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厳しい状況が続く ロシアの乗用車市場
ロシア動向 厳しい状況が続く ロシアの乗用車市場 ─ 政府による支援策も力不足 ─ ロシアの乗用車市場が不振の度合いを強めている。2015 年 1 ∼ 5 月の新車販売台 数は、前年比 4 割近い大幅減となった。ロシア政府は、すでに自動車市場に対する一 連の支援策を講じているが、それでも 2015 年の販売台数の大幅な減少は食い止め られそうにない。 厳しさを増すロシアの乗用車市場 ロシアの乗用車市場が不振の度合いを強めてい る。2014 年の乗用新車の販売台数(249 万台)は前年 比10%の減少となり(図表1) 、さらに、2015年1∼5月 の販売台数(64万台)は、前年比38%もの大幅な減少 となった。月次の推移をみると、販売台数の前年割 れは 2014 年 1 月から生じており、 7 ∼ 9 月には前年比 20%を超える減少となった。その後、10 ∼ 12 月にや や持ち直しの方向に転じたものの、2015 年 1 月から は再び大幅な減少となっている。 こうした乗用車市場の不振には、複数の要因があ る。まず、2014年1月から販売台数の前年割れが生じ た背景としては、2013 年末で自動車ローンの金利補 助(詳細は後述)が打ち切られたことが挙げられる。 さらに 2014 年から、それまで輸入車だけが課税対象 となっていた自動車リサイクル税が、国産車にも適 ●図表1 ロシアの乗用新車販売台数の推移 (万台) (万台) 350 300 250 (前年比、%) 30 30 20 20 10 10 0 0 200 ▲10 ▲10 ▲20 ▲20 ▲30 ▲30 150 100 50 ▲40 0 2008 09 10 11 12 13 14 (年) ▲50 2014 (注)小型商用車を含む。 (資料)Association of European Businesses (AEB)より、みずほ総合研究所作成 10 販売台数(左目盛) 前年比(右目盛) ▲40 ▲50 15 (年/月) 用されるようになったことも影響したとみられる。 また、2014年7∼9月の販売台数の落ち込みについて は、欧米諸国による対ロ制裁の発動を受けて、消費者 の間で将来に対する不安感が広がり、自動車のよう な高価な耐久消費財が買い控えられた結果と考えら れる。 一方、10 ∼ 12 月、とくに 12 月の販売の好調さにつ いては、当時ルーブルの急落が生じたなかで、消費者 が 2015 年初頭から新車の販売価格が高騰すると見 込んで、自動車や家電などの耐久消費財の購入を急 いだためとみられている。実際、こうした駆け込み需 要が一服したとされる 2015 年 1 月以降、新車販売台 数の落ち込みは、 2014年7∼9月を上回る深刻なもの となっている。 ロシア政府による自動車市場への 3つの支援策 こうしたなか、ロシア政府は自動車市場へのテコ 入れに向けて、総額200億ルーブル(約4億ドル)近く に達する以下3つの支援策を講じている。 第一に、スクラップ・インセンティブである。この 措置は、消費者が所有している古い自動車を廃車に して新車(国産車)に買い替える際に、購入する新車 の価格から一定額の値引きが行われ、その値引き分 を国が支払うというもので、2014 年 9 月から導入さ れている。同様の措置は2010∼11年にも導入されて いたが、現在のスクラップ・インセンティブは、①古 い自動車を廃車にする場合だけでなく、下取りに出 して新車に買い替える場合でも値引きが行われる、 ②個人の消費者だけでなく法人も対象になる、とい う 2 点において、以前よりも適用対象が拡大されて いる。値引き幅は自動車のタイプによって、また、廃 車か下取りかによっても異なり、乗用車については、 廃車の場合は5万ルーブル(約1,000ドル)、下取りの 場合は4万ルーブル値引きされる。 2014年には、同措 置を利用した新車の販売台数が 19 万台近く(うち、 乗用車は15.5万台)に達し、その値引き分の支払いに 連邦予算から約 100 億ルーブルが支出された。2015 年については、連邦予算から 150 億ルーブルが支出 される予定である。 第二に、自動車ローンの金利補助である。これは、 消費者(個人)がローンで乗用車を購入する際に、 ローン金利のうち、ロシア中銀の政策金利(2015年6 月末時点で11.5%)の3分の2に相当する分を政府が 補助するというものである。同様の措置は、2009 ∼ 11年および2013年後半にも導入されていた。今回の 金利補助の対象となるローンの条件としては、①購 入車両が 2015 年に製造された国産車で、価格が 100 万ルーブル(約 2 万ドル)以下であること、② 2015 年 4 月以降に組まれたルーブル建てローンで、期間 3 年 以内であること、などが定められている。金利補助の 実施のために、総額15億ルーブルの補助金が2015年 連邦予算から支払われる予定であり、ロシア産業商 業省によれば、同措置を利用した乗用新車の販売台 数は30万台に達すると見込まれる。 第三に、リース料金の値引きに対する国家補助で ある。この措置は、ロシア国内のリース会社が、法人 および個人に対する自動車のリース料金を値引き し、その値引き分を政府がリース会社への補助金に よって補てんするというもので、2015 年 5 月に開始 自動車リースの活発化を通じて、リース会社 された。 による新車購入を促進させる狙いがあるとみられ る。補助金支給額は、リース会社による自動車購入価 格の10%までとされ、2015年中に総額25億ルーブル が連邦予算から支出される予定である。ロシア産業 商業省によれば、同措置を利用した新車の販売台数 は、開始後約1カ月で4,500台を超えており、年末まで に3万台を超えると見込まれる。 政府見通しでも市場の2割縮小は避けられず こうしたロシア政府による支援策にも関わらず、 2015 年の自動車市場の行方については、専門家の間 で悲観的な見方が多くなっている。例えば、ロシアの 自動車市場調査会社の AVTOSTAT は、2015 年の乗 用新車の販売台数が、前年比で 36%減少すると予測 している(7 月 1 日発表)。また、マントゥロフ産業商 業相は、自動車市場への支援策の全容がほぼ固まっ た 3 月下旬に、 「何も対策を講じなければ、2015 年の ロシアの自動車市場は前年比で 50%縮小するであ ろう。しかし、一連の支援策の実施により、自動車市 場の縮小幅を 24%に抑えることが可能になった」と 発言している。少なくとも年内において、 ロシアの自 動車市場が回復に向かう可能性は、きわめて低いと 言えそうだ。 みずほ総合研究所 欧米調査部 主任研究員 金野雄五 [email protected] 11