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2009.4 Vol.3

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2009.4 Vol.3
ボランティアスタッフがつくる和歌山県男女共生社会推進センターの書評誌
2009.4
Vol.3
書名
自伝じょうちゃん
心を癒す「ほめ言葉」の本
セックスボランティア
カミングアウト・レターズ
最高の「女友だち」に出会える本
女の敵
テレビニュースの解剖学
対話まんだら 言葉果つるところ
自伝じょうちゃん
著者等
ページ
松谷みよ子
平木典子ほか
河合香織
RYOJI +砂川秀樹
藤村かおり
遙洋子
小玉美意子
鶴見和子
石牟礼道子
1
2
2
3
3
4
4
5
書名
夫という名の他人
大人が知らないネットいじめの真実
お父さんエラい!
女性のための老後を生きぬく
110の知恵
山のむこうは青い海だった
勝間和代のインディペンデントな
生き方実践ガイド
著者等
ページ
岡野あつこ
渡辺真由子
重松清
5
6
6
野原すみれ
7
今江祥智・長新太 7
勝間和代
8
松谷 みよ子 著、朝日新聞社、2007年、(J・マ)
「松谷みよ子」の名前を知らない人がいたとしても、
「龍の子太郎」や「おばけちゃん」や「ちいさいモモ
ちゃん」を知らない人はいないでしょう。子どものころ、誰もが一度は夢中になって読んだこれらのお話を
生み出した、松谷みよ子さんの自伝です。
弁護士一家の末っ子として自分を「じょうちゃん」とよんでいた恵まれた子ども時代から、12歳で父と
死別し、やがて戦争が始まり、終戦、結婚・離婚を経て、作家として自立するまでがつづられています。誰
もが知っている「龍の子太郎」や「貝になった子ども」などのお話が、作者の中でしだいに形作られていく
過程が垣間見られてとても興味深いです。
また、作者は戦争中にOL生活を送っていました。食糧難の中、空腹に耐えながら仕事をしたり、空襲の
危険を冒しながら知人を訪ねて小旅行をしたり・・・。戦時下というひどい状況の中でも日常はすぎていく
のだということがとても印象に残ります。
作家「松谷みよ子」の内面を、戦時下・終戦直後の日常生活とともにリアルに追体験することのできる、
おすすめの一冊です。
(I.I)
※各書評には りぃぶる での分類記号を記載しています。例(F ・ア)。アルファベットの意味は次のと
おりです。カタカナは著者名の頭文字です。
A :フェミニズム B :労働・法律 C:家族・結婚 D :女性・子どもに対する暴力 E :こころ・癒し
F:子育て G :からだ H:セクシャリティ I:女性史 J:自伝・評伝 K:エッセイ・文学
L :高齢社会・福祉 M :男性学 N:資料・雑誌 O その他
☆ りぃぶる
図書・情報資料室には、本誌掲載の本の他、多数の本やビデオを所蔵しています。
貸し出しは、本は3冊、ビデオは1点まで。貸出期間は2週間です。お気軽にご利用下さい。
開館時間 9:00∼20:30 休館日 日曜、国民の休日、年末・年始(12/29∼1/3)
お問い合わせ 〒640-8319 和歌山市手平 2-1-2 和歌山ビッグ愛9F TEL 073-435-5245
- 1 -
心を癒す「ほめ言葉」の本
セックスボランティア
幸せへのヒント
河合 香織 著、新潮社、2004年、
(K・カ)
平木 典子とアサーション研究グループ 著
大和出版、1998年、
(E・ヒ)
この本にでてくるセックスボランティアとは、障害
ふだん恥ずかしくてなかなか口に出せない「ほめ言
葉」
。この本は、
「ほめ言葉」から生まれる自分も相手
も幸せになれるヒントがたくさん詰まった1冊です。
者の性に関わるボランティアであり、著者は実際に障
害のある人や介助者、風俗店、そして、障害者の性に
ついては先進国であるオランダへも取材に行っている。
特に印象に残っているのが「私たちは自分のよく見
「障害者の性」についてはタブー視されやすいが、著
知っている人に対しては、ほめ言葉を出し惜しみしが
者も元々は障害者や福祉について書いているフリーラ
ちです。
「
『そんなこと言わなくてもわかっているじゃ
イターではなかった。セクシュアリティの問題を取材
ないか』という気持ちがあるからでしょう」という一
しているうちに障害者の性についての問題にぶちあた
文です。一番身近な両親や兄弟に対して「素敵だな」
と思うことがあっても照れくさくて伝えられない私で
ったのだ。障害がなくても恋愛や結婚ができない人が
いる。しかし、障害があるとさらに厳しくなる。しか
すが、この本はそんな気持ちをそっと後押ししてくれ
し、障害者とはいえ、性欲はある。その点をどうした
ます。
のか?そして、介助者としてボランティアを志願した
もう一つハッとさせられたのが、
「一つのものごとに
は良く見える面と悪く見える面の両面があり、その両
人はどんな気持ちでしたのか、そして、どうなってい
くのか?著者によって取材されている。
面で全体が作られているのですが、悪い面ばかりを見
ていると、人は嫌な気分になったり、落ち込んだりし
て、あまりいいことはありません。もっと積極的に良
読み進めているうちに、障害者の性ということにと
らわれず、人間の性とは、という問題を考えさせられ
る本である。
い面から見ようとしましょう。そして、
『いいなあ』と
その良さを確認できたとき、それは自然と自分や相手
に対するほめ言葉となって出てきます。
」という一文で
す。仕事で疲れたり、悲しい出来事があったりすると、
どうしても悪い面ばかりを見てしまいがちです。しか
し「どんな物事にも悪い面だけでなく良い面がある」
というメッセージが込められています。そう考えると
今起きている出来事も、裏返せばプラスの要素がある
んだな、と考えられます。そして、
「あの人には嫌なと
ころばかりだ」と思っていた人にも、自分がその人の
ことをマイナスにとらえていただけで、実はそれがそ
の人の良い面にもなり得ると気づかされます。
ちょっと物事を前向きにとらえられない、何だかモ
ヤモヤしている、という方は、ぜひこの本を読んで自
分や周囲の人が持っている素敵な要素を見つけるきっ
かけにしていただきたいと思います。
(牛さん)
- 2 -
(りこ)
カミングアウト・レターズ
最高の「女友だち」に出会える本
子どもと親、生徒と教師の往復書簡
泣きたい時、笑いたい時、元気が足りない時に
RYOJI+ 砂川秀樹 編、太郎次郎社エデイタス
藤村 かおり 著、三笠書房、2001年、
(E・フ)
2007年、
(H・リ)
「ともだち」と一言でいえば、簡単な言葉だ。会わ
「カミングアウト(coming out)
」という
英語は本来ゲイやレズビアンが、仲間が集まるバーに初
ないと淋しくなったり、不安になったりするものでも
ないし、その存在を意識することもない。
人はどんな場でも、一人きりでは生きていくことは
めて行くようになるなど、なんらかのかたちで「コミュ
ニティ」
に参加するようになるという意味だったという。 できない。些細なことから、人生に関わることまで、
どんなことであれ、耳を貸し、親身になってくれた時、
しかし、いつしかみずからの性的指向を誰かに(主に異
性愛者)
に伝えることを指すようになっていったらしい。 友達の絆や関係性を実感するものではないでしょう
か?また、友人への態度や考え方でその人の人間性が
日本にこの言葉が入ってきたときには、すでに「ゲイ
である」
「レズビアンである」ということを告白するこ
わかったりすることがあると本書は述べている。
とを指していたが、
近年ではなんらかの秘密を打ち明け
本書は、大人になるにつれ、環境が違ったり、同じ
るという意味で使われることも少なくない。
本書のカミ
ように変化をとげなかったりすることにより、友情を
ングアウトは前者を意味する。
持続することが難しくなるが、作者は、友情をどのよ
自分が同性を好きであると気付いた子どもたちは「異
性愛」があたりまえの家庭、学校、社会のなかで孤独感
うに継続しているかを、自分の体験を通し紹介してい
る。
を深めていく。
「これは話してはいけないこと」
「わかっ
また、新たに「ともだち」を作ることも難しく、作
てもらえるわけがない」
「自分は異常ではないか」と思
者は、磁石のようにふいに惹かれあい、出会った瞬間
いひとり悩み苦しむ。
子ども時代に
「話すのはやめよう」
に「はっ」とする何かが生まれる時があり、もう一度
と思った彼、彼女たちが何故カミングアウトし、またカ
会いたいと思う気持ちに敏感になることで、きっと ど
ミングアウトすることで、親、教師たちと関係を深め、
んな場所でも
絆を結びなおすことができたのか。
本書は7人の同性愛
っていく。どんなにつきあいが長く親しい友人でも、
者とその親、
教師とのカミングアウトをめぐる往復書簡
ふたりは一心同体ではなく、たとえ彼女の生き方が自
である。自分が同性愛者であることを受け入れ、マイノ
分の想像の範疇をこえたとしても理解していくのが友
リティとして生きていくことを伝える。いっぽうカミン
人であり、一人の女性として認め合い新たなつきあい
グアウトされた親、教師は驚き、悩み、葛藤し、そのこ
をスタートさせていくことが大切だと述べている。
どんな時 でも新たな世界がひろが
本書を読み終え、改めて、自分にとって「ともだち」
とを受容し励ましていくなかで、現代社会におけるマイ
とはどういうものなのか、これからどのように接して
ノリティの人権についても考えていく。
軽い気持ちで本書を手に取った私は読み終えて、ゲ
いこうかを考えさせられました。また、今まで出会っ
イ、レズビアンの人々に対する偏見、誤った知識を持
た「ともだち」の大切さと感謝の気持ちと、新しい出
っていたことをあらためて思い知らされた。そして「カ
会いを大切にしたいという気持ちになりました。
ミングアウト」という言葉の裏には様々な思いがこめ
られているのも知らず、ただ秘密を打ち明けるという
意味で使ってきたことに赤面の思いである。
(marcy)
- 3 -
(えりか)
「なんで女性だけが妊娠するのだろう」
女の敵
どうやら、これが男女不平等の根元のようだ。その
上で、女性を応援してくれるなら、どんな考え方を持
つ男性であっても、その男性は女性の味方であろう、
遙 洋子 著、日経BP社、2007年、
(K・ハ)
とする著者の見解に、男性である私も頷いた次第であ
「働くオンナの行く手を阻むのは、オヤジだけじゃ
る。
(中 拓哉)
ない」との帯の言葉に惹かれたのと、テレビのワイド
ショーなどで小気味好い大阪弁で男社会の本質を
せいこく
えぐ
『正鵠を射る』が如く鋭く抉り出す彼女の発言に、常々
テレビニュースの解剖学
感心していたこともあり、この本を選んだ。
映像時代のメディア・リテラシー
タレントや作家としての仕事を持つ著者が、日常で
小玉 美意子 編、新曜社、2008年、(A・コ)
出会う多様な人たちを題材に、何気なく交わされる会
話の中に潜む不条理の数々を改めて気付かせてくれる
内容に満ちていた。
先ずは、著者自身の兄・兄嫁・甥姪が対象だ。実家
で営まれた法要の際、女だからと排除された時、
「その
いわ
謂れはない」と頑張る彼女に、
「洋子ちゃんはもう男と
して生きるねんて。もう女ではないから」と嘲笑する
あぶ
兄嫁の姿を通して、
「女の敵は女」を炙り出す。
厄介なのは、女の位置に安住したがる女の方なのだ
と。
次に、職場では如何にも紳士然と振舞う男性が、新
地のクラブでホステス相手に何ら悪びれることもなく
セクハラを繰り返す様を通して、男社会の醜さを映し
出す。
更に、パートナーの尊厳を傷つけてもいいという、
相手を見下げる関係性から生まれるDVについては、
他の人もいる面前でテレビ局の社員が自分の妻を侮辱
し、男の上司が不倫相手の部下の女を会議の席上で感
情的に度を過ぎて叱責する姿を通して、余裕のなくな
った男性が露呈する権力構造の根っこの部分を摘出し
てみせる。
共働きで家事も完璧に分担し、男女平等夫婦を実践
してきた夫婦が、妊娠を機に二等分できない現実に見
舞われ、妊娠・出産・育児の苦労を夫にも分担させた
いと訴える女性に対して、著者は「夫から慰謝料を貰
いましょう」と勧める。
悔しさの収めどころとして、お金でカタを着けるし
かないとするのが、著者の取りあえずの結論なのだ。
妻は、夫を責めてもどうしようもない現実に、やが
て夫を責めなくなったからといって、納得して受け入
れたわけではない。ずっと静かに怒っているのだ、そ
マスメディアの一番大きな仕事は政治・経済・社会・
文化などのさまざまな事象を報道することである。と
ころがその報道が時によって政治的にあるいは商業的
に影響を受け、内容が偏ったりゆがめられたりするこ
とがある。日頃、そういったことに気が回らない報道
の「受け手」である私たちに対して、著者は、テレビ
ニュースに焦点をしぼり、その情報を分析することの
重要性や手法を教示し、もっと情報に強くなるよう<
リテラシー>奨めている。
この本の構成は四部(十一章)からなる。第一部で
は、ニュースの内容を分析し、実証することが大切で
あると強調している。つぎの第二・三部では、そのた
めの取組方法やデーターのつくり方・まとめ方などを
教示してくれる。そして第四部の前段はテレビニュー
スに関する海外状況、後段は、
「送り手」であるジャー
ナリズム側の立場・意見などが掲載され、公平でキメ
細やかな配慮がなされていると思った。
各章の最終ページに執筆者11名のコラムが、個々
に設けてあり研究調査への情熱と挫折、取って置きの
話などが綴られている。それぞれに個性的で興味深く
読ませてくれる。すでに小中学校では、このメディア
リテラシーの授業が採り入れられ、俯瞰的クリティカ
ルに情報を捉えられるよう子どもを育成している。
いよいよ国の将来を決める大切な選挙が近づいてき
た。テレビによく登場する政治家の気の効いた言葉や
映像を鵜呑みせず、子ども達の将来に禍根を残すこと
のないよう大人は、しっかり義務を果たしたいものだ。
齢を経ても未知を恐れず、勉励することの大切さを示
唆してくれる本である。
うだ。
- 4 -
(おゆ)
鶴見和子・対話まんだら
夫という名の他人
石牟礼道子の巻
夫婦の岐路に立つあなたに
言葉果つるところ
岡野 あつこ 著、実業之日本社、2003年、
(C・オ)
鶴見 和子・石牟礼 道子 著、藤原書店
2002年、
(K・イ)
今の時代、一度も離婚を考えたことのない人は、稀
対話形式の書物には話者の生の姿がある。テーマに
沿って述べ合っていくが、その時々の発言に互いが触
発されて一層深まり、止揚されていく。一種連句の世
界のような趣がある。添削できないその場限りの二人
の生の言葉は、よく磨かれていてとても美しい。
そもそも鶴見和子と石牟礼道子との接点はどこにあ
るのか。
片やアメリカや日本の大学で修学した著名な社会学
者であり、上智大の教授。片や天草に生まれ、水俣病
患者のいわれなき苦しみを「苦海浄土」に著した作家。
自らを「田舎の一主婦、一歌詠み。本屋も知らないで
地方にずっといる」と言っている人だ。
こんな二人の出会い、出会いの深まりはいかなるも
のだったのか。
「水俣市繁栄のために5万近くの市民の命と当初2
6名名前の上っていた患者の命とどちらが大事か」と
言われた頃に、
「その人たちが生まれて生きて人間の絆
かもしれません。
でも、ひとりで悩み続けているうちは、そこから一
歩も前進できないのです。やりなおすにしろ、離婚と
いう決断を下すにしろ、今の自分を冷静に判断し、理
解すること。そしてどうしたらいちばん幸せになれる
のかをまず考えましょう。
そんな時、離婚カウンセラーとして、夫婦関係アド
バイザーとしてテレビや雑誌で活躍中の著者がたくさ
んの相談の中から培ってきた経験や実例をあげながら、
その事象をどうとらえ、考え、対処していくか、具体
的にアドバイスしてくれます。
この本はあなたの良きアドバイザーになってくれる
そんな一書です。
今現在、離婚に直面しているご夫婦、まだそこまで
ではないけれど離婚という言葉が頭をかすめているあ
なたに最終的な決断をする前にぜひこの本を読んでい
ただきたいのです。
を深く大切にしあっている日常の世界をなくしていい
ものか」と学問の言葉を知らない私のようなものが言
わなきゃ、と作品を書いたという石牟礼。
しかし、
「中央で、学者が学問の言葉にしてピシッと
言ってくれないかと触手を伸ばして」いて、
「思想の科
学」と出会い、そこで近代化論の再検討を研究してい
るのを知り、水俣の調査を依頼する。
一方、上智大の国際関係研究所にいて、上からいい
所だけを見ている近代化論を再検討していた鶴見は、
現場で自らの論を試してみたいと水俣入りし、初めて
石牟礼と出会ったのだ。1976年のことだった。鶴
見は、
「水俣に開眼された」と語っている。
対話はこの「はじめての水俣入り」から始まる。そ
して、二人共通の短歌、アニミズム、近代化への問い
と内発的発展論・・・へと、互いに敬意を抱き、波調
も合い楽し気に続いていく。終始二人の魅力にあふれ
た対話まんだらであった。
(大空)
- 5 -
(百武 敦子)
大人が知らない
お父さんエラい!
ネットいじめの真実
単身赴任二十人の仲間たち
渡辺 真由子 著、ミネルヴァ書房、2008年、
(F・ワ)
重松 清 著、講談社、2003年、
(M・シ)
インターネットの普及で、私たちは世界中の情報を
家族のために単身赴任をしないというひとがいる一
簡単に手に入れることが出来るようになった。個人情報
方で、家族のために単身赴任を選んだというひともい
も例外ではない。また、自らも様々な情報を発信するこ
る。ならば単身赴任について考えることは家族や仕事
とが出来る。しかし、便利さの陰に危険が潜んでいる。
について考えることと等価となり、ひいてはそのひと
そして、これは大人に限ったことではない、ということ
にとっての幸せのかたちを探ることにもつながるだろ
を忘れてはいけない。
う−そう考えた著者が単身赴任真っ最中の20人にイ
本書は、まさに「大人たちが知らない」子どもたち
ンタビューしたルポルタージュ。
のネット環境や人間関係と「いじめ」の実態を、実例や
「転勤なし」の約束で入社したはずなのにまさかの
調査結果をもとに描き、今、親や教師を含めた大人と子
辞令で赴任地へ向かった方から、自ら手を挙げその地
どもたちが何をすべきかを提案している。
へ赴いた方まで単身赴任への経緯はそれぞれだけれど、
携帯電話は「ケータイ」と呼ばれ、メールができゲ
みなさんその新しい環境を一生懸命に楽しもうと奮闘
ームができ、音楽が聴けて漫画も読め、写真や動画の撮
されている。仕事に趣味に、赴任仲間との語らいに。
影までできる魅力的な『おもちゃ』となった。これを与
精一杯楽しむことで、ひとりで過ごす時間の寂しさを
えられた子どもたちが、自らを律し、他人に迷惑をかけ
埋めようとしているのだろうということが透けて見え
ないよう配慮しながら使うことは難しい。実際、携帯電
てはくるのだけれど、寂しさをのみ込んで、その上で
話の普及により、子どもの人間関係は大きく変わり、い
明るく前向きにやっていくのがいちばんと言ってのけ
じめも増えている。いじめの手口、
「学校裏サイト」や
る姿はなんと力強いことか。お父さんがこんなに頼も
「プロフ」など、子どもたちを取り巻くネット環境は、
しく頑張ってくれていると思うと嬉しくなってくる。
大人たちの想像を遥かに超えている。そして残念なこと
に、それを悪用しようとする大人たちもいる。
離れているから、ひとりの時間が多いからこそ家族
についても思いをはせる。そしてあらためて家族との
いじめを受けた体験は、被害者の人生を狂わせるほ
絆を結びなおし、離れて暮らすことがいい経験になっ
どの影響をもたらすこともある。そして、
「いじめられ
たとおっしゃる方もいた。これもまた素敵なことだと
る側にも問題がある」とか「いじめられる子=弱い子」
思う。しかし逆に言えば、家族と暮らすお父さんは、
という大人たちの間違った認識がさらに被害を大きく
平日は仕事、休日は家族サービスと忙しく、ひとりで
していく。また、身体的特徴をお笑いのネタにすること
ゆっくりと思いを巡らせる時間もないということかも
や、暴力表現や刺激的な性表現などによって、子どもた
しれない、という著者の指摘には虚をつかれる思いが
ちにいじめのヒントを与えてしまうメディアにも責任
した。故郷は遠くにありて思うもの、家族もまた然り
がある。
では少し寂しい。結局は与えられた環境の中でどのよ
私たち大人は、この現実を理解した上で、子どもた
ちの問題に対応しなければいけない。そしてそのために
うに幸せを見つけていくか、絆をつないでいくかが大
切だということなのだろう。
は、子どもにとって信頼できる存在にならなければいけ
ない。そんなことをあらためて感じた。
(しおざき)
仕事をし家族を想い、明るく頑張る20人のお父さ
んたちから、元気と、父や家族についてあらためて考
えるきっかけを与えてもらった。単身赴任に縁のない
方にもおすすめしたい気持ちのいい1冊です。
(あやもも)
- 6 -
女性のための老後を生きぬく110の知恵
山のむこうは青い海だった
野原 すみれ 著、北辰堂出版、2008年、
(L・ノ)
今江 祥智 作、長 新太 絵、理論社、2003年、
(K・イ)
我が家の居間に新聞の一面広告が貼ってある。スキ
高杉晋作に憧れる中学一年生の男の子、ピンクちゃ
ーヤーの三浦雄一郎氏が大木の根元に座っている写真
んは、気弱な自分を鍛えるため、母の生まれ故郷であ
で「老いは怖くない目標を失うのが怖い」というコピ
る和歌山県のワシモト市へ旅に出た。そこで、地域に
ーがついている。気に入っていつも見ている。
「怖くは
できる円形図書館の本を購入するため、カエルやウナ
ない」されど「老い」である。やはり不安がいっぱい。
ギを捕まえて、自分達でお金を稼ぐ地元の子どもたち
そんな時にこの本の題である。
と出会う。彼らと行動をともにしながら事件を乗り越
野原すみれさんは1998年『老親介護は今よりず
え、たくましく成長していく物語。
っとラクになる』という本で、実母・義母の介護15
まだ戦争の匂いの残る1960年代が舞台だが、今
年の経験を綴っている。私が介護を始めたときに読ん
読んでも驚くほど古さを感じない。ユーモラスで軽快
で勇気づけられた本である。―女性のための老後を生
なテンポよい文体と、長新太氏の可愛らしいイラスト
き抜く110の知恵―これは読まねばならない。
に思わず引き込まれてしまう。さらに本書を読んでい
それも110の知恵がつまっているのである。しか
ると、海や空の色が鮮やかに目の前に映る。とても前
し、しょっぱなから頭をガンと打たれた感じがした。
向きで明るく爽やかな後味が残る。また、物語中に散
「はじめに」には「やがてみんなはひとりになるんだ」
りばめられている紀州弁も嬉しい。
という独白があった。野原さんが介護保険の認定審査
この物語には、厭味な人間は誰一人として登場しな
会の委員を務めている中で明らかに「やがてひとり」
い。著者のキャラクターに対する目線がとても温かく、
の実態が見えてきたという。平均寿命から言えば女性
悪役的な存在であるチンピラたちもコミカルに描かれ
の高齢者が多い、本書のタイトルに「女性のための」
ており、なんだか憎めないのだ。また、登場人物が子
がついた所以であろう。
どもも大人もそれぞれ自分の意志を持ち、自立してい
その老後を生きぬくための知恵が、実際に役立つ介
るという印象を受ける。しかし決して他人に無関心な
護保険や成年後見制をはじめ老後の心構え、死にじた
訳ではなく、互いを思いやるという、馴れ合いではな
くまで110挙げられているのだ。
い豊かな人間関係が築かれた理想的な世界がそこには
110の中で私が最も心に残ったのが「老後を支え
ある。
る私的ネットワーク」で、イザというとき支え助けて
大人も勿論楽しめるが、小学校高学年から中学生く
くれる友人知人の存在が必要だと力説されている。が、
らいの時期にぜひ読んでいただきたい。真っ直ぐに入
正反対のようだが「一人でも遊べるようにしよう」と
り込んで、後々まで心に棲みつく作品である。題名に
いうのもある。どちらも中途半端な私にとっては難し
ある、山のむこうの青い海は、きらきらと輝く子ども
いが、今後の課題となりそうだ。
たちの未来の象徴である。何かと暗い話題が多く沈み
(中村 美樹子)
がちになるこの頃、山の向こうには希望の海があるこ
とを思い出してほしい。
- 7 -
(ちか)
① 年収600万円以上
勝間和代の
インディペンデントな生き方実践ガイド
② 自慢できるパートナーがいること
③ 年をとるほど、すてきになっていくこと
年収600万円以上という具体的な数字を出した根
拠としては、趣味で稼げない金額、自立して生計が立て
勝間 和代 著、ディスカバー携書、2008年、
(B・カ)
られる金額、
人に誇れる金額という定性的な条件を出し
この本は、勝間和代が一番最初に出した本「インディ
ているものの、年収600万円以上稼いでいる女性は全
ーでいこう!」を出版し直したものであり、勝間和代の
体の9.5%(総務省、平成15年調べ)だそうで、上
原点ともいえる本である。
位約10%を狙おうよという決して無理ではない、
しか
幸せになるにはどうすればいいのかとか、お金持ちに
し、努力しなければ達成できない線を出しているところ
なるにはどうすればいいのかという曖昧な問いかけに
がすごいと思う。本を販売するというマーケティング的
対し、経営コンサルタントが回答すればどうなるのかと
発想からは、
年収600万円以上を達成できていない約
いうのが、本書である。経営コンサルタントは問題点が
90%の女性がこの本の潜在的なターゲットになると
はっきりとは分からずに経営が立ち行かなくなってい
いうことである。
る経営者に具体的な診断を告げるのが役割である。
同様
若さだけに頼るなとか、
がんばらないことなど彼女の
の手法を用いて、幸せになるにはどうすればいいのかと
この本に流れているもうひとつのテーマは、
持続可能性
か、お金持ちになるにはどうすればいいのかという曖昧
である。
な問いかけを持つ潜在的な読者に対し、経営コンサルタ
各章ごとにまとめがあり、結局何を言ってたっけと
ントとしての勝間和代は具体的な定義と数値目標、
目標
いう場合、すごく探しやすい工夫がなされていたり、参
を達成するための具体的な方法という答えを出してい
考文献についても単純な参考文献だけでなく、
「ないし
る。
ょのおまけ これだけは読んでおくべき!」とキャッチ
幸せになるということの定義としては、精神的、経済
も工夫されている。
(H.T)
的に自立することだとしたうえで、
自立という日本的な
言葉を「インディペンデント」を意味する「インディー」
という手垢のついていない言葉に変えた上で、
「インデ
ィー」の条件として、3つの基準を出している。
りぃぶる Book ∼これ。読んだ?∼Vol.3 2009 年4月発行
■企画・発行
和歌山県男女共生社会推進センター りぃぶる
〒640-8319 和歌山市手平2丁目1−2
県民交流プラザ和歌山ビッグ愛9F
TEL(073)435-5245・FAX(073)435-5247
http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/031501/index.html
編集後記
・普段は流し読みになりがちなのに、お陰様で一冊を熟読できまし
た。タイトル「これ。読んだ?」大好きです。
(大空)
・この書評を一人でも多くの人が手に取り、見て、参考にしてほし
いと思います。
(E)
・ボランティアの方々との出会い。幸運な体験でした。育児休暇取
得のため担当できなかった第3号も無事発行。関係者の皆様に感謝
です。
(下村)
- 8 -
- 9 -
Fly UP