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メタ認知能力の向上を指向した 高校数学における問題
平成 19 年度 修士学位論文 メタ認知能力の向上を指向した 高校数学における問題解決方略の体系化 Systematization of Problem Solving Strategy in High School Mathematics for Improving Metacognitive Ability 1105402 川島 真一郎 指導教員 妻鳥 貴彦 2008 年 2 月 4 日 高知工科大学大学院 工学研究科 基盤工学専攻 情報システム工学コース 要 旨 メタ認知能力の向上を指向した 高校数学における問題解決方略の体系化 川島 真一郎 数学教育の目的は,既知の公式や解決パターンを利用して,未知の問題を解決できるよう に生徒の能力を向上させることである.この目的を実現するために,発見的に問題解決する ことが重要である.しかし,生徒自身で発見的に問題を解決するのは簡単ではなく,適切な 支援が必要である.問題解決は問題解決方略に基づいた適切なヒントによって促進される. 問題解決方略は,対象領域に依存しない問題解決方略,対象領域に依存した問題解決方略お よび対象領域に関する知識から成る.本研究ではメタ認知に着目して,その能力の向上を図 るために,まず問題解決のモデルを提案し,問題解決方略を体系化する.次に,高等学校数 学の 2 次関数を対象として,体系化した問題解決方略からヒントを生成する試作システムに ついて述べる. キーワード メタ認知, 問題解決方略, オントロジー –i– Abstract Systematization of Problem Solving Strategy in High School Mathematics for Improving Metacognitive Ability Shinichirou KAWASHIMA The purpose of mathematics education is to raise students’ ability to solve unknown problems using their known formulas and solution patterns. In order to realize this purpose, it is important for students to solve problems heuristically. Because it is not easy for students themselves to solve problems heuristically, appropriate support is necessary. Problem solving is promoted by appropriate hints based on problem solving strategy. The problem solving strategy consists of the strategy of problem solving independent of subject domain, and the strategy of problem solving depending on subject domain and the knowledge about subject domain. In this research, in order to aim at improvement in metacognitive ability paying attention to metacognition, the model of problem solving is proposed first and problem solving strategy is systematized. Next, the trial production system which generates a hint from systematized problem solving strategy for the quadratic function of high school mathematics is described. key words Metacognition, The strategy of problem solving, Ontology – ii – 目次 第1章 緒論 1 第2章 数学における問題解決とメタ認知 3 2.1 問題解決 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 2.2 問題解決の過程 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 2.2.1 試行錯誤 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 2.2.2 洞察 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 2.2.3 情報理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 2.3 メタ認知 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 2.4 数学における問題解決 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 数学における問題解決モデルの提案 8 3.1 問題解決方略 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 3.2 一般的な方略と領域依存の方略の関係 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12 3.3 問題解決のモデル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13 3.3.1 問題依存の方略のみ提示の場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14 3.3.2 一般的な方略と問題依存の方略の両方提示の場合 . . . . . . . . . . 15 第3章 第4章 4.1 問題解決方略の体系化 16 オントロジー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16 4.1.1 オントロジーの定義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16 4.1.2 オントロジーの役割 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16 4.2 問題解決方略の体系化 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18 4.3 一般的な方略 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20 4.4 体系化された問題解決方略の適用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24 – iii – 目次 第5章 システムの構築 26 5.1 システムの目的 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26 5.2 MathML . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26 5.3 システムの概要 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27 評価 31 6.1 目的 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 31 6.2 手法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 31 6.3 評価項目 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 31 6.4 評価結果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 32 6.5 考察 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 32 結論 34 第6章 第7章 謝辞 35 参考文献 36 – iv – 図目次 3.1 メタ認知能力と問題解決方略との関係のモデル . . . . . . . . . . . . . . . . 14 4.1 単元のオントロジー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18 5.1 システムの概念図 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27 5.2 MathML 表示 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 28 5.3 パラメータ設定場面 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 29 5.4 解答入力場面 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 30 5.5 正答表示場面 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 30 –v– 表目次 – vi – 第1章 緒論 数学教育の目的は,多くの公式や解法パターンを身に付けさせ,型通りの問題を解決でき る能力を育成することではない.むしろ,一定の必要な公式や解法パターンを身に付けた上 で,未知の問題に遭遇した場合でも,既知の公式や解法に結びつけることで問題解決を図ろ うとする能力や態度を育成することである. 日本学術会議数学研究連絡委員会附置・数学教育小委員会は「『算数』 ・ 『数学』はなぜ学 校教育に必要なのか」[1] で次のように述べている. 問題を自ら考え自らの力で解いたときの楽しさを味わうのに数学は最適の教科の一つ である.学ぶ楽しみを数学教育はもっと重視すべきである.数学の問題を解く過程では 様々な試行錯誤が必要とされる. 数学を学ぶ意味は広くかつ深い.ところが,残念なことに,受験問題の解法のテク ニックのみを教えることに特化した『受験にのみ役立つ数学』が,盛んになっている. また, 『受験にのみ役立つ数学』は, 『数学は公式を暗記してそれに数値を当てはめて問 題を解くこと』という誤解を広め,多くの『数学嫌い』の生徒を生み出している.しか し,多くの『数学嫌い』の生徒は,本当は数学を分かりたいと密かに願っている.その 願いに応える数学の教育を構築する必要がある. また,高等学校学習指導要領(平成 11 年 3 月告示,14 年 5 月,15 年 4 月,15 年 12 月 一部改正)によると,高等学校数学の目標は「数学における基本的な概念や原理・法則の理 解を深め,事象を数学的に考察し処理する能力を高め,数学的活動を通して創造性の基礎を 培うとともに,数学的な見方や考え方のよさを認識し,それらを積極的に活用する態度を育 –1– てる. 」ということである. つまり,数学教育には,生徒自身が試行錯誤しながら自分の力で問題解決することが望ま れている.従って,教師は必要な公式や解法パターンを指導した後は,生徒自ら発見的に問 題の解決を図る場面を設定することが多い.その際,一定の知識や公式,解法は身に付け ているにもかかわらず,問題にほとんど着手できない生徒たちが存在する.この事実に注目 し,それらの生徒たちが,知識などを問題解決に十分に利用できない原因として,メタ認知 能力の不足を考える.従って,生徒のメタ認知能力の向上が問題解決能力の向上に繋がると 考える. 本研究ではこのメタ認知能力に着目して,その向上を図る方法について考察する.まず, 重松 [2] の先行研究を基に,問題解決方略がメタ認知に作用する問題解決のモデルを提案す る.次に,問題解決方略の構造を分析して体系化する.最後に,高等学校数学の 2 次関数を 対象領域として,体系化した問題解決方略からヒントを生成する試作システムについて述 べる. –2– 第2章 数学における問題解決とメタ認知 2.1 問題解決 問題解決とは,目的や目標がわかっているにもかかわらず,それに到達するための手段や 方法のわからない問題場面・課題場面において,そこに含まれるいろいろの条件を考え出し, その条件間の関係を整理し関係づけることによって,1 つの解決方法を見つけ出す働きであ る [3].この問題解決においては,概念作用・判断作用・推理作用が一緒に働くことになる. この問題解決においては,問題場面に対してすでに学習した原理法則を単に適用するとい うことよりも,新奇な場面に対して新しい解決を「つくり出す」という点を重視する. 2.2 問題解決の過程 問題解決の過程については,行動理論・ゲシュタルト理論・情報理論の立場から,次のよ うに説明されている [3]. 2.2.1 試行錯誤 行動理論に属するソーンダイク(Thorndike,E.L. )は,問題箱による猫の実験から,以 下のように主張している.問題解決においては,学習者がでたらめな反応を繰り返している うちに偶然に行う正反応が, 「効果の法則」(賞は結合を強め,罰は結合を弱める)と「練習 の法則」(結合は練習によって強められ,練習しないと弱めらる. )によって強められる.そ の一方で誤反応が消去されて,しだいに正反応の学習が成立していく. –3– 2.2 問題解決の過程 2.2.2 洞察 ゲシュタルト論者のケーラ−(Köhler,W. )は問題解決はあれこれと試行錯誤を繰り返し た結果ではなく,頭の中で問題場面の要素を注意深く調べ,場面の構造関係を見抜く(洞察 する)ことによって突然起こると主張した.そして彼は,問題解決とは「解決への洞察が得 られるまで,問題場面を頭の中で再構成する過程である」と結論した.これは「洞察説」と いわれる.また,ウェルトハイマー(Wertheimer,M. )は,問題解決は「問題場面の体制 化と,解決のために個々の要素の関係を発見することによって行われる」と主張した.すな わち,学習者はこれらの要素を整え再配列することによって,解決に対する洞察を得るとい う.その際,観点を変えて問題を再構成することを「中心転換」という.しかし,ゲシュタ ルト論者は,問題解決方略がいかにして学習されるか,いかにすれば学習者がより洞察的に なりうるかなど,その過程についてはほとんど述べていない, 2.2.3 情報理論 情報理論においては,問題は,(1) 初めの状態(出発点:前提状態),(2) 目標の状態, (3) 下位目標の状態,(4) 操作の適用により可能となる解決通路をもつ,問題空間(problem space)あるいは問題表現(problem representation),として表される.従って,問題解決 とは,問題についてのこのような表現を作り,初めの状態と目標状態との間のずれを減少す るために操作を行うことである.つまり,初期状態を目標状態へ変えることなのである.そ の際,解決を見いだすために表現を操作することは, 「探索(search)」といわれる.換言す れば,問題解決とは,正しい通路を見つけて,初めの状態からいくつかの中間状態を経て, 目標状態にまでいたることである.その過程において,探索は目標指向的に行われる. そこで,問題解決における第一歩は,この問題表現を形成することになる.問題表現は, 短期記憶(あるいは作業記憶)において「命題」あるいは「イメージの形」(心的表現)を とることもあるし,コンピュータ・スクリーンや黒板などの上に外的に表現されることもあ る.また作業記憶における情報が,長期記憶の中にある関係した知識を活性化する.それに –4– 2.3 メタ認知 より,問題解決者は適切な問題解決方法を選択することができる(この知識の活性化と適用 は「転移」と呼ばれるものである).こうして,問題を解決していくにつれ,彼らはしばし ば自分の初めの表現を変え,しだいに新しい知識を活性化させていくのである. このように,問題表現は,どんな知識が記憶において活性化されるのか,そして問題がど のくらい容易に解決できるのかということを決める.ただし,解決者が問題のすべての面を 考慮していないとか,あるいは過度に多くの制約を加えられて,問題を誤って表現してしま うような場合には,探索過程で正しい解決通路を見つけることができない [3]. 以上のように,立場によって問題解決の捉え方は異なるが,問題場面に対してすでに学習 した原理法則を単に適用するということよりも,新しい解決を「つくり出す」という部分は 共通している.それは,緒論で述べた数学教育のあるべき姿とも重なる. 2.3 メタ認知 メタ認知(metacognition)とは,認知活動についての認知のことである.メタ認知概念 は,ブラウン(A. Brown)やフラベル(J. H. Flavell)によって 1970 年代に提唱された. メタ認知は,まずメタ認知的知識(meta-cognitive knowledge)とメタ認知的活動(meta- cognitive activity)に分かれ,それぞれがさらに細かく分かれる.メタ認知的知識とは,メ タ認知の中の知識成分を指す.メタ認知的知識は,人間の認知特性についての知識,課題に ついての知識,課題解決の方略についての知識の 3 つに分けて考えることができる.メタ 認知的活動とは,メタ認知の中の活動成分を指す.メタ認知的活動は,メタ認知的モニタ リング,メタ認知的コントロールの 2 つに分かれる.メタ認知的モニタリングとは,認知 状態をモニタすることである.認知についての気づき(awareness),認知についての感覚 (feeling),認知についての予想(prediction),認知の点検(checking)などが含まれる. メタ認知的コントロールとは,認知状態をコントロールすることである.認知の目標設定 (goal setting),認知の計画(planning),認知の修正(revision)などが含まれる [4]. 困難な場面に遭遇したとき,メタ認知はその事態を打開すべく,関係のありそうな経験や –5– 2.4 数学における問題解決 知識を想起する.似たような困難を克服した経験があれば,それは大きな手掛かりとなる. 過去の経験がそのままでは使えないときでも,見方を変えたりすることで使えることもあ る.直面している問題が極めて困難なときは,条件の一部を解き易い形にした問題をまず解 いてみることが手掛かりになることがある.また,問題の解決に使えそうな法則なども思い 出し,解決に向けた道筋を描く.解決に向けた一番確かそうな方針が決まれば,実行してみ る.間違いを犯しそうな場面では注意深く実行し,時々方針が間違っていないか検討を加え る.このようにして,メタ認知はルーティンワークでない困難な問題を解決するときに,力 を発揮すると考えられる. そして,メタ認知能力は使うことで訓練をしなければ,その能力は向上しないと考えられ る.訓練するための問題は,メタ認知が働かなくても解決できるような平易過ぎる問題は役 に立たない.適度な難易度の問題を解決することが必要である.従って,パターン暗記に終 始するような学習では,メタ認知能力は向上しないと考えられる.その意味で,生徒が試行 錯誤しながら自力で問題の解決を図る問題解決学習は,その狙いが実現できれば,メタ認知 能力の育成に大いに効果を発揮すると考えられる. 2.4 数学における問題解決 数学における問題解決学習の試みとして,小学校や中学校で見受けられるのは,教科書で 習った公式を当てはめるだけの問題演習を繰り返すのではなく,生活の中などに算数・数学 の教材を発見し,それらを授業に用いることで,数学を身近に感じさせるというものであ る.高校の数学においても身近な生活の中に数学の教材を発見する試みは重要で,機会を捉 えて実施するべきものと考える.ただし,指導する内容や授業時数を考えた場合,現実問題 としてそのような機会を数多く設定するのは難しい.その代わりに,問題解決的な場面とし て主に位置づけられているのは,各単元の最後に設定してある問題演習の時間である.それ 以外にも,一定の必要な知識,公式や解法パターンの説明が終了したと考える時点で,教師 は小さな問題演習の場面を設定することが多い.問題演習の場面では,教師は生徒が自力で –6– 2.4 数学における問題解決 問題を解決することを狙いとしている.これらの演習の時間が本来の意味での問題解決学習 になっていれば望ましいが,多くの生徒にとってはそうなっていない. 生徒が自力で問題解決することを狙って実施される,問題演習の時間の実態について検討 を加えてみる。与えられた問題にすぐに取り掛かれる生徒もいるが,ほとんど手を出すこと ができないといった生徒たちも少なからず存在する.この「手を出すことができない」生徒 たちは大きく 2 種類に分類される.1 つは,基本的な用語の意味が分かっていない,公式の 暗記が出来ていないといった,基礎の部分ができていない生徒たちである.もう 1 つは,一 定の知識や公式,解法は身に付けているにもかかわらず,問題にほとんど着手できない生徒 たちである.この後者の生徒たちに着目する.この生徒たちは,教師からの少しの助言があ れば問題に着手できる場合が多い.つまり,これらの生徒たちは,少し自信がないだけで, 教師からの後押しの一言が必要なだけであったり,問題文のどこに着目するかの指摘だけが 必要であったりする.あるいは,自力で問題を解くときには覚えた公式や解法パターンの活 用の仕方が分からない場合や,問題解決のための基本的な方針は正しいけれども,途中の些 細な場面で計算間違いなどをすることで正解にたどり着けない場合もある.従って,これら の生徒たちは,教師の少しの助言で問題を解けるようになる. 以上のことから,生徒自身の中に教師の助言の役割を果たすものを構築することができれ ば,問題解決に有効と考えられる.それが, 「内なる教師」としてのメタ認知である.つま り,生徒が数学の問題を解けないというとき,その大きな要因として,このメタ認知的な能 力が十分に働いていないことが考えられる.このことから, 「内なる教師」としてのメタ認知 の育成が問題解決に有効であると考える. –7– 第3章 数学における問題解決モデルの提案 3.1 問題解決方略 メタ認知的知識の中の問題解決方略が問題解決の場面では大きな役割を果たすから,これ の構造を考える.問題解決方略は,一般的な方略(対象領域に依存しない方略)と領域依存 の方略(対象領域に依存した方略)に分類される. ポリアは問題解決の過程として,次の 4 つの段階をあげている [5]. [ポリアの問題解決過程] 1. 問題を理解すること(Understanding the Problem,以下 UP) 2. 計画を立てること(Devising a Plan,以下 DP) 3. 計画を実行すること(Carrying out the Plan,以下 CP) 4. ふり返ってみること(Looking Back,以下 LB) 辰野 [3] によると,デューイやワラス,ブランスフォードなども問題解決の過程として,4 ないし 5 段階をあげている.例えば,デューイは次の 5 段階に分析している. [デューイの問題解決過程] 1. 問題の発見 2. 問題の明確化 3. 仮説(解き方)の提案 4. 仮説の練り上げ 5. 仮説の検討 –8– 3.1 問題解決方略 各人によって提案されている問題解決の過程は,小さな差異は有っても,ほぼ同義である といえる.そこで,本研究では問題解決に関する部分はポリアの研究を基に進めることに する. まず,問題解決の場面を想定して,ポリアの 4 段階の過程の意味を考える. 第 1 段階として,問題を解くためには,まず問題を十分に理解していなければならない. 問題を十分に理解しないまま解答に着手して行き詰った場合は,もう一度問題を読み直して みる必要がある. 第 2 段階として,問題を理解できたならば,次に計画を立てなければならない.計画を立 てずに見通しも無いまま解答に着手した場合は途中で行き詰ることが多い.問題の複雑さが 上がるに従い,計画を立てることの重要性が増す. 第 3 段階として,計画が立案できたならば,実行してみることが重要である.実際に実行 してみることで,計画の不備な部分を発見できることもある.また,計画を実行する場合, 適当な段階で検討を加えながら実行する事が大切である. 第 4 段階として,問題を解き終わった後で,振り返りという作業が重要である.問題を解 き終ったという事で満足してしまい,振り返りが疎かになりがちであるが,解答の途中で小 さなミスを犯している可能性もある.また,今回の問題で使った方法や結論が他の問題に利 用できるということもしばしば起きる.従って,記憶の鮮明なうちに他の問題への応用の可 能性を探っておくことが大事である.また,時には,解答が別のもっと簡単な解き方を暗示 していることもある.現在の少しの手間が,将来の大きな負担の軽減に繋がるので,振り返 りは重要である. また,問題解決の場面において,これらの各段階を絶えず意識することが有効である.例 えば行き詰ったときでも,どの段階に問題があるか,次に何をすればよいかなど,問題解決 の大まかな道筋が見えてくる.これらの各段階の目的を実現するために,その手段を具体的 な手続きの形にしたものをポリアは(問題解決のための)リストと呼んでいる.これが問題 解決方略と呼ばれている. ポリアの問題解決方略の例を以下に挙げる. –9– 3.1 問題解決方略 • 未知のものはなにか.与えられているもの(データ)は何か. 条件は何か. • 図をかけ.適当な記号を導入せよ. • 似た問題を知っているか.役にたつ定理を知っているか. • 問題をいいかえることができるか.それを違ったいい方をすることができないか.定義 にかえれ. • データをすべてつかったか.条件のすべてをつかったか.問題に含まれる本質的な槻念 はすべて考慮したか. これらの方略は,困難な問題を解決するときのメタ認知的な知識である.これらの方略を 使って,問題を解決する際の認知活動をモニタしたり,コントロールできるようになると, それが,メタ認知的活動となる.従って,教師はこれらの方略が生徒の内面に定着し,問題 解決の場面で生徒が困難に直面したとき,これらの方略を思い起こして問題解決して欲しい と考える.これらは一般的な方略であり,数学以外も含めてどんな分野の問題に対しても有 効である.ある程度数学の問題に慣れた生徒であれば,これらの方略の中の適当なものを教 師がヒントとして示すことで,行き詰っていた局面を打開できる.しかし,数学の問題を解 き慣れていない大部分の生徒たちには一般的な方略だけでは不十分で,より具体的な問題依 存の方略が必要である.その例として 2 次関数の問題を考えてみる. (例題)3 点 (−3, 0),(2, 0),(1, 12) を通る放物線をグラフとする 2 次関数を求 めよ. この問題に対して,一般的な方略を与えられても問題に着手できない生徒たちには,教師 は具体的方略をヒントとして少しずつ与えていくことが多い.生徒自身の力で解決した部分 を少しでも大きくして,達成感を感じさせるためである.これらのヒントは,教師が頭の中 で模範解答を作成し,その解答の順序に対応する形で示される. この例題が与えられたとき,教師が次のような流れで順次ヒントを出していく. ・ 「2 次関数のおき方はどのようか?」 – 10 – 3.1 問題解決方略 このヒントに対して生徒が答えられなかった場合,教師は『2 次関数のおき方も言えない ようだから,もっと具体的なヒントを出す必要がある』と考えて,次のようなヒントを出す. ・ 「2 次関数のおき方は,y = ax2 + bx + c か y = a(x − p)2 + q である. 」 このヒントに対して生徒が答えられなかった場合,教師は『2 次関数の 2 つのおき方の, 使い分けも覚えていないようだから,もっと直接的なヒントを出す必要がある』と考えて, 次のようなヒントを出す. ・ 「頂点や軸に関する情報があるときは,y = a(x − p)2 + q の形を使う. 」 このヒントに対して生徒が答えられなかった場合,教師は『頂点や軸という用語もあやふ やなのかな.もっと詳しいヒントを出そう』と考えて,次のようなヒントを出す. ・ 「(この問題には頂点や軸に関する情報はないから)y = ax2 + bx + c とおく.3 点を通る ことから,a,b,c の満たす関係式を導き,それらから,a,b,c の値を求める. 」 このヒントに対して生徒が答えられなかった場合,教師は『a,b,c の満たす関係式の作 り方が分からないのかな.もう少し直接的なヒントにしよう』と考えて,次のようなヒント を出す. ・ 「y = ax2 + bx + c のグラフが点 (−3, 0) を通ることを,式にするとどうなるか?」 このヒントに対して生徒が答えられなかった場合,教師は『これも難しいかな.式の 1 つ の作り方をを示したら,残りはできるかな』と考えて,次のようなヒントを出す. ・ 「y = ax2 + bx + c のグラフが点 (−3, 0) を通ることから,0 = 9a − 3b + c という式が導 ける.残りの 2 点からはどうなるか?」 以上のようなヒント群はこの種の 2 次関数の問題を解くときに有効であるから,生徒たち は問題を数多く解いていく中で自然と身につける場合もある.また,解法の手掛かりとして 教師の方で生徒たちに意識させることも多い. ところで,これらの対象領域や問題に依存した方略は別の単元では使えないことが多いた め,別の単元では別の方略が必要になる.従って,領域依存の方略だけで問題解決を図ろう とする場合,多数の方略の暗記が必要になる.それでも,すべての単元についてこのような 領域依存の方略を準備して,生徒たちにそれらを暗記させて問題解決に当たらせるという手 – 11 – 3.2 一般的な方略と領域依存の方略の関係 法も 1 つの指導法としては考えられる.暗記を得意とする生徒にとっては試行錯誤で頭を悩 ますことなく,時間的に見ると効率よく問題解決できることになる.それが,解法パターン 暗記型学習と呼ばれるものに繋がる. 一般的な方略を省略して,問題依存の方略のみを解法のテクニックのように指導すること は一見効率的である.しかし,発見的な問題解決から程遠い暗記中心の学問になってしまい, 数学教育の本来の目的から外れることになってしまうということに注意が必要である. 一方,対象領域に依存しない一般的な問題解決方略を身に付けさせることができれば,汎 用性も有ることから,数学的な見方や考え方のよさの感得に繋がると考える. 3.2 一般的な方略と領域依存の方略の関係 先に述べた 2 次関数の問題のヒントを抽象化して,一般的な方略として試作したのが,次 のものである.ポリアの方略を参考にしている, • 記号や文字を利用する. • 求めるもの(答え)の形を考え,それを具体的に(例えば式に)できないか. • 定義に帰ることで,手掛かりが得られることが有る. • 関係の有りそうな公式は何か. • 与えられた条件や式を,解答で使い易いように変形できないか. これらの一般的な方略と,対象領域に関する知識を組み合わせることで,対象領域に依存 した方略を生成する.そして,この領域に依存した方略が,問題を解き慣れていない生徒た ちが問題解決を図る際にヒントとして働く. 次に,数学の問題を解き慣れていない生徒たちには,一般的な方略を与えるだけでは不十 分で,具体的な方略も必要である理由を考察する.これらの生徒たちはメタ認知能力を使い 慣れていないことが考えられる.従って,メタ認知的知識である一般的な方略を与えられて も,これをメタ認知的活動であるモニタ機能やコントロール機能の部分で使いこなすことが できないと考えられる.一方,具体的な方略は,直接コントロール機能に働きかけるので, – 12 – 3.3 問題解決のモデル これを利用することが可能と考える. 次に,生徒に一般的な方略と具体的な方略を併せて提示する狙いとして,次のものを考え ている. 1. 一般的な方略から具体的な方略が生成されることの意識化 2. メタ認知的知識と連携したメタ認知的活動 3. メタ認知的知識の漸進的強化 4. 生徒自身による一般的な方略から具体的な方略の生成 5. メタ認知能力の向上 これらがどのように実現するかを,次節でモデルを用いて述べる. 3.3 問題解決のモデル 問題解決の場面で方略を指導する場合,単に問題依存の方略だけを指導するのではなく, 適宜,一般的な方略と関連付けることで,徐々に生徒たちに一般的な方略が身に付くことが 期待される.これらはメタ認知的知識となる.これまでに述べた考えと重松によるモデル [2] を元に作成したモデルを図 3.1 に示す. 生徒は問題が提示されると,これを解決しようと,まず通常の認知活動を開始する.問題 が複雑になるとメタ認知の活動が活発になる必要がある.しかし,メタ認知的知識の部分が 貧弱な生徒や,メタ認知能力の働かせ方に慣れていない生徒は,少し複雑な問題になると解 決に向けた行動が一切取れなくなる.このようなとき,教師は問題に応じた具体的な方略を 示すことをしばしば行う.この問題依存の方略によって生徒は問題の解決に向けて行動を開 始することが多い。このとき問題依存の方略は主に図 3.1 におけるメタ認知的活動の中のコ ントロール部分に作用していると考えられる. – 13 – 3.3 問題解決のモデル 図 3.1 メタ認知能力と問題解決方略との関係のモデル 3.3.1 問題依存の方略のみ提示の場合 最初に,問題依存の方略のみが提示される場合を考える.経験を繰り返すことで,メタ認 知的知識における課題に関する知識や自己に関する知識の部分は若干は強化されると考えら れる.しかし,方略に関する知識の部分の強化はほとんど期待できない.何故なら,生徒自 身による,一般的な方略と問題に関係した知識を組み合わせて,問題に応じた方略を創造す るという作業が欠けているので,生徒の内面に一般的な方略が定着することがほとんど期待 できないからである.この場合,生徒自身による発見的な要素が少ない,アルゴリズム暗記 型の授業になりがちと考える.更に,方略が問題のパターンに応じて多数暗記するべきもの と捉えられ,自分自身による発見的な要素も少ないので,方略のよさや数学のよさを感じる ことが少なくなることも予想される. 以上のことから,問題依存の方略のみが提示される授業の場合,大部分の生徒において は,メタ認知能力の向上は期待できない。問題が与えられたときの解決の方法は,問題のパ ターンを見抜き,それに応じた方略を思い出して,機械的に当てはめるというものになる. この場合,少しでも問題を変形・応用されると,解けなくなる生徒が多数現れることが予想 – 14 – 3.3 問題解決のモデル される. また,個々の生徒の内面の状態を考えてみると,多くのパターン全体を暗記するのに手間 取ったり,例え暗記には成功しても,与えられた問題がどのパターンであるかの判定で間違 えてしまったりすることで,自身の内面に問題解決のための安定したスキーマ(枠組み)を なかなか構築できないことが予想される.多数のパターン暗記が必要となるスキーマの構築 はなかなか完成しないことから,その間,生徒は不安定な手探りの状態で問題解決を目指す ことになる.従って,正答に辿り着けない事態が数多く発生することが予想される.スキー マは正答に辿り着くことを繰り返さないと安定しない.この悪循環からスキーマの完成まで に非常に長い時間を要する生徒や,最後までスキーマの安定しない生徒が多数生じることが 予想される. 3.3.2 一般的な方略と問題依存の方略の両方提示の場合 次に,一般的な方略と問題依存の方略が併せて提示される場合は,一般的な方略から具体 的な方略が生成されることが意識される.問題解決の際のメタ認知的活動はメタ認知的知識 と連携したものになる.次いで,メタ認知的知識における方略の部分が徐々に強化されるこ とが期待できる.方略を使って問題解決を繰り返す中で,課題に関する知識や自己に関する 知識の部分が強化され,メタ認知的知識全体も強化される.その後,生徒自身が一般的な方 略から具体的な方略を生成できるようになる.その結果,メタ認知的活動部分のモニタ機能 やコントロール機能の働きも活発になる.最終的に,全体としてのメタ認知能力の向上が期 待される.以上のことから,前節で掲げた狙いが達成されることになる. また,問題解決において,スキーマは安定して使えることが一番重要と考えられる。その 意味でも,問題依存の方略よりもはるかに少ない数の暗記で事足りる一般的な方略の指導 は,スキーマの早期の構築に繋がるので,数学の問題解決に極めて有効と考えられる. – 15 – 第4章 問題解決方略の体系化 本章では,一般的な方略と対象領域に関する知識をオントロジーを用いて体系化する. 4.1 オントロジー 本節ではオントロジー [6] の 3 つの代表的な定義とその役割について述べる. 4.1.1 オントロジーの定義 オントロジーには 3 つの代表的な定義がある.まずはじめに,哲学の立場では,存在に 関する体系的な理論(存在論)と定義されている.存在論とは,単に個々の事物(存在者) の特殊な性質ではなく,それらを存在させる存在そのものの意味や根本規定を研究する学 問を指す.つぎに,人工知能の立場では, 「概念化の明示的な仕様」と定義される.概念化 (Conceptualization) とは対象とする世界の概念とそれらの関係とを指す.最後に,知識 ベースの立場では, 「人工システムを構築する際のビルディングブロックとして用いられる基 本概念/語彙の体系(理論)」と定義される.知識ベースは問題解決を対象とするので,問題 解決過程において固有の概念化であるタスクオントロジーとタスクが実行される領域(ドメ イン)に関わるドメインオントロジーの 2 種類に大きく分かれる. 4.1.2 オントロジーの役割 本項では,人工知能と知識ベースの立場におけるオントロジーの役割を示す [7]. – 16 – 4.1 オントロジー • 共通語彙の提供 オントロジーは対象とする世界を記述する際に必要な関係者の合意に基づく標準的な語 彙を提供する. • 暗黙情報の明示化 一般に人工物はなんらかの概念化に基づいているが,その概念化に関する情報は一般に 暗黙的である.オントロジーは一般に無意識に仮定したり前提としている暗黙知識を記 述することによって明示化する. • 共有と再利用 現在,シソーラスや独自の知識ベース等がある.それらの殆どは知識の記述者の主観的 な考えが入り込む余地があり,ある知識と別の知識の共有や再利用が困難であった.し かし,オントロジーは知識の元になる対象世界を共通語彙を利用し客観的に記述するた め知識の共有や再利用が可能である. • (コンピューター上での) 知識の体系化 従来,人々は文字と本を使った知識の体系化を行ったきたが,それは人間のための体系 化であってコンピュータには理解できない.しかし,オントロジーは対象とする世界の 暗黙情報の明示化や共通語彙の提供をするため,コンピューター上での知識の体系化が 可能である. • 標準化 オントロジーは少なくともあるコミュニティで共有されることを目指して開発される. それらは語彙と概念の共通性が高いため,標準化への本質的な第一歩となる. • メタモデル的機能 オントロジーはその利用の際にオントロジーをクラス定義と見なして,そのインスタン スを生成しながらモデルを構築する手順を踏む.そのため,モデル構築に必要な基本概 念とガイドラインを提供するメタモデル機能がある. – 17 – 4.2 問題解決方略の体系化 4.2 問題解決方略の体系化 具体的な領域依存の方略は,一般的な方略と対象領域に関する知識を組み合わせて生成す る.そして,この具体的な方略が,生徒たちが問題解決を図る際にヒントとして働くと考え られる.そこで,一般的な方略と対象領域に関する知識をオントロジーを用いて体系化した. 対象領域を 2 次関数として,知識を,(1) 単元,(2) 公式,(3) 解法,の 3 種類に分類する. また,2 次関数に関係する単元を次のように設定した. 中学 1 年:正の数と負の数,文字と式,1 次式の計算,等式,1 次方程式,比例と反比 例,平面図形,空間図形,図形の計量 中学 2 年:式の計算,連立方程式,1 次関数,1 次方程式と 1 次関数,角と平行線,三 角形の合同,証明,三角形と四角形,場合の数と確率 中学 3 年:式の展開,因数分解,素因数分解,平方根,2 次方程式,関数 y = ax2 ,相 似な図形,平行線と線分の比,三平方の定理 高校 1 年:整式とその加減,整式の乗法,因数分解,実数,2 次方程式,不等式,関数 とそのグラフ,2 次関数のグラフ,2 次関数の最大・最小,2 次関数と方程式・不等式 単元のオントロジーを図 4.1 に示す. 図 4.1 単元のオントロジー – 18 – 4.2 問題解決方略の体系化 公式の例 • 不等式の性質(高校 1 年,不等式) 1. a < b ならば,a + c < b + c, a − c < b − c a b 2. a < b, m > 0 ならば,ma < mb, < m m a b > m m 2 • x = k の解 (k > 0 のとき)(高校 1 年,2 次方程式) √ x2 = k の解は,x = ± k 3. a < b, m < 0 ならば,ma > mb, • 2 次方程式の解の公式(高校 1 年,2 次方程式) 2 次方程式 ax2 + bx + c = 0 の解は,D = b2 − 4ac とおくと, √ −b ± b2 − 4ac D ≧ 0 のとき,x = 2a D < 0 のとき,実数の解なし • 平方完成(高校 1 年,2 次関数のグラフ) x2 + kx = (x + k 2 k2 ) − 2 4 • y = ax2 + bx + c のグラフ(高校 1 年,2 次関数のグラフ) 2 次関数 y = ax2 + bx + c のグラフは,y = ax2 のグラフを平行移動した放物線で, b b b2 − 4ac 軸の方程式は x = − ,頂点の座標は (− , − ) 2a 2a 4a a> 0 のとき下に凸,a< 0 のとき上に凸(ただし,D = b2 − 4ac) – 19 – 4.3 一般的な方略 解法 • 1 次方程式(中学 1 年,1 次方程式) → 展開や移項で ax = b の形に変形して,両辺を a で割る. • 連立方程式(中学 2 年,連立方程式) → 加減法か代入法で解く. • 整式の整理(高校 1 年,整式とその加減) 1. 同類項をまとめる. 2. 1 つの文字について,次数の高い方から順に並べる. (降べきの順) • 2 次方程式(高校 1 年,2 次方程式) → 因数分解か解の公式で解く. • 2 次関数 y = ax2 + bx + c のグラフ(高校 1 年,2 次関数のグラフ) → y = a(x − p)2 + q (標準形)に変形 • 2 次関数 y = ax2 + bx + c の最大・最小(高校 1 年,2 次関数のグラフ) → y = a(x − p)2 + q (標準形)に変形 • y = ax2 + bx + c のグラフと x 軸との共有点のx座標(高校 1 年,2 次関数と方程 式・不等式) → 2 次方程式 ax2 + bx + c = 0 の解 解法は公式ではないが,操作を含んだ用語に類するものである. 4.3 一般的な方略 一般的な方略は,ポリアの方略を基に 27 個作成した.ポリアの方略は,数学の問題以外 への適応も視野に入れた抽象度の高いものであるが,本研究で作成した一般的な方略は,高 等学校の数学への適応を主に考えていることから,ポリアの方略の中から取捨選択し,若干 の追加と表現の改変を加えた.27 個のうちの 23 個はポリアの方略に準ずるもので,残りの – 20 – 4.3 一般的な方略 4 個は新たに追加したものである(後の一覧で 11,12,13,24 番). 目標設定を高等学校の教科書レベルの問題ということにして,これらの問題に対し有効な ヒントとして働く,領域依存の方略の生成が可能な一般的な方略群が,以下のものである. 各方略につけているタグの意味は次の通りである. <題>題目的ストラテジー:ポリアの 4 段階に相当する大きな方略 <分>分解的ストラテジー:問題を分析,分解する方略 <合>統合的ストラテジー:分析した問題を再統合する方略 <補>補助的ストラテジー:時々有効となる方略 <検>検討的ストラテジー:検討用の方略 <助>援助的ストラテジー:側面から援助する働きの方略 <眼>着眼的ストラテジー:着眼の仕方を示す方略 <針>解法の方針的ストラテジー:解法全体の方針を発見する方略 <経>経験利用ストラテジー:経験を有効利用する方略 <予>予備的ストラテジー:別の方略の準備となる方略 <困>やや難問用ストラテジー:通常の解法で解決しない場合用の方略 以下に,一般的な方略を示す. (UP) 1. <題>問題の理解に努める.[大事そうなところに下線を引く,式を抜き出してみ る,等々] 2. <分><合>求めるもの(答え)は何で,与えられた条件は何か.[問題文の分析と再 構成.問題は「・ ・ ・のとき,∼を求めよ(解け). 」という形が多い. ] 3. <補><検>条件は十分か.[一見すると条件が足りない感じのとき,与えられた条件 の 1 つが強力に働くときや,問題文の中には無い,隠れた条件が有るときがある. (例)平面 上の点 P (x, y) といえば,x, y は実数である. ] 4. <助><眼>図(,グラフ,表,・ ・ ・)をかいて全体を見通す.[問題を自分のものとす – 21 – 4.3 一般的な方略 る.見通しを持つと,頭が良く働く.解答を進めるときにも役に立つことが多い. ] 5. <助>記号や文字を利用する.[数学で扱い易い形にする.3 辺の長さを a, b, c とお dy く.y の変化の割合を と表す.言葉で書かれた条件を式にする.方程式を立てる.後で dx 使いそうな式には番号を付けておく.等々] 6. <眼>(解く手掛かりとなる)注目すべきポイントは何か. (キーワード等) (DP) 7. <題>求めるもの(答え)と,与えられた条件の関係を発見せよ.[関係は直接的に見 えるときもあれば,仲介物を通して初めて見えて来るときもある.例えば,中間的な目標を 設定せよ. (例)(a + b + c)(bc + ca + ab) − abc を因数分解せよ. ] 8. <眼><針>関係の有りそうな公式は何か. 9. <経><予>似た問題を思い出せ. 10. <経><眼><針>似た問題の方法や結論を利用できないか.[(例)x, y の対称式 は x + y と xy で表せる. ] 11. <眼><針>求めるもの(答え)の形を考え,それを具体的に(例えば式に)できな いか.[また,その形のどの部分を求めればよいか.それを求めるのに,条件をどのように 使えるか. ] 12. <眼><針>与えられた条件や式を,解答で使い易いように変形できないか.[場合 によっては,結論の式から解答を進めて,後で比較するのが有効なときも有る. ] 13. <助><検>(方針の選択や解答の進め方について)解法の大筋を捉える.[大まか な見通しを持つことが,解答への着手を促し,右往左往したり,袋小路に入ったりするのを 防ぐ. (例)増減表を書けば解けそう.判別式を利用できそう.等々] 14. <経><眼><針>前に使った方法が直接使えないとき,補助的な工夫を加えること で使えるようにならないか.[(例)角度の問題で,補助線を引く事で三角形の問題と捉 える. ] 15. <眼><針>求める結果が得られたと仮定して,逆向きに解けないか.[求める結果 – 22 – 4.3 一般的な方略 を明確にイメージすることで,必要となる道筋が見えてくることが有る. ] 16. <眼><針>定義に帰ることで,手掛かりが得られることが有る.[2 次関数関連の 問題と判別式の関係.微分係数の定義.等々] 17. <困><眼><針>問題を言い換えることで,容易になったり,既習の解法が使えた りしないか.(そのとき,与えられた条件はどう変わるか. )[問題を違った視点から見る. (例)sin θ + cos θ の最大値を求めるのに,単位円周上の点 P (x, y) を利用する. ] 18. <困><眼><針>問題を一般化することで,容易になることがある.[(例)具体的 な数値の問題を,一般的な文字に置き換えることで見通しが良くなることが有る. ] 19. <困><眼><針>問題を特殊化することで,解決の糸口がつかめるときがある. [(例)直方体の対角線の長さを求める問題で,高さが 0 の場合を解いてみる. ] 20. <困><分><眼><針>条件の一部からどんなことが分かるか.[条件を幾つかの 部分に分けられないか.全体の解答とどう関係するか. ] 21. <困><眼><針>解き易い類題を考えることが,元の問題の手掛かりになることが ある.[問題の一部は解けるか.どういう条件が付加されていれば解き易いか.等々] 22. <補><検><助>条件の使い忘れはないか. (CP) 23. <題><検>方針に従い解答を進め,適当な段階で検討を加え,必要に応じて方針を 見直す. 24. <補>自信の持てるる解き方から試みよ.[大抵の問題は,何通りか解き方がある. (例)基本的な公式だけを使う.図形を利用する.微分を利用する.等々] (LB) 25. <題>結果の検討.[少しの検討が,長い目で見ると大きな効果をもたらす. ] 26. <検><眼>別の解法はないか.得られた答えが別の簡単な解法や,答えの意味を示 しているときが有る. – 23 – 4.4 体系化された問題解決方略の適用 27. <検><眼>使った方法や結果を総括する.他の問題に応用できないか. 4.4 体系化された問題解決方略の適用 次の例について,一般的な方略から,問題依存の方略を生成する.文中例えば「s2:」とい うのは,前節の一般的な方略の 2 番という意味である. (例題)3 点 (−3, 0),(2, 0),(1, 12) を通る放物線をグラフとする 2 次関数を求 めよ. 一般的方略「s1 : 問題の理解に努める. 」から,問題文「3 点・ ・ ・を通る 2 次関数を求め よ. 」に注目して『「2 次関数を求めよ. 」とはどういうことか?』という具体的な方略を生成 する. 一般的方略「s2 : 求めるもの(答え)は何で,与えられた条件は何か. [問題文は「・ ・ ・の とき,∼を求めよ(解け). 」という形が多い. ]」をそのまま提示する. 一般的方略「s5 : 記号や文字を利用する. 」から, 「y が x の関数であることを,f などの 記号を用いて y = f (x) と表す. 」, 「2 次関数のおき方はどのようか?」という具体的な方略 を生成する. 一般的方略「s6 :(解く手掛かりとなる)注目すべきポイントは何か. (キーワード等)」を そのまま提示する. 一般的方略「s11: 求めるもの(答え)の形を考え,それを具体的に(例えば式に)できな いか. [また,その形のどの部分を求めればよいか.それを求めるのに,条件をどのように使 えるか. ]」から, 「2 次関数のおき方は,y = ax2 + bx + c か y = a(x − p)2 + q 」, 「頂点や軸 に関する情報があるときは y = a(x − p)2 + q の形を使う. (この問題には頂点や軸に関する 情報はない. )」という具体的な方略を生成する. 一般的方略「s8 : 関係の有りそうな公式は何か. 」から「 曲線 y = f (x)・ ・ ・(1) が点 (a, b) を通るとき,x = a, y = b を (1) に代入して,b = f (a)」という具体的な方略を生成する. – 24 – 4.4 体系化された問題解決方略の適用 一般的方略「s12: 与えられた条件や式を,解答で使い易いように変形できないか. 」から, 「y = ax2 + bx + c のグラフが点 (−3, 0) を通ることを式にできないか?」, 「 y = ax2 + bx + c のグラフが点 (−3, 0) を通るから,0 = 9a − 3b + c ∴ 9a − 3b + c = 0」, 「同様に,点 (2, 0) を通るから,4a + 2b + c = 0」, 「点 (1, 12) を通るから,a + b + c = 12」という具体 的な方略を生成する. 一般的方略「s23: 方針に従い解答を進め,適当な段階で検討を加え,必要に応じて方針を 見直す. 」をそのまま提示する. 一般的方略「s24: 自信の持てる解き方から試みよ. 」をそのまま提示する. 一般的方略「s25: 結果の検討. [少しの検討が,長い目で見ると大きな効果をもたらす. ]」 をそのまま提示する. 一般的方略「s26: 別の解法はないか.得られた答えが別の簡単な解法や,答えの意味を示 しているときが有る. 」から, 「2 点 (−3, 0),(2, 0) を通ることに注目」「 ,2 点 (α, 0), (β, 0) を 通る放物線を表す 2 次関数は,y = a(x − α)(x − β) とおける. 」, 「求める 2 次関数 を y = a(x + 3)(x − 2) とおける. 」「点 (1, 12) を通ることから,a の値を求める. 」という 具体的な方略を生成する. 一般的方略「s27: 使った方法や結果を総括する.他の問題に応用できないか. 」「(1) a − b + c = 7, c = −2, a + b + c = −5(a = 3, b = −6, c = −2), (2) a + b + c = 4, 9a + 3b + c = 6, 4a − 2b + c = 16(a = 1, b = −3, c = 6) 以上に示す手順で問題依存の方略を生成していく. – 25 – 第5章 システムの構築 5.1 システムの目的 本研究で提案した問題解決モデルと,体系化した問題解決方略を利用して試作システムを 構築した.システム概念図を図 5.1 に示す.今回構築する試作システムでは,問題依存の方 略だけでなく,一般的な方略も適宜示す. この一般的な方略は,問題に依存した方略よりは数が少ないので,生徒にそのよささえ認 識されれば,問題に依存した方略より速やかな定着が期待され,問題解決のスキーマも早期 に安定すると考えられる.更に,一般的な方略と問題に関係した知識とを組み合わせて,問 題に応じた方略を創造するという生徒自身による作業が含まれているので,発見的に問題を 解決することが,問題依存の方略のみの場合より多くなることが期待される. 5.2 MathML 本システムでは数式の画面表示に MathML[8] を利用した.MathML は XML ベースの数 式記述言語である.1998 年 4 月に W3C 勧告として公開された.最新の勧告は MathML2.0 である.MathML では数式の表記と,数式の意味を伝えるための 2 種類のタグが用意さ れている.MathML ファイルは単独で使用されるほか,他の XML 文書に埋め込んで使 用することができる.MathML は特に XHTML で記述された Web ページに数式を埋め こむ際に使われることを強く意識しており,XML ベースのベクター画像記述言語である – 26 – 5.3 システムの概要 図 5.1 システムの概念図 SVG と合わせて, 「XHTML+MathML+SVG」という仕様もドラフトが公開されている. MathML 文書は Mathematica などの技術計算系アプリケーションで扱うことができるほ か,XHTML との連携を意識して,Web ブラウザでも対応が進むものと考えられている (Mozilla/Netscape 7 が対応している)[9]. 5.3 システムの概要 試作システムは高等学校数学の 2 次関数を対象としている.システムは Web アプリケー ションとして PHP と Java,JavaScript を利用して構築した. システムの使用方法は,生徒は Web ブラウザ上の問題文を読み,画面上の数式入力用の ボタンを使って,解答を作成する. 通常の PC 端末のキーボード操作よりは,問題用紙に解答を手書きするような感覚に近づ けている.表示画面は MathML で記述し,数学の記号も自然な形で表示される.記述の実 際と画面表示は図 5.2 に示す通りである.システムは問題のパターンと解き方をデータベー スとして保持していて,問題の数値の変更も可能である.生徒の解答を受け取ったサーバ側 は診断機構を使って,生徒の解答を解釈し,生徒の解答状況を把握できる. – 27 – 5.3 システムの概要 図 5.2 MathML 表示 例えば, 「3 点を通る放物線」の問題を選ぶと図 5.3 のパラメータ設定場面に移動する.こ の図の場合生徒は 3 点の座標が適当に設定できるので,例えば,教科書の問題の数値に合わ せて入力できる.その後,模範解答表示モードか解答指導モードを選ぶ.模範解答表示モー ドはその名の通り,教科書の例題に見るような記述の仕方で模範解答を表示する.このシス テムのメインとなるのは解答指導モードである.こちらを選ぶと,図 5.4 の解答入力画面に 移動する.解答は,画面上側の入力ボタンを使って入力する.入力した生徒の解答は画面下 側に表示される. 生徒はチェックを受けたいとき,チェックボタンをクリックすることで,自分の解答の大 まかな進行状況を把握できる.その際,ヒントボタンをクリックすれば,方略生成機構が一 般的な方略や問題依存の方略を生成し,出力機構を使って,画面右側にヒントとして順次提 示する. 入力された数式は内部で MathML に変換され,必要なパラメータを抜き出して,演算プ ログラムへの代入や模範解答との比較に用いる.連立方程式等は問題解決エンジンに代入し て生徒の計算手続きの正誤を判断して,次に生徒が導き出すべき計算式を逐次算出できる. – 28 – 5.3 システムの概要 図 5.3 パラメータ設定場面 これを元に,生徒が次の式を打ち込めば,その正誤を判定できるようになっている. – 29 – 5.3 システムの概要 図 5.4 解答入力場面 図 5.5 正答表示場面 – 30 – 第6章 評価 6.1 目的 本システムは,メタ認知能力の向上による問題解決能力の向上を狙いとして,問題解決の モデルを基に試作された.従って,試作システムにおいてその狙いが実現されているか,作 成したモデルは正当性があるのかを検証する必要がある. 6.2 手法 高等学校の数学科の教員 3 名に対して本研究で提案した一般的な問題解決方略およびシス テムの有効性について評価を行った.最初に,システムの狙いについて簡単な資料を配布の 上,口頭で説明した後にアンケートに回答してもらった.その後,聞き取り調査も行った. アンケートは 4 択式が 3 項目と自由記述が 1 項目である. 6.3 評価項目 評価項目は, (1) システムが提示するメッセージの有効性:このシステムではメタ認知能力の向上を目 指して,一般的な方略をヒントとして順次表示するが,そのヒントは生徒が問題を解くと き,役に立つかどうかを聞く. (2) 一般的方略の定着への有効性:システムが提示するヒントが,問題を解くために役立 つだけでなく,生徒に一般的な方略が定着するのに,役に立つかどうかを聞く. – 31 – 6.4 評価結果 (3) メタ認知能力や問題解決能力の向上への有効性:システムが提示するヒントが,問題 を解くために役立つだけでなく,生徒のメタ認知能力や問題解決能力が向上するのに,役に 立つかどうかを聞く. (4) 感想: の 4 項目である. 6.4 評価結果 まず,(1) のヒントとして表示されるメッセージの有効性については,2 人が「ある程度役 に立つ」と答えた.1 人が「ある程度役に立つ」と「ほとんど役に立たない」の両方にチェッ クしていた. 次に,(2) のヒントとして表示されるメッセージの一般的な方略の定着に対する有効性に ついては,全員が「ある程度役に立つ」と答えた. 最後に,(3) のヒントとして表示されるメッセージの生徒のメタ認知能力や問題解決能力 の向上に対する有効性については,2 人が「ある程度役に立つ」と答え,1 人が「ほとんど 役に立たない」と答えた. また,自由記述や聞き取りで得られた意見には, 「数学は苦手だが,パソコンには高い関 心を示す生徒がいるので,そういう生徒は興味を持って学習するのではないか. 」, 「途中の つまづきに対して,ヒントが幾つか出るので,生徒に考えさせる場面が増えて,良いのでは ないか. 」, 「ヒントを与えるというところは良いと思うが,入力がしんどい」というものが 有った. 6.5 考察 今回のシステムについて,高等学校の数学科の教員 3 名に評価してもらった.最初にシス テムの狙いについて説明した後,全員に実際に操作してもらった.1 人パソコンが得意でな いという教員もいたが,問題なく操作できた. – 32 – 6.5 考察 (1) について,このようなアンケート結果になった原因として考えられるのは,問題解決 モデルとしては,一般的方略と具体的方略の両方提示することで漸進的に一般的方略の定着 を目指していたが,実際に完成したシステムでは具体的方略の提示ができなかったので,ヒ ントとして考えた場合,方略は抽象的と受け取られたと考えられる.また, 「ある程度役に立 つ」と「ほとんど役に立たない」の両方にチェックしていた 1 人については,どちらとも言 えないという意見か,有効,無効の両面を感じたという意見かと考えられる. (2) については,上に述べたこととも関連して,ヒントとしては抽象的であるが,一般的 な方略の定着に関してはある程度有効と受け取られたと考える. (3) については,ある程度有効と受け取られたと考えられるが,システム改善の必要性を 示唆しているとも考えられる. また,自由記述や聞き取りで得られた意見から分かることは,システムの有効性がある程 度認められているということである. その他,アンケート協力者のシステムの操作を見ていて感じたことは,今回作成したシス テムでは,解答の入力に必要となる用語などを,テンプレートの形で準備し,それらをマウ スでクリックすることで解答を完成していく形式にしたので,キーボードに慣れている人間 にとっては,かえってもどかしく感じたのかも知れない,ということである.また,インタ フェースに関する部分で,数行入力が終わった後で,最初の方の入力ミスに気付いた場合, ほとんどを打ち直す必要が有った点も改善の余地が有ると考える. – 33 – 第7章 結論 本研究では,数学の問題解決において重要な役割を果たすメタ認知に着目し,メタ認知能 力の向上を実現する学習支援システムの開発を目的とした.まずメタ認知と関係の深い問題 解決方略の構造を分析して体系化した. 次に,この問題解決方略とメタ認知の関係を考察し,問題解決のモデルを提案した.最後 に,このモデルに基づき高等学校数学の 2 次関数を対象領域として,体系化した問題解決方 略からヒントを生成する試作システムと,その評価ついて述べた. 評価から分かることは,問題解決方略をヒントとして生徒自らが試行錯誤しながら問題解 決を図る、という方法についてはその有効性を認める意見が多かった.また,通常の方法で は問題解決能力が捗々しく向上していない生徒の中に,このシステムが大いに効果を発揮す る集団が存在する可能性も示唆された.システムのインタフェースに関しては,改善の余地 が認められた. 本研究で試みた問題解決方略の体系化は,教師が授業の指導案を作成するときの参考資料 や,生徒が自力で問題解決を図るようなeラーニングコンテンツのヒント生成などにも活用 できると考える. – 34 – 謝辞 本研究の全てにおいて,多大なるご指導を賜りました高知工科大学情報 システム工学科 の妻鳥 貴彦 講師に心より感謝致します. 本論文及び本研究において,数々の有益なご助言を賜りました高知工科大学情報システム 工学科 篠森 敬三 教授,福本 昌弘 准教授に厚くお礼申し上げます. 本研究を進める上で,貴重なご助言,ご協力をいただきました高知工科大学情報 システ ム工学科 修士 2 回生の木下聡氏,高木翔平氏,修士 1 回生の寒川剛志氏,大黒隆弘氏,学 部 4 回生の大岩和也氏,加集広希氏,藤山翔太氏,橋田味加子氏,畠山博和氏,福田将行 氏,藤原健太郎氏,山崎雄大氏,学部 3 回生の池田真美氏,清水雅也氏,竹内雄人氏,浜田 洋氏,別府瞳氏,森拓也氏に心より感謝申し上げます. – 35 – 参考文献 [1] 日本学術会議数学研究連絡委員会附置・数学教育小委員会,”『算数』・『数学』はなぜ 学校教育に必要なのか”,中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会算数・数学 専門部会(第 2 回)2004 年 5 月 31 日 配付資料. [2] 重松敬一,” 算数教育における教師の職能成長のシステムの開発研究”, 科学研究費補助 金 (基盤研究 (C)(1)) 研究成果報告書 ; 平成 13 年度∼平成 14 年度,2003. [3] 辰野千壽,” 学習方略の心理学”,図書文化社,1997. [4] 日本教育工学会編,” 教育工学事典”,実教出版,2000. [5] G. ポリア(垣内賢信訳),” いかにして問題をとくか”, 丸善,1975. [6] 溝 口 理 一 郎,” オ ン ト ロ ジ ー 工 学 序 説”, 人 工 知 能 学 会 誌, Vol.12, No.4, pp.559∼ 569,1997. [7] 三 本 浩 之,” オ ン ト ロ ジ ー を 利 用 し た 学 習 コ ン テ ン ツ 情 報 提 供 支 援 シ ス テ ム” http://www.kochi-tech.ac.jp/library/ron/2003/2003info/1040347.pdf [8] W3C Math Home,http://www.w3.org/Math/ [9] IT 用語辞典 e-Words,http://e-words.jp/w/MathML.html – 36 –