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Title 〔商法四八七〕洋服販売業の営業譲渡を受けた会社が、譲渡会社の

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Title 〔商法四八七〕洋服販売業の営業譲渡を受けた会社が、譲渡会社の
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〔商法四八七〕洋服販売業の営業譲渡を受けた会社が、譲渡会社の屋号を商号として続用した場
合、商法二六条一項の類推適用が否定された事例(東京地判平成十八年三月二十四日)
菅原, 貴与志(Sugawara, Takayoshi)
商法研究会(Shoho kenkyukai)
慶應義塾大学法学研究会
法學研究 : 法律・政治・社会 (Journal of law, politics, and sociology). Vol.81, No.5 (2008. 5) ,p.87100
Journal Article
http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AN00224504-20080528
-0087
判例研究
洋服販売業の営業譲渡を受けた会社が、譲渡
ザ、二子玉川および吉祥寺において、
l
「ザ・クロゼット」の屋号の店舗を設けて、輸入した紳士
田園調布、たまプラ
的として昭和五六年二月三日に設立された株式会社であり、
/判例時報一九四 O号一五八頁\
-貸金等請求事件-
-平成一六年(ワ)第一一一一一一六五号-
\東京地判平成一八年三月二四日/
二六条一項の類推適用が否定された事例
〔商法四八七〕 会社の屋号を商号として続用した場合、商法
〔判示事項〕
洋服販売業の営業譲渡を受けた会社が、譲渡会社の屋号
を商号として続用した場合には、平成一七年改正前商法
トレ
1
デイング株式会社(以下、「A 社」と
が被告の取締役として就任していた。また、
B
Y社代表取締
いない。 Y社の設立当時には、 A社の代表取締役 C の妻 D
の住所地と同じ場所にあったが、ここには店舗は存在して
一O月一九日に設立された。被告の本店は、代表取締役
は、衣料雑貨品の販売、輸出入を目的として、平成二二年
被告有限会社ザ・クロゼット(以下、「Y社」という。)
(以下、「旧商法」という。)二六条一項の類推適用が否定 服、婦人服および洋品雑貨の小売販売をしていた。
される。
〔参照条文〕
l
旧商法二六条一項(商法一七条一項、会社法二二条一項)
〔事実〕
訴外ヌギ
いう。)は、紳士、婦人服及び洋品雑貨の輸出入販売を目
87
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)
法学研究 81 巻 5 号( 2008:
役 B の妻
E が、
A社の従業員として経理を担当していた。
X銀行は、平成一二年九月四日、 A社との間で銀行取引
l
ロ九九セント
ロ建ての各手形貸付をした。
O 、七四一ユ
l
約定書を取り交わし、その後、輸入ユーザンスの方法によ
り、次のとおりユ
①手形貸付一
貸付金額二
「ザ・クロゼット」の屋号で行っていた紳士、婦人服およ
び洋品雑貨の販売の営業を譲渡し、 Y杜はこれを譲り受け
た。
A社は、前記手形貸付一および二の手形につき決済をし
なかったので、同社は本件手形貸付のすべてについて、平
成一四年六月一一日の経過をもって期限の利益を失った。
ロ公示レ lトの中値であ
口当たり一一七円八一銭で円に転換し、円転後の
l
X銀行は、商慣習に従い、上記①ないし④の各手形につき、
l
A杜の屋号である「ザ・クロゼット」を商号として、また、
そこで、 X銀行は、 Y社に対し、①主位的には、 Y社は
なく確定している。
五年六月一九日、勝訴判決を得たが、この判決には控訴が
し、東京地方裁判所に貸金請求事件訴訟を提起し、平成一
X銀行は、 A杜の連帯保証人であった代表取締役 C に対
ている。
相殺したため、残債権は一、二 O 八万八、二八七円となっ
X銀行は、この債権額と A社の預金七万四、七三九円とを
合計額は、一、一二六万三、 O 二六円となった。その後、
貸付金額を確定した。よって、本件手形貸付による貸金の
る一ユ
成一四年六月一一日におけるユ
期限の利益の喪失日であり、催告による支払期限である平
O月一八日
ロ七二セント
ロ一二セント
日
ロ九二セント
弁済期平成一四年四月九日
A 社が
貸付日平成一三年一
②手形貸付二
l
l
l
O 月三 O
貸付金額三五、七八二ユ
貸付日平成一三年一
弁済期平成一四年四月一六日
③手形貸付コ一
貸付金額二三、六三七ユ
貸付日平成一四年四月二日
弁済期平成一四年九月二四日
④手形貸付四
二三、 O 八 O ユ
平成一四年四月二日
貸付金額
貸付日
平成一四年九月二四日
A 杜は、 Y 社に対し、
弁済期
平成一四年一月コ二日、
8
8
判例研究
に、手形貸付債権四口に相当する金額について損害の賠償
約の取消しと、これら商品の返還が困難であることを理由
を譲り受けたとして、詐害行為取消権に基づき営業譲渡契
備的には、 Y社が本件営業譲渡により A社から廉価に商品
推適用に基づき手形貸付債権四口の支払いを請求し、②予
A社の屋号を続用しているとして、旧商法二六条一項の類
を類推適用して、譲渡人の債権者を保護することを相当と
債務も引き受けたと考えがちなために、旧商法二六条一項
または、その事実を知っていたとしても、譲受人が当然に
場合と同様、営業主体の交代を知ることができないため、
ときには、営業譲渡人の債権者にとっては、商号の続用の
でも、その屋号が商号の重要な構成部分を内容としている
続用されるものが、商号そのものではなく屋号である場合
渡人である A社の商号は「ヌギ
l
トレ
l
デイング株式会社」
したものである。本件は、これらの判決例とは異なり、譲
を請求した。
〔判 回目〕
であり、屋号は「ザ・クロゼット」であるから、屋号が商
X銀行が引用する判決例
一部認容、一部棄却、確定。
いことは明らかである。よって、
号の重要な構成部分を内容としているとの要件を充足しな
A社が X
付主位的請求について(棄却)
Y社は、旧商法二六条一項の類推適用により、
のように、旧商法二六条一項を類推適用して、
Y社の弁済
銀行に対し負担する本件確定債権について、弁済の責を負
責任を肯定することはできない。また、屋号が譲渡会社の
けをもって旧商法二六条一項を類推適用することは、文理
商号とは全く別個に存在する場合において、屋号の続用だ
うか否か。
X銀行は、本件営業譲渡について、旧商法二六条一項の
類推適用を認めるべきであると主張し、東京地判昭和五四
解釈上、懸隔があり過ぎるといわざるを得ない。よって、
O頁、東京高判昭和六 O 年
例はゴルフ場に関するものであり、ゴルフ場の会員権取引
一一月二
O日判時一八五五号一四一頁を引用するが、当該判
なお、 X銀行は、屋号の続用について、最判平成一六年
年七月一九日判時九四六号一一
一二合併号一二四頁を引
X銀行の主張を採用することはできない。
1
五月三 O 日判時一一五六号一四六頁、東京高判平成元年一
一月二九日東高民時報四 O巻九
用する。
そこで検討するに、これらの判決例は、営業譲渡に伴い
8
9
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)
法学研究 81 巻 5 号(2008:
一般的に運営会社の商号よりも屋号に相当す
八万四、四五九円とこれらの附帯金にとどまることとなる。
判旨に賛成。
一旧商法二六条一項の趣旨
禁反言法理説、企業財産担保説、譲受人意思説、営業参加
9
0
においては、
るゴルフ場の名称が流布されるという特殊事情が存在し、
続用されるゴルフクラブの名称が逆に営業主体を表示する
機能を有しているから、本件とは事案を異にするといわざ
るを得ない。
営業の譲受人は、債権者に対して当然に義務者となるもの
営業譲渡(会社法では事業譲渡)がなされたとしても、
本件営業譲渡は詐害行為に該当するか。
然として債務者であり、譲受人は、債務引受けなどの債権
ではない。営業上の債権者に対する関係では、譲渡人が依
移転手続を行わない限り、営業上の債務についてその債務
これに対して、営業の譲受人の債権者に対する責任を定
が、手形貸付三と四は、本件詐害行為である営業譲渡が行
り保全されるべき債権は、詐害行為よりも前に発生してい
めたのが、旧商法二六条一項(商一七条一項、会社二二条
われた平成一四年一月コ二日よりも後に発生した債権であ
ることを要するから(最判昭和五五年一月二四日民集三四
一項)である。すなわち、同項は、譲受人が譲渡人の商号
業によって生じた債務を弁済する責任を負う旨を規定して
巻一号一一 O頁)、手形貸付三と四に基づく債権は、詐害
また、手形貸付一に基づく貸付金債権は、預金債権七万
いる。この場合、当該債務は、譲渡人と譲受人の不真正連
を引き続き使用する場合には、その譲受人も、譲渡人の営
四、七三九円と相殺され、その残額は二三六万八、八七四
帯債務になる。
される被保全債権は、手形貸付一に基づく二三六万八、八
説など、さまざまな考え方が主張されている(上柳克郎
この規定の趣旨に関しては、以下のとおり、外観法理・
七四円及び同二に基づく四一二万五、五八五円の合計六五
したがって、本件において詐害行為取消権によって保全
円である。
行為取消権の行使によって保全することはできない。
者とはならないのが原別である。
X銀行は、本件手形貸付による債権を被保全債権とする
予備的請求について(一部認容)
究
ることは明白である。そして、詐害行為取消権の行使によ
ω
研
判例研究
「営業の譲受人が譲渡人の営業によって生じた債務を弁済
七年三月二日民集二六巻二号一八三頁)。
判例もこの考え方に立脚することを明言する(最判昭和四
外観法理・禁反言法理説は、従来の通説とされているが、
する責任を負わせた規定(商法二六条一項・二八条)の立
法理由は何か」法教五二号八九頁、近藤光男「営業譲渡に
関する一考察|債権者保護を中心として」神戸法学年報一一一学説上は批判も多い。仮に外観法理を根拠とするのであれ
るが、文言上は債権者の主観が考慮されていない。また、
商号が続用されたとしても、債権者は、営業主体の交替を
ば、債権者が悪意の場合にその適用が排除されるはずであ
白「企業外観法理と商法二六条」中京三七巻三・四号三一
知るのが通例であり、また、譲受人に債務引受けの意思が
号六五頁、山下虞弘「商号続用のある営業譲渡人の責任|
三頁、落合誠一「商号続用営業譲渡人の責任」法教二八五
ないことを知っているのが常態だからである。
債権者保護の観点から」立命二五六号一四四四頁、池野千
号二五頁参照)。
受人たる現営業主を自己の債務者と考えるか、または、営
合には、営業上の債権者は営業主体の交替を知りえず、議
人が併存的債務引受けをしたものであると考える(前掲・
引き受けない旨を積極的に宣言しない限り、原則的に譲受
物といえる企業財産が移転すれば、これに伴い特に債務を
営業上の債務は、企業財産が担保となっているので、担保
∞企業財産担保説
業譲渡の事実を知っていても、そのような場合には譲受人
近藤八二頁、服部栄三『商法総則〔第三版〕」(一九八三)
ハ門外観法理・禁反言法理説
において債務の引受がなされたものと考えるのが常態であ
四一八頁)。しかし、企業財産の移転後も譲渡人自身が責
この見解は、企業財産の担保力を根拠とする。すなわち、
るとし、旧商法二六条一項について債権者の信頼を保護す
任を負うとの法的根拠が明らかでなく、その理由の説明が
この見解によれば、譲受人が譲渡人の商号を続用する場
(一九九九)一四九頁、大隅健一郎「商法総則〔初版〕」
る規定と解している(鴻常夫「商法総則〔新訂第五版〕』
困難である。
ル商法総則〔全訂版〕』(一九七五)三O 一頁等)。
この見解は、債権者側からではなくて、営業譲受人側の
回譲受人意思説
(一九五七)三二八頁、神崎克郎『商法総則・商行為法通
l
論』(一九八二)一四四頁、田中誠二日喜多了祐『コンメ
ンタ
9
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5
)
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その責任が認められると考える(田遺光政「商法総則商行
営業上の債務も承継する意思を有するのが通常であるから、
事情から説明する。すなわち、商号を続用した譲受人は、
よび会社二二条一項では、「商号を引き続き使用する場合」)
条一項は、単に「商号ヲ続用スル場合」(商一七条一項お
用を伴う営業譲渡であることが前提となるが、旧商法二六
意思が現実にそうであるかが相当に疑問であるし、仮にそ
理・禁反言法理説に対する批判と同様に、譲受人の通常の
業譲渡の法理』(一九九七)二三三頁)。しかし、外観法
たく同一の商号を継続して使用する場合に限るというよう
点に関し、従来の裁判例は、譲受人が譲渡人の商号とまっ
得るのは、どのような場合であるのかが問題となる。この
為法〔第二版〕」(一九九九)一五四頁、山下虞弘「会社営 としか規定していない。そこで、商号の続用があるといい
うなのであれば譲受人に反証の機会を与えるべきであろう。
ば、商号の続用を認定する傾向にある。
な厳格な解釈をしておらず、その主要部分に共通点があれ
側営業参加説
のは、譲受人が対外的に譲渡人の営業活動に参加するもの
旧商法二六条一項の類推適用が認められている(個人営業
会社の種類を示す文字を付加して使用する場合について、
たとえば、営業の譲受会社が譲渡人である個人の商号に
として取り扱うことであると説明し、合名会社の社員の責
の「名和洋品店」と「株式会社名和洋品店」との聞に商号
この見解によれば、営業譲受人が商号を続用するという
任を定めた旧商法八二条(会社六 O五条)の趣旨と同様に
八号一六三四頁、「大阪屋」と「株式会社大阪屋」との間
続用を肯定した東京地判昭和三四年八月五日下民集一 O巻
に商号続用を肯定した東京地判昭和四五年六月三 O 日判時
考える(小橋一郎「商号を続用する営業譲受人の責任商
展望』(一九八四)一七頁)。しかし、営業の「譲渡」と
六一 O号八三頁、現物出資に関する類推適用の事例として
法二六条の法理」上柳克郎先生還暦記念「商事法の解釈と
「参加」とでは、営業主体の新旧交替の有無という点にお
「鉄玉組」と「株式会社鉄玉組」との間に商号の同一性を
「内外タイムズ株式会社」との聞に商号続用を肯定した東
示が前後逆になった場合(「株式会社内外タイムス」と
認めた前掲・最判昭和四七年三月二日)。また、会社の表
いて決定的に異なっており、説得力があるとは思われない。
商号続用に関する裁判例
営業譲渡に伴い譲受人の責任が問われるのは、商号の続
9
2
判例研究
類推適用を認めている(「三洋タクシー合資会社」と「三
示す文字が変更されている場合にも、旧商法二六条一項の
頁)や、譲渡人と譲受人の商号使用において会社の種類を
肯定した大阪地判昭和五七年九月二四日金判六六五号四九
善株式会社」と「マンゼン株式会社」との間に商号続用を
号二八 O頁。鈴木千佳子「営業譲渡と商号の続用」別冊ジ
定した判例として、最判昭和三八年三月一日民集一七巻二
会社米安商店」と「合資会社新米安商店」の聞の続用を否
四五年二一月二五日判時六三一号九二頁。ただし、「有限
興業株式会社」との聞に商号続用を肯定した札幌地判昭和
八四頁、「マルト食品興業株式会社」と「マルショウ食品
肯定した大阪地判昭和四 O年一月二五日下民集一六巻一号
洋タクシー株式会社」との間の商号続用を肯定した大阪地
ュリ一六四号『商法〔総則商行為〕判例百選〔第四版〕』
O 七頁、「万
判昭和四六年三月五日判タ二六五号二五六頁、「有限会社
五 O頁参照)。
京地判昭和五五年四月一四日判時九七七号一
笠間電化センター」と「株式会社笠間電化センター」との
間の商号続用を肯定した水戸地判昭和五四年一月一六日判
式会社」に営業を譲渡して、この譲受会社が約二 O 日後に
さらには、「第一化成株式会社」が「インサート工業株
の名称が続用されている場合などについても、旧商法二六
本件のような屋号が続用されている場合や、ゴルフクラブ
商号の主要部分に同一性が認められる場合のみならず、
屋号の続用
「第一化成工業株式会社」という商号に変更した事案にお
条一項の類推適用を認める裁判例があるため、以下に検討
時九三 O号九六頁)。
いて、譲渡人と譲受人との経営主体および営業目的がほぼ
する
八号八一四頁)。
屋号が続用されている場合にも商号続用と同様に考えて、
H 従来の裁判例
o
同じであり、本店所在地も同一であるなどの諸般の事情を
1
掛酌し、商号の続用に当たるとした裁判例がある(東京地
判昭和四二年七月一二日下民集一八巻七
としては、本件原告も引用する①東京地判昭和五四年七月
このように、商号の基本的部分を共通にしている場合にも、 旧商法二六条一項の適用ないし類推適用を肯定した裁判例
商号の続用が認定される傾向がある(「株式会社日本電気
八号三五三頁、②東京高判昭和六
一九日下民集三 O巻五
1
産業社」と「株式会社日本電気産業」との聞に商号続用を
9
3
5
)
法学研究 81 巻 5 号( 2008:
1
一二合併号二一四
認めた。
また、最近の裁判例としては、予備校の営業譲渡に関す
あるが、これも、譲渡人がその商号を同時に屋号としても
O巻九
O年五月三 O 日判時一一五六号一四六頁、③東京高判平成
元年一一月二九日東高民時報四
使用し、譲受人が譲渡人の商号を屋号として続用した場合
る東京地判平成一二年九月二九日金商一一一一二号五七頁が
東京地判昭和五四年七月一九日(裁判例①)は、譲渡人
頁等がある。
が自己の商号「株式会社下回観光ホテル山海荘」を同時に
において、旧商法二六条一項の適用を認めたものである。
∞ゴルフクラブ名称の続用
屋号「下回観光ホテル山海荘」としても使用していたもの
であり、譲受人が当該屋号を続用する場合は、旧商法二六
されている裁判例にも、旧商法二六条一項の類推適用が認
屋号に類似する事例として、ゴルフクラブの名称が続用
法研五八巻七号八七頁)。また、東京高判昭和六O年五月
められている。このうち、大阪地判平成六年三月二二日判
条一項の適用があるとした(判例研究として、近藤龍司・
一二
O日(裁判例②)は、譲渡人が自己の商号「有限会社丸
って営業の主体が表示されるものと理解されるとして、ゴ
ルフクラブの名称が続用された場合にも商号続用に準ずる
時一五一七号一 O九頁は、一般にゴルフクラブの名称によ
う「譲渡人ノ商号ヲ続用スル場合」に含まれるとした。こ
としている(同様の下級審判決として、東京高判平成一四
政園」を屋号「丸政園」としても使用している場合に、譲
れら裁判例では、屋号続用の場合も、譲渡人の債権者が営
年九月二六日判時一八 O七号一四九頁等)。
受人が当該屋号を統用するときは、旧商法二六条一項にい
業主の交替を容易に知りえないことは、商号が続用される
この点に関する最高裁の判断を示したのが、最判平成一
一四一頁である(主な判例評釈として、遠藤喜佳・金判一
六年二月二 O日民集五八巻二号三六七頁・判時一八五五号
場合と異ならない点を理由としている。
東京高判平成元年一一月二九日(裁判例③)は、営業譲
一九五号六三頁、森宏司・銀法六三八号一四頁、高橋美
渡に伴い続用されるものが、譲渡人の商号「有限会社徳泉
閣ホテル」そのものではなく、その屋号「徳泉閣ホテル」
加・法教二八九号一五 O頁、宇田一明・重判解二一九一号
一OO 頁、野村直之・主判解一一八四号一三二頁、早川
であっても、当該屋号は譲渡人の商号の重要な部分を内容
とするものであるとして、旧商法二六条一項の類推適用を
94
判例研究
クス三 O号七四頁)。この判例では、預託金会
「営業譲渡と競業避止義務」法研七三巻二号八九頁)、判例
上、現物出資(前掲・最判昭和四七年三月二日)、営業賃
1
員制のゴルフクラブの名称「淡路五色リゾートカントリー
貸借(東京高判平成一四年九月二六日判時一八O七号一四
徹・リマ
倶楽部」が当該ゴルフ場の営業主体を表示するものとして
日
一五八号一二頁)、会社分割(東京地判平成一九年九月一
l
Y 杜に対し、 A 社の紳士、
ジ)の場合にも、同条の類推適用が
一一日判時一九九六号二二二頁、最判平成二 O 年六月一 O
九頁)、経営委任(東京高判平成一四年八月三O 日金商一
淡
l
用いられている場合に、ゴルフ場の営業が譲渡され、譲渡
フクラブの名称を譲受人(商号「株式会社ギャラクシ
人(商号「株式会社ギャラック」)が用いていた当該ゴル
最高裁判所ホ
ムペ
路」)が継続・使用しているときは、譲受人は、特段の事
認められている。
l
情のない限り、旧商法二六条一項の類推適用により、会員
この点、本件事例は、 A杜が、
婦人服および洋品雑貨販売の営業を譲渡したものであり、
が譲渡人に交付した預託金の返還義務を負うとした。この
ような場合に、最高裁は、譲受人が譲受後遅滞なくゴルフ
ている。
∞商号続用の有無と本件の特殊性
旧商法二六条が直接適用される前提事実の一つは充足され
体による営業が継続しているものと信じたり、営業主体の
従来の裁判例は、前記ニのとおり、必ずしも同一商号を
クラブの会員によるゴルフ場施設の優先的利用を拒否した
変更があったけれども譲受人により譲渡人の債務の引受け
継続使用する場合に限定せず、譲渡人と議受人の商号の主
などの特段の事情のない限り、会員において同一の営業主
がなされたと信じたりすることは無理からぬものとしてい
要部分に同一性があれば、商号の続用を認定している。す
用する場合、会社の表示が前後逆になった場合、会社の種
なわち、個人の商号に会社の種類を示す文字を付加して使
類を示す文字が変更されている場合のほか、商号の基本的
四本件事例の分析
村営業譲渡の事実
部分を共通にしている場合にも、商号の続用が認定されて
いる。しかし、本件において、譲渡人の商号「ヌギ l トレ
旧商法二六条は、商号の続用を伴う営業譲渡であること
が前提となるが(営業譲渡の意義について、山本潟三郎
9
5
る
5
)
法学研究 81 巻 5 号( 2008:
ーディング株式会社」と譲受人の商号「有限会社ザ・クロ
ゼット」との聞には、何らの共通点も認められない。
共通性がある場合とまったく同様に考えることはできない。
∞旧商法二六条一項の類推適用に関する判断
の類推適用を認める裁判例がある。たとえば、本件原告が
屋号が続用されている場合についても、旧商法二六条一項
を内容としているときには、(略)旧商法二六条一項を類
く屋号である場合でも、その屋号が商号の重要な構成部分
「営業譲渡に伴い続用されるものが、商号そのものではな
本判決は、原告が引用する前記三つの裁判例について、
引用する前掲・東京地判昭和五四年七月一九日、前掲・東
もの」とした上で、本件は、これらとは異なり、譲渡人で
推適用して、譲渡人の債権者を保護することを相当とした
商号の主要部分に同一性が認められる場合のみならず、
一月二九日である。ただし、これらの裁判例においては、
京高判昭和六 O 年五月三 O 日、前掲・東京高判平成元年一
ある A社の商号が「ヌギ
デイング株式会社」であ
前記三付のとおり、いずれも、譲渡人の屋号が商号の重要
り、屋号は「ザ・クロゼット」であることから、「屋号が
l
な構成部分を内容としており、これが譲受人に屋号として
商号の重要な構成部分を内容としているとの要件を充足し
トレ
続用されていることに注意しなければならない。すなわち、
ないことは明らかである。」と判示し、旧商法二六条一項
商号として続用された点において、本件は従前の裁判例の
き続き使用したものである。このように、議渡人の屋号が
とともに、屋号それ自体である「ザ・クロゼット」をも引
を付加して、商号「有限会社ザ・クロゼット」を続用する
「ザ・クロゼット」に会社の種類を示す文字「有限会社」
商号との共通性」という判断基準に準拠したものである。
多くの下級審裁判例によって集積された「譲渡人の屋号と
二七日判タ一一五八号一八八頁)。その意味で、本判決は、
適用を肯定したものとしては、長野地判平成一四年二一月
事例で、屋号それ自体の続用により旧商二六条一項の類推
六条一項の類推適用を認めていない(ゴルフクラブ以外の
用の事例を除けば、屋号そのものの続用について旧商法二
確かに多くの下級審裁判例では、ゴルフクラブの名称続
l
譲渡人の商号と屋号の聞に共通性が認められ、その屋号が
の類推適用を否定した。
事案(すなわち、譲渡人の商号が屋号として続用された事
これに対して、本件は、譲受人が、譲渡人の屋号である
議受人に続用された事例である。
案)と異なっている。したがって、譲渡人の屋号と商号に
96
判例研究
喜多・前
H
掲一八七頁)、会社の事業譲渡の事例において、商号と屋
とされているから(大隅・前掲一八五頁、田中
場合」(商一七条一項および会社二二条一項では、「商号を
回?っ。
号とを峻別して解釈することにも一応の理由があるように
思うに、旧商法二六条一項は、文理上「商号ヲ続用スル
として債権者保護を図ることを明らかにしている(高烏正
引き続き使用する場合」)」と規定し、商号の同一性を基軸
な拡張解釈は採用すべきではない。この点、商号続用につ
頁参照)。したがって、同項の類推適用を安易に許すよう
「当該判例はゴルフ場に関するものであり、ゴルフ場の会
判平成一六年二月二
も、旧商法二六条一項の類推適用を認めるのが、前掲・最
該名称が譲渡人の商号とはまったく別個に存在する場合に
この点、ゴルフクラブの名称の続用事例においては、当
き「議渡人の屋号と商号との共通性」という判断基準を定
員権取引においては、一般的に運営会杜の商号よりも屋号
四四年〕」二二九
立する本判決の立場は、おおむね妥当なものと解される。
j
特に債権者が詐害行為取消権(民四二四条)を行使できる
に相当するゴルフ場の名称が流布されるという特殊事情が
O年
本件においては、あえて商号続用を緩やかになされるべき
存在し、続用されるゴルフクラブの名称が逆に営業主体を
夫『下級審商事判例評釈〔昭和四
合理的理由も見出しがたい(大塚龍司「営業譲渡と取引の
表示する機能を有しているから、本件とは事案を異にする」
O日の立場である。しかし、本判決は、
安全」金判五六五号六 O頁参照)。
を類推適用することは、「文理解釈上、懸隔があり過ぎる
在する場合に、屋号の続用だけをもって旧商法二六条一項
であるとの本判決の認識について疑問を呈する見解もある
する機能を有するという事情が、ゴルフクラブ特有なもの
これに対して、商号よりも屋号のほうが営業主体を表示
と判示し、紳士、婦人服および洋品雑貨販売における屋号
といわざるを得ない」とする。ちなみに、会社の商号制度
(新里慶一・中京四一巻三・四号一七九頁)。ゴルフクラブ
四屋号続用への拡張解釈の当否
は、個人企業たる商人のそれとは異なって、日本固有の重
と本件のごとき洋服販売事業との比較において、屋号が営
には、そのような事情が認められないとしている。
視・尊重された屋号の伝統を継受したものではなく、明治
業主体を表示する機能の濃淡がどの程度認められるかは不
本判決は、屋号が譲渡会社の商号とはまったく別個に存
期以降に会社制度とともに欧米から新たに輸入されたもの
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5
)
法学研究 81 巻 5 号(2008:
次の各点に留意しなければならないように思う。
明であるが、ゴルフクラブの名称の続用に関しては、特に
頁、小野寺千世「営業の主体を表示する名称を続用する営
続用する場合と商法二六条一項の適用」金判五九三号五一
意味で、本判決が、「ザ・クロゼット」という屋号だけが
業譲受人の責任」ジュリ一一一九号一四四頁参照)。その
称である商号が使用されることは稀であり、専らゴルフク
続用された本件事例において、旧商法二六条一項の類推適
まず、ゴルフ場の事業においては、市場で経営主体の名
ラブの名称が営業主体の表示として機能しているとの事情
本判決は、「商号そのものではなく屋号である場合でも、
国旧商法二六条一項の趣旨について
用を否定した点にもおおむね賛成できる。
でより顕著であり、かっ、会員権取引の一方当事者が商取
が認められる。このことは、ゴルフ場の会員権取引の場面
引上の事業者ではなく一般会員であることからも、他の事
一般会員が多数発生し、これがある種の社会問題となった
極度に悪化し、預託金債権の回収をあきらめざるを得ない
また、バブル経済崩壊以降、ゴルフ場運営企業の経営が
き受けたと考えがちなために、旧商法二六条一項を類推適
その事実を知っていたとしても、譲受人が当然に債務も引
同様、営業主体の交代を知ることができないため、または、
は、営業譲渡人の債権者にとっては、商号の続用の場合と
その屋号が商号の重要な構成部分を内容としているときに
ことも背景事情のひとつと考えられる。本件のような金融
業と比較して特殊な事情であると評価できよう。
機関等の商取引上の債権者ではなく、一般会員である債権
である。」と判示しており、判例の外観法理・禁反言法理
用して、譲渡人の債権者を保護することを相当としたもの
説を踏襲している。この見解によれば、債権者は営業主体
者の保護が問題となるゴルフクラブの事例では、会員救済
の要請が大きいとの価値判断がされやすく、屋号続用の認
を知りえず、債務を引き受けたと考えるのが通常であると
主張する。しかし、この外観法理・禁反一吉法理説に対して
定が緩やかになされる傾向があったのではあるまいか。
こうしたゴルフ場事業の特殊事情にかんがみ、最高裁は、
営業の譲受人は、譲渡人の債権者に対して当然に義務者
は、学説上の批判も多い。
となるものではないのが原別であるところ、旧商法二六条
ゴルフクラブの名称が続用された場合について、拡張的な
山秀平「営業譲渡人が譲渡人の商号をいわゆる屋号として
解釈をしたものと理解するのが正当のように思われる(丸
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判例研究
譲渡人の弁済資力に不安が生じたときであろう。そして、
譲受人に債務弁済を求める場合とは、本来の債務者である
する責任を負うと規定する。このように、原則に反して、
一項は、商号を続用する場合に、その譲受人も債務を弁済
和五四年七月一九日)。本判決においても、債権者である
和五 O年八月七日判時七九八号八六頁、前掲・東京地判昭
般的に善意・悪意を問題としない傾向にある(東京高判昭
年一二月九日判時七七八号九六頁)、下級審裁判例は、一
項の適用がないとした裁判例もあるが(東京地判昭和四九
同若干の私見
本来的な債務者の弁済資力に不安を感じた債権者ならば、
を知るのが通例というべきである(浜田道代「判例研究」
旧商法二六条一項(商一七条一項、会社二二条一項)の
X銀行の外観信頼に関する主観面については検討されてい
判例評論二 O 七号三 O 頁(判時八 O 七号一四四頁)、落
趣旨に関してはさまざまな考え方が主張されているが、前
なし。
合・前掲二九頁)。また、債権者は、かかる状況の下、譲
記一のとおり、いずれの見解にもそれぞれ問題がある。私
って、たとえ商号が続用されたとしても、営業主体の交替
受人に債務引受けの意思がないことを知っているのがむし
見によれば、同条項は、単なる債権者保護規定というより
債務者の状況により一層の注意を払うはずである。したが
ろ常態であろう(浜田・前掲三 O頁)。
も、商号続用を伴う営業譲渡(事業譲渡)における、債権
者、債務者(譲渡人)、譲受人の三者の利害を適切に調整
以上のとおり、外観法理・禁反言法理説の考え方に対し
ては、特に企業倒産の実態にかんがみた場合に疑問を感じ
思うに、旧商法二六条(商一七条、会社二二条)は、文
ざるを得ず、かかる立場を踏襲した本判決についても、そ
また、旧商法二六条一項・商法一七条一項・会社法二二
理上、その要件および効果が相当明確に規定されている。
る。
条一項が外観法理を根拠とするのであれば、債権者が悪意
すなわち、譲渡人の商号を引き続き使用する譲受人は、遅
するための一種の政策規定と解釈すべきではないかと考え
(または重過失)の場合にはその適用が排除されるはずで
滞なく、自らが「譲渡人の債務を弁済する責任を負わない
の理由付けには賛成できない。
あるが、これら条項の文言上は、債権者の主観的な状態を
考慮していない。この点、悪意の債権者に旧商法二六条一
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)
法学研究 81 巻 5 号(2008:
旨」を登記(または通知)しない限り(同条二項)、譲渡
これに対して、ゴルフ場の会員権取引の場面においては、
のと扱うものである(同一項)。条文上、このように要
どの特殊事情が存在する。したがって、前掲・最判平成一
専らゴルフクラブの名称によって取引行為を行っているな
他の一般的な商取引と異なり、債権者である一般会員が、
件・効果が明定されていることにかんがみれば、従前の議
六年二月二 O 日の射程範囲について、他事業の営業譲渡の
人の営業・事業によって生じた債務を当然に引き受けたも
論のごとく、その趣旨を過度に一元的に解釈すべきではな
九一四条一号)。また、商人の場合、商号の譲渡は、営業
(会社九一一条三項二号・九一二条一号・九二二条一号・
を安易に許すような拡張解釈は採用すべきではなく、商号
めの一種の政策規定と理解する私見によっても、類推適用
明確性にかんがみれば、同条項を関係者間の利害調整のた
旧商法二六条(商一七条、会社二二条)の要件・効果の
場合にも及ぶと軽々に判断することはできない。
とともに譲渡する場合または営業を廃止する場合に限って
の同一性や商業登記制度の連結性といった点を十分に吟味
ところで、商号は、会社にとって絶対的登記事項である
いように思う。
認められるにすぎず(商一五条一項)、この場合には、対
貴与志
しながら、その可否を判断すべきものと考える。
菅原
抗要件としての登記が要求されている(同条二項)。この
ように、営業譲渡(事業譲渡)の場面において、現行法上
は、商号と登記との聞に強い連結関係が認められる(登記
との連結性に着目する見解として、池野・前掲三二八頁)。
したがって、商号続用の認定に際しでも、原則として、登
記された商号の存在を前提に、当該既登記商号が続用され
たか否かを中心に判断すべきではあるまいか。その意味で、
屋号への類推適用に際し、本判決を含む多くの下級審裁判
例が「譲渡人の屋号と商号との共通性」という判断基準を
用いていることには、正当な面が認められよう。
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