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多国籍企崇の活動と環境損害

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多国籍企崇の活動と環境損害
多国籍企崇の活動 と環境損害
親会 社本 国 と外 国子会社 との関係
.斉
Activities
藤
功
of Multinational
Environmental
The
高
Relation
Company
Corporation
Injuries
between
Caused
Home State
and Its Subsidiary
Yoshitaka
and
of Parent
Abroad
SAITO
Abstract
The purpose
corporation
of this paper
should
subsidiary
abroad.
claim compensation
is inquired
which
effect theory
is fitted
First,
it is examined
from its parent
theory,
relation
Environmental
multinational
corporation
international
environment.
least the legal system
controlled
whether
company
between
Law.
should
subsidiary
Third,
principle,
veil.
nationality
a subsidiary
abroad
I insist
within
that home
on parent
in the
Second,
it
and
abroad,
context
of
of the
of the protection
state should
company
can
principle,
out how the activities
from the viewpoint
compensation
of its
the host state of the subsidiary
it is pointed
be regulated
caused
caused. by activities
the home state and the subsidiary
and
And finally
to impose
state of the multinational
injuries
by lifting the corporate
as territoriality
of home'state
International
1.は
such
the home
for environmental
to follow the relation
for the
its effectively
is to clarify whether
take liability
of
construct
for damage
at
which
the host state.
じめ に
多 国 籍 企 業(1)の 活 動 に つ い て は 、 そ の 巨大 な資 本 の 故 に、 種 々 の 問題 を提 起 して き た 。 従 来
そ れ は 、経 済 法 の分 野 に お い て、 本 国 の国 家 法 を い か に そ の活 動 に当 て は め て い くか が問 題 に な っ
で い た 。 しか し、 近 年 、 そ の 多 国 籍 企 業 が 国 際 環 境 法 の 分 野 で も問題 に な って きた。 そ れ は 、 本
一23一
国では危険 な活 動 のため操業基 準 を厳 し く設定 されている企業 が・ ζ りわけ発展途上国 に進 出 し
て企業活動 をす ることによっそ、概 して環 境基準 ゐミ
低 い途上 国に潔境損 害を引 き起 こす場 合 が出
綴 堯農繰 濡 緊 こでの鰈 こ
屯?て
引き樫 れ囎 聯 嚇
規模備
もち ろん 、 多 国 籍 企 業 は民 間 企 業 で あ るた め、 国家 の 管 理 が及 ぶ 範 囲 は 限 られ て い る。 多 国 籍
企 業 は 子 会 社 を世 界 中 に展 開 して お り、 そ の 一 つ一 つ の 子 会 社 は 現 地 国 家 の 法 人 に な っ て お り、
そ の 意 味 で は 、 多 国i籍企 業 の外 国 子 会 社 は そ の子 会 社 が 事 業 を展 開 して い る受 け 入 れ 国 の企 業 で
あ る。
国 際 法 の 伝 統 的 な考 え方 で あ る領 域 主 権 か ら見 る と、 親 会 社 の 本 国 が規 制 で き る の は 本 国 に あ
る親 会社 とそ の活 動 で あ り、受 け入 れ 国 に あ る子 会 社 は 受 け入 れ 国 の領 域 主 権 に 服 ナ る こ と に な
る。(2)受 け 入 れ 国 の 子 会 社 が 環 境 損 害 を 引 き起 こ した 場 合 、 受 け入 れ 国側 で 処 理 しな け れ ば な
らず 、親 会 社 の 本 国 に は 何 ら責 任 が な い こ とた な る。
しか ㌃、 多 国 籍 企 業 が世 界 的 な規 模 で 展 開 して い る 今 日、 親 会 社 本 国 は外 国 子 会 社 に対 して 何
らの規 制 もで きな い の で あ ろ うか。 また 、 受 け 入 れ 国 は 親 会 社 本 国 に何 らの請 求 もで き な い の で
あ ろ うか 。 親 会 社 本 国 と外 国 子 会 社 との 間 に 非 領 域 的 ・機 能 的 リ ソ ク に よ る紐 帯 を設 定 し、 親 会
社 本 国 の 実 効 的 管 理 を 外 国 子 会 社 に及 ぼ す 考 え も 出 て きて い る こ と か ら、 こ こで 親 会 社 と外 国 子
会 社 の 関係 、 親 会 社 本 国 と外 国 子 会 社 あ る い は 、 親 会 社 本 国 と受 け 入 れ 国 との 関 係 、 さ らに 、 国
際 環 境 法 の 枠 組 み に お け る親 会 社 本 国 の 責 任 を再 考 して み た い。
(1)多
国 籍 企 業 とは 厂そ れ を構 成 す る個 々 の 法 人 は特 定 の 国 家 の 法 律 に基 づ い て 設 立 され て は
い る が 、 共 通 の管 理 、 財政 上 の コ ソ トロー ル に よ り結 合 され 、結 合 され た政 策 を遂 行 す る複
数 の法 人 グル ー プ か ら成 って い る」(1987年 ア メ リカ対 外 関 係 法 第 三 リス テ イ トメ ソ ト213条)
企 業 ど一応 定 義 して お く。
(2)た
と え ば 、SumitomoInc.v.Avagliano事
件 に 関 す る1982年 の 米 国 連 邦 最 高 裁 判 所 判
決 で は 、 原 告 が 日本 法 人 で あ る親 会 社 ・住 友 の 全 額 出 資 に よ る住 友 の子 会 社 で あ って も、 そ
れ が 米 国 で 設 立 され た 米 国 法 人 で あ る こ と か ら、 人 権 保 護 上 で 、 日本 法 で は な く米 国 法
(1964年 のCivilRightsAct上
の 差 別 撤 廃 条 項)の
適 用 が あ る と した。 広 瀬 善 男 、 「国 家 法
の 域 外 適 用 と国 際 法 」 『国 際 関 係 法 の 課 題 』(1988)、 有 斐 閣 、315頁 。457U.S.176(1982)
2.多
国籍企業が引き起 こ した環境損害事件に見 る傾 向性
こ こ で は 、 次 の4つ
1984年
の 事 件 、 す な わ ち1976年
の イ タ リア 。セ ヴ ェ ソ に お け る ガ ス爆 発 事 故 、
の イ ソ ド ・ボ パ ー ル の 爆 発 事 故 、
・1985年 のARE事
件 、1978年
の ア モ コ ・カ ジ ス 号 事 件 を
取 り上 げ 、 そ こ で 使 わ れ た 法 人 格 否 認(1ifting・thecorporateveil)の
(1)セ
法 理 を述 べ る。
ヴ ェ ソガ ス爆 発 事 故(1)
こ の事 件 は 、 イ タ リア、 メ ダ に あ るICMESA社
で トリ ク ロ ロ フ ェ ノー ル(trichlorofenol)
生 産 装 置 の安 全 弁 が 爆 発 し、 ダイ オ キ シ ソ を含 む ガ ス が発 生 し、 セ ヴ ェ ソな ど広 範 囲 に わ た る
地 域 が 汚 染 さ れ た 事 件 で あ る。
ICMESA社
は イ タ リア国 籍 の 会 社 で あ る が 、1976年 に ス イ ス の3つ
24
の 会 社 が 当該 会 社 の 株
式 を所 有 した。Givaudan社
%で あ る が 、Givaudan社
が約46%、HoffmannLaRoche社
が 約30%、Dreirosen社
は実 質 的 にHoffmann:LaRoche社
が 約24
が支 配 して い た。ICMESA社
の
社 長 はGivaudan社 の取 締 役 を兼 ね て お り、 ト リク ロ ロ、フ ェ ノー ル の生 産 は親 会 社 の決 定 に 基
づ い て な され 、 また 、 意 思 決 定 ・生産 ・企 業 戦 略 等 、 経 済 的 な意 味 で の 統 一 性 が親 会 社 との 間
で保 た れ て い た。
この 事 件 で は 、原 告 は 裁 判 を選 ば ず 、 和 解 に よ る解 決 を選 ん だ。 そ の理 由 と して 、 被 害 者 の
早 期 救 済 の 観 点 か ら被 告 住 所 地 ス イ ス で の 裁 判 を 避 け た か った こ と、 イ タ リア ・ス イ ス 間 の民
事 ・商 事 判 決 の 承 認 執 行 に 関 す .る条 約 に よ りイ タ リアで 裁 判 して判 決 が 出 て も、 イ タ リア の裁
判 所 が 同 条 約 に規 定 され た 「管 轄 裁 判 所 」 と して認 定 され るか ど うか 問 題 と な る こ と が 挙 げ ら
れ て い る。 そ こで 、 法 人 格 否認 の 法 理 に よ り親 会 社 の 責 任 を追 及 して い くた め に裁 判 外 で の 解
決 を選 ん だ と思 わ れ るσ
結 局 この 事件 に つ い て は 、 ま ず 、 事 故 を起 こ した イ タ リアの 子 会 社 と、 これ を資 本 上 ・経 営
上 、 実 質 的 に 支 配 して い る ス イ ス の 親 会 社 の 間 で 、 補 償 に 関 して 親 会 社 が 全 責 任 を負 う とい う
内 容 の 合 意 を行 な い 、 これ に イ タ リアの 国 家 と州 が 同 意 を 表 明 す る、 とい う形 が取 られ た。 こ
う して 、 イ タ リア の 国 家 と州 を一 方 当 事 者 と し、 親 会 社 及 び 子 会 社 を他 方 当 事 者 とす る和 解 協
定 が結 ば れ 、国 家 と州 に 補 償金 が支 払 わ れ て 紛 争 の主 要 な部 分 は 解 決 され た。
(2)イ
ソ ドボ パ ー ル の ガ ス 爆 発 事 故(2)
こ の事 件 は 、1984年12月2日
夜 半 か ら3臼 未 明 に か け 、 中央 イ ソ、
ドに位 置 す るマ ドゥヤ ・プ
子 会 社 イ ソ ド ・ユ ニ オ
ラデ ェ シ ュ州都 ボパ ール に お い て 、 ユ ニ オ ソ ・カ ー バ イ ド社(UC)の
ソ ・カ ー バ イ ド社(UCIL)の
農 薬 プ ラ ソ トか ら猛 毒 の イ ソ シ ア ソ酸 メチ ル が漏 出 し、 付 近 の
人 が死 亡 し、約20万 人 が健 康 被 害 を 受
ス ラ ム地 区 か ら市 内 の 人 口密 集地 区 へ と漂 流 し、 約2千
け た と推 定 され る事 故 で あ る。
1986年5月12日
、 ア メ リカ連 邦 ニ ュー ヨ ー ク南 地 区 裁 判 所 は ボ パ ー ル事 故 被 害 者 のUCに
す る 損 害 賠 償 訴 訟 に つ い て ア メ リカ の 裁 判 管 轄 権 を否 定 した。 つ いで1987年1
対
,月14日、連 邦 第
2巡 回控 訴 裁 判 所 もそ の 判 断 を支 持 した 。
そ れ を 受 け て 、1989年2,月14日
、 イ ソ ド最 高 裁 判 所 はUCと
全 被 害 者 を代 理 す る イ ソ ド中央
政 府 に和 解 を勧 告 し、両 者 が こ れ を受 諾 した 。
イ ン ド側 が な ぜ ア メ リカ の 裁 判 所 へ 訴 を提 起 した か と い うと 、賠 償 資 力 の 乏 しいUCILで
な く、遙 か に大 きな賠 償 資 力 の あ るUCの
は
賠 償 責 任 を 問 う と と もに 、 工 場 か らの 有 害 物 質 に よ
る被 害 に つ い て は 厳 格 責 任 を認 め る ア メ リカ法 の も とで 有 利 な判 決 を 得 る こ と に あ った 。
原 告 側 の イ ン ドは 、 一 体 的 多 国 籍 企 業 と して のUCILの
支 配 を通 じて 、UCは
子 会社 の行 為
に つ いて 責 任 を 負 うべ き で あ り、 そ の 責 任 に 関 す る証 拠 は 企 業 上 の決 定 の 中 心 地 で あ る ア メ リ
カ に 存 在 す るか ら、 本 件 に つ い て は米 国 の裁 判 権 行 使 が 認 め られ るべ きで あ る と主 張 した 。
し か し、 本 件 を 併 合 して 審 理 した 連 邦 地 裁 は 、 フ ォ ー ラ ム ・ ノ ソ ・ コ ン ヴ ィ ニ エ ソ ス
(fonlmnonconveniens)の
法 理 の適 用 に よ り、 本 件 は イ ソ ドの 裁 判 所 で 審 理 す べ き もの と
判 断 し、 米 国 は そ の裁 判 管 轄 権 の行 使 を控 え るべ き もの との 却 下 の決 定 を行 っ た。
そ の 際 、連 邦 地 裁 は3つ
権 に服 す る こと 、第2に
3に 、UCは
の 条 件 を決 定 した。 す な わ ち 、 第1に
、UCが
、 イ ソ ドの 裁 判 管 轄
、 同 社 は米 国 運 邦 民 事 訴 訟 に基 づ く証 拠 開 示 手 続 を 遵 守 す る こ と 、第
イ ソ ド裁 判 所 の 判 決 ・決 定 を履 行 す る こ とで あ る。 また 、 そ れ は 連 邦 控 訴 審 で も
25
支 持 され た。 そ して 、地 裁 で 付 け られ た3条 件 の うち 、UCが
イ ソ ドの裁 判 管 轄 権 に 服 す る と
い う条 件 に よ って 、 イ ソ ドで裁 判 が 行 わ れ る こ と に な った 。
本 件 は1989年2月14日
、 イ ソ ド最 高 裁 の和 解 命 令 を 受 け て 、UCが
補 償 金 を支 払 い 、 決 着 を
み た。
親 会 社 本 国 で の裁 判 管 轄 権 行 使 は 実 現 され な か った もの の 、 親 会 社 は 、 自国 の裁 判 所 の 付 し
た条 件 に基 づ き、 イ ソ ドの 裁 判 管 轄 権 に 関 す る 限 り、 法 人 格 独 立 性 の 主 張 に よ っ て は これ を 回
避 す る こ と がで きな:かった 。
ち な み に 、UCは
、 子 会 社 で あ るUCILに
対 して50.9%の
株 式 を保 有 して い た が 、 子 会 社 は
1934年 に設 立 され て 以 来 、 爆 発 事 故 を起 こす ま で の50年 間 、 あ る程 度 自律 的 に操 業 さ れ て い た
こ とが 認 め られ る。 例 え ば 、 米 国 人 従 業 員 は 操 業 準 備 が完 了 した1982年 以 降 、 ボ ノく一 ル 工 場 で
は働 い て い な い こ と、 同 工 場 の設 計 に つ い て も、UCは
基 本 デ ザ イ ソ を 移 転 した の み で 、 実 際
の工 場 建 設 はUCI:Lの 管 理 下 で な され た こ と、 さ ら に 、 この 事 故 の 原 因 は 、 従 業 員 の 安 全 規 則
に違 反 す る操 作 に よ る人 為 的 な ミスで あ る こ と 、 な ど が指 摘 され て い る。
(3)マ
レー シ アARE事
件(3)
マ レー シ ア ・エ イ シ ア ソ ・レア ・ア ー ス(ARE)社
た現 地 法 人 で あ る。ARE社
は 、 三 菱 化 成 が35%出
は テ レビ な どの 蛍 光 体 に 使 わ れ る希 土 類(レ
資 して 設 立 され
ア ・ア ー ス)を
モナ
ザ イ ト鉱 石 か ら抽 出 して い た 。 こ の 希 土 の 抽 出後 のi残土 と して 、 ト リ ウム232と い う放 射 性 物
質 を14%含
む廃 棄 物 が 多 量 に 発 生 す る。 この 廃 棄 物 をARE社:は
、工 場裹 の池等 に不法投 機 し
て い た。
これ に つ い て 、 住 民 は この よ うな ず さん な 放 射 性 廃 棄 物 の投 棄 に よ って 、 周 辺 住 民 の 健 康 被
害 が発 生 した と して 、ARE社
の操 業 停 止 と損 害 賠 償 を 求 め て 裁 判 所 に提 訴 した 。1992年7月
、
イ ポ ー 州高 裁 は 、 住 民 の訴 え を 認 容 した が 、1993年12月 最 高 裁 で は 、訴 え を棄 却 した 。
高 裁 は 、英 米 法 の ネ グ リジ ェ ソス(過 失)不
イ ベ ー ト ・ニ ュー サ ソ ス を用 い て 、ARE社
法 行 為 、 ライ ラ ソ ズ対 フ レ ッチ ャ ー法 理 、 プ ラ
の廃 棄 物 管 理 に は 過 失 が あ っ た が 、 直接 損 害 の 証
拠 が な い の で ネ グ リ ジ ェ:ソス(過 失)不 法 行 為 は成 立 しな い が 、 他 の2つ の 法 理 に よ って 、 操
業 を差 し止 め られ る と した。
しか し、 最 高 裁 は 、 高 裁 がARE社
ARE社
の従 業 員 の不 正 操 作 に関 して 事 実 誤 認 を した こ と、 ま た 、
は 、 原 子 力 許 可 法 に基 づ き、 通 産 省 と原 子 力 許 可 委 員 会 の 発 布 した 免 許 に よ っ て 操 業
して い るの で 、 監 督 庁 に免 許 の 取 消 を させ る の は原 告 た ち がす べ き こ とで あ る と判 示 した 。
こ れ らの 判 決 は 、ARE社
50%に
の親 会 社 に責 任 を追 求 して は い な い が 、ARE社
の よ う に 出資 率 が
満 た な い場 合 で あ って も、 人 事 や 経 営 上 の ノ ウハ ウ等 を通 じて 、 あ るい は 、工 場 の 設 計
や 運 用 ・技 術 ・原 材 料 の調 達 や製 品 の 販 売 とい っ た種 々 の 面 で 、親 会 社 に よ る経 営 上 の 実 効 的
な 支 配 関 係 が仮 に認 め られ 、 か つ 、 そ の支 配 関 係 に基 づ い て 一 定 の 指 示 が 行 な わ れ て い た 結 果
と して 、 主 張 され た よ うな住 民 の被 害 が立 証 され た な らば 、 この親 会 社 に 対 す る法 的 責 任 追 求
の 可 能 性 も考 え られ な い わ け で は な い 。 も っ と も 、 本 件 に つ い て は 、 マ レー シ ア最 高 裁;が1993
年12月23日 の 判 決 でARE社
に よ る不 法 行 為 の存 在 自体 を認 容 しな か った の で 、 親 会 社 の 責 任
問題 まで 進 展 す る こ と は な か っ た。(4)
26
(4)ア
モ コ ・カ ジ ス号 事 件(5)
本 事 件 は ・ 大 型 タ ソ カ ー アモ コ ・カ ジ ス号 が1978年3月
フ ラ ソ スの ブル ター ニ ュ海 岸 付 近 で
座 礁 し、 そ の 結 果 約23万 トソの 原 油 が 流 出 して フ ラ ソ ス に多 大 な 損 害 を与 えた 事 件 で あ る。
ア モ コ ・カ ジ ス 号 の 名 目的所 有 者 は アモ コ ・ トラ ソ ス ポ ー ト(リ ベ リアの 法 人)で
実 質 的 所 有 者 は 、 親 会 社 の ス タ ソ ダ ー ド石 油 会 社(米
あ るが 、
国 イ リ ノイ 州法 人)で あ った 。
本 件 の場 合 、 油 濁 損 害 に つ い て の 民 事 責 任 に関 す る1969年 の ブ ラ ッセ ル 条約9条
に よ る と、
管轄 裁 判 所 は 、 被 害 地 す な わ ち フ ラ ソ ズ の裁 判 所 と な る。 しか し、 この条 約 で は 責 任 限度 額 が
少額 で あ っ た た め 、 原 告 で あ る フ ラ ソ ス は 、 ブ ラ ッセ ル条 約 に参 加 して い な い 米 国 の 裁 判 所 、
つ ま り被 告 ス タ ソ ダー ド ・グル ー プ の本 拠 地 で あ るイ リノイ 州 の 連 邦 裁 判所 に訴 え を 提 起 した 。
連 邦 地 裁 は、 米 国 の海 事 裁 判 管 轄 権 に基 づ き、 可 航 水 域 に お け る不 法 行 為 と して 、 そ の管 轄
権 を容 認 した 。 また 、 ア モ コ ・カ ジス 号 の 建 造 に あ た っ た ス ペ イ ソの ア ス テ ィエ ロス 造 船 会 社
に対 す るス タ ソ ダー ド側 の 求償 権 に 関 す る訴 訟 に つ い て も、被 告側 か ら出 され た フ ォー ラ ム ・
ノ ソ ・ユ ソ ヴ ィニ エ ソ ス の 申 立 を排 して 、 イ リ ノイ 州 の ロ ソ グ ・アー ム ・ス タ チ ュ ー トの 適 用
に よ り、 同裁 判 所 の管 轄 権 行 使 が認 め られ た。 この 事 件 で は 、 ア メ リカの 裁 判 所 は 、企 業 の一
体 性 を根 拠 に 真 正 面 か ら親 会 社 本 国 で の裁 判 管 轄 を認 め た 。
アモ コ ・カ ジ ス号 の名 目的 所 有 者 で あ る トラ ソ ス ポー トや 、 そ の運 航 を担 当 して い た ア モ コ・
イ ソ タ ー ナ シ ョ ナル は い ず れ も、 ス タ ソ ダ ー ド石 油 会 社 が そ の 株 式 の100%を
保 有 す る子 会 社
で あ るば か り.でな く、 日常 的 な 業 務 遂 行 に お い て 、親 会 社 と子 会 社 の間 の垣 根 は全 くな い とい
う状 態 で あ っ た の で 、 裁 判 所 は 「ス タ ソ ダー ド石 油 会 社 が そ の 子 会 社 で あ るア モ コ ・イ ン ター
ナ シ ョナル お よび トラ ソス ポ ー トに対 して 、 これ ら が単 に ス タ ン ダ ー ドの下 部 組 織 に す ぎな い
と見 な さ れ る よ う な形 で コ ソ トロ ー ル を行 使 して い た 」 と認 定 した 上 で 、厂石 油製 品 の 生 産 ・
運 送 ・販 売 を 系統 的 に子 会 社 を通 じて 行 う統 合 され た多 国籍 企業 と して …
ス タ ソ ダー ドは 、
そ の 子 会 社 の 不 法 行 為 に つ い て 責 任 を 負 う」 と判 示 した 。
ア モ コ ・カ ジ ス 号 に つ い て も、 そ の設 計 ・建 造 ・運 用 ・維 持 ・修理 ・船 員 訓 練 な どす べ て の
側 面 に つ い て 、 ス タ ソ ダ ー ドが 直 接 関 わ って い た こ とが 証 明 され て い るほ か 、 同 船 の操 舵 機 関
が 故 障 して か ら座 礁 ・大 破 す る まで の9時 間 余 の 間 、 船 長 は継 続 的 に シカ ゴの ス タ ソ ダー ドの
事 務 所 と無 線 で 連 絡 を と っ て指 示 を受 け て い た。
そ う した観 点 か ら、 本 件 で は 、 ア モ コ ・カ ジ ス号 の 油 濁 損 害 に対 して ス タ ソ ダー ド石 油 会 社
は親 会 社 と して 賠 償 責 任 を負 う もの と され た 。(6)
(5)法
人 格 否 認 の法 理
上 記 一 連 の事 件 で は 、親 会 社 や子 会 社 の 民 事 責 任 の追 求 の み が な さ れ 、親 会 社 の本 国 の 責 任
は問 わ れ る こ とが な か っ た 。 ま た 、親 会 社 の 責 任 を追 及 す る こ と に よ って 、 子 会 社 だ け で は ま
か な い きれ な か った 賠 償 額 を取 ろ う と した。 そ こで 、 使 わ れ た 理 由付 け は、 法 人 格 否認 の 法 理
で あった。
そ こで 、 法 人 格 否 認 の 法 理 が 多 国籍 企 業 の活 動 に よ っ て 生 じた 環 境 損 害 に ど の よ うに 関 わ っ
て い る か を 以 下 み て い く。
法 人 格 否 認 の法 理 は 、 ア メ リカ法 や ドイ ツ法 に お い て 発 展 して きた 法 理 で あ り、 実 効 的 な経
営 支配 の 有 無 を基 準 と して 親 会 社 と子 会 社 と を別 々 の法 人 と 見 な い で 、子 会 社 の 法 人 を否 定 し、
子 会 社 は親 会 社 と一 体 の 法 人 と して 扱 う と い う考 え 方 で あ る。
27
多 国 籍 企 業 の 関 わ る環 境 損 害 につ いて 見 る と、 そ れ が 直 接 に は子 会社 の 行 為 に起 因 す る もの
で あ って も、 親 会社 がそ の資 本 所 有 ない し経 営 支 配 を前 提 と して 、具 体 的 な行 為 や措 置 を と っ
た こ と が損 害 の発 生 に寄 与 して い る場 合 に は会 社 法 人 格 否 認 の 法 理 を適 用 して 、 親 会 社 の 責 任
を追 及 して い くこ とが で き る こ と に な る。(7)
村 瀬 教 授 は 、 最 近 は子 会 社 の地 位 をsubstantiallyownedcorporationと
関 係 で捉 え る よ り も、effectivelycontrolledcorporationと
して 、 資 本 の 所 有
して 、 実 効 的 な 経 営 支 配 の 有 無 を
基 準 と して 重 視 す る こ と ゐミ多 くな って い る と し、環 境 損 害 に関 わ る企 業 活 動 に つ い て は 、特 に
この後 者 の 面 が 問題 と な る と述 べ る。(8)
さ ら に、 同氏 は 、 企 業 責 任 の 捉 え方 と して 、 多 国 籍 企 業 に お け る会 社 間 の 結 合 関 係 だ け で捉
え られ る か(状 態 規 制 説)、 親 会社 が 具 体 的 な加 害 行 為 に 加 坦 して い る こ との 証 明 を 必 要 と す
るか(行 為 規 制 説)が
問 題 とな るが 、環 境 被 害 の場 合 、後 者 の 法 的 構 成 を 要 求 す る こ と は 、被
害 者 保 護 の 観 点か ら困 難 で あ る と して い る。(9)
そ して 、 立 法 論 と して は 、被 害者 保 護 の 観 点 か ら、 少 な くと も大 規 模 な 環 境 損 害 事 件 の場 合
に は 、有 効 な開 示 規 制 や 立 証 責 任 の 転換 等 の特 別 の 手 当 が 求 め られ よ う と述 べ て い る。(10)
ま た 、 同氏 は 、民 事 責 任 の 履 行確 保 の た め に、 大 規 模 災 害 に お い て は 、 セ ヴ ェ ソ、 ボパ ー ル 、
ア モ コ ・カ ジ ス な どの 事 件 の よ うに 、 被 害 者 側 の 国 家 が紛 争 の 当事 者 と して 参 加 して い る こ と
は注 目す べ き こ と で 、 こ の よ うな 国 家 に よ る関 与 が 多 国籍 企 業 に起 因す る大 規 模 環 境 損 害 に つ
い て 、 これ を単 な る 民 事 上 の問 題 か ら、 国 際 法 が 直 接 関 わ る問 題 に転 換 させ て きて い る契 機 に
な って い る と思 わ れ る と言 って い る。(11)
(1)TullioScovazzi、"IndusthalAccidentsandtheyeilofTransnationalCo】
⊂porations"
IntemationalResponsibilityforEnvironmentalH:arm,Graham&Trotman(1991)、pp
397∼403。
村瀬信也
め ぐ って 、
「国 際 環 境 法 に お け る 国 家 の 管 理 責 任 一 多 国 籍 企 業 の 活 動 と そ の 管 理 を
国 際 法 外 交 雑 誌 、 第93巻
(2)Scovazzi、op.citpp403∼413。
第3・4合
併 号 、 国 際 法 学 会(1994)、140頁
ボ パ ー ル 判 決 文 、251LM771、p771。
新美育文
ボ パ ー ル の ガ ス 漏 出 事 故 と 被 害 者 救 済 」 ジ ュ リ ス トNo936(1989・6・15>、84頁
論 文 、134∼135頁
参照。
「イ ソ ド ・
。 村瀬 、前掲
。DavidDembo,WardMorehouse,andLucindaWykle,ABUSE
OFPOWER-SocialPerformanceofMultinationalCorporations:TheCaseof
UnionCarbide一,NewHorizonPress(1990)参
(3)中
川 涼 司 「マ レ ー シ ア ・ARE事
(1993.3)、p53。
照 。
件 イ ポー高裁 判 決 文」鹿 児 島経 済大 学地 域 総 合研 究所
北 沢 義'博 ・小 島 延 夫 ・上 柳 敏 郎
「わ が 国 企 業 の 海 外 活 動 と 環 境 問 題 一
ARE事
件 マ レ ー シ ア 高 裁 判 決 の 教 訓 一 」NBLNo.517、p20。
ARE事
件 に つ い て 一 放 射 性 廃 棄 物 投 棄 事 件 を め ぐ っ て 一 」 法 学 新 報 第13巻
(1997)、283頁
(4)村
。 村 瀬 、 前 掲 論 文 、140頁
信澤 久 美 子
「マ レ ー シ ア
第11・12号
参照
瀬 、 前 掲 論 文 、140頁
(5)Scovazzi、op.cit.pp413∼421。
拙 稿 「海 洋 油 濁 事 故 と 民 事 責 任 一 ア モ コ ・ カ ジ ス 号 事
件 を 通 して 一 」 明 治 大 学 大 学 院 紀 要 第25集(1)、1988、129頁
(6)"TheAmocoCadiz",U。S。DistrictCourt,NorthernDistrictofIllinois
EasternDivision,April18,1984,LIoyd'sLawReports1984,voL2,pp337∼338Q
村 瀬 、 前 掲 論 文 、136頁
28
参照。
(7>村
瀬 、 同138頁
(8)同
、137頁
(9)同
前
(10)同
前
(11)同
、138頁
3.親
会社本国と外国子会社間の関係 を理論 づける考え方
渉 外 事 件 に お け る法 の適 用 に関 す る国 際 法 上 の 基 本 原 則 を宣 言 した1987年 の ア メ リカ対 外 関 係
法 第 三 リス テ イ トメ ソ トに よ る と 、一 般 に 「国 家 が 法 的 規 制 を及 ぼ し う る」基 礎 と して 、 す な わ
ち 、 国 家 管 轄 権 行 使 の 基 礎 と して 、属 地 主 義 、効 果 主 義 、 国 籍 主 義 、 保 護 主 義 を 挙 げ て い る。
リス テ イ トメ ソMO2条
で は 厂(1)国
轄権 を 有 す る 」 と して 、 「(a)す
家 は 、403条 の 制 限 の 下 で 、 次 の 事 項 に つ き規 律 す る管
べ て の 又 は 主 要 な部 分 が領 域 内 で な され る行 為 、(b)領
に所 在 す る人 の 身 分 又 は領 域 内 に 所 在 す る物 に 対 す る利 益 、(c)領
域内
域 外 で な され る行 為 で あ っ
て 、 領 域 内 で そ の 実 質 的 効 果 を生 じて い る も の 、又 は そ の よ うな効 果 を生 じ る こ とを 意 図 した も
の」(1)と 規 定 して い る。 これ らは 、 属 地 主 義 に よ る管 轄 権 の 行 使 を述 べ て お り、 と り わ け 、C
項 は 、 効 果 主 義 と言 わ れ る。
つ い で 、(2)で
は 、 「領 域 内外 に お け る 自国 民 の行 為 、利 益 、 身 分 又 は 関 係 」 と い う国 籍 主 義
を規 定 し、(3)で
、 「自国民 以外 の 者 に よ る領 域 外 の行 為 で 、 自国 の安 全 又 はそ の他 の 限 られ た
種 類 の 国 家 利 益 の侵 害 に 向 け られ た もの 」 とい う規 律 管 轄 権 の 特 別 な基 礎 と な る保 護 主 義 を述 べ
て い る。(2)
しか し、 これ らの国 家 に よ る管 轄 権 の 行 使 は 相 当性 の原 則 に 従 わ な け れ ば な ら ない こ とに な っ
て い る。 人 又 は 行 為 に対 す る管 轄 権 の 行 使 が 相 当で あ る か ど うか を判 断 す る要 素 と して 、403条
2項 に は8つ の 要 素 が挙 げ られ 、 す べ て の 関 連 す る要 素 を事 案 に 応 じて 斟 酌 す る こ と に よ り決 定
す る と して い る。(3)そ れ は 、
(a)行
為 と、・
そ れ を規 制 す る 国 家 の 領 域 との 結 びつ き、 す な わ ち、 行 為 が 国 家 の 領 域 内 で な
さ れ る程 度 、 又 は行 為 が領 域 に 対 し、若 し くは領 域 内 で実 質 的 、 直 接 的 か つ 予 見 可 能 な 効
果 を 生 ぜ しめ る程 度 、
(b)国
籍 、 居 所 又 は経 済 的 活 動 の よ うな 、規 制 す る国 家 と規 制 され る行 為 に主 と して 責 任 を
負 う人 との 関 連 、 又 は 国 家 とそ の 規 制 に よ り保 護 され る べ き人 との 関 連 、
(c)規
制 され る行 為 の 性 格 、 規 制 す る国 家 に と って そ の 規 制 が 有 す る重 要 性 、他 国 が そ の 行
為 を規 制 す る程 度 、 及 びそ の規 制 が 一 般 に望 ま しい と して受 け 入 れ られ る程 度 、
(d)そ
の規 制 に よ って 保 護 さ れ 、又 は 損 な わ れ る正 当 な期 待 の存 在 、
(e)そ
の規 制 が 政 治 的 、 法 的 又 は経 済 的 な 国際 秩 序 に と って 有 す る重 要 性 、
(f)そ
の規 制 が 国 際 秩 序 の 伝 統 と一 致 して い る程 度 、
(g)他
国 が そ の 行 為 を規 制 す る こ とに 対 して有 す る利 害 関 係 の程 度 、
(h)他
国 の規 制 と抵 触 す る蓋 然 性 、 で あ る。
さ ら に、(3)で
は 「2つ の 国 家 が と もに 人 又 は 行 為 に対 して 管 轄 権 を 行 使 す る こ と が 不 相 当
とは い え な い場 合 に お い て 、 これ らの 国 家 に よ る規 律 が互 い に抵 触 す る と きは 、 い ず れ の 国 家 も、
前 項 に掲 げ る もの を 含 む す べ て の 関 連 す る要 素 を考 慮 して 、 管 轄 権 を行 使 す る こと に対 して 有 す
29
る 自国 と他 国 の利 益 を 同 様 に戡 酌 す る義 務 を負 う。 国 家 は 他 国 の利 益 が 明 らか に大 きい と きは 他
国 に譲 歩 しな け れ ば な ら な い。」 と規 定 して い る。
これ ら の リス テ イ トメ ソ トを ふ ま え て属 地 主 義 、 属 人 主 義 、効 果 主 義 の考 え を 以 下述 べ る ζ と
とす る。
(1)領
域 主 権 に基 づ く管 理 責 任 の 考 え 方 に よ る理 論 付 け
私 人 の行 為 に つ い て は、 そ の私 人 が所 在 す る領 域 国 に 管 理 責 任 が 課 され る。 これ は 、 トレイ ル
熔 鉱 所 事 件 仲 裁 判 決 で 述 べ られ た 、 「事 態 が重 大 な 結 果 を伴 い 、 か つ 、 煤 煙 に よ る侵 害 が 明 白で
確 信 的 証 拠 に よ り証 明 され る場 合 に は 、 い か な る国 も、 他 国 の領 域 ま た は そ こに 在 る人 命 と財 産
に対 して この種 の 侵 害 を与 え る よ うな方 法 で 、 自国 の 領 域 を使 用 しま た は そ の使 用 を許 す権 利 を
もた な い」 と い う今 日で は確 立 して い る原 則 で あ る。 これ は 、領 域 内 の私 企 業 に よ る重 大 な 煤 煙
排 出 を黙 認 して い る国 は 、 国 際 法 上 の義 務 の 履 行 に つ き 、 「相 当 の注 意 」 の 欠 如 に よ り 、 国 際 責
任 を負 わ な け れ ば な ら な い こ と を認 め た もので あ り、 い わ ゆ る 「領 域 使 用 の管 理 責 任 」 が 国 家 に
課 され る。
した が って 、私 企 業 の 行 為 に つ い て は 、 そ の私 企 業 が 所 在 す る領 域 国 に注 意 義 務 が課 され る こ
と に な る の で 、私 企 業 が他 国 の 法 人 格 を 得 た場 合 に は 、 私 企 業 の 責 任 は そ の 国 の 領 域 主 権 の 下 に
置 かれ る。 そ れ ゆ え 、 多 国籍 企 業 め子 会 社 は、 法 律 的 に は受 け 入 れ 国 の現 地 法 人 に な っ て い る た
め 、 経 営 支 配 の 中枢 た る親 会 社 の 方 は 、 領 域 原 期 に基 づ く管 理 と責 任 の 国際 法 規 則 の適 用 を 免 れ
る こ と に な:るo(4)
(2)属
人 主 義 の 考 え 方 に よ る理 論 付 け
多 国 籍 企 業 に対 して 、 国 際 法 上 国家 の 管 轄 権 を行 使 す る場 合 の 基 礎 と して 属 人 主 義 と して の 国
籍 主 義 を挙 げ る こ とが で き る。
こ こで は 、外 国 子 会 社 の活 動 に対 して 、 多 国 籍 企 業 の 親 会 社 本 国 は 、 国際 法 上 ど こま で 法 的 規
制 を及 ぼ す こ とが で き る か 、 子 会 社 の 所 在 を基 礎 と して 、 受 け 入 れ 国 は 国 際 法 上 ど こま で 多 国 籍
企 業 の 親 会 社 又 は 統 一 体 全 体 に法 的 規 制 を及 ぼ し う るか 、 が 問 題 と な る。(5)
ア メ リカ の リス テ イ トメ ソ トを例 に 挙 げ てみ よ う。(6)
414条 の(1)は
、「国家 は 第441条 の 定 め に 従 う こ と を条 件 と して 、 自国 の 法 に基 づ い て 設 立
され た 会 社 の外 国 支 店 の 活 動 に関 して 、 限 定 され た 目的 の範 囲 内 で 規 律 管 轄 権 を行 使 す る こ と が
で き る。」 と規 定 し、(2)で
は 、 「国 家 は 、 外 国 法 に基 づ い て 設 立 さ れ た 会 社 が 当該 規 制 国 家 の
国 民 に よ り所 有 又 は 支 配 され て い る こ と を理 由 と して 、 そ の 会 社 の活 動 を通 常 は規 律 す る こ と は
で き な い。 た だ し、 第441条 に従 う こ と を 条件 と して 第403条 に よ り、 国 家 が 限 定 され た 目的 の 範
囲 内 で 関 連 外 国 団体 の 活 動 に 関 して次 の い ず れ か の方 法 に よ り管 轄 権 を行 使 す る こ とは 、 不 相 当
と され な い場 合 が あ る。」 と して 、 「(a)統
一 会 計 、 投 資 家 へ の 開 示 、 又 は 多 国i籍企 業 の 合 同 租
税 申 告 書 の作 成 等 の事 項 に 関 し、 親 会 社 へ の命 令 に よ る方 法 、(b)例
外 的場合 には、次 に掲 げ
る要 素 を含 む す べ て の 要 素 を 考 慮 して 、 親 会 社 又 は子 会 社 に 対 す る命 令 に よ る方 法 ⊥ を挙 げ 、 さ
らに そ の 方 法 と して 、 「(i)そ
の規 制 が 、 管 轄 権 を行 使 す る 国家 の 重 要 な 国 家 利 益 を促 進 す る
た め の計 画 の実 施 に 関 して 持 つ重 要 性 の 程 度 、(五)そ
の規 制 が 一 部 を なす 国 家 の計 画 が 、 外 国
の子 会 社 に もそ の規 制 を適 用 す る こと に よ って のみ 効 果 的 に 遂 行 す る こ とが 可 能 と な る場 合 の そ
の効 果 性 の程 度 、(iii)そ の 規 制 が 、 子 会 社 が 設 立 され た 国 の 法 律 又 は政 策 と抵 触 す る か又 は 抵
30
触 の お そ れ が あ る場 合 の そ の程 度 」 を挙 げ て い る。
本 条 は 、多 国籍 企 業 が一 国 だ け の 国 民 で は な く、 ま た 、 そ の 活 動 は 一 国 の領 域 に 限 定 され な い
と い う意 味 に お い て 、402条 の伝 統 的 な 管 轄 権 の 基 礎 に は そ の ま ま当 て は ま らな い と い う認 識 を
示 して い る が 、他 人 の 所 有 及 び支 配 に よ る連 結 が 国 籍 に よ る連 結 と類 似 して い る と考 え られ るの
で 、 国 家 はや は り国 籍 主 義 の 基 盤 に立 っ て 多 国 籍 企 業 に対 して も規 律 管 轄 権 を行 使 す る こと が で
き る もの と さ れ る。
しか し、 多 国籍 企 業 の 外 国 支 店 と子 会 社 とで は 、親 会 社 国 の管 轄権 行 使 の 程 度 が違 う。
第1項
に よ り、 多 国 籍 企 業 の子 会 社 が 受 入 国 内 で設 立 され て親 会 社 とは別 法 人 に な って い る の
に対 して 、 外 国 支 店 は そ の 必 要 が な い の で そ の 分 、 国籍 を基 礎 と して 親 会 社 国 は外 国支 店 に管 轄
権 を及 ぼ しや す い。
そ れ に 対 して 、 第2項
で は 、 外 国子 会 社 が 当 該 規 制 国 家 の 国民 に よ り所 有 又 は 支 配 さ れ て い る
と い う理 由 で 、 親 会 社 国 が 外 国 子 会 社 の 活 動 に対 して 、通 常 は管 轄 権 を行 使 しえ な い。 子 会 社 が
外 国 で設 立 され 、 そ の 国 の 法 律 の 下 に置 か れ る と い う こ とは 、 親 会 社 の 管 轄 権 の 行 使 を制 限 す る
こ と に な るか らで あ る。
しか し、 受 け 入 れ 国 が外 国 資 本 の会 社 を 自国 の 法 律 の下 に 置 く とい って も、親 会 社 国 の す べ て
の 権 限 を奪 う こ と は で きな い 。 そ れ は 、逆 に 、企 業 も外 国 で 設 立 す る こ と に よ って 親 会 社 国 の す
べ て の 規 制 権 限 か ら逃 れ る こ とは で きな い こ とを 意 味 す る。
i親会 社 国 は、414条(2)で
示 され た 、 輸 出 入 、 外 国 為 替 取 引 ・外 国 へ の 信 用 供 与 、 国 際 投 資
等 国 際 取 引 に 関 す る活 動 に つ い て 、 管 轄 権 を行 使 す る こ とが で き る。
しか し、労 働 関 係 、 衛 生 安 全 に 関 す る行 為 、 また は 、 地 域 的環 境 の 保 護 管 理 等 の よ う な主 と し
て地 域 的 な活 動 に対 して親 会 社 国 は一 般 的 に管 轄 権 を行 使 で き な い こ と に な って い る。
環 境 損 害 の文 脈 か ら言 え ば 、地 域 的 環 境 保 護 に 関 す る子 会 社 の 活 動 に は 親 会 社 国 は管 轄 権 を 及
ぼ し得 ず 、 ま た 、 子 会 社 の 国 際取 引 きに 関 す る活 動 に 限 定 され た 分 野 の み親 会 社 国 が管 轄 権 を行
使 で き る こ と か ら、 国 籍 主 義 を基 礎 と した 親 会 社 国 の 管 轄 権 行 使 は子 会社 が 引 き起 こ した 受 け 入
れ 国 の 環 境 損 害 に 対 して は効 果 あ る対 策 は と れ な い こ ど に な る。
一 方 、 子 会 社 国 に よ る外 国親 会 社 に対 す る管 轄 権 の 行 使 に つ い て は 、414条 の条 文 に は な い が、
そ の注 釈hに
お い て 、 関 連 会 社 間 の 所 有 又 は 支 配 の 結 び つ きを根 拠 と して 、 一 体 化 され た 外 国 の
多 国籍 企 業 に対 す る受 け入 れ 国 の 管 轄 権 行 使 を認 め て い る の で 、 法 人 格 否認 の 法 理 に よ り受 け 入
れ 国 が親 会 社 に 自国 に お け る子 会 社 が 引 き起 こ した環 境 損 害 に対 して 損 害賠 償 を請 求 で き る こ と
に な る。
(3)一
国 の独 禁 法 を域 外 適 用 す る際 に と られ る効 果 理 論
外 国 で の 企 業 行 動 が 自国 の市 場 経 済 に深 刻 な影 響 を及 ぼ す 事 態 が 発 生 して い るか ら、 と りわ け
独 禁 法 の 分 野 で 、 効 果 理 論 に よる域 外 適 用 が な さ れ る。
ア メ リカ で は 、1945年 の ア ル コア 判 決(7)以 来 、効 果 理 論 が定 着 して い る。EUに
おいて も、
1984年 の ウ ッ ドパ ル プ事 件 判 決(8)は 、属 地 主 義 の拡 大 解 釈 を と っ た が 、 限 りな く効 果 理 論 に近
い 考 え方 を 示 した 。
ア メ リカ の 対 外 関 係 法 第 三 リス テ イ トメ ン ト402条 の規 定 に よ る と、 効 果 主 義 とは 、 「領 域 外 で
な され る行 為 で あ って 、 領 域 内 で そ の 実 質 的 効 果 を生 じて い る もの 、 又 は そ の よ うな効 果 を生 じ
る こ と を意 図 した もの 」 と さ れ て い る。
31
そ の 効 果 理 論 の意 味 す る と こ ろ は 、 あ る程 度 以 上 の 競 争 制 限 効 果 を 自国 領 土 内 に生 じ させ る外
国 企 業 の行 為 に 対 して 、 自国 独 禁 法 の管 轄 権 を認 め る こ と に あ る。
独 禁 法 の 域 外 適 用 に つ い て ア メ リカ は 、 域 外 にお け る米 国 独 禁 法 に違 反 す る行 為 が 、 「直 接 に
ア メ リカ市 場 に 効 果 を及 ぼ す こ と を意 図 し、 そ の結 果 実 質 的 な 損 害 を発 生 させ 、 か つそ れ が 予 測
可 能 で あ る」 場 合 に は 、域 外 適 用 が正 当 化 で き る と主 張 して きた 。(9)
域 外 適 用 に つ い て は リ ソ ク とい う考 え 方 が重 要 視 され て い るが 、 そ の理 由 は、 あ る私 人 の 行 為
を い ず れ の 国 が 規 制 す る こ とが 主 権 の相 互 尊 重 や行 為 の 実 効 的 な 規 制 に と って 妥 当で あ るか と い
う問題 で あ り、 そ の 管 轄 を そ の私 人 が属 す る 国家 が 負 うこ と に な る。
奥 脇 教 授 は 、 「も っ と も独 禁 法 以 外 の 分 野 に お い て 、 少 な くと も 自国 民 が 実 効 的 に支 配 す る企
業 が域 外 の子 会 社 を通 じて 単 に 本 国 の 国 家 法 の公 法 的 規 制 を 回 避 す る だ け で な く、 積 極 的 に これ
を無 効 化 した り、 あ る い は 国 内法 秩 序 を侵 害 す る行 為 を行 な う場 合 に 、 国家 が 何 もで き な い と い
うの は い か に もお か しい。」 「こ う した 「効 果 」 を通 じて 「経 営 意 思 」 の 国 内 法 か らみ た不 当 性
が 明 らか で あ る場 合 に は、 そ の企 業活 動 が 物 理 的 に は 国 家 の領 域 外 で な され て い る に拘 わ らず 、
な お 「土 着 」 の もの で あ り続 け て い る よ う にみ な して 国 内法 を域 外 適 用 す る可 能 性 を完 全 に 否 定
す る こ と は で き な い。」(10)と 述 べ る。 そ して 、例 と して 、 「域 外 で の 活 動 が 国 境 を越 え て 本 国 に
具 体 的 な 環 境 損 害 を 発 生 させ る こ とが 予 見 可 能 で あ るに も か か わ らず に 、隣…
接 国 に子 会 社 を 設 立
して 操 業 を行 な う よ うな場 合 」 を 挙 げ て い る。(11)
しか し、 独 禁 法 の 分 野 で 発 達 して き た効 果 理 論 を外 国 子 会 社 が 受 け 入 れ 国 で 引 き起 こ した環 境
損 害 の問 題 に 当 て は め る こ と がで き るの で あ ろ うか。 前 述 した とお り、 独 禁 法 上 の効 果 理 論 は 自
国 市 場 に効 果 を及 ぼ す こ と を意 図 し、 そ の 結 果 、 自国 に 実 質 的 な損 害 を発 生 させ 、 か つ それ が 予
測 可 能 で あ る場 合 に と られ る こと が そ の 理 論 の 本 質 で あ るの で 、 多 国 籍 企 業 の外 国 子 会 社 が 引 き
起 こ した環 境 損 害 に効 果理 論 を拡 張 した と す る と、 親 会 社 国 に ど の よ うな実 質 的 な 損 害 を発 生 さ
せ る こ と に な る の で あ ろ うか 。
(1)国
際 法 外 交 雑 誌 、第88巻 第5号(1989)、80頁
(2)同
前
(3)国
際 法 外 交 雑 誌 、第88巻 第6号(1990)、60頁
(4)村
瀬 、 前 掲 論 文 、143頁
(5)松
岡博 「多 国 籍 企 業 の 法 的 規 制 」 国 際 経 済 法 第4号(1995)、14∼20頁
(6)国
際 法 外 交 雑 誌 、第89巻 第1号(1990)、83頁
リス テ イ トメ ソ ト441条 は 次 の 通 りで あ る。 「外 国 国 家 強 制 」 「(1)原
則 と して 、 国家 は 、
次 に 掲 げ る作 為 又 は不 作 為 を人 に対 して強 制 す る こ と が で き な い 。(a)他
国の法律若 しく
は そ の者 の 国 籍 国 の法 律 に よ り禁 止 さ れ る行 為 を 当 該 他 国 で 行 な う こ と。(b)他
国 の法律
若 し くは そ の者 の 国 籍 国 の 法 律 に よ り強 制 され る行 為 を 当 該 他 国 で 行 な わ な い こ と。(2)
原 則 と して 、 国 家 は、 自国 内 で 、 次 に 掲 げ る作 為 又 は不 作 為 を外 国 国 籍 を有 す る者 に対 して
強 制 す る こ と が で き る。(a)あ
る行 為 が そ の者 の 国 籍 国 の 法 律 に よ り禁 止 され て い る場 合
で あ って も、 そ の 行 為 を行 な う こ と。(b)あ
る行 為 が そ の 者 の 国 籍 国 の 法 律 に よ り強 制 さ
れ て い る場 合 で あ って も、 そ の行 為 を 行 な わ な い こ と。」 国 際 法 外 交 雑 誌 第89巻 第3・4号
(1990)、146頁
(7)米
国 企 業 とカ ナ ダ企 業 が米 国 外 に お い て 結 成 した 米 国 市 場 向 け の カ ル テ ル に関 して 、 米 国
32
独 禁 法(反
トラ ス ト法)を
カ ナ ダ企 業 に適 用 す る こ と を認 め た判 決 。 この 判 決 以 後 、米 国 の
裁 判 所 と政 府 機 関 は 、 効 果 主 義 に よ る域 外 適 用 を 一 貫 して 実 施 して きて い る。 小 原 喜 雄 厂域
外 管 轄 権 の 不 当 な行 使 の 抑 制 方 法 と して の抵 触 法 的 ア プ ロー チの 意 義 と限 界 」 国 際 法 外 交 雑
誌 第88巻 第4号(1989)、10頁
。 滝 川 敏 明 「独 禁 法 の 域 外 適 用 一 摩 擦 要 因 と調 和 へ の展 望一 」
国際 経 済 法 第2号(1993)、3頁
(8)域
外 国(北
欧 と米 国)の 企 業 がEC域
が域 内 に 存 在 しな か った の で 、EC委
内 へ の輸 出価 格 を協 定 した 事 件 。 子 会 社 な どの 拠 点
員 会 は初 め て 効 果 主 義 の み を 根 拠 と して域 外 企 業 に競
争 法 を適 用 した 。 この委 員 会 決 定 がEC裁
用 の合 法 性 をEC裁
判 所 に上 訴 され 、委 員会 の 効 果 主 義 に よ る域 外:適
判 所 が審 査 す る こ と に な った 。EC裁
判 所 判 決 は 委 員 会 決 定 を支 持 した
が 、 効 果 主 義 で は な く、 属 地 主 義 の 拡 大 した解 釈 をそ の 根 拠 と した。 しか し、EC裁
判所判
決 は 、 域 外 企 業 が域 内 に 直接 輸 出 して い る場 合 に は 、 常 に「協 定 を 域 内 で 実 行 した 」と見 な せ
る との基 準 を示 した もの で 、 そ の 意 味 で は属 地 主 義 とは 言 って も、 限 りな く効 果 主 義 に 近 い 。
滝 川 、 前 掲 論 文 、5頁 。
(9)奥
脇 直 也 「企 業 の 国 際 的 事 業 展 開 と地 球 環 境 保 護 」 国際 経 済 法 第4号(1995)、80頁
(10)同
、82頁
(11)同
前
4.国
際 環 境 保 全 の 観 点 か ら見 た 多 国 籍 企 業 の 活 動 の 規 制
(1)ス
トッ ク ホ ル ム人 間 環 境 宣 言 と国 家 の 「管 理 責 任 」
最 近 、 親 会 社 の 企 業 責 任 を 、 さ らに 何 らか の形 で 、 そ の 本 国 が 、 国 際 法 上 の 国 家 の 責 任 に お い
て 保 証 して い くの で な け れ ば 、企 業 責 任 の履 行 を 確 保 す る こ とは 困 難 だ と指 摘 され て い る。 海 外
に お け る企 業 活 動 に つ い て も、 受 け 入 れ 国 の 国 内法 制 が不 充 分 な場 合 が 多 い とい うこ と もあ って 、
や は り親 会 社 の 本 国 が 現 地 の 子 会 社 に対 して 何 らか の規 制 を及 ぼ す よ う求 め られ て お り、 しか も
そ れ は 国 家 の 国 際 法 上 の 義 務 と して捉 え る べ き もの と も主張 され て い る。(1)
そ う した 主 張 の 根 拠 の 一 つ と して挙 げ られ て い るの が 、 ス トック ホル ム人 間 環 境 宣 言 原 則21で
あ る。 そ こ に は 、 「各 国 は 、 自国 の管 轄 権 ま た は 誉 理 の 下 の 活 動 が、 他 国 ま た は 自国 の 管 理 の 外
の 区 域 の環 境 に損 害 を与 え な い よ う確 保 す る 責 任 を負 う。」 と定 め て い る。
この 規 定 の 中 の 「管 轄 権 ま た は管 理 」 と い う文 言 に 対 して 、 本 来 、「管 轄 権 」 とは 領 域 的 管 轄 権
を指 し、 「管 理 」 と は 、 船 舶 の旗 国 や 航 空 機 の登 録 国 な どの場 合 の 属 人 的 管 轄 権 を指 す もの と考
え られ て きた が 、 最 近 、「管 理 」 の概 念 が 「事 実 上 の実 効 的 管 理 」 を 含 む 形 で 拡 張 され て きて い
る。 そ して 、 今 日 で は 、「管 轄 権 」 と と も に 「管 理 」 も 国家 の保 証 責 任 の 「独 立 か つ充 足 的 な基
礎 」 と して 捉 え られ る よ うに な って きて い る。 そ こ か ら、 多 国 籍 企 業 の親 会 社 国 が、 外 国 子 会社
に対 す る 「管 理 」 の実 効 性 を 根拠 に、 保 証 責 任 を 負 う方 向性 が認 め られ る。(2)
(2)無
差別原 則
無 差 別 原 則 と は 、 「国 家 は 、 単 に そ の領 域 内 で 他 国 の 環 境 に有 害 と な る活 動 を抑 止 す る とい う
消 極 的 な 義 務 を 負 うだ け で は な く、 この 活 動 の結 果 と して他 国 に生 ず る お そ れ の あ る環 境 上 の危
険 と侵 害 に つ い て 、 こ れ を 内 国 で 生 ず る も の と 同等 に扱 う積 極 的 な義 務 を負 う」(3)と い う もの
で あ る。
33
具 体 的 な内 容 と して 、① 他 国 に お い て 不 法 妨 害(ニ
ュ ー サ ソス)を 生 じ させ る よ うな活 動 に対
して は 、 国 の 許 可 を要 す る こ と と し、 国 内 に お い て 適 用 さ れ るの と同 一 の規 準 で 行 政 的 に規 制 す
る こと 、② 域 外 の外 国 人 被 害 者 の権 利 を 保 護 す るた め 、 行 政 手 続 上 の 当事 者 適 格 や 出 訴 資 格 を平
等 にみ とめ る こ と(4)な ど が挙 げ られ て い る。
無 差 別 原 則 を最 初 に 明記 した条 約 は 、1976年 に 発 効 した北 欧環 境 保 護 条 約 で あ る。
同条 約2条
に は 、「環 境 上 有 害 な活 動 を許 認 可 し得 る か 否 か 考 慮 す る に際 して 、 か か る活 動 が
他 の締 約 国 内 に惹 き起 こす か又 は そ の お そ れ の あ る ニ ュ ー サ ソス は 、 当該 活 動 が 行 われ る国 に お
け るニ ュ ー サ ソ ス と同 等 の もの と して扱 わ れ な け れ ば な ら な い。」 と、 無 差 別 原 則 を導 入 して い
る。
こ れ は 、 「各 国 内法 が 定 め る環 境 保 護 基 準 の 同 一 化 とそ の適 用 の 均 等 化 を は か る と と も に 、域 外
の 外 国 人 被 害 者 に対 して 、 行 政 手 続 上 の 当 事 者 適 格 や 出 訴 資 格 を 平 等 に認 め よ うとす る もの で あ
る」。(5)
結 局 、 越 境 環 境 損 害 を 防 止 し救 済 す るた め の解 決 方 法 と して 、 無 差 別 原 則 は 、 「国家 間 の請 求
提 起 を介 す る こ と な く、被 害 者 個 人 に 対 して 直 接 に 汚 染 者 負 担 原 則 の 実 現 を 保 障 す るた め の 、 国
内 司 法 ・行 政 レベル に移 行 した解 決 方 式 」 で あ る。(6)
越 境 損 害 に 関 す る第 一 次 的 な責 任(liability)に
つ い て 、 「これ を 国 際 法 主 体 と して の国 家 に
で は な く当該 の 原 因活 動 ・産 業 の運 用 管 理 者 に帰 属 させ 、 国 内法 上 で 直接 に そ の責 任 を追 及 す る」
(7)方 が実 質 的 な解 決 方 法 で あ り、 そ の た め に は 、無 差 別 原 則 を導 入 す る こ とが 必 要 と な る。
しか し、 同原 則 は こ れ まで の と こ ろ 、「環 境 保 護 に 関 す る共 通 の 歴 史 的 な基 礎 に基 づ く国 内 法
制 を もつ 国相 互 間 で 、 特 定 地 域 に限 定 して 適 用 され る場 合 が 多 く、 な お普 遍 的 に適 用 さ れ る 国 際
法 の構 成 部 分 に な って い る とは い い 難 い」(8)と い うの が現 状 で あ る。
1974年 のOECD越
て(a)越
境 汚 染 原 則 勧 告 の 附 属 書 に も無 差 別 原 則 が述 べ られ て い るが 、 そ の 内容 と し
境 汚 染 者 は 、 自国 内 で適 用 され る の と同 等 の厳 しさの 実 定 法 規 に服 す る こ と、(b)
越 境 汚 染 に 適 用 され る基 準 は 、 自国 内 で許 され る汚 染 レベ ル を越 え な い こ と 、(c)汚
染 者 負担
の原 則 を採 用 す る国 は 、 そ の原 則 を 自 国 ・他 国 の いず れ を汚 染 した か を問 わ ず 、 す べ て の者 に適
用 す る こ と、(d)越
境 汚 染 の被 害 者 は 、 相 手 国 内 の被 害 者 よ り不 利 に扱 わ れ な い こ と、が 挙 げ
られ て い る。(9)
村 瀬 教 授 は、 無 差 別 原 則 が一 般 国 際 法 上 の 原 則 と して 確 立 して い け ば 、 国 内環 境 法 の 域 外 適 用
が正 当 化 され るば か り か、 む しろ 国 家 の義 務 と して 観 念 され て い くだ ろ う し、「少 な く と も 、 多
国 籍 企 業 に よ る環 境 破 壊 に つ い て 、 自 国 が 実 効 的 管 理 を 及 ぼ し うる に も関 わ らず 適 切 な措 置 を と
らず 、 そ の た め に大 災 害 を引 き起 こ した とい うよ うな場 合 に は、 国家 は そ の 不作 為 につ い て 、責
任 を負 う こ と に な り う る」 と述 べ る。(10)
さ らに 、 最 近 で は 、 途 上 国 企 業 も国 際 的 な 生 産 工 程 規 制 を受 け る よ うに な って きて い るの で 、
環 境 基 準 の 均 等 化 、 す な わ ち無 差 別 原 則 の基 盤 が 徐 々 に 整 備 され て きて い る とみ て い る。(11)
そ れ で は 、 こ の無 差 別 原 則 を外 国 子 会 社 の活 動 か ら生 じた 環 境 損 害 事 件 に そ の ま ま当 て は め る
こ とが で き るで あ ろ うか 。
無 差 別 原 則 に よ っ て外 国 子 会 社 の活 動 の結 果 生 じた環 境 損 害 に、 親 会 社 の 本 国 法 、 と りわ け 国
内環 境 法 が 受 け 入 れ 国 に域 外 適 用 され る こ とは 、 受 け入 れ 国 の 主 権 との 関 わ りで 問題 が残 るd無
差 別 原 則 が外 国 子 会 社 の活 動 の 結 果 生 じた環 境 損 害 に適 用 され る た め に は 、 各 国 に よ る環 境 保 護
に 関 す る共 通 利 害 関 係 の確 保 が 前 提 と な らな け れ ば な らな い の で 、 現 状 と して は外 国 子 会社 の環
34
境 損 害 事 件 に一 般 国際 法 上 の原 則 と して 無 差 別 原 則 を機 能 させ る こと は容 易 で は な い と思 わ れ る 。
た だ し、 司 法 上 の 管 轄 権 と して 、 外 国 子 会 社 受 け入 れ 国 の 被 害 者 が親 会 社 を 訴 え るた め に親 会社
本 国 で訴 訟 を 提 起 で き う る よ うに 当 事 者 適 格 や 出 訴 資 格 を親 会 社 本 国 が認 め る こ とは 比 較 的 容 易
で あ ろ う し、 立 法 上 の 管 轄 権 と して 、 自国 に 親 会 社 が あ る多 国 籍 企 業 に そ の 外 国 子 会 社 も含 め て
環 境 基 準 を遵 守 させ る こ とは可 能 で あ ろ う。
(3)環
境 と 開 発 に関 す る国 連 会 議(UNCED)の
奥 脇 教 授 は 、UNCEDで
諸 原 則 と域 外 適 用 の 困 難 性
採 択 され た地 球 環 境 保 護 の 諸 原 則 は 、 「環 境 一 般 へ の 危 険 と結 び つ い
た 自国 領 域 あ るい は 自国 民 へ の 悪 影 響 と い う 「効 果 」 と 、原 因行 為者 に 対 す る 「実 効 的 支 配 」 と
を 結 び つ けて な され る公 法 的 規 制 の他 国 領 域 へ の 「域 外 適 用 」 に 関 して 、 こ れ を正 当 化 す るた め
に 必要 な 共通 の 「国 際基 準」 の設 定 を極 め て 困 難 に す る要 素 を 内在 さ せて い る」 とい う。 そ して 、
そ の 要 素 に 「持 続 可 能 な 開 発 」 「共 通 で は あ る が 差 異 あ る責 任 」 「予 防 原 則 」 を挙 げ て い る。(12)
①
持 続 可 能 な開 発
この 概 念 は 、 「将 来 の 世 代 が 自 らの 必 要 を満 た す 能 力 を損 な う こ と な く、 現 在 の世 代 の 必 要 を
充 足 す る よ うな 開 発 」(13)あ るい は 「人 々 の生 活 の 質 的 改 善 を、 そ の 生 活 を 支 え る基 礎 で あ る各
生 態 系 の能 力 の 範 囲 内で 生 活 しつ つ達 成 す る こ と」(14)と 定 義 され る。
この概 念 に つ い て 、 先 進 国 と途 上 国 間 で 共 通 の 認 識 が形 成 され て い る と は い えず 、 ど ち ら か と
言 えば 、先 進 国 は世 代 間 の衡 平 の問 題 と して捉 え る の に対 して 、途 上 国 は、 開 発 の 権 利 の 方 に ウ ェ
イ トが あ る。 この よ うな基 本 的 な認 識 の 上 に立 って 、 ス トック ホル ム人 間 環 境 宣 言 で は そ の 調 整
が 試 み られ て い るが 、 リオ宣 言 で もそ れ は 持 ち越 しに な って い る。 各 個 別 の 条 約 で そ の 国 際 基 準
を 設 定 す る方 向 で 発 展 が見 られ る が 、依 然 と して 、 これ が塗 上 国 に と って 「開 発 」 に傾 い た 概 念
で あ る とす れ ば 、 親 会 社 の 本 国 が外 国子 会 社 に対 して 国 内環 境 規 制法 を 「域 外 適 用 」 す る こ と を
国 際基 準 に よ って 正 当 化 す る余 地 を 当面 小 さ く し、 また 、域 外 適 用 が な され た 場 合 の 国 家 主 権 の
対 立 を深 刻 化 させ る可 能 性 を大 き くす る よ うに思 わ れ る。(15)
②
共 通 で は あ る が 差 異 あ る責 任
地 球 環 境 の保 護 を す べ て の 国 家 が協 力 して 実 現 す る責 任 を持 って い るが 、 同 時 に各 国 の 能 力 に
応 じて 、 また 特 に 開発 途 上 国 の 個 別 の 必 要 お よ び特 別 の 事 情 に十 分 な考 慮 を払 う こ とを 義 務 付 け
る原 則 で あ る。
た と えば 、 気 候 変 動 枠 組 み 条 約 は4条1項
で 「す べ て の 締 約 国 は 、 そ れ ぞ れ 共 通 に 有 して い る
が 差 異 の あ る責 任 、各 国 及 び地 域 に特 有 の開 発 の優 先 順 位 並 び に各 国 特 有 の 目的 及 び事 情 を 考 慮 」
す る こ と に な って い る。 同7項 で は 、 開 発 途 上 国 が 条 約 上 の 効 果 的 な履 行 をで き る か は 、 「先 進
締 約 国 に よ る この 条 約 に基 づ く資 金 及 技 術 移 転 に関 す る約 束 の効 果 的 な履 行 に 依 存 して お り、 経
済 及 び社 会 の 開 発 並 び に 貧 困 の撲 滅 が 開 発 途 上 締 約 国 に と って 最 優 先 の事 項 で あ る」 こ とが 述 べ
られ て い る。
この よ うに 、 条 約 上 は共 通 の責 任 と しつ つ も、 先 進 国 と途 上 国 間 に は画 一 の 国 際 基 準 は存 在 し
な い こ と に な る。 そ の た め 、 この 「共通 で あ る が 差 異 あ る責 任」 の 考 え方 は 、先 進 国 に よ る環 境
規 制 法 の 域 外 適用 を正 当化 す る上 で は大 き な障 害 と な り、 同 時 に、途 上 国 に と っ て は 、 多 国籍 企
業 の 本 国 の 国 内環 境 規 制 法 を押 しつ け られ る こ と に な り う る。(16)
35
③
予 防原則
深 刻 か つ 回 復 不 可 能 な環 境 損 害 を引 き起 こす お それ が あ る場 合 に は 、 科 学 的 に確 実 な 証 拠 が十
分 で な い か ら とい って 、 これ を理 由 に予 防 措 置 を と る こ と を延 期 して は な らな い とい う原 則 で あ
る。(17)
よ り厳 しい 環 境 基 準 を前 も って 実 施 す る こ とは 将 来 の 地 球 環 境 保 全 に プ ラ ス に な る こ とは 当 然
で あ り、 そ の よ うな国 内措 置 を親 会 社 国 が域 外 適 用 して 外 国 子 会 社 の活 動 を規 制 す る こ とは 好 ま
しい こ と で あ る。(18)
しか し、 奥 脇 教 授 は 、 この 原 則 はそ の よ うな積 極 的 な 内 容 を持 って い ない ので は な い か述 べ て 、
む しろ 、 「国 家 が条 約 に よ っ て定 め られ る基 準 の実 施 を 、 原 因行 為 と結 果 発 生 との 相 当 因 果 関 係
が 確 実 か つ 客観 的 に 立 証 さ れ て い な い こ と を理 由 に して 、 サ ボ タ ー ジ ュす る こ と を抑 制 す るた め
の 原 則 で あ り、 自国 が 誓 約 した基 準 を実 施 して い る国 に 上乗 せ の 基 準 の実 施 を要 求 す る もの で は
な い」(19)と い う。
も し、 予 防 原 則 を根 拠 に上 乗 せ 基 準 を域 外 適 用 す る と した ら、 発 展 途 上 国 の 経 済 的 ・社 会 的 な
条 件 を 十 分 に考 慮 す る義 務 に抵 触 す る こ と に な る。(20)
(1)村
瀬 、 前 掲 論 文 、132頁
(2)FrancescoFrancioni,"ExportingEnvironmentalH:azardthroughMultinationaI
Enterprises:CantheStateofOriginbeHeldResponsible?"International
ResponsibilityforEnvironlnentalHarm,p289
(3)山
本草二
(4)同
前 。 村 瀬 、前 掲 論 文 、156頁
(5>村
瀬 、 同156頁
(6)山
『国 際 法 に お け る 危 険 責 任 主 義 』 東 京 大 学 出 版 会(1982)、340頁
本 草 二 、 「無 差 別 平 等 原 則 」 『国 際 環 境 法 の 重 要 項 目 』、 日 本 エ ネ ル ギ ー 法 研 究 所
(1995)、130頁
(7)同131頁
(8)同135頁
(9)畠
山武 道
「国 内 法 の 適 用 に よ る越 境 汚 染 の 規 制 一 米 加 酸 性 雨 紛 争 と 合 衆 国 大 気 清 浄 法 の 適
用 可 能 性 」 『国 際 法 と 国 内 法 』(山 本 草 二 先 生 還 暦 記 念)、488頁
(10),村
(11)同
瀬 、 前 掲 論 文 、156頁
、157頁
同 氏 は ま た 、 ス ト ッ ク ホ ル ム 原 則23や
リ:オ宣 言11原
則 な ど に 「あ る 環 境 基 準 が 先 進 国 に
と っ て は 妥 当 で あ っ て も途 上 国 に と っ て は 不 適 切 で あ り、 不 当 な 経 済 的 ・社 会 的 負 担 を も た
ら す も の と な り う る 」 と 言 及 さ れ て い る よ う に 、 途 上 国 に 無 差 別 原 則 を 一 般 化 して い く こ と
に は 大 き な 障 害 が あ る の は 事 実 だ が 、 他 方 で 、 「多 国 籍 企 業 の 子 会 社 を 受 け 入 れ た 以 上 は 、
そ の 途 上 国 と し て も 、 資 本 所 有 な い し経 営 管 理 と い う機 能 的 結 合 関 係 を 黙 示 的 に 承 認 し て い
る も の と 見 な さ れ る と す れ ば 」、 「機 能 的 リ ソ ク を 基 礎 と し て 無 差 別 原 則 の 適 用 を 主 張 す る
こ と は 、 そ れ な り に 説 得 力 を も つ 議 論 で は な い か 」 と述 べ て い る 。
(12)奥
脇 、 前 掲 論 文 、85頁
(13)『
共 通 の 未 来 』(1988)よ
(14)国
際 自然 保 護 連 合
り
『新 世 界 環 境 保 全 戦 略 』(1992)よ
36
り
(15)奥
脇 、 前 掲 論 文 、86頁
(16)同
、88頁
(17)同
、89頁
(18)同
前
(19)同
前
(20)同
前
5.お
わ りに
多 国 籍 企 業 は今 や 数:の上 で は 少 数 で も、 地 球 的 環 境 危 機 に 対 して 大 きな 責 任 を持 って い る存 在
で あ る。 しか も、 大 気 汚 染 や 有 毒 廃 棄 物 、 安 全 性 に欠 け る生 産 活 動 に従 事 して い る とい わ れ 、 ま
た 、 自国 で は禁 止 され て い る よ うな危 険 な 有 害 物 質 や 生 産 シ ス テ ム を途 上 国 に輸 出 して い る とい
わ れ て い る。
多 国 籍 企 業 は様 々 な規 模 に お い て 巨大 な 存 在 に な っ て い る ので 、途 上 国 に と っ て は 、 自国 で操
業 す る多 国 籍 企 業 を規 制 した り、 コ ソ トロー ル す る こと は 極 め て 困難 に な って い る。 監 視 一 つ を
と って み て も、 そ の 企 業 に対 す る情 報 が な か っ た り、 ま た 公 開 さ れ て い な か っ た り して 不 十 分 な
もの と な る傾 向 が あ る。
そ こで 、 国 際 レベ ル 、 多数 国 間 レベ ル で の 監 視 と規 制 が 多 国 籍 企 業 に は 必 要 で あ る と指 摘 され
る。
多 国 籍 企 業 を規 制 し よ う とい う案 の代 表 的 な も の は 、 国 連 の 多 国籍 企 業 行 動 規 準 で あ る が 、19
92年7月
に非 公 式 に廃 案 とな っ た。 この よ うに 、 現 実 に は 、 多 国 籍 企 業 を 規 制 す る方 途 は 今 の と
こ ろ成 功 して い な い 。
途 上 国 に お け る環 境 汚 染 の 発 生 は 、進 出 企 業 が 環 境 損 害 の 発 生 の 可 能 性 に 関 して十 分 な情 報 を
現 地 政 府 に提 供 しない ま ま許 可 を得 て事 業 を展 開 した こ とが 原 因 の場 合 カミ多 い。 企 業 が 情 報 を独
占 して これ を隠 匿 し、 また 、 そ の企 業 の 本 国 政 府 も調 査 す れ ば そ れ を知 り得 た に もか か わ らず 、
現 地 政 府 に注 意 を 喚 起 しな か っ た こ とが 、 途 上 国 の環 境 に大 き な損 害 を もた らす 結 果 に な るρ
そ こで 、OECDの
行 動 指 針 に は企 業 の情 報 開 示 に関 す る もの が あ る。 しか し、 これ は 、 受 け入
れ 国 の 主 権 を尊 重 す る立 場 か ら、必 要 に 応 じて 国 際 協 力 と して 情 報 提供 をす る とい う こ と にす ぎ
な い 。 わ が 国 の環 境 基 本 法 も この枠 を超 え る もの で は な い 。
このOECDの
多 国 籍 企 業 の行 動 指 針 は 、 先 進 国 は 、 単 に 「ボ ラ ソ タ リー ・ガ イ ドライ ソ」 に す
ぎず 、 強 制 力 を持 っ た文 書 で は な い と主 張 し、 発 展 途 上 国 は これ に 条 約 と類 似 の強 制 力 を与 え る
こ と を主 張 して 対 立 して い る結 果 、 国 家 を拘 束 す る文 書 と な っ て い な い 。
しか も、 これ を 国 内 法 制 化 す る動 き も見 られ な い こ と か ら も、政 府 は 多 国 籍 企 業 の 行 動 指 針 の
実 施 に は 直接 に は 関 与 しない よ うに 思 わ れ て い る。(1)
この よ うに見 て くる と、 多 国 籍 企 業 の行 動 を と りわ け環 境 保 全 の文 脈 に お い て 規 制 す る こ とは 、
現 状 で は 困 難 で あ るの で 、 必 然 的 に 親 会 社 本 国 環 境 法 を 域 外 適 用 す る と い う方 式 に な ら ざ るを 得
な い。
村 瀬 教 授 に よ る と、 親 会 社 国 は 、 属 地 的 管 轄 権 や 本 来 的 属 人 的 管 轄 権 が存 在 しな い在 外 子 会 社
に 対 して域 外 管 轄 権 を 及 ぼ して きて お り、 そ の 例 と して 、1982年 の シ ベ リア パ イ プ ライ ソ事 件 を
挙 げ る。 そ こで は 、 米 国 は米 国 系 の 在 外 企 業 を 自 国 親 会 社 の 「受 動 的 下 部 組 織 」 と認 定 し、 米 国
37
輸 出管 理 法 を域 外 適 用 した 。(2)
さ らに 、 国家 の 事 実 上 の管 理 が 国 家 責 任 の 基 礎 で あ る とす る1971年 の ナ ミビ ア に関 す る勧 告 的
意 見 を取 り上 げ 、 この 勧 告 的 意 見 を 多 国 籍 企 業 に お け る親 会 社 国 に 国 家責 任 に 類 推 して 、親 会 社
国 は外 国 子 会 社 に 対 して 、 事 実 上 これ を実 効 的 に管 理 して い く能 力 や 手 段 を 有 して い る の で あ る
か ら、 こ の よ うな 管 理 の実 効 性 を 基 礎 と して 非 領 域 的 な 機 能 的 リ ソ クを媒 介 とす る責 任 レ ジー ム
が 多 国 籍 企 業 の外 国 子 会 社 に よ る環 境 損 害 に当 て は ま る とす る。(3)
同教 授 は 、 この よ うな国 家 責 任 の 転 換 の 背 景 に は 、 対 象 とな る 「環 境 損 害 」 の 内 容 に 新 た な 要
素 が加 わ った こ とが 指 摘 さ れ る と述 べ る。 す な わ ち 、伝 統 的 な 国 際 環 境 法 の も とで 想 定 され て い
た環 境 汚 染 の形 態 は 「物 理 的 ・自然 的 な媒 体 」 に よ るの もで あ っ た が 、 今 日の 多 国 籍 企 業 に よ る
「環 境 汚 染 」 は 、 そ の 媒 体 が 、親 会 社 か ら子 会 社 へ の経 営 支 配 や 危 険 物 資 の 輸 出 ・有 害 技 術 移 転
な ど、「人 為 的 ・経 営 的 媒体 」 に よ る もの で あ る と い う。(4)
多 国i籍企 業 の親 会 社 と外 国子 会 社 と の紐 帯 は親 会 社 の 子 会 社 に対 す る実 効 的 支 配 関 係 に よ る法
人 格 否認 の法 理 に よ って ほ ぼ解 決 が つ く問 題 で あ ろ うが 、 親 会 社 本 国 と外 国 子 会 社 との 関係 につ
い て は 、 様 々 な理 論 が 展 開 され て い る こ と は前 述 した と お りで あ る。
しか し、 多 国籍 企 業 と い う私 人 の 活 動 を 親 会 社 国 が ど う規 制 して い くか に つ い て は、 子 会 社 受
け入 れ 国 の領 域 主 権 との 関 係 で 難 しい問 題 で あ る。 だ が 、 少 な くと も、 多 国 籍 企 業 の親 会 社 国 は 、
自 国 に あ る親 会社 が 、 そ の実 効 的 に 支 配 す る外 国子 会 社 の引 き起 こ した環 境 損 害 に対 して 、 責 任
を 回避 出 来 な い よ う な法 整 備 を して ℃・く必 要 が あ るだ ろ う。
(1)奥
脇 、 前 掲 論 文 、72頁
(2)村
瀬 、 前 掲 論 文 、144頁
(3)同
、144∼145頁
(4>同
、146頁
(本 稿 は 平 成 ユ0年度 文 教 大 学 国 際 学 部 共 同 研 究 費 に よ る研 究 成 果 の一 部 で あ る。)
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