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第四回 辞書史 (一)、「義書 」
第四回 辞書史 【参 考 書 】 ・大 島 正 二 『中 国 言 語 学史 』 ( 汲 古 書 院 、 1997 年 ) ・大 島 正 二 『辞 書 の 発 明』 (三 省 堂 、 2000 年 ) ・牛 島 徳 次 他 『 言 語 』 ( 中 国 文 化 叢 書 。 大 修 館 書 店 、 昭 和 42 年 ) ぎ し ょ (一)、「 義書 」 く ん こ ・「 義 書 」 :「 訓詁 」の 書 → 漢 字 の 意 義 を 説 明 す る 書 物 。 紀 元 前 後 に は 発 生 。 ・漢 字 の 意 義: ほ ん ぎ ① 本義 : 漢字 の 形態 あ る い は構 造 が 示 す意 義 せつ もん かい じ ⇒『 説 文 解 字 』 後 で! て ん ぎ ② 転義 : 引伸 義 は せ い ・派生 義:あ る 漢字 の 意 義 が類 似 の 意 義に 転 じ た もの じ が ⇒『 爾 雅 』後で ! 例 、本来「 命令 」を 意 味す る「 令 」の 字が 、「 命 令を 出 す人 」で あ る 「県 令 」 を 意味 す る 様 にな っ た か し ゃ ・ 仮借 義:意 義 上は 関 係 の ない 漢 字 が 、そ の 音 が 近い た め に 、他 の 字 の代 わり に 借 用 され る よ う にな っ た も の か わ ころも 例 、「 求 」は本 来「 皮 衣 」を意 味 す る が 、後 に「 求 める 」の 意 を表 す 字 と して 用 い ら れる よ う に な った ①『 爾 雅 』 成立 時 期:戦国 時 代 中 頃か ら の 資 料が 徐 々 に 蓄え ら れ て 、漢 漢の平帝 の平 帝 ( B.C1~ A.D.5 在 位 ) の 頃 ま でに 完 成 し た。 編纂 者 しょうがくか :具体 的 編 纂 者は 不 明 。「 小学 家 (文 字 研 究 者 ) 」達 が様 々な 文 章 を 集め 増補 し な が ら徐 々 に 編 纂。 内容 しゃくこ : 釈詁 、釈 言、釈 訓、 釈 親、釈 宮、釈 器、釈 楽、釈 天、釈 地、釈 丘 、 釈山 、 釈 水 、釈 草 、 釈 木、 釈 虫 、 釈魚 、 釈 鳥 、釈 獸 、 釈 畜 しゃくこ 釈詁 :古 人が 用 いた 同 義 語 を列 挙 し、それ ら を『 爾雅 』当時 の言 葉 に よ っ て解 釈 し た もの 。 例:「 初 、哉 、首 、基 、肇 、祖 、元 、胎 、俶 、落 、権輿 ,始 也 ( 初 、哉 、首 、基 、肇 、祖 、元 、胎 、俶 、落 、権 輿 な ど は「 始 」と いう意味である)」 しゃく げ ん 釈 言 :常用 語 の 解釈 。「 還 、復讐 ,返 也 。逆 、迎 也 ( 還 、 復 讐 は 「 返 」 と い う意味である。逆は「迎」という意味である)」 1 釈訓:事 物 の様 相 を 表 現す る 語 を 解釈 す る 。語の 多 く は 畳 語 であ る 。「 粛 粛・翼翼 、恭也 。舞 号 、雩 也 。如 切如 磋 、道 学也 ( 粛 粛 ・ 翼 翼 は 「 恭 」 と い う 有 様 だ 。舞 号 は「 雩 」と い う 有 様 だ 。如 切 如 磋 は「 道 学 」の 様 で あ る )」 釈親 ~ 釈 畜:そ れ ぞれ のグ ル ー プ に分 類 さ れ る事 柄 に 関 する 語 を 集 め解 釈 した も の 。 ほうげん ② 『 方言 』 成立 時 : 漢 代 よう ゆう 編纂 者 : 揚 雄 概 要:中 国の 各 地 で 用い ら れ て いた 話 し 言 葉を 、面接 調査 に よ っ て記 録 し た もの 内 容:巻 1,2,3,6,7,10,12,13 は 単語 や 連 語 ( 動 詞 、形 容 詞 、名 詞 ) 、巻 4 は 衣 服、 巻 5 は 器物 ・ 家 具 ・農 具 、 巻 8 は 鳥 ・獣 ・家 禽 、 巻 9 は 車 ・船 ・ 兵器 、 巻 11 は 昆 虫 に 関す る 語 彙 を掲 載 。 そ れぞ れ に 「 別国 方 言」と 「絶 代 語 」 の説 明 が な され て い る 。 べつ こく ほうげん 「 別 国 方言 」 : 一 つ の 単 語 が 用 い ら れ て い る 地 域 範 囲 、 語 彙 の 共 通 域 を 考 えた も の 。 つ う ご はん ・全 国 的 な 共通 語 ( = 「 通 語 」 「 凡 語 」 「 四 方 之 通 語 」 ) ・地 域 共 通 語 ( = 「 某 地 某 地 之 間 通 語 」 ) ・地 域 方 言 ( = 「 某 地 語 」 ) 「 党・暁・哲・ 知也 。楚 謂 之党 、或 曰 暁 、斉 宋 之 間 謂 之 哲 」→「 党・暁・哲、知」:全 国 共 通 語 。「 党 」「 暁 」: 楚方 言 。 「 哲」 : 斉 ・ 宋方 言 ぜ つ だ い ご 「 絶代 語 」: 漢 代に 残 存 し てい た 古 代 の方 言 。 「 敦、豊、厖 …京、将、大 也。凡 物 之大 貌曰 豊。厖、深 之大 也。… 皆古 今 語 也 。初別 国 不 相往 来 之 言 也 、今 或 同」→「 敦 、豊 、厖 … 京、将」:今で は 全 て「大 き い」 を意 味 す る 点で は 共 通 して い る が 、古 代 に於 いて は 意 味上 の 違 い が存 在 し て いた 。古代 では 、各地 方間 で 通 用す る も の では な か っ たが 、今日 では 通 用 す るよ う に なっ た 。 かくはく ・晋 ・ 郭璞 『 方 言注 』 : 「娥 、 嬴 、 好也 。 … 自 関而 東 河 済 之間 謂 之 喉 」の 注 今 関 西 人亦 呼 爲 喉 、莫 交 反 2 かくはく →楊 雄 の 前 漢時 代 で は 関東 方 言 で あっ た「 喉 」は、郭璞 の晋 代で は 関 西 にま で 広 が って い た 又 、 「趙 魏 燕 代 之間 曰 姝 」 の注 昌 朱 反、 又 音 株 、亦 四 方 通 語 → 前 漢 で は 地 域 方 言 で あ っ た 「 姝 」 が 晋 代 で は 全 国 共 通 語 (「 通 語 」 ) と なっ て い る しゃくみょう ③『 釈 名 』 せい くん 『釈 名 』:「 声 訓 ( 音 訓 ) 」と いう 訓 詁の 方 法 で 、事 物 が 何 故 そ の 名 称 を 得 た のか と い う 、語 源 を 探 求し た 書 物 例: 「 政 、 正也 」 ( 『 論 語 』 ) 、 「仁 、 人 也 」 ( 『 礼 記 』 ) りゅうき 作者 : 劉熙 、 後 漢末 か ら 三 国魏 に か け ての 人 物 内容 : 『 釈 名』 の 分 類 項目 は 『 爾 雅』 と ほ ぼ 同じ 例 : 「 日、 実 也 。 光明 盛 実 也 」 ( 「 釈 天 」 ) Sun を「 日 」と 名 づ け るの は 、 そ れが 「 実 」 であ る か ら であ る 。 「 実」 であ る 理 由 は「 光 耀 い て盛 ん 充 実 して い る か ら実 な の だ 」 :「 月 、 缼 也。 満 則 缼 也」 ( 釋 天 ) Moon を「 月」 と 名 付 けら れ た 理 由は 、 「 缼 (欠 け る ) 」 から だ 。 : 「 房、 旁 也 。 在堂 両 旁 也 」 ( 「 釈 宮 室 」 ) 房(堂の後方、左右に位置する部屋)とは旁(わき)である。堂の両側にあ るか ら で あ る。 う ぶん ・ 右 文 説」 :11~12 世 紀 頃 の説 明 方 法 を生 み 出 し 、語 源 研 究 へと 発 展 「浅 、 水 が 少な い 」 「 銭、 金 が 小 さい 」 「 残 、骨 が 小 さ い」 「賎 、 小 さ い貝 」 浅 : 水 が少 な い 銭 : 金 が小 さ い 残:小 さい 歹(砕 けた 骨 ) 基 本 と な る意 味 は 右 側の「 臥= 小さ い 」に 賎:小 さい 貝 含 ま れ て いる と 、多 くの 字 か ら 帰納 的 に 字 義を 考 え る 方法 。 → カ ール グ レ ン 氏の 「 Word Families(漢語 家 族 )」 藤堂 明 保 の 「漢 語 の 単 語群 」 (二)字書 せつもんかい じ ①『 説文 解 字 』 きょしん か き 編纂 者 : 許慎 ( 58?~149?)。 賈逵 (30-101) に 学 問 を学 ん だ 。 3 概要:『 説 文解 字 』は 漢字 を「 部 首法 」に よ って 分 類 排 列し 、そ の 本義 を解説 りくしょ し、 漢 字 の 形態 を 「 六書 」 によ っ て 分 析し た 最 初 の書 物 で あ る。 内容 : ①「 文 」 と 「字 」 の 区 別。 「文 」 : 「 象形 文 字 ( 日 ・ 月 ・ 山 ) 」、 「 指 事 文字 ( 上 ・ 下 ) 」 「字 」:「 文」を組 み 合わ さ れ た もの 。「 江・河」等 の「 形 声 文 字 ( 「 文 」 で あ る「 義 符(「 氵 」)」と「 声 符(「 工 」「 可 」)」か ら な る )、「 武 ・ 信」 の 様 に 幾つ か の 「 文」 を 合 体 させ た 「 会 意文 字 」 ②部 首 法 で 整理 ・ 排 列 。「 象 形 文 字・ 指 事 文 字」 は 「 形 声文 字 」 「 会意 文 字」 の 義 符 と な る → 義 符 に 基 づ い た グ ル ー プ の 作 成に よ り 、一 つ の 文 字 群 が 作 ら れる →「 部 」。「各 部 」に義 符 と な った 独 立 字 を立 て て「 部首 」と す る→「 江 ・ 河 」 な ど の 「 水 」 を 義 符 と す る 文 字群 は 「 水 部 」 に 属 す る 文 字 と し て 分 類 ・ 排列 。 文 字 数 9353、 部 首 数 540。 ③文 字 分 類「六 書 」。「象 形 文 字 」「 指 事文 字」「 形声 文字 」「会 意文 字 」「 転 注 ( 同 字 異 義 。 「 楽 」 に 「 music の ガ ク 」 と 「 楽 し む の ラ ク が 有 る 様 な も の ) 」 「 仮 借(「 令・長 」の 様 に 、本 来 そ の こ と ば を 表 す 文 字 で は な い が 、発 音 が 同 じ で あ る の で 、 当 て 字 と し て 用 い た も の ) 」 だ ん ぎょくさい ※清 朝 の 考 証学 者 ・ 段 玉 裁 『 説文 解 字 注 』 ぎょくへん ③『 玉 篇 』 こ や お う 編纂 者 : 梁 から 陳 に か けて の 顧野 王 ( 519-581) おや れいしょ 内容: 親 字を 隷書 で掲 げ 、反 切 (後 述 ) で 字音 を 示 し 、古典 の 用 例で そ の 字 義を 解釈 す る ※唐 末 頃 に 改定 さ れ、原形 を 留 め てい な い。原本 の 古 写 本が 奈 良 時 代の 日 本 に 伝わ っ て い たこ と が 確 認さ れ て い る。日 本で は、『 倭玉 篇』( 室 町 ~ 江 戸 ) 等 の 『玉 篇 』 を モデ ル と し た辞 書 が 編 纂 るいへん ④『 類篇 』 編 纂 者: 王 洙 、 胡宿 、 掌 禹 錫、 張 次 立 、司 馬 光 な ど。 宋 の 治 平四 年 ( 1067 年 ) に完 成 。 内容 :『集 韻』 (宋 代 ) の『 集 韻 』 の配 列 を 部 首順 に 改 め て作 ら れ た 字書 。 4