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~認知症について正しく理解する~ 1 青森県立つくしが丘病院 認知症疾患医療センター 認知症とは・・・ 認知症の種類には、アルツハイマー型痴呆、脳血管性痴呆、その他があり、 認知症は脳の障害による進行性の病気 です。初期症状は単なる老化現象として 見落としがちになりますが、早期に的確な治療を行えば、進行をかなり遅らせる事 ができる場合があります。認知症が発症したり悪化したりする背景には、夫や妻 の死別・退職などによる喪失感など、急激な環境の変化による心理的な影響も少 なくないようです。認知症になると新しいことを覚える能力や物事を判断する能力 が低下します。重症になると自分の置かれた状況がわからなくなる、自分が今ど こにいて今日が何月何日なのか、家族を見ても誰なのかわらなくなる状態など が現れます。また、徘徊や異食(食べ物でないものを食べる)などの問題行動が 現れます。認知症として間違えやすい病態に、老年期うつ病、せん妄、失語症、 老人性幻覚症、薬の副作用による精神症状などがあります。 ◎認知症を疑う日常生活の変化 ~こんなことありませんか?~ ●同じことを何度も言ったり、聞いたりする ●慣れているところで、道に迷った ●財布を盗まれたと言って騒ぐ ●以前より服装がだらしなくなった ●夜中に起き出して騒ぐ ●置き忘れや、しまい忘れが目立つ ●計算の間違いが多くなった ●物の名前が出てこなくなった ●水道の蛇口やガス栓の閉め忘れが目立つ ●些細なことで怒りっぽくなった ●時間や日付が不確かになった ●日課をしなくなった ●以前はあった関心や興味が無くなった ●以前よりも疑い深くなった ●薬の管理ができなくなった ●テレビドラマの内容が理解できない 上記のような症状の該当項目数が多いほど、認知症が疑われます。 1 ★ 認知症と間違われやすい主な病気 認知症の原因となる病気はたくさんあり、その症状も多様です。また、認知症と 異なる病気であっても、同じような症状を示すことがあります。このような症状の 中で特に間違われやすいのが「せん妄」と「うつ状態」です。「せん妄」や「うつ 状態」は適切な治療を行うことで症状が改善する場合があるので、これらと認知 症の区別は大変重要です。早期発見・早期治療が大切になります。 《認知症と間違われやすい主な症状》 せん妄 老化による 物忘れ 薬物による 症状 うつ状態 ★ 「せん妄」と「認知症」の違い せん妄は、軽い意識障害で、判断力や理解力が低下し、しばしば幻覚や妄想 が現れて興奮を伴います。せん妄と認知症の違いは、せん妄の患者さんは1日の 中でも症状の変化が激しく「しっかりしている時期とそうでない時期」があること です。 せん妄 認知症 発症 ・突然の発症 (発症時期を時間単位で特定できる) 経過 ・一過性(一時的) ・数時間から数日、日によって、また一日の 中でも症状が大きく変化することが特徴。 (何ヶ月も続くことは、まずない) 2 ・穏やかに発症 ・徐々に進行 認知症予防とは、認知症の発症の危険因子を減らすことであるといって良いで しょう。認知症の8割前後は、アルツハイマー病と脳血管障害が原因疾患となって います。従って、この2つの疾患を予防するということが重要になります。 図は、加齢が原因の普通のもの忘れ(良性健忘)と、アル ツハイマー型認知症の経過の違いを示したものです。初期 は記憶の障害と共に、失見当、徘徊、夜間せん妄などみら れます。後期になってくると、自発性がなくなり、寝ている 時間が増えていきます。アルツハイマー型認知症の進行 スピードには個人差がありますが、初期から後期に至るま で、平均約8年かけて進行していきます。 出典 長谷川和夫 「認知症のしりたいことガイドブック」 中央法規 1 脳血管性認知症 1)危険因子 脳血管性認知症は脳の血管の障害で起こります。脳の血管障害の原因疾患 としては、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などがあげられます。 これらの疾患の危険因子として、運動不足、肥満、食塩の過剰摂取、飲酒 喫煙の生活習慣、高血圧症、高脂血症、糖尿病や心疾患などがあります。 2)予防 健康診断で定期的に検査しましょう。また、生活習慣病に気を付け、病気があ る場合は、治療をしっかりしましょう。適度な運動と規則正しい生活習慣 が大切です。 2 アルツハイマー型認知症 1)危険因子 年齢・家族歴・高血圧・糖尿病・喫煙・高コレステロールなどがあります。 2)予防 食習慣としては、魚の摂取・野菜果物などのビタミンが多く含まれた食材・ 適度なワインなどが予防に有効と言われています。運動習慣では、有酸素 運動や会話など、身体的、精神的活動が有効と言われています。 有酸素運動は、脳の血流を増し、血圧やコレステロールのレベルを 下げる効果があります。また、文章を読む、知的なゲームをするなどが有効と のデータもあります。 3 (1) 基本症状 軽 度 記憶障害 中 度 重 度 もの忘れ、置き忘れが 最近の出来事がわか 自 分 の 名 前 が わ か ら な い 寸前の事も忘れる 目立つ らない 異なった環境におかれ 失見当識 ると一時どこにいるのかわか 時々、自分の部屋がどこ にあるのかわからない 自分の部屋がどこにあ るのかわからない らなくなる (2) 問題行動 軽 度 攻撃的行為 攻撃的な言動を吐く 徘 徊 時々、部屋内でうろ うろする 中 度 重 度 乱暴なふるまいを行う 他人に暴力をふるう 家中をあてもなく歩き 屋外をあてもなく歩き まわる まわる トイレを汚す 不潔行為 衣服等を汚す 糞尿をもて遊ぶ 汚れた衣服を替えない 場所をかまわず放尿・排便 をする 失 禁 誘導すれば自分で トイレに行く 時々、失禁する 常に失禁する 不穏・興奮 時々、興奮し騒ぎ たてる しばしば興奮し騒ぎ たてる いつも興奮している 4 速読 「3分間で新聞を最初から最後まで見る」「気になる見出しに赤マルチェックする」というのが お勧めです。新聞の文字数は大変多いものですが、「3分間」と時間を区切ると、さっと目を 通すことはできます。これを日々の習慣にすれば、徐々に早く読めるようになります。 鏡面文字を書く 鏡面文字とは、左右対称で書く文字のことです。 あのレオナルド・ダヴィンチも多用していたことでおなじみのトレーニングです。 脳を鍛える方法 20秒で初対面の人の顔と名前を覚える。 20秒かけて1つの事に集中し、それを記録しようとすれば、その記録は短期記憶から長期 記憶に移行して安定するのだとか。ですから、名刺とその人の顔を3秒単位で交互に視線 を移動させながら、20秒かけて、その人の名前と顔を記憶してみます。 睡眠前記憶法 何かを覚えるとき、睡眠前に記憶して、翌朝目覚めた直後に復習するのがもっとも効率的 だと言われています。この記憶法を睡眠前記憶法と言います。 チョコレートの効果(板チョコ4分の1程度) チョコレートにはテオブロミン・ブドウ糖・香り成分・ビタミン・ミネラル類などの成分があり、 大脳皮質を刺激し、集中力・記憶力・思考力を高め、やる気を出します。また、カテキンや アントシアニン等も脳血管内で抗酸化作用を発揮し、認知症予防に効果があると言われていま す。ただし、食べすぎには注意して下さい。 脳を活性化するアロマテラピ― 脳を活性化する香りというのがあります。こういうもので脳に働きかけるのも良いでしょう。 ラベンダー ・・・副交感神経を刺激してリラックス効果があります。 ローズマリー ・・・交感神経を刺激して記憶力や集中力を高めます。 よく噛むこと 咀嚼(噛むこ と )、こ れは食事を 摂る為に最低必要な生理行動ですが、それ以外に 代謝 のコントロールやダイエット、さらに噛むことによって脳の海馬が刺激されるという結果が 注目されています。海馬は記憶や情緒と深い関係があり、その活性が高まることが脳の 健康の為には重要です。 5 当センターに相談があった一部を紹介します。相談者の過半数は、介護する家族 です。相談内容は多岐にわたり、一つとして同じ相談はありません。 <事例1> 相談内容 長男と受診 物忘れあり(同じ事を繰り返す)。また、以前はりんごの仕分けのプロであったが、3~4 年位前からできなくなった。食事の味付けもしょっぱくなり、現在はほとんどできない状 態である。排泄面でも汚染した下着をタンスに隠すなどの行為あり。徘徊や暴言などは 見られず家族としては、認知症がこれ以上進まないようにしたいと受診した。(市外在住) <結果> アルツハイマー型認知症と診断。薬を処方し、少し様子をみることにした。今後は、地元 の病院で診てもらいたいと家族の希望があり、地元の希望する病院へ紹介状を作成し た。介護保険制度について説明すると、介護サービスを利用したいという希望があった。 その為、地元の地域包括支援センターを紹介し、家族の同意を得て当院より情報提供を し、今後の介護サービスについて対応していただいた。 <事例2> 相談内容 娘からの電話相談 春頃から父親の様子がおかしかったが特に目立った事はなかった。一週間位 前に嫉妬妄想があり妻に「浮気をしているのではないか」と暴力をふるおうとし た。その後は、夫婦で買い物や、病院に行ったりしている。本人は暴力をしたことは覚え ており、「浮気するから悪いんだ」とその日のことを話している。娘はその事を、 「こころの電話相談」に電話すると当院を紹介された。 <結果> 暴 力 行 為 は 一 回 だ けであり 、そ れほ ど日 も経 っていない為 、そ れだ けで認知 症と いうには疑問がある。もう少し様子を見て観察することを勧めた。かかりつけ医の有無を 聞くと、近くの内科に定期的に通院していた。そこで、かかりつけ医に相談してみることを 勧めた。当院に受診が必要であれば紹介状を持参してもらうように伝えた。また、夫婦間 の暴力の問題については女性相談所も相談にのっていただけると思いますと伝えた。 <事例3> 相談内容 長男の嫁 包括支援センター職員と共に来院。 高血圧、脳梗塞にて某病院の内科に通院している。今年の7月頃から夜中(3時~4時) におきて家の中をうろうろしたり、不穏な行動があった。最近は嫁を誰だかわからなくなっ ている。できれば、診断してもらい今後どうするか考えたいとの事だった。後日、包括 支援センター職員とともに当院を受診した。 <結果> アルツハイマー型認知症(中等度)と診断される。 ドクターからは今後は、施設入所等を考えた方がいいとのこと。 今後は、家族と話し合い、施設入所を含めた話し合いを持つ事とした。利用が必要 な場合には、介護サービスの利用・手続き等について、包括支援センターの職員に 今後の介護サービスの対応をお願いした。また、当院に受診の際に困った事があ れば、いつでも相談にのる事を伝え、家族・地域包括支援センターと連携をとっていく事 とした。 6 ☆ 対象者が認知症の自覚がない為、受診拒否をしている時の対応 本人が納得し受診してもらうには、とてもたくさん時間を要します。 納得していただくには、じっくりと相手と向き合い、御家族の方も一緒に考えていく ようにしましょう。信頼関係を築くことが重要です。この事からも、日常のケアする 中で、相手の事をよく観察し「なんとなく変!」を早期に発見しましょう。 次に、どこか体の具合が悪くないかなど、身体症状の異常の自覚をきっかけにし て受診を勧めるのも良いでしょう。健康診断や脳ドックなど勧める方法もありま す。他に、家族会を活用し、同じ事例を持っている人達の話を聞く方法もありま す。あらゆる説得に応じない場合には、家族が地域包括支援センターや保健所、 市役所、精神保健福祉センター等の関係機関に相談し、時間をかけて方法 を考える事になります。活発に精神保健福祉活動を実施している機関の相談員 や保健師が訪問し受診に結び付けてくれる場合もあります。それから先は強制的 に受診に繋げるか、うまく結びつけるかはケースバイケースです。ただ、本人の 意 思に反して強制的に受診させるのは、その後の治療上では望ましいとは言い難 く、できれば避けた方がいいでしょう。 ☆ 家族が認知症に対する意識が低く、支援が必要と思われる場合でも家族に 大丈夫だと言われてしまう場合の対応について ①なぜ支援が必要なのかを家族に何回も説明しましょう。 ②ほかの家族(兄弟)に支援をいただく。 ③本人・家族が困った時に迅速に対応できるように、継続的に見守りましょう。 その為には、本人・家族が困った時は、いつでも連絡できる体制が必要です。 ☆ 専門医での治療とはどんなことでしょうか 認知症の疾患の原因は様々あります。そのため、処方した薬の効果がなかなか 現れにくいことがあります。鑑別診断をして原因を知り、適切な服薬を含めた治療 が必要となります。 ☆ 認知症かもしれないがどこに相談・受診したらいいでしょうか 最寄りの地域包括支援センター・保健所・市役所等にご相談する方法もあります。 当院には、認知症疾患医療センターを設置しております。 当センターでは、保健医療福祉機関等と連携を図りながら、認知症疾患に関する 鑑別診断、周辺症状と身体合併症に対する急性期治療、専門医療相談を行って おります。困った時はいつでもご相談ください。 受付時間 8:30~17:00 (土・日・祝日は休み) 017-788-2988 7 参考文献 認知症介護研究・研修東京センター 認知症介護研究・研修仙台センター 認知症介護研究・研修大府センター /監修 「図表で学ぶ 認知症の基礎知識」 中央法規出版 高齢者保健福祉 相談実務研究会 /編著 「高齢者保健福祉の相談実務」 第一法規出版 青森県高齢福祉保険課/ 「認知症ケア -認知症の人と家族のために-」 青森県立つくしが丘病院 認知症疾患医療センター 〒038-0031 青森市大字三内字沢部 353-92 代表電話 認知症相談 017-787-2121 017-788-2988 8