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宿根草と球根の
特性を生かして 宿根草と球根の 第8回 ヘレボルス (クリスマスローズの仲間) 月江 成人 ホルティカルチャリスト。㈱プランタス代表。地 域の景観と調和した、植物が主役の庭づくりを提 案。2年前に山間の小さな町に移住。古民家再生 と理想の庭をつくるべく日々奮闘中。兵庫県在住。 ヘレボルス・アルグチフォリウスと カレックスの混植。 原種有茎種 原種 ヘレボルス ・ アルグチフォリウス H.argutifolius 高さ:45∼80㎝ 広がり:40∼60㎝ 花期:3∼4月 地中海に浮かぶコルシカ島、サルディニア島 原産の大型種。葉は銀緑色でかたく、縁に鋭 い鋸歯がある。3月ごろから黄緑色の花を多 数咲かせる。ほかの種に比べてより明るい環 境を好み、直射日光に当てても問題ない。栽 (タイトル写真) 培には排水のよい場所を選ぶ。 茎を伸ばして葉を展開し、 その先に花を咲かせる有茎 種と、地際から花茎と葉を 別々に伸ばす無茎種の2つ の形態に分けることができ ます。繁殖や花後の管理も 少し異なりますので、どの タイプか知っておくとよい でしょう。 ヘレボルス ・ アトロルーベンス H. atrorubens ヘレボルス (クリスマスローズの仲間) Helleborus spp. キンポウゲ科クリスマスローズ属 可憐な一重咲きのものからバラを思わせる豪華な 八重咲きのもの、また、花や葉の色もバラエティ豊 かなクリスマスローズの仲間たち。これほど花色、 花形、葉、草姿が豊富で変化のある宿根草は、ほか にはあまり見当たらないのではないでしょうか。冬 の貴婦人とも呼ばれるクリスマスローズは、日本人 の心をつかみ、今、最も人気のある宿根草の つと いえます。 高さ:30∼45㎝ 広がり:45∼60㎝ 花期:3月下旬∼4月中旬 主にヨーロッパ、地中海沿岸地方に分布し、約20 スロベニア、クロアチア原産。外弁は赤紫色 で、内弁は緑を帯びるが、花色の変異が大き く一様ではない。排水のよい、明るい半日陰 で管理する。落葉性。 種が知られています。例外が、チベタヌス種で分布 の中心地から遠く離れた四川省を含む中国西部に隔 離分布します。もともとクリスマスローズの名は、 ヘレボルス・フェチダス H. foetidus 高さ:30∼60㎝ 広がり:30∼60㎝ 花期:3月中旬∼4月中旬 ヨーロッパに広く自生する。径2∼ 3㎝の小さ な緑色の花を多数咲かせる。細く切れ込んだ葉 との対比が美しい。夏の高温多湿は苦手で、水 はけのよい場所に植え付ける。 クリスマスのころに咲くニゲル種に与えられていた 英名でしたが、日本ではその馴染みやすい響きと相 まって、同属に含まれる種や品種すべてに使われる ようになっており、混乱が生じているところがあり ます。最近はこうした混乱を防ぐため、属名の「ヘ レボルス(ヘレボラス)」を使った表記が一般的に なってきています。日本では以前からオリエンタリ ヘレボルス ・ ニゲル H.niger 高さ:20∼30㎝ 広がり:20∼30㎝ 花期:12月下旬∼2月 ‘ジョセフ・ レンパー’ ‘Joseph ヨーロッパ中央部の山岳地帯に自生。 Lemper’ ちょうどクリスマスのころから咲き始 めるので、クリスマスローズの名がつ ドイツで作出されたニゲル種の園芸品種。 けられた。水はけのよい場所に植え付 原種は、通常、花が葉に隠れてしまうこと けておけば乾燥にも強く丈夫。咲き始 が多いが、この品種は葉より上に花茎が伸 めは白だが、次第に赤みを帯びてくる。 びて突き出るので、白い清楚な花をより楽 いくつもの園芸品種が選抜されている。 しむことができる。 ス種が主として栽培されていましたが、近年、ヨー ロッパから優れた系統が導入され、バリエーション が増えたことにより、人気に火がつきました。 ほかの多くの植物が休眠状態の季節に、大きな花 を咲かせて艶やかに庭を彩るクリスマスローズは、 寂しい冬の花壇になくてはならない存在です。 2010 . 2. はな と やさい 25 園芸品種 原種無茎種 ヘレボルス ‘シルバー・ダラー’ H. ‘Silver Dollar’ ヘレボルス ・ リグリクス H.liguricus 高さ:10∼30㎝ 広がり:30㎝ 花期:12月∼3月 高さ:20∼25㎝ 広がり:30㎝ 花期:1月中旬∼ 4 月上旬 ムルチフィダス種の変種として扱われていたが、 数年前に独立した種として発表された。北イタリ アのごく限られた地域に自生する珍しい種。白色 で大きな花には、さわやかな香りがある。 緑に薄紫色が入る上品な花色。常緑の 葉は美しい銀緑色で、縁には細かな鋸 歯がありヒイラギを思わせる。花期以 外でも周年楽しめる。 ヘレボルス ・ オドルス H.odorus 高さ:25∼50㎝ 広がり:30∼60㎝ 花期:3月下旬∼4月 イタリア∼アルバニアの開けた林 縁や草原に自生する。径5㎝の大 きな黄緑色の花には香りがある。 光を好み、できるだけ明るい場所 に植え付ける。 ヘレボルス・ニゲルコ ルス‘スノー・ラブ’ H.× nigercors ‘Snow Love’ ヘレボルス・ニゲルコ ルス ‘キャンディー・ラブ’ H.× nigercors ‘ Candy Love’ 高さ:30∼40㎝ 広がり:30㎝ 花期:12月下旬∼3月 高さ:30∼40㎝ 広がり:30㎝ 花期:12月下旬∼3月 ニゲル種とアルグチフォリウス 種の交配で選抜された園芸品種。 クリームがかった白い花を多数 咲かせ、次第に緑色に変化する。 銀灰色を帯びた光沢のある革質 の葉とのコントラストも美しい。 ベルギーで育成された園芸品種。 ニゲル種が片親になっており、 葉や草姿はそれに似る。咲き始 めはピンクを帯びたクリーム色 で、次第に色が濃くなる。 ヘレボルス ・ チベタヌス H.tibetanus ヘレボルス ・ オリエンタリス H.orientalis 高さ:20∼30㎝ 広がり:30∼40㎝ 花期:3月下旬∼4月中旬 高さ:30∼45㎝ 広がり:35∼45㎝ 花期:2∼3月 中国西部原産。数多くの植物を西欧に紹介したフラ ンス人宣教師A.ダビッド神父によって発見された後、 自生地がわからなかった幻の植物。最初の発見から 120年後の1989年、日本の植物学者荻巣樹徳氏によ って再発見され、世界的に話題になった。水はけの よい用土に植え付ける。夏に落葉して休眠する。 トルコ、コーカサス地方に自生。 最も普及している種で、この種 を中心に数多くの園芸品種が作 出されている。性質は強く、地 植えでも何年も育ち、容易に大 株に仕立てることができる。 ヘレボルスの植栽イメージ ガーデンでの使い方 コンパクトな草姿で、家と塀の間な 2 1 ど、狭くてあまり日が差し込まない場 3 所での栽培に重宝します。また、冬に は光が差し込み、夏には日陰になる落 4 葉樹の株元はへレボルス(クリスマス ローズの仲間)を育てるには理想の環 境です。ウメやマンサクの仲間など、 早春に開花する花木と組み合わせると 5 よいでしょう。初夏に美しい花を咲か せるアスチルベやギボウシも、同様の 環境を好みます。冬には地上部が枯れ てしまいますが、へレボルスと組み合 わせることにより、冬から夏にかけて 12 11 切れ間なく庭を彩ることができます。 10 9 冬の寒さで、若枝が真っ赤に色づく 8 6 7 サンゴミズキや同様に黄色く色づくコ ドロップやスイセン‘フェブラリー・ 〔 使用している植物 〕 ルヌス・ストロニフェラ‘フラヴィラ ゴールド ’ ‘テタ・テート’ など早咲き メア’ (流通名:黄金ミズキ)との組み の秋植え球根を組み合わせると一層華 合わせは、冬の庭をにぎやかにしてく やかになります。 れます。花色の濃い品種は濃い緑の葉 まだまだ寒く、庭に出るのをためら と合わせると沈んでしまうことがある う時期、へレボルスで、冬が待ち遠し 1 ユキヤナギ 2 サンゴミズキ 3 サンシュユ 4 ジンチョウゲ 5 ヘレボルス・白 6 ヒマラヤユキノシタ 7 スノードロップ ので、明るい葉色のヒューケラなどと くなるようなウインターガーデンをつ 組み合わせるとよいでしょう。スノー くってみませんか。 26 2010 . 2. はな と やさい 8 ヒューケラ黄緑種 ‘ライムリッキー’ 9 ヘレボルス ‘ルーセブラック’ 10 ヒューケラ紫葉品種 11 ヘレボルス‘チュチュ’ 12 クロッカス サンゴミズキ イカリソウの仲間 セイヨウキヅタ(アイビー)の仲間 イカリソウ 球根類 トラデスカンティアとホタルブクロ 草本類 レボルス ヘ 性 アスチルベ ギボウシの仲間 クサソテツ シュウメイギクの仲間 トラデスカンティア(ムラサキツユクサ) の仲間 ヒマラヤユキノシタ フイリアマドコロ ホタルブクロ 物 と グラウンドカバー スノードロップ スイセン ‘ テタ ・ テート’ スイセン ‘ フェブラリー・ゴールド ’ スノードロップ 相 ウメ カシワバアジサイ コルヌス・ストロニフェラ‘フラヴィラメア ’ サンシュユ ジンチョウゲ ハイドランジア‘アナベル’ 花木類 フイリサンゴミズキ マホニア‘チャリティ’ マンサク ミツマタ モクレン ヤマブキ のよ い 植 グラス類 ウラハグサ(フウチソウ) カンスゲ‘ アイスダンス’ カラーリーフプランツ ウラハグサ(フウチソウ)とギボウシ アジュガの仲間 ギボウシの仲間 ヒューケラの仲間 ヒューケラの黄葉系品種 ヘレボルスの栽培方法 件も異なってきますが、基本的には、明 るい木漏れ日の差すような環境を好みま す。暗すぎると、花つきが悪くなります。 病害対策 多湿条件で風通しが悪いと、さまざま な病気が発生します。ウイルスによって 栽培適地 植え付け∼花後の管理 へレボルスの多くは高温によって、休 引き起こされる黒死病(ブラックデス) は、 大変怖い伝染性の病気です。そのウイル 眠もしくは半休眠状態になります。その 植え付け、株分けは、生長が始まる秋 スは、アブラムシなどの害虫やハサミで ため、夏季は、肥料はもちろん、ほかの に行います。その際、完熟腐葉土を混ぜ 伝染します。枯れ葉などはできるだけ手 草花と同じように潅水すると根腐れを起 込むとよいでしょう。花後は、株の衰弱 でむしり取るようにし、ハサミを使う時 こすことがあります。肥料は、秋に緩効 を防ぐために、早めに花がらを摘むよう も消毒して使用する方がよいでしょう。 性のものを与え、暑さに弱い品種は、特 にします。有茎種では、花を咲かせた茎 に排水に気をつけ、レンガや石などを積 は枯れますので、春、次の芽が伸び始め み上げて囲み、底上げしたレイズドベッ た時に株元で切り取るようにします。常 ドをつくって植えるなどの工夫が必要に 緑種は、11月ごろに古い葉を取り除くと、 なります。 花が葉に隠れることがなく、光もよく当 系統により性質に違いがあり、栽培条 たるのでよいでしょう。 ヘレボルス・ニゲル