...

会見詳録 - 日本記者クラブ

by user

on
Category: Documents
6

views

Report

Comments

Transcript

会見詳録 - 日本記者クラブ
私の見た米国
加藤良三 前駐米大使
2008年6月25日
駐米大使6年7カ月は戦後最長。これは、外交官として長く
米国を見てきた加藤さんの「米国報告」ともいえるし、
「米国論」
ともいえる。
静かな剣士を思わせる端然とした国際派の知性の目には、日
本社会の現状は「決意」とか問題解決の「意思」が欠如してい
るように見える。
しかし、よくいわれるようにこの国の場合、グラスルーツは
世界でも突出して優秀で、司令官たち(エリート)の水準が問
題なのだから、今後は国民一般でなく政治家、官僚の覚醒を促
すためにこそ一石を投じてもらいたい。
© 日本記者クラブ
1
私は今回、6年7カ月アメリカにいて帰任いたし
二の次三の次ということで、重きを置かなかった
ました。その前に1965年から67年の研修期間を
つもりです。その6年7カ月の今回の勤務を通じて
経て、67年から69年の間ワシントンで一番下の書
得たアメリカについての全体的な印象ですが、日
記官として勤務した経験があります。そのときに
本国民に対するアメリカの評価がこれほど高かっ
仕えたのが下田武三大使で、後でコミッショナー
たことはないような気がいたします。
になる人です。下田大使夫妻は私たちの仲人です。
1967年から69年、ワシントンに参りましたこ
それから、次は大分時間があきますが87年から
ろ、ワシントンには日本車が一台も走っていませ
90年まで3年半、大使館の政務班長として勤務し
んでした。大使館にプレジデントが一台、もう一
ました。また94年から95年、1年半弱ですが、サ
台トヨペットの小さいのがあったと思いますけれ
ンフランシスコの総領事をいたしました。
ども。みんな乗りたがらない。すぐ壊れるからです。
もちろんカラオケもない。日本料理屋も限られて
いる。そういう時代でした。日本が非常に小さく
駅伝ランナーの気持ちで6年7カ月
みえて、望遠鏡の両側からお互いをみているよう
今度は6年7カ月駐米大使を務めたわけであり
だった。日本からみると、アメリカが実像以上に
ます。随分アメリカの勤務が長いようですけれど
巨大にみえる。アメリカからみると、日本が実像
も、何回勤務しても、前の勤務のときの経験が、
以上に小さくみえる。そういわれた時代でした。
アメリカの理解に役立つというほど単純ではない。
昔いたからアメリカが分かっているということは
なかなかいえない。そういう国だというのがアメ
ですが、2001年から2008年までの勤務を通じ
て感じたのですが、アメリカの日本国民に対する
リカの印象でございます。
評価というのは非常に高い。勤勉である。教育程
度が高い。挙措動作が立派である。正直である。
信頼性がある。親切である。もしワシントンでそ
6年7カ月についていろいろ質問を受けるわけ
ですが、一日一日が重いというのが率直な印象で
の種の世論調査が行われたら、日本は世界各国民
す。どの日が一番印象的だったかといわれると、
の中で一位になるのではないか、と私は思います。
しかし、一番世界にすぐれた資質を持つ日本国民
答えに窮するという気持ちがいたします。
が集まって出来ている日本という国、これが何を
そういう中で、駅伝のランナーのつもりで一日
一日務めてまいりました。駅伝のランナーという
考えているのだろうか、ということは必ずしも鮮
明ではない。日本に対するアメリカの敬意の高さ
のは、もちろん区間に長短はあります。しかし、
の理由は、一つには、経済、技術の力です。それ
単に長さだけでははかれない、逆風であるときと
か、横風が吹くときとか、悪路のところとか、上
からもう一つは、文化の浸透力です。伝統的なも
のもありますし、現代的なものもある。時代の最
り坂、下り坂、いろいろあるわけです。平坦で長
先端を行くものもありますから、その部分は技術
いからといって、そのこと自体に意味があるわけ
ではない。そしてまたもう一つ大事なことは、自
と重なる。が、便宜上分けて申しあげれば、経済、
技術の強さ、文化の浸透力。それに外交政策を含
分の区間成績をよくすべく努力するのは当たり前
む政策が一定の価値観に基づいて、安定的に発動
のことで、そのために最善を尽くしたつもりなの
ですけれども、それよりもチーム成績というもの
される、この三つが高い敬意の対象だろうと思い
ます。
があります。
チームが全体としていい成績を取り、
いい位置につけていなければいけない。
今後、アメリカの大統領がだれになろうと、ど
っちの党派が勝とうが、経済、技術がしっかりし、
前任者からたすきを受けて、そのたすきをなる
べくいい形で後任につなぐ、ということを考えて
文化が引き続き魅力的なものであり、日本側の政
策によろしきを得れば、日米関係がアメリカの側
きました。個人プレーというものは、時によって
から崩れることは基本的にない、というのが私の
は、また人によっては、エネルギー源になるとこ
ろがあるのでしょうが、私の場合は個人プレーは
印象です。
2
日本の持てる科学技術というものと国際協力とい
ノーリスクで尊敬は得られない
うものを組みあわせる必要が出てくると思います。
そういう日本について、日本には戦略がないと
リモートコントロールの技術を使って、身体、生
いうことを、現役時代にしょっちゅううかがいま
命に対する危険を少なくしながら、インフラづく
した。しかし問題は、戦略というものの定義だろ
りを着実に進める。環境についてしかり、エネル
うと思うのです。今日現在の日本の姿、何だかん
ギーについてしかり、疾病についてしかりです。
だいいながら、世界第二の経済大国であり、日米
関係は非常に確固とした基盤のうえに立っており、
しかもテロの主要な標的にはされていない。
科学技術とODA、国際協力の結びつきを考える
うえでも、安全保障がらみの一定のリスクは避け
て通ることはできない。
経済・技術面では、アメリカとともに世界の先
日本ほどの国になった場合、日本人の命が失わ
端を行く国である。国際的に多くのよいことをな
れるのは病気か、偶然の事故以外はもはやあり得
し、悪いことはほとんどしない。
そういうことで、
ない。ただし、そのようなリスクが現実の被害と
アメリカ以外で、例えばBBCが世論調査をとれ
して生じた場合に、それを補償するためのきちん
ば、常に日本とカナダが第一位を争う、そういう
とした手当て、システム、こういうものをつくっ
国になっている。
ておく必要はあります。ふだんからそれを構築し
ておくということはむろん重要であります。
第二次大戦後、これ以上にうまくやった国、つ
まり日本にまさる戦略を明示的にせよ何にせよ、
持った国というのはあるのかというと、あまりな
しかしそういう意味でのリスクを一切拒否する
ということでは、日本についての世界からの尊敬
いんだろうと思うのです。それを戦略と呼ぼうと
の念を維持することは難しく、ましてこれ以上高
どうしようといいのですが、少なくとも日本の基
本的なあり方というものは成功物語だった、とい
めるということは難しい時代に入ってきているの
ではないか、という気がいたします。これはまた
うのが、私がアメリカにいての印象であります。
政治のリーダーシップ、官僚システムのあり方と
問題は、
これからもそれでいいのかという点です。
いう問題とも絡んでくることになると思います。
今日はこういう場ですけれども、若干理解をい
ただくのを容易にするために乱暴な言い方をさせ
私はアメリカにいて日本をみていて、時々こん
なことを感じました。これだけアメリカ人の評価
ていただきます。
「ノーリスク・ハイリターン」と
が高い日本、何かほっとさせる安定感、安心感の
いう考え方で、これから日本が同じ尊敬の度を世
界で集めていくことができるのかというと、私は、
ある日本、その日本の中でオプティミズムがちょ
っと足らないのではないのか、と。俗にいわれる
そこは非常に疑問に思うわけであります。
言葉で「縮み思考」というのがあるんだそうです
だからといって、いきなり軍事行動に日本の自
衛隊が参加して、死傷者を出せ、というようなこ
とを申しあげているつもりは全くありません。も
けれども、ちょっとオプティミズムに欠けるもの
がある。アメリカからみると、何で日本にもう少
う少し広くとらえたリスクであります。湾岸戦争
あるのです。
しオプティミズムがないのか、と感ずるところが
のころの記憶も、私には非常に鮮明なのです。あ
のころ、中東地域にいる在留邦人を移送しようと
オプティミズムの反対は、ペシミズムです。ペ
シミズムとオプティミズムは、ちょっと次元が違
いうときに、日本の航空会社は、組合とか何かい
うものだと私は思っています。ペシミズムという
ろんな問題があって、飛行機を出してくれません
でした。船も出ませんでした。そういう面でのリ
のは、客観的な事実とかデータとかそういうもの
を集めてみた結果、容易に陥り得るものです。危
スクということもあります。
険を先に察知するとか、いわゆる知的作業を含め
て、ペシミズムは聞こえはいいが「問題解決」の
意思の放棄というところがある。
また、今後ますます、例えばアフリカに焦点を
合わせてみても、中東に焦点を合わせてみても、
3
のを知りながら太るに任せている米国民のようで
日本にもっとアドレナリンを
ある。そのような“マックジャーナリズム”に警
オプティミズムというのはちょっと違う。そこ
鐘を鳴らしたい」。こういうことをいっております。
に自分の決断というか、決意というか、コミット
メントというか、ディタミネーションの要素が入
私は、これはマスメディアだけの問題ではもち
ってくる。ここが基本的に違う。根拠のないオプ
ろんなく、役人の世界にもある状況だと思います。
ティミズムというのは、多分「ばか」ということ
けれども、これは非常に大事な点です。自分たち
でしょうから、そういうことではなくて、自分自
は、私も含めて、そういう成人病の症状に陥るべ
身が決意を持ってこうするのだ、そうすれば事態
きではない。日本という国を強くしていくために
は打開される、という意思の表示というか、エネ
は、その辺の悪循環と申しますか、これを断ち切
ルギー、
「アドレナリン」という言葉を使ってもい
る努力が必要である。このことが部分的にせよ達
いかと思いますが、そういうものがもっと日本に
成できれば、そのときオプティミズムの要素が増
走っていてもいいと思う。それがこの国に走って
して、日本国全体にもっとアドレナリンが走る、
いないという感じが、率直にいっていたしました。
ということになると思っております。
これは私の言葉ではありませんし、皆さんに別
いま紹介したような状況は、アメリカについて
に挑戦状を突きつけるというわけではありません
が、2006年の2月ですか、在日外国特派員協会で
いわれたことです。ですから、それがアメリカ文
討論会がありました。そこでアメリカの記者だっ
だというふうに解する向きもおありかと思います。
化なんだ、アメリカ文化に毒されている日本なん
た方がアメリカのメディアについていった言葉な
のです。
「昨今の報道は質が着実に低下しており、
そこで、次のポイントですけれども、アメリカ
という国はどういう国なんだろうかというところ
これが読者離れを生んでいることに気づくべきで
に戻ってくると思うのです。アメリカで、これは
ある。ニュースがとるに足らないものとなったの
は、ジャーナリズムの責任である。いまのジャー
やりきれない国だなとか、やりきれない連中だな
という経験を持たれた人も、それは大勢おられる
ナリズムは消費者本位である」――途中を省略し
と思うのです。ともかく「おれが、おれが」と自
ますが――「いまは自分が書いた記事がどれぐら
いの人に読まれるか、だれもが知り得る仕組みに
分を押し出す。あまり「おれだ、おれだ」という
ので、
「君の出身州はオレゴンか」と聞いたら、
「い
なっている。それもあって消費者である読者にお
まはワシントンにいる」と(笑)。「アメリカの国
もねるあまり、低レベルのジャーナリズムが生ま
れ、後々省みられることのない質の記事が大量生
鳥はワシです」
「それでは、アメリカの国の木はエ
ゴの木か」といいたくなりますが、そういうアメ
産されている。この現状を憂う」。
リカについて、一種のやりきれなさを感ずる方は
沢山いると思います。しかし、アメリカはそこま
で簡単に割り切れる国でないということを冒頭に
もう少し紹介します。
「時代はインフォテインメ
ントの時代である。インフォメーションを提供する
よりも、エンターテインメントを提供することにジ
申しました。やはり巨大な国だと思います。
ャーナリズムが狂奔している結果ではないかと思
う。昔は速報性を求めてテレビをみたが、後で新
聞を読み、週末は雑誌を読んだものだった。いま
二つの中心が時々入り交じる米国
日本との違いですけれども、これは印象論です
が、日本は最終的にはピラミッド型の、正三角形
の秩序というものをもっておさまりがいいという
はネットをみて、テレビで映像情報を確認する程
度で、なかなかプリントメディアを手にとるとこ
ろまでいかないのではないか。ジャーナリズムが
感じの国だと思います。日本のみならず、多くの
ファストフード化しているように感じられる。皆、
国がそうだと思うのです。
ジャーナリズムの低俗化を嘆きながら、それが消
費者の求めるものであるから、仕方がないと述べ
アメリカは、中心が二つないとおさまらない国
だと思います。台風の中心というか、エピセンタ
ているが、それはまるでファストフードが体に悪い
4
ーというか、二つないとおさまらない。政治でい
メニューはAとBの二つです。そのうち、奥さん
えば民主党と共和党、アメリカン・フットボール・
なりだれなりが、私、
アペタイザはAがいいけど、
コンファレンスとナショナル・フットボール・コ
お魚はBがいいわ、というようなことをいう。逆
ンファレンス、野球でいえばアメリカンリーグと
の人は「おれ、基本的にはBでいいんだけど、メ
ナショナルリーグ、
ペプシコーラとコカ・コーラ、
インディッシュだけAの方をとっていいかな」と
ハインツとキャンベル、いろいろありますけれど
いう。こういうことが続く結果、ある日、AとB
も、二つでないと何か安心できない。
が実体的に逆になっていた、というようなことが
ある国、これがアメリカだろうと実は思っており
民族的なものであれ、宗教的なものであれ、文
ます。
化的なものであれ、アメリカほどの多様性があれ
ば、イタリア以上の小党乱立になっても不思議が
ちなみにAとBの選択を決める基準というのは、
ない国だと思うのです。しかし、
そうなりません。
そのとき、その時代の主要争点です。国内的な争
点がほとんどだったでしょう。医療とか税金とか
フランスのチーズ200種類に対して、アメリカ
福祉とか、ガンコントロールとか、いろいろある
のチーズというのは基本的に2種類だけだといっ
のですけれども、その時、その時代の主要争点と
た人がいます(笑)。ばらばらのチーズと一かたま
なった問題についてどっちの政党の立場がどうか
りのチーズというか。なぜか二つでないとおさま
ということで結果が決まって来た。
りがつかないところがある。
アメリカは、そういう枠内において、毎日毎日
自分たちの過去とも現在とも未来とも格闘して来
そして、
その二つが時々入り交じるのです。
我々
はいま、共和党と民主党ということを基本的前提
として大統領候補の分析をいたします。が、アメ
たという感じがあります。しかし、その間にすう
リカの歴史家の人から教わったことなのですけど、
その昔、アメリカに強い中央政府、高い税金、果
断な公共事業に信をおいた政党があった、この政
勢としての変化は起きる。1967年から69年、最
初にワシントンにおりましたときと比べて、いま
のワシントンは少なくとも表面は非常に行儀がい
い。例えば「ジャップ」というような言葉はもう
飛び交うところがない。日本だけではもちろんな
党はニューイングランドのカレッジのキャンパス
で人気があり、アフリカンアメリカンの圧倒的支
持を受けていた、その党の名前は共和党である。
い。人種差別的なことを位の高い人がワシントン
でいったら、それを告発された途端にアウトだろ
うと思うのです。そういう面での前進というのか、
この共和党はもう一つの政党へのカウンターウ
ェイトとしてスタートしたものであった。その相
どろどろになりながら前へ進んでいくというエネ
手の党とは、税は低く、制限された政府を標榜す
る党、東のエリートに対しては非常に懐疑的で、
ルギー、これもまたアメリカ独自のものだという
ふうに思います。
ワシントンの中央政府は個人私有財産絡みのこと
に首を突っ込むべきではないと考えた党であった。
その党の名前は民主党である。
ユニラテラリズムは悪なのか
私がいた時代はブッシュ大統領の時代と重なり
ます。ブッシュ大統領、チェイニー副大統領、非
初代の共和党大統領はリンカーンですが、リン
カーンの共和党はいまの民主党ですよね。どこか
常に支持率の低いレジームである。しかし、非常
に日本を重視するレジームであることは間違いな
で象とロバがねじれています。どうしてそうなっ
たかと、そのアメリカの歴史学者に聞くと、いろ
かったと思います。
いろ説明はあるんだけど、「結局アメリカだから
ユニラテラリズムという問題がありました。何
か、ユニラテラリズムというのは即、悪である、と
きょうは大変おいしいお昼をいただきましたが、 いう印象が、日本でもヨーロッパでもつくられがち
アメリカでは、レストランでも多くの場合コース
だったと思います。しかし私は、アメリカの持つ
だ」としか答えようがないということなんです。
5
問題解決能力ということに焦点を合わせないと、
積極的なマルチテラリズム、消極的なマルチラテ
話が不均衡になるという気がしております。世の
ラリズムしかない。そういった場合、問題の現実
中には、国内的にも国際的にも問題がどんどん出
の解決のためにだれかが血と汗を流す責任を負わ
てくる。中には非常に重大な問題がある。そうし
ないといけないという時に、積極的ユニラテラリ
た問題について、問題点を定義、分析、コメント
ズムが必要とされることがあるということは、人
する。さらに甚だしきは、問題をつくり出す。こ
間社会の本質からいって、仕方がないことだと思
ういう人や国はたくさんいると思いますが、だれ
うのです。
かが問題を解決しなきゃならない。問題の解決に
私はアメリカに対して、アメリカの積極的、行
は、汗も要りますし、血が要ることもある。それ
動志向型の外交が非常に重要であるけれども、そ
をだれがやるんですか、ということになるのです。
れが洗練されたものであり、国際社会の現実の現
問題解決ということに基準を合わせて世の中を
実に注意深く目を向けたもの、中・長期的にもア
みないと、非現実的な論理にえてしてなってしま
メリカのためになり、間違ってもアメリカの威信
う。大ざっぱにマトリックスをつくってみれば、
を無用に落とすものでないものである必要がある、
一方の軸にはユニラテラリズム、即ち単独主義、
ということは説き続けてきたつもりです。
おれおれ主義、それとマルチラテラリズム、即ち
アメリカが例えば消極的なユニラテラリズムに
陥るということはどういうことかというと、アメ
多数国主義、この二つですね。それからもう一方
の軸は、積極的、行動的なものか、消極的な、非
リカが孤立主義に走るというのが典型的なケース
です。それで世界はより安定するのか。消極的な
行動的なものか、ということです。基本的にはこ
の四つしか組み合わせがありません。
マルチラテラリズムについては、国連とか、いろ
日本の人などは、率直にいって、きれいごとと
いうこともあって、積極的なマルチラテラリズム
んなところで我々はもういやになるほどみてきた
わけであります。それで世界の安定、平和に資す
がいいとおっしゃるんだろうと思います。私もそ
るのかということになると、甚だ疑問である。
れが実現できれば一番いいと思います。そのとき、
多くの人が思い浮かべるのは、国連でしょう。し
そうなると、アメリカのブッシュ政権がアメリ
カ国民からも批判されてやまなかった、あのユニ
かし、国連の予算は年間1,500億ドルぐらいです。
ラテラリズムをどう評価すべきであるのか。これ
PKO予算を入れても5,000億円になるかどう
はなかなか難しい問題で、歴史がこれを判定する
かです。どんなに多く見積もっても30億、50億ド
しかないのだと思います。
ルでしょうから、5,000億円ですよね。6000億
円まで届くかどうかでしょう。その国連に、積極
しかし、私は一言ブッシュ大統領に申しあげた
的なマルチラテラリズムの見本になれといっても、 のですが、私がいた6年7カ月の間、9月11日のよ
それは無理なことは、国連自身が示している。
うな事態は再発しませんでした、と。その間第二
の対米テロ攻撃が起こっていたら、どうなってい
たかと思うことがあります。どれぐらい努力が実
アフリカのリーダーの人たちの話を聞いていて
も、国連に対する怨嗟の念には強いものがありま
す。いざというときに動いてくれない。自分のと
を結んだのか、僥倖ということがあったのか、よ
くわかりません。しかし、結果として、過去7年
間ですか、そのようなテロ攻撃が起こらなかった。
ころで、煙だけだったのがすでに火もみえてきて
いるのに、国連の安保理に電話を入れても、電話
をとってくれる人さえいない。極端にいえばそう
それから、日本のような友好国、同盟国に対する
大規模テロ攻撃というのも起こらなかった。大統
領選挙の論戦でそこのところが議論されているよ
いう姿です。
うには思いませんが、ここら辺りのところはどう
そうなって問題を解決しなければならないとい
うときに、現実には四つの選択しかない。積極的
なユニラテラリズム、消極的なユニラテラリズム、
評価されるべきなのでしょうかね。
6
私も幾度か、戦略対話とか、実務者対話とか、
能動的なパートナーとしての日本に
政治軍事協議とか、政策企画協議とか、そういう
時間が限られておりますので、はしょってしま
ものに出席した経験があります。しかし、これは
いますけれども、そういうもとで、日米関係は堅
自分のところの恥をさらすようで申しわけないで
固な状態で推移してまいりました。私がいる間は、
すけれども、どんな協議でも、出てくる資料が同
幸いにしてそういうことでありました。
じなのです。そのベースは、国会答弁です。それ
で戦略協議、政策企画協議、政治軍事協議をやろ
その間、日本は、周りの国がどう行動するかを
うと思っても、そう簡単に前には進まない。
みてから自分の行動を決める、大勢順応的に自分
の立場を決めるというやり方でなくて、イラクを
しかし、それにもかかわらずアメリカにおける
含めて、日本が先に自分の行動を自分で決めた。
日本の評価が高いことはさっき申しあげたとおり
アジア太平洋を含む多くの国が、日本が何をする
なのです。日本にいいところがあるということと、
かをみて自分たちの対応を決める、こういう姿が
他がもっとひどいということもあるのでしょうか
あらわれたわけです。日本が周りを「みる」存在
ね。一方中国の場合は、何を考えているか、それ
から、周りから「みられる」存在になったという
なりによくわかるわけです。したがって、さっき
ことは大きな進展だったと思います。
申しあげましたような協議をアメリカとしても行
いやすい素地もあるということです。
先ほどリスクの話をいたしました。私は日本に、
ノーリスク・ノーリターンという選択肢は、理論
的にあると思っています。でも、それで済むと思
中国は、日本に比べて騒々しいプレゼンスであ
る。日本は中国に比べれば、アメリカにおいて静
っておられる日本の人というのは、結局、いない
かなプレゼンスである。静かなプレゼンスというほ
のではないかと思うのです。いま、
「みられる」存
在になった日本という、この国は、自分の経済力・
かの例としてイギリスとかカナダがあると思いま
すが、そういうプレゼンスである。その静かなプレ
技術力、文化力、一定の価値観を堅持しながら自
ゼンス日本ということについて、我々は卑下する
らを変革する能力というものを世界にみずから示
していく必要がある。
必要は全くないし、
過小評価されるいわれもない。
ただ、静かなプレゼンスではあっても、何が自
分のビジョンであり、そのビジョンを実行に移す
アメリカの大統領選挙の結果、マケインが勝っ
たら日本はどうなりますか、オバマが勝ったらど
施策として何を考えるかということは示していく
うなりますか、クリントンが勝ったらどういうこ
とになりますか、こういう質問をずうっと受け続
必要があります。アジア太平洋で何をしたいのか、
何をすべきであると思うのか、
アフリカに対して、
けてきました。しかし、8割までそれは日本いか
もしオバマさんが大統領になった場合など、どの
んなのだと思うのです。アメリカの側から、重要
な盟友である日本に対して、手のひらを返したよ
ような取り組みをしようと日本から具体性をもっ
て働きかけるのか。このように日本から先手をと
うな対応が出てくるということは、だれが大統領
って行く、そういう能動的なパートナーとしての
になっても、私は考えにくいと思っています。も
っぱら国際問題、外交問題、そうした問題につい
日本、これこそアメリカの大統領がだれであれ、
望むところのものであると私は思います。
ての我々日本の対応が相手の対応を決める、こう
日本に、出過ぎたまねをするな、引っ込んでい
ろというようなアメリカ人は、
いないと思います。
いう時代になったと思っております。
日本と中国のどっちをアメリカは重視している
んだろうか、といわれても、アメリカも困るのだ
要するに、これからは自分で自分が何をなすべき
か、ということを、アメリカに対してだけではな
ろうと思うのです。日本がどういうアジェンダを
く、国際的にぶつけていく。アジェンダセッティ
持って、何を考え、何をしようとするのか、何を
しまいとするのか。これがみえないと、アメリカ
ングというのを日本がやる。これが今や一番大事
なことだと痛感して日本に帰ってまいりました。
のほうも瀬踏みのしようがない。
7
表現その他、ちょっと行き届かないところがあ
メリカンといっても、その中もまた多様性を増し
ったかもしれませんけれども、率直に私の気持ち
ています。そして人種的にはアフリカンアメリカ
を申しあげて、ご理解を得たいと思った次第です。
ンよりもヒスパニックが人口的にはマイノリティ
(拍手)
ーのナンバーワンになってきている。12.7%で
したか、アフリカンアメリカンの12.3%か何か
を、2000年の人口調査をみると抜いています。そ
< 質 疑 応 答 >
してますますふえ続けているといったことがある。
そういう中で人種・ジェンダーの壁が低くなってき
司会・宇治敏彦副理事長 文明論、文化論として
ているのかなという気がいたします。マグニチュー
も興味のある、非常に示唆に富んだお話ではなか
ドのほどについては、まだよくわかりません。
ったかと思います。さりげなくアメリカ人記者の
表現をかりて「マックジャーナリズム」と、私た
ちに警鐘を鳴らしているような感じもいたしまし
会田委員
オバマ候補が民主党側で立つことに
た。時間の関係もありますので、代表質問に入り
なったアメリカの本選で、最も問われてくるテー
たいと思います。それでは、会田さん、よろしく。
マ、あるいは重要なテーマはなんだと加藤さんは
みているのでしょうか。
会田弘継企画委員(共同論説副委員長) いまオ
バマを民主党大統領候補として選んだアメリカで
加藤大使 昔、有名な下院議長だったティップ・
オニールという人が「すべての政治はローカルだ」
ということをいいました。今度の大統領選挙につ
起きている変化とは、どういう変化なのか。それ
を加藤さんはどうみているのか、その辺をちょっ
とお話し願いたいと思います。
いても、その基本的な点は残っている気がいたし
ます。経済の情勢、両性の結婚の問題ですとか、
社会・医療保障等々の社会問題、ガンコントロー
加藤大使 この変化がいかなる変化であるのか。
ジョージ・ワシントンの時代以来、アンドル-・
ル、いろいろあると思います。その点は変わりま
せんが、アメリカの国際的なウェートが巨大であ
るというだけ、国際関係も…それ自体が選挙の争
ジャクソンとか、リンカーンとか、セオドア・ルー
ズベルトとか、フランクリン・ルーズベルトとか、
点であるかどうかは別にして…アメリカ国民全体
トルーマンとか、レーガン、と続くアメリカの歴史
に重くのしかかっている国家的課題です。こうい
う中で、両候補がこれからどういう立場を打ち出
の流れでみたときに、今回の変化がどういうもの
であるのか。
これはまだ私にもよくわかりません。
していくか、ということに尽きるのでしょうね。
ただ、第二次大戦終了後も朝鮮、ヴィェトナム、
湾岸、イラク等戦争体験をずっと続けて来て9・11
いま、課題としては、イラク、アフガニスタン、
そして大きいのがイラン、さらに、アフリカの問
題にせよ、エネルギーの問題にせよ、経済の情勢
も経験したアメリカの歴史が大きな節目を迎えて
いるのだろうという実感はいたします。だからと
の問題にせよ、サブプライムローンの問題にせよ、
いって、アメリカの外交政策などが急激に動くと
教育の問題にせよ、いろんなものがあります。そ
の意味で大統領選挙のイシューという観点からは
いうことではないだろうと思います。さっき、ワ
シントンの行儀のよさということについて触れま
別に従来とそんなに変わったということではない
したが、オバマさんがここまで伸びてくるという
と思います。ただ、これまで高いと思われたいろ
いろな垣根が、アメリカが世界の中におかれた状
ことは、去年のいまごろ、多くの人は予想してい
なかったのではないかと思います。共和党の側に
況、アメリカ自身の経験によって低くなって来て
ついても同じようなことがいえます。
いるのじゃないか。因みに、さっきも申しあげま
した共和党と民主党の差なんですけれども、オバ
オバマさんの評価についての会田さんの質問に
正確な答えはできませんが、ゴルフのタイガー・
ウッズに似たところはありますね。アフリカンア
マさんというと、最初、リベラルな地盤から、リ
ベラルな意見を持った候補として登場したと思わ
8
れますけれども、私が少なくともオバマさんの側
逆にいいますと、日本の集団的自衛権はこうい
近と称される方たちに何人かお会いした印象では、 う形で制約されているのだという話を聞くと、相
あのグループには、非常なプラグマティストが多
当要路の人でも「え、そんなことだったの」とい
いと思います。オバマさん自身も、そうではない
う感じなんではないでしょうか。標高ゼロの地点
かと思います。
があって、その上に山があれば下に海がある。集
団的自衛権の問題は、水面下の、標高ゼロより下
安倍総理、福田総理が去年の4月、11月にワシ
の問題でして、これを標高ゼロの地点まで持って
ントンに来られたときに、歓迎演説をした議員が
いくということをするかしないかが、日本で論じ
一人おります。それがオバマさんだったのです。
られているということなのだろうと思うのです。
非常に内容のある歓迎演説でありました。
で、標高ゼロの地点にそれが来たとき「あ、日
私の表現ですけれども、人には天動説型の人と
本か標高ゼロまで来たのか、そういうことだった
地動説型の人がいますが、オバマさんは最も天動
のか」というのが、実は大方のアメリカ人の認識
説から遠いところがある、地動説型の人ではない
ではないかと思うのです。ただ、もちろん日本と
かなという気がしております。実はマケインさん
アメリカの関係を、世界の中でより強力なものと
についても相当程度同じようなことはいえるのか
していくために、やっぱり日本はみずからを少な
もしれません。だから、一時の両極に分裂して―
くとも標高ゼロまで持ってこないと、日本自身も
損するのである、という考え方のアメリカ人もい
―もちろん格差の問題はありますよ、ありますけ
れども、アメリカが二つに分かれたというような
認識で今回の大統領選挙は戦われてはいないので
ます。これも結局日本の国益、安全保障の判断と
いう日本自身の問題だということなのではないで
しょうか。そして、標高ゼロまで来たら、その次
はないかという気はいたします。
に日本は何をするのか、したいのかだと思います。
会田委員 しばらく前まで、アメリカ側から間接
的に、微妙な表現で憲法改正を求めたり、あるい
会田委員 お話の基調に能動的なパートナーと
しての日本ということがありましたが、これを
は集団的自衛権行使について、日本に何とかして
ほしいと求める声が聞かれたように理解しており
ます。が、最近、どうもそういう声が消えている
日・米・中関係のコンテクストに置いて敷衍して
いただきたい。加藤さんは常々、米中の谷間に日
本が埋没するという不安は、日本が強くあれば抱
ような、あまり聞かれないようになっているんで
すが、これはどう理解すべきか。アメリカ側はい
まの日本の憲法体制でいけるんじゃないか、とい
く必要がないとおっしゃっていたと思うんですが、
強くある日本、これを米・日・中の三角関係のコ
ンテクストに置いていうと、具体的にどういう日
まは思っているんでしょうか。
加藤大使 アメリカの中で、日本の憲法を含めて、 本をイメージされておられるのか。
よく日本のことを知悉している人の数というか、
加藤大使 私はアメリカの勤務が長いものです
パーセンテージというのは、割と小さいんだろう
から、日米関係を強化することが日本のためにな
と思います。大方のアメリカの人からみると、日
る、という気が一貫してあってこれが変わったこ
本がいい同盟国で、いいパートナーだ、と。です
とは実はありません。
から好感度は最もアメリカでも高い国になります
ね、いつも日本は。
アメリカの持つ問題解決能力というものは稀有
なものであって、いま世界に、それにかわるもの
はないという気がします。むしろ、私としては、
しかし、その人たちの間では、総じて、日本の
集団的自衛権の問題が日米関係のさらなる進展に
どのぐらいブレーキになっているのか、どれぐら
さっきもちょっと触れましたように、そういうア
メリカが持っている威信、周りからみてアメリカ
はおっかないなという気持ちというか、そういう
い障害になっているのか、という明確な認識は必
ずしもないのではないかと思います。
アメリカの威信をアメリカ自身が落とすというこ
9
とはよくない。それが中東の問題に端を発するも
インテリジェンスの実体はどうであるのか、カギ
のであっても、アジアの問題に端を発するもので
はどういう持ち方にするのか、なども含めて、き
あっても、アメリカのためにならないし、日本の
ちんと整理しておくという要請は、私はこれから
ためにもならない。ひいては、世界のためにもな
強くなるべきものだと思っています。そういう部
らない、というふうに基本的に考えております。
分を着実に進めていくということが、日米関係の
底堅さをさらに強めるということにつながる。し
中国というのは、日本の隣国として存在する大
かし、そういう計画についての実績のある協議を
きな国ですから、その中国とどう向き合うかとい
進めていくためには、保秘の面できちんと日本が
うことは、もうこれは日本が決して逃れることの
対応する必要がある。
できない問題である。しかし、そのときに、日本
とアメリカが価値観を共有する国としてどう組ん
そして、こうしたある種の作業は、それこそメ
で、どう対処するかという発想がやっぱり重要だ
ディアなどにさらされることなく、静かに政策立
というふうに思っております。
案者のために進められる。そういう仕切りがある
べきだというふうに考えます。
日米の関係も、実は黙ってほっておけば強くあ
り続けるというものではありません。強くあるた
会田委員 加藤大使時代に、日米関係はかなり強
めには、それなりの努力を双方がする必要がある
固になって強化されていったというふうに評価さ
と思います。
れておりますが、その過程で、日米関係を強固に
私は日米関係良好ということを申しあげました。 するために、あえて大使としてアメリカ政府にノ
例えば防衛面でのミリタリー・ツー・ミリタリー
ーといったり、物申したり、そういう場面という
の関係、安保関係は非常に強力です。その強力な
のはありましたか。
ところに、普天間の問題やら何やらが影を落とし
加藤大使 それはいろいろと物を申すというか、
ているという見方もあります。
が、それと同時に、
率直な意見交換はやっております。
日本の軍人であれだれであれ、偉い人がアメリカ
に行って歓迎されて、いい晩餐会が行われて、い
例えばイラクの戦争前夜に、国連というものを
どういうふうに活用すべきか、
という点も含めて、
い会談が行われて帰ってくるというだけでは、肉
づけとして足りないんだろうと思うのです。
つまり、日本とアメリカが、この地域に不安定
な状況が生じた場合に、具体的にどう対処するか、
そのときに備えての計画、打ち合わせがないと、
強固な日米関係に肉づけができません。これまで
随分こちらの意見もいいました。それが代表的な
ケースですけれども、アジア太平洋の安全につい
ても、この辺の地勢学的な問題への対処について
も、その他いろんなグローバルの問題についても、
日本はこう思う、アメリカはこうすべきだと思う、
ということは相当程度伝えてきたつもりです。当
は、核の抑止力にしても、非常に抽象的なもので
然そうあるべきだし、アメリカのほうもいま、そ
れを求めるところが多々あるんです。もちろん、
済んできたのだと思いますが、ヨーロッパの核抑
止論と比べると、西洋絵画と日本の水墨画ぐらい
その種のメッセージを発した場合に、相手がその
違いがあるわけですね。
メッセージを信頼性あるものとして受けとめるよ
うになるための環境づくりというものも必要です。
日本のほうの核抑止論というのは、白地に描か
れた雷神の絵みたいなものです、ブランクの部分
が物すごくあるわけです。この雷神、山の上にい
私が大使としていえる意見というのには、もち
ろんそれなりの限度があります。日本の政治のリ
るのか、湖のほとりにいるのか、地面の中にいる
ーダーがアメリカに物をいったときに、アメリカ
が「ああ、そういう文脈で、こういうことになるの
のか、村の中にいるのか、そこら辺の細かいとこ
ろは、全部こっちの想像力にゆだねられている。
か」というふうに受けとめて、それが建設的な結果
ヨーロッパの場合のように、核のエスカレーショ
につながる、そういうふうにできるよう土台や環
ンのラダー、指揮、通信、統制、コンピューター、
10
境をつくるために努力をしてきたということです。 は、世界における日本みたいなところがある。そ
の人たちに無条件に日本の政策を支持してくれ、
ちょっと横道にそれますが、アメリカの人口の
擁護してくれなんてことはいえません。けれども、
半分は女性なわけです。私はこれまで、自分の外
日本人のDNAを持ったアメリカ人としての感覚
交官43年の生活を通じて、アメリカの女性を外交
からみた日米関係についての意見などは吸い上げ
政策の対象として明確に意識したことは、正直い
られるようにしておくべきです。
ってありませんでした。女性閣僚もいるし、女性
の議員もいるし、その他の要職についている女性
それから、外務省だけでなく日本側としては、
もいる。そういう人たちとはそういう人たちとし
いわゆる知日派を研修なり何なりを通じて育てる
て話をしてきましたけれども、アメリカの女性と
とともに、アメリカの中で、我々にとってよさそ
いう存在にどう日本というものを印象づけていき、 うな人間を「出世」させるようにするということ
刷り込んでいくかということも、インフラのひと
も大事だと思います。
つとして今後非常に重要だと思います。
会田委員
アメリカは二つの国という話があっ
会田委員 加藤さんの後に、日本外交でアメリカ
たので、
またアメリカのことに戻りますけれども、
通という人が育っていないように思われるんです
その二つのまさに一番重要な問題で、みんなが聞
けれども、そこをオールジャパンとしてどう考え
きたいと思っていることをずばり聞きます。オバ
て、どのように人材を育成していったらいいのか、
どう思いますか。
マとマケイン、どちらが勝つと思っていますか。
加藤大使 相互の交流は、一般論として非常に重
要だと思います。知的レベルの交流もそうだし、
加藤大使 分かりません。ただ、いまの数値をと
れば、オバマさんのほうが有利という数字が出る
と思いますが、まだこの時点における世論調査に
草の根レベルの交流もそうだし、日本語教育とい
うものをアメリカでどう維持し、強化して行くか。
は、信憑性が十分ない可能性があります。つまり、
この時点において生々しい本音を答える人は、まだ
私自身がそんなに「アメリカ通」だとは思ってお
数が限られているんだろうと思います。どこでも
りません。むしろ、アメリカのほうからみても、
日本のほうからみてもそうですが、互いの文化と
そうですね。不意に聞かれると、本能的に自分の
本音を隠す、ないしは答えない、というケースが
か生活慣習になれ親しんだ人がたくさんいるとい
よくあるわけです。本選のときにはもっと本音の
うのはもちろん安心材料です。けれども、アライ
アンスマネジメントというか、同盟をどう運営し
票が出てくるんでしょう。そういうことが一つあ
ります。
ていくかが基本的に重要なことで、日米ともにこ
それからさっき申しあげた通り、テロが9・11
の後起きていない、ということは、すなわちテロ
の面で相手になり、役に立つ人間が欲しいんだと
思うのですね。情緒的な米国理解、日本理解とは
まがいのことが今後起きたらどうなるか、という
問題でもあるわけです。そのときには、世論の基
一寸別の呼吸ですね。そういう人間を一人でも多
くオールジャパンでつくるべきだと思います。
盤はなだれを打って変わる可能性もあるというこ
そのために、大使館も磨きもかけなければいけ
ない。ワシントン。例でいうと、大使館と、商工
とだと思います。
会とか、ニューヨークヨークの商工会の方々との
意見交換、連携というのは重要になっております。
それから日系米人という存在があります。必ずし
も日本ではどういう人たちであるか明確でないと
ころがあるかもしれませんけれども、日系米人と
いうのは、日本のDNAを持ってアメリカにいる
他方で、オバマさんの勢いは、途中から「キャ
ンペーン」を超えて「ムーブメント」になったと
いうことは、その通りだと思います。共和党の中
にも、右派と呼ばれる人も含めてオバマさんを支
持する人がかなりいるという話も聞きます。
つまり、共和党の中に、これまで続いたブッシ
ュ政権は、第二のレーガンの政権になると期待し
人たちです。アメリカにおける日系人という存在
11
たのに、そうならなかった、裏切られたという思
ットボールと、ちょっとそこは違うようです。野
いを持つ人たちがかなりいて、こういう保守派の
球は年間8,000万人ぐらいが見に行くわけです。
人たちは、この際共和党にお灸をすえてやろうと
フットボールは大変エキサイティングなゲーム
いう気持ちになっているということがあります。
であることはもちろんなのですが、レギュラーシ
それからもう一つは、宗教右派の人たちです。
ーズンのゲームは16試合です。野球は162試合で
宗教右派の中にはいま、政治との間合いそのもの
すから、子供を連れていくチャンスが非常に多い
を探っている人も多いんだろうと思います。つま
ということがいえるでしょうね。
り2004年など、宗教右派の票は非常に大きな影響
アメリカ人は野球が好きで、野球の好きな人が
力を及ぼしたのですが、宗教右派が政治の次元に
随分ワシントンにもいるので、助かりました。野
とどまり続けるのか、政治と距離をおいて宗教と
球の切り口から入って、野球の話を20分して、仕
いうコミュニティーの中に戻るのか。その辺のと
事の話を10分のほうが効率がよかったりするこ
ころは、やっぱり模索中のところがあるのではな
とがあります。効率がいいというのはふざけて申
いかと思うのです。もし後者が事実だとすると、
し上げたわけではなくて、そういうことなら、そ
投票に行かない人も多くなるかもしれない。
の次にまた会おうというようにアポが成立しやす
くなるという意味です。結局、それで通算会見時
まとまらない話の最後なんですが、マケインさ
ん、大統領になるとすれば72歳の大統領です。史
間量は多くなるという利点もあったと思います。
上最高齢の大統領ですけれども、お母さんが物す
ごく元気なんですよね。95歳ですけれども、単に
日本のほうはまた日本のほうで、野球とマラソ
ン、駅伝は日本人に合性がいいと思いますね。ア
メリカが3億の人口で30の野球チーム、日本が1
元気というのではなくて、政治評論をまだやって
おられる。
「自分の息子は十分保守的でない」とか
いわれたりして、元気なんですよ。そうすると、
億2,000万の人口で12チームというと、数も比例
マケインさんも、年齢は72でも、年齢というのは、
最後のところから逆算してみないと分からないわ
けですからたほうが正しいかもしれませんが、そ
しているということなのかな。まあ、そのことに
意味があるかどうかよく分りませんが。
会田委員 次のお仕事のことですが、球団格差の
うすると元気でがんばるかもしれない。さらにマ
ケインさんには、年齢ということを逆手にとって、
おれは一期だけだよというアピールとか、かつ状
況次第によっては民主党系の副大統領候補と組む
とかの「飛び道具」がないこともない、というよ
うな論評を読んだ記憶もあります。よってもって、
申しわけありませんが、分かりません。
問題ですね、資金力の差が戦力の差につながって
いる。そういう状況があるわけですけれども、そ
れを解決する具体的な案をお持ちなんでしょうか。
加藤大使 私は野球ファンで、野球が好きなこと
は自分でも自信を持っていえますけれども、いま
の質問のような点は新しい世界のもので、もう少
し予見、予断を持たずに勉強してみる必要がある
会田委員 まだ二つの話を続けたいと思うんで
す。加藤さんは二つの面をお持ちのようで、次の
と思っています。
コミッショナーとしての仕事になった途端に歯
切れが悪くなるという印象を持たれるかもしれま
お仕事はもう一方の面のほうに移るわけですが、
そこの二つを掛け合わせて、なぜ日本人とアメリ
カ人はこんなに野球が好きなんでしょうか。
せん。しかし、日米関係について申しあげるとき
加藤大使 そうですね、これもまた「好きだから」
としかいいようがないと思うんですが。アメリカ
は、自分が本当のアメリカ通だとは思わないにせ
よ、最近6年7カ月もいて帰ってきますと、割合
率直なことをいうだけの蓄積があると思うのです。
では依然としてお父さんが子供の手を引いて、日
曜日にでも連れていってやれるスポーツというの
が、蓄積がないと、無責任な空論になるおそれが
あります。自分に自信のないことについて思いつ
は野球なんでしょうね。フットボールとかバスケ
きで放言するのは逆によくないと思っています。
12
これは、絶対にほかの国が過小評価すべきでない
ただ、日本の野球を全体として隆盛に導きたい
という気持ちは人一倍強く持っておりますので、
点だと思います。
そのための整合性のある方途とは何かということ
北朝鮮問題全体との関係でいくと、その拉致の
について、自分なりに、皆さんのお話を伺って、
問題と並行してというか、拉致の問題を並行させ
考え方を練り上げていきたいと思っています。
るというか、
核の問題を解決しなければいけない。
宇治副理事長 では、会場の皆さんの質問を受け
この核の問題の「解決」を目指すプロセスの中で、
たいと思います。挙手をしてください。
おっしゃられたようなことになる懸念というのは
ある。そのことはつとに指摘されております。
質問
あしたにもアメリカは北朝鮮のテロ支援
私は、北朝鮮からの申告なるものが出てきてい
国家指定を解除するのではないかといわれていま
ないので、具体的なスケジュールは承知しません
す。ブッシュ大統領は、横田さん夫妻に会われて、
が、その申告が出ればすぐテロ支援国指定の解除
自分の大統領時代、最も悲しいことの一つだ、と
が行われるということだとは必ずしも認識してお
言った。ところが、政権末期になって、またクリ
ントン政権の来た道という感じがしないでもない。
次第に浮足立っているところがなきにしもとい
う感じもする。そういうアメリカのいまの状況、
拉致に対してどれほどの気持ちでいるのか。一体、
どういう手があるのか。どうすれば最も日本にと
っていい形に導けるのか。
りませんでした。
つまり、支援国指定を解除するという通告を議
会に行って、45日期間があるわけです。その間、
北朝鮮のいう申告がいかなるものであるかという
瀬踏みが当然のことながら行われて、さらに拉致
の問題についての前進についても努力を尽くした
結果、これはどうも十分じゃないということにな
れば、アメリカ政府が通告を取り下げるというこ
加藤大使 日本に帰ってきてから1カ月ぐらい
になります。その間、いま指摘されたような問題
とだってオプションとしては残っている。そうい
うふうに聞いていているわけです。その確率がど
について、必ずしも最近の情報というものを持っ
ていないんです。けれども、ひとつ、明確に申し
れぐらい大きいかは知りません。
あげられるのは、ブッシュさん、それからチェイ
もっとも最終的にこの通告が議会によって葬り
去られるケースは、議会の共同決議によるしかな
いわけなんです。これはまたこれでなかなか大変
ニーさん、このレベルにおいて、拉致についての
信念というか、考え方が変わったということはあ
り得ないということです。
なことだろうと思います。しかし、アメリカのメ
で、拉致の問題について前進を図る――。もち
ろん解決というのはどこまで行けば解決なのかと
いう問題もありますが、それも含めてとにかく前
ンタリティーとしては、問題をとにかく前進させ
ないといけない。それこそ、ああだこうだといっ
に進むべきだという認識は、引き続き強固なもの
えて来ないのだから、とにかく動かすことが必要
だということなら、動きうる方向へどんどん動か
ているだけでは物事が全然動かず解決の道筋も見
があると思っています。
すべく努力してみなくちゃいけないんだというこ
したがって、日本のほうからも、何がどうなれ
ばどれぐらいの進展なんだという目安を明確に示
とでしょう。そしてその結果動いた量、及び質、
これに照らして、次にどこまでどうすべきだ、と
しつつ、アメリカと意思疎通を最高レベルにつな
いうことを決めていく。そこにはもちろん均衡が
がる形で続けていく必要がある。そういうことだ
ろうと思っています。
なくてはいけない。この点はアメリカ政府実体と
して変わっていないように思いますけれども。
拉致の問題については、アメリカ政府のみなら
ず、アメリカの議会の中においても、拉致の被害
質問 戦略について、二つのことをいわれたと思
に遭った人、
家族に対する同情の念は強いんです。
います。お話の前半では、戦略の定義の仕方にも
13
よるけれども、これだけ日本が信頼されて、カナ
工場ですが、非常に当たりまして、モザンビーク
ダなどと同じような地位にある、これが期せずし
政府から深く感謝されるというようなことになり
て戦略になっているではないか、といわれました。
ました。それから、日本の企業が出しているマラ
お話の最後では、やはりアフリカやアジアの地域
リア用の蚊帳、このことはブッシュ大統領のレベ
紛争に対して、日本がどう考えるかということを
ルにおいても日本の大きな貢献だということがよ
力強くいっていかなければならないのではないか
く知られているわけであります。
といわれたと思います。その二つは、二つの中心
いろんなものがあると思うのですが、さっき申
というか、やや矛盾したところがあって、後のほ
しあげたように日本の持てる科学技術・・・その中
うを強調されるか、前のほうを強調されるかによ
には遠隔操作の技術で、危険なところからちょっ
って、かなりニュアンスが違うと思いますが。
と離れたところからインフラ建設ができるといっ
加藤大使 前のほうの「戦略」というものについ
たこともあるでしょう・・・こうした科学技術の活
ては、
「これまでの」日本の成功物語があったとい
用、それはエネルギー・環境の面でもいいです。
う文脈で申しあげました。しかし「これからの」
人材構築のための支援でもいいです。そういうと
日本が国としての地位を高く保つためには、後者
ころで、仮にアメリカと組んで現実に目に見える
が必要である、という文脈で整理したつもりです。
施策を展開するということになれば、それは対米
関係のみならず世界戦略的に、非常に大きな効果
を生み得るものであるというふうに思うのです。
例えば、アフリカについても私は、いろんなこ
とが考えられるべきだと思うのです。国連の改革
を求める場合にも、アフリカに対する理解、コミ
そういう、アフリカとの関わりが実際に積み重な
っていった場合に、
日本のいう国連改革の議論に、
奥行きが加わるのだと、私は思っています。
ットメントというものがなければいけないと思い
ますね。アフリカについて日本なりの一家言がな
いと国連改革を云々しても、ちょっと上滑りの議
「世界の中の日米関係」というのは単なる標語で
はないはずで、それが実質的、具体的なものとし
論になるのではないかと個人的には思います。
てアフリカにおいて実現するということは、私は、
日米関係上も非常に大きな効果を持つと思います。
もうひとつの点ですが、アフリカに日本がどう
対応するか、どういうアフリカ政策を行っていく
かというのは、いまのブッシュ政権、そしてこの
例えばオバマさんが大統領になったと仮定した場
合に、そういうプリズムを通して日本に目が向く
というのはいいことなのだと私は思うのです。
先できるアメリカの新政権との関係を考えた場合
に、物すごく大きな対米関係上の要素なんだろう
と私は思うわけです。
まあ、そういったことを含めまして、これから
先のことを考えた場合には、いま分けていただい
アフリカについて、私はまず包括的なアフリカ
像を描けとか、包括的な政策の枠組みをつくれと
た二つのうちの後者が重要になり、より能動的な
日本、世界からみられている国なのだ、みられる
かいっていると時間がなくなると思います。よく
いうように、ベストプラクティスというか、でき
存在になっているんだということを認識した日本
ということが大事になってくると思います。
るものをやっていってはずみをつけるというやり
方で、私はいいのだろうと思います。
アフリカは、
地域、国、民族、部族、諸面にわたって膨大で複
質問 アメリカ在任中、苦労された問題のひとつ
に、アメリカ議会での従軍慰安婦問題の決議があ
雑な地域なんどといわれればそのとおりでしょう
ったと思います。いまの時点で顧みて、どのよう
にお考えでしょうか。
が、私は、アフリカについてうんちくを傾ける前
にできることでいいことがあれば基本的にやれば
いいと思うのです。
加藤大使 この問題は、昨年は下院の決議の形で
決着がつきました。この従軍慰安婦の問題は、下
例えば三菱のモザンビークにおけるアルミ製錬
工場の建設は、それなりのリスクを払って建てた
院が新しくなるごとに、すなわち2年ごとにこれ
14
からも出てき得る問題だと思っています。出てく
とです。新しい問題だと思ってその都度騒ぐので
るでしょう。そのプロセスがどこまで進むのか、
はいけません。ずっとある問題なんです。
上院にまで上って行くのかということについては
一方において、POWにされた人、それから従
私にはいま、予断することはできません。ただ、
軍慰安婦になった人に対する、日本の国としての
日本のほうからすれば、先般来、アメリカに対し
気持ちというものは、これは誠実に表明し続けて
て、議会に対して、政府に対して行ってきた説明
いって、歴史的な検証がさらに加えられていくと
を、きちんと自分の確信ある言葉として、自分自
いうことは大事だと思います。そこは日本次第だ
身納得の行く考えとして伝え続けることが大事だ
と思います。繰り返しますが、アメリカでは従軍
と思っています。
慰安婦の決議の問題は、これからも出てくるでし
私が6年半前にアメリカに着任したとき、ある
ょうし、POWについてすら法的拘束力を持った
意味ではそれよりも深刻な問題があったのです。
決議に向けての動きが出てくる可能性が消えてい
それはPOW(戦争捕虜)の問題です。POWだ
ないのです。これが戦争のレガシーなんだと思い
った人たちは、今や消え行く人達です。アメリカ
ますけれども、アメリカとの関係をマネージして
の中でおよそPOWの問題が提起された場合に、
いく上でも、対応に怠りがあってはいけない。
POWに不利になるような動きを積極的にとる政
その意味で、政府の対応も大事ですけれども、
議会交流で、アメリカの議会に日本の生の声が直
治家などまずいないと思います。そして、こっち
の方が従軍慰安婦問題よりも深刻だったのは、P
に伝わる機会をもっと多く持つということも必要
だと思います。それから、やっぱりさっき申しあ
OWの方は、実際に法的効果や罰則規定のある判
決及び立法化という作業が進んでいたからです。
従軍慰安婦決議の方は下院だけの、そして法的拘
げた交流ですね。日本の本当の価値を肌で分かっ
ているJETの卒業生とか、マンスフィールドフ
ェローの人たちとか、在日米軍関係者とか、そう
束力のない意味においてずっと下位の決議です。
POW法案の内容は、私からみると著しく不当
なものでした。なぜならば、サンフランシスコ平
和条約において、法的にけりがついたものを、ま
いう人たちとのネットワーキングをアメリカで拡
た法的に蒸し返すという内容のもので、これは基
これらのことを全部やる必要があると思います。
大することによって、日本にとってのフェアで公
正な理解というのが得られる状況を構築していく。
本的な枠組み原則に反すると思ったからです。
質問 小泉政権の末期ごろ、ライシャワー研究所
のアラン・カーター氏が来て、これからの日・米・
ところがそのPOWの問題は、ふたつの側面で
結構激しく動いていたのです。一つは司法、裁判
中の関係がどうなるかということが、世界史的な
の側面、もう一つが立法の側面です。その後裁判
変化をもたらすんだ、といった話をされました。
例えば安保に関していえば、日米はもっと進んで
の方は、幸いにして決着がつきまして、日本の言
い分が通った判決が出た。しかし、立法・政治の
いっていいんだけれども、そのほかのことについ
世界の方の問題、これはまだ実は残っているので
ては、日中がすごく親しくなって構わないんだ、
ということをいっていたのです。それで、アメリ
す。これは、アメリカ特有の制度、懲罰的賠償と
“この指とまれ”式の集団訴訟という、ほかの国
カがもし安保の面でもって日本を非常に高く評価
にないシステムを使って、立法化によって日本に
するならば、安保理の常任理事国にもっと強く推
薦すべきじゃなかったかと思ったんです。そうい
現実に物理的な支払いを、政府なり民間なりにお
いてやらせようという企てです。最近は日本政府
った機運がアメリカの中ではできないものなのか。
の方はもう追及しても無理だから、日本の民間に
これからそういう可能性をもっと追求すべきでは
ないかと思いますが、大使のお考えは。
やらせよう、ドイツでうまくいったようにという
ことで、この目はまだ死んでいないのです。これ
にも私はきちっと日本の立場を一貫して強く言い
加藤大使 アメリカの日本の常任理事国化に対
する支持というのは、随分昔からあります。ケネ
続けるべきだと思います。常に注意を怠らないこ
15
ディ、フォード、そのころから連綿としてありま
だから私は、あんまり迂遠なことを申しあげた
す。最近のブッシュさんの日本支持の姿勢は、そ
くありませんけれども、国連改革は開発の問題で
れは一貫しているんだと思うんですよ。
あれ、財政の問題であれ、安保理の問題であれ、
一括して解決する。それらを解決して国連を強い
しかし、二つ申しあげたいのですが、第一は私
国連にする。そして強い国連になったときに、ア
がいうと何なんですけれども、アメリカにとって
フリカのいろんな諸国も、いまよりは幸せになる
の国連と、日本にとっての国連はちょっと違うの
であろう。それはアメリカのためでもある、そう
です。日本にとって国連は必要不可欠な国際的な
いう図を描くという作業を一方で進めておかない
権威の象徴、そういうパーセプションだと思うの
と、ただ選挙対策の呼吸だけで国連安保理を考え
です。アメリカにとっては違うのです。大体、連
ても結局実を結ばないと思っています。
邦政府をつくるのにだって、あれだけだだをこね
たアメリカです。州が最大の単位でいいじゃない
質問
か、何で中央政府なんてものが要るんだ、という
大使は大リーグの試合も何度もごらんに
なられたと思うんですけれども、日本の野球と違
ところからはじまって、南北戦争も経験して今日
って、メジャーリーグはこういう点がいいなとい
のアメリカになってきたアメリカですから、連邦
うふうに思われた点、逆にこういうのはあまり日
政府のさらにその上に国連などというものが要る
本に持ってきたくないな、と思われるような点、
その両面のお話をお聞かせ願えたらと思います。
のかよとなるわけです。それはアメリカ人の感性
からしてまことに理解しがたい世界である。
加藤大使 単純に野球が好きなだけの人間です
から、なかなか十分な説明ができるかわかりませ
国連を自分でつくっておきながら、という議論
はあるでしょうけれども、国連設立以来、いろん
ん。アメリカ大リーグのいいところは、やっぱり
力と力のぶつかり合い、真剣勝負という要素が根
な面でアメリカはかんにさわっているところがあ
るのです。安保理だけではありません。国連はお
強く残っている、ということだと思うのです。
金の面でも乱脈である、と。アメリカは第一番の
拠出国でもありますし、事務局というのは一体ど
うなっているんだということになるのです。財政
それからもう一つは、アメリカが最近つくって
いる球場は、時代の変化に合わせた球場になって
いるなという気がいたします。昔、私が子どもだ
的改革、国連のマネジメントの改革、これが先じ
ゃないかというのが、議会あたりでは一番現実感
のある国連改革論なんです。日本の国連改革論は
ったころは、野球以外に楽しみがなかった。いま
は楽しみが物すごくふえている。だから野球の3
時間9分か6分か知りませんけれども、それ全に部
安保理改革論から発するのですが、アメリカは必
ずしもそうではありません。その辺をどうそろえ
るかという現実の問題があるのです。
つき合ってみるという私みたいな人もいますけれ
ども、それ以外の、ちょいと野球をのぞくという
ぐらいの人も動員できるようなものでなければい
第二は、これも私がいうのも何なんですが、安
保理改革についてもアメリカの中での応援団のつ
けない。つまり、アテンション・スパンが短くな
っている人間がふえている状況のもと、どうした
ら収益も上がり、ファンを引きつけられるか、と
き方がさまざまなんです。国務省一つを例にとっ
ても、ブッシュさんから日本を常任理事国にする
いうことで球場を建てている。したがって、レス
ように何か案をつくれ、ということになった場合
トランがあって、それがたまたま球場の一部で、
そこに行けば、野球がみえるということがあった
に、アジア太平洋局は、まあ日本寄りですよね。
ところが欧州局は、イタリア、ドイツ、どうする?
り、スイミングプールがあって、そこへ行くとド
ということを離れては考えられない。国際機構局
リンクを楽しみながら、野球がみられるとか、そ
れから、子どもを連れてきて、バーベキューをや
はまたひとつ独立独歩です。その三者の相違が国
務省においてどう調整されるのかという問題があ
りながら野球も見られるとか、それから選手との
るんだろうと思うのです。
距離が近いとか、いろいろあるわけなんですね。
16
そういうことで、工夫を凝らしている跡がうかが
ムとが決戦するようなものを考えているんですが、
われる。新しい球場がなかなかいい。
アメリカはどうもそれには関心を持っていないと
か。いろいろ日米間でずれがあるような感じがし
それから、ゲーム開始の前に、一応アメリカ国
ます。野球に詳しく、しかも日米に通じておられ
歌が吹奏されて、7回には例の「テイク・ミー・
る加藤さんからすると、今後の日米のプロ野球の、
アウト・トゥ・ザ・ボールゲーム」か何かの歌が
そういう意識の違いも含めて、どういうふうに交
ある。そして記念日にはワシントンだと大統領が
流し、こういう未来図が描けるんだということを、
始球式をやって、ジェット機が敬意を表して上空
夢としてお持ちなんでしょうか。
を飛ぶというような、ああいうところの演出はな
かなか工夫しているなと思います。
加藤大使
ただ、いかんせんやっぱり日本からみていると、
日本のいい選手をどんどん採っていってしまう大
絶対の切り札だというような考え方
が私にあるわけではありません。でもワールド・
ベースボール・クラシックから、リトルリーグに
至るまで、何となく場所はアメリカなんですね。
リーグという割り切れない気持ちがあるんでしょ
野球の発祥の地であるということもあるんでしょ
うね。第一、お金という面がありますから。そこ
うけれども、大リーグが中心になってデンとおさ
でちょっと大リーグは尊大になっているのではな
まっているという姿があると思います。
「ワールド
いかというような評価を聞くことになる。
シリーズ」といいますけれども、あれはアメリカ
の中でやっているだけで、本当のワールドシリー
先ほど申しあげた3億の人口のアメリカに30チ
ーム、1億2,000万の日本に12チーム、これが将
ズではないではないかという方もおられます。
来どうなるかは別にしまして、やっぱり両国民と
も野球が好きなんですから、日本とアメリカが食
ですが、短期的にはできなくても、これから野
球圏としてのアジアというのは視野に入ってくる
んだろうと思います。例えばニューヨークヤンキ
い合いをするのではなくて、日本とアメリカの野
球、両方が栄えるということがあり得ないかと、
いまぼんやりと考えますね。私には日本の野球を
ースが中国のマーケットというか、選手とか、そ
ういうものの開発に非常に熱心だという話も聞い
ております。そのほかにも個々に日本でも有名な
敗者にしたくない、という思いがあります。
日本の野球のよさ、
つまりアメリカにないのは、
たとえば守備練習をきちんとやって、乱れがない
ことですよね。スモールボールということですけ
選手で、中国に相当熱いまなざしを送っている人
れどもこの安心感、信頼性は日本の野球の利点だ
次元で考えて、そしてそのアジアの中のチャンピ
と思うんですよね。高校野球もあります。都市対
抗、大学野球もあります。
日本野球の裾野は広い。
オンがアメリカと争うという図になってくるので
あれば、これは新境地が開けてくることになると
がいることも承知しています。それから、台湾に
も、韓国にも野球はあるわけです。アジアという
思うのです。
大リーグからこっちへ持ってきてほしくないな
と思う問題は、ステロイドとか何かいろいろある
しかし、まだそこのところは、もうちょっと先
の話だと思います。まず、とりあえずは日本の野
球、高校野球とか何かを含めて、その隆盛という
んでしょうけれども、全体像はまだちょっとつか
めていません。
のにはどうしたらいいかという発想で行くべきも
宇治副理事長
野球の関連でちょっと追加して
お聞きします。やっぱりファンの一番の心配とい
うのは、
国内のプロ野球の空洞化だと思うんです。
のかなと思います。ただ、そうしつつも、いずれ
にせよ、アジアに対して日本がリーダーシップを
とる、日本がアジアの野球の盟主であるという立
組織対組織で考えても、アメリカの方の関心は、
場は確保すべきものだと思っています。
ワールド・ベースボール・クラシックなんかに向
いている。それに対して日本のプロ野球組織は、
宇治副理事長 ありがとうございました。
(文責・編集部)
アメリカの一番のチームと、アジアの一番のチー
17
Fly UP