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No.55~日本経済の4つの波は - 三菱UFJモルガン・スタンレー証券
景気循環研究所 嶋中雄二の月例景気報告 No.55 2014 年 11 月 19 日 日本経済の 4 つの波は、それでもなお上向いている ●「衝撃のGDP」で消費再増税延期解散へ 17日に発表されたGDP1次速報で、7‐9月期の実質GDPは、前期比年率マイナス1.6%と、消費税率の引 き上げを受けて同7.3%のマイナスとなった4‐6月期に続き、2四半期連続のマイナス成長となった。内 容的には、在庫の前期比寄与度がマイナス0.6%ポイントで、それだけで実質GDP全体のマイナス0.4% の前期比を凌ぐという、在庫調整の進展を裏づける前向きのものではあったが、私を含むエコノミスト 全員が予測を誤ったことからもわかるように、文字通りサプライズの「衝撃のGDP」といえた。 18日の夜、安倍首相は記者会見を開き、15年10月に予定されていた消費税率の再引き上げを1年半後 の17年4月に延期した上で、財政再建の旗は降ろすことなく、アベノミクスの継続によるデフレ脱却の 完遂と成長戦略の推進を訴えて、11月21日に衆議院を解散することを表明した。 私は10月中旬時点において、消費税再増税を予定通り実施することを前提に、日銀が15年内に30兆円 規模(実際には、10月末の日銀の決定により最大で25兆円規模となったが)の追加金融緩和を実施する と共に、政府は5~6兆円規模の個人消費に重点を置いた経済対策を行うべきとの立場を表明していた。 これは、前回の消費増税の前に私が示したのとほぼ同じスタンスであったのだが、率直に言って、前回 の5.5兆円規模の対策の主力であった公共投資が、さすがに14年7‐9月期は前期比年率8.9%と健闘した ものの、基本的には人手不足という「好況要因」によってクラウドアウトされて、一時はろくに執行で きない状態になるとは、事前には予想していなかった。また、日本の主要輸出先のうち、中国と欧州が ここまで景気の弱含みに苦しむとも考えていなかったため、輸出の伸びも読み違えた。そして、消費増 税のインパクトを過少評価していたことは事実だし、エルニーニョ現象の発生に伴なう天候不順が、こ れほどまでに小売店の販売動向に影を落とすとは、不覚にも予想していなかった。 いずれにせよ、14年2月から8月にかけて、消費増税もその一大要因とカウントせざるを得ない「ミニ 景気後退」局面が発生してしまったことは、「せいぜい踊り場にとどまる」としていた私の予想を裏切 った。ただ、こう述べたからと言って、私が『これから日本は4つの景気循環がすべて重なる。ゴール デン・サイクルⅡ』(東洋経済新報社、13年12月刊)の中で唱えた、日本経済の好循環についての見方 を取り下げるわけではないことを、ここで明確にしておきたい。 巻末に重要なお知らせを記載、ご参照ください。 1 私の「ゴールデン・サイクルⅡ」論は、短期(4.4年周期のキッチン・サイクル)、中期(9.4年周期 のジュグラー・サイクル)、長期(25.5年周期のクズネッツ・サイクル)、超長期(56.5年周期のコン ドラチェフ・サイクル)の4つの周期の異なる景気循環が、すべて上昇局面で一致する、という「ゴー ルデン・サイクル」現象が、19世紀終盤以降で6回目の出現を見ているということであった(図1)。し かし、2014年2月から8月までに記録されたとみられる「ミニ景気後退」や、それを劇的に印象づけた同 年4‐6月期と7‐9月期の2四半期連続の前期比マイナス成長という事態もあって、短期のキッチン・サ イクルは下降局面なのだから、ゴールデン・サイクルなどではあり得ない、と考える向きがあって当然 だろう。 図 1. 名目設備投資/名目GDP比率の複合循環~ゴールデン・サイクル~ 6 (%) 1940 5 周期3~8年の波 (短期循環=キッチン・サイクル:4.4年) 周期12~40年の波 (長期循環=クズネッツ・サイクル:25.5年) 4 1990 3 1918 2 1967 1893 1974 1 1916 0 1916 2014~15? 1960~61 1967 1957 -1 1946 1904~05 2001 1903 -2 -3 周期8~12年の波 (中期循環=ジュグラー・サイクル:9.4年) -4 1980 周期40~70年の波 (超長期循環=コンドラチェフ・サイクル:56.5年) 1930 1950 -5 1885 1900 1915 2010 1930 1945 1960 1975 1990 2005 (年) (注)暦年、直近は 14 年 1-3 月期~7-9 月期平均値。 3~8 年、8~12 年、12~40 年、40~70 年の波はバンドパス・フィルターにより抽出。 (資料)大川一司他『国民所得』(長期経済統計1)東洋経済新報社、1974 年、内閣府『国民経済計算』をもとに 三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成。 嶋中雄二「これから日本は 4 つの景気循環がすべて重なる。ゴールデン・サイクルⅡ」、東洋経済新報社、2013 年。 ●息づいているゴールデン・サイクル だが、実際にはゴールデン・サイクルは、まだ立派に息づいている。なぜなら、短期のキッチン・サ イクルの計測の仕方が、景気後退局面か否かを判断する景気動向指数(CI)一致指数でも、四半期の実 質GDP成長率でもなく、年次ベースで名目値の、設備投資の対GDP比率のトレンドからの乖離幅を基にし て、バンドパス・フィルターという統計的手法を用いて加工した数値によっており、この設備投資比率 の乖離幅は、13年にはマイナス0.503%ポイントと大底を付けていた。14年は、7‐9月期(GDP速報値に 基づく)までの平均でマイナス0.367%ポイントと、13年の水準を上回っており、今後もマイナス幅が 拡大する気配はないので、14年から15年にかけ、上昇局面に入っていると解釈できるからだ。 因みに、中期のジュグラー・サイクルも、設備投資比率では12年に大底を付け、13年から17年にかけ、 9.4年周期の上昇局面に入っている。長期のクズネッツ・サイクルは、リーマン・ショック後の2010年 巻末に重要なお知らせを記載、ご参照ください。 2 に大底を付け、現在、2023年と目される山に向かって上昇中である。そして、超長期のコンドラチェフ・ サイクルは、米国のITバブル崩壊時の2001年に大底を付け、2029年と推定される山に向かって上昇中で ある。このように、設備投資比率で見た日本の短・中・長・超長期の景気循環は、現時点ですべて上昇 中であることが明らかとなる。これについては、安倍首相も14年4月に、次のように述べている。 「最近私は、30年以上、日本経済の循環を眺めてきた練達のエコノミストによる、ひとつの分析を目 にしました。『コンドラチェフの波』として知られる、技術革新やインフラ更新が左右する超長期の循 環、また、建設投資を要因とする、長期の循環に当たる『クズネッツの波』。それから、中期、短期の 循環である『ジュグラーの波』、『キチンの波』。これらの超長期から短期に及ぶ4つの波が、いま、 日本経済では、揃いも揃って、みんな上向きだと、その意味で、珍しい現象が日本経済に起きている、 という分析です。これを知って、私は3つのことを思いました」(2014年4月17日、「ジャパン・サミッ ト2014 」安倍内閣総理大臣基調講演より)。 安倍首相の言う「3つのこと」とは、①日本経済を安定した新しい成長軌道に乗せる、絶好の機会が 訪れていること、②アジアという成長センターを、需要拡大に活用すること、③経済をもっと開放して、 外の活力、外国の知恵や人材・資本を、取り入れる必要があることである。今回の「ゴールデン・サイ クル」は2015年まで続き、17年まで「シルバー・サイクル」(中・長・超長期の循環が同時上昇する現 象)、23年まで「ブロンズ・サイクル」(長・超長期の循環が同時上昇する現象)が続くとみられる。消費 税の問題は一段落したので、政府には是非、これらの好循環の流れを活用して、第3の矢の成長戦略に、 これまで以上に積極的に取り組み、日本経済を「第3の歴史的勃興期」に導いて欲しいと思う(図2、3)。 図2. 名目設備投資/名目GDP比率の複合循環~シルバー・サイクル~ (%) 6 1940 5 周期12~40年の波 (長期循環=クズネッツ・サイクル:25.5年) 4 1990 3 1918 2 1961 1908 1893 1967 1974 1916 1 2017? 0 -1 2012 1946 1903 -2 2001 1913 -3 1956 周期8~12年の波 (中期循環=ジュグラー・サイクル:9.4年) -4 1930 1900 1915 1966 1980 周期40~70年の波 (超長期循環=コンドラチェフ・サイ クル:56.5年) 1950 -5 1885 2010 1930 1945 1960 1975 1990 (注)暦年、直近は 14 年 1-3 月期~7-9 月期平均値。 3~8 年、8~12 年、12~40 年、40~70 年の波はバンドパス・フィルターにより抽出。 (資料)大川一司他『国民所得』(長期経済統計1)東洋経済新報社、1974 年、内閣府『国民経済計算』をもとに 三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成。 嶋中雄二「これから日本は 4 つの景気循環がすべて重なる。ゴールデン・サイクルⅡ」、東洋経済新報社、2013 年。 巻末に重要なお知らせを記載、ご参照ください。 3 2005 (年) 図3. 名目設備投資/名目GDP比率の複合循環~ブロンズ・サイクル~ (%) 6 1940 5 周期40~70年の波 (超長期循環=コンドラチェフ・サイ クル:56.5年) 周期12~40年の波 (長期循環=クズネッツ・サイクル:25.5年) 4 1990 3 「ALWAYS 三丁目 の夕日」の時代 1918 2 1967 1893 1916 1 2023? 1974 0 第3の 歴史的勃興期? -1 1946 1903 -2 -3 「坂の上の雲」 の時代 1904-1916年 -4 1951-1967年 1904年日露戦争 1900 1915 1930 1930 2010 1980 1950 1945 2011-2023年? 2011年東日本大震災 2012年アベノミクス 2020年東京五輪 1951年サンフランシスコ講和条約 -5 1885 2001 「復興から 高度成長」の時代 1964年東京五輪 1960 1975 1990 2005 (年) (注)暦年、直近は 14 年 1-3 月期~7-9 月期平均値。 3~8 年、8~12 年、12~40 年、40~70 年の波はバンドパス・フィルターにより抽出。 (資料)大川一司他『国民所得』(長期経済統計1)東洋経済新報社、1974 年、内閣府『国民経済計算』をもとに 三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成。 嶋中雄二「これから日本は 4 つの景気循環がすべて重なる。ゴールデン・サイクルⅡ」、東洋経済新報社、2013 年。 橋本脩一『企業者精神と長期景気循環-「平成の坂の上の雲」は始まっている-』、日本経済新聞出版社/日経事業出版センター、2014 年。 (以上) 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 景気循環研究所 東京都千代田区丸の内 2-5-2 三菱ビルヂング 景気循環研究所長 嶋中 雄二 03-6213-6571 [email protected] 巻末に重要なお知らせを記載、ご参照ください。 4 本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。本 資料で直接あるいは間接に採り上げられている有価証券は、価格の変動や、発行者の経営・財務状況の変化およびそれらに関する外部評価 の変化、金利・為替の変動などにより投資元本を割り込むリスクがあります。ここに示したすべての内容は、当社の現時点での判断を示している に過ぎません。本資料は、お客様への情報提供のみを目的としたものであり、特定の有価証券の売買あるいは特定の証券取引の勧誘を目的と したものではありません。本資料にて言及されている投資やサービスはお客様に適切なものであるとは限りません。また、投資等に関するアドバ イスを含んでおりません。当社は、本資料の論旨と一致しない他のレポートを発行している、或いは今後発行する場合があります。本資料でイン ターネットのアドレス等を記載している場合がありますが、当社自身のアドレスが記載されている場合を除き、ウェッブサイト等の内容について当 社は一切責任を負いません。本資料の利用に際してはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。 当社および関係会社の役職員は、本資料に記載された証券について、ポジションを保有している場合があります。当社および関係会社は、 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 本資料に記載された証券、同証券に基づくオプション、先物その他の金融派生商品について、買いまたは売りのポジションを有している場合が あり、今後自己勘定で売買を行うことがあります。また、当社および関係会社は、本資料に記載された会社に対して、引受等の投資銀行業務、 その他サービスを提供し、かつ同サービスの勧誘を行う場合があります。 三菱UFJモルガン・スタンレー証券の役員(会社法に規定する取締役、執行役、監査役又はこれらに準ずる者をいう)が、以下の会社の役員 を兼任しております:三菱UFJフィナンシャル・グループ、三菱倉庫。 債券取引には別途手数料はかかりません。手数料相当額はお客様にご提示申し上げる価格に含まれております。 本資料は当社の著作物であり、著作権法により保護されております。当社の事前の承諾なく、本資料の全部もしくは一部を引用または複製、 転送等により使用することを禁じます。 c 2014 Mitsubishi UFJ Morgan Stanley Securities Co., Ltd. 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