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第1章 ビジネスと企業組織

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第1章 ビジネスと企業組織
第1章 ビジネスと企業組織
第1章 ビジネスと企業組織
学習目標
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
企業の目的を確認し、目的を達成するための方法を理解する。

経営資源(「人・モノ・金」)の意味を具体的に理解する。

第4の経営資源としての経営情報の意味を理解する。

ビジネスの基本として、お金儲けの基本原理を理解する。
企業において階層組織ができる理由を理解する。

管理とは何か,マネジメント・サイクルを通して、どのように管理
するのかを学ぶ。


組織における階層の意味を「管理の限界」との関係で理解する。

責任と権限の関係を組織階層との関係で理解する。
会社を設立するための方法を理解する。

会社設立のメリットを理解する。

一円の資本金で会社を設立できることのメリットとデメリットを理
解する。

新会社法では、有限会社が廃止され、株式会社のさまざまな制約(資
本金など)が緩和されたことを知っておく。
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1.4 会社の設立
店舗の数も増えてきた。そろそろ個人商店ではなく、世間からいっぱしの会
社として認めてもらえるよう、会社組織にしたい。
そこで法務局の近くにあった看板をたよりに会社設立の事務所を見つけ出
し、会社設立を依頼しようと話を聞いてみて驚いた。
「会社設立って、こんなにお金がかかるんだ」。
仕方がないので、市販の書籍「会社設立のハウツウもの」を購入し、何とか
自分で会社設立の登記書類を作ることにした。
1.4.1 会社設立のメリット
なぜ、個人商店(個人企業)のままよりも会社(法人企業1)の方がいいのだ
ろうか。一般的に、法人企業は、社会的信用、責任、そして税制の点で有利で
あるとされ、つぎのように説明されている。
(1) 社会的信用
会社設立の手続きは、法律にもとづいている。そして、会社に関する情報は
法務局(登記所)で参照でき、財務状況を公表することが法律で義務づけられ
ている。このため、会社の内容や経営状態を確認という点で安心である。
(2) 責任
個人企業の場合:業績が悪化した場合、事業主の財産すべてを借金返済に充
てなければならない。つまり、事業を失敗した場合、個人事業主は、すべての
財産を失うことになる。
法人企業の場合:出資者は自分の出資した金額の範囲でしか責任をとる必要
がない(有限責任)。したがって、第三者が出資する場合、出資額以上のリス
クを負う必要がないため、安心である。また、出資額に応じて配当(利益配分)
することができるため、出資者を募りやすい。
(3) 税制
法人:人ないし財産から成る組織体に法人格(権利能力)が与えられたもの。理事その他の機関を有し、
自然人(生物としての人)と同様に法律行為を含むさまざまな経済活動をなしうる。(広辞苑)
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第1章 ビジネスと企業組織
個人の場合は所得税、会社の場合には法人税を支払わなければならない。
所得税は累進税2であり、所得税と住民税を合わせると、最高税率は 50%にな
る。一方、会社の場合には、原則 30%の均一課税であり、事業税を含めても約
41%で済む。したがって、利益が多くなるほど、会社の方が有利である。
また、会社の場合には、社長も給料や退職金を受け取ることができ、必要経
費として認められる範囲が個人商店よりも広範なので、節税面で有利である。
1.4.2 新会社法
会社は、2006 年 4 月以降、商法から会社関係の条文が摘出され、新たに創設
された会社法(以下、新会社法)という法律にもとづいて設立・運営されるこ
とになった。それまでは、株式会社と有限会社が主であり、それぞれに最低資
本金が規定されていた。しかし、新会社法の「株式会社」では、資本金 1 円か
らでも会社設立が可能である。さらに、1人でも会社を設立でき、会社の成長
に合わせて組織を拡大することもできるように法律が作られている。また、
「早
期の社会復帰を促す」という趣旨で、復権3していない自己破産者でも、会社の
取締役となることができるようになった。
以下、新会社法の要点を整理する。
(1) 資本金規制の撤廃
そもそも、会社が事業活動をするためには資本が必要であり、資本金が充実
してこそ、会社の財務基盤が安定していると考えられてきた。これが、最低資
本金が設けられていた理由である。
しかし、1000 万円集めなければ株式会社を作れないとなると、簡単には起業
できない。そこで、ベンチャー志向の人が起業しやすいように、資本金が1円
でもよいことになった。また、子会社も作りやすくなり、資本金規制の撤廃は
既存企業にとってもメリットがある。
しかしながら、1円で会社が設立できるわけではなく、資実際には、設立費
用、支払うべき税金、対外イメージや設立後の資金繰りなど、会社を始めるに
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累進税:課税標準をいくつかの段階に区分し、所得が増えるに従って高い税率を適用する仕組みの税。
復権:破産者が、破産宣告により失った「公私の権利」を回復すること。
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は元手が必要である。その辺りをよく考えて資本金を決めなければならない。
(2) 有限会社の消滅
新会社法以前には、株式会社は大規模で公開された会社であり、有限会社は
小規模で非公開の会社であると想定されていた。そのため、「商法」と「有限
会社法」によって、最低資本金の額や取締役の人数が規定され、株式会社と有
限会社は厳然と区別されていた。しかし、実態は、株式会社の多くが、資本金
3000 万円未満の中小企業である。そして、取締役会の設置義務など、大会社を
前提とした規制は、形骸化していた。そこで、2つの会社法を統合し、株式会
社と有限会社を一本化することになった。
新会社法では、経営と所有が未分離4と考えられる株式譲渡制限会社において
は、つぎの改正が加えられている。

取締役の設置義務がなくなり、取締役1名でもよい。

監査役の設置は任意。置かなくてもよい。

取締役・監査役の任期は、定款で定めれば、最長 10 年になる。
事業主イコール一人取締役の株式会社が可能になるので、会社の構造が経営
の実態に近いものになったといえる。
(3) 身の丈に合わせた経営
新会社法の施行前には、株式会社は取締役会の設置が義務づけられており、
取締役も3人以上が必要であった。そのうえ、取締役会は3ヵ月に一度は開催
し、その議事録を 10 年間保管することが義務づけられていた。
新会社法では、ほとんどの中小企業が該当する株式譲渡制限会社の場合、取
締役会の設置義務がなくなった。つまり、一人だけが取締役という会社が可能
になった。したがって、株式会社を作る際に、名前だけ借りて取締役や監査役
の頭数をそろえる、といった無駄な労力が不要になった。これは、身の丈に合
わせた経営ができるという画期的なしくみである。
経営と所有の分離:個人企業では、経営者と投資家が一体である。企業規模が拡大すると、能力のある第
三者である経営者に投資資金を首尾よく運用してもらい、儲けの分配に与る方が、新たな出資者(株主)
を集めやすい。これを経営と所有の分離と呼んでいる。
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第1章 ビジネスと企業組織
取締役会がないと、今までそこで決めていたことを株主総会で決めるように
なるなど、株主の権限が強くなる。しかし、事業主一人取締役なら、経営者に
よる臨機応変の素早い意思決定が可能になる。
株主総会と取締役一人、という最も単純な構造から始め、会社の成長に合わ
せて、取締役会を設けたり監査役を置いたりすることができるので、ベンチャ
ー企業の創設が非常に便利になっている。
1.4.3 会社設立の手順
会社の設立は、
法律で定められた手順に従って進めていかなければならない。
手続きの流れは、会社法改正前と比べて制約が緩和されており、おおむね表
1.4.1 のようになっている。
表 1.4.1 株式会社設立の手順
会社法改正前
会社法改正後
1. 発起人の決定:発起人とは、会社設立の発案者および賛同
者のことであり、登記完了まで一切の手続きを進めていく。
2. 設立したい会社の定義:商号(会社の名前)、本店の所在
地(住所)や目的(仕事の内容)などを決める。
3. 類似商号の調査:希望する会社の名前が使用できるかどう
か(本店がある市区町村内ですでに使用されていないか)を
法務局(登記所)で調べる。
4. 印鑑の作成と印鑑証明
5. 定款の作成と認証:定款(会社のルール)を作成する(定
款は公証人の認証を受けて初めて法的に有効になる)。
6. 保管証明書の取得:資本金があることの証明書を金融機関
から発行してもらう。
7. 必要書類の作成:議事録や申請書など、設立登記の申請に
必要な書類を作成する。
8. 設立登記の申請:法務局(登記所)に登記申請する。
類似商号の有無の確認は不要
選任する役員が最低 1 人でも可。
最低資本金規制が撤廃され、特別な法律
でなくても資本金 1 円から会社の設立が
可能。
払込金保管証明制度は廃止。払込証明手
段は、残高証明で可。
1 人取締役の会社であれば、代表取締役
の選出や各取締役の報酬の決定は不要。
会社の目的の包括的記載が認められるの
で、登記所への事前の目的相談は不要。
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キーワード
経営資源、第4の経営資源、経営情報、管理、PDCA サイクル、管理の限界、
責任、権限、権限の委譲、階層型組織、マトリックス組織、プロジェクト・チ
ーム、タスク、・フォース、ネットワーク組織、文鎮(フラット)型組織、株
式会社、株主総会、取締役会、株式譲渡制限会社、経営と所有の分離
経営課題
新ビジネスを会社組織として発足させたい。新会社法を参照し、設立する会
社にどのような機関を設けるべきか、取締役や監査役をどうするか、考えなさ
い。
章末問題1
問題 1 正誤問題:企業を経営する目的は、まず第1に,お金儲けである。
問題 2 正誤問題:第4の経営資源とは,金のことである。
問題 3 マッチング問題:つぎの経営情報に関する説明に対応するのはどれか。解答項目の中から選びなさ
い。
〔質問項目〕
1. 人に関する情報
2. モノに関する情報
3. 金に関する情報
4. 経営情報
〔解答項目〕
A. 社内の人事情報。顧客や競合他社,研究機関などの有力者,友人・知人,地縁・血縁
B. 利潤を効率よく生み出すための,資金調達・回収・支払などの財務や経理に関する情報
C. 経営資源を有効に活用するために必要な情報の総称
D. 市場動向・顧客注文・技術・生産・在庫などの生産と販売に関する情報
はくりたばい
問題 4 正誤問題:昔から,商いの基本に薄利多売という方法がある。これは,利潤獲得の原則のうち,販
売単価の最大化と販売数量の最大化の2つの原則で説明できる。
問題 5 正誤問題:管理とは,部下に勝手なことをさせないことである。
問題 6 正誤問題:管理の限界を超えると生産性が下がるので,管理者が掌握可能なように部下の人数を制
限しなければならない。しかし,そうすると管理階層が深くなり,経営上層部にオペレーショナル・
レベル(生産,販売などの現業部門)の状況が正確・迅速に伝わらず,的確な経営判断が下せなく
なるという不都合が生ずるようになる。
問題 7 正誤問題:上司から権限が委譲されると,部下には受け取った権限と同等の責任が生じる。しかし,
部下が失敗した場合に,上司は「知らなかった,部下が勝手にやった」といって責任を逃れること
はできない。
問題 8 正誤問題:管理階層が深くなると, 複数部門に関係する業務の場合,関係部門全ての統括責任者の
判断を待たねば業務が停滞する。
問題 9 マッチング問題:創業・開業の企業形態として,個人企業と法人企業を考えることにする。それぞ
れの説明文は,個人企業と法人企業のどちらの説明か。
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第1章 ビジネスと企業組織
〔説明文〕
1. 出資者の地位の大きさは株式の持ち株数によって決まる
2. 商号(店名、屋号、事業所名)を決めるのが一般的
3. 業種によっては保険所、警察署などへの許可・認可,届出が必要
4. 単位あたりの出資金を有価証券化し,その権利を売買できる市場がある
〔解答項目〕
A. 個人企業、B. 法人企業
問題 10 正誤問題:新会社法では、1円払えば、法務局に株式会社を登記することができる。
問題 11 正誤問題:新会社法では、株式譲渡制限会社なら、取締役会を設けないという選択ができる。
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