...

山元行動進化プロジェクト

by user

on
Category: Documents
11

views

Report

Comments

Transcript

山元行動進化プロジェクト
独立行政法人
科学技術振興機構
創造科学技術推進事業
追跡調査報告書
山元行動進化プロジェクト(1994∼1999)
総括責任者 山元大輔
2005 年 3 月報告
山元行動進化プロジェクト追跡調査報告書要旨
山元行動進化プロジェクトは、性行動という
複雑な行動に遺伝子がどのように関わっているかとい
うことをショウジョウバエを材料にして解明することを目的としていた。研究成果は次の三つに分け
ることが出来る。
第1にトランスポゾン P 因子挿入法により突然変異を起こした、性行動の異常を示す8種のショウ
ジョウバエを分離し, 5 種の遺伝子(fruitless(satori),spinster,lingerer,fickle, okina)のクローニングを
行って、構造の解明及び機能を特定化することが出来た。特に fruitless 遺伝子に起きた satori 変
異体は同性愛を示し、あらゆる動物の中で、脳を通じて行動に繋がる遺伝子のクローニングを初め
て行ない、構造を解明したという
点で、世界の注目を浴びた。その後、雄と雌とは fruitless 発現ニュ
ーロンが異なる配線を作っていることが分かった。spinster 遺伝子は処女雌が極端な拒否行動を示
す変異体を作るが、その後、マウスやヒトにもホモログを有し、全身の生命活動や、老化に関係した
多種の機能を有する遺伝子であることが分かった。fickle, lingerer についてはヒトとの関連を示す
多くの機能が見出されており、6 番目の変異体の遺伝子である chaste のクローニング及び構造の
解明も行われた。
第2にショウジョウバエの行動制御や嗅覚学習等の脳の高次機能に重要な役割を果たしている
と考えられるキノコ体領域について GAL4 エンハンサートラップ法という
新しい手法を用いて、内部
構造や発生過程及びこの領域への入出力線維の投射状況を詳しく解析することが出来た。この研
究は世界の学会でも非常に注目されており、「GAL4 エンハンサートラップ系統」
ショウジョウバエ
4500 種のストックの作成は本分野の研究に有効に活用されている。又、脳の神経回路の完全な
MAP の作成を目指して研究が行われている。
第3にハワイ固有種における行動制御遺伝子の解析と脳の性分化について検討した。先ずハワ
イ諸島には約 3000 万年前に1種のDrosophila が飛来し、その後ハワイ産 DrosophilaとScaptomyza
属に分岐し、800 種以上に分化したことを見出した。又、ある種のショウジョウバエの雄の触角葉の
二つの糸球体の容積が著しく大きく、性誘導的進化の存在が実証された。
本プロジェクトから発表された学術論文 26 報に対する引用件数は858 件で、1報あたり33 件とか
なり多い。又、プロジェクトの研究員の大半は個人参加であったが、終了後は大学又は国立研究
所で、より広範囲且つ責任の重い職務についている。
本プロジェクトの成果による招待講演は 97 件、マスコミへの登場は 187 件と極めて多く、学会でも、
社会でも大きな注目を浴びたプロジェクトであったと言える。
1. はじめに............................................................................................................ 1
2.プロジェクト終了後の科学技術をとりまく環境の変化...................................................... 2
2.1. 行動進化の研究について .............................................................................. 2
2.2. 遺伝子の研究環境について ........................................................................... 2
3. 研究の継続性とその後の展開 ................................................................................ 2
3.1. プロジェクト終了時の達成状況..................................................................... 2
3.2. プロジェクトの成果の意義 ........................................................................... 3
3.3. 研究のその後の展開 .................................................................................... 7
3.4.科学技術へのインパクト ................................................................................11
4. 研究成果の波及効果及びインパクト....................................................................... 15
4.1. 科学技術的波及効果 .................................................................................. 15
4.2. 産業的波及効果......................................................................................... 16
4.3. 社会的波及効果......................................................................................... 17
5. 参加研究者の活動状況 ...................................................................................... 17
5.1. プロジェクトから育った人材の状況 ............................................................ 17
5.2. 学位取得 .................................................................................................. 17
6. 創造科学技術推進事業に関する意見 .................................................................... 19
6.1. 事業の意義............................................................................................... 19
6.2. 仕組み、運営面に関する提言 ....................................................................... 19
6.3. その他....................................................................................................... 21
7. アンケート調査結果............................................................................................ 21
7.1. 新たな科学、技術分野の開拓 ....................................................................... 21
7.2. 学会、分科会、研究会等の創設 .................................................................... 22
7.3. 状況変化への寄与 ....................................................................................... 22
7.4. 新たな産業分野の成長................................................................................. 23
7.5. 総括責任者に対する評価.............................................................................. 24
8. 統計資料......................................................................................................... 24
8.1. 論文被引用件数推移 .................................................................................... 24
8.2. 特許収益の年次推移 .................................................................................... 28
8.3. 招待講演回数及びマスコミへの登場回数の推移 .............................................. 28
8.4. 受賞 .......................................................................................................... 29
山元行動進化プロジェクト追跡調査報告書
1. はじめに
ショウジョウバエが遺伝学の研究資料として登場してからほぼ1世紀になる。ゲノム配列から推定
される蛋白質はヒトと共通するものが多く、ショウジョウバエを用いた遺伝子機構の解明はヒトゲノム
の理解に貴重な情報を提供する。ショウジョウバエの行動と遺伝子の解明については、これまでに
サーカディアンリズム1や記憶、学習等ごく限られたものであり、性行動に関しては、その原因遺伝
子の分子実体が解明されていたのはわずか1系統であった。本プロジェクトは遺伝子―タンパク質
の動態から動物行動を解明するという
立場に力点をおきながら、個体、細胞、分子の三階層を貫
通して研究をすすめ、行動制御メカニズムの原理的理解に達することを目指している。
本プロジェクト研究の一つの柱はキイロショウジョウバエの性行動に関する突然変異体の遺伝子
の同定と機能の特定であり、新規の誘発法や脳内ニューロンのマッピングも行った。本プロジェクト
のもう一つの柱は、性行動に関わる遺伝子のどのような変化が神経ネットワークの変化を導き、さら
に行動の多様化へとつながっていくのか、個々の遺伝子のレベルで具体的に解明することであっ
た。得られた結果を要約すると次の三つに分けることが出来る。
第1は性行動異常の原因遺伝子の同定と解明で、トランスポゾンP因子2突然変異誘発法という
新
しい手法を取り入れて 8 種の変異体を分離し、5 種の遺伝子のクローニングを行って、機能を特定
化することが出来た。
第2は脳内ニューロンの同定と神経回路マップの作成で、行動制御や嗅覚学習等、脳の高次機
能に重要な役割を果たしていると考えられているキノコ体領域について、GAL43エンハンサートラ
ップ法4を用いて、詳しい内部構造や発生過程及びこの領域の入出力線維の投射状況の詳しい解
析を行った。
第3にハワイ諸島でのショウジョウバエの遺伝子レベルの変化を観察し、種内進化及び大陸産シ
ョウジョウバエとの関係を調べた。又、脳触角葉糸球体に性的二型性が生じていることを見出した。
これらの研究成果に対する追跡調査をプロジェクト関係者 7 名、外部有識者 6 名からのヒアリン
グにより行ったので、以下に詳細を記す。
1
2
3
4
日周期:ほぼ 24 時間間隔で繰り返す行動的(生理的)律動
キイロショウジョウバエの変異を誘導する転移性因子
酵母の転写調節因子
レポーター遺伝子をゲノム中に挿入し「エンハンサー」と呼ばれる転写調節領域の活性
に従って発現させる。
1
2.プロジェクト終了後の科学技術をとりまく環境の変化
2.1. 行動進化の研究について
本プロジェクト研究以前には「行動研究」
は Science に入らないという
考え方が一般的に有り、行
動を近代的手法で研究できるという
発想に乏しかったが、行動研究が見直され、ヒト、ハエ、線虫が
一貫して直接関連しているという
認識が持たれるようになった。
2.2. 遺伝子の研究環境について
プロジェクト発足当時は、ショウジョウバエ遺伝子ライブラリーの作成や標的遺伝子の特定など、
クローニングまでに多くの障害があり大変な時間と労力が必要であった。しかし、本プロジェクトの
終了後、遺伝子 の研究環境は大幅に変わった。2000 年 3 月に Celera Genomics 社 が
BDGP(Berkley Drosophila Genomic Project), EDGP(European Drosophila Genomic Project)との共
同作業により、ショウジョウバエの全ゲノムを解析5し、2002 年 11 月には完成版が発表された6 。
BDGP で mutant7の Library も作られて、ストックを持つようになった。日本でも同様のストックが京都
に有り、自由に使えるようになっている。このようにインフラの整備が急速に進んだため、プロジェク
ト発足当時と比べて、現在ではクローニングに要する時間と労力が10 分の1 程度になっている。ま
た、P 因子を用いた様々な遺伝子解析技術が開発され、特定遺伝子への挿入箇所の同定やその
近傍の解析なども容易に行えるようになった。
さらに、2001 年のヒトゲノムの完全解読により、多くのショウジョウバエ遺伝子とヒト疾患遺伝子と
の関係が明らかになりショウジョウバエ研究の重要性が再認識された。
3. 研究の継続性とその後の展開
3.1. プロジェクト終了時の達成状況
(1) 行動(性行動)と生体機能の最小構成単位である遺伝子、蛋白質との因果関係の解析のた
5
6
7
Adams,H.D.et al.,Science 2000; 287, 2185-2195
Celniker, SE et al.,Genome Biol.,2002; 3, 79.1-79.14
突然変異体:突然変異遺伝子を持つ生物
2
めに、ショウジョウバエの遺伝子に突然変異を起こさせ、8 種の変異体の分離、5 種の遺伝子をクロ
ーニングした。脳を通じて行動に繋がる遺伝子について、サーカディアンリズムに関する研究は有
ったが、本能行動の本丸に入り込んだという
点では世界で始めてである。ショウジョウバエの行動の
異常が遺伝子の変異によるものであることを実証することが本プロジェクトの第1の目的となってお
り、この目的はほぼ達成されたと思われる。しかし、ショウジョウバエの求愛行動の各プロセスを支
配する遺伝子の解明や、マウス等のホモログの探索による行動進化の研究までは到達できなかっ
た。
(2) ショウジョウバエの行動制御や嗅覚学習等の脳の高次機能に重要な役割を果たしていると考
えられているキノコ体領域について、構造及び神経回路を解明することが出来た。GAL4エンハン
サートラップ法という
手法で細胞を染め出し、キノコ体の葉部は四つに分かれていること、キノコ体
の神経細胞は四つのグループに分かれており、それから伸びる線維が柄部で一旦集合し、再分
配されて四つの葉部に混じりあって投射していることが分かった。又、キノコ体の出力(処理された
情報の行先)
はキノコ体の葉部周辺の限られた連合野の領域に投射していることが分かった。これ
らの結果は世界的に高く評価されており
、当初の目標は全て達成されたといえる。
(3) ハワイ固有種における行動制御遺伝子を解析し、ハワイ諸島には約3000万年前に1種の
Drosphilaが飛来し、その後ハワイ産DrosphilaとScaptomyza属に分岐し、800種以上に分化したこと
を見出した。又、匂いを感じる触角葉糸球体51個のうちの二つが、雄特異的に肥大を示す種が存
在していることを発見した。この肥大化は系統的に離れた種群に認められるので、系統分枝ごとに
独立に生じたと考えられる。にもかかわらず、常に同一の相同な糸球体のみが、雄特異的な肥大
を示した。このことは、ある共通の進化的要求に応じて肥大化する能力が、特定の糸球体のみに
予め(
遺伝的に)
備わっていることを示唆している。更に特定の系統分枝に着目すると、雄と雌の性
差による糸球体の大きさの差が新しい島のショウジョウバエほど大きくなっている。現象的には定向
的8に見える脳の進化であり、これまで無いとされていたキイロショウジョウバエにもある程度の性差
がその糸球体に認められた。これらの実験結果について、もっと多くを期待していた有識者もいる
が、ハワイでのショウジョウバエの飼育条件が確立されていないという
実験上の困難さを考えると、
十分な成果であると言えるのではないかと思われる。
3.2. プロジェクトの成果の意義
3.2.1. 遺伝子と行動
8
定向進化(Orthogenesis) ; 生物の形態の進化が一定の方向に向かう現象
3
全般
今はゲノムの時代となり
、分子の方向に物事が進んでいる。クローニングや分子の時代へのアン
チテーゼで行動からアプローチしたという
志は高く評価される。「
遺伝子」−「
神経」
−「行動」がは
っきり結び付けられるようなエビデンスはそれまで無かったが、山元プロジェクトではかなり纏まった
仕事でその転換点を作ることができ、研究の意義は大きかったと言える。2005 年1月に台湾で開催
された第1回目のモデル生物のNeurobiology Workshopにおいて、ショウジョウバエの行動と脳がメ
インテーマとされ、本プロジェクトの総括責任者が講師として招待された。
トランスポゾンP因子挿入突然変異誘発法という
新しい手法を取り入れて、性行動に影響する8
個の遺伝子,fruitless(satori), spinster, lingerer, fickle, okina, chaste, platonic, croaker を取り出し5
個の遺伝子のクローニングを行うことが出来た。本プロジェクトは古典遺伝学を分子に繋いでいき、
嗅覚、性行動という
複雑なところから遺伝子を見つけている。これは大変な手間と時間のかかる仕
事である。
行動遺伝子については、Benzer, 堀田らの研究が有名だが、彼らの研究は走光性や眼そのも
のの異常を示す mutant を対象としたものが多かった。性行動と遺伝子の研究については先鞭をつ
けたものと言える。
(1) トランスボゾンP因子挿入法について
遺伝子の突然変異誘発法として、以前は化学変異原(DNA に傷を付けるもの、例えばエチルメ
タンスルフォネート
)が用いられていた。この場合どこが変わっているのか探さないといけないので
大変だった。「
トランスポゾンP因子法」
は人為的に動かしたり、コントロールすることが出来るし、入
れた横のゲノムのクローニングが出来るので効率的であった。山元プロジェクト発足当時は日常的
に使える状況では無かったので、大規模に実施したことは画期的なことであった。「トランスポゾン
法」
は今でも使われている。
(2) 新規変異誘発法
遺伝子の変異誘発法として Dual-tagging gene trap 法を確立した9。遺伝子の中にベクターが入
ったもののみを外見だけで分離可能な画期的な方法である。長大なイントロンにベクターが挿入さ
れていても、エクソンが確実にクローニングされる。しかも挿入を受けたホストの遺伝子機能を完全
に失活させると同時に、失活した遺伝子産物の局在を正確に模倣したレポーター 発現を可能とし
た。この方法はショウジョウバエやその他の昆虫研究の世界では大きな反響があり、最近この方法
を改変したprotein-trap 法や、P 因子ではなくpiggyBac 因子を使った gene-trap ベクターが開発さ
9
Lukacsovich,T. et al.,Genetics 2001; 157,727-742
4
れている10。
(3) satori
脳神経系の遺伝子が如何に形成されるか、行動がどう結びつくかという
研究は行われていなか
った。fruitless 遺伝子に起きたsatori変異は雄が雄を追いかけ求愛するようになった。fruitless(fru)
遺伝子のクローニングの成功11は、あらゆる動物の中で、脳を通じて行動に繋がる遺伝子のクロー
ニングを始めて行ったという
点で、世界の注目を浴びた。同様の研究は海外の4箇所のグループ
でも行っており12、本プロジェクトが先駆的な役割を果たしたといえる。
(4) spinster
最初は性行動の異常(spinster 変異の雌は強い交尾拒否行動を示す)で分離され、その原因を
調べた所、多種の機能を有する遺伝子であることが分かった。spinster は新規の膜蛋白質を表現
し、マウスやヒトにもホモログを有している。Nurse cell という
卵に栄養を与える細胞が、卵の成長と
共に減少すべきなのに残ってしまう。又、蛹が成長していくと、通常眼や胸部が発達し、腹部は小
さくなっていくが、変異体は腹部が伸びて、死ぬべき細胞が死なずに残ってしまうという
現象が見ら
れる。更に変異体では自家蛍光が見られ、電顕で調べると、神経細胞中に lipofuscin 様物質を含
んでいることが分かった。
ヒトで Neural ceroid lipofuscin の増加(
Batten 病)
という
神経変性疾患が知られており
、アルツハイ
マー病やハンチントン病でも見られる。spinster は無くても、多すぎても死に到り、少ないと体細胞
が死ななくなるという
、特異な性質を有することが分かった。spinster は神経細胞そのものには存在
しないが、グリア細胞に存在する。全身の生命活動や老化に関係した遺伝子を世界で始めて発見
し、種々の機能を見出したという
点で、学術的な価値は高いと思われる13。spinster の研究はアメリ
カでもやっていたことが、翌年に論文が出て分かった14。
(5) fickle
反復的に交尾を行い、交尾持続時間が著しく変化する突然変異体として分離された fickle は、
細胞質チロシンキナーゼ遺伝子がその原因遺伝子で、その mRNA は交尾器原基と脳と両方に発
現が認められるので、行動異常の原因はこの両部位が関わると考えられた。遺伝性免疫疾患γ―
グロブリン血症XLA原因遺伝子 Btk(
Bruton’s tyrosine kinase)が fickle のヒトのホモログであること
が分かった15。
Bonin, CP. Et al., Genetics 2004; 167(4), 1801-1811
Ito, H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1996; 93, 9687-9692
12 Baker, B.S. et al.,Cell 1996; 67, 1079-1089
13 Nakano, Y. et al.,Mol. Cell. Biol 2001; 157, 727-742
14 Sweeny, ST. et al.,Neuron 2002; 24:36(3), 403-416
15 Baba,K. et al.,Mol. Cell Biol. 1999; 19, 4405-4413
10
11
5
(6) 批判的意見
研究テーマの「ねらい」やショウジョウバエで突然変異を作り、遺伝子を同定するという
着眼点も
非常に優れているということに異議を挟む人はいない。しかし、遺伝子が脳を通して行動を左右し
ていることが確認されているのは1種(satori)のみであったこと、機能の発現は蛋白質同士の相互
作用で行われるので、ゲノムと行動を直接結び付けるには無理が有るのではないか、Benzer らの
行った研究と方法は異なるが、内容的には大きな差は無いのではないかという
意見も有った。
3.2.2. 脳構造の解析
キノコ体は学習や行動制御など多くの高次脳機能を担う中心的な領域として注目され、突然変
異体解析や脳破壊実験、遺伝子クローニングなどの研究が行われてきた。しかし、キノコ体で処理
された情報が脳のどの部分に伝えられるのかという
基本的な回路構造は、これまで全く解析が行わ
れていなかった。脳の研究が出来なかったのは、細胞の一部だけを染めることが出来なかったから
で、本プロジェクトでは脳神経を染め分けるのにGAL4 エンハンサートラップ法が極めて有効である
ことを見出し、キノコ体領域について詳しい内部構造や発生過程、及びこの領域への入出力線維
の投射状況を詳しく解析することが出来た16この論文は 193 回引用されており(2004 年末での検索
結果)、世界の学会で非常に注目され、その後、脳内神経回路に関する活発な研究に発展するき
っかけになっている。
3.2.3. 行動の進化
遺伝子の変異あるいは遺伝的進化が生物の形状、機能、行動等にどのような変化をもたらすかと
いう研究方法としては、これまで主として遺伝子に薬物を加えたり、放射線を当てることによって出
来るmutant による研究が行われてきた。しかしmutant による研究では実際に起こっている生物の
進化を直接知ることは出来ない。これに対して、Natural Variation(自然界に実際に起こっている多
様性)を観察し、その進化の誘引及び遺伝子の変化を研究する手法がある。ハワイには 800 種以
上のショウジョウバエが存在し、しかもそれらについてはカーソン博士が 40∼50 年かけて分類した
系統樹が得られており、ここに目をつけて研究を行った。従来の古典的脳染色法では昆虫の脳の
ニューロピル構造、例えば触角葉、糸球体、キノコ体、中心体などを分離良く染め出すことは極め
て困難であった。本研究では新しい脳の標識法としてシナプス小胞の抗体を用いる手法を試みた。
16
Ito, K. et al.,Development 1997; 124, 761-771
6
この方法ではシナプス部位、つまり触角葉なら糸球体だけが染色される。ハワイ諸島の多種類のシ
ョウジョウバエを詳細に観察し、adiastola サブグループ4種、antopocerus2種の触角葉に著しい性
差を見出した。更にこれまでは性差が否定されていたキイロショウジョウバエにも性差が存在するこ
とが見出された。雄の糸球体が大きくなると雌の発する性フェロモンに対して感度が高くなり、繁殖
上極めて有利になる可能性がある。性選択による脳の構造的進化を示唆する貴重な知見である。
ハワイでのショウジョウバエは日本とは形態、行動共に著しく異なるので、ゲノムの配列の比較が
もっと行われるのではないかと期待した向きも有ったようだが、ショウジョウバエの飼育条件が確立
されておらず、fruitless, spinster, fickle (後2者は論文未発表)以外は実質的な進捗は見られなか
った。
3.3. 研究のその後の展開
3.3.1. 遺伝子と行動
全般
ERATO 終了後は研究員の減員を余儀なくされたので、継続の研究が十分に行われたとは言い
難いが、重要なテーマはそれぞれ実施場所を異にして引き次がれ、インパクトのある成果を挙げて
いる。
(1) 新規変異誘発法
突然変異の作成法として開発した Dual-Tagging Gene Trap 法については 17 件の論文に引用さ
れ、利用されている。
(2) satori
ある細胞がどの親細胞から由来したかを決めることは発生生物学の重要な作業である。従来は
幹細胞に色素を注入し、何になるかを追跡していたが、効率が悪く、再現性も疑わしい。伊藤啓等
の報告17から発展させたMARCM(Mosaic analysis with a repressible cell marker)法18では弱い熱
ショックを加えると、特定の親細胞に由来する全ての子孫細胞を染色することが出来る。
どの神経細胞が性指向性を決めているのかは未解決の問題であるが、数十個の細胞が関与し
17
Ito, K. et al.,Development 1997; 124, 761-771
18
Lee, T., Luo, L., Trends Neurosci. 2001 May; 24(5), 251-254, (Eratum in Trends Neurosci. 2001 Jul. ;
24(5), 385)
7
ていると推察される。Fruitless を発現している中枢神経内のニューロンは 800 個程度と推定される
が、これらの神経細胞が Fruitless の発現を失った結果、satori 突然変異体は同性愛になっている。
中枢神経系において Fruitless 蛋白質は雄にだけ発現しており、雌からは検出されない。しかし、
雄と雌で、脳の特定の細胞や回路が違っているということを明確に示した報告は無い。
Fruitless 蛋白質を作っている細胞の一部に神経細胞の形、投射(回路)
上で性差が有るものを
発見した。雄は 30,雌は 5 個である。MARCM 法で細胞一個だけ染めることを繰り返してやって、30
個対 5 個という
性差の存在が分かった(木村ら、投稿中)。(
雌での 25 個の欠落は細胞が死んだた
めと思われる。)雌の5 個は軸索を細胞体の反対側に伸ばしているのに対し、雄は H 型で、両側に
伸びる。つまり、雄と雌とは Fruitless 発現ニューロン(
雌では Fruitless 蛋白質は出来ていないが、
mRNA は雄同様に転写されている。)が異なる配線を作っている。satori(fruitless)については
ERATO のメンバーや他の研究者と共同研究を続けている。
(3) spinster
spinster の研究の継続は兵庫医大の中野氏と共同で進めている。ヒト、マウス、ゼブラフイッ
シュで相同遺伝子を分離することに成功したのはプロジェクトの期間中であるが、機能の解明
はプロジェクト終了後行った。ヒトの培養細胞を用いた実験で、Spinster 正常型蛋白質が細胞
死抑制蛋白質を直接阻害することを示した19。その後世界各地からヒトの Spinster の抗体や導
入遺伝子の提供を依頼されている。ドイツでは ENU (Ethyl nitroso urea)を用いたマウスの飽和
突然変異誘発が進められているが(日本でも理研で実施)、そのグループの一つがspinster 遺
伝子の変異体があったということで、コンタクトしてきた。このグループの変異マウスは遺伝子
機能が完全には失われていない“部分的機能喪失変異“と思われ、致死にならず、幾ら食べ
ても太らないという
。肥満対策に利用できる可能性がある。
(4) fickle, lingerer, chaste
fickle の論文発表後、ヒトBtk の研究のエキスパートであるスウェーデンカロリンスカ研究所の
Edvard Smith 博士によって、同研究所のセミナーにスピーカーとして招待され、以後、ヒトBtk 遺伝
子をショウジョウバエに導入して解析する共同研究を継続中である(
濱田ら、投稿中)
。
交尾後交尾器を外せなくなる lingerer 突然変異体の原因遺伝子は新規な構造の細胞質蛋白質
を発現していた20。当初、この蛋白質の機能は全く不明であったが、最近になって、それがヒトの精
神遅滞を惹き起こす脆弱 X 染色体症候群原因遺伝子産物、FMR 蛋白質を結合することが、海外
と日本の複数のグループによって見出され、lingerer が翻訳制御の一翼を担う可能性が出てきた
Yanagisawa, H. et al.,Cell Death Diff. 2003; 10, 798-807
Kuniyoshi, H. et al., Genetics 2002; 162, 1775-1789
Kuniyoshi, H. et l., J. Neurogenet. 2003; 17, 117-137
19
20
8
(未発表)。現在、海外からの研究材料のリクエストが急増している。
雌が強い交尾拒否反応を示す chaste についてはその後の従二氏の研究により、遺伝子の同定
が出来た。また、作用は神経形成異常によるものであることが分かった。
3.3.2. 脳構造の解析
全般
早大(現在は東北大)の山元研究室、共同研究先の北海道教育大学の木村賢一研究室、およ
び東大の伊藤(啓)研究室で研究が継続している。また、海外の幾つかの研究室で研究が行われ
ている。
(1)匂い分子を受け止めるのは、感覚器(触覚、ヒトでは鼻の中の嗅上皮)中の感覚細胞の受容
体タンパク質で、そこに匂い物質が結合するとその細胞が興奮し、インパルスを軸索に発生させる。
軸索の終点は触角葉(
ヒトでは臭球)で、そこでより高次の中枢(例えばキノコ体)に伸びるニューロ
ンに接続する。触角葉の中の軸索終末部は球状の樹状突起叢(糸球体=玉)
で、ショウジョウバエ
にはそれが 51 個ある。(
ネズミには 1,000 個あり、ヒトはネズミよりも少ない。)つまり、触角にある感
覚細胞の軸索の終末は 51 個の玉の1つだけ、又は数個だけに形成されていて、その玉がどれな
のか、またどういう
組み合わせなのかによって、どのような匂いとして感じるかが決まってくる。その
対応関係を理解するには、51 個しか玉がないショウジョウバエが有利であり、特定の匂い物質との
対応関係を具体的に決定できる。
(2)伊藤(啓)
研究室では脳の神経回路の完全な MAP を作ろうとしている。彼らの研究成果はホ
ームページで紹介されている。
A.レポーター遺伝子の使い分けによる異なった細胞構造の可視化21。
B. キノコ体はショウジョウバエの求愛行動に不要22。
C. ショウジョウバエ2次嗅覚中枢における情報経路の統合23。
D. ショウジョウバエ変態期における軸索分岐の再編成にはグリア細胞による喰食作用
が不可欠24。
Verkhusha, V.V. et al., J. Biol. Chem.2001; 276(32), 29621-29624
Kido, A. and Ito, K., J. Neurobiol. 2004; 52, 302-311
23 Tanaka, et al., Current Biology 2004; 14, 449-457
24 Awasaki, T. and Ito, K. Current Biology 2004; 14, 668-677
21
22
9
3.3.3. 行動の進化
ハワイでは島によって異なる多種のショウジョウバエが生息しており
、その驚くべき行動の多様性
を遺伝子の変化の観点から明らかにする事は意義がある。各種が相互にどのような系統関係を持
つかが、詳細な染色体の構造の比較から明らかにされており
、ハワイ諸島の地質学的知見と対比
することによって、正確にその進化史を辿ることが出来る。そのため、行動と脳の進化を遺伝子レベ
ルで解明するためには、ショウジョウバエのハワイ固有種は最適の素材である。プロジェクト終了後、
研究を継続したかったが、予算の関係で中断している。
3.3.4.
研究の移動進展状況(
継続・継承)のフロー図
研究成果
性行動を規定する遺伝子 8 種の発見
1999(10 月)
2004(現在)
→
早稲田大学(人間科学部)
→ 早稲田大学(理工学部)
→
岡崎国立基礎生物研究所
→
東京大学
キノコ体の内部構造と入出力回路の解
分子細胞生物学研究所
明
→
早稲田大学(人間科学部)
→
研究凍結
ハワイショウジョウバエの脳内糸球体に
性誘導的進化の発見
10
→ 早稲田大学(理工学部)
3.4.科学技術へのインパクト
3.4.1. 全般
山元総括責任者自身の著書、論文、総説、学会発表(
招待講演、口頭、ポスター)
、マスコミ登場
(社会的啓蒙)の数を、ERATO 研究中及び ERATO 後に分けて図表 3.4.1-1∼図表 3.4.1-6 に示
す。ここでは招待講演がERATO 研究期間中及びその後も合計 97 件と極めて多いことが注目され、
山元プロジェクトの研究のユニークさ、独自性の高さ、科学技術へのインパクトの大きさを示してい
るものと思われる。
11
図表 3.4.1-1
著書
ERATO期間
ERATO終了後
欧文
和文
計
2
6
8
計
0
16
16
2
22
24
総説
和文
ERATO期間
ERATO終了後
欧文
0
5
10
15
20
25
図表 3.4.1-2
論文
ERATO期間
欧文
ERATO終了後
26
計
12
38
論文
ERATO期間
ERATO終了後
欧文
0
5
10
15
20
25
30
35
40
図表 3.4.1-3
総説
ERATO期間
欧文
和文
計
ERATO終了後
5
29
34
計
5
11
16
10
40
50
総説
和文
ERATO期間
ERATO終了後
欧文
0
5
10
15
20
25
12
30
35
40
45
図表 3.4.1-4
研究発表(口頭、ポスター)
ERATO期間
ERATO終了後
計
海外
38
6
44
国内
97
33
130
計
135
39
174
研究発表(口頭・ポスターを含む)
国内
ERATO期間
ERATO終了後
海外
0
20
40
60
80
100
120
140
図表 3.4.1-5
招待講演
ERATO期間
ERATO終了後
3
48
51
海外
国内
計
計
9
37
46
12
85
97
招待講演
国内
ERATO期間
ERATO終了後
海外
0
10
20
30
40
50
60
13
70
80
90
図表 3.4.1-6
マスコミ登場
ERATO期間
TV出演
ラジオ出演
新聞
雑誌
計
ERATO終了後
3
3
16
26
48
計
10
10
13
106
139
13
13
29
132
187
マスコミ登場
雑誌
新聞
ERATO期間
ERATO終了後
ラジオ出演
TV出演
0
20
40
60
80
100
120
140
3.4.2. 遺伝子と行動
「
行動が遺伝子で制御されている」とは誰も思っていなかった。遺伝子に変換を起こさせて、無数
の個体から行動の異常なものを取り出して系統を作るということは、極めて泥臭い仕事で、容易に
出来るものではない。これらの仕事から興味深い現象を見つけた努力は高く評価でき、独自の分
野を切り開いたといえる。
(1)トランスポゾンP 因子挿入突然変異誘発法による遺伝子の導入法は全ての遺伝子の近傍に外
から別の遺伝子が入ることを可能とし、大きなライブラリーを作ることに利用されている。
(2)雄のショウジョウバエを異性愛から同性愛に変える satori 遺伝子の発見及びクローニングは、
遺伝子が脳に働いて行動を決定した事例として極めて注目され、伊藤弘樹らの論文25は 5 年間で
75 件も引用されている。
3.4.3. 脳構造の解析
25
Bonin, CP. Et al., Genetics 2004; 167(4), 1801-1811
14
伊藤啓氏の脳内マッピングの研究は世界的にも高く評価されており
、ERATO での研究報告2報
のうち、1報は 193 件、もう1報は 85 件の引用がなされている。本研究ほど見事な成果を出している
のは、今もって世界的に見当たらないと評価する人もいた。これまで脳の研究が出来なかったのは、
細胞の一部だけを染めるということが出来なかったからである。脳細胞を染め分けるのに、GAL4 エ
ンハンサートラップ法が極めて有効であることを見出し、キノコ体領域について詳しい内部構造や
発生過程及びこの領域への入出力線維の投射状況を詳しく解析できた。脳を研究するには大量
の遺伝子が必要なので、研究対象を異にする(脳ではなく、翅、肢、胴部等)ショウジョウバエの日
本中の研究グループに呼びかけ、9つのグループでコンソーシアムを作った。一つのグループが
500 ずつ作って出来た 4500 の GAL4エンハンサートラップ系統をERATO で管理し、その後国立
遺伝研が中心になって関係者全員で利用できるようにしている。
3.4.4. 行動の進化
近藤らにより、ハワイでのある種のショウジョウバエの雄の触角葉の二つの糸球体の容積が著しく
大きく、これらの種及びキイロショウジョウバエにおいても、性行動の過程に揮発性のフェロモンが
関与している可能性が示唆されており
、比較的最近報告26されたが、この分野の総説27で特筆すべ
き成果として紹介されている。
4. 研究成果の波及効果及びインパクト
4.1. 科学技術的波及効果
4.1.1. 全般
(1) 「行動を取り扱う」という
研究が増えてきている。ショウジョウバエに関しては日本にはあまりい
ないが、海外には大勢の研究者がいる。
(2) spinster は細胞死の制御に関係しているらしいことが分かってきた。老化と神経変性、肥満と
いった社会的インパクトの大きい問題に関連する遺伝子と考えられ、今後、創薬関連研究で重要
26
27
Kondoh, Y. et al., Proc. R. Soc. Lond., Ser B 2003; 270,1005-1013
Amrein, H., Current Opinion in Neurobiology 2004; 14, 435-442
15
な存在になると予想される。
(3)National Bioprocess project という
文部科学省のプロジェクトが有るが、「GAL4エンハンサー
トラップ系統」
はショウジョウバエの重要な研究資源になっている。国の予算でストックセンターが出
来たので、株分け、発送等はそちらの方でやっている。
(4)Jfly home page を作り、研究者名簿、資料、ストック、イベント、ニュースレター、事業案内等を
やっている。
(5)Jfly メーリングリストにおいて、ショウジョウバエ研究者の情報交換と議論の場を作った。
(6)ショウジョウバエ脳神経系の解剖学的画像データベース、Flybrain オンライン・アトラスが日、
米、独の共同作業で構築された。
4.1.2. ERATO 終了後のプロジェクト、研究会等
(1)「
振興調整費」
改変遺伝子導入昆虫を利用した環境調和型害虫防除法に関する基礎研究
(2)「
革新的技術創出基盤調査」
H11 年度 動物の行動を支配する遺伝子の農林水産技術への応用に関する基礎調査
委託事業報告書(委員長 山元大輔)
平成12年3月 社団法人 農林水産技術情報協会
(3)「
基礎生物学研究所共同利用研究会」
動物行動プログラムの遺伝・
生物学的基盤
オーガナイザー 八木健、山元大輔
2002 年 12 月 20 日、21 日 岡崎国立共同研究機構コンファランスセンター
(4)「
国立遺伝学研究所研究会」
動物行動の遺伝学
2004 年 1 月 13 日、14 日 国立遺伝学研究所
4.2. 産業的波及効果
(1)未だ明確でないが、spinster 等ヒトの病気に関係したものも有り、将来医療に関係する可能性
もある。
(2)ハワイ諸島のショウジョウバエの研究で Natural Variation から進化の過程を調べたのと同じ
16
手法がイネに適用されている。イネのゲノムは分かっているので、SNPs(微細な塩基配列の差)を検
出することは可能である。イネの改良のために、所望の塩基配列の遺伝子を持つイネを交配で得
ることは原理的には可能だが現実的でないので、遺伝子操作が必要であろう。
4.3. 社会的波及効果
プロジェクトをやっていた頃は、遺伝子で行動や性格が決まっているという
考え方には反発があ
り、一般には受け入れられていなかった。しかし、山元総括責任者のマスコミ活動(9.2.2.参考資料
に示すように、TV出演13 回、ラジオ出演 13 回、新聞への登場 29 回、雑誌への寄稿 132回)
は社
会的に大きなインパクトを与えた。今では遺伝子が人の行動や考え方に大きく影響しているというこ
とは、一般の人にも浸透しているが、山元プロジェクトの成果及び山元氏自身の活動も大きく寄与
していると思われる。例えば性同一性障害や同性愛等も遺伝子の変化によって起こりうることが理
解され始めている。九州大学では見学に来た高校生が satori 遺伝子のことを知っていたとのこと
である。科学技術の進歩を「正確で分かり易く」話すことは科学者の責務であるが、この点山元プロ
ジェクトは素晴らしい成果を上げている。
5. 参加研究者の活動状況
5.1. プロジェクトから育った人材の状況
プロジェクトに参画した研究者 16 名の構成は、会社研究所から3 名、ハワイ大学から2 名で、他
の11 名は全て個人参加であった。プロジェクト終了後現在は会社研究所に戻った1名、転職した1
名以外は国公立研究所に2 名、他の12 名は大学の研究室で研究を続けている。つまり、本プロジ
ェクトに参画した研究者の殆んどが、プロジェクトの研究成果が認められて、より広範囲かつ責任の
重い職務に着くことが出来たといえる。
5.2. 学位取得
研究員はプロジェクト発足前に全員博士の学位を取得していた。青木(旧姓薄井)一恵氏は技術
員だったが、本プロジェクトの研究で博士の学位を取得した。
17
図表 5.1 プロジェクト参加者リスト
プロジェクト参加者
参加前の資格
終了直後の所属
現在の役職、活動
三菱化学生命科学研究所研究員
早大人間科学部 教授
早大理工学部 教授
従二 直人
個人参加
京都工芸線維大学 産学官協力研究員
同左
国吉 久人
個人参加
広島大学 助手
同左
T. Lukacsovich
個人参加
カリフォルニア大学 リサーチスタッフ
同左
伊藤 弘樹
個人参加
理化学研究所筑波研究所 研究員
早大理工学部 客員講師
徐 金華
個人参加
ベイ-メイがん研究所 研究員
シカゴ大学 助教授
高橋 邦明
個人参加
三菱化学生命科学研究所
国立遺伝学研究所 助手
伊藤 啓
個人参加
岡崎国立基礎生物学研究所
東京大学分子細胞生物学研究所 助教授
森村 茂
個人参加
神奈川がんセンター研究所 研究員
同左 主任研究員
Z. Asztalos
個人参加
ケンブリッジ大学 博士研究員
同左 上席研究員
E. Nilsson
個人参加
再生バイオセンター 研究員
米国 牧場経営
GL 中野 芳朗
三菱化学生命科学研究所
シェフィールド
大学 研究員
兵庫医科大学学内講師
近藤 康弘
(株)
本田技術研究所
HRI(
ホンダリサーチインスティチュート
)
同左 上席研究エンジニアー
K. Edwards
ハワイ大学
イリノイ州立大学 助教授
同左
T. Davis
ハワイ大学
ウエールズ大学 研究員
同左 助教授
馬嶋 景
個人参加
東京大学新領域創成 研究員
同左
総括責任者
山元 大輔
遺伝子構造解析グループ
遺伝子機能解析グループ
遺伝子進化グループ
18
6. 創造科学技術推進事業に関する意見
6.1. 事業の意義
(1)予め特定の領域を決めずに、独創的な人に任せるという
形を採っているので、新しいことが生
まれやすい。若い人に才能を発揮させる。或いは将来のための場を作る役割を果たしており
、極め
て優れた制度である。(CREST も非常に良い制度だが、領域が最初に決まっているので、誰もやっ
たことのない研究はやりにくい。)
(
内部)
(2)大型の基礎研究は ERATO 以外では出来ない。大型の基礎研究がないと科学は発展しない。
(
外部)
(3)新分野に踏み込むことが出来るという
点で、他の制度とはかなり異質であり、存在意義は極め
て高いと言える。
(
内部)
6.2. 仕組み、運営面に関する提言
6. 2. 1. 規模、期間について
(1)規模(
経常費、要員)を半分にして、期間をもっと長く(7∼8 年)すべきである。優秀な人材を
一度に多数採用することは 出来ないし、多すぎるとリーダーの目が届きにくくなる。5 年という
期間
は研究の準備や次の職場への移動の点から、実質 3 年位で、スタート
後 2 年目、3 年目に優秀な
人材を採用することが出来ない。経費の掛け方について、初期投資(
設備)と経常費は区別すべき
である。毎年一定だと、最初は不足し、後は余るということになる。予算の単年度方式も問題が多い。
(
内部・外部)
(2)人材の育成という
観点からは、規模が大きい方が多様な専門家やインターナショナルな人材
を集めることが出来るという
意見も有る。
(内部)
(3)折角独創的な研究成果が得られても、その後研究の継続が出来ないとしたら、非常に勿体な
い。花が開きそうだったら、小額でも良いから、研究の継続をサポート
するべきである。
(
内部・外部)
6. 2. 2. 研究場所について
(1) 研究の場所は他の類似の研究を行っている機関の中が良い。人との交流、機器や薬品の融
19
通、図書室の利用等細かい点が研究の効率を上げる為に重要である。「孤立したリサーチパーク」
のような所は研究環境として適しない。周囲からの刺激が受けられ、シンポジウム等に気楽に参加
できる交通の便利な所が良い。
(
内部・外部)
(2)プロジェクトの研究場所は一箇所に集めるべきである。離れていると、相互の交流が無くなり
、
シナジー効果が全く無くなってしまう。
(内部)
6. 2. 3 総括責任者の選任方法
(1)ユニークな発想の人をどうやって選ぶか。リーダーの選び方には多様性が必要である。研究者
の合議制も良い。成熟した分野ではピアレビューでも良い。全く異なった分野について、既存の平
均値の人が選ぶのは駄目である。
(
外部)
(2) 名声の確立した人よりも、埋もれた逸材を如何に発掘するかということが重要である。一見凡
才に見えるが、極めて粘り強いという
人が良い。論文が“Nature”に載ったことが有るというのは条件
にすべきではない。利害関係が無く、発掘できる目利きの人が判断すべきである。
(
内部)
6. 2. 4. 評価について
(1) 計画の達成度よりもユニークネス(独自性)で評価すべきである。
(
内部)
(2) 評価は人によって、時期によって、立場によって異なる。一つの評価だけで駄目ということに
なると、科学はつぶれる。成熟した分野では比較が可能だが、新しい分野ではなかなか分かっても
らえないということがあって、むしろそれが勲章ということもある。その意味から評価は多様でないと
いけない。
(
外部)
6. 2. 5. 異分野交流について
異分野の研究者を集めるということが ERATO の特徴になっているが、それが適当でない場合は、
強制すべきではない。
(
内部)
6. 2. 6. 事務参事、技術参事について
事務参事は経理に詳しい人が良い。技術参事は研究の内容が分かり、総括責任者の代行が出
来る人が良い。もっと若くて非常勤でも良いという
意見もある。
20
(
内部・外部)
6.3. その他
(1)日本は博士課程出身者が急増しているが、ポストが少ないので、ERATO 終了後の就職先を
見つけるのが大変である。5 年間の最後の 1 年は主力が抜けて、研究の中断、戦力の低下になる
のではないか。
(
外部)
(2) 海外での研究の場合、購入伝票を日本語と英語の両方で出す必要が有り、面倒であった。
海外での研究をやりやすくするシステム作りが必要である。
(内部)
(3) 追跡調査のヒアリングを行う外部有識者はプロジェクトの内容を十分に知っている必要が有り、
総括責任者の意見を取り入れるべきである。
(
外部)
7. アンケート調査結果
7.1. 新たな科学、技術分野の開拓
プロジェクト関係者
外部有識者
計
1 大いに認められる
3
0
3
2 認められる
2
5
7
3 どちらともいえない
1
0
1
4 認められない
0
1
1
外部
大いに認められる
認められる
内部
どちらともいえない
認められない
合計
0%
20%
40%
60%
80%
100%
行動を支配する遺伝子の研究方法の開発及び新しい遺伝子の発見という
成果に対し、プロジェ
クト関係者は「大いに認められる」が最も多かった。外部有識者も1人を除いて、その他の全員が
「認められる」と答えており
、全体として本プロジェクトは新たな科学、技術分野を開拓したと認めら
れている。
21
7.2. 学会、分科会、研究会等の創設
プロジェクト関係者
外部有識者
計
1. ある
1
0
1
2. ない
3
5
8
3. わからない
2
1
3
外部
ある
内部
ない
わからない
合計
0%
20%
40%
60%
80%
100%
プロジェクト関係者1名が「ある」と記したのは、脳の内部構造の研究者が作ったJfly home pageや
Jfly メーリングテストが実質的に学会の機能を果たしていると認識していることによる。「基礎生物学
研究所共同利用研究会」
や、「国立遺伝学研究所研究会」
は調査面談者には認識されていないと
思われる。
7.3. 状況変化への寄与
プロジェクト関係者
外部有識者
計
1. 大いに寄与した
3
0
3
2. ある程度寄与した
3
5
8
3. どちらともいえない
0
0
0
4. あまり寄与したとは言えない
0
0
0
5. 全く
寄与していない
0
1
1
22
大いに寄与した
外部
ある程度寄与した
どちらともいえない
内部
あまり寄与したとは言えない
合計
全く寄与していない
0%
20%
40%
60%
80%
100%
本プロジェクトの成果に対して、プロジェクト関係者は「大いに寄与した」と「ある程度寄与した」が
相半ばしている。外部有識者は1人を除いて、その他の全員が「ある程度寄与した」と答えており
、
全体として本プロジェクトは当該分野の研究や技術の変化にかなりの程度寄与したと認められる。
7.4. 新たな産業分野の成長
プロジェクト関係者
外部有識者
計
1. 創出された
0
0
0
2. 創出されていない
4
5
9
3. わからない
2
1
3
外部
創出された
内部
創出されていない
合計
わからない
0%
20%
40%
60%
80%
100%
本プロジェクトは純然たる基礎研究であり、新たな産業分野の創出は行われていない。
23
7.5. 総括責任者に対する評価
プロジェクト関係者
外部有識者
計
1. 非常に評価が高まった
4
1
5
2. ある程度評価は高まった
2
3
5
3. どちらとも言えない
0
2
2
4. あまり評価は高まっていない
0
0
0
5. 高まっていない
0
0
0
外部
非常に評価が高まった
内部
ある程度評価が高まった
合計
どちらとも言えない
0%
20%
40%
60%
80%
100%
プロジェクト関係者からは「
非常に評価が高まった」が最も多く、外部有識者からは「ある程度評価
が高まった」という
印象が最も多い。本プロジェクトの成果により、総括責任者の招待講演が 97 件、
マスコミへの登場が 187 件と極めて多く、学会でも社会的にも相当高度に評価されていることを示
していると思われる。
8. 統計資料
8.1. 論文被引用件数推移
プロジェクト論文の被引用件数を発表論文一覧表に記す。26 件の発表論文の被引用件数の合
計は 858 件で、1 報あたり平均 33 件とかなり多い。
24
論文名
被引用件数
Miyamoto, H., Nihonmatsu, I., Kondo, S., Ueda, R., Togashi, S., Hirata,
K., Ikegami, Y. and Yamamoto, D., Genes Devel. 1995; 9, 612-625
73
、
2 Yokokura, T., Ueda, R. and Yamamoto, D. Jpn. J. Genet. 1995;
70, 103-117
14
Yamamoto, D., Nihonnmatsu, I., Matsuo, T., Miyamoto, H., Kondo,
3 S.,Hirata, K. and Ikegami, Y., Roux’s Arch. Dev. Biol. 1996; 205,
215-224
11
Kuriyama, M., Harada, N., Kuroda, S., Yamamoto, T., Nakafuku, M.,
4 Iwamatsu, A., Yamamoto, D., Prasad, R., Croce, C., Canaani, E.,
Kaibuchi, K., J. Biol. Chem. 1996; 271,607-610
123
5
Nachman, R. J., Olender, E. H., Roberts, V. A.,Holman, G.M. and
Yamamoto, D., Peptides 1996; 17, 313-320
13
6
Ito, H., Fujitani, K., Usui, K., Shimizu-Nishikawa, K., Tanaka, S. and
Yamamoto, D., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1996; 93, 9687-9692
75
7
Kuwana, H., Shimizu-Nishikawa, K., Iwahana, H. and Yamamoto, D.,
Biochim. Biophys. Acta. 1996; 1309, 47-52
4
8
Suzuki, K., Juni, N. and Yamamoto, D., Appl. Entomol. Zool.
1997; 32, 235-243
9
Ito, K., Awano, W., Suzuki, K.,Hiromi, Y. and Yamamoto, D.,
Development 1997; 124, 761-771
1
10
193
10
Matsuo, T., Takahashi, K., Kondo, S., Kaibuchi, K. and Yamamoto, D.,
Development 1997; 124,2671-2680
31
11
Ito, K., Suzuki, K., Estes, P., Ramaswami, M., Yamamoto, D. and
Strausfeld, N. J., Learning and Memory. 1998; 5, 52-77
85
12
Takahashi, K., Matsuo, T., Katsube, T., Ueda, R. and Yamamoto, D.,
Mech. Devel. 1998; 78, 97-111
33
13
Lucascovich, T., Asztalos, Z., Juni, N., Awano, W. and Yamamoto, D.,
Genomics 1999; 57, 43-56
10
14
Baba, K., Takeshita, A.,Majima, K., Ueda, R., Kondo, S.,Juni, N. and
Yamamoto, D., Mol. Cell. Biol. 1999; 19, 4405-4413
22
Kawano, T., Takuwa, K.,Kuniyoshi, H., Juni, N., Nakajima, T.,
15 Yamamoto, D. and Kimura,Y., Biosci. Biotechnol. Biochem. 1999; 63.
2042-2044
4
16
Matsuo, T., Takahashi, K., Suzuki, E. and Yamamoto, D., Cell. Tissue
Res. 1999; 298, 397-404
12
17
Kutsutake, M., Komatsu, A., Yamamoto, D. and Ishiwa-Chigusa, S.,
Gene 2000; 245, 31-42
22
25
18
Nakano, Y., Fujitani, K., Kurihara, J., Ragan, J., Usui-Aoki, K.,
Shimoda, L., Lukacsovich, T., Suzuki, K., Sezaki, M., Sano, Y., Ueda,
R.,Awano, W.,Kaneda, M., Umeda, M. and Yamamoto, D., Mol. Cell.
Biol. 2001; 21, 3775-3788
19
Kuniyoshi, H., Baba, K., Ueda, R., Kondo, S., Awano, W., Juni, N. and
Yamamoto,D., Genetics 2002; 162, 1775-1789
3
20
Nilsson, E., Asztalos, Z.,Lukascovich, T.,Awano, W. and Yamamoto,
D., J. Neurogenet. 2000; 13, 213-232
7
21
Lukascovich, T., Asztalos, Z., Awano, W., Baba, K. and Yamamoto, D.,
Genetics 2001; 157, 727-742
17
22
Li, M-g., Serr. M., Edwards, K., Ludmann, S., Yamamoto, D., Tilney,
L.G., Field, C. and Hays, T. S., J. Cell Biol. 1999; 146, 1061-1073
28
23
Lukascovich, T., Yuge, K., Awano, W., Asztalos, Z., Kondo, S., Juni, N.
and Yamamoto,D., Arch. Insect Biochem. Physiol. 2003; 54, 77-94
0
24
True, J.R., Edwards, K.A., Yamamoto, D. and Carroll, S.B., Curr. Biol.
1999; 9,1382-1391
24
25 Kondoh, Y.,Kaneshiro, K.,Kimura, K-I and Yamamoto, D., Proc.
R. Soc. Lond., Ser B 2003; 270, 1005-1013
3
Usui-Aoki, K., Ito, H., Ui-Tei, K., Takahashi, K., Lukascovich,
26 T., Awano, W., Nakata, H., Piao, Z. F., Nilsson, E., Tomida, J.
and Yamamoto, D. Nature Cell Biol, 2000; 2, 500-506
27
合計
14
858
1 報あたりの引用件数
33.00
26
発表論文の中で特に重要な論文は次の 2 件である。
No. 6 Ito, H., Fujitani, K., Usui, K.,Shimizu-Nishikawa,K.,Tanaka,S.andYamamoto,D.,
Proc. Natl. Acad. Sci USA 1996; 93, 9687-9692
No. 9 Ito, K., Awano, W., Suzuki, K., Hiromi, Y. and Yamamoto, D.,
Development 1997; 124, 761-771
この2 件の論文の被引用件数の推移を次の表に示す。
年
No. 6 被引用件数
N0.9 被引用件数
1996
1
-
1997
8
5
1998
12
18
1999
9
19
2000
12
31
2001
10
25
2002
10
33
2003
10
32
2004
3
30
合計
75
193
主要論文 被引用件数年次推移
主要論文 被引用累計件数 経過年推移
250
35
30
200
25
150
20
No . 6 被引用件数
No . 6 被引用件数
N0 .9 被引用件数
15
10
N0 .9 被引用件数
100
50
5
0
1
0
2
3
4
5
6
7
8
経過年(年)
1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004
No.6(変異体が同性愛を示す satori 遺伝子の同定に関する論文)
及び No.9(
脳のキノコ体
領域の内部構造やこの領域への入出力線維の投射状況に関する論文)の報告の引用は発表後
現在まで、毎年ほぼ同数の引用が行われており、これらの分野での研究がコンスタントに継続され
ていることが分かる。
27
8.2. 特許収益の年次推移
本プロジェクトで2件の特許を出願しているが、収益は無い。
8.3. 招待講演回数及びマスコミへの登場回数の推移
山元総括責任者の招待講演及びテレビ、ラジオ、新聞、雑誌等マスコミへの登場の回数の推移
を次の表に纏めた。
図表 8.3-1
マスコミでの報告
年
招待講演
テレビ
ラジオ
1994/10∼
4
1995
6
1996
10
1997
12
1998
10
1999
14
2
2000
11
2
2001
12
3
2002
7
2003
新聞
雑誌
合計
2
5
7
1
2
11
15
1
8
5
14
2
2
4
4
3
10
3
4
9
2
4
7
16
2
7
1
29
39
9
2
1
3
36
42
2004
2
1
30
31
合計
97
13
132
187
1
1
13
29
28
招待講演回数及びマスコミへの登場回数の
累積年次推移
招待講演回数及びマスコミへの登場回数の
年次推移
40
140
35
120
30
100
25
招待講演
マスコミでの報告 (テレビ)
20
招待講演
マスコミでの報告 (テレビ)
80
マスコミでの報告 (ラジオ)
マスコミでの報告 (ラジオ)
マスコミでの報告 (新聞)
マスコミでの報告 (雑誌)
15
マスコミでの報告 (新聞)
マスコミでの報告 (雑誌)
60
40
10
20
5
0
1994/1 0∼
1997
2000
2003
0
1994/10 ∼
年
1997
2000
2003
年
ほぼ10 年間での招待講演数が97 件、雑誌を中心としたマスコミでの報告数が187 件というのは、
極めて多いのではないかと思われる。学会でも一般社会でも「
遺伝子と行動」に対する興味と関心
が極めて高いことと、山元行動進化プロジェクトの成果のインパクトの大きさを示していると考えられ
る。
8.4. 受賞
なし
以上
29
Fly UP