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財務諸表の解釈

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財務諸表の解釈
第
1
章
財務諸表の解釈
●……財務諸表は上品な香水のようなもの。香りをかぐだけにして、飲み込まないこと。
アブラハム・ブリロフ
アカウンティング(会計)はビジネスにおけるスコアボードである。それは
企業のさまざまな活動を客観的な数値に変換し、企業の業績、問題点、将来見
通しについての情報を提供する。ファイナンスには、企業の業績評価を行ない、
将来の行動計画を立てるために、会計数値を解釈するということが必要である。
財務分析の能力は、投資家、債権者、規制当局などの広範囲の人々にとって
重要である。しかし、企業内部の人々以上にこれが重要な人はいない。職務上
の専門分野や企業の規模にかかわらず、このような能力を持つマネジャーは、
自社の病気を診断し、有効な治療法を処方し、財務的な結果を見通すことがで
きる。スコアをつけられない野球選手と同様に、アカウンティングとファイナ
ンスを十分に理解していないマネジャーは、不要なハンディキャップを負いな
がら仕事をしなければならない。
本章と次章では、財務的な観点から見た企業の健全性を評価するために、会
計情報をどう利用するかについて見ていく。第1章では、まず財務諸表を規定
している会計原則の概要と、ファイナンスの分野で最も誤用され、誤解されて
いる概念の1つであるキャッシュフローについて吟味する。第2章では財務業
績の測定と比率分析について検討する。
キャッシュフロー・サイクル
ファイナンスは初心者には不可解で複雑に感じられる。しかしながら、比較的
3
少ない基本原理が理解を助けてくれるはずである。その1つは、企業のファイナ
ンスと事業活動が密接に関連しているということである。企業活動、事業運営の
方法、競争戦略すべてによって、企業の財務構造は決定される。逆もまた真であ
る。実際、本来は財務的な性質の意思決定であるように思われるものでも、事業
活動全般に大きな影響を与える。たとえば、資産を購入するための企業の資金調
達方法は、その企業が将来行なうことのできる投資に影響を及ぼす。
図表1-1に記載されているキャッシュフローの生成サイクルは、事業活動と
ファイナンスとの密接な相互作用を例示している。話をわかりやすくするため
に、これが新しい企業で、株主や債権者から資金を調達し、生産設備を購入し、
今まさに操業を開始しようとしているものと想定しよう。そのために、この企
業は現金(キャッシュ)を使って原材料を購入し、労働者を雇用する。企業は
これらのインプットから製品を生産し、一時的に在庫(棚卸資産)として保管
する。現金は在庫となるが、製品として売却すると、在庫は再び現金へと戻る。
もし現金販売されたならば、この変化は即座に生じる。そうでなければ、売掛
図表1-1 営業サイクルと
キャッシュフローの関係
増
資
・
減
資
負調
債達
に・
よ返
る済
資
金
税
金
の
支
払
い
利
子
の
支
払
い
配
当
金
の
支
払
い
現金(キャッシュ)
売掛金の回収
売掛金
信用販売
生産
投資
4
在庫(棚卸資産)
減価償却
固定資産
現
金
販
売
金が回収されるまで現金にならない。現金から在庫、売掛金、そしてまた現金
に戻るこの簡単な流れを営業サイクル(訳注)あるいは運転資本のサイクルという。
(訳注)日本の企業会計では通常「営業循環」と呼ぶが、ここでは会計に詳しくない人にもわかりやすく、他の箇
所とも整合性がとれるようにするためにcycleを「サイクル」と訳出した。
図表1-1で示されているもう1つの活動は、投資である。長期にわたる生産
の過程のなかで、企業は固定資産を消費する。すなわち使い切る。それはあた
かも、製品の1つ1つが生産工程を通過するたびに、固定資産の価値の一部を
奪っていくかのようである。会計上、この過程を減価償却と呼び、固定資産価
額を連続的に減少させ、在庫へ流れていく製品の価額を増加させる。また、生
産能力を維持するために、企業は新たに受け取った現金の一部を新しい固定資
産に投資しなければならない。この企業活動全体の目的は、運転資本のサイク
ルと投資サイクルから戻ってくる現金を、初めの状態より確実に増加させるこ
とにある。
図表1-1に買掛金を加え、さらには負債と資本を利用して現金を生み出すと
いう、より複雑なサイクルを考えることもできるが、この図はすでに2つの基
本原則を示している。第1の原則は、財務諸表は経営の実態を見るための重要
な手段であるという点である。企業の経営方針、生産技術、さらには在庫管理
システムや信用管理システムが、その企業の財務プロフィールを決定する。た
とえば、もし企業が売掛金の迅速な回収を要求し始めたら、財務諸表には売掛
金の減少として表われ、さらには売上高と利益も変化するだろう。この事業活
動とファイナンスとの関連性を理解するために、われわれは財務諸表を学ぶの
である。われわれはまず事業活動を理解し、さらにその活動の変化がもたらす
財務上の結果を予測しようとしているのである。
図表1-1の示している第2の原則は、利益はキャッシュフローと同一ではな
いということである。現金――および現金から在庫、売掛金、そしてまた現金
へのタイムリーな転換――は、企業の活力の源泉である。キャッシュフローが
断たれたり、著しく滞ったりすると、企業は支払不能になる。しかし、企業が
利益を出しているからといって、必ずしも支払いを行なうのに十分なキャッシ
ュフローがあるとは限らない。それを例示するために2つの企業を想定してみ
よう。1社は顧客に長期間の滞納を許して、売掛金をコントロールできていな
い企業であり、もう1社は、常に販売量よりも生産量の多い企業である。こう
した企業はいずれも、会計上は商品販売から利益をあげていても、商品の売上
第1章 財務諸表の解釈
5
げが生産や投資に必要な現金をすぐに生み出していないことがある。期限の到
来する債務を返済するのに十分な現金を企業が保有していない場合には、支払
不能になる。また他の例として、在庫と売掛金は慎重に管理していても、売上
げが急速に伸びたために、在庫と売掛金への非常に大きな投資を強いられた企
業を想定してみよう。この場合も、企業が利益を出しているにもかかわらず現
金は不足し、債務を賄えないことがある。この企業は文字通り「成長による破
綻」を引き起こすことになる。このような簡単な事例が示しているのは、企業
のマネジャーは少なくとも利益と同様にキャッシュフローにも注意を払うべき
であるということである。
後の章で繰り返しこのテーマに立ち戻り、簡潔にキャッシュフロー分析につい
て考えていくことにする。しかし何はともあれ、まず最初に財務諸表の基礎を学
習する必要がある。本書で初めて財務会計に触れるという読者は、速いペースで
進むので少し気を引き締めていただきたい。もしペースがあまりに速いと感じる
ようなら、本章の最後に挙げた会計の参考文献の1つに目を通していただきたい。
貸借対照表
企業の財務の健全性を評価するうえで最も重要な情報源は、財務諸表、つま
り貸借対照表(バランスシート)、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書(訳注)
の3つである。それぞれを順番に見ていくことにしよう。
(訳注)Cash Flowは、ファイナンスにおいては「キャッシュフロー」と表記することが一般的である。これに対
して、会計においては、証券取引法をはじめとして「キャッシュ・フロー」と表記することが定着してい
る。そこで、無駄な混乱を避けるため、本書ではファイナンスの通例に従って「キャッシュフロー」で統
一し、財務諸表の1つとしてのキャッシュ・フロー計算書(cash flow statement)について言及する
場合にのみ、
「キャッシュ・フロー」と表記することとした。
貸借対照表は企業財務に関するスナップ写真である。すなわち、ある時点に
おいて企業が所有するすべての資産と、それらの資産に対するすべての請求権
を表わしている。基本的な関係は次のように表わされる。
資産=負債+株主資本
あたかも、ある期日に大勢の監査人がいっせいに監査を行なって、企業の所
有物を洗いざらい調べ上げてリストアップし、それぞれの価値を評価したよう
6
なものである。企業の資産を表にし、次に負債をすべてリストアップする。こ
こで言う負債とは支払うべき債務、言い換えると、さまざまな形態の「借用勘
定」のことである。このように、企業が所有しているものの総額と借用してい
るものの総額との差額を、監査人は株主資本と呼んでいる。株主資本とは、株
主がその企業に対して行なった投資の価値を会計上見積もったものである。こ
れは、家主の純資産が、その家の価値からローンの残高を差し引いたものであ
るのと同様である。株主資本は、自己資本、株主持分、純資産または単に資本
とも呼ばれている。
本書に出てくる技法や概念を具体的に示すために、以下たびたびニューハン
プシャー州ハンプトンに本社を置くティンバーランド社を例として取り上げる
ことにする。同社は、高品質の靴およびアパレルのデザイン・製造・販売を行
なっている企業である。読者もおそらく他の多くの人と同様に、防水加工のテ
ィンバーランドのブーツで、飾らない個性、環境への関心、ファッションセン
スなどを一度は表現したいと思ったことがあるだろう。図表1-2と図表1-3は、
ティンバーランド社の1997年と1998年の貸借対照表と損益計算書である。図表
1-2で示された資産と負債項目の正確な意味が理解できなくても、ひとまず辛
抱してほしい。それらについてはこの後で詳しく述べることにする。
1998年のティンバーランド社の貸借対照表等式は次のようになる。
資産 = 負債 + 株主資本
469.4百万ドル = 203.2百万ドル + 266.2百万ドル
流動資産と流動負債
会計上、通常1年以内に現金化される資産や負債を流動資産、流動負債と定
義し、他はすべて固定資産、固定負債としている。在庫(貸借対照表上では棚
卸資産)は1年以内に販売されて現金になると考えられるので、流動資産であ
る。買掛金は1年以内に支払われなければならないので、流動負債である。テ
ィンバーランド社は製造業であるが、資産の半分以上が流動資産であることに
注目しておこう。これについては、第2章で詳しく述べることにする。
第1章 財務諸表の解釈
7
株主資本
貸借対照表の株主資本の部には多くの勘定科目があり、これがしばしば混乱
を招いている。たとえばティンバーランド社の場合、普通株式から自己株式ま
図表1-2 ティンバーランド社の
貸借対照表
(単位:百万ドル)
12月31日
1997年
1998年
増減
〈資産の部〉
現預金及び有価証券
売掛金
棚卸資産
前払費用及びその他の流動資産
流動資産合計
有形固定資産
減価償却累計額
純有形固定資産
無形固定資産
その他の資産
資産合計
98.8
75.8
142.6
24.9
342.1
116.5
−63.6
52.9
20.9
4.2
420.1
151.9
79.0
131.2
25.4
387.5
131.2
−74.3
56.9
19.2
5.8
469.4
53.1
3.2
−11.4
0.5
〈負債及び株主資本の部〉
買掛金
未払賃金
未払法人税
その他の未払費用
流動負債合計
長期負債
繰延法人税
負債合計
資本金(普通株式)
資本準備金
留保利益(訳注)
自己株式
株主資本合計
負債及び株主資本合計
20.4
28.2
17.7
32.8
99.1
100.0
6.0
205.1
0.1
68.6
146.3
−0.1
214.9
420.1
25.9
22.1
18.2
29.5
95.7
100.0
7.5
203.2
0.1
74.7
207.7
−16.3
266.2
469.4
5.5
−6.1
0.5
−3.3
14.7
−10.7
4.0
−1.7
1.6
−
1.5
51.3
(訳注)留保利益(retained earning)は、会計で言う「剰余金(surplus)」とほぼ同義と考えてよい。企
業が生み出した利益が「留保されている」という面を強調した言い方である。ファイナンスでは「(事業
活動を通して)社内で生み出される資金」と「社外から調達する資金」という対比で見るため、「剰
余金」よりも「留保利益」と言うことが多い。なお、同じ意味合いで、日本では「内部留保」という
呼び方もある。
8
での4項目がある(図表1-2参照)。どうしても必要なとき以外は、これらの区
別を気にかけることはない。これらは会計士や弁護士に仕事を与えているが、
多くの場合実質的な違いはほとんどない。負債以外のすべてを加えていき、そ
れを株主資本と呼べばよいのである。
●軽率な者に対する一言
企業が資金繰りに困った場合には、いつでも株主資本に手をつければいいと
いう提案ほど、財務に関するまともな議論(もしそんなものがあればの話だが)
を台無しにするものはない。株主資本は貸借対照表の負債側にあるのであって、
資産側にあるのではない。株主資本は現在の資産に対する株主の請求権を表わ
しているだけであり、言い換えれば、お金はすでに使われてしまっているので
ある。
損益計算書
貸借対照表がある時点での企業のスナップ写真であるのに対し、損益計算書
はある期間における企業の資源の出入りを記録したものである。ティンバーラ
ンド社の1998年の数値を使うと、基本的な関係は次のようになる。
純売上高 − 売上原価 − 営業費用 −営業外費用−
税金
=当期純利益
862.2百万ドル−501.1百万ドル−266.5百万ドル− 7.6百万ドル −27.8百万ドル=59.2百万ドル
利益(earnings)とは、会計期間中の純売上高がその売上高獲得のためにか
かった費用をどれだけ上回っているかを測定したものである。利益にはいろい
ろな表現の仕方があるが、profits、income(訳注:profitsは「利益」、incomeは「利益」
または「所得」と訳すのが通例である)と表現されたり、しばしば前に純(net)という語
をつけて使われたりする。また、純売上高(net sales)は、収益(revenues)、
純収益(net revenues)と呼ばれることも多い。しかし、これらの用語にはた
いした意味の差はない。それでは、同じことを表わすのに、なぜ多くの表現が
あるのだろうか。筆者の意見では、さまざまな金額を計算する際には規則にが
第1章 財務諸表の解釈
9
図表1-3 ティンバーランド社の
損益計算書
(単位:百万ドル)
12月31日
純売上高
売上原価
売上総利益
販売費
一般管理費
減価償却費
営業権償却費
営業費用合計
営業利益
支払利息
その他の営業外費用(収益)
営業外費用合計
税引前当期純利益
法人税
当期純利益
1997年
1998年
796.5
464.2
332.3
174.7
51.7
20.3
1.7
248.4
83.9
14.8
1.4
16.2
67.7
20.3
47.4
862.2
501.1
361.1
195.7
50.9
18.2
1.7
266.5
94.6
9.5
−1.9
7.6
87.0
27.8
59.2
んじがらめに縛られている会計担当者が、名前をつけるときには創造性を発揮
しすぎたためだろうと思われる。
損益計算書は通常、営業損益の部と営業外損益の部に分かれている。名前の
とおり、営業損益の部は企業が現在行なっている主要な活動の結果を示してお
り、営業外損益の部は副次的な活動を集約している。1998年におけるティンバ
ーランド社の営業利益は9460万ドルで、営業外費用(主に支払利息)の純額は
760万ドルである。
利益の測定
ここでは会計について細かく検討するつもりはない。しかし、利益の有無は
財務の健全性を測る重要な指標であるため、利益を測定するためのさまざまな
技法はここで述べるに値しよう。
●発生主義会計
会計上の利益を測定するには2つのステップがある。すなわち、①期間中の
10
収益を認識し、②その収益に対応する費用を算定する。最初のステップで重要
なことは、収益は受け取る現金の額と同じではないということである。会計の
発生主義の原則(悲惨な原則?)によると(訳注:発生主義accrualと、悲惨なa
cruelとをか
けている)、収益は、
「収益を出そうという行為が実質的に完了し、代金支払いが
十分な確実性を持って期待される」ときに計上される。会計上は、実際の現金
受け取りのタイミングを技術的な問題としてしか見ていない。発生主義の原則
によると、信用販売をした場合、収益は顧客が支払いを行なった時点ではなく、
販売の時点で計上される。これによって収益の発生と現金の受け取りとの間に
は大きな時間的なズレが発生することになる。たとえばティンバーランド社を
見ると、1998年の収益は8億6220万ドルだが、売掛金は1998年度中に320万ド
ル増加している。その結果、1998年の売上げから得られた現金は、8億5900万
ドル(=8億6220万ドル−320万ドル)である。残りの320万ドルはまだ回収待
ちの状態である。
●減価償却
固定資産とそれにかかわる減価償却は、会計上、特に厄介な費用収益対応の
問題である。2000年に、ある企業が5000万ドルをかけて予想耐用年数が10年の
新しい設備を建造したとしよう。会計担当者がその設備の取得原価をすべて
2000年に費用計上したならば、不自然な結果となる。つまり、2000年の利益は
5000万ドルの費用の分だけ減少するが、その後9年間の利益は、収益獲得のた
めに新しい設備を使っても費用が発生しないので、非常に高く見えるようにな
るのである。このように固定資産の取得原価を単一の年度に全額費用計上する
と、明らかに報告される利益を歪めてしまうのである。
望ましいアプローチは、減価償却によって、設備の予想耐用年数全体に取得
原価を配分することである。その設備に係る現金支出は2000年にだけ発生し、
損益計算書に費用計上される毎年の減価償却費は、現金支出を伴わない。減価
償却費は、2000年の支出をその設備投資の結果もたらされる売上げと対応させ
るために使われる、現金支出を伴わない費用である。言い換えれば、減価償却
とは、収益と費用を対応させるために、過去の支出を将来の一定期間に配分す
ることである。ティンバーランド社の損益計算書によると、1998年の営業費用
のなかに減価償却費(depreciation)(訳注)として現金支出を伴わない費用が1820
万ドル計上されている。なお後出の図表1-5には、ティンバーランド社がこの
第1章 財務諸表の解釈
11
年に不動産・工場・設備の購入などに2070万ドルを支出したことが示されている。
(訳注)原書では、"depreciation and amortization"となっているが、ここでは「減価償却費」とした。
"amortization"は「償却費」と訳される。減価償却費との違いは会計上の問題であり、ファイナンスにお
いては減価償却費同様に「現金支出を伴わない費用」であることを押さえておけば十分であるため、訳出
では省略した。関心のある読者は、会計の書籍を参照されたい。
特定の資産に対する減価償却費を算定するにあたっては、3つのことを決め
る必要がある。すなわち、耐用年数、残存価額、減価償却方法である。これら
は経済的情報、技術的情報、経験など、その資産のパフォーマンスについての
客観的データに基づいていなければならない。大まかに言えば、資産の取得原
価をその耐用年数にわたって配分するには2つの方法がある。定額法では、資
産を毎年一定額、減価償却する。資産の取得原価が5000万ドルで、予想耐用年
数が10年、見積もり残存価額が1000万ドルとすると、定額法による減価償却費
は毎年、(5000万ドル−1000万ドル)÷10年=400万ドルになる。
費用配分の2番目の方法は加速償却法として知られる方法であり、これには
いくつかのバリエーションがある。資産の耐用年数の前半により多くの減価償
却費を計上し、その分後半の減価償却費を減らす。しかし、加速償却法を採用
したからといって、減価償却費の総額を増やすことができるわけではない。減
価償却費計上のタイミングが変わるだけである。ここではいろいろな加速償却
法の詳細を取り上げることはしないが、予想耐用年数、残存価額、減価償却方
法は、根本的に会計上の利益に影響を与える。一般に、保守的で、資産を速く
減価償却する企業ほど、現在の利益を控えめに計上することになる。その逆も
また然りである。
●税金
減価償却が持つ注目すべき特徴の2つ目は、税金との関係である。零細企業
を除く大部分のアメリカ企業は、少なくとも2種類の財務記録を作成している。
1つは企業を経営し、株主に報告をするためのもので、もう1つは課税額を決
定するためのものである。前者の目的は、企業の財務業績を正確に描写するこ
とである。後者の目的は非常に単純で、課税額を少なくすることである。つま
り、業績評価の客観性を捨てて、税金を少なくしようというわけである。この
ように目的が異なるため、以上の2種類の帳簿はかなり異なる会計原則に基づ
いて作成されている。減価償却費の計算はそのよい例である。株主に対する会
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