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かぎりなく自然に近い川を目指して

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かぎりなく自然に近い川を目指して
かぎりなく自然に近い川を目指して
水産科3年
鈴木文也
1 題名設定の経緯
那珂川は東の四万十といわれる自然が豊かで美しい河川です。武茂川はその那
珂川の支流で僕たちの学校の下を流れ、授業で河川調査を行ったり、また5月
にクラスみんなで行った那珂川カヌー下りの出発点にもなったりして、とても
親しみのある川です。ただ、ひとつだけ残念なことがあります。それは僕が何
度も釣りに行くうちに気づきました。いたるところがコンクリートで固められ
ているのです。よく考えてみると、学校下には国道が走っていますが、バイパ
スができるのに合わせて、ちょうど今河川工事が行われています。長い間、ず
っと川原にブルドーザーのようなものが置いてあるような気がします。僕はな
ぜこんなにもコンクリートでかためられているのだろう、河川工事によって武
茂川の自然はどうなるのだろう、どうにか自然を戻せないのだろうか、そんな
思いでいっぱいになりました。水産科の先生から「課題研究のテーマ」は?と
聞かれた時に真っ先にこれだ、と思いました。武茂川の堰や護岸について調査
し、どのようにしたら武茂川にすむ生物にとって住みやすく、僕たちにとって
も気持ちの良い河川となるのだろうか、このテーマで研究しました。
2 研究項目
研究項目は大きく2つです。
1つ目は、武茂川の環境や利用の仕方について調査しました。次に県内のいろ
いろな河川環境への取り組みについて調査し、これからの武茂川について考え
ました。
武茂川の流路と調査地点について地図を作成しました。
3
調査
武茂川の流路と調査地点について地図を作成しました。
青く色付けしたのが武茂川で、馬頭高校水産実習場、馬頭高校がごらんの通
りです。那珂川との合流地点から新宿までの堰のある場所を中心に調査をし、
赤で示しました。その中で特徴的な場所として今回はほぼ全部の調査について
まとめました。
旧黒羽町
武茂川の流路と調査地点
武茂川
旧湯津上村
新 宿
旧馬頭町
箒 川
丸山橋
御前岩
旧小川町
那珂川
馬頭高校
馬頭高校水産科実習場
旧烏山町
調査地点
那珂川
御前岩
ここは「御前岩」という景勝地です。遊歩道が設置され、ニシキゴイなどが
放流されています。堰で区切られたこの区間は、特別禁漁区となっています。
この堰には大きな落差があり、左岸に魚道が作られていますが、ほとんど活用
されておらず、天然の生物の遡上降下はほぼ完全に遮断されているといえます。
大河内橋(御前岩)
これが禁漁区間の下流の堰です。
こちらも生物の遡上にはかなり厳しいものと考えられます。こちらにも魚道
がありますが、効果的とは思えません。これら上下の堰により、景勝地を効果
的に見せ、またニシキゴイなどが逃げないようにしてあるのだと思いますが、
天然の生物の上下の行き来はほぼ完全に遮断されていると思います。
丸山橋
これは武茂川の丸山橋における農業用取水の仕方についての写真です。
堰
水田
ご覧の通り、堰で水をため、左岸から水路を引き、川沿いに岸壁を掘り、水
路を通して、県道の地下を通し反対側の水田に水を引いていました。写真の通
り、左の堰から、右奧の水田までは50mほどあり、取水の仕方に驚きました。
大山田新宿
これは大山田新宿付近のせきです。
写真の通り、もくしょうが作られていますが、完全に機能していません。水
はこの写真の通り、コンクリート護岸沿いに直線的に非常に早く流れ、生物の
遡上は難しそうです。この堰の上部では左岸でたまった水をポンプでくみ上げ、
右岸では水路が作られ、200mほど下流の水路まで導かれていました。
那珂川南部漁業協同組合への聞き取り調査
H17.7
那珂川南部漁業協同組合を訪問し、増子組合長にお話を伺いました。
武茂川は堰が多いため、16箇所で計7万尾のアユを放流しているそうです。
つまり天然アユはほとんどいないと考えられます。荒川や箒川の放流箇所が少
ないことを考えると、武茂川が非常に多くの箇所で放流していることが分かり
ます。
県水産試験場への聞取り調査 H17.7.26
• 魚道を作る際にも河川法による制約があった
• 農業用利水の場合、建設費の一部を取水者側で負担するので生物に配慮
した魚道の設置は難しい
• 基本的に、工事担当者の考え方で河川工事事業は展開されるが、具体的
規定が確立しておらず、指導できる専門家もその研究も不十分である。
• 人工物が自然に溶け込むいわゆる二次自然が展開されている場合も多く、
多自然型にする必要があるか、堰を取り壊して生物の上下流の行き来を
可能にする必要があるかは大いに見極めが必要。必ずしも、上下交流や
多自然型が良いとは限らない。
詳細
・ 町の改良区へ訊く
・ 南那須庁舎の改良区(土木)へ訊く
・ 魚道を作る際に外付け魚道などの問題がある。水量が変わってはいけない。
・ 農業用利水の場合、建設費の一部を取水者側で負担するので難しい
・ 砂防施設については県の林務事務所の管轄している。これまでは断崖だった
が現在はいろいろ工夫されている
・ 渓流魚の漁業権としての価値はそれほど高くなく、配慮の必要性は低い。放
流−釣らせる の繰り返しのみになっている。
・ 砂防の上流部には在来種が残っている。人工の砂防堰が結果的に混雑を防い
だことになっている。
・ 中流部でもカワムツがどの河川でも優占種となって生態系を貧相にしてい
る傾向にあるが、堰の存在がカワムツの侵入を妨げている例もある。
・ 河川工事例では河床を副断面にするだけで十分効果的な場所もある。大田原
の土木事務所による、うずま川・余笹川の例(那須チサンカントリー東)
。
・ 県土木部の有志者からなる「栃木の川作り研究会」による大田原の百村川の
例
・ 全面魚道−河内町西鬼怒川下ヶ橋
栃木の川作り研究会」などの川作りの例
大田原百村川の現地調査 H17.8.4
尾田さんのお話の中であった、大田原百村川の川作りの例を見に行きました。
写真左は自然豊かな部分と農業用の水路を分けているところです。これにより、
生息する生物に支障をきたすことなく、農業にも活用できる非常に有益なつく
りになっていると感心しました。右側は川が蛇行して水深が深くなったところ
をコンクリートで固めるのではなく、小石を敷き詰めた隙間の多い護岸で対応
しているものです。草木も生えやすくなっており、増水しても逃げ場やゆとり
を作り出しています。
馬頭町への聞取り調査 9 月 16 日(金)
馬頭町産業振興課渡辺さんからお話を伺った
• 武茂川は一級河川なので、洪水等災害時以外では改修については栃木県
が行っていて、町単独では改修できない
•
今後の河川環境の維持、改変は新しい河川法に従い、生物に配慮した
ものにしていきたい
宇都宮土木事務所への聞き取り調査 H17.9.20
栃木県河内庁舎にある宇都宮土木事務所を訪問し、河川砂防課の斉藤さんか
らお話を伺いました。
西鬼怒川地区は西鬼怒川を中心とする水路群に、谷川の豊富な湧き水を起点
とする水路が多様な自然を残しています。ここでは地域住民と河内町、栃木県
がお互いに協力して、今では貴重になってしまった生態系を守っています。
• 谷川の湧水を起点とした西鬼怒の生態系を意識した住民・河内町・栃木
県が一体となった全国的にも注目されたプロジェクト
• 地域の人々のいこいの場となっている
• 河川法の改正について聞いた
西鬼怒地区 現地調査 H17.9
西鬼怒川の川造りの例を見に行きました。
水を可動式の堰で止めわきの水門で取り入れています。
左岸の魚道は狭く流れも速いので上れません。また、増水すると堰は倒れ遮断
するものがなくなりますが水が多いので上れません。倒れた堰は関係者が戻し
に来るそうです。農業に関しては万全の体制をとっています。
西鬼怒川地区 谷川 H17.9
斉藤さんのお話しあった谷川の川づくりを見に行きました。
これが源流に当たる湧水ポイントです。僕の座っている下から水がこんこんと
湧き出ています。
湧水ポイント
次の写真が源流から一キロほど下流で、ヤマメの産卵場となっている所です。
ミクリやバイカモなど貴重な植物も繁茂しています。
ヤマメの産卵場
ここは農村公園の一部で、遊歩道が通り、人々の憩いの場にもなっています。
奥に見えるのが老人ホームです。町の行事で灯籠流しなども行われています。
農村公園
次の写真がドジョウ水路です。水田の排水と生物用の水路を分けた作りにな
っています。
ドジョウ水路
最終的に商店街や住宅地へ流れ込んだ水路は、街の景観の一部となり地域の
活性化に役立っています。
商店街・住宅地
次のページは西鬼怒川地区の組織の構成
西鬼怒川 水と緑のネットワーク
西鬼怒川地区エコビレッジ推進委員会
A.G.
アドバイザーグループ
学識経験者の集団
専門的見地から指導助言
運営委員
会
A.G.・W.G.
農業環境技術研究所
サギソウの会
構成
川を愛する会
土地改良区
農業工学研究所
栃木県水産試験場
白沢病院
事務局
日本グランドネットワーク協
会
白沢宿の会
事務局で
自然環境研究センター
農村開発企画委員会
西鬼努の川に親しむ会
の各代表
および
宇都宮大学
W.G.
ワーキンググループ
住民の意向を反映する
ボランティア12団体
河内町産業経済課
河内農業振興事務所
河内自然環境研究会
町職員で構成
西鬼怒川地区の環境保全は「水と緑のネットワーク」という名称で取り組まれ
ています。栃木県、河内町、民間団体および各種機関が協力し、貴重な自然を
守っています。組織化された理想的な取り組みであると感激しました。このよ
うな取り組みをしていくことができたら武茂川も鮎の踊る川になるのではと思
いました。
4
結果
武茂川の現状と課題についてまとめました。
それではまとめに入ります。まず、武茂川の現状と課題についてまとめました。
現在の武茂川は堰が多く、生物は遡上降下できません。
堰は重要な役割を果たしており、すでにある堰の改修は予算的にも難しいとい
えます。また、二次的生態系への配慮も必要であるといえます。
武茂川は1級河川のため、多自然型などへの改修は国や県の許可が必要である
ようです。
5
考察
明治29年 河川法制定
資産防御のため、治水を目的として制定
昭和39年 新河川法の制定
河川の利用・流水の活用に則した河川管理
現在の河川行政の規範としての役割を担ってきた
平成9年
新河川法の一部改正
生物に配慮した河川環境の整備と保全
そのような武茂川の現状を踏まえ、どうしたら多自然型に変えていくことがで
きるか考察しました。僕たちは河内町庁舎の斉藤さんのお話にあった河川法に
ついて注目し、河川法の改正の歴史についてまとめました。
明治29年に初めて制定された河川法は、治水を目的としたものでした。そ
れが昭和39年の新河川法の制定により、農業用などの水の利用を目的にした
ものに変わりました。そして、平成9年になってその一部が改正され、ようや
く生物に配慮した整備保全、に変わったのです。したがって、時代の流れは多
自然型に動いているといえるのです。
多自然型武茂川への僕たちの提言
武茂川のアユ・サケを上流にあげようプロジェクト
馬頭高校水産科が発信
町・県・地域住民・民間団体への
呼びかけ・訴えかけ
段階的長期計画で上流までの堰に魚に配慮した魚道を造成
初 期 5 年
合流点∼御前岩
那珂川合流点
中 期 5 年
御前岩∼新宿
後 期 5 年
新宿∼源流
源 流
これまでの研究を総合して、僕たちは武茂川を多自然型にすべく、ある提言
を考えだしました。
「武茂川のアユ・サケを上流に上げようプロジェクト」です。
このキャッチフレーズをぼくたち馬頭高校水産科が発信し、町・県・地域住民・
民間団体へと訴えかけ、段階的長期的計画で上流まで生物に配慮した川作りを
目指すというものです。十数年の長い月日をかけて、那珂川の魚を段階的に上
流までいきわたらせたいと考えます。
僕たちの願い
那珂川は海・川の豊かな恵みをもたらす、美しく、すばらしい川です。武茂
川も上流まで天然のアユ・サケが泳ぐ川であってほしい、それが僕たちの願い
です。ありがとうございました。
未発表の調査地点
旧小川町まほろばの湯付近の那珂川と那珂川合流地点∼武茂川新
宿付近を調査 H17.5
久那川 H17.5
久那川は最低のドブ川でした。底にはコンクリートブロックむき出し、護岸
が高く急でコンクリート固めの三面張り。水は濁り流れも直線。かろうじて底
に草が生えている程度。ドウシヨウモナイ。
武茂川藤沢付近 H17.6
武茂川藤沢辺りの崩壊した堰、直っていた。急いで即席に造った感じだ。コ
ンクリートでガチガチ
那須町つり天国付近 H17.6.26
とても自然にあふれていました。
旧黒羽町ぽっぽ農園上流 H17.7
おかしな所だったので撮りました。コンクリートで固めたところに不自然に
石が並べてありました。
まほろばの湯裏手の堰 H17.7
増子組合長のお話にあった、もくしょうで造った堰の成功例があるというの
で見に行きました。ですが、もくしょうには水が流れておらず、何回もの洪水
のせいかすでに崩壊していました。左岸には水門があり魚道が造られていて、
水が少なくても流れは速く活用されていません。
那珂川と箒川の合流地点 H17.8.1
箒川上流で雨が降ったらしく、水が濁り那珂川の水と交わらないのがよく見
えます。普段は交わって見えるようでも、本当は交わっていないのだと思いま
した。(いずれ交わる)
上記と同じ日、よく整備されています。
大田原市百村
H17.8.4
ここではカモが住み着いています。平成 17 年 12 月 10 日に見たときにはまた
改修工事を行っていました。よりよくするためだと思いますが、せっかく自然
になじんだところを壊さなくてもいいと思います。
護岸に植物が生え、花もありきれいです。
ここは美原という所で当時は工事中でした。川の流れを変えて学校の横を流れ
るようになりました。子供たちにとっても川遊びが身近な存在になると思いま
す。
川は最後には埋められて、埋もれたところやコンクリートの穴から水が噴出
していました。おもしろい光景でした。
一つ欠点があります。川が埋もれたすぐ上の道路は、設計ミスのためか一定
の区間が低くなっており、大雨が降ると水が溢れ出し道路が川と化してしまい
ます。前の写真は雨の降った数日後でまだ水が残っています。
大田原市宇田川、不動川 H17.9.11
見つけました。西鬼怒川の堰と同じ仕組みの堰を、やはりわきから水を引い
ていました。
西鬼怒川地区 谷川
H17.9.16
あの谷川でさえ変なものがありました。複雑な水門です。横には魚道があり
ましたが、明らかに遡上降下の妨げです。
西鬼怒川 H17.11.5(H17.9.2 写真)
以前に出た西鬼怒川ですが、平成 17 年 11 月 5 日に見たところ水が無くチョ
ロチョロト流れていました。通りかかっただけなので写真はありません。水田
が終わったので水を止める農業のためだけの川という事が改めてわかりました。
みなさんも興味がありましたら川を見てみてください。川だけにとどまらず、
新しい発見に出会うかもしれません。みなさんが少しでも身の回りの自然に
興味を持っていただけるきっかけとなれば幸いです。最後まで読んでくれた
方本当にありがとうございます。俺の研究は続くのです。
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