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テラヘルツ波による塗膜下鋼材発錆の検出
電力中央研究所報告 電 力 輸 送 先 端 技 術 テラヘルツ波による塗膜下鋼材発錆の検出 キーワード:テラヘルツ波,発錆,2 次元分布計測,非接触検出,電磁波計測 背 報告書番号:H11002 景 電力流通設備等の鋼材発錆対策は表面の塗膜が劣化し,錆が顕在化した時に実施され ることが多い。塗膜下で進行する発錆を 2 次元的に早期検出できれば,効率的な補修作 業計画の立案や鋼材の寿命延伸が期待できる。この計測には非接触・高精度分析が期待 できる電磁波の適用が有効である。近年の技術の進歩により,可視光で不透明な塗膜下 の発錆の非破壊計測が X 線や赤外光を用いることで可能となりつつある。特に,遠赤外 線に近いテラヘルツ(THz)帯に存在する,錆の化学構造由来の固有吸収スペクトルを 用いれば,鋼材発錆状態の定量的な測定も期待できる。 目 的 THz 波による塗膜下鋼材の発錆検出を試み,その有用性を明らかにする。 主な成果 1. 塗膜下鋼材の発錆検出 表面を発錆させた炭素鋼板 (1)に可視光で不透明な防食エポキシ樹脂を塗布し,THz 波 を用いて発錆検出を試みた (2)。THz 波反射強度分布から,塗膜下の発錆を 2 次元的に明 確に検出できた(図 1)。軽微な発錆部位 (3)の検出が可能であったことから,塗膜下鋼材 発錆を顕在化前に早期検出できる目処を得た。また,反射 THz 波形から塗膜下の断層構 造を非破壊計測でき,これより推定した塗膜の厚さは 180 m,発錆層の厚さは 100 m となり,それぞれの実測値 200 m および 100 m とほぼ一致した。 2. 加速劣化による発錆進展様相の観測 可視光で透明なアルキド薄膜を塗布した鋼板 (4)を用い,発錆状況を確認しながら 7 試 料にて THz 波反射強度分布の経時変化を計測した。発錆面積率(5)の増加に伴い,THz 波 の差分吸収率 (6)が増加する(図 2)。通常の防食膜は可視光に対し不透明で目視では発錆 分布を把握できないが,差分吸収率は発錆面積率の推定に有効である。さらに,THz 波 の差分吸収率は目視による発錆面積率が 100%になった後も増加し続ける場合がある。 これより,THz 波を用いれば目視では検出できない発錆層の厚さ変化を検出できる可能 性が示唆された。 (1)樹脂塗布前に 0.3% NaCl 溶液を滴下し炭素鋼板の表面を一部発錆させた。THz 波等による発錆検出可 能性が判断しやすい幅 10 mm 程度の発錆領域ができた時点で上記溶液を拭き取り,エポキシ樹脂を塗 布した。実際の電力流通設備においても,エポキシ樹脂は防食膜として用いられている。 (2)0.1∼2.0 THz の周波数成分を含む幅 0.8 ピコ秒,ビーム径約 0.7 mm の THz パルス波を用い,試料からの 反射波を時間領域分光法で解析した。 (3)図 1 でこげ茶色に変色した部位。断面電子顕微鏡観測でも発錆層厚さを計測できなかった。なお,同 電子顕微鏡観測より,褐色部では約 100 m の厚さの錆が生じていることを確認している。 (4)約 30 m 厚のアルキド樹脂を事前塗布した鋼板。試験前に樹脂を塗布している点で上記(1)試料と大 きく異なる。塗布面を 0.3% NaCl 溶液で浸漬させ,発錆の経時変化を随時記録した。 (5)写真撮影画像から茶褐色に変色した領域を抽出し,全体に占める面積として発錆面積率と定義した。 (6) THz 波反射強度分布の積分値を算出し,さらに劣化前の積分値から差し引いたものを差分吸収率とした。 樹脂塗布後 塗膜 発錆 下地金属 100 m 樹脂塗布前 反射 THz波 1 0.6 0.4 反射光強度 1 cm 0.8 断面電子顕微鏡像 0.2 0 軽微な錆も検出できている THz波反射強度分布 図 1 THz 波を用いた塗膜下の発錆検出例 発錆部には樹脂塗布後も凹凸がある。THz 波反射強度分布はその凹凸の影響を除去した上で入射波強度と の比をとった。また,発錆部で観測された反射 THz 波(振幅波形)を断面顕微鏡像に重ねて表示した。 Pic. THz img. 浸漬87.8日 Pic. THz img. 浸漬75.4日 Pic. THz img. 浸漬65.4日 10-1 0 -1 10-2 -2 Pic. THz img. 浸漬29.9日 -3 Pic. THz img. 浸漬0.1日 10-3 0 10-3 10-2 10-1 発錆面積率 100 THz波反射吸光度 log(I/I0) THz波差分吸収率 100 -4 図 2 THz 波差分吸収率の発錆面積率依存性 7 試料(○,●,△,▲,□,■,+)のデータ。挿入図の「Pic.」と「THz Img.」は写真撮影画像と THz 波反射強度分布を示す。反射吸光度はカラーバーの通りで,I0 と I は入射光強度と各測定点における反射 光強度。THz 波反射光強度は発錆部で時間とともに低下し,発錆深さの定量化の可能性が示唆された。 研究担当者 布施 則一(電力技術研究所 高電圧・絶縁領域) 問い合わせ先 (財)電力中央研究所 電力技術研究所 研究管理担当スタッフ Tel. 046-856-2121(代) E-mail : [email protected] 報告書の本冊(PDF 版)は電中研ホームページ http://criepi.denken.or.jp/よりダウンロード可能です。 [非売品・無断転載を禁じる] C 財団法人電力中央研究所 平成23年10月発行 ○ 11−001