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わが国の職業性熱中症対策の最近の話題と課題

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わが国の職業性熱中症対策の最近の話題と課題
図
1
図
2
内 容
1. 職業性熱中症の最近の
発生実態
1. 職業性熱中症の最近の発生実態
2. わが国の予防対策の最近の動向
3. 欧米の予防対策の現状
4.予防対策の課題(私見)
1
図
2
3
図
4
業務上疾病発生件数の年次変化
200
9500
実態の記述統計
有害光線
160
9000
140
120
8500
100
80
8000
60
40
電離放射
線
業務上疾病総数(件)
物理的因子による疾病数(件)
180
異常気圧
騒音
振動
熱中症総
数
7500
熱中症死
亡数
20
0
3
図
4
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004
5
図
熱中症の月別発生件数
6
熱中症の発生時間帯
120
60
1995~1998年
100
50
発生件数
Number
of Cases
発生人数
業務上疾
病総数
7000
80
60
40
40
30
20
10
20
0
0
8
5月
6月
7月
8月
9月 5
9
10
11
12
13
14
15
16
17
Time 発生時刻 (時)
of Day (o'clock)
1
18
19
20
21
6
図
7
図
8
熱中症の業種別発生件数
70
60
熱中症発生地点
50
発生件数
1995~1998年
40
30
20
10
建築工事業
土木工事業
その他の建設業
道路貨物運送業
清掃・屠殺業
派遣・警備・測量業
商業
接客娯楽業
農林業
金属製品製造業
輸送機械器具製造業
食品製造業
陸上貨物取り扱い業
化学工業
窯業・土石製品製造業
非鉄金属製造業
一般機械器具製造業
その他の製造業
港湾荷役業
映画・演劇業
繊維製品製造業
木材・木製品製造業
家具・装備品製造業
鉄鋼業
非金属鉱業
鉄道・軌道・水運・航空業
教育研究業
0
7
図
8
9
図
熱中症の作業経験年数別発生件数
熱中症の事業所規模別発生数
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
100
90
1995~1998年
80
60
1995~1998年
発生総数:236人(平成7~10年)
発生件数
Number
of Cases
発生件数
70
50
40
30
20
10
0
1-9
10-
29
30-
9
9
9
99
999
-99
-49
-29
500-2
500
300
100
100
49
Number of Employee in Enterprise
事業所の従業員数
-1
-5
-10
9
-15
-20
-25
-30
-35
-40
図
熱中症の作業日数別死亡者数
-45
10
経験年数 (年)
11
図
12
熱中症の年齢別発生件数
80
25
(平成13年~15年)
2001~2003年
70
20
60
15
発生人数
死亡数 (人)
10
10
発生総数:236人(平成7~10年)
1995~1998年
50
40
30
20
5
10
0
0
1
2
3
4
5
6
作業日数 (日目)
7
8
9
-19
10-
11
2
20-29
30-39
40-49
年齢 (才)
50-59
6012
図
13
図
14
事例 1
多臓器不全(脱水症);66 歳男性、土建業、経験年数 30
年、死亡;気温 34.4℃、湿度 45%、風速 4.6m/s、快晴;7
月6日15時発生
発生事例
鉄製の庇を倉庫の入り口に設置するためにコンクリートで基
礎を造るために穴を掘りコンクリートを入れる時に当日は猛
暑のため作業を休み休み行い休憩時には自動車の中で
休んでいたが、親方が見に行った時には具合が悪くなり
救急車で病院に搬送してもらった。
13
図
14
15
図
16
事例 2
事例 3
熱中症;64 歳男性、土木業、経験年数 20 年、死亡;気温
日射病;60 歳女性、遺跡発掘業、作業経験 1 年未満、休
37.9℃、湿度 27%、風速 4.8m/s、快晴;7月5日17時
業 5 日;気温 34.7℃、湿度 43%、風速 4.7m/s、快晴;7
発生
月28日16時発生
新築工事現場で炎天下、被災者は基礎工事としてコンク
遺跡発掘現場内で発掘作業に従事していた。作業終了
リートの打設作業を行うが、午後 5 時頃当日の作業を終え
間際気分が悪くなりプレハブの休憩所で休んでいたが嘔吐、
る頃に体調を悪くした。それからしばらくの間被災者は現
顔面蒼白で歩けない状態となった。当日は連日の猛暑に
場内(エアコンをつけた車中)で休憩していたが症状が回復
より休憩時間を普段よりも長くとっていたが、診療所の往
せず、救急車により最寄りの病院に搬送されたが、当日午
診の結果日射病と診察された。
後 7 時 15 分に死亡した。
図
15
16
17
図
事例 4
18
事例 5
熱中症;59 歳男性、建築業、作業経験 4 年、休業6ヶ月;
日射病脱水;50歳女性、発掘調査業、作業経験1年、休
7月4日15時発生
業5日;8月4日15時発生
敷地内でコンクリート打ちの支度を行っている時に気分
発掘作業現場で発掘調査作業中、炎天下の作業のため
が悪くなりその場に伏せった。夏の直射日光の中、作業を
脱水症状を起こした。適宜休憩をとり水分(麦茶)の補給
行っていたために発生したと思われる。また、休憩は適宜
を行っていた。
行っていた。ヘルメットを常時装着していた。
17
18
3
19
図
図
20
要 約
職業性熱中症の発生状況:
• 最近10年間で発生件数が2倍以上に増加
• 夏季(7月~8月)の屋外作業(建築土木業な
ど)で多発
• 50人未満の小規模事業所に多発
• 作業経験年数が少ない中高年齢者に発生
する傾向
職業性熱中症の発生事例:
• 猛暑のため、休憩時間を多めにとったり水
分を補給していたにもかかわらず被災
屋外気象因子との
関連分析
19
20
21
図
図
22
Places where a
meteorological
observatory is located
in Japan
Spots where heat
disorder occurred in
Japan
21
22
23
図
図
気温別の熱中症発生件数
80
熱中症発生時点の気温と相対湿度
100.0
71
70
62
相 対 湿 度 (% )
50
27
25
30
20
10
1
1
10
4
休業群
80.0
死亡群
70.0
60.0
50.0
40.0
20.0
20.0
39
.3
~
~
.5
35
~
気温 (℃)
32
~
~
~
~
30
.5
27
25
.5
22
~
20
.7
90.0
30.0
0
19
発生件数 (人)
60
40
24
23
22.0
24.0
26.0
28.0
30.0
気温 (℃)
4
32.0
34.0
36.0
38.0
40.0
図
25
図
熱中症発生時点の気温と風速
休業群
死亡群
3.0
全 天 日 射 量 (M J/m 2)
8.0
風 速 (m /sec)
7.0
6.0
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
20.0
22.0
24.0
26.0
28.0
図
30.0
32.0
34.0
36.0
38.0
40.0
2.0
1.5
1.0
休業群
死亡群
0.0
20.0
27
暑くない
やや暑い
22.0
24.0
26.0
28.0
30.0 32.0
気温 (℃)
図
暑くて汗が出る
34.0
36.0
38.0
40.0
28
要 約
熱中症発生時点の不快指数と風速
夏季屋外作業で熱中症が発生する気象条件:
暑くてたまらない
8.0
• 有風下でも気温30℃以上、不快指数80以上で急増
• 気温28~30℃以下の軽度な暑熱条件でも相対湿度
が高い条件で発生
• 気温28~30℃以下でも日射量や風速の大小にかか
わらず発生
• 不快指数70~80の範囲でも風速の大小にかかわら
ず発生
7.0
風 速 (m /sec)
2.5
0.5
気温 (℃)
9.0
熱中症発生時点の気温と全天日射量
3.5
9.0
26
6.0
5.0
4.0
3.0
2.0
休業群
1.0
死亡群
0.0
70.0
72.0
74.0
76.0
78.0
80.0
82.0
84.0
86.0
88.0
軽度な暑熱条件下での熱中症の発生防止対策:
• 身体作業強度の軽減、作業服の調整、気温・湿度・風
速・放射温を総合した暑熱ストレス指数による評価 28
90.0
不快指数
図
29
図
30
熱中症の発生防止に係わる調査研究委員会
(平成16年度設置)
2. わが国の予防対策の
最近の動向
29
30
5
図
31
図
委員会設置の背景と目的
委員会での役割
• 夏季の暑熱作業現場では、過去10年間(平成6年
~15年)で179名が熱中症で死亡。
• 第10次労働災害防止計画でも熱中症の適切な予
防対策の徹底を明記(厚生労働省、平成15年4月)。
(1)暑熱作業現場の実態調査
ーWBGT値からみた暑熱曝露実態ー
• 「熱中症予防について」(平成8年5月21日付け基
発第329号)により事業者に必要な対策を指導。
• 国際基準(ISO7243、1989年)では、WBGT指
数による暑熱環境評価を提案。
• 暑熱作業の実態調査研究を行い、WBGTの基準
値による管理の可能性、熱中症予防対策の充実に
31
ついて検討。
図
黒球温
32
(2)欧米の政府レベルでのWBGT適用状況
の調査
32
33
図
自然湿球温
34
WBGT指数の算出法
気温
- 屋内あるいは太陽照射のない屋外:
WBGT=0.7tnw + 0.3tg
- 太陽照射のある屋外:
WBGT=0.7tnw + 0.2tg + 0.1ta
ここで
tnw: 自然湿球温度(℃);
tg: 黒球温度(℃);
ta: 乾球温度(℃).
WBGT(湿球黒球温度)指数の測定
WBGT=Wet Bulb Globe Temperature
図
33
34
35
図
36
米国政府産業衛生専門家会議(ACGIH)
作業の強さ
(注)着用衣服が標準的な作業着(通気性があり水蒸気を通す衣服、保温性Icl=0.6Clo;
Clo=0.155m2・K/W)に適用
軽作業
中等度作業
重作業
極重作業
100%
作業
75% 作業
25% 休憩
29.5
27.5
26.0
30.5
28.5
27.5
50% 作業
50% 休憩
25% 作業
75% 休憩
31.5
29.5
28.5
27.5
32.5
31.0
30.0
29.5
(注)暑さに順化した作業者に適用する
36
35
6
図
37
1 対象現場、調査時期、対象者数
日本産業衛生学会(2004)
代謝エネルギー
<屋外作業>
・ 高層住宅建築工事:平成16年8月9~10日、
川崎市、延べ21名
・ 電話線接続工事:平成16年8月31日、あきる野市、
3名
・ 校舎改築工事:平成16年9月8~9日、大田区、
延べ14名
<屋内作業>
・ 製鋼工場炉前作業:平成16年9月15~17日、
八千代市、延べ10名
・ 製鉄所炉前作業:平成16年9月20~24日、川崎市、
延べ12名
許容温度条件
(kcal/h)
WBGT(℃)
極軽作業(RMR~1)
~130
32.5
軽作業(RMR~2)
~190
30.5
中等度作業(RMR~3)
~250
29.0
中等度作業(RMR~4)
~310
27.5
重作業(RMR~5)
~370
26.5
37
図
38
39
40
図
2 調査測定内容
校舎改築工事
(1)作業温熱条件:気温、湿度、風速、平均放射温度、
WBGT指数
(2)生理的測定:舌下温、耳内温、皮膚温、心電図、 血圧、心拍数、活動量、姿勢、体重
(3)主観的測定:作業前後(休憩時)に、全身温冷感、
温熱的快不快感、のどの渇き、疲労感、汗ばみ感、 熱中症に関係する自覚症状(めまい、はきけ、頭痛、
耳鳴り、倦怠感、脱力感、歩行困難、筋肉のいたみ、
けいれん、いらいら、手足の感覚異常)を問診
(4)作業内容のビデオ撮影:作業内容や防暑対策の実
態を正確に把握するためにビデオを用いて記録 39
41
42
図
建設現場の暑熱環境条件(2004/8/10)
46
80
WBGT室内 [℃]
気温 [℃]
湿球温度 [℃]
44
WBGT室外 [℃]
グローブ温度 [℃]
相対湿度 [%]
70
42
40
60
38
50
温度(℃)
36
34
40
32
30
30
28
20
26
24
10
22
20
0
7:20
7:30
7:40
7:50
8:00
8:10
8:20
8:30
8:40
8:50
9:00
9:10
9:20
9:30
9:40
9:50
10:00
10:10
10:20
10:30
10:40
10:50
11:00
11:10
11:20
11:30
11:40
11:50
12:00
12:10
12:20
12:30
12:40
12:50
13:00
13:10
13:20
13:30
13:40
13:50
14:00
14:10
14:20
14:30
14:40
14:50
15:00
15:10
15:20
15:30
15:40
15:50
16:00
16:10
16:20
16:30
16:40
16:50
17:00
17:10
17:20
17:30
17:40
17:50
18:00
18:10
18:20
18:30
図
40
時刻
41
42
7
相対湿度(%)
作業の強さ
(RMR)
38
図
温度 (℃)
図
48
44
40
WBGT室内 [℃]
38
WBGT室外 [℃]
気温 [℃]
32
グローブ温度
[℃]
湿球温度 [℃]
28
24
20
40
30
相対湿度(5)
図
建設現場の暑熱環境条件(2004/9/8)
43
45
図
54
52
50
48
46
製鋼工場炉前作業
47
8
WBGT室内 [℃]
WBGT室外 [℃]
気温 [℃]
グローブ温度 [℃]
湿球温度 [℃]
相対湿度 [%]
42
38
36
34
32
50
30
28
40
26
24
30
22
20
20
18
16
10
0
45
時刻
46
47
図
48
40
38
製鋼工場炉前作業の暑熱環境条件(2004/9/16)
36
WBGT室内 [℃]
WBGT室外 [℃]
気温 [℃]
グローブ温度 [℃]
湿球温度 [℃]
相対湿度 [%]
80
70
34
32
60
30
28
50
26
40
24
22
30
20
20
18
16
10
時刻
0
48
相対湿度(%)
図
43
相対湿度(%)
7:50
8:00
8:10
8:20
8:30
8:40
8:50
9:00
9:10
9:20
9:30
9:40
9:50
10:00
10:10
10:20
10:30
10:40
10:50
11:00
11:10
11:20
11:30
11:40
11:50
12:00
12:10
12:20
12:30
12:40
12:50
13:00
13:10
13:20
13:30
13:40
13:50
14:00
14:10
14:20
14:30
14:40
14:50
15:00
15:10
15:20
15:30
15:40
15:50
16:00
16:10
16:20
16:30
16:40
16:50
17:00
17:10
17:20
17:30
17:40
17:50
18:00
34
温度 (℃)
温度(℃)
36
7:10
7:20
7:30
7:40
7:50
8:00
8:10
8:20
8:30
8:40
8:50
9:00
9:10
9:20
9:30
9:40
9:50
10:00
10:10
10:20
10:30
10:40
10:50
11:00
11:10
11:20
11:30
11:40
11:50
12:00
12:10
12:20
12:30
12:40
12:50
13:00
13:10
13:20
13:30
13:40
13:50
14:00
14:10
14:20
14:30
14:40
14:50
15:00
15:10
15:20
15:30
15:40
15:50
16:00
16:10
16:20
16:30
16:40
16:50
17:00
17:10
17:20
17:30
17:40
17:50
18:00
18:10
18:20
18:30
18:40
7:40
7:50
8:00
8:10
8:20
8:30
8:40
8:50
9:00
9:10
9:20
9:30
9:40
9:50
10:00
10:10
10:20
10:30
10:40
10:50
11:00
11:10
11:20
11:30
11:40
11:50
12:00
12:10
12:20
12:30
12:40
12:50
13:00
13:10
13:20
13:30
13:40
13:50
14:00
14:10
14:20
14:30
14:40
14:50
15:00
15:10
15:20
15:30
15:40
15:50
16:00
16:10
16:20
16:30
16:40
16:50
17:00
17:10
17:20
17:30
17:40
17:50
18:00
18:10
図
44
70
電話線接続工事
46
42
60
50
30
26
20
22
10
0
時刻
44
46
電話線接続工事現場の屋外暑熱環境条件(2004/8/31)
90
80
44
70
40
60
図
49
図
電気炉前作業
50
炉前作業:WBGT=37~46℃
49
図
50
51
図
52
鋳込み作業:WBGT=27~29℃
51
図
52
53
図
なべのノズル抜き作業:WBGT=40℃
54
めぬり作業:WBGT=33~50℃
53
54
9
6:50
7:00
7:10
7:20
7:30
7:40
7:50
8:00
8:10
8:20
8:30
8:40
8:50
9:00
9:10
9:20
9:30
9:40
9:50
10:00
10:10
10:20
10:30
10:40
10:50
11:00
11:10
11:20
11:30
11:40
11:50
12:00
12:10
12:20
12:30
12:40
12:50
13:00
13:10
13:20
13:30
13:40
13:50
14:00
14:10
14:20
14:30
14:40
14:50
15:00
15:10
曝露温度(℃)
7:00
7:10
7:20
7:30
7:40
7:50
8:00
8:10
8:20
8:30
8:40
8:50
9:00
9:10
9:20
9:30
9:40
9:50
10:00
10:10
10:20
10:30
10:40
10:50
11:00
11:10
11:20
11:30
11:40
11:50
12:00
12:10
12:20
12:30
12:40
12:50
13:00
13:10
13:20
13:30
13:40
13:50
14:00
14:10
14:20
14:30
14:40
14:50
15:00
15:10
15:20
15:30
15:40
15:50
温度(℃)
皮膚温(℃)
60
50
Tthigh
Tleg
40
10
20
図
図
65
前面曝露温
60
背面曝露温
曝露温(℃)
55
55
図
製鋼工場炉前作業者の曝露温度と体表面皮膚温の変動の一例
Tchest
Tforearm
70
55
57
図
50
59
70
製鉄所炉前作業者の暑熱曝露温度の一例
55
50
45
40
35
30
25
20
15
10
時刻
59
10
46
44
90
42
38
80
70
36
34
32
30
60
28
26
24
50
22
40
20
18
16
14
12
WBGT室内 [℃]
WBGT室外 [℃]
気温 [℃]
グローブ温度 [℃]
湿球温度 [℃]
相対湿度 [%]
30
57
図
20
10
10
時刻
0
58
60
要 約 (1)
• 猛暑を過ぎた本調査期間でも、ISO、ACGIHのWB
GT基準値を超える作業場が多い。
• 防護服(具)の着用は、暑熱負担を増悪させている可
能性がある。
• 炉前作業では、炉の近傍で極度の暑熱曝露が短時
間に断続的にある。
• 製鉄所や製鋼工場の屋内作業場でも屋外温熱条件
の影響を受けやすく、7,8月にはさらに厳しい暑熱
作業となる。
• 今回の調査現場は猛暑の時期にはさらに厳しい暑
熱作業となることが予想される。
• 生理的・心理的負担の詳細な解析が必要である。
60
相対湿度(%)
6:30
6:40
6:50
7:00
7:10
7:20
7:30
7:40
7:50
8:00
8:10
8:20
8:30
8:40
8:50
9:00
9:10
9:20
9:30
9:40
9:50
10:00
10:10
10:20
10:30
10:40
10:50
11:00
11:10
11:20
11:30
11:40
11:50
12:00
12:10
12:20
12:30
12:40
12:50
13:00
13:10
13:20
13:30
13:40
13:50
14:00
14:10
14:20
14:30
14:40
14:50
15:00
15:10
15:20
15:30
15:40
15:50
16:00
16:10
16:20
16:30
16:40
16:50
17:00
17:10
17:20
17:30
17:40
17:50
図
56
50
製鉄所炉前作業
Ta-back
45
Ta-front
30
35
30
-10
25
-30
時刻
-50
56
58
48
製鉄所高炉炉前作業場の暑熱環境条件(2004/9/22)
100
40
図
61
62
図
暑熱負担と作業休止の指標 (ACGIH, 2006)
高層住宅建築工事現場作業者の
舌下温の変動(2004/8/10)
22yr
56yr
38.5
• 深部体温: 38.5℃(暑熱順化者)
38.0℃(暑熱未順化者)
55yr
37.5
54yr
40yr
舌下温(℃)
• 心拍数: 180-年齢 (拍/分) <数分持続>
28yr
38
37
46yr
36.5
35yr
53yr
36
50yr
35.5
• 体重減少率: 1.5%(1連続作業後)
40yr
35
後
了
業
平均
(n=13)
後
午
作
後
休
24yr
終
憩
憩
後
前
前
休
後
午
午
後
午
午
前
作
作
業
業
終
開
了
始
後
後
憩
休
前
午
業
午
午
前
作
• 自覚的徴候: 突然の激しい疲労感、吐き気、
61
めまい、たちくらみ
図
前
開
休
始
憩
前
前
47yr
62
63
図
電話線接続工事作業者の舌下温の変動(2004/8/31)
64
校舎改築工事作業者の舌下温の変動(2004/9/8)
38.0
38
56yr
36yr
37.5
33yr (F)
37.5
37
36.5
37.0
舌下温(℃)
舌下温 (℃)
平均
36.5
36
21yr
67yr
35.5
32yr
25yr
35
35yr
36.0
41yr
34.5
61yr
平均
35.5
34
作業開始前
作業直前
作業直後
昼休憩後
作業終了後
作業前
作業後
午前休憩後
作業後
昼休憩後
作業後
午後休憩後
作業後
63
図
64
65
図
製鋼工場炉前作業者の舌下温の変動(2004/9/16)
66
製鉄所炉前作業者の舌下温の変動(2004/9/21)
38
38
37.5
37.5
舌下温(℃)
舌下温(℃)
37
36.5
30yr
37
54yr
46yr
36.5
33yr
21yr
36
31yr
45yr
36
25yr
35.5
34yr
35.5
35
作業前
作業後
午前休憩後
作業後
昼休憩後
作業後
午後休憩後
作業前
作業後
65
作業後
休憩後
作業後
休憩後
作業後
休憩後
作業後
作業後
66
11
図
67
図
68
67
図
68
69
図
70
校舎建築工事作業者の一日の作業前後の体重減少率
(2004/9/8-9/9)
4.0
3.6
3.3
3.5
3.0
2.8
2.4
体重減少率(%)
2.5
1.9
2.0
1.6
1.6
1.5
1.3
1.0
0.6
0.4
0.5
0.1
0.0
-0.5
21歳 67歳 32歳 25歳 35歳 49歳 41歳 61歳 66歳 59歳 35歳 37歳 25歳 61歳 平均
-0.2
-0.6
-0.7
-1.0
69
図
70
71
図
72
校舎改築工事作業者の最小血圧の変動(2004/9/9)
校舎改築工事作業者の最大血圧の変動(2004/9/9)
140
250
120
200
最小血圧(mmHg)
最大血圧(mmHg)
100
150
66yr
100
80
60
66yr
59yr
59yr
40
35yr
35yr
37yr
50
37yr
25yr
25yr
20
61yr
61yr
平均
0
作業前
作業後
午前休憩後
作業後
昼休憩後
作業後
午後休憩後
平均
0
71
作業前
作業後
12
作業後
午前休憩後
作業後
昼休憩後
作業後
午後休憩後
作業後
72
図
73
温熱的快不快感の変動(2004/8/10)
校舎建築工事作業者の温熱的快不快感の変動
(2004/9/9)
22yr
6
56yr
非常に4
不快
28yr
極度に不快5
55yr
不快3
54yr
非常に不快4
66yr
40yr
59yr
やや2
不快
46yr
不快
74
図
3
35yr
35yr
37yr
25yr
53yr
やや不快 2
快適1
50yr
61yr
40yr
2
後
午
後
作
休
業
憩
時
時
1
業
午
午
後
作
休
昼
作
時
時
憩
時
業
憩
休
作
前
前
午後作業2
午
午後作業1
前
午前作業2
午
午前作業1
時
1
時
業
業
作
平均
(n=13)
0
2
0
24yr
午
47yr
1
前
快適
73
図
極度に不快 5
74
75
図
製鋼工場炉前作業者の温熱的快不快感の変動
(2004/9/17)
76
製鉄所炉前作業者の温熱的快不快感(2004/9/21)
極度に5
不快
54yr
30yr
非常に不快 4
46yr
非常に 4
不快
21yr
33yr
45yr
31yr
不快
25yr
3
不快 3
34yr
やや不快2
やや不快 2
快適
快適 1
1
0
0
作業前
作業前
午前作業時1
午前休憩時
午前作業時2
昼休憩時
午後作業時1
午後休憩時
作業時
休憩時
作業時
休憩時
作業時
休憩時
作業時
作業時
午後作業時2
75
図
76
77
図
78
要 約 (2)
• 猛暑を過ぎた本調査期間でも、ISO、ACGIHのW
BGT基準値を超える作業場が多い。
• その割には舌下温は、すべての対象者で安全範
囲内(38℃以下)にある。
• 心拍数は年齢調整限界値を超える職場がある。
• 水分補給が不十分な作業者が多い。
• 暑熱感や不快感などの心理的負担は、強く訴える
傾向にある。
• 高血圧の作業者が一部にみられ、十分な作業管
理・健康管理が必要である。
• 暑熱適応能力の低い作業者は暑熱障害のリスク
77
にさらされている。
3. 欧米の予防対策の現状
欧米の政府レベルでのWBGT適用状況
世界各国の政府レベルで法規制の根拠として WBGTをどう活用しているかを調査
78
13
図
79
図
調査対象国と回答者
WBGTに関する質問事項
USA: Dr. Ralph Goldman: Former Director (and Founder) of Military Ergonomics
Division, US Army Research Institute of Environmental Medicine
EU and Belgium: Prof. Jacques Malchaire: Université Catholique de Louvain, Unité
Hygiène et Physiologie du Travail
UK: Prof. Ken C Parsons: Department of Human Sciences, Loughborough University
Denmark: Prof. Bjarne W. Olesen: International Centre for Indoor Environment and
Energy, Technical University of Denmark
Sweden: Prof. Ingvar Holmér: University of Lund
Canada: Dr. Michel B. Ducharme: Human Protection and Performance Group, Defense
Research and Development Canada
Finland: Dr. Raija Ilmarinen: Finnish Institute of Occupational Health
Australia: Prof. Nigel A.S. Taylor: Department of Biomedical Science, University of
Wollongong
Italy: Prof. Francesca Romana d‘Ambrosio: DIMEC Universit・degli Studi di Salerno
Israel: Prof. Yoram Epstein: Heller Institute of Medical Research, Chaim Sheba Medical
Center
France: Prof. Victor Candas: Centre d’Etudes de Physiologie Appliquée (CEPA)
C.N.R.S. Joseph Ojalvo: Electricité de France, Groupe Evaluation énergétique et qualité des
ambiances Département Services, Energies et Espaces de vie
Germany: Prof. Barbara Griefahn: Institut für Arbeitsphysiologie an der Universität
Dortmund; Dr. Hansjürgen Gebhardt: Institut für Arbeitsmedizin, Sicherheitstechnik
und Ergonomie; Dr. Bernhard Kampmann: Bergische Universität Wuppertal
Fachbereich 14 / Sicherheitstechnik, Arbeitsphysiologie, Arbeitsmedizin und
79
Infektionsschutz
図
Q1: 貴国は暑熱作業環境について、政府の政
策または規制としてWBGT指数をどのように
扱っていますか?
Q2: WBGTの基準値は企業にとって強制力が
ありますか、それとも単なる勧告程度ですか?
Q3: もし企業の暑熱条件がWBGT基準値を超
えていて、また管理者がいかなる予防措置も
講じていなければ、その企業は罰則をうけるこ
とになりますか?
80
81
図
アメリカ合衆国
82
ヨーロッパ連合(EU)
• 作業者が暑熱にさらされることを制限するための
いかなる政策や規制も設定していない。
• アメリカの産業労働者のための政府レベルでの
強制的基準はなく、単なるガイドラインである(AC
GIH、OSHA、NIOSH)。
• もし基準を超えて暑熱障害が起きたら、訴訟の際
にはこれらの数値にたとえ法的根拠はなくとも「標
準的推奨慣行」として引用される可能性がある。
• 米軍の軍事訓練ではWBGT指数の使用は強制。
• EUレベルでは職場の温熱条件に関する規制は
ない。
• EUの指令は、単に一般的条件で目的を規定し
ているにすぎない。
Prof. Jacques Malchaire: Université Catholique de
Louvain, Unité Hygiène et Physiologie du
Travail
Dr. Ralph Goldman: Former Director (and Founder)
of Military Ergonomics Division, US Army
Research Institute of Environmental Medicine
81
図
80
82
83
図
84
ベルギー
イギリス
• 法令にWBGTの使用が規定され、その数値
には「強制」とあるが、これまで一度も施行さ
れていない。
• 1975年以後WBGT値を超えたことで立ち入
り検査され罰則を受けた企業はない。
• PHS(必要発汗率改訂版:ISO7933)を法的
規制に導入するプロジェクトが進行中。
• BS EN ISO7243の基準値は強制ではない。
• 暑熱環境のリスク評価として、また産業現場
の管理や監視のために用いられる。
• 雇用主は安全な作業を行わせる必要があり、
法的問題が生じた時はその文脈で論争され
るだろう。
• その際WBGTが使われていなかったとしたら
その理由を問われることは妥当。
Prof. Jacques Malchaire: Université Catholique
de Louvain, Unité Hygiène et Physiologie du
Travail
Prof. Ken C Parsons: Department of Human
Sciences, Loughborough University
83
84
14
図
85
図
86
スウェーデン
デンマーク
• WBGTおよび、暑熱作業場を評価するための
規制値を使用する強制的規定はある。
• ただし、日光による暑熱曝露は適用外。
• もし規定に従って作業場で対策を講じていない
場合は、要件を満たすための作業時間制限が
規定され、それを守らないと課徴金を支払わね
ばならない。
• 最終的に法的措置をとることもできる。
• 現場管理者は規則を絶対に遵守せねばならな
い。
• 暑熱ストレスの評価を必要とするほど極端な気
象条件はない。
• 高温作業環境を放置している企業はほとんどな
いので、WBGTが政府の施策として用いられて
いるとは思わない。
Prof. Bjarne W. Olesen: International Centre for
Indoor Environment and Energy, Technical
University of Denmark
Prof. Ingvar Holmér: University of Lund, Former
Prof. of National Institute for Working Life
85
図
86
87
図
88
カナダ
フィンランド
• 政府の施策はWBGT指数に基づいている。
• 政府の政策を企業は遵守せねばならない。
• ただし企業がその政策を守っていることを確
かめる仕組みについては関知していない。
• ある企業がWBGTにもとづく規制を守ってい
ないことが法廷で判決され、またそのことが事
故の原因となれば、企業は告訴される。
• 暑熱作業に制限値を設けていない。
• 作業現場調査ではWBGTを温熱環境評価の
ツールとして使用しており、基準値を「警告値」
として用いている。それを超えたら、生理的測
定やより詳細な評価がもとめられている。
• WBGTに関する罰則規定はない。
Dr. Michel B. Ducharme: Human Protection and
Performance Group, Defense Research and
Development Canada
Dr. Raija Ilmarinen: Finnish Institute of
Occupational Health
87
図
88
89
図
オーストラリア
90
イタリア
• 企業によってはWBGTにより管理している。
• 政府レベルの規制は不明。
• 個人的見解としては、WBGT基準値の生理学
的意義はほとんどない。
• ISO7243(WBGT)は単なる勧告として存在
し、企業に対する規制や罰則規定はない。
Prof. Francesca Romana d‘Ambrosio: DIMEC
Universit・degli Studi di Salerno
Prof. Nigel A.S. Taylor: Department of
Biomedical Science, University of Wollongong
89
90
15
図
91
図
92
イスラエル
フランス
• 一般的に乾球温度と湿球温度の重み付け平均
値をベースにしたDI指数を用いておりWBGTは
使用していない。
• WBGTは企業ではなく軍隊において強制のも
のとなっている。
• 暑熱障害が発生したときは、ガイドラインに従わ
なかったとして上官が軍法会議にかけられ責任
を問われる。
• WBGTによる法的規制はない。
• WBGTは問題を発見する第一段階としては
意味があるが、それだけでは不十分。
• フランス国営電力会社(EDF)や鉱山では、
WBGTではなくRequired Sweat Rate(必要
発汗率)を使用。
Prof. Victor Candas: Centre d’Etudes de
Physiologie Appliquée (CEPA) C.N.R.S.
Joseph Ojalvo: Electricité de France, Groupe
Evaluation énergétique et qualité des
ambiances
Prof. Yoram Epstein: Heller Institute of Medical
Research, Chaim Sheba Medical Center
91
図
92
93
図
ドイツ
94
世界各国のWBGT適用状況のまとめ
• 単なる勧告であって強制ではない。
• WBGTはいくつかの情報シートや標準値として
勧告されているが、これらの情報や標準値は
あくまで勧告値。
• 鉱山労働者については別の規制(ET)がある。
国 名
強制的規制
勧告・ガイドライン
アメリカ合衆国
△(軍隊)
○
ヨーロッパ連合
ベルギー
○
○(一度も施行されず)
イギリス
○
デンマーク
Prof. Barbara Griefahn: Institut für
Arbeitsphysiologie an der Universität
Dortmund
Dr. Hansjürgen Gebhardt: Institut für
Arbeitsmedizin
Dr. Bernhard Kampmann: Bergische Universität
Arbeitsphysiologie, Arbeitsmedizin und
93
Infektionsschutz
図
○
スウェーデン
○
カナダ
○
フィンランド
○
オーストラリア
○
イタリア
イスラエル
なし
○
△(軍隊)
○
フランス
○
ドイツ
○
94
95
図
96
日本政府は?
95
96
16
図
97
図
98
4. 予防対策の課題(私見)
97
図
98
99
図
(1)作業環境管理
予防対策:労働衛生管理の基本原則
• 作業環境管理:
作業環境測定・結果の評価、工学的対策による施
設・設備の改善・点検
• 作業管理:
作業方法の改善、作業時間管理、作業-休憩サイ
クルの設定、保護具の適切な使用
• 健康管理:
健康診断や健康測定による健康状態の把握、その
結果に基づく事後措置、健康指導、日常の生活指
導
• 労働衛生教育:
作業環境や設備、取り扱い物質についての危険・
99
有害性、取り扱い方法等についての教育
図
100
• 暑熱環境の測定・評価は、気温、湿度、放射温、風速、身
体作業強度、衣類の熱特性を総合して行う。
• WBGT指数は簡便性、流通性、国際性、信頼性の面で現
時点で最良の暑熱評価指標である。
• WBGT指数で許容基準値を超える場合:
① 熱源の隔離・断熱・遮蔽や熱放射面の放射率の低減
化、局所・全体換気、空調、スポットクーラーの導入、屋内
作業場での除湿化、屋外作業場や屋根・壁面などの太陽
放射による過熱面への散水などを必要に応じて実施する。
② 休憩室には冷房、製氷機、冷水機、水風呂、シャ
ワー等の身体冷却設備を設ける。
③ 作業者がいつでもどこでも水分と塩分を補給できる
環境を整える。
100
101
図
102
(3)健康管理
(2)作業管理
• 定期的健康診断による健康状態の常時把握
• 循環器疾患、糖尿病、アルコール中毒、電解質代謝障害、
甲状腺機能亢進、発汗障害、発熱、感染症などの疾患
は熱中症のリスク因子
• 暑熱未順化、水分・塩分不足、栄養不良、飲酒、服薬、
肥満、睡眠不足、病後回復期、妊娠もリスク因子
• 作業開始時点での健康状態をチェックして体調不良の場
合は中止
• やむをえず作業を行う場合は、作業時間制限や健康状
態の監視
• 単独作業を避けお互いの健康状態を監視しながら複数
で作業
• 暑熱順化の訓練指導とともに、体力水準の向上、肥満の
102
防止、健康な生活習慣の確立
• 作業を分業化・分散化して作業者一人当たりの身体作
業負荷量と暑熱曝露時間を減らしたり、自分のペース
で作業することを認めることで、身体作業強度を低減。
• 休憩時間には体温・心拍数・体重を計測して、作業前
の状態に戻っていることを確認してから作業を再開。
• 作業者の喉の渇きの感覚に頼って水分を摂取するの
ではなく作業前・中・後に十分な水分・塩分を定期的に
補給。暑熱感覚や快不快感覚を過信しない。
• 作業服(具)は吸熱性・保温性の低いもの、透湿性、通
気性の高いものを着用。
• 過度の暑熱条件では断熱衣や冷房服などの暑熱防護
服(具)を導入。
101
17
図
103
図
(4)労働衛生教育
104
予防対策のための研究課題 • 熱中症の徴候、病態、予防法、救急措置、発生事例、
熱中症のリスク要因、暑熱順化訓練などを教育
-主観的判断によらない対策が必須-
• 暑熱馴化(暑さに慣れる)の方法:
①作業者は始めは短時間に作業を行い、次第に時間
を長くすることで自然に達成できる。暑さに慣れていな
い状態から慣れた状態へ作業の持続時間を増やすの
は、7日以上かけて徐々に行う(ISO7243、1989)。
②1日2時間の暑熱曝露を4~7日間続けるとある程
度適応状態ができる。さらに2週間繰り返すと暑さに適
応した身体となる(三浦、1985)。
①環境管理:暑熱ストレス指数WBGTによる暑熱環境
評価の有効性・妥当性
②作業管理:サーマルマネキンによる作業服の熱抵抗・
透湿抵抗の評価とWBGT基準値の補正
③作業管理:空調服などの防暑冷却服の有効性
④作業管理:休憩時や緊急時の身体冷却手法の検討
⑤健康管理:深部体温モニタリング法の開発
⑥労働衛生教育:正しい啓蒙活動(喉が渇いたら飲む、
ではない。熱中症の理解等)
103
図
104
105
図
Work Process of Preparing
International Standards
ISO/TC159/SC5/WG1
(ISO/TC159/SC5/WG1)
• The International standards concerned with
assessment of thermal environments have been
prepared by ISOTC159/SC5/WG1:
Technical Committee (TC159), Ergonomics/
Subcommittee (SC5), Physical environment/
Working group (WG1), Thermal environment.
PWI = Preliminary work item
NP = New work item proposal
WD = Working draft (s)
• Draft International Standards adopted by the technical
committee are circulated to the member bodies for
voting.
CD = Committee draft (s)
DIS = Enquiry draft / Draft International Standard
• Publication as an International Standard requires
approval by at least 75% of the member bodies casting
a vote.
105
図
106
FDIS = Approval – Final Draft International Standard
PUB = Publication
107
TR = Technical Report
図
106
108
Members ISO/TC159/SC5/WG 1
Gaetano Alfano
Victor Candas
Geoff W. Crockford
Daniel Gabay
Hansjürgen Gebhardt
Barbara Griefahn
Emiel den Hartog
George Havenith
Ingvar Holmér
Raija Ilmarinen
Bernhard Kampmann
Gunnar Langkilde
Jacques Malchaire
H. Müller-Arnecke
Joseph Ojalvo
Bjarne W. Olesen
Ken C Parsons
Hannu Rintamäki
Shin-ichi Sawada
Alan J. Snarey
Xavier Cort Tobías
Yutaka Tochihara
Kazuyo Tsuzuki
Italy
France
United Kingdom
France
Germany
Germany
The Netherlands
United Kingdom
Sweden
Finland
Germany
Denmark
Belgium
Germany
France
Germany (Chairperson)
United Kingdom
Finland
Japan
United Kingdom
Spain
Japan
Japan
107
108
18
図
109
図
Working Items ISO/TC159/SC5/WG1
ISO 11079 Analytical Determination and Interpretation of Cold Stress
using Calculations of the Required Clothing Insulation (IREQ) Index
and Local Cooling Effects. FDIS
ISO 11399 Ergonomics of the thermal environment – Principles and
application of International Standard. REV
ISO 12894 Medical supervision of individuals exposed to extreme hot
or cold environments. PUB
ISO 13731 Vocabulary and symbols. PUB
ISO 13732-1 Ergonomics of the thermal environment – Methods for
assessment of human responses to contact with surfaces. Part 1:
Hot surfaces. FDIS
ISO 13732-2 Ergonomics of the thermal environment – Methods for
assessment of human responses to contact with surfaces. Part 2:
Moderate surfaces. PUB
ISO 13732-3 Ergonomics of the thermal environment – Methods for
assessment of human responses to contact with surfaces. Part 3:
Cold surfaces. PUB
ISO 7243 Hot environments-Estimation of the heat stress on working
man, based on WBGT-index (wet bulb globe temperature) , PUB
ISO 7726 Ergonomics of the thermal environment – Instruments for
measuring physical quantities, PUB
ISO 7730 Analytical determination and interpretation of thermal comfort
using calculation of the PMV and PPD indices and local thermal
comfort, PUB
ISO 7933 Analytical determination and interpretation of heat stress
using calculations of the predicted heat strain, PUB
ISO 8996 Ergonomics – Determination of metabolic heat production,
PUB
ISO 9886 Evaluation of thermal strain by physiological measurements,
PUB
ISO 9920 Ergonomics of the thermal environment – estimation of the
thermal insulation and evaporative resistance of a clothing
ensemble, FDIS
ISO 10551 Ergonomics of the thermal environment – Assessment of the
influence of the thermal environment using subjective judgment
109
scales, PUB
110
111
図
110
図
112
ISO 14415 Ergonomics of the Thermal Environment: The Application
of International Standards for People with Special Requirements. TS
ISO 14505-1 Evaluation of the thermal environments in vehicles.
- Part 1 -Principles and Methods. FDIS
ISO 14505-2 Evaluation of the thermal environments in vehicles.
- Part 2-Determination and interpretation of equivalent temperature.
FDIS
ISO 14505-3 Evaluation of the thermal environments in vehicles.
- Part 3- Evaluation of thermal comfort using human subjects. FDIS
ISO 15265 Ergonomics of the thermal environment: Risk assessment
strategy for the prevention of stress or discomfort in thermal working
conditions. PUB
ISO 15742 Determination of the combined effect of the thermal
environment, air pollution, acoustics and illumination on human. PWI
ISO 15743 Working Practices for Cold Environment: Strategy for Risk
Assessment and Management. DIS
111
図
112
113
図
114
SOME QUESTIONS
• The ISO thermal stress standards have mainly been
designed and developed in Europe and the USA.
• 80 percent of the members of ISOTC159/SC5/WG1
are currently European experts. Only 3 Japanese
experts participate in the ISO meeting from Asian
countries.
• Validity problems potentially exist when implementing
the standards in Asian countries.
• The most critical problem is validity of the safety limit
values:
- ISO7243 presents a WBGT reference values for
acclimatized workers. This may be applicable to the
short-term acclimatized but not to the long-term
acclimatized Asian workers of tropical region where
they are chronically exposed to heat stress all 113
their
life.
(注)着用衣服が標準的な作業着(通気性があり水蒸気を通す衣服、保温性Icl=0.6Clo;
114
Clo=0.155m2・K/W)に適用
19
図
115
図
116
予防対策のための研究課題 -主観的判断によらない対策が必須-
①環境管理:暑熱ストレス指数WBGTによる暑熱環境
評価の有効性
②作業管理:サーマルマネキンによる作業服の熱抵抗・
透湿抵抗の評価とWBGT基準値の補正
③作業管理:空調服などの防暑冷却服の有効性
④作業管理:休憩時や緊急時の身体冷却手法の検討
⑤健康管理:深部体温モニタリング法の開発
⑥労働衛生教育:正しい啓蒙活動(喉が渇いたら飲む、
ではない。熱中症の理解等)
115
図
116
117
図
118
予防対策のための研究課題 -主観的判断によらない対策が必須-
①環境管理:暑熱ストレス指数WBGTによる暑熱環境
評価の有効性
②作業管理:サーマルマネキンによる作業服の熱抵抗・
透湿抵抗の評価とWBGT基準値の補正
③作業管理:空調服などの防暑冷却服の有効性
④作業管理:休憩時や緊急時の身体冷却手法の検討
⑤健康管理:深部体温モニタリング法の開発
⑥労働衛生教育:正しい啓蒙活動(喉が渇いたら飲む、
ではない。熱中症の理解等)
117
図
118
119
図
120
市販の防暑服の例
119
120
20
図
121
図
122
市販の防暑服の例
121
図
122
123
図
124
空調服着用の有無と温熱的快不快感
不 快 3
空調服無
温熱的快不快感
空調服有
やや不快2
快 適 1
0
-5
0
10
20
30
40
時間 (分)
123
図
124
125
図
126
暑熱曝露実験中の快不快感の変動と空調服着用の影響
125
126
21
図
127
図
A Construction Worker Dies
from Heat Stroke (USA)
予防対策のための研究課題 -主観的判断によらない対策が必須-
A 31-year-old male concrete construction laborer
(victim) died of heat stroke near the end of a hot
summer work day.
The temperature was 31ºC on the day of the incident,
about 3ºC higher than average. Water was provided for
workers on the construction site at all times. The
victim had been working for about nine hours.
The crew foreman instructed him to lay in the shade
of a nearby tree after he complained of not feeling
well; he rested in the shade for approximately ten
minutes. When he got up to return to work saying that
he felt all right, he began staggering, became
incoherent.
Ice was applied to the victim's neck. The victim's
condition deteriorated rapidly, progressing to
unconsciousness after ambulance personnel arrived.
He was transported to a hospital, where he died
128
about an hour later.
①環境管理:暑熱ストレス指数WBGTによる暑熱環境
評価の有効性
②作業管理:サーマルマネキンによる作業服の熱抵抗・
透湿抵抗の評価とWBGT基準値の補正
③作業管理:空調服などの防暑冷却服の有効性
④作業管理:休憩時や緊急時の身体冷却手法の検討
⑤健康管理:深部体温モニタリング法の開発
⑥労働衛生教育:正しい啓蒙活動(喉が渇いたら飲む、
ではない。熱中症の理解等)
127
図
128
129
図
130
耳式体温計の有効性の再検討
予防対策のための研究課題 -主観的判断によらない対策が必須-
①環境管理:暑熱ストレス指数WBGTによる暑熱環境
評価の有効性
②作業管理:サーマルマネキンによる作業服の熱抵抗・
透湿抵抗の評価とWBGT基準値の補正
③作業管理:空調服などの防暑冷却服の有効性
④作業管理:休憩時や緊急時の身体冷却手法の検討
⑤健康管理:深部体温モニタリング法の開発
⑥労働衛生教育:正しい啓蒙活動(喉が渇いたら飲む、
ではない。熱中症の理解等)
129
図
130
131
図
予防対策のための研究課題 132
暑熱環境下での水分補給の深部体温への影響
38.8
-主観的判断によらない対策が必須-
38.6
38.4
直腸温(℃)
①環境管理:暑熱ストレス指数WBGTによる暑熱環境
評価の有効性
②作業管理:サーマルマネキンによる作業服の熱抵抗・
透湿抵抗の評価とWBGT基準値の補正
③作業管理:空調服などの防暑冷却服の有効性
④作業管理:休憩時や緊急時の身体冷却手法の検討
⑤健康管理:深部体温モニタリング法の開発
⑥労働衛生教育:正しい啓蒙活動(喉が渇いたら飲む、
ではない。主観的知覚の問題点。熱中症の理解等)
乾球温度:33.9℃、湿球温度:32.2℃、風速0.5m/sec
気温33.9℃ 湿度86%、 風速0.5m/sec
WBGT=32.7℃
38.2
38.0
37.8
37.6
強制飲水
自由飲水
脱水(3-5%)
脱水(5-8%)
37.4
37.2
37.0
0
131
22
1
2
3
4
132
身体作業 (54W) (時間)
図
133
図
高齢者と若齢者の自己選択快適温の比較
134
熱中症の主な病型
45
•
•
•
•
35
30
25
20
22 歳
67 歳
15
10
熱けいれん
熱虚脱(熱失神)
熱疲はい(熱疲労)
熱射病(日射病)
-5
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
50
55
60
65
70
75
80
85
90
95
100
105
110
115
120
選 択 環 境 温 (℃ )
40
実験時間 (分)
• 熱性浮腫・汗疹
134
133
図
135
図
136
職場の熱中症予防対策
(1)快適感・温冷感などの主観的感覚に頼らない
(2)気温、湿度、風速、日射に注意(WBGTの利用)
(3)暑いときは作業量を減らし、休憩を十分とる
(4)定期的な水分・塩分補給(喉の渇きに頼らない)
(5)通気性・透湿性のある作業服を選ぶ
(6)体温、心拍数、体重を随時測定する
(7)急な暑さに気をつけ、徐々に暑さに馴れる
(8)体調不良の時は無理をしない
(9)熱中症の徴候を知っておく
(10)体力をつけ肥満を防止する
135
図
136
137
図
137
138
138
23
図
139
図
140
熱中症ニュース
(朝日新聞、2004年7月8日)
家屋解体中、作業員の少年が熱中症で死亡(埼玉)
埼玉県蓮田市閏戸(うるいど)の家屋解体現場で7日
午後5時ごろ、作業をしていた同県上福岡市上ノ原2丁
目、家屋解体作業員○○○○さん(17)が「気分が悪
い」と訴えた。○○さんは病院へ運ばれたが、熱中症の
ため約5時間半後に死亡した。岩槻署の調べでは、
○○さんは同僚らと3人で、午前8時ごろから解体作業
を始めた。休憩中には水分もとっていたという。蓮田市
消防本部によるとこの日、同市内の最高気温は34.5
度。搬送時、○○さんの体温は39度5分で、意識は
140
はっきりしない状態だったという。
139
図
141
図
職業性熱中症発生日の屋外温熱条件(2004年7月7日)
職業性熱中症発生日のWBGTと許容基準
100
60
湿球温
WBGT
55
乾球温
相対湿度
黒球温
90
80
温度(℃)
60
50
40
40
35
30
WBGT(℃)
70
相対湿度(%)
50
45
30
20
25
作業開始
10
発症
ISO
安静
軽作業
中作業
100%
重作業
75%
50%
ACGIH
25%
作業開始
発症
0%
5:00
5:30
6:00
6:30
7:00
7:30
8:00
8:30
9:00
9:30
10:00
10:30
11:00
11:30
12:00
12:30
13:00
13:30
14:00
14:30
15:00
15:30
16:00
16:30
17:00
17:30
18:00
0
35
34
33
32
31
30
29
28
27
26
25
24
23
22
21
20
19
18
5:00
5:30
6:00
6:30
7:00
7:30
8:00
8:30
9:00
9:30
10:00
10:30
11:00
11:30
12:00
12:30
13:00
13:30
14:00
14:30
15:00
15:30
16:00
16:30
17:00
17:30
18:00
20
142
時刻
時刻
141
24
142
第 40 回
平成 19 年 6 月 2 日(土)
神奈川産業保健交流研修会
演題:
「わが国の職業性熱中症対策の最近の話題と課題」
講師:
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
国際情報・労働衛生研究振興センター長
輿
澤田 晋一先生
先生(司会):
定刻になりますので、第 40 回の神奈川産業保健推進センターにおきます平成 19 年度第 1
回の交流会を始めさせて頂きたいと思います。
今日は先生方お暑い中、行楽日和でございますし、「みなとみらい」では開港記念日の催
しがあるとか伺っておりますが、そんなときにおいで頂き本当にありがとうございます。
本日は独立行政法人労働安全衛生総合研究所の国際情報・労働衛生研究振興センター長
でいらっしゃいます澤田晋一先生に、「わが国の職業性熱中症対策の最近の話題と課題」と
いうお話をしていただくことになっております。
ご講演に先立ち、先生のご略歴を簡単にご紹介させていただきますと、
現職は、只今お話しましたようでございますが、その他三重大学の大学院医学系の研究
科の連携教授、東京大学と長崎大学の医学部医学科の非常勤講師もしていらっしゃいます。
ご専門分野は温熱の生理学でございまして、労働生理とか産業衛生がご専門でございます。
先生には実は平成 11 年にやはり作業環境の温熱ストレスの労働生理学的な問題として寒冷
に対します人体の影響についてのお話を頂きました。大変立派な資料を作っていただいて
おります。今回は今日も大変お暑く、これからはもっと暑い日もまいると思いますので、
ちょうど時期を得まして、熱中症の問題をお話下さるということになったわけでございま
す。先生は東京大学を昭和 54 年に卒業なさり、すぐ産医研にお入りになりましてほとんど
暑熱や寒冷などの温熱ストレスの生体影響のことを研究していらっしゃいます。ですから
非常に長い経歴で温熱の研究をしていらっしゃいまして、1, 2 年前の厚生労働省の熱中症予
防対策の委員会でも非常にご活躍を頂いておりました。最近の熱中症の問題をお話いただ
けるということで非常に期待しているわけでございます。また、今日は三菱重工の横浜事
業所の北原先生もおみえくださいました。北原先生も熱中症をご専門にご研究なさってい
ますので討論を楽しみにしております。皆様是非こぞって澤田先生のご講演とともに、い
ろいろ討論を深めていただければありがたいと思います。では、どうぞ澤田先生よろしく
お願いいたします。
澤田先生:
輿先生、どうもご紹介ありがとうございました。私はここで初めましてと言うのは不正
確でありまして、ご紹介にありましたように、たしか 1999 年 6 月ですか、こちらでお話を
させていただきました。そのときは温熱ストレス、暑さ、寒さ、両方話題にしたのですけ
25
れど、あの当時は寒冷のほうを中心に研究をやっていました。まとめさせていただきまし
た講演集も主に寒冷のほうでした。私は最初は 1979 年、あの当時労働省の産業医学総合研
究所というところに研究員として入りましたが、その後どんどん時代が変わり 2001 年 1 月
にはまず労働省は厚生労働省になり、産業医学総合研究所は厚生労働省の付属機関となり
ました。それも束の間半年も経たないうちに多くの国立研究機関がそうであったように、
独立行政法人化されました。2001 年 4 月から独法としての第 1 期の 5 年間を終わりました。
その後第 2 期に見直しがありまして、産業医学総合研究所と産業安全研究所、これら厚生
労働省所管の 2 つの独法研究所がシナジー効果を出すために統合するべきだということで、
去年からこの労働安全衛生総合研究所ということになりました。現在は立場上、国際情報・
労働衛生研究振興センター長ということで、安全と衛生の両方の国際情報研究振興の管理
を担当させていただき、新しい研究所の統合すりあわせ作業などに追いまくられ、正直言
って今大変な状態でなかなか新しい研究をする時間がない状況です。前回お話させていた
だいた 1999 年当時は結構まだ自由勝手に研究を楽しませていただいていたのですが、8 年
たった現在はそういう状態ではなく、ですから今回も「熱中症に関する最近の話題と課題」
ではなく本当は最新の話題なり課題をお話したいのですが、残念ながら最近、もっと正確
に言うなら、近年ですか、2, 3 年前ぐらい前からの話になります。
私の今日の熱中症の話ですが、大きく分けて 4 つあります(図1)
。
一つは、熱中症の近年の発生実態。ここ 10 年ぐらいの発生状況の特徴と発生事例につい
てお話します。二番目に日本の厚生労働省の政府レベルでの熱中症予防対策についての話。
これは先ほど輿先生がおっしゃった、2004 年に熱中症予防対策委員会を組織して参画した
私の活動を含みます。それに関連して熱中症は日本だけの問題ではなく欧米でもいろいろ
対策があります。その現状についてもお話します。最後に予防対策の課題。1 番から 3 番ま
では話題ですけれども、4 番目は課題ということです。私の私見、独断と偏見。こんなこと
をやる必要があるという研究課題について紹介したいと思います。時間が限られています
が、3 時間ですね、十分時間はあるとは思いますが。
(輿先生:先生、講演のほうは大体 1 時間半ぐらいでお願いします。大体 3 時過ぎぐら
いから少しコーヒーブレイクをとりまして、その後 1 時間ぐらいできたら討論を十分にし
たいという意向です。)
では 3 時半を目標にしてお話しします。まず、熱中症の発生の実態ですね(図2、3)。
要するにいつ、どこで、誰がどういう状況で被災しているかという話ですけれども、これ
は最近厚生労働省の統計をオープンしまして、昔は熱中症や寒冷障害などの疾病統計は、
異常温度条件として一括して報告されていてなかなか中身が分からなかった。ところが最
近熱中症が大きな問題だということで個別に統計をとっています。そこで、私の今回のデ
26
ータはそれ以前から、私が個別に厚生労働省から頂いた行政統計なんかも含めてここ 10 年
間の傾向を調べたものを紹介します。これですね(図4)
、この約 10 年間に、これは業務
上疾病発生件数ですね。
「労働衛生のしおり」によく出ていると思いますけれども、その総
数は青い点線で出ています。過去十年間に大体ほぼ確実にあらゆる疾病がトータルとして
減少しています。それに対してこの赤いところ、ここは熱中症ですね。これは異常温度条
件の中の熱中症を取り出してきたのですけれども、前半の 1994 年から 1995 年ぐらいは発
生件数が 50~80 件ぐらいで推移していました。それでもこの年猛暑で急に増えたというこ
とで注目されています。それが最近 2001 年から 2004 年の 4 年間ではこのように倍増とい
より 3 倍に近いですね。このように上がっている。ほかの物理的な因子による障害もいろ
いろありますが、これらの疾病に比べて激増しています。では次にこの内訳を見てみてい
きますと、ご存知のように夏の 7 月 8 月という暑いときにほとんど発生している(図5)。
急に暑くなる梅雨明け。今日みたいに昨日寒くて、今日また急に暑くなったときには 6 月
でも多分発生するでしょう。発生時間帯としましては、昼間の作業、午後 2 時から 4 時ぐ
らいまで(図6)。どの辺の地域で発生しているかというと、必ずしも南のほうが多いわけ
ではなく日本全国で発生している(図7)。このあたり大都市は労働者数も多いのでしょう
けれども。
じゃあどういう業種に多いかというと、これも皆さんよくご存知のことですが、昔は鉄
鋼業、製鉄業、炭鉱が多かったのですが、今はもうほとんどがこの建築業、土木業、その
他の建設業、道路運送業、清掃業、警備、商業、みんなこれは農林水産業も屋外作業です
ね(図8)。したがって 7 月 8 月ですから、夏の屋外作業にほとんど問題があるということ
ですね。
では、事業所の規模を見ていきますと(図9)、大手の、従業員数が 1,000 人とか 500 人
以上の大企業にはほとんど発生は見られませんね。50 人未満、小規模、零細こういうとこ
ろがほとんどです。やはり労働衛生管理の体制が問題になりますね。ご出席の皆さんは大
手の方が多いと思うのですが、熱中症の問題というのは規模的に言うとどうしてもやはり
こういった中小企業で問題が大きい。したがって地域の産業保健センターを介しての指導
が重要であると思われます。
今度は人間側ですね、どういう人たちが被災しているかということですが、一年未満の
経験年数が短い人、作業経験年数が短い人が作業時に被災しています(図10)
。
あと、死亡例なんですが、暑熱作業を開始して何日目に死亡したかということですが(図
11)、これも圧倒的に、一日目、二日、三日と暑いところに急にさらされてすぐに、2, 3
日で倒れるという人が多いですね。これも暑さに対する馴れの問題ということでしょう。
年齢別に見ますと中高年、40 代、50 代、60 代が 6 割以上を占めている(図12)
。
次に個々にどういう具合で発生しているかという個別事例について見てみたいと思いま
す(図13)
。なかなかこういう事例は公表されていません。私は旧国立研時代に労働省か
ら見せていただいた災害発生資料を個別に調べてみたところ興味深い事実が判明しました。
27
この事例 1 (図14)なんですけれども、これは典型的な熱射病で亡くなられた 66 歳
の男性です。気温は 34℃と高いのですが、問題は赤い文字で強調しておきました。被災者
は基礎工事をしていたんですね。当日は猛暑のために作業を休み休み行っていて、休憩時
には自動車の中で休んでいた。ところが親方に具合が悪くなったと訴えて救急車で病院に
運ばれたが熱中症で死亡。猛暑だったので暑さに対する認識があって作業を休み休み、十
分休憩しながらやった。しかも自動車の中で休憩した。でも被災してしまう。
事例 2 (図15)これもやっぱり土木業の方ですけれど、新築工事現場で炎天下、一日
作業をやりまして、エアコンをつけた中で休憩していた、ところが症状が回復せずに死亡
した。
事例 3 (図16)これは遺跡発掘業ですけれども、当日は連日の猛暑によって休憩時間
を普段より長くとったけれども被災した。
事例 4 (図17)これは建築業ですけれども、夏の直射日光の中で作業を行い、休憩は
適宜とっていた。
事例 5 (図18)これは脱水症状が発生した事例。50 歳の女性ですね。発掘作業です。
これも炎天下の作業のために適宜休憩を取り、水分(麦茶)の補給をしていた。
これらの事例で、赤字で強調しましたが何が言いたいかといいますと、連日の猛暑とい
うことは分かっていたわけですね。本人も分かっている、だから休憩をとり、ゆっくりマ
イペースで作業をし、水分もとっていた、後エアコンのあるところで休んでいた。という
ことで言わば、暑さに対する対策として一般にマスコミで言われている対策を知っている
わけです。そしてそういう対策をとっていた、にもかかわらずこうやって起こってしまっ
た。ということは、今マスコミはキャンペーンしていますけれども、ことによってはやは
りこういう知識があって危険を認知していても今後も相変わらず発生するのではないか、
ということです。
で、いままで述べた職業性熱中症の業務災害の話をまとめてみますと(図19)
、
・
最近 10 年間で発生件数が 2 倍以上。他の職業性疾病に比べてかなり違っています。
・
7 月、8 月夏場の屋外作業で多発。
・
50 人未満の小規模事業所に多発。
・
作業経験年数の少ない中高年齢者に発生する傾向がある。
あと、発生事例を検討してみますと、
・
猛暑のために、休憩時間を多めにとったり水分を補給していたにもかかわらず被災
ということになります。
今お示しいたしましたデータから最近の熱中症は夏の暑いときに屋外作業で発生してい
るということで、屋外の気象因子が当然影響します。じゃあ、その気象因子、温度や湿度
といろいろありますが、そういったものと関連してどういう屋外気象条件で発生するかを
調べた結果を次に報告します(図20)。
28
これはちょっと古いですけれど、産医研が労働省の直属研究機関であった時代のことで
すが、平成 7 年から 10 年の 4 年間労働省にあります業務疾病資料を見せてもらいました。
熱中症は 236 例ありました。その中から屋外作業時発生した 208 例をとり出しまして、そ
の発生時点の発生場所における気象条件を推定し、それと熱中症発生との関連性を分析し
てみました。屋外気象因子としましては熱中症が発生した場所のその時点での気温と相対
湿度と風速、日射量、不快指数を選びました。これは先ほどお見せした 208 例の屋外で発
生した熱中症の地理的分布です(図21)。これをどう屋外気象と関連付けるかといいます
と、日本全国に気象台がこれだけ分布しています(図22)。ここで 1 分毎に気象条件を記
録しています。そういう気象情報と熱中症発生事例をリンクさせるのです。要するに熱中
症が発生した赤い地点と一番これに近い気象台のデータとを結びつけるのです。業務上疾
病資料にはその傷病がいつどこで発生したかが記載されているので、このような解析が可
能となります。
このような方法で、まず熱中症発生時の外気温を見ますと(図23)
、ご覧のように当然
のことながら気温が高くなると熱中症の発生が増えますね。30℃ぐらいから急に増え出す。
36℃を超えますともうそれ以上増えない、ということはさすがに、そもそもこういう極端
な気温条件はめったにないかもしれないし、またあんまり暑いとさすがに作業をしないの
かもしれませんし、ちょっとその辺はどちらが原因かよく分かりませんけれども。30℃ぐ
らいで急に増えるということは、このぐらいのところでは気温の上昇は良くあることで、
そうするとあまり危険の認識がなくて作業をするということが起こる。いろいろ考えられ
ますけれども、とりあえず気温で見ると 30℃以上で急増するということが一ついえます。
しかしながら、それ未満の 20℃台でも意外に多いことが分かります。気温の次に影響しそ
うな温熱因子は湿度、いわゆる相対湿度です。そこで気温に湿度の関係を組み込んで今の
災害データをプロップしてみますと(図24)
、当然この気温が 30℃以上でプロットが密に
なっていますので発生が多いのですけれども、今私が問題にしているのは 30℃未満ですね。
このあたりで発生していますから、それがどういう湿度で起こっているかというと、この
ように極めて高い湿度、95 パーセント、90 パーセント、80 パーセントという条件で、気
温が低くても起こっている。ということでやはり、気温だけを見ていてはだめですよとい
うことですね。湿度もかなり大きな影響があるということがいえます。だから、気温が 30℃
を超えたら注意すべきですけれども、だからといってそれ以下だったらいいですよ、とい
うことにもならない。
じゃあ気温に対して、風はどうでしょうか。暑い日には扇風機を回せば当然涼しいよう
に、屋外作業も風があったらそれなりに熱中症の発生を抑制する効果があるかもしれない
ということで、今度は風速を見てみます(図25)。全体で見ますと、風速が大だから熱中
症が起こらないというわけでもなくて、気温が低くて風速が高いところでも発生すという
ことがあるんですね、まあそんなに数はありませんけれども。同じように今度は輻射熱で
すね。輻射熱は屋外では太陽放射熱が主な輻射源ですが、気象台観測データではこの測定
29
記録はなく、日射量として光の量として測定記録はあります。光の量が多ければ太陽放射
による放射熱が当然相対的に多くなりますので、全天日射量を見れば、そして日射量が多
ければ、放射熱量も多くなるだろうと仮定しまして、全天日射量と熱中症発生数の関係も
一応調べてみました。そうしますと全天日射量が多くて気温が高いと予想どおり発生数も
このように多いですね(図26)。ところが日射が無くて曇りの気温の低い日でも、発生が
あるんですね。日射量については気象台の観測データそのものがかなり欠落していまして、
残念ながらもともと日射量についてのデータが無いということで正確な実態を示している
わけではありません。しかしそれでもいえることは、日射が無くて曇りの気温の低い日で
も熱中症の発生があるということです。
今まで個別に 2 次元平面でプロットしてきましたけれども、もうちょっと総合的に要因
を組み合わせてみたらどうかということで、不快指数と風速の関係をプロットしました(図
27)。不快指数というのはご存知のように気温と湿度の複合指数ですね。それが加味され
ている軸がこの横軸です。それに対して縦軸は風速。この図は基本的にそのときの暑熱ス
トレス因子の中の日射(輻射)以外は包括している。一番複合的に、総合的に評価した図
がこれだろうと思いますが、見ていきますと、不快指数が 80 というと、暑くて汗が出る。
85 以上だと暑くてたまらない。この辺の 80~85 でやはり、ほとんど熱中症は発生してい
ます。その時に風速は関係ないですね。屋外で 7 メートル毎秒というと相当な風速だと思
います。従って体感的には結構涼しいはずなんですが、やはりこの湿度のレベルが大きい
ということでこんなに発生していますね。ところが、やはりここでまた言いたいのが、不
快指数がもっと低い、やや暑いとか、暑くないとかいう状況でも、風のあるなしにかかわ
らず依然として発生しているという状況です。
ということで、今までのデータをまとめて見ますと(図28)、
夏季の屋外作業で熱中症が発生する気象条件としましては
・
有風下でも気温 30℃以上、不快指数 80 以上で急増はします。
・
ただし、気温が 30℃未満の軽度な暑熱条件でも相対湿度が高い条件で発生します。
・
あとは 30℃以下でも日射量とか風速の大小にかかわらず発生する。
・
不快指数でいうと 70~80 の範囲でも風速のあるなしにかかわらず発生する。
ですから、気温条件だけで評価したら危ない。軽度の暑熱条件下でも熱中症は発生しま
すよ、ということになります。なぜかということなんですけれども、
・
ひとつは身体作業強度、非常に激しい肉体作業をやっている。作業服も密閉型の重
装備のもの。このような条件が組み合わさって軽度の暑熱条件でも熱中症が発生した
可能性がある。
従って、作業量と作業服を加味してなおかつ今言った気温、湿度、風速、放射温を総合
した暑熱ストレス指数によって暑熱条件を評価する必要があるということです。
30
熱中症の発生状況はこのような状況で、はじめに申し上げましたように過去 10 年間の熱
中症発生動向を見ると最近数年間にさらに倍増以上というほど熱中症が増えていますが、
国会でも問題となり厚生労働省も熱中症予防対策を検討する必要があるということで、寒
冷ばかりでなく暑熱の対策研究もやるようにという依頼が私の所に舞い込んだわけです
(図29)。
その関係で 2004 年に厚生労働省の委託を受けまして、熱中症の発生防止に係わる調査研
究委員会を設置しました(図30)
。委員長は北里大学の相沢先生になっていただきました。
委員として現場の産業医の加部先生ですね。あと経団連の安全衛生の高橋先生、建設会社
の安全環境本部のいわば現場の代表、学識経験者として私と、九州大学の人間工学の栃原
先生。さらに産業医大の堀江先生、この方はもともと製鉄所の産業医をやられていて現場
の実践的な対策に詳しいということで加わっていただきました。またメディカルな、単に
メディカルというよりも環境生理学を専攻している医師ですね、医学生理学者としてきち
んとした専門家に加わっていただくということで能勢先生、彼は信州大学医学部の環境生
理学教授、環境生理・体液生理では日本の大家ですね、世界的にも有名です。こういった
先生方に加わっていただいて委員会が発足いたしました。
で、何をしたかということですが(図31)
、この委員会が設置された背景は過去 10 年
間で 179 名が熱中症で死亡しているということで、第 10 次の労働災害防止計画で熱中症の
適切な予防対策の徹底がもとめられている。すでに先ほどお話した 10 年前のデータを見ま
すと、平成 8 年に実は夏の猛暑で熱中症での死亡が 20 名ぐらい出ている。ということで本
省からその当時依頼がありまして熱中症の予防について通達を出したいので手伝ってほし
いということでした。その結果、皆さんご存知だと思いますが、いわゆる「8 年通達」とい
うものを当時の労働省が出しました。そのとき私としては国際標準化機構 ISO や米国政府
労働衛生専門家会議 ACGIH で提案されている WBGT の導入も考えようと思ったのですが、
ある意味では日本でその基準値を導入してよいかということが必ずしもはっきりしていな
い状況があったんですね。ということで敢えて、そういう定量的な評価の導入というもの
は避けました。あくまでも作業管理、環境管理、健康管理そういった面から、いわゆる 3
管理の面から具体的にどう対策を進めたらいいかというのをまとめました。ところがその
後、ISO7243 という WBGT を使った国際規格なんですけれども、これが 1999 年ぐらいに
日本工業規格になりました。それで日本でも一応 ISO の基準を導入しても問題が無いだろ
うということになっていました。そういう経緯がありまして 2004 年の時点で委員会が組織
され、やはり 8 年通達のみならず、もうちょっと定量的に WBGT を用いて管理したほうが
よい、必要だったら基準値を決めて、基準値を超えたら作業禁止とするかそれともリコメ
ンデーションですますのか等々色々議論をして、とにかく WBGT の使用を促す通達を何と
か厚生労働省として出したいということで、そのための検討の会議を開いた。それで私が
担当したのが(図32)
、この WBGT から見た現場での暑熱曝露実態、そもそも今労働現
場でどの程度暑さに曝露しているか、それを WBGT 指数で評価する、そういう実態調査を
31
行いました。それからこの WBGT という暑熱指数が欧米の政府レベルでどのように扱われ
ているかも調べました。ところで今まで WBGT という用語を何の説明もなしに使って来ま
したが、WBGT 指数というのを皆様ご存じでしょうか。我々の業界では常識なんですがこ
れが意外に知られてないんですね。これは要するに暑熱ストレスを評価する指数です。暑
さを評価するために、これまで沢山の指数や指標が提案されてきておりますが、実際問題
としてこれほど簡便にその割に正確に評価できる実用的指数はあまりなく、国際標準化機
構 ISO でもアメリカ政府労働衛生専門家会議 ACGIH でも使っています。暑熱ストレスを
単に気温で評価するよりも、WBGT を使って評価するほうが熱中症の発生が激減した、と
いう事実が 1950 年ぐらい戦後のアメリカ海軍の軍事訓練の場合に報告されています。これ
は気温に比べて WBGT というのは色々な温熱の要素を加味しています。具体的には WBGT
計測器にはこういうセンサーが 3 つありまして(図33)、黒球温、自然湿球温、気温です
ね。気温というのは百葉箱みたいに日陰にあって太陽輻射の影響を受けない空気そのもの
の日陰の温度ですね。これが気温ですが、この気温だけでは暑熱ストレス評価には不十分
である。先ほど私が熱中症発生実態の説明をしましたが、気温と湿度の二次元プロットを
みると気温が低くても湿度が高いところで熱中症が少なからず発生していた。だから気温
だけで評価するのは不十分であり、当然湿度の影響も考慮することが必要だし、太陽輻射
(放射熱)や風速の影響も考える必要がある。そういったものをどうやって総合的に指数
化するか、そのためにこの WBGT が有用になるわけです。今この写真にありますように、
気温だけではなくほかに自然湿球温、黒球温を測るための 2 つのセンサーがあります。黒
球温はこの黒い球ですね。これで太陽放射熱(輻射熱)を測定します。黒球温と気温を同
時に測ると、もしも放射熱(輻射熱)があった場合は気温に比べて黒球温のほうが黒い球
の中に放射熱を吸収しやすく黒球温は気温に比べて高くなるんですね。このようにして黒
球温度によって、この黒い球によって放射の影響、輻射の影響がわかります。自然湿球温、
これは何かというと気温と同じ温度センサーをこのように外にむき出しにしまして、水で
湿らせたガーゼで覆うんですね。ガーゼと水を一緒にここのつぼに入れておきます。そう
するとここからガーゼを伝わってセンサーの周りから水がどんどん蒸発しますね。水が蒸
発しますと、蒸発熱で温度センサーが冷却されて温度が下がるわけです。ではこのセンサ
ーの温度が下がる要因は何か。一つはこのセンサー周りの外界空気の乾き具合ですね。も
しも周囲の空気が乾いているとしたら、ここからどんどん蒸発し、その冷却効果で温度が
下がる。もしも湿っていて高湿度だったらなかなか蒸発はしないので、冷却されずに温度
はあまり変わらない。このように自然湿球温度は蒸発による冷却力を示しており、外界の
湿度の影響が間接的に評価できる。もう一つは自然湿球温度センサーの周囲に風がビュー
ビュー吹いていたとします。そうするとここから水がどんどん対流によって蒸発し、その
結果センサーの温度が下がる。風がないと、蒸発が少ないので温度はあまり下がらない。
そういうことでこのセンサーによって風の影響もわかるといえます。このように WBGT 計
測器は、気温だけでなく放射熱、湿度、風速を同時に測っていることになります。
32
そしてその測定結果からどうやって WBGT の数値を算出するかといいますと(図34)、
この WBGT 指数として算出されますけれども、2 つ条件があって、屋内や太陽照射が無い
ところでは、自然湿球温度に 0.7 の重みをかけたものに対して 0.3 の重みを黒球温度にかけ
て足し算したものを WBGT 指数とします。太陽照射がある屋外では、自然湿球温度に 0.7、
黒球温度に 0.2、乾球温度に 0.1 の重み付けしたものを足し算して求めます。この WBGT
指数の単位は℃、摂氏ですね。WBGT 指数は摂氏何度という値になります。
それではその値を用いてどう評価するか、ということになります。これは ISO で提案し
ている許容基準値表です(図35)
。作業現場において WBGT の測定値がこの基準値を超
えているといつ熱中症が起きてもおかしくないですよ、だから何とか対策を立てなさい、
という基準となる数値です。基準値は作業代謝水準別、暑さへの順化未順化別に様々あり
ます。まず作業者が暑熱に順化しているか、順化していないかによって基準値が異なって
おり、このように順化している人はちょっと基準値をゆるく高めに設定しています。暑熱
に順化していない、暑さに慣れていない人については、危険なので厳しくなっています。
作業代謝率区分で見ますと、じっとして作業している人と、重いものを持って動いている
人では当然身体から発生する熱の状態は違ってきます。それによって 0 から 4 まで、5 段階
に基準値を分けています。さらに作業代謝率レベルが高い 3 とか 4 の状態では、気流を感
じる場合と感じない場合に分けて設定しています。以上のような基準値表によってかなり
総合的に暑熱ストレスが評価されることになります。WBGT は環境の基本的温熱要素であ
る気温、湿度、風速、放射熱が考慮された指標ですね。それに加えて人間側の条件としま
して、軽作業か激しい作業をするかどうかに分けています。もう一つは暑さに対して慣れ
も考慮しているわけで、温熱関連要素をかなり詰め込み組み合わされた結果がひとつの単
純な指標として与えられております。ただし残念ながら現在のところ、ISO の基準値は着
用衣服については通気性があって水蒸気を通す衣服標準的な作業着が前提となっています。
実際の作業現場では、安全のために厳重な装備をした作業着というのも結構多いのですが、
そのような場合はもっと基準値が厳しく上がることになります。アメリカの産業衛生専門
家会議 ACGIH でも ISO と同様の基準値表を発表していますが(図36)、このように 4 段
階の作業強度別、作業と休憩の割合別に基準を決めています。ただしこの基準値表は暑さ
に順化した作業者に適用するとしている。日本産業衛生学会でも許容基準値を提案してい
ますが、これは ISO とか ACGIH の基準値とほとんど同じです(図37)。違うのは作業強
度に RMR という日本独自の単位を使って評価するというわけですね。極軽作業から重作業
まで 5 段階別にこのような基準値が提案されています。例えば屋外建設現場の作業強度は、
おおよそ中等度作業と見込まれます。じっとしていることは無くて結構重いものを運んだ
りしますので、平均すると中程度の作業と推定されます。そうすると大体どの基準値表で
も WBGT の基準値で 28~29℃ぐらいになります。ISO の基準値では中等度の作業で 28℃
ですね。ACGIH の場合は中等度の連続作業は 27.5℃ですね。日本衛生学会でも 29~27.5℃。
以上より現実の建設現場の作業では WBGT 基準値は 28℃前後ぐらいに考えていいと思い
33
ます。それを頭に入れておいてください。その上で私の調査した作業現場の暑熱曝露実態
を紹介します。およその暑熱基準値が WBGT で 28℃ということですが、実際の暑熱作業
現場がどの程度暑いのかをこの基準値と比較してみたわけです。
調査したのは屋外作業の現場として、高層住宅マンションの建築工事、電話線接続工事、
校舎改築工事の三カ所の作業現場でした(図38)。屋内作業としては、製鋼工場炉前作業
と製鉄所炉前作業現場を調査しました。この最後の製鉄所炉前作業調査については、今日
お見えになっています川瀬先生に大変お世話になりました。
調査の測定内容については(図39)、温熱環境条件として WBGT 指数、生理的な測定
指標として、体温、皮膚温、心電図、体重を、主観的な測定指標として、暑いとか不快だ
とか、熱中症に関連する自覚症状ですね。あと作業内容のビデオ記録なども行いました。
これから順次現場の調査結果をお話していきます。まず校舎改築工事現場(図40)。こ
こでは基礎工事の場合には日陰がありませんし、地面からの照り返しも大きく暑熱ストレ
スは非常に厳しいものがあります。そういう現場でこのような作業服条件では非常に暑い
けれども、安全対策としてヘルメット、手袋、安全靴、それに長袖上衣に長ズボン、さら
には 5~10 キロぐらいの重い工具を腰に装着して作業をやらねばならない(図41)。これ
では暑さ対策を完全に無視していまして、手や足、あと頭は体温調節に非常に重要な放熱
器官ですけれども、それを全部こうやって安全装具で密閉してしまっている。ですからこ
れをつけているだけでも大変暑いわけです。建設作業現場では安全を最優先していて、こ
ういうことをやる、作業者本人は結果として安全は確保されても健康が損なわれるという
皮肉な状態になっています。
これは(図42)、8 月 10 日の朝 7 時から夕方 6 時まで一日中建設現場で環境測定した
結果です。この図を見ますと、黄色いのが気温ですね。朝から 32℃、ピークはお昼ごろで
38℃を超えていますね。作業時間帯はずっと 34℃ぐらいで夕方になってようやく 30℃を切
るぐらいになりますね。気温以外の暑熱パラメーターとして黒球温(グローブ温度)、相対
湿度、自然湿球温等色々測っており見にくい図になっていますが、注目すべきポイントは
室外の WBGT でありオレンジ色で示されたラインです。朝から 28℃を超えています。ど
んどん上がって 32℃まで上がっています。ほとんど午後 3 時ごろまで、28℃を超えていま
す。先ほど言ったようにこのような建築作業現場での WBGT 基準値は大体 28℃ぐらいだ
ろうということで、ここに緑の点線で許容基準値として示しております。ただし、この 28℃
という基準はすべて夏服軽装を前提にしていますので、先ほどの現場の写真のように作業
者は安全のためにヘルメット、手袋類を着用しています。そう考えたら、もうちょっと実
際は暑熱負担としては大きいのではないか、従って基準値は 25~26℃ぐらいと推定として
もいいのではないかと思うのですが。でも一応それは無視して、とりあえず 28℃としてい
ます。だから建設現場の夏季の暑熱曝露の実態は相当厳しいといえます。これはその 1 ヶ
月後に実施しました 9 月 8 日の建築工事現場の調査結果です(図43)。この日は残暑が強
い日で、点線で示した 28℃の許容基準ラインに対してこのオレンジ色の WBGT 測定値は
34
朝から作業時間中ずっと超えています。
次に電話線接続工事(図44)。このようによく電信柱に上って作業をしている人を見か
けますよね(図45)。炎天下にもかかわらず登りっきりで作業をしています。午前中は登
りっきりで降りてきません。この作業は非常に精巧な細かい手先の器用さとか判断力、注
意力が必要です。電話線というのは太い管の中に何百本も細かい線が入っています。新規
の接続工事だと、その中から未使用の適当な線を選りだして接続するわけですね。これは
もうすぐれた視覚認知力と注意力が非常に必要な外科手術にも相当するような精密作業で
す。それを炎天下で、お昼はさすがに降りてきますけれど、午前中ずっと登りっきり、午
後も登りっきりで作業します。
じゃ、この日の暑熱環境条件はどうだったかといいますと、この図がそれです(図46)。
この日は台風の通過した翌日でした。前の日に台風が来て、その後熱帯高気圧を運んでき
てすごく暑くなりました。8 月 31 日でしたが、朝 9 時から夕方 17 時過ぎまで、作業中 WGBT
値はで 28℃を超え、32~34℃を超える状態も多く見られました。
次に屋内の製鋼工場の調査結果をお話しします(図47)
。屋内炉で金属を溶かして鋳型
を作る作業です。これは中規模の工場ですけれども、トタン板一枚でできて吹きさらしの
建物ですから屋外気象条件の影響をもろに受けます。屋内作業でも、夏は暑く冬は寒い。
これは屋内の電気炉ですが、炉前では強い輻射熱が発生します(図47)。この工場内の
WBGT を終日測りましたら(図48)、実はこの日も外気温の影響を強く受けまして、9 月
16 日は結構涼しかったんです。その結果としてこの黄色い線で示した気温は、朝は 22℃、
上がっても日中 28℃ぐらいでした。ということで非常にしのぎやすかった。結果として工
場内の雰囲気 WBGT は 20℃から 25℃ぐらいの範囲で 28℃よりはるか下回っていました。
全体的にはそういう特徴が見えます。
ところがこれは電気炉前の作業ですが(図49)、この炉が開きますと、強い輻射熱が発
生します。電気炉で溶かした金属が、こういう大きなナベに入ります(図50)
。入れてい
る間は非常に高温の熱放射があります。結果としてこのあたりの炉前作業では、WBGT が
37~46℃で、基準値の 28℃をはるかに超えて大きな暑熱ストレスがあると思われます。こ
の天井からつり下がった大きな容器をナベといいます(図51)。電気炉で溶かした溶融金
属はこのナベで運んで、この鋳型に中吊りにして少しずつ分けているところですが(図
52)、この鋳込み作業で少し熱放射があります。ここでの WBGT は 27~29℃位、少し基
準値を超える程度です。問題はその後です。この鋳型に金属を全部流し込んだ後のナベは
ほぼ空になります。このナベをすぐに掃除しなければなりません。ナベのノズル抜き作業
といって、まずナベの熱を大きな吸引装置で排熱させます(図53)
。ここにフードがあっ
て、ここから空気をどんどん吸引させてナベに残っている熱を放熱させます。この時の作
業中に作業担当者は相当の熱に曝露します。結果として WBGT で 28℃の基準をはるかに
超える 40℃程度の暑熱ストレスを受けることになります。このようにしてナベが少し冷え
たら今度はナベの穴に目塗り作業といって、作業者がナベの中に入ってこのようにナベの
35
修繕をする作業をします(図54)
。この時にナベの中は WBGT で 33~50℃と非常に暑く
なっている。このように鋳型工場では局在するヒートスポットがありとんでもない温度に
なります。WBGT 値はこのような状況ですが、結果として作業者はどの程度の気温に直接
曝露しているかを調べるために、作業者に携帯型温度計を付けてもらい、温度センサーを
作業者の衣服の前面と背面にたらすことで個人曝露気温を連続測定しました。結果は赤い
線で示しましたが(図55)、大体 30℃前後がベースラインになっていますけれども、ご覧
のように気温で 60℃から 70℃近くまで上がっており、作業中に断続的に非常に極端な暑熱
ストレスを受けていることがわかります。これは先ほど示した局在するヒートスポットの
極端に高い WBGT 値に対応しています。
最後に製鉄所の調査結果です(図56)。これは大規模製鉄所の炉前作業です(図57)。
ここだとかなり規模も大きくて、外気温の影響も先ほどの中規模の鋳型工場に比べたらあ
まり大した影響を受けず、むしろ製鉄所の大規模高炉の開閉の影響を圧倒的に受けます。
調査した 9 月 22 日は外気温はそんなに高くない、むしろ低かった。でも製鉄所内の高炉前
の作業現場だと、高炉が開いている時は、基準値 28℃に対して WBGT で 30~33℃と高値
を示す(図58)。ところが高炉が閉鎖されると、このように 28℃程度に下がる。いずれに
しても製鉄所でも先ほどの製鋼工場と同じように作業者の近傍に断続的な非常に鋭い暑熱
暴露が短時間に繰り返しある(図59)。
以上の調査結果をまとめてみますと(図60)、猛暑を過ぎた今回の調査期間、大体 8 月
のお盆前ぐらいから 9 月の間、そういう時期でも残暑の影響が強く、ISO とか ACGIH が
提案している WBGT 基準値を超える作業がまだかなり多い。安全確保のためのヘルメット、
手袋安全靴等の防護具の着用というのは、暑熱負担をさらに増悪させている可能性がある。
炉前作業では、炉の近傍で極度の暑熱暴露が短時間に断続的にある。製鉄所や製鋼工場の
屋内作業場でも屋外温熱条件の影響を受けやすく、7, 8 月にはさらに厳しい暑熱作業となる
と考えられる。ということで、日本の夏の暑熱作業では、WBGT の基準値をはるかに超え
るというのは当たり前であることがわかります。
ではそういう条件での作業者の生理的・心理的負担はどうかということを次に調べたわ
けです。同じ作業現場で生理的・心理的な負担を調査しました。作業現場の調査の場合、
環境測定というのは比較的簡単ですね。作業を妨害することはあまりありませんから。こ
れに反して、生理心理測定というのは、作業者に電極をつけて作業中や休憩時間に何かや
ってもらうのでなかなか大変で、作業者の協力を得られるためには精密な測定はできませ
ん。なるべく作業者の負担、作業者の妨害にならないように、簡単にできることをやりま
した。簡単にできることというと、1 つは深部体温の測定ですが、これは厳密に言うと、食
道温とか直腸温を測る必要がありますけれども、代わりの方法として婦人体温計で基礎体
温を測るように舌下温を 5 分間測る必要があります。舌下温を深部体温の指標として、38℃
(暑熱未順化者)とか 38.5℃(暑熱順化者)という基準を超えたら、これはまずいですね。
これは ACGIH の基準ですけれども(図61)、これを超えた場合は作業を中止しなさいと
36
いうことです。先ほどの WBGT による許容基準は環境条件の基準でありましたが、今度は
生理的な指標としてはこういうものをモニターして、これを超えたら作業を中止しなさい、
ということです。心拍数で言うと、作業中に数分間この水準の心拍数であったら危険とい
うことになります。180-年齢が基準値であり、50 歳の人だと 130 ですね。作業中に数分
間、この値を超えたらまずいということです。体重減少率で言うと、一連続作業の前後で
1.5 パーセント以上の体重の減少があった場合、これは相当脱水が進行しているわけですね。
よって水分を補給し充分休みなさいということです。あと、自覚的症状・徴候として、突
然の激しい疲労感、吐き気、めまい、たちくらみが作業休止の目安となります。こういっ
たものをとりあえず現場で測定することにより、今紹介した調査対象現場での作業者の暑
熱負担の程度がおおよそわかります。
これはマンション建築作業者の作業前と作業直後の舌下温の測定結果です(図62)。こ
れを見ると WBGT でははるかに許容基準を超えていますが、舌下温で見るかぎり 38~
38.5℃という深部体温の許容基準は十分下回っている。ですから体温調節機能は十分維持さ
れている。同じように電話線接続工事でも(図63)、炎天下でずっと一日中電信柱の上で
作業をしているわけですが、でも舌下温はこんな状態であり安全基準値以下で充分低い。
これは校舎改築工事作業者の測定結果ですが(図64)、同じ傾向がみられる。これは製鋼
工場、鋳物工場も同じように 38℃をはるか下回っています(図65)
。製鉄所の高炉の炉前
作業についても同じです(図66)
。このようにすべての調査対象作業者で体温調節能力は
有効に機能していることがわかります。
では、循環機能はどうか。これはピンクが作業時、白が休憩時を示しています(図67)。
建築工事では朝早く 7 時半からみんな作業をするわけです。ただし終わるのは夕方 5 時。
作業中のピンクのところを見てください。点線が年齢調整した心拍数の許容限界値。この
人は 50 歳ですから 180-50 で、限界値は 130 です。この一つ一つの点が心拍数で、5 分間
の平均値。これを見ると特にこの 9 時から 10 時頃の時間帯に数分どころかずっと許容基準
値を上回る心拍水準が観察されます。35 歳の建築作業者の場合も(図68)、145 が基準値
ですけれどもこのように作業中にそれを超える心拍水準が散見されますね。なかなか休憩
中も心拍数が下がらない。この人は 46 歳の製鉄所高炉作業者(図69)。これは 9 月 21 日
に測定しました。この 46 歳の高炉作業者の場合は、135 の基準値に対して作業中心拍数が
ほとんどオーバーしていますね。深部体温は何とか正常に維持していても循環器系に関し
ては危険な状態です。
体重の減少率については、これもなかなか現場では正確には測れないんですね。誤差は
覚悟の上で朝作業前と作業終了後に測って大雑把に推定しますと、校舎建築工事作業者の
体重減少率は、1.5%を超える者が半数いる(図70)。中には充分水分をとって体重が増え
ている人もいますけれども、このように 3.3%、3.5%と大幅に減少している場合もある。
これらの例から水分補給が充分でなく脱水が結構進んでいるのではないかと思われます。
もう一つ気になる例として爆弾を抱えている現場がありました。こういう暑い現場で、こ
37
の茶色の人は、血圧が、最大血圧で 200 近くあります(図71)。ほかの人はみんな 150
を超えていません。作業時ならこの程度は正常血圧といえます。この人は高血圧と診断さ
れて降圧剤を服用しながら作業をやっているんですね。最低血圧も 100 を超えている(図
72)。でも仕事をやめるわけにはいきません。
主観的負担については、温熱的不快感を見てみますと、いずれの職場でも多くの作業者
が不快感を訴えているケースが多い(図73、74、75、76)。
これらの結果をまとめてみますと(図77)、WBGT の基準値を超える作業場はこのよう
に当たり前のようにあるんですね。でも体温、舌下温から見た深部体温については 38℃以
下の安全圏内にあるので体温調節能力は破綻していない。しかし心拍数は年齢調整した許
容限界値を越える作業者が多い。体重減少率から見て、水分補給が不十分な作業者が多い。
それから、温熱的不快感などの主観的負担を訴える傾向にある。また高血圧の作業者が一
部に見られて、十分な作業管理・健康管理が必要である。こういう状況ですから、いろん
な面で暑熱適応能力の低い作業者はいつ暑熱障害がおきるか分からない、そのような暑熱
リスクにさらされてなんとか作業を行っているということが分かります。
次に 3 番目の話題に移ります(図78)。これまで WBGT に関して主に日本の暑熱現場
を見てきましたけれども、では WBGT を欧米の政府はどのように扱っているか。すなわち、
世界各国の政府レベルで暑熱作業の法規制の根拠として WBGT をどう活用しているか、し
ていないのかということについてお話したいと思います。
私も温熱研究をいろいろな面から実施してきまして国際的にも活動している関係上、欧
米の代表的な温熱研究者とも親交があります。電話やメールで簡単に様々な情報交換がで
きる関係をもっていまして、アメリカ、EU、ベルギー、英国、デンマーク、スウェーデン、
カナダ、フィンランド、オーストラリア、イタリア、イスラエル、フランス、ドイツとい
うところ等ですが(図79)、緑で示したのは研究者の名前でこれらは皆論文等でよく見る
有名人ばかりですけれども、そういう人々に欧米の実情を問い合わせてみました。
何を聞いたかといいますと、3 つの質問をしました(図80)。「第一に、あなたの国では
暑熱作業環境について政府の政策または規制として WBGT 指数を扱っているか。第二に、
WBGT の基準値は企業にとって強制力があるか、それとも単なる勧告程度か。第三に、も
し企業の暑熱条件が WBGT 基準値を超えていて、また管理者がいかなる予防措置も講じて
いなかった場合、その企業は処罰の対象となるか」、ということですね。世界各国、特に欧
米が、WBGT についてどういう規制をしているか、みんなが法的に規制していたら日本と
しても早急にやらなければいけないことになります。
各国からの回答を紹介したいと思います。アメリカ合衆国については Ralf Goldman 博士
が回答してくれました(図81)。この人は米軍環境医学研究所の人間工学部門の創始者で
す。現在 80 歳近い高齢の学者ですが、古き良き時代の米国の紳士というか典型的なプロフ
ェッサー、真の学者という雰囲気の先生です。学会でよく会いますが非常に親切に何でも
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詳しく教えてくれます。現在アメリカの温熱の研究者としては最も古手の大家であると思
います。昔のいろんなことをよく知っています。彼はどういう回答をしたかというと、「結
論をいえばアメリカにはそういう法的規制はない。作業者に対してアメリカでは特に規制
はない。アメリカの産業労働者のための政府レベルの強制的基準はなく単なるガイドライ
ンである。ACGIH、OSHA、NIOSH では WBGT を強制ではなく勧告として扱っている。
実は 1970 年代彼も参加してアメリカ政府が WBGT 基準値を政府の規制値として活用でき
るかどうかの検討委員会を組織したようです。その時彼が学識経験者として招かれて、あ
と産業界と政府の関係代表者が集まって議論をした。そのときに産業界から猛烈な反対が
あった。もしもこの WBGT 基準値を用いて作業を休止したりすると産業活動に甚大な影響
を与えるのでそのような規制はやめてくれ、ということです。結局法的規制の導入は却下
され、ガイドラインとして ACGIH、OSHA、NIOSH が示すことになった。ただし、もし
この基準を超えた暑熱作業を行って暑熱障害が起きたら、訴訟の際にはこれらの WBGT 基
準値にたとえ法的な根拠がないとしても標準的推奨慣行として引用される可能性がある。
WBGT 基準値には法的強制力はないですよ、でも労災裁判になった場合引用されるという
ことです。そういう点では重要な指標です。ただし、産業現場ではなくて、米軍の軍事訓
練ではこの指数は強制です。WBGT 基準値を超えた暑熱環境で上官の命令で隊員が訓練を
行って暑熱障害が発生した場合は関係者は軍法会議にかけられる。米国の軍隊では勧告で
はなく強制的規制値扱いです。
ヨーロッパについては EU 全体としては特にないです(図82)。
ベルギーは、実は法令には WBGT 使用が規定されてその数値が「強制」とあるんですね、
しかしこれは一度も施行されていないという状態です(図83)。75 年以降 WBGT の基準
値を超えたということで立ち入り検査をされた企業はない。ベルギーでは別の暑熱指数で
ある PHS(必要発刊率改訂版:ISO7933)を法的規制に導入するプロジェクトが進行中と
のこと。このリーダーが Jacques Malchaire 教授、回答者本人です。
イギリスについては WBGT は強制ではない(図84)。暑熱環境のリスク評価として、
また産業現場の管理や監督のためには用いられる。イギリスではやはり強制力はないので
すけれども雇用主は安全な作業を行わせる必要があり法的問題を処理する場合その文脈で
論争されるだろう。その際に WBGT が使われていないとしたらその理由を問われることに
なろう。WBGT は強制でないにしても問題が生じた場合には根拠になりうる、ということ
です。この回答者は私の友人の Ken Parsons 教授という英国 Loughborough 大学の学部長
です。
次はスウェーデン(図85)。これも私の友人の Holmer 教授が回答してくれました。ス
ウェーデンは興味深い国ですね。WBGT 及び暑熱作業現場を評価するための規制値を示す
強制的規定はあるということです。スウェーデンでは WBGT は強制です。ただし日光によ
る暑熱曝露は適用外。もし規定に従って作業場で対策を講じていない場合には、要件を満
たすための作業時間制限が規定され、それを守らないと課徴金を支払わねばならない。最
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終的には法的措置をとる。現場管理者は規制を絶対に遵守しなければならない、と非常に
厳しい。
デンマークはスウェーデンとは海峡を挟んでお隣の国ですけれども、ここは特にそうい
う暑熱ストレスの評価を必要とするほど極端な気象条件はない。高温作業環境を放置して
いるということもないので、WBGT が政府の施策として用いられているとは思わない、と
のことでした(図86)
。
カナダについてスウェーデンと同様に興味深い国ですね。政府の施策は WBGT 指数に基
づいている。ある企業が WBGT に基づく規制を守っていないことが法廷で判決され、また
そのことが事故の原因になれば、企業は告訴される、との回答でした(図87)
。
フィンランドについては、政府による規制値は設けていない(図88)。WBGT について
は評価のツールとして用い、警告値として使っているだけであって、罰則規定はない。
オーストラリアについては、WBGT を使っているらしいけれども、政府レベルでは規制
はしていない(図89)
。
イタリアについても、WBGT は単なる「勧告」として存在していて、特に罰則規定や政
府の規制はない(図90)。
イスラエルは、軍隊については強制であり、暑熱障害が発生した場合ガイドラインに従
わなかったとして上官が軍法会議にかけられる。これはアメリカ軍と同じでやはり国の有
事の場合、イスラエルとアメリカというのは一体となって行動する、軍もそうですね。た
だし一般地域に関して特に罰則規定とか政府の規制はない(図91)
。
フランスについては、WBGT の法的な規制はない(図92)。WBGT は問題を発見する
第一段階としてのスクリーニング手段としては意味があるが、これだけでは不十分である
との見解です。フランスでは WBGT だけでなく別に Required Sweat Rate(必要発汗率)、
先ほどベルギーの時に紹介した ISO7933 という別の指標をフランスの国営電力会社などで
は用いています。
ドイツについては、単なる勧告であって強制力はない(図93)。鉱山労働者、ドイツは
依然として鉱山労働者が多いのですが、別の暑熱指数 ET を使っています。
以上の結果をまとめてみますと(図94)、強制的規制というのはスウェーデンとカナダ、
あとベルギーです。大体北の国のほうがむしろ注意している。暑熱に対する警戒心が非常
に強いですね。あと、軍隊ではアメリカとイスラエルが強制的規制をとっている。残りの
国はガイドライン。特にないのが EU とデンマーク。欧米諸国の政府レベルでの対応は大
体こんな感じです。
こういう世界各国の現状を鑑みて日本政府はどうしたかということですが(図95)、最
終的にはこういう委員会報告書を作りました(図96)。この報告書を発表した 4 ヶ月後、
ご存知だと思いますが厚生労働省は熱中症予防対策として WBGT の活用を促す通達を
2005 年 7 月に出しました(図97)
。平成 8 年には私も協力して当時の労働省が「8 年通達」
というのを作りました。始めに述べましたように、当時はまだ日本に WBGT を導入するの
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は時期尚早かと判断して 8 年通達には入れませんでしたが、ここに来て厚生労働省として
は公式に通達という形で WBGT を積極的に使いなさい、WBGT を使ってこの基準値を超
えた場合には「8 年通達」であるような対策を十分にとってください、という施策を発表し
たわけです。結局日本政府の方針も、WBGT の基準値、ISO の基準値を超えたら作業中止
ということにはならない、そこまではさすがにできないという意味では、欧米諸国と同じ
勧告値扱いとなっています。
最後に「予防対策の話題と課題」ということで、まずは予防対策の話題として一般論を
お話しした後、予防対策の研究課題として私見を述べさせていただきます(図98)。予防
対策というのは一般論として、古典的には労働衛生管理の「3 管理と 1 教育」、これが基本
原則になります(図99)。この労働衛生管理という基本原則は、非常によく考えられてい
ると今更ながら思います。どんな職場有害環境因子に対してもこれだけファーストステッ
プで見ればそれぞれのリスクに対して対策は立てられると、非常に合理的な無駄のないき
ちんとした管理原則です。環境管理、作業管理、健康管理をして情報を提供・教育をする、
という完璧な予防対策原理です。この原則を熱中症の予防対策に当てはめるとどうなるか
という各論の話をこれからします。
作業環境管理、まず作業環境をどう測定し評価するかという話です(図100)
。今まで
気温だけで暑熱環境を評価してきて、アメリカ軍ではもう経験がありますよね。気温だけ
で評価していると相変わらず熱中症が発生する。ところが WBGT 指数を使って評価管理し
たら熱中症が激減した。そういう意味で暑熱環境の評価にあたっては、気温のみならず、
湿度、放射熱、風速それに身体作業強度、衣類の熱特性を総合して行うものとする。その
ためには WBGT 指数は、現時点で簡便性、流通性、国際性、信頼性の面で最良の暑熱評価
と考えられます。ではこれを使ってどう対策を立てたらいいかということですが、すでに
述べたように ISO や ACGIH の提案した許容基準値表を目安にするわけです。
WBGT 指数が許容基準値を超えた場合には、熱源の隔離・断熱・遮断や熱放射率の低減
化、局所・全体喚気、空調、スポットクーラーの導入、屋内作業場での除湿化、屋外作業
場は屋根・壁面などの太陽放射による加熱面への散水ですね、これはある場合には結構効
果があります。また休憩室の冷房、製氷機、冷水機、水風呂、シャワーなどの身体冷却設
備を設ける。さらに作業者がいつでもどこでも水分と塩分を補給できる環境を整える。こ
ういったことが環境管理対策の基本となります。
作業管理については何をどうするか(図101)。これは一つには、作業を分業化・分散
化して、作業者一人当たりの身体作業負荷と暑熱曝露時間を減らす。自分のペースでのん
びり作業をすることを認めるという職場文化が必要ですね。これで相当身体作業負担、精
神的緊張が低減します。ところが現実は、校舎改築工事やマンション建築工事の現場を観
察しますと親方がすさまじい勢いで部下に対してこれは何時までに仕上げるように命令し
ているという具合で、とても自分のぺースでのんびり作業できる雰囲気ではない。また休
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憩時間に体温・心拍数・体重を計測して、作業前の状態に戻っていることを確認してから
作業を再開する。これは誰でも簡単にできることなので、休憩時間にまめにこういうのを
やれば、自分の危険が分かるのですが。朝来て作業前にまず体温と心拍数、体重をこれは
もう 5 分もあれば測れるわけですから。ちょっとタバコを吸うくらいの時間で、心拍数だ
って自分の脈で 10 秒ぐらい測って 6 倍すれば一分あたりの心拍数がわかりますから、この
ようにして自分の生理負担の状態をモニターする必要がある。
あと水分の補給について重要なことは、作業者がのどの渇きの感覚に頼って水分を摂取
するのではなくて作業前、作業中、作業後に水分・塩分を定期的にこまめに補給する。熱
中症発生事例でも紹介しましたように本人は水分を補給しているつもりでいる、でもやは
り脱水で倒れている。これは多分のどの渇きに頼って水を飲んでいると思うんですよ。の
どの渇きに頼って飲んでも脱水を防ぐのに十分な水分補給はできないんですね。のどが渇
いたと思った時にはもうかなり脱水は進んでいる。ですからのどが渇く前からこまめに強
制的に飲むということが非常に重要です。急に飲んだってすぐには吸収されません。さら
にのどの渇き以外に、暑熱感覚や快不快感覚を過信しない。本人は大丈夫、大丈夫と思っ
ていても、暑熱感覚や快不快感覚には錯覚みたいなものも起きますから、深部体温が上昇
していても涼しく気持ちよく感じることがある。そういう意味でその時点の暑熱感覚や快
不快の感覚をあまりあてにしないほうがいい。むしろ体温とか心拍数のような客観的生理
的指標でモニターして作業をすることが重要です。
あと、作業服については当然ながら、透湿で通気性の高いものを着用する。それから極
度に暑い条件では断熱衣や冷房服など防暑服を導入する。
健康管理については(図102)、産業医の皆さんのお得意の分野だと思いますが、予防
的な視点から言えば定期的に作業者の健康管理をすることは重要です。健康状態が悪い人
は基本的に暑熱作業は禁忌です。基礎疾患がある人は、熱中症のハイリスクグループです。
循環器疾患、糖尿病、アルコール中毒、電解質代謝障害、甲状腺機能亢進、発汗障害、発
熱、感染症などですね。それ以外に病気でなくても、暑熱未順化、水分・塩分不足、栄養
不良、飲酒、服薬、肥満、睡眠不足、病後回復期、妊娠などもリスク因子です。作業開始
時点で健康状態をチェックして体調不良の場合は作業を中止する。やむを得ず作業を行う
場合は作業時間を制限したり健康状態をモニターし、単独作業を避けお互いの健康状態を
監視しながら複数で作業する。また暑熱耐性を獲得するために、暑熱順化の訓練をする。
体力水準の向上、体力というのは耐暑性に関連する重要因子です。肥満の人は運動をしな
い傾向があり体力水準も低い、そういう意味で肥満防止と体力水準の向上に留意する。健
康な生活習慣を確立することが基本的に重要です。
労働衛生教育としましては(図103)、熱中症の兆候、病態、予防法、熱中症のリスク
要因になるようなことを知識として教える。暑さに慣れる安全な方法として段階的に一週
間ぐらいかけて徐々に行うことを教える。1, 2 週間ぐらい徐々に暑さに慣れればよいのであ
って、梅雨明けに急に暑さに曝された時に、特に新人の若い人や高齢者などに無理に作業
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をさせると救急車で運ばれて新聞記事になる、ということになります。
こういう一般的な予防対策の話題を述べてきましたが、次は予防対策の今後の課題にな
ります。労働衛生管理の 3 管理と労働衛生教育の 4 つの領域で何が研究課題として残され
ているか、私見を述べたいと思います。
作業環境管理についての課題は(図104)、WBGT 指数の有効性・妥当性ですね。WBGT
指数は基本的には国際的に合意されている。だからこのままでも当面はいいのですけれど
も、この基準値の適用範囲に関する有効性をもう少しく詳しく検討する必要があるかもし
れないと私は思っています。ISO の WBGT 基準値ですけれども、一体誰が作っているか。
ISO 国際委員会はどういうメンバーで構成されているかというと、私も日本の代表メンバ
ーの一人ですけどね。ISO の TC159 は人間工学の技術委員会です(図105)。SC5 は物
理環境サブコミッティー、WG1 は温熱環境の作業部会です。この ISO の TC159/SC5/WG1
の作業部会が温熱環境の国際規格をすべて管理しているといっていいです(図106)。こ
の作業部会は非常にアクティブで色々な温熱環境規格を提案しています。これが最近のメ
ンバーリストです(図107)。ご覧のように参加メンバーは欧米が中心です。アジアから
は日本が 3 人。これはイタリアのナポリで 2001 年に国際委員会を開催した時の記念写真で
す(図108)。こういうメンバーを中心に現在たくさんの規格が提案されたり見直しを行
ったりしています。その一つに ISO7243、WBGT に関する規格もありますが、その他にも
温熱環境の測定器全般に関する規格、温熱快適性についての規格、暑熱ストレスのより突
っ込んだ分析的評価に関する規格、エネルギー代謝の測定評価に関する規格等々、ご覧の
ように色々あって全部で 20 以上の規格があります(図109、110、111)。これは
デンマークで行われた会議の一場面ですが(図112)、このような雰囲気で規格審議が活
発に行われるわけですが、アジアから会議に参加するのは日本だけです。というわけでこ
れまで提案されてきた現行規格はヨーロッパを中心に開発されデザインされたものです。
参加メンバーの 80 パーセント以上がヨーロピアンで、3 名が一応アジアから日本人だけで
す。ですからこの WBGT の基準値表の数値は、ヨーロッパやアメリカで合意されたものが
中心となっています。だからそこで決められた基準値が必ずしもその他の地域にユニバー
サルに適用できるかという疑問が生じます(図113)。計算アルゴリズムはいいと思いま
すが、その基準値自体が果たして現行のままでいいのか。もしかしたら、アジア地域、特
に熱帯地域では当てはまらないのではないか、少し厳しすぎるのではないかなという疑問
も起こります。たとえば、ISO7243 の WBGT 基準値は暑さに慣れた作業者とそうでない作
業者別に示されており(図114)
、一応日本もこれに同意していますけれども、この暑さ
に馴れたという意味は、短期的に暑熱順化している作業者に適用できる基準値であって、
マレーシア、タイ、フィリピン、インドなどの慢性的に暑い熱帯のアジア地域の人々に適
用可能かどうかということは検証されないままになっていると思われます。もしもこの基
準値をそのまま ISO の国際規格だからと全世界に適用した場合、熱帯地域では常に基準値
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をオーバーしていることになりかねない。実際に日本の夏の屋外作業もそうですね。私の
測定結果でも基準値を結構オーバーしていましたね。従って、現行の基準値をそのまま適
用しても本当にいいのかな、オーバーエスティメイトしているんじゃないか、ちょっと厳
しすぎるのではないかなどという疑問が生じます。そういう意味で現在の私の問題意識と
しまして、現行の暑熱順化者への基準値はあくまでも 2~3 週間で暑さに馴れるレベルの短
期的暑熱順化者へ適用すべきものであって、熱帯地域のように常時暑いところでは長期的
暑熱順化の基準を追加すべきであると思っています。ISO 規格というからには国際的にユ
ニバーサルに通用すべきものであるべきですし、そのためにも長期暑熱順化というカテゴ
リーは是非とも加える必要があります。
もう一つ作業環境管理の課題としまして、サーマルマネキンによる作業服の熱抵抗、透
湿抵抗の評価があります(図115)。ISO の WBGT 基準値は夏服軽装を前提としている
ことはすでに述べましたが、実際の建設作業現場ではそんな軽装は安全のために許されま
せん。ヘルメットに手袋、安全靴、長袖上衣に長ズボン、さらに腰には工具ベルトを携帯
しているわけです。そのような作業服条件による熱負荷はどの程度加算されるかというこ
とをきちんと評価する必要があります。幸い最近うちの研究所にサーマルマネキンを導入
しました(図116)。これによって衣服の保温力とか透湿性を評価できます。今までも日
本には繊維メーカーなどにサーマルマネキンが設置されていましたが、その性能は、ただ
じっと座っている、あるいは立っているだけ。汗をかく機能はあってもじっと立っている
だけ、というものでした。ところが我々が所有しているのは、発汗可動型マネキンであり、
歩行機能と発汗機能が同時に備わっているもので、実用化されたものとしては日本に現在
一台しかありません。もう 1 台は文化女子大の田村教授の教室で開発中です。実際現場で
は汗をかいて激しい作業をするわけですからそのような条件での作業服の熱特性を評価す
る必要があります。ところが、これまで我が国でも使用されていたマネキンは、今お話し
したように静止してせいぜい汗をかく機能がある程度でありまして、労働安全衛生保護具
の現場の実態に即した評価は不可能でありました。幸いにも発汗可動型マネキンをうちの
研究所に導入できましたので、これによっていわゆる労働安全衛生防護服(具)を様々な
側面から系統的かつダイナミックに評価したい。安全のために使用した防護服が暑熱負担
という面でどの程度健康に対して問題となるか、このような研究は結構遅れていますので、
是非とも進める必要があると思っています。例えばこれはアスベスト防護服ですね。これ
を着用して予備実験をやっている風景です。(図117)アスベスト解体工事ではアスベス
トが飛散しますので、完璧な密閉型の服を着る。これなど冬やればいいですが、夏の暑い
時もありうるとすれば、作業者の暑熱負担は相当なものと思います。こういった防護服が
どの程度の保温力、透湿性を持っているかをきちんと評価したうえで、現行の WBGT 基準
値を補正することも緊急課題の一つです。
次に作業管理の課題については、市販の空調服などの防暑冷却服の有効性の検討があり
ます(図118)。市販品としてマスコミで色々宣伝はしていますけれど、本当に市場に出
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回っている防暑服を信頼できるのか、という疑問があります。例えばこの防暑服はポケッ
トに保冷剤を入れて着用します(図119)。この防暑服の有効性を人工環境室で実験的に
検討している風景です(図120)
。これも評価を依頼されたのですが、空調服の性能を実
験的に検討しました(図121)。一見快適な服でして、ジャケットの腰周りに 2 カ所小型
扇風機が内蔵されています。この性能評価を屋外と屋内の暑熱条件下で実施しました。屋
外実験は、研究所のテニスコートを使用しました(図122)。炎天下で時速 5 キロぐらい
の速さで歩行実験をしました。このように炎天下でひたすらぐるぐるテニスコートの周り
を歩き続ける。昼下がりの午後 2 時ごろです。近所の人は一体何をしているのかと不審に
思ったかもしれません(図123)。この屋外歩行実験で、非常にきれいな結果が出ました。
この図のように、空調服を着用しないほうが着用した時よりも快適である、という皮肉な
結果です(図124)。次に空調が切れた屋内オフィス作業のシミュレーションを行いまし
た(図125)。省エネ、節電のために冷房を切っているという場合も想定できます。そう
いう条件で空調服を使うと、今度は期待された通り、ある程度快適であるという結果が得
られました(図126)
。ただしこれはあくまでも温熱に対する快適さが向上した、という
だけであって、使うことによって蒸れたりする場合もあり全体的な使い勝手というのは今
ひとつという結果でした。このように今後も市販の防暑・防寒用品の信頼性を中立公平な
立場から科学的に評価する必要がありますし、独立行政法人の存在意義はまさしくこうい
う機能にあると強調したいと思います。
もう一つ作業管理の課題として、休憩時や緊急時の身体冷却手法の再検討があります(図
127)。これはアメリカで建設労働者が死亡した事例ですね(図128)。31 歳の若者。
夏の暑い日、気温は 31℃、いつもより 3℃ほど高かった。この事例でも被災者は水をちゃ
んと飲んでいます。常に作業場付近で水が飲める状況でした。9 時間作業をした結果被災し
た、と報告されています。親方が見てちょっと様子がおかしいんじゃないかということで、
被災者は日陰で 10 分休んだ。もう大丈夫ですということで起き上がって、
“He felt all right”
といいながら、作業に復帰しようとした途端に足がもつれて錯乱状態になった。
この段階で、応急措置としてアイスを首につける。これを最近教科書的にはこういう指
導をやっていますね、首とか脇の下とか股の付け根などの太い動脈が走っている場所の直
上。教科書通りの応急措置をやった結果かどうかが非常に微妙なところですが、こういう
措置をして救急車を待っている間に急速に症状が悪化して意識不明になって亡くなってし
まった。このアイスの冷却効果が間に合わなかったのか、それともアイスをつけたこと自
体が実は問題だったのか。私はこの点に非常に関心があります。熱中症の応急措置として
急速に全身を氷水に入れることは非常に危険です。ですから全身ではなくて、首や脇の下
だけだったら血液を選択的に冷やしていいだろうという理屈でやっていると思いますが、
これでももしかしたら不適切なのではないか。もう少しゆっくり冷やさないとまずいので
はないか。アメリカの災害事例はそのような応急措置の問題点を示唆しているのではない
かと想像しているわけです。だから私たちが今後実験したいのはこういう「冷やし方」の
45
程度の検討です。もちろん健康な被験者でもって危険ではない方法で評価しながら、どの
程度の冷やし方でどこを冷やせば安全な応急措置となりうるか、このアメリカの災害事例
からそんな問題意識を持たざるをえません。
次は健康管理の課題ですが、深部体温モニタリング法の開発ということです(図129)。
これはいまや一般に普及しております耳式体温計です(図130)。これで鼓膜温を測って
いると言っていますがそれは明らかに間違いです。鼓膜温を測るというのは、ちゃんと鼓
膜温センサーを鼓膜に接触させて測った温度の値をいいます。市販のこれらの温度計では、
鼓膜の温度を測定しているという保証がどこにもない。外耳道のどこかの温度を測ってい
るということしかいえませんので、鼓膜温ではなく耳内温の計測器であるというのが正確
です。
最後に労働衛生教育についての課題(図131)。正しい啓蒙活動、のどが渇いたら飲む
ではない、熱中症の正しい理解などがこれに当たります。1~2 年ぐらい前になると思いま
すが、NHK の朝のテレビ番組で、私も出たことがありますが、ある医大の救急医療の先生
が、熱中症の対策に関して、「のどが渇いたら飲む」と説明していました。この表現は明ら
かに間違ってはいないけれども、必ずしも適切とはいえない。のどが渇いたから飲むので
はすでに脱水が相当進行している可能性があります。だからその時点で飲んで、ああ満足
したという状態では必ずしも充分に水分が補給されてない可能性があります。そこで満足
してもまだ足りないんです。だから、のどの渇きにかかわらずこまめに水分を補給するこ
とが肝要だと思います。これはひとつの実験ですけれども、気温約 34℃、86%の高湿度で、
4 時間身体作業をさせました(図132)。そのときに水分補給の状態を 4 段階に分けてい
ます。まず、あえて水分補給せず脱水状態にする。これを強脱水と弱脱水状態の 2 条件設
定する。あと自由飲水と強制飲水の 2 条件設定する。この 4 条件で深部体温の上昇度を比
較しますと、ご覧のように興味深い差が認められます。脱水条件より飲水条件のほうが明
らかに直腸温の上昇度が小さい。さらに興味深いのは、同じ水を飲むにしても、自分の好
みで飲むよりも強制的に飲ませた方が直腸温の上昇が抑えられる。ということで、のどが
渇いたら飲むのではなく渇く前からこまめに飲むことが大切であることをこの実験は示し
ています。実際のどが渇いてから大量に飲んでも十分に充足されない、その時点で大量に
飲んでも十分に吸収されないということです。
もう一つ主観的知覚の問題点をお話しします。そんなに疲れてないよ、暑くないよ、私
は大丈夫、と言ったところでばったり倒れる例がしばしばあります。私が先ほど紹介した
災害事例でもそうでした。だから本人の主観に頼らず、体温とか心拍数とか客観的生理指
標をきちんと測りなさいよ、ということの重要性ですね。
これは私が昔行った実験ですが、人工気象室で被験者に 2 時間座ってもらって、ダイヤ
ルを回してもらいます。ダイヤルを左に回すと温度がどんどん下がってくる、右へまわす
と上がる。時間と温度の手がかりはなく 2 時間座ってもらって自分の不快でない好きな温
46
度をダイヤルを回して設定してもらう。結果はご覧のように(図133)、若者の場合は非
常に精密な温度調節器のようにこまめにダイヤルを回して狭い範囲に快適温度を設定する。
ところが 67 歳の老人では、低温側はそれほど温度を下げませんが、逆に温度を上げても一
向にダイヤルを回して温度を下げようとしない。それで心配になり、大丈夫ですかと確認
しても、暖かくて気持ちがいい、大丈夫だというので、ぼけたんじゃないかと思うほどで
した。一人住まいの老人で部屋の空調が切れてひっそりと熱中症で死ぬという例が一般地
域でよくあると思いますが、その背景にはこのような実験結果が示唆するところの本人が
全然暑さの危険を認知できない、そういう感覚行動特性があるのではないかということで
すね。今年の4月に私の研究所で恒例の一般公開のイベントがありまして、この実験デー
タを紹介したところ、高齢の見学者の方が「わしもこの通りだ」と非常に納得して帰って
いきました。
熱中症、特に重篤な熱射病は起こってしまったらおしまいですよね。どんなに現代医学、
再生医療が発達しても、全身的に熱によって細胞が変性・破壊してしまったら手の施しよ
うがない。そういう意味で、熱中症の先端医療というのはないのではないか、これはもう
予防しかない。
あと熱中症の病型分類に関する問題点もあります(図134)。例の NHK の番組で救急
医療の先生がこういうことも言っていたので驚いたんですけれども、日射病とは熱中症の
軽度なもので熱射病は重篤な障害である、と。我々の業界では、熱射病も日射病も重篤な
熱中症であり、日射病は屋外の炎天下の日射が原因で起こるものであると理解していたわ
けです。英語では日射病はサンストローク、熱射病はヒートストロークといいまして、い
ずれもストロークですから重篤な病態です。より軽度な病型は別に、熱虚脱、熱けいれん、
熱疲労というものがあります。熱疲労を放置すると脱水が進行して熱射病や日射病になる。
一方、熱虚脱というのは全身血行動態のバランスが崩れ、一過性に脳循環が減少して倒れ
る。この場合は、頭を下にして脳貧血を起こさないようにすればすぐに回復する。熱痙攣
については水分だけを大量に採って塩分を補給しないと体液のミネラルバランスがくずれ
筋けいれんを起こす。このように古典的にも明確に熱中症の病型が分類されていたので、
日射病が熱中症に軽度な病態という表現には驚いたわけです。これについては先ほど紹介
したアメリカのゴールドマン博士にも相談しまして日本ではこのように少々間違った分類
の考え方があると思うのだがどう考えるか?と質問しましたところ、Shin-ichi の考えが正
しいと支持されました。サンストロークとヒートストロークは同じものであるが、用語の
使用を巡って様々な混乱があるということです。
いろいろお話ししてきましたが、要するに職場の熱中症を予防するにはどうすればよい
か、素人にもわかりやすく簡潔に自分なりに熱中症予防対策の十箇条をまとめてみました
(図135)
。スポーツ熱中症対策には似たような十箇条がすでに出ていますが、これは職
場での十箇条です。
47
(1) 快適感、温冷感などの主観的感覚に頼らない。
(2) 気温、湿度、風速、日射に注意。
(WBGT を利用する)
(3) 暑いときは作業量を減らし、休憩を充分とる。
(4) 定期的な水分・塩分の補給。のどの渇きには頼らない。
(5) 作業服は通気性、透湿性のあるものを選ぶ。
(6) 体温、心拍数、体重を随時測定し、身体の状態を自分でモニターする。
(7) 急な暑さに気をつけて、徐々に暑さに馴れる。
(8) 体調不良のときは無理をしない。
(9) 熱中症の兆候を知っておく。
(10) 体力をつけて肥満を防止する。
これは、私なりに作った十か条ですけれども、まだパブリッシュしていませんから、そ
のうちにホームページなどで、公表しようとも思っています。
これが本当に最後の話題になります。ご存じの方も多いかと思いますが、うちの研究所
で発行している INDUSTRIAL HEALTH という労働衛生分野では日本で一番古い国際学
術雑誌があります(図136)。この雑誌の編集は我々国際センター部員の主要業務の一つ
ですが、産業医学総合研究所と産業安全研究所が統合され、現在の労働安全衛生研究所に
組織替えするにあたって、産医研がつぶされずに生き残ったのはこの雑誌の存在があった
ことが大きな要因のひとつでした。昨年の 7 月号ではこのような「Heat Stress at Work:
Preventive Research」という特集号を企画しました。欧米から多数の著名な研究者が論文
を投稿してくれました。実は論文が集まりすぎてこの一号だけでは掲載しきれず、翌年の 1
月号にも残りの論文を掲載しました(図137、138、139)。関心のある方は私にご
連絡いただければ、この特集号本体を差し上げます。またインターネットに PubMed とい
う無料の検索サイトがありますし、そこを介して J-Stage という全文無料公開データベー
スにもリンクしていますので、そちらを参照されても結構です。さらに今年の秋ぐらいに
「労働安全衛生研究」という和文学術雑誌をうちの研究所で創刊します。これは労働安全
と労働衛生を統合した日本で初めての学術雑誌であります。これについてもご関心ある方
は、積極的に論文投稿をお願いしたいと思います。ということで時間をずいぶんオーバー
しましたが、とりあえずここで私の話を終わりにします。
輿先生:
どうも興味深いお話を誠にありがとうございました。
残り時間が少なくなりましたが、暫くコーヒーブレークを取らせて頂きまして、16 時 20
分になりましたら質疑応答を始めさせていただきたいと思います。よろしくお願い申し上
げます。
48
質疑応答
高屋先生(司会)
:
日立製作所の高屋と申します。私のところではあまり関係がない話題だと思っておりま
したが、今日先生のお話を伺っていて、先生ご自身のフィールドワークや色々なことの中
から実態を示していただいたりとか、先生の新しいご意見とか広範なお話をなど、非常に
有意義なお話だったと思います。非常にたくさんの話題があったんですが残念ながらディ
スカッションの時間が短くなりましたが、熱中症についてお集まりの皆様大いに関心がお
ありだと思いますので先生にご質問等ございましたら手を上げていただいて、あとで記事
にする都合上実際の身分などをお話いただいてからご発言お願いします。どなたかいらっ
しゃいますか。
川瀬先生:
三菱化学で産業医をしています、川瀬と申します。本日はどうもありがとうございまし
た。最初のほうで、熱中症の発生事例を5例ほどお示しいただいた中に、猛暑で休憩時間
を多めにとり、水分を取っていたにもかかわらず被災していたという事例があったと思い
ます。その事例の被災者には結構高齢の方が多かったように記憶しているのですが、その
方々の基礎疾患の有無や生活習慣などの聴取はされているのでしょうか。
澤田先生:
私もそれは知りたいことです。もとのデータはすでに行政のほうに登録されている報告
書からのピックアップであり、報告書の中にある発生状況の記載を見ても残念ながらそれ
以上の情報はないのです。まれに基礎疾患の記載もありますが、そのような情報は記載す
る必要がありません。熱中症に限らず様々な労災事故が発生した場合、一定の書式に従っ
て記載するんですが、それだけです。私も知りたいのですが、基礎疾患や生活習慣という
のは分からないのです。さかのぼって被災者の事例を把握してレトロスペクティブに追跡
する、そこまで可能かどうかは難しい。被災者は中高年の方が多いけれども若者もいます。
ちなみにこれは行政の資料ではなく新聞の記事から引用したものです(図140)。これは
埼玉県で発生した熱中症発生事例です。新聞には名前も出ていたんですが、個人情報です
のでここでは匿名とします。熱中症に関連して特に基礎疾患とか生活習慣について記載は
ないですけれども、基本的に体力はあるからこういう職業に就いたと思うんですけれどね。
発生日は梅雨明け直後の 7 月 8 日で確かに急に暑くなった頃です。ここでも休憩中に水分
を取っていますね。それでも発生してしまった。ちょっとご質問とはずれますけれど、追
加説明させていただきますが、私も当日たまたまこの近くの地方で屋外気象条件の測定を
WBGT 指数を使って行っていました。約一週間連続測定していましたがたまたまその期間
49
内にこの新聞記事があったので、当日の暑熱条件を評価してみました。この黄色い実線が
黒球温でピンクが環境温です(図141)。この図はちょっと分かりにくいので情報をもっ
と圧縮しまして、例の ISO と ACGIH の基準値と関連させて WBGT 指数の変動を見てみま
す(図142)。そうするとこの緑の線が ISO の安静時の基準値。これが軽作業、中作業、
重作業の基準値になります。この基準値を超えた場合には赤で示した WBGT 値が非常に危
険な状態であることを示します。この日作業を開始したのが朝 8 時で、発症したのが夕方 5
時です。多分この作業は中作業に相当しますね。このように比較してみると当日は終日中
作業基準値をはるかにオーバーしていることがわかります。こういう条件で作業して、そ
れで夕方発症した。安静にしていても危ない時間帯も見られます。日本の夏の屋外作業と
いうのはこのような実態です。ISO の基準値と同時に ACGIH の基準値でも評価してみま
した。ACGIH については、先ほど各作業強度別に、一連続作業が 100%できる基準とか 25%
休憩で 75%作業できる基準とかありましたね。それで評価していますと、朝 5 時に 100%
作業していいという状態ですね。それが 5 時半、6 時と日が高くなるにしたがってぐんぐん
WBGT 値が上がってきまして、作業開始する朝 8 時前のこの時刻では作業 25%、75%休憩
という基準になってます。ところが作業開始してからずっと一日中 WBGT 基準値は ACGIH
によると作業 0%すなわち作業はしてはいけない状況になっています。だから若者に基礎疾
患があろうがなかろうが、生活習慣も前の日に大酒食らったか、徹夜マージャンをしたか、
カラオケに行ったか知りませんけれども、いずれにせよ暑熱環境ストレスレベルが相当危
険な状態であることは確かです。よくまあこんな環境で皆仕事をやっているな、という感
じですね。問題はそんな環境においても一人が被災しただけで他の仲間は頑張って作業を
していたというわけですね。耐暑性には個人差がありますからそれをどう評価するかとい
うのは 1 つありますけれども。そういう点ではハイリスク者を如何に事前に検出するか、
それは皆さんの健康管理の領域になります。とにかく言いたいことは日本の夏の屋外作業
の現状はこうだということ。非常に暑熱リスクが高い。ただし最後のほうでも述べました
が ISO の基準値というのは欧米主導で勝手に提案して、日本も温帯に属していて結構欧米
の気象条件に近いので基準値はある程度妥当であると思うのですけれども、問題は東南ア
ジアやインドなど熱帯地域の国々に対して果たしてこの基準値が適用可能かどうか。そこ
でこの基準を彼らに適用したらこの赤い WBGT のラインを多分もっと 5℃位は上げないと
いけないかと思いますね。特にインドなどではそうかもしれません。WBGT を測ることは
概ね問題ないとしても評価するときにその基準値をどうするか。現行の ISO の熱に順化し
た労働者に適用する基準値は私に言わせると短期的暑熱順化者のための基準ではないかと
思うわけです。だからこの基準をそのまま熱帯地域に適用したら厳しすぎてほとんど作業
はできないのではないか。実際のところ日本でも現行基準で規制したら夏は作業ができな
い状況になる。たまたまこのように死亡災害が発生した、だからといって 100 人が 100 人
死ぬわけではない。こういう事情ですのでなかなか難しいですね。WBGT からみれば暑熱
環境条件はすでに基準値をオーバーしていることは事実ですね。でも作業者のごく一部が
50
このように被災している。では基準値をどう設定したらいいか。平均的に言えることは、
日本よりもっと暑いインドなどでは現行の基準値はそのままでは使えないだろうなという
ことです。私も ISO の日本代表の一人ですが、私自身も必要だったらこういう規格を改定
したり、再改定したり、新規提案をしたりする立場にありますので、この WBGT 基準値に
ついて言うならば、先ほど言いましたようにヨーロッパ主導で提案された現行の規格では、
暑さに順化している、していないで基準値表が 2 分割されていますが、それにもう一つ、
長期的暑熱順化集団への基準値も入れてはじめて ISO のインターナショナルな国際規格に
なるのではと主張しているわけです。現状ではあくまでも欧米と温暖地域だけに適用でき
る、したがって現状は、ISO というよりもむしろ EU 規格。そのことを国際委員会作業部
会で問題提起したら、だったら Shin-ichi お前が新規格を提案しろ、ということになってし
まっています。ちょっと話が脱線しました。
それともう一つ。現行の基準値がこのようですから、日本の夏季の暑熱作業現場では基
準値をはるかにオーバーした暑熱曝露実態がある。アメリカの ACGIH の暑熱基準も強制で
はないですね。強制でなくて良かった。もしもこれが強制基準で違反したら法的措置をと
るとした場合は、基準値を超える暑熱条件では、作業禁止となる。これではアメリカの産
業活動に甚大な影響を及ぼす。だから先ほどお話ししたゴールドマン博士という大家が話
してくれたように、彼がかつて NIOSH や OSHA 等と政府レベルで WBGT 指数を用いて
規制しようとしたら、産業界から猛反対があった。当然ですよね。でも軍隊では適用でき
るかも知れないですね。あくまでも軍隊の訓練中の話ですが。実際戦争の時には当然適用
できませんね。戦争中に WBGT 基準値を超えたら戦闘中止と言うのは笑い話みたいですが
ありえないことです。イスラエルにしてもアメリカにしても、あくまで強制基準というの
は軍事訓練中の基準である。それは産業界では産業活動の足を引っ張るものとなり、その
ままでは適用できないということです。話がずいぶんそれてしまいました。
高屋先生:
そのほかに。
村上先生:
旭硝子の村上と申します。先生が仰るように温度に対して慣れるという問題は、これか
ら急に暑くなる時期と、8 月ぐらいになって体が馴染できた時期では、基準設定に何らかの
工夫が必要なのかと思います。我々産業医が例えば WBGT を入れて管理する場合、極力作
業を中断しないような形で指導したい。そのためには、今のお話から行くと基準を少なく
とも 2 本立てぐらいにして考えてやらないと上手くいきそうにありません。急に暑くなる
時期の基準に合わせると、体が馴染できた時期には低い基準になり、その逆にもなる。そ
の辺を上手に管理する手法を、ちょっとご指導いただければと思います。
51
澤田先生:
急に暑くなるときと、あと晩夏のころですね。旭硝子さんの場合は、人工的な暑熱環境
ですよね。炉前作業が多いのでしょうか。
村上先生:
炉前の場合は、いつも作業している訳ではありません。数十秒から数分を何回かと言う
程度です。それよりも、むしろ工場内の構造や規模が影響して、どうしても熱がこもる。
そうすると外気温以上に温度が上がり、実際に 40℃位のところで長時間作業するというこ
とになっちゃうので、むしろそういう所で働いている労働者に対してどういう指導をした
ら良いかという話ですが。
澤田先生:
急に暑くなった場合の基準として、それに対応して ISO でも ACGIH でも暑熱順化して
いない人々への基準値を提案しています。少し基準値を低めに設定しております。急に暑
くなった時とそうでない時で一応こういう目安を作った上で、それでも当然そういうこと
も頻繁にあるわけですよ。生理学的なモニタリングを行うことが現状では一番安上がりな
んじゃないかと個人的には思っています。スポットクーラーの導入とか工学的設備改善な
どいろいろ対策はありますが、外気の影響受ける屋内作業では、空調システムを取り入れ
るとなるとすごいコストがかかりますね。そうやって環境を改善して WBGT を基準値以下
にすることができないとすれば、それならむしろ、なるべく手軽に体温とか体重とか心拍
数を休憩時間にモニターして、許容基準値を超えていないかチェックする。もしも本当に
危ない状態だとしたら作業が停止するようでは困りますから、作業を分散化したりグルー
プで共同作業を行う。そういう風にやるしかないですね。それは現実問題として可能です
か。
村上先生:
実際には配置する人数が決まっていますから、休憩させるということは、残った人に負
荷がかかる。ですから残った人に対しさらなる対策を講じなければならないわけで、現実
的には体温を測るのすらムリでしょうね。
澤田先生:
ではそれでやむを得ないと言うことで作業を行っていて、もしも不幸にも事故があった
場合、遺族の訴えがあり得る。そのような場合、当然訴訟になります。WBGT も知らなか
ったというのは問題になりますね。逆に WBGT を使っていて危険は認識していた、でも措
置をとっていなかった、それももっと問題ですね。
52
村上先生:
ほかの企業さんは分かりませんが、現実に高温作業を伴う製造業などの場合、当社が特
段悪い労働条件ではなくて、我が国の製造業の多くは大体こんな様な感じではないかと思
うのです。そういう意味で、何かいいお知恵を拝借できればと思ったのですが。
澤田先生:
WBGT の活用を促す通達を厚生労働省が出した意義は大きいです。間接的に聞くところ
によれば、暑熱現場で労災事故があった場合どの程度その作業場が暑かったかを評価する
基準が曖昧であったから、労働基準監督官もそれが業務起因性か否かをどのように判断し
ていいか分からなかったようです。WBGT の通達がなかったから。それが、この通達が出
たでしょう。それで WBGT で暑熱ストレスを評価しなさいということになったのでその曖
昧な部分はある程度クリアーできたかな、と思います。多分そこが国会でも問題になった。
寒暖計を目安に経験的に色々やっていますけれども行政当局として実際にどう評価してい
いかわからない。そうすると労災事故があった時に判断の基準となるものがないから、ど
の程度そこが暑かったか、だから事故が発生した、というような評価ができない。したが
って判断基準を公式に導入したということがある意味で大きな進歩である、と考えられま
す。では次に問題となるのは、基準値を超えたらどうしようかということです。一つには、
これも積極的な方策ではないですけれども、休憩時間に生理的指標をモニターしたり、あ
と水分の補給が決定的に重要ですよね。ただし水分を補給しても、それが汗となって蒸発
しなかった場合、体温抑制効果がない。高温下で汗をかいて、それが蒸発して体が冷却す
るから初めて体温が一定に保てるわけですね、蒸発しなかったらいくら水を飲んでも体温
が上がるリスクは高いですね。お風呂に入ってるみたいに。では水分補給は無意味かと言
うと決してそういうことはありません。体温の上昇を抑制できるかどうかは保障しません
けれども、とにかく脱水を予防する。そのためにひたすら飲み続けるということしかない
でしょうね。飲み続けるというのは、のどが渇いた、激しい渇きがあったら飲むというの
では全く遅いのであって、こまめに絶えず飲み続ける。そうやって脱水を防止する。作業
服を着ていては当然蒸れて蒸発しにくいので、体温上昇抑制効果はあまりないかも知れな
い。しかしせめて脱水だけは防いで体力を維持する。暑熱ストレスという旧くて新しい問
題に対して、昔からの知恵が有効に機能してないですね。だからなかなか予防も難しいん
でしょう。水を飲み続け、体温を測って、体温が上がりそうな危険が生じたら仕事をやめ
るか。本当はやめればいいのでしょうけれども、やめられない。ではそれに対してどうす
るか、知恵を拝借と言うのはなかなか難しい。だから、あえて言えば個人レベルで防暑服
みたいなものを導入するしかないでしょうね。防暑服にしても市販品の開発メーカーは
色々都合のいいことを言いますよね。本当にそれがあたっているかと言いますと、今お見
せしたデータでもわかるように一部は当たっていますが、一部はふさわしくない。やっぱ
り利用者のために市場に出回っている製品についてどこか公的な機関できちんと安全性・
53
信頼性を評価するシステムが必要ではないか。ただ、世の中の流れとしてはそういう新製
品については勝手にどんどん作って何かあったら PL 法で製造者責任をとらせる。でもそれ
はほとんど後追いですよね。何か問題が起こって初めてアクションを起こす。本当はそう
ではなく、PL 法などは関係なく事前に生産物が出たときにきちんと公的機関で安全性・信
頼性評価するようなことが必要だと思うのでけれど。それを独立法人の労働安全衛生研究
所としては、労働衛生保護具の評価を中立的立場から公平公正に実施できる機関であるべ
きだ、と思うのですがいかがでしょう。それで話は飛びますが、最近も独立法人が沢山出
来ましております。独法は基本的には 1 期 5 年の運命でありまして、その期間が終わる前
に厳しく評価して無駄なものはつぶすという政府の方針があり、民間にできることは民間
にまかせる。だから独立法人ならではのことをやらないと認められないというそういう厳
しい現実の中で、私の問題意識としては、公的な客観的物差しを使って労働衛生保護具の
安全性・信頼性を評価できるシステムを作る、というのがシステムとしての知恵であると
思っています。個別に対応する知恵というわけには参りませんけれども。ちょっとお答え
になっていませんが。
村上先生:
現場とのやり取りで、こういう規格があります、こういう指導、ガイドラインが出てい
ますという話をしますと、担当の課長はこう申します。「出来ることを言ってくれ、出来な
いことを並べてこうしろと言われても、仕事にならない」という声が返ってきます。これ
は熱中症に限らないんですが、「安全配慮義務があるのだから、労災事故が起きたときに責
任追及されるのは、管理監督者ですよ。まあ強制はしませんけれど、出来ないと言わずに
考えてくださいよ」と言っています。先程の WBGT に限らず簡便で信頼性の高い基準値が
あったらいいなと私は願っているんです。
澤田先生:
WBGT 計測器も精密なものでは比較的大きなサイズになりますので、作業者が携帯する
のは難しい場合もあります。従って代表的な地点に設置して作業場の大まかな雰囲気しか
測れない場合が多いです。私の話の中でも紹介しましたが、製鋼工場や鋳物工場では吹き
さらしの作業場が多く、屋外気象条件の影響を受けることが多いです。だから外気温が低
いときは工場内の雰囲気温度も低くなりますが、ヒートスポットが局在しておりそこでは
作業者が断続的に非常に強い熱放射を受ける。そういう場合には、大型の WBGT 使って連
続記録することは難しいので WBGT の個人曝露量として評価できない。だから出来れば携
帯型で連続測定可能な WBGT 計を開発して、単に作るだけではなく警報装置をつけて、「あ、
今危険だ!」という機能をつければ、非常に有効だと思います。それが大量に売れれば、
価格も下がって購入しやすくなる。
54
村上先生:
おっしゃっているような簡易型のもありますね。私の担当工場はそれが数台ぐらい揃え
てあって、いろんなところで測るようになっています。それから現場を回る人に持たせる
ようにして測ってデータは収集しているんです。けれども、実際に熱中症の起った場所の
WBGT はさほど高くない。さっき言った個人の差というのが影響しているようで、大きい
声じゃ言えませんが、現実問題としてはあんまり目安になっていません。WBGT 自体は超
えてますね。もちろんはじめから超えているような状態ですね。
澤田先生:
だから、そうなると個人の生理的モニタリングです。作業中の体温ですね。ところでそ
ういった発生している障害の病態はどういうものですか。軽い熱中症ですか。
村上先生:
そうですね、熱痙攣とかそういうのが多いように思っています。何しろ、汗をグシャグ
シャにかいてちょっと気持ち悪くなるとか、筋肉が突っ張ってきたとか、そういう状態の
人を見つけたら、すぐに医療機関に受診するように指導しています。だから早期の状態し
か診ておらず、すべてを把握している訳ではないんですが、割と軽い状態で扱っていると
思っています。
澤田先生:
なるほど、そこまで実際対応されているのでしたら、さらにもうちょっと前の、気分が
悪くなって救急車で運ばれる前に、休憩時間にまめに個人で体温を測る。でも軽度の熱中
症だと体温では異常を検出できませんかね。体重や心拍数のモニタリングも必要です。い
ずれにせよ、救急車に運ぶことだけでも作業は中断するわけですね。だから、そうなる前
にまめに個人で体調管理をしておけば、作業中ちょっと休むだけでちょっと作業が中断す
るだけで問題が予防できるわけですよ。それを救急車で運んだりすると、一人、二人が欠
落するのみならず職場が大騒ぎになり作業へのインパクトも大きいわけです。そこまで行
くのなら、ちょっと作業は遅れても予防線を張ってまめに生理指標をモニターするほうが、
それを怠っていたためにその後救急車で運ばれる言うこと事態を防止するためにも、こち
らのほうがコストが小さいのではないかと。現実問題としてどうですか、自分たちでこま
めにモニターさせるというのは。
村上先生:
今のところやっておりません。実際体温も測ってないんですが、おっしゃっていた体温
を測ることを戻ってから周知しようと思います。ただ、現実の協力会社などですと、体温
を測ると言うのが非常に難しい話です。派遣の方だといいんですが、委託の場合には当然
55
協力会社さんお願いすることになります。指導はしますが我々に決定権がないので、結構
たいへんだと思います。
澤田先生:
ほう、たかが体温でも大変ですか。体温計測は理想的には直腸温や食道温が正確ですが、
現場ではとても不可能ですから百歩譲って舌下温で 5 分間でお願いします、といってもそ
の 5 分間が大変ですかね。そうなるとやや不正確でも、耳式体温計。それなら 2 秒で測れ
ますからね。それのもっと高性能なのを開発するべきですね。あれはあれで使い方はある
んです、注意して使えば。あと、口に入れて 5 分測らなくても、2 分ぐらいでというのも出
ています。一応スクリーニングとして考えれば、オーバーエスティメイトだとしても、出
来ることはやったほうがいい。
高屋先生:
モニタリングするのには、体温、心拍、体重の 3 つをモニタリングすればいいじゃない
かと言うお話だったと思いますがその中ではやっぱり体温が一番優先でしょうか。ひとつ
だけするとしたら、体温でしょうか。
澤田先生:
そうですね、一番大変なのは 39℃を超えた体温は非常に深刻です。ある意味では体温調
節機能が破綻する寸前ですね。オーバーヒート寸前です。
高屋先生:
その際に、基準にないことも、やっぱり作業前の体温を目安にする。0、何度とか言う許
容範囲というか、そこら辺はどうなんでしょうか。
澤田先生:
それは一日作業をしていますと当然体温のリズムと言うものがあるじゃないですか。日
中の 2 時とか 4 時の一番熱中症が起こりやすい時に、サーカディアンリズムの影響で体温
レベルも高いわけです。早朝明け方の基礎体温に比べて 0.5℃ぐらい差がある。朝の作業前
に計る。それは基礎体温に近いですね。でも午前中の作業を終わったお昼頃にはそこまで
戻るべきかと言うと、体温はもともとサーカディアンリズムの関係で何もしなくても上が
っていますので、そういう意味では完全に戻る必要はなくて、体温のリズムに合わせて少
し上がっていても許容していい。それにしてもやっぱり 38~39℃というのは異常ですから、
だから作業前後で 0.1、0.2 という程度の上昇はいいのではないですか。むしろ体温につい
ては絶対値として安全を見込んで 38℃を許容基準としたほうがいいと思います。
56
川瀬先生:
よろしいですか。体温を指標とすることについて、教えていただきたいと思います。例
えばスポーツ選手、マラソンランナーなどはゴールした時点で 39℃程度の体温があったと
いう報告もあったと思います。私は、作業をしている人の体内で作業負荷に伴う産熱があ
れば、必然的に体温の設定温度が上がり、ある温度で放熱と散熱のバランスをとるのでは
ないか、また、適切な水分塩分補給がなされている条件下では脱水とか熱中症に至る事態
にはならないのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。つまり、作業直後に 38℃
あった体温が休憩によって作業前の状態まで戻らなくても、その状態でバランスを取って
安定していればいいのではないかと考えたのですが、いかがでしょうか。
澤田先生:
高いところで熱平衡を保つということは確かにあると思います。しかしそれは調節され
た、セットポイントが一時的に高くなった状態、発熱のような場合ですね。しかしこの場
合は発熱ではなく、うつ熱状態です。積極的にバランスがとれているのじゃなくて、放熱
と産熱のバランスがくずれて、結果としてうつ熱になっている。だから体温の放熱機構が
少しでも減退すれば(例えば水分補給が不十分で脱水進行と発汗抑制)一気に体温上昇が
始まる。38℃まで上がるとまあぎりぎりかな、38.5℃だともう限界レベル、そう考えてお
いたほうが最悪の事態を避けられると思います。体温に関してはいわば調節範囲があるん
ですよ、高め安定で維持されてもどこかでいずれ破綻する。38℃や 39℃で維持されていて
もその後一気に上がるかなり危ない状態に入っていると考えたほうがよいかもしれません。
だから ACGIH の作業休止基準が 38℃~38.5℃だと思うのです。いったん破綻すると一気
に破綻するので、やっぱり神経質になったほうがいい。スポーツ選手だって、例のマラソ
ンの選手だって実はそれほど安心できる状態ではないと思います。
高屋先生:
まだまだご意見やご質問もたくさんあるかと思いますが、時間も過ぎてしまっておりま
すので、後でまた先生に質問がある方は聞いていただくと言うことできょうは終わりにし
たいと思います。では、最後に石渡先生に一言お願いいたします。
石渡所長先生:
この会も 40 回目になりまして、最初のころは大分あちこちからぶうぶういわれましたが、
40 回にもなればそろそろ成人で最近ではある程度企業さんからも認知されたという状況で
す。今日は澤田先生大変心を砕いて色々と貴重なお話を頂きありがとうございました。ち
ょっといくつか感想を。ひとつは先ほど 180 マイナス年齢ということでしたが、運動負荷
テストではカルボーネンの式(220-年齢)が最大心拍数と考えています。それから考える
と多分 80%ぐらい。その 80 と言うのは人間の運動機能から行くとかなりヘビーな状況にな
57
っているので、あれは外気温からの影響プラス、ワーキングによる影響などが加算されて
いますよね。あの 180 というのはすごい大変なレベルかなあと思って僕は聞いていたんで
す。80 パーセントというと運動負荷量でやると 10 分、15 分持たないんですよね。その辺
の時間とかのファクターも色々あると思いますが、いずれにしろきちっと決められるとい
うのは大変難しい、複雑なファクターも入っているので。ただ労働量の数的研究では日本
はまだ非常に少ないと思っているものですから、そういう意味では是非大いに発展をされ
ることを祈ります。あと、水分の補給で、企業では水分の補給といっても、多分現場によ
ってはみんな水道水です。お水だけ、生水だけを飲ませていいのか。例えば、少年スポー
ツの、サッカーやリトルリーグでもそうですが、あの連中は昔、スポーツドリンクのゲー
ターレードとマークのついたのをみんな格好よくて飲んでいました、大塚のポカリスエッ
トなども。あれはミネラルが入っているので子供たちは結構熱中症というのは意外と少な
いと聞いていますが。学校でも高校あたりになるとみんな学校の水を飲んでいるので、確
か川崎でも 2, 3 年前あった。だからそういう意味から行くと現場ではミネラルウォーター
ではなくて、純水または水道水なので体内のウォーターバランスがかなりくずれ、低ナト
リューム血症の状況を呈しているのではなかろうかという風に思います。昔は良く温熱職
場ではなめるための塩をおいておいた、という時代もあったんですが、今は水だけという
のは非常に危ないと僕は思います。ミネラルが必要ということをもう少し強調するほうが
いいのではという感じを持ちました。これは企業側で色々そういう熱中症の指導をすると
きにやはり考えることかなあと思いました。色々勝手なことを申しましたが、先生長い間
貴重なお話、ありがとうございました。
高屋先生:
次回について、千葉先生のほうから少しお話があります。
千葉先生:
澤田先生、本日はどうも有り難うございました。
次回は 9 月 29 日に「派遣労働者の健康問題」というテーマで開催致します。講師は、産
業医大精神保健学教室準教授の廣尚典先生です。奮ってご参加下さい。
高屋先生:
それでは今日は貴重なお話を頂いた澤田先生に、最後に盛大な拍手をお願いいたします。
58
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