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第3章マーケティングリサーチの手法(PDF/582KB)
第3章 マーケティングリサーチの手法 1.はじめに マーケティングを行う目的は、顧客のニーズをつかみ、商品を企画・開発し、市場を通 じて販売し、企業を発展させることである 1 。 マーケティング環境には、消費者、商品、チャネル、競合等の様々な要因がある。その 中でも消費者の購買行動は、マーケティングをする上で、特に重要である。しかし、その 構成要因を評価するものさしの尺度は異なり、その関係は相互に絡み合い消費者の購買行 動の実態を把握しづらいものにしている。 このように、さまざまに異なる購買行動要因から、売上高や利益に大きく貢献している 要因を探るには、品揃え、価格通行量、広告等の、多次元のものさしを分析し、その因果 関係を明確にする必要がある。これにより重要な要因を知り、予測を行うのがマーケティ ングの予測であり、この中心をなすのが多変量解析である。 マーケティングリサーチの手法(多変量解析)は、大きく分けると3つのモデルにより 構成される(図 1)。まずはじめは、将来を知る予測モデルである。これは、データ変量間 の因果関係を知るもので、重回帰分析や判別分析があり、質的なデータを扱うものとして は、数量化Ⅰ類や数量化Ⅱ類などがある。 次に記述モデルがある。これは、変数間の関係を要約整理することにより、そのデータ 構造を明らかにするもので、主成分分析、因子分析、数量化Ⅲ類、数量化Ⅳ類などがある。 また、分類モデルがある。これはサンプル間を類似度により、ふるい分けるもので、ク ラスター分析等がある。 さらに、近年新しいマーケティングリサーチの方法として、コンジョイント分析や共分 散構造分析が注目されている。コンジョイント分析では、商品の好き嫌いを消費者に聞く ことによって、なぜその商品が好まれるのか、その要因ごとの重要度を個別に推定するこ とができ、消費者の商品コンセプトを容易に把握できるのが魅力である。共分散構造分析 は、心理学の分野で生まれたもので、この手法を利用すると、具体的な資料から「企画力」 や「指導力」など、定量化が困難な概念を抽出することができる。 この章では、マーケティングのどのような問題に対して、どのような手法が応用可能な のか、具体的な事例を基に説明する。特に、量的モデルの中からは重回帰分析、質的モデ ルからはクラスター分析、さらに、その他のモデルからは、近年応用範囲が広がっている 共分散構造分析とコンジョイント分析について順に説明してゆく。 1 マーケティングの目的やマーケティングリサーチの分類については清水[7]を参考とした。 32 マーケティング現象 仮説の設定 データの調査・測定 ・簡約統計量 予備的なデータ解析 ・探索的な データ解析 相関・回帰 1 変量解析 量的モデル 推定・検定 重回帰分析 統計データの解析 変量の数 判別分析 量的モデル 主成分分析 因子分析 結果の評価 数量化Ⅰ類 多変量解析 数量化Ⅱ類 マーケティング戦略 質的モデル 数量化Ⅲ類 数量化Ⅳ類 クラスター分析 コンジョイント分析 その他 共分散構造分析 図1 マーケティングリサーチ手法の体系 出所:清水[7]を一部修正して作成。 33 2.重回帰分析 重回帰分析は、目的変数と説明変数との関係を調べ、関係式を作成し、その関係式を用 いて、次の事柄を明らかにする手法である。 ・関係式に用いた説明変数の目的変数に対する貢献度(影響力、重要度) ・関係式に用いた説明変数の重要度ランキング ・予測 表 1 は、ある会社に6営業所があり、各営業所における売上額と広告額および営業担当 者数を示したものである。この表を見ると、広告費や営業担当者が多い営業所は、売上額 が大きい傾向がみられる。新たに G 営業所を開店し、他の営業所より広告費や営業担当者 を多く投入した時、どれだけの売上が見込めるのかを考える。 表 2 売上額・広告費・営業担当者数 売上額(Y ) 広告費(X 1 ) 営業担当者数(X 2 ) (千万円) (百万円) (人) A 8 5 6 B 9 5 8 C 13 7 10 D 11 5 11 E 14 8 12 F 17 12 13 G ? 13 14 変数 営業所 出所:菅[6]を一部修正して作成 表 1 の営業所 A から F のデータに、重回帰分析を当てはめると、次の関係式が得られる。 Y = 0.6785X1 + 0.6377X2 + 0.8739 ・・・・(1式) ここでYは売上額、X1は広告費、X2は営業担当者数で、Yは目的変数、X1とX2は説明変数と 呼ばれる。 この重回帰分析の例から、次の 2 点を指摘することができる。 第 1 は広告費や営業担当者数の売上貢献度である。この例では、関係式の係数は、目的 変数 Y の売上額の単位と同じになるので、広告費は 0.6785 千万円なので 678.5 万円、営業 34 担当者数は 0.6377 千万円なので 637.7 万円となる。入力したデータの広告費の単位は百万 円なので、広告費百万円の売上貢献度は 678.5 万円ということになる。同様に、営業担当 者の一人当たりの売上貢献度を調べると、637.7 万円ということを、分析結果から読み取る ことができる。 次に G 営業所の売上予測を行う。1 式に A から F の営業所における広告費と営業担当者数 を代入することで、売上予測を行う。結果は表 2 である。 表 2 売上予測 営業所 推定売上額 実績売上額 A 0.6785× 5+0.6377× 6+0.8739= 8.1 8 B 0.6785× 5+0.6377× 8+0.8739= 9.4 9 C 0.6785× 7+0.6377×10+0.8739=12.0 13 D 0.6785× 5+0.6377×11+0.8739=11.3 11 E 0.6785× 8+0.6377×12+0.8739=14.0 14 F 0.6785×12+0.6377×13+0.8739=17.4 17 出所:菅[6]を一部修正して作成 どの営業所も、売上予測(理論値)と実績売上高(実績値)はほぼ一致していることか ら、ここではこの関係式(1式)を利用することで売上予測を行う。計測結果から得られ た各係数と G 営業所の広告費と営業担当者のデータにより、予測は次のようになる。 G 営業所の売上数=0.68×13+0.64×14+0.87=18.7 これより、G 営業所の売上は 1 億 8,700 万円が見込まれると予測できる。 重回帰分析は表計算ソフトExcelを利用することで簡単に行うことができる 2 。しかし計測 にはいくつかの注意点が必要である。 1 つは分析精度についてである。実績値と理論値が近くなるほど、分析の精度が良い、あ るいは重回帰式の当てはまりが良いといえる。重回帰分析ではこの当てはまりの良さを示 す指標として決定係数という分析精度を表す尺度が計算され、Excel で計算した場合も決定 係数が示される。決定係数が1に近いほど当てはまりが良いと判断でき、決定係数が 0.5 Excelのメニューバーから[ツール]、次に[分析ツール]を選択することで、いくつかの分析 メニューが表示され、その中から[回帰分析]を選択できる。 2 35 を下回ると分析精度はあまり良くないと一般的には判断できる。分析結果の判断材料とし て、まず決定係数の良し悪しを見極める必要がある。 次に説明変数の選択についてである。分析の精度はどのような説明変数を用いるかによ っても決まってくる。上の事例では、説明変数は広告費と営業担当者数の 2 つであったが、 一般的には営業所の売上を決める要因は、立地条件など他の多くの要因が考えられる。い くつかの説明変数の中から、変数の絞り込みをするが、ここで注意が必要なのは説明変数 間の相関である。説明変数間の相関が 0.9 以上ある場合は多重共線性と呼ばれる現象がお き、係数符号の逆転する可能性がある。こうした場合は、相関の高い説明変数のどちらか 一方を落とすのが一般的である。これ以外にも回帰係数の統計的検定や推測など考慮すべ き点があるが、詳細については専門書を参照されたい 3 。 3.クラスター分析 クラスター分析とは、異なる性質のものが混ざりあっている集団(対象)の中から互い に似たものを集めて集落(クラスター)を作り、対象を分類しようという方法を総称した ものである。このクラスター分析を用いると客観的な基準に従って科学的に分類ができる ため、マーケティングリサーチにおいては、ポジショニング確認を目的としたブランドの 分類や、イメージワードの分類、生活者のセグメンテーションなどに用いられる。 具体的な手順としては、まず類似性の定義を行ってサンプルの類似度を数値化する。そ こからサンプルそれぞれの距離(「近さ」)を算出し、それに応じてサンプル同士をまとめ (クラスタリング)、クラスター間の距離も計算する。距離の測定方法としては、ユークリ ッド距離、ユークリッド平方距離、標準化ユークリッド距離、ミンコフスキー距離、マハ ラノビスの距離などがある。 クラスター分析には、大きく分けると階層的クラスター分析、非階層的クラスター分析 の 2 種類の方法がある。それぞれの手法の特徴を説明する。 階層的クラスターは、まず個々のサンプルをひとつのクラスターと考え、それを近いも のから併合していき、最終的にひとつの(全サンプルで表わされる)集団にまとめあげて ゆく手法である。 一方、非階層的クラスターでは、分析者が予め作成するクラスター数を指示する。その 数を目標にしてデータの中から特定の割合でランダムに選ばれたデータに階層的クラスタ ー分析を行い、与えられたクラスター数になったところで、今度は先の分析に使われなか ったデータを様々な形で出来上がったクラスターにくっつけていくということを行う手法 である。階層的クラスターが根本にある手法ということができる(図 2)。 階層的クラスター分析にせよ非階層的クラスター分析にせよ、分類する対象がそれぞれ どれほど「近い」か、もしくは「似ているか」を数量的に定義しなければ実行することは 3 Excelを使ったわかりやすい解説書が多く出版されている。例えば荒木[2]参照。 36 困難である。ここでは最も代表的な「ユークリッド距離」がどのように定義されているか を見てゆく。例として、ある商品を購入する際に重視することを基軸に生活者をセグメン テーションするというシーンを想定し、それぞれのアンケート回答者間の「近さ」をどの ように定義するのかを説明する。 C2 非階層的方法 クラスター分け C1 C3 多次元空間 系統図 階層的方法 階層的方法と非階層的方法 図 2 クラスター分析の方法 出所:朝野[1] まず、クラスター分析を行うために表 3 のような質問表を準備する。選ばれた回答に対 して、「非常に重要」に 7 点、「重要」に 6 点・・・、「全く重要でない」に 1 点の点数をつ け、仮に A、B、C の 3 名の回答者が表 4 のように回答したとする。この表により、例えば、 「高性能である」の項目について、回答者 3 名の差を把握することが可能となる。差がプ ラスの場合とマイナスの場合があるが、いずれの場合も同様な差として評価するために、 それぞれの項目における差の 2 乗の合計の平方根を、A と B、B と C、そして A と C の距離 として定義する。このように定義された距離をグラフで確認すると図 3 のようになり、質 問の回答が距離に置き換えられる。 このようにして「距離」が定義され、「距離」の短いサンプルは「近い」と判断されるこ とになる。クラスター分析はこのように数量的に定義された「近さ」を基に、データが類 型化されることになる。 37 表 3 クラスター分析のための質問例 質問 ○○を選ぶにあたってそれぞれどの程度重視するかお答えください。 非 常 に 重 要 重 要 や や 重 要 ど ち ら と も い え な い あ ま り 重 要 で な い 重 要 で な い 全 く 重 要 で な い 高性能である → ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 信頼できる → ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 先進的である → ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 高級感がある → ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 国際的である → ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 伝統がある → ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 表 4 集計結果 Aさん Bさん Cさん 高 性 能 で あ る 信 頼 で き る 先 進 的 で あ る 高 級 感 が あ る 国 際 的 で あ る 伝 統 が あ る 7 6 2 2 3 5 4 4 7 5 5 2 6 7 2 5 4 1 クラスター分析を行うにあたっては、最適クラスターを決める基準がない、計算法のバ リエーションが多すぎるなどの課題もある。詳細については専門書を参照されたい 4 。 4 例えば朝野[1]、清水[7]参照。 38 8 7 6 5 4 Aさん 3 2 Bさん 1 Cさん 0 図 3 クラスター分析における質的データの数値化例 4.共分散構造分析 共分散構造分析とは、観測データの背後にある、さまざまな要因の関係を分析する統計 手法である。ここで要因とは、例えば「仕事の達成感」や「知能」、「ブランド価値」とい ったような、数値として直接には観測できない概念的なものが含まれる。この概念的なも の を 共 分 散 構 造 分 析 で は 構 成 概 念 と い い 、 そ れ を 表 現 す る 変 数 を 潜 在 変 数 ( latent variable)という。また、アンケート調査などによって得られるデータのことは、観測変 数という。 共分散構造分析には、今までの分析手法と比較してすぐれている点がいくつかある。そ の1つが、「複雑な関係をパス図で表現できる」ということである。パス図とは、すでに述 べた構成概念と観測変数との関係を、だ円と四角、矢印を使って表現したものである。こ れまでの分析手法を、数式を使わずに表現できるため、第 3 者に対して分析結果をわかり やすく伝えることができる。 例えば、ある会社経営者が「社交性」 「勤勉性」 「企画力」 「判断力」と現在の「給与評価」 について、社員評価を行ったとする(表 5)。現在の「給与評価」が他のどの変数と密接に 関係しているのかがわかれば、経営者は、その結果をもとに、給与査定の妥当性について 判断することができるであろう。 分析にあたり「協調能力」と「専門能力」という直接観測できない隠れた変数(潜在変 数)と、資料に現れる社員評価(変数の値)が決定されると考える。ただし、「社交性」や 「企画力」などが、「協調能力」や「専門能力」という能力(目には見えない)だけで説明 39 しきれなので、誤差を取り込む必要があり、誤差変数という変数を与える。こうして描か れたパス図が図 4 で、だ円は潜在変数、四角は観測変数を表す。パス図の変数間の関係は 専用の統計解析ソフトで数値化することになる 5 。 表 5 社員評価の事例 社員No. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 社交性 7 4 6 5 6 6 4 4 4 6 勤勉性 6 5 8 5 6 5 4 6 5 6 企画力 7 5 4 5 4 6 6 6 5 4 判断力 8 4 4 5 5 6 6 6 6 4 給与評価 5 2 4 4 3 3 4 4 4 5 出所:菅[6]を一部修正して利用 協調能力 専門能力 社交性 勤勉性 給与評価 企画力 判断力 誤差 誤差 誤差 誤差 誤差 図 4 社員評価のパス図 出所:菅[6]を一部修正して利用 5 コンジョイント分析の詳細については岡本[5]参照。 40 実際の共分散構造分析の応用事例を説明する。この事例は帯広畜産大学(以下、畜大) で行われた研究成果の一部で 6 、畜大で(共同)開発した製品の畜大ブランドのイメージ評 価における各種要因を明らかにするために共分散構造分析を援用した。 ここで観測変数は「1.安全・安心」 「2.品質水準」 「3.好ましさ」 「4.親しみ」 「5. 注目度」「6.先進性」「7.魅力」「8.信頼性」「9.認知度」で、畜大製品についての 評価を1(最高)から5(最低)までの5段階で、これら 9 項目を評価した。畜大ブラン ドに対するイメージを複数の面から捉えるため、分析では「フレンドリー」「コンビニエン ト」「イノベーティブ」の3点を目に見えない潜在概念としている 7 。潜在概念が多い場合、 分析結果が非常にわかりづらいものとなるため、この研究では畜大ブランドに対するイメ ージをこの 3 点に絞っている。 分析結果は図 5 である。赤は強く正の影響を与えている係数、青は強く負の影響を与え ている係数、緑は弱く影響を与えている係数である。3つの潜在変数のうち、「イノベーテ ィブ」 「フレンドリー」がそれぞれ「コンビニエント」にも強く影響していることがわかる。 全体として畜大製品に対するブランドイメージは製品の品質や安全性など「コンビニエ ント」について高い評価を示しているが、「オリジナリティ」や「親しみ」といったものが それに比べると低いことがわかった。またパス図から「コンビニエント」についての評価 が上がると「親しみ」が大きく下がるという結果が読み取れる。今後、畜大製品のプロモ ーションをしてゆくうえで、品質だけでなく、より「親しみ」のわくようなプロモーショ ンも必要という提言が行われている。 5.コンジョイント分析 消費者は通常、商品の購入(あるいは選択)をすると、その商品の機能やサービスなど の複数の項目を 1 つずつ検討し、検討した評価項目を組み合わせて総合的に購入の有無を 判断すると考えることができる。 例えば、どのコンビニエンス・ストア(以下、コンビニ)を利用するかに関するサービ ス形態の調査では、駐車場の有無、店員の態度の良し悪し、営業時間、飲食スペースの有 無が、どのコンビニ店を利用するかを決めると考える(表 6)。 コンジョイント分析では、コンビニ店利用者がこうした要因を総合評価し、複数のコン ビニ店から一店を選ぶ場合、それぞれの属性(コンビニ店の特徴)がどの程度目的変数(コ ンビニ店の選択)に影響を与えているかを明らかにする手法である。 目的変数への影響度は、相関分析や重回帰分析で明らかにすることができるが、これら 6 金山・山田[3]を参照。 「フレンドリー」とは「好き、気に入っている、親しみやすい、共感できるなどの性質を 表す構成概念である。「コンビニエント」とは最近よく使っている、役に立つ、使えるなど を表し、「イノベーティブ」は勢いがあり、今注目され、時代を切り開いているなどを表す 構成概念である。 7 41 e1 .28 1.27 フレンドリー 3-9認知度 e5 3-4親しみ e8 3-3好ましさ e9 3-8信頼性 e6 3-2品質水準 e4 3-1安全・安心 e3 .29 .70 -.49 -.10 .45 -.07 .75 .22 コンビニエント 1.16 .32 1.06 .79 -.37 -.35 -.15 .62 イノベーティブ .76 .56 e2 図 5 共分散構造分析の事例 出所:小関[4] 42 3-7魅力 e7 3-先進性 e11 3-5注目度 e10 の手法とコンジョイント分析では把握内容がおなじであるが、データの収集法にコンジョ イント分析は大きな特徴がある。 コンジョイント分析では、調査回答者に対して、分析対象とするものの特性を組み合わ せたプロファイル(またはコンジョイントカード)を複数提示し、プロファイルに対する 評価を行う。コンビニ店の選択の例では、A カードでは「駐車場なし、店員の態度は悪い、 たばこなし、営業時間 24 時間、飲食スペースあり」、B カードでは「駐車場あり、店員の態 度は良い、たばこあり、営業時間 24 時間、飲食スペースなし」・・・・・などのようなプ ロファイルを複数提示し、回答者に評価を行ってもらう。 表 6 コンビニ店の消費者選択における属性 属性 駐車場 店員の態度 酒類 たばこ 営業時間 飲食スペース 水準1 あり 良い あり あり 24時間 あり 水準2 なし 悪い なし なし 7-23時 なし 出所:岡本[5]を一部修正して利用 従来の調査方法は、「駐車場のあるコンビニと、ないコンビニ、どちらを選びますか」な ど、項目ごとに質問をしたが、コンジョイント分析では、項目を結合したコンジョイント カードを評価させるところが特徴となっている。 以下では、実際のコンジョイント分析の応用事例を説明する。この事例は帯広畜産大学 で行われた研究成果の一部で、北海道内の A 乳業会社で行われている牛乳トレーサビリテ ィに対する消費者評価の分析に、コンジョイント分析を応用したものである。 この分析で用いたプロファイルの項目とカテゴリーが表 7、コンジョイント分析に用いた プロファイルが表 8 にある。これらの要因の組み合わせから 8 種類のプロファイルを作成 し、消費者(回答者)に購入したいと思う順番に 1 位から 8 位まで順位をつけてもらう 8 。1 位のプロファイルには 8 点、2 位のプロファイルには 7 点・・・・8 位には 1 点といったよ うに、順位を評価点に変換し、数値化する。 分析結果が図 6 である。これはコンジョイント分析から算出されるプロファイル項目の 重要度をグラフ化したものである。牛乳購入において、最も重視される項目は価格であり、 次にトレーサビリティの有無で、HACCP の有無はそれよりも低く評価されていることがわ 表 7 のカテゴリーからは 16 種類の組み合わせができるが、直行表を用いてプロファイル を 8 種類に絞り込む。直行表については岡本[5]、菅[6]参照。 8 43 表 7 コンジョイント分析に用いたプロファイルの項目とカテゴリー 出所:小関[4] 表 8 コンジョイント分析に用いたプロファイル 出所:小関[4] 44 図 6 コンジョイント分析の結果 出所:小関[4] かる。この分析より、消費者の牛乳購入における判断基準を数値として示すことができ、 トレーサビリティによる生産情報の提供が、消費者のニーズとして重要であることが確認 できる。 6.まとめ 図 1 のマーケティングリサーチ手法の体系で述べたように、その手法は多岐にわたる。 しかし、その第一歩は「仮説の設定」から始まる。「マーケティング現象」を観察すること で、やみくもに解析をするのではなく、ある程度の「当たり」をつけることが重要で、こ れが「仮説の設定」となる。 「仮説の設定」ができると、調査表を作成する。本調査を実施する前に、プレテストを 行い、調査表の修正を行い、それから本調査が行われる。その後、データが集まり、パソ コンにデータが入力される。入力したデータはそのまま分析には利用せず、一度プリント アウトし、入力ミスやデータの欠損などを確認する。それから、調査データの基本集計や クロス集計などの予備的な解析が行われ、そして本格的なデータ解析が始まる。 こうした本格的なデータ解析が可能となる前の準備作業には、通常かなりの時間を要し、 この準備次第で、分析精度が大きく違ってくるといってもいい。本稿では、調査の準備段 階には全く触れなかったが、満足のゆく結果を得るためにも、ぬかりのない調査準備を行 うべきである。 45 コンジョイント分析や共分散構造分析といった手法は、一昔前までは、ごく一部のコン サルタント会社が行っていた手法である。しかし、高性能のパソコンが利用可能となり、 こうした手法も、一般に広く利用されるようになった。分析の手法ごとに、講習会も開催 されており、短期間での手法の習得も可能である 9 。 しかし、コンピュータからアウトプットされた多変量解析の結果は、数値データの羅列 であり、いずれにせよ、その判読および解釈は人間が行うことので、主観が入りやすく恣 意的となる可能性がある。 したがって、どのような手法を選択するか、結果をどのように解釈するかは、分析者の 経験や付随する情報、実際の現象に対する知識等が重要となり、分析者の先入観も強く入 り込む可能性もある。分析手法の選択や分析結果の解釈に際しては十分な注意が必要であ る。 参考文献 [1]朝野熙彦,「入門多変量解析の実際」,講談社,1996 [2]荒木勉,「Excel で学ぶ需要予測,実教出版,2000 [3]金山紀久・山田広海, 「帯広畜産大学のブランドに関する研究」,帯広畜産大学大学院畜 産学研究科畜産衛生経済学研究室資料,2008 [4]小関大志,「牛乳トレーサビリティの有用性と消費者評価」,帯広畜産大学大学院畜産学 研究科畜産衛生経済学研究室資料,2008 [5]岡本眞一,「コンジョイント分析」 ,カナニシヤ出版 1999 [6]菅 民郎,「Excel で学ぶ多変量解析入門」 ,オーム出版局,2001 [7]清水功次,「マーケティングのための多変量解析」産能大学出版部刊,1998 [8]豊田秀樹,「共分散構造分析[AMOS 編]」,東京図書,2007 [9]涌井良幸・涌井貞美, 「共分散構造分析」,日本実業出版社,2004 9 例えばコンジョイント分析や共分散構造分析が行えるソフトを提供しているSPSS社では、 東京や大阪などでほぼ毎月、様々な分析手法のトレーニングコースを開催している。詳細 はhttp://www.spss.co.jp/参照。 46