
0.10
0.03
0.02
0.06
0.02
0.03
0.00
0.01
0.01
0.01
0.00
0.00
0.08
0.11
0.00
0.01
0.02
0.01
0.00
0.00
0.01
0.01
0.00
0.00
0.03
0.01
0.00
0.00
0.01
0.71
(2) 汚濁負荷(窒素)インベントリ
三峡ダム上流域で発生する年間の窒素負荷量は年間 312 万 t/年であった(表 2-26)。2-5)
その内訳をみると農林水産業のしめる割合が全体の 80%程度であり、依然としてノンポイントソース負
荷量が主な汚濁源であることがわかる。作物別にみると、野菜類(15%)、小麦(13%)、米類(8%)のし
める割合が高い。また畜産業の割合が 17%程度であり高くなっている。
現在のところ製造業の負荷量に占める割合は 20%程度であり、繊維産業(4%)、石油・石炭製品製造
業(3%)等の軽工業やエネルギー生産に直結する産業での負荷量が高いことがわかる。
主な汚濁負荷源である農業の負荷量の内訳を分析するために、表 2-27 に三峡ダム上流に位置する 4
省別の農地での窒素バランスを示す。投入量のうち、作物に吸収分と、大気中へ揮散分を合計した利用
されているものは全体の 30%程度であり、残りの 70%の窒素は土壌成分、地下水、河川への汚濁源の
いずれかとなる。
投入量のうち顕著であるのは化学肥料に含まれる窒素成分であり、次に人間及び家畜の排せつ物で
構成される有機性堆肥である。
86
表 2-24
三峡ダム上流域で発生する窒素負荷量
窒素負荷量
(t/yr)
103189
家計
米、あわ、雑穀
253042
小麦
417670
大豆、トウモロコシ
294907
その他作物
336667
野菜
479164
果樹
62717
530028
畜産業
87648
林業
漁業
49
2699
石炭鉱業
原油・天然ガス鉱業
2317
金属鉱業
2411
非鉄鉱石鉱業
769
食品
22993
たばこ製造業
9131
繊維工業
1701
衣服,なめし皮,その他の繊維
125411
木材・木製品製造業
25
紙
120
印刷・出版
5053
石油製品・石炭製品製造業
98964
化学工業
40689
窯業・土石製品製造業
12901
鉄鋼業
4028
金属製品製造業
13235
機械器具製造業
989
輸送用機械器具製造業
28521
電気機械器具製造業
15551
情報通信器具製造業
40215
電子部品・精密機械製造業
2448
機械器具修理補修業
143
その他製造業
0
廃棄物処理業
0
電気・熱供給業
120030
ガス業
3384
水道業
2181
建設業
1063
運輸倉庫業
669
卸売小売業
645
サービス業
5552
3128919
表 2-25
窒素固定量 化学肥料
重慶
四川
貴州
西蔵
合計
8
26
14
0
48
47
126
44
2
219
割合
%
3
8
13
9
11
15
2
17
3
0
0
0
0
0
1
0
0
4
0
0
0
3
1
0
0
0
0
1
0
1
0
0
0
0
4
0
0
0
0
0
0
100
三峡ダム上流域の各省の農地での窒素バランス
有機質肥料投入量
作物残渣 人+家畜
2
13
9
56
3
27
0
18
15
116
87
万t /yr
投入量 作物収穫量
アンモニア揮散量
アンモニア揮散量 利用・
利用・揮散量
合計
合計
化学肥料 有機質肥料
71
15
5
3
23
218
52
13
12
77
89
18
5
5
28
21
2
0
2
5
398
87
23
23
133
窒素負荷量の大きい主要産業セクターについて、三峡ダム上流の窒素負荷分布を図 2-5 に示す。稲
作、小麦作については四川盆地を中心に集中して分布しているのに対して、野菜作、畜産は四川盆地
を取り囲むように広範囲に分布している特徴がある。これに対して、製造業(ここでは繊維産業、石油、石
炭加工業)、家計の窒素分布量では、三峡ダムから重慶市にかけての比較的狭い範囲に密集しているこ
とが大きな特徴である。
稲作
小麦
野菜
畜産
繊維
石油・
石油 ・生産加工
窒素負荷量(t/yr)
窒素負荷量
1-500
501-1000
1001-1500
1501-2500
2501-3000
3001-4000
4001-5000
5001-6001
家計
図 2-5 主要産業セクターの窒素負荷分布
88
(3) 汚濁負荷(炭素)インベントリー
汚濁負荷の炭素の排出分布(図 2-6)によると、長江中流域および上流域の北部、長江中流域南部、
長江下流域での排出量が大きいことがわかる。また、産業部門別にみると、総じて耕種農業及び畜産か
らの排出が大きい。ただし、長江上流域では畜産部門からの排出割合が高く、長江下流域では耕種農
業部門からの排出構造が高くなっている。2-4)
図 2-6 長江流域の廃水中の炭素排出分布
4. まとめ
本研究では、産業連関表を用いて中国全土の水需要量、排水量、汚濁物質量(炭素、窒素、燐)を予
測するモデルを開発した。これまでの環境負荷インベントリに対して、用水量の 60%を占める農業セクタ
ー分類を作物別に区分して、新規に地表水と地下水を推定可能にし、水資源消費量、水資源消耗率を
考慮することで、節水技術等の温暖化への適応技術が評価可能となるよう拡張したモデルとした。その結
果、中国全土の水収支について社会経済活動を連結して水資源のマスフローを分析できるようになった。
同時に、分布型インベントリーモデルの開発を進めることにより、流域単位あるいは集水域(分水嶺)単位
での、水需要及び汚濁負荷の分布を定量的に求めることが可能となった。これによって、今後、自然科
学系モデル(水文モデル)と社会経済モデルの統合において課題となるデータの整合性の問題の解決
に大きく寄与するものと考えられる。
89
【学会などでの発表実績リスト】
2-3) Tanji, K., Watanabe, M., Shi, M. and Okamoto, N., 2009, The economic and
environmental impact of investment to water treatment technology with interregional
Input Output analysis in China.
17th International Input-output Conference in Sao
Paulo, Brazil, July 13-17.
2-4) Tanji, K. and Okadera, T. 2009,
An analysis of dependency and eco-efficiency about
water consumption and environmental loads by interregional trade in China, United
States Society for Ecological Economics, May.
2-5) Tanji, K., Watanabe, M. and Xu, K. 2008. Estimation of nitrogen and phosphorus inputs
from the Changjiang river watershed into the East China Sea, EMECS8, International
Workshop for Building Integrated Management of Catchment and Coastal Areas of the
Yellow and the East China Seas, Nov.22.
2-6) Tanji, K. 2008. Development of Model for Estimation of Environmental Load and
Balance of Supply and Demand of Food and Biomass Energy, International Workshop
on Development of
Environmental Management Technology for
Utilization of Biomass, March, Keio University, Tokyo.
90
Sustainable
・サブテーマ 3 環境資源の強化・補完・代替技術評価研究
① 環境資源の強化・補完・代替技術のインベントリ化(国立環境研究所 藤田壮、岡寺智大、徐開
欽)
1. 中国におけるバイオエタノール事業の現地調査と代替案評価
中国のバイオ燃料増産が、水資源、環境保全に与える影響を知るために、とうもろこしを原料とする
バイオエタノールの生産から消費のプロダクトチェーンにかかる物質特性、技術特性、および代替作物
(スイートソルガム他)などの特性を調査する。中国におけるバイオ燃料政策は、アメリカと同様にエネル
ギーセキュリティ(原油輸入依存率を50%以内にする)、農業振興の観点から、進められている。バイオ
燃料は使用時においてカーボンニュートラルにより、CO2は発生しないが、栽培工程(化学肥料、農業
機械、灌漑)、資源作物収集運搬工程、エタノール製造工程で化石燃料を使用しているので、実質CO2
削減効果は減じるだけでなく、かえって増加することもありうる。また、とうもろこし作付け面積が増加すれ
ば、灌漑用水もまた必要となり、都市用水、工業用水との競合が生じる可能性がある。エタノール工場の
排水処理が適切でない場合は廃水負荷が増加し、水質劣化を招く恐れもある。
2008 年 1 月 2 日にニューヨーク商品取引所の原油価格(WTI)は史上最高価格の1バレル99.62ド
ルを記録し、バイオエタノールの原料であるとうもろこし価格も高騰している。中国のとうもろこしの主な用
途は養豚用飼料であり、とうもろこし価格と豚肉価格が連動している。中国人の食生活で1人あたりの豚
肉の消費量は日本の倍以上であり、豚肉価格を下げたい政府は燃料用エタノールの原料は食料との競
合のない備蓄用とうもろこしに限るとの通達を出している。とうもろこしの主要産地のひとつである黄河流
域では、ダムや取水により、断流現象があり、水資源が逼迫している。食料、水資源の競合の解決策とし
て、バイオエタノールの製造工程の現状を調査すると共に、現状の資源作物、製造工程への代替案の
評価を行う。地球温暖化対策、エネルギーセキュリティ対策、農業振興策、食料との競合問題、水資源環
境保全と5つの観点から代替案を検討する。
1.1 中国のバイオエタノール製造の現状調査
中国におけるバイオ燃料は、エネルギーセキュリティと農業振興の観点から普及すると想定される。バイ
オ燃料の生産が水環境に与える影響と地球温暖化ガス削減への寄与を調査する。文献調査、専門家や
プラントメーカーへのヒアリングを行なった。
1.2. バイオ燃料作物
燃料用エタノールの原材料は、とうもろこしが中心で、さつまいも、小麦、キャサバも原料としている。とも
ろこしの生産量は世界第 2 位の 1 億 3500 万トン(2003 年)、用途は食用 14%、飼料 69%、食品工業
用 11%、輸出その他 5%(2002 年 10 月~2003 年 9 月)、単収は 5.02 トン/haである。
とうもろこし生産に灌漑を必要とする場合は、河川からの取水または、地下水のくみ上げが必要となる。
とうもろこし生産に必要な最低必要な水の量は、、1kg のとうもろこしあたり、 349L/kg、1,100L/kg 、1,
91
900L/kg と資料により、ばらつきがある。
黄河流域の年間雨量は 500~800mm でその 6 割が7~9 月に集中する。とうもろこし生育期間を 120
日間として、生育期間中の蒸散量を 500mm とすると、単収5.02トン/ha より、とうもろこし 1 トンあたりの
必要水量は 1000m3 となる。生育期間中に、300mm の降雨があれば、灌漑水量はとうもろこし1トンあた
り 400m3 必要となる。燃料用エタノールのために、とうもろこしの作付けを増やすと、灌漑用水(取水また
は地下水くみ上げ)も増えるので、水資源は一層逼迫することになる。したがって、燃料用エタノール作
物としては、とうもろこしの1/2 の水で生育するといわれているスィートソルガムが有力であり、中国におけ
る試験栽培は 5,000 トンに上っている。
1. 3 エタノール製造プロセス
アメリカ、カナダ、中国のエタノール工場の物質収支を表 3-1に示す。とうもろこし1トンから、約0.4kL
の燃料用エタノールが生産されている。
表 3-1 とうもろこし 1 トンあたりのエタノール変換率の文献調査結果
文献名
Shapouri, アメリカ農務省資料
生産能力
エ タ ノ ー ル 変 換 率
万 kL/年
kL/t-corn
発行年
平均値
0.396
2002
平均値
0.372
2006
20
0.443
2007
中国・吉林省事例(ID063,P279)
38
0.383
2006
アメリカ・
16
0.422
2007
(ID024,P.2)
Patzek, カルフォルリア州立
大学(ID124,P.6)
アメリカ・
アイオワ州事例(ID023)
イリノイ州事例(ID106)
エタノール変換率は、とうもろこし水分、でんぷんの含有率、製造プロセスの違いにより、異なる。水分
12%でんぷん 70%の時の理論変換率は,0.7x1.1x0.51/0.79=0.497kL/トンとなる。とうもろこしは乾燥状
態の子実を原料としている。
92
ボイラー
原料貯槽
粉砕
液化・糖化
発酵
CO2 圧縮/貯槽
蒸留
固液分離
蒸発脱水
乾燥
脱水
メタン発酵
燃料用エタノール
メタン
消化液
消化液
圧縮 CO2
固形物残渣(飼料)
DDGS(DistillersDriedGrain
Solubles)含水率10%
図 3-1 燃料用エタノール製造プロセス
1.4. 副産物の利用
(1) 固形物残渣 DDGS(Distillers Dried Grain Solubles)
1 kL-ethanol あたり 574kg 含水率 10%。液化・糖化工程後、固液分離した糖分以外のものを乾
燥させたもので高たんぱく飼料として販売される。
(2) CO2 1 kL-ethanol あたり 740kg
工業用ガスとして販売される。
(3) CH4 1 kL-ethanol あたり 97.0kg,原油換算 0.148kL
ボイラ燃料として、プラント内で消費される。
(4) メタン発酵消化液 1 kL-ethanol あたり 52.8m3(T-N 分 19.8kg、T-P 分 5.3kg
液肥として利用できれば、廃水負荷が軽減され、化学肥料使用量も削減できる。
廃水を処理して、プラント用水として再利用することも可能である。
(1)~(4)の燃料用エタノールの製造プロセスを図 3-1 に示す。
93
1.5 スイートソルガムによる燃料用エタノール生産
中国のバイオ燃料の増産が水資源、環境保全に与える影響を評価するために、中国の水資源政策 3-2),
3-8)
や廃棄物管理 3-1), 3-3), 3-4), 3-7) およびエコタウン事業 3-6)に関する成果を活用して、節水型のバイオエ
タノール生産技術であるスィートソルガムを利用した生産技術のシミュレーション分析を行った。(図 3-2)
スイートソルガムは、熱帯原産のイネ科に属する C4 植物でアフリカ、インド、アメリカで栽培されている。
子実は飼料または食用、茎はシロップの原料となる。温帯でも、栽培可能で、日本では東北大学での試
験栽培が行われている。(ID052) とうもろこしによるエタノール生産では、非食部は利用されず、糖化、
蒸留に必要な蒸気には化石燃料が用いられている。バガスを燃料に用いるさとうきびによるケーン・エタ
ノールは、生産されるバイオ燃料と生産に必要な化石燃料のエネルギー収支は、コーン・エタノールの1.
3に対して、8であり、ケーン・エタノールは地球温暖化対策として有効とみなされている。
スイートソルガムは干ばつ耐久性があり、土壌から水分をとうもろこしの約2倍吸い上げる。栽培作物をとう
もろこしからスイートソルガムに転換すると、農業用水を工業用水、生活用水に回せる。飼料用とうもろこ
しは外国から輸入したとしても、原油輸入量を抑制できる。2007 年の日本の飼料用とうもろこしの輸入量
は 952 万トン、輸入額は 2529 億円であり、トンあたり 2.7 万円である。
1ha あたりの中国におけるとうもろこし収量は 5.02 トンとし、エタノールへの収率を 0.4kL-ethanol/t-corn
とすると、単位農地1ha あたりのエタノール生産量は 2kL となる。エタノールの単位体積あたりの熱量は
ガソリンの 64%であり、エタノール 2kL はガソリン 1.28kL に相当する。ガソリン価格を 100 円/L とすると、
1ha あたりのエタノール収入は 12.8 万円となり、飼料とうもろこし収入 13.5 万円と同程度となる。スイート
ソルガムの単位農地 1ha あたりのエタノール生産量を 3.94kL とすると、同一エタノール生産量では、栽
培面積は1/2になり、農業用水は1/4になる。とうもろこしの栽培において、2ha あたりの用水量を
10,000m3 とし、用水量に占める潅漑比率を 20%とすると、かんがい必要量は 2,000m3 となる。スイート
ソルガムはかんがいが不要であり、工業・生活用水に 2,000m3 が転用できる、農業用水をそのままに、
工業・生活用水の需要に応ずるためには、海水淡水化による造水が必要となる。海水淡水化の造水単
価を 100 円/m3 に設定すると、2ha のスイートソルガム栽培による回避費用は 20 万円となる。
また、スイートソルガムはエタノール生産に必要な電力、蒸気をバガスでまかなうことができ、蒸留廃液か
らのメタン回収、バガスの炭化、余剰電力の系統電力への売電により、CDM 収入も見込める。現在、エ
タノール製造の CDM 方法論は国連承認されていないが、バガス炭化物、バイオマス発電には CDM が
認められているので、化石燃料を使用するコーン・エタノールに比べて有利である。図2に、スイートソル
ガムによるエタノール生産試算例をしめす。年間 300 日連続稼動で、年 3 万kL のエタノールをえるため
に必要なスーイトソルガム栽培面積は 7,611ha で、とうもろこしの半分の栽培面積となった。
余剰バガスは全量発電とすることが一般的であるが、炭化物を製造し、高効率の石炭火力発電所の燃
料とするプロセスとしている。バガスを炭化すると、バガス単独でみられる石炭火力発電所の微粉炭機の
動力増加がない。20MW 級の BTG システムの熱効率 25%で発電するよりも熱効率45%新鋭石炭火力
発電所でのバイオマス混焼の方が、地球温暖化ガス削減効果が高い。
スイートソルガム・エタノールは、中国・黄河流域の水利用を農業用水から生活・工業用水に転用する
効果があり、バガス利用は地球温暖化ガス削減に寄与する。
94
スイートソルガム→
子実→
1,713t/d
糖化
96t/d
発酵、蒸留プ
茎→
圧搾プラント
1,370t/d
→ジュース→ ラント
100kL/d エタノール
685t/d
蒸留残渣
バガス 685t/d
バガス(水分10%) 342t/d
葉(水分10%)
メタン発酵 プラント
86t/d
メタン 10.3t/d
炭 化 物
炭化炉
バイオガスボイラ
107t/d
高圧蒸気6.0t/h
排熱回収ボイラ
高圧蒸気38.5t/h
蒸気タービン発電機
5,752kW
系統電力へ
系統電力へ
8,847kW
図3-2 スイートソルガム・エタノール製造
試算
2. バイオエタノールの廃液処理と再利用技術
バイオエタノールの生産原料をとうもろこしからスィートソルガムへと変更することで、同一エタノール生
産量では、栽培面積は 1/2 になり、農業用水は 1/4 になるという試算が得られた一方で、バイオエタノー
ルの生産過程で発生する発生および酵母残渣の処理についての課題が明らかとなった。そうした課題を
受け、まず、バイオエタノールの排水処理技術についての文献調査を行う。原料や生産プロセスにより多
少の異なりはあるものの、バイオエタノールを 1kl 生成すると、その 10 倍から 20 倍の廃液が排出される。
概してこれらの廃水濃度は BOD で数万 mg/ℓ、窒素、リン、カリウムなどの無機塩類も豊富な高濃度排水
であり、従来の好気性生物処理だけでは処理が難しい。また、飲料用エタノール製造業において主に行
われてきた発酵廃液の海洋投棄はロンドン条約で禁止され、焼却処理についても地球温暖化との関係
から実施が難しい状況になってきている。そうした中、エタノール製造に伴う廃液の処理あるいは再利用
95
技術の開発が進められてきているが、大きく「メタン発酵処理」、「飼料化」、「肥料化」の 3 つに分類するこ
とができる。
2.1 メタン発酵処理
微生物を用いて有機物を嫌気的に分解し、その過程で生成する有機酸などをメタンに還元する技術。
活性汚泥法と異なりばっ気動力を必要とせず、バイオガスの回収が可能という特徴を持ち、主に有機物
濃度の高い産業廃水の処理に利用されている。近年は、UASB 法(上向流式嫌気性汚泥床法)や
UAFP 法(嫌気性濾床法)という有機物濃度の低い廃水にも適用が可能な技術開発も進められている。
ただし、メタン発酵処理だけでは、COD が分解できないことや、廃液中の着色成分の除去ができないた
め、好気処理と組み合わせて使われることもある。
日本では 1950 年代から糖蜜由来のアルコール工場の発酵廃液処理に使用され、1970 年代には
2000 万 m3/年以上のメタンガスが生成し、工場の燃料の 1/3 から 1/2 が賄われていた。しかし、発酵廃液
の着色成分の処理や COD の難分解性の問題から濃縮燃焼法へと技術転換がなされ、現在は、発酵も
ろみは濃縮後、肥料メーカーへ納入、マッドや酵母は乾燥処理後肥料化、濃縮排水は活性汚泥法で処
理後、河川放流という対応がとられている。発酵廃液のメタン発酵処理は、中国、インド、マレーシアなど
のアジア各国でも実施されており、メタン発酵によるガス回収と処理水の液肥利用が一般的である 3-5)。
2.2 飼料化
主に穀類原料の発酵廃液の再利用技術として普及しており、UGF(Unidentified Growth Factor:
未確認成長因子)を含む高栄養飼料として流通している。UGF には、液中の固形分を遠心分離機など
で 回 収 し 、 乾 燥 さ せ た DDG ( Distillers Dried Grain ) と 、 液 中 の 可 溶 部 分 を 乾 燥 し た DDGS
(Distillers Dried Grain Soluble)があり、DDG は主に肉用・乳牛用、DDGS は養鶏、養豚用飼料とし
て使用されている。日本でも旧通産省が液体飼料(ラクノール)の普及に取り組んだことがあるが、飼料調
整や給餌の手間がかかり、原料供給の途切れが頻繁であったことや、輸送上の理由から使用範囲が限
定されることやコスト面の問題もあり、広く普及するにはいたらなかった。ただし、アルコール製造に伴う発
酵廃液は家畜の嗜好性が高いことから、飼料への添加剤として利用するのが一般的である。
2.3 肥料化
発酵廃液は、ビタミン、タンパク質、アミノ酸といった有機物や灰分(カリウム)が豊富であることから、肥
料として土壌へ還元し、クローズドシステムを形成することを目的とした技術。ただし、有機物の含有量が
多いため多量に施肥すると作物の発芽阻害の誘因や、粘着性・吸水性が高いため造粒乾燥が困難で、
貯蔵性が低いという問題がある。そうした短所を改善した有機肥料の開発が進められ、有機入化成肥料
や鶏糞添加肥料とした形で流通している。東南アジアでは、液肥利用が一般的で、発酵廃液やメタン発
酵処理後の処理水を池に貯留し、液肥として利用している。このほか、堆肥化促進のため土壌改良剤と
しての利用する技術開発も進められている。
さて、以上の技術は日本では十分に普及するにところまでは至っていないが、東南アジア等で実用化
96
が進んでいるように見受けられる。その理由としては、両者の社会環境の違いというのが大きな要因と考
えられる。
メタン発酵についてはバイオガスの回収というメリットがあるが、日本のようにエネルギーインフラが十分
に整備されている環境においては、メタンガスの回収によるマージナルコストやメタンガス需要が少ない
など社会経済的側面から成立しにくいと考えられる。しかし、エネルギーインフラが不十分な地域におい
ては、メタンガスをエネルギーとして活用する余地が十分あると考えられ、メタン発酵処理が有効に働く可
能性は高い
3-5)。また、メタン発酵は最終的には消化液という発酵廃液の処理という問題が残るため、廃
液処理という側面からはフィルタリングという程度の位置づけになると考えられる。東南アジアでは、発酵
廃液をポンドに貯水したのち、液肥としての散布という形体が一般的であるが、これは広大なポンドや液
肥を散布しても十分中和可能な広大な土地を所有可能なケースに限定される。そうしたことから、現状で
は、土地資源制約の厳しい日本においてバイオエタノールの発酵廃液処理技術としてメタン発酵処理技
術の適用は難しいといえる。
そのため、日本においては飼料化か、肥料化というのが最終的な発酵廃液処理技術となりうると考えら
れるが、飼料化については、現状では家畜農家は減少傾向にあるうえ、飼料添加剤での需要が一般的
ということで、発酵廃液の受け皿として十分機能する可能性は低いと考えられる。そこで、日本におけるバ
イオエタノールの発酵廃液処理技術としては、「肥料化」に焦点をしぼり、宮古島のバイオエタノールプロ
ジェクトをモデルケースに、バイオエタノールの製造に伴い発生する廃水や酵母残渣を内包した技術イ
ンベントリーを構築を行う。更に、本技術インベントリーをバイオマスの耕作プロセスにまで拡張し、バイオ
エタノールの製造に伴ない発生する廃水の農地還元のフィージビリティー分析を行う。
3. 技術インベントリーを用いた宮古島のバイオエタノール技術のマテリアルフロー分析
3.1 背景及び目的
温暖化対策技術として、バイオマスのエネルギー利用が世界中で進められており、日本においても、
バイオマス・ニッポン総合戦略が打ち出され、現在(H21.1)163 市町村がバイオマスタウン構想を公表し
ている。また平成 19 年 2 月のバイオマス・ニッポン総合戦略会議報告書では、2030 年までにエタノール
生産量を国内で 600 万 kl/年とする具体的な数値目標が設定され、バイオエタノール生産の実証事業
が、農林水産省、経産省、環境省、内閣府の補助の下、北海道(十勝、清水町)、新潟、大阪(堺市)、福
岡(北九州市)、沖縄(宮古島、伊江島)などで実施されている。これらの事業は実証段階にあり、主にエ
タノールの生産性あるいは CO2 の削減効果に関する技術的知見は蓄積されつつある。
その一方で、バイオエタノールの生産技術のベースは発酵技術であり、その生産過程において大量の
廃水が発生し、それらをどう処理するかという課題がある。これは処理方法によっては追加的なエネルギ
ーを要し、CO2 排出を増加させる可能性をはらんでおり、バイオエタノール生産に伴う廃水処理を含めた
評価が必要となるが、十分に議論されていないのが現状である。それは、実証段階の現段階では、廃水
の汚濁指標である炭素、窒素、りんについてはプライオリティーが低いため、データの蓄積が後回しにさ
れがちであることと、それらを評価する手法の開発が不十分であることが考えられ、統合的かつ実践的な
評価手法の確立が必要不可欠である。
97
そこで、本研究では、バイオエタノール生産に伴い発生する廃水および発酵残渣を統合的に評価可
能な技術インベントリーの開発を行い、宮古島のバイオエタノール技術へと適用し、水、窒素、りん、炭素
のマテリアルフロー分析を行った。宮古島は、バイオマスタウン構想の表明し、環境モデル都市の指定も
受けており、国内でバイオエタノール事業を積極的に進めている自治体の一つである。また、宮古島の
バイオエタノール技術は糖蜜を原料とするため、生産プロセスの単純化がしやすく、技術インベントリー
の設計が比較的容易であることと、島という閉鎖空間であるためデータの収集がしやすいため、インベン
トリーの検証がしやすいという利点から、対象地域として選定した。
3.2 方法論
(1) バイオエタノール技術インベントリー概要
バイオエタノールは、大きく「原料投入(調整)」、「前処理(糖化)」、「発酵」、「蒸留(濃縮)」、「脱水」と
いうプロセスで生成される。また、バイオエタノールの生産に伴い、排ガス、排水および固形廃棄物(残渣
酵母)という副産物も発生する。以上のことから、表 3-2 に示す技術インベントリーの雛型を設計した。
表 3-2 バイオエタノール技術インベントリー雛型
バイオエタノール生産プロセス
原料
前
投入
処理
発酵
蒸留
脱水
生産物および副産物
バイオ
排
エタノール
ガス
固形
排水
廃棄
物
原料調整槽
要素技術
前処理技術
発酵技術
蒸留技術
脱水技術
(2) 宮古島のバイオエタノール技術への適用
宮古島のバイオエタノール技術へのインベントリーの適用に当たっては、宮古島でバイオエタノール事
業を進めている株式会社りゅうせきの協力の下行った。まず、プラント査察により、生産工程と各要素技
術のヒアリングを行い、表 3-2 をベースに宮古島の技術インベントリーの枠組みを構築した。次にそれらに
基づいて、水需要データ、発酵廃液および残渣酵母の成分分析表およびプラント運用に伴うエネルギー
消費データ、その他、生産工程に伴う水、窒素、りん、炭素の技術パラメータの提供を受けることで、第一
次データベースの構築を行った。このデータベースを用いて、各生産工程における投入産出のバランス
調整を行うことで、宮古島のバイオエタノール技術の水、窒素、りん、炭素のマテリアルフローを算出し
た。
98
3.3 結果
(1) 宮古島のバイオエタノール技術の水フロー
宮古島のバイオエタノール技術の年間水フローを表 3-3 に示す。宮古島のバイオエタノール事業では、
原料投入プロセスで糖蜜と希釈水を投入し、宮古島の糖蜜の約 38%は水分となり 2,806t/年の水が投入
されることになる。それらは最終的にバイオエタノールとして 1t/年、水蒸気として 29t/年、排水として
2,532t/年、固形物として 273t/年(塩分パージ 140t/年、残渣酵母 133t/年)として産出される。なお、生
産物と副産物を合わせた最終的産出水量は 2,835t/年となるが、これは脱水プロセスで発生する蒸気
(29t/年)が濃縮塔へと再投入されるためであり、この再投入分を考慮すると、投入水量も 2,835t/年とな
る。
表 3-3 宮古島のバイオエタノール技術の水フロー(t/年)
t/年
バイオエタノール生産プロセス
原料
投入
糖蜜貯槽
原料調整槽
要素技術
発酵槽
生産物および副産物
蒸留
発酵
もろみ塔
濃縮塔
脱水
バイオ
排
エタノール
ガス
固形
排水
廃棄
物
451
2,355
2,666
140
2,533
もろみ塔
133
219
濃縮塔
脱水膜
2,314
30
29
218
1
29
(2) 宮古島のバイオエタノール技術の窒素フロー
宮古島のバイオエタノール技術の年間窒素フローを表 3-4 に示す。宮古島では原料投入行程で糖蜜
と餌となる硫安を投入し、それに伴い合計 15t-N/年の窒素が投入される。これらは最終的に、発酵残渣
として 2t/年、もろみ塔や濃縮塔からの蒸留残渣液として 13t/年の合計 16t/年が排出されている。ちなみ
に、投入量に比べて排出量が大きくなるが、これは四捨五入による誤差である。
99
表 3-4 宮古島のバイオエタノール技術の窒素フロー(t-N/年)
t/年
バイオエタノール生産プロセス
原料
投入
糖蜜貯槽
原料調整槽
生産物および副産物
蒸留
発酵
もろみ塔
濃縮塔
脱水
バイオ
排
エタノール
ガス
固形
排水
廃棄
物
13
2
15
要素技術
発酵槽
13
2
もろみ塔
2
濃縮塔
11
0
脱水膜
2
0
(3) りんおよび炭素のフローについて
りんについては、窒素と同様の計算を行ったが、濃縮塔に投入されるリン(39kg/年)よりも濃縮塔から
排水として排出されるりん(126kg/年)の方が大きいという問題が明らかとなった。これはデータの整合性
の問題と発酵層内での酵母菌の増殖に伴うりん固定量の増加分を算定モデルに組み込めてないためと
考えられる。
炭素については、水フロー中の炭素成分に関するデータが取得できなかったため、発酵工程で生成
される炭酸ガス(182t-C/年)と蒸留工程でのもろみ塔および濃縮塔への加温のための重油 A 投入により
発生する二酸化炭素(37t-C/年)のみ算定を行った。
4. 宮古島のバイオエタノール事業の蒸留残渣液の農地還元のフィージビリティー分析
4.1 宮古島のバイオエタノール事業概要
宮古島市は、沖縄本島から約 290km 南西に位置し、隆起サンゴ礁をベースとする大小 6 つの島(宮
古島、池間島、大神島、伊良部島、下地島、來間島)からなる総面積 204.5km2 の自治体である。亜熱
帯海洋気候に属し、年平均気温約 23 度で、年平均降水量 2,000mm 以上という高温多湿な環境にある。
総人口は約 53,500 人で、15 年間で 5,000 人の人口が減少している。基盤産業はサトウキビの生産と、
それを原料とする製糖業である。サトウキビの収量面積は約 4,000ha で、年間約 30 万 t のサトウキビの
生産している。また、製糖業は年間約 90 億円を出荷し、宮古島の製造業の GDP の約 40%を占めてい
る。
宮古島市は、平成 16 年より環境省の補助を受け、バイオエタノールの生産から利用まで一貫した実証
事業が株式会社りゅうせきを中心に進められている。宮古島のバイオエタノール技術は、主要産業である
製糖工場から廃棄される廃糖蜜を原料とした技術であり、発酵(培養)、濃縮・蒸留、脱水というプロセス
により 2.5kl/日のバイオエタノールを生産し、E3 ガソリンを生成・販売の実証実験を行っている。バイオ
100
エタノールの生成段階で発生する廃水の内と、タンクの洗浄時に生じる洗缶廃水は UASB によるメタン
ガスの回収を行い、蒸留残渣液は、水処理後、一部は回収して場内利用しているほか、サトウキビ畑へ
の液肥散布や飼料との混合などの実証実験を行いつつ、処理プロセスを検討している段階にある。
本研究では、サトウキビ畑、製糖工場、バイオエタノールプラントの3つの生産プロセスと、農地還元プ
ロセスを組み合わせた閉鎖系の物質フローを分析の対象とする。サトウキビの生産プロセスにおいては、
化学肥料、水が投入され、農業排水の排出がなされる。農業排水はさらに地下浸透し、それに伴い硝酸
態窒素が地下へと流出する。製糖工場には、収穫されたサトウキビが搬入され、搾汁、濃縮プロセスをへ
て砂糖が生産される。搾汁により砂糖の原料となるケーンジュースとバガスに分離され、濃縮段階では廃
糖蜜が副産物として生成される。搾汁と濃縮を行うために、水が投入され、それに伴い工場排水が排出さ
れる。バイオエタノールの生成プロセスにおいては、製糖工場から排出される廃糖蜜を原料とし、発酵、
蒸留、濃縮、脱水という段階を経て、バイオエタノールを生成している。蒸留・濃縮段階で、蒸留残渣液
が廃水として排出される。また、濃縮塔の洗缶時に発生する排水は、UASBを使用してメタンガスを回収
しているため、今回の分析の対象としていない。また、脱水プロセスにおいても、膜分離された水が発生
するがこちらの水は汚濁物質を含んでいないめ、廃水の対象とはしない。
4.2方法論
(1) 水フローの算定方法
a) サトウキビ畑
サトウキビ畑の水フローは、灌漑用水および降水による水資源供給があり、一部はサトウキビに吸収さ
れ、残りは蒸発散、地下浸透、表面流出するものとする。灌漑用水量は、宮古土地改良区の調査データ
を用い、降水量は年平均降水量と作付面積から求めた。その後、土壌の地下浸透率、蒸発散率、表面
流出率より蒸発散、地下浸透、表面流出の水量を推計した。サトウキビに含まれる水分量は、製糖工程
でサトウキビから発生するバガスの発生率から含水率を設定することで算定した。
b) 製糖工場
製糖業での水投入は生産要素となる工業用水および原料となるサトウキビの水分とし、これらの水は製
糖プロセスにおいて、蒸発、原料及び副産物へ取り込まれた後、廃水として排出されるという構造を想定
する。製糖業で必要となる工業用水は、沖縄県の製糖業の 1 日あたりの用水量と製糖工場の稼働日数
から算定した。その内、原料用水は、サトウキビ重量当たりの用水量から求め、ボイラー用水は沖縄県の
食品製造業の用途別工業用水に占めるボイラー用水の割合から推計した。ケーンジュースの濃縮段階
で発生する廃水については、搾汁によるケーンジュース生成量、石灰投入量の総和から最終製品である
砂糖と副産物(ケーキ、糖蜜、灰)の差分とした。また、副産物の糖蜜については発生量に含水率を乗じ
ることで、糖蜜に含まれる水分量を算定し、それ以外の用水は、濃縮過程で蒸発するものとした。
c) バイオエタノールプラント
101
バイオエタノールプラントでは、希釈水と廃糖蜜に含まれる水分が投入され、酵母残渣及び蒸留残渣
液として排出される。いずれも、株式会社りゅうせきのヒアリングデータから推計を行った。
(2) 窒素フローの算定方法
a) サトウキビ畑
サトウキビ畑の窒素投入は、化学肥料、降水及び土壌中の無機化窒素からなされる。化学肥料のサト
ウキビ畑への投入量は、収穫面積に面積あたりの化学肥料投入量の平均値を乗じて求める。ただし、サ
トウキビの育成手法(春植、夏植、株出し)によって育成期間が異なるため、手法ごとに化学肥料の投入
係数を設定し、宮古島では主に普及している 2 種類の化学肥料の普及割合と窒素成分比を用いて、実
際の利用形態に基づいた化学肥料投入量を推計した。降水及び無機化窒素の投入量は、既存の畑地
の窒素収支をベースに、化学肥料投入量に対する降水と土壌の窒素供給比を設定して算定した。
サトウキビ生産に伴う窒素のアウトプットは、作物吸収、土壌への残存、流出、溶脱、脱窒というプロセ
スによってなされる。ただし、宮古島は河川が存在しないため、流出したものは最終的に地下へと溶脱す
ると仮定した。作物吸収、土壌への残存、溶脱は、既存の畑地の窒素収支から、化学肥料投入に対する
それぞれの割合を設定することで推計した。また、余剰投入分はすべて脱窒されると仮定した。なお、化
学肥料の施肥及び溶脱にともない排出される N2O も、窒素重量あたりの排出原単位を用いて別途推計
した。
b) 製糖工場
製糖工場の窒素フローは、原料のサトウキビの窒素成分が投入され、それらが廃水、もしくは製品およ
び副産物という形で排出される構造を想定する。廃水中の窒素については、砂糖製造業の用に供する
施設の全窒素濃度の全国平均値と製糖工場の廃水量から算定する。糖蜜中の窒素は、バイオエタノー
ルプラントからサンプリングした糖蜜を成分分析して得られたデータに基づいて推計した。
c) バイオエタノールプラント
バイオエタノールプラントの窒素収支は、糖蜜及び酵母の培養に使用される硫安が投入され、蒸留残
渣液および残渣酵母を介して廃棄されるというフローを想定する。理論的には窒素として気化することも
考えられるが、データのアクセシビリティの問題から本研究では対象としない。
4.3 結果および考察
(1) 宮古島バイオエタノール事業の水フロー
宮古島のバイオエタノール事業の水フローに地下ダムの有効貯水量を加えたものを図3-1に示す。ま
ず、宮古島ではサトウキビ畑の水フローが圧倒的に大きく、降水による水供給は8,490万m3であり、灌漑
用水の約9倍になる。さとうきび畑への供給水の5割は地下浸透し、最大16%が地下ダムへと貯留され、
102
その内65%がサトウキビのかんがい用水として使用される計算となる。なお、製糖工場に搬入されるサトウ
キビの水分量は、全供給水量のわずか0.1%であり、水ベースでサトウキビ1単位の生産に1000倍の水供
給が必要であるといえる。製糖工場ではサトウキビの水換算値に対して1.3倍の糖汁(ケーンジュース)が
得られるが、これは搾汁のプロセスにおいて、原料用水7万tを供給するためである。また、最終的に投入
された水の92%が廃水となる。バイオエタノールの原料となる糖蜜は、水換算で全投入量の0.06%であり、
その内17%がバイオエタノールプラントで利用される計算となる。バイオエタノールプラントでは、もろみ槽
および濃縮槽から水換算投入量の78%にあたる廃水となる。
(2) 宮古島バイオエタノール事業の窒素収支
宮古島のバイオエタノール事業の窒素フローを図3-3に示す。図中の地下ダムの硝酸態窒素総量は、
地下ダムの所在地域の過去19年分の地下水質データの平均値と有効貯水量から推計したもので、流入
量ではなく地下ダムに最大存在する硝酸態窒素量(以下、硝酸態窒素最大量とする)である。宮古島で
は化学肥料に起因するフローが最も大きく、全窒素投入の84%は化学肥料となる。サトウキビ畑に投入
され窒素投入量の62%はサトウキビに吸収され、またサトウキビ畑に投入される全窒素の18%が溶脱に
より地下へ浸透する。宮古島の特殊性から、化学肥料の土壌残存分も最終的に地下に浸透すると仮定
すると、地下ダムの最大硝酸態窒素総量の15倍の窒素量が、地下へと流出する計算となる。製糖工場
では、全窒素投入の83%が最終製品(砂糖)および副産物(ケーキ、灰、バガス)という形で算出され、
13%は糖蜜となる。その内17%がバイオエタノールプラントへと投入され、最終的には廃水として排出さ
れる。
103
化肥
降水
754
15
化肥脱窒37
(4.6tN2O-N)
その他471
サトウキビ561
糖蜜76
残存化肥134
溶脱168
(2tN2 O-N)
無機化
飼料化など
糖蜜13
131
硫安2
6wt%
Et-OH
発酵槽
40wt%
Et-OH
もろみ塔
地下ダム以外
無水
エタノール
88wt%
Et-OH
濃縮塔
NO 3 -N
20以下
(91t-NO 3 )
砂糖
廃水14
分離膜
地下ダム
副産物(ケーキ、灰、バガス)
酵母
酵母残渣2
廃水 13
図 3-3 宮古島のバイオエタノール事業の窒素フロー(t-N/年)
(3) 蒸留残渣液の農地還元のフィージビリティー評価
ここで、一連の水およびフローからバイオエタノールの廃水(蒸留残渣液)の農地還元を評価すると、
廃水量は灌漑用水の僅か0.02%、と微量であり、水循環という側面からは、何ら問題がないといえる。ま
た、廃水中の窒素量は化学肥料投入量の約2%であり、両者ともに廃水の投入によって現行のサトウキビ
畑の水及び窒素循環に大きな影響を及ぼすことはないと考えられる。
ここで、廃水投入による土壌での窒素循環プロセスが、化学肥料のそれと同じと想定すると、廃水投入
による窒素の地下への溶脱量は約4.4tと推計される。これは現在の溶脱量の約3%、地下ダムの硝酸態
窒素最大量の22%に相当する量である。このような結果に基づくと、現在の化学肥料を中心とする窒素
循環系において、バイオエタノールプラントの廃水を農地還元することは可能と考えられる。しかしながら、
地下ダムへの影響は決して小さいとは言えず、適切な管理に基づいた投入が必要といえる。中西によれ
ば、施肥の時期を収穫期前半の12月から収穫期後期の3月頃(生長期)に移行することで、さとうきびへ
の窒素吸収率が増加し、地下水への窒素負荷低減が可能であるため、さとうきびの生長期に集中的に
蒸留残渣液を施肥するといった施肥改善が考えられる。また、液体(液肥)という性質上、地下への浸透
がし易い性状にあるため、製糖工場から排出されるバガスと混合し、ある種の簡易の緩効性肥料という形
態での投入も、窒素の溶脱を抑える方向に働くと考えられる。しかしながら、このケースにおいては、サト
ウキビへの窒素吸収率を下げる可能性もあり、窒素の作物吸収と溶脱のトレードオフを最適化した条件
下での使用が適切と考えられる。
104
(4) 宮古島市環境モデル都市行動計画の評価
宮古島市は環境モデル都市行動計画を策定しており、その中から関連する施策として、「サトウキビの
1.3倍増産」と「バイオエタノール750kl生産」について、水及び窒素フローの観点から評価をする。
宮古島市はサトウキビ増産アクションプランとして、平成25年までにサトウキビの1.3倍の増産を掲げて
おり、サトウキビの生産技術に変化がない場合、灌漑用水と化学肥料もそれぞれ1.3倍に増加する。水
循環においては、灌漑用水1,252万m3と試算され、地下ダムの有効貯水量の85%が灌漑に利用される
結果となる。また、化学肥料による窒素投入は980t-Nとなり、その内206t-Nが溶脱、176t-Nが土壌に
残存し、地下ダムの硝酸態窒素最大量の19倍の窒素が地下浸透する計算となる。
サトウキビの増産とともにバイオエタノールの生産量を増加する施策であり、現在の約3倍のバイオエタ
ノールを生産することになる。バイオエタノール生産性が一定とすると、バイオエタノールに投入される糖
蜜は3倍となる。バイオエタノールプラントでは現在製糖工場から出る糖蜜の20%程度を利用しているた
め、糖蜜の確保は特に問題がないといえる。しかし、それに伴いバイオエタノールプラントから排出される
廃水および窒素も増加し、それぞれ7,500m3/年および39t-N/年となる。ここで本研究で対象とする農地
還元を導入した場合、化学肥料の約6%を代替する反面、地下ダムの硝酸態窒素最大量の66%に相当
する量が溶脱することになる。
以上のことから、水及び窒素循環の観点において、サトウキビ1.3倍とバイオエタノール750klの増産
は実行可能な行動計画といえる。しかし、これらの施策を実施するにあたって、特に「灌漑用水の確保」
が問題と考えられる。本研究の試算に基づけば、地下ダムの貯水率が85%を切った場合、サトウキビ生
産に必要な灌漑用水を確保できない可能性がある。特に、サトウキビの灌漑が始まる6月および降水量
が落ち込む7月は、この問題が重要となると考えられる。また、化学肥料の投入量の増加により、窒素の
地下浸透が進むことも予想され、施肥期間の規制や肥料形態の転換などの適切な施肥管理プログラム
の策定や、窒素吸収率の高い品種への改良、あるいはハイポニカなどの新たな農業技術の導入などに
よって、地下への窒素の溶脱を抑制する農業手法の確立も有効と考えられる。
5. 総括
本研究では、温暖化対策技術の1つと位置づけられるバイオエタノールの生産時に排出される廃水の
農地循環に着目し、宮古島市のバイオエタノール事業を対象として水及び窒素についてマテリアルフロ
ー分析を行った。その結果、現在のバイオエタノールの事業から排出される廃水に含まれる窒素は、サト
ウキビ畑に投入される化学肥料の約2%と微量であることと、農地還元の結果、宮古島の地下ダムに存在
する硝酸態窒素最大量の22%にあたる窒素量が溶脱する可能性が示唆された。そのため、サトウキビの
生長期に集中的な投入を行うなどの、適切な管理計画の下での農地還元が必要であるとの結論が得ら
れた。さらに、水及び窒素循環の観点から、宮古島市環境モデル都市行動計画のサトウキビとバイオエ
タノール増産について考察を行った。その結果、これらの計画は実行可能と考えられるが、サトウキビの
灌漑用水の確保の問題や、施肥管理の徹底が必要との結論が得られた。
今後の課題として、現行の技術インベントリーでは、りんおよび炭素の算定が不十分であるため、りん
および炭素のデータベースの精緻化があげられる。
105
【研究成果発表リスト】
3-1) Xudong Chen, Yong Geng, Tsuyoshi Fujita, 2010 An Overview of Municipal Solid Waste
Management in China, Journal of Waste Management,vol.30,pp.716-724.
3-2) Tadanobu Nakayama, Ying Sun, Nguyen Cao Don, Tsuyoshi Fujita, Yong Geng ;
Simulation of water resource and its relation to urban activity in Dalian City, Northern
China, Global and Planetary Change (accepted 2010.03.25).
3-3) Yong Geng,Qinghua Zhu, Brent Doberstein,Tsuyoshi Fujita, 2009
Implementing
China’s Circular Economy Concept at the Regional Level: a review of progress in Dalian,
China, Journal of Waste Management, vol.29,pp996-1002, 02.
3-4) 橋本禅,若林諒,孫穎,陳旭東,藤田壮,耿涌, 2009,中国大連市の一般廃棄物管理施策を対象
とした循環経済社会シナリオの設計と評価,環境システム研究論文集,Vol.37,pp.301-310.
3-5) Looi-Fang Wong, Tsuyoshi Fujita, Kaiquin Xu, 2008. Evaluation of regional bio-energy
recovery by local methane fermentation thermal recycling systems, Journal of Waste
Management,vol.28, pp.2259-2270, 11.
3-6) Yong Geng, Pang Zhang, Raymond P. Cote, Tsuyoshi Fujita, 2008, Assessment of the
National Eco-industrial Park Standards for Promoting Industrial Symbiosis in China,
Journal of Industrial Ecology, Vol.13, No.1, pp.15-26, 11.
3-7) 村野昭人,藤田壮,長澤恵美里, 2007, WebGIS データベースを用いた循環施設を中核とする地
域循環支援システムの提案,環境システム研究論文集,Vol.35,pp101-108, 10.
3-8) Yong Geng , Raymond Cote, Fujita Tsuyoshi, 2007. A quantitative water resource
planning and management model for an industrial park level, Journal of Regional
Environmental Change, Springer, Volume 7, Number 3 ,pp123-135, 09.
【学会などでの発表実績リスト】
3-9) Wang X., Huang B., Fujita T. ,Xu K-Q.2009. The Optimal Control Model of Regional
Pollution Reduction and Solution Method, 2009 International Conference on Energy
and Environment Technology, Guilin China, Oct. 16-18.
3-10) Shizuka Hashimoto, Tsuyoshi Fujita, Xudong Chen,Yong Geng, 2009. Achieving
Circular Economy through Urban Symbiosis in Dalian (China), 5th International
Conference of the International Society for Industrial Ecology, Poster Session, June
21st ,,Lisbon, Portugal
3-11) Xudong Chen, Tsuyoshi Fujita, Yong Geng, Shizuka Hashimoto, 2009. Transferring
Japanese Urban Symbiosis Model to China 5th International Conference of the
International Society for Industrial Ecology, Oral Session, June 21st ,Lisbon, Portugal
3-12) Tsuyoshi Fujita, 2009. Evaluation of symbiosis effects in eco-industrial parks in Japan,
5th International Conference of the International Society for Industrial Ecology, Oral
106
Session, June 22nd ,Lisbon, Portugal
3-13) Shizuka Hashimoto,Tsuyoshi Fujita, 2009. First ISIE Regional Meeting:Asia-Pacific
International Workshop on Industrial Ecology,pp.4,ISIE News,vol.9 ,March.
3-14) Shizuka Hashimoto, Hiroyuki Hamano, Tsuyoshi Fujita , Hiroko Hori, 2008. Building
Low Carbon Cities: Framework to Design and Evaluate Alternative Technologies and
Policies for Land Use Planning, Eos Trans. AGU, 89(52), Fall Meet. Suppl., Abstract
U41D-0029, December ,15th -19th.
3-15) Shizuka Hashimoto, Yong Geng, Tsuyoshi Fujita,Ryo Wakabayashi, 2008. Innovation
of Circular Cities in Chinese and Japanese Eco-towns: Circular Economy Scenarios for
MSW management in Dalian, China, EcoBalance, Proceedings,19-03,Dec.10th,
(CD-ROM)
3-16) Tadanobu Nakayama, Tsuyoshi Fujita, Yong Geng, Shizuka Hashimoto, 2008,
Simulation of water resource and its relation to urban activity in Dalian City, Northern
China, session number Y2, HydroPredict2008, Prague, Czech Rep.,
Proceedings,pp.295-298,15th -18th September, (CD-ROM).
3-17) Fujita, T. and Okadera, T., 2008.
Current situation of Social Experiment Plant of
Biofuel Program in Japan, International Workshop on Development of Environmental
Management Technology for Sustainable Utilization of Biomass, March, Keio
University, Tokyo.
3-18) Shizuka Hashimoto, Tsuyoshi Fujita, 2007. Development of Integrated
Environmental Assessment Model for Municipal Environmental Policy Making,
Asia-Europe Environment Forum 5th Roundtable, ASEF, Nov. 28th -30th (Shenzhen,
China)
107
②劣化土壌での節水型エネルギー作物の検索・育成とバイオマスエネルギー生産量推定(慶応大学
渡辺正孝、丹治三則、中国科学院遺伝学与生育生態研究所農業資源中心 楊 永輝)
1. 資源循環型農業の資源作物導入に伴う水資源及び経済への対策効果
(1) 資源作物の検討と環境影響評価
現在のバイオエタノール産業の動向を踏まえ、未利用作物である「菊芋」のバイオエタノールの原料と
しての有効性を検証する。また、他の資源作物と比較してバイオエタノール生産適性を評価する。
1) 「菊芋」の特徴
「菊芋」の特徴を表 3-5 に整理する。
表 3-5 菊芋の基本情報
学名
Helianthus tuberosus L
和名
キクイモ
漢名
菊芋
英名
Jerusalem artichoke, girasole
仏名
topinambour
独名
Erdapfel
別名(日本)
豚芋
別名(中国)
洋姜(yángjiāng),鬼子姜(guǐzijiāng)
分類
キク科
原産地
ヒマワリ属の多年草
北米大陸(アメリカ北東部、カナダ東部)
日本進出の来歴
※
文久初期(1860 年代前半)にアメリカより渡来
中国進出の来歴
※
明~清代に渡来
用途
<昔>
・家畜の飼料用作物
・果糖の原料
・酒精原料
・戦後の食糧難の時期には食用としても検討
<現在>
・漬物
・果糖の原料
・健康食品
<出典;各種資料より作成>
108
写真 3-1 菊芋の花写真
写真 3-2 菊芋畑
写真 3-3 菊芋茎葉
写真 3-4 菊芋の葉
<出典;調布市野草園にて筆者撮影>
写真 3-5 菊芋収穫期
写真 3-6 菊芋
<出典;菊芋専門店きくいもハウス>
109
菊芋はキク科のヒマワリ属の多年草で、地上部の概観はヒマワリのように直立型で背丈は 2~3mにもな
る。葉は先端が尖った卵形で花はヒマワリの花というよりもキクの花に似た直径 7cm ほどの黄色い花を咲
かせる。そして、土中には芋を形成するがその形状はジャガイモやサツマイモとは大きく異なりショウガや
ウコンに非常に近い。その成分の多くは水分であり、菊芋の特徴的な成分の一つが「イヌリン」という物質
で、この物質は血糖値の上昇を抑制する効果を持っており、これを摂取した場合は他の食品を摂取した
場合に比べて血糖値の変化に大きな差が出てくる。これに着眼し最近は健康食品として徐々に広まって
きている。また、摂取量の割に満腹感を得られることからダイエット食品としても注目されつつある。戦後、
我が国の食糧難の頃には食糧不足を克服するために菊芋を食用として奨励する動きがあった。
表 3-6 芋類の成分表
地区
可食部
水分
%
%
蛋白質
脂肪
炭水化物
〔g〕
熱量
〔kcal〕
甘薯
新疆
85.0
73.0
1.4
0.6
22.6
101
馬鈴薯
福建
92.0
78.0
1.7
0.1
18.7
83
菊芋
北京
100.0
79.8
0.1
1
16.6
68
繊維
灰分
Ca
P
Fe
カロチン
〔g〕
VB1
VB2
ナイアシン
VC
3
18
〔mg〕
甘薯
新疆
1.3
1.1
33
25
0.5
0.4
-
0.02
馬鈴薯
福建
0.4
1.1
60
41
4.8
少量
-
0.03
菊芋
北京
0.6
2.8
49
119
8.4
0
0.13
0.06
10
0.6
6
<出典;中国食物事典,P606 より>
バイオ燃料として菊芋に注目する理由は、菊芋の生育環境適応力の高さにある。その特徴は以下の
通りである。
1. 耐寒性に優れている(菊芋の地下茎部は-40℃~-50℃でも凍死しない)
2. 耐乾性に優れている(砂地、荒地など少雨地域でも栽培可能)
3. やや冷涼な環境を好むが夏の高温は成長に必要
4. 日照時間が多い地域が適している
5. 地下茎部は保水能力が高い(降雨時にまとめて貯水する)
6. 繁殖力が非常に強い(毎年の繁殖力は 15 倍~20 倍ともいわれる)
7. 葉表面からの蒸発量が少ない(葉の表面には粗毛があり蒸発を抑えている)
8. 塩分が高い土壌でも生育可能(土壌塩分 3%~5%でも生育に影響なし)
9. 栽培時に必要な施肥量が馬鈴薯の 1/4 ですむ(肥料は不要という文献もあり)
10. 病害虫の心配は不要(農薬も不要)
11. 寒暖の差が大きいほど成長に適す
この中で特に他の作物を比較して突出している項目が “1. 耐寒性” である。大抵の植物は低温には
110
弱く氷点下 30℃ともなると枯死するが、菊芋の場合は地上部だけは枯れてしまうものの地下茎部は極低
温の環境下でも耐え凌いで翌春には再び芽を出す強い生命力を持つ。この特徴は、寒冷地、乾燥地の
土壌回復とバイオ燃料生産の観点から魅力的である。耐乾性と塩害土壌への耐性の 2 つの要素は、現
在耕地に適さない土地を利用して栽培するポテンシャルがあることになる。このように、菊芋には他の植
物には無い頑強さを持っており、この長所をうまく活かすことで様々な活用法を見出すことができる植物
である。
この菊芋の栽培方法を表 3-7 に示す。
表 3-7 菊芋の栽培スケジュール
中国における年間栽培スケジュール
備考
1月
2月
注意点:地下茎部はしっかりと覆土され
ていなければならない
3月
土中に眠っていた地下茎部、残根から発芽
地温 6℃くらいから発芽準備
種芋を植え付け開始
10℃以上になると発芽
4月
5月
必要に応じ追肥
6月
7月
この時期は雨季になり、水分を蓄える
(地上部の刈込み)
8月
9月
家畜飼料として活用
このころ背丈は 2m以上にまで成長
花が咲き始める
10 月 地上部枯死が始まる
11 月 地下茎部の成熟期
以降使用時に必要な量だけ収穫
12 月
春先まで土中にて越冬
<出典;各種資料より作成>
菊芋の栽培条件として必要とされる気象条件は次の通りである。
・ 年間降水量 150mm 以上
・ 年間積算温度 2,000℃以上
・ 気温が 17℃以下に下がる
・ 無霜期間が 125 日以上
・ 日照時間が多い
この条件を満たす地域において、春先の寒さが緩んでくるころに地温が 6℃~7℃になるころから地下
茎部は発芽の準備を始める。そして地温が 10℃を超えるようになると発芽する。この時期に気になること
が晩霜による影響であるが、菊芋は地温 1℃近くまで耐えられるためその影響の心配は非常に小さい。
111
その後 5 月頃に必要に応じて追肥を行う。やがて雨季へと突入し、この期間で降った雨を溜め込んで成
長に用いることとなる。6 月~8 月にかけて茎葉の成長期に入り背丈が伸びるが、この時期に1回刈込み
を行うことで芋の成長を促進する。そして、この刈込んだ茎や葉は家畜飼料として利用することができる。
そして早ければ 8 月の終わりから花が咲き始める。この開花時期から地中に芋が形成され始め、気温が
下がっていくとともに成長をしていく。気温がだいぶ下がってくると地上部はやがて枯れ始める。地上部
は霜に弱いため気温が下がると枯れてしまう。やがて地上部が枯れると地中の芋は既に大きくなっており
後は収穫を待つのみとなる。これが早ければ 10 月中旬頃から始まり 12 月にはほぼ全てが収穫可能とな
る。芋は貯蔵性に問題があるため、必要数量を必要な時期に掘り出して使うことが求められる。芋は、冬
の間は地中保存でも腐敗することはないので春まで土中保存が可能である。その際に、芋が地表面へ露
出しないように覆土しなければならないことに注意する必要があり、これを実施することで発芽前の収穫も
可能である。
栽培時の特徴である “9. 栽培時に必要な施肥量” と “10. 病害虫の心配が不要” の 2 点について、
栽培者にとって大きなメリットとなる。植物の中には大量の肥料を必要とするものや、病気にかかりやすい
ものなどがありその管理が大変である。そのうえ水やりもしなければならない。この菊芋は耐乾性もあるの
で水の心配は他の植物と比べても小さくてすむ。あとは 1 年目の植え付け以降は根絶やしにすることが
難しいといわれるほどの繁殖力の強さから、取り残しの地下茎部や小さな根から発芽をすることも栽培に
有利に働くと思われる。極端なことをいえば、1度植え付けをしてしまえば芋の収穫時期以外は放置した
ままということも可能である。
この菊芋が中国全土に分布しているといわれている。始めて中国に持ち込まれて以来、食用価値が低
下して栽培されなくなり自生するようになった。ちなみに日本においては亜熱帯気候に属する沖縄地方
を除いては栽培可能であり、北海道、長野県、岐阜県で多く栽培されている。また、中国と同様に道端や
川辺で自生していることもある。調布市野草園の職員の話によると、調布市を流れる野川流域にも菊芋が
生えているそうだ。
2) 菊芋によるバイオエタノール製造
かつて菊芋は、酒精原料としても使用されていたが、燃料用エタノールとして可能性はあるのかが重要
である。先行研究は、戦時中の燃料確保のための実験が報告されている。その研究論文では海外の先
行研究も取り上げられていた。その内容は戦前の 1920 年に Windisch が 100kg の菊芋から 8~10ℓ、
Ruediger が同 7ℓ 以上、1934 年には R.Vadas が 8~8.5 ℓ のアルコール精製に成功しているということ
である。これを参考にして日本でも菊芋からエタノールを生産しようと実験を行った。一連の実験では最
終的に菊芋 100kg あたり約 7.4ℓ のエタノールを生産することに成功した。日本ではこれ以降菊芋からの
エタノール生産に関する研究がされていないようである。菊芋に関する研究としてはイヌリンの抽出に関
連した事項がメインとなっている。海外ではその後はどういう動きをしていたかというと、菊芋からエタノー
ルを生産する研究として件数は多くないが行われていた。主な研究内容としては菊芋を原料としたエタノ
ール生産するにあたり、その発酵に関する研究がその多くを占めていた。
中国ではこの件について研究はされているのかを調査してみたところ、中国では少し前から菊芋に対
するその有望性を認識し始めているようである。菊芋に関する研究としては次に挙げるようなものが行わ
112
れていた。
① 菊芋自体の栽培に関する研究
② 砂漠化防止効果の研究
③ 家畜飼料作物としての研究
④ イヌリン・果糖抽出に関する研究
⑤ エタノール生産に関する醗酵研究
先に述べたように中国では農民の収入増加、農村の振興は重要な国家課題であるため、これらの研
究の中では農民や農村への影響も記載されたものもある。また、これらの項目に関連する特許の取得も
数件されていた。特許を獲得することは将来的にも事業化される可能性を秘めていると認識していること
の表れでもある。吉林省洮南市では菊芋からバイオエタノールを生産するプロジェクトを計画し、これに
対する投資を募り企業の誘致も行った。
このように海外では、菊芋からバイオエタノールを生産する方法は少なからず研究蓄積がある。したが
って、菊芋からバイオエタノールの生産する可能性はある。問題は、この植物自体の価値が一般的には
最近まで認知されていなかったことが考えられる。菊芋自体が注目を浴び始めたのがつい最近であり、
研究がようやく本格的にされてきた段階である。その過程で酒精原料として活用されていた過去の例や
原油価格の高騰といった時代背景も重なり着目されてきたのであろう。そして、バイオエタノールを生産
するにあたり1番のネックとなるものがそのコストである。その経済性の問題も大きいのではないかと推測
できる。菊芋を原料とするバイオエタノール生産について作物の収穫量やエネルギー転換率をいくつか
のパターンに分けてそれぞれのケースにおける経済性をカナダのケベックとウェストカナダという 2 つの地
域でコスト比較している。
では、菊芋からエタノールを生産する工程はどうなっているのかを簡単に紹介する。イメージとしては一
般のサツマイモを原料とした芋焼酎の製造工程とデンプン質原料からのバイオエタノール生産工程を組
み合わせたものになる。ただ1点注意しなければならないことは、菊芋の炭水化物はサツマイモや馬鈴薯
などのイモ類のデンプン質とは異なるため、炭水化物を糖化処理する際に全く同じとはいかない点である。
しかし、過去の菊芋を原料とするエタノール生産研究においてこの点に関しては既に研究されているた
め、その技術を利用することで回避することができる。
まずは収穫した菊芋を洗い破砕し、それに加水して微酸を添加する。それを蒸煮して糖化して冷却し、
酵母を投入して発酵させる。発酵液と不要固形物とを分離除去し、エタノール含有液を蒸留・濃縮脱水し
てその純度を高めて最終的には 100%近いエタノールにする。この蒸留・濃縮脱水工程では主に連続多
蒸留法が主流である。(図 3-4)
113
図 3-4 バイオエタノール生産プロセス
3) 他の資源作物との生産性及び環境影響評価
ではこの菊芋は現在主流であるサトウキビやトウモロコシなどのエネルギー作物と比べてどの程度の期
待が持てるのかを検証してみる。まずはバイオ燃料となる作物の栽培地域による比較を行ってみる。今回
の分類の仕方として栽培適合地を南北に分類、そしてバイオエタノールとバイオディーゼル(BDF)、そ
の作物が食糧とされているか否かの 3 つの要素から分類をしてみた(表 3-8)。
表 3-8 エネルギー作物と生産地域
エタノール
北方
南方
BDF
食糧
トウモロコシ、コムギ、ジャガイモ
非食糧
キクイモ
砂桃
食糧
サトウキビ、サツマイモ、コメ
大豆、菜種、ヒマワリ
非食糧
キャッサバ
ジャトロハ
<出典;各種資料より筆者作成>
世界第 1 位のシェアを誇るブラジルが原料としているサトウキビは主に南方で生産されている。日本で
も現在沖縄でサトウキビを原料とするバイオエタノールの生産を試行している。北方に目を向けると世界
第 2 位のアメリカがその原料として使用しているトウモロコシが栽培されている。トウモロコシは中国で生産
されているバイオエタノール原料においてもその主流となっている。第 2 章で述べたようにバイオエタノー
ルの原料とされている作物のほとんどが食糧である。バイオディーゼルも廃油を原料としたものではなく、
植物から生産するものについては食用とされる植物が原料とされている。そこで現在世界の潮流としては
食糧と競合の恐れが少ない作物を原料としたバイオ燃料の生産へとシフトチェンジされ始めている。その
筆頭となる作物がキャッサバであり、バイオディーゼルではジャトロハである。両者とも暖かい地方では栽
培が可能である。したがって、東南アジアやアフリカ方面で徐々に栽培が行われている。一方北方では
キャッサバやジャトロハのような非食糧作物の存在をあまり耳にしない。バイオディーゼルの原料となって
114
いる「砂桃」は、伸和商事㈱が 1978 年から中国で実施されている『三北防護林プロジェクト』に 1990 年か
ら参加するようになり、その活動の中で砂漠に自生していた「砂桃」見出した。その種子には 50%以上の
油分を含んでいるため、これをバイオ燃料として活用するものだ。バイオエタノールの方はというとなかな
か見つからない。一部では遺伝子組み換えトウモロコシをバイオエタノール専用の作物として栽培を拡大
していこうという動きもある。しかしこれは生態系へどのような影響を与えるのかは未知数であり、他の遺伝
子組み換えでないトウモロコシとの交雑の恐れもあり、不確定かつ不安要素がかなり多く隠れている。こ
のような問題をはらんでいないうえ、寒さに強いエタノール原料となる植物が菊芋である。したがって、エ
タノール生産にあたって南にキャッサバがあれば北には菊芋、バイオディーゼルでは南にジャトロハ、北
には砂桃といった具合に棲み分けをすることができる。
次に、収穫量やエタノール生産量などについて他の資源作物と比較をしてみる。まずは各作物の単位
重量あたりのエタノール生産量を比べてみる(図 3-5)。原材料 1t あたりから生産されるエタノール量が一
番多いのはトウモロコシで 370ℓ/t である。次いでコメ、コムギが 303ℓ/t となっている。世界 3 大穀類の単
位重量あたりのエタノール産量が群を抜いて多い。一方で世界第 1 位のバイオエタノール生産国ブラジ
ルが原料とするサトウキビは全体の中で単位重量あたりのエタノール産量は少ない。そして菊芋の単位
重量あたりのエタノール産量はジャガイモやサトウキビよりやや下回る値である。そして、重量あたりのエタ
ノール産量が1番多いトウモロコシと比較すると 4 倍以上の開きが生じている。この数値を見る限り菊芋は
特に優れている作物とはいえない。どちらかといえば効率の悪い作物の部類に入ってしまう。
図 3-5 重量あたりのエタノール生産量
そこで、各作物の単位面積あたりの収穫量を比較してみる。これによってサトウキビが世界第 1 位のバ
イオエタノールを供給している原料たる所以が少し見えてくる(図 3-6)。ここで目に付くのがサトウキビの
数値である。1ha あたりの収穫量は 72.46t と他の作物を圧倒している。その一方でトウモロコシ、コメ、コ
ムギといった重量あたりエタノール産量の大きい作物は、他の作物と比べて極端に単位面積あたりの収
穫量が少なくなっている。サトウキビの収穫量の 10 分の 1 以下程度しか収穫をあげることができない。そ
115
してイモ類は概ねその中間の収穫量に位置している。そしてキクイモはイモ類の中でも一番多い収穫量
が期待でき、サツマイモの 2 倍くらいの収穫量を得ることができる。このことは、土地資源の限られているよ
うな地域にとっては非常に重要なポイントとなってくる。したがって、キクイモはこの点では非常に有望な
作物といえることができる。
図 3-6 単位面積あたりの収穫量
116
では、これらを単位面積あたりのエタノール生産量にしてみる(図 3-7)。地球には耕作に利用できる土
地面積は限られているため、前の 2 つのデータよりも最終的に重要となってくる数値としては、限られた面
積からどの程度のエタノール量を生産することができるかである。これを見ると、単位面積あたりの収穫量
が多いサトウキビが最終的にエタノールの産量も多くなっており、1ha あたりの生産量として約 6,200ℓ/ha
となっている。トウモロコシの値は、サトウキビの 3 分の 1 程度の 1,900ℓ/ha にしかならない。しかしそこは
広大な耕地を有するアメリカだけあって国単位の生産量は非常に多くなる。キクイモはどのくらいの値に
なるかというと、3,735ℓ/ha の生産を見込める。この値は現在主流であるトウモロコシよりも多く、同じ耕地
面積からトウモロコシの 2 倍近いエタノールを生産できるということになる。そして中国でこれから非食糧バ
イオエタノール原料として政府が力を入れているサツマイモよりも良い数値である。したがって、地球上の
限られた土地利用の観点から考えると、菊芋を使用したバイオエタノールの生産は本格的に取り組んで
いくに値するものだと考えられる。
図 3-7 単位面積あたりのエタノール生産量
117
そして、参考要素として各作物の光合成能力の比較をしてみた(図 3-8)。これをみると、菊芋の同属で
あるヒマワリは、他の植物と比較して高い葉面積当たりの光合成能力を有していることがわかる。菊芋の
生育可能環境と特性を考えると、乾燥し痩せた土地でも育つためには少ない水分を効率よく用いて光合
成の際に多くの炭素分を吸収して栄養素を作り出す必要がある。そして、その栄養分を用いて芋の中に
蓄えて繁殖をしていく。そのような背景を考えると、この値が他の作物と比較して高くなることは説明がつく。
地球温暖化の原因物質である二酸化炭素を多く吸収する能力のある作物であればその利用価値はより
一層高まるものと考えられる。
図 3-8 葉面積あたり最大光合成能力
<出典;光合成と物質生産より>
このように、菊芋は他の資源作物と比べてもバイオエタノールの原料として見劣りすることのない作物で
あるといえる。そして、菊芋には他の資源作物にはない耕作不適地でも栽培でき、栽培管理が容易とい
ったメリットもあるため、今後は活用の場が増えてくるものとみられる。
では、この菊芋が栽培からバイオエタノールになるまでのライフサイクルアセスメント(以下 LCA)が他の
作物と比較してどの程度なのかを見積もり計算をしてみる。比較するための前提条件として、地球上には
土地資源が限られ耕地として利用できる面積は有限であり、バイオエタノールを生産するための作物を
栽培するにしてもその限られた土地を使用しなければならないことから、栽培面積あたりの中国における
各資源作物の LCA を「作物栽培~エタノール生産、供給地までの輸送」について算出する(図 3-10)。
また、工場などの建設に際する投入されるエネルギーは考慮しないものとする。また、農薬や除草剤、
薬品や潤滑油といった補助的な要素についても今回は含めないものとする。参考として日本におけるバ
イオエタノール生産した場合の比較表を提示する(図 3-9)。
118
表 3-9 原料作物の LCA(日本)
実施面積 〔ha〕
1
コメ
トウモロコシ
コムギ
サツマイモ
ジャガイモ
サトウキビ
キクイモ
単位面積あたり収穫量
〔t/ha〕
6.32
2.508
3.984
24.62
32.38
55.48
30
重量あたりのエタノール収量
〔ℓ/t〕
〔ℓ/ha〕
〔t〕
303
1914.96
6.32
370
927.96
2.508
303
1207.152
3.984
127.8
3146.436
24.62
87.1
2820.298
32.38
85.41
4738.5468
55.48
83
2490
30
〔ℓ〕
1914.96
927.96
1207.152
3146.436
2820.298
4738.5468
2490
耕地面積あたりエタノール収量
総収穫量
エタノール産量
作物栽培
投入肥料 窒素
〔kg〕
94.8
40
10
40
100
20
140
リン
〔kg〕
126.4
20
50
100
120
20
100
カリウム
〔kg〕
126.4
40
0
40
80
20
40
〔kℓ〕
10000
2700
1600
6000
2500
13000
1500
工業用水
〔kg〕
76598
37118
48286
125857
112812
189542
99600
〔GJ〕
0.17
0.08
0.11
0.28
0.25
0.43
0.22
電力
〔kwh〕
750.66
363.76
473.20
1,233.40
1,105.56
1,857.51
976.08
農業用水
エタノール生産
〔GJ〕
8.18
3.96
5.16
13.44
12.05
20.25
10.64
〔kg〕
8,042.83
3,897.43
5,070.04
13,215.03
11,845.25
19,901.90
10,458.00
〔GJ〕
20.40
9.88
12.86
33.52
30.04
50.47
26.52
肥料
〔GJ〕
6.06
1.96
1.06
3.12
5.75
1.13
6.47
栽培機械動力
〔GJ〕
26
5.46
6.1
7.2
2.9
2.4
5
運搬(50km を想定)
〔GJ〕
0.47
0.47
0.47
1.40
1.40
2.33
1.40
〔GJ〕
〔GJ〕
28.75
2.32
13.93
2.32
18.13
2.32
47.24
2.32
42.35
2.32
71.15
2.32
37.39
2.32
〔GJ〕
63.60
24.14
28.07
61.28
54.72
79.32
52.57
〔GJ〕
45.77
22.18
28.85
75.20
67.41
113.25
59.51
0.72
0.92
1.03
1.23
1.23
1.43
1.13
水蒸気(熱)
栽培時投入エネルギー
エタノール生産時投入エネルギー
水・燃料・動力・熱
運搬(300km を想定)
総投入エネルギー
産出エネルギー
エネルギー収支
エネルギー収支
<出典;次ページの一覧表に表示>
119
項目
係数
単位
出典
単位面積あたり収穫量
表の値
キクイモ:「新編 食用作物」、その他:「FAOSTST」
重量あたりエタノール収量
表の値
サトウキビ:「ISAIAS DE CARVALHO MACEDO.(1996)」
その他:「NEDO 新エネルギー海外情報 00-2 号」
投入肥料
表の値
「新編 食用作物」
農業用水
表の値
「新編 農学大事典」
工業用水
40 Kg/ℓ
電力
「佐賀清崇、横山伸也、芋生憲司.(2007)」
0.392 kwh/ℓ
水蒸気(熱)
4.2 kg/ℓ
肥料の製造、流通のエネルギー N:33.44、P:14.48
MJ/kg
「越野正義. (1992)」
K:8.4
トウモロコシ:「PerH.Nielsen,Henrik Wenzel.(2005)」
表の値
栽培機械動力
サトウキビ:「ISAIAS DE CARVALHO MACEDO.(1996)」
キクイモ:「ジャガイモの値を参考に仮定」、その他:「エコロジーシンフォニー」
農作物の運搬(積載量)
(燃費)
工業用水のエネルギー
11.1 t
0.247 ℓ/km
0.00225 MJ/kg
電力のエネルギー
10.9 MJ/kwh
水蒸気(熱)のエネルギー
2.54 MJ/kg
エタノールの運搬(積載量)
(燃費)
「日産ディーゼル工業㈱」
31.06 m2
「佐賀清崇、横山伸也、芋生憲司.(2007)」
「日野自動車工業㈱」
0.205 ℓ/km
エタノール発熱量
23.9 MJ/ℓ
「NEDO 新エネルギーガイドブック 2008 導入扁」
軽油発熱量
37.7 MJ/ℓ
「資源エネルギー庁 総合エネルギー統計」
120
表 3-10 原料作物の LCA(中国)
実施面積〔ha〕
単位面積あたり収穫量
重量あたりのエタノール収量
耕地面積あたりエタノール収量
総収穫量
エタノール産量
作物栽培
投入肥料 窒素
リン
カリウム
農業用水
エタノール生産
工業用水
電力
水蒸気(熱)
栽培時投入エネルギー
肥料
栽培機械動力
運搬(50km を想定)
エタノール生産時投入エネルギー
水・燃料・動力・熱
運搬(300km を想定)
総投入エネルギー
産出エネルギー
エネルギー収支
エネルギー収支
コメ
6.24
303
1890.72
6.32
1890.72
トウモロコシ
5.2
370
1924
2.51
1924
コムギ
4.36
303
1321.08
3.98
1321.08
サツマイモ
21.5
127.8
2747.7
24.6
2747.7
ジャガイモ
14.82
87.1
1290.822
32.38
1290.822
サトウキビ
72.46
85.41
6188.8086
55.48
6188.8086
キクイモ
45
83
3735
45
3735
〔kg〕
〔kg〕
〔kg〕
〔kℓ〕
209
243.5
239.6
10000
337.5
525
240
2700
327
218
177.4
1600
188.3
193.5
236.6
6000
185.3
148
314.2
2500
101.9
67.9
135.8
13000
150
12
450
1500
〔kg〕
〔MJ〕
〔kwh〕
〔GJ〕
〔GJ〕
30252
0.09
499.15
4.51
22.55
30784
0.09
507.94
4.59
22.95
21137
0.06
348.77
3.15
15.76
43963
0.13
725.39
6.55
32.77
20653
0.06
340.78
3.08
15.40
99021
0.30
1,527.65
13.79
60.16
59760
0.18
986.04
8.90
44.55
〔GJ〕
〔GJ〕
〔GJ〕
12.53
26
0.70
20.90
2.84
0.70
15.58
5.01
0.70
11.09
7.2
1.41
10.98
2.9
2.11
5.53
2.4
3.52
8.97
5
2.81
〔GJ〕
〔GJ〕
〔GJ〕
〔GJ〕
27.06
3.77
70.06
65.23
27.53
3.77
55.75
66.38
18.91
3.77
43.97
45.58
39.32
3.77
62.78
94.80
18.47
3.77
38.23
44.53
73.95
3.77
89.17
213.51
53.45
3.77
74.00
128.86
0.93
1.19
1.04
1.51
1.16
2.39
1.74
1
〔t/ha〕
〔ℓ/t〕
〔ℓ/ha〕
〔t〕
〔ℓ〕
<出典;次ページの一覧表に表示>
121
項目
係数
単位
出典
単位面積あたり収穫量
表の値
キクイモ:「菊芋的栽培管理」、その他:「FAOSTST」
重量あたりエタノール収量
表の値
サトウキビ:「ISAIAS DE CARVALHO MACEDO.(1996)」
その他:「NEDO 新エネルギー海外情報 00-2 号」
投入肥料
表の値
农 博种业 ,农 业 知识 大全,中国农 业 教育网,中国农 业 信息网
農業用水
表の値
「新編 食用作物」、「新編 農学大事典」
工業用水
16 kg/ℓ
電力
0.264 kwh/ℓ
肥料の製造、流通に係るエネルギー N:33.44、P:14.48
MJ/kg
「Xiaobin Dong et al.(2008)」
「Du Dai et al.(2006)」
「越野正義. (1992)」
K:8.4
トウモロコシ:「Q. Yang et al. (2009)」、コムギ:「Xiaobin Dong et al.(2008)」
表の値
栽培機械動力
サトウキビ:「5.46《アメリカのトウモロコシ(PerH.Nielsen et al(2005))》×0.6(日中
比率)」、その他:「6.1《日本の小麦》×0.8」
農作物の運搬(積載量)
(燃費)
工業用水のエネルギー
電力のエネルギー
水蒸気(熱)<石炭>
エタノールの運搬(積載量)
(燃費)
エタノール発熱量
軽油発熱量
13.1 t
中国卡车 车
0.28 ℓ/km
0.00225 MJ/kg
「佐賀清崇、横山伸也、芋生憲司.(2007)」
9.03 MJ/kwh 「安徽日报
11.927 MJ/ℓ
31.06 ㎥
单 位 GDP 能耗(吨标 煤/万元)计 算方法」
「Du Dai et al.(2006)」
「天涯视 窗」
0.205 ℓ/km
25.872 MJ/kg
「安徽日报
单 位 GDP 能耗(吨标 煤/万元)计 算方法」のガソリン発熱量×0.6
36.3 MJ/kg
「安徽日报
单 位 GDP 能耗(吨标 煤/万元)计 算方法」
122
まずは栽培過程における物質投入量を見てみる。ここで驚くことが、中国での作物栽培の際に投入す
る化学肥料の量の多さである。この比較表で用いている数値は、中国の地方政府の農業情報や農業系
シンクタンクの農作物の栽培技術に関して、複数の最新栽培方法の記述を参考にしてその中で平均的
な値よりも少な目の値を採用している。したがって、農民がこのとおりに栽培していると考えると、その施肥
量はとても多いものとなる。日本の園芸関係の図書に記載されている施肥量と比べると、中国では単純に
2 倍以上の化学肥料を用いていることになる。この農業で用いる化学肥料の多さを裏付ける資料の一つ
が、地方政府の農村発展に関する報告の中で農民の化学肥料使用量の増加を盛り込んでいたことであ
る。そして、化学肥料の使用量増加を成果として公表しているものもあった。そのことから、中国では化学
肥料の使用を推進していることが伺える。このようなことを考慮して肥料投入量を見てみると、その使用量
が少ない作物はサトウキビとイモ類が該当する。菊芋の施肥に関して不要という文献もいくつか存在して
いるが、今回は肥料を与えるものとして計算を行う。さらに農作物には「病気」という危険が付きまとうため
に農薬の使用は欠かすことができない。そうなると、ここで盛り込まれている肥料のほかに農薬使用も考
慮する必要が出てくる。これについて菊芋はその特徴で示したとおり、病害虫の心配がいらない作物で
あるので農薬消費量はゼロとしてカウントすることができる。そして、乾燥地域で育つため栽培時に必要
な水の量はごく少量でよい。特に中国では水不足が問題深刻化しているため、この点においては非常に
高い優位性を持っているといえる。
「農業用動力」に関しては小麦とトウモロコシのデータは得られた。他の作物は詳細なデータが入手で
きなかったために、代替措置として日本における農作業時に投入するエネルギー量を基本数値とした。
サトウキビは日本での同様の数値がなかったため代わりにブラジルの値で代用した。
エタノール生産過程で使用する「工業用水」、「電力」、「水蒸気(熱)」の係数は各種資料より引用した。
ただし、工業用水をエネルギー換算する際の係数は、中国のデータが取得できなかったために、日本の
ものを用いることとした。工業用水をエネルギー換算すると、生産時に占めるエネルギー投入割合として
は非常に小さいものであり、この部分が全体の評価に与える影響はほとんどないといえる。エタノール製
造過程におけるデンプン由来と糖分由来では最初の工程でエネルギー投入量に違いがあり、デンプン
の糖化工程のいらないサトウキビは他に比べて投入エネルギー量が本来は少なくなる。この点を考慮し
て算出した。
運搬に用いる手段として中国に実在している大型ダンプトラックと、大型タンクローリーの積載量と燃費
を用いて輸送に必要なエネルギー量を導き出した。これらの条件のもと各作物について数値を導き出し
た結果、中国国内でバイオエタノールの原料として有効な作物はサトウキビとサツマイモ、そして菊芋だと
投入したよりも多いエネルギーを回収することができるという結果となった。しかし、一般にはサトウキビ由
来のエネルギー収支はもっと高い値であり 6 以上、場合によっては 10 程度にもなるケースもある。また、ト
ウモロコシからのエタノール生産のエネルギー収支も 1 を下回ることは考えにくい。このような結果になっ
た要因として次の点が挙げられる。
1. 中国における施肥量が一般的な LCA 評価のケースに比べて多い
2. 農業副産物によるバイオマスの利用を含めていない
123
1 番目の要因の影響として、化学肥料を多用することでその製造、流通過程でのエネルギー投入量が
大きくなる。一般の LCA 評価の内訳を見ても、原料作物栽培過程における化学肥料に要するエネルギ
ーにかかる割合は大きいものであるため、施肥量が多い中国ではこの影響がより大きくなっているものと
考えられる。2 番目の要因の影響はサトウキビを原料としたエタノール生産を例に挙げると、エタノール生
産過程で使用する電力消費がバガス発電により賄われており余剰分は売電をしている。また、発電の際
に発生する熱を有効に利用することで化石燃料の投入量も抑えられている。このために、エタノール生産
過程のエネルギー投入量は少なくてすみ、6~10 のエネルギー収支となっている。中国におけるコメ、ト
ウモロコシ、イモ類からバイオエタノール生産の 際に 発生する副産物エネルギー量は、それぞれ
97.92GJ/ha、73.44GJ/ha、25.39GJ/ha であり、これを LCA 評価に考慮した場合に最終的なエネルギ
ー収支はそれぞれ 2.12、2.26、1.58 となり、トウモロコシはイモ類よりもエネルギー収支の良い作物となる。
今回はこのような農業副産物から得られるエネルギーは含めずに LCA 評価を行った。
次に、原料作物を栽培する際に使用する化学肥料を 3 分の 1 に抑えて、そしてエタノール生産工程の
中でもエネルギー消費の大きい発酵後の「蒸留・濃縮」過程でよりエネルギー消費の少ない「膜分離法」
を採用した場合の評価を行ってみる。膜分離法では一般的な生産方法である連続多段式蒸留法の「蒸
留・脱水」を採用した場合に比べて約 50%のエネルギー消費量を削減することができる。この過程での
電力消費量は、エタノール生産時の全消費電力量の 12.1%を占めている。また、同水蒸気消費量は全
体の約 59.3%を消費している。つまり、エタノール生産での電力消費量のうち 6.07%を、水蒸気は
29.6%を節約することができる。その結果各作物のエネルギー収支は向上し、トウモロコシは 1.49 となり、
サツマイモは 1.62、サトウキビも 2.64 とバガスの利用を考慮しない場合でも良好なエネルギー収支となっ
た。また、キクイモも他の作物に比べて高い 1.84 というエネルギー収支となった。このことから、キクイモは
バイオエタノールの原料として十分に活用できるということがわかった。
124
表 3-11 原料作物の LCA(中国肥料少量かつ膜分離法利用)
実施面積 〔ha〕
単位面積あたり収穫量
重量あたりのエタノール収量
耕地面積あたりエタノール収量
総収穫量
エタノール産量
作物栽培
投入肥料 窒素
リン
カリウム
農業用水
エタノール生産
工業用水
電力
水蒸気(熱)
栽培時投入エネルギー
肥料
栽培機械動力
運搬(50km を想定)
エタノール生産時投入エネルギー
水・燃料・動力・熱
運搬(300km を想定)
総投入エネルギー
産出エネルギー
エネルギー収支
エネルギー収支
コメ
6.24
303
1890.72
6.32
1890.72
トウモロコシ
5.2
370
1924
2.51
1924
コムギ
4.36
303
1321.08
3.98
1321.08
サツマイモ
21.5
127.8
2747.7
24.6
2747.7
ジャガイモ
14.82
87.1
1290.8
32.38
1290.8
サトウキビ
72.46
85.41
6188.8
55.48
6188.8
キクイモ
45
83
3735
45
3735
〔kg〕
〔kg〕
〔kg〕
〔kℓ〕
69.7
81.2
79.9
10000
112.5
175.0
80.0
2700
109.0
72.7
59.1
1600
62.8
64.5
78.9
6000
61.8
49.3
104.7
2500
34.0
22.6
45.3
13000
50.0
4.0
150.0
1500
〔kg〕
〔MJ〕
〔kwh〕
〔GJ〕
〔GJ〕
30252
0.09
468.70
4.23
15.88
30784
0.09
476.95
4.31
16.16
21137
0.06
327.49
2.96
11.09
43963
0.13
681.14
6.15
23.07
20653
0.06
319.99
2.89
10.84
99021
0.30
1,428.47
12.90
38.31
59760
0.18
925.89
8.36
31.36
〔GJ〕
〔GJ〕
〔GJ〕
4.18
26
0.70
6.97
2.84
0.70
5.19
5.01
0.70
3.70
7.2
1.41
3.66
2.9
2.11
1.84
2.4
3.52
2.99
5
2.81
〔GJ〕
〔GJ〕
〔GJ〕
〔GJ〕
20.11
3.77
54.76
65.23
20.46
3.77
34.74
66.38
14.05
3.77
28.73
45.58
29.22
3.77
45.29
94.80
13.73
3.77
26.17
44.53
51.21
3.77
62.74
213.51
39.72
3.77
54.29
128.86
1.19
1.91
1.59
2.09
1.70
3.40
2.37
1
〔t/ha〕
〔ℓ/t〕
〔ℓ/ha〕
〔t〕
〔ℓ〕
125
4) まとめ
菊芋は現在耕作不適地とされているような荒漠地でも栽培が可能な作物であり、植物では珍しく極低
温地域でも生息することができる貴重な植物である。つまり、土地の砂漠化が深刻な問題の 1 つとなって
いる中国内陸部において砂漠化防止の観点からもその利用が見込まれる。そして、この菊芋を有効利用
するための手段の 1 つがバイオエタノールの生産である。過去には菊芋を原料とするバイオエタノールの
生産の研究が行われており、平均して生菊芋 100kg からバイオエタノールが 8.0~8.5ℓ 生産された。こ
の菊芋が他のバイオエタノール原料作物と比較してどのくらいの優位性を持っているのかを「原料作物の
栽培からバイオエタノールの供給地までの輸送」までの LCA 評価を行った結果(表 3-11)、サトウキビは
他の作物よりも優れたエネルギー収支となり、これはブラジルで行われているバイオエタノール産業と同
じような成果を中国でも得られることがわかった。そして、トウモロコシについては農業副産物をエネルギ
ー利用した場合には良好なエネルギー収支となった。また、現在中国が非食糧として位置づけてバイオ
エタノール原料として今後拡大してくると思われるサツマイモも好結果であった。そして菊芋は、好結果を
出したサツマイモを上回るエネルギー収支となり、エネルギー作物として十分に活用可能であることがわ
かった。
中国国内のサトウキビ総生産量は 2006 年約 1 億 t となっている。しかし、サトウキビも食生活には欠か
せない砂糖の原料となるために食糧との競合の問題をはらんでいる。また、サツマイモは日本では普通
に食されており、サツマイモを非食糧とみなせるかどうかも問題となってくる。それに対して菊芋はそのよう
な心配は不要であり、栽培するにあたり農地の競合の心配も無く従来は利用不可能であった土地を有効
利用することができる。そして化学肥料や農薬の使用量も極端に少なくてすみ、そして多くの収穫量を見
込めエタノール生産にも投入エネルギー以上のエネルギーが回収できる。省エネ型の最新技術を用い
ると更にその生産性が高まり菊芋からバイオエタノールを生産した場合のエネルギー収支は 2 以上となる。
したがって、中国では今後菊芋からのバイオエタノール生産を推進していくことが、多くの問題を解決す
るまではいかなくとも緩和させるには十分有効な手段となりうる。
(2) バイオ燃料を活用した農村振興モデルの検証
この章では前章で菊芋がバイオエタノールの原料となりうるという結論を得て、それを実際に生産に移
行した場合に事業の経済性は成立するのかどうか、また、地域経済にどのような影響を与えるのか、そし
て地球温暖化問題にどのような寄与をするのかどうかを検証する。
1) モデル地区の選定と地域の特徴
農村振興モデルを実施するには、まず実施にふさわしい地域があるかどうかが重要であり、そのような
地域があることにより地域に即した形のモデルを構築していく必要がある。まずはその前提条件を整理す
る。
今回のケースでは経済的に遅れているといわれている地域においてバイオエタノールを製造すること
ができる基盤が整っているかが最重要ポイントとなる。製造に際して必要となるインフラ設備はもちろん、
そこには労働力もありそして生産に必要な技術要件が存在していることが必要となる。続いて必要となる
126
条件としては今回の主役である菊芋の生育条件をクリアする自然条件、地理的条件が存在していること
である。作物が栽培できなくては話にならないため、それらの環境の把握は重要な要素となる。そして全
国平均に比べて経済的に貧しい地域であることが望ましい。中国国内の格差問題の緩和に貢献するた
めには開発がまだ行き届いていないような貧困地域において振興モデルを実施することで当該地域の
産業発展と生活向上へと結びつけることが重要であるため、このような地域を選出することが必要となる。
最後に作物の特徴を最大限に活用できる地域を選ぶことで、その地域における特産品として産業優位
性を築き上げることが可能となる。
まずは中国全体の中で特に経済的に遅れている地域をピックアップしてみる。その選定条件として、中
国の都市ごとの経済状況から地域別 GDP が 5,000 億元以下の地域、1人あたり GDP が 10,000 元以
下の地域そして農村における1人あたりの収入が 2,500 元以下の地域をそれぞれ抽出した。都市部の収
入と農村部の収入の高低はお互いに似た傾向にあるため、テーマと関連が深い農村部の収入のみ抽出
を行った(表 3-12)。
これによると、GDP が 5,000 億元以下の地域は大別すると東北地方と西南地方、西北地方に多くが属
している。この中でも地域間格差は大きく特に西北地方の GDP は全体的に低い値である。1人あたり
GDP をみると東北地方は 10,000 元以下の地域はない。また、西北地方の自治区も一人あたりになると
高い値を示している。その中で目に付く地域は1人あたり GDP が 8,000 元に満たない貴州省、雲南省、
甘粛省である。貴州省はその値は 5,000 元を少し上回る程度でありその低さが際立っている。最後に農
村部の収入に目を向けてみる。東北地方はここでも名前がなくなる。やはりここでも名前が挙がってくる地
方は西南地方と西北地方である。そして地域別の値を見ても、貴州省と甘粛省だけが 2,000 元を下回っ
ている。
127
表 3-12 経済指標が低い地域
GDP
1 人あたり GDP
農村 1 人あたりの収入
あたりの収入
条件
5,000 億元以下
10,000 元以下
2,500 元以下
省名
〔億元〕
〔元/人〕
〔元/人〕
吉林省
3,620
天津市
3,697
内蒙古
3,895
山西省
4,179
江西省
4,056
9,440
広西
4,075
8,788
海南省
2,494
894
安徽省
8,675
重慶市
3,070
貴州省
1,979
5,052
1,876
雲南省
3,472
7,835
2,041
251
9,114
2,077
西蔵
四川省
9,060
陝西省
3,675
9,899
2,052
甘粛省
1,933
7,477
1,979
青海省
543
宁夏
606
新疆
2,604
2,151
2,482
<出典:中国統計年鑑 2007 より筆者作成>
それではこれらの地域の技術的要因を分析してみる。まずはこれらの地方でバイオエタノール産業が
どの程度普及しているのかを再確認しておく。バイオエタノールの生産拠点は現在のところ吉林省・黒龍
江省・河南省・安徽省が中心となっており、E10 も導入されている状況にある。つまり、東北地方には既に
バイオエタノール産業は確立されており、その規模も中国国内最大である。次に最近の動きとして広西自
治区や雲南省で次々とバイオエタノール生産拠点を増設している動きもあった。したがってこれらの地方、
つまりは西南地方にもバイオエタノール産業が広がる傾向を見せている。将来的にはこの西南地方一体
の供給を全て担うだけの生産量を期待されている。では西北地方のエタノール産業はというと、実動して
いるという情報は聞かない。しかし、バイオエタノールを生産するためのプロジェクトを設計してそれに対
する投資を募る動きは多く見受けられた。その中でこの地方の特産品でもある馬鈴薯を原料としてバイオ
エタノールを生産するプロジェクトが国務院西部開発管理室からも発せられている。そして、2007 年 8 月
には甘粛省定西市で馬鈴薯総合プロジェクトが正式に発動され、その中の1つに馬鈴薯を原料としたバ
イオエタノール生産プロジェクトが含まれていた。また、武威市の 2008 年の重点投資項目の中には年産
10 万tのバイオエタノール生産工場の建設実現を積極的に目指すことも盛り込まれていた。このような背
128
景から考えると、西北地方に属する甘粛省にもバイオエタノール生産に関わる技術的基盤が存在してい
ることをうかがうことができる。この規模のプロジェクトを行うためには、インフラは最低条件として整ってい
なければならない。プロジェクトを操業していくためには設計、運転などの技術を持っていなければこのよ
うな大規模プロジェクトを計画することはできない。したがって、この西北地方にもバイオエタノール産業を
広めていくための最低限の要素は整っているということがわかる。そして、東北地方や西南地方では実際
にバイオエタノールの生産が盛んに行われている一方で、西北地方はまだこれからという状況にあるため、
バイオエタノール供給拠点の国内バランスの観点からも西北地方は潜在性が高い。そして、菊芋の栽培
に関しては甘粛省張掖市での取り組みが行われていて、砂漠での栽培実績がある。
甘粛省のこれら条件の適合状況を整理すると、
1. バイオエタノール事業を行うための準備が進められている
2. 菊芋の栽培実績がある
3. 中国の中でも最貧地域のひとつである
4. バイオエタノールの生産拠点としての地理的優位性がある
5. バイオエタノール供給地に比較的近い
6. 菊芋栽培地となる砂漠と居住地域の距離が近い
以上のことを踏まえたうえで、今回のモデル地区として甘粛省武威市を例にして考えていくこととする。
まずはこの武威市についてもう少し詳しく調べてみる。
武威市は甘粛省のちょうど中間に位置している(図 3-9~図 3-12)。東は内モンゴル自治区に、西は青
海省に隣接している街である。ここの総人口は 193 万人でその 8 割以上が農村戸籍所有者である。武威
市の産業別 GDP の値は、第 1 次産業が 24.9 万元、第 2 次産業が 24.8 万元、第 3 次産業が 28.6 万
元となっている。また、甘粛省の省都である蘭州とは 200km、陝西省の西安とは 700km の距離にある。
バイオエタノールを生産した際の最大の供給地になると思われるこれらの都市からそう遠く離れた場所で
はない。そして、居住地域と砂漠の距離も近い位置関係にあり物資の輸送を考えると有利な位置ある。
129
図 3-9 武威市とその周辺地図
図 3-10 武威市近郊地図
菊芋栽培地域
図 3-11 武威市近郊航空写真
図 3-12 武威市近郊地形図
130
次に武威市周辺の気象状況を詳しく見てみる。まずは降水状況がどうなっているのか年間降水量の分
布を見てみる(図 3-13)。まずは甘粛省全体の様子を整理する。北部では年間降水量が 150m 未満で菊
芋の栽培にも厳しい条件となっている。南部では馬鈴薯などが栽培できる程度の降水量があり、武威市
のある中部地域は降水量が少ないものの菊芋を栽培するために必要な年間降水量 150mm 以上はある
ことがわかる。その雨が降る時期が作物の成長にはとても重要な要素となる。幸いこの地域の雨季は菊
芋が成長期に入る 6 月~9 月にかけて雨季が訪れる。したがって、この地域は菊芋を栽培するために必
要な降水条件を満たすことができる。
菊芋栽培場所
以上-未満(単位 mm)
0-150
150-300
300-400
400図 3-13
2002 年甘粛省年間降水量
続いてこの地方の気温について把握する(図 3-14)。2002 年の夏季と冬季の気温の様子はどうなって
いるのだろうか。夏季の日中この地方では非常に高い気温となる。地上は熱の出入りが水面よりも激しい
ために日射を受けると気温は上昇する。内陸地になるとその傾向は大きくなる。そして、この地域では最
高気温が 40℃以上にもなることもある。そして、夜になると放射冷却の影響で気温が大幅に下がり、1 日
の気温の変化がとても大きい。菊芋の成長に適した気象条件の1つに気温差が大きいとイモの成長が促
進される点があり、砂漠近郊のこのような気温変化は菊芋には好まれる条件である。冬季はシベリア気団
の影響で気温が非常に低くなる。この地域の平均気温は氷点下となっており、特に夜間の気温は非常に
低く氷点下 30℃近くにまで下がることもある。このような低温になっても凍死しない点が菊芋の最大の特
徴である。
その他の気象条件として菊芋の成長には日射量も大切な要素である。だが、その点は栽培地域が砂
漠であることを考えると特段の問題はない。
131
図 3-14
2002 年の夏季・冬季中国全土気温分布
では、対象とする地域一帯がどのような植生をしているのか Landuse を用いてその分布を見てみると、
武威市の東側に砂漠地帯が広がっていることが確認できる(図 3-15)。航空写真でも同じことが確認する
ことができる。そして、この航空写真からは中心部とそれほど離れてはいないことがわかる。つまり、砂漠
化が進行している現在において武威市郊外がいつ砂漠と化してしまってもおかしくない状況に置かれて
いることになる。この辺りは甘粛省への食糧供給に大きな役割を担っている。武威市の中心部である涼州
区とその東に隣接する民勤県は、甘粛省で消費する食糧のうち 11%を供給している地域である。そのた
め、この辺りが砂漠に侵食されるとなると地域には大きな打撃を与えてしまう。
132
図 3-15
甘粛省の植生図
そして、生産したバイオエタノールの供給予定地域(甘粛省と陝西省)の自家用車保有台数は 2006
年末時点で約 106 万台となっており、ガソリンの消費量は年間 351.3 万 kℓ となっている。したがって、現
在中国の一部で試行されている E10 が拡大されたと想定し、このガソリンの 10%をバイオエタノールが代
替するとなると、年間 58.55 万 kℓ の需要が見込まれる。この量を賄うために他の生産拠点から輸送して
供給することは特に輸送の際に消費するエネルギーや労力などを勘案すると非効率的である。そこで、
西北地方のバイオエタノール生産拠点を設けることは中国全体のエネルギー供給バランスから考えても
必要となってくる。
2) 地域振興モデル
この地域におけるモデルケースを考える。一般的な農業としてこの地域では馬鈴薯に力を入れている。
農民は自らが管理する畑で農作物(馬鈴薯など)を栽培し、収穫物を売却して収入を得る。また、収穫物
を自らが加工して販売するといった形で収入を得る。しかし、日本でも同じであるが、農業自体の収入は
決して高いわけではないので不足分を出稼ぎという形で補うことも少なくない。これが中国の大都市周辺
に仕事を求めて農民が大量滞在する「農民工問題」につながっている。都市部での出稼ぎを行わなけれ
ば、金銭的な理由から子供に高等教育を受けさせられず、また安易に病院へ行くことができないといった
生活を送っている農民はかなり存在している。そして、最近になって世界全体の景気悪化を受けて中国
国内でも工場の閉鎖などが相次いで起きており都市部でも失業者が増加している。したがって、都市部
へ職を求めて出てきた農民工は更に仕事に就くことができない状況になっている。そうなると、農民たち
133
の収入は減少しますます生活が厳しくなってしまう。
図 3-16
農村振興モデル概要イメージ図
これを、農民の最大の売りでもある農業を活用してバイオエタノールの原料を片手間で生産し、それを
用いてバイオエタノールを生産して自動車用燃料として供給し収入を得る。その一方で農業廃棄物やエ
タノール生産の際に発生する大量の副産物を地域内で循環利用し、当該地域での循環型社会を形成
する。
134
図 3-17 農村振興モデル概要イメージ図
甘粛省で盛んな馬鈴薯農家を参考にしてそのモデルを説明する(図 3-17)。まずは農民が従来から栽
培している馬鈴薯を栽培し、以前と全く変わらない形で農業を営みそこからの収入を得る。それと並行し
て砂漠地帯で菊芋を栽培して必要に応じて管理を行う。管理といっても菊芋は病害虫の心配がいらない
ため、他の作物と比べても格段にその手間がかからない作物である。したがって、従来の作業の合間を
利用して行う程度で十分なのである。この地方では馬鈴薯の春と秋の二期作を行っているので、春先に
植えつけた馬鈴薯は 6 月中旬に収穫する。そして、秋植え馬鈴薯の作業は 8 月中旬以降に開始される。
この春植えと秋植えの休耕期間に菊芋の地上部刈込みを行うことができる。この刈込まれた地上部は家
畜の飼料として利用できるうえに、地下茎部の収穫量増加にもつながる。そして 10 月から菊芋の地上部
が枯れ始めそれらを刈取る作業が入る。この刈取られた菊芋の地上部もまた家畜の飼料として利用する
ことができる。そして菊芋の地下茎部は収穫期に入っていくこととなる。この時期に馬鈴薯の花が咲き、土
寄せなどを行いながら収穫時期が来るのを待つ。馬鈴薯も菊芋も収穫は必要なときに行うことができるた
めに、スケジュールを立てて必要な量を収穫していくことが可能である。ただし、馬鈴薯はこの地域の冬
の寒さには耐えることができないのでその点に注意する必要はある。菊芋を収穫したらそれを原料として
バイオエタノールの生産が始まる。
その際に発生するものが大量の発酵残渣物と廃水である。発酵残渣には多くの蛋白質が含有されて
おり、その成分は家畜の飼料として非常に有効である。実際に日本でも芋焼酎の発酵残渣を飼料化して
家畜へ与え、それによって肉質が向上したという事例もある。また、畜産業の生産コストの中でも割合大き
なウェイトを占めているものの一つが家畜に与える飼料購入費用である。甘粛省で統計が取られている
家畜の中で主要な家畜は牛、豚、羊である。これらの家畜を 1 頭育てるために必要なコストは次の通りで
ある(図 3-18)。
135
図 3-18
中国家畜飼育コストに占める飼料の割合(元)
このように畜産業では生産のためにかかる費用の多くが飼料に費やされている。この家畜の飼料の原
料となっている作物が世界のバイオエタノール生産原料の主流の一役を担っているトウモロコシであり、
中国でも現在はバイオエタノール原料の主力となっている。トウモロコシのバイオエタノールへの利用によ
りこうした家畜飼料価格への影響を与え、畜産業の生産コストの上昇が発生した。このような影響を軽減
し、飼料の自給率を向上させる手段としてバイオエタノール生産過程で発生する発酵残渣物の活用は地
域経済と物質循環に有効である。また、その家畜からは多くの排泄物が発生する。中国では現在排泄物
のメタン発酵によるエネルギー転換を積極的に進めている。持続可能な社会を形成するにはこの家畜か
らの排泄物もバイオガスとして利用することは不可欠である。この家畜排泄物から生産したバイオガスを
バイオエタノール生産過程に必要なエネルギーとして利用することでより地球環境に優しいバイオエタノ
ール生産を行うことができる。
また、バイオエタノール廃液中には多くの窒素やリンといった成分が入っている。これらの成分はアル
コール発酵の進行には必要な成分で、この過程で必要に応じて添加される成分だ。日本の宮古島で行
われているバイオエタノール事業でも工場廃液をサトウキビ畑に散布して有効利用を図っている例なども
あるため、水不足が深刻な問題である中国ではこうした水資源の有効利用は大きなポイントとなる。
このように、バイオエタノール生産に関わるあらゆる物質を有効利用し、極力その地域内で循環させる
ようにすることとなる。ここで、農民がこの様な社会のなかでどのような位置づけとなっているのかが重要と
なる。例えば現在中国国内で行われている広西自治区のキャッサバを原料としたバイオエタノール生産
プロジェクトでは、このプロジェクトが農民の収入アップに寄与していることを説明している。ここでの農民
の関わり方として、バイオエタノールの原料となるキャッサバを栽培してそれをバイオエタノール生産企業
へ供給することで収入を得る形態をとっている。以前はキャッサバをデンプンの原料としてその加工工場
へ供給していた。そのころに比べてバイオエタノールプロジェクト後のキャッサバ市場価格が高くなったこ
136
とによる収入増加である。これでは市場価格次第で農民の収入が増減することとなる。今回のモデルは
従来作業プラスアルファのものとなる。そして、極力地元の農民が主体となって原料作物生産からバイオ
エタノール生産を一貫して行う形態である。
3) 菊芋エタノール事業の収益性
この事業規模として、バイオエタノールの原料となる菊芋の栽培面積は 33,500ha(335km2)とし、ここ
から生産されるバイオエタノール量は 10 万 t(12.5 万 kℓ)として経済性検証を実施する(表 3-13)。バイ
オエタノール価格は『中国燃料乙醇市场调查及投资分析报告 2008 版』での広西自治区における販売
価格を用い、それに販売業者の利益を考慮して八掛けした価格を用いる。設備等の建設費は、中国国
内で同規模のバイオエタノール事業を始めるにあたり投じた総額を参考にして金額を確定した。今回は
湖北省で実施されるサツマイモを原料としたバイオエタノール事業の総工費(8 億元)を参考にし、それプ
ラス発酵残渣をバイオガスと飼料にする設備費用や家畜の排泄物からバイオガスを発生させて供給する
設備など付属設備を設けるための資金を 7 億元として計上し総工費は 15 億元とする。償却期間は 15
年として事業コストの検証が行いやすい定額法を用いて計上する。事業に係る総工費の全てを借入にて
賄ったこととし、その借入利率を 6%として計上する。ここの表では利息を毎年均等に割当てて計算がし
やすいようにした。人件費は甘粛省の産業別平均賃金を基にして金額を設定した。甘粛省では農林牧
漁業が 10,967 元/年、製造業が 17,053 元/年、電力・ガス・水道業が 22,526 元/年、サービス業(情報通
信・コンピューター関係を含む)が 16,866 元/年となっている。そこで平均賃金を 20,000 元/年に設定し、
これを内部で割り振るようにした。雇用人数は 1,000 人としその中には季節雇用なども含み、繁忙期には
正規雇用者と季節雇用者などによって刈入れや収穫を行うものとする。肥料や燃料、工業用水、工業用
電力は甘粛省物価局が発表している物価情報から導き出した。酵母菌の費用はサツマイモを原料とした
場合にバイオエタノールを 1ℓ 生産するのに必要な数量と単価を用いて算出した。菊芋を原料とした場合
に同じ酵母菌を用いることができるとは限らないが費用の目安として組み入れた。設備維持費は操業す
るにあたり保守や日常メンテナンス、定期点検などを行う必要もあるため、その費用として建設費の 5%を
計上することとした。その他経費は工場の運転の際に必要な化学薬品や潤滑油などの費用や、販売促
進活動やサービス、アフターフォローなどの対応にかかる費用として計上しておく必要があると考えて売
上の 10%を組み込んでおくこととした。補助金は 2008 年分のバイオエタノールに対する補助金制度で
定められていた金額を使用した場合に、このケースではいくらの補助金が支給されるのかを計算して参
考値として表記した。この中に原料となる菊芋の費用が含まれていないが、その理由は原料作物の栽培
は事業内に含まれており他から調達する必要がないために費用に含める必要がない。その代わりに人件
費のほうには雇用人数を多めに設定をして経費として見込んでいる。バイオエタノールへの補助金は、
2008 年中国国内の安徽丰原生物化学股份有限公司への補助金の額を採用する。
この結果、バイオエタノールの売上は 4 億 5,044 万元にのぼる。減価償却費や借入金利払い、原料栽
培から製品の輸送にいたる総経費は 4 億 1,136 万元になる。1 年目の経常利益は借入金の利払いが多
く約 280 万元の赤字となるが、発酵残渣を活用する場合として飼料を 622.7 元/t で販売し、発酵残渣バ
イオガスをバイオエタノールの生産と飼料製造時に利用する石炭節約効果を含めた場合には 5,808 万
元の黒字となる。2 年目以降は発酵飼料部門を含めずに黒字を見込める(表 3-14)。バイオエタノール生
137
産コストの中で大半を占める原料費用は、自らが栽培して収穫し運搬を行うこととなるので原料調達費用
を抑えることができる。また、政府が定める非食糧を原料としたバイオエタノールの生産事業を行うに際の
優遇制度が活用できたとしたら、資金繰りもより有利な状況となることが考えられる。さらに、「砂漠化対策
代替効果」とは菊芋を栽培すること自体が砂の移動を抑止する効果がある。中国で実際に行われている
砂漠化対策への投資金額を基にして、その単位面積あたりにかかる費用を算出して本事業における菊
芋栽培面積に当てはめた場合に必要となるコストである。詳細については「4)地域経済への影響」で述
べることとする。
138
表 3-13
バイオエタノール事業の経済性
項目
実施規模
総収穫量
製品生産量
単位
単価
33500 ha
1507500 t
45 t/ha
125,122,500 ℓ
3735 ℓ/ha
エタノール価格
売上
建設費
(減価償却)
3600 元/kℓ
450,441,000 元
1,500,000,000
借入利息
45,251,810
人件費
20,000,000
肥料
農業用動力費
工業用水
15 年
100,000,000
6%
20000 元/人
8,793,750
N
1.75 元/kg
1,350,720
P
3.36
39,345,750
K
2.61
26,813,400 元
(軽油)
5.8 元/kg
2.35 元/t
4,704,606
元/百
電力
19,261,157
58.31 kwh
エネルギー
(石炭:26.377MJ/kg)
13,808,302
石炭
244 元/t
酵母菌(1kg/1t-エタノール)
2,502,450
輸送燃料費
9,484,842
設備維持費
75,000,000
5%
その他経費
45,044,100
10%
総経費
飼料代替効果
16 元/kg
(軽油)
5.8 元/kg
411,360,887 元
63,818 T
622.7 元/t
39,739,157 元
家畜糞尿燃料代替効果(石炭)
発酵残渣燃料代替効果(石炭)
451 t
86,696
21,263,999 元
砂漠化対策代替効果
589,600,000 元
補助金
137,434,554
1.76 万元/ha
1098.4 元/kℓ
<出典;次ページの一覧表に表示>
139
項目
エタノール価格
出典
中国燃料乙醇市场调查及投资分析报告 2008 版
建設費
人件費
肥料単価
工業用水・電力
中国統計年鑑 2007
甘肃省物价局
石炭のエネルギー
「安徽日报
单位 GDP 能耗(吨标煤/万元)计算方法」
石炭単価
甘肃省物价局
酵母菌使用量・単価
傅学政,朱薇,管天球.(2006.11).
軽油発熱量
「安徽日报
軽油単価
甘肃省物价局
飼料単価
鹿島建設㈱
バイオガス算出計算と単
新エネルギーガイドブック 2008.導入扁
価
広島県環境審議会資料.資料編.
单位 GDP 能耗(吨标煤/万元)计算方法」
甘肃农村年鉴 2003.
砂漠化効果単価
チャイナネット
補助金
中国燃料乙醇市场调查及投资分析报告 2008 版
140
表 3-14 事業の毎年の収支
バイオエタノール部門(¥)
発酵残渣利活用を含む(¥)
1 年目
-2,808,130
58,084,969
2 年目
3,191,630
64,084,729
3 年目
9,191,390
70,084,489
4 年目
15,191,150
76,084,249
5 年目
21,190,910
82,084,009
6 年目
27,190,670
88,083,769
7 年目
33,190,430
94,083,529
8 年目
39,190,190
100,083,289
9 年目
45,189,950
106,083,049
10 年目
51,189,710
112,082,809
11 年目
57,189,470
118,082,569
12 年目
63,189,230
124,082,329
13 年目
69,188,990
130,082,089
14 年目
75,188,750
136,081,849
15 年目
81,188,510
142,081,609
141
では、サブ事業である飼料生産による効果を概算してみる。まずは菊芋の農業残渣である茎葉の発生
量は生重量で 1ha あたり 105t 発生する。しかし、菊芋の収穫期にはこれらの茎葉は枯れておりほぼ乾燥
した状態になっている。さらに、葉はだいぶ枯れ落ちていることも考えておく必要がある。そのため、菊芋
の茎葉の水分重量(75%)を除いて、更に葉が生い茂っている状態ではないことを考慮して 40%を利用
することができると仮定して計算すると、1ha あたりの菊芋の地上部から得られる乾燥飼料量は約 11t とな
る。甘粛省の牧畜産業で飼料消費量 1t あたりの経費は平均して 622.7 元/t となっている。菊芋地上部の
乾燥飼料がこれらを代替するとなると、菊芋栽培 1ha ごとに地域牧畜産業では 6849.7 元の経費削減に
つながる。そして菊芋の地上部は 7 月ごろの成長期に刈込みを行い、その際に発生する青刈り茎葉はそ
の昔家畜の飼料として活躍をしていたものである。刈込んだこの菊芋の茎葉を家畜へ与えることで更なる
飼料の購入を抑えることが可能となる。
もうひとつの飼料生産プロセスが菊芋をエタノール発酵させたその発酵残渣を乾燥飼料とするもので
ある。菊芋のアルコール発酵残渣をこのような形で利用したケースに関するデータが存在しないので、今
回は日本のイモ焼酎を生産する際に発生する焼酎粕を用いた発酵残渣飼料を生産する場合のデータを
参考にして代替する。設備は乾燥飼料生産施設として霧島酒造㈱が利用している鹿島建設㈱の設備を
用いた場合を考えてみる。アルコールを生産する際に発生する発酵残渣の量として原料作物投入量の
約 2 倍の量が発生する。これを廃棄物として処理するのではなく、有効利用することで地域の物質循環
へ貢献することができる。この設備は発酵残渣を飼料用とバイオガス原料に活用している。その生産フロ
ーは次の通りである(図 3-19)。その流れを簡単に説明する。霧島酒造㈱の工場では 1 日に約 480tの焼
酎粕が発生し、そのうちの 85%近くをメタン発酵に使用して残りを飼料化する。大量の発酵残渣はバイオ
ガスを発生させるためにメタン発酵槽へと入れられ、そこからは焼酎粕 1t あたり約 40Nm3 のバイオガス
が発生する。このバイオガスの一部は乾燥飼料を作るための燃料として使用される。乾燥飼料にする発
酵残渣は遠心分離機で水分を 85%までに脱水を行い脱水ケーキにする。乾燥飼料は 60t の脱水ケー
キから 10t が生産される。これを今回のモデルに当てはめる。つまり 1ha の菊芋収穫量を用いてエタノー
ル生産を行った場合はその 2 倍の発酵残渣が発生することになる。この発酵残渣をバイオガス化に 85%、
残りを乾燥飼料用に振り分ける。乾燥飼料とする発酵残渣は前処理として脱水処理を行い重量が少し減
少する。そして最終的にできあがる乾燥飼料は約 1.9t/ha になる。また、バイオガスは 3,060N m3/ha 発
生し、この事業では 1.025 億 N m3 のガスを発生させることになる。この量は石炭 86,695t 分に相当する
熱量を得られる。これらのガスは乾燥飼料の生産とバイオエタノールの生産の熱源として活用する。
142
図 3-19 発酵残渣飼料化プロセス <出典;鹿島建設㈱>
牧畜業では、飼育している家畜の排泄物の有効活用を国が推進している。その政策が“一池三改”と
呼ばれるものだ。これは主に家畜を飼育している家庭で主に石炭や薪を利用していたものを、台所を改
造してバイオガスを利用して煮炊きをするシステムへ変更するものである(図 3-20)。基本的にはこれと同
じシステムで家庭向けではなく事業向けのもとなる。家畜の排泄物をバイオエタノール工場近辺に収集し、
そこでバイオガスを発生させてガスタンクに貯蔵し、そのガスを工場にて使用する。工場が操業していな
いときや余剰ガスがある場合には地域への供給も考えられる。また、発酵残渣によるバイオガス発生設備
が点検等で稼動できない場合にもこちらで発生させたバイオガスを提供することで飼料の生産活動は継
続して行うことができる。
家庭消費ではな
く工場などで利用
図 3-20 バイオガス発生施設フロー
<出典;㈱PEAR カーボンオフセット・イニシアティブに加筆>
143
家畜からの糞尿発生量を日本のデータを参考として計算する。その際に必要となる各原単位は次の
通りである。(表 3-15)
表 3-15
項目
バイオガス計算に使う数値
単位
糞尿発生原単位
kg/頭・日
バイオガス発生原単位
Nm3/kg
バイオガス発生熱量
MJ/ Nm3
牛
豚
羊
32.5
6
-
0.05
0.28
0.0275
37.18
メタン含有率
60%
バイオエタノール工場の予定地域(涼州区)での家畜飼育頭数はそれぞれ牛が 20.9 万頭、豚が 51.4
万頭、羊が 47.5 万匹である。この全てからの排泄物を今回の設備で資源化するのは膨大な施設が必要
となり非現実的であるので、このうちの 0.5%を利用することとする。そして、設備の点検なども考慮して年
間稼働日数を 300 日として計算すると、この場合に発生するバイオガスの量は約 1,778 Nm3/d となる。
これを熱量換算すると 39.7GJ/d となり年間 11,897GJ のエネルギーを得ることができる。これを利用して
生産することで石炭を 451t 節約することができる。これは、バイオエタノール生産時の石炭コストを約 11
万元削減することができる。発酵残渣から得られるバイオガスによる石炭節約効果と合わせると約
86,696t の石炭を節約でき、費用にすると 2,100 万元の経費節減となる。これにより、この事業自体の経
済性の向上にもつながり、利益率が高まることになるうえに化石燃料を極力使用せずに生産が可能とな
る。
4) 地域経済への影響
現在も進行している土地の砂漠化への抑止効果も期待することができる。中国内陸部の砂漠化は中
国国内の問題に留まらずその影響は周辺諸国にまで及んでいる。もちろん日本にも影響があり、春先の
黄砂飛来はこの問題と深い関係がある。この砂漠化に有効な植物が菊芋である。その理由は、菊芋を栽
培することで砂漠化が進行していた土地において砂の流出を抑制することができる。菊芋が乾燥地帯で
も栽培できることは前に述べた。発芽してから収穫までの間はもちろん菊芋が根を張って砂の流出を防
止し、地中の水分を根から吸収し菊芋が蓄える。また、菊芋自体が他の植物に比べて葉の表面などに毛
が多く生えているために植物からの水分蒸発量も少ない。したがって、少量の降雨でも菊芋があることに
よって地表面からの水分蒸発量を最小限に抑え、植物が生息しやすい環境とすることができる。菊芋の
茎葉が枯れた後も、地下のイモや根が地中に残っているため砂の流出を防ぐ効果があり、その間の砂漠
化進行を抑制することができる。菊芋は根絶やしにすることが困難な植物なため、イモを収穫した後にも
取り残しの小さいイモや根が生き続けて砂の移動を抑制してくれる。
北京市の砂漠化対策を参考にすると、2005 年の黄砂発生源対策プロジェクトに 2 億 3,000 万元の投
資を行い砂地 133km2 の整備などを行った。単純に計算すると、砂漠を 1km2 整備するためには 176 万
元の費用が必要となる。今回菊芋を植え付ける面積は 335 km2 であるから、5 億 8,960 万元分の砂漠化
事業にあたる。甘粛省武威市でも毎年砂漠化対策に多額の資金を費やしている。プロジェクトを通じて
144
砂漠の緑化にも貢献することができ、これらの対策に投じる予定であったこの巨額の資金を別の目的に
仕向けることができるようになり、地域住民の生活向上につながるようなサービスの提供機会が増えること
になる。
この事業は単に菊芋を栽培してバイオエタノールを生産して供給し、その過程で発生するあらゆる副
産物を有効利用するにはとどまらず、これは観光事業の振興にもつながってくる。日本でもヒマワリや菜
の花などのバイオディーゼルの原料となる植物を栽培してそれをバイオ燃料にするほかに、その開花時
期にイベントを開催して観光客を招き地域経済の活性化につなげている事例がいくつもある。それに習
い、菊芋の花が咲いている時期である 8 月下旬から 9 月にかけてイベントを開催することで更なる地域経
済の活性化をもたらすことができる。栽培地域には万里の長城があり、万里の長城を抜けると以前は砂漠
が一面に広がっていた。それがこの事業を通じて開花時期には菊芋が広がっていて茎葉の緑と花の黄
色が出迎えてくれるように変化する。そして、万里の長城からそれを見下ろすとあたり一面に黄色と緑の
鮮やかな絨毯が広がり、その周りに砂漠の黄色いきめの細かい砂地が囲む景色を見ることができる。この
菊芋畑の一部を利用して巨大迷路を期間限定で行うことで更なる収入を得ることができ、これに付随して
飲食業も営業の機会を増やすことができるだろう。このように、菊芋を活用したバイオエタノール産業は農
業(第 1 次産業)、工業分野(第 2 次産業)にとどまらずに様々なサービス業(第 3 次産業)にまで影響を
与えることができ、農村一帯の経済振興に大いに貢献することができる。その結果地方政府の税収も増
えることになるために、さらに住民サービスに振り分けられる財源が増えて地域の生活そのものが向上す
ることとなる。
5) 地球温暖化対策としての効果
また、この事業が地球温暖化にどのように貢献するのかを考える。まず、メイン事業であるバイオエタノ
ールが甘粛省や陝西省において自動車用燃料として利用されることにより、12.5 万 kℓ を供給することに
なる。これは発熱量をベースに考えるとガソリン 7.5 万 kℓ を代替することに相当し、このことによって温室
効果ガスの排出を 17.3 万 t-CO2 を削減することとなる。 これを他の地域から供給するとなると、広大な
国土を誇る中国ではバイオエタノールの輸送だけでも多くの化石燃料を消費することになってしまい、西
北地域でバイオエタノールを使用する意味がなくなってしまう。そのようなことを考慮すると、西北地域に
バイオエタノールの供給基地を確保することは国内の二酸化炭素排出量を抑制するためにも必要不可
欠な要素となる。また、自動車用燃料をバイオエタノールに切り替えることで窒素酸化物の排出や浮遊粒
子状物質の排出も削減することができる。これは住環境の改善にもつながり、中国の大気汚染の改善に
も貢献することができる。
次に、家畜の糞尿を利用することによって従来は大気中に排出されていた糞尿から大気へ放出され
ていたメタンガスを回収し、それを燃料として燃焼させて有効利用することで温室効果ガスの排出削減に
つながる。2 つのガスの温室効果係数は二酸化炭素の 1 に対してメタンは 21 である。 また、メタンガスの
燃焼式は次のようになる。
CH4 + 2 O2 → CO2 + 2 H2O
145
これは1mol(22.4ℓ)のメタンを燃焼させると 1mol(22.4ℓ)の二酸化炭素が発生することになり、同じ容
量の気体であればバイオガスとして処理することで温室効果ガスの排出を 21 分の 1 にすることができる。
つまり、年間 53.3 万Nm3(うちメタン成分は 32 万Nm3)は二酸化炭素に換算すると 21 倍の 672 万N
m3 に相当する。実質 640 万Nm3 を削減したことと同じである。二酸化炭素は 1mol(22.4ℓ)あたり 44g で
あるので 1.26 万 t-CO2 の削減と同じとなる。また、地域への悪臭放出を抑えることもできるので生活環境
の改善にもつながる。
発酵残渣の処理は国際的にも問題になっており、1972 年に海洋汚染の防止を目的とするロンドン条
約が定められて、最近では 1996 年にその内容が強化され、(日本語正式名称:1996 年の議定書)そし
て 2006 年に発効した。日本ではこれがきっかけで発酵残渣海洋処分ができなくなるためにその有効利
用が進んできている。この地域では海から遠く離れているため直接的な関係は薄いが、中国には水質汚
濁防除法が制定されているため発酵残渣の管理は必要な項目となっている。これをバイオガスにして利
用することで、石炭の使用量を大幅に抑えることができる。このことによる二酸化炭素排出量抑制効果を
計算してみる。石炭燃焼の際の温室効果ガス排出量は、環境省の「温室効果ガス排出量算定方法ガイド
ライン」より 2.39kg-CO2/kg で、発酵残渣から発生するバイオガスは 86,696t の石炭代替に相当すること
から、二酸化炭素の発生を 20.72 万 t-CO2 抑制する効果がある。このことからも、今後はバイオエタノー
ルの生産に伴う発酵残渣の処理技術はより重要となる。そして、それを有効活用する技術は更に重要に
なってくる。
6) まとめ
中国国内でも最貧地域のひとつである甘粛省は特に経済発展が遅れている西北地域に属しており、
未だにバイオエタノールの本格的な生産拠点が置かれていない。政府は段階を経て中国全土に E10 を
導入する予定があり、東部地区は既に供給が実施されておりその供給基地も増加してきている。西部地
域の中でも南部に関しては雲南省や広西自治区などで大規模な生産を始めており、取り残されている地
域が西北地域となっている。このような地域バランスを保つには西北地域にも生産拠点を設ける必要があ
る。しかし西北地域は気象条件が植物の生息には厳しい地域であり、バイオエタノールの原料となりうる
作物はごく限られている。このような条件でも栽培が可能な菊芋は、甘粛省にとって新たな産業としての
大きな期待ができる。その事業もバイオエタノール部門のほか、発酵残渣飼料部門の飼料売上を考慮す
ると初年度から補助金なしでも黒字とすることができ、周辺地域の畜産業や観光業など他産業にも経済
的にプラスの効果を与えることができる。また、行政府による砂漠化対策の巨額の投資を軽減し、他のサ
ービスへ振り向けることが可能となり地域の生活環境の向上を促進する間接的な効果も期待できる。また、
副産物の有効利用を通して農村地域における物質循環が活発になり、持続可能な農村の発展に大きく
貢献できるものとなる。
そして、バイオエタノールの利用による二酸化炭素削減量は 17.3 万 t-CO2、家畜糞尿バイオガスの利
用による削減量は 1.26 万 t-CO2、発酵残渣バイオガスの利用による二酸化炭素排出抑制効果は 20.72
万 t- CO2 となる。これ以外の地域の生活環境の向上にも大きく貢献することが期待できる。
146
(2) 中国における作物種別蒸発散量調査
蒸発散は水文学上の蒸発と、作物の発散の両者を内包した指標であり、灌漑計画、水収支、運河の
設計、地域下水および水資源計画や作物の水資源要求量の研究などにおいて、必要不可欠な要因で
ある 3-19), 3-20)。本研究では、条件の異なる 2 つのステーション(耕作地と山岳地)の 54 地点において、標
準的条件下での蒸発散量(ETC)、基準作物蒸発散量(ETO)、作物係数(KC)についてモニタリングを行
った(図 3-21~図 3-30、表 3-16~表 3-17)。ETO、ETc、Kc の定義を以下に示す。
・基準作物蒸発散量(ETO)
基準地表面からの蒸発散量を潜在的作物蒸発散量(ETO)と定義した。基準地表面は 8~15cm の背
丈の高い成長途中の基準作物が生えた水不足でない日陰の地表面と仮定した。本仮定により、気象条
件のみを説明変数とすることが可能となり、ETO の気象パラメータ化ができ、気象データから推計すること
ができる。
・標準的条件下での作物実蒸発散量(ETC)
標準的条件下での作物蒸発散量(ETC)は、作物が生育するのに最適な条件下(病気でなく、栄養が
十分補給され、広大な土地で生育され、最適な水土壌条件、生産性の高い気象条件)の蒸発散量であ
る。
・作物係数(Kc)
作物蒸発散量は、Penman-Monteith 手法により、気象データと、作物の抵抗力、アルベド、空気の
抵抗力という変数を用いて推計することができる。また、これらのデータが入手できない場合でも、作物係
数(Kc)と ETO から作物別の実蒸発散量を求めることが可能である。
147
図 3-21 実験ステーションにおける冬小麦の成長期における Kc
図 3-22 冬小麦の平均的な長期水使用 ETc
148
図 3-23 実験ステーションにおける春小麦の成長期における Kc
図 3-24 春小麦の平均的な長期水使用 ETc
149
図 3-25 実験ステーションにおける春トウモロコシの成長期における Kc
図 3-26 春トウモロコシの平均的な長期水使用 Etc
150
図 3-27 夏トウモロコシの平均的な長期水使用 Etc
図 3-28 綿花の平均的な長期水使用 ETc
151
図 3-29 早稲の平均的な長期水使用 Etc
図 3-30 遅稲の平均的な長期水使用 Etc
152
表 3-16
稲の成長期と異なる場所における Kc
Month
Earlier rice
Mar
Apr
Later rice
May
June
July
洞庭湖区
1.03
1.48
湘东、湘中
1.13
June
July
Aug.
Sept
Oct
Nov
1.45
0.9
1.29
1.43
1.18
1.29
1.17
0.92
1.12
1.54
1.43
1.32
1.4
1.2
1.07
1.3
1.57
1.31
1.08
1.32
1.34
1.13
1.33
1.57
1
1.39
1.29
1.45
1.19
1.12
1.3
1.53
1.51
1.49
1.46
1.48
1.44
1.31
1.16
1.37
1.54
1.53
1.33
桂北片
1.02
1.12
1.14
1.03
1.05
1.15
1.12
1.1
桂南片
1.09
1.11
1.1
0.99
1.03
1.1
1.09
1.05
南亚热带区
1.12
1.33
1.34
1.21
0.99
1.1
1.47
1.57
1.42
北亚热带区
1.08
1.18
1.19
1.08
1
1.16
1.44
1.47
1.23
鞍山
1.24
1.49
0.99
1.13
1.27
1.34
0.85
双林
0.93
1.08
1.11
1.07
1.12
0.96
1.16
南山水库
1.04
1.43
1.31
1.41
1.46
1.09
1.15
1.39
1.51
1.26
1.39
1.27
1.07
Province
Hunan
湘南
1
湘西
粤北片
Guangdong
粤南片
1.65
1.41
Guangxi
Fujian
夏禹桥
Zhejiang
温州
1.18
1.01
1.03
1.11
1.21
1.11
0.84
黄岩
1.08
1.34
1.41
1.2
1.26
1.11
0.86
金华
1.16
1.46
0.94
1.26
1.17
0.88
松阳
1.5
1.54
1.04
1.33
1.51
1.12
富阳
1.52
1.81
1.44
1.34
1.53
0.85
江北片
1
1.09
1.3
1.2
1.01
1.09
1.26
1.1
江南片
1
1.32
1.44
1.26
1.09
1.15
1.42
1.33
合肥
1.18
1.4
1.48
1.16
1.61
1.76
1.64
六安
1.29
1.31
1.49
1.23
1.55
1.75
1.71
霍邱
1.14
1.37
1.47
1.24
1.42
1.8
1.74
芜湖
1.13
1.23
1.49
1.08
1.32
1.72
1.71
宿松
1.19
1.33
1.09
1.08
1.17
1.39
1.11
1.26
1.45
1.27
1.13
1.34
1.48
1.22
Hubei
Anhui
休宁
1.07
153
1.83
表 3-17
3 季作稲の Kc 変化
Month
June
July
Aug.
Sept
Average
备注
固镇
1.18
1.35
1.4
1.23
1.32
常规稻
颍上
1.06
1.33
1.41
1.28
1.28
蚌埠
1.18
1.33
1.42
1.12
1.37
滁县
1.13
1.27
1.33
1.05
1.24
全椒
1.16
1.28
1.42
1.3
1.3
合肥
1.33
1.25
1.45
1.24
1.29
六安
1.15
1.27
1.37
1.18
1.27
霍邱
1.22
1.27
1.36
1.22
1.29
芜湖
1.13
1.27
1.33
1.05
1.27
宿松
1.13
1.25
1.45
1.24
1.29
1.14
1.17
1.2
1.03
1.16
April
May
Province
Anhui
休宁
1.02
154
主要な作物の水使用、収穫量および経済的アウトプット
灌漑用水の少ない山岳地域および生産性の高い農業地帯における実験圃場でのサツマイモ、小麦、
トウモロコシの水使用量(蒸発散ET)、灌漑量、バイオマス、収穫量、経済的アウトプットを報告する。(表
3-18~表 3-20)
表 3-18 サツマイモに対する水使用量、収穫量及び経済的インプット・アウトプット
*現在のエタノール価格は 5800 RMB Yuan /Ton としている.
ET (mm)
Irrigation (mm)
Biomass
Yield
Input
Equivalent to ethanol
(kg/ha)
(kg/ha)
(RMB/ha)
(kg/ha)
2008-Plain
614
120
25380
15380
5325
8789
2008-Mountain area
465
30
21290
12900
4425
7371
2009-Plain
586
150
24720
14980
5325
8560
2009-Mountain area
446
30
16930
10260
4425
5863
表 3-19 冬小麦に対する水使用量、収穫量及び経済的インプット・アウトプット
ET
Irrigation
Biomass
Yield
farmer's input/output
(mm)
(mm)
(kg/ha)
(kg/ha)
(RMB/ha)
2008-Plain
436
120
10550
6113
3876/11614
2008-Mountain area
340
70
8325
4053
2720/7700
2009-Plain
476
200
10530
5750
4080/10925
2009-Mountain area
345
70
8250
3896
2720/7402
表 3-20 夏トウモロコシに対する水使用量、収穫量及び経済的インプット・アウトプット
ET*
Irrigation
Biomass
Yield
farmer's input/output
(mm)
(mm)
(kg/ha)
(kg/ha)
(RMB/ha)
2008-Plain
392
100
13950
9158
3604/17402
2008-Mountain area
406
0
10200
5912
3060/11232
2009-Plain
440
150
14100
8714
3502/16557
2009-Mountain area
387
0
10530
5827
3026/11071
*:河北の年平均降雨量は 569 mm (2008)と 535mm (2009)であった。
155
山岳地域においては井戸水には限界があるため灌漑による農業用水供給は困難である。
このため山岳地域での収穫量は平地のようには高くなく、小麦、トウモロコシ、サツマイモの収穫量は
通常平地の 2/3 程度にとどまる。小麦―トウモロコシ輪作の場合、年間の水使用量 ET はトウモロコシと小
麦で 828 mm (2008)916 mm (2009)と計測された。
一方サツマイモの場合、年間で1作物の場合年平均 ET は平地で 600 mm、山岳地で 455.5 mm と
計測された。さらにサツマイモは雨季に生長するので、植え付け時期の灌漑を除けば山岳地域での年間
降雨量でサツマイモの水要求量を十分にまかなえ、安定的な収穫を確保することが出来る。一方冬小麦
は灌漑無しでは安定的な収穫は不可能である。
エタノール生産については、現在のエタノール生産効率は乾燥サツマイモ1kg から 0.57kg のエタノー
ルが生産可能であり、トウモロコシよりはるかに生産効率が高い。例えば山岳地域でのトウモロコシ収穫
量は 4053 kg/ha (2008)及び 3896 kg/ha (2009)となっている。3kg のトウモロコシから1kg のエタノ
ールが生産されることから、1 ヘクタールの農地から 1351kg (2008)及び 1299 kg(2009)のエタノール
しか生産できず、サツマイモによるエタノール生産よりはるかに生産効率は低い。さらに中国政府は中国
の食料自給率を維持するために、トウモロコシからのエタノール生産に制限を設けている。このため水使
用量の観点からもエタノール生産の観点からも、山岳地域でサツマイモを生産することは地域農民にとっ
てもエネルギー供給の点からもより良い選択枝と考えられる。
結論として、1) サツマイモからエタノール生産が技術的・経済的に可能であれば、乾燥した山岳地域
での農民にとってサツマイモ生産は適切な選択である、2) その経済的利益だけではなく、山岳地域での
サツマイモ生産は他の作物に較べて節水効果が高く、このことは乾燥した山岳地域では非常に重要であ
る。
【研究成果発表リスト】
3-19) Yang Y. and Tian F., 2009, Abrupt change of runoff and its major driving factors in
Haihe River Catchment, China, J. Hydrology, 374, 373-383.
3-20) Yang Y., Zhao N., Hu Y. and Zhou X. 2009. Effect of wind speed on sunshine hours in
three cities in northern China, Climate Research, 39, 149-157.
【学会などでの発表実績リスト】
3-21) Yang, Y., 2008. Research on Water Use in Food Production and Water-saving Crops in
China, International Workshop on Development of Environmental Management
Technology for Sustainable Utilization of Biomass, March, Keio University, Tokyo.
156
Ⅳ. 2.成果
1. 目標達成度
中国の広大な流域(長江・黄河)を対象として河川・土壌・地下水および森林・草原・農業生産とそれに
伴う灌漑取水までを含めた統合的モデル開発とその検証は始めての試みである。開発されたモデルは
短期的な洪水予測から長期的なバイオマス生産のための流域水資源管理に至るまでの現実的な中国の
水管理政策に適用可能なローカルスケールまでを計算可能な段階まで到達している。特に気候変動の
影響として長江・黄河における渇水および洪水の頻度が高まっており、今後の取水制限、流域を跨いだ
南水北調政策の影響評価など、流域管理のための統合的モデル開発の重要性が中国において強く認
識されており、本モデル開発により中国における持続可能なバイオマス生産と水資源管理に十分貢献を
行うことが可能になり、当初の目標は達成されたと考える。
バイオマス需給バランスがもたらす環境負荷推定モデル開発においては、バイオ燃料の国際貿易に
ついても扱うことのできる多地域計算可能一般均衡(CGE)モデルを開発することで、バイオマスをバイオ
燃料として利用する場合に懸念される食糧生産との競合に関する影響評価を行うためのツールを開発す
ることができた。地域分類および部門分類について、本研究の対象国である日本、中国、韓国のみなら
ず、バイオ燃料、食糧の貿易パートナーとして重要な米国、インド、ブラジル、ロシアなどについても国別
に扱った 18 地域分類、および3つのバイオ燃料部門を含めた 38 部門分類とすることで、十分な解像度
をもった分析ツールであり、当初の目標は達成されたと考える。
環境支持力の強化・補完技術研究においては、水資源の再利用技術、炭素固定化技術、汚濁負荷
抑制技術、自然劣化防止技術など、環境資源を補完・代替する技術を各地域特性に適用可能な形で整
備し、汚濁負荷削減効果および経済的効果を含む環境資源への統合的な影響評価システム開発が必
要となる。そこで、本研究では発酵副産物の再資源化及び土壌還元技術等の環境資源の維持・増進を
図る技術システムを各地の農業生産へ適用可能な技術目録(インベントリー)として整備することで、水・
有機物(炭素、窒素、りん)循環という側面から統合的にバイオエタノールの技術の評価でき、当初の目
標は達成されたと考える。
2. 成果
大気―陸面(森林・草地・畑地・水田・湿地・湖沼・都市域等)間での水・熱・物質循環過程および河川
ネットワークと結合し、植生の時間変化を同化し植生変化に応じた水・熱・物質循環モデル(Nakayama
and Watanabe,2006)を基本として、新規に陸域からの蒸発散過程、地表面から地下への熱移動過程
を評価可能とする3次元地下水モデルの結合と農業生産モデル(DSSATモデル)の結合を行い、農業
生産を含めた水・熱・物資循環過程を再現できるようにモデル開発を行った。代表的な土地利用(水田、
畑地、草地、森林、半乾燥地の生態系)に設置した観測ステーション(温暖化観測ネットワーク)での観測
データを用いて、純一次生産量及び炭素固定量の変化予測モデルを構築した。本モデル開発にあたっ
ては、詳細な土地利用GISデータ、降雨観測TRMM衛星データ、MODIS衛星データを同化させるとと
もに、大気大循環モデル結果を気象分布データとして同化させることにより、陸域圏での詳細な水・熱・
157
物質循環量の推定を行い、観測データとの詳細な検証を行った。このモデル開発は、特に水資源が枯
渇しつつあり農業生産に大きな影響を与えている中国北部の黄河流域・河北平原において特に重要で
あり、中国の水循環・水資源量把握を可能にするモデルが始めて開発された。
バイオマス需給バランスがもたらす環境負荷推定モデル開発では、バイオマス需給バランス影響評価
を行うための背景シナリオを策定するためにバイオ燃料増産に積極的である中国のバイオ燃料の現況に
関するレビューを行い、当初は備蓄小麦の有効活用という観点が強かった中国のバイオエタノール生産
が、現在では備蓄小麦は使い尽くしてしまい食料利用との競合が懸念される状況となっていることなどが
分かった。この状況に対し、開発したバイオマス需給バランスを用いて原油価格に関しベースラインシナ
リオおよび価格高騰シナリオのもとで中国のバイオエタノール生産が20%増加した場合の食糧・バイオマ
スエネルギーの国際市場での均衡価格・需給バランスに関する分析を行った。
汚濁負荷量を低減する発生副産物の再資源化技術および有機物の汚水処理技術について、発酵プ
ロセスごとに循環効率を判定基準として技術選定を行い、土地およびエネルギー制約の観点から農地還
元技術(肥料化)を対象とした。同時に、バイオマスエネルギー製造過程からの発生副産物の再資源化
技術を評価するため、バイオマスエネルギーを生産する各工程プロセスの代謝構造のインベントリ(目
録)分析の試行研究を行った。これらの手法を宮古島のバイオエタノール事業に適用することで、バイオ
マス原料の生産プロセスおよび廃水プロセスを統合的に扱った評価モデルを構築した。
3. 計画・手法の妥当性
中国黄河流域においては、上流域での灌漑用水の過度の取水による下流域での河川流量の極端な
減少と、下流域での地下水のくみ上げによる地下水位の急速な低下を再現することが今までのモデル計
算では困難であった。今回農業生産モデルの追加による取水効果と地下水モデルの追加による地下水
くみ上げ効果を加えることにより、農業用灌漑用水の取水と地下水くみ上げ効果の両方を同時に含めた
水循環モデル開発を行い、観測データによる再現性を検証することができた。このことから計画および手
法は妥当であったと考えられる。
バイオマス需給バランスがもたらす環境負荷推定モデル開発においては、バイオマス需給バランスに
おいて注目を集めているバイオ燃料を産業部門として扱った世界データベースを用いた多地域 CGE モ
デルを開発することで、国際貿易による食料・バイオマスエネルギーの需給バランスを推定するために適
したバイオマス需給バランスモデルを構築することができており、計画および手法は妥当と考えられる。
環境支持力の強化・補完技術研究では、再資源化技術の選定と節水型エネルギー作物の水資源影
響評価のための技術仕様の構築およびバイオマス関連産業での再資源化技術を評価する環境負荷イ
ンベントリ開発し、バイオエタノールを対象として、原料(バイオマス)の生産・調達、バイオエタノールの生
産プロセスおよび副産物(蒸留残渣液)の処理を含めた評価を行い、バイオ燃料技術の技術データベー
ス及び統合的な評価システムの開発が達成でき、計画および手法は妥当と考えられる。
158
4. 実施期間終了後における取組の継続性・発展性
開発された環境資源管理システムは短期的な洪水予測から長期的なバイオマス生産のための水資源
管理に至るまでの現実的な水管理政策に適用可能であり、さらに本システムはアジアの他の地域に対し
ても適応可能と考えている。現在アジアにおいては気候変動に対する脆弱性が高まっており、特に水資
源における脆弱性が高く、森林・農地・草原生態系における脆弱性回避・適応力強化など様々な適応策
の提示が重要な課題となっている。本研究で開発された環境資源管理システムは、それら適応策を検討
するためには必要不可欠であり、UNEP アジア太平洋適応ネットワーク(APAN)においても基本的な影
響評価手法として登録される予定であり、今後広くアジア諸国で継続・発展していくものと期待される。
バイオマス需給バランスがもたらす環境負荷推定モデル開発においては、実施期間終了後にインドを
対象として、インド政府が導入を試みている国産非食糧作物由来のバイオディーゼルによりディーゼル
燃料の 20%を代替する混合義務の影響評価を行うための拡張モデルの開発を行っている。このようなこ
れまでの CGE モデルでは扱うことが難しかった量的政策ショックに関する影響評価を行うために、本研
究で開発した汎用性の高い GAMS ソフトウェアを用いたバイオマス需給バランスモデルは最適なプロトタ
イプモデルとなっており、継続性・発展性は高い。
本研究では、バイオエタノールを対象として、バイオマス原料の生産・調達からバイオエタノールの生
産に伴い発生する副産物の処理という一連のプロセスに即して、水、炭素、窒素、りんという複数の指標
に基づいて物質循環という側面から再評価をおこなった研究と位置づけることができる。継続性としては、
今後さらに開発が進むと思われるセルロース系のバイオエタノール技術への評価モデルへの拡張がある。
また、発展性としてはバイオエタノールという新たな産業の経済的評価を含めた評価技術の開発があげ
られる。
5.その他
(1.~4.の項目以外の内容で、自己評価としてもし何か示されたい点がありましたら、簡潔にお示しく
ださい)
本研究の推進により、中国を初めとしてアジア諸国でのバイオマスの持続的利用がいかに困難なこと
であるかを実感した。今後気候変動による水資源枯渇に直面しさらにバイオマス利用が危機的状況に陥
る危機感が、UNEP アジア太平洋適応ネットワークの設立へと結びついた。結果として本研究が核となり、
日本のリーダーシップにより国際的ネットワークに発展したことは大きな成果であると考えている。
本研究を通じて、日本でバイオエタノール事業を進める宮古島市および関連企業(株式会社りゅうせ
き)との共同研究を進めることができ、国内での産官学連携が促進された。
159
Ⅴ.その他
1.代表研究者・国内参画機関研究者への質問
①課題実施また推進において、直面した困難、障害となった事柄について、ご説明ください。
予算額に収まりきらない程の研究テーマに広がってしまったが、国外参画機関の積極的な理解と協力
を得ることが出来て、なんとかまとめることが可能となった。このため当初考えていた時間よりはるかに多く
の時間を国外研究機関とのコミュニケーションに使わざるを得なかったことは最も苦労した点である。しか
しこの努力が結果として UNEP アジア太平洋適応ネットワークに繋がったことで報われたと言うのが実感
である。
② アジア地域における国際共同研究推進に向けて、提案事項があればお示しください。
2.国外参画機関への質問
課題の事後評価にあたり、国外参画機関から、共同研究についての感想・コメントを求めます。
Please answer to the following questions regarding the participation of institutes which
you belong to the international research collaboration funded by the Special Coordination
Funds for Promoting Science and Technology (SCF). The answer is not mandatory, although
your input is important for the evaluation process. We appreciate your kind cooperation.
1)
本共同研究をどのように評価しているか、自由形式でコメントをお寄せください。当該課
題の内容に限定された事柄から、振興調整費の制度そのものについてまで、幅広くお考え
ください。
1)Please describe your evaluation of the research collaboration you have participated.
Your comment may not necessarily be limited to the specific issues regarding your
research project/interest, but may also be related to the concept/system of this program.
Format unspecified.
2)本共同研究の問題と思われる点、改善すべきと思われる点について、箇条書きでご意見をお寄
せください。1)と同じく幅広くお考えください。
2)Please describe specific issues that you consider as problems, difficulties or subjects for
improvements in executing collaborative research. Same as the question 1), your comment
may cover wide range of aspects. Please show them by a run of the item, if possible.
3)本国際共同研究は、イコールパートナーシップの精神に基づいて実施されましたが、国外参画
機関としての物質的な貢献・負担(コミットメント)はどの程度だったか、ご回答ください。
*経費(研究費):
(
*試料・フィールド提供:
※金額及び使途等
(
)
)
160
*研究室・設備提供: (
*人材提供(研究員他)
:
)
(
)
*その他:(
)
3) This international collaboration research has been operated under the spirit of “equal
partnership manner.” Specifically, participating bodies are required to provide all the
resources necessary for their own activity. In this regard, please describe what were the
contributions by your side in the following categories;
- Research expense : (please describe amount(US$) and purpose)
- Provision of research materials / field stations etc.: (please describe details)
- Laboratories/equipments : ( please describe details)
- Human resource (research scientists/assistants/etc) : ( please describe details)
- Others : ( please describe details)
【Institute of Geographical Sciences and Natural Resources Research,
Chinese Academy of
Science】
1) In the Workshop for the Trilateral Science and Technology Cooperation which was held
with attended by senior level administrators and experts from three countries (Japan, China
and Korea), in March 5-6, 2007, at Kyushu University in Fukuoka, Japan, Prof. Masataka
Watanabe (Keio University, Japan) and myself agreed to collaborate in the project on “the
impact assessment of carbon/water cycles caused by the biomass production and the land
use/land cover changes in East Asia”. To my understanding, this research collaboration built up
a platform for us to share or transfer of knowledge, skills and techniques, to bring a
cross-fertilization of ideas. With this collaboration, scientists have gained several achievements
in this field.
a) With the food security concerns, China recently has shifted its biofuel development
priority from grain-based to non-grain-based biofuels, including forestry-based biodiesel.
Since 2007. Jatropha Curcas has become one of major biodiesel feedstocks in China. The
empirical study show that while there are some potential lands to expand Jatropha Curcas
areas, amount of these lands will be hardly meet the government’s target for Jatropha
Curcas-based biodiesels development in the future. China may need to reconsider its long
term targets on the development of Jatropha Curcas-based biodiesels.
b) As for the impacts of the expansion of first generation biofuel (grain based) on food
prices in China, an econometric analysis show that the expansion of biodiesel production at
a global level will still continue in the foreseeable future, and this will bring mounting
161
pressure on the prices of agricultural products, especially on the prices of oil crops. The
development of biodiesel will also have substantial impacts on environment and
greenhouse gas emission, but the magnitude of its impacts will highly depend on
production mode and the land use changes due to biodiesel development. To reduce the
potential negative impacts of biodiesel development, China should focus on forest based
biodiesel, particularly the Jatropha-seed based biodiesel, and formulate regulatory and
incentive polices to promote the sustainable development of biodiesel industry in China.
c) By conducting a scenario analysis, scientists from China analyzed the impacts of
China’s bioethanol production on domestic agricultural prices, national and regional
agricultural productions and farm value added and found that the increase in demand for
feedstock to produce bioethanol will lead to very large increases in the prices of agricultural
products and farmers income. The increases in price trigger a significant rise in production
of feedstocks used for bioethanol production in the cost of lower rice and wheat productions.
They also found that the impacts of bioethanol vary largely in different regions. The paper
suggests that bioethanol production in China should be more relying on non-grain based
energy crops and especially on second generation of bioethanol technologies, and increase
the research investment in those areas.
Together with the implementation of the international research collaboration, scientists
from our institute have proposed three relative projects: “The impacts on China’s agricultural
production and the poverty by world biofuel development” to National Soft Science in China,
“Environmental Impacts of Biofuel Development in China and the Policy Implications” to
EEPSEA (IDRC), and “Bio Fuel and Food Security in South Asian and Sub Saharan Africa:
Pathways of Impacts and Assessments of Investment to Bill and Melinda Gates Foundation.
These proposals and has finally got granted. Within these proposals, we assessed the impacts
of global or China’s biofuel development on China’s regional agricultural production, poverty
and GHG emissions. These projects helped us to understand how the rise of biofuel demand
will help and/or hurt small producers and vulnerable consumers in poor countries in South
Asia and Sub-Saharan Africa, and to provide information to policy makers and other
stakeholders(especially to biofuel industry companies) in order for better informed decisions
to be made in sustainable manner.
2) I think the tougher task under tackle within the international research collaborations is
the data availability/accessibility. There are many causes for this difficulty: first of all, data
in different countries or different institutes are organized in different standard. Take land
use data as an example, categories of land use/land cover is quite different in China and in
Japan. And it is difficult to put all of the data into a uniform category framework. Secondly,
162
data is usually stored in different formats and different media. For example, some GIS data
are stored in shapefile format while others are stored in MapInfo MIF format. Data
interoperate techniques are required to convert data format. Last but not least, some data,
especially geographical data, include information which is confidential and very sensitive to
national safety. How to remove sensitive information without prejudice to scientific
researches is a key point to share data in international research collaborations.
In addition, data collection and processing was the most difficult task. It’s difficult to collect
information related to the biofuel development, land use change and poverty in China and
other countries. On the other hand, how to put all of the data into a uniform category
framework, catalogue and make available a set of databases for our research was also a
difficult task.
3)
- Research expense : (please describe amount(US$) and purpose)
The amounts of budgets for the proposed studies from our sides are around 200,000 USD.
The research expense was mainly used in data collection, consultancy, modeling and analysis,
validation of the model-based results and the research on the policy implication.
- Provision of research materials / field stations etc.: (please describe details)
Based on data center for resources and environmental sciences of CAS, we have established
a capacity on data collecting and modeling strategy that is shaping a research platform.
By carrying out the proposed research, scientists from our sides have compiled a data set
on biofuel development in China and collected the relevant information on the linkage
between biofuel development and poverty.
- Laboratories/equipments : ( please describe details)
There were 3 laboratories contributed to this international research collaboration, such as
State Key Lab of Resource and Environment Information System, Center for Chinese
Agricultural Policy, CAS, and Key Lab of Ecosystem Network Observation and Modeling of
CAS.
- Human resource (research scientists/assistants/etc) : ( please describe details)
Over 10 scientists have participated the relevant research agenda. These research
scientists and assistants are with majors of geography, climate change, natural resources,
environment and geo-information sciences.
- Others : ( please describe details)
No.
163
【Center for Agricultural Resources, Institute of Genetics Developmental Biology, Chinese
Academy of Sciences】
1) Globally, food, energy and water are the most sensitive and basic needs of human being.
While the shortage or unbalanced development of energy has resulted in very sharp rise of
energy price over the last ten years, shift of food for energy production especially corn for
ethanol production has also resulted in a world food market earthquake in 2008. Water is also
a very sensitive issue, since most countries with food shortage are located in the dry areas. In
China, this is also true, since China more and more rely its food production on the semi-arid,
semi-humid and dry areas. Thus, in the World Watch, Leister Brown worried that water
shortage in China may shake the world food supply in future. All of above evidences shows
how to keep the sustainable development or sustainable supply of food, biomass, and water
for energy production, which the project is funded for, is a very important issue for Japan,
China, Asia, and also the world. I really appreciate SCF’s choice to support our collaborative
project.
2) In the project, my team and Prof. Watanabe’s group has a very long-term collaboration.
We are working closely for the project and shared a lot experiences and knowledge from each
other. Also we shared a lot of projects in the same research fields, for instance my
collaborative project from China Ministry of Science and Technology (MOST) for water
sustainable management, and some similar projects fro Chins-NSFC and Chinese Academy
of Science (CAS). By collaborating with Prof. Watanabe’s team in the project, we have really
benefited a lot and got a lot of useful collaborative results.
As for the “equal partnership” of most collaborative projects between Japan and China and
also other countries, honestly speaking, I do not appreciate the idea of “Equal Partnership”. It
is not a well designed system. Scientifically, any project has a team leader. This is more
obvious for many EU and Australian organizations, since part of salary of EU and Australian
scientists are from the research funding. That is to say, the team leader should have much
power to facilitate the manipulation of the scientific direction with his funding between
different parties. That is true for all the research projects over the world. If a project leader
does not have enough funding to control the direction of the project, the collaboration output
will be weak. From that point, the initiative party of the project, Prof. Watanabe’s team in our
collaboration, should be given much power or funding by MEXT to support the project. This
policy should also be suitable for China case, if China side is the initiative party. That means
that even it is an “equal partnership” system, each funding parties (China also) should give
much power to the project leader, or the initiator of the collaboration, for controlling the
164
project. Such important point should be discussed at the top level such as MEXT-MOST,
MOST-JST, MEXT-NSFC, and similar equal parties. In other word, the funding shall be given
by one party either MOST or MEXT to both sides, instead of MEXT to Japan side and MOST
to China. That will definitely make most Japan-China collaborative projects more
productively.
3) Field experiment at two field stations, one in the high productive agricultural land and
the other one in the mountainous site with less irrigation, to compare the water use, yield,
and possible shift of corn or sweet potato for ethanol production, and income of three relevant
crops: sweet potato, corn, and corn-wheat rotation system. Over the last 2 years, detailed
water balance, biomass, yield, economic input and output from the experiments including 54
plots, were measured by technical staff in the stations. The total research expenses are
369,000 US$, around 2.5 million RMB Yuan. The details can be found as follows:
- Research expense : (please describe amount(US$) and purpose)
A total of 193,000 US $ is used for research:
38,000 US$ for new plot construction;
56,000 US$ for land renting, storage house renting, experimental labor, some
auxiliary materials and activities such as sowing, irrigation, fertilization, pest
control and so on for the experimental running;
36,000 US$ for travel expenses from research organization to field station and
transportation of experiments materials and outputs.
15,000 US$ for staff training, scientific exchange, scientific publications.
48,000 US$ for running cost for electricity, water, workshops, scientific traveling
in office and in field station.
- Equipments : ( please describe details)
Total: 64,000 US$.
14,000 US$ for two Neutron Probe for soil moisture measure;
17,000 US$ for LAI measurement;
21,000 US$ for a field weather station;
12,000 US$ for repair of field equipments.
- Human resource (research scientists/assistants/etc) : ( please describe details)
Total: 94,000
72,000 US$ for Master and PhD students, Post doctor, and some additional
allowance for staffs;
22,000 US$ for the technical staffs.
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- Others : ( please describe details)
18,000 US$ for management purpose.
【Korean Environmental Institute, Sustainable Development Division】
1) KEI conducted a background study of Supply-Demand Balance of Bio-Fuels and
Environmental Impact Analysis in Korea in FY2007, and reported the results at the
Workshop organised by Keio University on 25 March, 2008. We collaborated with IGES
based on “equal partnership manner” and we implemented this background study as a part
of KEI’s research project on renewable energy in Korea, with coordinating with
IGES. The
scheme was flexible enough to accommodate our research interest.
2) “Equal partnership manner” with full own funding for the collaboration may be
potential weakness of the scheme. It may worth considering to provide seed fund for
collaborative research institutes.
3) The Korea Environment Institute spent 11,222US$ conducting the
Supply-Demand Balance of Bio-Fuels and Environmental
the table below.
Sang-In Kang
Climate Change Research Division, KEI
166
Impact Analysis.
study of
Please refer to
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