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防衛省・自衛隊の第一線救護における適確な救命に関する検討会

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防衛省・自衛隊の第一線救護における適確な救命に関する検討会
資料4
(案)
防衛省・自衛隊の第一線救護における適確な救命に関する検討会
-報告書要約版-
1
第一線救護における適確な救命に関する検討の背景・経緯
○事態対処時に自衛隊員の生命を最大限に守ることが重要。ゼロカジュアリ
ティを目指した衛生支援が求められている。
○防衛大綱及び中期防にて「事態対処時における救急救命措置に係る制度改
正を含めた検討を行い、第一線の救護能力の向上や統合機能の充実の観点を
踏まえた迅速な後送態勢の整備を図る」とされている。
○平成25年12月 衛生機能の強化に関する検討委員会を設置
○平成27年2月 防衛省・自衛隊の第一線救護における適確な救命に関す
る検討会を設置
○合計4回開催した検討会における議論と陸上自衛隊衛生学校視察を踏まえ、
本報告書を作成
2 用語の定義
○ゼロカジュアリティ:戦傷死者(医療施設に収容されたものの、救命でき
なかった戦傷者)を一人も出さないこと。「ゼロカジュアリティを目指す」
とは、生存し得る可能性のある戦傷者を適確に救命していくということ。
○有事:我が国が外部から武力攻撃を受けた事態
○第一線:有事の際、自衛隊が敵の砲火下にある場面又は直接の砲火は脱し
たものの依然として脅威下にある場面であり、基本的に民間人は待避し、警
察・消防は介入できない地域を想定
○衛生科隊員:第一線救護において救命のために活動する自衛隊員で、救急
救命士かつ准看護師の免許を有する者
○有事緊急救命処置(仮称):有事の際、戦闘で負傷した自衛隊員に対して、
受傷直後から医官が配置されている医療施設へ後送されるまでの間に必要
となる救命のための処置
○第一線救護衛生員(仮称):衛生科隊員のうち、有事緊急救命処置に関する
教育を修了し、有事緊急救命処置を実施できると認定を受けた者
○防衛省コンバット・メディカルコントロール(以下、
「CMC」)体制(仮称):
第一線救護衛生員が有事緊急救命処置を実施する上で医療行為の質を保証
するための体制で、有事に特化したメディカルコントロール(以下、「MC」)
体制
3 検討の必要性
○自衛隊では、有事の際に第一線救護から最終の病院治療までの一貫した治療
後送体系を整備
○米軍等における第一線救護に関する分析及び取り組み
・Operation Enduring Freedom 及び Operation Iraqi Freedom(以下、
「OEF・
1
OIF」)では第二次世界大戦と比較して救命率が向上。この背景には、防護
装備の発達、患者後送手段の改善、ダメージコントロール手術の発展に加
え、標準化された戦傷救護方法である Tactical Combat Casualty Care(以
下、「T3C」)ガイドラインが大きく貢献。
・救命のためには、受傷後早期に第一線の現場で、出血コントロール、気
道確保、呼吸管理等の適確な処置を実施することが重要であり、T3C ガイ
ドラインではこれらの処置を特に重視
・米軍は、2010 年に T3C ガイドラインを全軍に導入しており、イギリス軍
やカナダ軍等の諸外国軍でも T3C ガイドラインを導入している。
○T3C ガイドラインにおいて救命のために重視されている輪状甲状靱帯切
開・穿刺や胸腔穿刺等の処置を第一線の現場で衛生科隊員が行うことは制度
上許容されておらず、教育訓練も行っていない。
○救命率向上のために第一線救護として実施すべきことを、現行制度の枠組
みにとらわれず、米軍等における取り組みを参考に、多角的な視点から対処
すべき点についての検討が必要である。
4 検討の前提と主な検討項目
○検討の前提として、場面は有事の第一線の現場とし、対象者は戦闘により負
傷した自衛隊員とする。
○主な検討項目としては、第一線救護において必要な処置、処置を行う者、
処置を行うための体制及び教育とする。
5 検討の結果
(1)第一線救護において必要な処置
○第一線救護において必要な処置の検討にあたっては、科学的根拠と実戦で
の教訓に基づいて策定された T3C ガイドラインに則ることが適当
○検討対象とした各処置の概要
①気道閉塞に対する輪状甲状靱帯切開・穿刺
顎先挙上、経鼻エアウェイ留置、体位管理の処置を行っても気道確保が
できない場合には、輪状甲状靭帯切開・穿刺を行う。後送段階においては、
声門上エアウェイ留置又は気管挿管も適用となる。
②緊張性気胸に対する胸腔穿刺
穿通性胸部外傷、体幹の外傷、肩・腹部を撃たれた場合で、進行する呼
吸困難がある場合には、緊張性気胸を考慮し、胸腔穿刺を行う。
③出血性ショックに対する骨髄輸液路の確保と輸液蘇生
・骨髄輸液路の確保:静脈路が確保できなければ骨髄路を確保する。
・輸液蘇生:血液製剤を推奨。血液製剤が利用できなければ、ヒドロキ
シエチルデンプン製剤、乳酸リンゲル液等などを輸液する。血液製剤
の導入にあたっては、所要の体制の整備が必要
④痛みを緩和するための鎮痛剤投与
・軽度から中等度の疼痛の場合には、経口の鎮痛薬
・中等度から重度の疼痛で、ショックや呼吸困難を呈していない場合に
2
は、口腔粘膜吸収フェンタニル。静脈路が確保できていれば、病態に
応じてモルヒネ静注
・ショックや呼吸困難、状態が悪化している場合にはケタミン
・麻薬製剤の導入にあたっては、制度や管理要領等の措置が必要
⑤感染症予防のための抗生剤投与
戦闘による全ての開放創には、抗生剤投与を推奨。穿通性眼外傷にも抗
生剤を投与する。
⑥呼吸状態の改善のための胸腔ドレナージ(チェストチューブ挿入)
後送段階において、呼吸状態の改善が認められない場合又は後送に長時
間を要すると予想される場合に胸腔ドレナージを考慮する。
⑦出血に対する止血処置(止血帯、圧迫止血は一般的な救急救命処置)
四肢からの大量出血に対しては、止血帯を用いた止血を行う。止血帯が
適用とならない四肢以外からの出血に対しては、避難後、圧迫止血を行う
か、結合部止血帯を用いる。
○有事の際、負傷した自衛隊員を適確に救命するためには、外傷に対する一般
的な救急救命処置に加え、上記①~⑤の処置についても確実に行えるように
する必要がある。なお、これらの処置は、所要の教育を修了し、防衛省とし
て認定した者により、有事に特化した MC 体制のもとに許容される。
○⑥胸腔ドレナージについて、教育は必要であるが実施は反復する胸腔穿刺
で対処できない場合に検討する処置と考える。
(2)第一線救護において必要な処置を行う者
○米軍のコンバットメディックは、27 週間の教育により T3C ガイドラインに
示す処置の実施が可能。自衛隊の救急救命士かつ准看護師である衛生科隊員
は、3 年間の教育により医療に関する相当の知識と技術を有していることか
ら、一定の教育を追加で行うことで、コンバットメディック相当の処置を実
施することは妥当
(3)第一線救護において必要な処置を行うための体制
○平時の病院前救護とは異なり、有事では医療のみならず作戦とも連携し、
また、時には医療よりも自己及び戦傷者の安全確保を優先しなければならな
い場合があり得ること、医療施設への後送が迅速に行えるとは限らない状況
にあること等に鑑み、有事に特化した防衛省 CMC 体制の整備が必要
○防衛省 CMC 協議会には、防衛省の医療・教育部門、作戦部門及び部外有識
者を加え、作戦にも留意しつつ医学専門性と透明性を確保
○防衛省 CMC 協議会は、プロトコール及び教育カリキュラムの承認、資格認
定、他省庁・関係機関等との連絡調整並びに事後検証の業務を実施
○第一線救護衛生員は、有事緊急救命処置の実施にあたり、必要に応じて医
官から指示、指導・助言を得るよう努力することは重要であるが、第一線の
現場で、常時通信を確保することは困難であり、包括的指示による対処が救
命のための現実的な対応。医療行為の質を保証するためには、特別なプロト
コール、十分な教育及び事後検証が一層重要
3
○第3回検討会で検討されたプロトコール案は現時点では妥当と判断するが、
今後、定期的かつ継続的に見直し、防衛省 CMC 協議会において承認が必要
○平時の MC 体制における事後検証とは異なり、医療の面のみならず、作戦の
面の双方から見ての事後検証が必要であり、記録方法を含めて防衛省 CMC 体
制特有の検証方法の検討が必要
○一般的な医療分野への貢献も期待できることから、医療的な部分だけを抽出
して検証・研究及び公表していくことを推奨
○第一線救護衛生員は衛生科隊員から選抜され、教育カリキュラムを修了した
者を防衛省 CMC 協議会で認定し、以降も生涯教育を継続して認定更新を行う
ことが適当
(4)第一線救護において必要な処置を行うための教育
○自衛隊では准看護師及び救急救命士の養成・教育施設を有しており、有事
緊急救命処置のための教育基盤を整備
○教育カリキュラムは講義、実習に加え、シナリオ訓練を重視。最終的には
想定事態へのシミュレーション試験による評価を実施
○第3回検討会で検討された教育カリキュラム案は現時点では妥当と判断す
るが、今後、定期的かつ継続的に見直し、防衛省 CMC 協議会において承認が
必要
○病院実習は、衛生科隊員の医療者としての総合的な臨床能力の維持・向上
を図ることが目的。その際、外傷症例の経験や看護や診療の補助にも積極的
に参画するように研修計画を組むことを推奨。防衛省・自衛隊の部内病院の
みならず、部外の医療機関での実習についても、当該医療機関の協力を得て
積極的に行うべき。
6 第一線救護に関連する事項
(1)医療装備品
○諸外国や民生品の状況等を勘案し、適切に整備していくことが重要。その際、
新しい医療機器・器材の採用基準・指針の策定や輸入品が欠乏する可能性を
念頭に置いた国産品の使用も考慮することが望ましい。
(2)適確な救命のための全体的な救護能力の向上
○第一線救護としての処置を救命のみならず最終的な生命予後及び心身の機
能回復に結びつけるためには、全体的な救護能力向上のための各種施策が重
要。例えば、戦傷者の後送や医療装備品の整備、自衛隊病院の高機能化、医
療情報システムの整備についても併せて検討が必要
○医官等については、病院研修による臨床経験を積む他、ウェットラボにおい
て動物を用いた外科手術手技トレーニングが実施できれば能力向上に有用
○医療資格を有しない自衛隊員に対しても、救護法の教育訓練をより一層充実
させることが重要
(3)継続的な研究・検討
○第一線救護を含め全体的な救護能力向上のためには、最新の医学的知見の情
報収集や医学研究とともに、米軍等諸外国軍の調査を含めた幅広い研究を継
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続的に推進していくことが重要
○研究成果を踏まえ、防衛省・自衛隊としてどのような処置や装備品等を導入
すべきか、そのための教育はいかにあるべきかについて不断の検討が必要
7 結語
○有事の第一線救護として、自衛隊員が戦闘により負傷したとしても救命のた
めの適確な処置が施され、救命率の向上のみならず後遺症の軽減や機能回復
が図られるためには、以下のことが必要
✓外傷に対する一般的な救急救命処置に加えて5-(1)にて必要とされた
各処置を含む有事緊急救命処置の適確な実施
✓新たな教育カリキュラムによる第一線救護衛生員の養成
✓防衛省 CMC 体制の整備
○検討結果を具現化するため、防衛省・自衛隊は、制度上の措置や衛生に関す
る教育訓練施設・資器材等の整備、教育訓練の充実を図る等、有事緊急救命
処置の実現の為に必要な措置を講ずるよう努めるべき。
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