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母国語ではない言葉で理解しあうことの難しさ - IDCJ

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母国語ではない言葉で理解しあうことの難しさ - IDCJ
開 発の理 論と現 場をつなぐ
141
I n t e r n a t i o n a l D ev e l o p m e n t C e n t e r o f J a p a n
財団法人
国際開発センター
タンザニアで考える
―母国語ではない言葉で理解しあうことの難しさ―
コンサルタントとして日本と海外を行き来する生活がここ数年続
また、開発実務で多用されている単語の使い方にも気をつけたい。
いている。現地では日本にいる時のように、テレビを見て暇をつぶ
現在、タンザニアでの業務は地方自治、コミュニティ開発といった
すこともなく、また趣味も少ないため、仕事以外に余りすることが
分野がメインだが、この分野で頻繁に使われる「キャパシティ」、
、
「サステナビリティ」といった単語は、使い勝手
ない。そうすると、自然と日本では考えもしなかったようなことを、 「エンパワメント」
がよく、私も日常的に使用している。その一方で、ともするとこれ
じっくり考える時間ができる。
最近、特にあれこれ考えていることは、相手国の人々とのコミュ
らの単語が相手との本質的な議論を阻むことがある。例えば、
「住民
ニケーションの問題である。私は青年海外協力隊(JOCV)でタンザ
のキャパシティ向上により、エンパワメントを図り、コミュニティ
ニアに2年間赴任した経験から、現在もタンザニアで仕事をする機
開発のサステナビリティを確保する」と言えば、ああなるほどと、
会が多い。タンザニア人同僚とは、
その場ではお互い納得するかもしれな
英語で打合せをすることが多いが、
い。皆、同じような話を耳にタコがで
改めて、お互い母国語ではない言葉
きるほど聞いているからである。しか
で理解しあうことの難しさを感じる。
し、それぞれの単語が何を意味するの
何かにつけ、表面的な言葉を交わし
かについての議論がないまま、この記
て、分かり合った気になってはいな
述を活動の目的に据えてしまうと、
いか、疑問に思うのである。
後々、自分が意図していたことと、相
手が目指していたものとの間にギャッ
幸い、私はJOCVの経験から、タン
ザニアで広く使われているスワヒリ
プを生むことになる。「キャパシティ」
語を話すことができる。そうすると、
という単語を例にとると、この単語の
スワヒリ語の訳語は、
「財政・金銭的な
同僚と英語で話した時と、スワヒリ
語で話した時の微妙なニュアンスの
村の女性グループの聞き取り調査:同僚の農業普及員にとっても、住
民と意思疎通することは難しいという
能力=資金・事業の元金」という意味で
よく使われる。この傾向は、特に地域
違いに気づかされる。例えば、タン
ザニア人と英語で打合せをして、お互い合意に達したと喜んでいる
コミュニティ(村・集落)で強く、住民に「キャパシティ向上」と
時でさえ、その後、スワヒリ語で話を聞くと、実は喜べるほどには
いう言葉のみ伝えても、結局プロジェクトからいくらお金が落ちる
相手との理解が進んでいなかった、ということがある。これは、単
のか、ということに話が終始してしまう。したがって、キャパシテ
にこちらの意図が相手に十分伝わっていなかったということだけで
ィという言葉を使う限りは、それが何を意味するのかを十分説明し、
なく、相手の発言をこちらが鵜呑みにして、その裏にあるもっと深
相手のアイディアも根気よく聞く必要がある。
い意味を汲み取ろうとしなかったことが原因である。お互い英語が
これは、結構しんどい作業である。私自身、業務が立て込むと、
母国語でない以上、発言はシンプルかつ明確にするほか仕方がない
こうした議論を意図的に飛ばしてしまうことが多いと反省している。
のだが、だからといって相手の言ったことを字句どおりに受け止め
ただ、それでも、相手が英語で話していることは割り引いて捉え、
て、分かったつもりになっていると、それ以上の中味のある議論は
言葉の裏にある意図を出来る限りつかもうと努力している。
<文責:IDCJ研究員 志賀千章>
できないと感じている。
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