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平成23年度版~自分を大切にし他の人を大切にするために

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平成23年度版~自分を大切にし他の人を大切にするために
人権教育指導資料
実践例集
仲 間 づ く り
~ 自分を大切にし 他の人を大切にするために ~
平成23年(2011年)
鹿児島県教育庁人権同和教育課
はじめに
~
子どもを信じて,希望をもってかかわる教職員集団に
~
現在,鹿児島県教育委員会では,「鹿児島県人権教育・啓発基本計画」に基づき,すべ
ての学校及び地域社会において,同和教育をはじめとする人権教育の充実のための取組を
推進しているところです。また,平成20年3月に文部科学省から出された『人権教育の
指導方法等の在り方について〔第三次とりまとめ〕』の具体化を図るために,様々な研修
会など,あらゆる機会を通じて,指導内容・方法等の工夫・改善に取り組んできており,
人権尊重の視点に立った学校づくりは着実に進みつつあります。しかし,一方では,いじ
めや不登校,家庭における児童虐待などの課題もあり,これらの課題を解決するために,
教育の果たす役割はますます重要になってきています。
子どもたちは,社会の中で保護者や周りの大人のものの見方・考え方などに影響を受け
ながら成長し,様々な思いを抱きながら学校に通っています。そして,学校での一人一人
の姿には,それぞれの生活やこれまでの歴史が反映されています。子どもたちが抱える様
様な不安や悩みなどのすべてを教育によって解決できるものではありませんが,教育を通
して,子ども自らが自信や意欲をもち,仲間と共に困難を乗り越えていく姿が,これまで
の同和教育をはじめ,今日の人権教育の実践にも数多くあります。そしてそこには,“よ
り深くかかわる”教師の姿勢そのものによって,“子どもが変わった”という事実があり
ます。
子どもが変わるとき,それは「自信をもったとき…,認められたとき…,愛されたとき
…,感動したとき…,目標をもったとき…」などです。そしてそれは,学校や家庭・地域
の中で「認められている」「大切にされている」と実感した瞬間でもあります。
子どもたちは,集団の中で成長します。それ故に,子どもたちに自尊感情をはぐくむこ
と,仲間づくりを基盤に据えた教育活動を進めることが大切なのです。
そこで今年度は,その推進を図るための支援資料の一つとして『人権教育指導資料 実
践例集 仲間づくり ~自分を大切にし 他の人を大切にするために~』を作成しました。
それぞれの学校等におかれましては,本資料を職員研修や教育活動のあらゆる場面にお
いて活用し,実践を通して「人権が尊重される学校づくり」に着実につなげていかれるこ
とを期待します。
また,これまで発行しております,
『人権教育指導資料
実践例集
仲間づくり』(平成20年度発行)
『人権教育指導資料
実践例集
仲間づくり《男女平等教育編》』(平成21年度発行)
『人権教育指導資料
実践例集
仲間づくり《参加型学習編》』(平成22年度発行)
も併せて,継続的な活用をお願いします。
最後になりましたが,本指導資料を作成するに当たり御尽力をいただきました関係機関,
学校及び資料作成委員の方々に心からお礼を申し上げます。
目
次
○
はじめに
1
学校の教育活動全体を通じた人権教育の推進のために
1
人権尊重の視点に立った学校づくり
………………………………………………
1
2
教育活動全体を通じた取組の留意点
………………………………………………
1
(1)
人権尊重の理念に立った生徒指導
………………………………………………
2
(2)
人権尊重の視点に立った学級経営等
……………………………………………
2
(3)
人権尊重の視点に立った教科等指導
……………………………………………
3
2
学校における取組の実践例
《小学校における実践例》
1
名付けあいさつからはじまる仲間づくり
2
子どもをつなぐ班活動
3
自他のよさを認め合う学級を目指して
~「あい」を大切にした学習活動づくり~
4
……………………………………
4
…………………………………………………………
10
人権意識をはぐくむ環境づくり
………………………………
15
~「PTA人権学習会」の取組~
……
22
~「人権作文発表会」の取組~
……
31
…………
39
…………
43
………
50
《中学校における実践例》
5
聞いてください!わたしの気持ち
6
友達発見
自分発見
~「学年レクリエーション会」の取組~
《高等学校における実践例》
7
就職・進学試験に向けて
8
自尊感情をはぐくむために
~自分を見つめ
仲間を見つめる~
~人権学習のカリキュラムづくり~
1
学校の教育活動全体を通じた人権教育の推進のために
人権尊重の視点に立った学校づくり
人権教育を推進するに当
たっては,教科等指導,生
人権尊重の視点に立った学校づくり
徒指導,学級経営など,学
人権が尊重される 学習活動づくり
校におけるすべての教育活
・ 一人一人が大切にされる授業
生 徒 指 導
・ 互いのよさや可能性を発揮できる取組
動を通じて,人権尊重の視
点に立った学校づくりが行
われなければなりません。
人権尊重の視点に
立った学校づくり
教職員による厳しさと優
人権が尊重される 人間関係づくり
しさを兼ね備えた指導を通 ・ 互いのよさや可能性を認め合える仲間
して,すべての教職員が意
識的な参画を行うとともに,
人権が尊重される環境づくり
・ 安心して過ごせる学校・教室
児童生徒の主体的な学級参
学 級 経 営 等
加等を促進し,人権が尊重
20
される学校教育を維持する
ための環境整備等に取り組むことが大切です。
また,こうした基盤の上に,児童生徒間の望ましい人間関係を形成し,人権尊重の意
識と実践力を養う学習活動を展開していくことが求められます。
人権尊重の精神は,日常の何気ない生活の中でもはぐくまれていきます。人権に関す
る個別の課題に関連した授業や直接教材を取り扱うだけではなく,子どもたちに,日頃
のすべての学校生活の中で,人権を身近なものとして考えさせることが大切です。
2
教育活動全体を通じた取組の留意点
児童生徒に,人権に関する知的理解と人権感覚の涵養を基盤として,意識,態度,実
践的な行動力など様々な資質や能力を育成していくためには,教育内容や方法の在り方
とともに,まず,その教育・学習の場自体において,人権尊重が徹底され,人権尊重の
精神がみなぎっている環境であることが求められます。
教 科 等 指 導
1
【参考】
隠れたカリキュラム
児童生徒の人権感覚の育成には,体系的に整備された正規の教育課程と並び,いわゆる「隠
れたカリキュラム」が重要であるとの指摘がある。「隠れたカリキュラム」とは,教育する側
が意図する,しないにかかわらず,学校生活を営む中で,児童生徒自らが学びとっていくす
べての事柄を指すものであり,学校・学級の「隠れたカリキュラム」を構成するのは,それ
らの場の在り方であり,雰囲気といったものである。
例えば,「いじめ」を許さない態度を身に付けるためには,「いじめはよくない」という知
的理解だけでは不十分である。実際に,「いじめ」を許さない雰囲気が浸透する学校・学級で
生活することを通じて,児童生徒は,はじめて「いじめ」を許さない人権感覚を身に付ける
ことができるのである。だからこそ,教職員一体となった組織づくり,場の雰囲気づくりが
重要である。
-1-
児童生徒への指導等に当たっては,次のような留意点を十分に踏まえながら取り組む
ことが大切です。
(1)
人権尊重の理念に立った生徒指導
学校における生徒指導は,個々の児童生徒の自己指導能力を伸ばす積極的な面にそ
の本来の意義があり,すべての児童生徒の人格のよりよき発達を目指すとともに,学
校生活が,児童生徒一人一人にとって,また,学級や学年,学校全体といった集団に
とっても,充実したものとなるようにすることを目的としています。
この点において,生徒指導の活動は,[自分の大切さとともに他の人の大切さを認
めること]ができる人権感覚を育成し,一人一人の児童生徒が大切にされることを目
指す人権教育の活動とも,互いに相通ずるものです。
学級・ホームルーム活動における集団指導や,様々な場面における個別指導等の中
で,自己指導能力の育成を目指した積極的な生徒指導の活動の展開を図り,児童生徒
間の望ましい人間関係を形成するとともに,これらの取組を通じて[自分の大切さと
ともに他の人の大切さを認めること]ができる人権感覚を涵養していくことが重要で
す。また,このことは,暴力行為やいじめ等の生徒指導上の諸問題の未然防止にもつ
ながるものです。
同様に,児童生徒の肯定的なセルフイメージの形成を支援すること,受容的・共感
的・支持的な人間関係を育成すること,自己決定の力や責任感を育成すること等を内
容とする人権教育の取組についても,「積極的な生徒指導」の取組と歩調を合わせて
これを進めることで,より大きな効果を上げることが期待できます。
例えば,暴力行為,いじめ,不登校,中途退学などの問題は,人権侵害にもつなが
る問題であり,また,これらの事案の個々のケースにおいては,複数の児童生徒間の
調整を要することとなる場合も少なくありません。学校においては,こうしたことを
常に念頭に置きつつ,問題解決に向けた取組を進める必要があります。とりわけ,い
じめや校内暴力など他の児童生徒を傷付けるような問題が起きたときには,学校とし
て,まずは被害者を守り抜く姿勢を示すことが重要です。さらに,問題発生の要因・
背景を多面的に分析し,加害者たる児童生徒の抱える問題等への理解を深めつつも,
その行った行為に対しては,これを許さず,毅然とした指導を行わなければなりませ
ん。
(2)
人権尊重の視点に立った学級経営等
人権教育の推進を図る上では,もとより教育の場である学校が,人権が尊重され,
安心して過ごせる場とならなければなりません。
学校においては,的確な児童生徒理解の下,学校生活全体において人権が尊重され
るような環境づくりを進めていく必要があります。
そのために,教職員においては,例えば,児童生徒の意見をきちんと受けとめて聞
く,明るく丁寧な言葉で声かけを行うことなどは当然であるほか,個々の児童生徒の
大切さを改めて強く自覚し,一人の人間として接していかなければいけません。
特に,児童生徒が,多くの時間を過ごすそれぞれの学級の中で,自他のよさを認め
合える人間関係を相互に形成していけるようにすることが重要であり,このような観
点から学級経営に努めることがとても重要です。
なお,人権が尊重される環境整備のための積極的な取組として,人権コーナーの設
-2-
置や人権ポスターの掲示,人権学習会の定期的な開催などを通じ,児童生徒が日頃か
ら人権学習に親しむ機会をつくること等も大切です。
(3)
人権尊重の視点に立った教科等指導
学校教育においては,現在,すべての児童生徒に基礎的・基本的な知識・技能及び
それらを活用して問題を解決する力等を確実に身に付けさせ,自ら学び自ら考える力
などの「確かな学力」をはぐくむことが求められています。
「確かな学力」をはぐくむ上では,児童生徒一人一人の個性や教育的ニーズを把握
し,学習意欲を高め,指導の充実を図っていくことが必要であり,そのためには,学
校・学級の中で,一人一人の存在や思いが大切にされるという環境が成立していなけ
ればなりません。
このように見た場合,校内に人権尊重の理念に基づく教育活動を行き渡らせること
は,学習指導の効果的な実施を図る上でも,重要な観点の一つとなるものと考えられ
ます。
「確かな学力」をはぐくむためにも,学校全体として「一人一人を大切にし,個に
応じた目的意識のある学習指導に取り組む」等の教育目標の共通理解を図るとともに,
学ぶことの楽しさを体験させ,望ましい人間関係等を培い,学習意欲の向上に努める
ことが求められています。
【 参 考 】 効 果 の あ る 学 校 ( effective
school)
今日,「効果のある学校」に関する研究が国内外で進められている。これらの研究では,
「教育的に不利な環境の下にある児童生徒の学力水準を押し上げている学校」において,
学力の向上と人権感覚の育成とが併せて追求されている点に注目しており,人権感覚の育
成は,児童生徒の自主性や社会性などの人格的な発達を促進するばかりでなく,学校の役
割の大事な部分を占める学力形成においても成果を上げているとの指摘を行っている。
一人一人の個性やニーズに応じた基礎学力を獲得するためには,学校・学級の中で,現
実に一人一人の存在や思いが大切にされるという状況が成立していなければならないから
である。
人権教育の指導方法等の在り方について〔第三次とりまとめ〕
(平成20年3月:文部科学省)引用
-3-
2 学校における取組の実践例
1
1
名付けあいさつからはじまる仲間づくり
テーマ
つながる「なかま」をふやそう
2
目的と概要
(1)
学校教育目標から
本校は各学年1クラスで,6年間,同じ学級で過ごすことになる。子どもたちは,
お互いの思いを推し量り,友達を大切にしようとする意識を培っている。しかしなが
ら一方では,人間関係が固定化される傾向があり,自他の率直な思いを伝え合う機会
が少ないという現状もある。その結果,言葉による暴力で相手を傷付けたり,傷付け
られたりする実態もある。
そこで,学校教育目標を「人権尊重の精神を基盤に,自ら学ぶ意欲と豊かな心をも
ち,心身ともにたくましく生きる力を備えた子どもを育成する。」とし,「子どもが伸
びる愛のあふれる学校」づくりを目指している。
さらに,重点事項として「伝え合う力」の育成に努めている。「伝え合う力」がは
ぐくまれることによって,自分の気持ちや考えを相手に適切に伝えることや,生活上
の諸問題などについて話し合い,適切に解決する力,そして,他者を認め互いに尊重
し合い,望ましい人間関係を構築する力の育成にもつながると考えた。
また,目指す教師像として「子ども一人一人を大切にする教職員」であることを掲
げており,具体的には,子どもの意見をしっかり受けとめて聞き,明るく丁寧な言葉
で声かけを行うことなど,子どもを一人の人間として認め,接するように努めている。
(2)
「伝え合う力」をはぐくむあいさつ
「伝え合う力」は,学校生活のあらゆる場面においてはぐくむことができる。これ
までに本校では,子どもたちが発言しやすい環境を整えるために授業中の基本的発表
話型を設定したり,各種コンクールに積極的に応募・参加させたりしてきた。また,
人権集会を年間7回実施し,各学年が発表する機会を設け,子どもたちが自己表現す
ることを重視してきた。
さらに,日常の場で子どもたちが伝え合う「あいさつ」に重点的に取り組むために,
学校経営の努力点として「さわやかな『あいさつ』に始まり充実感に満ちた『あいさ
つ』に終わる教育活動の推進」を掲げ,あいさつの実践を推進している。
(3)
あいさつからはじまる仲間づくり
子どもたちは毎日の学校生活の中で,何気なくあいさつを交わしている。通学中や
教室に出入りする際に,大きな声であいさつをする子どもの姿を見ることもできる。
-4-
しかしながら,ややもするとそのあいさつが形式的なものにとどまり,自分の思いを
届けたり,相手の思いを感じ取ったりするためのあいさつにまで高まっているとはい
えない面がある。
あいさつに思いを込めることで,相手に自分の調子を知らせて存在感をアピールし
たり,仲間意識を示したりすることができる。思いを受ける側も,相手の様子や表情
から,その時の状況を感じ取ることができる。目を合わせて心を届け合うあいさつを
することで,自他のよさを認め合える人間関係が形成され,仲間づくりへとつながる
と考えられる。
(4)
教職員のかかわり
教職員が子どもにあいさつをした際に,返事をしないという例があった。子どもが
「自分に言われたのではない」と感じたからであった。そこで,教職員と子ども双方
の思いを届け合うことができる方策として,教職員が子どもに対して名付けあいさつ
をするよう取り組んだ。
その結果,朝の健康状況を把握することができたり,登校中の友達とのトラブルな
どもいち早く察知できたりするようになり,その情報を教師間で共有したことで,全
校体制での「子ども一人一人を大切にする教職員」の具現化という効果も現れた。
子どもたちにとっても,「自分の名前を覚えてくれている」といった受容感や,「自
分のことを見てもらっている」という安心感をもつことができたようである。
(5)
名付けあいさつを全校で
本校は学校経営の努力点に人権同和教育の推進・充実を掲げ,一人一人の思いを大
切にした思いやりの心をはぐくみ,心ふれあう人間関係の醸成を目指している。その
具現化のためには,互いの人権を尊重することができる子どもたちを育てるとともに,
一人一人の人権意識を高揚させていくことが大切になる。
しかし,学校での様々な取組を重ねても,粗暴な言葉遣いや人を傷付ける言葉遣い
がなかなか減っていかない現状がある。これは,本校の人権同和教育が知的理解の深
化に比べて,人権感覚の育成の側面が不足していることの現れであると考える。
だからこそ,子どもたちの人権感覚をはぐくむための体験的・協力的な活動に日常
的に取り組んでいくことが必要となる。
そこで,互いに名前を呼び合ってあいさつをすることで,人権感覚の育成に資する
とともに,「自分を見てくれている」といった安心感や自己肯定感を味わわせ,さら
に自分だけでなく相手も大切にすることができる仲間づくりへとつなげていきたい。
3
活動計画
名付けあいさつは年度当初からの取組が必要となる。しかし,名付けあいさつだけで
はなく,様々な学習や活動と関連をもたせて取り組むことで,さらに子どもたちの人権
感覚を高め,具体的な実践へつないでいきたいと考えた。
-5-
下表は,本校の学級活動や総合的な学習の時間における人権学習年間指導計画である。
月
学校行事・人権週間など
学年
総合的な学習の時間等の計画
1年
「ちくちくことば」「にこにここ
4 児童集会
とば」を中心とした,コミュニケー
人権集会(オリエンテーション)
ション能力を高める仲間づくりの学
5 人権集会(4年生発表)
習
6 第1回校内人権週間(人権学習)
2年
人権集会(5年生発表)
ュニケーション能力を高める仲間づ
7 児童集会
くりの学習
8
3年
9
もやもや書きを中心とした,自他
の違いを認め合う仲間づくりの学習
10 人権集会(1年生発表)
4年
男女平等や男女相互の理解・重要
11 フリー参観(人権学習)
性について学習をし,自他を尊重す
12 第2回校内人権週間(人権学習)
る態度をはぐくむ学習
人権集会(2年生発表)
5年
1 児童集会
ハンセン病問題を中心とした,人
権問題についての学習
2 人権集会(3年生発表)
6年
3 人権集会(6年生発表)
部落問題を中心とした,人権問題
についての学習
※
4
ロールプレイを中心とした,コミ
1・2年生については学級活動の時間
実践例
「名付けあいさつからはじまる仲間づくり」
今年度は,児童集会と学級活動を通して,全校で名付けあいさつへの意識付けを行っ
た。
(1)
○
ねらい
友達の名前を呼んであいさつをすることで,全校での良好な人間関係づくりをす
る。
○
自分の名前を呼ばれてあいさつを返すことで,自己肯定感を高めるとともに,他
人を大切にしようとする心情を育てる。
○
全校児童の名前を全職員が覚え,朝のあいさつを交わす中で,子ども一人一人の
心や体の様子を全職員で把握する。
(2)
学習活動の概要
総務委員会を中心に,朝のあいさつ運動を行い,児童への意識付けを図るとともに,
各学級で名付けあいさつをすることで,実践化を図る。
(3)
対象
全児童・全職員・保護者及び地域の関係者
-6-
(4)
期間
児童集会1回目(年度当初)から通年
(5)
活動例
ア
オリエンテーション(学級活動)
主な学習活動
1
活動形態
毎日のあいさつを全員で行う。 一斉
指導上の留意点
◇
「おはよう」「さようなら」
日常のあいさつを実際に行うこ
とで,いつも自分がどんなあいさ
つをしているか気付かせる。
2
あいさつをすることのよさを発
◇
表する。
「気持ちがいい」「楽しくなる」
だけでなく,「仲良くなれる」など
相手意識を高めさせる。
3
本時のめあてを確認する。
◇
名付けあいさつができるよう
を知らせ,どの様な取組が必要か
になろう。
4
名付けあいさつに取り組むこと
考えさせる。
他学級の友達・先生の名簿を見 個人
◇
名前の横に○印が付けられるよ
て,名前と顔が一致したら,○印
うにした児童・教職員の名簿を配
を付ける。
布し,名前と顔が分かる友達を探
させる。
5
○印が付いてない人の名前と顔 一斉
◇
名前と顔が一致しなかった友達
を確認してどんな友達か,お互い
がどのくらいいるのか確認させ,
に紹介し,一人一人の友達の良さ
知っている友達にその友達の紹介
を知り,名前を覚える。
をしてもらう。特に他学年の友達
については交流が無い場合がある
ため,できる限り全員の紹介がで
きるように気を付ける。
イ
1
児童集会(児童会活動)
児童集会で全員にあいさつがで 一斉
◇
総務委員会を中心に,各学級で
きるように,あいさつ運動につい
話し合われた名付けあいさつの良
て紹介する。
さを交流させ,全校で取り組む意
味を確認できるようにする。
2
実際に相手の名前を覚えて,お 個人
◇
実際に名付けあいさつをするこ
互いに名前を呼び合ってあいさつ
とで心地よさを感じさせ,今後の
する。
活動に向けての意欲が高まるよう
にする。
-7-
ウ
活動Ⅰ(日常∼全校で,学級で)
○
全児童・全職員の名前を呼びな 全校
◇
がら,朝のあいさつに取り組む。
校門または靴箱周辺で,総務委
員会を中心にしてあいさつ運動を
継続させる。また,学級でも全員
で名付けあいさつができるように,
朝の会等で取り組ませる。
○
○
その日,名付けあいさつをでき 学級
◇
「名付けあいさつ名人」など,
た人数を帰りの会で確認し,同じ
児童の意欲を高める方法をとり,
学級だけでなく,他学級・他学年
より多くの友達にあいさつができ
にもあいさつをする。
るようにさせる。
あいさつができなかった人を早 学級
◇
自分が覚えている他学級・他学
く覚えられるように,名前カード
年の友達が増えていることを実感
を確認する。
させ,お互いに名前を呼び合って
あいさつすることの大切さに気付
かせる。
○
日常の実践を振り返る。
学級
◇
継続的に行うことを確認し,お
互いを大切にするためのあいさつ
であることを確認させる。
エ
活動Ⅱ(日常∼家庭・地域で)
○
○
名付けあいさつの趣旨を周知す 地域
◇
校区全体で,誰にでもできる共
るとともに,校区で「あいさつの
通実践を継続的に積み重ねること
日」を定め,学校・家庭・地域の
により,学校・家庭・地域が協働
関係者が,それぞれの方法で「あ
して,人権教育を推進するための
いさつ運動」に取り組む。
環境の下地をつくる。
各家庭で「朝のあいさつ」の励 家庭
行と「三歩一声運動」(玄関から
三歩出て,子どもが一角曲がるま
で見送る)に取り組む。
(6)
期待される活動の成果(子どもたちの姿から)
名付けあいさつは,はじめのうちは,住んでいる地域が一緒であったり,少年団な
どで知り合っていたりしている他学年の友達との間で行われていた。しかし,徐々に
顔と名前が一致してくると,上級生が下級生に対して率先してあいさつをする姿が見
られるようになってきた。
また,互いに名前を覚えたことで,全校レクリエーション等もスムーズに行えるよ
うになるという効果も現れてきた。一番の変化は,あいさつをする子どもたちの顔に
笑顔が増えてきたことである。自分の名前を呼ばれることをうれしく思い,心から返
事をすることができる子どもたちが増えてきたからであると考えている。
-8-
5
実践における留意点
この活動を継続的に推進するために以下の点を考慮したい。
○
赴任してすぐの教職員は,なかなかすべての児童の名前を覚えることは難しい。少
しずつ覚えて教職員側からの名付けあいさつもできるようにしたい。
また,学校規模や発達段階によってどのくらいの範囲まで取組を広げるのかは,十
分に検討し,児童の負担が過重にならないように配慮する必要がある。
○
学級担任は,学級内では継続的に名付けあいさつができているかについて把握でき
るものの,学級外での状況の把握は難しい。教職員間の連携を密に行いたい。
○
活動当初は活発であっても,取組に対する意識が薄れてしまう児童が見られるよう
になり,個人差が生じ始める。定期的に振り返る活動を設定したい。
○
教職員や上級生からのあいさつが率先してできるように,異学年でのふれあい活動
や,様々な学習活動においても,名付けあいさつに対する意識付けを行っていくよう
にしたい。
○
あいさつを返さなかった(返すことができなかった)児童に対して,批判的な言動
がないように指導の工夫をする。(何かの事情で返すことができない場合もある。な
ど)
-9-
2
子どもをつなぐ班活動
1 なぜ,班をつくるのか。∼学級・学校の課題から∼
新学期が始まり,学級の子どもたちを見ていると,いつの間にかいくつかの小グルー
プに分かれてくる。家が近所である,何となく気が合う等の理由で自然とグループが形
成され,楽しく過ごしているように見える。しかし,子どもたちの様子をよく見ている
と,グループ内に力関係が生じたり,リーダー的存在の子どもに気後れしたりして,自
分の思いを語ることができない子どもの姿も見られるようになった。
さらには,人間関係の固定化により,「あの子は,いつもああだから」「きっと,あの
子のせいにちがいない」といった決め付けや,
「どうせ言っても変わらない」とあきらめ
るなどの言動が見られることもあった。
学級は子ども一人一人にとって,互いの人権が尊重され,安心して過ごせる場でない
といけないことは言うまでもない。子どもたちが充実した学校生活を送るためには,ま
ず,
「自分のことが好き」と思う気持ち(自尊感情)がはぐくまれ,学級の一員であると
いう所属感を高め,そして,誰からも認められているという充実感を味わえるようにす
ることが必要である。
そこで,子どもたちがよりよい人間関係づくりをすることができるよう,学校全体で
班活動を学級経営の基盤に据えた取組を行っている。活動を通して,班の仲間と協力し
たり,自主的に活動したりしながら,子ども自らが仲間としてつながり,
「自分の大切さ
や,他の人の大切さを認めること」ができるようになると考えている。
2
子ども同士をつなぐ班活動とするために
班活動は,授業中はもちろん,掃除や係の仕事など学校生活の様々な場面で行われて
いる。その班活動を,意図的・計画的に継続して展開することで,子どもたちが互いに
自分の気持ちを伝え,仲間の思いを受け止め,子ども同士でつながっていくこと,すな
わち「仲間づくり」につながると考える。
子どもたちの発達段階や,学級担任の独自の方法を考慮しつつ,学校全体で仲間づく
りにつながる班活動に取り組むことを大切にしたい。
そこで,班活動の機能や目指す姿を以下のようにまとめて,全職員で共通理解を図る
ことにした。
(1) 班活動で発揮される機能について
子どもたちが,
「自分の大切さとともに他の人の大切さを認める」ことができるよう
になり,それが「態度や行動に現れるようになる」ことを念頭に置いて,子どもたち
の学校・学級での生活と教育活動のねらいを踏まえ,次のように班活動の機能を整理
した。
-10-
∼
∼
学習活動
○
学級生活
○
学級の一員として,役割を果たすために協力できる力や責任感
などがはぐくまれ,社会性を身に付けることができる。
○ 子どもたちの発達段階に応じて,班員同士の生活や悩みを理解
し,お互いに支えたり,励ましたりすることを大切にすることで,
自尊感情が高まり,信頼できる仲間の大切さを実感できる。
(日常の学級生活を中心とした,日直,掃除,給食,係活動など。)
集団活動
○
(2)
ペア学習やグループ学習を通して,友達の考えのよさや多様な
考え方に触れ,学び合いながら学習が深まる。
(各教科等の授業,遠足・修学旅行など。)
主に児童会活動における異年齢集団の活動を通して,共に楽し
く触れ合い,交流を図ることで,自発的,自治的に活動できる力
がはぐくまれる。
(児童集会,人権集会など。)
班活動に見られる子どもたちの発達段階
低学年
○
遊びや係等の活動を中心にして,みんなと一緒に活動する楽しさを体感
したり,きまりや約束の大切さに気付いたりすることを通して,友達の大
切さに気付くことができるようになる。
○
班や自分の目標を決め,達成できるように主体的にかかわったり,自発
的な活動に励んだりすることを通して,友達と一緒に計画的な活動ができ
るようになる。
○
役割や責任を果たしたり,リーダーシップを発揮したりする活動をとお
して,多様な他者と認め合い,より高い目標を達成しようとする意識が強
くなり,班や学級の課題を自分たちで解決できるようになる。
↓
中学年
↓
高学年
(3)
教育活動の場面で発揮される班活動の機能
全校態勢で取り組むために
まず,学校目標・学級目標の達成に向けて,班活動で何を意図するのか,目的を明
確にすることが大切である。また,学級経営に当たっては,教職員自身が子どもの生活
背景を見つめ,子どもをより深く理解することが大切である。家庭訪問等を通じて子ど
もを理解し,受容・傾聴・共感の姿勢をもって接することで,子ども一人一人の自尊感
情を高めていけるようにしている。
その上で,子どもたちが,協力して,支え合いながら活動できるようにするために,
次のことを職員間で確認し,絶えず意識して取り組むようにしている。
-11-
∼ 班活動における職員間の確認事項 ∼
○
些細なことでも話し合わせる。言い合いなどが生じたときこそ,問題を解決していく力を
付ける機会と捉える。
○
子どもたちの発達段階にもよるが,班長が仲裁役になれるように,班長会議などで,班長
同士のつながり,班長と教師のつながりを大切にする。
○
自分をごまかしたり,人のせいにしたりしないように,「私」を主語として,自分の気持
ちを伝えるようにさせる。
○
どの子どもも自分の気持ちを出せるようにする。子ども同士の力関係には十分留意し,個
別の教育相談や日記,班ノートなどから,子どもの気持ちを十分に把握する。
○
繊細でやさしく,相手の気持ちを考える子どもほど,気持ちをため込んでいないか見守る。
そのような場合は,保護者と連携を取りながら,相談し合える関係づくりをする。
3
実践例
∼くらしでつながる班づくり(高学年での取組から)∼
(1) 子どもの実態と班づくりのねらい
高学年になると,子どもたちは自分の価値観に固執するあまり,友達の言動に憤り
を感じたり,仲間から疎外されていると感じたりすることがある。その結果,同じ目
標を持ちながらも,対立が生じてしまう状況が見られるときがある。
お互いを表面的な言動だけで判断しがちであり,納得がいかない友達の態度や様子
に「何でなんだろう…」と疑問を抱き,子ども同士がつながれないでいる。しかし,
班活動を行う中で,それまで抱え込んでいた不安や悩み・きつさといったものを聞い
たとき,
「そうだったんだ」と,初めて友達の生活背景や言動に込められた思いを知る
ことができる。そして,そのことに共感し,一緒になって考えてくれる仲間の存在を
感じたとき,
「一緒にがんばろう」という,意欲や態度につながっていくものと考える。
このように子どもたちが,日常の班活動におけるかかわりを通して,互いの内面を
見つめ,友達の見方を豊かなものにしていくことで,よりよい人間関係を築き,互い
を尊重し合う学級づくりにつないでいきたいと考えた。
(2)
班活動で大事にしたこと
∼「見つめる・語り合う・つながる」∼
当然のことながら,日々の班活動や学級活動においては,「約束を守らない」
「何度
注意しても言うことを聞いてくれない」
「人に嫌なことを言う」など,話のやりとりの
中で,様々な衝突やトラブルが起こることが予想できる。
そうした問題等を解決していくために,
「見つめる→語り合う→つながる」という過
程を粘り強く繰り返していくことで,子どもたち自らが課題を解決していく力に変え
ていきたいと考えた。
また,活動に際しては,次のことを大切にしながら取り組んだ。
-12-
《子どもにもたせたいもの》
《意識すること》
《話し合うこと》
・
安心感,居場所。
・
互いのよさを理解する。
・
自分のこと。
・
自信の取り戻し。
・
本音を出せるようにする。
・
仲間への思い。
・
互いの生活の理解。
・
言いっ放しで終わらない。
・
仲間の思いに応える。
・
仲間への信頼感。
・
互いに頑張りを認める。
・
家のこと。など
・
班,クラスへの愛着。
・
だれとだれをつなぐか。
(3)
班長決めと班員決め
ア
班長決めに当たって
学級生活をみんなが楽しく,充実したものにしていくために,班をつくることを
子どもたちに伝えた。そして,担任から改善していきたい学級の課題(授業の始まり
の時刻を守れない。からかいや悪口が見られる。問題が起こったとき,すぐ人のせいにする。
「学級の課題は,自分たちで考えて,協力して,解決していける学級
など)を語り,
をつくろう」と呼びかけた。
そして,班長をやってみたいと思う子どもの気持ちを大事にして立候補を募った。
イ
班員決めに当たって
班長が決まり,班長会議で,どんな班をつくっていくかを相談しながら,班員を
決めていった。
○
今,クラスできつい思いや寂しい思いをしている友達はいないか。
○
勉強面や生活面で気になっている子が,どうすれば頑張れるか。
○
班から,はみ出しそうな子はいないか。だれと一緒の班にしたら,その子にとって
一番よいか。など
以上のようなことを,班長同士で真剣に考えて,班長は,「その子と一緒にがん
ばりたい」
「みんなの力がもらえるようにがんばりたい」と決意して決めていった。
(4)
班長会議
定期的に班長会議を行い,各班の様子を報告したり,学級の状況を考えたりして,
出てきた学級のいいところや課題等をクラス全体に返していくようにした。
また,班員の協力が思うように得られず,班長が悩みや不満を感じている場合は,
早急に班長会議を開き,班長同士で問題を解決するためにどうしたらよいかを考えさ
せた。すぐに改善に結び付かなくても孤立感・無気力に陥ることなく,新たな意欲へ
と結び付けていけるように努めた。また,子どもたちが生活を語るためにも,まず,
教職員自身が自分を開き,自分のことも語るようにした。
(5)
『班ノート』の取組
∼自分を見つめ,思いを重ねていく∼
班活動を進めていく上で大切なことは,本音で語り合えることである。班員として
まずは,話合いの場では,どんな意見もしっかり聞くということ,話さなくても意見
を聞くことを子どもたちと確認した。しかし,自分の意見や気持ちを言葉にして表現
することを苦手とする子どももいることから,『班ノート』に取り組むことにした。
-13-
班ノートでは,自分の思いを綴り,仲間の思いを知り,共感し合うことで,つなが
りが深まっていくようにした。なお,はじめのうちは,何を書いていいか分からない
子どももいると考えられるため,慣れるまでは「自己紹介」→「家のこと」→「班の
こと」→「学級のこと」…というように,段階的にテーマを示して綴らせるようにし
た。
また,担任は毎週,班ノートを読んで班の状況を把握し,コメントを添えることで,
子どもたちとのつながりや信頼関係を築いていくことに努めるようにした。
《班ノートの中から》
○ みんないろんな悩みがあるんだ。自分だけじゃないと思った。
○ 勉強のやり方が分からなくて困っていたら,○○さんが気付いて教えてくれたので,と
ても助かりました。
○ 私は,今まで話すことが苦手だったけど,班のみんなが,
「何で?」
「それで?」とツッ
コミを入れてくれるので,少しは自分の気持ちを話せるようになったと思います。これか
らも,よろしく。
(6)
子どもたちの様子から
班活動に取り組むまでは,友達を面白いかどうかや,力の関係で判断したり,かか
わる前から決め付けをもって避けたりするような場面もあった。班づくりに当たって
も,
「Aさんと一緒の班がいい」
「B班の方が楽しそう」などの言動もあった。しかし,
活動を進めていく中で,互いにこれまでの知らなかったことに関心を示したり,協力
し合ったりすることで,次第に班の中で子ども同士のかかわりが生まれてきた。
また,話合いにおいても,「自分は,こう思う」「こうした方がいいと思う」など,
相手の意見に対して,自分の考えや気持ちを伝えるようにすることで,建設的な話合
いができるようになってきた。
まだまだ,日によって,子どもたちも感情的になって様々なことが起きることもあ
り,子どもたちの生活も一定ではない。お互いのことを受けとめ,一緒に変わろうと
努力する中で,また新たな人間関係を築いていけるものと考えている。
そのためには,
教職員が,粘り強くかかわる姿勢を持ち続けることが大切であると認識している。
4
取組の成果と課題(○:成果
○
●:課題)
班づくりの在り方を,職員間で共通理解して取り組むことで,学級経営に対する共
通の話題が生まれ,班活動の在り方や,子どもをつなぐためにどのようにしたらよい
かなど,学年を越えた教職員同士の交流が活発になった。
○
班活動を通して,子ども同士の連絡や相談から,子どもの様子がよく分かるように
なり,子ども一人一人の理解が,これまで以上に深くなった。
●
学級だけでなく,学年を越えた縦のつながりをつくっていくためにも,事例研修等
を通して,気になる子どもや支援を必要とする子どものつながりをどのように進めて
いけばよいかなどを,学校全体で考えていく必要がある。
●
子どもとつながる,子ども同士をつなぐ,また,保護者とつながるために,子ども
一人一人のよさに共感し,お互いの信頼が深まるような学級通信等の工夫を行う。
-14-
3
自他のよさを認め合う学級を目指して
∼「あい」を大切にした学習活動づくり∼
1
テーマ
友達と学ぼう!
友達から学ぼう!
2
学級経営目標から
学級の児童の実態として,明るく元気で,行事等への取組に意欲的であるが,相手や
場に応じた言動については課題も見られる。また,学習や生活場面において,恥ずかし
さや自信が持てないなどの理由から,自分の考えを表現することに対して苦手意識を持
っている児童もいる。このことを踏まえ,自他を大切にし,相手を思いやる人間性をは
ぐくむとともに,自分の思いを友達にしっかりと伝え,共に成長していくことを大事に
した教育活動を充実させることが必要であると考えた。
そこで,「互いのよさを認め合い,助け合い,協力することができる学級の雰囲気を
醸成する」「自分の考えを生き生きと表現できる子どもを育てる」ことを学級経営目標
の柱に位置付け,人権が尊重される学習活動づくりを通して,目標の達成に努めること
にした。
3
目指す姿(
「あい」とは)
人権が尊重される学習活動づくりを進めるに当たり,「あ
い」というキーワードを設定した。この「あい」とは,学
習場面における話合い,聞き合い,教え合い,伝え合い,
響き合いなど,児童相互のかかわりのすべてを表し,最終
的には自他のよさを認め合う人間愛を目指すものである。
【
「あい」のイメージ図】
「話合い」
「聞き合い」
「教え合い」
「伝え合い」とは…
日常の学習や生活において,これらの場面を意図的に設定し,支援を工夫していく必要があ
る。学び合いのベースとなるものである。
「響き合い」とは…
学び合いが高まった姿である。互いの意見を取り入れることによって,活動に広がりが出る
状態や,自分や友達の考えや感じ方が深まったり,変化したりしたことを互いに感じ合うよう
な状態であると考える。
「人間愛」とは…
自他のよさを認め合う状態である。様々な学び合いを通し,活動を共にする中で,自分には
ない友達のよさに気付いたり,友達から自分のよさに気付かされたりして,互いを認め合う人
間愛が形成されると考える。自分の大切さとともに他の人の大切さを認めるという人権尊重の
理念をもとに,人権感覚を高めることが,人間愛を育てることと深いかかわりがあると考える。
-15-
4
目的と概要
互いの人権が尊重される学習活動づくりを目指し,普段の学習場面において,ペア学
習やグループ学習を積極的に取り入れる。児童相互の学び合いにより,学習効果を高め
るだけでなく,自他のよさを認め合う態度の育成を目指す。
また,学び合いの基盤となる自己表現力やコミュニケーション能力を日常的に育成す
る手立てとして,朝の会でスピーチタイムを行う。これは,代表児童が,あるテーマを
もとに発表したスピーチに対し,感想やアドバイスを交流する取組である。スピーチア
ドバイスカードを活用することで意見交流を充実させ,互いのよさを共感できるように
する。
5 活動例
(1) スピーチタイムから ∼自己表現力やコミュニケーション能力を高める場の工夫∼
ア ねらい
スピーチ活動を通して,自己表現力やコミュニケーション能力を高めるとともに,
相互理解を深め,自他のよさを認め合う態度を育成する。
イ 実際
(ア) スピーチテーマの設定
「もしタイムスリップしたら」「童話の続編を作ろ
う」など,テーマは自由に設定した。「いま,どんな
きもち?」(大阪府人権教育研究協議会)を活用する
こともできる。これは,「やったー」「ホーッと」「が
っくり」など,例示された様々な感情の中から,今
【スピーチの様子】
の自分に合うものを選び,ジェスチャーをつけて発表するというものである。
(イ) アドバイスカードの活用
スピーチに対しての自分の考えを整理するため,アドバ
イスカードを準備し,意見交流の前に書かせた。
「声の大
きさ」「姿勢」「内容」の3つの観点について,◎,○,△
で評価させ,
マークには,感想や発表者へのアドバイ
スを書くようにした。また,書いたアドバイスカードは,
教師が言葉を添えて,発表児童にプレゼントし,今後の活
動に生かすようにした。
【アドバイスカード】
ウ 参考
(ア) 取組例(テーマ:宇宙人への手紙)
こんにちは。私は地球人の○○です。あなたの名前
は何ですか。あなたの星には,宇宙人が何人いますか。
どんなお店がありますか。私たちの地球は,温暖化が
進んでいます。私は,宇宙人がいる星に行ってみたい
ので,今度,UFOで迎えに来てください。返事を待
っています。
-16-
【意見交流の様子】
「こんにちは」で始めて
いるのがいいと思いました。
UFOで迎えに来てもらうという
「何人宇宙人がいますか」や
のが面白かったです。私もUFOで
「どんなお店がありますか」と,
迎えに来てもらいたいです。
質問もしていてよかったです。
発表時間もちょうどよく,すら
すら読めていて,よかった
です。
(イ)
児童の反応等
○ 始めた当初は,声の大きさや話す姿勢といった態度面に関する表面的な感想
がほとんどであったが,少しずつ内容面にもふれ,「○○という表現がよかっ
た」「自分だったら○○と考える」というような感想も見られるようになって
きた。
○ 「声の大きさ」「姿勢」「内容」の観点を示すことで,発表者も聞く側も共に意識
して,スピーチタイムを楽しく取り組めるようになってきた。
○ 発表者のスピーチの内容にも工夫が見られるようになってきた。
○ 相手の話をしっかり聞く,メッセージを伝えることを通して,相手を大切に
しようとする心情が養われつつある。
○ スピーチテーマやアドバイスカードを工夫するなどして,マンネリ化しない
継続した取組が必要である。
(2) 学習場面から ∼6年国語「みんなで生きる町」∼
ア ペア学習におけるねらい
学び合いを通して,学習効果を高めるとともに,相手の考えを肯定的に受け止め,
互いのよさを認め合う態度を育成する。
イ
ペア学習・グループ学習に当たって
ペア学習を通して,友達の考えに出合い,互いに学び合いながら学習が深まるこ
とを期待している。友達の考えのよさに気付き,自分の活動に生かそうとする態度
や技能を身に付けさせたい。また,ペア学習には,少人数(ペア)の中で自分の考
えを発表することにより安心感や自信を深め,全体の場での発表につなげるという,
ステップアップ的な要素もあると考える。
グループ学習では,さらに多様な考え方に触れ,学び合うことができるとともに,
ペア学習同様,友達のよさを捉えやすい面があると考える。学習を共同して行うこ
とで,相手に対する新たな気付き,相手への思いやりの心が培われ,子ども相互の
つながりも強まるものと期待する。
-17-
ウ
授業の実際
主な学習活動(形態)
○ 学習の進め方を知
る。
【学習計画表】
○
「みんなで生きる
町」という意味を考
える。(ペア学習)
○ 資料「多くの人が
使えるように」を読
み,「ユニバーサルデ
ザイン」の意味を知
る。
指 導 上 の 留 意 点
・ 学習の見通しをもたせ,主体的な学習を促すため
に,冒頭で学習計画表を示し,学習のめあて(ゴー
ル)と学習の進め方を知らせる。
【第1時で子どもたちに伝えること】
① 友達の活動や発表のよさをたくさん見つけながら
学習を進めていく。
ハート
(ワークシートの
マークに記入する。
)
② ペア・グループ学習を通して,互いに学び合い,
みんなでよりよい提案文を作り上げていく。
・ 「みんなで生きる町」とはどのようなことか,個
人で追究した後,ペアで吟味させる。終末には,相
手の活動のよさを
マークに記入させる。
・ 教科書掲載の資料「多くの人が使えるように」を
読み取り,理想の社会や筆者の願いを,ユニバーサ
ルデザインの視点から図にまとめさせる。ここでも,
ペア学習を取り入れ,互いの考えを出し合いながら
進めさせる。終末には,相手の活動のよさを
マークに記入させる。
【友達のよさを記入】
【ペアで読み取り】
○
身の回りの施設や
物について調べる。
(ペア学習)
・
ユニバーサルデザインの考え方を理解した後,ペ
アごとに課題を決めて,現地で取材をさせる。「多
くの人が使えるように工夫されていること」,「もっ
と工夫が必要なこと」の2つの視点で観察させたり,
インタビューさせたりする。
【取材の様子(スーパーを調べたペア)】
【取材前のあいさつ】
・
○
調べたことを整理
し,発表メモや資料
を作る。(ペア学習)
ペアで意見交換をさせながら,選材させる。発表
メモや資料を作成する際は,作業を分担させたり,
互いにチェックさせたりするなど,ペア学習の効果
が発揮されるようにする。終末には,相手の活動の
よさを
マークに記入させる。
-18-
【ペアで発表メモを作成】
・ 発表会の目的を次のように示し,互いの意見を取
○ 取材して分かった
り入れることによって,活動に広がりが生まれるよ
ことと自分たちの考
うにする。(「響き合い」)
えを発表し合い,疑
◎ 友達の発表を聞いて,自分の考えに生かす。
問点などを話し合う。
◎ アドバイスをもらい,自分の考えに生かす。
(グループ学習) ・ 各ペアの発表後に話合いの時間を設定し,グルー
プ内で質疑応答や意見交流を行う。活発な意見交流
が行われるよう,話し方,資料の見やすさ,内容に
ついて,視点の与え方を工夫する。
・ 自分の考えの参考になりそうな友達の意見や,友
達からもらったアドバイスは,カードに記入させ,
提案文の作成に生かすようにする。
【発表メモ】
【発表会板書】
【発表会の様子】
○
話合いで深まった
考えを,提案の文章
に書く。(ペア学習)
※
・
【完成した提案文】
前時の発表会で友達からもらったアドバイスや,
他ペアの活動のよさも取り入れながら,提案文が作
成できるよう支援する。
写真の掲載については,事前に児童及び保護者の承諾を得ています。
エ 参考(児童の感想・反応等)
〔感想①〕
マークに書かれた内容(友達のよさに目を向けた感想)
○ 先生が教科書を読んでいるときに,大事なところに線を引いていたのがいい
と思った。キーワードに色を付けて,分かりやすくしていた。
○ 私の意見の足りないところを付け加えてくれた。
○ 取材に行ったとき,言葉をのがさずに書いていた。
○ 漢字や文章の誤りを教えてくれて,助かった。
○ 「まず」,「また」,「さらに」という言葉を使っていて分かりやすかった。
○ 写真を二枚用意して,一枚に問題点の説明を書き,もう一枚に今後どうした
方がよいという説明を書いていて分かりやすかった。
○ (発表会で)自分で作った模型を使っていて,いいと思った。私も今度こう
いう機会があれば,参考にしたいです。
-19-
○
□□さんのいいところは,頼んだことをしてくれるところと,よく気がきく
ところ,まとめるのが上手なところです。
○ □□さんのいいところは,分からないときでも,具体的にいろいろなことを
発言してくれるところです。
○ 新しいペアでもがんばれ。今までありがとう。
〔感想②〕ペア学習についての感想
○ 一人で考えると,何も浮かばないけど,ペア・グループになると,考えが多
くなって意見がたくさん出るから,ペア・グループ学習の方がいい。
○ 自分では気付かなかったことが,ペアになると気付けるからいい。
○ 自分の意見とペアの意見が同じだと安心感がもてて,発表しやすくなる。
○ 自分とは違う意見も聞けるし,分からないときに教えてもらえる。まとめの
ときなどに,分担や協力ができて,一人より簡単にできるからいいと思う。
○ 友達と話し合うのが楽しい。みんなでやるととても分かりやすくなる。
● ペアの人が何も意見を言ってくれないときがある。
● 意見が違うときに,どうすればいいか分からない。
〔感想③〕ペア学習によって新たに気付いた友達のよさ
○ 自分から進んで意見を言ったり,行動したりしてくれるところ。
○ 音読が上手なところ。物語の読み取りが上手なところ。
○ 先生が言わなかったところも,線を引いたり,印を付けたりするところ。
○ ノートのまとめ方が上手で見やすいところ。
○ 絵を書いて分かりやすく説明できるところ。
○ あまり漢字を覚えていないと思ったら,結構覚えていた。
○ 忘れ物をしたときに,何も言わないのに,ペアの相手がすぐに貸してくれた。
○ ペアになった人は,ほとんどみんな自分から手を挙げるようになった。
6
取組の成果と課題
「あい」を大切にした学習を目指し,授業中に交流の場(ペア・グループ学習)を積
極的に設定することで,相手の考えを肯定的に受け止め,互いのよさを認める児童の態
度が少しずつ見られるようになってきた。一定の期間,学習活動を共にすることで,友
達に対する新たな気付きや意外な発見もあるようだ。また,児童の感想にもあるように,
ペア学習で自分の考えを確かめ,深めることにより,全体の場で自信をもって発表する
姿も見られるようになってきた。また一方で,意見が出なかったり,意見が違う場面が
あったりしたので,その際は,タイミングを見て児童同士の様子や思いを伝え合うなど,
教師側の支援を行った。
さらに活発な交流を進めるために,伝え合う力や豊かな言語感覚をはぐくむ指導の工
夫が必要である。
-20-
︽ワークシート︾みんなで生きる町
【名前】
活 動 内 容
身の回りにある施設や物について、ユニバーサルデザインの視点か
ら調べて考え、グループで話し合ったことを生かして、提案の文章を
書こう。
学習計画表
時間
① ﹁みんなで生きる町﹂という意味を考える。
︵ペア学習︶
② ﹁多くの人が使えるように﹂を読み、﹁ユニバーサルデザイン﹂
の意味を知る︵ペア・グループ学習︶
③④ 身の回りの施設や物について調べる計画を立てる。
⑤⑥ 身の回りの施設や物について調べる。
︵取材︶
⑦⑧ 調べたことを整理し、発表メモや資料を作る。
⑨⑩ 取材して分かったことと自分の考えを発表する。
⑪ お互いの発表を聞いて、疑問点などを話し合う。
︵学び合い︶
⑫⑬ 話合いで深まった考えを、提案の文章に書く。
友達のよさを見つけ、伝えるマーク
みんなで生きる町︵読み取り︶
﹁みんなで生きる町﹂ってどういう意味だろう。
☆ わたしの感じる﹁みんなで生きる町﹂のイメージ
☆ ペアで話合い
﹁みんなの生きる町﹂
・・・
﹁みんなが生きる町﹂
・・・
﹁みんなで生きる町﹂
・・・
自分たちの暮らしを
よりよいものにしたい
すべての人の願い
﹁みんなで生きる﹂ってどういうことなのだろう。
書いたことは、相手にも見せて伝えよう。
権利
義務
-21-
4
1
人権意識をはぐくむ環境づくり
∼「PTA人権学習会」の取組∼
人権意識をはぐくむ環境づくりに向けて
子どもたちは,学校だけでなく,多くの時間を家庭や地域社会において過ごしている。
たとえ学校で人権の重要性について学習しても,家庭や地域において,学校における学
習の成果を肯定的に受け止める環境が十分に整っていなければ,人権教育の成果が知的
理解の深化や人権感覚の育成へと結び付くことは容易ではない。
これまでも,子どもたちの間において,人間関係のトラブルや部落差別をはじめ様々
な人権課題に関する偏見や思い込みによる言動が見られ,人権感覚が十分身に付いてい
ないことや,指導方法等に課題があることも明らかになった。また,子どもたちのこの
ような偏見や思い込みは,生得的なものでなく,成長していく過程で,いつの間にか身
に付いたものであると考える。人権意識も,何もしないで自然に身に付くものではなく,
周りの人からの様々な影響を含め,意図的に学ぶことによって獲得できるものである。
つまり,学校だけでなく,家庭・地域と共同して取り組むことが極めて重要である。
それだけに,人権感覚の育成等には,学校での取組を肯定的に受容するような家庭や
地域の基盤づくりが大切であり,人権教育に対する保護者の理解を促進することが求め
られる。そのために,「PTA研修会や家庭訪問等の機会をとらえて,保護者に対する
計画的な啓発を行う」「授業参観等において,人権にかかわる主題を取り上げた授業を
行う」「学級懇談会等で学校の取組を説明して意見交換を行うなど,保護者と担任が,
人権や差別の問題を共に考え,学び合う場を設ける」など,家庭・地域との連携に努め
ている。
2 家庭・地域との連携に向けて ∼職員間の共通理解∼
(1) 人権教育の効果を高めるために
家庭・地域との連携を図る上では,学校・家庭・地域が共に子どもたちを育ててい
くという視点に立ち,「開かれた学校づくり」を進める。
~
連携の機会
家庭との連携について ~
主
な
連
携
の
推
進
方
策
○ 日常
・ 学校だより,学級通信等の発行などにより,子どもたちの人
(通常の授業等)
権に関する学習や活動を知らせる。
・ 学校行事欄に,各人権課題についての週間・月間等を記載し
て,保護者にも周知を図る。
○ 授業参観
・ 一人一人の人権が尊重される人間関係づくり・環境づくり・
学校開放
学習活動づくりを通した,職員・子どもたちの様子を知らせる。
運動会 等
・ 子どもたちの作品を校内等に掲示し,紹介する。
○ 学級PTA
・
人権教育に関する学年・学級の取組について説明し,意見交
換等を行う。
・ 人権に関する参加型学習(ワークショップ)などを行う。
・ 子ども観や子育てについて話し合う。
-22-
○ 家庭訪問
・
・
○
・
(2)
学習発表会
子どもの家庭や地域での生活実態を把握する。
子ども・保護者と教師の相互理解
(子ども・保護者の期待や願い,要望などを聞く。学校や学級
の教育方針を保護者に理解してもらう。)
人権教育に関する学年・学級の取組を発表する。
家庭・地域との連携に当たっての確認事項
連携に当たっては,家庭・地域の方々が,人権尊重の理念について十分に認識して
いることや,学校の取組に対して肯定的に理解してもらい,協力や支援を得られるよ
うに,全職員が意識して取り組むようにしている。
~
連携に当たっての確認事項
~
○
子どもたちの取組が,保護者や地域の方々の人権啓発にもなるような工夫を
する。
○ 学校の取組の様子や成果,出来事などを,普段から保護者や地域に積極的に
情報発信し,学校の取組への理解を広げる。
○ 子どもたちと保護者が,一緒になって活動に取り組めるような工夫をする。
○ 保護者の人権教育や人権意識に関する意識や意向などを把握するとともに,
地域の実情等を踏まえ,反映しながら取り組む。
○ 家庭訪問などによって,子どもの家庭や地域での生活実態を把握し,保護者
とのつながりを深める。
3
実践例
∼「PTA人権学習会」∼
(1)
取組の概要
《テーマ》 『子どもたちがつながるおとなの人権学習』
○ 年度の3回目の授業参観では,全学年,学級ごとに人権に関する授業を行う。
○ 授業参観後の学級PTAを,授業を基に人権学習会として行う。
(2) 取組のねらい
部落差別をはじめあらゆる差別をなくし,人権感覚豊かな子どもを育てるために,
保護者と教職員が共に,いじめや同和問題をはじめとする様々な人権問題について話
し合い,それらの問題に対する正しい理解と認識を深める。
(3)
授業参観と学級PTAについて
学年ごとに人権学習のテーマを位置付けるが,学級の子どもたちの課題等を踏まえ
て学習内容や教材等を工夫する。また,学級PTAでの保護者の人権学習を充実して
いく上でも,子どもたちの話合いや発表が多く見られるように工夫する。
-23-
《授業参観:人権学習のテーマ》
1年……なかまづくり
2年……なかまづくり(男女の平等)
3年……いじめ問題
4年……障害者問題について
5年……ハンセン病問題について
6年……同和問題(社会科)
学年ごとのテーマを基本にし
ているが,学級の実情等に応じて
実施している。
《学級PTAの進め方(例)》
1 話合いの柱
学級ごとに,子どもや保護者の実態に応じて話し合いを行う。
① 授業参観について話し合う。
② 人権教育について話し合う。
③ 学級の状況や実態について話し合う。
④ 同和問題をはじめ様々な人権問題について話し合う。
2 話合いに当たって
○ 学級の人権に関する課題等について保護者と共通理解を図り,学校と家庭・
地域で取り組んでいくことを確認する。
○ 人権問題は,誤った知識や思い込みによる決め付け,偏見などから生じてい
る問題であることを理解できるようにする。特に同和問題については,地域の
実情を踏まえ,正しい理解と認識が深まるようにする。
○ 4人グループをつくるなど,保護者相互の交流や,意見を出しやすい雰囲気
づくりを工夫する。
(4) 事前・事後の取組
ア 事前
○ 当日の授業参観・学級PTAに多く参加してもらえるように工夫する。
(学級通信・週報,家庭訪問など)
○ 必要な資料の準備と,内容等の再確認をする。
○ 学級役員との打合せを事前にしておく。(司会・進行・話合いの柱等)
イ 事後
○ 授業や学級PTAで得られた成果や課題を,学級づくりに反映させる。
○ その後の学級・学校での取組や経過などを通信等で家庭に知らせる。
○
職員研修で,取り組んだ成果や課題を共有し,今後の取組に発展させる。
-24-
(5)
学級PTAの展開例
※
会員相互の交流を大切にする。学習内容に応じて,座席を指定したり,グループをつくった
りするなど,親しい人同士だけで偏らないようにする。
※ 話し合いをしやすいように,ネームや子どもの名前を書いた三角柱などを準備しておく。
話 合 い の 内 容
留 意 点
担任から,授業を通して子どもたちに伝えた ○
1
かったことや子どもたちの反応等を話す。
かねての授業の様子も含めて,子ど
もたちが頑張ったことを伝える。
授業に関する質問や子どもたちへの感想等を ○
2
家庭での子どもの様子も含めて,授
業に取り組んでよかったと思うことを
出し合う。
話してもらうようにする。
PTA人権学習会の趣旨と学習内容の確認を ○
3
資料)の1∼4を参考にしながら,学
する。
校のこれまでの取組と,共に子どもを
《テーマ》
「子どもたちがつながるおとなの人権学習」
4
「PTA人権学習会資料」(以下,
育てる観点から,PTA人権学習会の
趣旨を確認する。
授業で扱った人権学習のテーマを中心に,同
和問題をはじめとする様々な人権問題について
話し合う。
(1)
子育てを通して,子どもたちの気になって ○ 資料の5を参考にしながら,「差別
いる言動等について話し合う。(担任からは, とは何か」を確認する。
人権週間や教育相談のアンケートなどから,
子どもの声を知らせる。)
(2)
出された意見等を踏まえながら,様々な差 ○ 保護者から,自分自身や子どもが,
別問題について話し合う。
いじめや差別を受けた実体験等が語ら
れたときは,そのことを全員で考える。
・
そのときの心境は…。いじめられ
差別される側の痛みを押さえる。
・
心の支えになったものは…。友達
や家族のつながりの大切さ。
(3)「子どもたち(差別する大人も)は,どのよ ○ 資料の6∼7を参考にしながら,子
うにして差別意識が身に付いたか」を考える。 どもたちも社会にある差別意識が無意
5
・いつ
・どこで
・だれから
・どのようにして
識のうちに身に付くことを押さえる。
今後の子育てについて,感じたことや大事に ○ 資料の8を参考にしながら,子ども
していきたいことなどを語り合う。
たちの成長に関心をもち,互いに学び,
語り合える学級PTA活動につなぐこ
とをまとめにする。
-25-
(6)
参考 ∼6年生の学級から∼
ア 学級PTA人権学習会を終えて
(ア) 授業「社会科:世界に歩み出した日本」について(子どもの反応や反省など)
「差別に苦しめられてきた人々だけの運動であれば,全国には広がらなかった。
差別を乗り越えて協力して運動することが願いの実現につながる。」という感想
があった。
(イ) 学級PTAについて(主な質問・意見・成果・課題など)
・ このようにして,子ども,親まで一緒に学習できていいと思う。
・ お年寄りの方がいろいろ言う。おかしいと言える子どもたちにしたい。私た
ちもそうありたい。
・ 何かあったとき(自分が何か言われて嫌な思いをしたとき)に人権の学習を
していてよかったと思う。
・ 資料を読んで親も学習できた。資料があってよかった。
イ 保護者の感想
・ 最初は今の時代に,知らない子どもに教えるのはどうかと思いましたが,実際
に差別を受けた友人と話してから,きちんと知ることが大事だと思うようになり
ました。家庭でも気を付けるようにしています。
・
差別する心として,偏った情報だけで「イメージ」をつくるとあり,本当にそ
うだなと思いました。最終的な判断は,自分自身が自分で確かめ決断することが
大事だと思います。自分は悪い人間だとは思わないが,沈黙と無関心でいること
もあるかもと思いました。
「勇気を持って動くこと」が自分自身の課題かなと感じ
ました。
・
固定観念で固められつつある脳と心を今一度見つめ直し,相手を思いやれる想
像力と心,正しい平等,小さくても一人のひと…人権について学びたいと思いま
した。
・
江戸時代の身分制度など,私たちが学生の頃に習ってきたことと変わってきて
いるのにおどろきました。子どもの頃に正しい知識を持たせるためにも,人権学
習は大切なことだと思います。
・
人権となると身構えてしまいますが,「差別をなくす」「差別のない社会」にす
るにはどうしたらいいか…。自分にできることは,子は親を見て育つので,自分
がされて嫌なこと,もし自分が差別される立場になったら…と思えば,互いに思
いやる心,常にその意識をもっていけばいいのではと思います。
-26-
PTA人権学習会資料
1
人権教育の目標
部 落 差 別 を は じ め と す る 一 切 の 差 別 と 偏 見 を な く し ,共 に 伸 び よ う と す る 意 欲と
実践力をもった人間を育てる。
2
目指す子ども像
いじめや差別を許さず,いじめや差別をなくすために考え行動する子
そのために,
・友達の痛みや怒りを,自分に置き換えて受けとめられる子
・自分の思いを伝えられる子
・つらいことから逃げず,立ち向かっていく子
・ 共 に 認 め 支 え 合 い ,身 の 回 り の 問 題 を 仲 間 と 共 に 解 決 し よ う と す る 子
・基礎的な学力を身に付け,ものごとを科学的に捉える子
3
各学年の目標
低学年・・・・ 集団への自覚
相手の気持ちを大切にし,差別的な言動をとらず,
仲間と協力し,助け合おうとする意欲を培う。
中・ 高 学 年・ ・ 現 実 へ の 自 覚
現 実 の 生 活 上 の 問 題 を 通 し て ,相 手 の 立 場 を 考 え る
とともに,自らの差別的な部分に気付き,身の回りの
課題を解決しようとする。
4
主な取組
∼本当のこと,本当の思いを知る取組を∼
月
校内の取組
4
5
6
7
10
11
保護者・学校行事
学級PTA
人権旬間
「差別を許さないなかまづくり」
土曜参観
授業参観・学級PTA
運動会
人権月間
「互いの思いを知ること、本当の
ことを知ること」
人権作文発表会
12
PTA人権学習会(授業参観・学級PTA)
1
2
3
学習発表会
学級PTA
人権旬間
「互いのよさを認め合うこと」
PTA人権学習会
テーマ:子どもたちがつながるおとなの人権学習
○
授業参観の人権学習会テーマ
1年・・なかまづくり
2年・・なかまづくり(男女の平等)
3年・・いじめ問題
4年・・障害者問題について
5年・・ハンセン病問題について
6年・・同和問題(社会科)
-27-
○
学級PTA
子どもたちを差別される側にも,
差別する側にも立たせないために,
私たちおとなが正しく学びましょ
う。自分の思いを語り合いましょう。
5
差別とは何か…。すべての人権問題に通じることを考えてみましょう。
○
だれもがのびのびと自分らしく生きる権利が奪われる。
→人権侵害・差別
○
だれもがのびのびと自分らしく生きるために責任がある。→国民的課題・一人一人の課題
差別とは・・・
その人自身の特性を評価せず,本人が責任の負いようのない事情や,本人の努力では解決
しがたい事情を根拠として,不利益を与えたり,人権を侵害したりすることです。
差別とは・・・・人の命・自由・希望を奪うもの
差別行為とは・・・
○人をばかにすること
○人を仲間はずれにすること
○人をいじめること
(軽蔑・蔑視すること)
(排除・排斥すること)
(暴言・暴力をふるうこと)
私たちは,程度の差こそあれ,身近な生活の中にある差別にかかわっていると
言えます。差別は自分自身の問題だと気付き,一人一人が「差別の当事者になり
うる」という自覚は,部落差別をはじめとするあらゆる差別をなくすための第一
歩だと考えましょう。
平成 21 年度 人権教育資料「なくそう差別 築こう明るい社会」 鹿児島県教育委員会 参考
6
家庭で,学校で,地域で,社会の中で…わたしたちの身近な生活の中に差別行為を生
み出しているものはないでしょうか。
・「 顔 が 見 え な い 」→
匿名性
・「 十 把 ひ と か ら げ 」→
ステレオタイプ「子どもはみんなわがまま」「女は優しく弱い」
「血液型で,何々型の人は…」など。
・「 鵜 呑 み に す る 」→
誤った情報を信じてしまう
同和問題,ハンセン病問題など。
事実を確かめない
うわさを信じてしまう。決め付けや偏見。
・「 あ た り ま え 」→
自分のものさしで決め付け,非常識と…
違いを認められない。人と人が共に生きることが大切。
・「 乏 し い 想 像 力 と 感 性 」→
他人の痛みが分からない
いじめ,性差別,障害者差別,部落差別など。
すべて差別する側の問題。
・「 そ ん な の 関 係 な い 」→
無関心,希薄な人権感覚
-28-
7
自分の差別する心を見つめてみましょう。
<偏った情報だけで「イメージ」をつくってしまう>
うわさ
偏見
因習
誤った知識
差別
思い込み
勘違い など
人権問題に対する正しい理解と認識を
24
…これといった確かな証拠もなく,また,実体験とは無関係に,人からたまた
ま聞いたことや,ただの風聞を根拠にして,あらかじめ決め付けてしまうことは
ありませんか…。
8
みんなで考えてみましょう。
後生に残るこの世界の最大の悲劇は、
(
)人の暴言や暴力ではなく
(
)人の沈黙と無関心である。
(マーチン・ルーサー・キング・ジュニア)
※ ( )の中には(悪しき)(善意の)が入ります。
-29-
※ 授業参観・学級PTA開催通知の裏面です。
の御案内
○○小学校の学校教育目標は,
「人権を尊重し,豊かな心と確かな学力を持ち,
たくましく生きる子どもを育てる」
です。そこで,人権同和教育の推進を学校運営の大切な柱の一つとして,子どもたち
が,自分や周りの人を大切にすることができるようになり,差別に気付き,共に差別
をなくしていく仲間として育つように,教育活動全体の中で取り組んでいます。
そのために保護者のみなさんと,学校(担任)が,人権や差別の問題を共に考え,
一緒に子育てをしていく学び合いの場として,このPTA人権学習会があります。
テーマ: 子どもたちがつながるおとなの人権学習
《授業参観・人権学習のテーマ》
1年・・なかまづくり
3年・・いじめ問題
5年・・ハンセン病問題について
2年・・なかまづくり(男女の平等)
4年・・障害者問題について
6年・・同和問題(社会科)
《学級PTA》
授業参観を通して,子どもたちの気持ちや考えを聞き,いじめや差別をなくす子
どもたちに育つよう,みんなで話し合い,保護者同士のつながりを深めましょう。
学校の人権同和教育の取組について理解を深めていただき,また,子どものことや
日常生活で感じていることなどについても,ぜひ一緒に語り合っていきたいと考えて
います。
〈昨年度の感想から〉
深いテーマながら,日々の生
活の中では向き合う機会や,考
えようとすることのないテーマ
だと思います。
それ故に今回の学習会は「考
える」よいきっかけとなりまし
た。私も学ばせていただきなが
ら,我が子,ほかの子も「思い
やれる」心を育てていけたらな
と思いました。
すべての偏見,差別はプリ
ントに書いてあったように
乏しい想像力と感性だと思
います。大人,子ども関係な
く,個人個人の人権を尊重で
きるといいと思います。
まずは大人が変わらない
と,子どもにまではなかなか
伝わらないのでは…。
-30-
子どもの頃に教わっ
たことを大人になって
から改めるのは大変。
子どもの頃から正し
いことを伝えないとい
けないなと感じるとこ
ろです。
5
1
聞いてください!わたしの気持ち
∼「人権作文発表会」の取組∼
はじめに ∼取組に至るまでの背景∼
本校の子どもたちは,各学年1クラスで,しかも校区内の小学校も1校のため,9年
間を同じ仲間で過ごすことになる。日常の学校生活では,互いに気心も知れて,仲も良
さそうに見えるが,これまでの中で人間関係が固定化している面もあり,言わなくても
よい部分まで言い過ぎたり,嫌なことがあっても言い返せないでいたりする子どももい
る。また,そのような場面を見ている周りの子どもたちも,これまでの慣れがあるのか,
さほど気にする様子も見受けられないこともあった。
このような状況から,子どもたちの自他を大切にできる意識や態度をはぐくむことが,
職員間の悩みでもあり,学校としての指導上の課題でもあった。
これまでも,学期ごとに人権週間を設定し,仲間づくりを目的とした学習や人権学習
等に取り組んできたが,人権の意義や重要性を子どもたち一人一人に問うだけでなく,
学校生活や自分の家庭生活も含め,互いの気持ちを意図的につなぐ学習が必要と判断し,
「人権作文発表会」を新たに取り組むこととした。
- 「人権作文発表会」の取組に当たっての確認事項 -
○
「人権=人権問題」という概念にとらわれず,人権について自分自身のことから
出発し,自分の思いや考え,体験をより率直に文章に表現できるようにする。
○ 自分自身の人権について考える機会となるようにし,人権が尊重される人間関係
づくりを目指す。
○ 学級全員が発表し,共有することを重視することで,学級経営に活かす。そのた
め,子ども同士が思いを知り合う機会として,また,悩みをなかなか相談できない
というような子どもの気持ちを共有する機会となるように努める。
2
「人権作文発表会」を支えるための環境づくり
「人権作文発表会」に向けて,子どもたちが「自分を見つめ・綴り・伝える」ことが
できるためには,学級の中で「自分や他の人が大切にされていると実感できる」ような
環境を創り出していくことが不可欠である。
そこで,かねてからの学級経営や教科等指導,生徒指導等を行う中で,教職員自らが
子どもたち一人一人を大切にしようとする姿勢についても共通理解を図り,実践するよ
うにした。
(1)
○
○
○
実践の基盤となる「仲間づくり」の共通確認
お互いの「違い」を認め合った上で,支え合い,励まし合う仲間
身の回りの不合理・矛盾などに気付き,それらを許さず,解決していく仲間
互いの思いや悩みを受けとめ,みんなで協力して取り組む仲間
-31-
(2)
学級経営や教科等指導に当たって
○
子ども一人一人を見つめる
・
子どもや保護者とかかわることで,課題や言動の背景にある思いや生活を知る。
○
自尊感情(セルフエスティーム)の育成
・
子どもを肯定的に捉え,子どものよさを認める。
・
授業等では,ほめる場面(学習態度に対する「意味付け・価値付け・方向付け」)な
どを意図的に用意する。
○
仲間づくり
・
子どもの思い,教師の思いを投げかけ,周りの子どもたちの思いとつないでいく。
○
教職員の姿勢
・
子ども一人一人の問題を,学級の問題として取り上げ,解決策を子どもたちと共に考
える。
○
学級の雰囲気づくり
・
3
何でも言える,また,受け止めようとする雰囲気づくりに努める。
実践例
∼人権作文発表会の取組∼
(1) ねらい
ア 自己を見つめ,自分の思いや考えを表現する機会をつくる。
イ 互いの思いや考えを知り,共感したり違いを認め合ったりすることで,共に生き
るための実践力を育てる。
(2)
学習活動の概要
※
は各学校のカリキュラムによって,簡略化または省略してもよい。
○
人権学習
子どもたちの発達段階や学級の実態に合わせて人権学習を行う。
この後の活動で,子どもたち自身に考えさせたい内容を踏まえて
テーマを決定する。
○ 参加型学習・読み物資料・ビデオ資料など,どれでもよい。
○
書
く
人権作文を書く前に,参考資料1,2を読み合わせ,自分自身の
ことを振り返らせ,自由に書かせる。
または,事前の人権学習に沿ってテーマを決めて書かせる。
○ 人権学習を行わない場合は,次のようなテーマを与えて書かせる。
また,自分自身でテーマを決められない場合にも,提示して選ば
せてもよい。
テーマ例:本当の友達とは?
私の宝物
言われてうれしい言葉・嫌な言葉・気になる言葉
○ 時間や子どもの実態に応じてワークシートを用いることも有効。
-32-
○
発表までに全員の作文やワークシートを読み,必要に応じて推敲
や発表練習の準備をしておく。
○ 原則として,全員に発表させる。
○ 全員の発表に対して一言感想を書かせる。また,終了後に発表会
そのものに対する感想を書かせる。
発表する
○
テーマに沿って,または,発表の内容からテーマを決めて話合い
を行う。
○ 話し合う場を設定しない場合でも,学級通信や教室掲示などを利
用して感想を共有する。
話し合う
○ 『みんなの合言葉』『○年○組宣言』や『生徒会スローガン』の
ように,年間を通した実践につなげるための具体的な形をつくる。
実践する
(3)
展開例
過程
時間
構
想
を
練
る
1
《人権週間中の学習活動の流れ》
主な学習活動
指導上の留意点
人権学習1 ∼参加型学習∼ ○ 自分たちの日頃の学校生活の様子や行
例:H22年度『仲間づくり』
事等への取組の状態などを想起させ,置
6 救命ボートの中で
き換えて考えさせる。
※
グループをつくる場面で,必要な場合は
子ども同士の人間関係に配慮したり,アイ
スブレーキングを活用したりする。(9)
1
人権学習2 ∼読み物資料∼ ○ 読み物教材を通して,自分たちの学級
例:人権教育教材『ひらく』
のことを振り返らせ,気になっているこ
(小学校 5・6年用)
とがないか発問する。
教材名:「うなり声」
※ 学級全体や中心に据えて取り組んでいる
子どもの生活課題に重ねる。
書
く
人権作文発表会1
《テーマ》
○
「仲良くできている」というのは,ど
ういう状態なのかを考えさせる。
・ そのためには何が必要なのか。
・ どうしてそう考えるのか。
など,自分の思いや考えを伝えることが
できるよう,理由や具体的な例などを挙
げて書くように伝える。
※
時間や子どもの実態に合わせて,ワーク
3
みん な仲 良く す るため に
は,どうしたらいいだろう?
どうしたらいいと思う?
1
参考資料1・2の読み合
せをする。
シートを用いてもよい。
※
2
1000字程度で自分の思い
や考えを書く。
自分で書き進められない子どもには,テ
ーマを与えたり,これまでに書いた文章や
日記等を振り返らせたりして,書けるよう
にする。(2)
-33-
発
表
す
る
2
人権作文発表会2
1 全員が発表する。
2
感想シートに感想を記入
する。
○
静かな雰囲気で,発表会が行われるよ
うに発表会の意図を伝える。(8)
※
司会を子どもに担当させられるとよい。
※
一人一人の発表の前後に名前と題名の紹
介・拍手をする。(1)
※
発表が極端に苦手な子どもには,事前に
発表会の説明をして,気持ちを十分理解し
ておく。状況に応じて,代読や友達に支え
てもらうなど,必要な援助を行う。(8)
話
し
合
う
1
人権作文発表会3
1 感想シートをもとに自分
の感想を発表する。
○
級友の発表を通して,共感したものや
意見の相違を感じたものを発表させ,感
想の交流を図る。(5)
2
『子どもによる子どもの
ための「子どもの権利条
約」』の「ほんとのまえお
き」参考資料3の読み合せ
をする。
※
本と共に紹介して,「子どもの権利条約」
発表会で出された意見を
もとに,「○年○組宣言」
をつくる。
※
4
グループに分かれ,一つ
ずつ,案をつくる。
○
5
各グループでつくった案 ○ 選んだり,まとめたりして,作り上げ
を発表し,
「○年○組宣言」
させる。
として練り上げる。
3
実
践
す
る
※
日々の学校生活で意識し,
実践していく。
指導上の留意点の(
を中学生が自分たちの言葉で訳したもので
あることを伝える。
訳すのではなく,自分たちで作り上げる
ことに,意義を感じさせる。(6)
案ができたら,理由や説明する文章も
考えさせる。
○
教室掲示をするなど,意識できるよう
な工夫を行う。
○ 学活や道徳などで機会を捉えて,再確
認を重ね,実践力を高めていく。
)内の番号は『なくそう差別
築こう明るい社会/平成22年度版』
7ページの「人権尊重の視点に立った授業を進めるためのチェックポイント」から
-34-
4 参考
(1) 子どもたちの感想・反応等
〔感想〕
(仲間づくりを中心とした人権学習後に,特にテーマを絞らずに人権作文を書き,発表会をした後の感想です。)
○
○
みんな自分の気持ちとかを書いていて,すごいなと思いました。
発表会をしてよかったと思います。日ごろ言えなかったことを発表した人たちが
いて,それを聞けたからです。
○ 最初は人権作文をしたくないと思ったけど,みんなの発表を聞いてがんばって発
表しているのを見て感動したので,最後は,してよかったなあと思いました。
○ みんないろいろな考えがあって共感できることが多かった。そして,差別やいじ
めなどがいけないことだと再認識できた。
○ 今回の人権週間で,「友達の大切さ」について考えることができてよかった。友
達がいるだけでも自分はとても幸せなので,これからも友達を大切にしていきたい
と思った。
○ 家族の大切さや,友達の大切さを改めて感じた。しょうがい者の方も普通の人と
同じように学んだり,仕事をしたり,かわいそうだと思う気持ちは間違いだと思っ
た。やっぱり,差別は絶対にしてはいけないことだし,だれにでも平等に接するこ
とが大切だと思った。これからは発表会を通して,今まで以上に,家族や友達がい
るありがたさを忘れずに感謝していこうと思った。
〔成果〕
○ 学級全体で,お互いの思いを伝え合える機会として,また,お互いの新たな一面
を知る機会となり,充実感を感じている子どもが多かった。
○ 目の前で,級友自身が自分の言葉で思いを伝えるので,教材等では感じられない
感動があった。また,教職員にとっても子どもの内面の一端を知ることができた。
○ 教育相談と並行して行ったことで,子どもたちが自分自身のことを,より見つめ
直すことができた。また,そのことを発表しようとする気持ちが高まり,全員が発
表し合うことで,発表にも自信をもたせることがことができた。
(2) 取組に当たって
○ 学校全体で同時期に,全職員で人権学習・人権作文・人権作文発表会に取り組む
ことができると雰囲気が高まり効果的である。
○ 1年:『差別』に関する学習,2年:『平和』に関する学習,3年:『進路保障』
に関する学習というように,3年間を系統立てて実施するとよい。
○ 発表等をして終わりとならないよう,校内掲示に活用したり,機会を捉えて学級
通信や学級活動,道徳の時間等で提示したりするなど,1年間を通じて,子どもた
ちの思いを広げたり,深めたりできるような環境づくりに生かすことも大切である。
(3) 参考資料
○ 『子どもによる 子どものための「子どもの権利条約」』
小学館
○ 『子どもがかたる人権の詩』
明石書店
○ 『なくそう差別 築こう明るい社会』
鹿児島県教育委員会
○ 人権教育読本『ひらく』
鹿児島県人権・同和教育研究協議会編
-35-
人権作文を書く前に
参考資料1
〈差別に気付こう〉
○「女のくせに
なんだ」と言われた人はいませんか。「女は
いれてあげない」と遊
びにいれてもらえなかった人はいませんか。
○「チビ」「ノッポ」「デブ」「ヤセッポッチ」「ブス」などなど,あなたは言われたこ
とはありませんか。あるいは,あなたがこうしたことばを言ったことはありませんか。
○「子どものくせにだまっていなさい」と言われたことはありませんか。あなたがあな
たのおじいさんやおばあさんに「としよりのくせに…」などと言ったことはありませ
んか。
○
からだの不自由な人をからかったり,わらったりしたことはありませんか。
○
自分たちと皮膚の色のちがう人たちやまったく分からないことばを話す人々のこと
を,あなたは「へんな人たちだ」と思ったことはありませんか。
○
エイズなど,病気に感染している人を差別している人はいませんか。
〈差別とは何か〉
差別することはよくないことです。これはだれもが知っていることです。
では差別とは,どのようなことなのでしょうか。差別についてきちんとした知識(正
しく知ること)をもっていないと,“あなた”がだれかを差別しても,差別しているこ
とに気付くことができません。また“だれか”に“あなた”が差別されても,差別され
ていることに気付くことができなくなるのです。
人をばかにし,仲間はずれにし,いじめることは差別なのです。逆に,人からばかに
され,仲間はずれにされ,いじめられることは差別されていることなのです。
〈差別をなくすためのスタート・ライン〉
あなたは,だれかをばかにしたことはありませんか?あなたはだれかを仲間はずれに
したことはありませんか?あなたはだれかをいじめたことはありませんか?
あなたは,だれかにばかにされたことはありませんか?あなたはだれかに仲間はずれ
にされたことはありませんか?あなたはだれかにいじめられたことはありませんか?正
直に答えてみてください。胸に手をあてて答えてみてください。
人をばかにしたことも,仲間はずれにしたことも,いじめたこともあるのではないで
しょうか。人からばかにされたり,仲間はずれにされたり,いじめられたこともあるか
もしれません。もちろんその強弱にちがいはあるでしょうが……。
差別はあなたの問題で,だれかさんの問題なのではありません。
差別は,わたしたち一人一人の問題なのです。このことに気付くこ
とは,差別をなくすスタート・ラインなのです。
加えて,人間だれもが,自由にふる舞うことができ,自己決定や
自己表現のできることを,みんなで確認することを忘れてはなりま
せん。同時にまた,自分を大切にすることが,そのまま他者を大切
にすることになるという原則も忘れてはなりません。
参考図書
人権読本「じんけんの詩」
-36-
今野 敏彦 編著
株式会社 明石書店
参考資料2
人権の輪を広げよう
〈人権って何だろう?〉
「人権というものは,人と人が助け合ったり,一緒に何かをしたり,人の個性を認め
合ったりしてきずなが深まって,よりよいクラスや仲間などができて,楽しい学校にな
ることだと思います。そのためには,話し合ったり,接し合ったり,笑い合ったり,悲
しみ合ったりすることが大切です。」とある中学生は言いました。また「人は誰でも生
きる権利をもっている!」と宣言した中学生もいます。そのとおり!!
人権とは,「だれもが自分自身のことを大切にでき,また,それと同じように他の人
も大切にできること」です。
〈こんな経験ないかな?〉
○
外で遊べないわたしの近くにいてくれたのは,やっぱり友達でした。友達の大切さ
を知りました。
○
「もしかしたら,わたしもだれかに支えられて,だれかを支えているのかもしれな
い」と気付きました。
○
悪口を言った人は忘れても,言われた人は,心に残るんだなあと思いました。
○
私の友達には「それだめだよ」とか「そんなこと言うな!」と言える友達もいます。
私はなかなか言えません。
○
自分がいやなことがあったら,それを人にぶつけてその人を傷付けるのはいけない
と思います。傷付けた方はすぐ忘れられるけど,傷付けられた方は,一生忘れること
ができないんです。忘れられる人もい る だ ろ う け ど ,忘 れ ら れ な い 人 も い ま す 。
○
「おまえ○○みたい,変なの」と言われました。ちょっとのことだったけど,心は
すごく傷付いていました。でも今考えてみると,ぼくもそういうことを言っていたの
です。
○
私は,これまでにも,何度も何度も,しょうがい者の方に声をかけるのをためらっ
たことがあります。でも「声をかけるのをためらったからって,何になるんだ」と自
分でも思います。
〈私にとって人権とは…〉
人権とは決して遠くのだれかだけの問題ではありません。また,差別される人の問題
でもありません。みんなが人権をもっていて,お互いの人権を大切にするために,だれ
もが努力をしないといけないのです。
今までに家族や友達から「うれしいな」という気持ちをプレゼント
された経験を思い出してみてください。または,あなたのおかげで
「ありがとう」が生まれたこともあるでしょう。反対に「悲しいな」
「つらいな」という気持ちになったこと,またはさせたこともあっ
たかもしれません。そのときの自分や相手の気持ちを考えてみる
ところからはじめてみましょう。
-37-
参考資料3
ほんとのまえおき
みんな仲良くするためには,どうしたらいいだろう?
どうしたらいいと思う?
まず,相手が「いやだなあ」と思うことを
言ったりしたりするのはやめようよ。
これ,大事だよ。
だって,そしたらみんな「いやだなあ」って思わないでしょ。
どんな人にも“いいところ”と“わるいところ”がある。
だから,その人の“わるいところ”ばっかり見て,
「あの人はわるい人だ,自分のほうがいいや」なんて思うのは,
やめてほしい。
「あの人はわるいから」って悪口を言ったり,ばかにしたり,
いじめたりするのは,
もう絶対やめてほしい。
これが,ひとつめ。
あと,何だろう?
自分もほかの人も,同じように,
いろんな“やっていいこと”があるってのを覚えておかなきゃ。
たとえば,
「ぼくらはサッカーをしてもいいけど,
あいつはやっちゃいけない」ってことは,
絶対ないことなんだ。
でも,その子がケガをしていて,走りまわるとひどくなるから,
っていうときとかは,
やめたほうがいいかもしれないんだけどさ。
それでも,「やる」「やらない」って決められるのは,
その子自身なんだから,ね。
これ,ふたつめ。
これくらいかなあ?きっとこれくらいだよね。
こうすればみんなと仲良くできる。
学校の中でも,地球に住む人全員でも,きっと。
『子どもによる 子どものための「子どもの権利条約」』
文/小口 尚子・福岡 鮎美
-38-
(小学館)
より
6
1
友達発見
自分発見
∼「学年レクリエーション会」の取組∼
一人一人のよさをつなぐために発表の場をつくりたい
生徒一人一人が楽しく安心して過ごせる学校にしていくためには,教職員同士,生徒
同士,教職員と生徒間の人間関係づくりや,学校・学級のお互いを大切にしようとする
雰囲気づくりが重要となってくる。
本校は,生徒一人一人が自分の大切さを認めることができるようになってほしい,そ
して,お互いが大切な仲間として学校生活を送ってほしいという願いから,生徒の人権
感覚をはぐくむために,学校行事に力を入れて取り組んできている。学校行事の中でも
体育祭や文化祭は,目標の実現に向け協力し合うことで学級がまとまり,また,取組の
中で,生徒たちが様々なことを学びながら成長する機会である。運動面や文化面で大き
な力を発揮し,その成長の頼もしさを感じさせる生徒がいる一方で,生徒数の多さや時
間的な制限があることから,一人一人の発表の場を十分に確保できないこともあり,生
徒一人一人に焦点を当てていく取組としては,不十分さを感じている面もある。
本校には,多彩な趣味や特技など,すばらしい技術や能力をもっている生徒も多くい
るが,人前に出て話をする場面になると緊張して思いを伝えきれなかったり,はずかし
さを隠すために,わざと冗談を言ってひょうきんに振る舞ったりするなど,様々な理由
から表現することに自信をもてない生徒が多い。
そこで,課題解決を図るために「生徒一人一人が自分のよさに気付き,自信をもって
お互いによりよい人間関係をつくってもらいたい。そのためには,生徒たちがもってい
る様々な力を発表できる場をもっと創りたい。」という,教職員の思いが重なり「学年
レクリエーション会」を行うことにした。
発表することを通して,生徒の自己表現力やコミュニケーション能力などの向上を図
ることができたり,見る側にとっても共感や感動することを通して,相手を尊重すると
いった態度を養うことができたりするのではないか。そのような思いをもち,会を学年
全体で創り上げていこうとする雰囲気の中で,連帯感や協力の大切さなどを実感させ,
「自分の大切さや,仲間としての大切さを認め合うこと」ができる学級・学校づくりに
つなげていきたいと考えた。
2
「学年レクリエーション会」の実施に当たって
「学年レクリエーション会」の実施に向け,人権同和教育係と生徒会係,各学年主任
を中心にしながら,内容等の検討と役割分担をしていった。
初めての取組であり,生徒たちもどのように動いたらよいか分からない。そのため,
生徒たちが自主的・主体的に取り組めるようにすることを重視して,場の雰囲気づくり
や,個々の生徒への支援を大切にしていくことを,全職員間で確認し,取り組むことに
した。
-39-
(1)
ねらい
○
生徒一人一人が自分のよさに気付き,自信をもって充実した学校生活を創り出そ
うとする意欲や態度を育てる。
○
事前・事後の準備や指導を通して,お互いのよさを認め・支え合う学級づくりに
発展させる。
(2)
時
間
60分∼120分
(3)
準
備
発表に必要な道具(学校にないものは各自で準備する)
マイク,プログラムなど
(4)
発表内容(プログラム)
【発表者へ話したこと】
・みんな真剣に聴くので,恥ずかし
1
男子生徒1人による歌
2
女子生徒1人による歌
3
女子グループによる幕末歴史クイズ
4
女子グループによる創作ダンス
5
男子2人による少林寺拳法
6
男子2人による漫才
7
女子3人による演奏と歌
8
女子2人による演奏と歌
9
女子1人によるピアノ演奏
【鑑賞者へ話したこと】
10
男子1人によるピアノ演奏
・発表者はみんなを仲間と思って真
11
女子1人によるマジックショー
12
男子1人による弾き語りと歌
さを忘れて堂々とやっていいよ。
・発表の前か後に,必ず,発表しよ
うと思った気持ちや,知ってもら
いたいこと,楽しんでもらいたい
ことなどを話したらいいよ。
剣にやるから,真剣に聴こうよ。
・もし,友達の失敗を笑ったり,茶
化したりしたら,その時は,また,
みんなで考えよう。
(5)
「学年レクリエーション会」の様子
ア
生徒たちの感想から
・
○○君の演奏を聴いて,ピアノを弾くイメージがなかったので,すごくびっく
りした。でも,違う一面が見られてとてもよかった。とても上手だなと思った。
・
○○君がピアノを弾けるのは知っていたが,まさか,あんなに上手に弾けると
は思わなかった。いつもと違う○○君を見られたのでよかったと思う。
・
○○君とは,小学校も一緒だったから,ピアノが弾けるのを知ってたけど,こ
んなに上手いとは知らなかったからびっくりした。緊張したと思うけど,最後ま
でやりきった○○君はすごいと思った。ピアノの音色に感動しました。
・
みんなの個性あふれる演技が,とてもおもしろかったです。
・
今まで知らなかったみんなの特技を見られて,とても楽しかったし,うれしか
ったです。そして来年は,私も何かしたいと思いました。
-40-
・
今日はとても楽しかったです。歌とか,マジックとか,漫才とか,みんな素晴
らしかったです。僕は絶対にあがってしまうので無理です。みんなすごいです。
・
予想以上に上手だった。人知れず努力していたと思う。自分も負けないように
頑張りたい。
・
演じる前に話を聞いて,みんないろいろな思いをもってチャレンジしているん
だ。ただなんとなくやっているんじゃなく,自分のことをちゃんと考えているん
だと思った。
イ
出演した生徒の感想から
・
せっかくの機会だからやってみようと思った。チャレンジ精神が出た。本番で
はうまく弾けるか心配で緊張したけど,本当にやってよかったと思う。
・
きっかけは担任の先生の勧めだった。しっかり弾けるか心配で緊張したが,ち
ゃんと出来て良かった。同じような機会があれば,またやってみたい。
・
いい機会だと思い,ぜひやりたいと思った。友人とコンビを組んでどうしても
出たいという気持ちが強かった。実際やってみてよかった。本当に達成感があっ
た。正直やる前は不安があった。それはネタがちゃんとうけるかどうかであった。
でも成功して本当によかった。同じ機会があればまたやってみようと思う。
・
ドキドキしながらやったけど,みんなが聴いてくれたから,最後までできた。
やってよかった。
ウ
教職員の感想から
・
実施前までは,多少不安もあったが,出演者が一生懸命発表している気持ちが
見ている生徒たちにも伝わり,真剣に取り組めたのだと思う。また,発表した生
徒たちのやり終えた表情からも,自信を付けた様子があり,良かった。
・
言葉だけでなく,場の雰囲気からも生徒一人一人が気持ちを合わせることがで
きた取組であった。今後の学級の仲間づくりにつなげたいと思う。
・
生徒たちの表情が生き生きと輝いていた。聴く側の態度も真剣で,分かり合お
うとする雰囲気が,とても良かった。
・
授業等だけでは,見られない生徒たちのことを知ることができた。また,生徒
たちと,今回の会を話題にしながら,いろいろなことを語りたい気持ちになった。
・
練習期間中は心配な面が多かったが,発表する側も見る側も真剣な態度で,と
てもよかった。やはり,生徒たちを信じる気持ちが大切だと思った。
・
全職員に理解してもらい,協力してもらううちに,生徒たちをつなぐことが,
実は教職員同士をつなぐことではないかと思うようになった。
3
取組の成果と課題
(1)
成果
∼からかいからの変容∼
実施に当たって,日頃の生徒たちの様子から,からかいや冷やかしなどの行為につ
いて心配もあった。そして,心配していたことが実際に起こった。発表者も決まり,
練習期間に入ったころのこと。学年朝会で生徒会専門部員が生徒の前に立ち連絡をし
-41-
ていると,話がつかえた時に,数人の生徒がからかうように笑ったのである。そのあ
と,笑ったことについて学年全員で考える時間を設けた。
「真剣に話をして,話がつかえたことは事実ですね。一生懸命している人を笑う人
がいたことも事実ですね。でも,少し考えてみてください。みなさんは,一生懸命に
何かに打ち込んだことがないのでしょうか。そうではないと思います。それぞれに真
剣に取り組んで頑張ったことがあると思います。その時に,からかわれたらどう思い
ますか。学年の仲間として,どうあるのがいいのか,考える必要がありますね。」と
投げかけた。その後,全員の生徒が真剣に受けとめてくれたようで,少しずつ言動に
真摯な受け答えが見られるようになった。
このようなことを経て,「学年レクリエーション会」当日は,生徒や教職員の感想
にもあるように,生徒一人一人がその場の雰囲気から感じたり,考えたりすることに
よって,言葉だけでは教えることができないことを学び取り,お互いの大切さを実感
できたのではないかと思う。そのような時間を,生徒と教職員が共に創り上げること
ができたことが,何よりの成果であった。
(2)
今後の課題
○
ステージ発表中心になったので,次回は絵などの作品展示も検討したい。
○
企画・運営についても段階的に,教師側主導から生徒会を中心にして行うなど,
生徒の自主的な活動になるようにしていきたい。
○
この会の開催について,継続した取組となるように,各教科や人権学習との関連
を図りながら,年間指導計画を見直す。
○
絵を描くことや歌を歌うこと,朗読することなどの得意分野ごとに分けて,それ
ぞれの学年ごとにテーマを設けて取り組むことも提案したい。
例えば,人権をテーマにした「人権文化祭」(仮称)とすることで,歌に自分の
気持ちを込めたり,作文で自分を伝えるなど,今を見つめ,これからの自分たちを
考え,伝え合う仲間づくりの場としての構想を図る形に発展させたい。
○
保護者や地域にも呼びかけて,人権啓発となるような取組にする。
-42-
7
1
就職・進学試験に向けて
はじめに
∼自分を見つめ
仲間を見つめる∼
∼生徒たちの状況∼
進路実現のためには日常生活の中で,あいさつや言葉遣い,健康管理などの基本的な
生活習慣や基礎学力,コミュニケーション能力などを身に付け,自分を磨くことが大切
である。特に第3学年では,1学期がスタートしてから進路指導を通して,そのための
行動や心構えなどを生徒たちに繰り返し指導してきた。しかし,相変わらず生活態度や
授業態度に生徒たちの意欲や改善が見られなかった。また,進路決定に向けて,情報収
集や面接練習にも自主的な姿が見られなかったりするなどの状況が続いた。
~ 進路指導係会で出された生徒の気になること ~
○
素直に職員へ相談しづらい生徒,不安やいらだち,自分の弱さをだせないまま,本当は,
助けを待っている生徒も多いのでは。
○
私たちの想像以上に,友達や周りを気にして,ありたい自分やありのままの自分を出せ
ない生徒も多いのでは。
○
授業を聞いても分からない,また,分からないことを素直に言えない・聞けないでおり,
あきらめている生徒も多いのでは。
⇒
このようなことは,本校に入学してからだけでなく,小学校・中学校のときにも
あったのではないか。表面的な言動や他との比較で見られたり,人間関係が希薄だ
ったりすることなどから,「自分はだめだ」と思わされたり,「どうせ自分なんか」
と思ったり,自分を肯定的に認め,自分を価値あるものとして思う気持ち(自尊感
情)をもてていない生徒たちの根本的な心の思いが出された。
2
自分や他の人の大切さが認められていると実感できるような学校づくりに向けて
特に3年生は,学校行事一つ一つが高校生活最後になることや,今後の進路に向けた
不安や孤独感など,様々な気持ちをもちながら学校生活を送ることになる。そのような
中で,生徒たちの自信や意欲を引き出していくためには,進路指導だけでなく,生徒指
導,学習指導,学級経営など,学校生活全体の中で「自分の大切さとともに,他の人の
大切さを認めること」ができるようになること,つまり,自尊感情の育成と人間関係づ
くりを大切にした教育活動が不可欠であると考えた。
そこで,進路指導係会で出された生徒の気になることを踏まえ,このような生徒たち
の心情に思いをめぐらせながら,教職員一人一人の指導が,生徒たちのやる気を起こす
ものとなるように,進路指導に当たっての目標や,学校としての指導体制について共通
理解を図り,取り組んでいくことにした。
-43-
(1)
進路指導の目標(生徒たちに身に付けてもらいたい力)
進路指導を行うに当たっては,生徒が自己の在り方や生き方を考え,主体的に進路
を選択することができるよう,学校の教育活動全体を通じ,計画的,組織的に取り組
むことが大切になる。そこで,生徒たちが進路の自己実現に向かって努力しようとす
る意識や意欲をもち,自分のよさを出すことができるようになってもらいたいと考え
て,次のような目標を掲げた。
○
他の人,他の学校との比較や世間体にとらわれず,今の自分のよさも不十分なところ
も受け止めた上で,就職試験や進学試験などの面接試験等でも,自分自身を最大限に引
き出してもらいたい。
○
就職試験や進学試験は,一人での受験ではない。学級の仲間や全職員,そして保護者
に見守られ,支えられて,試験に臨むことができていることを実感してもらいたい。
○
試験までの残りの期間を,学級の仲間や職員に支えられていることを感じながら,前
向きに意欲的に試験対策に臨み,学力面や精神面などで成長してもらいたい。
(2)
人権感覚をはぐくむ学習(統一LHR)の工夫
進路の自己実現に向けて努力しようとする意識や意欲・態度は,繰り返し言葉で説
明して身に付くものではない。生徒が学習や活動を通して,自分で「感じ,考え,行
動する」など,主体的,実践的に学習に取り組むことが不可欠である。
そこで,人権同和教育係と連携を図り,平成 22 年度人権教育指導資料「仲間づくり」
《参加型学習編》を参考にして,生徒たちが自分を見つめ,仲間を見つめることを通
して,
「自分の大切さとともに,他の人の大切さを認めること」を実感できるような授
業を,統一LHRで実施することにした。
(3)
自尊感情をはぐくむために
生徒たちが,充実した学校生活を送るためには,まず,
「自分のことが好き」と思う
気持ち(自尊感情)をはぐくみ,学級の一員であるという所属感を持たせ,だれから
も認められているという充実感を味わわせるようにすることが必要と考えた。
そこで,上記した「生徒たちに身に付けてもらいたい進路指導の目標」を踏まえて,
学校としての指導体制を図式化して,全職員で共通理解を図るようにした。
指導に当たっては,『学習活動づくり』として,「お互いのことを知り合う・思いを
伝え合う」ことを大切にすることにした。人権同和教育に関する統一LHRで学習し
たことを,日々の生活に反映させ,学校行事を「仲間づくり」の実践的な学習として
の場と捉えた。
また,『一人一人を大切にした教育活動』として,「学級・学校の中で大切にされて
いると実感できる環境づくり」を学級経営・生徒指導・教科等指導などを通じて,意
識して取り組んでいくようにした。
-44-
≪「人権が尊重される学校づくり」の年間の重要ポイント≫
自尊感情をはぐくむために
お互いのことを知り合う・思いを伝え合う
学級・学校の中で大切にされていると実感できる環境づくり
≪人権が尊重される学校づくり≫
学習活動づくり
4月
始業式
対面式
5月
一人一人を大切にした教育活動
統一LHR「仲間づくり」
学級経営
授業で出された生徒た
ちの気持ちを,日々の
生活に反映させる。
家庭訪問
●人権が尊重される 人間関係づくり
・ 互いのよさや可能性を認め合える
一日遠足
仲間
生徒理解の職員研修
生徒指導
統一LHR「人権」
7月
クラスマッチ
●人権が尊重される 環境づくり
統一LHR「進路保障」
・
「就職・進学試験に向けて」
9月
安心して過ごせる学校・教室
体育祭
体育祭での生徒一人一人の頑張
りを,日々の生活に反映させる。
教科等指導
11 月 文化祭
●人権が尊重される 学習活動づくり
文化祭での生徒一人一人の頑張
(関連)
・
りを,日々の生活に反映させる。
・ 互いのよさや可能性を発揮できる
12 月 クラスマッチ
取組
人権週間・統一LHR
3月
卒業式
一人一人が大切にされる授業
関
連
自分を大切にするとともに、他の人も大切にしようとする
意識・意欲・態度
-45-
第3学年
統一LHR
実践例
「就職・進学試験に向けて」~自分を見つめ
1
仲間を見つめる~
ね ら い
○ 自分自身を見つめ,自分のよさに気付く。
○ お互いの気持ちを知り,学級の仲間としての大切さを実感させる。
2
テーマ設定の理由
高校3年生の2学期は,高校生活最後の体育祭や文化祭など,これまでに学んだこと
を生かし,学級の仲間ともてる力を合わせて取り組むことで,精神的にも人間的にも大
きく成長する時期である。しかし一方では,自分の進路決定に向けて,不安や孤独感と
向き合う不安定な時期でもある。
そこで,これからの就職試験や進学試験に向けて,そのような自分の弱さとも向き合
い,同じ学級・学校の仲間として自分自身を見失うことなく,自信や勇気をもって試験
に臨めるようにしたい。また,そのような学級の仲間とのつながりを強めていくことが,
生涯にわたって困難を乗り越えていく力になると考えた。
3
学習活動の概要
これからの就職試験,進学試験に向けて,現在抱えている不安や悩みなどをカードに
一人4枚ずつ書く。書いたら,グループごとにカードを紹介しながら,いまの心境を簡
単に説明する。そのあと,カードを共通するものごとにグループ分けをしながら,気持
ちをどのようにもって行ったらよいか,互いに考える。
4
準
備
5
学習形態
6
展 開 例
ワークシート,記入カード4枚/1人(A4用紙1/8)
4人グループ(4人グループをつくれないときは,3∼5人)
過程
主 な 学 習 活 動
1
導
アイスブレーキングをする。
分
○正解がでたところで,
「めざせ,全員合
(1) 「9月16日は何の日ですか。
」
格!!」と板書。
(就職試験開始日)
入
10
指 導 上 の 留 意 点
ポイント:温かな雰囲気,自由に話せ
る場づくりに配慮する。
(2) 「9つの点を線でつなごう」
○
グループをつくる。
○
ワークシートのクイズを話しながら
解く。
-46-
ポイント:問題解決のためには,固定
観念にとらわれず,自由な発想も大切。
2
○
本時の学習内容を確認する。
グループの進行役を決めさせる。
これからの就職試験や進学試験に向
ポイント:実施日に一番誕生日が近い
けて,いま思っている気持ちをお互いに
人を進行役にするなど,上下関係を意
出し合い,語り合ってみよう。
識しない選び方を工夫する。
3
展
○
グループごとに作業を行う。
記入カードを配る。
○
カードに記入する。
ポイント:学習の進め方を十分理解で
○
記入が終わったら,順番に書いたカー
きたか確認してから,グループごとの
開
作業に入るようにする。
ドの内容と,いまの気持ちを簡単に紹介
する。
○
30
話し合いながら,出されたカードを共
ポイント:話合いが堅苦しくならない
通するものごとにグループ分けをする。
○
分
ように,グループの状況を確認しなが
互いの不安や悩みに対して,お互いに
ら進行役にアドバイスを行う。
アドバイスをする。
4
グループごとに話し合った内容の紹介
をする。
ポイント:今度は,一番誕生日が遅く
○
来る人に発表役をお願いするなど,選
カードの内容の紹介と,グループ内
び方を工夫する。
で,どんな話をしたか発表する。
5
協力の大切さなど,今後の生活への生か
(意味付け):自分を見つめること,学級の
し方を考えさせる。
仲間の気持ちを知ることの大切さ。多様な
物の見方,考え方があること。
ポイント:授業者が生徒たちの学習状
況で感じた,うれしかった率直な感想
(価値付け)
: お互いに,相手の目を見て話
を返す。
したり,話を聞いたりすることで,和やか
な雰囲気が生まれるのは,お互いを大切に
め
できている証であること。
(方向付け):話さないと分からないこと。
一人で問題を抱え込まず,思い込みや決め
10
ポイント:大切なことは,自分をよく
見せることではなく,いまの自分の気
持ちを相手に分かってもらうために,
誠意を持って伝えることを,みんなで
共有する。
付けで判断せず(考えず),多くの人の意
見や考えも参考にしながら自己決定して
分
いくことの大切さ。
6
この授業を通して感じたことを,ワーク
シートに記入する。
7
自他の権利の尊重,ルールの必要性,
今日の授業を通して…
ま
と
○
授業者のまとめの話を聞く。
ポイント:全員合格のためには,クラ
スのみんなが協力し合うことが大切で
ある。みんなで協力して勉強や面接練
習をし,精神面でも協力し支え合うこ
とができる。それが,お互いを高め合
い進路実現にもつながる。
評価
○ 自分自身を見つめ,自分のよさに気付くことができたか。
○ お互いの気持ちを知り,学級の仲間としての大切さを実感することができたか。
-47-
8
参
考
(1) 生徒たちの感想・反応等
○ 悩んでいることは,みんなだいたい一緒なんだと,少し安心した。みんなで合格し
たい!!!と思った。協力し合って頑張りたいです。
○
みんなそれぞれ,いろんな不安や悩みがあるんだなあと思った。自分もみんなと協
力して面接練習をしたり,一緒に勉強をしたりして頑張っていきたいと思った。
○
今日の授業で他の人の不安が聞けてよかった。自分だけが不安になっているんじゃ
ないことが分かった。解決方法も話し合ったから大丈夫だと思う。
○ 今日の授業で思ったのは,みんないろいろな悩みがあるんだなということです。私
と似たような悩みを持っている人がいて,一緒に頑張っていきたいと思いました。
(2) 授業後の生徒たちの状況
○ 生徒たちは,不安なのは自分だけじゃないことを知って安堵し,互いに励まし合っ
ていた。そして,仲間と協力し,支え合うクラスの雰囲気が大切だということや,そ
のことがお互いを高め合い,進路実現にもつながることを感じ合っていた。LHRの
実施後に,お互いに面接練習をしたり,誘い合って職員に面接練習を頼みに来たりす
る生徒が増えた。
○ 昨年度は,1 回目の採用試験で失敗してネガティヴになり,次の行動に移ることが
できなかった生徒も多かった。しかし今年度の生徒たちは一度の失敗にめげず,数名
が連れだって進路室に訪れ情報収集をする姿があった。それは文化祭期間中も続いた。
○
厳しい経済情勢を反映して,来春卒業予定の高卒求人が全国的に激減し,採用内定
率は微増という状況の中で,本校への求人も激減している。しかし,本校の採用内定
率は大幅にアップした。
○ 2学期最初の職員会議で,
『励ましの声かけ』をお願いした。それによって,多くの
職員が試験を控えた生徒に意識的に声をかけ,面接練習や試験・作文の補習にかかわ
る姿があった。これらの取組の中で,生徒たちが仲間や教師に大切にされていると実
感できたのではないかと感じている。
(3) 授業に当たっての留意点・アドバイス
○ 事前に,生徒たちの進路決定に向けて,すべての職員がかかわっていくことを確認
し,職員全体で取り組んでいくことが重要である。このことによって,全職員が見守
っていることを生徒たちに実感してもらいたい。
○
試験に再挑戦する生徒の受験先や試験日程は,職員朝礼等を利用して職員に伝え,
『声かけ』をお願いしたい。
○
今回のLHRは2学期に入ってから実施したが,1学期中に実施し,夏休みの行動
につなげていくことが望ましい。
○ 授業で「お互いの思いを伝え合い,知り合う」中で,自分の気持ちと他の人の気持
ちを重ね,お互いを認め合うことができるようになる。このことが,いじめや差別を
なくすことにもつながる。
○ 今回の取組は,統一応募用紙等の学習をした上で実施するのが前提である。
-48-
ワークシート
年
組
番
氏名
(テーマ)
「就職・進学試験に向けて」~自分を見つめ 仲間を見つめる~
1
みんなで考えてみよう。
左に9つの点が上下左右,同じ間隔で並ん
2
●
●
●
●
●
●
●
●
●
でいます。
この全部の点を一筆書きで,直線でつない
でください。ただし,直線を引くのは4回ま
でです。
「就職・進学試験に向けて」~自分を見つめ
仲間を見つめる~
(話合いの進め方)
①
『カードの記入』:
就職試験,進学試験に向けて,いま思っている不安や悩みを
記入カードに書きましょう。(一人4枚)
②
『カードの紹介』:
グループ全員が書き終わったら,順番にカードの内容とその
気持ちを紹介しましょう。
③
『カードの分類』:
紹介が終わったら,全員のカードを同じ内容や共通する項目
ごとに分類しましょう。
④
『話合い』: お互いの不安や悩みに対して,感じたこと,思うことを話し合って
みましょう。また,何かよいアドバイスをみんなで考えましょう。
⑤
『全体への発表』:
グループで出されたカードの主な内容と,どんな話をしたか
発表しましょう。
3
今日の授業を通して思ったことなど,感想を書きましょう。
(1の答え)
・
・
-49-
・ ・ ・
・
・ ・
・
・
・ ・
・
・
8
自尊感情をはぐくむために
∼人権学習のカリキュラムづくり∼
1
取組の点検・評価から ∼取組の課題∼
平成 19 年度から,県内すべての学校で「いじめ問題について考える週間」が取り組ま
れるようになった。これまでも人権尊重を基盤に据えてLHR等を中心に授業や指導を
してきた。しかし,時が経つに連れて,自分や他の人を大切にしようとする雰囲気も薄
らいでいく。そんなとき,人間関係のもつれから,いじめが起こった。
問題への対応にとどまらず,根本的な解決を図るために,「いじめ」に関する実態調
査を行い,生徒たちの声を明らかにするために記述式にして,日頃学校生活で感じてい
ることや要望などを調査した。その結果,実態調査の傾向として,生徒たちは学校への
期待を持ちつつも,学年が上がるにつれて,あきらめの気持ちがあることを読み取れた。
学校の生活指導がその場限りのもので,生徒たちの学校への思いや期待に応えられてい
ないことに気付かされた。
《実態調査から》
◆表面上だけで指導しないで。 ◆今の自分を見て知ってほしいです。 ◆学校はもっとも
っと生徒一人一人とかかわることが大切だと思います。 ◆気軽に先生に話ができるような
学校にしてほしい。 ◆生徒の意見を正面から受け止めてほしい。
◆生徒をしっかり見
ないで,外見だけ良いように振る舞う先生がいると思う。まず変わらないといけないのは先
生だ。 ◆「どうせなんにもしないくせに…。」 ◆もう少し生徒の気持ちを分かってほしい。
2
人権教育推進の改善・充実に向けて
「いじめ」に関する実態調査から,生徒たちが「自分の大切さとともに,他の人の大
切さを認めること」ができるような人権感覚を身に付けていくためには,生徒たちが,
学級・学校の中で,自分や他の人が大切にされていると実感できるような状況をつくり
出していくことが不可欠であり,自尊感情の育成と人間関係づくりを基盤に据えた教育
活動を実践していくことが重要であると考えた。
そこで,生徒指導係が中心となり,人権同和教育係,教育相談係とが共同して,次の
観点から人権教育推進の改善・充実を図ることにした。
-
人権教育推進の改善・充実のポイント
(1)
-
職員研修の充実
ア 人権尊重の理念を十分理解し,人権感覚を身に付けるための研修
イ 生徒の側から指導の在り方を考えていけるような研修
(2) 人権同和教育全体計画・年間指導計画の見直しと工夫・改善
ア 自尊感情,非攻撃的自己主張等をはぐくむ学習内容の位置付け
イ 生徒同士をつなぐ仲間づくりと「隠れたカリキュラム」
(3) 生徒理解に基づく指導体制づくり
ア 教育相談(定期,臨時)やアンケートによる生徒の変容の理解
イ 担任,人権同和教育係,教育相談係,生徒指導係との連携と管理職への報告・相談
-50-
3 学校としての新たな取組として
(1) 「自分を語る週間」
教職員の生徒たちに接する普段からの意識や態度が,生徒たちの人権感覚をはぐく
むことにも大きく影響していることが,
「いじめ」に関する実態調査の生徒たちの声か
ら明確になった。日常の生徒指導や学習指導等において,様々な問題や課題に対して,
生徒たちにだけ改善を求めてきたのではないかという職員研修の反省から,まずは教
職員自らが自分を語り,自他が大切にされていると実感できるような雰囲気をつくっ
ていくことにした。
―
○
「自分を語る週間」の取組
-
ねらいと実施について
・
教職員が自らを語ることで生徒たちとの信頼関係を構築する。
・ 1学期と2学期初めの1週間で,SHRや終礼時,LHRや各教科の授業などの合間を
使って行う。
○
職員の感想
「生徒と職員の距離が多少近くなったと感じる。」
「すごくよかった。生徒も真剣に聞いて
いた。」「自分について語れたのは良かったと思う。
」など,肯定的な感想が多かった。
(2)
人権同和教育全体計画・年間指導計画の見直し
実態調査の結果から,生徒たちの間でのトラブルの一部が明らかになった。なかで
も,いじめ,使い走り,いやがらせ,暴力などの問題は,お互いの人間関係に起因し
ている場合が多く,相手に対する無理解からの偏見や決め付け,思い込みなどが,そ
の原因として考えられた。そこで,これまでの学習内容は,様々な人権課題を中心に
実施してきたが,生徒たちが自尊感情をはぐくみ,相手を傷付けず尊重しながら自己
主張ができることも必要だと考え,統一LHRを系統立てて計画することにした。
また,全職員が共通認識のもと,人権同和教育の推進を図るために,人権同和教育
全体計画を見直し,学年ごとに人権同和教育の到達目標を設定し,統一LHRのため
の職員研修(事前学習会)を実施することにした。
-
学習内容の見直し
-
○
自尊感情をはぐくむために,自己理解・相互理解を深める。
○
参加・協力的な学習を取り入れ,コミュニケーション能力を高める。
○
相手を傷付けず尊重しながら自己主張する(アサーティブネス)方法を学習する。
○
個別の人権課題についての学習では,その人に必要なことや,その人の考えや気持ちなど
を察する想像力,共感的に理解する力をはぐくむ。
(3)
授業を取り組むに当たって大切にしたいこと
人権学習を進めるに当たっては,人権に関する意義・内容や重要性を知るだけでな
く,「自分の大切さとともに他の人の大切さを認めること」ができるために必要な人
権感覚をはぐくむことを重視するようにした。そのため,授業者は,知識や方法だけ
でなく,よりよい生き方を生徒たちと共に考えていこうとする気持ちを伝えていくこ
とを大切にすることにした。そのことが,自分を肯定的に受けとめ,互いの思いを知
り合い,仲間としてのつながりを築いていくことにつながると考えた。
-51-
- 授業を取り組むに当たって大切にしたいこと -
○
人権感覚をはぐくむために,講義形式的な授業にならないようにし,生徒たちが主体的,
協力的に学習に取り組めるよう工夫する。
○
授業者はもちろんのこと,お互いの話をしっかり「聴く」ことを大切にする。相手の考え
や気持ちを否定したり,自分の考えを押し付けたりしないようにする。
○
様々な人権課題について学習する際は,単に差別の現状を知るだけでなく,日々の生活に
思いをめぐらしながら,困難を乗り越えて生きてきた姿から,いまの自分自身を見つめたり,
考えたりできるようにする。
○
生徒の学習は,発達段階だけでなく,生徒の生活実態にも大きく左右されることもあるた
め,気になる生徒については,まずは教職員が気持ちを十分受けとめ,自らを振り返り,考
えることができるようにしたり,共感と信頼を深めたりできるように,かねてからのかかわ
りを大切にする。
○
授業後の感想から,生徒の変容や授業の取組課題を整理し,共通理解を図るとともに,日
常の指導等に活かすようにする。
(4)
人権尊重の理念の理解を踏まえた職員研修の充実
これまでの職員研修では,人権課題等に関する理解や,統一LHRに向けた事前学
習など,講義形式的な研修が中心であった。
学校における人権教育を進めていく上では,まず,教職員が人権尊重の理念につい
て十分理解し,生徒たちが自らの大切さを認められていると実感できるような環境づ
くりに努めることが必要である。そのため,教職員同士でも互いを尊重する態度が大
切であり,かねてからの指導について相互に話し合い,共通理解を図ることができる
ように,参加型学習の手法を用いた研修にした。
-
参加型学習の手法を用いた職員研修の例
1
-
テーマ
生徒の側から人権尊重の理念について考える
~生徒から「ありがとう」と言われたときはどんなとき~
2 ねらい
・ 「一人一人の生徒を大切にする」とは,どんなことなのか,生徒の側から振り返る。
・ 職員相互の理解と,話合いを通して,様々な生徒の内面に気付くことができるように
する。
3 研修の形態・準備
・ グループ(5~6人)…教科,年齢,性別等が偏らないように考慮する。
・ 付箋紙(5枚/1 人),広幅用紙(1 枚/1グループ),マーカー(赤・黒)
4 内容・方法
① アイスブレーキング等を行い,進行役と発表役を決める。
② 生徒から「ありがとう」と言われたときは,どんなときであったかを,各自付箋紙に
書く。
③ 付箋紙に書いた内容を簡単に説明しながら,広幅用紙に貼っていく。
④ 付箋紙の内容を話し合いながら,同じような項目ごとに分類(KJ法)する。広幅用
紙に枠や見出しなどをマジックで書き込みながら,発表の準備をする。
⑤ グループの中で出された付箋紙の内容や,話合いを通しての気付き,生徒にかかわる
中で大切にしたいことなどを発表する。
⑥ 各グループの発表を聞きながら,振り返りを行い,研修担当者でまとめをする。
-52-
参加型学習の手法を用いたことにより,気兼ねなく全職員が互いに語り合えたこと
で,お互いのことを理解するよい機会になった。
特に生徒とのかかわりを話題に置くことで,学習指導や生徒指導,進路指導など,
様々な場面における教職員一人一人の体験や経験が活かされ,生徒たちの「ありがと
う」の気持ちを共有することで,教師として当然の教育活動の中で,生徒たちは様々
なことを感じ取っていることに気付くことができた。また,共同作業としての「話合
い」,「反省」,「一般化」,「適用」という具体的・実践的な研修にすることができた。
このような研修を積み重ねていくことで,日常の実践へと結び付けていきたいと考え
る。
(5) 実態調査の活用と取組の点検・評価
「いじめ」に関する実態調査は,生徒たちの実態把握だけでなく,学校としての指
導体制を問い直していく有意義なものとなった。また,人権学習の授業に対する生徒
たちの感想等から,人権同和教育に対する意欲・関心・達成感などを検証し,学習内
容や指導方法等についても工夫・改善を図っていくようにした。
- 学校としての取組の点検・評価と指導の工夫・改善 -
点検・評価(次年度へ)
実際(授業・LHR等)
職員研修(共通理解)
係会(今年度の方向付)
アンケート集約
実態調査(アンケート)
-53-
4
学校の取組の点検・評価を踏まえた人権同和教育全体計画(例)
人権同和教育推進のための校内体制
校
長
教
人権同和教育推進委員会
頭
校長・教頭・人権同和教育係
各部・各科・各学年
校内研修会
《人権同和教育推進委員会》
《校内研修会》
○
○
○
○
○
○
○
○
全体計画・年間指導計画の作成
校内研修会内容・方法等の企画・立案
統一LHR指導案等の作成・検討
指導方法等の工夫・改善
・各教科
・特別活動
全体計画・年間指導計画の共通理解
個別の人権課題に関する研修
生徒理解と指導方法等に関する研修
参加型学習等の実技的な研修
人権同和教育全体計画
《学校教育目標》
生徒一人一人を尊重し,個性や能力を最大限に伸ばすとともに,豊かな人間性
とたくましい心や体をはぐくむ。また,地域文化の創造を推進する精神を培い,
実践的な人材を育成する。
《人権同和教育の重点目標》
教職員自らが人権意識の高揚を図り,自分や他の人の大切さが認められていること
を生徒一人一人が実感できるような学校・学級の環境をつくるとともに,いじめや差
別を許さず,なくしていこうとする意識・意欲・態度を育てる。
《人権同和教育の具体的な目標》
○ 人権に関する普遍的な視点と,個別の人権課題に関する知的理解を深める。
【知識的側面】
○ 全教育活動を通じて,[自分の大切さとともに他の人の大切さを認めること]が
できるために必要な人権感覚を身に付ける。
【価値的・態度的側面/技能的側面】
《各学年の到達目標》
第1学年 自尊感情やコミュニケーション能力を高める。
参加型学習や部落問題学習を通して,自己理解を深め,
「自分らしさ」に自信を持ち,自分を価値
あるものとして思えるようにする。そうして自分の立場と生き方に“誇り”を持てるようにする。
また,人の話を聞いたり,情報を収集したり,質問したり,相手への配慮をしながら自分の気持
ちを表現できるようにする。
第2学年
自他を尊重する精神を養う。
ハンセン病問題など,各人権課題についての学習や「統一応募用紙」の精神についての学習など
を通して,人権の意義・内容や重要性について理解し,仲間とつながることや自他を認め合うこと
の大切さを理解する。
第3学年
差別をなくす実践力を付ける。
障害者に対する人権問題や部落問題学習等を通して,相手の立場に気付き,助け合いや思いやり
の態度をはぐくむとともに,周りの人と連帯して社会の中に存在する偏見や差別をなくしていこう
とする実践力を付ける。
-54-
5
人権同和教育年間指導計画(例)
~統一LHRにおける人権学習カリキュラム~
統一LHR
いじめ問題
(4月実施)
1年
2年
3年
プラス思考20カ条
電車でのできごと
わたしのせいじゃない
肯定的な人の捉え方を考
え,自尊感情を高める。
(※1)
いじめ問題について,解決
方法を考える。
(※2)
いじめの傍観者もまた,加
害者であることを学び,自
分ならどうするかを考え
る。(※4)
わたし“発見”
人権同和教育
(6月実施)
ハンセン病の
歴史に学ぶ
自己理解を深め,自他を尊 ハンセン病問題に係る自分
重する心をはぐくむ。
の中の偏見や差別に気付
(※3)
き,差別をなくす生き方を
学ぶ。(※5)
自信をもって
いじめ問題
(9月実施)
言いたいことがあるよ
(「ひとこと」を考える)
どのようにしたら相手を傷 言葉の持つ影響力や,言葉
付けず,尊重しながら自己 の背景にあるものについて
主張できるかを考える。
考える。(※7)
(※3)
ある高校でのできごと
人権同和教育
(11 月実施)
(1月実施)
自分を語ろう
なかまを知ろう
生徒たちに身近な出来事を 自分自身を振り返り,お互
取り上げて,決め付けや偏 い を 知 り 合 う こ と に よ っ
見に気付かせ,部落問題と て,認め合う態度を育てる。
は何かを考える。(※4) (※8)
話してくれて
人権同和教育
言葉の力
就職差別を
ありがとう
なくすために1
差別に向き合い,差別をな 「統一応募用紙」が制定さ
くす人の生き方から,自分 れた背景を理解し,様式に
自身のこれからを考える。
込められている精神を学
(※9)
ぶ。(※5)
就職差別を
なくすために2
「違反質問」から差別を見
抜き,差別に負けない,差
別を許さない生き方を学
ぶ。(※5)
ロールレタリングで
自分を見つめよう
立場を変えて考えることに
より,自分の感情を客観視
し,他者を理解し共感する
心を育てる。(※7)
人を区別する
普通って何?
「普通の人」って何か,自
分の生き方を見つめ直し,
障害者差別について考え
る。(※6)
部落問題学習
(結婚差別)
社会の中の偏見や差別を見
抜き,それをなくす実践力
をはぐくむ。(※10)
[参考文献]
※1
※2
※3
※4
※5
※6
※7
※8
※9
※10
『勇気がでてくる人権教育』白井俊一 解放出版社
「いじめ防止学習プログラム」新潟県教育委員会
『わたし 出会い 発見』大阪府人権教育研究協議会
『わたし 出会い 発見 Part2』大阪府人権教育研究協議会
『鹿児島県 人権教育指導資料』
(平成 19 年)鹿児島県教育委員会
『人権教育指導資料 実践例集 仲間づくり』
(平成 20 年)鹿児島県教育庁人権同和教育課
『人権教育指導資料 実践例集 仲間づくり《参加型学習編》
』
(平成 22 年)鹿児島県教育庁人権同和教育課
『やってみよう!総合学習 学びの Plan-Do-See』高校総合学習プロジェクトおおさか編
『いきる 高校用』宮崎県人権・同和教育研究協議会編
『部落問題学習の授業ネタ』部落問題学習ネタつくろう会
-55-
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