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東京サンケイビルの空調設備 - エネルギー有効利用のご提案

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東京サンケイビルの空調設備 - エネルギー有効利用のご提案
―― 実 施 例 ――
東京サンケイビルの空調設備
ñ竹中工務店 東京本店 設計部 杉 鉄 也
■キーワード/ガラス建築・エアバリア・省エネルギー・氷蓄熱
延 床 面 積 74,841.49fl
(ø期)
1.はじめに
8,419.40fl
(¿期)
構造・階数 S造,CFT造,SRC造,RC造
東京サンケイビルは,東京を代表するビジネス街であ
る大手町に位置しており,サンケイビル本館(1955年),
地下4階,31階,塔屋2階
新館(1972年),別館(1957年)の既存3棟の段階的な建
主
て替えによる再開発計画である。
工 期 平成10年5月∼平成12年9月(ø期)
用
途 事務所,集会場,店舗
本館に入居していた産経新聞社,サンケイ会館などの
平成12年10月∼平成14年9月
(¿期)
継続稼働をはかるため,ø期工事にて新館・別館の2棟
施 工 竹中工務店・北野建設共同企業体
を先行して解体し,新規テナント・産経新聞社・文化施
設・商業施設などが入居する146mのタワーを建設し,
3.建築計画
¿期工事にて本館を解体し,地下鉄や大手町の地下ネッ
当建物は,総合設計制度により200%の容積割増と斜
トワークと接続するメトロスクエア(地下広場)および公
線制限の一部緩和を受けている。事業計画段階からの命
開空地を建設する計画である。
題として,本館を残しながらの建設と容積率の1,200%
達成,オフィス有効面積を確保することが求められてい
2.建築概要
た。これらの命題を解決するために,ø期で建設するタ
建 物 名 称 東京サンケイビル
ワーは,本館建物上部(31m)にて約10mオーバーハン
所
在
地 東京都千代田区大手町
グさせた形状としている
(写真−1,図−1)
。
建
築
主 ñサンケイビル
これを実現するために構造的にはメガブレース,メガ
トラスと呼ばれる架構技術と,基礎部分のSRC引抜抵抗
設計・監理 ñ竹中工務店
設 計 監 修 三菱地所設計ñ
緊急離発着場
用 途 地 域 商業地域(防火地域)
屋上設備機器
敷 地 面 積 6,252.42fl
電気室
事務室
事務室
既存建物
電気室
ホール
会議室
店舗
会議室
店舗
メトロスクエア
駐車場
特高電気室
熱源機械室
駐車場
写真−1 建物全景
図−1 断面図
ヒートポンプとその応用 2002.7.No.58
―6―
駐車場
―― 実 施 例 ――
社,データ通信会社,外資系金融などの情報技術時代の
最先端テナントが入居するテナントオフィスゾーン,中
層部は産経新聞社,低層部には貸ホール,貸会議室,デ
ジタル文化体験ゾーンなどを有するサンケイプラザ(写
真−3),地下階はメトロスクエア内に商業施設が入居
している。これらのテナントは情報通信技術により,相
互の利便性やアメニティの充実など,複合施設のメリッ
トを十分生かすことが可能な計画となっている。
新たにテナントを誘致するにあたり,さまざまなテナ
写真−2
基準階窓周り
ントニーズに対し,無理なく対処できる建築設備計画と
することが基本計画段階からの重要なポイントであっ
た。
当計画における建築主の事業コンセプトとして,テナ
ントニーズとともに 「成長するビル」,技術が人をサポ
ートする「ヒューマンオフィス」というテーマが与えら
れた。それらを受けて設備計画では「魅力ある21世紀
のオフィス未来像を創造する先見性と時代の変化に無理
なく柔軟に対応できる設備」を基本方針として,以下の
主旨で設備計画を行った。
A
主要設備の安定供給・信頼性
B
環境・省エネルギーへの配慮
杭を導入し,高層階に制振装置を付加することにより,
C
快適性・利便性の確保
極めて高い耐震性能を有することができた。
D
テナントニーズへのフレキシブルな対応
E
保守・更新などの容易性
写真−3 サンケイプラザ
軽い外装材にするために,中高層階の外装はLow−e
複層ガラスによるカーテンウオールを採用し,省エネル
ギーで開放的な窓際空間の形成に寄与している。さらに
5.空調設備
採光量を増すために,T形ガラスカーテンウオールの断
5−1 熱源設備
面形とすることで,明るい室内空間と外装全面への光の
丸の内熱供給ñより蒸気の供給を受けるほか,災害時
漏れにより,特徴ある夜の景観を生み出している(写
の安定供給の重要性から自己熱源を設置している(図−
真−2)。
2)。また,環境・省エネルギーに配慮するため,氷蓄
基準階オフィスはセンターコアとし,約1,734fl/階の
熱や熱回収機器の採用や,冷水の大温度差供給
(7℃差)
専用面積を有している。専用部に面する位置に設備機械
空気熱源ヒートポンプチラーユニット
CLIS 氷タンク
(CLISーHR)
冷水
(往)
(還)
,
冷水
(往)
(還)
,
氷蓄熱
蒸気
(往)
(還)
,
蒸気
(往)
(還)
,
室・設備スペース(共用廊下からの点検)
を配置し,1フ
ロアは4分割ごとに独立した供給を可能としている。専
用部の床荷重は500kg/fl(コア内貸室は1,000kg/fl)とし,
専用室内の電気室設置などのニーズに対応可能としてい
コア系統空調配管
冷水(往)
(還)
,
温水(往)
(還)
,
予備冷水用
タッピング
る。
低層階南側には,地下2階から5階までのアトリウム
基準階AHU
を配置している。サンケイプラザへの移動動線を取り込
み,開放的な空間を構成している。
また,¿期で建設中の地上広場および地下鉄などと接
続するメトロスクエア(地下広場)では,各種イベント対
応やメディアによる情報発信を行う計画であり,人の導
線も含めた大手町地域の地上と地下のネットワークを構
成している。
氷
熱回収ターボ
蓄熱槽
低層
暖房
4.設備計画
この建物の用途構成は,高層部に外資系ソフト開発会
ブラインターボ
ターボ冷凍機
蒸気吸収式冷凍機
蒸気(8K)
(DHCより供給)
図−2 熱源系統図
―7―
ヒートポンプとその応用 2002.
7.
No.58
―― 実 施 例 ――
を採用している。
蒸気吸収式冷凍機
3,165kW
×1台
ターボ冷凍機
2,110kW
×1台
熱回収ターボ冷凍機
2,110kW
×1台
ブラインターボ冷凍機
1,758kW
×1台
潜熱式氷蓄熱槽(STL)
1,055kW
×1台
空気熱源ヒートポンプ製氷チラー
475kW
×1台
シャーベット式氷蓄熱槽
281kW
×1台
蒸気−水熱交換器
691kW
×2台
_
エアバリアファンケース
5−2 空調設備
5−2−1 ペリメータ処理
開放的で快適な窓際空間を創造する目的で,郡公子宇
都宮大学工学部助教授の指導・協力を得て,全面ガラス
カーテンウオールに対する室内の快適性を追求してき
` エアバリアファン内部
写真−4 エアバリアファン
た。
約1年間かけてガラスの性能比較を行い,ガラスとペ
リメータ空調方式の組み合わせについてLCC,LCAなど
の比較検討を行った。これらの結果から,外装材には低
放射形複層ガラス(Low−eペアガラス:熱貫流率K値
1.63W/flK,日射遮へい係数0.43)を,ペリメータにはエ
アバリアシステムを採用した。
当建物で採用したエアバリアシステムは,室内の空調
された空気流をエアバリアファン(クロスフローファ
ン:写真−4)により窓面に吹き付け(約100„/hm),ブ
_ エアバリア
ファン停止
ラインド上部の排気チャンバーより窓際の熱を強制排気
` エアバリア
ファン運転
図−5 サーモグラフィによる表面温度比較
排気ダクト
するプッシュプル方式である(図−3)
。
ペリメータレス空調方式であるため,従来空調方式で
Low-eペアガラス
在する混合損失
(エネルギー損失)
が解消される。さらに
Low−eペアガラスにより日射負荷が低減されるととも
470
エアバリアファン
に,蓄熱されたブラインドからの熱放射の影響を低減す
FL
図−3
エアバリアシステムの概念図
る相乗効果が期待される。
(単位:mm)
日射量(ブラインドー室内側)9.55(W/m2)
PUSH風量 0.0m3/h
PULL風量 183.3m3/h
(条件)ブラインドあり(閉)
エアバリアなし(PUSHファン停止)
日射量(窓ーブラインド間)145.5(W/m2)
の問題点でもある冬期の窓際の暖房と,室内の冷房が混
2,700
3,000
ブラインド
実際の建物において,竣工前夏期の実測を行った(写
(条件)ブラインドあり(閉)
日射量(ブラインドー室内側)9.55(W/m2)
エアバリアあり(運転)
PUSH風量 300.0m3/h
日射量(窓ーブラインド間)145.5(W/m2) PULL風量 183.3m3/h
RA(ペリメータ)
30.60
28.5℃
28.43
26.89
26.5℃
28.93 26.0℃
SAチャンバー 27.49
14.74
27.59
21.33
27.20
27.94
27.66
27.60
27.0℃
26.81
26.97
26.5℃
26.0℃
28.13
100
22.21
500
24.5℃
35.16 28.23 28.40 27.00 25.69
25.21
25.5℃
28.0℃
窓
25.71
25.0℃
35.00 27.73 31.33 29.14
26.49
25.06
25.21
25.14
27.0℃ 28.14
34.64 26.91 27.89 25.00 26.24
25.00
25.44
25.19
24.89
24.90
25.06
(外部)
SAチャンバー
15.84
室内
インテリア
500 平均温度
25.12
33.27 26.87 28.03
26.80 25.83
27.0℃
窓
32.49 26.13 27.79 25.60
28.96 26.16
(外部)
500 2,700
25.69
27.63
RA(天井チャンバー)
った。図−4に実測結果を示す。
27.10
26.81
100
25.70
25.5℃
25.84
25.41
25.14
25.90
25.40
25.13
25.07
25.19
25.54
31.26
26.04 28.41 28.24 25.64
500
34.20 27.31 28.47 28.31
25.13 25.17
34.20 26.81 26.84 27.94
25.03 26.29
25.26
500
25.20
25.04
24.94
24.94
25.04
25.44
24.83
27.70
26.93
26.77
200 250
350
100
100
26.90
500
700
3,200
(a)エアバリアファン停止
200 250
350
100
100
500
500
止,`はエアバリアファン運転
500 2,700
の状態である。ブラインド上部
500
からの吸い込みはどちらも行っ
500
ている。
700
(b)エアバリアファン運転
図−4 夏期西面の温度分布実測データ
(15時)
ヒートポンプとその応用 2002.7.No.58
図−4_はエアバリアファン停
室内
インテリア
500 平均温度
25.11
100
26.74
500
500
25.03
100
28.03
ドの有無,エアバリアファンの
有無などについて各種実測を行
RA(ペリメータ)
RA(天井チャンバー)
真−5)。西面におけるブライン
―8―
実測結果では_エアバリアフ
3,200
ァン停止の場合,ガラス窓とブ
ラインド間の温度は32℃以上の
―― 実 施 例 ――
(床面積約480fl,天井高さ7m)に対し,負荷変動への
追従やバックアップを考慮して,空調機2台による空調
対応としている。また,室内騒音設定はNC−30として
いる。料理の臭気除去や,タバコ排気などを考慮し,全
外気運転(40„/hfl)
が可能なシステムとしている。
5−3 排煙設備
5−3−1 基準階加圧排煙設備
超高層建築であるため,建物の気密性が極めて高くな
写真−5 ペリメータ温熱環境実測
っており,火災室排煙時の給気ルートの確保が難しいこ
とや,居室の排煙による圧力差で扉の開閉障害を起こす
エアバリアシステム
排気(各階)
エアバリアの制御範囲
可能性があることなどから,高層階では全館付室の加圧
照明ライン
給気機械防煙方式に加え,火災階と廊下(第一次安全区
弱電スペース
画)の差圧(0.3Pa以上)確保のために吸引機械排煙設備を
空調機
採用している。事務室の吸引機械排煙は天井チャンバー
方式とし,天井裏の蓄煙効果と防火区画を大きくとるこ
分電盤
とで,煙層の降下速度とチャンバー内の温度上昇を抑制
ワイヤリング
し,避難の安全性を高める計画としている。また,扉の
開閉障害を防止するため,給気ファンはインバータによ
り風量制御を行っている。特に,付室の扉は廊下漏煙に
VAVゾーニング
よる汚染防止と防火区画形成のため,上段は煙感知器連
給気取り入れ(各階)
動,下段は熱感知器連動の2段扉を採用し,遮煙に必要
図−6 基準階空調エリア図
な差圧(12Pa)と開閉障害限界の差圧(55Pa)内に納まる
高温になっている。ブラインドからの熱放射の影響を受
よう設定している。
けやすい。一方`エアバリアファン運転の場合,ブライ
低層階は店舗や文化施設のため,不特定多数の避難を
ンドからの漏れ空気により,室内天井付近の温度がやや
考慮するにあたり,避難開口が多いことから従来の機械
高いものの,ブラインド表面や窓とブラインド間の温度
排煙方式を採用した。
は28℃以下であった。エアバリアファンの吹き出し気
5−3−2 駐車場排気兼用排煙
流に,室内空調空気が誘引されながらブラインド表面や
駐車場の排煙方式は,単独系統の従来機械排煙ファン
窓とブラインド間の熱を除去し,ブラインド付近の熱環
をベースに,駐車場の排気と兼用できるシステムとして
境をより改善していることが確認できた
(図−5)
。
いる。通常は排気ファンとして運転し,火災信号や排煙
5−2−2 基準階空調
起動装置により排気ダンパが閉鎖し,排煙口が開放する
1フロアに4台のコンパクト形空調機を設置してい
システムとなっている。また,地下4階までの自走式駐
る。ガラスの断熱性能が高く窓際のファンにより冬期の
車場であるため,消防法の排煙設備の基準としても満足
冷輻射を低減できることから,インテリアとペリメータ
している。
を単一ダクトにて空調し,VAVユニットにて個別制御し
6.おわりに
ている。VAVユニットはインテリア約70flごととペリメ
ータ約30flごとに設置している(図−6)。また,空調
東京サンケイビルのø期工事が完成し,平成14年9
機械室の省スペース化,搬送動力の低減をはかるため,
月末のグランドオープンに向けて,本館の解体および¿
空調送風温度は13℃とし,さらに暖房・加湿にはDHC
期工事が進められている。旧サンケイビルは竣工から
からの蒸気を利用することで空調機のコンパクト化,コ
47年経ち,歴史の重みを感じると同時に,新しく再生
ストの低減化が可能となった。
した東京サンケイビルの建設に携わることができたこと
吹き出し口はシステム天井の照明ラインに合わせたア
に深く感謝しつつ,今後もこのビルの発展に影ながら貢
ネモ形形状とし,インテリアで約25„/hfl(13℃差)の風
献していきたいと願っている。
量,ペリメータで約55„/hfl(13℃差)とした。間仕切りに
ñサンケイビルの皆さま,産経新聞社ほかテナント関
よるドラフトを防止するため,吹き出しボックス内の風向
係者の皆さま,工事関係者の皆さまに多大なご指導・ご
切り替え板にて風向・風量が可変可能な工夫を行っている。
協力をいただきましたことを,誌面を借りて厚くお礼を
5−2−3 ホール空調
申しあげます。
講習会・展示場・パーティなどの多目的利用のホール
―9―
ヒートポンプとその応用 2002.
7.
No.58
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