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高橋 真木子, 特別寄稿論文 ~大学における産学連携促進活動の発展に
特別寄稿論文 ~大学における産学連携促進活動の発展にむけて~ 産学連携の活動評価、必要とされる機能と担う人材に関する考察 東北大学 特定領域研究推進支援センター プログラムオフィサー 特任准教授 高橋真木子 大学において、外部との連携、とりわけ産業界と その数は、JSTデータベースに登録されているだ の産学連携活動を担うのに必要な機能は何か、5 年 けで 1,800 人、全国で同様の活動をしている人員は 間の大学知的財産本部整備事業(以下、本稿では知 総勢 3,000 人にも上るともいわれている。異なる観 財本部整備事業)による基盤整備期間を終えた大学 点の数字をあげれば、日本の知財人材は約 6 万人で を中心に、その状況をいくつかの報告に見ることが あり、内訳はおおよそ弁理士事務所に 3 万人,企業 できる。 に 2 万人,行政・司法・大学などに 1 万人がいる。 本稿では、人材という視点を軸に、大学等におけ うち、大学等に所属する知財担当として 2,000 人と る産学連携活動を促進するために検討すべきことを いう数字があり、この内訳は、研究者,教員,知財 整理し、その方針を考える際の要素抽出を試みる。 本部・TLOスタッフ、事務職員、コンテンツ人材、 それにより、最終的には各大学の運営方針にもとづ 法科大学院に居るものと想定される 1 。 き、その研究教育ポテンシャルを外部連携に活かし 本稿では、対象とする人材を「大学等の研究機関 ていくための機能を向上させることで、全体の活性 で産学連携促進のための技術移転活動を担う者」 (以 化が進むことを期待するものである。 下、本稿では「産学連携担当人材」とする)と定め 本稿では、まず、1.大学や地域で活動する多様 る。たとえば知財本部整備事業により雇用された大 な産学連携に従事する人材のうち、今回対象とする 学の教職員、各大学の知的財産本部の活動を支える 人材の範囲と従事する業務の概況を整理する。次に、 教職員、TLOで関連業務に従事する職員、JST 2.その活動を評価するための視点を整理する。3. 産学官連携活動高度化促進事業により大学に配置さ アメリカの大学において産学連携に関連する業務を れている産学官連携コーディネータ、NEDO技術 支える人材層についてその組織体制も含め紹介し、 開発機構産業技術移転フェローシップシップ事業に 4.日本の産学連携を促進するために大学がもつべ よるNEDOフェロー、独立行政法人工業所有権情 き機能とそれを担う人材についてまとめる。 報・研修館の事業により大学等に派遣されている特 許流通アドバイザーなどがそれにあたる。 1.産学連携に関連する人材とその業務範囲の整理 本稿の趣旨は大学を組織単位として産学連携を促 大学などの研究成果を社会還元する知的財産戦 進する活動を分析することにあり、今回対象とする 略・産学官連携システムの構築等のために、これま 産学連携担当人材が担う業務は、組織の連携形態に でに様々な施策がなされてきた。それにより、大学 よらず大学を基盤に活動するTLOも含めた活動 2 やTLOのみならず、地域の公設試などの研究機関、 とすることとした。つまり、1)各発明を単位に、 また地方自治体等で、多様な経歴をもつ様々な人材 1 が、多様な雇用財源で様々な所属のもと、産学連携 2 促進のための活動に従事しているのが現状である。 内閣官房知的財産戦略推進事務局の資料に基づいて日経BP 知財 Awareness 編集部作成に基づく。 詳細は、大学等の知的財産マネジメントに関する考察~文部科 学省「大学等における産学連携官連携など実施状況調査」の集 計・分析結果より~UNITTj No.2 p21-28 特別寄稿論文 権利化・活用を担う定番的な管理・活用マネジメン トであり、これ以外にもアディショナリティー概念 ト業務と、2)研究成果と連動した共同・受託研究、 を用いる捉え方や、掲げた目的や目標との関係性か 起業相談、技術指導相談等のための広義の技術移転 ら捉える考え方もあるようだ。どの捉え方において 促進業務、の両方の性格の業務を対象とする。以降 も、氏が指摘する 2 点は、本稿の読者である産学連 本稿では、その業務範囲が規定する活動を「産学連 携促進活動に従事し現場での成果を問われている者 携促進活動」とし、産学連携担当人材の活動に加え、 にとっては充分納得感があるものであろう。 研究者自身や企業側の活動を含む全体の「産学連携 活動」と区別する。 Output 成果 Product 2.産学連携促進活動の評価 Outcome Impact 日本において最初のTLOが法律により設置され、 実績 Performance 産学連携促進活動が体系的に開始されてから 10 年 が経過した現在、この活動のアウトプットは何か、 過程 Process アウトカムは何か、そもそも大学における産学連携 活動の意義は、という議論が様々なレベルでなされ 制度 System Proxy Output 体制 Actor Proxy Outcome 運営 Management Proxy Impact 出典:研究・技術計画学会,第21回年次学術大会・講演要旨集Ⅰ 「アウトカム概念の知識論と事例調査結果」, 平澤冷(ナレッジフロント)等 より ている。しかし“技術移転”という過程に力点を置 いた活動である、という特性から元来その評価は難 図1 実績評価における標準的な概念区分 しいものである。例えば、最終的な成果が出るまで すなわち、1)アウトカム概念はモデル依存型で に時間を要すこと、大学はその成否の最終段階(産 あり、借り物のモデルではなく対象に相応しいモデ 業化)まで直接関わるわけではないこと、技術の質 ルをまず想定することが重要であること。つまり、 のみならずそれをとりまく産業界の状況に影響を受 組織の方針と目的があった上でのアウトプットとア けること等が理由としてあがり、現段階で定量的分 ウトカムの設定である。2)研究開発活動の本質が 析評価が非常に難しい。また、アウトプットとアウ 「意図した目標に向かう仮説検証サイクルの反復的 トカムの定義があいまいなまま“実績評価”がなさ 学習」であり、動的な取り組みこそがモデル化され れている例も散見する。 るべき内容 3 であり、そのためには図1の「過程」の そこで、次項ではまず評価の視点の整理、対象と ありようを把握することが重要になる 4 という点で する活動の特性故の難しさの要因を概況し、現在可 ある。ここで重要なのは、組織のアイデンティティ 能な評価の視点の提案を試みる。 ーでもある組織運営方針(目標)であり、それによ りアウトプット、アウトカムが規定されるという点 2-1.評価の前提と視点の整理 である。 多様な活動評価手法があるが、産学連携活動の全 よく引き合いになるアメリカのTLOにも、その 体を評価する際に、少なくとも整理すべき概念は、 運営方針の中核を何に置くかによって、少なくとも 研究開発活動のアウトカム・インパクト評価体系に 3 つのモデル 5 があると言われている。 関する調査研究により、平澤冷氏によりまとめられ た下記図1の枠組みであろう。これは実績の標準的 3 な概念区分のうちアウトカム概念を中心としたセッ 4 5 平澤冷他 「アウトカム概念の知識論と事例調査研究」研究・ 技術計画学会 第 21 年次学術大会 講演予稿集 I P131-134 同6 他にも、1)をライセンス活動に注力することから Royalty 特別寄稿論文 1)大学の社会貢献活動の一貫としての技術移 転活動に力点おくもの(Service model) 出口の多様さ、時間軸の多様さ故の難しさ、という 指摘 7 がなされている。 2)技術移転活動 6 自体による大学の収益事業の 現在、日本の産学連携活動の評価については、関 一つと位置づけるもの(Income model) 連する施策による、機能、業務、担当人材の育成事 3)地域社会貢献のツールとして大学の研究 成 業までを含めた文部科学省による報告 8 が出ている。 果を位置づけ、そこからの経済発展、雇用創 この報告では、研究開発活動、人材育成、税制など 出 を 目 指 す も の ( Economic development の産学官連携システムに多様な観点から影響を与え model) る多くの施策の中で、 「知的財産戦略・産学官連携シ である。これらは当然、二律背反ではなく、どのT ステムの構築等を目的とした」5 事業を対象に評価 LOも上記要素のいずれをも包含しながら、各機関 を行っている。知財本部整備事業(H15 年~H19 年 の方針にもとづき自身の位置づけを定めている。産 度)については、その直接的な効果を評価するため、 学連携機能のモデル構築に際し、上記分類は参考に 共同研究・受託研究、特許出願・実施、大学発ベン なると思われる。 チャー設立等のマイルストーンを設け、事業実施校 各組織における目標とモデルが確立されて初めて、 と非実施校を、機関の形態や規模、研究ポテンシャ 産学連携促進に関する活動評価が可能となるわけだ ル等がマイルストーンに依存することを考慮して評 が、この促進活動自体の特性ゆえ、その評価が難し 価しており、概ね事業のプラス効果があったとして いことも想像に難くない。基盤構築が日本より 20 いる。コーディネータ人材については、上記のよう 年先行していると言われるアメリカでは、蓄積され なマイルストーン指標となる活動に関与した実績値 たデータをもとに既に様々な観点からの分析がなさ をもって評価しており、一定の活動評価はなされて れている。大学の技術移転活動のデータブックとし いる。しかし、いずれも上述と同様の困難さを指摘 て有名な AUTM サーベイに始まり、より詳細な大 し、評価方法の開発は今後の課題としている。 学レベルの調査研究、学部レベルでのファカルティ ーの関与程度との相関、技術分野特性を重視したも 2-2.ステークホルダーからの評価 ~日本知的 の、大学研究者のインセンティブシステムの観点か 財産協会における調査分析~ ら技術移転活動活性化を論じたもの等がある。産業 次に「アウトカムはアウトプットの利用者によっ 化というアウトカムの視点からは、産業界への経済 て最もよく判断される」9 という視点から、産業界が 的影響、ベンチャー創出数との相関、人的交流の意 現在の日本の産学連携活動をどう評価しているかを 義などの研究アプローチがある。 整理する。法整備が整った 1995 年以降の新しい基 しかし、いずれにしても評価対象としての技術移 盤で、先のアウトカムの一つと規定されるに足るレ 転活動は、1)ひとまとまりの“技術”を定義する ベルまで到達した事例をもとに、そのプロセスにつ ことの難しさ、2)技術移転プロセスのアウトライ ンは、そのルートが非常に多様であることに基づく 7 難しさ、3)移転された技術のインパクトの測定、 8 6 model, 3)のうちベンチャー創出に注力するものを Equity model と呼ぶものもある。 スタートアップ支援などによるエクイティー収入を含む広義 の技術移転活動を意味する。 9 Barry Bozeman“ Technology transfer and public policy: a review of research and theory” Research Policy 29 (2000) 627-655 大学等の研究成果を社会還元するための知的財産戦略・産学官 連携システムに関する総合評価報告書 平成 19 年 12 月 文 部科学省 伊藤豪一他「アウトカム評価とマネジメント独立行政法人製品 評価技術基盤機構の事例」研究・技術計画学会 第 21 年次学 術大会 講演予稿集 I P123-126 特別寄稿論文 いて可能な限りその要因を掘り下げた事例は貴重で 学知財本部の協力(20 位) 」と評価が低いことが明 あろう。 らかとなった。しかし、ここで最も重要と思われる ここでは日本知的財産協会による産学連携活動の のは、上位にランクされている「信頼関係の構築(2 事例調査報告をもとに、産業界からみた成功要因の 位) 」、 「相互理解(5 位) 」はコミュニケーションに 抽出を試みる。この調査では、対象案件を知財の有 よる要因、「役割分担の明確化(3 位) 」 、「進捗管理 無と、事業基盤の成熟度から分類し、 「知財が有り(無 (8 位) 」は運用にかかる要因である 13 、という点で いものは対象外) 」さらに「事業基盤が得られたもの ある。2 要因とも学側で産学連携促進を担当する者 のうちのある一定以上のレベル」10 にある事例を“産 が機能することが出来る、ということを指摘したい。 学連携の成功”と定義している。そして、その分類 なぜなら、企業研究者と大学研究者による当事者間 に該当する 8 事例の技術(知財)を評価した報告 11 での調整が不調である場合、別人格をもったコーデ にもとづき、その成功要因の分析を行ったものであ ィネータの存在と仲介により連携活動が勧められる る。その事例から共通にいえることは、 ならば、その存在価値は大きいと思われるからであ ① ビジョンとその実現化への意欲が(産と学の) る。 双方にある ② 役割分担の明確化 事例調査より アンケート調査の項目 ポイント 回答数 抽出された要素 技術レベルの高さ 135 33 信頼関係の構築 ④ 102 28 コミュニケーション 役割分担の明確化 ② 78 22 による要因 先生の意欲 (①関連) 65 24 相互理解 ③ 41 15 企業の意欲 (①関連) 40 14 運用に係る要因 契約の内容 (⑦関連) 34 12 進捗管理 ⑥ 27 11 成果の独占 (⑦関連) 19 8 情報共有 17 6 資金提供 15 7 人のつながり 14 4 研究成果の保証 9 3 従業員の意欲 8 4 大学側への利益還元 7 4 人材提供 (技術者派遣)⑤ 6 4 スムーズな契約 6 4 コーディネーターの存在 6 4 先生の評判 4 1 大学知財本部の協力 3 2 企業の販売力 3 1 地理的要因 2 1 官の支援 1 1 設備提供 0 0 成果の公開 0 0 学生の採用 0 0 出典:知財管理Vol.57 No.10, 2007 「事例から探る産業連携の成功要因と企業における留意点」を基に筆者作成 順位 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 16 16 19 20 20 22 23 ③ 相互理解(産の使命、学の使命を両者が共有) ④ 信頼関係の構築 ⑤ 技術者の派遣(=全事例が学への委託研究で はなく、産の人間が研究に加わる共同研究で 行われている) ⑥ 進捗管理 ⑦ 知的財産権に関する扱い(=共有知財の取り 扱いで全体の開始が阻害されないこと) である。ここで抽出された成功要素を踏まえ、企業 表1 産学連駅を成功させる要因 の知的財産担当者への「産学連携を成功させる要因」 本調査回答者の母集団特性から想像される点、す のアンケート結果 12 を、上記事例調査と併せて表1 なわち、1)日本知的財産協会の委員会所属メンバ に示す。これにより、2 つの調査結果(事例研究か ーは、人員体制も含め知財部のポテンシャルが高い らの抽出した成功要因とアンケート調査で上位にラ 比較的大企業の声ではないか、2)狭義の知的財産 ンクされる要因)が、かなりの部分で重複している 活動ではもっぱら企業の知財専門家の機能に信頼性 こと、次に「コーディネータの存在(16 位)」 、「大 があり、学側にそれを求めていない可能性がある、 という点を考慮しても、学側での連携促進業務をど 10 11 12 連携成果のステージを、事業化の進展度合いから 4 ステージに 区分(連携スキームを構築し、連携開始段階→事業の基盤とな る技術成果が得られた段階→成果技術を適用し製品化した段 階→成果技術適用製品により収益を実現した段階)し、第二段 階以降に到達したものを成功と定義している。 知的財産マネジメント第 1 委員会第 1 小委員会「事例から探 る産学連携の成功要因と企業における留意点」 知財管理 Vol.57 No.10 2007 P1640 アンケート調査は 26 の選択肢から重要な要素を 5 つ選択し、 重要性を点数化する方式 う捉えるかは、自身の組織運営方針の検討に際し、 入れるべき視点であろう。 以上、いずれもそれぞれの専門家による深化した 13 知的財産マネジメント第1委員会第1小委員会「事例から探る 産学連携の成功要因と企業における留意点」 知財管理 Vol.57 No.10 2007 P1640 特別寄稿論文 調査、分析研究がなされ、厳密な言葉の定義の上で が担う業務は、申請等により獲得する研究資金の、 の議論が行われている。ここではその入り口を紹介 1)応募に関する業務(Pre-Award Administration、 するにとどまる代わりに、少なくとも検討の際に入 以 下 Pre-Award と 略 す ) と 、 2 ) 採 択 後 の 業 務 れるべき基本的視点を紹介することを優先した。 (Post-Award Administration、以下Post-Awardと 本稿の読者は、まだ活動基盤確立期にある現在の 略す)に区分される。Pre-Awardは、提案書の書き 日本の大学において、産学連携促進活動の実務を担 方指導、各種手続き支援、契約交渉・作成、申請案 いつつ、自身の活動の評価軸の構築にも直面してい 決済を行い、Post-Awardは採択後から終了まで、す る。上記の観点と難しいものであるという前提を踏 なわち研究費の会計管理・報告対応が主たる業務と まえ、組織の存在意義をその運営方針の中で位置づ なる。一般的にPre-AwardとPost-Award各々で必要 けした上で、今後の活動方針を実質的に議論するこ となるスキルを表2に示す 15 。特に民間企業等との とが重要だと考える。 Contract Researchでは、知的財産の取扱、契約条 件についてTLOとの協力が必要で、ライセンシン 3.アメリカの大学におけるマネジメント人材 ~ リサーチアドミニストレータ~ グアソシエイトとチームでの検討も行うということ で あ る 。必要 と さ れるス キ ル のうち 、 Scientific 日本の状況評価の現状とその難しさ、産業界の調 Backgroundについては、表中「望ましいが…」と 査分析から求められる機能を踏まえ、日本の産業界 あるとおり、全体として必須のスキルではないが、 も一定の評価をするアメリカの大学において、産学 特にPre-AwardのRAにはそれを求め、組織運営方 連携に関連する業務が実際どのような人員と役割分 針からその機能強化を図る研究大学も最近出てきて 担でなされているかを紹介する。尚、出典記載の無 いる。 い内容の多くは、2007 年 11 月開催の全米のリサー チアドミニストレータが集う年次総会NCURA Necessary Skills for Research Administrator (National Council of University Research Administrator)14 での運営幹部等との議論に基づく Scientific Background Accounting Contract (Law) Intellectual Property Compliance Contract Negotiation もので、大会参加報告については、別途、 「産学官連 携ジャーナル」2008 年 5 月号、6 月号を参照された い。 Pre ○ ○ ○ ○ Post ○ 望ましいが必須ではない ○ Mr. Richardson ※等NCURA幹部とのディスカッションを元に筆者作成 ※(Moderator & Speaker, Assistant Vice President for Research, Penn. State Univ.) 3-1.リサーチアドミニストレータの業務 アメリカの大学等で、 (公的、民間という財源を問 わず)競争的研究資金のマネジメントに携わる職種 表2 RA に必要となるスキル で、正式には“University Research Administrator 図2に、財源別のPre-とPost-業務の相対的な重要 (URA、もしくはRAと略す、本稿では以下RA 性を示す。実際にアメリカの大学で実務を担うRA とする)”といい、専門職として確立している。RA の何人かと話をした印象でも、公的資金による研究 14 全米の 1,000 以上の研究機関に属する約 6,500 人の会員からな り、個人のスキルアップと大学等の研究支援活動全体の活性化 を目的とする。その設立は AUTM より古く 50 年の歴史があ り、設立の 1959 年当時わずか 45 人の仲間で始めた年次大会 は、昨年 49 回を数え参加者は 2,100 人に達している。 は、Pre-もPost-も資金管理業務に力点がおかれ、予 算計画、管理が最も重要な業務となっている。尚、 15 詳細には、http://www.cra-cert.org/bodyofknowledge.html 特別寄稿論文 公的研究開発資金を有効活用するための重要な枠組 多くの研究大学で設置され始めた Strategic Plan の みとして、Federal Demonstration Partnershipと 専門部門では、一言でいうと複雑な案件、例えばN いう活動がある。これは、公的競争的研究資金を配 SFセンターの申請、複数企業が関与し長期間にわ 分する政府側機関と、その資金を使って研究する研 たるようなコンソーシアム等大型の案件を担う。N 究機関側の対話の場で、1986 年から始まり現在も続 CURA年次大会でもそれに関連したセッションが いている。ここでは、全米 10 のFAと 98 大学・公 いくつか設けられており、大型研究大学の 的研究機関の関係者により、研究活動実態に即した Pre-Award 機能は、産業界との関係の中で現在も変 予算管理とルールのさらなる改善を目指した議論が 化し続けているようだ。 行われ、日本でもその活動が紹介されている 16 。一 方、民間資金は相対的に成果管理が重要であり、 副学長(研究担当) Vice President (VP)(for Research) Post-の業務はもっぱらスケジュール管理とレポー 最後はVPの命令 ト作成である。 (研究規模の目安: $350,000/2.5 years, Equipments; $50,000) ○ Pre-Award ○ Post-Award コンプライアンス 担当副学長補佐 Asst. VP for Compliance 発明開示、特許、 MTA、 知的財産契約 大型長期の国 プロジェクト等の 特別な案件 輸出規制、 利益相反、 有体物取扱い等 例えば契約条件の中での知財とそ れ以外の条件の優先度で。 RA;リサーチ・アドミニストレーター (研究規模の目安: Industry; $55,000/year/company) Pre-Award ◎ Post-Award (Check Technical delivery) *幾つかの大学のAssistant Vice President for Research など、NCURA幹部とのディスカッションを元に筆者作成 III) Cooperative Agreement = U.S. Gov./Univ. ○ Pre-Award ○ Post-Award 図3 米国の研究大学における研究関連組織の例 FY1 Pre-Award 戦略 担当副学長補佐 Asst. VP for Strategic Plans 場合によっては交渉 II) Industry(= Contracts) Application 知的財産 担当副学長補佐 Asst. VP for Intellectual Property 支援プログラム (政府、産業界、 財団、州)、寄 付金 I) U.S. Gov (= Grants or Assistance) Planning 研究 担当副学長補佐 Asst. VP for Research FY2 Determination Start FY3 Finish Post-Award 3-2.RAの一般像 Mr.Richardson ※等NCURA幹部とのディスカッションを元に筆者作成 ※(Moderator & Speaker, Assistant Vice President for Research, Penn. State Univ.) 図2 Pre-と Post-業務の相対的な重要性(財源別) RAの役割が大学という研究機関の中でどのよう NCURAの南西地区会員 277 人を対象にした人 口統計的な調査 17 によれば、一般的なRA像は以下 のとおりである。年齢層は 40~49 才、女性、多く に位置づけられているかを理解するため、図3に一 は経済、会計関係の学士、博士号取得は全体の 12%。 般的な大学の研究関係の組織体制を例示する。RA 6~10 年の実務経験、平均年収 40,000~50,0000 ド は、主に図中左側の部門に属し競争的研究資金の申 ル 18 。RAという職種の最高ランクとして、大学ト 請・管理を行うが、組織構成により他の資金、また ッ プ の 側 近 と し て 使 え る Vice president of 業務も併せて扱う場合もある。また、特に民間企業 Research までを範囲とし、この調査にも数人が含 との契約交渉時に、知財条項と、情報管理等のそれ まれている。現在の日本の大学事情からすると、産 以外の条項の優先度で時として部門間の意志が相反 学連携もしくは研究担当の理事や副学長クラスまで することもあるので、いずれの部門も研究担当理事 を含む母集団と想定される。 のもとに設置され、最終的にはその統括長たる理事 RAの異なる母集団を対象とした、この業種に就 の決定でバランスをとる、という体制である。最近 17 16 詳細は JST 主催 H19 年プログラムオフィサーセミナー(第 1 回、第 2 回)http://www.jst.go.jp/po_seminar/index.html 18 Thomas J. Roberts& Jess House, “Profile of a Research Administrator” Research Management Review, Vol.15 No.1 Winter/Spring 2006,P41-49 質問項目の分類で、最高数値のカテゴリは、「年収 80、000 ド ル以上」であり、そこには 18%が属す。 特別寄稿論文 • Professional recognition • Personal Satisfaction • An indicator of expertise • Increased opportunities for employment • Advancement opportunities • 政府系組織でグラントに関わる仕事をしていた • Increased credibility with clients (がRAに特化した業務ではなかった(15%) • Serve as a role model to others いたきっかけに関するアンケート調査 19 では、 • 同じ組織の他部署での勤務から、RAポジショ ンに移動した(36%) • RAになる前職は、RAに関連した業務や経験 をもっていたわけではない(33%) • 非営利組織でグラントに関わる仕事をしていた (10%) となっている。 RAの最初の入り口は、大学という組織で働くう とある。これらは何れの職業にも当てはまるもの であろうが、前述のとおり、機能・活動評価の難し いこの業務においては、このような形での可視化の 重要性は大きい。 日本においても、知的財産人材に必要なスキルの ちにこの仕事に就くことになった、という層がある 程度の割合を占めることが判る。 標準化・明確化のメリットについて、知識、技能の 範囲とレベルの標準化策定に関する委託調査報告書 3-3.RAのキャリアパスと Certification 21 では、次のような指摘がある。まずメリットとし RAは大学等の職種名で資格ではなく、最も初期 て、 「企業など人材を必要とする側にとっては必要な レベルの求人には最初から特別な技能を要求されず、 人材確保・育成を行う際の目安とすること」、「各個 その経験は問われないことが多い。TLOのライセ 人にとってはキャリア形成の目標を設定すること」 ン シングアソシエイトが、産業界での Business を挙げている。また、知財教育の場においては、 「提 Development やライセンシング担当、特許事務所勤 供する教育・研修サービスがどのスキルをどのレベ 務と、キャリアパスが多様であるのに比し、RAは ルに引き上げるものかを事前に明示できる」と指摘 大学等の間を移動する、いわゆる“業界内”の転職 する。 が普通である。その際に有効なのがCRA 主に産業界の知財人材を念頭においているこの報 (Certificate Research Administrator)で、これは 告書では、企業側は「経営にあたって“人材”とい 一定年数の経験により受験が可能となり、試験に合 う企業内の知的資産を可視化して把握することがで 格すると付与される資格で、資格維持には更新プロ きるため、業務効率の最適化や適正な人材コストの グラムの受講が必須となる。例えば、求人資格に「5 把握によって経営を健全化する効果」が見込める。 年以上の Pre-Award の経験、CRA取得者は優遇」 従業者側は「自己の適正な評価を知ることで企業か などと記載される。 らの評価と自己の認識のかい離を認識でき、スキル CRAの認定 20 は、RAの全国的団体であるNC アップの具体的な目標を得る」ことも期待できる効 URAとは独立の法人により運営されており、1993 果の一つとしており、これは大学にも同様の指摘が 年設立以降現在まで認定試験と資格付与を行ってい あてはまるだろう。 NCURA参加者の言葉を借りれば、 「RAの仕事 る。“Certification”の意義は、 は、スポンサー、ファカルティー双方の利益最大化 19 20 Howard, Charles F. “Shouldn't research administrators know something about research?” SRA Journal(Publication Date: 22-JUN-98) 詳細は http://www.cra-cert.org/index.html# 21 知的財産人材に必要なスキル(知識,技能の範囲とレベル)の 標準化策定に関する委託調査の最終報告書 経済産業省知的 財産政策室 特別寄稿論文 を目指した着実な研究活動実行のための触媒のよう どう位置づけていくかが問われている現在、基盤的 なもの」である。RAという機能を議論する中で、 に必要な業務、その優先順位を確認する作業は有効 「いい研究をすることが研究者の幸せであり、ファ だと考える。少なくとも、 • ンディングエージェンシーへの最大の貢献であり、 大学の運営方針の基に設定された産学連携関 連機能の目標 大学のためでもある」というコメントは力強く、そ • れに寄与しているRAとしてのプロフェッショナル それにもとづくアウトプットとアウトカムの 設定 な意識を強く感じた。実務者個人の意識を支える基 • 盤的仕組みという意味でも Certification の意義は あると思われる。 関係者への共有 があって初めて、その組織が機能し、その評価が可 能になる。 4.求められる機能と人材 ~今後にむけて~ 「TLOのみの 業務」として実 施の大学数 受入れ窓口 以上、前半では、大学等における産学連携促進活 動を評価すめるために、考慮すべき前提、必要な視 知的財 産の創 出等 点を述べた。後半では、本協議会会員の活動範囲で 1 共同研究等のマネジメント 2 発明の発掘(研究室訪問等) 2 発明の発 掘・審査 はあるが、これまであまり触れられなかった共同研 特許出願 究のリエゾン活動を含む、外部資金マネジメント業 発明届出の受付 1 4 職務発明・大学承継 1 技術移転 知的財 産の活 用等 点から以下にまとめる。 5 採択 2 実施 Post-Award (採択後の実施) 終了 ○→◎ ○ ◎ 報告 1 登録・維持 2 ライセンス活動 6 ライセンス契約交渉 7 実施補償業務 技術相談等支援 利益相反マ ネジメント 4-1.機能 ○ 中間処理 大学発ベン 起業相談・支援 チャー起業 技術相談 民間との 共同研究 応募 3 審査請求手続き 連携をさらに促進するために、機能と人材という観 Pre-Award 企画 (採択までの企画 申請書作成 etc.) 市場性調査 特許出願に係る決定 公的競争 研究資金 情報収集 先行技術調査 明細書の作成 特許等の 管理 Research Administrator (NCURA) 1 発明ヒアリング 特許出願契約 知的財 産の管 理等 務についてアメリカの状況を概説した。今後、産学 2 共同研究・ 共同研究のためのリエゾン 受託研究 の実施 共同研究等契約に係る交渉 1 4・3 5 Licensing Associate (AUTM) • 特許管理業務 • マーケティング&ライセンシング • Business Developmentの経験 図4 日本とアメリカにおける産学連駅促進業務の分担の相関 図4は、本稿で規定する一連の産学連携促進活動 の範囲(左側)と、アメリカのRA、ライセンシング 4-2.人材 アソシエイトの業務範囲を整理したものである。既 本稿で対象となる人材を、知的財産関係人材の育 に明らかなようにRAの業務範囲は、現在産学連携 成施策の中でどのように位置づけられているかを図 促進活動に従事している本稿の読者層以外にも、日 5 に示す。図中右側の知財の専門性、関わりを重視 本の各大学で外部資金や研究協力という組織に属す した分類において、第1層「知財専門人材」に関す る実務家が担っている範囲も包含している。大学を る妹尾氏の議論 22 では、融合化、広域化、分化・専 取り巻く環境が激変している中、資金の性格(公的 門職化、流動化という動きがあるという。本稿が対 資金か民間資金)、プログラムの性格(1 企業との連 象とする人材は、同分類の第 2 層「知財関連人材」 携か、コンソーシアム型か、政策提案型か) 、規模(期 に含まれるが、必要性は理解されているものの、 「こ 間、費用、参加人数等)、研究の目的とステージ等に れらの育成は、まだまだ緒に就いたばかり」 23 とな よって、提供されるべき業務とそれを担う人材の能 っている。大学をとりまく外部環境の変化も併せて 力も異なることは、現場に携わっていれば体感して いることだろう。さらに産業界のニーズもより多様、 22 明確になり、大学自身が組織全体の中でこの機能を 23 妹尾堅一郎 「知財人財イノベーションへの 4 つの流れ-知財 専門人材の融合化,広域化,分化・専門職化,流動化」 日本 知財学会誌 第 4 巻第 3 号 Vol.4 No.3 2008 同 23 特別寄稿論文 考えれば、この第 2 層の人材にも、第 1 層で氏が指 ム全体の中で、大学において知的資源の創出を支 摘する動きが起こってくるであろうし、その一つの 援・促進する機能、それを担う人材については、ま 兆しがアメリカのPre-Awardを担当するRAの業務 だまだこれから議論を重ねて、組織の方針や外部と にも現れてきているのではないかと考える。 の関係で今後も変化し続けていく領域であろう。本 イノベーション創出人材(財)の2分類 知的創造サイクルを 基にして 知財の専門性、関わ りを重視して 1. 知財専門人材(第1層) 1. 創出人財 2. 保護・権利化人財 2. 知財関連人材(第2層) 3. 活用人財 4. 知的創造サイクル・ せ、新たな参加者が加わることで常に変化しつづけ る魅力ある場となることを望んでいる。本稿がその ためのいくつかの視点を提供することができれば幸 いである。 3. 知財裾野人材(国民全般) ●謝辞 マネジメント人財 5. サイクル支援人財 協議会の会員諸氏の毎日の活動がその機能を進歩さ 本稿で示す産学連携推進機能 を担う人材が含まれる範囲 本稿のうち、アメリカの大学におけるリサーチアド ミニストレータに関する調査は、科学技術振興調整 妹尾堅一郎 「知財人財イノベーションへの4つの流れ-知財専門人材の融合化,広域化,分化・専門職化,流動 化」 日本知財学会誌 第4巻第3号 Vol.4 No.3 2008 等を基に筆者作成 図5 知的財産関係人材の育成施策における位置 コーディネート役の機能評価の難しさは、今に始 まったことではない。上述の活動の各組織における 費 先端融合領域イノベーション創出拠点の形成 「マイクロシステム融合研究開発拠点」事業におけ る調査研究活動の一貫で行われたものである。機会 を頂いたことをこの場をかりて感謝する。 目標のもと、産学連携促進、それを担う人材に求め る能力を明らかにすることが、全体としての機能を 高めることにつながると考える。その機能分類につ 【参考文献】 • Norman Kaplan “The Role of the Research いての報告が未だあまりない現在は、おそらく現場 Administrator” の事例にもとづく実質的な議論が最も重要になる。 Quarterly, Vol4. No.1 1959 June pp20-42 • Administrative Science Research Management Review Vol,.15, No.1 Winter/Spring 2006 5.最後に iPS細胞の研究を率いる山中伸弥教授は、研究活 • 公的資金による研究開発プロジェクトのアウ 力を最大限活かすため、またその研究成果を競争力 トカム調 査手法に関する検討 として維持するため、知財を含めた研究アドミニス 研究・技術計画学会 第 21 年次学術大会 トレーションの重要性を指摘する 24 。今回本稿では 演予稿集 I P127-131 触れることができなかったが、今後の産学連携に必 要な視点である、地域連携、国際化、技術特性への 対応も、この議論の延長線上になされるものだろう。 ナショナルイノベーションシステムの枠組みの中 で、知的資源創出の源泉たる大学の位置づけは貴重 なものであることは議論をまたないが、一方で 1 プ レーヤーであるに過ぎない。イノベーションシステ 24 日本経済新聞 2008 年 3 月 21 日付(13 面)等 弓取修二他 講