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電流センサ内蔵インテリジェントパワーモジュール
富士時報 Vol.72 No.3 1999 電流センサ内蔵インテリジェントパワーモジュール 渡辺 学(わたなべ まなぶ) 佐藤 卓(さとう たく) 小田 佳典(おだ よしのり) まえがき 過熱保護機能,高信頼性,高コストパフォーマンスを主な 特長とした R シリーズ IGBT-IPM(R-IPM)を開発した。 IGBT-IPM(Insulated Gate Bipolar Transistor-Intelli- 今回,この R シリーズ IGBT-IPM をベースに,表1に gent Power Module)はパワーデバイスの駆動回路,各種 示す顧客ニーズのなかの特にインバータ装置の出力電流検 保護回路などの周辺回路をモジュール内部に取り込み最適 出センサの小形化・省スペース化および主回路配線の省配 設計を行うことにより,装置の小形化,高信頼性化,設計 線化・省スペース化,取付ねじの削減を主な目的に,イン 時間の短縮などに貢献してきた。 バータ装置側と連携を取りながら出力電流センサを内蔵し, 富士電機では1997年に低損失,低ノイズ,IGBT チップ インバータ端子台を一体化させたカスタム IGBT-IPM の 開発を行った。以下,特長・系列などについて報告する。 表1 顧客ニーズと開発アイテム 顧客ニーズ IPM の系列 IPMへの要求 低ノイズ化 冷却フィン IPM開発アイテム ソフトスイッチング R-IPM用チップ適用 低損失化 1,200V NPT微細 チップの適用 小形化 制御回路 の製品系列,特性,および内 蔵機能 を 示 す。 系列 はすべて 6 個組 で, 600 V 系 は 75 ∼ 200 A, 1,200 V 系 は 50 ∼ 100 A の 電流範囲 となっている。 駆動回路,保護回路の 内蔵 R-IPM用ICの適用 主回路の省配線化, 省スペース化,ねじ削減 出力電流検出器の内蔵 化,インバータ端子台 の一体化 シャント抵抗内蔵 端子台一体化パッ ケージ 出力電流検出器の小形化 検出器の内蔵化 シャント抵抗内蔵 全相地絡保護可能 R-IPM用ICの適用に より実現 保護機能の信頼性向上 IGBTチップ温度過熱 保護適用 設計時間の短縮 表2 に 今回開発 した IPM パッケージは電圧電流容量により図1に示す外観の 2 種類 となっている。IGBT は R-IPM と同一チップを使用して おり,特に 1,200 V 系は低コレクタ - エミッタ間飽和電圧 (VCE(sat))の NPT(Non Punch Through)チップを使用 し低損失化を図っている。また,R-IPM と同様にチップ 過熱保護などの各種保護機能を内蔵しており,保護の信頼 高信頼性 性向上を図っている。 表2 IPM の系列表 インバータ部 形 式 内蔵機能 UVT OCT SCT Tj OHT パッケージ Dr 2.4 ⃝ ⃝ ⃝ ⃝ ⃝ P613 2.3 1.8 ⃝ ⃝ ⃝ ⃝ ⃝ P613 2.3 1.1 ⃝ ⃝ ⃝ ⃝ ⃝ P614 735 2.3 0.8 ⃝ ⃝ ⃝ ⃝ ⃝ P614 357 2.0 3.3 ⃝ ⃝ ⃝ ⃝ ⃝ P613 75 595 2.0 2.2 ⃝ ⃝ ⃝ ⃝ ⃝ P614 100 735 2.0 1.5 ⃝ ⃝ ⃝ ⃝ ⃝ P614 VDC (V) VCE (V) IC (A) PC (W) VCE(sat) シャント抵抗値 (mΩ) 標準(V) 6MBP75RS060 450 600 75 320 2.3 6MBP100RS060 450 600 100 400 6MBP150RS060 450 600 150 595 6MBP200RS060 450 600 200 6MBP50RS120 900 1,200 50 6MBP75RS120 900 1,200 6MBP100RS120 900 1,200 Dr:駆動回路,UVT:制御電源電圧不足保護,OCT:過電流保護,SCT:短絡電流保護,Tj -OHT:IGBT接合温度保護 渡辺 学 佐藤 卓 小田 佳典 インテリジェントパワーモジュー ルの開発に従事。現在,松本工場 半導体開発センターパワー半導体 開発部。 IGBT-IPM, IGBT モジュールの インテリジェントパワーモジュー ルの構造開発・設計に従事。現在, 松本工場半導体開発 センターパ ワー半導体開発部。 開発に従事。現在,松本工場半導 体開発センターパワー半導体開発 部。 203(45) 富士時報 電流センサ内蔵インテリジェントパワーモジュール Vol.72 No.3 1999 図1 IPM の外観 表3 電流検出センサの比較 電流検出センサ シャント抵抗 長 所 小形 高精度 温度特性良 自己発熱なし。ただし 高周波ノイズ発熱対策 要 アイソレータ不要 回路への回り込みなし CT P614 短 所 自己発熱のため,大電流容 量機種への適用困難 アイソレータまたはHVIC 必要 周辺回路への回り込みなし 大形 電流ラインを通す必要あり 省配線化困難 ヒステリシスあり, オフセット制御要 図3 電流センサの外観比較 P613 図2 インバータ装置の概要回路図 3φ インバータ センサ M ブレーキ 2φ・3φ コンバータ 電流 センサ 一般的な CT シャント抵抗 スイッチング トランジスタ 6× プリドライバ プリ ドライバ 保護回路 アラーム出力 図4 シャント抵抗部の構造 抵抗体 アルミニウム ワイヤ スイッチング レギュレータ 入力 V/Fレベル 周波数 順/逆 保護レベル スピード バッファ 電極 はんだ 銅パターン 絶縁層 絶縁層 (セラミックス) 銅パターン はんだ 銅ベース コントローラ ROM・CPU 熱しないこと,また,アイソレータが不要であることなど の特長がある。しかし,外形が大きく,設置スペースを取 り,また CT 内に出力電流ラインをワイヤなどで通す必要 特 長 があるため,省配線化,省スペース化の障害になる。さら に,ヒステリシス特性があるためオフセット制御が必要な 本 IPM には R-IPM のもつ特長のほかに次の特長がある。 どの欠点がある。一方,シャント抵抗は図3の外観比較で (1) 高精度出力電流検出用センサ内蔵 も分かるように非常に小形であり,スペースを取らない。 (2 ) インバータ装置主回路内部配線の省配線化,省スペー また,電流検出器としては精度,温度特性に優れているな ス化の実現を可能にするパッケージ設計 (3) 高ノイズ耐量の確保 どの特長がある。その一方で電流が流れ自己発熱をするた め,特に大電流領域での温度上昇抑制が課題であった。本 IPM ではパワーチップと 同様 に 放熱 させることが 可能 で 3.1 出力電流センサ内蔵 3.1.1 出力電流センサの選定 図2にインバータ装置の概要回路を示す。インバータ装 あることから,小形,省スペースの特長を生かせるシャン ト抵抗を出力電流センサとして採用した。 3.1.2 温度上昇の抑制 ,過電 置では出力電流を検出して過負荷(電子サーマル) シャント抵抗の温度上昇抑制には,発生損失の低減,放 流制御などの各種制御を行っている。出力電流検出センサ 熱性の向上が挙げられる。発生損失の低減には抵抗値低減 の 主 なものとしては, ① ホール CT(カレントトランス) が有効であるが,装置制御側の制約により限界がある。よっ 方式,②シャント抵抗方式があるが,一般的には CT 方式 て,放熱性の向上に開発のポイントを置いた。図4に IPM が多く使用されている。表3に CT とシャント抵抗の比較 シャント抵抗部の構造を示す。シャント抵抗体を絶縁層を を示す。CT は電流と非接触形のため,基本的には自己発 介してパワーチップと同様にセラミック基板パターン上に 204(46) 富士時報 電流センサ内蔵インテリジェントパワーモジュール Vol.72 No.3 1999 図5 主電流ワイヤ位置によるシャント抵抗値変動シミュレーション結果 メインワイヤ位置 抵抗値 2.5 mΩ 電圧センスワイヤ位置 抵抗値 1.7 mΩ (a)主電流ワイヤ位置比較 (b)電流経路および電流密度 比較 ( I =100 A) (c)電位分布比較 路接続ワイヤ本数の最適化・最短化などにより,温度上昇 図6 IPM 回路ブロック図 を抑制し適用可能にしている。また,パワーサイクルにつ P(+)1 スナバ回路 P(+)2 接続用 P(+) 主電源接続用 UVcc 5 Uin 4 プリ ドライバ UGND3 電圧 Ru1 1 出力端子 Ru2 2 シャント抵抗 U ベルの出力電圧となるよう,機種ごとに設定している(表 V WVcc 15 プリ ドライバ 電圧 WGND 13 出力 Rw1 16 Rw2 17 端子 うに主電流用のワイヤボンディング位置により,電流経路, 電流密度が変動し,その結果,抵抗値が大きく変化してし まう。このため,組立時のワイヤボンディング位置の最適 プリ ドライバ 化,およびセラミック基板パターンのセルフアライメント NGND 20 Yin23 2) 。 シャント抵抗値は図5のシミュレーション結果に示すよ シャント抵抗 W NVcc 21 Xin 22 シャント抵抗には検出精度向上のため,主電流ラインと 電圧検出 ラインを 分 けた 4 端子方式 で,かつ, IPM 組立 目標抵抗値はインバータ装置の同一電流負荷率時,同一レ プリ ドライバ VGND 8 Win14 3.1.3 目標抵抗値の実現 工程を考慮しワイヤボンディングタイプを採用した。また, VVcc 10 Vin 9 いてもパワーチップ以上の耐量を確保した。 最適化などにより位置のばらつき低減を行い,目標抵抗値, プリ ドライバ 精度を実現している。 3.1.4 装置側とのインタフェース 今回開発 した IPM のブロック 回路図 を 図6 に 示 す。 電 Zin 24 ALM 25 プリ ドライバ 流検出用のシャント抵抗は U 相,W 相の出力電流ライン 主電源接続用 N(−) に 直列 に 設置 した。また,シャント 抵抗検出部 の 電圧 は N(−)1 スナバ回路 N(−)2 接続用 IPM 内蔵 の 制御 プリント 基板 パターンを 通 して 制御 ピン に引き出し,装置側との接続を可能にしている。 はんだ付けすることにより良好な放熱性の確保を可能にし 3.2 パッケージ技術 ている。さらに,シャント抵抗体サイズの最適選定,セラ 3.2.1 IPM 主端子とインバータ端子台の一体化 ミック基板材質の最適化,使用可能温度範囲のアップ,回 図7に従来方式のインバータ主回路概要図を示す。従来 205(47) 富士時報 電流センサ内蔵インテリジェントパワーモジュール Vol.72 No.3 1999 図7 従来方式のインバータ主回路概要図 P2 P1 図9 インバータ内部主回路配線比較 インバータ装置 バー配線 モジュール 整流部 バー配線 バー配線 AC 入力 R U S V T M W CT N :インバータ端子台 :モジュール主端子 従来方式のインバータ 端子台一体 IPM 適用インバータ 図8 端子台一体 IPM 適用時の主回路概要図 図10 インバータ基板・スナバ回路配置図 P2 P1 インバータ装置 電子部品 IPM 整流部 制 御 回 路 R AC 入力 S インバ−タ制御 プリント基板 U + V T シャント 抵抗 M W IPM N :インバータ端子台 IPMスナバ用 端子 スナバコンデンサ 方式ではモジュール主端子とインバータ端子台が別々に設 素子直近から取り出したスナバ回路用端子を 2 か所設け, けられている。そのため,その間をバー配線により回路構 サージ電圧抑制を可能にする構造にしている。また,図10 成をする必要があった。また,2 個組モジュールを使用し のようにスナバ回路の最短配線,設置スペースを考慮した た場合,モジュール間配線も必要であった。そのため,主 構造設計となっている。 回路配線が複雑となり,また取付ねじ数が増えて組立工数 3.2.3 N ラインインダクタンスの最適化 の増加,作り難さなどに問題があった。そこで今回開発し IPM 内部 の 主回路 N ラインインダクタンス 最適化 は た IPM では図8に示すように IPM の主端子をインバータ IPM 回路動作上 , 非常 に 重要 である。 下 アーム 制御回路 端子台として適用できるよう設計した。図9に,従来方式 は共通の制御電源を使用しており,回路的に下アーム 3 相 のインバータと本 IPM を使用した場合でのインバータ内 の 制御 GND は 主回路 N ラインに 接続 される。そのため 部の主回路配線部を示す。従来方式のインバータに比べ大 GND ラインに 閉回路 が 構成 され, IGBT スイッチング 時 , 幅な省配線化を実現した。 主回路 N ラインに 発 生 する L × di/dt 電 圧 により 制 御 また,本 IPM の設計には従来のモジュール主端子設計 GND ラインにノイズ電流が還流する。この電流は条件に 規格だけでなく,インバータ端子台としての強度,絶縁, よりピーク時には数十 A に達する場合がある。このノイ 温度上昇,振動などの各種基準を満たす設計を行っている。 ズ電流が制御 GND 電圧を変動させ,制御回路の誤動作な 3.2.2 サージ電圧抑制構造 どを引き起こす要因となる。特に大電流容量機種は di/dt 本 IPM は IPM 主端子がインバータ端子台を共有し,ま が大きいため誤動作が顕在化しやすい。 た出力電流検出用シャント抵抗を内蔵したことによる構造 そのため,本 IPM の特に 150 A 以上の電流容量機種の 的な制約から,通常のモジュールより主端子(端子台)か パッケージ設計では,図11に示すように IPM 内の N ライ らパワー素子までの配線が長くなりインダクタンスが増加 ン絶縁基板の 1 枚化およびパターンの最適化を行い,従来 する。そのため,サージ電圧が発生しやすい構造となる。 パッケージに比べ約 50 % N ラインインピーダンスを低減 その対策として,図6のように主電源供給用端子とは別に している。これによりノイズ電流値を低減し,制御回路の 206(48) 富士時報 電流センサ内蔵インテリジェントパワーモジュール Vol.72 No.3 1999 はさらに制御プリント基板に制御 GND シールド層を設け, 図11 IPM N ライン主配線比較 GND ラインのインピーダンスの低減,シールド効果など セラミック基板 セラミック基板 セラミック基板 によりさらにノイズ耐量の向上を図っている。 あとがき 各相のセラミック基板 間をバーにて配線 今回開発した IPM は中・大電流容量では市場で初めて 出力電流センサ内蔵を実現した。また,インバータ端子台 N端子 を一体化することによりインバータ主回路配線の合理化を (a)従来Nライン主回路配線 実現 した。 IPM は 今後 さらに 周辺回路 の 取 り 込 み, 合理 セラミック基板 化などによりインバータシステムトータルの合理化,高機 能化に重要な役割を果たしていくと考えられる。今後とも 各相をセラミック基板 パターンにより配線 市場要求に十分こたえられるよう,開発,製品化に注力し ていく所存である。 N端子 (b)今回開発品のNライン主回路配線 参考文献 (1) 重兼寿夫・宝泉徹:インテリジェントパワーモジュール, 安定動作を実現している。また,絶縁基板の機械的強度も 同時に確保している。 電気学会誌,Vol.115,No.2,p.114-119(1995) (2 ) 渡辺学・梶原玉男:インテリジェントパワーモジュール, 富士時報,Vol.67,No.5,p.268-274(1994) (3) 山口厚司 ほか :中・大容量 R シリーズ IGBT-IPM の 開発 , 3.3 高ノイズ耐量の実現 R-IPM ではノイズ対策として IC 内基準電源フィルタ, ドライブ GND と制御 GND の分離,周辺回路の IC への集 積化,IGBT と IC の最短接続化などを行った。本 IPM で 富士時報,Vol.71,No.2,p.101-105(1998) (4 ) 梶原玉男ほか:小容量民生用 IGBT-IPM,富士時報,Vol.71, No.2,p.106-111(1998) 最近登録になった富士出願 〔特 許〕 登録番号 2838910 名 称 自動販売機のデータローダ 発明者 登録番号 名 称 堀 茂樹 発明者 2838921 圧力測定装置 矢尾 博信 玉井 満 斉藤 雅男 2838914 半導体圧力センサの製造方法 西浦 真治 山下 則康 2838916 自動販売機の選択釦支持構造 冠野 恭範 2838934 カップ式自動販売機の飛散原料用受 け皿の構造およびその支持構造 高野 晃利 2839044 分散配置型電源用逆圧検出回路 付属装置のリード線引留め構造 佐藤 一彦 藤村 清志 上浦 健一 小松木和成 藤本 久 2839046 車両駆動装置 吉川 春樹 岩堀 道雄 義則 直人 田村 浩明 2838918 2838919 変位変換器 中村 悟 2838920 ショーケースの陳列棚構造 上田 典宏 小林 初夫 207(49) *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。