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友人の気持ちに敏感な人は幸せになれない?
友人の気持ちに敏感な人は幸せになれない? 共感性と主観的幸福感との反比例関係 ○松永昌宏 1・大平英樹 2 (1 愛知医科大学・2 名古屋大学) キーワード:共感性,主観的幸福感 Inverse relationship between empathy and subjective happiness Masahiro MATSUNAGA1, and Hideki OHIRA2 (1Aichi Medical University, 2Nagoya University) Key Words: empathy, subjective happiness 目 的 家族や友人などと良好な人間関係を築いている時,私たちは 幸せを感じやすい(大山,2012)。また,幸せな人たちに多く 囲まれている人は、自身の幸福度が将来的に上昇する確率が 高くなるという(Fowler and Christakis, 2008)。私たち人間に は,他者の内的状態を知り,他者が感じるのと同じように感 じることができる「共感性(empathy)」という能力が備わっ ている。他者のポジティブ感情を共有し, 称賛し, 楽しむ能 力は「positive empathy」と呼ばれるが(Morelli et al., 2014) , 先行研究を踏まえると,positive empathy は私たちの主観的幸 福感を上昇させる可能性がある。一方で,医師や看護師,そ の他の医療従事者の間には「共感疲労(compassion fatigue)」 と呼ばれる現象が多く見られる。患者の苦しみが自身の苦し みとなり,感情的に疲れて燃え尽き,抑うつ症状などを引き 起こしてしまう現象である。他者のネガティブ感情を共有し, 自分も同じ痛みを味わってしまう能力を negative empathy と 名づけるとするならば,negative empathy は私たちの主観的幸 福感を低下させるかもしれない。 そこで本研究では,共感性と主観的幸福感との関係を明ら かにするために,実験心理学的手法を用いて,positive empathy と主観的幸福感との間に正相関が見られるか,negative empathy と主観的幸福感との間に逆相関が見られるかという ことを検討した。 方 法 実験参加者 名古屋大学と愛知医科大学の大学生および大学 院生 25 名(男性 3 名,女性 22 名,平均年齢 21.04 歳,SD = 2.92)。 実験参加者の主観的幸福感は日本語版主観的幸福感尺度 (JSHS)を用いて評価した。 手続き 実験参加者に 1 名ずつ生理心理学実験室(シールド ルーム)内に着席してもらい,心電図計測用電極を両腕に装 着した。その後,心電図を経時的に計測しながら,参加者か ら約 60 cm の距離に置いてあるディスプレイに課題を提示し た。 実験課題 実験参加者の間で友人同士の 2 人ペアを作り,自 分と友人が,2 人同時に同じ出来事を経験した場合を想像さ せた。その際,自分と友人の状況を,①自分ポジティブ/友 人ポジティブ,②自分ポジティブ/友人ネガティブ,③自分 ネガティブ/友人ポジティブ,④自分ネガティブ/友人ネガ ティブの 4 種類とし、⑤中性条件を加えた 5 条件における自 身の気持ちを Visual Analog Scale(VAS)を用いて評価させた (0%(非常にネガティブ)) 100%(非常にポジティブ))。 課題は,場面の説明(2.5 秒),場面の想像(15 秒,上記 5 条 件をランダムに提示),VAS による気分の評価(5 秒),休憩 (10 秒)の流れで提示し,1 条件あたり 10 場面,計 50 場面 を想像させた。 結 果 主観報告 条件①と②,条件③と④では自分の状況は変わら ないはずであるが,条件①~⑤の 25 名の平均 VAS スコアは ①95.9±1.0 (SEM),②63.7±3.1,③12.5±2.6,④12.9±1.7,⑤ 53.2±0.7 であり,①よりも②でポジティブ気分の有意な減少 が見られた。また,③と④との間には有意差が見られなかっ た。 心電図 条件③,④,⑤で場面想像中に有意な心拍数の減少 が見られた。これは,刺激が脅威刺激や低頻度刺激であり, 刺激に対して注意を向けていたことを示すと考えられる。 主観的幸福感との関連 条件①から②の差分 VAS スコアは negative empathy を(差分値が大きいほど自分の気持ちが落ち 込む),条件③から④の差分 VAS スコアは positive empathy(差 分値が正であれば友人が幸せな時に自分も嬉しい)を示すと 考えられるが,両者ともに JSHS と負の相関が見られた(図 1)。 図1.①から②の差分 VAS スコアと JSHS 得点との関連(左) ③から④の差分 VAS スコアと JSHS 得点との関連(右) 考 察 本実験により,主観的幸福感が低い個人ほど,友人が苦しい 状況であれば自分も苦しみ,友人が幸せな状況であれば自分 も幸せであることが示された。ポジティブでもネガティブで も,高すぎる共感性は自身の気持ちを不安定にさせ,結果と して自分の幸福度を低下させるのかもしれない。 引用文献 大山泰宏(2012).何が人を幸せにし何が人を不幸にするのか ―国際比較調査の自由記述分析―,心理学評論,55,90-106 Fowler, J.H., & Christakis, N.A. (2008). Dynamic spread of happiness in a large social network: longitudinal analysis over 20 years in the Framingham Heart Study, The BMJ, 337, a2338 Morelli, S.A., Lieberman, M.D., & Zaki, J. (2015). The Emerging study of positive empathy. Social and Personality Psychology Compass, 9, 57-68.