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1 研究ニュース Spinal Cord 誌(2004 年 5 月号)Vol.42、273∼280 頁
研究ニュース Spinal Cord 誌(2004 年 5 月号)Vol.42、273∼280 頁 M.アダムス(M. Adams) 、J.F.R.カバナ(J.F.R. Cavanagh)(ISRT - International Spinal Research Trust:国際脊髄研究基金) International Campaign for Cures of Spinal Cord Injury Paralysis (ICCP) 脊髄損傷治療法確立へ向けての国際キャンペーン 脊髄損傷研究のためにさらに一歩前進 (翻訳:赤十字語学奉仕団;関根孝江、佐藤裕子、桑田 恵子、清水賢治、亀澤 譲) 慈善事業諸団体は、過去 20 年間以上にわたって SCI(脊髄損傷)に付随するマヒの治療法と なる研究の推進に取り組んできた。 この治療法の探求を始めた当初、 SCI は恒久的なものである、 すなわち脊髄は一度損傷すると回復することがないと考えられていた。今日、当時と同じ諸団体 は、多くの重要な進歩を実現し、新たな希望をもたらし、研究者と臨床医と SCI 患者の三者の 未来を同様に変えた研究への資金提供を行っていると考えられている。脊髄修復の基礎生物学的 理解が深まったことで、現時点の問題は、治療法として提供できるものが果たして見つかるかと いうことではなく、むしろ有効な治療法をいつ提供できるようになるかということに移ってきて いる。こうしたことから、脊髄研究を推進する多くの団体は提携を結んで、治療法確立を加速す るための協力方法を模索している。以下に ICCP(International Campaign for Cures of Spinal Cord Injury Paralysis:脊髄損傷治療法確立へ向けての国際キャンペーン)と名付けられたこの 提携の使命と目的を説明する。 はじめに 毎年、イギリスでは 1000 人におよぶ人々が、そして全世界では 10 万人におよぶ人々が、脊 髄損傷(SCI)でマヒ状態となり、車椅子生活を余儀なくされ、多くの場合、介護に頼らざるを 得なくなっていると推定されている(www.Campaignforcure.org) 。SCI を負う平均年齢が 33.4 歳であることと、推定寿命が一般の場合とあまり変わらないことから、SCI 患者人数は毎年増加 傾向にあり、2005 年までにその人数はおよそ 250 万人に達すると予想される。この結果、SCI 患者のための長期介護と社会サービスの提供にかかる経済的コストは、年間で数百億ドルを上回 る(www.Campaignforcure.org) 。信頼しうる諸報告によれば、そのコストはイギリス国内だけ で年間 5 億ポンド以上、アメリカではおよそ 77 億米ドル程度になる。 最近まで、外傷性 SCI を負った後の機能回復に効果的な治療法が開発される見込みは無いと 考えられていた。しかし、過去 10 年間の動物モデルによる実験での飛躍的な科学の進歩によっ 1 て、近い将来、SCI 患者の機能をある程度回復させる治療法が利用できるようになるという期待 が高まってきている。SCI の治療法の開発を行っている多くの基礎研究や臨床研究は、有効な SCI 治療法の開発に献身的に取り組んでいる民間慈善事業諸財団から提供される資金を頼りに 行われている。こうした慈善事業財団のたゆまない努力や肯定的姿勢は、近年の実験成功につな がった資金提供や鼓舞激励をもたらし、治療の成功の話しは誤った期待を高めるに過ぎないとい う否定的な考え方の払拭に役立っている。無傷の脊髄や SCI に付随する脊髄の変化の理解をよ り深めれば、損傷後のダメージを小さくして、機能を回復させる治療法により正確に的を絞るこ とが可能となるに違いない。これらの慈善事業財団の役割は、新たな発見や期待される成功につ いての変化に伴って変化するのである。 民間財団の役割 SCI の治療法の開発の実現のために献身的に取り組んでいる多くの民間財団は、 SCI 患者本人 や近親者に SCI 患者を抱える個人によって設立された。歴史的に、これらの財団は、政府や企 業や個人を含む多くの収入源から資金を調達し、それぞれの財団が掲げる目的に応じて、念入り な計画に基づいて資金を割り当てて研究支援を行ってきた。 全ての財団は、 その収入源を公開し、 分配システムを開かれた透明なものにしなければならない。この資金の流れの公開には、科学界 や医学界において有意義で科学的に論理的であると認められる質の高い研究のみに確実に資金 提供が行われるようにする公認研究審査の利用も含まれる。 優先される研究の決定 全ての財団の主目的は、関連する研究に最も効果的な援助を提供することにある。同時に、民 間財団は、SCI 患者と緊密な関係を保つことで、SCI を負った人々にとって最も重要な問題を明 らかにすることができる。研究者と SCI 患者の双方のニーズに基づいてターゲットとなる研究 を見いだせば、これらの研究の正当性はより堅固なものとなり、資金の流れを関連する研究プロ ジェクトに優先的に向けることが可能となる。また民間財団間の協力関係も特定の関連研究分野 に資金の流れを向けることに役立つと同時に財団間での資金提供の重複を防ぎ、全体として、そ の研究分野の進捗を最大限に加速させる。 さらに民間諸財団は、 優先順位を科学界や臨床医学界において効果的に宣伝することによって、 研究の進捗状況や関連する諸問題についての全体的な認知度を高め、他の資金(例えば、政府機 関からの資金)の流れに影響を与えることができる。そして、この優先順位の宣伝は、特定の研 究の進行を早め、その効果をさらに高めることにもなる。複数の財団からの資金を使用して成功 につながった研究法の開発例としては、急性 SCI のダメージを小さくするための治療法として の抗炎症薬メチルプレドニゾロンの使用があげられる。 この重要な臨床医療における進歩につな がった多施設共同研究プログラムでは、さまざまな局面での資金提供に複数の民間財団や政府機 関が関わった(NASCIS 臨床試験 1) 。 2 学際的手法の支援 科学研究や医療研究への資金提供を目標に応じて行う手法のもう一つの利点は、従来では政府 機関による支援が受けられない形で基礎研究者や臨床医やその他の専門家が共同作業を行える ように、民間諸財団が刺激や支援を提供できることにある。臨床治療には複数の技術が組み合わ されることが多いということがますます受け入れられるようになってきていることからもこの ような共同作業の促進は重要で、基礎研究における進歩が実用的治療法に近づくにつれてこのよ うな促進はますます重要となる。実験室における科学の進歩を患者が参加する臨床試験にできる 限り早く移行させることが極めて重要であるということは言うまでもないが、最も重要であるの は関係する人々の安全である。基礎研究における進歩を有効な臨床治療法へと進化させる行程で あるトランスレーショナル研究は、 一般に職業研究者にとって魅力的な研究分野であるとは考え られていない。この種類の研究は、複雑で、費用と時間がかかり、政府からの資金提供もほとん ど無い上、その潜在的恩恵にも関わらず、年間 SCI 患者増加人数が相対的に少ないことから、 主要製薬会社にとって魅力のないものとなっている。ヒトが参加する臨床試験に移行する前の潜 在的治療法の有効性と安全性の評価に法律上必要とされるトランスレーショナル研究の指導や 方向付けに、慈善事業諸団体は間違いなく重要な役割を果すことになる。ヒトでの治療結果とし ての変化を調べる信頼性の高い手段を手に入れておくことは、 次の研究段階への移行における重 要な付加的要素である。 認識の拡大 民間諸財団には、関係する諸問題や優先事項を一般の人々や SCI を負った人々に効果的に確 実に宣伝するというもう一つの役割がある。これによって生まれる SCI に付随する人的コスト や経済的コストの認識やさらなる研究の必要性の認識は、他の資金源への影響力として利用する ことができる。 脊髄損傷治療法確立へ向けての国際キャンペーン 同様の目的を掲げた民間諸財団のグループが集結して 1997 年に ICCP(International Campaign for Cure of Spinal Cord Injury Paralysis:脊髄損傷治療法確立へ向けての国際キャ ンペーン) (www.campaignforcure.org)発足させたのは、上述の諸問題を念頭に置いてのこと であった。ICCP のメンバーは、ヨーロッパ、アメリカ、カナダ、オーストラリアでの研究を主 として、世界中で行われている研究に資金提供を行っている。2001 年の財政年度には、ICCP メンバーの諸団体は、2300 万米ドル以上に相当する 150 件以上の基礎研究プロジェクトや臨床 研究プロジェクトに資金提供を行った。 現在の ICCP メンバーは以下の団体から構成されている。 3 ASRT(Australasian Spinal Research Trust:オーストラレーシアン脊髄研究基金) オーストラリア CRPF( Christopher Reeve Paralysis Foundation:クリストファー・リーブ・マヒ財団) ISRT(International Spinal Research Trust:国際脊髄研究基金)イギリス IRME(Institut pour la Recherche sur la Moelle Epiniere:フランス脊髄研究所)フランス KWNPF(Kent Waldrep National Paralysis Foundation:ケント・ワルドレップ全米マヒ財団 ) アメリカ MP(Miami Project to Cure Paralysis:マイアミプロジェクト) アメリカ PVA(Paralyzed Veterans of America:米国退役軍人マヒ者協会)アメリカ RHI(Rick Hansen Institute:リック・ハンセン研究所)カナダ SRFA(Spinal Research Fund of Australia:オーストラリア脊髄研究基金) オーストラリア ICCP の使命は、SCI によるマヒの治療法の発見を促進させることにある。ICCP メンバーの 諸団体は、一つのグループとしてまとまって活動することによって、SCI を負った人々に関連す る諸問題の解決となる有効な治療法が可能な限り早く、 確実に開発されるように取り組んでいく。 ICCP の目的 ICCP メンバーである全ての団体は以下の主要目的に賛同している。 1. もっとも優秀で才能にたけた科学者や研究者や臨床医、特に新卒者を中枢神経系の神経の再 生と修復の分野に誘致し、脊髄研究者としてのキャリアを選択するように働きかける。 2. 誰にでも SCI を負う可能性があることや、現在や未来の世代にもたらす治療法の影響を強 調することにより、効果的な処置や治療法の開発のための一般の人々の支持を促進する。 3. SCI を負った人々の生涯にわたる介護にかかる経済的コストを強調することにより、政府の 脊髄研究への財政援助を促進する。 4. 啓蒙や募金のキャンペーンを協力して実施して、SCI やマヒ治療法が本質的に世界的な性質 の問題であることを広めることを考える。 5. 研究所、科学者、臨床医、およびその他関係団体間の連携やコミュニケーションを推進する。 6. 募金活動を行うグループ間のコミュニケーション強化を促進し、情報源や専門技術の共用を 奨励する。 7. 国際的な SCI 研究分野のための戦略と優先事項の開発を奨励する。 8. キャンペーンの進捗や成功を具体的かつ測定可能な成果に照らし合わせて評価し、進捗を現 場に報告する。 4 ICCP の実績 ICCP メンバーの定例会議によって補強される四半期毎の電話会議は、全メンバーに関わる問 題を討議するためや前述の目的を推進するためのきわめて重要な討論の場なっている。 ICC メンバーである諸団体は、ICCP や SCI 研究の目的を一般の人々にもわかりやすい言葉 で詳細に記した資料小冊子を協力して作成している。この小冊子は毎年更新され、各メンバー団 体が募金活動や教育の目的に使用できる貴重な資料として提供される。また、ICCP は、SCI 研 究についての理解やメンバーによって提供された過去や現在の研究資金についての情報収集を 求める個人や報道機関や団体や政府のためのさらに詳しい情報源となるウェブサイトの管理も 行っている。 ICCP は、脊髄修復の分野への生涯を通じた取り組みを奨励し、これを支援するという使命を 推進するために ICCP OYIA(Outstanding Young Investigator Award:優秀若手研究者賞)と いう年一度の賞を設立した。 ICCP は、毎年 3500 米ドルの助成金を 2 本提供することにより、損傷を負った脊髄を修復す るための研究を推進し、若手の博士研究員にキャリアを SCI 研究に捧げるよう促し、共同研究 を奨励しようとしている。ICCP OYIA 賞は、国際科学審査委員団の推薦に基づいて、科学的な 功績に対して与えられ、2003 年には米国のカリフォルニア大学サンディエゴ校のバレリア・キ ャバリ医師(Dr. Valeria Cavalli)とユタ大学のマイケル・レモンズ医師(Dr. Michele Lemons) にこの賞が贈られた。2003 年以前の受賞者は、オーストラリア、ロイヤル・メルボルン病院、 WEHI(Walter and Eliza Hall Institute:ウォルター・アンド・イライザ・ホール医学研究所) のエリザベス・コールソン(Elizabeth Coulson) (2000 年) 、米国・ニューヨーク州、ニューヨ ーク州立大学ストーニーブルック校(SUNY Stony Brook)のジェフリー・ペトラスカ(Jeffrey Petruska) (2001 年) 、カナダ・オタワ市、神経科学研究所(Neuroscience Research Institute) のステファン・クロッカー(Stephen Crocker) (2001 年) 、米国、ジョーンズ・ホプキンス大 学医学部(Johns Hopkins University School of Medicine)のアンドレア・ハバー・ブロサムル (Andrea Huber Brosamle) (2002 年) 、オーストラリア・メルボルン市、WEHI のロドニー・ L・ライツ(Rodney L. Rietz) (2002 年)であった。 神経外傷のためのイニシアティブ 州政府や地方政府が中央政府の政策から独立して資金の調達や割当を行うことが可能なオー ストラリアやカナダや米国国内では、 民間ロビイストらからの圧力や ICCP メンバーの支援やア ドバイスの結果、資金提供のための新たなイニシアティブが開発された。その典型例が、交通違 反の罰金からの収入を神経外傷研究や交通安全問題のために割り当てるというものである。交通 違反の罰金は、地域限定ではあるが次第に新たな重要な資金源となりつつあり、SCI 研究機関の 地理的な広がりにすでに影響を及ぼしている。 5 ICCP は、特にさらに多くの団体が医学研究に対する慈善資金提供の伝統がない国々において 活動するように、或いは少ない資金源しか持たない類似団体を支援するように奨励している。米 国では、ICCP のメンバーからの情報提供によって SCI 問題についての一般の注目が高まり、 このことが間接的に SCI 研究に対する政府からの資金援助を増やすことに貢献した。NINDS (National Institute for Neurological Disorders and Stroke:米国国立神経疾患・卒中研究所) によって開始された新たなイニシアティブには、800 万米ドルの FORE-SCI(Facility of Research Excellence for Spinal Cord Injury:優れた脊髄損傷研究を行う施設)プログラムが含 まれ、このプログラムでは、SCI 治療法を教えるための新しい講座を開設すること、SCI の分野 に参入しようとする研究者を募集して新たな研修の機会を提供すること、急性期および慢性期の 損傷についての研究を反復すること、そして SCI の回復を評価するための新たな行動試験を開 発することの 4 つ事柄が主目的とされている。 このプログラムがユニークであるとされているのは、実験観察結果を潜在的臨床療法に移行す る際の大きな問題のひとつである再現性について特に取り組んでいる点にある。確信を持って臨 床試験に進む前には、実験的治療の成功が確認されなければならないが、この前提条件は SCI についてのみならず、すべての医学研究に当てはまる。SCI についての有望な実験結果を再現す る上での明らかな問題の多くは、技術的なものであると考えられる。研究所によって治療効果の 評価に若干異なるモデルや方法が好まれるのはやむをえないことであるが、 一見相反する結果が そのために導かれていることが多いことも事実である 2。この問題は、 (元となる研究論文の著 者らとの協議で)結果の確認作業を独立した研究で行う動機となるものを提供することで克服さ れ、このことによって実験研究を SCI の効果的な治療法に移行するための根拠が強化される。 これらのイニシアティブはこの研究分野の将来にとって必ずプラスとなる。 臨床試験のガイドライン ICCP のメンバーは、全世界の科学者によって受け入れられるような SCI の治療法について の信頼性の高い臨床試験を可能にするガイドラインの確立にも取り組んでいる。現時点では、 SCI 患部の状態や障害の度合い(したがって、治療後の改善)を測定してモニタリングを行うた めの明確で客観的で正確な方法がまだ開発されていないにも関わらず、潜在的治療法についての 少数の「臨床試験」が早くも注目を集めている。また、このような臨床試験は、他の研究機関に よる再現性の証拠の確認がないまま、単独での実行に踏み切られている。残念ながら早まった臨 床試験は、最近、後退を余儀なくされた遺伝子治療についての臨床試験の場合のように、この分 野の研究全体の信用を損ないかねない。このような事態を避けるために、ICCP メンバーは協力 して、メンバーである諸団体に受け入れられ、将来の研究の質を保証するベンチマークとして使 用できるような臨床試験のガイドラインの確立に取り組んでいる。これらのガイドラインの厳守 は、臨床試験への参加を検討している SCI を負った人々、臨床試験の計画や評価に関わる研究 者、そして資金提供を行う団体自身に、その研究が有意義なガイドラインや評価結果や安全性の 配慮に適合したものであることを保証することになる。 6 ICCP 加盟団体 ICCP 加盟団体は、皆同じ目標に向かって活動しているが、そのアプローチは、それぞれの慈 善事業の領域、収入、理念によって異なっている。以下は各団体の一般的な戦略の記述で、より 詳細な情報は各団体のウェブサイトで得ることが可能である。 ASRT (Australasian Spinal Research Trust:オーストラレーシアン脊髄研究基金) ASRT(www.spinetrust.com.au)は、脊髄損傷(SCI)によるマヒに対する治療法を促進する 研究のための資金を集めることを使命にスチュアート・イエスナー(Stewart Yesner)によっ て 1994 年に設立された。現在、収入の主要部分(約 40%)は政府機関を資金源としており、残 りの資金源は、企業(約 20%) 、個人会員(約 20%) 、スポンサー(約 10%) 、特別イベント(約 10%)に分類される。 ASRT では補助金の交付申請を公募し、SC(Sientific Committee:内部科学委員会)がどの 申請に資金提供すべきかを審議して優先順位を決定している。選出された申請は、通常、1 年間 の資金提供を受け、これは延長することも可能とされている。また ASRT は、保有する限られ た資金を使って、第一線で活躍する研究者の SCI 治療法に焦点をあてた会議への参加スポンサ ーともなっている。 ASRT が資金の一部を提供した最近のプロジェクトには、WEHI(Walter and Eliza Hall Institute for Medical Research:ウォルター・アンド・イライザ・ホール医学研究所)におい てペリー・バートレット教授(Prof. Perry Bartlett)の指揮のもとに行われた成人幹細胞の研 究や、ニューサウスウェールズ大学におけるフィル・ウェイト教授(Prof. Phil Waite)の嗅覚 組織についての研究などがある。 CRPF (Christopher Reeve Paralysis Foundation:クリストファー・リーブ・マヒ財団) CRPF(www.christopherreeve.org)は、全米規模の非営利団体で、SCI やその他の中枢神経系 の障害によるマヒの処置や治療法を開発する研究への資金提供に尽力している。 また、同財団は、 障害を抱えて生活している人々の QOL(生活の質)の改善をはかるために、CDRPRC (Christopher and Dana Reeve Paralysis Resource Center:クリストファー・アンド・デーナ・ リーブ・マヒ情報センター) 、QOL 補助金プログラム、および擁護運動を通じて活発に活動して いる。CRPF は、APA(American Paralysis Association:アメリカ・マヒ協会)と CRF (Christopher Reeve Foundation:クリストファー・リーブ財団)の合併により 1999 年に誕生し た。1982 年創立の APA 自体も、愛する家族の SCI をきっかけに設立された小さな家族財団が まとまった団体であった。CRF は、クリストファー・リーブと妻のデーナによって、1995 年 5 月の乗馬中の怪我を原因に夫のクリストファーがベンチレーターに依存する C1-2 の四肢マヒ者 となった後に QOL 補助金プログラムの設立資金を集めるためや APA の研究プログラムを支援 するために設立された。 7 CRPF の資金源は、個人(47%) 、企業および財団(16.6%) 、特別イベント(35%) 、全米規 模のチャリティ・キャンペーン(federated giving campaigns)など(1.4%)である。資金の大 部分は研究プログラムに投資され、2003 年の研究予算は 739 万米ドルであった。QOL 補助金 プログラムの年間予算は 70 万米ドルで、全世界から選出された障害関連団体に贈られる。 CRPF は2つの資金提供プログラムを通じて、世界中の研究機関で行われている脊髄研究の 支援を行っている。IRG(Individual Research Grants:個人研究助成金)プログラムでは、国 際的に著名な神経科学者や臨床医からなる評議会によって選出される上級科学者や若手研究者 や博士研究員らに補助金(年間最高額 7.5 万米ドル)が 2 年間提供される。博士研究員のための 奨学金も別途用意されており、年間 6 万米ドルまでの奨学金の受給を 2 年間受けることができ る。現在、CRPF は、補助金受給者による第 1 回会合の準備を 2004 年 3 月に向けて進めており、 これは今後 2 年毎に開催される予定である。また、同財団は、7 研究機関(米国内の 6 研究機関、 およびスイス・チューリッヒ市内の 1 研究機関)が加入し、それぞれが 3 年間の資金提供(1 研 究機関あたり年間 26 万米ドル)を受けている RC-SCI(Research Consortium on Spinal Cord Injury:脊髄損傷に関する研究コンソーシアム)の支援も行っている。また、この RC-SCI プロ グラムでは、カリフォルニア大学アーバイン校の動物コア研究室にも資金提供(年間 45.5 万米 ドル)が行われており、カリフォルニア州ラ・ホーヤ地区の SI-BS(The Salk Institute for Biological Studies:サルク生物学研究所)のマイクロアレイ・コア研究室への資金提供(年間 20 万米ドル)も行われている。 現在、CRPF の研究奨学金は、負傷後の初期損傷を限定的なものに抑え、二次的な神経細胞 の死滅を防止し、再生とミリエン再形成を促進し、腸機能や膀胱機能や性機能の障害や痛みや痙 性といった二次的な合併症を改善することに注がれている。これまで補助金の大部分は、脊髄修 復の生物学的理解に重点を置いた一連の研究のなかでも最も基礎的な研究に向けられていた。し かし研究が進むにつれ、CRPF の活動内容は臨床研究の支援へと大きくシフトしており、2003 年にはトランスレーショナル研究のためのイニシアティブに着手する予定である。 IRME(Institute Pour la Recherche sur la Moelle Epiniere: フランス脊髄研究所) IRME(www.irme.org) は、20 歳の時の交通事故で四肢マヒとなった孫を持つジャン・ドロ ルム(Jean Delourme )が主導的に 1984 年に創設した民間の非営利団体で、その目的は、フ ランス国内での SCI(脊髄損傷)修復研究の推進・支援活動を通して、SIC についての理解の普 及に貢献することにある。 IRME の方針は 14 名のメンバーからなる評議員会によって決定され、 脊髄研究プログラムのための資金集めが行われる。研究機関から提出される助成金交付申請の審 査は、14 名の基礎科学者と臨床医からなる国際科学諮問委員会によって行われ、この諮問委員 会が評議員会に助成金交付についての意見や推薦や提案を行う。 8 IRME が個人による寄付とボランティア募金活動で集める年間収入は 50 万エキュ[1 エキュ= 1 ユーロ]を超え、1995 年から 2000 年までの 5 年間では 243.9 万エキュが研究に割り当てられ た。 IRME は、SCI の治療法の開発目的に基礎科学研究機関と臨床科とのネットワークを構築す るという戦略をとっている。現在、IRME は、SCI 修復に関わる7つの基礎科学研究機関と臨 床科で行われている研究の支援や調整を行っているが、 その全てが CNRS(National Council for Scientific Research:フランス教育省科学研究局)や INSERM(National Institute for Medical Research:フランス雇用省保健医療研究局)といったフランスの公的機関や様々な大学とのつ ながりを持っている。 IRME は、次の4つの主要研究路線に注目している。 1) 二次的損傷の防止 2) グリア性瘢痕と軸索再生のコントロール 3) 神経細胞の移植を用いた脊髄機能の回復 4) 細胞療法と遺伝子療法 1997 年以降、IRME は、フランス、ドーヴィルで開催された SCI に関する大規模な3回の 会議を含む国際会議を定期的に開催してきた。 また、IRME は、SCI を負った人々のための救急治療システムの改善と標準化についての新 しい多施設共同研究にも他の機関とともに関わっている。 ISRT(International Spinal Cord Research Trust: 国際脊髄研究基金) ISRT(www.spinal-research.org)は、1980 年にスチュアート・イエスナー(Stewart Yesner) が創設した SCI(脊髄損傷)に原因するマヒの影響を軽減することを目的とした研究への資金提 供をその唯一の活動領域としたイギリスに拠点をおく医療研究慈善団体である。 ISRT は、政府からの資金提供を一切受けておらず、近年では、その収入の大きな部分を慈善 信託という英米法特有の信託制度に的を絞った手法に大きく依存している。2002 年∼2003 年の 会計年度の収入源の割合は、一般的な募金活動やイベントが 57%、信託が 21%、投資が 13%、 そしてその他の財源が9%だった。年間出費は、イギリス国内のみならず、他のヨーロッパ諸国 やカナダやアメリカを拠点とするプロジェクトにも資金提供を行い、約 150 万ポンドに増加し た。 9 1996 年の「研究のための第一の戦略」3 の発表以来、ISRT の資金提供の対象は、注目に値す る研究分野や主流助成金支給機関の支援をなかなか受けることができない研究分野に的が絞ら れてきた。この「戦略」については再評価が継続的に行われ、ISRT が対象とする分野の大きな 見直しとして、その改訂版が 2000 年に発表された 4。資金提供は、基礎科学の分野の博士研究 者らを支援するために 3 年プロジェクトの競争補助金の形で主に国際的に行われている。研究 プロジェクトは、正当な理由が十分に存在れば依頼という形で行われることが時々ある。また、 若手研究者らに SCI 研究の道に進むことを奨励するように設計された 3∼4 年プロジェクトを対 象とした NRBPhD(Nathalie Rose Barr PhD:ナタリー・ローズ・バール教授)大学奨学金計 画は、これまでに 17 人の研究生の支援につながっている。なお、全てのプロジェクトへの奨学 金は、国際的に著名な科学者らによって構成される専門家パネルによる審査を経て提供される。 最近のプロジェクトのテーマは、 「早期段階の炎症の研究とコントロール」や「嗅神経グリア 細胞の脊髄機能再生能力の仕組みの解明」や「部分的に損傷した軸索線維の機能改善」などから 「運動を制御する内在経路の理解」までと多岐にわたっている。また、潜在的治療法についての 信頼のできる臨床試験を開始する前にしっかりした枠組みを作るために必要とされる標準化さ れた評価プロトコルの完成を目的としたクリニカル・イニシアティブ(Clinical Initiative)と 呼ばれる大規模な学際的プログラムが現在進行中である 5。 ISRT では、その助成金で研究を行っている全員が一堂に会す会議を年に一度開催し、今後の 資金提供のためのイニシアティブに影響を及ぼすことにつながる研究分野の進捗についての障 害を具体的に明らかにして優先順位を決定する討論やコラボレーションや公開討論会を奨励し ている。 KWNPF(Kent Waldrep National Paralysis Foundation:ケント・ワルドレップ全米マヒ財団) KWNPF(www.spinalvictor-y.org)は、脊髄再生の謎を解明する研究支援のためにケント・ワ ルドレップによって 1985 年に創設された。その募金活動努力は、米国ダラス市の UTSMC(the University of Texas Southwestern Medical Centre: テキサスサウスウエスタン医療センター) 内に最高技術水準のマヒ研究センターを建てることに注がれ、集められた寄付金は、ついには 1,500 万米ドルの基礎研究資金となり、脊髄再生やより優れた脊髄機能回復のための遺伝子技術 や臨床治療法を開発するためにルイス・パラダ医師(Dr. Luis Parada)をはじめとする 60 人あ まりの科学者の支援に使われている。KWNPF が優先するプログラムの一つには、例えば、脊 髄損傷者のリハビリ用のトレッドミル・トレーニング・プログラムがある。 KWNPF では、少人数の科学諮問委員会を用いて優先すべき研究の評価と助成金への資金提 供の承認を行っている。KWNPF は、独自の見解で支援したいと考える科学分野を探し出し、 資金提供の対象を少数のプロジェクトに絞るという方針をとっている。代替療法の支援は行って 10 いないが、多く形態の代替療法 (例えばカイロプラクティックなど) が脊髄損傷者のコミュニテ ィに利益もたらす可能性があることからも特に反対しているわけではない。 KWNPF は、通常、年間約 200 万米ドルの研究費の支援を行っているが、うち 150 万米ドル はダラス市の UTSMC 用に指定されている。もしも潤沢な資金が存在するのであれば、範囲を UTSMC から拡大して、世界中にある他の主要な研究センターと協調する臨床研究やリハビリ 施設が含められることになる。そうなれば、移植や幹細胞の研究も推進されて、SCI が完全でな い場合にマヒを逆転させる可能性がある治療法が開発されるであろう。KWNPF のもう一つの 優先事項は、基礎科学者のコミュニティと臨床医らと間の共同研究やより効果的な相互作用を推 進するシンポジウムの支援を継続して行くことにある。 KWNPF には、SCI を負った多くの人々の QOL(生活の質)の向上に役立つ治療が、2010 年までに開発されるという根本的意見が存在している。SCI 後に 100%機能を回復させることは 不可能かも知れないが、痛みや痙性の軽減や膀胱機能の回復は、SIC を負った人々の多くが二度 と享受することがないと諦めていた QOL の回復を可能にすることになる。運動機能の回復は遅 かれ早かれ必ず実現されることに間違いない。ただ、この実現の時期を左右するのがお金と科学 界でのリーダーシップなのである。 MP(The Miami Project:マイアミ・プロジェクト) MP(www.themiamiproject.org)の事業モデルは、他の ICCP 加盟団体のものとは若干異な り、対外的に奨学金を提供するのではなく、UMMS(University of Miami School of Medicine: マイアミ大学医学部)の COE(Center of Excellence:センター・オブ・エクセレンス)と呼ば れる機関の一つ屋根の下に集まった学際的科学者集団が行う研究への資金提供を行っている。 MP は、科学研究に関心を持つ外科医のバース・グリーン医師(Barth Green, MD)と自らや 近親者が脊髄損傷を負っている同様に熱心な3人の活動家ドン・ミスナー(Don Misner) 、ベス・ ロスコー(Beth Roscoe) 、そしてニック・ビュオニコンティ(Nick Buoniconti)によって 1985 年に創設された。この 4 人の創立メンバーの考えは、脊髄修復の諸問題についての様々な専門 技術を持つ科学者らを一か所に集めた方が分散的な手法よりも大きな成果を生むというもので あった。 今日、MP は、この創立時の構想を継承する学際的研究センターとなっている。このセンター で行われている研究のほとんど(約 70%)は基礎科学研究である。残りの 30%が臨床研究とリ ハビリ研究の分野であるが、 その割合はより多くの資金が利用可能になれば増やされることにな る。また、MP は、SCI への「全人的」アプローチにおける教育活動の支援も行っている。 11 MP の年間予算の約半分は、各研究者に提供される助成金や契約を資金源とし、残りの半分は 個人や企業や民間財団から提供されている。個々の科学研究プログラムについては、年次報告が 行われ、資金提供の決定は、生産性と科学的重要性に基づいて行われる。 MP の主たる目標は、SCI の研究に携わる科学者の人数を増やすことにある。この目的の達成 に向けて、MP や UMNP(the University of Miami Neuroscience Program: マイアミ大学神 経科学プログラム)の研修生(大学院生や博士研究員ら)には、民間からの寄付によって設立さ れた奨学金が用意されている。また、MP は、NINIDS(National Institute for Neurological Disorders and Stroke:米国国立神経疾患・卒中研究所)が主催する FORE-SCI(Facility of Research Excellence for Spinal Cord Injury:優れた脊髄損傷研究を行う施設)プログラムから の資金提供を受けて、夏期講習を受ける学生や博士研究員や客員学者の研修も行っている。 MP のメンバーが関わった SCI 研究における主要な進歩には、急性 SCI での神経防護戦略と して期待される低体温法や IL-10(インターロイキン 10)やガングリオシドの開発が含まれる。 また、MP のメンバーは、実験動物での慢性 SCI の再生を助けるシュワン細胞や OEG(嗅神経 鞘グリア細胞)や neurotrophin(神経栄養因子ニューロトロフィン)や幹細胞の研究にも関わ っている。 SCI を負った人々に日常的に行われている診療に研究が及ぼした影響の一例には、 SCI 後に発 生する高熱や低酸素症のような二次的損傷の原因の有害作用やこれらの損傷原因を最小限に抑 えるために現在行われるようになった処置についての臨床上の認識の高まりがある。慢性 SCI 患者らについては、健康の改善につながっているリハビリ法や運動訓練法の進歩が SCI 後のリ ハビリについての考え方に影響を及ぼしている。 PVA(Paralysed Veterans of America:米国退役軍人マヒ者協会) PVA(www.pva.org)は、第二次世界大戦で SCI(脊髄損傷)を負った約 2000 名の米国軍人 を支援する為に、1947 年に設立された。PVA の設立当初の目標のひとつである質の高い研究に 対して資金提供を行って SCI や脊髄疾患を抱えた人々を支援するということは、現在もその使 命宣言の一部となっている。 PVA の TRF(Techonolgy and Resarch Foundation:技術研究基金(後に SCRF(Spinal Cord Research Foundation:脊髄研究基金)に改名される)は、マヒの医学的影響の軽減および最終 的な解消、脊髄機能障害についての現行の治療法や介護法の改善、革新的なリハビリ療法や福祉 用具の開発、そして次世代の研究者の養成を目的に 1975 年に設立された。SCRF による資金の 割当は、PVA のメンバー(SCI や脊髄疾患を抱えた退役軍人ら)と職員からなる評議会が研究 案の解釈を担当する科学評価委員会の助言を参考に票決によって助成金を決定する制度を利用 12 して行われる。この制度では、需要側に立つ人々が専門家である科学者の勧告に基づいて自らの 生活に重要な影響を及ぼすと判断する助成金に資金提供を行うことが可能となる。 我々の知る限 り、このような形で運営されている脊髄損傷基金は他に存在しない。 SCRF は、その発足以来、3000 万米ドル以上をカナダと米国国内の研究機関や病院に提供し ており、その内の約 1400 万米ドルが基礎研究に提供され、約 600 万米ドルが臨床研究に提供さ れた。 SCRF は以下の分野に 2 年間の助成金を提供している。 1. 治療法を発見することを目標とする SCI や脊髄疾患に関する基礎科学研究 2. 脊髄機能障害が及ぼす医学的、社会心理的、経済的影響やこれらの影響の軽減のために提案 される介入処置についての臨床研究や実用研究 3. 脊髄機能障害をもつ人々の為に改良されたリハビリ法と福祉用具の設計および開発 4. 脊髄研究に携わる人々の研修や専門化を奨励する博士研究員や臨床医や技術者を対象とし た奨学金 5. マヒに関わる科学者や健康サービス・プロバイダやその他の専門家間の相互作用機会を提供 する会議やシンポジウムの開催 ほとんどの分野には、年間 7.5 万米ドルが提供され、奨学金には、2 年間まで年間 5 万米ドル が提供され、会議には、通常、2,000∼15,000 米ドルが提供される。 臨床医学の重要性を認識する PVA は、統制研究プロセスにおいて臨床研究の特定分野に的を 絞っている。このような特定臨床研究分野に割り当てられる金額は、基礎研究と臨床研究と技術 研究に隔たりのある分野についての認識の高まりによって、今後数年間の内に増額される可能性 がある。 すべての職員の給与をはじめ、助成金についての財政支援は、主として PVA によって行われ ている。最近、SCRF は、給与天引きや贈与や遺言や遺贈を通じて贈られる個人からの多額の寄 付や PVA の諸支部からの相当額の資金などの第三の財源から、より多くの資金提供を受けはじ めている。SCRF としては、個人からの寄付の拡大や企業や他の諸財団との新たな提携による財 源のさらなる多角化を望んでいる。収入の流れの多角化が実現されれば、SCRF が提供する 1 回分の資金の増額が可能となり、近い将来の治療法の獲得の期待もますます高まることになる。 RHMIMF (Rich Hansen Man in Motion Foundation: リック・ハンセン・マンインモーション財団) 1985 年から始めた 2 年 2 か月と約 2 日間にわたる車椅子での世界一周で世界の注目を集めたリ 13 ック・ハンセンは、SCI の研究やリハビリや車椅子スポーツの為に 2600 万カナダドルを超える 寄付金を集めて RHMIMF(www.rickhansen.com)を創設した。 RHSCI-Net(Rich Hansen Spinal Cord Injury Network:リック・ハンセン脊髄損傷ネット ワーク)は、以下の全く異なる 3 団体を統合している。 ・ 研究者達−新発見とそれに続く新しい処置法や治療法へのその移行を促進させるため ・ SCI を負った人々にサービスを提供する人々−より効果的にリハビリを健康維持や住居や地 域プログラムのニーズに適合したものにするため ・ SCI を負った人々とその家族や友人達−ニーズと関心事を明確にし、研究や事業プログラム にそれらを反映させるため 現在、これら 3 団体間の相互作用や情報の共有を可能にするために、中央脊髄登録簿とデー タベースが作成されつつある。これまで、RHMIMF は、1 億 4800 万カナダドル以上の資金提 供を行っており、リック・ハンセンは、さらなる拡充に向けて一身をささげている。同氏の決断 力やリーダーシップや構想力は、政府や NGO や科学者や慈善活動家や民間企業の力を一つにま とめて SCI を負った人々の QOL(生活の質)の向上を加速させるという協力による手法の推進 力となっている。 RHSCI-Net は以下のプログラムによって形成されている。研究ネットワークにおける活動の 中心である ICORD(International Collaboration of Repair Discoveries:新修復法についての 国際共同研究)は、研究者らを戦略的につないで共通の目標を設定し、情報を共有させ、新たな 薬やリハビリ治療用バイオテクノロジー機器や手術方法への迅速かつ的確な基礎的な発見の移 行を可能にする。現在進行中のプロジェクトには、研究者らの支援と協力の継続を通じたネット ワーキングと協力研究者の収容力の拡大、SCI を負った人々用のウェブサイトにおける対話式オ ンライン登録簿の開発、性と生殖に関する健康の研究、SCI についての過去や現在の医療介入の 効果を検証することによって QOL(生活の質)の改善や延命を可能にするリハビリ戦略、そし て社会調査がある。 ICORD の拠点は、発見研究と臨床やリハビリの研究や実用を合体させる 2005 年に完成予定 の新しい国際研究センターに移転することになる。なお、RHMIMF とカナダのブリティッシュ コロビア州立大学とバンクーバー海岸保健局との提携により、この新しい研究センターでは、 SCI の影響を最小限に抑えてマヒを防止し、SCI を負った人々の身体機能を最大限に高め、脊髄 再生によって身体機能を完全に回復させることに注力する 300 人を超える研究者と客員研究チ ーム 12 チームに機材や設備が提供されることになる。 14 マンインモーション・ワールド・ツアーの 10 周年記念として 1997 年に設立されたカナダ全 国規模のプログラムである RHNI(Rich Hansen Neurotrauma Initiative:リック・ハンセン 神経外傷イニシアティブ)は、脳損傷や SCI を負った人々のニーズに対する支援と対応を拡大 し、研究やリハビリや事故防止に資金を提供するようにデザインされていた。現在、このプログ ラムは、ブリティッシュコロンビア州では RHNI-BC として、そしてオンタリオ州では ONF (Ontario Neurotrauma Fund:オンタリオ神経外傷基金)として継続されている。 カナダのブリティッシュコロンビア州政府は、脳損傷や SCI の発生件数の多さや障害の深刻 さ、そして交通違反が神経外傷のリスクを増大させる事実を認識し、RHNI を通じて州の交通 違反罰則金の一部を神経外傷の分野に割り当てている。 年間 200 万カナダドルが、 BIABC (Brain Injury Associations of BC:ブリティッシュコロンビア州脳損傷協会)と BCPA(BC Paraplegic Association:ブリティッシュコロビア州対マヒ協会)を通じて研究や地域社会に割り当てられ、 神経損傷リハビリや事故防止のためのイニシアティブの支援が行われている。 現時点では ICORD をはじめとする研究のためのイニシアティブに重点が置かれていること から、RHMIMF や RHI(Rick Hansen Institute:リック・ハンセン研究所)や RHNI-BC や CNRP(Canadian Neurotrauma Research Programme:カナダ神経損傷研究プログラム)を 介した外部からの助成金申請の受付は行われていない。なお、これらのプログラムで現在提供さ れている助成金は全て継続される。 SRFA(Spinal Research Fund of Australia Incorporated:オーストラリア脊髄研究基金) SRFA(www.srfa.com.au)は、機会を逃すことなく SCI の治療法の研究のために多くの資金を 集めるためにドーン・フェレット(Dawn Ferrett)とニール・サッチス(Neil Sachse)が 1994 年に設立した。きっかけはある独立審査報告で、その報告では SCI 治療の成功には保険金請求 のコストを低減させる可能性があることが示されていた。そこで著名な実業家に依頼して SRFA 委員会を組織し、 (例えば保険業界からの)CS(Corporate Sponsorship:企業スポンサー)が 資金提供を行って研究プロジェクトを支援し、公的支援によって一般管理費を賄うという事業計 画が策定された。最近では、臨床試験につながる研究に集中的に重点が置かれていることから、 その資金提供のためにはより大きな財源を開拓しなければならない。 SRFA は、基礎研究ではなく、治療法の開発を目指す研究の支援を行っている。また、研究案 を公募するのではなく、既存のプロジェクトをまず確認してから、スポンサーへの資金提供依頼 の申し入れが行われる。なお、対象となるプロジェクトは、オーストラリア国内のプロジェクト に限定され、研究の質は国内外の専門家による外部審査によって保証される。 オーストラリア、アデレード市のフリンダース大学(Flinders University)で研究に取り組 んでいる成長因子の専門家であるロバート・ラッシュ教授(Prof. Robert Rush)は、ヒトにお いてマヒを逆転させる治療法の研究について 7 年間にわたって資金提供を受けている。科学者 15 や臨床の専門家による独立中間審査では、このプロジェクトの継続が推薦され、さらには営利法 人によるこの治療法のさらなる開発を奨励する方法の一つとして、特許申請の提出の検討も行わ れた。この研究プロジェクトは大きな成功を収め、神経線維を刺激して負傷部位を超えて成長さ せることに関する論文と新たな神経の成長を確認するための新方法についての論文の 2 つの重 要な論文の発表をもたらした。SRFA としては、これらの新発見を慢性 SCI 患者による臨床試 験に移行したいと考えている。 また、SRFA は、オーストラリア、シドニー市のガーバン研究所(Garvan Institute)で行わ れていた皮質脊髄路内の運動ニューロンに neurotrophin(神経栄養因子ニューロトロフィン) 遺伝子を直接送り込む体系的方法を開発して再生を刺激し機能的接続を回復させるもう一つの 1 年プロジェクトを確認して、その資金提供を行った。 これらのプロジェクトは共に、新たな研究者のこの分野への参入のきっかけとなり、SCI 研究 の進捗の認識拡大に役立っている。SCI 治療法を開発するには多くの専門技術が必要であると考 える SRFA は、SCI 治療法の開発という目的達成の最良の方法として研究をネットワークで結 ぶ方法を推奨している。こうしたことから SRFA は、ICCP に加入し、一刻も早く臨床診療で新 しい治療法が利用できるようになるように情報の共有に努めている。 校正時特別追加事項 KWNPF(Ken Waldrep National Paralysis Foundation:ケント・ウォールドレップ全米マ ヒ財団)は、18 年間の活動を経て、2003 年 7 月にその歴史に幕を閉じた。KWNPF は、その 活動期間中に SCI の研究のために 2100 万米ドルを超える資金を集めた。 謝辞 この記事に含められた多くの情報の提供に対し、 すべての ICCP 加入団体の元職員ならびに現 職員に謝意を表する。 参考文献 1. Bracken MB et al. A randomized. controlled trial of methlprednisolone or naloxone in the treatment of acute spinal cord injury. N. Engl J. Med 1990:322:1405-1411. 2. Pearson H, In search of a miracle, Nature 2003;423:112-113. 3. Harper GP, Banyard PJ, Sharpe PC. The International Spinal Rescarch Trust’s strategic approach to the deve1opment of treatments for the repair of 'spinal cord injury. Spinal Cord 1996;34:449-459. 4. Ramer MS, Harper GP, Bradbury EJ. Progress in Spinal Cord Research : a refined strategy for the International Spinal Research Trust. Spinal Cord 2000:38:449-472. 5. Ellaway PH et al, Towards improved clinical and physiological assessments of recovery in spinal cord injury: a clinical initiative. Spinal Cord 2004, 42,325-337. 16