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プローブ技術輸出を促進するための実証実験 事業報告書
平成 23 年度 経済産業省委託事業 平成23年度貿易投資円滑化支援事業(実証事業) プローブ技術輸出を促進するための実証実験 事業報告書 平成24年2月 株式会社日立製作所 日本工営株式会社 財団法人国際情報化協力センター(CICC) 1 目 次 要約.......................................................................................................................................3 第1章 事業目的.................................................................................................................7 第2章 実証事業の概要......................................................................................................8 2.1 事業実施の背景...........................................................................................................8 2.2 事業実施体制とスケジュール.....................................................................................9 2.3 事業実施の概要.........................................................................................................10 2.3.1 タクシープローブデータ及びデジタル道路地図の入手......................................11 2.3.2 データを処理するためのハードウェア/ソフトウェアの準備...........................15 2.3.3 ベトナム国のマーケット等に係る現状調査……………………….......................16 2.4 実験概要....................................................................................................................25 第3章 実証実験の成果及び考察.......................................................................................31 3.1 プローブデータとデジタル道路地図の精度評価.......................................................31 3.1.1 タクシープローブデータの評価..........................................................................31 3.1.2 マップマッチング率の評価.................................................................................43 3.1.3 道路距離カバー率の評価.....................................................................................53 3.1.4 デジタル地図の完成度評価.................................................................................80 3.2 トリップデータを用いた交通状況の分析..................................................................94 3.3 現地関係機関等からの入手情報報告.......................................................................126 3.4 事業成果普及の報告................................................................................................137 3.5 結論.........................................................................................................................138 第 4 章 今後の課題と具体的戦略.......................................................................................140 4.1 技術的課題...............................................................................................................140 4.2 国家・制度的課題......................................................................................................141 4.3 アクションプラン....................................................................................................142 4.4 プローブ技術の今後への適用..................................................................................144 2 要約 1.本事業の背景 ベトナム国では、急速な経済発展と毎年 100 万人弱にも上る人口増加に伴い、都市部へ の人口集中及び車両台数の増加が引き起こされている。これにより、ハノイ市やホーチミ ン市を中心とした大都市では、交通渋滞が慢性的に発生し、さらなる渋滞悪化傾向にある。 一方で、都市部や都市間を中心とした道路建設が急速に進んでおり、交通インフラ整備コ ストに関する政府負担は増加傾向にある。 日本ではこれまで、渋滞解消、ドライバの利便性向上といった目的で、数々の ITS 技術 の導入が図られてきた。高速道路料金所周辺で発生する渋滞の解消、環境悪化抑止を目的 に導入された ETC や、高速道路、一般道に設置されたセンサ経由で車両情報を収集・加工 し、渋滞情報として提供することで、ドライバの利便性向上を図ることを目的とした VICS 等が挙げられる。これらの技術は、導入にあたりセンサや課金のための機器を広く設置す る必要がある等、大きなインフラ構築コストと期間を要するという特徴がある。一方、近 年注目を集めている技術としてプローブ技術がある。このプローブ技術では、GPS 車載器 を搭載した車両自体をセンサとみなし、車両情報を収集するため、センサを設置する必要 が無く、低コストかつ迅速なシステム導入が可能という特徴を持つ。 本実証実験では、上述したベトナム国の現状を鑑み、ミニマムコストで効果的な道路イ ンフラ整備が可能なプローブ技術が、ベトナム国においても適用可能なことを示す。これ により、将来的な渋滞悪化を解消し、ベトナム国の生活環境向上、経済の発展に寄与する ことを目的とする。 2.実証事業の概要 本実証実験では、タクシー300 台から毎日収集したプローブデータ(走行車両の緯度経度、 時刻等の情報)から、我々のプローブ処理アプリケーションを用い、現地デジタル地図へ の GPS ポイントのマッチング及び交通情報(旅行時間、旅行速度)の生成を行った。プロ ーブデータの収集に当たっては、走行する車両から現地タクシー会社が収集したプローブ データを、現地パートナー会社に構築したサーバ内に転送し、分析・処理に利用した。実 験の評価観点としては、大きく下記の 5 つの切り口で評価を実施した。 ①プローブデータの精度評価(3.1.1 節) ②マップマッチング率の評価(3.1.2 節) ③道路距離カバー率の評価(3.1.3 節) ④デジタル地図の精度評価(3.1.4 節) ⑤生成交通情報の妥当性評価(3.2 節) 「①プローブデータの精度評価」では、収集したプローブデータについて、件数の評価 (問題なく収集できているか)やプローブデータの内容、収集間隔についての評価を行っ た。「②マップマッチング率の評価」では、全プローブデータ中の、デジタル地図へのマッ 3 プマッチング処理を行えた割合を示す“マップマッチング率”の評価を行った。 「③道路距 離カバー率の評価」では、デジタル地図上の全道路の内どの程度交通情報が生成できてい るかを示す“道路距離カバー率”の評価を行った。 「④デジタル地図の精度評価」では、実 機・机上による地図データの分析及びデジタル地図へのマップマッチング結果と、実際に 現地で調査を行った結果との比較分析を行った。「⑤生成交通情報の妥当性評価」では、プ ローブデータから生成した交通情報と、実際に現地で走行したデータとを比較することで、 生成された交通情報の妥当性について評価を行った。 以上の評価・分析を行うことで、我々の持つプローブ技術がベトナム国においても適用 可能であることを実証すること及び実証実験の成果を現地関係者に報告することで、成果 普及を行うことを本実証実験の目的とする。 3.実証事業の成果・考察 本実証実験では、タクシー300 台から 3 ケ月間に渡り収集したプローブデータを使い、現 地デジタル地図へのマップマッチング及び交通情報(旅行時間・速度)の生成を行った。 また、プローブデータ自体の評価、実機及び現地踏査によるデジタル地図の評価、生成さ れた交通情報のカバー率の評価等を実施し、ベトナム国においてプローブ技術が適用可能 であることを示した。評価対象ごとの成果、考察を下記に示す。 (1) タクシープローブデータ タクシープローブデータは、稼働中のタクシー300 台から毎日 100 万件程度のプローブ データを収集することができた。また、収集件数はベトナムの旧正月などのイベントに尐 なからず左右されることがわかった。 プローブデータの中身についての分析から、いくつかの事象が判明した。GPS 車載器の 精度の影響から、GPS 点と道路との距離は最大 30 メートル程度との結果が得られた。また、 プローブデータの収集間隔については、ベトナムの車載器の仕様により、間隔にばらつき があることが判明した。これらの事象は、日本での実験事例等を加味した分析の結果、マ ップマッチング処理や旅行時間・速度の算出を行う上で問題ないとの結論に至った。 (2)マップマッチング率 マップマッチング率は 11 月~1 月の 3 ヶ月間平均して 80%程度との結果が得られたが、 これは日本での実績と比較し、妥当な値であった。一方、時間帯別に着目すると、深夜の 時間帯のマップマッチング率に低下傾向が見られ、プローブデータの収集件数減が影響し ていたと考えられる。 4 (3)道路距離カバー率 ベトナム現地のプローブデータ、デジタル地図を用いて交通情報を生成できた道路の割 合を示す道路距離カバー率は、主要道路で平均約 10%、一般道で平均約 2%程度となった。 主要道路に関しては、当初の目標(10%)通りのカバー率であったが、一般道については 目標より低い値となった。これは、タクシーの通れない細い道も含まれており、想定より 道路距離が長かったことに加え、タクシー会社間の走行テリトリーの影響により、走行エ リアに偏りがあったことなどが考えられる。 (4)デジタル地図の完成度 デジタル地図については、ビューアを用いた実機確認及び実際に現地に赴き現況との比 較評価を行った。結果として、更新頻度の課題等が明らかになったものの、マップマッチ ングの結果平均 80%程度マッチングが出来ていたことから、今回使用したデジタル地図デ ータの内容で実際の道路はカバーできていたといえる。従って、今回使用したデジタル地 図はプローブ処理する上で、問題なく使用できたと考える。 (5)生成交通情報の妥当性 今回、サンプルでピックアップした道路(リンク)について、生成した交通情報(旅行速 度)と、実際に現地で走行した結果を比較したところ、約 65%が合致し、概ね目標通りの 結果となった。さらに、現地で定点観測した結果と、その地点の生成した交通情報を比較 したところ、複数車線についてはそれぞれの車線ごと(例:右折レーン、直線レーン)に 交通情報が生成可能なことが確認できた。 5 4.今後の課題 実証実験において評価を行う中で、評価対象ごとにいくつかの課題が明らかになった。 タクシープローブデータについては、全プローブデータ中 30%がエンジン停止中に GPS 車載器が作動し、データがアップロードされていた。これらのプローブデータは、マップ マッチングの誤りにつながり得るため、データを排除するためのフィルタリング手法を検 討することで精度向上が可能と考える。 道路距離カバー率については、主要道路に関しては、カバー率約 10%程度と、当初予定 通りとなった。一方、一般道に関しては、約 2%程度と低い値となった。これは、タクシー の通れない細い道路が電子地図上に含まれるためであると考えられる。今後のビジネスを 考えると、交通情報の提供範囲に相当する道路距離カバー率を向上させることが必要であ る。従って、プローブカーの増強や、タクシー会社の追加・変更及び細かい道路の排除に よるカバー率の向上を検討する必要がある。 デジタル地図については、いくつかの課題を抽出した。1 つめに、実際に存在する道路が デジタル地図にはないといった更新に関する問題があった。2 つめに、実際にはタクシーが 通行出来ない道路をデータから識別できない課題があった。3 つめに、今回使用したデジタ ル地図と Google Map との比較及び現地踏査結果から、緯度経度にずれが存在することが わかった。これらの課題は、マップマッチング誤りと当該道路での交通情報が生成できな いといったことにつながるため、対策が必要と考える。 生成した交通情報について、現地で収集した GPS データ(走行速度、緯度傾度等)との 比較分析を行った。結果として約 65%については、生成交通情報と現地でタクシーに乗車 し、収集した GPS データとの間で、旅行速度が合致した。ただし、今回はサンプル的に評 価を行ったに留まるため、今後はサンプル数を増やし、さらに検証する必要がある。 上記に示した課題解決のための対策アプローチをとることで、各観点から今後はさらな る精度の向上を図る必要がある。 6 第1章 事業目的 近年、アジア各国の大都市では、我が国の高度成長期に見られたような、渋滞、事故、 環境の悪化といった道路交通に起因する問題を抱えている。ベトナム国においても、急速 な経済成長と共に交通環境の悪化が問題視されており、同国政府は渋滞問題対策に関する 方針を打ち出す等(2008 年 8 月 31 日付の政府決議 No.16/2008/NQ-CP「Step by Step Tackling Traffic Jams in Hanoi and Ho Chi Minh Cities」)、その対応に注力している。 首都ハノイ市では、現状渋滞対策として、市内主要部に設置した監視カメラからの映像 を、交通管制センター内のモニターで確認し、ラジオを通じてその状況を発信する方式で 渋滞対策に取り組んでいる。しかし、より適切な交通政策や都市計画の立案に不可欠な、 ハノイ市全体の交通状況の把握、分析、データの蓄積は為されていない。 本事業では、定量的な交通状況の把握を実現する日本のプローブ技術が、ベトナム国ハ ノイ市においても適用可能であることを実証する。さらに、現地関係機関(ベトナム政府、 道路交通に関連する民間組織等)へ実証実験の成果を広報し、プローブ技術の有効性につ いて普及を行う。これにより、ハノイ市への日本のプローブ技術の導入及び輸出の促進を 図ることを目的とする。 7 第2章 実証事業の概要 2.1 事業実施の背景 ベトナム国では、急速な経済発展と毎年 100 万人弱にも上る人口増加に伴い、都市部へ の人口集中及び車両台数の増加が引き起こされている。これにより、ハノイ市やホーチミ ン市を中心とした大都市では、交通渋滞が慢性的に発生し、さらなる渋滞悪化傾向にある。 一方で、都市部や都市間を中心とした道路建設が急速に進んでおり、交通インフラ整備コ ストに関する政府負担は増加傾向にある。 日本ではこれまで、渋滞解消、ドライバの利便性向上といった目的で、数々の ITS 技術 の導入が図られてきた。高速道路料金所周辺で発生する渋滞の解消、環境悪化抑止を目的 に導入された ETC や、高速道路、一般道に設置されたセンサ経由で車両情報を収集・加工 し、渋滞情報として提供することで、ドライバの利便性向上を図ることを目的とした VICS 等が挙げられる。これらの技術は、導入にあたりセンサや課金のための機器を広く設置す る必要がある等、大きなインフラ構築コストと期間を要するという特徴がある。一方、近 年注目を集めている技術としてプローブ技術がある。このプローブ技術では、GPS 車載器 を搭載した車両自体をセンサとみなし、車両情報を収集するため、センサを設置する必要 が無く、低コストかつ迅速なシステム導入が可能という特徴を持つ。 本実証実験では、上述したベトナム国の現状を鑑み、ミニマムコストで効果的な道路イ ンフラ整備が可能なプローブ技術が、ベトナム国においても適用可能なことを示す。これ により、将来的な渋滞悪化を解消し、ベトナム国の生活環境向上、経済の発展に寄与する ことを目的とする。 8 2.2 事業実施体制とスケジュール 事業実施体制を図 2.2-(1)に、スケジュールを図 2.2-(2)にそれぞれ示す。 株式会社日立製作所 日本工営株式会社 ○ 現地関係当局(HDOT、交通警察等)との調整 財団法人国政情報化協力センター(CICC) ○ ベトナム国及びハノイ市の法律、マーケット等に係る現状調査 図 2.2-(1) 事業実施体制 平成23年 9月 マイルストン 平成24年 10 月 キックオフ 機器導入 11 月 12 月 実証実験 (1)実証実験の実施 ①準備作業 ②実証実験 (2)事業成果の取りま とめ (3)事業成果の普及 図 2.2-(2) スケジュール 9 1月 2月 納品 2.3 事業実施の概要 本実証実験のシステム構成図を図 2.3-(1)に示す。GPS 車載器を搭載したタクシー300 台(以下「プローブカー」という。)より収集したプローブデータを、現地パートナー会社 に構築したプローブシステムに収集し、収集したプローブ情報に対し、プローブ処理を実 行することで交通情報の生成を行った。 現地パートナー 会社 図 2.3-(1) 実証実験の概要図 10 2.3.1 タクシープローブデータ及びデジタル道路地図の入手 (1) タクシープローブデータ 本実証実験では、ハノイ市内を走行エリアの一つとしているベトナム現地のタクシー会 社にて収集しているプローブデータを使用した。このタクシー会社では、ハノイ市内を走 行している自社に所属するタクシーに GPS 車載器を搭載させ、プローブデータを収集して いる。使用したプローブデータの基本情報を表 2.3.1-(1)に、また収集したプローブデータ のデータ項目の一覧を表 2.3.1-(2)に示す。 表 2.3.1-(1) プローブデータ基本情報 項番 項目 内容 1 台数 300 台 2 収集間隔 エンジン停止時 2 分間隔 稼働時 約 15 秒間隔 3 利用タクシー会社 1会社 表 2.3.1-(2) 収集したプローブデータ項目 項番 項目名 設定内容 1 Car ID 車両を一意に特定する ID 2 timestamp 緯度経度を記録した時間(秒まで) 3 longitude GPS から受信した、走行車両の経度情報 4 latitude GPS から受信した、走行車両の緯度情報 今回の実験では、現地タクシー会社において収集したプローブデータを、csv 形式のファ イルにて、車両ごと日ごと(24 時間分)に分割した状態で受領した。詳細な収集手順につ いては、 「2.4 実験概要」において示す。 11 (2)デジタル地図について 本実証実験では、交通情報を生成するためのアプリケーション「日立プローブ交通情報 パッケージ」 (2.3.2 節参照)を実行する際、デジタル地図を使用した。実行の際に使用し た地図の仕様を表 2.3.1-(3)に示す。 表 2.3.1-(3) デジタル地図仕様 項番 項目 内容 1 利用メーカー 現地デジタル地図メーカー 2 作成時期 2011 年 10 月 3 提供道路リンク数 72,902 リンク 4 提供フォーマット MapInfo 形式 5 道路総延長距離 63,551km 図 2.3.1-(1)に、今回使用したデジタル地図全体図を、図 2.3.1-(2)に市街地を拡大表示 したものを示す( GIS(Geographic Information System)を用いてビジュアル表示)。図 2.3.1-(1)に示した通り、デジタル地図の提供範囲は広範囲に渡っており、ハノイ市郊外も 含まれている。 12 図 2.3.1-(1) 現地デジタル地図メーカーから提供されたデジタル地図(全体) 図 2.3.1-(2) ハノイ市街地周辺拡大図 13 提供されたデジタル地図は、渋滞の起こりにくい郊外を含む広範囲に及ぶため、交通情 報の生成やその分析・評価にあたっては、ハノイ市中心部の市街地を含む、第2環状道路 の図 2.3.1-(3)に示す範囲のみとした。 図 2.3.1-(3) 本実証実験の分析・評価範囲 14 2.3.2 データを処理するためのハードウェア/ソフトウェアの準備 本実証実験では、実験実施にあたり現地パートナー会社にサーバ環境を構築した。実験 で利用したハードウェア/ソフトウェアを表 2.3.2-(1)、2.3.2-(2)に示す。 表 2.3.2-(1) 利用ハードウェア一覧 項番 ハード 用途 スペック ウェア名称 1 DB サーバ デジタル地図、タクシープロー OS:Windows Server 2008 R2 Standard ブデータ、旅行時間算出結果を CPU:Xeon E5620(2.4GHz 4 core) 格納するために利用 Memory:2 GByte Disk:146 GByte 2 AP サーバ マップマッチング処理および旅 OS:Windows Server 2008 R2 Standard 行時間算出処理に利用 CPU:Xeon E5620(2.4GHz 4 core) Memory:2 GByte Disk:300 GByte 3 GPS ロガー 現地踏査時に、GPS での緯度経度 および移動情報を記録するため に利用 表 2.3.2-(2) 利用ソフトウェア一覧 項番 ソフトウェア名称 用途 1 日立プローブ交通情 マップマッチングおよび旅行時間の算出を行う日立の 報パッケージ アプリケーション 2 Oracle 10g タクシープローブデータを格納・活用するために利用した DBMS 3 Google Map Google が提供するローカル(地域)検索サービス デジタル地図との比較評価及び旅行時間の算出結果表示に利用 4 Super Map Viewer 現地デジタル地図メーカーのデジタル地図をビジュアル表示す る際に利用 15 2.3.3 ベトナム国のマーケット等に係る現状調査 本実証実験において適用性の評価を行うプローブ技術では、車両から収集したプローブ データとデジタル地図から交通情報を生成することが可能である。この交通情報の将来的 な提供先として、携帯端末等が挙げられる。本節では、マーケット調査として、ベトナム 国の情報通信及び無線通信網の現状について調査した結果を報告する。 (1)固定電話、携帯電話の加入者数 ベトナムの 2011 年 11 月の固定電話の加入者数は約 1,550 万人(普及率約 17.5%)、携帯 電話の加入者数は約 1 億 3,000 万人(普及率約 147.4%)であった。 ベトナムでは料金徴収漏れがないプリペード携帯が主流であるが、このプリペード携帯 の契約を取得するために携帯電話各社が値引き販売し、ここ数年の間に一人で複数の携帯 電話を保有するようになった。しかし、この結果、実態として使用していない携帯電話が 統計に載ることとなったため、2010 年から 3 ヶ月以上使用されていない携帯電話を加入者 数の統計から除外することとなった。下のグラフでの携帯電話加入者数の伸び率が 2010 年 以降穏やかになっているのはこのためである。 固定電話・携帯電話の加入者数 (単位:1,000) 160000 140000 120000 100000 80000 98,224 60000 115,700 130,000 固定電話 74,872 40000 45,024 20000 18,892 0 8,568 11,166 14,768 携帯電話 17,427 16,400 15,500 出典:"Vietnam Information and Communication Technology White Book 2011" (2011 年 11 月の数値は、MIC に CICC より確認) 16 (2)通信事業者 2007 年 1 月の WTO 加盟により国営通信事業者の株式会社化や外資参入に対する規制緩 和が進んでおり、ベトナムの通信事業者各社は生き残りをかけて品質・サービスの向上料 金の引き下げ等に取り組んでいる。 ベトナムの通信キャリア/オペレータ 会社名 固定 移動 VNPT (ベトナム 郵政通信 グループ) VMC (MobiFone) Saigon Postel GPC (VinaPhone) S-Fone Viettel (軍隊通信総公社) Hanoi Telecom 携帯 会社 設立 携帯電話 会社形態 1993 BCC GSM/ (スェーデン WCDMA Comvik社) ○ 1996 VNPT 100%出資 GSM/ WCDMA ○ 2003 BCC (韓国SK Telecom他) CDMA - - GSM/ WCDMA 2004 Vietnamobile 2007 通信 方式 3G 4G 免許 実証 公布 開始 ○ BCC GSM/ (香港 WCDMA Hutchison) Global 合弁 GTEL Mibile Telecommun 2009 (ロシアVimpel (Beeline) -ications Com社) 備考 ○ 情報 通信省系 - 政府系 企業 ○ 2012年1月に EVN Telecomを 吸収合併 - 公安省 系列 GSM - - Indochina Telecom 2009 - NA - - VTC Telecom Vietnam Multimedia Corp. 2010 - NA - ○ 仮想移動 体サービス 事業者 FPT Telecom - - - - - ○ - CMC Telecom - - - - - ○ - 出典:Bien Nguyen NNMT Advisor Report、Tuoi Tre News(2010/09/11) * Business Cooperation Contract (BCC): ベトナム企業と外資企業が権利義務関係を契約で取り決め、Ministry of Planning and Investment (計画投資省)の認可を得て事業を開始する事業形態。法人は形成されない。 17 ENV Telecom 1.6% Vietnamobile 3.2% S-Fone 0.5% Beeline 0.2% VinaPhone 28.3% Viettel 36.1% MobiFone 28.7% 携帯電話市場シェア 出典:Vietnam Mobile Connection, Q2 2011 (Wireless Intelligence) ベトナムでは 1992 年にアナログ携帯電話方式である AMPS ネットワークサービスがス タートした。1993 年に GSM ネットワークサービスが開始、2003 年後半に入り PHS と CDMA2000 ネットワークが導入され、移動体通信市場において多様な競争が繰り広げられ、 市場は活性化した。システム別シェアでは、GSM が圧倒的なシェア(99%)である。 携 帯 電 話 サ ー ビ ス に お け る 企 業 別 シ ェ ア で は 、 従 来 は Vietnam Post & Telecommunications(VNPT、ベトナム郵電公社)傘下の GPC(VinaPhone)、VMC (MobiFone) で市場シェアの約 9 割を占めていたが、2004 年の国防省系 Viettel の新たな参入と同社の強 力な競争戦略をきっかけに、キャリア間の競争が激しくなり、Viettel は GPC (VinaPhone) と VMC (MobiFone)を抜いて市場シェア約 36%を獲得しており、2012 年 1 月の EVN Telecom の買収により、さらにそのシェアを拡大しようとしている。 (3)第 3 世代携帯電話および次世代携帯電話 2009 年 4 月、3G 携帯電話事業者免許の審査結果が発表され、Viettel、VinaPhone、 MobiFone、EVN Telecom と Vietnamobile の合弁事業の 4 ブランドに免許が公布された。 VinaPhone は 2009 年 10 月、MobiFone は 2009 年 12 月、Viettel は 2010 年 3 月、EVN Telecom と Vietnamobile の合弁は 2010 年 5 月にそれぞれ本格的なサービス提供を開始した。 2011 年 11 月現在の 3G 携帯電話契約者数は、 MobiFone 700 万ライセンス、VinaPhone 380 万ライセンス、Viettel 190 万ライセンス、EVN Telecom と Vietnamobile の合弁が 10 万ラ イセンスであるが、携帯電話の 1 割が 3G となったに過ぎない。 一方、2008 年 3 月に情報通信省が、VNPT、FPT Telecom、Viettel、EVN Telecom の通 信 4 社に対して WiMAX のテストを認可しており、通信キャリア各社は、相次いで外資企業 との WiMAX 分野での提携を発表し、ハノイやホーチミン等の大都市において実証実験を行 ってきた。この結果、2010 年 9 月に情報通信省は、VNPT、Viettel、FPT Telecom、CMC と VTC(Vietnam Multimedia Corp.)に対して、周波数帯割当を前提とした WiMAX の他、 18 LTE(Long Term Evolution)も対象とした第 4 世代携帯電話ネットワークの 1 年間のテスト 運用を認めた。VNPT は、2010 年末からロシア Antares 社と組み、LTE 基地局 15 台を設置 しテストを行なっている1。一方、Viettel は中国華為社と組み、2011 年 5 月から 240 ユー ザに4G 対応の USB 端末を配布しテストを行なっている2。 しかし、2 年程前に 3G の免許が公布され、ようやく 3G が立ち上がろうとしている時期 であり、まだまだ 3G の投資が回収されておらず、各社とも 4G 投資に踏み切れていないと 言われている。このような状況下で、2012 年 2 月になり、情報通信省大臣 Nguyen Bac Son 氏は、2018 年まで 4G のライセンスを先送りしたいと発言している3。 主要な事業者の携帯電話加入者数 加入者数 3G 3G 据付済 加入者数(千) 市場シェア 3G 基地局 市場シェア (千) MobiFone 34,700 28.7% 7,000 54.7% 7,500 VinaPhone 34,300 28.3% 3,800 29.7% 5,400 Viettel 43,700 36.1% 1,900 14.8% 18,500 Vietnamobile 4,000 3.3% 100 0.8% 2,200 EVN Telecom 2,000 1.6% その他 2,400 2.0% - - - 121,100 100.0% 12,800 100.0% 33,600 合計 出典:Vietnam Mobile Connection, Q2 2011 (Wireless Intelligence) 3G については 2011.12 情報通信省ヒアリング (4)ベトナムの 3G 普及の阻害要因 上記の通り、3G ライセンスの付与から 2 年超となるが、携帯電話市場における 3G の普 及は全体の 1 割程度に留まっている。その理由として、ベトナムにおいて魅力的なコンテ ンツが不足していることが、要因であると言われている。以下は、何故魅力的なコンテン ツが不足しているかについての関係者の見解である。 1) Ericsson Vietnam Deputy General Director Mr. Denis Brunetti 4 ・85%がプリペードユーザである中において、通信事業者はサービス提供価格の競争に陥 っており、アプリの開発に十分なコストを掛ける余裕がない ・また、外国企業との戦略的な連携が不足している 2) 中国華為(Huawei)アジアパシフィック会長 Mr. Yang Shu 1 2 3 4 CellularNews 2010/10/20, Wireless Intellegence 2011/07/14 CellularNews 2011/05/12 VNEconomyNews.com 2012/2/15 SGST 2011/12/03 19 5 ・3G アプリケーションの不足のため、スマートフォンがベトナムで売れていない。 3) TMA Mobile Solutions (TMS) Director Mr. Tran Phuc 6 ・TMS が直面する大きな障害は、企業がまだ携帯アプリをビジネスで活用することに慣れ ておらず、携帯アプリは、娯楽用であると考えていることである。 4) NNMT Advisor の Mr. Bien Nguyen 7 ・ベトナムでは利益の配分比率が極端に携帯電話オペレータに有利に設定されており、こ のため付加価値サービスやコンテンツの開発が盛んでないと指摘されている。携帯電話 オペレータに配分される比率は 6~7 割。 5) RIM Vietnam Deputy President Mr. Dany Bold 他 8 ・文化および言語の違いが障害となり、ベトナムでは RIM のスマートフォンの機能を十分 に生かせず、同様にアプリもベトナムユーザが使いこなせていない。このため、RIM は 現地プログラマーにアプリの開発で協力させている。しかし、多くは、ユーザの要求を 深く満足させるものではなく、娯楽目的を満足させるに留まっている。また、大部分の アプリは、外国バージョンのままで提供されているのが実体。このことが、スマートフ ォンが若者だけを引き付ける原因ともなっている。 (RIM の他にも、Nokia、Samsung、LG が同じ問題を抱えている) 6) NTT Communications (Vietnam) Ltd. 9 ・ベトナムでは、コンテンツプロバイダが育っておらず、3G コンテンツは成熟していない。 ・通信会社の数が数社であるのに比べ、コンテンツプロバイダの数が多く、尐ない通信会 社とコンテンツプロバイダは契約しなければならないため、競争上どうしても不利とな る。このため、コンテンツ利用者からの収入に対するコンテンツプロバイダへの配分比 率も低くなっているようである。 ・また、日本市場でも同様だが、決済手段を持たないコンテンツプロバイダの立場は弱い。 コンテンツ使用料は、一般に銀行から通信会社に支払われるのに1ヶ月、携帯電話会社 からコンテンツプロバイダに支払われるのに更に 3 ヶ月かかる。 ・このため、ソフトウェア会社の間で(通信会社に頼らないで決済ができる)オンラインペイ メント会社の買収が盛んである。 ・独立系のベトナムの有力なコンテンツプロバイダとしては、Vinagame があるが、やはり 決済機能がある。プリペードのスクラッチカードでの支払いが一般的である。 ・ベトナムでの信用取引は発達しておらず、VISA やマスターカードも余り普及していない。 5 6 7 8 9 Vietnam News 2011/12/15 Vietnam Bridge 2012/1/12 (親会社 TMA Soluions はベトナムを代表するソフトウェア会社に一つ) “Bien Nguyen, NNMT Advisor Report” Vietnamnet 2011/12/09 2011/12/6 貿易円滑化事業ベトナムプローブ事業実証実験調査団にて訪問聴取 20 HSBC は銀行預金が5万米ドル以上ないと銀行のクレジットカードを発行していない。 銀行カードもプリペードカードが主流。 (5)スマートフォン普及状況 IDC の「Vietnam Mobile Phone Shipment, 3Q 2010-3Q 2011」10 の四半期毎の出荷台 数を示すグラフを見ると、ベトナム国内のスマートフォンの出荷は、2010 年第 3 四半期か ら 2011 年第 3 四半期まで期を追う毎に約 30 万台から 60 万台まで出荷台数がコンスタント に増えていることが読み取れ、2011 年全体の出荷台数は、150~200 万台であったことを 示している。調査会社 GfK Asia によれば、2010 年から 2011 年のスマートフォンの販売台 数は、1.73 倍となった 11 とのことであるので、逆算すると 2010 年の販売台数は 85~115 万台となる。2009 年には、37 万台の 3G 携帯が販売されている 12 ので、ベトナムで使用 されているスマートフォンは、280~340 万台程度となる。2011 年末現在、3G ユーザ数は 約 1,300 万人で携帯電話人口総数の 1 割に過ぎないが、その内、4~5 人に一人がスマート フォンユーザと考えられる。 ベトナム Smartphone 販売台数 2009 年 2010 年 2011 年 37 万台 85~115 万台 150~200 万台 2010 年 3 月には、Symbian OS の製品が 75%を占めていたが、2011 年 4 月には、iOS が 21%から 30%を占めるようになり、また、Andriod OS が 26%を占めるようになった13。 Android OS は、ベトナムブランドの携帯電話として好まれており、Q-Mobile ブランドの An Binh Company が 2011 年 4 月にスマートフォンを出荷した後、FPT Mobile が 2011 年 8 月にスマートフォンを出荷している14。 Smartphone OS のシェア(2011 年 4 月現在) Symbian iOS Android RIM Windows 39% 30% 26% 2% 1% 出典:Wireless Intelligence 2011/7/14 “Smartphones spark mobile Internet boom in VN” Andoroid OS Smartphone のシェア(2011 年 4 月現在) 10 11 12 13 14 Cellular-News 2011/12/16 ZDNet Asia 2011/9/14 SOVICO Holdings 2011/1/9 Wireless Intelligence 2011/7/14 “Smartphones spark mobile Internet boom in VN” VietnamNet 2011/10/17 21 Samsung HTC Sony Ericsson LG 他 28% 22% 11% 10% 29% 出典:Wireless Intelligence 2011/7/14 “Smartphones spark mobile Internet boom in VN” 以下は、ホーチミン市最大の家電量販店である Nguyen Kim 家電販売店のスマートフォン 販売ランキングである。売れ筋製品の多くは、外国ブランド品であり以下の表には載せて ないが、地元 An Binh Company の Android 2.2 Froyo. S10 は、2011 年 4 月から小売価格 340 万ドン(約 1 万 2,500 円)で販売されている15。 2011 年 10 月のスマートフォン売上ランキング 順位 メーカ・機種 価格 1 Samsung Galaxy SII I9100G (サムスン・韓国) 1,370~1,380 万ドン (約 5 万 1,000 円) 2 Nokia N8 (ノキア・フィンランド) 970 万ドン(約 3 万 6,000 円) 3 Samsung Galaxy I9003 4GB 920~940 万ドン(約 3 万 4,000 円) 4 Nokia X7 930 万ドン(約 3 万 4,000 円) 5 HTC Sensation (HTC・台湾) 1,400 万ドン(約 5 万 2,000 円) 6 LG Optimus Black P970 (LG・韓国) 770~790 万ドン(約 2 万 9,000 円) 7 Sony Ericsson Xperia Arc LT15i (ソニーエリクソン・スウェーデン) 1,390 万ドン(約 5 万 1,000 円) 8 HTC Desire HD 1,250 万ドン(約 4 万 6,000 円) 9 Nokia E7 1,080~1,100 万ドン(約 4 万円) 10 iPhone 4 32GB (アップル・米国) 1,900 万ドン(約 7 万円) 出典: Nguyen Kim 家電販売店のランキング ※為替レートは 1 円=0.0037 ドン 岩井証券殿にて日本語版作成 (6)主要な携帯電話事業者の概要 15 VietnamNet 2011/10/17 22 主要な携帯電話事業者 MobiFone、VinaPhone、Viettel の指標は、下表のとおりである が、それぞれ以下の特徴がある。 なお、MobiFone と VinaPhone はともに VNPT(固定電話最大手)の子会社であるが、2011 年 6 月1日の法令(政府議定 No.25/2011/ND-CP)で通信会社の株式の 20%以上を所有してい る投資家は、他の通信会社に 20%以上の株式を所有できないこととなり、2 年間の猶予期 間の間に対策を講ずることとなったが、未だ解決に向けた具体策は決まっていない1617。 主要な通信事業者の指標 単位:加入者数・・百万人、金額・・兆ドン VMC (MobiFone) GPC (VinaPhone) Viettel 2009 2010 2011 2009 2010 2011 2009 2010 2011 加入者数 26.7 35.0 34.7 - 35.0 34.3 42.5 46.3 43.7 内 3G 加入者数 - - 7.0 - - 3.8 - - 1.9 売上 27.4 36.0 - 20.5 28.2 - 60.6 91.1 117.0 税前利益 5.6 5.9 - - - - - 10.0 20.0 備考 両者の親会社 VNPT(2010)の売上:101.6 兆ドン 市場シェア 22%の固定電話、 (市場シェア 60%超の ISP・固定電話及び郵便事業含む) 10%前後の ISP・郵便事業含む * 加入者数の減尐は統計の取り方の変更のため 携帯電話事業者満足度ランキング MobiFone Viettel VinaPhone 前払い携帯 3.92 3.85 3.83 後払い携帯 3.95 3.88 3.72 * 最高点 5 点 ①MobiFone は、1993 年に最初にスウェーデン Comvik 社と BCC 契約を結んで設立さ れた携帯電話会社であり、同社との契約は 2005 年に解消されたが、外資の技術を導 入しているため、最もしっかりした運営がなされていると言われる18。 ・2010 年 11~12 月にハノイ市とホーチミン市で 3,200 人の携帯電話ユーザを対 象に電波品質、転送スピード、情報セキュリティ、友人に最も勧めたい携帯ベ ンダ、サービス料金等につき満足度調査(上表参照)を行った結果、特に品質 面で高い評価を受け、最も高得点を稼いだのが MobiFone であった19。 16 17 18 19 “VIR” (2011/06/14) Vietnam Business Forum 2012/2/7 “Bien Nguyen, NNMT Advisor” VietNamNet Bridge 2011/1/21 23 ・MobiFone の顧客には、新しいもの好きな人、高収入な人にユーザが多い20。 ②Viettel は、軍傘下の企業であるが、1995 年に VNPT の独占であった通信市場に競争 を導入するために参入し、2004 年に携帯電話市場に参入後、急激にそのシェアを伸 ばし、現在、加入者数第一位を誇っている。 ・農村部を含む比較的に収入の尐ない人に広く21、安いサービスを提供し、最も多 くの基地局をベトナム全土に敷設している。上記 2010 年にハノイ、ホーチミン で行なった携帯電話満足度調査では、最もリーズナブルな料金を提供する事業 者と評価されている。 ・海外への事業展開が最も積極的な通信事業者であり、ラオスとカンボジアでは 収入額でトップの通信事業者となり、他にモザンビーク、ハイチ、ペルーにも 投資している。2011 年の海外からの税引き後利益は 7,000 万米ドルに達する。 ③VinaPhone のウェブサイトは、 MobiFone や Viettel に比べサービスの詳細が紹介され、 最も充実しているように見受けられる。 ・ゲームや音楽配信等の付加価値サービスからの収入は、総収入の 21%を占める22。 Viettel とともに早い段階から iPhone や iPad の販売に力を入れており、ハノイ 市・ホーチミン市にそれぞれ 10 店舗ほどの取扱店を抱える他、全国 30 都市ほ どで扱っている。 ・一方、上記 2010 年にハノイ、ホーチミンで行なった携帯電話満足度調査の総合 得点で、3 社の中で最も低い評価となっている。 20 21 22 2011/12/6 貿易円滑化事業ベトナムプローブ事業実証実験調査団にて情報通信省訪問時に聴取 2011/12/6 貿易円滑化事業ベトナムプローブ事業実証実験調査団にて情報通信省訪問時に聴取 Vietnam Investment Review 2011/1/21 24 2.4 実験概要 (1)実験期間 プローブデータ収集期間:2011 年 11 月 1 日~2012 年 1 月 31 日(3 ヶ月) 実証実験期間 :2011 年 10 月~2012 年 2 月(約 5 ヶ月) (2)実験処理フロー 本実証実験では、ベトナム現地の IT ベンダである現地パートナー会社と協力し、タクシ ー会社にて収集したプローブデータの受信、受信したプローブデータの処理、処理したア ウトプットである交通情報のビジュアル表示・分析といった一連の流れを行った。 実証実験にあたっての、作業フローを図 2.4-(1)に示す。 図 2.4-(1) 実証実験の作業フロー 上記の作業フローに含まれる処理の概要を表 2.4-(1)に示す。 25 表 2.4-(1) プローブ処理の概要 項番 1 処理名称 処理概要 処理対象範囲 マップ GPS で観測した走行車両の緯度・経度情報の誤差 デジタル地図全 マッチング を補正するために、デジタル地図を利用して、付 体 近の地図上の該当する道路を探し、正しい位置を 推測する 2 旅行時間算出 マップマッチング処理により算出されたマッチ デジタル地図全 ング点及びプローブデータの timestamp、デジタ 体 ル地図の道路リンク情報を基に、特定の道路の走 行にかかった時間を算出する 表 2.4-(1)に示した通り、マップマッチング処理及び旅行時間算出は、現地デジタル地図 メーカー提供のデジタル地図全体を対象範囲とした。一方、後述する旅行時間の算出でき た道路のカバー率等の評価にあたっては、地図の範囲が広範囲にわたるため渋滞の起こり やすい旧市街地や繁華街を含むハノイ市中心部(図 2.4-(2)参照)のみを対象として評価を 実施した。この範囲は、日本の「統計に用いる標準地域メッシュおよび標準地域メッシュ・ コード」(JIS X 0410 地域メッシュコード)で規定される“第 2 次地域区画”とほぼ同等 の 10km 四方とした。 図 2.4-(2) 評価・分析範囲 26 (3)デジタル地図のフォーマット 現地デジタル地図メーカーから受領したデジタル地図は、Mapinfo 形式と呼ばれる地図フ ォーマット形式で構成される。Mapinfo 形式のデジタル地図は、道路自体を細かい単位に分 割した「Link」と、隣り合う Link 同士を接続する接続点に相当する「Node」から成る。ま たファイルとしては、 「Link」に関連する各種情報を「Road 属性」として、「Node」に関連 する各種情報を「Node 属性」としてそれぞれ保持している。それぞれの属性に含まれるデ ータ項目と内容を表 2.4-(2)、表 2.4-(3)に示す。 表 2.4-(2) Node 属性 項番 名称 設定内容 備考 1 NodeID ID of node Unique in one map 2 Type Type of node 1:intersection node 2:dead end node 3: others 3 ConnectLink ID of roads that are connected to this node ID of roads are divided by symbol ”|” 表 2.4-(3) Road 属性 項番 名称 設定内容 備考 1 LinkID Road ID Unique in one map 2 StartNode Start node ID of this road Unique in one map 3 EndNode End node ID of this road Unique in one map 4 Level The level of the road Category of road (from 1 to 5) 5 Length Length of this road 6 StreetName Road name 次頁に続く 27 Unit: meter 項番 7 名称 Direction 設定内容 Driving direction of this road 備考 1:two-way road 2: one way , from start node to end node 3: one way,from end node to start node 4: prohibited driving 0:unkown 8 SPEED_CAT Speed category of road 9 LANE_CAT Lane category or road 10 DIVIDER With divider or not Y or N 11 AR_AUTO Allow cars Y or N 12 AR_BUS Allow bus Y or N 13 AR_TAXIS Allow taxi Y or N 14 AR_PEDEST Allow pedestrian Y or N 15 AR_TRUCKS Allow trucks Y or N 16 AR_MOTOR Allow motorbikes Y or N 17 PAVED Road is paved Y or N 次頁に続く 28 for 項番 18 名称 PRIVATE 設定内容 Road is private road (inside parks, big 備考 Y or N company area) 19 BRIDGE If it is a bridge value = Y Y or N 20 TUNNEL If it is a tunnel value = Y Y or N 21 RAMP If it is a RAMP value = Y Y or N 22 TOLLWAY If it is a tollway value = Y Y or N 23 POIACCESS If it is a segment connect from main road Y or N to POI 24 ROUNDABOUT if it is a roundabout value = Y Y or N 25 MULTIDIGIT If a road is separated into many lines (for Y or N example big road with divider) (4)交通情報分析に当たっての閾値の設定 旅行時間算出処理によって生成された交通情報の分析(第3章にて記載)にあたっては、 算出された旅行時間に基づき、3 段階の閾値を設けた。この閾値と旅行時間を比較すること で、それぞれ「渋滞」 、「混雑」、 「順調」とみなす判定基準とした。また一般的に、混雑状 況の判定基準は道路の特性に応じて異なるため、閾値の設定に当たっては、4 つ道路レベル (表 2.4-(4)参照)毎に設定を行った。表 2.4-(4)に道路レベル毎の閾値となる走行速度を 示す。 「3.1.3 道路距離カバー率の評価」では、下記表の通り主要道路を“Level 1”、一般道 を“Level 2”と新たに定義し、「種別」ごとにカバー率の分析を行った。また、「3.2 ト リップデータを用いた交通状況の分析」では、下記表の「閾値」を基に渋滞状況の判定を 行った。 29 表 2.4-(4) 道路レベル毎の閾値 項番 種別 閾値 デジタル地図 道路レベル 渋滞 混雑 順調 1 主要道路 Level 1 20km 未満 20km 以上 40km 未満 40km 以上 2 (Level 1) Level 2 20km 未満 20km 以上 40km 未満 40km 以上 3 一般道 Level 3 12km 未満 12km 以上 25km 未満 25km 以上 4 (Level 2) Level 4 以下 10km 未満 10km 以上 20km 未満 20km 以上 (5)現地踏査内容 あらかじめ実機・机上で分析した結果を踏まえ、ベトナム ハノイ市現地にて以下の観点 で現地踏査を実施した。 ①デジタル地図の評価 受領した現地デジタル地図メーカーのデジタル地図データを分析した結果、デジタル地 図上で道路が繋がっていないと見受けられる箇所を抽出、Google Map と比較を行い相違が あった箇所について、現地にて確認を行った。 また、マップマッチング処理および旅行時 間を算出した結果を Google Map 上に表示したところ、Google Map 上には道路が無いように 見受けられる箇所等についても、現地で実際に確認を行った。 ②旅行時間算出結果の評価 ベトナム現地において、GPS ロガーを保持した状態で実際にタクシーに乗車し、緯度・経 度、走行速度等の情報を記録した結果と、収集したプローブデータから実験システムで旅 行速度算出を行った結果を比較し、実験システムで算出された旅行速度が妥当かどうかの 確認を実施した。また、現地で事前に選定した複数の渋滞ポイントについて、定点観測を 行い、同様の比較・確認を行った。 30 第3章 実証実験の成果及び考察 3.1 プローブデータとデジタル道路地図の精度評価 3.1.1 タクシープローブデータの評価 本節では、収集したタクシー300 台分のプローブデータの 3 ヶ月間の収集実績について評 価を行った。収集件数に関しては、収集したタクシープローブデータから表 3.1.1-(1)に示 す推移表を作成し、考察を行った。 表 3.1.1-(1) GPS データ収集件数推移表一覧 項番 集計単位 目的 1 月間日別収集件数推移表 日別の総計を把握するため 2 月間 3 時間単位別収集件数推移表 3 時間毎の推移を把握するため また、プローブデータの内容については、表 3.1.1-(2)に示したデータ項目について、妥 当性の分析及び収集間隔の考察を行った。 表 3.1.1-(2) プローブ収集項目 項番 項目名 内容 1 Car ID 車両を一意に特定する ID 2 timestamp 緯度経度を記録した時間(秒まで) 3 longitude GPS から受信した、走行車両の経度情報 4 latitude GPS から受信した、走行車両の緯度情報 31 (1)タクシープローブデータ収集実績 図 3.1.1-(1) 11 月のタクシープローブデータ収集件数(日別)推移表 32 図 3.1.1-(2) 12 月のタクシープローブデータ収集件数(日別)推移表 33 図 3.1.1-(3) 1 月のタクシープローブデータ収集件数(日別)推移表 34 図 3.1.1-(1) ~図 3.1.1-(3)から、300 台のタクシーから、毎日安定して 105,000 件程度のプローブデータが収集できたことがわかった。 また、1 月に着目すると、1/22 と 1/23 に大きく件数が落ち込んでおり、これはベトナムの大型連休(旧正月)の始まりと合致するため、そ の影響によるものと推測される。 35 図 3.1.1-(4) 11 月のタクシープローブデータ収集件数(3 時間毎)推移表 36 図 3.1.1-(5) 12 月のタクシープローブデータ収集件数(3 時間毎)推移表 37 図 3.1.1-(6) 1 月のタクシープローブデータ収集件数(3 時間毎)推移表 38 図 3.1.1-(4) ~図 3.1.1-(6)から、0:00~6:00 の深夜から早朝の時間帯については 5,000 件/日程度と他の時間帯に比べ、収集件数が極端 に尐ない傾向が見られた。また、9:00~12:00 の通勤の時間帯と、15:00~18:00 の帰宅の時間帯は 20,000 件/日程度と最も収集件数が多いこ とがわかった。 39 (2)プローブデータ収集件数の評価 3 ヶ月間で収集したプローブデータについて、時間帯別月別の件数を表 3.1.1-(3)に示す。 表 3.1.1-(3)時間別収集件数 11 月 時間 平均 12 月 最大 最小 平均 最大 1月 最小 平均 最大 最小 0:00-3:00 58,021 114,107 39,583 45,968 82,149 39,699 46,822 68,814 35,330 3:00-6:00 73,203 124,662 58,797 63,068 71,602 56,774 60,662 75,046 43,052 6:00-9:00 140,597 176,743 113,054 140,154 154,642 109,713 132,466 160,880 65,548 9:00-12:00 175,976 205,181 162,926 185,502 203,566 164,579 187,958 218,014 102,408 12:00-15:00 159,101 189,784 138,788 166,357 181,534 143,858 173,498 198,463 132,560 15:00-18:00 184,405 211,980 175,490 194,431 214,680 165,952 198,673 224,597 159,452 18:00-21:00 153,998 183,819 139,330 157,915 190,170 79,546 159,743 201,080 105,666 21:00-24:00 96,481 139,669 79,927 91,968 153,870 20,481 94,648 122,721 71,938 1,041,786 1,345,945 935,941 1,045,367 1,169,023 897,081 1,054,471 1,223,220 76,8852 合計 (1 日当たり) 3 ヶ月間ともに 1 日当たり平均で 100 万件前後のデータを収集できている。この結果と図 3.1.1-(1)~(3)から、タクシー300 台から毎日安 定的に 100 万件前後のプローブデータを収集できたことがわかる。 また、15:00-18:00 の間の収集件数が最も多く、この時間帯のタクシー稼働が一番多いことが分かる。この時間帯は帰宅ラッシュに相当す ると考えられる。図 3.1.1-(3)から観察できるように、表の 1/22 および 1/23 のデータが極端に尐ないが、これは祝日(旧正月)であったた めであると推測される。収集件数は、こういった国全体の関わるイベントにも左右される結果となった。 40 (3)タクシープローブデータの評価 収集したプローブデータ中のデータ項目「longitude」(経度)及び「latitude」(緯度) の値から、GPS 点がデジタル地図上にマップマッチング可能かについて、分析を行った。ま た、プローブデータの収集間隔について考察を行った。 ① データ項目「longitude」及び「latitude」の評価 プローブデータを抽出し、デジタル地図にプロットした図を図 3.1.1-(7)、(8)に示す。 図 3.1.1-(7) プローブデータをデジタル地図上にプロット 図 3.1.1-(8) プローブデータをデジタル地図上にプロット(拡大図) 41 2 つの図から、デジタル地図の道路(リンク)近辺に GPS 点が存在することが分かる。実 際、道路と GPS 点との距離は最大 30 メートル程度であり、マップマッチング処理上は問題 ない。日本の高度な車載機では、カーナビゲーションとマッチングを行い緯度経度の補正 を実施する機械もあるが、マッチングを行わない機械での精度は、今回の実験で利用して いる車載機と精度に大きな差はない。本サンプルだけでなく、全体的に同様の結果となる ことから、車両 ID、緯度・経度、時刻のデータ項目を用いたマップマッチング処理が可能 であると判断した。 ②収集間隔の評価 当初現地タクシー会社にヒアリングした結果から、タクシーからプローブデータを収集 する間隔は、エンジン稼働時約 15 秒間隔ということであった。しかしながら、実データを 分析した結果から、収集間隔にはばらつきが存在した(最短 1 秒・最大 2 分)。詳細をタク シー会社に再度確認したところ、イベント起因(乗客乗り降り、エアコンの起動/停止等) 、 車両の停止時(帯域有効活用)等を起因として車載器からアップロードする間隔にばらつ きが発生するという結論となった。収集間隔の仕様は、現地のタクシーに搭載されている 車載器に依存するためコントロールが難しいことに加え、これまでの日本での実績を加味 すると、収集間隔が 30 秒以内であればばらつきが存在しても処理が可能であるため、収集 間隔に関係なくマップマッチング処理・旅行時間算出・分析の対象とした。ただし、収集 間隔が短すぎると、将来的にリアルタイム処理を行った場合、処理性能に影響を与える可 能性がある。 ③不正なプローブデータ 収集したプローブデータを分析すると、全体の約 30%については、エンジンが停止して いるにも関らず、GPS 車載器が動作し、データがアップロードされていた。これは、夜間等 にエンジン停止中も GPS 車載器が引続き動作し、車載器中に蓄積されたプローブデータが アップロードされたものと推測される。これらのデータについては、今回プローブ処理時 に、アプリケーションの機能によってフィルタリングを行った。詳細については、後述の 「3.1.2 マップマッチング率の評価」において記載する。 42 3.1.2 マップマッチング率の評価 収集したプローブデータに対し、マップマッチング処理を実施し、マッチング出来たプ ローブデータの割合を算出し、表 3.1.2-(1)に示す推移表を作成した。マップマッチング率 の定義を以下に示す。 マッチング率 マッチングに成功したデータ数 全収集データ数 ※マップマッチング処理では停車中のデータを排除する仕様となっているが、 マッチング 率算出時の分母にはこの停車中のデータも含めて計算を行った。 表 3.1.2-(1) マッチング率推移表一覧 項番 集計単位 目的 1 月間日別マッチング率推移表 日別の推移を把握するため 2 3 時間別マッチング率推移表 時間別での推移を把握するため 43 (1)月間日別マッチング率推移表 図 3.1.2-(1) 11 月日別マッチング率推移表 44 図 3.1.2-(2) 12 月日別マッチング率推移表 45 図 3.1.2-(3) 1 月日別マッチング率推移表 46 図 3.1.2-(1)~図 3.1.2-(3)から、3 ヶ月全てにおいてマップマッチング率は 80%前後という結果となった。日々の平均には大きなずれは ないことから、マップマッチングが安定して実施出来ていることが分かる。しかし、旧正月の期間(1/22~)のように収集したデータが尐な いと、マッチング率は下がってしまう傾向となった。日本での過去の実験から、高度な車載器を利用している場合かつ収集間隔が安定してい るシステムでは 100%近いマッチング率となるが、安価な車載機で収集間隔が安定していない場合では、マッチング率は 80%前後に収ってい た。今回は、15 秒間隔のデータもあれば 1 分間隔のデータもあり、収集間隔がランダムであったため、80%前後のマッチング率になったの は妥当と考える。 47 (2)月間3時間別マッチング率推移表 図 3.1.2-(4) 11 月日別 3 時間別マッチング率推移表 48 図 3.1.2-(5) 12 月日別 3 時間別マッチング率推移表 49 図 3.1.2-(6) 1 月日別 3 時間別マッチング率推移表 50 図 3.1.2-(4)~図 3.1.2-(6)より、時間帯別では、0:00 及び 3:00 の深夜が停車している車が多いため、マッチング率が下がっている。今 回の実験では、マップマッチング処理の中で、停車中かどうかの判断をしてデータを排除している。GPS の緯度経度だけでは停車中のデータ か判断は難しいため、収集項目を増やし、その項目からマップマッチング処理の前に停車中のデータを排除することで、精度を向上させるこ とができると考える。 51 (3)マッチング率の纏め 表 3.1.2-(2)および表 3.1.2-(3)に月間別と 3 時間別マッチング率を示す。 表 3.1.2-(2) 月別マッチング率 月 平均 最大 最小 11 月 81.71% 83.96% 78.76% 12 月 82.76% 84.15% 79.17% 1月 77.33% 84.50% 59.50% 表 3.1.2-(3) 3 時間別マッチング率 時間 11 月 平均 最大 0:00 63.81% 78.97% 3:00 61.79% 6:00 12 月 最小 平均 最大 7.24% 69.38% 83.08% 70.76% 51.06% 62.58% 80.54% 85.99% 74.75% 9:00 88.81% 91.64% 12:00 89.11% 15:00 1月 最小 平均 最大 最小 1.31% 64.99% 78.00% 2.73% 70.80% 58.62% 57.57% 71.60% 43.66% 81.20% 84.85% 75.99% 76.28% 86.94% 62.45% 78.97% 89.34% 92.75% 85.44% 84.40% 91.78% 59.13% 92.84% 85.39% 89.30% 93.12% 82.95% 82.47% 91.00% 51.34% 87.96% 91.25% 84.34% 88.39% 90.99% 84.06% 81.98% 91.89% 53.06% 18:00 87.96% 92.13% 83.62% 89.08% 91.44% 85.34% 83.51% 91.36% 64.14% 21:00 84.91% 90.29% 77.34% 86.34% 91.82% 63.61% 82.98% 89.44% 65.33% 表 3.1.2-(3)から、0:00 のマッチング率でマッチング率が低い傾向がみられる。これは、 データの母数はあるが、停車中のタクシーの台数が多く含まれるためであると考えられる。 また、各月とも 6:00~21:00 にかけてはマッチング率の最大と最小に大きな開きがなく(12 ~15%程度) 、安定したマッチング率となっていることが分かる。 52 3.1.3 道路距離カバー率の評価 収集したプローブデータからマップマッチングを実施し、旅行時間を算出出来たリンク の割合を算出し、表 3.1.3-(1)に示す推移表を作成した。道路距離カバー率としては、下記 2 パターンで定義される指標を用いて分析を実施した。リンク長は、リンクにより長さにば らつきがあり、異なるリンク同士で 1km 以上異なることもあるため、2 つの指標を用いた比 較を実施した。 リンク数カバー率 リンク長カバー率 旅行時間を算出したリンク数 全リンク数 旅行時間を算出した全リンク距離 全道路距離 ※ 用語の定義 リンク:デジタル地図上の道路を細かい単位に区切ったもの。Link ID で一意に特定される。 リンク数:デジタル地図に含まれる Link ID の数 リンク長:Link ID 毎に定義されているリンクの長さ 表 3.1.3-(1) 道路距離カバー率推移表一覧 項番 1 集計単位 目的 月間日別リンク数カバー率推移表 日別の推移を把握するため (主要道路・一般道別) 2 月間日別リンク長カバー率推移表 (主要道路・一般道別) 3 3 時間別リンク数カバー率推移表 時間別での推移を把握するため (主要道路・一般道別) 4 3 時間別リンク長カバー率推移表 (主要道路・一般道別) 53 (1)月間日別リンク数カバー率推移表(主要道路・一般道別) 図 3.1.3-(1) 11 月日別リンク数カバー率推移表 54 図 3.1.3-(2) 12 月日別リンク数カバー率推移表 55 図 3.1.3-(3) 1 月日別リンク数カバー率推移表 56 図 3.1.3-(1)~ 図 3.1.3-(3)から、11 月及び 12 月に関しては主要道路のリンク数カバー 率は 6%前後、1 月に関しては 8~9%と若干増加傾向にあった。このことから、1 月は主要 道路を利用したドライバが多かったことがわかる。一方、一般道に関してはどの月も 1%前 後と大きな差は見られなかった。 57 (2)月間日別リンク長カバー率推移表(主要道路・一般道別) 図 3.1.3-(4) 11 月日別リンク長カバー率推移表 58 図 3.1.3-(5) 12 月日別リンク長カバー率推移表 59 図 3.1.3-(6) 1 月日別リンク長カバー率推移表 60 図 3.1.3-(4)~ 図 3.1.3-(6)から、11 月及び 12 月に関しては主要道路のリンク長カバー 率は 10%前後、1 月に関しては約 8 割の日が 14~16%と若干増加傾向にあった。このこと から、リンク長に関しても、1 月は主要道路を利用したドライバが多かったことがわかる。 一方、一般道に関してはどの月も 2%前後と大きな差は見られなかった。 61 (3)3 時間別リンク数カバー率推移表(主要道路・一般道別) 図 3.1.3-(7) 11 月 3 時間別リンク数カバー率推移表(主要道路) 62 図 3.1.3-(8) 11 月 3 時間別リンク数カバー率推移表(一般道) 63 図 3.1.3-(9) 12 月 3 時間別リンク数カバー率推移表(主要道路) 64 図 3.1.3-(10) 12 月 3 時間別リンク数カバー率推移表(一般道) 65 図 3.1.3-(11) 1 月 3 時間別リンク数カバー率推移表(主要道路) 66 図 3.1.3-(12) 1 月 3 時間別リンク数カバー率推移表(一般道) 67 図 3.1.3-(7)~(12)から、3:00、0:00、6:00 の順にカバー率が最も尐なく深夜から早朝 は、カバー率が他の時間帯に比べ低い傾向にあることがわかった。残りの時間帯について は、主要道路、一般道ともに 21:00 が若干カバー率が低いものの、主要道路については約 9% 程度、一般道については約 1.5%と、時間帯に関わらず概ね同等のカバー率が確保できてい ることがわかった。 68 (4)3 時間別リンク長カバー率推移表(主要道路・一般道別) 図 3.1.3-(13) 11 月 3 時間別リンク長カバー率推移表(主要道路) 69 図 3.1.3-(14) 11 月 3 時間別リンク長カバー率推移表(一般道) 70 図 3.1.3-(15) 12 月 3 時間別リンク長カバー率推移表(主要道路) 71 図 3.1.3-(16) 12 月 3 時間別リンク長カバー率推移表(一般道) 72 図 3.1.3-(17) 1 月 3 時間別リンク長カバー率推移表(主要道路) 73 図 3.1.3-(18) 1 月 3 時間別リンク長カバー率推移表(一般道) 74 図 3.1.3-(13)~(18)から、3:00、0:00、6:00 の順にカバー率が最も尐なく深夜から早朝 は、カバー率が他の時間帯に比べ低い傾向にあることがわかった。残りの時間帯について は、主要道路、一般道ともに 21:00 が若干カバー率が低いものの、主要道路については約 15%程度、一般道については約 1.5%と、時間帯に関わらず概ね同等のカバー率が確保でき ていることがわかった。 1 月に着目すると、大型休暇(旧正月)があった影響から、主要道路(20~30%)、一般 道(2%~3%)ともに他の月より高いカバー率となっている。 75 (5)道路距離カバー率の評価 表 3.1.3-(2)と表 3.1.3-(3)に、 月間別のリンク数カバー率及びリンク長カバー率を示す。 表 3.1.3-(2) 月間別リンク数カバー率 月 主要道路 平均 最大 一般道 最小 平均 最大 最小 11 月 5.72% 6.45% 5.04% 1.01% 1.11% 0.93% 12 月 6.00% 7.37% 5.16% 1.06% 1.24% 0.96% 1月 8.26% 9.79% 5.87% 1.12% 1.34% 0.66% 表 3.1.3-(3) 月間別リンク長カバー率 月 主要道路 平均 最大 一般道 最小 平均 最大 最小 11 月 9.62% 10.69% 8.72% 1.67% 1.82% 1.56% 12 月 9.93% 12.32% 8.54% 1.72% 1.97% 1.57% 1月 14.03% 16.99% 10.06% 1.78% 2.12% 1.05% これらの結果より、同じ月で比較すると全体的にリンク数カバー率よりリンク長カバー 率の値が大きくなっている。従って、デジタル地図データ中のリンク長の長いリンク(道 路距離の長い道路)の旅行時間を比較的多く算出出来ていることが分かる。1 月に関しては、 リンク数カバー率、リンク長カバー率共に、他の月と比較し最大と最小に開きがあるが、 これはベトナムの祝日である旧正月があったために現れた結果であると推測される。 次に表 3.1.3-(4)~表 3.1.3-(9)に 3 時間毎の、リンク数カバー率およびリンク長カバー 率を示す。 76 表 3.1.3-(4) 11 月 3 時間別リンク数カバー率 月 主要道路 平均 最大 一般道 最小 平均 最大 最小 0:00 1.91% 4.70% 0.00% 0.33% 0.70% 0.00% 3:00 0.47% 1.80% 0.00% 0.18% 0.30% 0.10% 6:00 5.06% 8.30% 1.50% 0.63% 0.90% 0.40% 9:00 8.19% 11.40% 6.30% 1.46% 1.70% 1.10% 12:00 7.67% 10.00% 4.60% 1.53% 1.80% 1.20% 15:00 8.10% 10.80% 3.80% 1.47% 1.70% 1.20% 18:00 7.66% 11.00% 5.80% 1.39% 1.80% 1.10% 21:00 6.65% 10.00% 3.20% 1.09% 1.40% 0.90% 表 3.1.3-(5) 12 月 3 時間別リンク数カバー率 月 主要道路 平均 最大 一般道 最小 平均 最大 最小 0:00 2.45% 9.48% 0.00% 0.43% 1.07% 0.00% 3:00 0.72% 1.99% 0.00% 0.17% 0.35% 0.12% 6:00 5.19% 8.12% 2.40% 0.65% 0.85% 0.39% 9:00 8.00% 11.55% 5.64% 1.50% 1.88% 1.03% 12:00 8.22% 12.65% 5.24% 1.52% 1.85% 1.15% 15:00 8.66% 12.06% 6.27% 1.54% 1.77% 1.31% 18:00 8.46% 14.72% 5.64% 1.47% 1.77% 1.24% 21:00 6.26% 10.62% 0.44% 1.15% 1.72% 0.02% 表 3.1.3-(6) 1 月 3 時間別リンク数カバー率 月 主要道路 平均 最大 一般道 最小 平均 最大 最小 0:00 3.41% 8.26% 0.00% 0.40% 0.77% 0.00% 3:00 1.11% 3.10% 0.11% 0.19% 0.37% 0.09% 6:00 6.69% 9.85% 2.03% 0.68% 0.94% 0.37% 9:00 10.84% 15.05% 4.13% 1.50% 2.10% 0.46% 12:00 11.85% 17.59% 6.64% 1.68% 2.31% 0.78% 15:00 12.10% 15.64% 7.34% 1.65% 2.10% 0.86% 18:00 10.65% 18.66% 4.17% 1.48% 2.02% 0.84% 21:00 10.48% 17.71% 5.46% 1.31% 1.63% 0.66% 77 表 3.1.3-(7) 11 月 3 時間別リンク長カバー率 月 主要道路 平均 最大 一般道 最小 平均 最大 最小 0:00 3.56% 7.90% 0.00% 0.66% 1.20% 0.00% 3:00 1.07% 3.90% 0.00% 0.43% 0.60% 0.20% 6:00 8.63% 14.90% 3.90% 1.12% 1.50% 0.70% 9:00 13.22% 17.00% 9.50% 2.28% 2.70% 1.70% 12:00 12.65% 16.40% 8.90% 2.44% 2.80% 2.00% 15:00 13.76% 19.60% 6.40% 2.34% 2.70% 1.90% 18:00 12.99% 16.80% 8.00% 2.28% 2.90% 1.90% 21:00 10.88% 16.60% 6.00% 1.80% 2.10% 1.50% 表 3.1.3-(8) 12 月 3 時間別リンク長カバー率 月 主要道路 平均 最大 一般道 最小 平均 最大 最小 0:00 4.18% 14.23% 0.00% 0.77% 1.67% 0.00% 3:00 1.30% 2.93% 0.00% 0.40% 0.73% 0.23% 6:00 9.20% 14.62% 4.93% 1.11% 1.34% 0.69% 9:00 12.96% 18.06% 8.71% 2.35% 2.84% 1.72% 12:00 13.68% 22.13% 8.59% 2.43% 2.90% 1.83% 15:00 14.31% 18.94% 10.40% 2.42% 2.81% 2.08% 18:00 14.50% 27.48% 9.67% 2.41% 2.74% 2.02% 21:00 10.17% 16.29% 0.96% 1.82% 2.37% 0.06% 表 3.1.3-(9) 1 月 3 時間別リンク長カバー率 月 主要道路 平均 最大 一般道 最小 平均 最大 最小 0:00 5.61% 12.06% 0.00% 0.74% 1.24% 0.00% 3:00 2.00% 4.22% 0.55% 0.41% 0.59% 0.22% 6:00 11.84% 18.66% 3.28% 1.15% 1.57% 0.64% 9:00 18.63% 24.77% 8.05% 2.34% 3.18% 0.76% 12:00 20.07% 29.00% 12.55% 2.61% 3.45% 1.38% 15:00 20.49% 27.12% 12.82% 2.53% 3.15% 1.48% 18:00 18.62% 33.50% 8.71% 2.33% 3.33% 1.32% 21:00 17.06% 28.88% 8.51% 2.03% 2.51% 1.01% 78 表 3.1.3-(4)~表 3.1.3-(9)により、タクシープローブデータの収集件数(図 3.1.1-(4) ~(6)及び表 3.3.1-(3)参照)と比例して旅行時間を算出できたリンク数およびリンク長 が増加している結果が得られた。今後さらにプローブカーの台数を増加させ、台数の増加 に比例してどの程度カバー率を向上できるかを検討する必要がある。 1 月は、その他の月と比べて主要道路の利用が多い傾向が表れている。休みの期間を利 用して、市外や空港に向かうタクシーが増加したのではないかと推測される。 一般道が、3 ケ月ともに昼まで 2%前後と尐ない値となっている。これは、現状のデジ タル地図には、タクシーが通過出来ない細かい道が含まれており、母数にこの道路も含ま れていることが影響していると考える。 以上から、道路距離カバー率の向上には、プローブデータの収集件数を増加させるとと もに、タクシーが通過できる道路を抽出することも検討する必要があると考える。 79 3.1.4 デジタル地図の完成度評価 デジタル地図の評価に際してはまず、地図データ及び生成した交通情報を Google Map に 表示させた結果について実機・机上から分析を行った。分析結果から、実際に現地にて確 認する必要のあるポイントを抽出し、現地踏査を実施、デジタル地図の評価を行った。 (1)ホアンキエム湖周辺の旧市街地道路 図 3.1.4-(1)で丸で囲んだ道路(リンク)は、現地デジタル地図メーカーのデジタル地図 を用いて旅行速度を算出した結果を、ビジュアル的に Google Map 上にマッピング・表示し たものである。図 3.1.4-(1)に示したとおり、Google Map 上は道路がなく、現地デジタル 地図メーカーのデジタル地図を表示した図 3.1.4-(2)には道路が存在する。ハノイ市現地に 赴き、道路が存在するか実際に確認を行った。 図 3.1.4-(1) 旅行時間算出結果を Google Map 上に表示 80 図 3.1.4-(2) 現地デジタル地図メーカーのデジタル地図での確認 図 3.1.4-(3) 現地写真 81 図 3.1.4-(3)に示すように該当の道路は存在したが、幅員が 2 メートルもない道でありタ クシーが通過することは不可能であった。マッチング処理を行う際、プローブデータの緯 度経度が、タクシーが通過出来ない道寄りであったため、誤ってマッチングされ、後続の 処理である旅行時間の算出に至ったものと考えられる。このような誤りを低減するために は、デジタル地図からタクシーが通過出来ない道を排除するもしくは、デジタル地図に幅 員コード等を追加してマッチングに利用しない等の対策を行う必要がある。今回使用した のデジタル地図には現状、タクシーが通過可能かを指定するフラグが存在するが、現状に 反し該当箇所は“通過可能”となっており、精度には疑問が残るところである。 82 (2)ホアンキエム湖周辺の旧市街地道路 図 3.1.4-(4)において丸で囲んだ道路(リンク)は、(1)の評価地点同様現地デジタル 地図メーカーのデジタル地図を用いて旅行速度を算出した結果をビジュアル的に Google Map 上にマッピング・表示したものである。図 3.1.4-(4) に示したとおり、Google Map 上 は道路がなく、現地デジタル地図メーカーのデジタル地図を表示した図 3.1.4-(5)には道路 が存在する。ハノイ市で現地に赴き、道路が存在するか実際に確認を行った。 図 3.1.4-(4) 旅行時間算出結果を Google Map 上に表示 図 3.1.4-(5) デジタル地図での確認 83 図 3.1.4-(6) 現地写真 図 3.1.4-(6)に示すように該当の道路は実際に存在し、タクシーが通過出来る幅員があっ た。この道路に関してはデジタル地図が正しく、マップマッチング結果を基に旅行時間を 算出していることも問題がないと判断した。 ただし、旧市街地の道路でありタクシーが双方向に進むことは厳しい幅員しかなく、こ のような道路が多数あるとマッチング率は低下することが想定される。 84 (3)ハノイ西部の Tu Liem(トゥーリエム)地区 図 3.1.4-(7)に示すように、現地デジタル地図メーカーのデジタル地図上には道路(リン ク)が分断されている箇所が存在した。 図 3.1.4-(7) トゥーリエム地区 現地で確認する前に該当箇所を Google Map で比較したものを図 3.1.4-(8)に示す。 図 3.1.4-(8) トゥーリエム地区 85 現地で確認した結果を図 3.1.4-(9)と図 3.1.4-(10)に示す。 図 3.1.4-(9)と 3.1.4-(10)は、Google Map 上に示す矢印方向に撮影したものであり、道 路は分断されていないことが分かる。また、この交差点には図 3.1.4-(11)に示す「 keangnam hanoi landmark tower」が 2011 年に新規にオープンしている。 図 3.1.4-(9) 現地確認 図 3.1.4-(10) 現地確認 86 図 3.1.4-(11) keangnam hanoi landmark tower 図 3.1.4-(12)は、該当箇所を Google Map の航空写真で表示したものである。この航空写 真では、該当の道路はまだ存在せず、また、「keangnam hanoi landmark tower」が建設中 である様子が伺える。従ってこの道路は、「keangnam hanoi landmark tower」のオープン に合わせて道路が開通したのではないかと推測される。 図 3.1.4-(12) Google Map の航空写真 87 (4)ハノイ西部の Tu Liem(トゥーリエム)地区 図 3.1.4-(13)は、収集したプローブデータをデジタル地図上にプロットしたものである。 プロットした結果、丸で囲んだ箇所の道路と GPS 点で方向が異なっている。 図 3.1.4-(13) デジタル地図上にプローブデータをプロット 図 3.1.4-(14) 図 3.1.4-(13)の箇所を Google Map で確認 88 現地で確認した結果を図 3.1.4-(15)と 3.1.4-(16)に示す。現地で確認した結果、Google Map に表示された道路が存在していた。 図 3.1.4-(15) 現地写真 図 3.1.4-(16) 現地写真 デジタル地図を再度調査すると、図 3.1.4-(17)の丸に示すように、現地で調査した道路 と思しき、方向が同一の道路が存在している。またこれは GPS 点の方向とも一致する。こ のことから、デジタル地図には道路が存在しないのではなく、丸で囲んだ道路の緯度経度 が誤りではないかとの結論に至った。 このような緯度経度の誤りがあると、プローブデータを正しくデジタル地図へマッチン グできず、旅行時間が算出できない問題が発生してしまう。 89 図 3.1.4-(17) デジタルマップでの誤りと想定される道路 90 (5)工事中の道路 図 3.1.4-(18)に丸で囲んだエリアでは、現在高架道路を建設中である。 (ハノイ市環状道 路 3 号線(第 2 期) )図 3.1.4-(19)~図 3.1.4-(21)は付近を走行中に撮影した写真である。 図 3.1.4-(18) ハノイ市環状道路 3 号線(第 2 期)周辺のデジタル地図 図 3.1.4-(19) タクシーで建設中道路脇を通過 91 図 3.1.4-(20) 高架と既設道路 図 3.1.4-(21) 建設中を示す看板 しかし、デジタル地図には現在データはなく、尐なくとも道路完成直後は旅行時間を算 出することが不可能となってしまう。対策としては、道路完成に合わせてデジタル地図デ ータを更新する、もしくは新たに道路が建設・開通されることを見越して、事前にデジタ ル地図上に道路を作成、開通時期を属性として保持し、マップマッチング処理時に利用す るする等が考えられる。 92 (6)デジタル地図のまとめ 以上の評価結果から、利用したデジタル地図には、表 3.1.4-(1)に示す課題が挙げられる。 表 3.1.4-(1) デジタル地図の課題 項番 課題 内容 該当分析 項番※ 1 車両通過可否 タクシーが通過できない細かい道路は誤マッチングの (1) (2) 原因となるため、排除する必要がある。現在デジタル 地図データ中に提供されている車両の通過可否に関す るデータ項目は精度に課題があるため、排除する方法 を検討する必要がある。 2 更新頻度 デジタル地図の更新が頻繁に更新されないと、新規の (3) (5) 道路が建設されたとしても、マップマッチングができ ない。その場合、当該道路については交通情報の生成・ 提供ができないことにつながる。 3 緯度経度のずれ Google Map との比較、現地確認結果から、緯度経度の ずれの存在が確認された。これはデジタル地図自体の 精度に直結するが、誤マッチングの原因となりうるた め、他デジタル地図との比較を行う必要がある。 ※本節中の分析箇所の番号を表す。 93 (4) 3.2 トリップデータを用いた交通状況の分析 (1) GPS ロガーを利用した旅行時間算出結果の評価 本節では、実際の現地の渋滞状況と生成された交通情報の比較を行うことで、プローブ データから生成した交通情報が妥当であるかどうかの評価を行った。 <方法> Step1. ハノイ市現地において実際にタクシーに乗車し、GPS ロガーを利用して走行した経 路及び速度を記録 Step2. Step1.で記録した地点について、収集したプローブデータから算出された旅行速度 の値を抽出 Step3. Step1.と Step2.の結果を比較し、実際の渋滞状況と合致しているか評価 また、旅行速度算出結果については、表 2.4-(4)の閾値を使用し渋滞状況の判定を行った。 さらに、表 3.2-(1)に示す通り、判定の結果と対応した色で、Google Map 上への画面表示 を行い、比較分析を行った。 表 3.2-(1) 旅行時間算出結果の画面表示色 項番 渋滞判定結果 表示色 1 渋滞 赤 2 混雑 ピンク 3 順調 緑 ①DAEWOO HOTEL からホアンキエム湖付近 出発地点 DAEWOO HOTEL:2012/1/16 10:21 到着地点 旧市街地:2012/1/16 10:43 図 3.2-(1) ログ取得経路 94 表 3.2-(2) 旅行速度算出結果との比較 項番 GPS ロガー結果 旅行速度算出結果 比較 1 混雑 (10km/h 以上 20Km/h 未満) 一致 10:15~10:30 の計算結果 2 順調 (20Km/h 以上) 一致 10:15~10:30 の計算結果 95 項番 GPS ロガー結果 旅行速度算出結果 比較 3 順調 (20km/h 以上) 一致 10:15~10:30 の計算結果 4 順調 (20km/h 以上) 不一致 10:15~10:30 の計算結果 96 項番 GPS ロガー結果 旅行速度算出結果 比較 5 順調 (20km/h 以上) 一致 6 渋滞 (10km/h 未満) 一致 10:15~10:30 の計算結果 97 項番 GPS ロガー結果 旅行速度算出結果 比較 7 混雑 (10km/h 以上 20Km/h 未満) 不一致 10:30~10:45 の計算結果 8 混雑 (10km/h 以上 20Km/h 未満) 一致 10:30~10:45 の計算結果 98 項番 GPS ロガー結果 旅行速度算出結果 比較 9 渋滞 不一致 (10km/h 未満) 10:30~10:45 の計算結果 10 一致 渋滞 (10km/h 未満) 10:30~10:45 の計算結果 99 項番 GPS ロガー結果 旅行速度算出結果 比較 11 混雑 (10km/h 以上 20Km/h 未満) 不一致 10:30~10:45 の計算結果 12 渋滞 (10km/h 未満) 一致 10:30~10:45 の計算結果 100 項番 GPS ロガー結果 旅行速度算出結果 比較 順調 (20km/h 以上) 13 不一致 10:30~10:45 の計算結果 この経路に関しては、13 リンクをサンプル比較した結果、61.5%の交通情報生成結果が、GPS ロガーで取得してきた速度と合致する結果と なった。 101 ②Kim Ma 通り南から Hanoi Hotel 付近 出発地点 Kim Ma 通り南:2012/1/17 11:12 到着地点 HANOI HOTEL:2012/1/17 11:29 図 3.2-(2) ログ取得経路 102 表 3.2-(3) 旅行速度算出結果との比較 項番 GPS ロガー結果 旅行速度算出結果 比較 1 順調 (20km/h 以上) 一致 11:15~11:30 の計算結果 2 渋滞 (10km/h 以下) 一致 11:15~11:30 の計算結果 103 項番 GPS ロガー結果 旅行速度算出結果 比較 3 混雑 一致 (10km/h 以上 20Km/h 未満) 11:15~11:30 の計算結果 4 順調 (20km/h 以上) 不一致 11:15~11:30 の計算結果 104 項番 GPS ロガー結果 旅行速度算出結果 比較 5 順調 (20km/h 以上) 一致 11:15~11:30 の計算結果 6 混雑 (10km/h 以上 20km/h 未満) 不一致 11:15~11:30 の計算結果 この経路に関しては、6 リンクをサンプル比較した結果、66%の交通情報生成結果が GPS ロガーで取得してきた速度と合致する結果となった。 105 ③Lang ha 通りから DAEWOO Hotel 付近 出発地点 Lang ha:2012/1/16 到着地点 DAEWOO 20:05 HOTEL:2012/1/16 20:14 図 3.2-(3) ログ取得経路 106 表 3.2-(4) 旅行速度算出結果との比較 項番 GPS ロガー結果 旅行速度算出結果 比較 1 順調 (20km/h 以上) 不一致 20:00~20:15 の計算結果 2 順調 (20km/h 以上) 20:00~20:15 の計算結果 107 不一致 項番 GPS ロガー結果 旅行速度算出結果 比較 3 順調 (20km/h 以上) 一致 4 渋滞 (10km/h 未満) 不一致 108 項番 GPS ロガー結果 旅行速度算出結果 比較 5 混雑 (10km/h 以上 20Km/h 未満) 一致 20:00~20:15 の計算結果 6 順調 (20km/h 以上) 一致 20:00~20:15 の計算結果 109 項番 GPS ロガー結果 旅行速度算出結果 7 比較 順調 (20km/h 以上) 一致 20:00~20:15 の計算結果 8 順調 (20km/h 以上) 20:00~20:15 の計算結果 110 一致 項番 GPS ロガー結果 旅行速度算出結果 比較 9 混雑 (10km/h 以上 20Km/h 未満) 不一致 20:00~20:15 の計算結果 10 順調 (20km/h 以上) 一致 20:00~20:15 の計算結果 111 項番 GPS ロガー結果 旅行速度算出結果 比較 11 順調 (20km/h 以上) 一致 20:00~20:15 の計算結果 12 順調 (20km/h 以上) 一致 20:00~20:15 の計算結果 この経路に関しては、12 リンクをサンプル比較した結果、67%の交通情報生成結果が GPS ロガーで取得してきた速度と合致する結果となっ た。 112 (2)定点ルート評価 ハノイ市内において特に渋滞しているポイントについて、より詳細な分析を行うため、現地での定点観測と、生成した交通情報との比較分 析を行った。渋滞ポイントについては、事前に現地パートナー含め選定を行った。 ①Kim Ma 通り Kim Ma 通りで図 3.2-(4)に示すルート(矢印は進行方向を示す)で、朝、昼、夜の日々の平均旅行時間を算出した。 図 3.2-(4) 評価ルート 113 図 3.2-(5) 11 月の時間帯別旅行速度平均値 114 図 3.2-(6) 12 月の時間帯別旅行速度平均値 115 図 3.2-(7) 1 月の時間帯別旅行速度平均値 116 表 3.2-(5) 時間帯別の平均、最大、最小値 11 月 8:00-9:00 11:30-12:30 12 月 17:30-18:30 8:00-9:00 1月 11:30-12:30 17:30-18:30 8:00-9:00 11:30-12:30 17:30-18:30 平均値 22.0km/h 24.0km/h 19.9km/h 23.3 km/h 23.5 km/h 19.9 km/h 23.9 km/h 25.1 km/h 22.1 km/h 最大値 30.7km/h 29.5km/h 28.9 km/h 28.5 km/h 32.8 km/h 26.1 km/h 30.9 km/h 31.8 km/h 31.4 km/h 最小値 13.1km/h 21.2km/h 11.7 km/h 16.1 km/h 18.3 km/h 11.6 km/h 15.2 km/h 19.8 km/h 11.2 km/h 図 3.2-(8) 現地の写真 表 3.2-(5)から、全体の傾向としては、旅行速度の平均値は昼>朝>夜となり、この地点に関しては、夜間が最も混んでいることがわかっ た。次に、定点ルート観測と生成した交通情報との比較を実施した結果について考察を行う。 117 A.直線レーン、右折レーンごとの交通情報の生成 図 3.2-(9) 直進、右折レーンごとの渋滞状況 図 3.2-(9)は、実際の交差点付近の生成交通情報を Google Map 上に表示させたものである。交差点通過後に、緑色(順調)となっており、 現地で確認した結果と合致することが確認できる。また、交差点付近の道路は直進レーンと右折レーンに分割されているが、表示結果から、 それぞれのレーンごとに交通情報が生成可能であること、また直進レーン(赤:渋滞)より右折レーン(ピンク:混雑)の方が比較的スムー ズに走行できていることが、交通情報として表現可能であることがわかった。 118 B.信号付近の交通情報 図 3.2-(10)は、上記とは別の日の別の時間帯における交通情報を Google Map 上に表示したものである。交差点付近の交通情報は、交差点 を抜ける前の道路においては「渋滞」または「混雑」の表示となっている。一方、交差点通過後は 30km/h 以上の表示になっていることから、 交差点を抜けた後は順調に走行できていることがわかる。現地で観察したところ、交差点には信号機が設置されていることが判明し、信号待 ちを原因として、この図の渋滞表示の結果が得られたことがわかった。しかし、Kim Ma 通りの交差点付近は信号待ちが発生しているのみで、 1 回の青信号で信号待ちの車列が全て捌ける状態であった。つまり、信号のある交差点近辺では、画面表示上は「渋滞」もしくは「混雑」と なる一方、実際には一般的に言われる渋滞は発生していないケースがあることがわかった。 図 3.2-(10) 信号付近の旅行時間計算結果 119 ②Lang Ha 通り Lang Ha 通りで図 3.2-(11)に示すルート(矢印は進行方向を示す)で、朝、昼、夜の日々の旅行時間計算結果を算出した。 図 3.2-(11) 評価ルート 120 図 3.2-(12) 11 月の時間帯別旅行速度平均値 121 図 3.2-(13) 12 月の時間帯別旅行速度平均値 122 図 3.2-(14) 1 月の時間帯別旅行速度平均値 123 表 3.2-(6) 時間帯別の平均、最大、最小値 11 月 8:00-9:00 11:30-12:30 12 月 17:30-18:30 8:00-9:00 1月 11:30-12:30 17:30-18:30 8:00-9:00 11:30-12:30 17:30-18:30 平均値 18.5 km/h 19.7 km/h 17.7 km/h 19.1 km/h 19.6 km/h 17.3 km/h 23.1 km/h 22.9 km/h 14.4 km/h 最大値 22.5 km/h 24.0 km/h 22.8 km/h 23.2 km/h 24.6 km/h 22.5 km/h 33.7 km/h 28.9 km/h 36.4 km/h 最小値 15.4 km/h 16.7 km/h 11.8 km/h 16.6 km/h 17.4 km/h 11.3 km/h 16.2 km/h 17.8 km/h 0 km/h 図 3.2-(15) 現地写真 Kim Ma 通りと比較すると、旅行速度のばらつきが尐ない一方、図 3.2-(14)及び表 3.2-(6)を見ると、1 月の 17:30~18:30 の時間帯で旅行 時間の算出結果の平均値が 0km/h の日が多くある。その他地域ではタクシープローブを正常に収集出来ていることと、11 月および 12 月の旅 124 行速度の傾向を見る限り、この結果には何か原因があると考えた。現地で確認したところ、ハノイ市では、図 3.2-(16)に示す通り、1/3~1/20 まで市内の 11 箇所で交通規制を実施していた。 図 3.2-(16) 交通規制の案内 この交通規制により、該当道路では午後 4 時から午後 7 時までタクシーが乗りいれることが出来なかった。同規制が有効に運用されていた ため、1 月の 17:30~18:30 の時間帯で旅行時間の算出結果の平均値が 0km/h の日が多くあったと推測される。プローブ技術により、交通情 報が広く提供されるようになれば、こういったタクシー規制による車両流入量のコントロールをする必要性がなくなることが期待される。 125 3.3 現地関係機関等からの入手情報報告 本節では、渋滞状況を引き起こしている原因ともなっているハノイ市の交通事情及びハ ノイ市の現状と今後の予測について、現地にヒアリングを行った結果を報告する。 (1)ハノイの社会概要 23 ハノイ市の人口は2003 年には290万人(ハノイ市人民委員会資料)であったが、その後、 べトナムの急速な経済発展に伴い増加し、2008 年には350万人に達している。さらに、2008 年8月1 日には、隣接する人口260 万人のハタイ省を吸収合併したほか、ビンフック省とホ アビン省の一部を合併することにより、2003年の面積921k㎡ が約3.6 倍の3,345k㎡になる とともに、人口も大幅に増加し2010年12月には、656万人となっている。 ハノイ市人民委員会は、2011 年度のGDP 成長率が12%~13%を目指しているが、ハノイの GDP は、2007 年の時点でも国のGDPの17.6%を占め、人口は国の人口の12.7%を占めており、 ベトナムの首都としての機能の充実が待たれている。その需要に応えるため、ハノイ市で は、下表の通り、新しい居住地、工業団地の建設計画が推進されるとともに、多くの新し い道路が建設されている。 表3.3-(1) 新しい居住地域 区域 ハノイ市 規模 備考 ヴァンフー都市区域 (ハドン区中心部) 94.1ha 都市基準1級 ヴァンクー都市区域 (ハソン市) 23.9ha 都市基準2級 アンカイン新都市区域 (ハタイ) 約 200ha オフィスビル、ホテル等からなる 複合都市計画 ヴァンクアン-イエンフック 都市区域1級 62ha (14,300 人) 新都市区域 (居住施設、公共サービス等) ヴァンカーン大学都市区域 133.35ha 衛星都市区画 (市中心部発展の調整的役割) メーリン都市区域 フンエン省 ヴァンザン観光貿易都市 区域 119.68ha (12,000 人) バクニン・タウン バクニン省 多機能新都市区域 2020 年までに近隣地域に サービスや貿易を提供 都市基準 3 級 ティエンソン新都市区画 310ha (18,000 人) ツーソンタウン 481ha (23,680 人) リムタウン 513ha (20,000 人) 23 H23 年 3 月 METI「ベトナム・ハノイ環状4号線(北西部)PPP 事業化調査報告書」より引用 126 フォモイタウン 210ha (20,000 人) ホータウン(ツァンタイン 区) 511ha (16,000 人) ツァタウン(ルオンタイ区) 692ha (12,000 人) バクザン省 バクザンタウン開発計画 2020 年までに 263,000 人規模の街 出典:ベトナム・ハノイ環状4号線(北西部)PPP 事業化調査報告書 表3.3-(2) 工業団地 Hoa Lac High-Tech Park(HHTP、ホアラックハイテクパーク) 立地 29, Lang Hoa Lac Highway, Thach That Dist., Hanoi ハノイ中心部より西へ 30km 総面積 1,586 ha(販売面積 1,278 ha) 事業主 Hoa Lac Hi-Tech Park Management Board (ベトナム科学技術省(MOST)傘下) 事業形態 ハイテクパーク(Hi-Tech Park) 区域 工場区域、ソフトウェアパーク区域、研究開発区域、教育訓練区域、複合 施設区域、中核区域、住居・事務所区域、居住施設区域、娯楽施設区域 ウェブ http://www.hhtp.gov.vn/ ベトナムで最初に設立されたハイテクパーク。本パークの開発・建設に あたっては、これまでに三井物産・国際協力機構(JICA)等が支援を行って きた。 2006 年 11 月、ベトナム科学技術省(MOST)と三井物産・三井住友銀行・ 三井住友海上火災保険は、投資促進協力に関する覚書を交わした。 備考 MOST の所管にある FPT 社は、新会社「FPT ホアラック・ハイテク・ パーク開発」をつくり同地開発を担い、また、FPT ソフトウェアパーク、 FPT 大学がある。 パーク内の人口規模 1 万 1,000 人(2008 年 6 月現在)から 2015 年に 14 万 3,500 人に増やし、米シリコンバレーやインド・バンガロールのよう な先端技術関連の集積を目指す。 Thang Long Industrial Park(TLIP、タンロン工業団地) 立地 (I)Dong Anh District, Hanoi ハノイ市中心部より 16km (II)Yen My District, Hung Yen Province, Vietnam ハノイ市より 33km (I)第 1 期:開発面積 121ha (販売面積 88.89ha) 総面積 第 2 期:開発面積 73ha (販売面積 61.93ha) 第 3 期:開発面積 78.5ha (販売面積 56.24ha) 127 (II)第 1 ステージ:開発面積 145ha 第 2 ステージ:開発面積 75ha (I)Thang Long Industrial Park Corporation -Dong Anh Mechanic Company (建設省傘下の国営企業):42% 事業主 -Summit Global Management II (住友商事 100%子会社):58% (II)Thang Long Industrial Park II Corpration 住友商事:74%、タンロン工業団地:19%、ベトナム住友商事:7% 事業形態 工業区(Industrial Park) ウェブ http://www.tlip1.com/ タンロン工業団地 I にはキヤノン(インクジェットプリンタ工場)やパナソ 備考 ニック(光ディスクドライバーの工場他)等日本企業 60 社以上(2011 年 5 月現在)が入居。 Que Vo Industrial Park(クエヴォ工業団地) 立地 総面積 Yen Phong District, Bac Ninh Province, Vietnam ハノイ市より北東へ 31km 第 1 期:開発面積 340ha 第 2 期:開発面積 300ha 事業主 The Kinh Bac City J.S Company 事業形態 工業区(Industrial Park) ウェブ http://www.kinhbaccity.com/ キヤノン(レーザープリンタ工場)が入居。2009 年 4 月には「日越裾野産 備考 業工業団地」が着工し、日本側は、2009 年中に 50 社の中小企業による 1 億米ドルの投資を約束。 Tien Son Industrial Park 立地 総面積 Tien Son and Tien Du District, Bac Ninh Province, Vietnam ハノイ市より北東へ 22km 第 1 期:開発面積 134.76ha 第 2 期:開発面積 134.76ha 事業主 Viglacera Corporation 事業形態 工業区(Industrial Park) ウェブ http://www.viglaceraland.vn/ 128 備考 キヤノン(インクジェットプリンター工場)が入居。 (2)ハノイ市の土地利用 2007年に纏められた「ベトナム国ハノイ市総合都市開発計画調査」24によれば、周辺各省 と統合される前のハノイ市の総面積921k㎡の内、626.6k㎡(全体の68%)が農村部、62. 5 k㎡(6.8%)が住宅地、3.6 k㎡(0.4%)が商業地、23.9 k㎡(2.6%)が公共用地、16.8 k㎡(1.8%)が工業用地、2.6 k㎡(0.3%)が公園、34.9 k㎡(3.8%)が都市施設、16.3% がその他に分類されている。統合前においてもいかにその主要な社会経済機能が中心部の 限られた地域に高密度に集中していたかが分かる。都市用地は不十分で多くがまだ農業セ クターに利用されているが、それは都市用地への転換が制限的であるためである。 下表のとおりハノイ市の人口は、旧市街の都心部及びその周辺部、合わせてハノイ市の 総面積の5.6%の地域に人口の32%が集中、一方、新たに編入された総面積の80%の地域に 人口の半分が住むという構図となっている。 表3.3-(3) ハノイ市各区域の人口の推移 面積 人口 比 39.1 比 率 1.2% 密度 率 1999 都心部 人口 2005 963,000 1,094,000 2008 2008 1,136,425 18.3% 人口 増加率 (年平均) 1999~ 2008 29,065 2.3% バディン区 9.2 198,000 231,000 228,352 24,821 1.9% ホアンキエム区 5.3 165,000 179,000 178,073 33,599 1.0% ハイバーチュン区 14.6 272,000 312,000 378,000 25,890 4.9% ドンダー区 10.0 328,000 372,000 352,000 35,200 0.9% 都心周辺部 146.6 674,000 897,000 834,146 13.4% 5,691 3.0% 24.0 91,000 108,000 115,163 4,798 3.3% 9.1 149,000 196,000 185,000 20,307 3.0% カウザイ区 12.0 122,000 171,000 147,000 12,209 2.6% ホアンマイ区 41.0 161,000 236,000 216,277 5,270 4.3% ロンビエン区 60.4 151,000 186,000 170,706 2,827 1.6% 343,000 427,000 481,000 2,772 5.0% タイホ区 タインスアン区 旧ハノイ市郊外部 173.5 4.4% 5.2% 7.7% トゥリエム県 75.3 193,000 262,000 240,000 3,186 3.0% タインチ県 98.2 150,000 165,000 241,000 2,454 7.6% 24日本工営他「ベトナム国ハノイ市総合都市開発計画調査」より引用 129 旧ハノイ市農村部 602.8 18.1% 695,000 766,000 736,025 11.8% ソクソン県 306.5 246,000 266,000 ドンアイン県 182.3 261,000 ザラム県 114.0 188,000 1,221 0.7% 254,000 829 0.4% 288,000 276,750 1,518 0.8% 212,000 205,275 1,801 1.1% 2007 年編入地区 2,651.3 79.7% - - 3,036,344 48.8% 1,145 - ハノイ市全体 3,324.9 - - 6,223,940 1,872 - - - 出典:「ベトナム国ハノイ市総合都市開発計画調査」(1999/2005) およびWikipedia「ハノイ市」検索結果(2008)より作成 (3) ハノイ市の都市交通 ハノイ交通大学によれば、2010年のハノイの自動車登録台数は約40万台、一方、オート バイの登録台数は約400万台(内、毎日使用:300万台)である25。以下、2005年の数値である が、自動車(3.6%)に比べ交通手段としてのバイク(63.8%)の占める割合が圧倒的に高く、 都市交通としての鉄道が整備されていない中、公共交通としてのバス(6.7%)も十分ではな い。このような中にあって、80%以上の世帯がオートバイを所有し、40%が2台以上所有し 26 、日々の移動手段に活用しているのが実体である。 表3.3-(4) ハノイ市の都市交通需要 トリップ数(千台/日) 1995 2005 0.7 73.2% 25.1% 4,047 6.4 20.5% 63.8% 7 227 32.4 0.2% 3.6% 21 427 20.3 0.7% 6.7% 165 47 0.3 5.4% 0.7% 小計 3,082 6,340 2.1 100.0% 100.0% 徒歩 3,141 2,173 0.7 50.5% 25.5% 合計 6,223 8,513 1.4 100.0% 100.0% 自転車 オートバイ 車両 自動車/タクシー 交通 バス その他 1995 2005 2,257 1,592 632 台数比 シェア 出典:「ベトナム国ハノイ市総合都市開発計画調査」 25 26 University of Communication & Transport Mr. Tran Vu Tuan Phan「ITS in Vietnam」 日本工営他「ベトナム国ハノイ市総合都市開発計画調査」 130 (4)ハノイ市の道路、交通網の発展予測(整備計画) ハノイ市には、東西南北より国道1、2、3、5、6、18 及び32号線の7本の放射状幹線国道 が流入している。ハノイ市経由での交通輸送の大半は、これらの放射状幹線国道に依存し ており、近年の大幅な人口増に伴う交通量の増大に対応する道路網整備の遅れや公共交通 網の不足によるバイク交通や自動車台数の増加もあって、ハノイ市内の主要道路には昼夜 を問わず交通渋滞が発生している。27 このような状況にあってハノイ市では、現在、交通事情を改善するため、市内の交通渋 滞を緩和するため環状2号線、3号線の拡幅、拡張工事が推進されている。また、これと平 行して、上記7本の放射状幹線を補完するために新たに下表のとおり5本の幹線道路が計画・ 建設されており、さらには、2020年までに順次都市鉄道1~5号線の建設が計画されている。 これらの計画の多くは、首相の承認を受けたプロジェクトであり28、実行されればハノイ市 の街並みが大きく変わることは間違いない。しかし、立ち退きの問題等多くの解決すべき 課題を抱えているようで計画通りには進まないであろうというのが一般の見方である。 27 H23 年 3 月 METI「ベトナム・ハノイ環状4号線(北西部)PPP 事業化調査報告書」より引用 28 都市鉄道 5 号線を除き DICISION No.05/2011/QD-TTg で承認 131 表3.3-(5) ハノイ周辺で計画されている主要な道路・鉄道整備 区間 投資額 事業 形態 工期 備考 ハノイLang Son 高速道路 Bac Ninh 省Bac Giang 省Lang Son 省間 1,394 百万 US$ BOT Noi BaiLao Cai 高速道路 Noi BaiViet Tri-Doan HungYen Bai 省-Lao Cai 間 1,249 百万 US$ BTO 2009~2014 年 (第1期) 全長 264Km 立退き 90%完了するも、 13%の進捗 【CH09】 ハノイThai Nguyen 高速道路 ハノイ-Bac Ninh 省Thai Nguyen 省間 81,040 億 VND BOT、 BT 2009 年 11 月 ~2012 年 全長 61km、大小橋梁 19 本 2013 年 5 月完工予定 【CH10】 ハノイハイフォン 高速道路 ハノイ-Hung Yen 省Hai Duong 省ハイフォン市間 245,660 億 VND BOT (35 年) 2008 年 5 月 ~2014 年 全長 105.5km、ITC 導入、 料金徴収システムあり 【CH08】 LangHao Lac 高速道路 Cau Giay-Tu LiemHoai Duc-Quoc OaiThach That 間 75,270 億 VND BOT 2005~2010 年 全長 29km、 交通量:1500~2000 台/日 【CH08】 ハノイ 環状道路 第 2 環状道路(一部) 100 百万 US$ BOT 2011~2013 年 全長 6km ハノイ 環状道路 第 3 環状道路 (Mai Dich-Phap VanThanh Xuan-Thanh Tri -Tu Leim) 第 2 期 55,470 億 VND BOT 2010 年 6 月 ~2013 年 6 月 全長 19km ハノイ都市 鉄道 1 号線 Yen Vien-Ngoc Hoi 線 (第 1 期) 194,600 億 VND BOT 2012~2017 年 (第 1 期) 全長 15.36km、全 16 駅 (第 2 期:23.34km) (運行後旅客:15 万人/年) 【CR03】 ハノイ都市 鉄道 2 号線 Nam Thang Long市内中心Thuong Dinh 線 (第 1 期) 195,500 億 VND BOT 2011~2017 年 全長 11.5km、全 16 駅 (第 2 期:16.2km) (運行後旅客:53 万人/年) ハノイ都市 Cat Linh-Nga Tu So鉄道 2A 号線 Ha Dong-Ba La 線 553 百万 US$ BOT 2008~2013 年 全長 14km、全 12 駅 高架橋施行中、 ゼネコンは中国 ハノイ都市 鉄道 3 号線 679 百万 US$ NA 2010 年 9 月 ~2015 年 (第 1 期) 未定 BOT 未定 全長 53.1km、都市鉄道 1、2、3、5 線を環状線 で結ぶ予定 1,500 百万 US$ BOT 2011~2017 年 (第 1 期) 全長 11.3km、全 22 駅 (第 2 期:22.2km) 2043 年資金回収予定 ハノイ都市 鉄道 4 号線 ハノイ都市 鉄道 5 号線 Nhon-ハノイ駅Hoang Mai 線 Dong Anh-Sai DongVinh TuyThuong Cat-Me Ling 線 Nam Tay HoNgoc Khanh-LangHoa Lac 線 (第 1 期) 2011~2013 年 出典:JETRO「ベトナム・インフラマップ」より作成 備考欄CH07~CH11はベトナム交通プロジェクト番号 132 全長 100Km 計画承認済み 入札準備中 【CH07】 全長 12.5km (第 2 期:8.5km) (運行後旅客:15 万人/年) 図3.3-(1) ハノイの主要道路 出典:H23年3月 METI「ベトナム・ハノイ環状4号線(北西部)PPP事業化調査報告書」 (但し、環状4号線はまだFS段階のため上図から削除) CH08~CH11は、ベトナム交通案件プロジェクト番号 133 (5)ベトナムの道路舗装状況 JICAが2011年3月に作成した報告書「VITRANSS2 29 」によれば、2006年においてベトナム の道路総延長は251,787km、その内、国道が17,295 km、県道が23,138km、区域(district) 道が54,962km、生活共同体(commune)道、その他の道路14,950kmである。しかし、舗装され た道路は32%(Asphalt、Cement Concrete)に留まっていると記されている。 表3.3-(6) ベトナム道路舗装状況(VITRANSS2) 出 典 : Transport Development Strategy Institute 及 び Vietnam Road Administrationの資料に基くVITRANSS2 調査団が作成 一方、ベトナム統計局の資料には、主要な道路しか記されていないが、2009年までの数 値が記されているので以下に示す。この資料によれば、主要な道路の50%近くがアスファ ルト舗装されている。 29 JICA「The Comprehensive Study on the Sustainable Development of Transport System in Vietnam (VITRANSS2) MAIN TEXT」 134 表3.3-(7) 主要道路の舗装状況 総延長 国道 県道 地方道 合計 アスファルト 石舗装 じゃり道 土 2009 15,065 14,768 - 297 - 2008 14,611 14,430 - 181 - 2007 13,554 12,768 275 392 119 2009 36,225 25,850 2,655 4,429 3,291 2008 32,119 23,704 422 4,756 3,237 2007 31,575 22,086 865 5,034 3,590 2009 129,259 47,323 6,243 32,334 43,359 2008 124,663 41,974 7,903 32,419 42,367 2007 114,960 31,156 9,091 30,724 43,989 2009 180,549 87,941 8,898 37,060 46,650 2008 171,392 80,108 8,325 37,356 45,603 2007 160,089 66,010 10,231 36,150 47,698 出典:ベトナム統計局 (6)ベトナムの自動車販売台数 ベトナムは、2011年に20%に迫るインフレを経験し、自動車販売台数が一時的に伸び悩 んでいるが、2013年以降には再び伸びるであろうとベトナム自動車工業会(VAMA)は予測し ている。 表3.3-(8) 自動車販売台数 2011年 2010年 乗用車 87,064 87,915 多目的車(SUV) 22,956 24,309 バス 178 572 合計 110,938 112,224 出典:Vietnam Automobile Manufacturers’ Assosiation (VAMA) 135 表3.3-(9) メーカ別販売台数 2011年 2010年 Truong Hai 31,801 26,047 Toyota 29,792 31,135 GM Daewoo 10,350 9,685 Ford 8,697 6,475 Vinaxuki 7,607 9,002 Visuco (Suzuki) 4,344 3,242 Vinamotor 3,788 12,274 Mercedes-Benz Vietnam 2,896 2,827 Honda 2,555 3,140 VinaStar (Mitsubishi) 2,184 2,492 Isuzu 1,608 1,978 VMC (BMW、Mazda、Kia) 1,134 622 839 1,230 2,653 1,014 110,938 112,224 Hino その他 合計 出典:Vietnam Automobile Manufacturers’ Assosiation (VAMA) 136 3.4 事業成果普及の報告 ベトナム現地政府組織である HDOT(ハノイ市交通支局)に対し、本実証実験の報告会 を実施した。実施内容を以下に示す。 ■ハノイ市プローブ実証実験成果報告会■ 日時:2012/2/17 18:00~20:00 対象:HDOT(Hanoi Department of Transport) 内容:・実証実験の実施内容説明 ・デモ機を活用した実証成果のデモンストレーション ・今後のビジネス展開について 成果:HDOT の主要関係者に対し、本実証実験の成果の報告をすることで、プローブ技術 の有効性を浸透させることができた。 137 3.5 結論 本実証実験では、タクシー300 台から 3 ケ月間に渡り収集したプローブデータを使い、現 地デジタル地図へのマップマッチング及び交通情報(旅行時間・速度)の生成を行った。 また、プローブデータ自体の評価、実機及び現地踏査によるデジタル地図の評価、生成さ れた交通情報のカバー率の評価等を実施し、ベトナム国においてプローブ技術が適用可能 であることを示し、さらに今後への課題を抽出した。以下にその成果と抽出した課題を示 す。 (1) タクシープローブデータ タクシープローブデータは、稼働中のタクシー300 台から毎日 100 万件程度のプローブデ ータを収集することができた。また、収集件数については、ベトナムの旧正月などのイベ ントに大きく左右されることがわかった。 プローブデータの中身についての分析から、いくつかの事象明らかになった。車載器の 精度の影響から、GPS 点と道路との距離は最大 30 メートル程度であった。また、プローブ データの収集間隔については、ベトナムの車載器の仕様により、間隔にばらつきがあるこ とが判明した。これらの事象については、日本での実験事例等を加味した分析の結果、マ ップマッチング処理を行う上では問題ないとの結論にいたった。 課題としては、全プローブデータ中 30%がエンジン停止中に GPS 車載器が作動し、アッ プロードされてデータであった。これらのプローブデータは、マップマッチングの誤りに つながり得るため、データを排除するためのフィルタリング手法を検討することで精度向 上が可能と考える。 (2)マップマッチング率 マップマッチング率は 11 月~1 月の 3 ヶ月間平均して 80%程度との結果が得られたが、 これは日本での実績と比較し、妥当な値であった。一方、時間帯別に着目すると、深夜の 時間帯のマップマッチング率に低下傾向が見られ、プローブデータの収集件数減が影響し ていたと推測される。 (3)道路距離カバー率 ベトナム現地のプローブデータ、デジタル地図を用いて交通情報を生成できた道路の割 合を示す道路距離カバー率は、主要道路で平均約 10%、一般道で平均約 2%程度となった。 主要道路に関しては、当初の目標通りのカバー率であったが、一般道については目標より 低い値となった。これは、タクシーの通れない細い道も含まれており、想定より道路距離 が長かったことに加え、タクシー会社間の走行テリトリーの影響により、走行エリアに偏 りがあったことなどが考えられる。 138 (4)デジタル地図の完成度 デジタル地図については、ビューアを用いた実機確認及び実際に現地に赴き現況との比 較評価を行った。結果として、更新頻度の課題等が明らかになったものの、マップマッチ ングの結果平均 80%程度マッチングが出来ていたことから、今回使用したデジタル地図デ ータの内容で実際の道路はカバーできていたといえる。従って、今回使用したデジタル地 図はプローブ処理する上で、問題なく使用できたと考える。 (5)生成交通情報の妥当性 今回、サンプルでピックアップした道路(リンク)について、生成した交通情報(旅行速 度)と、実際に現地で走行した結果を比較したところ、約 65%が合致し、概ね目標通りの 結果となった。ただし、今後さらにサンプル数を増やし、妥当性の検証を行う必要がある。 さらに、現地で定点観測した結果と、その地点の生成した交通情報を比較したところ、複 数車線についてはそれぞれの車線ごと(例:右折レーン、直線レーン)に交通情報が生成 可能なことが確認できた。 以上の評価から、プローブデータの精度向上、デジタル地図の課題、生成交通情報のカ バー率向上等課題は挙げられるものの、我々のプローブ技術がベトナムハノイ市において も、適用可能であると結論付ける。 139 第4章 今後の課題と具体的戦略 4.1 技術的課題 第3章での評価結果を踏まえ、抽出した技術的課題を表 4.1-(1)に示す。 表 4.1-(1) 技術的課題 項番 1 課題内容 関連章節 課題1:プローブデータの精度 3.1.1 タクシープローブデー タの評価 2 3.1.3 課題2:道路距離カバー率の向上 道路距離カバー率の算 出 3 3.1.4 課題3:現地デジタル地図の精度 デジタル地図の完成度 評価 4 課題4:生成交通情報と現地交通状況の比較手段の 3.2 トリップデータを用いた 確保 交通状況の分析 (1)課題1:プローブデータの精度向上 3.1.1 節で示した通り、プローブデータは毎日順調に収集できていたものの、全体の 30% 程度については妥当でないデータ(深夜に車が停止しているのに、GPS 車載器起動)が含 まれていた。このような不正データは、マップマッチング誤りに結びつくため、収集する プローブデータ全体としての精度を向上させる必要がある。 (2)課題2:道路距離カバー率の向上 3.1.3 節で示した通り、現状プローブ処理により交通情報の生成できた道路の割合(道路 距離カバー率)は、主要道路に関しては当初予定通り 10%程度となった。一方、一般道路 については約 2%程度に留まった。これは、今回の実験ではタクシーの台数が 300 台であっ たことやそもそものタクシー会社ごとに走行テリトリーが存在すること、またタクシーの 通れない細かい道路もカウントしていること等が原因と考えられる。道路距離カバー率を 向上させることは、渋滞情報の提供可能な地域を拡大させることを意味するため、将来的 なベトナム国におけるプローブビジネス展開に向け、カバー率を向上させることが不可欠 であると考える。 (3)課題3:現地デジタル地図の精度 本実証実験で活用したデジタル地図である現地デジタル地図メーカーのデジタル地図と Google Map との机上・実機での比較・評価及び現地踏査による実際の道路状況との比較を 行った結果、デジタル地図の精度に関する課題を抽出した。3.1.4 節で述べた通り、例えば タクシーの通れない道にマップマッチングし、交通情報を生成してしまっているケースが 140 見受けらたが、これはデジタル地図に道路の幅員コードなどの特性情報が不足しているこ とに起因する。また、更新頻度の影響から、デジタル地図の内容と実際の道路状況との差 異が発生していた。さらに、Google Map と今回使用したデジタル地図との比較から、デジ タル地図の一部データの緯度経度に差異が存在することが分かった。これらの課題は、プ ローブデータをデジタル地図にマップマッチングさせる際、誤マッチングとなる確率が上 がる等、地図上の一部箇所において交通情報の生成がうまくいかないことにつながる可能 性がある。また、3.2.2 節で述べた通り、定点ルート評価を実施した結果、交差点の信号付 近においては、生成した交通情報から読み取れる渋滞状況と、実際の車列の挙動とで差異 が生じていることが判明した。これは、信号待ちが発生していることに起因しているが、 交差点の渋滞状況をより忠実に表現するには、信号待ちを考慮した渋滞情報の表示が必要 であると考える。 (4)課題4:生成交通情報と現地交通状況の比較手段の確保 今回の実験では、現地において実際にタクシーに乗車しながら収集した速度等の走行デ ータと、収集したプローブデータから生成した交通情報との比較分析を行った。しかし、 この分析方法は、人手による部分が多く、コストが大きいためサンプル的に実施するに留 まった。生成した交通情報が妥当かどうかについて、さらに効率的に実施する手法を検討 する必要がある。 4.2 国家・制度的課題 第2章及び第3章で検討した内容から、抽出した国家・制度的課題を表 4.2-(1)に示す。 表 4.2-(1) 国家・制度的課題 項番 1 課題内容 関連章節 課題5:将来ビジネスモデル検討の必要性 2.3.3 ベトナム国のマーケッ ト等に係る現状調査 3.4 事業成果普及の報告 (1)課題5:将来ビジネスモデルの検討 本実証実験を将来的にビジネスにつなげていくためには、プローブ処理により生成され た交通情報をどのように提供し、収入を得るかといった、ビジネスモデルの検討が必要で ある。また、ベトナム国においてビジネスをしていくためには、現地の文化や法令を理解 したアプローチが必要であり、現地政府や民間組織といったパートナーの確保が必要であ ると考える。 141 4.3 アクションプラン 4.1 節、4.2 節で挙げた課題に対する、今後のアクションプランを表 4.3-(1)に示す。 表 4.3-(1) 今後のアクションプラン 項 課題 アクション 区分※2 番 1 課題1:プローブデー ・不正データと正常データのフィルタリング手法 2 3 4 中期 タの精度 検討 課題2:道路距離カバ ・タクシー台数の増強(300 台⇒800 台) 短期 ー率の向上 ・協力タクシー会社の追加・変更 短期 課題3:現地デジタル ・他デジタル地図会社との比較検討 短期 地図の精度 ・関係機関からの正確な緯度経度情報の入手 中期 課題4:生成交通情報 ・GPS ロガーによる GPS データの定期収集 中期 と現地交通状況の比較 ・リアルタイム配信デモシステムの構築・活用 中期 課題5:将来ビジネス ・現地組織のニーズ調査・把握 長期 モデル検討の必要性 ・プローブビジネスモデルの検討 長期 手段の確保 5 ※1 ただし、本実証実験の継続案件の開始が 2012/10 と仮定する。 ※2 <凡例>短期:継続案件の開始までにアクション実施 中期:来年度実証実験(継続案件)完了時までにアクション実施 長期:将来ビジネスに向けてアクション実施 (1) 「課題1:プローブデータの精度」に対するアクション 不正なプローブデータの発生は、現地のヒアリング結果から、主に車載器の不具合に起 因するものと考えられる。不正とみなされたデータに関しては、プローブ処理実行時に使 用せずに破棄する必要があるが、やみくもに破棄していてはマッチング率向上やより正確 かつより広範囲な交通情報生成の妨げになりうる。そこで、プローブデータの母体の精度 向上に向け、不正データと正常データをフィルタリングするための手法の検討を行う。 (2) 「課題2:道路距離カバー率の向上」に対するアクション 今回実証実験では、300 台のタクシー活用により、当初予定通り道路距離カバー率約 10% (主要道路)という結果が得られた。将来ビジネスに向けてはカバー率の向上が必要であ るが、向上させるにはタクシー台数を増加させる必要がある。台数の増加に対するカバー 率の増加率を検証することで、将来的に必要な台数の推定を行う。また、ハノイ市におい ては、タクシー会社間で走行テリトリーが存在する。よって、別のタクシー会社を活用す るもしくは複数のタクシー会社を併用することによる、カバー率の向上を検討する。 142 (3) 「課題3:現地デジタル地図の精度」に対するアクション 道路の特性情報不足に関する課題に対しては、デジタル地図情報の中に、道幅に関する 情報を追加したり、タクシー通過可否に関する情報を活用する等して対応可能であると考 えられる。また、更新頻度の課題に対しては、デジタル地図の更新頻度を上げることで、 現状の道路状況をタイムリーにデジタル地図に反映させることが有効であると考える。更 に、信号待ちを考慮した渋滞表示の課題に対しては、信号の位置、信号制御情報(赤信号の 時間等)をデジタル地図データに取り込み、交通情報生成時のインプットにすることで対応 可能であると考える。ただし、いずれにしてもこれらの対策は、デジタル地図会社にフィ ードバックし、反映してもらう必要があるなど、対応策としては現実的ではない側面も含 んでいる。従って、アクションとしては、今回使用したデジタル地図以外の他デジタル地 図についても比較検討することが妥当であると考える。また、Google Map と今回使用した 現地デジタル地図メーカのデジタル地図との緯度経度のずれに対しては、正確な緯度経度 情報を入手することで、比較を行う。 (4) 「課題4:生成交通情報と現地交通状況の比較手段の確保」に対するアクション 実際に走行したデータについて、より多くのバリエーション(時間帯、経路、地点等) で収集し、今回と同様の比較分析を行う。また、プローブデータの収集~プローブ処理(マ ップマッチング、旅行時間・速度算出)~交通情報の画面表示の一連の処理をリアルタイ ムに行うデモシステムを構築し、車両に乗車した状態で、交通情報を端末に表示できるよ うにする。これにより、より効率的な実際の走行データと生成交通情報との比較分析が可 能となると考える。 (5) 「課題5:将来ビジネスモデル検討の必要性」に対するアクション 今回の実証実験において有効性を示したプローブ技術を事業化するに当たっては、多くの 検討事項が存在する。そこで、現地パートナーと協力し、現地政府組織、民間組織のニー ズの把握、事業化に向けたビジネスモデル案、事業化に伴う現地民間パートナー会社の確 保について検討を行う。 143 4.4 プローブ技術の今後への適用 (1)ベトナム国およびハノイ市における交通管制の現状 ①ベトナム国における交通管制現状再整理 本実証事業の対象であるベトナム国では、現在南北高速道路を建設中である。 VITRANS2 によれば、高速道路の管制はハノイ首都圏、中部のダナン、南部のホーチミン 首都圏の各 3 か所に分割され整備される予定である。VITRANS2 に引き続き、現在は JICA の『ハノイ首都圏高速道路交通管制システム整備計画準備調査』などが実施されている ところである。以下に VITRANS2 からの抜粋、および今後整備すべき都市内交通管制の 方向性について示す。 6. Fu ll Pictu re of Vietn a m I TS cen ter in th e Fu tu re Ha noi Exp. Main Center Ha noi Metropolitan Main Center Da nang Exp. Main Center HCMC Exp. Main Center Da nang City Main Center HCMC Metropolitan Main Center Main Centers and Backbone Network Source: VITRANNS2, JICA (2010) Page 34 図 4.4-(1) VITRANS2 抜粋と都市内管制のあり方イメージ Source:VITRANS2 より調査団作成 144 ②ハノイ市における交通管制現状 ハノイ市の交通管制はハノイ市交通警察が所管しており、建設はハノイ市交通局 (HDOT)が実施し運用は交通警察が行っている。交通警察の交通管制では、CCTV による 交通管理が行われている。また、信号については現時点では現場側でコントロールされ ている。 図 4.4-(2) ハノイ市交通警察所管の交通管制 Source:調査団 また情報通信省の下部組織のラジオ放送局である VOV(Voice of Vietnam)も各地に CCTV を配置しており、渋滞情報を CCTV カメラの状況からの目視判断および VOV 職員に よる現場からの携帯電話による報告で渋滞情報をラジオを通じ提供している。 図 4.4-(3) VOV 所管の交通管制 145 Source:VOV HP (2)プローブ事業の位置づけ整理 ①プローブ情報システムに関する現状と想定されるニーズ 前節に示したようにハノイ市においては交通情報を収集している交通管制は、現時点 で二種類存在する。一方で、交通管制の目的を達成しているとは言い難い施設になって いる。ハノイ市交通警察所管の交通管制は CCTV の情報が来ているのみで、現場に設置 されている約 200 か所の信号は現場制御方式がとられている。また、渋滞情報も目視で の監視のみとなっている。また VOV の所管する交通管制も同様に CCTV および現場調査 員のレポートに基づく定性的な渋滞情報提供を行っている状況である。 本実証事業におけるプローブシステムはタクシーなどの車両に GPS を搭載し、サーバ へ情報を伝送、解析し、渋滞状況をリアルタイムかつ面的かつ定量的に把握することが 可能なシステムである。またハノイ市においては交通分担率がバイクが 8 割から 9 割を 占めるもののタクシー台数も豊富であることから十分な精度を持った渋滞情報を得る ことができると考えらえる。さらに VOV は、渋滞情報の精緻化を図るため、今後 CCTV の台数増加を計画しており、渋滞情報に対するニーズは非常に高い。 以上から本プローブ実証事業は、ハノイ市側の交通管制の改善が求められるものの、 既存の交通管制へのプローブ情報提供を行うことが可能であるため、優位性は非常に高 いと言える。 ②プローブデータの道路交通計画への適応 プローブデータは渋滞状況を面的、定量的かつ時間的に把握することが強みである。 これはつまり、渋滞の強弱に応じた道路交通計画の策定に活用できることを意味する。 下図は日本におけるプローブを活用した道路整備計画、交差点改良計画の例である。 146 5. ITS for Transportation Planning ITS=Digitalization of Transportation ITS can describe where is the trouble spot Hokkaido Kushiro urban area Traffic Congestion Cost 3D-MAP 図 4.4-(4) 北海道における渋滞3D マップ Source:国土交通省資料より調査団が作成 Probe Data VS Result of Questionnaire Quantitative data VS Qualitative data 図 4.4-(5) 渋滞頻発箇所の質的データと量的データによる分析例 Source:国土交通省 HP より 147 (3)ベトナム国における PPP 事業の実施状況 ①PPP 法案 ベトナムは PPP 事業法的枠組みに着手したばかりで、政令よりも法的には格下の首相 決定 71 という形で、PPP 事業に係わるパイロット法を 2010 年に発布している。同法 はパイロット PPP 事業に対する規制(Regulations)という位置づけにある。首相決定 71 は、手続き・内容に関し、政 108 号を踏襲しており、 i) General Provisions, ii) Public Participation iii) Project Preparation iv)Selection of Private Partners v) Project Contract vi) Investment Certificate and Project Implementation vii) Financial Statement and Transfer of Project Work viii) Incentives and Guarantee of Investments xv)Organization of Implementation から成る。 図 4.4-(6) PPP 事業の実施手続き(首相決定 71) Source:ベトナム南部高速道路事業への民間投資可能性調査 独立行政法人 国際協力機構 首相決定 71 は MPI にイニシアティブを持たせており、例えば、プロジェクト・リス トに対する首相承認前に事実上の承認を MPI が有すこと、F/S 承認・投資家選定・プロ ジェクト契約に対する inter-sector task force(MPI が先導する)のアドバイス等に見 られるように MPI 主導の手続きになっている。71 には新たに政府支援の章が設けられ、 148 政府支援の割合(30%)を明確にしている。首相決定 71 は 2011 年 1 月 15 日から効力を 発するが、パイロット PPP 事業に対する規制だけに、同事業実施後に 71 を見直すこと が予定されている。 表 4.4-(1) PPP 法案と BOT 法との比較 Source:ベトナム南部高速道路事業への民間投資可能性調査 独立行政法人 国際協力機構 上記に示すように、本事業は PPP を念頭に置いているが、該当する投資分野において は、都市交通が考えられる。また、一方で国における法整備が完了していないことおよ びハノイ市における PPP については現時点では法的に明確化されていないため、本事業 の PPP による実施は現時点では難しいと考えられる。高速道路においても現時点では BOT 案件は徐々に開始されつつあるが、PPP についてはまだ実施されていない。今後の 149 法整備および同法案の活用が望まれる。 (4)プローブ事業の方向性 事業実施の前に、本プローブ事業会社の事業ドメイン、経営原則を明確にしたうえで、 事業展開を図る必要がある。今後 PPP 制度が法制化されることを想定し、下記のフロー で、プローブ事業会社の位置づけを明確にする必要がある。 セクション1:事業可能性検討 セクション2:技術的可能性検討 1.事業像の決定 7.GPS設置現況の把握 2.経営原則の決定 8.交通事業者設置意向の把握 3.ビジネスモデル構築 9.リアルタイムプローブシステム全体像 4.事業目標・戦略の設定 10.プローブ関連機器の選定 5.アクションプラン・収支計画の策定 11.リアルタイムプローブシステム構築 PPP・資金調達方式検討 6.セキュリティパッケージの検討 12.実証事業の実施 事業の実施 13.報告書取り纏め 図 4.4-(7) 事業ドメインの明確化と事業実施までの必要検討項目 Source:調査団 また、本事業を PPP で行う場合の想定プレーヤーについて下図に示す。法制化が進め ばより詳細な関係図が策定可能となる。 150 Equipment provider GPS Provider Insurance NEXI 等 Lender Project Sponser HITACHI FPT Software NK JICA DBJ Project Company GPS congestion Mornitering Company of Vietnam Hanoi Off Taker Hanoi People's of Committee DOT/Traffic Police Road User Google 図 4.4-(8) 想定されるプレーヤー Source:調査団 また、将来日本の VICS 方式のような仕組みまでを事業ドメインに追加すれば、PPP とせ ずとも、渋滞情報の提供によりコンスタントなキャッシュフローを見込めるため、今後の 事業の進捗熟度に応じた検討が必要である。 151