Comments
Description
Transcript
10/3
代数学2(環論)演習の解説 (10/3) 落合理 I. まず, 0R = 0R (−b) = (a − a)(−b) = a(−b) + (−a)(−b) が成り立つ. 最後の等式で分配法則を用いたことに注意する. また, 0R = a0R = a(b − b) = ab + a(−b) が成り立つ. やはり最後の等式で分配法則を用いた. 2 つの式を合わせて, 0R = −ab + (−a)(−b) を得る. 両辺に ab を加えて欲しい結論を得る. II. (1) 一般性を失わずに, 結合法則より, m ≥ n と仮定する. 結合法則を用 いて, xm · xn = (xn · xm−n ) · xn = xn · (xm−n · xn ) = xn · xm を得る. (2) n に関する帰納法で示す. n = 2 のときは, (2x)y = (x + x)y = xy + xy = 2xy より正しい (2 番目の等号で分配法則を用いた). 次に, n ≥ 3 として k = n − 1 まで正しいと仮定すると (nx)y = (x + (n − 1)x)y = xy + ((n − 1)x)y = xy + (n − 1)xy = nxy となる (2 番目の等号で分配法則を, 3 番目の等号で帰納法の仮定を用いた). 以上で証明が終わる. (3) x はベキ零元より xN = 0R となる自然数 N が存在する. a = 1R + x が単 数であることを示すためには, ab = ba = 1R となる元 b ∈ R をみつければよ い. b = 1 − x + x2 − x3 + . . . + (−x)N −1 とおくと ab = ba = 1R となるので a は単数である. III. (1) (R1) を示す. ∀f (X) = a0 + a1 X + . . . an X n ∈ A[X] に対して, 0R + f (X) = (a0 + 0) + (a1 + 0)X + . . . + (an + 0)X n = f (X) となる. 全く同様に, f (X) + 0R = f (X) もわかる. 以上で 0R が加法の単位 元であることが確かめられた. ∀f (X) = a0 + a1 X + . . . an X n ∈ A[X] に対 1 2 代数学2(環論)演習の解説 (10/3) して, g(X) = (−a0 ) + (−a1 )X + . . . + (−an )X n とおくと f (X) + g(X) = g(X) + f (X) = 0R となる. よって加法の逆元の存在が示された. f (X) = a0 + a1 X + . . . + an X n g(X) = b0 + b1 X + . . . + bm X m h(X) = c0 + c1 X + . . . + cl X l を A[X] の元とする. 0 ≤ i ≤ max(l, m, n) とする. (f (X) + g(X)) + h(X) の i 次係数は (ai +bi )+ci , (f (X)+g(X))+h(X) の i 次係数は ai +(bi +ci ) である. A が環であり, 加法の結合法則がみたされるので (ai + bi ) + ci = ai + (bi + ci ) が成り立つ. 全ての次数 r で係数が等しいので (f (X) + g(X)) + h(X) = (f (X) + g(X)) + h(X) が従う. (R2) を示す ∑. 上と同様に f (X), g(X), h(X) を定めるとき, f (X) · g(X) の p 次係数は i+j=p ai bj である. よって, (f (X) · g(X)) · h(X) の r 次係数は r ∑ ∑ ai bj cr−p p=0 i+j=p 0≤i,j≤p となる. 同様に, f (X) · (g(X) · h(X)) の r 次の係数は r ∑ q=0 ∑ aq b c j k j+k=q 0≤j,k≤p となる. どちらも ∑ ai bj ck i+j+k=r 0≤i,j,k≤r と表される. 全ての次数 r で係数が等しいので (f (X) · g(X)) · h(X) = f (X) · (g(X) · h(X)) が従う. (R3) を示す. f (X) · (g(X) + h(X)) の r 次の係数は, ∑ ai (bj + cj ) i+j=r 0≤i,j≤p である. f (X) · g(X), f (X) · h(X) の r 次の係数は, それぞれ ∑ ∑ ai bj , ai cj i+j=r 0≤i,j≤p i+j=r 0≤i,j≤p である. 可換環 A において分配法則が成り立つので, ai (bj + cj ) = ai bj + ai cj 代数学2(環論)演習の解説 (10/3) 3 が得られる. 全ての次数 r で係数が等しいので f (X) · (g(X) + h(X)) = f (X) · g(X) + (X) · h(X) が従う. (R4) を示す. 1R は, b0 = 1, b1 = b2 = . . . = 0 なる係数を持つ多項式である. ∀f (X) = a0 + a1 X + . . . an X n ∈ A[X] に対して, 1R · f (X), f (X) · 1R の r 次 の係数は, いずれも ar b0 = ar である. よって, 全ての次数 r で係数が等しい ので 1R · f (X) = f (X) · 1R = f (X) が従う. (2) deg(f (X)) = n ≥ 0, deg(f (X)) = m ≥ 0 とすると, f (X) = a0 + a1 X + . . . + an X n (但し, an ̸= 0) g(X) = b0 + b1 X + . . . + bm X m (但し, bm ̸= 0) となる. f (X)g(X) の m+n+1 次以上の係数は 0 であり, m+n 次の係数は an bm となる. 体は整域であるから, an bm ̸= 0 である. よって, deg(f (X)g(X)) = m + n を得る. (3) f (X)g(X) = 1R とすると, deg(f (X)g(X)) = deg(f (X))+deg(f (X)) = 0 となる. f (X), g(X) は零でないので, deg(f (X)), deg(f (X)) ≥ 0 であること に気をつけると deg(f (X)) = deg(f (X)) = 0 でなければならない. よっ て, f (X) ∈ U (R) ならば, deg(f (X)) = 0, つまり f (X) ∈ K × である. 逆に, deg(f (X)) = 0 のときには f (X) = a0 ̸= 0 であるから, 0 次多項式 g(X) = a−1 0 が f (X) の逆元となる. 以上で U (R) = K × の証明を終わる. (4) f (X) ̸= 0, g(X) ̸= 0 とする. このとき, deg(f (X)g(X)) = deg(f (X)) + deg(f (X)) ≥ 0 であるから, f (X)g(X) ̸= 0 となる. よって, K[X] は整域と なる. IV. (1) 12 を単位行列とする. X ∈ M2 (C) に対して, XY = Y X = 12 な る Y ∈ M2 (C) が存在するための必要十分条件は, detX ̸= 0 なることである. よって, 答え: U (M2 (C)) = {X ∈ M2 (C)|detX ̸= 0} (2) X ∈ M2 (C) とする. M2((C) の勝手な行列は三角化可能より , A ∈ U (M2 (C)) ) a b が存在して, AXA−1 = となる. a, d が X の一般固有値である. 0 d detX = (ad ̸= )0 のときは, (1) でみたように ( )X は単数となる. a = 0 のと 1 0 0 b きY′ = , d = 0 のとき Y ′ = とおくと AXA−1 Y ′ = 02 と 0 0 0 −a なる. Y = A−1 Y ′ A とおくと, AXA−1 AY A−1 = AXY A −1 = 02 である. 両辺に左から A−1 , 右から A を掛けると XY = 02 となる. よって, 答え: 左零因子全体の集合は {X ∈ M2 (C)|detX = 0} 4 代数学2(環論)演習の解説 (10/3) ( ) a b (3) X ∈ M2 (C) とする. (2) と同様に三角化可能 = を考え 0 d る. X がベキ零元となるための必要十分条件は AXA−1 がベキ零元となるこ とである. 計算により, これは a = d = 0 であることと同値である. よって, AXA−1 答え: ベキ零元全体の集合 = {X ∈ M2 (C)|X の全ての一般固有値が 0}. V. (1) 答え: U (R) = {f (x) ∈ R | ∀a ∈ R で f (a) ̸= 0} (2) 答え: R の零因子全体の集合は, (f (x) に依存する) 空でない開区間 U ⊂ R があって f (x)|U が恒等的に 0 となるような f (x) ∈ R の集合である. (3) 答え: R には 0R 以外の零因子は存在しない.