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「サステナブルな資源開発立国」に向けて挑戦する

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「サステナブルな資源開発立国」に向けて挑戦する
平成 21 年(2009 年)10 月 2 日
NO.2009-24
「サステナブルな資源開発立国」に向けて挑戦する豪州ラッド政権
~その行方とわが国経済界への示唆を考える~
原油やレアメタル等の枯渇懸念を背景にしばしば有望視される資源開発だが、
生易しいビジネスではない。地球上の天然資源が中東や中南米・アフリカ・中
国など国情不安定な新興・途上地域に集中的に埋まっている以上、巨額の資本・
労働と長期間とを要する資源開発は本来リスクが高い。他方、資源国に眠る金
属鉱物や化石燃料は、更なる高成長を目指す新興国、特に経済成長著しい中国
のターゲットとなる懸念が強まりつつある。
こうしたなか、先進国であり鉄鉱石や石炭等が豊富な豪州が一段と脚光を浴
びているが、同国でも、個々の資源開発が大局的な国家戦略に沿って整斉と行
われてきた訳ではない。一方、足元では、豪州国内の資源ビジネスに中国が覇
権を強めている。このため、豪州ラッド政権は、資源開発と環境保全の長期的
両立を図りつつ中国に国内の鉱山等を牛耳られないよう、
「サステナブルな資源
開発立国」の実現に挑み始めた。
かかる挑戦は、わが国始め先進諸国が率先垂範すべく“経済成長と環境保全
の両立”、あるいは資源国の国家戦略立案の試金石にもなりうる一方、わが国経
済界の庭先でもある同国の資源・環境ビジネスに潮流変化を来しかねない。そ
こで、同政権の取り組みのポイントを整理し、その行方とわが国への示唆につ
いて考えてみた。
1.豪州の資源開発分野~成長エンジンの一翼担う一方、次第に課題が顕在化
(1) 高まる経済成長への貢献度
豪州が資源国として歩んできた歴史は、半世紀余りと意外に浅い。鉄鉱石、
ボーキサイト、石炭等、現在の豪州輸出を支えている鉱物資源が同国内で本格
的に発見され始めたのは 1950 年代である。豪州政府は、鉄鉱石については供給
1
不足を理由に輸出を長らく規制していたが、相次ぐ鉱山発見に伴い 1958 年には
輸出を解禁した。おりしも、わが国や旧西独など他の主要先進国が高度成長期
にあったことから資源輸出は順調に拡大し、つれて国内の資源開発も進展を遂
げた。
もっとも、その後豪州政府が、国内産業振興に際して資源開発分野を最優先
してきたわけではなく、80 年代から 90 年代半ばにかけては、むしろ製造業重視
の機運が政策当局や産業界の間で高まった。だが、90 年代後半以降、豪州政府
は資源ビジネス促進の重要性を次第に認識するようになり、特にラッド政権は、
資源開発分野を貴重な外貨獲得手段としてのみならず、更なる経済発展を遂げ
るための重要な成長エンジンとして位置付けているとみられる。ちなみに、現
与党労働党が前回総選挙で示した選挙公約(Policy Document)
「A strong future for
Australia’s exports」の冒頭には“輸出が力強く拡大し続けることは豪州経済の長
期的繁栄とって重要”と謳われている。
いずれにせよ、豪州政府が、資源開発分野を近年重視するに至った根底には、
経済成長に対する同分野の寄与の高まりがある。第 1 図は、①総輸出の対 GDP
比率、②資源関連品目が財輸出全体に占める割合、の各々につき、豪州が年 2
~5%台の高い実質成長を遂げた 90 年代初頭から 2008 年迄の推移をみたものだ
が、総輸出の対 GDP 比率は 90 年代の平均 14%程度から 2008 年は約 19%へ高
まるとともに、輸出品目全体に占める資源関連品目のシェア(数量ベース)も、
90 年代は平均 26%に留まっていたのが昨年は 50%超に達している(第 1 図)。
第 1 図: GDP の輸出依存度と資源関連が財輸出に占める割合
55
(%)
(%)
20
19
50
資源関連品目が財輸出に占める割合
45
18
17
40
16
輸出の対GDP比(右目盛)
35
15
30
14
25
13
20
12
15
11
10
90
91
92
93
94
95
96
97
98
99
00
01
02
03
04
05
(注)ここでは資源関連品目を石炭、鉄鉱石、アルミナ、アルミ、原油、金、天然ガスとした。
(資料)豪州統計局より三菱東京UFJ銀行企画部経済調査室作成
2
06
07
10
08 (年)
これは、中国が、高成長に伴って豪州に対する資源需要を大きく拡大させて
きたことが大きい。豪州の中国向け輸出をみると、石炭や鉄鉱石が主力品目で
ある一方、第 2 図の通り、輸出額・輸出全体に対する(金額)シェアはいずれ
も 2000 年代以降拡大基調を辿っており、
2004 年以降は増加ピッチを速めている。
これと整合的に、資源関連輸出も、その半分程度を占め中国向け輸出全体の主
力品目でもある石炭、鉄鉱石の輸出好調に牽引される格好で、2000 年以降増え
続けている(第 3 図)。
第 2 図:中国への輸出額の推移とシェア
(百万ドル)
(%)
35,000
16
対中国輸出額
30,000
14
全体に占める対中国輸出シェア(右目盛)
12
25,000
10
20,000
8
15,000
6
10,000
4
5,000
2
0
0
97
98
99
00
01
02
03
04
05
06
07
08 (年)
(資料)Bloombergより三菱東京UFJ銀行企画部経済調査室作成
第 3 図:資源関連輸出の内訳
(百万ドル)
120,000
100,000
80,000
石炭
鉄鉱石
アルミナ
アルミニウム
原油
天然ガス
60,000
40,000
20,000
0
97
98
99
00
01
02
03
04
05
06
07
08
(年)
(資料)Bloombergより三菱東京UFJ銀行企画部経済調査室作成
(2) 資源開発を巡って表面化する課題
このように、豪州の資源開発分野は、同国経済の発展にとって重要性を増し
ているのだが、課題は少なくない。そのひとつは、資源開発の前提となるイン
フラの整備不足であり、もう一つは、外資導入のデメリット(副作用)が顕在
化しつつあることだ。
3
①資源開発向けインフラの整備不足
豪州国内のインフラについては、ソフト・ハード両方とも不足が指摘されて
イ ボーリングマシン(掘削機)
いる。すなわち、ハードインフラについては、○
やショベルカーなど大型の資源開発用機材を鉱山等へ運んだり、開発現場で産
ロ 鉱石など資源
出した鉱石を船積み港や飛行場へ輸送するための道路や鉄道、○
物資の船積みに必要な港湾設備や空輸に必要となる空港施設、が未整備だった
り、老朽化により時代の要求を満たさなくなっているとの見方が多い。なかで
も、資源輸出の中核的拠点である港湾のキャパシティ不足は深刻で、事実、豪
州港湾の中でも石炭の積み出しが多いことで有名なニューキャッスル港の沖待
ち日数をみると(次頁第 4 図)、ここ 1、2 年は 10 日前後と相応長く、2007 年 7
月には 1 か月を超過していた。そもそも、豪州政府にとり、基礎的なハードイ
ンフラの整備は長年の課題であり、これまでも重要政策の一つに掲げられてき
た。だが、豪州では、インフレ対策の一環として財政収支の黒字拡大が優先的
に志向され、社会資本の整備に充分予算が配分されてこなかった。これが、ハ
ードインフラの整備不足に繋がっているとみられる。
また、ソフトインフラ面では、ビジネス分野の中では難易度・リスクとも高
い資源開発に自ずと必要な高度人材の供給不足が指摘されている。資源開発で
は、山奥や海底、砂漠など厳しい自然環境下の深底に眠る金属鉱物や化石燃料
を的確に探査し、高効率かつ安全に掘削・精製した上で、大量・安定的に輸出
基地等へ運搬する必要がある。それだけに、鉱脈の状態や埋蔵量、現場の地層
構造や気象条件を正確に解析して適切な開発プラントを設計できる専門的知識
や経験豊富なスタッフに加え、開発現場での掘削・精製作業に長けた技能労働
者が欠かせない。かかる労働者を育てる研修プログラムの大半は資源開発企業
の主導で行われているが、その研修コストは総じて嵩みがちで、特に現場研修
費用は他産業の 3 倍超と割高となっている。そもそも、資源開発に必要な技能
労働者の育成は一朝一夕にできない。しかも、資源開発の難易度が次第に上が
っているだけに、研修内容についても自ずと高度化していかざるを得ない。資
源開発に不可欠な技能労働者の供給不足を放置したまま、豪州国内での資源開
発を更に加速させれば、既存の慢性的な技能労働者不足が一層深刻化して賃金
の大幅な上昇を招き、ひいてはインフレ圧力の増大にも繋がりかねない。こう
したこともあって、労働党は、プラットフォーム(政策綱領)の一つに掲げた
「教育革命(An Education Revolution)」の中で、資源開発はじめ豪州経済の屋台
骨を支える産業分野で益々必要となる技能労働者の育成を優先政策事項として
取り組む旨表明している。
4
第 4 図: ニューキャッスル港沖待ち日数
35
(日)
30
25
20
15
10
5
0
2006/7
2007/1
2007/7
2008/1
2008/7
2009/1
2009/7 (年)
(資料)Bloombergより三菱東京UFJ銀行企画部経済調査室作成
②外資導入促進のデメリット顕在化
イ 多様かつ豊富な天然資源
資源国としての豪州の魅力は、外資からみれば、○
ロ 天然資源に恵まれた新興国や途上国に比べて政治
が存在すること(第 1 表)、○
経済情勢の急変リスクが経験的に低いこと、などである。
第 1 表:豪州の主な鉱物資源生産量(2008 年)
鉱物名
うち豪州分
世界の
総生産量 生産量 世界生産に占める地位
シェア
銅
15,700
850
5.4
鉛
3,800
576
15.2
金
2,330
225
9.7
鉄鉱石
2,200
330
15.0
石炭
6,781
402
6.6
亜鉛
11,300
1,510
13.4
豪州以外の主要生産国
(カッコ内は生産量(注)、丸数字は
同ランキング)
ランキング
①チリ(5,600)、②米国(1,310)、
5
③メキシコ(1,220)、④中国
①中国(1,540)、③米国(440)、
2
④ペルー(335)、⑤メキシコ(145)
①中国(290)、②南アフリカ
4
(250)、③米国(230)、⑤ペルー
①中国(770)、②ブラジル(390)、
3
④インド(200)、⑤ロシア(110)
①中国(42.5%)、②米国(18%)、
3
④インド(5.8%)、⑤ロシア
①中国(3,200)、②ペルー
3
(1,450)、④米国(770)、⑤カナダ
左記
生産量
の単位
千トン
千トン
千トン
百万トン
百万トン
千トン
(表注)豪州以外の主要生産国生産データのうち、石炭のみシェア表示。
(資料)MCS, “Mineral Commodity Summeres 2009”、BP “Statistical Review of World Energy 2009 ”より
三菱東京UFJ銀行企画部経済調査室作成
一方、豪州では、これまでナショナリズムを強めて管理貿易に傾いたり、外
資導入を全面的に規制する政策が採られた経緯はなかった。たしかに、自国に
対する主な外国投資案件については、外国投資審査委員会(Foreign Investment
Review Board、以下FIRB)や財務大臣が、豪州外国投資方針(Australia’s Foreign
Investment Policy)や連邦資産買収・企業買収法(Foreign Acquisitions and Takeovers
Act 1975)等に基づき審査するシステムとなっており、豪州政府としても外資を
手放しに導入してきたわけではない。だが、豪州政府は、自国が先進国とはい
え日米ほどの経済大国ではないだけに、リスクを取ってでも外資導入で得られ
る経済的メリットの方が大きいと判断してきたようだ。しかし、ここにきて、
5
外資導入の促進政策に潜むデメリットが資源開発分野への外国投資案件で顕在
化してきた。すなわち、中国が、世界の天然資源を大量消費する一環として、
潤沢な外貨準備等を背景に豪州の資源ビジネス分野で一気に覇権を強めてきた
のである。当該分野への外資導入は、近年までは、総じてみればわが国や米・
英・カナダの民間企業が豪州の鉱山会社等の株式を少数取得する形で無難に行
われてきた、だが、直近では、中鋼集団や宝鋼集団など中国国有企業が強引な
投資を受ける豪州企業が目立っている(第 2 表)。
第 2 表:中国企業による豪州企業の買収状況(直近時点)
中国側
豪州側
時期
株式取得比率等
中国五鉱集団公司(ミンメタルズ/China Minmetals)
OZ ミネラルズ(OZ Minerals)
2009年4月
17.5億ドル(約1200億円)分の主要
鉱山の買収
湖南華菱鋼鉄(Hunan Valin Steel & Iron)
フォーテスキュー・メタルズ・グループ
(Fortescue Metals)
2009年2月
17.55%
中鋼集団(シノスティール/Sinosteel)
マーチソンメタルズ(Murchison Metals)
2008年9月
49.90%
中国アルミ業公司(チャイナルコ/Chinalco)
リオ・ティント(Rio Tinto)
2008年8月
14.99%
中国国際信託投資公司(CITIC)
マッカーサーコール(Macarthur Coal)
2008年7月
20.39%
首都鉄鋼公司(Shougang)
マウントギブソン(Mount Gibson Iron Ore)
2008年4月
19.72%
(資料)各種報道、各社HPより三菱東京UFJ銀行企画部経済調査室作成
こうした背景には、中国政府が、「走出去(中国国外へ進出する)」政策を梃
子に、世界の天然資源を虎視眈々と狙っていることがある。これ自体、中国が
高成長の持続に躍起となっていることを象徴するものとして注目されるが、む
しろ見逃せないのは、かかる中国の投資が、豪州資源関連企業の株式の大量取
得に留まらず、天然資源の試掘権や鉱区の所有権、資源採掘権など資源開発を
巡る諸権益(第 3 表)の大規模な取得に裾野を拡げてきていることである(次
頁第 4 表)。この結果、豪州国内では、中国が、鉄鉱石や石炭の単なる買い手に
留まらず、石炭鉱山など資源開発プロジェクトの権益取得を梃子に国内電力会
社など資源需要サイド(売り手)へ回って覇権を強めているといった心情的な
反発が高まるとともに、豪州の天然資源が中国企業に不当な安価で買い占めら
れるのではないかとの懸念も急速に強まっている。
第 3 表: 豪州の資源開発を巡る主な権益(注)(鉱業法等で定められた権利等)
Miner’s
Right
豪州鉱業法に基づく最初の権利形態。その取得については特別の資格を必要
とせず、わずかな年間料金、簡単な条件で誰でも取得できる。その保有者に
は鉱物の試掘、鉱区の所有および鉱物採掘等の権利の取得資格が与えられる。
Miner's Right の規定は各州において異なっている。
探査許可
Exploration
License
Mining
Lease
立ち入り
許可
立ち入り許可取得の可能性を前提として与えられる。
対象地域内において特定の鉱物を探査する排他的権利を与えるも
のであり、私有地内または占有国有地内においては出願に際し事
前に土地所有者又は占有者の合意を得る必要がある。
特定の鉱物を採掘・取得することを目的とした土地のリースであり、使用目的
の遵守、使用中の労働条件の確保及びリース終了後の土地の原状回復等一定
の条件の下で認められる。採掘リースについても Exploration license の場合
と同様に、土地所有者または国有地占有者の権益保護を図るため出願に際し
て事前に合意を得る必要がある。
(表注)豪州国内で産出する鉱産物は全て豪州王室の所有物とされている。
(資料)NEDO 石炭事業部ホームページ掲載情報を基に三菱東京UFJ銀行企画部経済調査室作成
6
第 4 表:主要な豪州鉱山(採掘権など諸権益)への外資導入状況
豪州内の鉱山名
出資元企業(カッコ内は左記鉱山を巡る諸権益の取得比率)
産出鉱物 鉱山所在州(注)
Rio Tinto(53%)、三井物産(33%)、新日本製鉄(10.5%)、住友金属工業(3.5%)
West Angelas、Mesa J
Jack Hills
Mt Newman、Yandi、Goldsworthy
鉄鉱石
Murchison Metals(50%)、三菱商事(50%)
WA
Bhp Billiton(85%)、伊藤忠商事(8%)、三井物産(7%)
Rio Tinto()、新日鉄(28.2%)
Beasley
Kestrel
Gregory Crinum、Goonyella Riversideなど
Poitrel、South Walker Creek
Clermont
石炭
QLD
Ensham
日
本
企
業
が
中
心
ウラン
ボーキサイト
WA
Worsley Alumina Pty Ltd(100%)
Anglo American(100%)
Foxleigh
石炭
QLD
Capcoal
Dawson
Millennium
Burton
欧
州
企
業
が
中
心
銅・亜鉛・
鉛・銀
石炭
WA
金
NSW
Cowal
Anglo American(70%)、Posco(20%)、伊藤忠商事(10%)
Anglo American(51%)、三井物産(49%)
Anglo American(70%)、三井物産(30%)
Anglo Coal Australia(51%)、三井物産(49%)
Peabody Pacific(99.5%)
QLD
Boddington
Super Pit
Anglo American(88%)、その他(12%)
Xstrata(100%)
Peabody Pacific(99.5%)、Thiess(5%)
NT
Tanami
Plutonic、Lawlers、Granny Smithなど
出光興産(85%)
Uranium One(51%)、三井物産(49%)
Moranbah North
Mt Isa
Rio Tinto(50.1%)、三菱商事(31.4%)、電源開発(JPOWER)(15.0%)、JCD(3.5%)
SA
Grasstree、Callideなど
Moura
BHP Billiton(80%)、三井物産(20%)
Rio Tinto (57.2%)、Leichhardt Coal(31.4%)、J-Power(8.0%)、JCD(3.4%)
Blair Athol
Boddington
BHP Billiton(50%)、三菱商事(50%)
Rio Tinto(82.0%)、新日本製鉄(8.0%)、丸紅(6.66%)、住友商事(3.34%)
Hail Creek
Honeymoon
Rio Tinto(80%)、三井物産(20%)
Henty
TAS
Osborne
QLD
Newmont Mining(100%)
北
米
企
業
が
中
心
Newmont Mining(100%)
Barrick Gold(50%)、Newmont Mining(50%)
Barrick Gold(100%)
Barrick Gold(100%)
Barrick Gold(100%)
Barrick Gold(100%)
亜鉛・鉛・銀
NSW
亜鉛・鉛
WA
Teck Cominco(50%)、Xstrata(50%)
Endeavor
鉛・亜鉛・銀
NSW
CBH Resources(100%)
Bengalla
石炭
NSW
Coal & Allied(40%)、Wesfarmers(40%)、Taiwan Power(10%)、三井物産(10%)
Broken Hill
Pillara
Channar
Eastern Range
鉄鉱石
Jimblebar
Golden Grove
WA
亜鉛・鉛・銅
Rosebery
亜鉛・鉛・
銅・金・銀
TAS
Century
亜鉛・鉛
QLD
Avebury
ニッケル
TAS
石炭
QLD
Sunrise Dam
Rio Tinto(60%)、中国中鋼集団(40%)
Rio Tinto(54%)、宝鋼集団(46%)
Bhp Billiton(51%)、武漢鋼鉄(10%)、馬鞍山鋼鉄(10%)、江蘇沙鋼集団(10%)、唐山
鋼鉄(10%)、伊藤忠商事(4.8%)、三井物産(4.2%)
Minerals and Metals Group(中国五鉱集団の完全子会社)(100%)
Minerals and Metals Group(中国五鉱集団の完全子会社)(100%)
Minerals and Metals Group(中国五鉱集団の完全子会社)(100%)
Minerals and Metals Group(中国五鉱集団の完全子会社)(100%)
Aquila Resources(50%)、Vale(50%)
Vale(80%)、 新日鉄(5%)、JFE(5%)、Posco(5%)、Tata Steel(5%)
Carborough Downs
St lves、Agnew
中
国
国
営
企
業
が
中
心
Vale(100%)
Broadlea
Isaac Plains
Perilya(100%)
金
WA
Gold Fields(100%)
Anglogold Ashanti(100%)
(注)1.出資比率が最も高い国・地域を中心に整理。
2.州の略称は以下のとおり。WA:Western Australia(西オーストラリア州)、NSW:New South Wales(ニュー・サウス・ウェールズ州)、SA:South Australia(南オーストラリア州)、
QLD:Queensland(クィーンズランド州)、NT:Nothern Territory(北部準州)、VIC:Victoria(ビクトリア州)、TAS:Tasmania(タスマニア州)。
(資料)各種報道、各社HPなどより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
7
③石炭火力発電への依存で深刻な温暖化問題に直面
さらに、豪州は、国内で炭鉱開発が活発化するなかで、温暖化の元凶ともい
われる石炭火力発電への依存を強めた結果、
「深刻な温暖化問題」に直面しつつ
ある。
埋蔵量の豊富な天然資源の開発プロジェクトが一国内で林立するほど、産出
資源については輸出だけではなく、国内産業部門での消費が高まる傾向がある。
実際、豪州では、産業界でも温室効果ガス(Greenhouse Gases、以下GHG)の排
出量が大きいエネルギー多消費業種、特に電力業界では、国内に豊富に存在し
安価で安全に産出できる石炭を発電所で使う傾向が著しく強まった。実際、豪
州電力業界の電源構成をみると(第 5 図)、石炭火力比率が約 78%と圧倒的で、
OECD全体の同比率(約 38%)を大きく上回っている。その結果、豪州は、米
中両国等に比べれば国全体のGHG排出量は未だ僅少だが(=世界全体のGHG総
排出量に占める比率は 2006 年時点で 1.5%に過ぎない)、国民 1 人当たりでみた
GHG排出量は米国に次ぐ世界第 2 位の高水準に達している(注)。
(注)この背景には、酪農などの農業セクターや鉄鋼・アルミニウム製錬など、GHG 排出量の多い業種が
盛んであるという産業構造もある。
第 5 図:豪州の GHG 年間総排出量の産業部門別内訳(2007 年)
工業プロセ
ス
6%
エネルギー
発生源(発
電所等)
75%
農業
16%
廃棄物
3%
(注)エネルギー関連には、発電所等固定発生源、輸送、燃料からの漏出を含む。
(資料)Department of climate changeより三菱東京UFJ 銀行企画部経済調査室作成
たしかに、豪州は、GHG 排出が少ない原子力発電の燃料であるウランの埋蔵
量では世界トップだが、国民の中には原発アレルギーともいえる根強い反対も
少なくないことから、原発を一切採用してこなかった。また、GHG をほとんど
排出しない水力発電も、国内における水資源の乏しさ等から増やしにくいのが
現実である。それだけに、石炭火力発電への依存は自然の成り行きともいえる
が、その副作用として、1 人当たり GHG 排出量が世界第二位という深刻な温暖
化問題を抱えるに至っている。
8
2. サステナブルな資源開発立国を目指し始めたラッド政権
豪州での資源開発を巡る上記の課題を克服すべく、ラッド政権は、ここにき
て“サステナブルな資源開発立国へ向けた政策的対応”、すなわち、①資源開
発(を梃子とした経済成長)と環境保全とを長期的に両立しつつ、②国内の天
然資源を他国(特に中国)に大量消費されないようにする、という一筋縄では
いかない取り組みに種々着手してきている。具体的には次の通り。
(1) 資源開発と環境保全の長期的両立に向けた政策的対応
ラッド政権は、資源・エネルギー・観光省(Department of Resources,Energy and
Tourism)を軸に、国内産業界、各州政府等の意見を集約しつつ、エネルギー資
源開発に関する将来ビジョン「National Energy Policy-Framework 2030」を取り
纏めており、今年末頃に公表予定の「エネルギー白書(Energy White Paper)」
に盛り込む予定である。「エネルギー白書」は、2030 年に向けたエネルギー政
策の長期的指針になるもので、石炭や LNG(液化天然ガス)など化石燃料資源
の開発やエネルギー利用のあり方、化石燃料の使用に伴う温暖化の抑止等を横
断的に捉えて策定した戦略的内容となる模様である。同ビジョンは、エネルギ
ー資源の豊富な豪州にとって世界のエネルギー成長は絶好の機会であり、その
機会を活かすためにインフラ、政策、技術、投資を促す市場環境が非常に重要
であるとの考え方をベースにしている。
もっとも、ラッド政権は、かかるビジョン策定を待つことなく、エネルギー
資源の開発と温暖化抑止の両立に向けた取り組みをすでに実践しつつある。そ
の一つは、2009/2010 年度(7 月~翌年 6 月)の連邦予算の配分に窺われる。実
際、連邦政府は、新年度予算のうち、景気対策の一環ながらも資源開発の促進
に資するインフラ整備費に 85 億豪ドルを割り当てる一方、温暖化緩和など気候
変動対策費として 150 億豪ドルを計上した(注)。労働党は、政策綱領の支柱に国
家建設(National Building)を掲げているうえ、現政権は、発足時にインフラ担
当大臣を新設している。こうした与党・政府のインフラ重視姿勢は、今度の連
邦政府予算へのインフラ整備費計上という形で具現化したといえる。豪州では、
かかる予算計上を梃子に、2015/2016 年度にかけて地下鉄、道路、鉄道、港湾関
連のインフラが更新・拡充される見込だが、そのうち道路・港湾等の整備は、
資源輸出のボトルネック解消に繋がると期待される。
(注)150 億豪ドルのうち 45 億豪ドルがクリーンエネルギー・インフラストラクチャー予算として配分さ
れているが、その主な内訳は、①クリーンコール技術・炭素回収貯留事業(CCS)(24 億豪ドル)、
②太陽光発電技術(16 億豪ドル)、③再生可能エネルギーに関する最先端技術の研究開発と商用化
を支援する機関「リニューアブル・オーストラリア」の設置(4.7 億豪ドル)、となっている。
9
また、ラッド政権は、再生エネルギー発電比率を現状の約 8%から 2020 年迄
に 20 % へ 引 き 上 げ る 旨 の 目 標 を 掲 げ た 「 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー 関 連 法 案
(Renewable Energy Target Bill)」を連邦上院に提出、去る 8 月下旬に可決した。
同法案が送られた下院では労働党が議席の過半数を占めているため、法案成立
は確実な情勢にある。
さらに、ラッド政権は、更なる温暖化対策の一環として、炭素汚染削減スキ
ーム法案(Carbon Pollution Reduction Scheme Bill、以下CPRS法案)の成立に向
けて果敢に取り組んでいる。CPRS法案には、GHG削減に関する意欲的な中期
目標が明文化されるとともに、(その達成手段の一つとして)国内排出量取引
制度の創設が規定されている。具体的にいうと、GHG中期目標として、①大気
中のCO₂濃度を(温暖化緩和の科学的目安である)450ppm以下にする旨の国際
的合意が(今年 12 月にコペンハーゲンで開催される気候変動枠組条約締約国
会議<COP15>等で)包括的に形成され、それに豪州が参加すれば 2020 年迄
に 2000 年比▲5~▲25%(90 年比換算▲4~▲24%)削減を目指すが、②合意
に至らない場合は、2020 年迄に 2000 年比▲5~▲15%削減を目指す、との旨、
CPRS法案に明記されている(注 1)
(第 5 表)。他方、国内排出量取引制度の導入
について、CPRS法案では所謂キャップ・アンド・トレード方式の取引制度を
2011 年 7 月より開始する旨明記されている(注 2)。
(注1) ラッド政権は、GHG 中期目標に関して、当初は(=CPRS 法案起草前の昨年 12 月時点)、2020
年までに 2000 年比▲5~▲15%削減するとの数値目標を掲げたが、国内の環境保護派から「生温
い」と痛烈に批判されたことから、CPRS 法案には、当初より更に意欲的な中期目標を明記した
経緯にある。
(注2) 国内排出量取引制度の開始時期について、ラッド政権は昨年 2 月時点では “2010 年 7 月”として
いたが、国内産業界から「グローバル金融危機の影響で景気が減速しているなかでは時期尚早」
と猛反対され、産業界保護派への配慮もあって、CPRS 法案では“2011 年 7 月開始”と 1 年延期し
ている。
第 5 表:豪州含む主要先進国の GHG 中長期削減目標
豪州
EU
英国
米国
日本
2020年迄の中期削減目標(90年比)
2050年迄の長期削減目標(90年比)
国全体の排出量
国民1人当り排出量
▲5~▲25%(2000年比)
▲27~34%(2000年比)
▲4~▲14%(90年比換算) ▲34~▲41%(90年比換算)
▲20~▲30%
▲24~▲34%
▲26~▲32%
▲33~▲39%
▲0%
▲25%
▲25%
-
国全体の排出量
▲60%(2000年比)
▲60~▲80%
▲80%
▲80%
▲60%
(注)1.豪州の削減目標は当初5~15%。その後、上限を25%に変更。
2.米国についてはオバマ大統領提案ベース。
3.日本のうち、中期目標は今年9月22日の国連気候変動首脳会合での鳩山首相表明ベース、長期目標は民主党
マニフェストベース。
(資料)Carbon Pollution Reduction Scheme(CPRS)、各種報道等より三菱東京UFJ銀行企画部経済調査室作成
CPRS 法案は今年 5 月に連邦下院へ提出され、6 月初旬には同上院へ送られ
10
たが、上院では、議席の過半数を占める野党保守連合の反対多数で否決されて
いる。上院ルール上、一旦否決された CPRS 法案を再提出できるのは早くても
今年 11 月だが、その頃には、COP15 開催を目前に、温暖化対策の重要性を支
持する世論が大いに高まっていることも予想される。仮に CPRS 法案が成立す
れば、豪州は温暖化緩和の世界的リーダーとして、国際社会での発言力を大い
に増すと考えられるが、同法案が再び否決されれば、ラッド政権は解散・総選
挙を迫られる可能性がある。換言すれば、CPRS 法案の成否は、温暖化緩和の
帰趨のみならず、豪州の国際的地位の浮沈、ひいてはラッド政権の存廃をも左
右しうるといっても過言ではない。
(2) 中国等による豪州天然資源の大量消費回避に向けた取り組み
たしかに、豪州にとって、自国の成長エンジンの一翼を担う資源ビジネス分
野へ中国が出資攻勢を強めてきたことは脅威だが、当該分野に対してわが国な
ど先進諸国等による健全な出資は、同国の持続的成長に繋がる可能性が大きい
だけに引き続き有用である。かといって、豪州政府が、全ての外国投資案件か
ら国内の資源ビジネス分野への“行き過ぎた外資導入”だけをピンポイントで
抽出・排除するのは実務的に難しい。例えば、鉱山会社と言われている豪州企
業の株式を買収する案件であっても、①今日の鉱山会社の場合、多種多様な事
業を広範に手掛けているケースが多く、伝統的な鉱山開発が本業とは俄かに断
定できない一方、②買収後の出資元持株比率が過大か否か判断するグローバル
スタンダードは存在しない、のが実情である。
こうしたなか、ラッド政権は、資源ビジネス分野のサステナブル(持続的)
な発展に向けて、当該分野への外資導入戦略を再構築し始めている。まず、昨
年 2 月 17 日、スワン財務相は、外国からの投資案件に対する審査体制の透明度
を高めるとの名目で、外国投資審査の「新方針(principles)」を公表している。
「新方針」には、①豪州に実質的利益をもたらす外国投資については歓迎姿勢、
②国益に適うか否かの判断が投資審査の主眼、③財務相は、国益に反する(又
は国益阻害の懸念のある)投資案件については拒否可能、など従来の投資方針
項目に加えて、外国政府機関(国営・国有企業、政府系投資ファンド<以下、
SWF>等)からの投資申請については第 6 表のガイドラインに照らして審査す
る旨の項目が盛り込まれている。この理由は定かでないが、豪州の国民や産業
界の間で資源ビジネス分野への過激な外資参入と危惧されているものの大半が
中国の国有企業や SWF による出資案件であるためとみる向きが多い。それを暗
示するように、新方針は、中国国有企業のチャイナルコが英豪系の多国籍鉱業・
資源グループリオ・ティント株の一部買収に乗り出した直後に発表されている。
11
第 6 表:外国投資審査の新方針に盛られた新たなガイドライン
1. 投資機関の運用が関連する外国政府から独立したものであること。
2. 法の対象となる投資機関が法律を順守し、企業行動の一般的な規範を守ること。
3. 投資が特定の産業あるいはセクターにおいて競争を妨げたり、過度の集中や支配を生む可能性があるか。
4. 投資が豪州政府の歳入や他の投資に影響する可能性があるか。
5. 投資が豪州の国家安全保障に影響する可能性があるか。
6. 投資が豪州企業の運営や方向性だけでなく、企業の経済や地域社会への貢献度に影響を与える可能性があるか。
(資料)豪州財務相(Treasurer of the Commonwealth of Australia)HPプレスリリース、
JOGMEC金属資源レポート2009.3「豪州資源分野への中国の投資動向とその戦略について」
ラッド政権は、
「新方針」の公表後、豪州の国益に適う健全な外国投資につい
ては従来通り歓迎姿勢であることを諸外国へ周知する一方で、国内の資源ビジ
ネスひいては豪州の国益にもとる虞の強い中国の強引な投資案件を事実上制限
するという、一筋縄ではいかない難しい外資導入運営に果敢に挑んでいる。実
際、次頁第 7 表の通り、中国のチャイナルコ(中国アルミ業公司)や中鋼集団、
湖南華菱鋼鉄集団による豪州資源関連企業の株式取得案件や、中国五鉱集団公
司による豪州オージー・ミネラルズ社所有鉱山買収等の案件について、ラッド
政権はいずれも承認しているが、それら豪州企業の経営の根幹まで中国企業に
牛耳られないよう、スワン財務相がケースバイケースで様々な条件を付してい
る。他方、かかる中国企業の投資案件に対する豪州政府の審査厳格化が世界に
広く報道され、先進国等の投資家等、豪州にとって引き続き重要な外資筋の心
象を害している虞もあることから、ラッド政権はこれを挽回すべく、今年 8 月 4
日には、FIRB への申請並びに FIRB 又は財務相の認可が必要な外国投資事案の
要件を緩和している。
12
第 7 表:豪州資源ビジネス分野への外資参入を巡るラッド政権の主な取り組み
主な取り組みの概要
チャイナルコ社に対し、以下条件にて、英国上場中のRio Tinto Plc株式の最大
14.99%取得を認可。
中国チャイナルコ社(中国アルミ業公司) ① 株式買増は原則しない(もし買増す場合には、豪州政府に報告し・外国投資審査
を受け新たな承認を得る必要あり)。
による英豪資源大手リオ・ティント・グ
8 24 ループ関連企業(Rio Tinto Plc)の株式 ② チャイナルコ社は、保有株式が15%に達しない限り、Rio Tinto Plc社またはRio
Tinto Limited(リオ・ティント・グループの豪州関連企業)の役員を任命しない。
取得案件につき、スワン財務相が条件
付きで承認。
2008
③ 将来14.99%を超える株式買増し提案がチャイナルコ社から出た場合、「外資によ
る資産買収・企業買収法(Foreign Acquisitions and Takeovers Act、以下FATA
法)」に基づき、豪州の国益に反しないかどうか再評価する必要あり。
年
月 日
中国の中鋼集団(Sinosteel社)による豪
鉄鉱石大手マーチソン社(Murchison
9 21
Metals LTD)株式の取得案件につきス
ワン財務相が限定承認。
2 12
スワン財務相、FATA法を一部改正(強
化)する意向を発表。
中鋼集団側は申請段階ではマーチソン社株100%取得をFIRBへ申請したが、スワン
財務相は最大49.9%取得までしか認めず。同集団が、すでに豪ミッドウェスト社
(Midwest Corporation LTD)株式を97%以上保有していたこと等を考慮した結果とみ
られる。
左記FATAの下で審査対象となる外国投資案件には、①豪州企業、②豪州国内に価
額2億豪ドル以上の子会社または資産を有する外国企業、が各々発行する転換社債
の取得案件も含める方向で将来FATAを改正するとの考えを声明。
以下条件でフォーテスキュー株式の最大17.55%取得を承認。
① 湖南華菱鋼鉄集団がフォーテスキューの執行役員として送り込んだ職員は、
フォーテスキューの取締役行動規範に従う。
スワン財務省、湖南華菱鋼鉄集団
② 鉄鉱石の価格設定や出荷のあり方(市場取引、販売、取引先)を巡り、フォーテス
(Human Valin Iron and Steel Group)に
キューとの間で潜在的な意見対立が生じた際は、豪州連邦会社法(2001年)に基
3 31 よる豪フォーテスキュー・メタルズグルー
づき連邦政府へ通知。
プ(Fortescue Metals Group)株式取得
③ 湖南華菱鋼鉄集団との間で締結した情報乖離に関する取決め(Information
案件を条件付承認。
Segregation Arrangement)に従う。
④ 湖南華菱鋼鉄集団が企業倫理を逸脱した際は、連邦会社法に基づく処罰や取締
役行動規範による執行役員罷免もある。
以下条件にて、OZ社営業資産(ラオスのSepon銅・金鉱山、豪WA州のGolden Grove
金・銅・亜鉛鉱山、豪QLD州のCentury亜鉛鉱山、豪TAS州のRosebery亜鉛鉱山及び
Aveburyニッケル鉱山)の5鉱山と主要開発・探鉱事業について、17.5豪ドルで買収す
ることを承認。
スワン財務相、中国五鉱集団公司
① 五鉱集団公司とは別会社を豪州に新設して鉱山運営を一任。新会社の社長+財
(China Minmetals Non-ferrous Metals
務担当取締役+役員2名は豪州に居住。
社)による豪州オージー・ミネラルズ社
4 23
(OZ Minerals LTD)が有する特定資産 ② 五鉱集団公司は、Century亜鉛鉱山、Rosebery亜鉛鉱山及びGolden Grove金・亜
(5鉱山及び主要開発・探鉱プロジェクト)
鉛鉱山の生産量と従業員雇用を現状維持乃至増加させる。
の取得案件を条件付で承認。
③ 市場が回復した場合には、Aveburyニッケル鉱山の操業再開とQLD州のDugald
River亜鉛鉱山の開発を進めること。
2009
④ 鉱石販売価格は、市況等に基づき豪州新会社が決定。
⑤ 先住民雇用は、現状維持あるいは増加すること。
8
緩和前
緩和後
豪州の企業または事業(名目価額1億豪 左記3分類で各々定義した投資対象案
ドル以上)の株式・権益の15%以上を米 件の価額については、GDPデフレーター
による実質化ベースで2.19豪ドル以上に
国以外の投資家が取得する案件
統一(実質価額については毎年1月1日
FIRBへの申請並びにFIRB又は財務相
豪州に名目価額2億豪ドル以上の子会社
に前年GDPデフレータ実績値にて洗
4 の認可が必要な外国投資事案の要件を
又は資産を有する外国企業の株式・営業
替)。
右記の通り緩和。
権等を米国以外の投資家が15%以上買
収(takeover)する投資案件
外国投資家が豪州に名目価額10百万豪
ドル以上の事業を立ち上げる案件
不健全な外国投資がFATA法の網の目をくぐる形で行われないよう、審査対象範囲を
FATA法改正案(Foreign Acquisitions
明確化(事実上の範囲拡大)。具体的には、①潜在的な議決権(potential voting
8 20 and Takeovers Amendment Bill 2009)の
power)、②発行済株式に対する権利(rights to issued shares)、③持株
連邦下院提出
(shareholding)以外の権益(interest)の取得等も審査対象と明記。
報道では、中国の武漢鋼鉄集団(Wuhan Iron and Steel Group)が豪州ウェスタン・プレインズ・リソーシズ社(Western Plains
9 24 Resources)の株式を1.21百万株取得し、同社と合弁で豪州南部ウーメラ禁止区域での磁鉄鉱採掘事業を行う(その際、採掘
権の50%と同地区内の鉱脈調査権を獲得する)ことについて、豪州国防省が安全保障上の理由から反対を表明した模様。
9 24
豪レアメタル大手のライナス社(Lynas Corporation)の発表によれば、中国有色鉱業集団は、ライナス社株式の51.66%取得案
件について、豪FIRBが取得比率を50%未満に抑えなければ承認しない意向を示したことからすでに取り止めたと発表。
報道によれば、FIRBが豪州国内大手資源会社に対する外資の出資比率を15%未満に、鉱山開発などの新規案件で外資が地
9 27 元資本と合弁会社などを作る場合は50%未満に制限する方針を発表した模様。
(資料)Treasurer of commonwealth of Australia ホームページ、豪 FIRB ホームページ、Foreign Acquisition and
Takeovers Amendment Bill 2009 法案、JOGMEC 金属資源レポート、各種報道等より三菱東京UFJ銀
行企画部経済調査室作成、
13
3.おわりに
経済発展を志向する資源国であれば、積極的に外資導入してでも自国の天然
資源開発を推進し、採掘した鉱石等の輸出や国内産業部門への安価・豊富な供
給を梃子に更なる成長を目指すのは当然である。だが、特定国の経済活動に伴
う GHG や汚染物質が国境を越えて拡散し温暖化など地球規模で環境悪化が進ん
でいる今日、世界の羨望を集める資源国といえども、地球環境を無視して鉱山
や油田の開発を進めることは許されない。特に、豪州のような新興・途上諸国
の模範たるべき先進国なら尚更である。
その意味で、ラッド政権が「サステナブルな資源開発立国」に向けて取り組
み始めたことは時宜に適ったものと評価できるが、寧ろ問題なのは、かかる取
り組みの行方である。わが国は、豪州の資源ビジネス発展の恩恵を受けてきた。
主要な開発プロジェクトには大手商社などわが国企業が参画してきた一方、わ
が国は主要資源のうち石炭や天然ガス、亜鉛や鉛の海外調達を豪州からの輸入
に頼っている。現政権の対応如何では、豪州資源ビジネスを巡る潮流が変化し、
わが国経済にも影響が及びかねない。そこで、「サステナブルな資源開発立国」
実現の行方を左右しうるものとして着眼すべき点を挙げれば、次の二つである。
(1)豪州国内のインフラ投資が今後も持続し、資源輸出の長期安定を図れるか
否か
足元こそ、インフラ整備費が景気対策方々予算計上されているが、豪州では、
長期金利や豪ドル相場の安定を図る一方で増税を避ける観点から歳出抑制が重
視される傾向がある。また、財政赤字に対する世論の目も厳しい。実際、現政
権による思い切った財政出動の直後、内閣支持率が史上最低水準へ下落したう
え、国民の間では「景気が底打ちした今、経済対策としての公共事業は縮小す
べき」との声も挙がっている。ラッド首相は、財政収支見通しについて「経済
対策に伴うインフラプロジェクトが終了する 2015/16 年度以降は改善する」旨明
言したが、その中にインフラ整備支出の継続が織り込まれているか否か現状見
えてこない。近々策定される「エネルギー白書」には、国内の天然資源を長期
戦略的に活かすには適切なインフラ整備の継続が不可欠との主張が盛られる模
様だが、それが実際の予算計上にどの位繋がるかが注目される。
(2)健全な資源開発に資する政策的対応と温暖化対策とを統合的に推進できる
かどうか
たしかに、ラッド政権が、外資導入に関する「新方針」を打ち出し、国内資
源ビジネス分野に対する投資案件の審査を厳格化させて中国の行き過ぎた投資
を水際で防いできたことは、当該分野の健全な発展に資するものとみられる。
だが、かかる投資案件を審査する FIRB や財務大臣には、資源ビジネス分野への
投資案件の審査に際して、自国の天然資源を大量消費されるリスクの多寡を吟
14
味するだけではなく、投資対象となる資源開発プロジェクト等に潜む環境破壊
リスクの見極めは勿論、同分野が直接間接に齎しうる温暖化等のリスクにも相
応目配りが必要である。資源の大量消費につながる案件ではない点で健全な外
資導入でも、その対象となる資源開発が石炭の大量採掘プロジェクトである等
温暖化を将来煽りうるものだとすれば、かかるリスクを将来回避しうる技術的
余地(クリーンコール・テクノロジーの実用化等)も見据えて戦略的に審査す
ることが求められよう。他方、豪州の場合、抜本的な GHG 削減策となりうるの
は①原発導入を梃子とした石炭火力依存体質からの脱却(注 1)と、②国内排出量
取引制度の導入・運用、の 2 つだが、それらについては、原発に対する環境団
体等の反対や排出量取引制度創設への産業界の抵抗が根強いことを言い訳に先
延ばしできる余地はそう大きくない。豪州の天然資源の中核は GHG 排出の多い
石炭であり、他の天然資源の開発だけでは所期の経済成長は見込めないからだ。
現政権の政治的立場上、原発導入が政策運営の選択肢に入るとは当面見込薄(注
2)だが、原発に案外肯定的な国民の世論(注 3)や産業界における原発志向の強
まり(次頁注 4)に押され、原発導入を迫られる展開もありうる。また、ラッド政
権が近々解散総選挙に踏み切り、国民の信任を改めて得られれば、一旦否決さ
れた CPRS 法案が早期に成立する可能性もある。なお、前回総選挙では、当時
の労働党が、争点の一つであった温暖化対策のあり方に関し、排出量取引制度
の早期導入を公約に揚げ、勝利に繋げた経緯にある。
(注1) 前ハワード政権の試算では、豪州で仮に 25 基の原子力発電を稼動させれば、国内発電量の 3 分の
1 が賄われ、GHG 排出量は最大 18%削減できる。換言すれば、25 基の原発導入で、2020 年迄の
GHG 削減目標の上限値が、再生可能エネルギー導入や事業者の温暖化対策負担なく 9 割方達成で
きる計算となる。
(注2) ラッド政権は、石炭火力依存からの脱却を図る一環として、再生可能エネルギー発電の普及に注
力している。その一環として、下表のような関連プロジェクトを進めている一方、今年度の連邦
予算には、再生可能エネルギー関連の予算が計上されている。
1.再生可能エネルギー基金(REF)
2020年までに国内の発電源の20%を再生可能エネルギーでまかなうことを目標に立ち上げられた基金。
①REDP(再生可能立証プログラム)
太陽エネルギー、地熱、風力、バイオマスなど再生可能エネルギーの技術・サー
ビス等に関する投資プロジェクト。
②GDP(地熱掘削プログラム)
地熱発電の開発を行う企業の技術立証に伴うコストを支援。
③Gen2(第二世代)バイオ燃料R&Dプログラム 食料以外の原料から低コストで燃料を生産するための研究等を支援。
2.エネルギー革新基金
クリーンエネルギー開発を支援する基金。
①クリーン・エネルギー・プログラム
クリーンエネルギー技術の専門家の確保などを支援。
②オーストラリアン・ソーラー研究所
集光太陽熱発電、太陽光テクノロジーの研究。
3.先進的蓄電技術プログラム
①Wizard Power社
太陽エネルギー蓄電の立証プロジェクト。
②Lloyd Energy Systems社
太陽エネルギー蓄電システム(集光太陽エネルギーなど)の立証プロジェクト
③ZBB Technologies社
集積亜鉛臭素フロー電池の実用性の立証プロジェクト。
④RedFlow社
太陽光発電システムによる電力供給の最効率化のための立証プロジェクト。
(資料)ジェトロセンサーより三菱東京UFJ銀行企画部経済調査室作成
(注3) 今年 1 月に民間調査機関が実施した原発導入に関するアンケートでは、
「反対」回答全体の約 3 分
の 1 に留まり、残り 3 分の 2 は「良い考えだ(賛成)」ないし「どちらでもない(中立)」と回答
している。
15
(注4) 前政権時代、温暖化対策の一環として原発導入に向けた議論が活発化したが、前回総選挙で原発
不支持を公約に掲げた労働党が勝利した結果、原発導入論議は一旦沈静化した経緯にある。だが、
最近になり、温暖化対策コストの増嵩を危惧する事業者の間で、原発導入検討を求める声が相次
いでいる。
わが国経済が豪州の資源ビジネス発展の恩恵に今後も与れるかどうかは、豪
州の「サステナブルな資源開発立国」への実現如何にかかっている。同時に、
豪州国内で再生可能エネルギービジネスや排出量取引市場が本格的に立ち上が
っていく過程で、わが国経済界がこれをどう取り込んでいくか注目される。
以
上
(H21. 10.2. 大田和 哲也 [email protected]
福永 雪子 [email protected])
発行:株式会社 三菱東京 UFJ 銀行 企画部経済調査室
〒100-8388 東京都千代田区丸の内 2-7-1
当資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、金融商品の売買や投資など何らかの行動を勧誘するものではありません。ご利用に関し
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