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労働基準法

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労働基準法
第1編
労働基準法
Chapter 1 労働基準法の基本原則 15
労働基準法の基本原則
Chapter 1
労働基準法は、戦後の新憲法の制定を受けて昭和22年4月7日に公布された法律である。労働基準
法の目的は、労働者の保護にある。その中でも、これから学習する項目は労働基準法の基本的な考え
方を示す重要な位置づけとなっている。
内 容
条文番号
出 題 年 度
H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24 H25
§1 基本原則
▶1−1 労働条件の原則
1条
○
○ ●
▶1−2 労働条件の決定
2条
○
●
○
○
▶1−3 均等待遇
3条
○
○
○ ○ ○
▶1−4 男女同一賃金の原則
4条
○ ○
○ ○
▶1−5 公民権行使の保障
7条
○
○
● ○
○ ○
§2 前近代的な拘束からの救済
▶2−1 強制労働の禁止
5条
○ ○
▶2−2 中間搾取の排除
6条
○
○
▶2−3 賠償予定の禁止
16条
○
○
○
▶2−4 前借金相殺の禁止
17条
○
○
○
▶2−5 強制貯金の禁止
18条
○
§3 用語の定義
▶3−1 適用事業
別表1
▶3−2 適用除外
112条・116条
▶3−3 労働者
9条
▶3−4 使用者
10条
○
○
○ ○
●
○
○
●
○
[表記の説明] ○ 択一式試験出題 ● 選択式試験出題 ■ 法改正
〈法改正履歴〉
・平成19年
112条
・平成24年
112条
郵政民営化法の施行に伴う改正
労働基準法が全面適用される
「特定独立行政法人等」
の範囲の改正
(その範囲から国有林野事業を除き
「特定独立行政法人」
とする)
16 第1編 労働基準法
§1
基本原則
1st
T
K
2nd
T
K
3rd
T
K
▶1‐1 労働条件の原則
preview
労働基準法は、文字通り労働条件の基準を規定した法律である。労働基準法1条1項は日
本国憲法25条1項(すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する)と
趣旨を同じくするものであり、日本国憲法27条2項(賃金、就業時間、休息その他の勤労条
件に関する基準は、法律でこれを定める)を受けて制定された。
労働基準法には、若干の訓示的規定を除いて罰則が設けられており、労使に対して強行法
規として適用されることになる。
労働条件の原則〔労基法1条〕
① 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければな
らない。
② 労働基準法で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基
準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努め
なければならない。
■
本規定は、原則を宣言しただけのものとされており、本条違反による罰則の適用は
ない。
■
労使の合意があっても労働条件は労働基準法を下回る水準に低下させてはならな
い。
■
労働基準法は、法の実効力を確保するために刑事上の手段(原則として訓示規定を
除くすべての規定に罰則が設けられている)と民事上の手段(本条違反に関して契約
自体を無効とする)をとっている。
■
労働基準法、労働組合法、労働関係調整法をあわせて「労働三法」と呼ぶ。
■
「労働関係の当事者」には、使用者及び労働者のほか、労働組合や使用者団体が含
まれる。
□ 労働条件(昭和63年基発150号)
通達・
判例等
賃金、労働時間等のほか、解雇、災害補償、安全衛生、寄宿舎等を含む労働者の職場におけるす
べての待遇(労働基準法が定める働く条件のすべて)をいう。
□ 社会経済情勢の変動等による労働条件の低下(昭和63年基発150号)
労働条件の低下が社会経済情勢の変動等の決定的な理由がある場合には、労働基準法1条の規定
に抵触するものではない。
□ 人たるに値する生活(昭和22年基発401号)
労働者が人たるに値する生活を営むためには、その標準家族の生活をも含めて考えることとされ
ている。
Chapter 1 労働基準法の基本原則 17
▶1‐2 労働条件の決定
労働条件の決定〔労基法2条〕
① 労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。
② 労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履
行しなければならない。
■
本条は、労働条件の決定(1項)及びこれに伴う当事者の義務(2項)に関する訓
示的規定であり、就業規則等の遵守義務に違反しても労働者、使用者双方に対して罰
則の定めはない。
■
労働協約
労働組合と使用者の間で賃金、労働時間等の労働条件や団体交渉のルール、組合活
動等の事項について交渉を行い、その結果を書面に表し、両当事者が署名又は記名押
印したものをいう。協定当事者の一方が必ず「労働組合」であることから、労働組合
のない事業場では、労働協約は締結できないことになる。
この労働協約は、労働者と使用者が個々に結ぶ労働契約や、最終的に使用者が決め
ることができる就業規則(いわゆる事業場におけるルールブック)とは異なるもので
ある。労働協約には、これらに優先して労働者及び労働組合と使用者の関係を規律す
る効力(規範的効力)が与えられていることから、労働契約や就業規則は労働協約に
反することができない。
(労働協約が個々の労働契約を直接的に規律する効力のこと
を、一般的に規範的効力と呼ぶ。
)
■
労使協定
労働基準法において、
「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある
ときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半
数を代表する者との書面による協定」のことを、「労使協定」と呼ぶ。
労使協定と就業規則の相違点については、労使協定を締結した場合には、強行法規
である労働基準法の原則的な定めによらなくても労働基準法違反にならないという免
罰的効果が与えられるのに対して、就業規則はその定めるところによって労働関係に
権利義務を設定する(例えば、労働者に対して時間外労働を命ずることができるとい
った)民事的な効果を持つという点を挙げることができる。
■
労使協定と労働協約の相違点について
労使協定が労働基準法を根拠とするのに対し、労働協約は労働組合法を根拠とする。
また、労使協定は労働組合がない場合でも上記のように「労働者の過半数を代表する
者」との間でも締結できるが、労働協約は「労働組合」としか締結できない。
労使協定は、労働基準法に違反しないという免罰効果があるのみで労働者に民事上
の義務を発生させるものではないが、労働協約は就業規則や労働契約と同様に、使用
者と労働組合の組合員である労働者の双方に協約の内容に係るところの権利・義務を
発生させる。労使協定は、労働基準法でその種類や定めるべき事項が決められている
が、労働協約は合意さえあれば内容については任意である。
また、労使協定は労働協約と異なり、両当事者が署名又は記名押印することは要件
18 第1編 労働基準法
とされていない。ただし、労使協定が、労働組合が当事者となって書面により協定さ
れたものである場合には、その有効期間及び解除方法については、労働協約と同様に
労働組合法の適用がなされることになる。
□ 労働条件の決定及び義務(昭和63年基発150号)
通達・
判例等
労働基準法2条は、労働条件の決定及びこれに伴う労使両当事者の義務に関する一般的原則を宣
言した規定である。
□ 監督機関(昭和63年基発150号)
労働協約、就業規則又は労働契約の履行に関する争いについては、それが労働基準法各本条の規
定に抵触するものでない限り、監督機関が監督権行使に類する積極的な措置をなすべきものではな
く、当事者間の交渉により、又はあっせん、調停、仲裁等の紛争処理機関、民事裁判所等において
処理されるべきものである。
▶1‐3 均等待遇
均等待遇〔労基法3条〕
使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条
件について、差別的取扱いをしてはならない。
本条は、日本国憲法14条1項(法の下の平等)を受け、労働条件に関して国籍、信
条又は社会的身分を理由とする労働者の差別待遇を禁止したものである。
本試験対策としては、信条、社会的身分、差別的取扱い等に関する具体的内容を確
認する必要がある。
差別的取扱いとは、当該労働者を有利又は不利に取扱うことをいう。
■
本条では、性別を理由とした差別的取扱いは規定されていない。
□ 信条(昭和22年発基17号、昭和44年12月26日大阪地裁判)
通達・
判例等
信条とは、宗教的信条だけでなく、政治的信条をも含み、かつ、政治的基本理念に留まらず、国
の具体的な政治の方向についての実践的な志向を有する政治的意見をも含む。
□ 社会的身分(昭和39年11月9日名古屋地裁判、昭和40年4月15日宇都宮地裁判)
① 社会的身分とは、生来の社会的事情によって生じている他人と区別される永続性を有する地位
(生来の身分)を指す。よって、労働組合の組合員であって従業員組合の組合員ではないという
地位は、「社会的身分」には該当しない。
② 社会的身分には、本工、臨時工のように雇用契約上の内容の差異から設定される労働契約上の
地位は含まれない。
□ 採用の自由(三菱樹脂事件、昭和48年12月12日最高裁判)
労働基準法3条では、使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由とした労働条件の差
別的取扱いを禁止しているが、労働者の雇入れは労働条件に含まれないものとされているため、そ
の者の信条を理由として採用を拒んでも労働基準法3条には違反しない。
□ その他の労働条件(昭和63年基発150号)
「その他の労働条件」には、解雇、災害補償、安全衛生、寄宿舎等に関する条件も含まれる。
Chapter 1 労働基準法の基本原則 19
▶1‐4 男女同一賃金の原則
男女同一賃金の原則〔労基法4条〕
使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをして
はならない。
本条では、賃金についてのみ差別取扱いを禁止している。
労働基準法には、賃金以外の労働条件について性別による差別を禁止する規定はな
い。なお、男女雇用機会均等法において、「募集及び採用(第5条)」「配置、昇進、
降格、教育訓練、福利厚生、退職の勧奨、定年、解雇、労働契約の更新等(第6条)」
について、性別にかかわりなく均等な機会を与えること、性別を理由として差別的取
扱いをしてはならないこと等が規定されている。
■
本条は、従来(労働基準法の施行前)の国民経済の封建的構造のため、男性労働者
と比較して一般に低位であった女性労働者の社会的、経済的地位の向上を賃金に関す
る差別待遇の廃止という面から実現しようとするものである。
□ 就業規則の効力(平成9年基発648号)
通達・
判例等
就業規則に労働者が女性であることを理由として、賃金について男性と差別的取り扱いをする規
定があっても、現実に男女差別待遇の事実がない場合には、その規定は無効ではあるが、労働基準
法4条の違反とはならない。
□ 差別的取扱(平成9年基発648号)
職務、能率、技能、年齢、勤続年数等によって、賃金に個人的差異のあることは、労働基準法4
条に規定する差別的取扱いではない。しかし、労働者が女性であることのみを理由として、あるい
は女性労働者が男性労働者よりも一般的平均的に能率が悪いこと、勤続年数が短いこと、扶養家族
が少ないこと等を理由として、「賃金」に差別をつけることは違法である。また、これらが同一で
ある場合、男性はすべて月給制、女性はすべて日給制とし、労働日数の同じ女性の賃金を男性より
も少なくすることは同法4条違反となる。なお、不利に取扱う場合のみならず、有利に取扱う場合
も差別的取扱に該当するため、女性であることを理由として男性よりも高い賃金を支払うことも同
法4条違反となる。
□ 賃金について(昭和23年基収4281号)
賃金額のみならず、賃金体系、賃金形態についての差別的取扱いも含まれる。
差別理由
均等待遇(法3条)
国籍、信条又は社会的身分
男女同一賃金の原則(法4条) 女性であること
差別禁止事項
賃金、労働時間その他の労働条件
賃金
▶1‐5 公民権行使の保障
公民権行使の保障〔労基法7条〕
使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を
執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。但し、権利の行使又
は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる。
20 第1編 労働基準法
本条は、使用者が拒んだだけで法違反(6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金)
となる。
■
実際の出題は、公民権の行使、公の職務の具体例を挙げて出題するパターンが多い。
■
「公民としての権利」とは、公民に認められる国家又は公共団体の公務に参加する
権利のことをいう。
□ 時刻の変更(昭和23年基発1575号)
通達・
判例等
権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻、又は日を変更することは問
題ない。しかし、公民権の行使を労働時間外に実施すべき旨を就業規則等に定めたことにより、労
働者が就業時間中に選挙権の行使を請求することを拒否することは違法である。
□ 公民としての権利・公の職務(昭和63年基発150号)
該当する
もの
該当しな
いもの
公民としての権利
公の職務
○公職の選挙権、被選挙権
○最高裁判所裁判官の国民審査
○特別法の住民投票
○憲法改正の国民投票
○地方自治法による住民の直接
請求権の行使
○行政事件訴訟法5条に規定す
る民衆訴訟
○選挙人名簿の登録の申し出等
○衆議院議員その他の議員、労
働委員会の委員、陪審員、検
察審査員、労働審判員、裁判
員、法令に基づいて設置され
る審議会の委員等の職務
○民事訴訟法による証人、刑事
訴訟法による証人、労働委員
会の証人等の職務
○公職選挙法による選挙立会人
等の職務
○個人としての訴権の行使(個
人的事由に基づく裁判の提訴
等)
○行政不服審査法における無効
等の確認の訴え
○他の立候補者の選挙運動の手
伝い
○予備自衛官の防衛招集又は訓
練招集
○非常勤の消防団員
下線は過去出題例
□ 賃金の支払い(昭和22年基発399号)
労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使するために就業しなかった場合の
賃金については、有給にするか無給にするかは労働協約や労使協定等当事者の合意により決定する。
□ 公民権の行使の保障(十和田観光事件、昭和38年6月21日最高裁判)
公職の就任を使用者の承認にかからしめ、その承認を得ずして公職に就任した者を懲戒解雇に附
する旨の就業規則の条項は、労働基準法の規定の趣旨に反し、無効のものと解すべきである。従っ
て、所論のごとく公職に就任することが会社業務の遂行を著しく阻害する虞れのある場合において
も、普通解雇に附するは格別、同条項を適用して従業員を懲戒解雇に附することは、許されないも
のといわなければならない。
Chapter 1 労働基準法の基本原則 21
§2
前近代的な拘束からの救済
1st
T
K
2nd
T
K
3rd
T
K
▶2‐1 強制労働の禁止
preview
昔の労働慣行としての「タコ部屋」等を禁止するために、刑法より規制の範囲を広げ、罰
則を重くしたものである。
強制労働の禁止〔労基法5条〕
使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働
者の意思に反して労働を強制してはならない。
通達・
判例等
□ 不当に拘束する手段(昭和22年発基17号、昭和63年基発150号等多数)
不当に拘束する手段には、労働基準法14条(長期の労働契約)、16条(賠償予定の禁止)、17条(前
借金相殺の禁止)、18条(強制貯金の禁止)等も該当するが、就業規則に規定する懲罰中、社会通
念上認められるものは含まれない。
□ 精神又は身体の自由を拘束する手段(昭和22年発基17号、昭和63年基発150号等多数)
精神又は身体の自由を拘束する手段とは、精神(の作用)又は身体(の行動)を何らかの形で妨
げられる状態を生じさせる方法をいう。
□ 不当(昭和22年発基17号、昭和63年基発150号等多数)
不当とは、不法なもののみに限らず、社会通念上是認し難い手段をもってすることを含む。
□ 暴行、脅迫、監禁(昭和22年発基17号、昭和63年基発150号等多数)
暴行、脅迫、監禁はそれぞれ刑法208条、222条、220条に規定するものを指す。
□ 意思に反して労働を強制する(昭和23年基発381号)
意思に反して労働を強制するとは、意識ある意思を抑圧して労働することを強要することであり、
詐欺の手段によるものは必ずしもそれ自体としては含まれない。また、労働を強制した結果、実際
に労働が行われなくとも労働基準法5条違反となる。
■
本条違反に対して、労働基準法では最も重い罰則(1年以上10年以下の懲役又は20
万円以上300万円以下の罰金)が課せられる。
▶2‐2 中間搾取の排除
中間搾取の排除〔労基法6条〕
何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならな
い。
法律に基づいて許される場合としては、①職業安定法32条の3第1項による有料
職業紹介事業、②職業安定法36条1項による委託募集、③船員職業安定法により報
酬を受ける場合がある。
22 第1編 労働基準法
□ 行為の主体(昭和23年基発381号)
通達・
判例等
行為主体は、「他人の就業に介入して利益を得る第三者」であって、個人、団体又は公人たると
私人たるとを問わない。
□ 他人の就業に介入する(昭和23年基発381号)
他人の就業に介入するとは、使用者と労働者の間に、第三者が介入して、その労働関係の開始及
び存続について、媒介又はあっせんをなす等、その労働関係についてなんらかの因果関係を有する
関与をなしていることをいう。
その例として、職業紹介事業、労働者募集事業、労働者供給事業等がある。
□ 業として(昭和23年基発381号)
営利を目的として反復継続して利益を得る意思があれば、たとえ被害労働者1人1回の行為であ
っても「業」とされる(主業、副業は問わない。)。
□ 中間搾取(平成11年基発168号)
労働者派遣は、労働関係の外にある第三者が他人の労働関係に介入するものではなく、労基法6
条における「中間搾取」には該当しない。
▶2‐3 賠償予定の禁止
賠償予定の禁止〔労基法16条〕
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしては
ならない。
本条に違反して使用者が労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償
額を予定する契約をした場合には、使用者は6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰
金に処せられる。
【用語解説】
違約金 ����労働者が労働契約を守らない場合に、使用者に損害が発生しなくても、あらかじめ
約束しておいた金額を取り立てることができるというものである。
損害賠償額の予定�債務不履行の場合に賠償すべき損害額を現実に生じた損害のいかんにかかわらず一
定の金額として定めておくことである。この契約をしておけば、損害賠償額を予定
すれば、実際に損害が発生した場合に、いちいち損害額を証明しなくても予定され
た金額を請求することができることになる。
□ 賠償(昭和22年発基17号)
通達・
判例等
労働基準法16条は、金額を予定することを禁止するのであって、現実に生じた損害について賠償
を請求することを禁止する趣旨ではない。
□ 競業避止義務違反の場合の退職金の没収・減額(三晃社事件、昭和52年8月9日最高裁判)
労働者が就業規則に反して同業他社に就職した場合において、その支給すべき退職金につき、支
給額を一般の自己都合による退職の場合の半額と定めることも、退職金が功労報償的な性格を併せ
有することにかんがみれば、合理性のない措置であるとすることはできない。すなわち、この場合
の退職金の定めは制限違反の就職をしたことにより勤務中の功労に対する評価が減殺されて、退職
金の権利そのものが一般の自己都合による退職の場合の半額の限度においてしか発生しないことと
する趣旨であると解すべきであるから、このような定めは、その退職金が労働基準法上の賃金に当
たるとしても、労働基準法16条、24条等の規定にはなんら違反するものではない。
Chapter 1 労働基準法の基本原則 23
▶2‐4 前借金相殺の禁止
前借金相殺の禁止〔労基法17条〕
使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。
使用者が本条に違反して前借金その他労働することを条件とする前貸しの債権と
賃金とを相殺すると、6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる。
ただし、労働することが条件となっていなければ相殺できるものとされている。
例えば、介護休業期間中に事業主が立て替えた社会保険料などは相殺が可能である。
【用語解説】
前貸の債権��労働契約の締結の際又はその後に、労働することを条件として使用者から借り入れ、
将来の賃金により弁済することを約する金銭をいう。
労働者が使用者から人的信用に基づいて受ける金融弁済期の繰上げ等で明らかに身
分的拘束を伴わないものは、労働することを条件とする債権とはならない(昭和22
年発基17号、昭和33年基発90号)。
□ 相殺禁止(昭和23年基収3633号、昭和23年基発1510号、昭和63年基発150号)
通達・
判例等
労働者が「自己の意思」によって相殺することは禁止されていない。
使用者が労働組合との労働協約の締結あるいは労働者からの申出に基づき、生活必需品の購入等
のための生活資金を貸し付け、その後この貸付金を賃金より分割控除する場合においても、その貸
付の諸条件を総合的に判断して労働することが条件となっていないことが極めて明白な場合には本
条の規定は適用されない。
□ 介護休業期間中の社会保険料の事業主立替分控除(平成3年基発712号)
事業主が介護休業期間中に社会保険料の被保険者負担分を立替え、復職後に賃金から控除する制
度については、著しい高金利が付される等により当該貸付が労働することを条件としていると認め
られる場合を除いて、一般的には労働基準法17条に抵触しないと解されるが、24条(賃金の一部控
除)により労使協定が必要である。また、一定年限労働すれば、当該債務を免除する旨の取扱いも
労働基準法上の問題を生じさせない。
▶2‐5 強制貯金の禁止
強制貯金の禁止〔労基法18条〕
① 使用者は、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはなら
ない。
② 使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理しようとする場合においては、当該事業
場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織
する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政
官庁(所轄労働基準監督署長)に届け出なければならない。
⑴ 社内預金・通帳保管
1 貯蓄金の契約
使用者の指定のあるなしにかかわらず、銀行、郵便局その他等と貯蓄の契約を
24 第1編 労働基準法
させること。
2 貯蓄金を管理する
次の2つの場合が含まれる。
ア 社内預金…使用者自身が直接預金を受け入れて管理する場合(直接管理)。
イ 通帳保管…使用者が受け入れた労働者の預金を労働者個人ごとの名義で銀行
その他の金融機関に預入し、通帳、印鑑を保管する場合。
■
次の要件を満たせば、委託を受けて管理することができる。
労働者の預金の受入(社内預金)
通帳保管
① 貯蓄金管理協定(労使協定)
○
○
② 貯蓄金管理規程(※)
○
○
③ 利子
○
×
④ 報告
○
×
⑤ 返還義務
○
○
届 出
貯蓄金管理に関する労使協定
貯蓄金管理規程
○
×(※)
※ただし、周知義務あり
社内預金・通帳保管に共通する決まり
□ 一定率の貯金(昭和33年基発90号)
通達・
判例等
・貯蓄金管理協定を締結し、所轄労働基準監督署長へ届出
貯蓄の自由及び貯蓄金返還請求の自由が保障される限り、貯蓄の金額につき賃金の10%、5%等
・貯蓄金管理規程を定め、作業場に備え付けるなどして周知
の一定率を定めることは違法ではない。
□ 派遣の場合(昭和61年基発333号)
・労働者から貯蓄金の返還請求があったときには、遅滞なく返還
本条は派遣元の使用者に適用されるので、派遣元の使用者は、一定の要件の下に派遣中の労働者
の預金を受け入れることができる。一方、派遣先の使用者は、派遣中の労働者と労働契約関係にな
いので、派遣中の労働者の預金を受け入れることはできない。
3 書面による協定
社内預金
(労働者の預金の受入れ)
の場合
通帳保管の場合
貯蓄金管理に関する労使協定(貯蓄金管理協定)を締結し、所轄労働基準監督
署長へ届け出ることが必要。
(通帳保管の場合であっても届出が必要である。
)
ア 預金先の金融機関名及び預金の種類
ア 預金者の範囲
イ 預金者1人当たりの預金額の限度
通達・
判例等
イ 通帳の保管方法
□ 労働者の過半数代表者の要件(平成11年基発45号)
ウ 預金の利率及び利子の計算方法
ウ 預金の出入れの取次の方法等
労使協定に係る労働者の過半数代表者は、次のいずれの要件も満たすこととされている。
エ 預金の受入れ及び払いもどしの手続
① 労働基準法41条2号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと。
オ 預金の保全の方法
② 法に基づく労使協定の締結当事者、就業規則の作成・変更の際に使用者から意見を聴取される
(以上、労基則5条の2の事項)
者等を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続きにより選出され
た者であり、使用者の意向によって選出された者でないこと。
・それらの具体的取扱い
ただし、社内預金・通帳保管、賃金からの控除、時間単位年休、年次有給休暇の計画的付与、年
次有給休暇の賃金(標準報酬日額)、就業規則の作成・変更に係る過半数代表者については、①に
該当する労働者がいない場合には②の要件を満たすことで足りるものとされる。
通帳保管
労働者の預金の受入(社内預金)
① 貯蓄金管理協定(労使協定)
○
の2)
④ 報告
ア 預金者の範囲
⑤ 返還義務
○
○
Chapter 1 労働基準法の基本原則 25
○
○
② 貯蓄金管理規程(※)
社内預金(労働者の預金の受入れ)の場合の貯蓄金管理協定の内容(労基則5条
×
○
③ 利子
×
○
○
イ 預金者1人当たりの預金額の限度
ウ 預金の利率及び利子の計算方法
届 出
エ 預金の受入れ及び払いもどしの手続
○
貯蓄金管理に関する労使協定
オ 預金の保全の方法
貯蓄金管理規程
×(※)
※ただし、周知義務あり
4 貯蓄金管理規程(昭和63年基発150号)
貯蓄金の管理がいわゆる社内預金である場合には、貯蓄金管理協定の内容(労
社内預金・通帳保管に共通する決まり
基則5条の2)の事項及びそれらの具体的取扱い、それがいわゆる通帳保管であ
・貯蓄金管理協定を締結し、所轄労働基準監督署長へ届出
る場合には、預金先の金融機関名及び預金の種類、通帳の保管方法、預金の出入
・貯蓄金管理規程を定め、作業場に備え付けるなどして周知
れの取次の方法等について規定することとされている。なお、貯蓄金管理協定(労
・労働者から貯蓄金の返還請求があったときには、遅滞なく返還
使協定)と異なり、貯蓄金管理規程の行政官庁への届出は不要である。なお、社
内預金の場合の管理規程の内容は、労使協定により定められている事項及びそれ
らの具体的取扱いとなる。
【図表1-2-1 貯蓄金管理規程の内容】
社内預金(労働者の預金の受入れ)
の場合
通帳保管の場合
ア 預金者の範囲
ア 預金先の金融機関名及び預金の種類
イ 預金者1人当たりの預金額の限度
イ 通帳の保管方法
ウ 預金の利率及び利子の計算方法
ウ 預金の出入れの取次の方法等
エ 預金の受入れ及び払いもどしの手続
オ 預金の保全の方法
(以上、労基則5条の2の事項)
・それらの具体的取扱い
5 利子の付与
使用者は、貯蓄金の管理が労働者の預金の受入れであるときは、利子をつけな
ければならない。当該利子が厚生労働省令で定める利率(年5厘)による利子を
下るときは、当該利率(年5厘)による利子をつけたものとみなす。なお、上限
利率については、制限がない。
■
条文上「労働者の預金の受入れ」とあるのは、「社内預金」を指す。
⑵ 監督等
1 報告(労基則57条3項)
毎年、3月31日以前1年間における預金の管理の状況を、4月30日までに、所
轄労働基準監督署長に報告しなければならない。(通帳保管の場合は報告不要)
2 返還義務(労基法18条5項)
労働者が貯蓄金の返還を請求した場合には、遅滞なく返還しなければならない。
26 第1編 労働基準法
3 行政官庁の中止命令(労基法18条6項・7項)
使用者が労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合において、労働者が
その返還を請求したにもかかわらず使用者が返還を行わず、当該貯蓄金の管理を
継続させることが労働者の利益を著しく害すると認められるときは、所轄労働基
準監督署長は、使用者に対して、その必要な限度の範囲内でその貯蓄金の管理を
中止すべきことを命ずることができる。この場合において、貯蓄金の管理を中止
すべきことを命じられた使用者は、遅滞なく、その管理に係る貯蓄金を労働者に
返還しなければならない。
■
貯蓄金管理中止命令が発動されるのは、
① 労働者が、貯蓄金の返還請求をしたにもかかわらず、使用者が返還を行わない。
② 当該貯蓄金の管理を継続させることが労働者の利益を著しく害すると認められ
るとき
③ 所轄労働基準監督署長が必要な限度の範囲内
以上の3つの条件を満たしたときであって、『貯蓄金の管理に関する規程に違反し
たとき』だけでは要件を満たしたことにならない。
Chapter 1 労働基準法の基本原則 27
§3
用語の定義
1st
T
K
2nd
T
K
3rd
T
K
▶3‐1 適用事業
① 労働基準法は、原則としてすべての事業に適用される。適用される単位は、継
続して行われる事業である。事業とは、業として継続的に行われるものを意味す
る。
② 事業とは、工場、鉱山、事務所、店舗等のように一定の場所で相関連する組織
のもとに業として継続的に行われる作業の一体をいうのであって、必ずしもいわ
ゆる経営上一体をなす支店、工場等を総合した全事業を指すものではない。
③ 営利目的だけでなく、非営利のものでも事業とされる。したがって、非営利の
社会事業団体や宗教団体にも適用される。
④ 一律に労働基準法を適用するのは適当でないとの考え方から、適用除外の規定
も設けられている。
□ 適用事業(昭和22年発基17号、昭和23年基発511号、昭和33年基発90号)
通達・
判例等
一つの事業であるか否かは、主として同一の場所で行われているかどうかによって判断される。
しかし、場所が分散していても規模が著しく小さく、独立性のないものは、直近上位と一括して一
つの事業として取り扱われる。これに対して、同一の場所でも労働の態様が著しく異なっている場
合には、別個の事業となることがある。
□ 属地主義(昭和43年基収4194号)
労働基準法は、日本国内の事業又は事務所については、そこに使用される外国人労働者、外国人
経営の会社についても適用される(属地主義の原則)。
逆に、日本国外にある海外支店等には適用されない。
□ 同一管内に複数の事業場があるとき(平成7年基発740号)
同一企業が複数の事業場を有する場合であって、同一の労働基準監督署管内に複数の事業場があ
るときは、各事業場に係る労働基準法に基づく報告又は届出については、当該企業内の組織上、各
事業場の長より上位の使用者が、とりまとめて当該労働基準監督署に報告又は届出を行うことは差
し支えない。
28 第1編 労働基準法
別表に記載されている事業の区分は次のようになっている。
〔法別表1〕
物の製造、改造、加工、修理、洗浄、選別、包装、装飾、
第1号(製造業)
仕上げ、販売のためにする仕立て、破壊若しくは解体又は
材料の変造の事業(電気、ガス又は各種動力の発生、変更
若しくは伝導の事業及び水道の事業を含む)
第2号(鉱業)
第3号(建設業)
第4号(運輸交通業)
第5号(貨物取扱業)
第6号(農林業)
鉱業、石切り業その他土石又は鉱物採取の事業
土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、
破壊、解体又はその準備の事業
道路、鉄道、軌道、索道、船舶又は航空機による旅客又は
貨物の運送の事業
ドック、船舶、岸壁、波止場、停車場又は倉庫における貨
物の取扱いの事業
土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若し
くは伐採の事業その他農林の事業
第7号(畜水産業)
動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その
他の畜産、養蚕又は水産の事業
第8号(商業)
物品の販売、配給、保管若しくは賃貸又は理容の事業
第9号(金融広告業)
金融、保険、媒介、周旋、集金、案内又は広告の事業
第10号(映画、演劇業)
映画の製作又は映写、演劇その他興行の事業
第11号(通信業)
郵便、信書便又は電気通信の事業
第12号(教育研究業)
教育、研究又は調査の事業
第13号(保健衛生業)
病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業
第14号(接客娯楽業)
旅館、料理店、飲食店、接客業又は娯楽場の事業
第15号(清掃と畜業)
焼却、清掃又はと畜場の事業
▶3‐2 適用除外
適用除外〔労基法116条〕
① 1条から11条まで、次の②、117条から119条まで及び121条の規定を除き、労働基準法は船
員法1条1項に規定する船員については、適用しない。
② 労働基準法は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。
1 船員法による船員
労働基準法の特別法である船員法の適用を受ける船員については、その労働の特
殊性を考慮して、基本原則とこれに関しての罰則規定を除いて適用しないこととし
た。
Chapter 1 労働基準法の基本原則 29
【用語解説】
船員法による船員�日本船舶又は日本船舶以外の国土交通省令で定める船舶に乗り組む船長及び海員並
びに予備船員(船員法1条1項)。
船舶には、総トン数5トン未満の船舶、湖、川又は港のみを航行する船舶及び政令
で定める総トン数30トン未満の漁船は含まれない(船員法1条2項)ことから、こ
れらの船舶の乗組員については、全面的に労働基準法が適用される。
2 同居の親族
□ 労働者として取り扱われる同居の親族(昭和54年基発153号)
通達・
判例等
同居の親族であっても、常時に同居の親族以外の労働者を使用する事業(適用事業となる)に使
用されている者であって、事業主の指揮命令に従っていることが明確であり、就労の実態が他の労
働者と同様であり、賃金も他の労働者と同様に支払われているような場合には、労働者として取り
扱う。
□ 家事使用人(平成11年発基168号)
家事一般に従事している者がこれに該当する。
・法人に使用され、その役職員の家庭において、その家族の指揮命令の下で家事一般に従事してい
る者 → 労働基準法は適用されない。
・個人家庭における家事を事業として請け負う者に雇われ、その指揮命令の下に当該家事を行う者
→ 労働基準法が適用される。
【用語解説】
同居の親族………6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族を指す(民法725条)。
同居の親族であっても一定の場合には労働者として取り扱われる場合がある。
3 国・地方公共団体等に使用される者についての適用
国及び公共団体についての適用〔労基法112条〕
労働基準法及び労働基準法に基づいて発する命令は、国、都道府県、市町村その他これに準ず
べきものについても適用あるものとする。
国家公務員や地方公務員に関しては、労働基準法112条、他の法律及び通達によ
り次のように整理される。
【図表1-3-1 適用除外】
一般職の国家公務員
一般職の地方公務員
特定独立行政法人の職員
適用しない
一部適用しない
全面適用
4 特定独立行政法人について
独立行政法人国立印刷局、独立行政法人造幣局等の「特定独立行政法人」に勤務
する職員の身分は国家公務員とされているが、労働基準法は全面的に適用される。
30 第1編 労働基準法
▶3‐3 労働者
労働者〔労基法9条〕
労働基準法で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。
)
に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
1 労働基準法が適用される労働者の要件
労働基準法上の「労働者」であるためには、職業の種類を問わず、次の3つの要
件を満たしていることが必要である。
ア 適用事業又は事務所に
イ 使用される者
ウ 賃金の支払いを受けている者
2 労働者性の判断基準−使用従属性
実際の労働基準法上の労働者であるか否の判断は、次の2つの判断基準によって
行われる。
ア 労働提供の形態が使用者の指揮命令下の労働であること。
イ 報酬(賃金)が労働に対する対償として支払われていること。
具体例を次の通達で確認すること。
労働者となる者
通達・
判例等
□ 法人の重役で業務執行権又は代表権を持たず工場長、部長の職にあって賃金の支払いを受ける者
(昭和23年基発461号)
□ 共同経営事業の出資者であっても、実質的にみて使用従属の関係が認められ、賃金を受けて働い
ている者(昭和23年基発498号)
□ 配達部数に応じて報酬を与えている場合の新聞配達人(昭和22年基発400号)
労働者とならない者
□ 業務執行権、代表権を有する者(昭和23年基発14号)
□ 労働委員会の委員(昭和25年基収2414号)
□ 非常勤の消防団員(昭和24年基収3306号)
□ 競輪の選手等(昭和25年基収4080号)
□ 同居の親族(昭和54年基発153号)
□ 下請負人(昭和63年基発150号)
□ 学生で実習等に従事している者(昭和57年基発121号)
□ インターンシップ(平成9年基発636号)
一般に、インターンシップにおける実習が、見学や体験的なものであって使用者から業務に係る
指揮命令を受けていると解されないなど、使用従属関係が認められない場合には、労働基準法9条
に規定する労働者には該当しないが、直接生産活動に従事するなど当該作業による利益・効果が当
該事業場に帰属し、かつ、事業場と学生との間に使用従属関係が認められる場合には、当該学生は
労働者に該当することとなる。
■
代表取締役は労働者ではないため、労働基準法が適用されることはない。代表取締
役以外の取締役は労働者に該当することがあり、その限度において労働基準法が適用
される。
Chapter 1 労働基準法の基本原則 31
▶3‐4 使用者
使用者〔労基法10条〕
労働基準法で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項
について、事業主のために行為をするすべての者をいう。
【用語解説】
使用者 ����労働基準法上の義務についての責任を負う者をいう。
事業主 ����その事業の経営の主体をいい、個人企業にあってはその事業主個人、会社その他の
法人組織の場合は法人そのものをいう。
事業の経営担当者�事業経営一般について責任を負う者をいい、会社の取締役、個人企業の支配人等が
これに該当する。
□ その事業の労働者に関する事項について事業主のために行為をするすべての者(昭和62年基発
169号)
通達・
判例等
人事・給与・労務管理など労働に関する業務に関して権限を与えられている者。
□ 出向と使用者責任(昭和61年基発333号)
公民権の行使や公の職務の執行のため必要な時間を労働者が請求
⑴ 移籍型出向
出向元との労働契約関係は消滅し、出向先との間にのみ労働契約関係が存在するので、使用者
責任はすべて出向先が負う。
原則 使用者は必要な時間を保障しなければならない
⑵ 在籍型出向
出向労働者は出向元、出向先の双方と労働契約関係を有することになるので、使用者責任は出
向元、出向先及び出向労働者間の取決めによって決められた権限と責任に応じてそれぞれ出向元、
出向先が負う。
例外 権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することは可能
□ 派遣労働
・派遣元が使用者責任を負うもの
①労働契約②賃金・割増賃金③男女同一賃金④年次有給休暇⑤産前・産後休業⑥就業規則
使用者と事業主の定義
・派遣先が使用者責任を負うもの
①労働時間②休憩・休日③公民権行使④育児時間
使用者
□ 事務代理(昭和62年基発169号)
法令の規定により事業主等に申請等が義務づけられている場合において、事務代理の委任を受け
た社会保険労務士がその懈怠により当該申請等を行わなかった場合には、その社会保険労務士は、
事業主
労基法10条にいう「使用者」及び各法令の両罰規定にいう「代理人、使用人その他従業者」に該当
し、当該申請等の義務違反の行為者として各法令の罰則規定及び両罰規定に基づき、その責任を問
われる。
使用者と労働者の関係
『事業主』は『使用者』に含まれる
使用者という概念が、その権限と責任に応じて相対的に確定されるため、労基法9
■
条でいう労働者であってもその者が同時に使用者に該当する場合がある。
労基法10条の使用者
事業主
経営担当者
事業主のために行為をする者
労基法9条の労働者
一般労働者
Chapter 2 労働契約 33
労働契約
Chapter 2
労働契約の締結時及び終了時の規制を学習していく。労働契約は、労働者の募集から始まり、契約
の締結、契約の終了までをカバーするが、労働基準法では、労働条件の明示義務、契約期間、解雇の
手続き的な規制など必要最小限の制約に留めている。どこまでを法律で制限しているのか区別して学
習することが肝心である。
内 容
条文番号
出 題 年 度
H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24 H25
§1 労働契約の効力と契約期間
▶1−1 労働基準法違反の労働契約
13条
○
●
▶1−2 契約期間
14条
○
● ○
15条
○
○
○ ●
○
○ ○ ○
§2 労働条件の明示
▶2−1 労働条件の明示義務
○
○ ○ ○
○
○ ○
§3 解 雇
▶3−1 解雇制限
19条
○
▶3−2 解雇予告
20条
○ ○ ○ ○
▶3−3 解雇予告の除外
21条
○
○ ○ ○● ○
○
§4 労働契約期間の満了・退職時の措置
・更新及び
▶4−1 有期労働契約の締結
雇止めに関する基準
平成24年厚労告551号
▶4−2 退職時等の証明・ブラックリストの禁止 22条
▶4−3 金品の返還
●
○
23条
○
○
○
[表記の説明] ○ 択一式試験出題 ● 選択式試験出題 ■ 法改正
〈法改正履歴〉
・平成16年
・平成20年
14条
契約期間の延長、有期労働契約に関する改正
15条
明示すべき事項に解雇の事由を追加
18条の2
解雇に関する大原則(新設)
平成20年厚労告
有期労働契約の雇止め予告対象者に、「契約を3回以上更新した
者」を追加
18条の2
労働契約法施行により削除
則5条
労働契約の締結の際に書面の交付により明示すべき労働条件に、
平成24年厚労告
・平成25年
「期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
(期間の定めのある労働契約であって当該労働契約の期間の満了
後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の場合に限
る)
」が追加された。これに伴い、「有期労働契約の締結、更新
及び雇止めに関する基準」から、「契約締結時の明示事項等」が
削除された。
34 第1編 労働基準法
§1
1st
T
K
労働契約の効力と契約期間
2nd
T
K
3rd
T
K
▶1‐1 労働基準法違反の労働契約
⑴ 労働契約の特殊性
労働契約には、一般の契約と比較して次の特徴がある。
ア 労働力を提供する人が契約の要素となり、契約が継続するため、当事者の間で
信頼関係が重要となる。
イ 使用者は多数の労働者を雇い入れた組織(企業)で活動するため、労働条件等
について画一的処理が必要になる。
ウ 使用者は経済的にも優位であることから、労働者は不利な条件を飲まされがち
である。
⑵ 労働契約の効力
労働契約の特殊性から、労働条件を規律する法律(労働基準法等)を作り、その
基準に満たない労働条件を無効としている。
法律違反の契約〔労基法13条〕
労働基準法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効と
する。この場合において、無効となった部分は、労働基準法で定める基準による。
労働契約中、労働基準法に定める基準に達しない労働条件を定めている部分のみ
が無効になる。残りの部分は有効な労働契約として存在する。また、無効となった
部分は労働基準法に定める基準に置き換えられる。
効力の関係図
労働組合法16条
法令 ≧ 労働協約 ≧ 就業規則 ≧ 労働契約
労働基準法13条
労働契約法12条
「労使協定」は、それを締結することによって免罰(罰を免れる)効果が与えら
れるが、民事的な権利義務関係に影響を及ぼすものではなく、上図の効力の関係図
と直接関係があるものではない。
Chapter 2 労働契約 35
▶ 1‐2 契約期間
preview
労働契約の契約期間について、平成15年に法改正が行われた。この改正は、有期契約労働
者の多くが契約更新を繰り返すことにより、一定期間継続して雇用されている現状を踏まえ、
有期労働契約が労使双方から良好な雇用形態の1つとして活用されることを目的としてい
る。改正の要点は、以下の通りである。
□ 原則3年に延長すること。
□ 高度の専門的な知識等を有する者や満60歳以上の者については、5年とすること。
□ 厚生労働大臣が「有期労働契約の締結及び更新・雇止めに関する基準」を定め、これに
基づき、労働基準監督署長が必要な助言・指導を行うこと。
□ 一定の場合を除き、労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、労働
者は、いつでも退職することができること。
長期の労働契約期間は、不当に労働者を拘束することになることから、これを排除し、契
約期間の最長期間を原則3年としている。
ただし、建設工事のように一定の事業の完了までの期間があらかじめ分かっている場合は、
その期間を契約期間とすることができる。
⑴ 労働契約の原則
労働契約の契約期間は3年を超えてはならない。これは契約期間を定める場合で
あり、
契約期間を定めない労働契約も当然有効(本条による規制は受けない)である。
期間を定める労働契約でその期間が3年を超える場合は、3年に短縮される。
契約期間の原則〔労基法14条〕
労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほ
かは、3年(一定の契約は5年)を超える期間について締結してはならない。
⑵ 例外/その1 3年を超えることができる場合
以下の場合は3年を超える契約が可能である。
契約期間の例外〔労基法14条〕
、職業訓練に関する特例〔労基法70条〕
一定の事業の完了に必要な期間を定めるもの(労基法14条)
労働基準法70条の職業訓練の必要がある場合(労基法70条)
1 一定の事業の完了に必要な期間を定めるもの
6年間で終了する建設工事で、技師を6年間の契約で雇い入れる場合等である。
この条件を満たすためには、その事業が有期的(期間が決められている)事業で
あることが客観的に明らかであり、その事業の終期までの期間を定める契約であ
ることが必要とされる。
36 第1編 労働基準法
2 職業訓練の必要がある場合
職業能力開発促進法の規定による都道府県労働局長の許可を受けて行う認定職
業訓練を受ける労働者については、訓練期間の範囲内で3年を超える期間を定め
ることができる。訓練期間が4年であれば、労働契約の期間を4年間とすること
が可能となる。
■
契約期間を定めるメリットは、期間満了により労働契約が終了する点にある。期間
を定めない場合は、解雇制限の適用を受けたり、解雇にあたって正当な事由が必要に
なる。
⑶ 例外/その2 5年以内の期間を定めることができる場合
専門的知識等を有する者の契約期間〔労基法14条1項1号〕
専門的な知識、技術又は経験(専門的知識等)であって、高度のものとして厚生労働大臣が定
める基準に該当する専門的知識等を有する労働者との間に締結される労働契約の期間を5年とす
ることができる。
■
専門的知識等を有する者と5年以内の契約期間を定めた労働契約を締結できる条件
・厚生労働大臣が定める基準に該当する高度の専門的知識等を有する労働者
・高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る(高度の専門的知識等を必要
とする業務に就いていない者の場合、最長3年となる。)。
■
契約の更新にあたっても、更に5年の契約期間を定めることができる。
□ 専門的知識等を有する者(平成15年厚労告356号)
通達・
判例等
博士等
有資格者
博士課程修了者
公認会計士、医師、歯科医師、獣医師、弁護士、一級建築士、薬
剤師、不動産鑑定士、弁理士、技術士、社会保険労務士、税理士
試験合格者
システムアナリスト、アクチュアリー
発明者など
特許発明の発明者、登録意匠の創作者、登録品種の育成者
①農林水産業の技術者、鉱工業の技術者、機械・電気技術者 、建
技術者など
築・土木技術者、システムエンジニア、デザイナー(※1)
②システムコンサルタント(※2)
国等により有する知識が優れていたものと認識されている者
(※1)年収1,075万円以上かつ学歴及び実務経験(大学卒業+実務経験5年以上、短大・高専卒+
実務経験6年以上、高校卒+実務経験7年以上)
(※2)年収1,075万円以上かつ実務経験5年以上
⑷ 例外/その3 5年以内の期間を定めることができる場合
高年齢者の雇用の確保という観点から、60歳以上の労働者との契約期間の上限を
5年とした。
Chapter 2 労働契約 37
満60歳以上の者との契約〔労基法14条1項2号〕
満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約は、5年以内の期間を締結することができる。
■
労働契約更新の際も、5年以内の期間を定めた労働契約の締結が可能となる。
□ 法14条の規定に違反した契約期間(昭和22年基発502号)
通達・
判例等
当該規定の罰則は、使用者に対してのみ適用される。
□ 法14条1項に規定する期間を超える期間を定めた労働契約の効力(平成15年基発1022001号)
法14条1項に規定する期間を超える期間を定めた労働契約を締結した場合は、同条違反となり、
当該労働契約の期間は、法13条の規定により、上記⑶⑷に掲げるものについては5年、その他のも
のについては3年となる。
期間の満了に係る通知に関する基準の定め等〔労基法14条2項、3項〕
① 厚生労働大臣は、期間の定めのある労働契約の締結時及び当該労働契約の期間の満了時にお
いて労働者と使用者との間に紛争が生ずることを未然に防止するため、使用者が講ずべき労働
契約の期間の満了に係る通知に関する事項その他必要な事項についての基準を定めることがで
きる。
② 行政官庁は、①の基準に関し、期間の定めのある労働契約を締結する使用者に対し、必要な
助言及び指導を行うことができる。
厚生労働大臣は、
「有期労働契約の締結及び更新・雇止めに関する基準」を定め、
当該基準に基づき、労働基準監督署長が必要な助言・指導を行うことを定めている。
なお、有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準については、§ 4で詳
述する。
退職の申し出〔労基法附則137条〕
期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が
1年を超えるものに限る。
)を締結した労働者(高度で専門的な知識等を有する者及び満60歳以
上の者を除く。
)は、当分の間、民法628条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から
1年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することが
できる。
有期労働契約により使用されている労働者は、当該労働契約の期間の初日から1
年を経過した日以後においては、使用者に申し出て、いつでも退職することができ
るとされている。
ただし、次のア、イに該当する者は除かれている。
ア 一定の事業の完了に必要な期間を定める労働契約の場合
イ 高度で専門的な知識等を有する者及び満60歳以上の者の場合
38 第1編 労働基準法
【図表2-1-1 契約期間のまとめ】
(原則)
契約期間は
3年を超え
てはならな
い
3年を超える期間を定めた場合は、労基法13条の適用により、3年
の期間として取り扱われる。
ただし、労働者は、当分の間、民法628条の規定にかかわらず、当該
労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、使用者
に申し出ることにより、いつでも退職することができる
(①③④の場合
を除く)
。
3年を超え ① 一定の事業の完了に必要な期間を定めるもの(有期事業)
てよい場合 ② 労基法70条の職業訓練を受ける必要がある場合(職業訓練を修
了するまでの期間内)
5年まで契 ③ 専門的な知識、技術又は経験であって高度のものとして厚生労
働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者との
約できる場
間に締結される労働契約
合
④ 満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約
Chapter 2 労働契約 39
§2
労働条件の明示
1st
T
K
2nd
T
K
3rd
T
K
▶2‐1 労働条件の明示義務
preview
平成10年の法改正で従来の「賃金に関する事項」のほか、新たに「労働時間に関する事
項その他の厚生労働省令で定める事項」が、平成15年の法改正で「解雇の事由」が加えら
れた。
⑴ 労働条件の明示義務
労働条件の明示に関して、次のように規定されている。
労働条件の明示〔労基法15条〕
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示し
なければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で
定める事項については、 厚生労働省令で定める方法(書面の交付)により明示しなければならな
い。
明示すべき時期は、
「労働契約の締結に際し」である。労働基準法上、募集時点
での明示は必要ない(ただし、職業安定法上は明示の義務が規定されている)が、
契約期間が満了して契約を更新する場合には明示が必要である。労働条件の明示の
方法は、
絶対的明示事項を除いて、口頭又は文書のいずれでも差し支えない(ただし、
昇給に関する事項及び相対的明示事項は口頭でもよい)。
■
労働契約の存続中に就業規則が変更される等の理由により、労働条件が変更された
場合には、改めて明示の必要はない。例えば、フレックスタイム制が適用されている
労働者について就業規則が変更された場合、当該労働者に対する周知は必要(106条)
であるが、本条による明示義務は適用されないことになる。
⑵ 絶対的明示事項(労基則5条)
絶対的明示事項とは、必ず明示しなければならない事項で、書面の交付により明
示する必要がある。ただし、昇給に関する事項については、書面の交付は必要とさ
れていない。
40 第1編 労働基準法
【図表2-2-1 明示事項の比較】
絶対的明示事項
就業規則の絶対的
必要記載事項
労働契約の期間に関する事項
×
期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する
×
事項(注1)
就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
×
〈労働時間に関する事項〉
始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、
休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就
○(注3)
業させる場合における就業時転換に関する事項
〈賃金に関する事項〉
賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く)の決
定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並
○
びに昇給に関する事項(注2)
退職に関する事項(解雇の事由を含む)
○
(注1)
期間の定めのある労働契約であって当該労働契約の期間の満了後に当該労働契
約を更新する場合があるものの締結の場合に限り、明示しなければならない。
(注2)
「昇給に関する事項」については、書面での交付義務はない。
(注3)
就業規則の絶対的必要記載事項から「所定労働時間を超える労働の有無」は
除かれている。
□ 絶対的明示事項について(平成11年基発45号)
通達・
判例等
⑴ 労働契約の期間に関する事項については、期間の定めのある労働契約の場合はその期間、期間
がない労働契約の場合はその旨を明示しなければならない。
⑵ 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項については、雇入れ直後の就業の場所及び従事す
べき業務を明示すれば足りるものであるが、将来の就業場所や従事させる業務を併せ網羅的に明
示することは差し支えない。
⑶ 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者
を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項については、当該労働者に
適用される労働時間等に関する具体的な条件を明示しなければならない。なお、当該明示すべき
事項の内容が膨大なものとなる場合においては、労働者の利便性をも考慮し、所定労働時間を超
える労働の有無以外の事項については、勤務の種類ごとの始業及び終業の時刻、休日等に関する
考え方を示した上、当該労働者に適用される就業規則上の関係条項名を網羅的に示すことで足り
る。
⑷ 退職に関する事項については、退職の事由及び手続き、解雇の事由等を明示しなければならな
い。なお、当該明示すべき事項の内容が膨大なものとなる場合においては、労働者の利便性をも
考慮し、当該労働者に適用される就業規則上の関係条項名を網羅的に示すことで足りる。
□ 賃金について(平成11年基発168号)
交付すべき書面の内容については、就業規則の規定と併せ、賃金に関する事項が当該労働者につ
いて確定し得るものてあればよく、例えば、労働者の採用時に交付される辞令等であって、就業規
則等に規定されている賃金等級が表示されたものでも差し支えない。
□ 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項(平成24年基発1026第2号)
書面の交付により明示しなければならないこととされる更新の基準の内容は、有期労働契約を締
Chapter 2 労働契約 41
結する労働者が、契約期間満了後の自らの雇用継続の可能性について一定程度予見することが可能
となるものであることを要するものであること。
当該内容については、例えば、「更新の有無」として、
a 自動的に更新する
b 更新する場合があり得る
c 契約の更新はしない
等を、また、「契約更新の判断基準」として、
a 契約期間満了時の業務量により判断する
b 労働者の勤務成績、態度により判断する
c 労働者の能力により判断する
d 会社の経営状況により判断する
e 従事している業務の進捗状況により判断する
等を明示することが考えられるものであること。
■
就業規則の絶対的必要記載事項と比較すること。
■
昇給に関する事項については、文書による明示事項とされていない点に注意(口頭
でよい)
。
■
「退職に関する事項」は絶対的明示事項であり、必ず明示しなければならないが、
「退職手当に関する事項」は相対的明示事項であり、当該事業場にその定めがある場
合にのみ明示すればよい。
⑶ 相対的明示事項
定めがある場合に限って明示すべき事項には、以下のものがある。
労働条件〔労基則5条4号の2〜11号〕
① 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退
職手当の支払の時期に関する事項
② 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)
、賞与及び則8条各号に掲げる賃金並びに最低賃
金額に関する事項
③ 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
④ 安全及び衛生に関する事項
⑤ 職業訓練に関する事項
⑥ 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
⑦ 表彰及び制裁に関する事項
⑧ 休職に関する事項
□ 派遣労働者に対する労働条件の明示義務(昭和61年基発333号)
通達・
判例等
派遣労働者に対する労働条件の明示義務は、派遣元の使用者が負う。
⑷ 明示された労働条件が事実と相違する場合(労基法15条2項・3項)
明示された労働条件が事実と違う場合には、労働者は即時に契約を解除できる。
また、就業のために住居を移転した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷す
る場合には、使用者は、必要な旅費(一切の費用)を負担しなければならないとさ
42 第1編 労働基準法
れている。
労働条件の明示〔労基法15条2項・3項〕
① 明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は即時に労働契約を解除する
ことができる。
② ①の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場
合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
使用者が労働条件の明示をしなかった場合、労働者の帰郷旅費を負担しない場合
には、30万円以下の罰金に処せられる。
□ 明示された労働条件が事実と相違する場合(昭和23年基収3514号)
通達・
判例等
明示された労働条件のすべてを指すものではなく、労基則5条1項各号によって明示すべきこと
とされている労働条件に限られる。社宅等単なる福利厚生施設とみなされるものは除かれる。
□ 他者の労働条件相違と労働契約の即時解除(昭和23年基収3514号)
雇入れに際して、他人の労働条件引き上げを条件として、自己の労働契約を締結した者が、実際
には他人の労働条件引き上げが行われなかったことを理由に、自己の労働契約の即時解除をするこ
とはできない。
□ 必要な旅費(昭和23年発基17号)
帰郷するまでに通常必要とする一切の費用をいう。交通費、食費、宿泊費等も含まれる。また、
労働者本人のみならず、労働者によって生計を維持されている同居の親族(内縁の妻を含む)が転
居した場合には、その者の旅費も含まれる。
□ 派遣労働者に対する労働条件の明示(昭和61年基発333号)
派遣労働者に対する労働条件の明示は、「派遣元」の使用者が、賃金、労働時間等も含めて、行
うこととされている。なお、この労働条件の明示は、労働者派遣法34条1項に定める就業条件の明
示と併せて行っても差し支えないが、それぞれの明示すべき内容は異なる部分もあることから、就
業条件の明示のみをもって労働条件の明示に代えることはできない。
Chapter 2 労働契約 43
§3
解 雇
1st
T
K
2nd
T
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3rd
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K
【参考】
解雇は、本来、民法の規定により、所定の手続きをとれば、使用者の自由である。
しかし、最高裁判所の判例により確立された“解雇権濫用法理”により、使用者の解雇権の濫用
は認められないことになっている。さらに、労働基準法では、解雇制限(法19条)、解雇の予告(法
20条)の規定を設け、労働者の保護を図っている。
※解雇権濫用法理とは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇
を、権利の濫用として無効とするもの。判例法理であったが、平成16年1月1日より、労働基準
法の18条の2に明記され、その後、平成20年3月1日より、労働契約法の16条に移行された。
▶3‐1 解雇制限
preview
解雇制限は、法律でよく見られる原則・例外パターンとなっている。
⑴ 解雇制限
業務上の負傷・疾病により療養のために休業する期間とその後30日間は、解雇そ
のものが制限される。この期間に解雇したとしても、それは無効となる。
解雇制限〔労基法19条〕
使用者は、
ア 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間
イ 産前産後の女性が労基法65条の規定によって休業する期間及びその後30日間
は、解雇してはならない。
1 産前・産後
労働基準法65条の規定による産前の休業は、労働者の請求がある場合にはじめ
て使用者に付与義務が発生する。従って、出産予定日以前6週間(多胎妊娠の場
合にあっては14週間)であっても労働者が休業せずに就労している場合には、解
雇制限の対象とはならない。
産後の休業については、出産日の翌日から8週間が法律上の休業期間である。
しかし、産後6週間を経過すれば、労働者の請求により医師が支障がないと認め
た業務に就かせることができるため、当該労働者がこれにより就業している期間
は、
「休業する期間」に該当しない。従って、その後30日間の起算日は、産後8
週間を経過した日又は産後6週間経過後その請求により就労させている労働者に
ついてはその就労を開始した日となる。
出産予定日以前6週間の休業を与えられた後においても、出産が出産予定日よ
り遅れて休業している期間は労働基準法65条の産前休業期間と解され、この期間
44 第1編 労働基準法
も解雇制限が適用となる。
2 定年退職(昭和26年基収3388号、昭和22年基収2649号)
就業規則に定める定年制が労働者の定年に達した翌日をもってその雇用契約は
自動的に終了する旨を定めたことが明らかであり、かつ、従来この規定に基づい
て定年に達した場合に当然雇用関係が消滅する慣行となっていて、それを従業員
に徹底させる措置をとっている場合は、原則、解雇の問題は生じず、解雇制限の
問題も生じない。
□ 業務上(昭和24年基発1134号、昭和25年基収1133号)
通達・
判例等
業務上による負傷又は疾病を指す(労災事故)。通勤災害に係わる傷病による療養のために休業
しても、解雇制限事由には該当しない。また、業務上の傷病により治療中であっても、そのために
休業しないで出勤している場合は解雇制限を受けない。
□ 解雇制限期間中(昭和24年基収3806号)
解雇制限期間中は、労働者の責めに帰すべき事由、重大な過失等があっても解雇することはでき
ない。
□ 契約期間の満了と労働契約の終了(昭和63年基発150号)
一定の事業に限ってその完了に必要な期間を契約期間とする労働契約を締結している場合におい
ては、当該労働者の労働契約はその契約期間の満了によって終了するものであって、労働基準法19
条1項の解雇制限の規定の適用はない。
□ 採用内定(大日本印刷事件、昭和54年7月20日最高裁判)
採用内定期間中の留保解約権の行使は、試用期間中の留保解約権の行使と同様に解すべきであり、
採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実
であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的
に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる。
□ 有期労働契約と試用期間(神戸弘陵学園事件、平成2年6月5日最高裁判)
使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設
けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、右期間の満了により右
雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められ
る場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である。
⑵ 解雇制限の解除
解雇制限が解除される場合は次のとおり。
解雇制限の解除〔労基法19条1項ただし書〕
ア 使用者が労働基準法81条の規定によって打切補償を支払う場合
イ 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合
イの場合は、その事由について所轄労働基準監督署長の認定を受けなければならない。
【用語解説】
打切補償 ���業務上の傷病により休業する期間が療養の開始後3年を超え、なお傷病が治ゆしな
い場合(治らない場合)には、労基法81条の規定による平均賃金の1,200日分の打
切補償を支払うことにより、業務上の傷病のために休業している期間であっても解
雇制限を解除できる。
なお、業務上の傷病によって療養の開始後3年を経過した日において、労災保険法
から傷病補償年金を受けているとき又は同日後受けることとなった場合も解雇制限
が解除される。
Chapter 2 労働契約 45
1 やむを得ない事由
悪用されることを防ぐ趣旨から、所轄労働基準監督署長の認定を受けることに
なっている。
□ やむを得ない事由に該当する例(昭和63年基発150号)
通達・
判例等
事業場が火災により焼失した場合。ただし、事業主の故意又は重大な過失に基づく場合を除く。
震災に伴う工場・事業場の倒壊・類焼等により、事業の継続が不可能となった場合。
□ やむを得ない事由に該当しない例(昭和63年基発150号)
事業主が経済法令違反のため強制収容され、又は購入した諸機械・資材等を没収された場合。
税金を滞納し、処分を受け事業廃止に至った場合。
□ 事業の継続が不可能となった場合(昭和63年基発150号)
事業の全部又は大部分が継続不可能となった場合のことであって、事業の一部を縮小しなければ
ならなくなった場合は含まれない。
▶3‐2 解雇予告
⑴ 労働者を解雇する場合の原則
少なくとも30日前に予告することを義務づけている。また、予告をしないで30日
分の平均賃金(解雇予告手当)を支払うことで解雇することもできる。さらに、予
告の日数は短縮することができるため、例えば18日前に解雇予告をして、12日分の
解雇予告手当を支払うという形もできる。また、解雇予告手当の支払いは、原則と
して解雇の申し渡しと同時に行わなければならない。
解雇の予告〔労基法20条1項・2項〕
① 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしな
ければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければな
らない。
② 予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮すること
ができる。
ア 労働者側から行われる「任意退職」(労働契約の解除)については、就業規則
等に別段の定めがない場合には、民法627条により、2週間前までに解約の申し
出をすればよく、労働基準法には特に規定が設けられているわけではない。
イ 使用者による解雇の意思表示の形式については、特に定められているわけでは
なく、文書であっても口頭であっても可能である。
□ 予告期間の計算(昭和24年基発1926号)
通達・
判例等
解雇予告がなされた日は算入されず、その翌日より計算され、期日の末日の終了をもって期間満
了となる。また、解雇予告期間は暦日で計算され、その間に休日や休業日があっても延長されない。
□ 30日前に予告はしたが、その期限到来後、解雇期日を延期することを本人に伝達し、そのまま使
用した場合(昭和24年基発1926号)
通常同一条件で、さらに労働契約がなされたものとみなされるため、その後において、この者を
解雇する場合には、改めて解雇予告の手続きを行わなければならないとされている。
□ 解雇予告期間満了前に業務上負傷し、療養のため休業を要する場合(昭和26年基収2609号)
休業期間及びその後30日前に予告期間が満了したとしても、満了日に労働者を解雇することはで
30日間
▲
解雇の効力発生
46 第1編 労働基準法
きない。解雇制限期間経過とともに解雇の効力が発生する。
…この期間は解雇の効力が停止されている
解雇予告
通常に勤務
解雇の効力発生
30日
療養期間
30日
▲
業務上負傷
ただし、業務上負傷の期間が長期(社会通念上に照らして「長期」と思われる期間)にわたり、
解雇予告として効力を失うと認められる場合は、改めて解雇予告をする必要がある。
□ 休業命令(昭和24年基収1224号)
解雇予告と同時に労働者に休業を命じ、予告期間中労働基準法26条の休業手当を支払った場合に
は、予告期間の満了とともにその者を適法に解雇することができる。
□ 解雇予告の取消し(昭和33年基発90号、昭和25年基収2824号)
解雇予告の意思表示は、一般的には取消すことはできないが、例外として、労働者が具体的事情
の下に自由な判断によって同意を与えた場合には、取消すことができる。解雇の意思表示の取消し
に対して労働者の同意がない場合は、自己退職の問題は生じない。
□ 予告期間中の勤務(昭和33年基発90号)
解雇の予告を受けた労働者が、解雇予告期間中に他の使用者と雇用契約を結ぶことはできる。た
だし、自ら契約を解除した場合を除き、予告期間満了までは従来の使用者のもとで勤務する義務が
ある。
□ 解雇制限期間中の解雇予告(東洋特殊土木事件、昭和55年1月18日水戸地裁龍ケ崎支部判決)
労働基準法19条は、解雇を制限しているだけであって解雇予告を制限しているわけではないから、
禁止期間後に満了すべき解雇予告を禁止期間内に発することは法律上差し支えないとされている。
□ 解雇予告手当(昭和23年基収2520号)
法律的な性質や支払い時期などが問題となる。この点については、解雇予告手当は労働基準法上
の賃金ではないため、労働基準法24条に規定する賃金支払いの5原則は適用されないが、賃金に準
じて通貨で直接労働者に支払うようにするべきであるとされている。
□ 解雇予告と解雇予告手当の支払時期(昭和23年基発464号)
即時解雇の場合における解雇予告に代わる30日分以上の平均賃金は解雇の申し渡しと同時に支払
うべきであるが、30日の予告の一部を予告手当で支払う方法をとり、予告と予告手当を併用する場
合における予告手当の支払時期については、予告の際に予告日数と予告手当で支払う日数が明示さ
れている以上、現実の支払いは解雇の日までに行われれば足りるものと解されている。
□ 労働組合の専従者に対する解雇予告(昭和24年基収1351号)
労働組合専従の労働者を解雇するに当たって、その労働者が組合専従期間中も会社に在籍するもの
である限り、解雇の予告又は解雇予告手当として30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。
□ 即時解雇の通知と解雇予告(昭和24年基収1701号)
使用者の即時解雇の通知が解雇の予告として有効と認められ、かつ、その解雇の意思表示があっ
たために予告期間中労働者が休業した場合は、使用者は解雇が有効に成立するまでの間、休業手当
を支払わなければならない。
□ 時効(昭和27年基収1906号)
予告手当は時効の問題は生じない。
■
解雇予告手当は、30日分以上の平均賃金を支払い即時に解雇を行うことができる制
度である。従って、解雇予告手当は支払って初めて効力を持つものであり、一定の期
間権利の行使を行わないことによって権利が消滅する時効という概念が生じる余地は
ない。
Chapter 2 労働契約 47
□ 労働基準法20条違反の解雇の効力(細谷服装事件、昭和35年3月11日最高裁判)
通達・
判例等
使用者が労働基準法20条所定の予告期間をおかず、又は予告手当の支払をしないで労働者に解雇
の通知をした場合、その通知は即時解雇としては効力を生じないが、使用者が即時解雇に固執する
趣旨でない限り、通知後同条所定の30日の期間を経過するか、又は通知の後に同条所定の予告手当
の支払をしたときは、そのいずれかのときから解雇の効力を生ずるものと解すべきである。
□ 予告期間及び予告手当の支払いのない解雇(昭和24年基収1483号)
法定の予告期間を設けず、また法定の予告に代わる平均賃金を支払わないで行った即時解雇の通
知は、即時解雇としては無効であるが、使用者が解雇する意思があり、かつその解雇が必ずしも即
時解雇であることを要件としていないと認められる場合には、その即時解雇の通知は法定の最短期
間である30日経過後において解雇する旨の予告として効力を有するものとされている。
□ 最低年齢に満たない労働者の解雇(昭和23年基収3102号)
未就学児童が禁止されている労働に従事しているのを発見した場合、これに配置転換その他の措
置を講ずるが、その事業場をやめさせなければならない時は、労働基準法20条1項の規定によって
30日分以上の平均賃金を支払い、即時解雇しなければならない。
⑵ 例外−解雇予告が不要な場合
以下の場合は解雇予告が不要となる。
解雇予告の例外〔労基法20条1項ただし書〕
① 天災事変その他やむを得ない事由のために、事業の継続が不可能となった場合
② 労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合
③ ①②いずれも所轄労働基準監督署長の認定が必要
「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」
に関しては、労働基準法19条と同じである。
□ 労働者の責に帰すべき事由(昭和31年基発111号)
通達・
判例等
・賭博、風紀紊乱等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合。
・事業場内における盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為(極めて軽微なものを除く)があっ
た場合。
・雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合。
・原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合。
・出勤不良又は出勤が不定期で、数回にわたって注意を受けても改めない場合。
□ 認定申請(昭和63年基発150号)
解雇制限に係る行政官庁の認定あるいは解雇予告に係る行政官庁の認定は、原則として解雇の意
思表示をなす前に受けるべきものであるが、これらの認定は条文上のただし書きに該当する事実が
あるか否かを確認する処分であって、認定されるべき事実がある場合には使用者は有効に即時解雇
をなし得るものと解されるので、即時解雇の意思表示をした後、解雇予告除外認定を得た場合、そ
の解雇の効力は使用者が即時解雇の意思表示をした日に発生すると解される。なお、使用者が認定
申請を遅らせることは、労働基準法19条又は20条に違反する。
48 第1編 労働基準法
▶3‐3 解雇予告の除外
preview
臨時的性質の労働者については解雇予告制度を適用することが困難又は不適当であるた
め、これを適用しないこととしながら、一方で解雇予告義務を免れるため、臨時的雇用の形
にして濫用されることを防止するために、一定期間を超えて引き続き使用されるに至った場
合には、労働基準法20条を適用することを規定している。
解雇予告が除外される者とその例外をまとめると次の通りである(労基法21条)。
【図表2-3-1 解雇予告の除外とその例外】
原 則(解雇予告の除外)
ア 日日雇い入れられる者
イ 2箇月以内の期間を定めて使用される者
ウ 季節的業務に4箇月以内の期間を定めて
使用される者
エ 試みの使用期間中の者
■
例 外(解雇予告の適用)
1箇月を超えて引き続き使用さ
れるに至った場合
所定の期間を超えて引き続き使
用されるに至った場合
14日を超えて引き続き使用され
るに至った場合
やむを得ない事由によって契約期間満了前に契約を解除する場合、解雇予告は除外
されても、損害賠償の責任を負う可能性はある。
(例)2箇月の期間を定めて雇い入れた労働者を、雇い入れ後1箇月経過した日にお
いて当事者の一方の申出によってその事由が生じた場合
1 日日雇い入れられる者
1日単位の契約期間で雇われ、その日の終了によって労働契約が終了する労働者
をいう。これらの者は原則的には解雇の問題は発生する余地はないが、これらの者
であっても1箇月を超えて引き続き使用されるようになると労働関係は継続的なも
のとなり、実質的には期間の定めのない契約と性質が同じになるため、解雇予告の
規定を適用することにしている。
□ 日日雇い入れられる者として雇用した後、2箇月の期間を定めて雇用した場合及び一般の労働者
通達・
判例等
として雇用した場合の解雇予告(昭和27年基収1239号)
日日雇い入れられる者として雇用していた労働者を数日経過後に2箇月の期間を定めた労働者と
して雇用し、その2箇月の期間満了前に解雇する場合には、当該2箇月の契約が反復継続して行わ
れたものでなければ、解雇の予告も解雇予告手当の支払も必要としない。
日日雇い入れられる者を、一般の労働者として雇用する場合、その後2週間の使用期間内に解雇
しようとする場合には、一般労働者への契約更新に伴い、明らかに作業内容の切り替え等が行われ
て、客観的にも2週間の使用期間が「試みの使用期間」と認められる場合を除いて、解雇予告が必
要となる。
Chapter 2 労働契約 49
2 試みの使用期間中の者
本採用決定前の試験的使用期間中の労働者をいう。これらの者が、14日を超えて
引き続き使用されるに至った場合は、その超えた日(15日目)から解雇予告の規定
が適用されることになる。
使用期間に関しては就業規則等で自由に定めることができるが、長期の試みの使
用期間を定めた場合でも14日を超えて引き続き使用されるに至った場合は解雇予告
の規定が適用される。
3 2箇月以内の期間を定めて使用される者
1箇月、2箇月等の契約期間で使用される労働者をいう。これらの者が、その所
定の期間(契約期間の日数)を超えて引き続き使用されるに至った場合には、原則
としてのその日から、解雇予告の規定が適用されることになる。
4 季節的業務に4箇月以内の期間を定めて使用される者
春夏秋冬の四季、あるいは結氷期、積雪期、梅雨期等の自然現象に伴う業務(農
業における収穫期の手伝い、冬季の除雪作業等)に、1箇月、4週間等の契約期間
を定めて使用される労働者をいう。これらの者が、 その所定の期間(契約期間の日
数)を超えて引き続き使用されることになった場合に、解雇予告の規定が適用され
ることになる。
□ 短期契約の継続的な更新について(昭和24年基収2751号)
通達・
判例等
形式的に労働契約が更新されても、恒久的に同一内容の作業に従事させている労働者について、
1箇月ごとに雇用契約を更新して1年、2年と継続勤務させている場合は、実質において期間の定
めのない契約と同一に取扱うべきものであるから、解雇予告の除外は適用されない。
例 外
行政官庁の認定
解雇制限 打切補償
不要
天災事変
要
解雇予告 労働者の責めに帰すべき事由
要
50 第1編 労働基準法
§4
1st
T
K
労働契約期間の満了・退職時の措置
2nd
T
K
3rd
T
K
▶4‐1 有期労働契約の締結・更新及び雇止めに関する基準
有期労働契約の締結及び更新・雇止めに関する基準を定めることができる根拠規
定を設け、有期労働契約を締結する使用者に対し、労基法14条3項に基づき必要な
助言及び指導を行うこととした。
有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(
「雇止めに関する基準」告示)
(平成24年厚生労働省告示551号)
(雇止めの予告)
第1条 使用者は、期間の定めのある労働契約(当該契約を3回以上更新し、又は雇入れの日か
ら起算して1年を超えて継続勤務している者に係るものに限り、あらかじめ当該契約を更
新しない旨明示されているものを除く。
)を更新しないこととしようとする場合には、少な
くとも当該契約の期間の満了する日の30日前までに、その予告をしなければならない。
(雇止めの理由の明示)
第2条 ① 前条の場合において、使用者は、労働者が更新しないこととする理由について証明
書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない。
② 期間の定めのある労働契約(当該契約を3回以上更新し、又は雇入れの日から起算して
1年を超えて継続勤務している者に限り、あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されて
いるものを除く。
)が更新されなかった場合において、使用者は、労働者が更新しなかった
理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない。
(契約期間についての配慮)
第3条 使用者は、期間の定めのある労働契約(当該契約を1回以上更新し、かつ、雇入れの日
から起算して1年を超えて継続勤務している者に係るものに限る。
)を更新しようとする場
合においては、当該契約の実態及び当該労働者の希望に応じて、契約期間をできる限り長
くするよう努めなければならない。
雇止め(予告不要)
更新① 更新②
2か月 2か月 2か月
雇止め
(予告必要)
更新① 更新② 更新③
2か月 2か月 2か月 2か月
更新①
5か月
雇入れ
雇止め
(予告必要)
更新②
5か月
5か月
1年
Chapter 2 労働契約 51
▶4‐2 退職時等の証明・ブラックリストの禁止
⑴ 退職時等の証明
退職時等の証明〔労基法22条1項〜3項〕
① 労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金、退
職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。
)について証明書を請求し
た場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
② 労働者が、20条1項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理
由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければなら
ない。ただし、解雇の予告がなされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場
合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない。
③ ①及び②の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない。
1 退職の場合
労働者の自己都合による退職の場合に限らず、使用者より懲戒解雇された場合
や、契約期間の満了、定年退職等により自動的に契約が終了する場合も含まれる。
また、証明書の請求は退職と同時に行わなくてもよい。
2 請求
使用者が退職時の証明書を遅滞なく交付しなければならないのは、労働者から
請求があった場合に限られる。退職時の証明書の証明事項は、労働者の請求した
事項に限られる。労働者の請求しない事項は、たとえ法定証明事項であっても記
入することが禁止されている。なお、請求することができる回数については、制
限は設けられていない。
□ 時効(平成11年基発169号)
通達・
判例等
退職時等の証明を請求できる時効は、2年とされている。
□ 離職票の取扱い(平成11年基発169号)
退職時の証明書は、労働者が次の就職に役立たせる等その用途は労働者に委ねられているが、離
職票は公共職業安定所に提出する書類であるため、退職時の証明書に代えることはできない。
□ 使用者の交付義務(平成11年基発169号)
退職時の証明は、労働者が請求した事項についての事実を記載した証明書を遅滞なく交付しては
じめて労働基準法22条1項の義務を果たしたものと認められる。
また、労働者と使用者との間で退職の事由について見解の相違がある場合、使用者が自らの見解
を証明書に記載し労働者の請求に対し遅滞なく交付すれば、基本的には労働基準法22条1項違反と
はならないが、それが虚偽であった場合(使用者がいったん労働者に示した事由と異なる場合等)
には、22条1項の義務を果たしたことにはならないものと解される。
□ 解雇予告期間中における労働基準法22条2項の証明書の請求(平成15年基発1022001号)
労働者が解雇予告の期間中に当該解雇の理由について証明書を請求した場合は、その日以後に労
働者が当該解雇以外の事由で退職した場合を除いて、使用者は、当該解雇予告の期間が経過した場
合であっても、労働基準法22条2項に基づく証明書の交付義務を負う。この場合、労働者は、当該
解雇予告の期間が経過したからといって、改めて22条1項に基づき解雇の理由についての証明書を
請求する必要はない。
□ 即時解雇の場合の退職時の証明(平成15年基発1022001号)
労働基準法22条2項の規定は、解雇予告の期間中に解雇を予告された労働者から請求があった場
合に、使用者は遅滞なく、当該解雇の理由を記載した証明書を交付しなければならないものである
52 第1編 労働基準法
から、解雇予告の義務がない即時解雇の場合には適用されない。
この場合、即時解雇の通知後に労働者が解雇の理由についての証明書を請求した場合には、使用
者は、労働基準法22条1項に基づいて解雇の理由についての証明書の交付義務を負うものと解され
ている。
□ 解雇の理由(平成15年基発1022001号)
「解雇の理由」については、22条1項・2項の規定ともに具体的に示す必要があり、就業規則の
一定の条項に該当する事実が存在することを理由として解雇した場合には、就業規則の当該条項の
内容及び当該条項に該当するに至った事実関係を証明書に記入しなければならない。なお、解雇さ
れた労働者が解雇の事実のみについて使用者に証明書を請求した場合、使用者は、22条3項の規定
により、解雇の理由を証明書に記載してはならず、解雇の事実のみを証明書に記載する義務がある。
□ 記載すべき内容(平成15年基発1226002号)
解雇された労働者が解雇の事実のみについて使用者に証明書を請求した場合、使用者は、労基法
22条3項の規定により、解雇の理由を証明書に記載してはならず、解雇の事実のみを証明書に記載
する義務がある。
■
労働基準法22条2項の規定の「解雇の予告がなされた日以後に労働者が当該解雇以
外の事由により退職した場合においては、使用者は当該退職の日以後、これを交付す
ることを要しない」の場合、労働者が退職した理由は「解雇」ではないので、使用者
は「解雇の理由についての証明書」を交付することを要しない。しかし、この場合で
あっても、労働者の請求があれば「退職時の証明書」を交付しなければならない。
⑵ ブラックリストの禁止
使用者がいわゆるブラックリストを作成して自分の会社に好ましくない労働者が
入ることを防ぐ策を講じることを禁止し、労働者の正当な就職の機会を確保してい
る。使用者は労働者の就業を妨げることを目的として、労働者の国籍、信条、社会
的身分あるいは労働組合運動に関する通信をすることを禁止されている。
退職時等の証明〔労基法22条4項〕
使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、労働者の国籍、
信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信をし、又は退職時等の証明書に秘密の記号
を記入してはならない。
■
禁止事項は限定列挙であり、
「国籍、信条、社会的身分、労働組合運動」以外の事項
についてリストを作成し、通信するようなことがあっても労働基準法には違反しない。
■
「あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げること」を目的とした行為が禁止
されているのであり、事前の申し合わせに基づかない「個別照会」に応じることが禁
止されているわけではない。
Chapter 2 労働契約 53
▶4‐3 金品の返還
金品の返還〔労基法23条〕
① 使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があった場合においては、
7日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利
に属する金品を返還しなければならない。
② ①の賃金又は金品に関して争いがある場合においては、使用者は、異議のない部分を7日以
内に支払い、又は返還しなければならない。
【用語解説】
権利者 ����労働者の死亡の場合には労働者の相続人、労働者の退職の場合には労働者本人のこ
とを言い、一般債権者は含まれない。
労働者の権利 ��積立金、貯蓄金等の金銭のほか、本来労働者に所有権のある物品(労働者の所有に
に属する金品
属するふとん等)も含まれる。
□ 退職手当(昭和63年基発150号)
通達・
判例等
就業規則等で定められた支払時期に支払えば、7日以内に支払わなくても労働基準法違反とはな
らない。
□ 賃金の所定支払日と7日以内(昭和23年基発464号)
賃金の所定支払日が、労働者の賃金支払いの請求があってから7日より前の場合には、所定支払
日までには、賃金を支払わなければならない。
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