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土と基礎,第 51 巻,第 5 号,pp.10-12,2003. 建設発生土および廃棄物の有効利用における環境経済評価モデル Environmental Economic Model for Recycling of Construction Surplus Soil and Waste Material 大 嶺 聖(おおみね きよし) 九州大学大学院工学研究院 松 雪 清 人(まつゆき 環境工学リサーチ(株) きよと) 合計によって表される. 1. は じ め に 建設材料コスト=バージン材のコスト+再資源化材の コスト+廃棄物の処分コスト+輸送コスト 建設発生土や廃棄物などをリサイクルする際の環境負 荷を検討する場合,実際の建設にかかる費用と環境負荷 すなわち,コストの上昇率,輸送費およびバージン材の に関する費用を合わせた総合的コストによる評価の考え 削減率などを考慮するとn年後に推定される建設材料コ 方を導入する必要がある.これらを外部コストや内部コ ストCMは次式によって算定される. ストと呼ぶこともあるが,ここでは,前者を直接コスト, 後者を環境コストと呼ぶこととする. C M = CV + C R + CW + CT ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (1) ここで, 一方,リサイクルの経済評価については,材料単価の CV = WV SV ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (2) 変動などを考慮したリサイクル材の経済性の比較1) や環 境コストの検討2), 3) C R = W R S R ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (3) などが行われている.本報では,こ CW = WW SW ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (4) れらの研究をもとに,建設材料コストに関するリサイク CT = WV LV TV + WR L R TR + WW LW TW ・・・・・・・・・・・ (5) ル経済評価モデルを提示する.また, リサイクルは本当 に高くつくのか または がなぜ必要なのか WM = WV + W R ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (6) 建設事業においてリサイクル W P = W R + WW ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (7) という課題を明確にするために,建 WV = WV 0 (1 − β V ) n ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (8) 設材料コストについての将来予測を行う.さらに,環境 SV = (1 + γ V ) n SV 0 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (9) コストの導入により,リサイクルを行う場合と行わない S R = (1 + γ R ) n S R 0 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (10) 場合のコスト比較を行い,地盤工学的な立場から資源循 SW = (1 + γ W ) n SW 0 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (11) 環社会の重要性を明らかにする. また,CV,CR,CW:バージン材,再資源化材および廃棄 2. 直接コストの将来予測 処分コスト(円),CT:輸送コスト,WV,WR,WW:バー 土構造物の建設を例に,建設発生土および廃棄物の有 ジン材,再資源化材および廃棄物の量(t),SV,SR,SW: 効利用のフローを図−1 に示す.リサイクルが推進され バージン材,再資源化材および廃棄物処分の単価(円/t), るとバージン材の採取量や埋立て処分量が徐々に削減さ LV,LR,LW:バージン材,再資源化材および廃棄物の輸 れ,リサイクルなしの状態からリサイクルありの状態に 送距離(km),TV,TR,TW:バージン材,再資源化材お 近づくと考えられる.このときの建設材料コストを算定 よび廃棄物の輸送費の単価(円/(km·t)),WM:建設材料 するために,以下の前提条件を設定する. の土量(t),WP:建設発生土の土量(t), βV :バージン ・同じ規模の土構造物の建設が毎年継続的に行われてい 材購入量の年間削減率(%/年), γV,γR,γW:バージン るものとする. ・土構造物の材料は,バージン材および現地発生 材,再資源化材および廃棄処分コストの年平均上昇率, 下付添字 0:初年度である. 土の再資源化材が用いられる. <リサイクルなし> ・バージン材・再資源化材の単価,廃棄物処分費, およびそれらの年平均上昇率が与えられる. バージン材 土構造物 現地発生土 埋立処分 ・土構造物として使用される材料の総量および現 <リサイクルあり> 地発生土が生じる割合は一定とする. ・バージン材の購入量の年間削減率が与えられ, バージン材 土構造物 現地発生土 埋立処分 その削減分が現地発生土の再資源化材で補わ れるものとする. 再資源化 (中間処理) ・有効利用されなかった現地発生土は廃棄処分さ れる. 上述の条件より,建設材料コストは次のコストの 副産物 汚泥・石炭灰・鉱さいなど 図−1 建設発生土および廃棄物の有効利用 実際にどのような値が得られるのか,できるだけ簡単 4000 [計算例1] :バージン材と再資源化材の単価および廃 棄物の処分費は変動せず,輸送コストも考慮しない. リサイクルを促進する場合のバージン材購入量の年間 削減率は1%とする(用いたパラメータ: γ V = γ R = γ W =0,WP / WM =0.2,WV 0 / WM =1,βV=1%, SV 0 =2,000 円/t, S R 0 =12,000 円/t, SW 0 =5,000 円/t, TV = TR = TW =0) . 建設材料コスト (円/t) な条件での比較として,次の二つの例で計算を行う. 図−2 は式(1)で得られる建設材料コストをその土量で除 した材料単価の変化を示したものである.この例では, 3600 3400 3200 3000 2800 WP / WM =0.2,βV=1%としているので,土構造物の2割 の建設発生土が生じ,その建設発生土を約 20 年ですべて 再資源化材として有効利用する条件となっている.また, 図−2 リサイクルなし(βv=0%) リサイクルあり(βv=1%) 3800 0 5 10 n(年) 15 20 計算例1の結果(バージン材と再資源化材の単価およ び廃棄物の処分費は一定で,輸送費も考慮しない) リサイクルなしの条件からスタートしているため,初年 度はいずれの場合もコストは同じである.計算結果で示 7500 ン材に比べて再資源化材の単価が高いため,リサイクル を行うとコストは年々増加する.つまり,安いバージン 材を使ったほうが有利になるが,天然資源には限りがあ り,将来的に処分場の建設が難しくなれば処分コストが 増加することが考えられる.したがって,この予測は現 実的ではないと思われる. [計算例2]:次に,バージン材と再資源化材の単価 建設材料コスト (円/t) されるように,材料費が常に一定と考えた場合,バージ リサイクルなし(βv=0%) リサイクルあり(βv=1%) 7000 6500 6000 および廃棄物の処分費の年平均上昇率と輸送コストを 考慮して,より実際に近い場合を考える.リサイクル 5500 を促進する場合のバージン材購入量の年間削減率βVは 計算例1と同様に 1%とする.(用いたパラメータ: γ V =1%, γ T =1%, γ W =4%, LV =40km, LR =0km, 図−3 0 5 10 n(年) 15 20 計算例2の結果(バージン材と再資源化材の単価およ び廃棄物の処分費は毎年上昇し,輸送費も考慮する) LW =20km, TV = TW = 60 円/(km·t),その他は計算例1 と同じ) 図−3 で示されるように,初めはリサイクルありの場合, スト比較においては,材料の生産に直接関係するコスト ややコストはかかるが,10 年くらいは大きな差が見られ る.しかしながら,これまで廃棄してきたものを有効利 ない.20 年くらいのスパンでみるとリサイクルの有無で 用する目的は,「持続可能性のある社会の創造」,即ち自 コストは大きく違ってくる.特に,リサイクルなしの場 然環境からの大量収奪,それに伴う大量廃棄社会からの 合はコストが常に増加するのに対して,リサイクルあり 脱却を目指すことであり,その意味では環境に与える負 の場合はコストの増加が抑えられることは特徴的である. 荷や,これまで自然から享受してきた便益の低下も一つ このように,直接コストだけをみてもリサイクルを促進 のコストと考えるのが妥当である. (内部コスト)のみで議論されていることがほとんどであ しないと材料コストが上昇することが予想されるため, 表−1に既往の研究2)∼4)で考慮されている代表的な環 将来的にも廃棄物の有効活用を進める必要のあることが 境コストを示す.建設材料に対するこれらの環境コスト 示唆される. を算定するための考え方を以下に述べる.なお,これら 用いたパラメータについては想定される値を仮定した の環境コストは土取場のようなバージン材採取場,建設 が,この予測結果の信頼性については十分に判断できな 現場,再資源化場,土砂処分場等の建設・稼働・廃棄等 い.しかしながら,この経済評価モデルを用いると様々 のライフサイクルを考慮した環境コストについて算出す な条件で材料コストを試算することができ,建設発生土 ることが基本となるが,今回は再資源化材の使用の有無 や廃棄物の有効利用の重要性を理解する上では有効であ によるコスト比較を行うことを主目的としているため, る. 使用材料が異なるだけで,施工法や施工機械は同じと仮 3. 環境コストの導入 定して検討を行っている. 有効利用に関する環境コストを比較するには,表−1 建設発生土や廃棄物を有効利用する場合に,利用技術 や法的規制などに関する問題のほかに,そのコスト(材 料単価)が支障になっていることが多い.ここでいうコ に示す項目に関し,有効利用する場合と,しない場合と でそれぞれコストを計算する必要がある.ただし, によって差異が ある場合の相対 的な環境コスト のみ考慮するも のとする.その 場合,建設材料 に関する環境コ ストEMの計算式 としては,各項 目の原単位等か ら求められる環 境コストの和と して下式が導か れる. 表−1 代表的な環境コスト 9000 7000 E(c1) ●森林等の伐採に伴う公益的機能の喪失 E(c2) ●生態系への影響 E(c3) ●居住環境(景観・アメニティ等)の悪化 ●地価下落 ●振動・騒音・粉塵等による環境コスト 6000 5000 4000 3000 2000 1000 E(i) ●改良用材料の製造に伴う環境コスト E(o) ●構造物材料等の製造に伴う環境コスト ●重機・運搬車両等の製造に伴う環境コスト ●機械設備等の製造に伴う環境コスト ●重機・設備等の運搬に伴う環境コスト ●電力・燃料・用水使用に伴う環境コスト ●廃棄物処分に伴う環境コスト 環境コスト 直接コスト 8000 環境コスト(外部コスト) コスト (円/t) 有効利用の有無 0 0 10 20 (n年後) 0 リサイクルなし 図−4 10 20 (n年後) リサイクルあり リサイクルの有無による建設材料の総合コストの比較 で,リサイクルの有無による環境負荷の相対的な増減を EM = EV + ER + EW + ET ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (12) ここで, 定量的な値として評価することができる.今後,環境コ ストの算出方法における原単位の求め方や考慮する範囲 をさらに明確にする必要があるが,このような環境経済 EV = EV(C1) + EV(C2) + EV(C3) + EV(O) ・・・・・・・・・・・・・・・・・ (13) ER = ER(C1) + ER(C2) + ER(C3) + ER(i) + ER(O) ・・・・・・・・・・・ (14) 評価モデルは,環境負荷を定量的に評価するためのひと つの方法になり得ると考える. EW = EW(C1) + EW(C2)+ EW(C3) + EW(O) ・・・・・・・・・・・・・・・・ (15) ET = etCc(WVLV+ WRLR+ WWLW) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (16) 4. まとめ また, EV:バージン材採取場における環境コスト,ER: 今後,廃棄物処分場の確保がますます難しくなること 再資源化場における環境コスト,EW:廃棄物処分場にお が考えられる.また,天然資源の使用にも限りがあるた ける環境コスト,ET:運搬に伴う環境コスト(環境負荷), め,廃棄物の処分費やバージン材のコストが増加すると, et(t-C/(km·t)) :運搬に伴うCO2排出原単位,Cc(円/t-C): 建設材料コストは将来的に増加することが予測されるた 5) 排出される炭素 1t当たりのエココスト である.なお, め,地盤工学の分野においてもリサイクルの促進は重要 下付添字は,C1:森林の公益的機能に関する環境コスト な課題である.また,環境コストを含めた総合的コスト (便益低下),C2:生態系に関する環境コスト(便益低下), の比較から判断すると,リサイクルの有無によるコスト C3:居住環境悪化に伴う環境コスト(便益低下),i:改良 の違いは大きくなるため,長期的な視点で資源循環社会 用原材料使用に伴う環境コスト(環境負荷), O:施設製 を構築することが必要である. 造や稼働に伴う環境コスト(環境負荷),を意味している. 直接コストを求めた計算例2の条件の下で,式(12)か ら得られる環境コストの試算を行った.直接コストと環 参 1) 環境コストの計算における間接的利用価値(表−1 のEC1 ∼EC3)の原単位は,他の類似事例で導かれた評価額(便益 移転法)2),3)を,その他はCO2負荷に換算して計算を行った 4),6) .また,エココストについては,欧州で導入されて いる炭素税を参考にCc =11,000 円/t-Cの値を用いた.こ れらの詳細に関しては文献 7)を参照されたい. 図−4 に示すように,直接コストと環境コストを比較 した場合,直接コストが総合的コストのうちの約 85∼ 95%を占めている。また,リサイクルなしの場合の環境 コストは材料単価で 800 円/t 程度で一定であるが,リサ イクルありの場合には,環境コストが年々減少すること がわかる.さらに,今後の処分場不足に伴う処分コスト の上昇を考えれば,「リサイクルは高い」ではなく「リサイ クルは安い」ということになるであろう. このように,経済評価モデルの考え方を導入すること 文 献 計算,オーム社,1999. 境コストの和である総合的コストをリサイクルありの場 合となしの場合で比較した結果を図−4 に示す。なお, 考 元田欽也・大山長七郎:廃棄物処理・リサイクルの実務 2) 外部コストを組み入れた建設事業コストの提言技術に関 する検討委員会:総合的な建設事業の評価指針 ( 試案 ), 1992. 3) 光家康夫・山本 聡・次郎丸敬太・井手統一:再生利用の経 済評価に関する一考察,第13回建設マネジメント問題に関 する研究発表・講演会講演集,pp.55-60,1995. 4) 土木学会地球環境委員会環境負荷(LCA)研究小委員会編 :土木建設業における環境負荷(LCA)研究小委員会講演要 旨集,1997. 5) コンクリートライブラリー 資源有効利用の現状と課題, 土木学会,1999. 6) 池田秀文・吉村文雄・佐藤 隆・芋野智成:LCA手法を用 いた港湾構造物の最適化設計,第29回環境システム研究論 文発表会講演集,pp.43-49,2001. 7) 地盤工学会九州支部:建設発生土と廃棄物の有効利用に 関する研究委員会報告書,2003. (原稿受理 2003.1.**)