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報告書(3) 【発達障害】 - 独立行政法人日本学生支援機構

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報告書(3) 【発達障害】 - 独立行政法人日本学生支援機構
【発達障害】
Ⅵ
講演(2)発達障害 ~大学と医療の連携の問題
明治大学
学生相談室・あつぎ心療クリニック
福田
真也
福田です。発達障害についての基本的な話は、皆さんご存知かとは思うのですけれども、
意外とどういう障害でどういう問題があるかというのが実感としてわかってもらっていな
いことが多いので、私、精神科の医者ですので、医学の立場から基本的な話をいたします。
医学的な診断についても少し触れますが、具体的な支援については私の後の富山大学の西
村(優紀美)先生が話してくれると思いますので、合わせて理解していただければと思い
ます。
発達障害の学生について、私は長年支援をしております。今、原田先生から診断のある
発達障害の大学生が 178 人という話を聞きましたけれど、私だけでも 50 人ぐらい発達障害
の学生を知っています。だから本当に表に出ている方はごく一部で、実際はもっと数多く
おります。というのはやはり、今スライドにありますけれど、身体障害は目が不自由な方、
車いすの方とかわかりやすいですよね。大体、皆さん身体障害者手帳を持っていらっしゃ
いますし、大学生ではあまりいらっしゃらないですが、知的障害の方はIQという知能指
数を測ってわかりますし、療育手帳を持っていらっしゃいます。それから、これも僕の専
門ですけれど、精神障害の方、実は大学生にも統合失調症という精神的な病気の方がかな
り多くいらっしゃるのですが、これも精神障害者保健福祉手帳というのができて、支援に
も長年のノウハウがあります。だけど発達障害に関して言えば手帳がありません。発達障
害者手帳というのはなくて、今までは知的に問題がある方が多いとされていたので療育手
帳を取られていたのですけれど、大学生の場合はなかなか手帳が取れません。ということ
で、障害という認識をされずに在籍している学生が非常に多いです。まずそういう難しさ
があります。
また、もう1つ難しいことなのですけれど、発達障害が世間的にどういうイメージか僕
もいまいちわからないのですけれど、何か特別な人のようなイメージを持っている方もい
るかもしれません。実際は発達障害は障害という側面と、独特の性格傾向とか認知パター
ン、ちょっと変わった人というイメージもあります。疫学的なことを言えば、人口の5%
ぐらいは発達障害だろうと言われています。今日は 200 人ここにいらしてます。つまり 10
名の方は発達障害ということになります。実際かなりこの中にもいらっしゃると思います。
障害とそうでない健常の境界が非常に曖昧なのです。
これは私が勝手に作った概念で、アスペ度という用語は実際にはないのですけど、この
図の右端のように、誰が見ても自閉症的な特徴を持って問題がある方もいれば、左端のほ
とんどその特徴がない方まで連続しています。どこで線を引くか、どこで線を引いてどの
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範囲の学生を障害学生として支援するかということが非常にわかりづらい。今、私も日本
学生支援機構のワーキンググループでどういう支援策を策定するかという障害学生支援メ
ニューを考えていますけれど、誰をどこまでを対象にするかで悩んでいます。今日ここに
来ている方の中にも、実際はアスペルガーとかADHDとかLDの方がいらっしゃると思
うのですけれど、その方もたぶん、今まで特別な支援を受けたことはないでしょう。ある
いはご自身でも自分がそうかご存知ないでしょう。どこまでどういう支援をしていくかが
非常に難しいです。
ではまず、どういう問題なのかというのを、皆さんにもうちょっとわかってもらおうと
思いますので、基本的な話をこれからさせていただきます。
今日このような機会で発達障害の大学生について研修をすることになった要因として、
大きなことは特別支援教育があります。文部科学省が音頭を取って、特別支援教育が始ま
ってもう何年か経ちますけれど、LD、ADHD、高機能自閉症と呼ばれる児童・生徒が
小、中学校で今いろいろな支援が行なわれています。この方達はいずれ高校に入る、それ
から大学に入ってきます。実はすでにもう大学生の中にいっぱいいらっしゃるのですけれ
ども、今後はその特別支援教育でいろいろな支援を受けてきた方が大学に入学してきます
から、引き続いての支援が重要になってきます。その連携にはいろいろ課題があるのです
けれど、そういう点からも重要かと思います。
これは、発達障害の学生が、どんな問題が、どの時期に出るのかをまとめて書いたもの
です。入学時には、履修や修学の問題が起きます。ガイダンスの場所や日時を間違えてし
まったり、履修申告ができなかったり、教室の変更に対応できないなどの問題が起きます。
中間期には、授業やゼミでグループの中でトラブルを起こしたり、パソコンを使った授業
で関係ないネットを見てしまったりします。これらの1つ1つを見ても、いったいこの学
生が、障害を持っているかどうかというのはなかなかわからないと思います。継時的にト
ータルで見て、言われてみればなるほど発達障害かな?と思うかもしれませんが、皆さん
が普段授業で、あるいは教務部や学生部の窓口で接しても、なかなかこの学生が発達障害
かというのはわかりづらいです。ですから詳しく説明することにいたします。
まず基本的なことですけれども、発達障害とは何かということです。ここに大きく3つ
にまとめましたけれど、もともと生まれつき、あるいは非常に発達の早期から持っている
特徴、認知あるいは学習など能力のゆがみです。ゆがみというか偏りというか、定型発達
の人からちょっと外れた人達です。この持っている病理は、基本的には生まれてからずっ
と変わらないです。背景にはたぶん遺伝的なものと、お母さんのお腹にいるときの何らか
の問題があるだろうと言われています。その辺の具体的な原因はまだわかっていないので
すが、とにかく生まれつきの問題なのです。
2番目です。これもよく誤解があるのですが、親の育て方が悪いとか、学校でいじめら
れたからなるわけではありません。これは誤解しないでいただきたいです。ただ発達障害
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を持っていると、育てるのがなかなかうまくいかないことがある、それで虐待されてしま
ったり、あるいは学校でもいろいろなトラブル、いじめられたりして、その結果、例えば
不登校になってしまったり、逆に攻撃的な言動をしてしまうなど、二次的にいろいろな問
題を起こしやすくはなります。ですが、根本には認知の偏りがある、それにプラスして二
次的な問題が起きるわけです。だから、そのもともとの問題をよく理解しなければいけな
いです。
それから3番目ですけれども、医学的な意味での治療法はない、例えば薬物療法、薬で
発達障害がぱっと治るということはあり得ないです。医学的に何か根本を治す治療法とい
うのは存在しません。それだけに、大学でどのように支援するか、この学生にどういう問
題があるかを理解して、周囲が対応を考えて変える。この障害の理解と啓蒙が重要です。
ご本人に対しては今の問題を解決するための、何らかのスキルを身に付けてもらうとか、
自分の特徴を理解してもらうとか、そういう方法で今、起きている問題を解決していくと
いうことです。無理に根本を変えようとしても、変えられるものではないです。その辺を
まずご理解いただきたいと思います。
次に大学生の発達障害は大きくは3つに分かれます。1つはADHD=注意欠陥多動性
障害です。大学生では多動の方は比較的少ないから、注意欠陥障害として認識されている
方が多いかもしれません。それからLD=学習障害です。これも定義が2つあって、医療
では他の能力に問題がないのに「読み」、「書き」、「計算」のどれかがうまくできない方、
文部科学省や教育分野ではもう少し広い定義を取って、上の3つに加えて「聞く」、
「話す」、
「推論する」のどれか、または複数がうまくいかない方も含みます。要は何か特異的にあ
ること、学習上の能力に課題を持っている方です。それから3つ目が、ASDと書いてあ
りますけれども、自閉症スペクトラム、自閉症とかアスペルガー症候群と呼ばれる、主に
対人関係やこだわりの問題を起こす人達です。大体、大きくはこの3つに分かれますので、
それぞれについて順々に説明していこうと思います。
さっき原田先生のデータが紹介されましたけれど、実際どれくらい発達障害の大学生が
いるかというのは、正確なデータはないのです。おそらく国による差はそんなにないと思
われるので、他の国のデータを紹介しますと、アメリカとかスウェーデンとかイギリスで
は、大体、自閉症圏の方、ASDと呼ばれる方が1%ぐらい、ADHDの方は数パーセン
ト、3~5%ぐらい、LD、学習障害の方は4~5%いるだろうと言われています。全部
合わせますと、重複がありますので、6%近い方が発達障害なのです。これは膨大な数に
なります。日本の大学生が今二百何十万人だったと思いますので、十何万人という数です
よね。もちろん、障害としての支援を受けなければいけない方はごく僅かだと思うのです
けど、ただ、これから発達障害のことが明らかになってきていろいろな支援が進んでくる
と、かなりの数の方に我々は対応しなければいけなくなると思います。
これは文部科学省が 2002 年に特別支援教育を行なうに当たって、通常の学級に在籍する
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特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査を行なって、2003 年に発表
したものです。大きな丸にAとありますけれども、これが学習障害の方です。B、これが
注意欠陥多動性障害に当たります。右下の点線の小さい丸のCが自閉症とアスペルガー症
候群に当たるのですけれども、どれも大体、数パーセント。しかもかなり重複していて、
トータルすると大体5~6%の児童・生徒が発達障害に該当します。この方達が全員大学
に入ってくるわけではないでしょうけれども、でもこれに近い頻度はあると思います。で
すから、かなり重大な問題だということがおわかりになるかと思います。
しかし現状ではまだ発達障害と認識されている、診断された、あるいはすでに特別教育
を受けて入ってきた人はまだまだ少ないのです。そういう人達は障害ということを自他共
に認知されているから、ある意味、支援がしやすいのですけれど、現状では、大学生にな
ったけれど自分も周りも発達障害であることがわかってない方のほうが圧倒的に多いと思
います。いろいろな問題、学習上や対人関係の問題を起こして、学生相談室、保健管理セ
ンター、あるいは教務部、学生部、就職部の窓口等に来て、いろいろと困ってしまう方が
多いのだろうと思います。
では1つ目のADHDから話します。今一番有名なADHDの方はマイケル・フェルプ
ス(Michael Phelps)さんですね。この方は北京オリンピックで、水泳で8冠を取りまし
たけれども、小学校のときにすでにアメリカでADHDという診断を受けていて、物の本
によると「おまえなんかADHDだし、駄目なやつだ」と教師に言われて、すごく発奮し
て練習して、北京オリンピックで8冠という快挙を成し遂げた方です。アメリカでは特に
ADHDのスポーツ選手が多いですね。実は日本にもADHDという認識はされずに、活
躍しているスポーツ選手の中にいらっしゃいます。
ADHDとは何かという話です、アテンション・ディフィシット・ハイパーアクティビ
ティ(Attention Deficit Hyperactivity)のディスオーダー(Disorder)ですね。注意が
足りない、それから多動とか衝動性、落ち着きがなく衝動的に何かしでかしちゃう問題を
持つ人達です。それが子供のときから、小学校に入ってから以後もずっと続いている人達
をそう呼びます。
大学生だと注意が足りない方が多いのですけれど、注意というと、今、皆さんが私の下
手な話を聞いている時に、たぶん集中して聞いていたり、スライドを見ていると思うので
すけど、大学で教えていると、3限の午後になると半分の学生は寝ていますね。あれも注
意力の問題かもしれませんが、注意というと、どうしても注意し続ける、持続して集中す
るという意味しかないと思うのですけど、注意にはいろいろな意味があります。
例えば、車を運転していたら前を見るだけではなくて、横にも注意を切り替えなくては
いけないですよね。注意の分配性という意味があります。それから、例えば運転していて
変な焼け焦げた臭いがしたら、視覚から嗅覚に注意を切り替えて、路肩に止めてエンジン
をチェックするとか、そういう注意の切り替え、転換が必要なのです。分配したり転換す
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る、それが円滑にできることも注意力です。この辺に課題がある大学生がどうなるかとい
うと、例えば、持続がうまくいかなければ授業が 90 分間、聞いていられなくなるし、実習
が集中できなくなります。これは何となくわかるのですけれど、注意の分配ができないと、
自分のスケジュール、予定の管理ができなくなります。最近の履修登録はコンピューター
の助けがあるからうまくいきますけれど、以前は履修で失敗する学生が非常に多かったで
す。それから提出物の期限が守れなかったり、約束を同時に2つするダブルブッキングを
してしまったり、あるいは同時に2つのことができなかったり、そしてやたら物を失くし
ます。僕が診ているADHDの学生は、1年間に携帯を5個失くしています。大変ですよ
ね。
それから、転換することができないと、これは例えば集団で話している時、1対1では
いいのですけれど、誰か第三者から話されて、そっちに注意を向けると元に戻れない、元
の人と何を話していたのかわからなくなってしまう。あるいは話しが終わって、ペットボ
トルの蓋を閉めないで鞄に入れて、ノートパソコンをパーにしてしまった学生もいます。
このようないろいろな問題が起きるのですが、たぶんこのような問題があっても「彼はA
DHDです」と言われないと周囲の方はわからないですよね。この辺がADHDの方が理
解されづらいことだと思うのです。
大学生では比較的少ないのですけれど、落ち着かない、90 分の授業が持たない、何か突
発的にしでかす、よくあるのは非常ボタンを押してしまうなどで、さすがに大学生では少
なく、中学生ぐらいに多いようです。あるいは衝動買いをしてしまう。それから、例えば
食堂で昼ご飯のときに並べない、待てない。そういう問題を起こす学生も、それほど多く
ないけれど少数います。もちろんその方達が全員ADHDかはわかりませんが、こういう
ふうな問題の表れ方をする学生もいます。
次、2番目のLDについて説明いたします。LDがややこしいのは、定義が2つあるの
ですね。ラーニング・ディスオーダー(Learning Disorder)とラーニング・ディスアビリ
ティ(Learning Disability)。これは医療側と教育側でかなりのずれがあるのですね。医
療側より教育側、文部科学省側の定義のほうがやや広いです。これは、こういう違いがあ
るというだけなのですけれど。
純粋なLDは、ほかの能力には問題ないけれど、例えばラーニング・ディスアビリティ
という意味では、
「読み」
、
「書き」、
「そろばん=計算」、あるいは「聞いたり」、
「話したり」、
「推論する」
、のどれか、あるいは複数に障害がある人達です。と言われても、何かよくわ
からないですね。
LDの中にディスレクシア(Dyslexia)というのがあります。読み障害です。例えば、
これも有名人を出すと、トム・クルーズ(Tom Cruise)さんがそうです。映画俳優でご存知
でしょうけれども、彼は脚本を読んで覚えることができないのです。それは映画スターと
して致命的と思われますが、だからテープを聞いて台詞を覚えるということで、すごい努
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力をした方です。LDの方は結構多く、日本でもかなりいらっしゃいます。彼らは目が見
えないわけではないのです。何で読めないのかと、なかなか皆さんわからないと思います。
例えば、これがおわかりになりますか? 「Thisisapen」。こうするとわかりますよね、
「This is a
pen」。全員ではないですけれど、LDのある人達は前者のように見えてい
ます。もちろんこの4単語ぐらいの短い文だったら何となくわかりますけれど、これがず
らっと何十行も続いていたら読めないです。後のように見えるはずが、前のように見えて
いるのです。つまり入力としての視覚情報は頭に入っているのだけれど、それを頭で処理
する側の問題なのです。
別のタイプの方は、似た文字を間違えます。
「b」と「d」、
「p」と「q」、
「m」と「w」。
日本語で言えば、
「は」と「ほ」、
「め」と「ぬ」
、
「さ」と「き」
、
「る」と「ろ」、
「わ」と「ね」
ですね。例えば、これはお読みになれますか?
「きっさからほれてしたので、めれたも
のがかねせました」。何が何やらわかりません。これは実はこうです。「さっきからはれて
きたので、ぬれたものがかわきました」。こうするとわかりますよね。これがこう見えてし
まったりするから、何が何やら全然わからないわけです。
もちろん日本語は、下に書いてある「さっきから晴れてきたので、濡れたものが乾きま
した」とありますように、表意文字である漢字があります。漢字を追うだけで何となくわ
かるので、英語圏の方よりは日本語圏のほうがLDとして認識される人は少ないだろうと
言われていますけれど、とにかくこういうことです。
こういう人達が、大学まで来るのは大変だと思います。レポートとか履歴書が書けなか
ったり、教科書の活字はまだ整っているから見やすいのですけれど、例えば、今日は私は
書きませんけれど、下手で汚い字を黒板に書きますが、その板書が読めないのです。そう
すると、非常に困ってしまいます。しかし問題なのは学生自身も何でそれを自分が読めな
いのか、生まれたときからずっとそうですから理由がわからないのです。単に「成績が悪
い」、「おれは駄目な学生だ」と自分でそう思ってしまうのです。大人になってやっと気付
いて、
「あっ、そうだったのか!」という方が結構いらっしゃいます。そういう難しさがあ
ります。これが読字障害ですけれど、それ以外にも計算だけできなくて、バイト先のレジ
ができない方もいます。先ほどのADHDとLDはしばしば合併します。半分近くの方が
合併すると言われています。
これが2番目のLDについての説明で、では3番目の自閉症スペクトラム、アスペルガ
ー症候群について説明いたします。
これも有名人というか、映画を出すと、
「レインマン」という映画が私、大好きですけれ
ど、観た方いらっしゃいますか? 左側がダスティン・ホフマン(Dustin Hoffman)で、
彼が自閉症のお兄さんを演じて、右はトム・クルーズですけれど、これは健常者の役でなか
なか面白いですけれど、この「レインマン」を見た方はおわかりだと思うのですけれど、
自閉症の彼は計算とか記憶力がものすごいけど、生活能力がないですね。ずっと施設に入
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っていて、食事とか全部世話を受けなければできない。自閉症というと、どうもこういう
イメージを持たれている、たぶん「レインマン」に出てくる方は、大学ではなかなかいら
っしゃらないでしょう。それよりもどちらかというと、例えば「Mr.ビーン」のような方
が多いのではないでしょうか。Mr.ビーンは、もちろん架空の人物ですけれど、たぶんア
スペルガーなのです。自閉症スペクトラムという独特の奇抜な困った行動で、カンヌで大
混乱を巻き起こします。たぶんアスペルガーの方をモデルに作ったキャラクターですね。
こういう方は、大学でもいらっしゃるかもしれません。
医学的に整理していきます。自閉症とかアスペルガー症候群といろいろ言われています。
もともとは 1943 年にレオ・カナー(Leo Kanner)というアメリカの児童精神科医が、自閉
症の概念を出しました。知的な障害を持つ方の中で独特の行動や認知、いすをぐるぐる回
すのが好きだったり、いろいろ特徴的な症状を持つ方を「自閉症」と名付けました。ほぼ
同時に 1944 年にハンス・アスペルガー(Hans Asperger)というヨーロッパのオーストリ
アの小児科医が症例を出しました。10 歳から 11 歳ぐらいの男の子で、すごく頭が良いけ
れど独特な奇妙さというか、変わった言動、やたら大人びた言動をする子達を報告したの
ですね。
アスペルガーの報告はずっと埋もれていたのですけれど、1981 年になってウイング
(Lorna Wing)というイギリスの研究者が、実は両方とも“自閉症スペクトラム”という
同じ障害の中のタイプに過ぎないということを提唱して、今は大体、自閉症とアスペルガ
ー症候群を含む、それらの障害を1つの連続体としてまとめた自閉症スペクトラムとする、
というのが現状です。これにはまだ異論もあるのですけど、特に大学生ですと診断が何々
と議論するよりは、この方が発達障害で自閉症スペクトラムに入って、独特の問題を持つ
からそのための支援が必要だということがわかればいいので、あまり細かい分類にこだわ
ることはないかと思います。大体1%の方がそうですから、この講堂の中に2人いらっし
ゃる、ということです。
では自閉症スペクトラムとは何かというと、基本障害は3つです。コミュニケーション
の問題と社会性の問題とイマジネーションの問題とそれからくる“こだわり”なのですけ
れど、この3つを併せ持っていて、それがごくごく小さいときから一貫して大学生まで続
いている人。二次的な、脳腫瘍とか交通事故とかで起きたのではない人達を自閉症スペク
トラム、自閉症やアスペルガー症候群と呼ぼうということになっています。それでは僕が
作った赤いパンフレット(「あなたも『アスペルガー症候群』かも?」)を見ていただけま
すか。1ページ目を開いていただきますと、この3つの問題が出ています。
まずコミュニケーションの問題です。例えば、小さい子の自閉症だと話そのものができ
なかったり、反響言語といっておうむ返ししたり、何回も繰り返して話したりするのです
けど、大学生だとさすがにそんなことはないです。少なくとも、表面上の意思疎通はでき
ます。
- 32 -
ただ、例えば左下の事例を見てください。ある医療系の学科のM君という事例なのです
けれど、病院実習の前に、
「面接のときには患者さんには徐々に近づいていきなさいね」と
いう助言を指導教員から受けました。彼はどうしたかというと、実習のときにいすを一番
面接室の後ろに置いて、徐々に近づけていったのです。わかりますか?
指導教員として
は、例えば「今日はお加減いかがですか?」とか「いい天気ですね」とか、さり気ない話
題から徐々に症状とか核心の問題に触れていきなさいという助言をしたのだけど、彼はそ
の字義通りの、文字通りの物理的な意味に取ってしまったのです。端にいすを置いてだん
だん近づけていくという行動を起こして、相手の患者さんが怒ってしまいまして、すごく
成績は良い学生さんなのですが、実習の単位だけ取れなくて非常に苦労しました。言葉の
背景の意味とか非言語的な表情とか仕草とか、そういう意味でいろいろなコミュニケーシ
ョンを取ることに非常に苦労します。
そういうことがありますと、右上の2番目ですけれど、社会性とか、大学という集団の
中で暮らしていくのが難しくなります。これも事例を出しましたけれど、18 歳で男子学生
のT君は、今でこそキャンパス禁煙ですけれど、昔は新入生のガイダンスなんて紫煙でい
っぱいでしたでしょう? T君は 18 歳はたばこを吸ってはいけないから、たばこを吸って
いる新入生に、「18 歳は未成年だからたばこを吸ってはいけないんだ!」と1人1人、注
意して回って、4人目に殴られたそうです。そういった社会的な問題、間違いではないけ
れどちょっと場にそぐわない、いわゆるKYな行動を起こしてしまいます。
それから3番目のこだわりですけれど、これもいろいろな現れ方をしますが、歯医者さ
んの例を出しましたけれど、非常に完璧な義歯を作ることにこだわってしまって、患者さ
んを何時間も待たせたりとか、あるいは理由がわからないですけれど、JOMO でなくてはガ
ソリンを入れられなくてガス欠になってしまうとか、何か自分なりの枠組みがきっちり決
まっていてそれを外せないのです。枠から外れると、不安になったりパニックになったり
します。
大学生だと、授業中、自分の座る席が決まっていて、例えば別の学生が座ってそれをど
かしてトラブルになったりすることもあります。コミュニケーションと社会性、イマジネ
ーションからくるこだわりの問題、この3つをずっと続けて持っているときに、自閉症ス
ペクトラム、これらの事例ではアスペルガー症候群ということにしましょうというのが今
の見解です。
次のページです。ほかの独特な特徴もあります。真ん中にその他の特徴が書いてありま
すけど、動作などが、ちょっと不器用な感じ。実際すごく不器用な方が多いのですけど、
歩き方が独特な方もいます、全然わからない方もいますが。それからある特定の感覚に非
常に敏感な方もいるし、大体、食べ物の好き嫌いが激しいです。小学校の給食で、飢え死
にしそうになったというエピソードを話してくれる方もいます。気温とか湿度とか、環境
の変化に非常に敏感な方がいます。今日みたいな天気の悪い日だと、すぐお腹が痛くなっ
- 33 -
たり頭が痛くなったりする方もいます。ただ、どれもアスペルガーだったら必ずこうだ、
という特異的なものはないです。
逆に、上に書かれているみたいな優れた能力を持つ方もいっぱいいます。有名なのは記
憶力で、
「レインマン」の映画はそうですけれど、メジャー・リーグのプレーヤーのすべて
のポジションと成績を覚えているとか、時刻表をすべて暗記しているとかです。だから、
うまく生かせると理系の技術職、特にパソコンの得意な方は、それを生かして大成してい
る方は結構います。ただ、これらの特徴は1人1人違います。この人がアスペルガーかど
うかは、診断を受けて紹介されてこないとなかなか難しいと思います。私は医者ですが、
医者が診断をしなくてはいけないのですけれど、それにもまだいろいろな課題があります。
診断と告知の問題について述べて、私のお話をおしまいにしたいと思います。私も大体、
週に2人ぐらい、アスペルガーと思われる大学生の診察の依頼を受けますが、まだまだい
ろいろな課題があります。では診断する手順を簡単に説明します。
まず、よく説明します。これは本人に対してもそうだし、特に保護者に対してです。発
達障害あるいはアスペルガーがどういうもので、どういうことであるか、まだまだ理解さ
れていない、世間的な誤解もあります。例えばこの赤いパンフレットも使いますし、もっ
といろいろな資料も使ってかなり詳しく説明します。
その上で、いったいあなたはアスペルガーという診断を受けてどうするか、どういう役
に立つかということを必ず確認します。これは次の西村(優紀美)先生が支援の例を出し
てくれると思うのですけれど、大学で支援体制がなければ診断だけをしても、単にラベリ
ングするだけで、意味がないです。診断と告知は、ある意味、障害を一生背負うことを突
きつけるだけになります。そのためにも慎重に進めます。それらがクリアしてから、あと
は精神科の診察の普通の手順で、現症というか今の状況を見て、今どういう問題があるか
をよく検討します。これには心理検査も使います。
ただ、必要なのは発達歴の聴取なのです。生まれてから大学に入るまで、どういう問題、
先ほどのウイングの3つ組みの3つの問題、コミュニケーション、社会性、想像性の障害
がどうだったかということを、例えば母子手帳を持ってきてもらったり、小、中学校の通
信簿を持ってきてもらって確認します。通信簿の担任のコメント欄を、かなり詳しく検討
します。典型的な人はわかるのですけれど、そういう資料も使って親からもかなり詳しく
聞かないと、発達障害という診断は安易にできるものではないです。
その上で基準に当てはめて、そして告知します。あなたがこういう障害をずっと持って
いて、こうだから、こういう問題が起きている、今後はこうなるだろう、という説明を、
かなり詳しくします。この告知が大きな課題です。それから、もし大学から紹介された場
合は、大学の紹介者に助言します。先ほど言ったように、医学的な治療法があるわけでは
ないので、実際に今、彼が通っている大学でどのような支援をしてくれるかが問題です。
そのために我々の出す医療の情報をうまく使ってほしいです。このように連携していきま
- 34 -
す。
発達歴をどうとるか、などいろいろな問題があるのですが、あといくつか課題を出して、
私の話をおしまいにしようかと思います。大学での支援を行なう場合、どういう障害で、
どういう問題があるかを評価することが重要ですが、それはたぶん、まだまだ大学では十
分できないこともあるでしょう。富山大学ぐらい支援システムがきちんとあるとやってく
れると思うのですけれど、まだまだ多くの大学ではそこまでできていないです。
それと対応の基本的なことですが、本人を無理やり変えるよりも、周囲が理解するほう
が大事です。指導教員であったり、学生部の窓口であったり、ゼミの先生だったり、ある
いは就職課の方など周囲の方に、彼がどういう問題を持っていて、どう対応すればよいか
についての助言を、メンターあるいはコーディネーターと呼ばれる学内の支援者が、うま
く橋渡し役をやっていくことが基本です。そのために医療情報を使ってほしいです。その
ためにコーディネーターの育成、支援のシステム、中心となる機関、これはやはり、ぜひ
とも必要です。今、学生支援GPで、いくつかの大学で作り始めたばかりで、西村(優紀
美)先生が非常に熱心に取り組まれていますけれど、まだごく少数の大学だけの取組で、
他の大学では、そこまで正直、予算がないでしょうから大変でしょうが、やはり誰かが中
心となって、これは相談室のカウンセラーだったり保健室だったり、あるいは誰か学生部
の職員でもいいのですけど、よく研修してアスペルガー、発達障害を持つ学生とその周り
の人の橋渡し役、コーディネーターとしての役割をぜひ果たしてほしいと思っています。
そのために医療からの情報を使っていただければと思います。
ただ、まだいろいろな課題があります。午後に支援体制の話も出ると思いますし、今日
の話はたぶんはじめて聞かれた方が多いですよね。発達障害のことは全ての教職員に知っ
ていて欲しいことなので、僕も全国の大学を飛び回って講演していますけど、まだまだ講
演とか啓蒙が必要だと思っています。
以上で私の話はおしまいにいたします。
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発達障害
~大学と医療の連携の問題~
平成20年度障害学生修学支援セミナー 講演
2009年1月30日
明治大学学生相談室
あつぎ心療クリニック
福田真也
★いろいろな障害を比較
A)身体障害(視覚/聴覚・言語/肢体不自由)
→わかりやすい:身体障害者手帳
B)知的障害
→数値化しやすい:療育手帳(多くはIQ<70)
C)精神障害
→人数多く長年の蓄積:精神障害者福祉手帳
D)発達障害
→見えにくく、ノウハウが乏しい、手帳がない!
- 36 -
発達障害の大学生の理解はなぜ必要か
既に多くの発達障害の大学生がいます。
「特別支援教育」:従来の特殊教育の対象だけでなく,
LD,ADHD,高機能自閉症等の発達障害のある
幼児児童生徒の自立や社会参加に向けて,その一人
一人の教育的ニーズを把握して,そのもてる力を高め,
生活や学習上の困難を改善克服するために,適切な
教育や指導を通じて必要な支援を行う
(平成19年4月1日施行)
→義務教育で注目されている障害で、いずれ(既に)
大学生になります。
★大学生活の時期による問題
• 入学時(履修や就学上の問題)
ガイダンスの場所・日時を間違える。履修申告ができない
(必修と選択の意味がわからない、好きな課目だけ履修する
履修してない科目を受講する、Web登録できない)
教室変更に対応できない、ノートが取れない、90分の授業
に耐えられない(高校50分→大学90分)
• 中間期(授業やゼミ、実験、実習での問題)
ゼミや実験のグループでトラブルを起こす。
異性とのトラブル。
パソコンを使った授業で関係ないHPをみる/集中できない。
レポートが書けない、提出期限に間に合わない。
指示内容がわからない、指示と違うことをする。
学外実習でトラブルを起こす。
• 卒業時(卒業論文と就職活動)
就職活動の手順がわからない、就職課で相談できない、
自分のやりたい職業が分からない/決められない、合わない/
できそうもない職業を希望する、就職活動ができない、面接
ができない
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★発達障害とは?
1)生まれつき、あるいはごく早期からもっている
特徴でその根本的な病理はあまり変化なく終生
続く。
2)親の養育や学校でのいじめなど、社会環境の
問題で起きるものではない。
(ただし虐待やいじめにあいやすく、二次的
問題を生じ複雑な病像を示すことも)
3)薬物療法などで医学的に根本を治す治療法は
ないが、問題を理解して環境や周囲の対応を
改善することで、現実の問題は十分に解決可能
である。
★大学生の発達障害の分類
• ADHD:注意欠陥障害
(大学生では多動は少ない)
• LD:学習障害
医療:「読み、書き、計算」のどれか或いは
複数が選択的に問題のある人
教育:上記に加えて、「聞く、話す、推論」の
どれか、あるいは複数が問題ある人
• ASD:自閉症スペクトラム
=自閉症とアスペルガー症候群
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★どれくらいの発達障害の大学生がいるか?
・今までの発表もどれくらいの相談があったか
に限られ、大学生全体の中での大学生の
正確なデータをいまだにない。
ちなみに最近の諸外国の疫学データでは
◆ASD(自閉症スペクトラム・アスペルガー)
の方が1%
◆ADHDの方が3~4%
◆LDの方が5%
との報告が多い。
A 「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」に困難
B 「不注意」または「「多動性-衝動性」の問題を示す
C 「対人関係やこだわり等」の問題を示す図
☆文部科学省HP、今後の特別支援教育の在り方について(中間まとめ)
「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」
調査結果(2002)より
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★大学生の発達障害の人たちは
A:既に児童期に診断を受けて大学に入学した。
・特徴は比較的明確。
・障害の認知はある程度できている。
→特別支援教育の拡充で今後増えると予想
B:大学生になるまで自他共に認識していない。
・大学での問題ではじめて可能性が疑われた。
・知的レベルは高い、特徴は軽微でわかりずらい。
★ADHD とは何か
ADHD::Attention
注意
Deficit
欠如
Hyperactivity 多動
Disorder
障害
不注意、多動、衝動性の三つが主な問題
DSM-4:「不注意優勢型」、「多動性・衝動性
優勢型」、「混合型」に分類
成人の4%がADHDといわれる(アメリカ)
男性>女性(2~10:1)
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★注意力の三つの側面
例:運転:
◇ 注意を持続させる →「持続性」
運転している間、集中していなければならない
◇ 注意を全体に配る →「分配性」
前方に注意しながらバックミラーも見る、
他の車のクラクションに気を配る
◇ 注意を切り替える →「転換性」
より重要なことに注意を切り替える
焦げた臭い→エンジンが焼けたと思って止める
(注意力⇔実行機能)
★大学生のADHDの問題1
・注意の「持続性」の問題
<課題・作業を最後まで集中し終わらせられない>
飽きっぽい(自分の好きなことには集中できる)
→レポートが完成しない、授業が最後まで聞けない
・注意の「分配性」の問題
<自分のスケジュールや全体に目を配ることができない>
→予定管理ができない/履修が組めない
→提出物の期限を守れない、約束の時間にこられない
→ダブルブッキングをする/同時に二つのことができない
→やたらと物を失くす。
・注意の「転換性」の問題
<複数のことを順序だててできるか>
→グループで話しているときについていけない
→ペットボトルの蓋を閉めずにカバンにいれてしまう。
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★大学生のADHDの問題2
「衝動性や多動の問題」
• 気が短く,落ち着きがない
• 突発的になにか口走る
• 突発的に何かしでかしてしまう
• 衝動買い
• 割り込み、行列を待てない
(個人差が大きいが、大学生では少ない)
★LDの定義は複数ある!
Learning Disorder(児童精神科医療)
Learning Disability(教育、障害児福祉)
他は問題ないのにある能力だけが問題を持っている人。
☆医療(児童精神科医療)では
1)「読み」「書き」「計算」の一つ、或いは複数が障害
☆教育(文部科学省)では
2)「読み」「書き」「計算」+「聞く」「話す」「推論」の障害
☆一部の専門家の立場
3)さらに「社会性」の障害も含む一部の専門家
→これは自閉症そのものではないか?
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★LDの人の大学における苦労
レポートや履歴書が書けない
教科書や黒板を読めない
(黒板のほうがより読めない)
バイト先のレジの計算できない
★ADHDとLD
しばしば合併する
ADHDの1/3~はLDを伴う
一方、LDだけの人も多い。
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★高機能自閉症とアスペルガー症候群
・自閉症:1943年L.Kannerが提唱
→自閉症でIQが標準/高く知的障害のない人を
高機能自閉症とした。
・アスペルガー症候群:Asperger,Hが1944年”自閉的
精神病質”を報告,
(発達障害と人格障害の接点ともいえる)
→自閉症、アスペルガー症候群、その他を合わせて
広汎性発達障害(PDD)
★WingによるASD(1981年)
(自閉症スペクトラム障害)
自閉症とアスペルガー症候群などは、Wingの
三つ組みの障害を持つ、ある障害の連続体
「自閉症スペクトラム障害」(ASD)のどこかに
位置する共通の障害である。
→議論はあるが、大学生になると、その差異
より共通した特徴を見るほうが現実的
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★自閉症スペクトラムの疫学
だいたい1%程度?
男性>女性
SCの研修会では、
LDはクラスに一人、
アスペルガーは学年に一人
★自閉症スペクトラムとは
基本障害であるWingの三つ組を持つ
1)コミュニケーションの問題
2)社会性の問題
3)想像性の問題
→興味の限定や固執傾向,こだわり
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★アスペルガーの大学生が、どのように
相談に訪れるか
1)コミュニケーション/対人関係、社会性の
問題からの様々なトラブル
2)不登校や休学
3)学業・実習、 就職活動の問題!
4)二次的、合併した障害や症状で
5)本人が本やHPで自分もそうでは?
★面接での印象
動作:不器用,歩行が独特,手をひらひら,硬い
言葉:字義通りに解釈、格式ばっている
会話:まとまらない、会話にならない、一方的
態度:過度に丁寧、なれなれしい
書字:下手、時間がかかる、誤字脱字
注意:一つに過度に集中
感情:平板、急に爆発
こだわり:部屋や時間にこだわる
→ちょっと変わった大学生!
(注:女性の場合は違和感は少ない)
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★医療機関でのASDの診察手順
1)発達障害についての説明:パンフレット(※)などを参考に
↓
2)現在の問題・症状を詳細に検討・診察での問題を把握
2-2) 適当な心理検査(WAIS-Ⅲなど)も参考に
(Wingの3徴)
↓
3)発達歴を聴取(保護者・資料要) 過去と現在の連続性を確認
↓
4)診断基準(DSM、ICD、タンタム、ギルバーグ等他)を用い診断、
二次障害も明確にする、除外診断
↓
5)告知と説明
↓
6)本人への治療と支援、
大学の紹介者・関係者への情報提供や連携
★3)発達歴の聴取(保護者・資料要)
本人の生後~乳幼児期(ASDなら2歳までに特徴あり)、
学童期について、言葉、動作(指差し等)・運動、多動、読み書き、
成績、社会性(ごっこ遊び・周囲への興味)、その他のスキル、を
保護者から聴取したり、資料をチェックし、
→問題が思春期・青年期に新たに起きた
疾患によるものでなく、幼小児期から現在
まで継続して一貫していることを確認。
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★4)発達障害を診断する
• 何らかの診断基準(DSM-Ⅳ、ICD-10、タンタム、
ギルバーグ他)を用いて診断する。(主診断)
• 並存障害を的確に診断にする
並存障害:ASDとADHD、LD、トウレット症候群、
てんかん
• 二次障害を的確に診断する、除外診断
抑うつなど気分障害、強迫性障害、
パニック障害など不安障害、解離性障害 など
★医療機関での対応と治療
0) 診断と告知。
☆発達歴を聴取しての診断、
☆本人と親に問題や今後の方針を説明する告知
→いかに、よく理解してもらうか!
1)抑うつや不安など二次障害への治療(薬物療法)
2)制度や援助機関の情報を提供
障害者手帳の説明、就労支援機関(ハローワーク、障害者職業センター
等)の情報提供、診断書記載
3)個人療法を継続:支持・指示は助言、解説
4)大学(保健担当者、学生相談員、教員)への
情報提供と助言
5)保護者への助言・指示と支持を継続
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★告知と支援
• 診察(現病歴、現症、発達歴、検査)で分かった情報を
まとめて分かりやすく、現実生活に役立つように、本人
にマッチして、本人(+保護者)に伝える。
• 必要ならばサマリーとして書いたものを渡して説明。
• 告知はその後の支援に繋がる形や方法であること
支援体制がないと意味がない!
• 告知のメリットとデメリットをよく考えること
(ほっとする人、がっかりする人、直ぐに受け入れる人、
受け入れない人など様々・・・)
→受容はけして簡単なことではない
→告知と受容は支援に直結するのできわめて重要
★告知の意義と注意点
• 告知はその後の対応がなされることを前提に
行われるべき、アスペルガーの場合本質は
一生変わらない、障害を一生背負うことを意
味する。
• 本人にある程度の心の準備は必要
→十分な情報や資料も必要
→その後それをしって実生活でどうしたらよいかの具体的な助
言ができることが前提
→大学側に発達障害を理解しての支援体制があることが前提
(それがないときに安易に診断/告知すべきではない)
→容易には理解・受容できないことに留意
特に親の理解は大きな課題
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★7、大学での支援 1
~医療機関からの情報を生かして
• 医療機関から口頭または文書で情報を得て、
それを利用する。
→本人の特性は変わらないので、それを前提の支援や対応が重要。
本人よりもむしろ周囲の理解と対応を変えること。
何を目指して支援するのか目標を明確にすること
トラブルの改善? 学習支援? 就労支援?
• 本人に対して相談室での1:1の対応で
適切な助言や解説、指示、
内省や共感をベースにしての面接でなく、
行動療法的に指示や助言、知的理解に訴える説明、直接的な対応が必要。
本人の自尊心、自己効力感を十分に尊重すること!
★7、大学での支援 2
~医療機関からの情報を生かして
• 周囲の理解と支援が不可欠
→指導教員、窓口の職員など彼とかかわる人
に対してのコーデイネーターが必要。
かかわる指導教員、窓口の事務職員への説明と対応の助言
(例:ロシアから着いて風俗や習慣を知らない留学生と思って対応して)
→周囲の理解と対応が本人に対して以上に重要
• 学内の支援体制の整備:
一部の大学には専門の支援センターなどができてきている、
学生相談室や保健センターのスタッフが学生個人への相談だけでなく、
コーデイネーターになって欲しい。
• 学内での啓蒙活動:講演会、研修会など
※アスペルガーのパンフレット
※教職員向けのガイドブック(甲南大学)
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★大学生の発達障害の問題点
1、精神科医療の問題~診断できる専門家が少ない
2、大学での問題~まだ発達障害が周知されてない
大学でどのような問題がおきるかわかりずらい。
3、本人の受容の問題~受診を理解する? 対応できる?
4、診断技術の問題1:発達歴聴取の重要性と困難
親の協力が得られるか
5、診断技術の問題2:成人の心理検査、診断基準の課題
6、どのように伝えるか(告知)、誰に伝えるか情報の問題
7、医療での治療、大学での支援、医療との連携
~何をしなくてはいけないか? 何ができるか?
• 発達障害の特徴が顕著で大きく、入学前から認
知されて支援を受けていた人は受容している
(特別支援教育を受けていた学生)
←→
• 発達障害の特徴がそれほどでない、或いは知
的に高く学力的には問題少なく大学まで来た人
は、発達障害と自他共に気づきにくいし、発達
障害であることを受容することが難しく、かえっ
て支援が難しい。
→知的に高く一見、障害が軽く見えるほど、
かえって対応が困難になる矛盾!!
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★7、治療と支援~大学での課題
★コーデイネーターにはだれがなるか?
専門の支援センターの専門の相談員がいる
ことがベターだが、いなければ学内の専門家
(学生相談員、カウンセラー、保健師・看護師、
校医、事務職員)が研修を受けてその役を
務める。
★家族とのかかわりは?
円滑な大学生活、特に就職を考えると家族の
理解と協力は必要だが、時として本人よりも
困難なこともある。
★7、治療と支援~大学と医療の連携の課題
医療機関(主治医)と大学の連携が不十分
大学の求めるもの≠医療でできること
→どのように情報提供、連携していくか?
vs守秘義務と情報の共有の両立と矛盾
→学内の専門家(校医、学生相談員、カウンセ
ラー、保健師・看護師)も発達障害の理解や
学ぶ機会がもっと必要
→医療機関の医師も大学の理解がもっと必要
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[引用・参考資料]
1)イアン ジェイムズ, 草薙ゆり訳:アスペルガーの偉人たち.スペクトラム出版社.2007.
2)ウタフリス、富田真紀訳:自閉症とアスペルガー症候群、東京書籍、1996.
3)内山登紀夫,水野薫,吉田友子:高機能自閉症/アスペルガー症候群入門.中央法規2002.
4)国立特別支援教育総合研究所編:発達障害のある学生支援ガイドブック.ジアース教育新社.
2005.
5)国立特別支援教育総合研究所編:発達障害のある学生支援ケースブック.ジアース教育新社.
2007.
6) テンプル・グランディン、ケイト・ダフィー、梅永雄二監修 柳沢圭子訳:アスペルガー症候群・
高機能自閉症の人のハローワーク.明石書店.2008.
7)トニー・アトウッド、富田真紀他訳、ガイドブック、アスペルガー症候群.東京書籍.1999.
8)ローナ・ウィング、久保紘章、清水康夫訳:自閉症スペクトラム/親と専門家のためのガイドブッ
ク,東京書籍,1998.
9)発達障害者雇用促進マニュアル作成委員会編、:発達障害のある人の雇用管理マニュアル.
厚生労働省.2006.
10)福田真也:大学生の広汎性発達障害の疑いのある2症例:精神科治療学11:13011309,1996.
11)福田真也:人格障害と広汎性発達障害の関連について:臨床精神医学28:1541-1548,1999.
12)福田真也:大学生と大学教職員のためのこころの病ガイドブック.金剛出版.2007.
13)福田真也:発達障害の大学生に対する大学と医療の連携~診断と告知を中心に.大学と学
生10月号(通巻534号)6-15.2008.
14)福田真也:職場のメンタルへルス第2版 第3章事業内産業保健スタッフ等によるケア、Aス
トレスと疾患5,パーソナリティの障害 南山堂、2001.
・社団法人 日本自閉症協会
http://www.autism.or.jp/autism/2-index.htm
・社団法人 日本自閉症協会 東京都支部
http://www.autism.jp/
・福田真也:大学教職員のための大学生のこころのケア・ガイドブック
~精神科と学生相談からの15章.金剛出版.2007.
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