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在宅療養者への服薬支援

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在宅療養者への服薬支援
資料②
(薬剤師向け資料)
平成19年3月.日本薬剤師会作成
薬局薬剤師のための
在宅療養者への服薬支援
目
次
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
1.服薬コンプライアンス低下の原因と対処・・・・・・・・・・・・・ 2
2.誤嚥防止のための剤形選択・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
3.薬の副作用と日常生活への影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・
1)せん妄・幻覚・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2)抑うつ・うつ状態・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3)便秘・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4)尿失禁・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5)転倒の誘発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6
7
7
8
8
8
4.高齢者の身体状況に応じた服薬支援・・・・・・・・・・・・・・・ 11
1)服薬能力・身体状況に応じた支援・・・・・・・・・・・・11
2)服薬支援の一例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
(1)運動機能障害者への服薬支援(筋力低下・関節リウマチ・脳卒中片麻痺)
(2)寝たきり者への服薬支援
(3)嚥下困難者への服薬支援
(4)視覚障害者への服薬支援
(5)聴覚障害者への服薬支援
(6)失語症(構音障害)者への服薬支援
(7)認知症患者への服薬支援
3)服薬支援グッズ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
5.在宅医療での服薬支援・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18
1)在宅成分栄養経管栄養法・・・・・・・・・・・・・・・・18
(1)栄養管理の選択法
(2)経管栄養法とは
(3)経管栄養剤の種類
(4)投与経路
(5)薬物投与
(6)管理上の注意
2)在宅中心静脈栄養法・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
(1)在宅中心静脈栄養法について
(2)在宅中心静脈栄養法の適応
(3)使用される薬剤と器材
(4)合併症と対処方法
3)在宅悪性腫瘍患者の疼痛治療・・・・・・・・・・・・・・22
(1)疼痛治療の目標
(2)疼痛の状況把握と患者・家族への説明
(3)疼痛に対する投与法の基本原則
(4)オピオイド鎮痛薬(モルヒネなど)の製剤について
(5)モルヒネの投与量と薬理作用について
(6)オピオイド鎮痛薬(モルヒネなど)の副作用とその対策
はじめに
高齢者の薬物療法は、高齢者特有のさまざまな要因と環境要因によって影響を受けま
す。安全で有効な薬物療法を提供するには、高齢者の特徴や薬の使用上の問題点を把握
することと同時に、在宅療養者に関連する医療・介護職種が連携して対応にあたること
が重要です。そのためには、医療・介護職種に、薬剤師の業務について理解していただ
く必要があります。
本資料は、平成18年度「在宅における医薬品の安全使用に着目した医療・介護職種
の連携に関する検討事業」において作成した、医療・介護職種向け資料「在宅療養者へ
の薬剤師の関わりについて」とあわせて、在宅療養者への服薬支援に関する薬剤師向け
の資料として作成いたしました。
在宅医療の推進が重点項目として位置づけられている今後の医療制度において、薬局
は医療機関や訪問看護ステーションなどと密接に連携し、在宅療養者の薬の調剤や保
管・管理、適正使用のためのアドバイスなどを通じて、地域における医療提供体制の中
で、医薬品や医療・衛生材料等の提供拠点として、地域医療への一層の貢献を進めてい
かなければなりません。
- 1 -
1.服薬コンプライアンス低下の原因と対処
十分に検討された薬物療法計画であっても、指示どおりの薬の使用ができないとすれ
ば、治療はうまく進みません。
コンプライアンスにはさまざまな因子が影響しますが、高齢者にコンプライアンス不
良が見られる原因として、多剤併用や服用方法の複雑化があげられます。考えられる主
な原因には表1のようなものがあります。
表1
コンプライアンス不良の原因
コンプライアンス不良の原因
患
者
に
関
連
す
る
も
の
1.服用方法に対する誤解
●どれが何の薬か分からなくなった
●いつ飲むのかわからなくなった
●1回の服用量が分からなくなった
●食事を摂らないので服用しない
●水分摂取の制限を受けているから飲まない
2.服用忘れ
●薬を飲み忘れる
●外出時に飲めない(薬を持たないで外出するなど)
●複数科を受診しており、各科で処方される投薬日数が異なる
●薬を飲んだかどうか分からなくなる
3.薬の使用に対する不安
●長期服用しているにもかかわらず、症状の改善が見られない
●依存症への不安(睡眠薬など)
●一生、薬と付き合わなければならない
●薬を続けると効かなくなる不安(下剤など)
●患者自身が薬に優先順位をつけて、優先度の高い一部の薬だけを服用する
●長期服用による副作用が心配で、自己判断で休薬日を設けている(鎮痛剤など)
●耐性ができて効かなくなる(抗生剤など)
●強い薬は使いたくない(ステロイド剤など)
●新しい薬は副作用が心配
4.身体的理由
●錠剤やカプセルの嚥下困難
●錠剤の取出しが難しい
●利き手が不自由で分包紙を開けられない
●貼付剤の開封口の開閉ができない
●点眼薬のキャップがはずせない、容器が硬くて使用できない
●坐薬が挿入できない
●軟膏を終わりまでしぼれない
●服薬時の姿勢が保てない
●視覚障害
●聴覚障害
●失語症
●認知症
- 2 -
●うつ病で薬を飲む意欲がわかない
●服薬の理解力がない
5.薬の有効性への疑問
●生活習慣病治療薬、漢方薬、ビタミン剤は、薬の効果が実感できない
●鎮痛剤が効かない
●飲んでも飲まなくても体調が変わらない
6.副作用の経験
●胃部不快、頭痛、腹痛、下痢、発疹、下血、低血糖症状等を起こしたためその後服
用をやめた
7.症状の軽減、変動または消失
●全部使い切るまでに治ってしまった
●症状に合わせて使用する
●調子の良い日は飲むのをやめている
8.経済的理由
●市販薬より負担が安いため、風邪薬や湿布薬等を予防的に処方してもらう
●薬を家族で使用するため多めに処方してもらう
●1日3回の薬を1回もしくは2回しか服用しない
●薬代が高い
薬
に
関
す
る
こ
と
1.有害作用
●実際の有害作用、想像による有害作用
2.複雑な処方内容
●頻回の受診による投薬
●隔日服用
●多数の薬を使用
●1日3回、2回、1回の服用の薬がある
●食前服用(飲み忘れやすい)
3.外観が類似した薬
●薬袋から取り出した後、錠剤の色が同じで、何の薬か分からなくなる
4.薬が飲みづらい
●不快な味または臭い
●粉薬
●錠剤とカプセルは服用できるが、錠剤と散薬は同時には飲みづらい
5.使用上の注意に対するストレス
●アルコール、納豆、緑黄色野菜、チーズ等の摂取制限へのストレス
以上のように、コンプライアンス不良の原因はさまざまですが、日本薬剤師会が平成
13年に行った「服薬コンプライアンスとその改善に対する薬剤師の関与についての実
態調査」によれば、コンプライアンス不良に対して、薬剤師による服薬指導や援助を行
うことで、ほとんどのケースで改善が図られています。特に高齢者に対しては、継続し
- 3 -
た服薬状況の確認・服薬指導を通じて、コンプライアンスを高める必要があります。
薬剤師が行える指導や援助には、具体的に以下のようなものがあります。
表2
コンプライアンス不良に対する薬剤師の対応
1.薬の正しい飲み方や使い方を説明した
2.飲み忘れた場合の対処法を説明した
●1日3回服用の薬、1日2回服用の薬、1日1回服用の薬など、薬に応じて説明
など
3.服薬の意義や重要性を説明した
●自覚症状がない生活習慣病に対する服薬の重要性を説明した
●降圧剤中止によるリバウンドの危険性を説明した など
4.患者や家族の同意を得て、使用期限切れの医薬品を廃棄するなど残薬を
整理した
5.医師に連絡のうえ、処方日数を調整した
●残薬の調整
●複数科受診の場合、投薬日数をそろえる
など
6.医師に連絡のうえ、一包化(薬を服用時点毎に一つの包みにまとめること)した
7.医師に連絡のうえ、薬を変更あるいは削除した
●使用上の注意や制限の少ない薬への変更
●副作用回避のための薬の変更
●重複投薬による薬の削除 など
8.医師に連絡のうえ、剤形を変更した
●坐薬から経皮吸収型貼付剤や内服薬への変更
●散剤から水剤への変更
●サイズの小さい錠剤やカプセルへの変更
●軟膏チューブを開閉の楽な軟膏壺に入れ替える など
9.医師に連絡のうえ、服用時点を変更した
●服用方法の単純化を検討
●ライフスタイルにあった服用時点に変更した など
10.患者の服薬能力を考慮のうえ、服薬補助具を紹介した
●飲み忘れ、飲み間違い防止に投薬カレンダー
●視覚障害の方に点字シール
●味や臭いのマスキングにオブラート
●むせ防止に嚥下補助ゼリー、とろみ調整剤 など
11.高齢者の介護にあたる家族等への指導
●薬の使用に関する注意事項の説明 など
- 4 -
2.誤嚥防止のための剤形選択
嚥下困難のある高齢者に対する服薬指導において大切なことは、正しい薬の服用方法
の習得と、薬を飲みやすくする工夫です。
誤嚥を起こしやすい剤形としては、粘性の低い液剤、水分の少ない硬くて口中でバラ
バラになる顆粒剤や散剤、口腔内に付着しやすい錠剤やカプセル、酸味の強い液剤等が
あります。
一方、嚥下しやすい剤形とは、「噛まなくとも舌で押しつぶして飲み込める軟らかさ
で、ツルッとゆっくり滑るようなもの、あるいは、口のなかでバラバラにならず、べと
つかないもの」があげられます。
誤嚥を防ぐためには、剤形の選択が重要です。
表3
薬が飲みづらい原因とその対策
薬が飲みづらい原因
対
1.飲みにくい剤形
1.最適な剤形を選ぶ
●散剤:味がわるい、粉が散る
●顆粒剤:入れ歯の間に挟まり不快
ザラザラする
●錠剤・カプセル
:径の大きいものは飲めない
口腔粘膜に貼りつく
つかえる
●シロップ剤
:計量が煩わしい
後味が悪い
●包装:PTP シートからの取り出しが不
便
散剤が開封時に飛散しやすい
坐薬の取出しが不便
液剤が計量しにくい
●ゼリー剤、小さな錠剤、崩壊錠、
ドロップ、トローチ、貼付剤、
坐薬などを選ぶ
2.飲みやすいものと一緒に飲む
●ゼリー、ヨーグルト、とろみ水、
オブラートなどを使う
●とろみ調整剤を使う
3.誤嚥防止のための服用方法を
習得する
4.服薬支援グッズを使う
●軟膏を搾り出し器、錠剤分割器、
点眼用自助具、嚥下補助ゼリー、オブ
ラート、服薬用カップ、服薬カレンダ
ー、管理ケース箱、点字シール、補聴
器 など
2.口腔内の障害
●口腔内の乾燥:むせる、口中に残る
●入れ歯の不適合:歯にはさまる
●口からこぼれる
●食道入口部の開放時間の短縮
:喉に送り込めない
策
5.製剤を飲みやすく加工する
●散剤、顆粒剤をペースト状に加工する
●錠剤を粉砕、●脱カプセル
[参考]誤嚥防止のための服用方法
① 服用前に口腔内を湿潤させる
② 服用前後は座位を保つ(体をまっすぐに起こす)
③ 座位が困難な場合は、上半身を30度以上起こす
④ 飲み込むときは、うなずくようにあごをひく(薬が気管に入らないように)
⑤ 舌、頬および唇に麻痺のある方は、薬が麻痺のない側を通過するよう、スプー
ンを用いて頭と体を麻痺のない側に傾けて服用する
⑥ 飲み込みにくい時は、ゼリーなど滑らかな食感の食物を利用する
- 5 -
3.薬の副作用と日常生活への影響
薬の副作用には、風邪薬を飲んで眠くなるというものから、生死にかかわるものまで
あります。また、副作用には個人差もあり、飲んだ時の体調なども影響します。副作用
の現われ方も、すぐ現れる(1∼数日)副作用と、時間がたってから(1∼数ヶ月)現
れる副作用があります。大衆薬(一般用医薬品)や漢方薬にも副作用はあります。
副作用が現れたとしても、早い段階で対応できるように、副作用の前兆として現れる
症状をあらかじめ患者や介護者・看護者に説明し、気になる症状が現れた場合には医師
や薬剤師に伝えてもらうようにしておくことが重要です。
また、薬の副作用は、高齢者のADL(日常生活動作:Activities of daily living
排泄機能、食事の摂取、動作・運動機能、感覚機能、精神機能など)及び生活機能(○
心身機能・構造:心と体のはたらき、体の部分 等 ○活動:歩行、家事、仕事などの
生活行為 ○参加:仕事、家庭内役割、地域社会参加 等)の低下に影響を与えること
に留意する必要があります。
薬の使用によって引き起こされる副作用が日常生活に与える影響については、慎重な
管理が必要で、職種間の連携が重要です。
日常的に患者と接する機会が多い家族や介護者・看護者は、患者のADL・生活機能
の変化に気がつきやすい環境にあります。薬の影響などを確認し適切に対応することで、
本人はもちろん、介護者・看護者の負担も軽減される可能性もあります。
以下に代表的な副作用とそれが生活に与える影響を記載します。
表4
薬が与える ADL(日常生活動作)等への影響
動作・運動機能
・歩行・移動動作・階段昇降・入浴動作・整容動作
・摂食動作・転倒
食事
・食欲不振・食欲の異常亢進・嚥下障害・味覚障害
排泄機能
・尿失禁、便失禁・頻尿・多尿・乏尿・排尿困難
・便失禁・便秘・下痢
感覚機能
・音声、言語障害・視覚障害・聴覚障害・味覚障害
・皮膚感覚異常
精神機能
・失見当識・意欲低下・記憶力低下・思考力低下
・抑鬱・不安・せん妄・幻覚・問題行動・不眠
・眠気・睡眠
その他
・体重増加・体重低下・体温調節異常
- 6 -
1)せん妄・幻覚
高齢者の場合、せん妄は、薬の副作用が原因となることが多く、外界に対する意識が
にごり、幻覚、妄想を認める状態をいいます。
具体的には、ぼんやりとした状態となり、注意を集中できず考えがまとまらない、判
断力が低下する、時間や場所が判らなくなるなどの状態をいい、精神錯乱、見当識障害、
不眠、興奮などと表現されます。
これらの症状は、認知症の症状と類似しているため、せん妄と認知症を間違うケース
があります。せん妄は、発症が急速で、可逆的ですが、迅速な診断や治療を受けないと
死亡する危険にさらされることもあります。
せん妄が及ぼす日常生活への影響
・嚥下・寝返り・起き上がり・座位保持・立ち上がり・立位保持・歩行
・移乗・排便・入浴・歯磨き・洗顔・爪切り・食事摂取・衣服着脱・居室掃除
・薬の内服・金銭管理
せん妄を引き起こすおそれのある薬の例
せん妄を引き起こす薬
抗コリン作用のある薬
その他の薬
例
・制吐薬・抗ヒスタミン剤
・抗パーキンソン病薬・向精神病薬
・鎮痙薬・筋弛緩剤・三環系抗うつ薬
・アルコール・降圧剤
・ベンゾジアゼピン系薬剤
・シメチジン・ジゴキシン
・麻薬・その他の中枢神経系抑制薬
2)抑うつ・うつ状態
うつ状態は感情の低下のみならず、行動性の低下をもたらす悲哀気分をいい、抑うつ
気分、思考抑制、不安と焦燥、意欲の低下、自責感、微少妄想、自殺念慮、不眠、食欲
不振などの症状をさします。
うつ状態が及ぼす日常生活への影響
。
・歩行・移乗・浴槽への出入り・洗身・歯磨き・洗顔・爪切り・食事摂取
・衣服着脱・ボタンのかけはずし・上着の着脱・ズボン、パンツの着脱
・靴下の着脱・居室掃除・薬の内服
うつ状態を引き起こすおそれのある薬の例
・
・
・
・
・
・
ラウオルフィアアルカロイド
副腎皮質ホルモン
メチルドパ
非ステロイド性抗炎症剤
β―遮断薬
インターフェロン
- 7 -
3)便秘
便秘とは「3日以上の排便がない場合、あるいは1日の便量が35g以下のとき」と
いわれています。特に高齢者は、副作用として便秘の可能性がある薬を使用する機会が
多く、便秘によって食欲不振、悪心嘔吐、胃部不快感等の症状や高血圧あるいは狭心症
など基礎疾患を悪化させることもあり、便秘の予防・早期対応が大切です。
日常生活の問題として、浣腸や下剤、摘便へのストレス、非生理的リズムでの排便へ
のストレスなどの精神的ストレスがあり、これらは、高齢者の生活の質にさまざまな影
響を及ぼします。
しかし、便秘を誘発させる薬を使用している高齢者には、下剤を処方される場合が多
いため、生理的リズムを考慮した下剤の使用量、使用方法の検討が必要です。
便秘を引き起こすおそれのある薬の例
・ 抗コリン剤・ブチロフェノン系薬剤・三環系抗うつ剤・利尿剤
・ 制酸剤(アルミニウム、カルシウム化合物)
・抗パーキンソン病薬
・ カルシウム拮抗剤・造影剤・アヘンアルカロイド・筋弛緩剤
4)尿失禁
関節炎や脳血管障害などの疾患により、身体的機能の低下がある高齢者では、排尿に
関する問題が生活の質に大きな影響を与えます。高齢者で頻繁に使用される薬の多くは、
尿失禁を惹起させます。
失禁に対する懸念から、水分摂取を控えたり、服薬コンプライアンスの低下が問題と
なります。
これらの対策として、尿失禁を誘発する薬の使用中止や、類似する効果をもつ薬への
処方変更が望まれます。
尿失禁を引き起こすおそれのある薬の例
・利尿剤・睡眠剤・精神安定剤・抗精神病薬・β―遮断薬・リチウム
5)転倒の誘発
寝たきりになる原因としては「脳血管障害」、
「高齢による衰弱」
、「認知症」などのほ
か「転倒・骨折」があります。脱力・筋力低下・ふらつき・めまい・眠気・覚醒水準の
低下など「転倒」を誘発させる薬を使用すると、転倒の危険度がさらに増大します。転
倒を予防することは寝たきりを防ぐためにも大変重要です。
転倒を誘発する薬は多数ありますが、同じ効能を持つ薬の中で転倒リスクのない薬を
選択することで、転倒の頻度が低下します。
- 8 -
転倒を誘発させるおそれのある薬とその副作用の例
薬
筋弛緩剤
抗不安薬
睡眠薬
NSAIDs
抗てんかん薬
麻薬
非麻薬性鎮痛剤
抗がん剤
降圧剤
利尿剤
抗うつ剤
向精神薬
(睡眠薬を除く)
抗パーキンソン病薬
ジギタリス製剤
H2拮抗剤
β―遮断薬
抗コリン剤
抗不安薬
抗ヒスタミン剤
血糖降下剤
制吐薬
胃腸機能調整薬
副作用
・脱力・筋力低下
・脱力・筋力低下・ふらつき・めまい・眠気
・覚醒水準の低下
・ふらつき・めまい・眠気・覚醒水準の低下
・ふらつき・めまい
・ふらつき・めまい・視力障害・眠気
・覚醒水準の低下
・ふらつき・めまい・せん妄・眠気・覚醒水準の低下
・ふらつき・めまい・眠気・覚醒水準の低下
・ふらつき・めまい・せん妄
・失神・起立性低血圧
・失神・起立性低血圧
・失神・起立性低血圧・パーキンソン症候群
・失神・起立性低血圧・パーキンソン症候群
・せん妄
・せん妄
・せん妄
・せん妄
・視力障害
・眠気・覚醒水準の低下
・眠気・覚醒水準の低下
・眠気・覚醒水準の低下
・パーキンソン症候群
・パーキンソン症候群
- 9 -
表5
重大な副作用と症状(例示)
(日本薬剤師会「平成 11 年度老人保健事業推進費等補助金事業報告書」より)
- 10 -
4.高齢者の身体状況に応じた服薬支援
1)服薬能力・身体状況に応じた支援
高齢者に応じた適切な服薬支援を行うには、まず服薬能力を把握し、身体状況に応じ
た服薬支援方法を検討します。
表6
患者の身体状況と検討できる服薬支援方法の例
患者の状況
□運動機能障害
筋力低下
リウマチ
脳卒中片麻痺
□寝たきり
服薬行動に関する状況
□薬をつかめない
□シートから出せない
□袋を開封できない
□半錠にできない
□点眼薬のキャップがはずせない
□点眼薬がうまくさせない
□貼付剤の開封口の開閉ができない
□湿布がうまく貼れない
□軟膏を終わりまで取り出せない
□軟膏容器の先端に穴があけられない
□坐薬が挿入できない
□残薬がある
□飲み間違いがある
□嚥下障害
□飲み込めない(嚥下反射遅れ、薬の咽
頭への送り込み困難、麻痺)
□誤嚥しやすい
□服薬時の姿勢が保てない
□視覚障害
□ほとんど見えない
□あまり見えない
□薬袋の字は少し読める
□点字が読める
□聴覚障害
□ほとんど聞こえない
□大きな声であれば聞き取れる
□失語症
□構音障害あり
□失語症あり
□嚥下障害を伴う
□服薬の理解力がない
□服薬の理解力は少しある
□理解力の低下
(認知症等)
- 11 -
服薬支援の例
□一包化
□調剤方法の工夫
□自助具の利用
袋オブラート、軟膏を搾り出
す自助具、点眼用自助具
□一包化
□服薬カレンダー等利用
□介護者・看護者への服薬指導
□自助具の利用
嚥下補助ゼリー、オブラー
ト、薬杯
□小さいサイズの錠剤や散剤
への変更
□とろみをつける
□つぶし
□経管投薬
□自助具の利用
嚥下補助ゼリー、服薬用カッ
プ、オブラート
□一包化
□触知型シール
□見やすい字
□点字・知覚シール、
□自助具の利用
□書面
□手話
□自助具の利用
補聴器、音声伝達器
□書面
□剤形の検討
□一包化
□服薬カレンダー・管理箱等の
利用
□介護者・看護者への服薬指導
2)服薬支援の一例
(1)運動機能障害者への服薬支援(筋力低下・関節リウマチ・脳卒中片麻痺)
①
服薬支援の方向性
薬がどのように服薬、使用されているかを確認し、服薬動作のうち具体的に何に
困っているのかを聞き取り、難渋している場合には有効と思われる自助具の使用を
薦めます。
②
服薬支援のポイント
脳卒中片麻痺の患者の場合、内服薬、外用薬にかかわらず片手ではスムーズな服
用動作が行えないため、介護者等がいない場合服用できない可能性もあります。片
手でも服薬ができるような調剤方法の工夫を行います。また介護の状況に留意し、
必要ならば投薬回数の少ない持続性の薬への処方変更を医師に依頼します。患者自
身が服薬する能力がある場合はできるだけ自力でできるよう、薬袋に切れ目を入れ
て1回分ずつ薬杯に移しておく等の工夫をします。
関節リウマチの患者の場合は、服用する薬の数も多く、また内服薬だけでなく、
疼痛緩和のための坐剤や軟膏など多種類の薬が処方されます。変形や疼痛によって
自分で薬を飲んだり、外用薬を使用することが徐々に困難になります。また、病気
が長引くほど、握力や指の力が低下し、薬の開封ができなくなったり、関節の変形
によって手が口に届かなくなり、薬の服用・使用が困難になっていくので、調剤方
法の工夫と有効と思われる自助具の使用を薦めます。
③
服薬支援グッズ
袋オブラート 軟膏を搾り出す自助具
点眼用自助具
など
(2)寝たきり者への服薬支援
①
服薬支援の方向性
コンプライアンスに問題がある場合が多くあります。薬の管理は介護者・看護者
に任されているケースがほとんどなので、服薬に問題のある点については、介護
者・看護者等と十分な連携のもとに改善策を検討します。介護者・看護者の専門分
野と連携した支援体制が必要です。
②
服薬支援のポイント
服薬意義については、病態・疾患について視覚的資料を利用してわかりやすい説
明を行い、患者、介護者・看護者ともに理解を深めてもらいます。
服薬を自身で調節してしまう原因として、嚥下能力の低下、義歯の使用、飲みに
くい(味、見た目、匂い、剤形)などが考えられるため、他の薬への変更を検討し
ます。飲み忘れや飲み間違いが多い場合は、服薬回数を減らすことや一包化につい
ても医師と検討し、服薬カレンダーや薬管理ケース箱などを用意して工夫します。
③
服薬支援グッズ
服薬カレンダー
薬管理ケース箱
嚥下補助ゼリー
- 12 -
オブラート
など
(3)嚥下困難者への服薬支援
①
服薬支援の方向性
患者、介護者・看護者両方にとって服用しやすい、させやすい方法を探し、工夫
します。患者にとって服用しやすい姿勢を見つけることにより、嚥下諸筋のリラッ
クスした状態、誤嚥しにくい状態を確認します。
②
服薬支援のポイント
家族や介護者・看護者より現在の服用状況を確認し、嚥下反射の遅れや、薬の咽
頭への送り込みの困難さ、舌、頬、唇麻痺、咽頭、喉頭麻痺等の問題点について検
討します。
患者にとって服用しやすい方法を確認します。姿勢は直立座位が逆流もなく望ま
しいのですが、垂直座位が無理な場合は上体を 30 度以上起こします。
舌、頬、唇麻痺の場合は頭と体を麻痺のない側に傾け、咽頭、喉頭麻痺では首を
麻痺のある側に向け服用し、薬が健側を通過するように調整します。
服用方法として、液体と薬を交互に飲み込む交互嚥下、一口に服用する薬を制限
する一口量の制限、大きく息を吸って息を止めてから飲み込む息止め嚥下、一口に
ついて何回も飲み込む複数嚥下などの方法を使い分けます。
食材に混ぜる場合、とろみがあり、咀嚼しやすく、適度に水分を含んでいる物に
混ぜます。(おかゆ、ヨーグルトなど)もし混ぜる場合には、患者、介護者・看護
者とよく相談し、希望される食材に混ぜるようにします。
③
服薬支援グッズ
嚥下補助ゼリー
服薬用カップ
オブラート
とろみ調整剤
など
(4)視覚障害者への服薬支援
①
服薬支援の方向性
視力、視野欠損状況などの現在の視機能を把握します。患者の理解力・認知度の
把握は、服薬指導のみならず患者とのコミュニケーションにおいても非常に重要で
す。
視覚障害者は、健常人と比較して得られる情報は非常に少なく、特に中途障害者
の場合には点字の習得が困難なケースが多くあります。糖尿病性網膜症は中途失明
の大きな原因となっています。
点眼療法は、視機能を維持するうえで重要であり、点眼薬の効果を確かなものに
するため、点眼後の注意点や点眼間隔など、正しい情報を提供し指導する必要があ
ります。
②
服薬支援のポイント
視野からの情報が乏しいため、わかりやすい言葉でゆっくり、はっきり説明を行
うことが重要です。視覚障害に起因して理解力の低下が起こっていることもあり、
それに伴った服薬能力の低下も考えられます。ある程度視機能がある場合は文章で
- 13 -
の説明が可能ですが、文字を太く大きくする、色をつけるなどの工夫が必要です。
服薬支援グッズ(触知型シール、点字シール、薬袋に凧ヒモ等で突起部分を付ける)
も利用します。
③
服薬支援グッズ
触知型シール 点字シール
表示文字サイズが大きい製品の選択
など
(5)聴覚障害者への服薬支援
①
服薬支援の方向性
病気そのものへの不安や、生活全般への大きな不安を抱えているため、安心して
服薬できるように支援します。
②
服薬支援のポイント
聴覚障害の状況(伝音障害、感音難聴、混合難聴)について正しく理解し、補助
機器等の適切な使用方法を理解したうえで服薬指導を行います。
補聴器が有効である患者に対しては、できるだけ静かな場所で表情やジェスチャ
ーを加えながらなるべく一対一で正面から話しかけます。
また補聴器を使用していることで「聞こえている」と思い込まず、音量の確認、調
整をしながら必要に応じて説明の内容を復唱してもらうなども有用です。
補聴器が有効でない場合は、読話によってコミュニケーションをとります。この
場合、対座する距離は 1∼1.5mが適切です。自然なリズムで話し、速さを変えず、
唇の動きが見にくくなるような動作はしないようにします。また話の内容が理解で
きているか常に注意を払います。理解できていない場合は表情に何らかの変化が現
れることが多いので、常に表情を観察しておきます。
複雑な服薬方法の指導は文書を用い、家族や介護者・看護者を交えて一緒に説明、
指導を受けていただきます。
③
服薬支援グッズ
筆談 補聴器 コミュニケーション支援機器など
(6)失語症(構音障害)者への服薬支援
①
服薬支援の方向性
失語症患者は言葉を正しく発音できない話し言葉の障害(構音障害)と言葉を理
解できないもしくは正しく利用できない等の言語の障害(失語症)に大別できます。
コミュニケーションを十分に行い、服用方法や服薬の意義を説明します。
②
服薬支援のポイント
構音障害の患者は見る、聞く能力には支障がないが、舌が動かない、唇が閉じな
い、または、嚥下障害を伴うことがあり、剤形に工夫が必要です。
説明を行う際は、繰り返し、また時間をかけて面接する、ジェスチャーを交えな
- 14 -
がらゆっくりと短い文章で話します。答えが長くなるような質問はできるだけ避け、
「はい」「いいえ」で答えることが可能な形で聞き取りを行い、特に重要な情報に
ついては改めて質問し答えてもらうなどして再確認します。
③
服薬支援グッズ
わかりやすい説明書の検討
(7)認知症患者への服薬支援
①
服薬支援の方向性
薬の管理は本人以外の家族や介護者・看護者等にて行います。
患者の記憶障害、睡眠障害、せん妄、うつ状態等、認知症の主な随伴症状を、本
人および、家族等より確認します。
服薬指導を行う際は、患者プロフィール等の基礎情報や認知症の原因疾患、それ
ぞれの薬の作用機序及び認知症の評価方法に関して理解しておく必要があります。
②
服薬支援のポイント
周辺症状の改善を目的とした抗精神病薬により、高齢による生理機能低下による
副作用発現の恐れも大きくなっているので、家族及び介護者・看護者に対して適切
な説明を行うとともに、詳細な患者情報を入手し、継続的な薬剤管理と指導が必要
です。
医師、看護師、ケアマネージャー、本人、家族などと連携し情報共有しながらの
薬剤管理が進んでいます。参考事例を以下に紹介します。
ア)DBC(Dementia Balance Check Sheet)
認知症の人の在宅生活をささえるため、日々の生活を支える“かかりつけ医”的
な、医療的サービスの充実が課題となっています。
そんな中、広島県の尾道市医師会では、認知症の人の日常生活を“介護”の分野
とも連携して支えようというシステムを作り上げています。
たとえば周辺症状を抑えるための薬の使用に関して、独自に「DBCシート」
を開発。生活の中で患者が見せる行動の特徴や状態を、家族、施設の介護スタッ
フがチェック。医師は、これを参考に薬物の効果、副作用の有無を見極め、薬の
種類や量を調整する。さらに、医師、看護師、ケアマネージャーなど、医療・福
祉スタッフ及び家族、本人が一堂に会する「ケアカンファレンス」を開いて、治
療と介護の方針を共有しています。
(次頁 DBC シート参照)
- 15 -
イ)センター方式(認知症介護研究・研修東京センター)の活用
認知症ケアマネジメントを進めるために認知症介護研究・研修東京センター
を中心に開発されたのが「センター方式」です。センター方式シートは、「基
本情報」
「暮らしの情報」
「心身の情報」等から構成されています。これらシー
トからは、服薬支援の視点からは、以下のような各種情報を入手できます。
「療養シート」
・本人の受診状況や服薬の全体状況がわかる
「24時間生活変化シート」
・1日の状態の変動や1日の過ごし方がわかる。
・変動の影響要因に関連する情報が得られる。
「生活リズム・パターンシート」
・睡眠パターン、排泄パターンがつかめる。
・食事・水分量、転倒等のリスクがつかめる。
センター方式は、http://www.itsu-doko.net/ で紹介されています。
- 16 -
③
服薬支援グッズ
服薬カレンダー
薬管理ケース箱
3)服薬支援グッズ
代表的な服薬支援グッズをご紹介します。
・薬のとりだし加工(錠剤取り出し器、軟膏を搾り出し器など)
・薬の加工(錠剤を半分に割る器具など)
・点眼用自助具
・嚥下補助ゼリー、オブラート、服薬用カップ など
・服薬カレンダー、管理ケース箱
・触知型シール、点字シール、補聴器 など
- 17 -
5.在宅医療での服薬支援
現在の在宅医療を、健康保険法の主な指導管理料として見ると以下のようなものがあ
ります。
・ 在宅自己注射指導管理料
・ 在宅自己腹膜灌流指導管理料
・ 在宅血液透析指導管理料
・ 在宅酸素療法指導管理料
・ 在宅中心静脈栄養法指導管理料
・ 在宅成分栄養経管栄養法指導管理料
・ 在宅自己導尿指導管理料
・ 在宅人工呼吸指導管理料
・ 在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料
・ 在宅悪性腫瘍患者指導管理料
・ 在宅寝たきり患者処置指導管理料
・ 在宅自己疼痛管理指導管理料
・ 在宅肺高血圧症患者指導管理料
・ 在宅気管切開患者指導管理料 など
これらの中から、用いられる機会も多く、薬剤使用との関連が深い在宅成分栄養経管
栄養法、在宅中心静脈栄養法、在宅悪性腫瘍患者の疼痛治療への薬剤師の関わりについ
て解説します。なお、ここで記載したものは、これら治療法に直接関わる範囲であり、
前章等で示した在宅療養者に関する一般的な注意は記載していません。
1)在宅成分栄養経管栄養法
(1)栄養管理の選択法
栄養管理の選択方法は、
「静脈栄養」と「経管栄養」があります。消化管機能があり、
かつ消化管が安全に使用できる場合は、生理的な投与経路である「経管栄養」が第一選
択となります。一方、消化管が使用できない、または使用しない方が望ましい場合には、
輸液による「静脈栄養」が選択されます。
(2)経管栄養法とは
「経管栄養」とは、諸種の原因により経口摂取ができない(または困難)な患者につ
いて、身体の維持に必要な糖質、タンパク質、脂質、電解質、ビタミンなどをバランス
よく配合した栄養剤を経管的に投与することで、食事摂取が不十分な患者の栄養状態を
正常に保つ栄養法です。
経口摂取が不十分または不可能な場合や、消化管を安静にする必要がある患者、炎症
性腸疾患、吸収不良症候群、代謝亢進状態にある疾患等が対象となります。
- 18 -
(3)経管栄養剤の種類
経管栄養剤には、消化器障害の程度に応じて、以下のようなものが選択されます。
消化態栄養剤 :軽度∼重度の消化器障害の場合
半消化態栄養剤:軽度∼中等度の消化器障害の場合
天然濃厚流動食:軽度の消化器障害の場合
経管栄養剤は1kcal/mlに調整し、維持期は通常 100ml/hrの速度
で持続注入します。
(4)投与経路
①
経鼻胃・十二指腸経路
チューブを鼻から胃あるいは十二指腸に挿入する比較的平易な方法で、短期間の
栄養管理に適していますが、異物感や咽頭痛などがあり、寝たきりの場合には誤嚥
性肺炎もおこりやすくなります。
②
胃瘻、腸瘻
腹部に小さな穴をあけ、チューブを通す方法。長期間にわたる療養の場合、患者
のQOLの向上が図れるなどの利点があります。
(5)薬物投与
錠剤やカプセル剤の薬は、チューブを通して投与するため、錠剤粉砕かまたはカプセ
ルをはずした状態で水または温湯に溶かして(懸濁)させて、チューブを通過させます。
その際、薬がしっかりと溶けて(懸濁)いるか、チューブの詰まりがないか、などが問
題となります。多くの錠剤は粉砕して用いるようにできていないため、粉砕することに
よりや体内動態の変化をはじめとした予測しがたいケースが生まれる可能性がありま
す。また、薬の成分と栄養素の相互作用が起こるケースもあります。
このような場合、薬の変更や投与方法の検討が必要です。
簡易懸濁法の活用
嚥下困難や経管投与などで、安易に錠剤を粉砕したり、カプセル剤を開封して調剤す
ることがありますが、薬品の安定性や薬品ロスなどの調剤上の問題、調剤者の健康被害
などが考えられます。そこでつぶし、粉砕調剤に代わる有用な方法のひとつとして「簡
易懸濁法」があります。
〔簡易懸濁法〕
服用時に1回分量の薬を約55℃の温湯20ml にいれてかき混ぜ10分間放置
する。その後、崩壊・懸濁した液を注入器に吸い取り経管投与する。なお、懸濁法
をつかえない薬剤もあるため詳細は『経管投与ハンドブック』(じほう社刊 倉田
なおみ著)を参照のこと。
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(6)管理上の注意
①
チューブ
チューブの閉塞…粉末栄養剤は十分に溶かし、投与後に投与後は微温水で洗浄す
ること。また、薬そのものや、薬と栄養剤の混合等により粘度
が増すことなどもあります。
チューブの自己抜去…鼻炎、咽頭炎等により自己抜去が認められる場合には、歯
磨きやうがい等による口腔内清潔の維持が効果的です。
②
医師に連絡が必要な症状
チューブの問題、腹部症状、代謝上の合併症などです。
医師に連絡が必要な症状例
・窒息あるいは呼吸困難
・吐き気、胃部不快感(お腹の張った感じ、胸やけ、あるいはおなかにガスが溜
まるなどの症状)が一日中続く
・嘔吐
・下痢が2日間続く
・便秘が5∼7日間続く
・脱水症状(のどがかなり渇く、口の中が渇く、唇が乾燥してひび割れている、
肌が乾燥して厚くなっている)
・1週間で1Kg 以上の体重減少
・処置しきれないチューブの詰まり
・24時間以上にわたり経管栄養を中止しなければいけない原因があった
・異常な衰弱、発熱、普段と異なる症状
・瘻に異常が認められる(赤くなる、痛み、ヒリヒリ感、腫れ、チューブの周り
からの滲出液)
・鼻孔内の出血、感覚麻痺
・口の中が出血しやすい
・チューブの位置が前回使用時と数 cm 以上異なる(胃瘻、空腸瘻チューブ使用の
方)
・残留物が依然として多い、あるいは残留物がなく満腹感が続く(胃瘻、経鼻胃
チューブ使用の方)
など
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2)在宅中心静脈栄養法
(1)在宅中心静脈栄養法について
中心静脈栄養法は、経口摂取が不可能な患者に対して生命維持に必要な栄養素をすべ
て静脈から投与し、栄養状態を正常に保つ方法です。消化管が使用できない(経腸栄養
が不可能)か、または使用しない方が望ましい場合で、末梢静脈栄養では不十分なとき
に選択されます。在宅でも実施されるようになり、入院生活からの開放と社会復帰が可
能になった例もあります。
在宅にて中心静脈栄養法を行うには、病態が安定していて、家庭で輸液調整や注入管
理が安全に行え、合併症による危険性が少ないことが必要となります。
(2)在宅中心静脈栄養法の適応
主な適応は、短腸症候群(腸管大量切除例で残存小腸が 75cm以下)
、腸管機能不全
例(クローン病、消化吸収不全症候群など)
、悪性腫瘍などです。
なお、脳梗塞、脳出血、パーキンソン病等の慢性期の場合で消化管機能に問題ない時
は、生理的な投与経路である「経腸栄養」が第一選択となります。
(3)使用される薬剤と器材
使用する薬剤は、高カロリー輸液用基本液(糖質・電解質)、アミノ酸製剤、脂肪乳
剤、ビタミン製剤、その他(微量元素製剤、電解質補正液、糖質輸液など)です。ビタ
ミン製剤は使用当日に輸液バックに注入・混合します。また脂肪乳剤は別の輸液ルート
から使用します。
器材は、カテーテル、輸液ライン、フィルター、輸液バック、注入ポンプ、消毒材料、
消毒薬、ヘパリン、生理食塩水などで、無菌操作など適切な操作が必要です。
(4)合併症と対処方法
中心静脈栄養法を長期間行うことで、時として合併症が現われることがあります。
合併症はカテーテルに起因するものと代謝に起因するものがあり、早期発見が重要で
す。
○ カテーテルに起因するもの(合併症と症状)
・血栓―上半身の腫脹・発熱・疼痛
・空気塞栓―呼吸困難、チアノーゼ
・カテーテル感染―38度以上の弛張熱が持続
・カテーテル位置異常―鎖骨周囲の疼痛性腫脹
・穿刺部皮膚壊死・感染―針刺入部の皮膚損傷、疼痛、発熱
・皮膚腫脹―皮下血腫
○ 代謝に起因するもの(合併症と症状)
・高血糖―口喝、尿糖出現
- 21 -
・低血糖―ふるえ、冷汗、顔面蒼白
・電解質異常―多汗、嘔吐、下痢、けいれん、しびれ感、意識混濁
・必須脂肪酸欠乏症―皮膚の乾燥、湿疹、脱毛
・
微量元素欠乏症(亜鉛やセレンなどの欠乏症)
―貧血症状、皮疹、口内炎、脱毛
・ビタミン欠乏症―夜盲、乳酸アシドーシス、くる病
3)在宅悪性腫瘍患者の疼痛治療
(1)疼痛治療の目標
癌の痛みのすべては治療できる症状であると言われています。
最終目標は、「痛みが消失して、患者の生活状況が平常に近づくこと」であり、段階
的に治療目標を設定します。初めは痛みに妨げられない睡眠の確保、次に安静時の痛み
の消失、そして体動時の痛みの消失であり、QOL の改善、気力の充実に向かうことです。
(2)疼痛の状況把握と患者・家族への説明
患者・家族に薬についての説明を十分に行い、理解を得て納得の上で薬剤が使用され
ることが重要です。痛みは患者本人以外はわからず、患者は痛みの強さと徐痛効果、副
作用症状の評価を行う上で、治療チームの一員としても重要な役割を担っています。ま
た数値評価スケールやフェイススケールを用いると痛みの状況について患者や医療ス
タッフ間で共通に理解ができます。
臨時追加服用法、副作用とその防止方法、薬の管理についても理解を得ておきます。
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(3)疼痛に対する投与法の基本原則
WHOでは 1996 年に「WHO方式癌疼痛治療法」が改定され着実な成果をあげてい
ます。
段階的投与法と使用薬剤は以下のとおりです。
第一段階(軽度の痛み)は非オピオイド鎮痛薬(非ステロイド系消炎鎮痛薬など)
第二段階(中程度までの痛み)は弱オピオイド鎮痛薬(コデインなど)
第三段階(中程度から高度の痛み)はオピオイド鎮痛薬(モルヒネなど)
なお、痛みの程度によりオピオイド鎮痛薬と非オピオイド鎮痛薬を併用します。また、
鎮痛補助薬として、抗けいれん薬、局所麻酔薬、向精神薬、抗不安薬、筋弛緩薬、抗う
つ薬、副腎皮質ホルモン薬があります。
(4)オピオイド鎮痛薬(モルヒネなど)の製剤について
オピオイド鎮痛薬の投与経路としては、経口、経直腸、経皮、持続静注・皮下注、く
も膜下・硬膜外投与などで、それぞれの製剤があり状況に応じて使用されます。
なるべく簡便な経路で投与します。経口投与を基本とし、不可能ならば坐剤等による
直腸投与、それでも困難な場合は注射剤とします。貼付型製剤は臨時追加投与法を明確
にして使用します。
<経口剤>
○ 速報性製剤(塩酸モルヒネ錠・末・液)
投与後数分で効果が現れはじめ即効的ですが、効果持続時間は数時間と短いた
め4時間毎の投与が必要です。臨時追加服用法、初期投与量調節時に適していま
す。
○ 徐放性製剤(硫酸モルヒネ徐放錠・カプセル・細粒・顆粒、塩酸オキシコドン徐放錠)
効果発現までに1時間以上必要としますが、効果持続時間は長く1日の投与回
数が少なくてすみます。
<外用剤>
内服が難しい場合に用います
○ 坐剤(塩酸モルヒネ坐剤、ブプレノフィン坐剤)
○ 貼付型製剤(フェンタニルパッチ):3日毎に貼り替えます
<注射剤>
○ 持続静注・皮下注、くも膜下・硬膜外投与(塩酸モルヒネ注射液)
※ フェンタニルパッチは、モルヒネ製剤から切り替えて使用する。
通常、成人に対し胸部、腹部、上腕部、大腿部等に貼付し、3 日毎(約 72 時間)
に貼り替えて使用する。
初回貼付用量はモルヒネから換算し 2.5、5、7.5mg のいずれかの用量を選択し、
過量投与にならないよう注意する。
その後の貼付用量は患者の症状や状態により適宜増減する。
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(5)モルヒネの投与量と薬理作用について
モルヒネは少しずつ増量してゆくと、鎮痛作用、催吐作用、止寫作用が現れます。ま
た、投与量が多くなると、強い眠気が現われます。それより多い量になると呼吸抑制作
用が現われます。
投与量については、痛みが消えていて眠気がなければその量を継続し、痛みが残って
いて眠気がなければ増量、痛みが消えていて眠気が強ければ減量します。
(6)オピオイド鎮痛薬(モルヒネなど)の副作用とその対策
主な副作用は、嘔気・嘔吐、めまい、便秘、眠気、せん妄、排尿障害、呼吸抑制、め
まい、発汗などがあり、発症予防と早期対応が求められます。
一番注意する副作用は服用開始すぐの嘔気と長く続く便秘で、予防が重要です。投与
開始と同時に、中枢作用性の制吐薬と下剤を使用します。また眠気は数日以内に消失す
ることが多く継続投与して様子をみますが、眠気が強い場合は減量または精神刺激薬を
使用します。せん妄には減量や薬剤変更・精神神経用薬使用、排尿障害にはコリン作動
性薬剤を使用します。呼吸抑制がある時には、一時的に投与を中止し、気道確保と酸素
投与、拮抗薬ナロキソンの投与を検討することになります。
表7 オピオイド鎮痛薬の主な副作用とその対策
副 作 用
状
況
嘔気・嘔吐
便
秘
眠
気
服用開始すぐや大幅な増量時に嘔
気が現れる。
対
処
方
法
中枢作用性の制吐薬を使用
(2週間程で耐性が形成される
ことが多く、この時期を過ぎても
嘔気がなければ制吐薬の減量中止
が可能)
下剤の使用(便を柔らかくして大
服用開始すぐ、便秘はほぼすべて 腸の動きを活発にする。耐性が形
成されないので、継続使用する)
の例に現れる
補助手段(浣腸、坐薬)食事に留
意
投与初期に、眠気が現れることが
ある
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継続投与して様子をみる
(継続投与すると数日以内に眠気
は消失することが多い。
)
眠気が強い場合は減量または精神
刺激薬を使用する
せん妄
錯覚や幻覚、興奮不穏が現れるこ 可能な場合は減量や薬剤変更、
とがある
精神神経用薬の使用
排尿障害
排尿遅延が起こることがある
コリン作動性薬剤の使用
呼吸抑制
鎮痛効果を確認しながら使用され
ている場合は発症は少ない
呼吸抑制は傾眠を伴っていること
が多い
一時的に投与を中止し、気道確保
と酸素投与を行う
また拮抗薬ナロキソンの投与を検
討する
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