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1 軽蔑的な語の商標登録について 2015 年
軽蔑的な語の商標登録について 2015 年、連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は、「The Slants」(東洋人)という語がア ジア系の人々に対して軽蔑的であり、米国商標法(ランハム法;Lanham Act)の第 2 条 (a)の観点から登録を適切に拒否すべきという自らの決定について、大法廷による審理 を命じた。2015 年 12 月 22 日に出された意見は、軽蔑的な商標の登録を禁ずる商標法 の規定が、米国憲法修正第 1 項に違反するというものであった。当該決定は、以前であ れば拒絶されていたであろう多くの標章が、登録される可能性を高め、また、アメリカ ンフットボールチームの商標「Redskins」に関する進行中の議論に対する明白な示唆を 有するものである。 商標法第 2 条(a)は、「不道徳的,欺瞞的若しくは中傷的な事項;又はある者(生存し ているか死亡しているかを問わない),団体,信仰若しくは国民的な象徴を軽蔑し,若 しくはそれらとの関係を偽って示唆し,又はそれらを侮辱し若しくはそれらの評判を落 とす虞のある事項から成り又はそれらを含む」商標の登録を拒絶することを認めている 数年間にわたって、第 2 条(a)の合憲性を問う訴訟が提起されている。かかる争いは目 新しいものではないが、軽蔑語の規定は、登録商標「Redskins」についての論争 2015 年、バージニア州東部地区裁判所のジェラルド・ブルース・リー(Gerald Bruce Lee) 判事が、軽蔑的であるために取り消すよう命じた)のため、最近では大きな注目を集め ていた。 同じ頃、アジア系アメリカ人のミュージシャンを含む米国発祥のバンド「The Slants」 のメンバーであるサイモン・タム(Simon Tam)は、バンド名と同じ商標登録を取得す るために訴えを起こしていた。2010 年から、タム氏は、「娯楽、すなわち、音楽バン ドによる生演奏」について「THE SLANTS」という 2 つの商標登録出願を行ったが、一つ めの出願は、不服申し立ての後に放棄された。審査官は、「THE SLANTS」という標章が アジア系アメリカ人を軽蔑するものであるとして、合衆国法典第 15 巻(15 U.S.C.)§ 1052(a)(商標法第 2 条(a))に基づき、二つの出願を拒絶した。第 2 条(a)に反して出 願された標章を評価するにあたり、審査官は、辞書による定義と、バンド自らによる標 章の使用証拠との両方を適用した。その使用証拠には、「人種差別的な中傷への抗議と、 アジア人の誇りの主張」のために「The Slants」というバンド名を採用したという出願 人による主張が含まれていた。審査官は、「当該証拠は、人種差別的な中傷とのつなが りを完全に意識した上で、標章を選択したことは確かである」として、この主張を認め なかった。2013 年 4 月、商標審判部(The Trademark Trial and Appeal Board, TTAB) は、この拒絶を支持した。タム氏は、CAFC に控訴し、商標審判部が、標章が軽蔑的で あるとの誤った判断をしたと主張し、さらに、第 2 条(a)の合憲性についても異議を唱 えた。 当初、CAFC は、TTAB の決定に合意し、これを支持したが、商標法第 2 条(a)と米国憲 法修正第 1 項との間の潜在的な対立が最終的に決着していないという意見を示した。 2015 年 4 月、CAFC は、先例を無効にするよう命じ、控訴の復帰と大法廷による再検討 を自発的に命じた。後の意見(In re Tam, No. 14-1203 (CAFC, 2015 年 12 月 22 日)) 1 において、CAFC は、「slants」という語が、アジア系の人々に不快感を与える可能性 が高いという TTAB の決定に同意した。しかしながら、第 2 条(a)の軽蔑語の規定の合憲 性に関し、裁判所は、最終的には TTAB の判断を支持しなかった。これまで裁判所は、 幾分確立されたと考えられる法に固執し、商標登録の拒絶が出願人の商標の使用を妨げ るものではないという理由から、拒絶が米国憲法修正第 1 項に関与しないと判断してき た(In re McGinley, 660 F.2d 481 (C.C.P.A. 1981))。しかしながら、In re Tam は、 McGinley における判断を明確に覆した。当該意見における主な論点は以下の通りであ る。 論点:軽蔑的な語に関する規定は話者の権利を否定するものである 政府の意見 ・登録の拒絶は商標の使用を妨げない。出願人は、商標登録の利益がなくとも自由に商 標を使うことができる。 CAFC の判断 ・もし政府が「憲法上保護される言論又は集会の利益を否定できたとしたら、これらの 自由の行使が事実上罰せられ禁じられることになるであろう。」(多数派意見、第 27 ページ ・(商標登録の)利益の否定により、不快感を与え軽蔑的であると政府によってみなさ れ得る標章の採用に対する深刻な阻害要因となる(多数派意見、第 29 ページ)。 論点:権利の否定が特定の見解(view-point)に基づくものである 政府の意見 ・政府は、「最も品のない人種差別的で軽蔑的な語及び表現の登録を拒絶可能とすべき であり」「醜悪と認められる言論からは切り離して考えるべきである」(多数派意見、 第 20 ページ)。 CAFC の判断 ・「問題となっている軽蔑的な語に関する規定は、形式上、特定の見解(view-point) を差別するものである。特許商標庁は、標章が否定的な方法で団体を参照する場合、第 2 条(a)に基づいて商標を拒絶するものの、肯定的な(軽蔑的でない)方法で団体を参 照する標章の登録は認めている。」(多数派意見、第 21 ページ) ・CAFC は、この議論の根拠として、登録標章「CELEBRASIANS」「ASIAN EFFICIENCY」 を具体的に挙げている。 論点:第 2 条(a)は「商業的な言論(Commercial Speech)」か 政府の意見 2 ・商標は広告において用いられるため、商業的な言論である。商業的な言論に関する規 則は、厳格審査(strict scrutiny)ではなく、中間審査基準(intermediate scrutiny) の下で分析されるため、当該規則は、言論に関する明白な制約として、当該基準に適合 する。 CAFC の判断 ・商標は、軽蔑的な語についての規定において、その商業的な特性のために評価される ものではなく、その「表現的な特性」のために評価されるものである。従って、厳格審 査が適用され、かかる規定は、当該審査に適合しない。 論点:商標登録は政府言論(government speech)か 政府の意見 ・商標登録は、政府言論の一態様であり、軽蔑的な語についての規定は、中間審査基準 に適合し得る。 CAFC の判断 ・商標登録は明らかに個人の言論(private speech)である。商標は、その持ち主と結 び付けられるものであり、政府と結び付けられるものではない。従って、政府ではなく 個人の言論であり、厳格審査に適合しない。 論点:商標法がもたらす効果は助成(subsidy)の一種か 政府の意見 ・商標は政府による助成の一種であり、政府によって規制され得る。 CAFC の判断 ・商標制度は、納税者ではなく、使用者から資金提供されるものであり、登録の利益は 金銭的なものではない。従って、米国の商標登録制度は、政府による助成ではない。 論点:政府は「人種間の寛容さを促進することについての必要不可欠の利益 (compelling interest)」を有するか 政府の意見 ・第 2 条(a)における軽蔑的な語についての規定は、政府が、人種間の寛容さを促進す ることについて、必要不可欠の利益を有しているため、許容されるべきである。 CAFC の判断 3 ・政府は、軽蔑的な言論の抑制を正当化するような、人種間の寛容さを促進することに 関する利益を有していない(多数派意見、第 59 ページ)。 結論として、In re Tam における決定は、第 2 条(a)に基づいて審査される商標登録 出願の方法を変える可能性があり、McGinley への依存を終わらせ、より変化に富んだ 商標登録への道を開く可能性がある。 2016 年 3 月 8 日、タムの代理人弁護士は、商標出願“The Slants”の審査プロセス続行の ため、“December ruling”(12 月に下された判決)を米国特許商標庁に遵守させる強制命 令の発行を求める職務執行令状を連邦巡回控訴裁判所に提出した。 しかしながら、連邦巡回控訴裁判所は、米国特許商標庁が米国最高裁判所に本ケース を上告するための裁量上訴令状の提出期間の延長を申請したことを理由に、この令状を 却下した。 興味深いことに、連邦巡回控訴裁判所がまだレッドスキンズのケースの判決を下して いないにも関わらず、タムの代理人弁護士は、連邦巡回控訴裁判所がタムのケースを考 慮する際、レッドスキンズのケースを考慮するよう米国最高裁判所に嘆願した。 下級裁判所が同じ問題に対し相反する判決を下した場合、米国最高裁判所は、今回の レッドスキンズやタムのようなケースの嘆願書を受理することもある。 著者 オーシャリャン法律事務所 アソシエイト弁護士 Keelin Hargadon 4