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ポスターセッション資料1
. . 「基礎からの数学 2」における反転授業の試み . . . .. 濱本 久二雄 関西大学 理工学教育開発センター 2015 年 2 月 24 日 シンポジウム 「反転学習はディープ・アクティブラーニングを促すか?」 ポスターセッション資料 . . . . . . 1 / 27 . . .1 動機と私の取り組み . . .2 学習活動のプロセスに関連して . . .3 予習用のシートから∼二つの例∼ . . .4 「反転授業」を実施してみて . . .5 補足 . . . . . . 2 / 27 動機と私の取り組み 動機と反転授業の留意点 今年度の微積分基礎クラスの学生は,前期試験の結果から例年より基 礎学力が不足していることが判明した.関西大学教育推進部の森先生の お勧めもあり、後期の授業「基礎からの数学 2(微分積分基礎 3 クラ ス) に、1回 20 分前後の予習用動画を作成し、演習中心の反転授業とし た。動画作成や授業を進めるにあたって、特に以下の点に留意した。 .1. 動画や授業での演習課題には、できる限り高校の復習を最初に取 り入れ,高校での学習内容とのつながりを意識したこと. .. 定理の証明は原則として動画では行わず、例題の解法を通して定 2 . . 理の意味と使い方および計算技術が理解できるようにしたこと. ..3 授業は演習中心とし、わからない点は学生同士の質問や教え合い を奨励し、それでも解決できない場合には私に質問するようにさせ、 出された質問の中で全体に還元したほうがよいと思われるものは、 その場で質問内容と回答を再度説明するようにして、課題に取り組 みやすくなるようにしたこと. . . . . . . . 3 / 27 動機と私の取り組み 授業全体の概要 微積分基礎 3 クラスのうち,システム理工学部および化学生命工学部 が週 2 コマの授業,環境都市工学部は週 2 コマの授業と 1 コマの演習を 行うことになっている.このうち、原則として週 1 コマは予習として動 画視聴を義務付け,課題演習中心の反転授業を行った.課題演習のプリ ント授業終了後回収し,教員が点検し後日返却した.溝上 [2] にある DAL 以外の取り組みのうち,授業外学習時間のチェック,週複数回授業,反転 授業の 3 つを行ったことになる.後期で 12 回(環境都市工学部では 13 回と他に演習プリント 7 回)この課題プリントの提出を求めた.前期の 授業ではこの部分を宿題としたが,提出状況・課題の遂行状況ともに芳し くなかった.後期の反転授業では,その授業の終了時に課題プリントを 回収し,提出率は 90 %以上で,課題への取り組みも格段に良くなった. もう 1 コマの授業では,数学的概念の説明や定理の証明と課題の出来 具合を見て必要に応じて補足説明をするという授業をした.高校時代か ら身につけてしまっている問題のパターン化と暗記中心の「浅いアプ ローチ」から抜け切れていない学生がやはり多いので,数学的概念の説 明と定理の証明の授業を学生に受け入れてもらうのはやはり難しい. . . . . . . 4 / 27 動機と私の取り組み 数学的な概念と定理の意味の理解∼「深いアプローチ」 をめざして∼ 学生に数学的な概念や定理の意味をきちんと理解してもらうためには, 例えばエリック・マズール [3] の「コンセプテスト」と「ディスカッショ ン」によるピア・インストラクションなどの工夫が必要であると思う。 残念ながら,今回はそこまでできなかったので来年度の授業の課題とし たい. 「ピア・インストラクション」と教育学的に同じものであるかどう かは知らないが,私の知る限り,これに似たような方法として,日本の 初等・中等教育において板倉聖宣氏が始めた「仮設実験授業」の実践や、 数学教育協議会が 1980 年代に当時の中心的なメンバーによる実践をまと めた「数学バイパスシリーズ」の出版などがあることを付記しておく. 大学の数学の授業であるので, 「中心となる考えを理解する」「関連づけ る」, (証明を)「論じる」「説明する」, 「身近な問題に適用する」「原理と 関連づける」などの学習への「深いアプローチ」を学生が身につけられ るように授業を設計する必要があるが,あれこれの試行錯誤をしている 段階でまとまったものはできていない.これも今後の課題としたい. . . . . . . 5 / 27 学習活動のプロセスに関連して 高校数学と大学数学のつながり 教材を作成するに当たっては、高校数学とのつながりを意識した。 (1) 二変数関数 z = f (x, y ) のグラフや偏微分・方向微分などが一変数 の場合の概念の自然な拡張となっていること. (2) 一変数関数の微積分の復習にもなるようにと心がけたこと. (a) 連続性,偏微分可能性,合成関数の微分法と連鎖定理 (b) Taylor の定理,2 階導関数と極値 (c) 積分の概念(区分求積法)の復習 (d) 置換積分と変数変換公式,広義積分 (e) 曲線の長さの公式 (3) 最近の高校数学では,特に「空間における直線・平面の方程式」の 取り扱いが軽いので,その部分を丁寧に説明したこと. (4) 二項定理と n 階方向微分の計算の形式的類似性を強調したこと. (5) 条件付き極値問題:高校で学習する例と多様な解法の紹介. (6) 不等式の表す領域の復習と累次積分の計算への応用. (7) 高校で学習する立体の体積の計算と重積分の計算 . . . . . . 6 / 27 学習活動のプロセスに関連して 動画視聴による予習と学習サイクル 松下 [1] に書かれてあるエンゲストロームの「学習サイクルの 6 つのス テップ」に当てはめると,動画視聴による予習は, 「動機づけー方向づ けー内化」の部分に相当する.ここでは,高校数学の復習により基本事 項を確認するとともに,高校数学では扱えない問題を提示する,あるい は一変数関数の微積分の基本事項を復習しながら,それが二変数関数の 微積分にどのように拡張され,それにより新たな現象や問題を扱える様 子を見せることが大切である. 次にあげる予習用シートの最初の例では, (問題を明示していないが) 問題 曲面 z = f (x, y ) の点 (a, b, f (a, b) における接平面の方程式はどの ようにしたら求めることができるか? に対して,問題を次の三つのより簡単な問題 (1) 平面の方程式 (2) z = f (x, y ) の点 (a, b) における偏微分係数の計算 (3) 一次独立なベクトルとして何をとるか? に分解し,それらを総合することにより解答を得る流れになっている. . . . . . . 7 / 27 学習活動のプロセスに関連して 反転学習は, 「深い理解」を促したか? 次の重積分の計算問題(考査の 7. (3) )について考える. ∫∫ x 2 y dxdy D : 0 ≤ x 2 + y 2 ≤ 1, y ≥ 0 D これを解くには,以下の 3 段階が必要になる. (1) 領域 D を縦線領域として表示する(あるいは極座標に変換する). (2) 累次積分の形に変更する(変数変換した場合は公式の理解が必要). (3) 積分を計算する. この問題は,授業で 1 回しか取り上げなかったので,問題を暗記して いて正解に達したものは少ないと思われる.したがって,上の 3 つの段 階をきちんと理解していなければ,正しく計算できない.予習直後と反 転授業および復習を経た後の期末考査の到達度(8 点のうち 4 点以上) を 比較した結果,次のようになった(環境都市工学部のクラス). 予習直後 10 % → 期末考査 46 % これだけで, 「深い理解」に達したとは思わないが,少なくともパター ン(あるいは問題)を暗記して試験に臨むという「浅い戦略的アプロー . . . . . . チ」のみの学生を減らすことができたのではないかと考えている. 8 / 27 予習用のシートから∼二つの例∼ 空間における直線の方程式 → − → 定点 A(− a ) を通り,ベクトル d に平行な直線 g のベクトル方程式は, −→ → − → 直線 g 上の任意の点を P(− p ) とすると,AP = t d より → − − → − p =→ a + t d · · · (1) −→ → −→ → と表される.ただし,− a = OA, − p = OP である. − → ここで,A(x0 , y0 , z0 ), P(x, y, z), d = (l, m, n) とし,(1) を各成分ごと 表示すると次のようになる(t は任意の実数を表す). l x0 + l t x x0 y = y0 + t m = y0 + m t z z0 n z0 + n t − → また, d を直線 g の方向ベクトルという. − 問 1 点 A(1, 2, 3) を通り,方向ベクトルが → n = (4, 5, 6) である直線の 方程式を求めよ. . . . . . . 9 / 27 予習用のシートから∼二つの例∼ 空間における平面の方程式 1. 同一直線上にない 3 点 A, B, C を通る平面 α 上の任意の点を P とす −→ るとき,AP は次のように表される. −→ −→ −→ AP = s AB + t AC −→ この s, t は AP に対してただ一通りに定まる実数である. また,O を位置ベクトルの基点とすると,次のようになる. −→ −→ −→ −→ OP = OA + s AB + t AC · · · (2) → 2. 点 A(x , y , z ) を通り,法線ベクトルが − n = (a, b, c) である平面の 0 0 0 方程式は,平面上の任意の点を P(x, y, z) とするとき,次のようになる. a(x − x0 ) + b(y − y0 ) + c(z − z0 ) = 0 問 2 3 点 A(3, 3, 1), B(−3, 1, 4), C(0, 3, 2) を通る平面の方程式を求めよ (ヒント:(2) を用いて,媒介変数表示せよ). − 問 3 点 A(1, 2, 3) を通り,法線ベクトルが → n = (4, 5, 6) である平面の 方程式を求めよ. . . . . . . 10 / 27 予習用のシートから∼二つの例∼ z = f (x, y ) の点 (a, b) における接平面 z = f (x, y ) が点 (a, b) で全微分可能であるとは,直観的に言うと「曲 面 z = f (x, y ) が点 (a, b) において接平面をもつ」ということである. 例 曲面 z = f (x, y ) = 3 − x 2 − y 2 上の点 A(1, 1, 1) における接平面と法 線ベクトルを求めよ. 解 fx (x, y ) = −2x, fy (x, y ) = −2y より,fx (1, 1) = −2, fy (1, 1) = −2 である. これは点 A(1, 1, 1) における接ベクトルとして −→ −→ AB = (1, 0, −2), AC = (0, 1, −2) が取れることを意味する.接平面上の任意の点を P(x, y, z) とすると x 1 1 0 1+s y = 1 +s 0 +t 1 = 1+t z 1 −2 −2 1 − 2s − 2t となり,s, t を消去すると,求める接平面の方程式と法線ベクトルを得る. → 2(x − 1) + 2(y − 1) + (z − 1) = 0, − n = (2, 2, 1) . . . . . . 11 / 27 予習用のシートから∼二つの例∼ z = f (x, y ) の全微分可能性 定義 領域 D を定義域とする関数 z = f (x, y ) が点 (a, b) で全微分可能 であるとは,次を満たす定数 A, B が存在することをいう. f (a + h, b + k) − f (a, b) = Ah + Bk + o(ρ) · · · (3) √ ただし,ρ = h2 + k 2 のとき,o(ρ) は次が成り立つことを意味する. f (a + h, b + k) − f (a, b) − (Ah + Bk) o(ρ) √ = 0, i.e lim =0 2 2 ρ→0 ρ (h,k)→(0,0) h +k lim 前頁の例における接平面の方程式は,次のように変形できる. z = 1 − 2(x − 1) − 2(y − 1) · · · (4) (3) で (a, b) = (1, 1), h = x − 1, y = k − 1, A = −2, B = −2 とおくと, f (1 + h, 1 + k) = f (1, 1) − 2h − 2k + o(ρ) · · · (5) となる.(4) と (5) の違いは,点 (1 + h, 1 + k) に対応する接平面上の点の z 座標が z で,曲面 z = f (x, y ) 上の点の z 座標が f (1 + h, 1 + k) で表さ れていることである.その誤差が o(ρ) である.. . . . . . 12 / 27 予習用のシートから∼二つの例∼ まとめの問題 1. 次の関数 z = f (x, y ) によって定義される曲面上の点 (a, b, f (a, b)) に おける接平面および法線の方程式を求めよ. (1) z = f (x, y ) = x y , (a, b) = (1, 2) 1 (2) z = f (x, y ) = (x 2 + y 2 ), (a, b) = (1, 1) 2 ( 1 √3 ) √ (3) z = 1 − x 2 − y 2 , (a, b) = , 4 4 (4) z = f (x, y ) = log(x 2 + y 2 ), (a, b) = (1, 1) 2. 関数 z = f (x, y ) = x y は,点 (0, 0) で全微分可能であることを示せ. 3. (難)次の式で定義される関数 f (x, y ) は,原点 (0, 0) で全微分可能 であるが,fx (x, y ) は原点 (0, 0) で不連続であることを示せ. ) ( 1 , (x, y ) ̸= (0, 0), f (0, 0) = 0 f (x, y ) = xy sin √ x2 + y2 . . . . . . 13 / 27 予習用のシートから∼二つの例∼ 一変数関数の置換積分の公式 このページは,予習用シートには載せていないが講義プリントには記 述し,授業においても強調した点であるので,ここに記しておく. 一変数関数についての置換積分の公式を復習しておこう. ∫ b ∫ β f (x) dx = f (φ(t))φ′ (t) dt a α よって,積分の変数変換には次の三つの作業が必要であることがわかる. (1) 積分範囲を新しい変数で表現しなおす. (2) 被積分関数を新しい変数で表現しなおす. (3) dx = φ′ (t) dt 重積分の変数変換においても同様の作業をする. 補足 置換積分の公式は,この段階では計算を速く行うため(置換の計 算を省略し)暗算で右辺から左辺へ以下のように用いることが多い. [ ]1 ]1 [ ∫ π ∫ 1 ∫ 1 3 2 t 1 1 1 2 2 sin2 x cos x dx = t 2 dt = = , ex = e xe x dx = 3 3 2 2 0 0 0 0 0 . . . . . . 14 / 27 予習用のシートから∼二つの例∼ 2 次元の変数変換公式(一般公式) 定理 1 F を uv 平面の領域 Ω から xy 平面への C 1 級写像 F : x = φ(u, v ), y = ψ(u, v ) (u, v ) ∈ Ω (すなわち,x = φ(u, v ), y = ψ(u, v ) は C 1 級関数)とする.Ω が面 積確定な有界閉領域ならば,D = F (Ω) も面積確定な有界閉領域で, f (x, y ) を D 上の連続関数とすると,次の変数変換公式が成り立つ. ∫∫ ∫∫ f (x, y ) dxdy = f (φ(u, v ), ψ(u, v )) |J(u, v )| dudv D Ω ここで,J(u, v ) = φu (u, v )ψv (u, v ) − φv (u, v )ψu (u, v ) である. 問 1 次の重積分を一次変換による変数変換公式を用いて計算せよ. ∫∫ xy dxdy D = {(x, y ) : |x + y | ≤ 1, |x − 2y | ≤ 1} D ヒント:u = x + y , v = x − 2y より,逆写像. F と J(u, v ) を求める. . . . . . 15 / 27 予習用のシートから∼二つの例∼ 極座標による変換公式 定理 1 において,x = r cos θ, y = r sin θ のとき,|J(r , θ)| = r より ∫∫ ∫∫ f (x, y ) dxdy = f (r cos θ, r sin θ) r drdθ. D Ω 定理 2 0 ≤ α < β ≤ 2π ,(0 ≤)φ1 (θ) ≤ φ2 (θ), (α ≤ θ ≤ β) が連続で D = {(x, y ) | x = r cos θ, y = r sin θ, α ≤ θ ≤ β, φ1 (θ) ≤ r ≤ φ2 (θ)} ) ∫∫ ∫ β (∫ φ2 (θ) ⇒ f (x, y ) dxdy = f (r cos θ, r sin θ) r dr dθ D α φ1 (θ) ∫∫ √ 例 1 I = x 2 + y 2 dxdy , D : 1 ≤ x 2 + y 2 ≤ 9 を求めよ. D ) [ ]3 ∫∫ ∫ 2π (∫ 3 1 52 解 I = r · r drdθ = r 2 dr dθ = 2π r 3 = π 3 3 0 1 1 ∫Ω∫ 1 √ 問 2 I = dxdy , D : 1 ≤ x 2 + y 2 ≤ 4 を求めよ. 2 2 1+x +y D . . . . . . 16 / 27 予習用のシートから∼二つの例∼ 球面座標を用いた三変数関数の重積分の計算 ∫∫∫ z dxdydz, K : x 2 + y 2 + z 2 ≤ 1, z ≥ 0 の計算 例 3 三重積分 I = K 解 x = r sin θ cos φ, y = r sin θ sin φ, z = r cos θ とおくと,J = r 2 sin θ . π , 0 ≤ φ ≤ 2π に変換される.よって 2 ∫∫∫ ∫ 1 ∫ π ∫ 2π 2 sin 2θ 2 3 I = r cos θ · r sin θ drdθdφ = r dr · dθ · dφ 2 0 W 0 0 [ ] [ ]π 2 ( 1 )} r4 1 1 π 1 {( 1 ) = − cos 2θ · (−1) − − · 2π = · 2π = · − 4 0 4 4 4 4 4 K は W : 0 ≤ r ≤ 1, 0 ≤ θ ≤ 0 問 3 球面座標を利用して次の三重積分を計算せよ. ∫∫∫ I = z 2 dxdydz, K : x 2 + y 2 + z 2 ≤ 4, z ≥ 0 K . . . . . . 17 / 27 予習用のシートから∼二つの例∼ 変数変換による重積分の計算 練習 1 次の重積分を一次変換を利用して計算せよ. ∫∫ π (1) (x + y ) sin(x − y ) dxdy D : 0 ≤ x + y ≤ 1, 0 ≤ x − y ≤ 2 D ∫∫ (2) (x 2 − y 2 ) dxdy D : 1 ≤ x + y ≤ 2, 3 ≤ x − y ≤ 4 D 練習 2 ∫ 次の重積分を極座標変換を利用して計算せよ. ∫ y dxdy D : 0 ≤ x 2 + y 2 ≤ x, y ≥ 0 (1) ∫ ∫D (x 2 − y 2 ) dxdy D : x 2 + 4y 2 ≤ 1, (2) D 練習 3 次の重積分を球面座標変換を利用して計算せよ. ∫∫∫ √ x 2 + y 2 + z 2 dxdydz K : x 2 + y 2 + z 2 ≤ 9 K . . . . . . 18 / 27 「反転授業」を実施してみて 「反転授業」を実施してみて∼総括(その 1) ... 1 ... 2 ... 3 ... 4 画面だけを写し音声で解説する方法もあるが、私はあえて教育テレ ビの番組風のような感じで撮影した(具体的な模型や動きや実験を 取り入れたかったから).残念ながら,今回は一部にしかそれらを取 り入れらなかった. 講義プリントの要点をまとめて撮影用(予習用)シートとし,それ らの中で取り上げた問や練習問題(+高校数学の復習問題)および 教科書の例題などを取り混ぜた授業用の演習プリントを新たに作成 した(そのためかなり忙しくなった). 上のシートの作成のため、教材を精選し必要最小限な内容について 定義,定理,例,例題,問,練習問題という構成にした.この見直 し作業の中で, 「微分積分の基礎」的内容は意外と短時間でも (計算 技術と考え方や定理の意味や使い方など)については,効率よく習 得できるのではないかという新たな発見もあった. 高校数学や一変数の微積分とのつながりを意識し,各回の最初にそ れらについて簡単な復習を取り入れるようにした. . . . . . . 19 / 27 「反転授業」を実施してみて 「反転授業」を実施してみて∼総括(その 2) ... 動画はほとんどリハーサルなしのぶっつけ本番で撮影したので,あ とで気が付いた間違いを編集した場合もあったので,回によっては 映像や音声が飛ぶなどの不具合が生じた。 .2. ホワイトボードに PC の画面を映すと,画面が光って見づらくなっ た.動画用シートのファイルも開いて,必要ならシートと動画の画 面を同時に見ながらできるようにはしたが,PC の大画面ならともか く学生の中には通学途中や休み時間にスマホで視聴する学生もいた ので,来年度からは予習プリントを配布したいと思っている. .3. 定義,定理の証明(不十分ではあるが),問,練習など教科書風に書 いてある講義プリント(今年で使用 3 年目)と演習プリント(予習 プリント)の棲み分けを慎重に考えなければいけなくなってきた. .4. 要点を絞って定理の説明(短いものは証明する)や例題や問・練習 の解法を説明したりすると,定理の長い証明などはますます学生に 敬遠されてしまう.通常の授業では,定理の説明をするとき,その 動機や考え方・定理の意味と使い方をわかりやすく話す必要がある. 場合によっては,定理の証明の穴埋めプリントまで必要か? . . . . . . 1 . . . 20 / 27 「反転授業」を実施してみて 学生の様子・反応 ... 予習としての動画の視聴については,70 %ぐらいの学生はできてい るが,問などの問題を解くというところまで到達している生徒は半 数以下である。優秀な学生(各クラス数名)は,ほぼ完璧に予習し てきていた. .2. 予習して出てきた疑問点は,個人により理解の深さの違いはあれ, それなりに解決できたようだ.実際,課題として与えた演習プリン トの解答状況をみてもそれは裏付けられる (前期に比べてはるかによ く取り組むようになった). .3. 問題演習の場面では、友人と相談したり教え合うことや先生への質 問を奨励しているが,だいたい 70 %∼80 %ぐらいの学生は,友達 同士で相談したり教え合ったりしている.2 人で相談している場合 が大半だが中には 3,4 人から 4,5 人の仲間で相談している場面も各 クラスで少しではあるが見られるようになった.ほとんど誰とも相 談していない生徒は,友人が周りにいないか話すのが苦手な学生か, または優秀で問題をどんどん一人で解いていく学生のいずれかに分 類できる. . . . . . . 1 . . 21 / 27 「反転授業」を実施してみて 学生の「反転授業」に対する感想 (その 1) 今回の「反転授業」に対して,学生は概ね好意的に受け入れている. 以下、特徴的な感想や意見を述べる(( ) 内は春,秋学期考査の素点). ・最初は面倒だったけれど、授業で問題を解いていて「わかった!」と思 える瞬間があり理解することができました.1 回につき 15 分が限度. ・前期よりもわからないという問題が少なくなったので,予習の動画を 見るだけでも理解の手助けになっていると感じました. (14 → 54) ・友達と相談しながら問題に取り組んでいるので,理解しやすくなった. ・授業中眠くならないし、友達に教えてもらえるので助かっています. ・とても良いと思います.自分で解いて初めてわかる疑問が多々ありま した.少しわがままかもしれませんが,やはり証明をきちんと知りたい です. (81 → 100) ・予習での疑問を,授業で理解しようと努力するようになった. (23 → 63) ・予習することで,2 回同じ内容を学ぶことができるので,前期より理解 度が上がったと感じる. (22 → 68,45 → 88) ・動画は何度も繰り返し視聴できるので,自分で理解できるまでできる のでとても良いです. . . . . . . 22 / 27 「反転授業」を実施してみて 学生の「反転授業」に対する感想 (その 2) ・後期になって,手を動かす授業が増え,授業中に理解できることが多 くなった.自分のペースで問題が解けてとてもよかったと思う. ・動画を見て授業を受けているので,わからないことでも一度はしたこと があるのですぐに思い出せるし,勉強の効率も上がっている. (38 → 75) ・相談の時間もいいけれど,やっぱり先生に訊くのが一番早い.(63 → 92) ・問題中心の方が,頭を使う時間が長いので証明中心の授業よりはいい. (44 → 76) ・話し合いは良いと思います. (70 → 96) ・動画を見て家で一人で予習す るのは少し難しかったですが,演習中心の授業の方が問題を解いてみて どこがわからないか自分でわかるのでよかったです. (49 → 83) ・春学期は授業のとき寝てしまったりして内容がわからなかったが,予 習することで理解できるようになった.(43 → 78) ・予習の段階では自分がやっていることが本当に正しいのか,わからな いからまちがった知識を覚えてしまうことがあった. (59 → 93) ・動画はよかった.(43 → 91,17 → 62) ・とってもわかりやすかった. . . . . . . 23 / 27 「反転授業」を実施してみて 学生の「反転授業」に対する感想 (その 3) ・動画を見るのを忘れたりした時でも,授業でカバーしてくれてありが たかったです.演習形式なので前期よりも各回の授業に真剣に取り組め たし,頭を使えてすごく良かったと思います. ・問題自体の意味は理解できたが,証明が動画や授業を聞いても難しす ぎてよくわからなかった. ・東進みたいでした.問題数が多く,時間が足りませんでした. ・わからなかった部分の復習が手軽にできるのが良いと感じました.証 明主体の授業よりも,自分たちで手を動かす授業の方が眠くならないの で集中できました.グループワークが多く、近くの人と親密になりやす いので気軽にわからないこともきけるようになったと感じました. ・ 4 回生で動画を毎回見てくることが難しいときがあった. ・動画での予習は新鮮でやりやすかったので,来年も続けてください. ・授業中に問題を解く練習ができたのはとてもよかったです. ・動画がよく止まるので勉強しにくかった. ・春学期の授業形式の方がよかった.(105 人のうち 5 人) . . . . . . 24 / 27 補足 授業をするにあたって心がけたいこと ... 1 ... ... ... ... ... ... ... ... 2 3 4 5 6 7 8 9 伝統的・教科書的な教材配列やその取り扱いについて,本当にそれ が今の時代,今の学生(生徒)に適合するようなものになっている か,既成観念にとらわれることなく検討する必要がある. わかりやすくかつ興味深い到達目標を設定し, 「知的好奇心をくすぐ ること」が肝要. 「考えることが楽しい」と思えるような問題設定の工夫. 「見てわかる」教具の作成,イメージを豊かに育む具体物の提示. 「論理」のつながりを把握し、体系的に学ぶこと. 学ぶべき「基礎理論」「数学的表現」を整理すること. 表計算ソフト,数式処理ソフトなどを利用した数値計算,数値実験 などの効果的利用. 「深いアプローチ」ができるような「しかけ」や「デザイン」の 開発. 「数学はおもしろい」「考えることは楽しい」と少しでも感じてもら えるように! . . . . . . 25 / 27 補足 参考文献 ... ジョナサン・バーグマン, アーロン・サムズ, 反転授業, オデッセイコ ミュニケーションズ (2014) ... 松下佳代編 ディープ・アクティブラーニング:大学授業を深化させ るために, 勁草書房 (2015) [1] 松下佳代, 序章 ディープ・アクティブラーニングへの誘い [2] 溝上慎一, 第 1 章, ディープ・アクティブラーニング論からみた ディープ・アクティブラーニング [3] エリック・マズール, 第 5 章 理解か,暗記か?−私たちは正しい ことを教えているのか ... 永安聖・平野克博・山内淳生, 理工系のための微分積分学入門, 共立出版 (2013) ... ... ... 4 三町勝久, 微分積分講義, 日本評論社 (2006) 5 米田元, 理工系のための微分積分入門, サイエンス社 (2009) 6 板倉聖宣, 仮説実験授業の考え方, 仮説社 (1996) 1 2 3 . . . . . . 26 / 27 データ 春学期および前年度との成績比較 考査の平均点・標準偏差および度数分布表・ヒストグラムで比較する と次のようになる.問題の難易度の若干の変更を加味しても,成績の向 上は著しい.今後は、さらに数学的な概念の本質的な理解が深まるよう に,動画と教材および対面の授業の改善に努めたい. 春 1 秋 2 平均点 1 標準偏差 1 平均点 2 標準偏差 2 2014 年度 41.9 (22.6) 67.6 (18.1) 2013 年度 53.4 (24.7) 55.6 (23.4) . . . . . . 27 / 27