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公務員制度改革と「霞ヶ関文化」
共通論題Ⅰ <公務員制度の展望> 公務員制度改革と「霞ヶ関文化」 西尾 隆(国際基督教大学) Em ail:nishio@ icu.ac.jp 1 980 年代以降、公務員制度は行革の話題となりながらも本格的な改革論議がされてこなかった。 ところが2 0 0 0 年に入ると内閣官房レベルで大胆な検討作業が始まり、2 0 0 1 年末の「公務員制度改革 大綱」を基本線として、新制度の細目が詰められている。本報告が対象とするのは、現在進行中の 改革の内容・方向・政治過程である。 議論の順序として、第1 に、現時点で即判断し対応すべき喫緊の課題をとり上げる。ひと言でいえ ば、公務員制度改革をめぐる複数の「危機」とそれへの対応である。 第2 に、より長期的な課題として、多くの制度改革案が(無意識にであれ)目指していると考えられ る公務員の意識と行動パタンの変革、中央省庁の組織風土の是正、政官関係を含めた日本型行政 の体質改善、要するに「霞ヶ関文化」の変容という問題を議論する。目の前の緊急課題に対応しつ つも、公務員制度は一体どこに向かうべきなのかについて方向感覚をもつことが不可欠だと考えるか らである。 第3 に、具体的な「制度設計」の観点から重要争点をとり上げて検討する。時間の制約もあるが、 少なくとも政官関係、キャリア制度、天下りには論及したい。 学会報告として、第1 のテーマは現実問題として重要だが理論的貢献がやや弱く、第2 のテーマは 理論的に興味深いが実践性においてやや低く、第3 のテーマは学会への期待(行政学の社会的責 任)はあるかもしれないが、報告者自身はやや苦手である。他の報告者・討論者・フロアとの議論によ って、このネジレ現象を補正したい。 1.公務員制度改革とそれぞれの「危機」 (1 )人事院:独立・中立の人事行政機関の危機 (2 )「大綱」:議論の透明性の危機 (3 )不祥事:「市民性」の欠如と信頼の危機 (4 )政府:専門能力の危機 (5)官僚:「霞ヶ関文化」の危機 (6)給与等の資源:財政の危機 (7)改革の代替案提示:日本行政学の危機? 2.「霞ヶ関文化」の確認・受容・変容 (1 )ウィルダフスキー他(1 990 )、フッド(1 998)らによる「文化理論」の骨格 (2 )4 類型のうち、日本官僚制に支配的な「相互性 m utuality」文化 (3 )制度改革に必要な「個人主義」文化、「ヒエラルヒー」文化の要素 (4 )改革プロセスに不可欠の既存文化パタンの認識・受容・踏襲 3.個別の制度改革・制度設計 (1 )政官関係 (2 )キャリア制度 (3 )天下り (4 )その他 − 13 − 共通論題Ⅰ <公務員制度の展望> 公務員制度改革 ――ニュージーランド、英国、そして日本―― 稲継 裕昭(大阪市立大学) Em ail:I natsugu@ law .osaka-cu.ac.jp 公務員制度改革およびその展望について,以下のような構成で話題提供ができればと思っており ます。(原則として,国家公務員制度について検討することを念頭においておりますが,議論の中で, 地方公務員制度に踏み込むこともありえます。) まず,日本の現行公務員制度の特徴のうち,その核となるものを諸外国と比較して浮かび上がらせ たいと思います。いわゆるClosed Career System を大前提とした,遅い昇進システム,積み上げ型褒 賞システム,省庁別人事管理,キャリアシステムを前提としつつも譲歩したエリート主義を採用してい ること,などが述べられます。 次に,1 980 年代以降,O ECD 諸国で普及しはじめた,N ew Pubic M anagem entと,それが諸国の公 務員制度に及ぼした影響について概観します。新経営主義と新制度派経済学の両方の考えが入っ ているN PM の考え方は,従来の統一的な公務員制度や匿名性を重視した公僕の概念とは必ずしも 相容れないことが示されます。 そして,N PM 型改革を進めた典型例とされるニュージーランドをとりあげます。ニュージーランドで は,1 980 年代末まで伝統的な公務員制度をとってきたものの,現在ではその姿をすっかり変えてしま っています。日本と同じClosed Career System だったのが,現在では実質的にはアメリカ型のO pen Career System と似たようなものへと僅か数年で変容してしまいました。この変化は,不可逆的な変化 です。 日本の公務員制度設計担当者や学者がしばしば参照してきた英国の公務員制度も,過去2 0 年の N PM 型改革の影響を受けて相当程度変容しつつあります。ニュージーランドほどドラスティックな改 革とはなっていないものの,採用や給与,昇進管理など,従来とは異なる仕組みも多く導入されてい ます。 これら諸外国における動きをみたあと,最後に,昨年1 2 月に閣議決定された公務員制度改革大綱 について検討します。日本でこの時期に公務員制度改革を進める背景は何か,大綱はどのような方 向に日本の公務員制度を導こうとしているのか,それは,従来の公務員制度の諸特徴と調和するの か,あるいは整合性はないのか,などについて,議論の素材を提供したいと考えています。 1. 日本の現行公務員制度の特徴 2. N PM 型改革と公務員制度改革 3. ニュージーランドの公務員制度改革,英国の公務員制度の変容 4. 日本の公務員制度改革 − 14 − 分科会A <自治の制度と政策> 指定都市と都道府県(仮題) ――第二次分権の基本設計のために―― 岩崎 恭典(四日市大学) Em ail:yasunori@ yokkaichi-u.ac.jp 2 0 0 0 年4 月の地方自治法改正に結実した第一次分権の結果、都道府県自治事務が増加し、「地 域住民の自己決定権の拡充」という分権理念を更に追求すべく、基礎自治体への事務・権限の移譲 を中心とした第二次分権に向けての検討が各地で進められている。 昨今の市町村合併の動きを、第二次分権に向けての「受け皿」整備を目指すものと解したとき、現 行制度上、次の2 つの課題を指摘することができる。 一つは、指定都市、中核市、特例市、一般市、町村という都市区分による現行の事務・権限移譲シ ステムによる限り、都道府県から基礎自治体への事務・権限移譲は、指定都市がその上限となって おり、上限からの引算でしか、事務・権限移譲は行われることがないということである。第一次分権の 際に、指定都市の事務・権限移譲の要望はほとんど無視されたといっても過言ではないため、指定 都市の事務・権限のパイが拡がらない以上、基礎自治体が選択的に都道府県の事務・権限の移譲 を求めたとしても、事務・権限面での自治の多様性は拡がりようもないのである。二つは、市町村合 併により、多くの指定都市が出現する可能性があり、これが、広域自治体としての都道府県の役割に 大きな影響を与えずにはおかないことである。すなわち、1 992 年の千葉市の指定都市移行の際には、 「直近国勢調査人口80 万以上、人口1 0 0 万に達することが確実に見込まれること」が要件とされてい たものの、現在、市町村合併誘導のために、人口要件は下がり続け、地方自治法上の人口50 万にま で下がる可能性すらある。このことは、人口3 4 0 万超の横浜市から人口50 万市までと人口規模におい て大きな幅のある基礎自治体が一律の指定都市制度の下に置かれ、その結果、複数の指定都市を 抱える都道府県が増加することを意味する。 以上の問題意識に基づき、第二次分権改革を進めるにあたっての指定都市と都道府県のあるべき 関係を検討していきたい。 分析手法は、1 992 年の千葉市の指定都市移行における県との移譲事務協議過程と、2 0 0 3 年の指 定都市移行を目指して、目下、移譲事務協議を行っているさいたま市のそれとの比較を中心とする。 さいたま市は、現在、人口1 0 0 万超の一般市に過ぎず、第一次分権改革後の初めての指定都市移 行事例である。学会報告時までに、どの程度移譲事務協議(特に県単独事務の移譲協議)が進んで いるかの不安はあるが、少なくとも、現行制度上の都道府県から基礎自治体への最大限の移譲事務 の項目は明らかになるであろう。この過程で明らかになる基礎自治体としての指定都市の役割と、当 然発生するであろう、県との軋轢の過程を整理することを通じて、指定都市と都道府県の関係につい ての今後の展望を提示したい。 − 15 − 分科会A <自治の制度と政策> 政策の革新と波及 ――自治体政策過程の分析枠組み提示の試み―― 伊藤修一郎(群馬大学社会情報学部) Em ail:itoshui@ si.gunm a-u.ac.jp これまでの地方自治研究の展開や地方分権改革の展開を考慮すると、今後の地方自治研究の焦 点は、地方の政策過程の解明に向かうべきだと考える。本報告は、このための枠組みの提唱及び 関連する研究動向の検討を中心として構成する。報告の概要は以下のとおり。 1 問題意識 中央地方関係から自治体政策過程へ 改革の進展に対応 制度改革から自治体改革へ 2 前提 ・ 相互依存関係 ← 天川モデル/相互依存モデル/影響力構造研究 ・ 包括的権限付与 新たな課題への独自の対応が可能 ← 国際比較研究 ⇒ 展開方向 中央地方の相互依存関係だけでなく自治体間の相互依存関係に注目 相互依存関係のもとでの自治体の行動原理を解明 オープン・システムとして自治体をとらえる 個々の自治体(個体)だけでなく自治体総体を観察する 政策波及研究 3 動的相互依存モデル 拙著『自治体政策過程の動態』(2 0 0 2 年4 月刊行予定)より 3 つの鍵概念:内生条件/相互参照/横並び競争 ・ はじめの一歩 「内生条件」 ・ 不確実性への対応 「相互参照」 準拠集団 ・ 不確実性の低下 「横並び競争」 構造同値 動的相互依存モデルの作動 国へのフィードバックと「総体レベルの学習」 4 近年の理論動向 政策波及をとらえるモデルとの類似点・相違点 ・ 政策波及研究 個体レベルの米国州政治研究 政策決定要因は何か? ・ 政策移転研究 国際関係論・比較政治 誰が、どこから、何を学んだのか? 社会学習 ・ 社会学的新制度論 組織論・政治社会学 なぜ同型化するのか? ディマジオとパウェルの3 つの同型化モデル 5 動的相互依存モデルの含意 ・ 自治体政策過程の理解に必要な論点:自治体間のネットワーク/普及する政策、しない政策 /シンクタンク、コンサルタント、学会の役割/政策は本当に進化するのか? ・ 自治体改革の方向性:参照行動は格差拡大を緩和する/I Tによる参照行動・ネットワークの強 化/政策レパートリーの蓄積/国以外の普及推進機関の育成 − 16 − 分科会B <比較行政> ブレア政権下での地方制度改革 ――Cabinet System導入を中心として―― 馬場 健(聖学院大学) Em ail:takeshibaba@ nifty.com 1 980 年代、90 年代中葉までの保守党政権下で英国の地方自治体は大きな改革を迫られ た。それは、地方制度自体の枠組みと地方自治体の運営に関する改革とに大別できる。具 体的には、前者は、大都市およびイングランドの一部、スコットランド、ウエールズ全体での 二層制の廃止であり、後者は強制競争入札(CCT)の導入に代表されるいわゆるN PM 型の 管理手法の導入であった。 これに対して、1 997年に政権の座に就いたブレア労働党内閣は、その一部を継承してい るといわれるもののそれまでの保守党政権の政策とも、また旧来の労働党の政策とも異なる、 「第三の道」と総称される独自の政策を展開している。このうち、地方制度に関しては、地方 制度自体の枠組みとしてロンドンに二層制を復活させ、自治体の運営という点からはCCTに 代えてベスト・バリューを導入したことを皮切りにビーコン自治体の創設など矢継ぎ早の改革 を行ってきた。そして、この1 1 月までには、今回の報告の主題であるイングランドおよびウエ ールズへの3 種類の内閣制度の導入が図られることとなった。この従来の委員会制に代わる 内閣制度の導入は英国の地方自治史上初の試みであり、自治体の管理手法の変更にとど まらず、その性格をも一変させる可能性を秘めている。これら一連の改革に関する構想は1 9 98年に発表された白書『人々に身近な地方自治体』(M odern Local G overnm ent -I n Touc h w ith the People-)に載せられており、いずれもブレア政権による地方制度改革の一環とし て位置づけられる。 そこで、本報告では、この内閣制の導入に焦点を絞って、その背景、制度、起こりうる問題、 さらにこの改革がブレア政権下で進められている地方制度改革、言い換えれば「地方制度 を現代の状況に見合ったものとする」改革の中でどのように位置づけられるかについて検討 を試みたい。 【報告の内容】 1 . 内閣制導入の背景 2 . 導入させる内閣制の特徴 3 . 導入により起こりうる問題 4 . ブレアによる地方制度改革における本改革の位置づけ − 17 − 分科会B <比較行政> アメリカ教育長の専門性とその課題 西東克介(弘前学院大学) Em ail:saika@ hirogaku-u.ac.jp アメリカ教育長は、一方で、現実の複雑かつ高度に専門的な問題の理解と対処のために、 大学院修士・博士の学位かこれと同等のレベルの教育を求められてきた。だが、他方では、 こうした高度な教育を受けた教育長の能力が、かえって複雑で展開の予測が難しい問題へ の対処に障壁になることがあるという。 本報告は、まずアメリカ教育長の求められてきた役割を歴史的に概観した上で、現行の教 育長の専門性を分析し、双方の矛盾点をあきらかにする。このことから、教育長の行政手腕 とは何かを説明するために、教育行政の管理と運営について、辻村宏和によるC.I.バーナ ード等の再検証を参考にしながら議論を行う。 最後に、アメリカ教育長制度の課題を提示し、これが我が国教育行政における「専門職」 (教育長、校長、教頭、指導主事、教員)の能力向上のための政策と実施に示唆する点をで きればまとめてみたい。 一、問題の設定 二、アメリカ教育長像の変遷 ・社会的環境の変化と教育長に求められてきた役割 三、アメリカ教育長の専門性 ・教員としての経験 ・教育行政職の経験 ・教員経験(と教育行政職の経験)後の大学院での教育 四、アメリカ教育長の行政手腕(経営技能)−教育行政の管理と経営 ・管理と権限 ・経営と経営技能 ・教育行政の改善(改革)と教育長の行政手腕 五、アメリカ教育長制度の課題 − 18 − 共通論題Ⅱ <合意形成の諸形態> 実務的国際ガバナンスの創出 ――ICANNの設立と意思決定の制度化を事例として―― 廣瀬克哉(法政大学) Em ail:hirose@ i.hosei.ac.jp 国際電気通信は、その起源から国際ガバナンスの創出の実験場としての性質を帯びてき たが、1 990 年代以降、既存の電気通信事業における民営化・自由化の進展と、インターネッ トという既存の電気通信事業の枠外から登場した通信基盤が急速に国際通信手段として普 及したことから、近年再び、新しい国際ガバナンスの実験場としての性質を強く帯びるに至 っている。 本報告では、インターネットのアドレス(I Pアドレス)とドメイン名の管理を担当する機関であ る、The I nternet Corporation for A ssigned N am es and N um bers(I CA N N )を素材として、 主権国家の政府ではなく、個人を直接の基礎として国際的なガバナンスを創出しようとする 試みが直面している問題点について考察する。 第一に「インターネットコミュニティ」による事実上の自主管理から、国際機関を舞台とする 組織創出の試みを経て、米国法にもとづく非営利組織としての設置に至った、組織の設置 形態をめぐる決定過程を通して、国際ガバナンスの基礎となる組織の性質についての緒論 点を考察する。ガバナンスの正統性と実効性、設置された機関自体のアカウンタビリティー の確保、関係者間の合意形成などについて論究したい。 第二に、I CA N N 設置後の、意思決定における代表制の制度化について、理事選出ルー ル、とくにその一部として成立した一般会員による理事公選制度をめぐる論争を通して、国 際的な直接の代表選出の諸問題について考察を加える。この制度の設計過程と、その後行 われた公選の実際、公選理事を含めてのI CA N N の運営のなかで展開されてきた、公選理 事制度の是非をめぐる論争を通して、代表制の実質的な有効性、意思決定の効率、公選過 程へのナショナリズムの波及などについて論及する。なお、この点に関しては、報告の準備 中に、I CA N N 事務総長による政府代表制の導入の提案が出された。それに対しては関係 者の中に反対論も強く、おそらく報告が行われる時点では、現行制度は動揺のまっただ中 に置かれることになりそうである。そのため事例分析としても完結しない形の問題提起となら ざるを得ないかも知れないが、ご容赦願いたい。 − 19 − 共通論題Ⅱ <合意形成の諸形態> 住民合意形成と市街地再開発事業 辻 琢也(政策研究大学院大学) Em ail:tsuji@ grips.ac.jp (勤務先:1 62 -8677 東京都新宿区若松町2 -2 電話0 3 -3 3 4 1 -0 3 57) 1.研究の目的/ 地域住民の合意形成がもっとも困難を極めると考えられる市街地再開発事業に おける住民合意形成の実態を実証研究して、住民合意形成と市街地再開発事業のあり方について 論じる。 *合意形成の難しさ←対象住民の利害関心 ①対象住民数が多ければ多いほど、 ②利害関心が強ければ強いほど、 ③住民利害がパレート最適状態になければ →ゼロサムゲームの状態で生活を左右するほどの強い利害が多数複雑に錯綜する場合に、地域住 民の合意形成はもっとも困難。 2.研究の対象/ 川崎市「溝口駅北口地区市街地再開発事業」(以下「溝口再開発」)。 *従前 面積2.6ha/関係権利者167名(土地所有者48名/土地建物所有者35名 /借地権者35名/借家権者49名)→権利関係が複雑に錯綜 *従後 延床面積104,000㎡創出、建築敷地は約0.6倍の1.22ha、公共施設は約2.4倍 の1.39ha →都市基盤整備が遅れたまま中小零細業者が密集し、地盤沈下が続いていた古くからの駅前まち から、「のくち」と愛称される新たなまちへ=36年間に及ぶ悪戦苦闘の長い歴史 3.事業の手法/ 「市街地再開発事業」(第一種)=「都市における土地の合理的かつ健全な高度 利用と都市機能の更新」を目的に都市再開発法に規定された法定再開発事業。 ①都市計画事業 ②権利変換 ③収支均衡 ④生活再建 4.事業の経緯/ 1962年以来、実に36年に及ぶ長い歳月 第1期:初動期(1962年∼1973年) 第2期:混迷期(1974年∼1982年) 第3期:推進期(1983年∼1991年) 第4期:実施期(1992年∼1998年) 5.合意の要因/ 重要事項が「第3期:推進期(1983年∼1991年)」の約10年間に集中。「都市 計画決定(1988年)から権利変換計画作成(1991年)」までの4年間は、それまでとは対照的に順 調 →第1/2期と比較した第3/4期の「要因」 ①事業遂行への確固たる意思と柔軟な対応、②地権者単位の地道な個別交渉の積み上げ、③地 元組織の育成と主体的な計画作成、 ④庁内推進組織の整備 6.合意の課題/ 何故長い年月を要したか。第3/4期と比較した第1/2期の「課題」 ①経済状況の変動 ②地元組織の変遷 ③政治状況の変化 →(経済)合理的説明 →組織論的説明 →政治的説明 7.事業の限界/ 今後はさらに厳しい局面が予想される (a)右上がり経済の崩壊 (b)事業期間の長期化 (c)地区外住民の要望反映 − 20 − 共通論題Ⅱ <合意形成の諸形態> 社会資本整備の合意形成問題 屋井 鉄雄(東京工業大学理工学研究科) Em ail:tyai@ plan.cv.titech.ac.jp (勤務先:〒1 52 -8552 目黒区大岡山2 -1 2 -1 ) 1. 合意形成の場面とその課題 1) 公共事業における「行政と国民」の対立構図 (−多種多様な「私」の存在) 2) 役者不揃いの問題(←SM , N M 問題) 3) 何のための合意形成か(→計画目標の達成?時間短縮?計画の質の向上?) 4) 合意に達する収束手続き,合意確認方法の不備(→計画策定手続きとPI プロセス) 5) 制度化の範囲検討(→枠組みの米,行政裁判の独など) 2. PI(Public Involvement)の必要性議論 1) SM対応,行政のPR,Marketingの時代(←行政側に動機有り) 2) 情報公開と透明性確保の時代の必要条件(→参加機会の提供) 3) 上流からのPI実施が重要という認識(←下流で始めても広がらず効果薄い) 例:都市圏交通計画でPIを実施する動機(米) ①プランとしての説得性向上(他部局,他行政組織) ②必要財源確保のためのアピール(納税者,議会等) ③計画から事業への円滑化を期待(地域住民,沿道住民等) →「計画策定」は外部との共有技術へ変化(行政内部検討ではない) 4) PIは合意形成を促進するか(→意見の相違の理解?最終決定,責任の所在確認) 3. PI で提供される情報と需要予測等の技術の課題 1) 「計画案」概略決定後の公開(→既に決めていると住民から反発) vs.検討途上の公開(→曖昧,その後の変更を批判される危惧) 2) 十分な情報公開なしではPI が不信感を助長する懸念 (→公開してコンフリクト発生のレベル向上を図れるか) 3) 将来需要予測の課題(→点予測の限界,最善の方法という説明,改善努力) 例:幅予測(効率性・必要性,環境影響,適正規格)による公開について 4) 現状技術に対する説明責任(→コミュニケーションツール開発,I T活用) 4. 合意形成のために必要な人材の育成 1) 大学(工学系)における研究の遅れ(←数理モデルが業績になり易い弊害) 2) 技術行政におけるコミュニケーションの軽視(←行政内部検討がベストとの認識) 3) 専門コンサルタントが育たない環境(←社会的費用がかかることへの認知不足) 4) トレーニングコースの輸入実験(→行政,大学,民間各所で人材育成が必要) − 21 − 共通論題Ⅱ <合意形成の諸形態> 「合意形成」のためのパブリック・コンサルテーションに向けて ――コンセンサス会議の「経験」から―― 若松 征男(東京電機大学理工学部一般教養系列) Em ail:w akam ats@ i.dendai.ac.jp (勤務先住所:〒3 50 −0 3 94 埼玉県比企郡鳩山町石坂 東京電機大学理工学部 TEL:0 4 92 −96−2 91 1 ) 1) コンセンサス会議という手法、その経験(別紙資料参照) (1) デンマークで生まれたコンセンサス会議方式 (2) 諸外国におけるその試みと経験 (3) 日本における試みと経験 (4) CCが生まれた背景としての参加型TA 2) 合意形成の側面からみたCC (1) 手法としてのCCの分節化 課題とする技術問題について、市民パネルは考えるための情報提供を受け(学習過程)、どの ような問題として考えるべきかを決め(議題設定過程、鍵となる質問の作成)、それに従って多様 な専門家からの知識・見解提供を受け(情報収集過程)、パネルとして合意に至る努力をする(討 論・合意形成過程)。その結果を公表する(「諮問」への答申過程)。 (2) CCにおける合意形成と合意の意義 評価パネルである市民パネルは多様な属性の市民が参加するように設定する。このように、パ ネルによる合意形成は、少数であるが、多様な市民(あるいは課題についての科学技術活動に 直接関わらない生活者)集団によるものである。 市民パネルは構成の仕方から、市民(あるいは国民)の代表ではない。CCの「合意」(市民パネ ルの作る報告)は、一般市民(国民)による「参照意見」と捉えるべきである。 3) 合意形成の前提としてのパブリック・コンサルテーション(公衆への諮問) (1) 合意形成参加アクターの多様化が求められている。行政過程に止まらず、広く社会における意 思決定において、合意形成が緊急の課題となっている。その合意形成に、利害関係者集団・意 見集団だけでなく、強い意見を持たない公衆(市民)の参加(「社会に開かれた」システム)が不可 避になっている。 (2) 在来型の意思決定に問題があるからといって、「合意形成」に飛躍するのは行き過ぎであろう。 在来型か合意形成かという二者択一ではなく、課題解決への道筋は多様であるべきである。 (3) 政策形成・決定過程の支援段階として、情報公開、参照意見形成、意見・利害調整、助言・勧 告などがある。合意形成の前提となる、あるいは、それを支える段階・活動として、「パブリック・コ ンサルテーション」が不可欠である。合意形成のための意見形成支援のために、一般市民はもち ろん、課題に関わる多様なアクターによって構成される「パネル」への諮問を、社会にシステム(例 えば行政過程に)として、組み込むべきである。 − 22 − 分科会C <交通政策> 戦時期「営団」の研究 ――帝都高速度交通営団を中心に―― 魚住 弘久(北海学園大学) Em ail:uo@ w ise.hokkai-s-u.ac.jp 大学:0 1 1 -84 1 -1 1 61 (内線3 75) 本報告では、「交通政策」を手掛かりに、今日の特殊法人の起源とされる「営団」について考察する。 具体的には、交通調整政策を通じて構想・設立された「帝都高速度交通営団」を中心として、「営団」 がどのような過程を経て、どのような論理に基づいて現れたのかを論じていく。 本報告の主たる問題関心は、次の三点にある。 第一は、「営団」がどのような経緯のなかで登場したのかを明らかにすることである。「営団」は、これ まで様々な観点から言及されてきた。しかし、その経緯を詳細に追跡した研究は、いまだかつて存在 しない。行政学においても「営団」は、今日の公団等の原型として位置づけられるに止まり、その登場 の経緯が充分に明らかにされてきたようには思われない。 第二は、「営団」が官僚支配の手法であったかどうかを検証することである。1990年代に流行した 「1940年体制」論は、統制会とともに「営団」を、現在に連なる民間部門に対する官僚統制の出発点 と位置づけている。「帝都高速度交通営団」の設立過程を、鉄道省と利害関係者である東京市・私鉄 事業者の相互関係(すなわち官民関係)に留意しつつ考察することで、「営団」が行政運営の手法と していかなる論理を持っていたのかを明らかにし、「1940年体制」論に示されるような「営団」像が適 切なものであるかどうかを検討していくこととしたい。 第三は、戦時期の官僚制についての認識を再考することである。これまで戦時期の官僚制は、強 権的なものとして捉えられる傾向があった。「営団」の設立過程に見られる官僚制の動き、及び「営 団」の論理は、戦時期の官僚制がこれまでの認識とは異なる別の一面を持っていたことを示している と考えられる。 報告の順序としては、まず、官民関係に留意しつつ、最初に登場した「営団」の一つである「帝都高 速度交通営団」の設立過程を詳細に論じる。次いで、そこに見られる行政手法としての論理が、その 後の「営団」の展開にどのような意味を与えたのかについて若干の検討を行う。そして最後に、問題 関心の第二、第三点について考察を加えることとしたい。 〈目次〉 はじめに.営団前史 1.交通調整政策と営団 2.営団の論理とその後の展開 おわりに.営団と官僚制 − 23 − 分科会C <交通政策> 積雪寒冷地域における交通政策 ――北海道の事例―― 浅野 一弘(札幌大学法学部) Em ail:k-asano@ sapporo-u.ac.jp 1990年の「スパイクタイヤ粉じんの発生の防止に関する法律」の施行以降、積雪寒冷地域におい ては、いわゆる「つるつる路面」が姿をあらわし、転倒事故の急増が問題視されている。行政の側で は、これに対応すべく、冬期における道路・交通機能維持・向上対策につとめている。しかしながら、 これらの対策に対する住民側の反応は、かならずしもかんばしいものではない。たとえば、札幌市の 市政世論調査においては、じつに20年以上にもわたって、除雪対策の不備を指摘する声が圧倒的 多数を占めている。とりわけ、こうした不十分な除雪状態のもとでは、高齢者や障害者の外出はきわ めて困難となってしまっている。このことは、積雪寒冷地域における「交通バリアフリー」の達成がいか に困難なものであるかを端的に物語っている。 また、積雪寒冷地域では、深刻な交通問題も出現する。その好例が、大雪時の交通マヒである。北 海道は、1996年1月に、記録的な大雪に見舞われ、交通機能が完全にマヒしてしまった経験を有す る。また、融雪期には、土砂崩落や雪崩によって、道路が不通となることもしばしばである。近年では、 IT化の進展もあり、こうした状況は徐々にではあるが、改善の方向に向かいつつある。すなわち、雪 氷災害の危険性の高い自治体においては、おのおの独自の雪情報システムを構築し、降積雪や路 面凍結などの情報をドライバーに対して提供し、交通事故の回避につとめているのだ。 しかしながら、北海道における冬期の交通政策をみるかぎり、そこには「危機管理」という視点が欠 落してしまっている印象がぬぐえない。それゆえ、行政の初動態勢の遅れが目立つという結果を導 いてしまっている。 そこで、本報告においては、北海道の事例を紹介しながら、積雪寒冷地域における交通政策の実 態と問題点について考えていきたい。報告の順序としては、まずはじめに、北海道、とりわけ札幌市 における除雪対策の現状について概観する。つぎに、IT化との関連において、交通政策にいかなる 変化が生じているかを検証する。つづいて、危機管理の視点が欠如していた例として、1996年1月 の交通マヒの事例を紹介する。そして最後に、積雪寒冷地域における交通政策の今後の課題につ いて簡単に私見を述べてみたい。 − 24 − 分科会D <これからの行政におけるヒューマン・リソース> 行政における専門性 ――技官制度を中心に―― 藤田由紀子(専修大学法学部) 行政組織においては、技官(中央)ないし技術吏員(地方)によって担われる一定の領域 がある。科学技術の発達に伴い、行政による判断の社会に与える結果予測が困難になりつ つある現在、行政組織による情報独占への批判や、行政責任の問題など検討すべき課題 は多い。また、公共事業などのように民間の経済構造と強く結びつき、改革が要請されてい る領域もある。このように高度な専門性が要求される政策領域での行政活動を担うヒューマ ン・リソースの検討は、これからの行政を考えていく上で避けられない課題である。本報告で は、中央政府のいわゆるキャリア技官制度に関する考察を手がかりに、この問題について論 じてみたい。 1.問題の所在 2.専門性と自律性 3.類型化と比較−土木技官と医系技官を例として 4.中央省庁再編に伴う変化 5.課題と展望 − 25 − 分科会D <これからの行政におけるヒューマン・リソース> 市民出資の可能性 ――NPO法人北海道グリーンファンド等を事例に―― 樽見弘紀(北海学園大学法学部) Em ail:tarum i@ w ise.hokkai-s-u.ac.jp phone: 0 1 1 -84 1 -1 1 61 (ext.3 51 ) 非営利組織(N PO )はその活動を担保する資金調達を、個人や企業からの寄付金、中央・地方政 府からの補助金、助成財団等からの助成金、会員の会費、そして、自主財源としての事業収入など、 さまざまな資金源由来の収入を組み合わせることで実現している。非営利組織がより多元的で独自 性・独立性の高い活動を実現するためには、より広範で自由度の高い財源をいかに獲得するかが鍵 となる。言葉を換えると、非営利組織をめぐる今日的な論点のひとつとしての「非営利組織と政府の 対等な協働関係」の成立は、資金の自由度、非拘束性の問題を抜きには語れないのである。 本稿では、まず、非営利組織にとって、「政府を経由する市民の間接的な支援(=補助金)」と「政 府を経由しない市民の直接的な支援(=寄付金や会費)」の意味合いの違いを論じる。 つづいて、しかし現実には多くの非営利組織が市民の直接的な支援、つまりは「自由度の高い収 入」の確保に困難があることに触れ、寄付金や会費を補強する、あるいは穴埋めするオルタナティブ な財源確保の事例として、N PO 法人北海道グリーンファンドとその出資会社である株式会社北海道 市民風力発電の資金調達を、「市民出資」のしくみを中心に論じる。結論的にいえば、グリーンファン ド等の市民出資の手法は、常態的に資金不足に悩む市民団体にとっては示唆の多い成功事例で ある。また、短期間でのダイナミックな資金調達が可能であること、またその自由度が極めて高いこと から、政策に独創的かつ具体的な代替案を示す多くの市民活動への高い応用可能性を秘めてい る。 しかしながら、「市民出資」は限定的ながら収益を出資者に還元する制度であることから、非営利組 織の根本原理である非営利性、すなわち余剰の非分配制約との不整合性の問題を孕んでいる。具 体的には、非分配制約を完結出来ないでいると、組織が掲げるミッションの実現に自らの持てる資源 をボランタリーに差し出す市民(寄付者やボランティア等)の気分を萎えさせ、国や自治体が税金由 来の資金援助をする(補助金を出す)正当性を失いかねないのである。市民出資の問題と課題を整 理しつつ、市民社会において市民が不断に出捐することの意味を考える。 − 26 −