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プラスチック射出成形金型の製作

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プラスチック射出成形金型の製作
浜松職業能力開発短期大学校紀要第 16 号
プラスチック射出成形金型の製作
The production of the plastic injection molding die
制御技術科
瀧井 勝廣
横地 克哉(*1)、吉澤 洋人(*1)
(*1)平成19年度制御技術科卒業生
[要約]
18年度総合制作において、3次元CADの利用技術を学ぶためにCAD上でプラスチック射
出成形金型モデルを設計しアセンブリされた金型構造図を基に、樹脂を使って射出成形金型モデ
ルの製作をした。この作成された金型モデルの構造を参考にして、19年度総合制作においては
2 種類のペーパーナイフのプラスチック射出成形金型を製作し、実射した。
1.はじめに
3.金型構造設計
プラスチックの射出成形加工は、日用品のみならず
自動車及び家電部品など幅広い分野でのプラスチック
成形品を効率よく生産する成形法として発展している。
この成形法の重要な生産要素である射出成形金型の設
計においては、近年2次元CADから3次元CADへ
の転換が急速に進みつつある。なぜなら、金型設計製
作は、CAD/CAM/CAE(流動解析)を活用で
きる絶好の対象だからである。今回はCAD/CAM
を活用し、射出成形金型を製作したので、その成果を
報告する。
射出成形金型の構造には、2プレート構造と3プレ
ート構造がある。今回は構造の簡単な2プレート構造
を選択した。成形機の仕様を把握し、成形品の配置を
考え、金型構造を設計した。
2.成形品について
初回でもあるので、複雑な金型構造を避けるため、
アンダーカットの無い成形品を考え、図1に示すよう
な2種類のペーパーナイフとし、金型本体は共有し、2
種類の型を入れ子とし、入れ子を換えるることにより2種類
の成形ができるように設計した。
3-1 成形機仕様
型締め力
294 KN
型締めストローク
230 mm
最小金型厚さ
150 mm
タイバー間隔
290×290 mm
最大射出圧力
210 MPa
3-2 スケルトン作成
先ず、成形機仕様に合わせ、図3に示すような金型
構造のスケルトンを作成した。その際、キャビ、コア
の開閉機構及びエジェクター機構にパラメータを設定
しモデル上で、キャビ・コアの開閉、及びエジェクタ
ーの突き出しを確認できるようにした。
図1 成形品
2-1 成形品図面
図2 成形品図面
図3 スケルトン
3-3 アセンブリ
トップダウン方式で金型構造を作成した。スケルト
ンに描かれた各パーツのアウトラインを各パーツのプ
ロファイルとして押し出し、モールドベースを立体化
し、更にそれぞれのパーツにネジ穴等の加工を加えて
完成させた。最後にカタログを参考し各部品(パーツ)
を作成し、図4に示すようにアセンブリした。
図7 ゲート・ランナー
5-1 ゲートシステム
ゲート方式には種類があるが、今回はゲート部の加
工が簡単で、最も一般的なサイドゲート方式を用いた。
ゲート断面形状は、矩形で両サイドに5度の傾きを付
け、金型加工性、圧力損失、離型性など最も優れてい
る台形形状に近い形状とした。ゲート点数は、今回使
用した樹脂材料ABSの場合、圧力90MPaで流動比
L/tが300程度なので 1 ヶ所とした。またゲートサ
イズの決定においては、目安になる経験式を利用した
(図8)
。
図4 組立図
h=n・t
4.入れ子作成
W=n・√
A/30
A=V/t
入れ子の交換で2種類の成形品に対応できるように
スプルーブッシュ及びエジェクタピンの穴の位置を入
れ子上で同じになるように設計した(図5・図6)
。
h:ゲート深さ
W:ゲート幅
n:材料定数
t:成形品平均肉厚
A:成形品投影面積
材料定数:n
図5 キャビティ
分類
成形材料
材料定数n
高流動性材料
中流動性材料
低流動性材料
PE/PS/AS
PP/ABS
0.6
POM/PBT/PA
mPPE
0.7
PMMA/PC
PVC/PPS
0.8
図8 ゲート形状・サイズ
図6 コア
5.ゲート・ランナーの設計
5-2 ランナーシステム
熱可塑性樹脂の射出成形におけるランナー部は溶融
樹脂の流動性を向上させる役割を果たしている。溶融
ランナーは、スプルーからゲートまで溶融樹脂を導
樹脂が流れるときに生ずるせん断応力(ずり応力)に
く流路であり、ゲートはキャビティ空間への流入口で
より、樹脂に発熱効果をもたらし型温によるランナー
ある。ゲート・ランナーは成形品の品質や生産性を大
冷却作用に抵抗する働きを持つ。射出速度が大きくな
きく左右する極めて重要な金型設計要素である(図7)
。
るほど、ランナー径が小さくなるほどせん断応力が大
きくなり発熱は大きくなる。
ランナーの断面形状には、円形、台形、半円形、か
まぼこ形などがあるが、型温の影響を最小限に抑える
6-1 CAM
加工条件
ため最小表面積である円形状にした。そのサイズは、
ランナー径簡易算定線図(図9)より求めた。
成形品展開表面積 約40 cm2
成形品平均肉厚
約 3 mm
簡易算定線図より ランナー径を4mmとした。
荒加工
仕上げ加工
ボールエンド径
4 mm
2 mm
切削速度
48 m/min
60 m/min
送り速度
150 mm/min
400 mm/min
ピッチ
0.4 mm
0.2 mm
切込み
0.2 mm
0.1 mm
注釈 マシニング仕様 最高回転 12000 rpm
図11 汎用機での加工
図9 ランナー径簡易測定線図
図12 マシニング加工
6.加工
7.組立て
3次元CADでモデリングした形状から図面を作成
した(図10)
。ネジ穴等、組立てに必要な穴の加工は
汎用加工機で行い(図11)
、位置精度の補償にはリニ
アスケールを用いた。複雑な製品形状はCADにより
3次元CADアセンブリで組立てをチェックし、実際に加
工した金型部品を、穴やネジなどの寸法に誤差やミスが
無いかなどを確認しながら組み立てた(図13・図14)。
NCデータを作成し、マシニングセンターで加工した
(図12)
。キャビティ・コア表面の仕上げは、ダイヤ
モンドペーストにより鏡面を完成した。
図13 キャビティ側
図10 キャビティ図面
図14 コア側
8.射出成形
組み立てた金型を射出成形機に取り付け、ABS樹
脂を使用し実際に射出成形した。射出主要条件は技術
資料を参考にした。
8-1 成形品の不良
(1)ジェッティングと呼ばれるヘビのような模様が
ついた(図15)
。
(2)ヒケが発生した(図16)
。
(3)製品表面に材料の流れた方向に銀白色の筋(シル
バー)が現れた(図16)
。
シルバーについては、樹脂材料の乾燥不足、又はシ
リンダの温度が高すぎることに原因があるので、より
乾燥させ、成形条件を変えることで対応した。
以上のことを考慮しながら、少しずつ条件を変えて
射出を行った。最終的に次に示す条件に落ち着いた。
射出成形シリンダ温度
230 ℃
射出成形金型温度
80 ℃
射出成形圧力
80 MPa
保圧
70 MPa
充填速度
8 mm/sec
充填量
17 cm /回 9.5 cm3/回
3
図15 ジェッティング
図16 射出成形機
図17 成形品
9.終わりに
図16 ヒケ・シルバー
8-2 不良品対策
ジェッティングについては、設計の段階でサイドゲ
ート選択したことに一つの原因がある。アンダーゲー
トにすれば上面の壁に溶融樹脂の流れが当たることに
より防ぐことができるが、ゲートを変更することは困
難なので成形条件を変えることで対応した。射出速度
を遅くし、金型温度を上げた。
ヒケについては、保圧時間が短い、又は冷却時間が
短い等に原因があるので、成形条件を変えることで対
応した。
18年度に、樹脂を使って射出成形金型モデルを製
作し3次元CADを利用した金型設計の流れを経験す
ることができた。今回は、更に実射型を製作すること
で射出成形金型を設計製作するためのノウハウを少し
でも得ようという目的を持って取り組みました。射出
成形の不良対策において少し得るものがあったと思わ
れる。又、型の製作においては、磨きの前加工で思っ
ていた面粗さが得られなかった。加工条件については、
検討が必要である。
[参考文献]
(1)プラスチック射出成形金型設計マニュアル
小松 道男 著 日刊工業新聞社
(2)プラスチック射出成形金型設計
福島 有一 著 日刊工業新聞社
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