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熱中症の予防と対策

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熱中症の予防と対策
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熱中症の予防と対策
富士重工業(株)宇都宮製作所
専属産業医 倉 富 靖 子
地球温暖化やヒートアイランド現象などの影
熱中症は「暑熱環境における身体の適応障害
響で夏季に猛暑といわれる日が多くなり、暑熱
により起こる状態の総称」と定義され、暑熱環
環境下で働く人たちの熱中症の発生が気がかり
境下での活動中に体温上昇や脱水などをおこし、
です。厚生労働省は年度毎に熱中症による死亡
重症では死に至る疾患です。
災害状況を発表し、その予防を呼びかけていま
熱中症は従来から熱痙攣、熱疲労、熱射病と
すが、それによりますとH18年度の熱中症死亡
いう用語で分類されていますが、最も重症であ
数は17名、内14名は建設業従事者でした。月別
る熱射病と他の用語の使用があいまいで緊急時
被災状況は7月から8月に集中し、時間帯別に
の対応の遅れにつながるとの指摘もあります。
は午後2時∼4時台に多発しています。
そのなかで早期発見と誤診防止のため、整形外
熱中症の多くは炎天下のスポーツや暑熱環境
科医の安岡正蔵先生が熱中症を重症度別にⅠ度
下の労働作業中に発症していますが、閉めきっ
∼Ⅲ度に分類し発表されています。従来の分類
た屋内で高齢者や乳幼児が発症した例もありま
と比較して(表1)に示します。
す。
表1 熱中症の重症度と症状および対処法
分類
対応する
(重症度) 従来定義
Ⅰ度
(軽度)
熱痙攣
熱失神
Ⅱ度
(中等度) 熱疲労
Ⅲ度
(重度)
熱射病
症 状
四肢や腹筋などに痛みをともなった痙攣(こ
むら返り)
立ちくらみ(数秒間くらいの失神)
対 処 法
食塩を含んだ水分(スポーツドリンクなど)
の補給で、通常はすみやかに回復
強い疲労感、めまい、頭重感、嘔気、嘔吐、 1度の対応に加え、アイスパックで腋の下
下痢、体温上昇など幾つかの症状が重な などの太い動脈部位を冷却する。
り合う。
吐き気や嘔吐で経口的に水分補給ができな
●放置又は、誤った判断により重症化し い場合は、医療機関で点滴を。
Ⅲ度へ移行する危険性を伴う。
Ⅲ度への悪化も考え、回復しても医療機関
に受診したほうが良い。
意識障害、おかしな言動や行動、過呼吸、 死亡する可能性の高い緊急事態。
ショック症状などがⅡ度の症状に重なり 体を冷却しながら、一刻も早く医療機関(専
合う。
門機関が望ましい)へ運ぶ。
深部体温(直腸温)39℃以上
いかに早く体温を下げて意識を回復させる
●重篤で血液が凝固し、多臓器不全で死 かが生命予後を左右するため現場での救急
亡する危険が高い
処置が重要
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では熱中症はどうして起こるのか、先ずは人
体の体温調節の仕組みからお話してみます。
の結果、皮膚表面での熱放散の仕組みが崩れ体
温は上昇していきます。また多湿や無風状態下
体温調節の中枢は脳(視床下部)にあり、皮
では発汗しても汗の蒸散が少ないため、それほ
膚の温度受容器や脳幹などの深部温度受容器か
ど高温でなくても体温は上昇し熱中症を起こし
らの情報を得て、体内の熱産生と体表からの熱
やすくなります。このように熱中症発生には気
放散を調節し体温を一定に保っています。
温だけでなく湿度、風量、輻射熱などの環境要
熱は主に筋肉、褐色脂肪組織、食事、内分泌
素が関係しています。この点から熱中症発生危
ホルモンによる代謝亢進作用などから産生され、
険度の目安として使われる指標にWBGT指数が
特に筋肉からの熱産生は大きく、激しい運動や
あります。
WBGT( 湿 球 黒 球 温 度 : Wet Bulb Globe
重労働作業で体温は1∼2度上昇します。
一方、熱放散の主役は皮膚血流の増大と発汗
Temperature)は人体の熱収支に影響の大きい
です。体表面では体温と外気温との温度差から
気温、湿度、輻射熱の3つを取り入れた指標で、
対流、輻射、伝導の方法で熱が放散しますが、
暑熱環境下での作業者の熱ストレスの有効な指
高温下ではこれらによる熱放散を促進するため
標とされています。WBGT値は乾球温度、湿球
皮膚血流が増大します。発汗では蒸散するとき
温度、黒球温度の値を使い計算されますが、簡
に気化熱が奪われ熱を放散します。
易に計測できる機器(熱中症指標計)もありま
以上のメカニズムで脳の熱中枢は外気温の変
す。WBGTを指標とした熱中症の危険度を乾球
化に対して体温の恒常性を保っていますが、長
温度(気温)との比較も入れて表2に示します。
時間の暑熱環境下ではどうなるでしょうか。
これとは別に厚生労働省から「WBGT熱ストレ
外気温が皮膚温よりも高くなる状況では対流、
ス指数の基準値表」が発表されています。(平成
輻射、伝導による熱放散は期待できず、発汗に
17年7月29日付け其発第0729001)これには作業
よる熱放散に頼ることになります。発汗にとも
内容(強度)に応じたWBGT基準値が設定され
ない体内の水分と塩分が失われますが、このと
ており、暑熱環境下での温度管理の指標となり
き、発汗量に応じた水分や塩分の補充が行われ
ます。その日または近日のWBGT予測値はネッ
ないと電解質のバランスが崩れたり脱水を生じ
ト上で知ることができ、熱中症予防対策につな
たりします。脱水が強くなると脳などの重要臓
がりそうです。環境省から公開されているネッ
器への血流確保のため皮膚血流量は減少し、そ
トは「環境省熱中症予防情報サイト」です。
表2 WBGTおよび気温(乾球温)と熱中症の危険度
WBGT(℃)乾球温(℃) 危険度
注 意 事 項
21∼25
24∼28
注 意
危険性は少ないが、激しい運動(作業)で発症する可能性あり。
25∼28
28∼31
警 戒
積極的に休憩をとり、充分な水分や適度の塩分を補給する。
28∼31
31∼35
31以上
35以上
厳重警戒 激しい運動(作業)や長時間の運動(作業)は自重する。
危 険
運動は原則として中止。皮膚温よりも気温のほうが高い。
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*湿度が高いときに乾球温度で危険度を判定するときは危険度をひとつ上げます。(例:警戒→厳重警戒)
おおるり 4
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熱中症を予防するための心掛けは次のようで
す。
すが、それでも発生したときには次の基本とな
る4つの応急処置をします。また、重症度に応
①暑熱順化:暑さに体が慣れているか否かは
熱中症発生の重要な要素です。統計上も暑
熱環境下の作業では開始初日から数日の間
に熱中症被災が多く見られており、暑さに
慣れていない作業者には時折休憩を入れな
がら1∼2週間かけて徐々に仕事量を増や
すなどの配慮が必要となります。
②水分と塩分の補給:作業中は0.2%の塩分を
含んだ飲料水(スポーツドリンクなど)を
こまめに摂り脱水を予防します。補給量の
目安は発汗による体重減少の70∼80%です。
じた対処法は表1を参考にして下さい。
①Rest(休息):安静にさせ、衣服を緩め、
仰向けに寝かせ足を少し挙げます。
②Ice(冷却):涼しい場所で休ませ、体の冷
却をおこなう。
③Fluid(水分補給):意識があればスポーツ
ドリンクなど塩分を含んだ飲料水を飲ませ
る。
④Emergency(緊急事態の認識):熱射病な
らいち早く医療機関に運ぶ。
熱中症のなかでも熱射病は命にかかわる危険
毎日体重を測定しておくと補給の目安にな
な状況ですが、発症後20分以内に体温を下げる
ります。
ことが出来れば確実に救命出来るといわれてい
③衣類への注意:風通しがよい。水分蒸発し
ます。医療機関に運ぶまで積極的な冷却を繰り
やすい。熱を吸収しにくい白色系のもの。
返すことが大切で、充分な水や道具が無いとき
④体調への注意:過労、発熱、かぜ、下痢な
でも、手持ちの飲料水などを口に含み患者の全
ど体調の悪いときは無理をしない。
以上のほか高齢の人、肥満の人、持久力の低
い人などは暑さに弱いことが多く、熱中症を起
身に吹きかけ、さらに衣類などで風を起こし蒸
散を促すなどの処置で少しでも体温をさげてお
きます。冷却の方法を表3に示しました。
こしやすいので注意します。梅雨明けなど急に
熱中症は誰にでも起こりえる、しかも命の危
気温が上がったときも暑さになれていないので
険性もある疾患です。いざというときの応急処
用心しましょう。
置を周知し、また日頃の作業でも予防対策に心
熱中症は予防対策で未然に防ぐことが肝要で
掛けたいものです。
表3 冷却の実際
①冷水タオルマッサージ、水かけと送風⇒皮膚血流量を確保しながら、蒸散による気化熱で冷却。
●衣類をできるだけ脱がせ、体に水をふきかける。(水は冷たいものより、常温の水もしくはぬるいお湯
が良い)
●冷水で冷やしたタオルで手足と体幹部をマッサージし皮膚血管の収縮を防止し、皮膚血流量を確保する。
●うちわ、タオル、服などで風を起こし、吹きかけた水分の蒸散を促す。
②氷(氷嚢、アイスパック)などで下記の動脈部位を直接冷却する。
両腕の腋の下(腋下動脈)/首の両側(頚動脈)/両足の付け根(大腿動脈)
*①と②を意識がもどり寒いと訴えるまで続ける。 *水が無い時は水筒の水や手持ちの飲料水を利用。
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