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刑事弁護活動の日常と刑事弁護士論の展開:『刑事専門
Kobe University Repository : Kernel
Title
刑事弁護活動の日常と刑事弁護士論の展開 : 『刑事専門
』弁護士の観察研究によって(The Reality of Criminal
Defense Practices in Japan : An Observational Study on
Criminal Defense Specialists)
Author(s)
畑, 浩人
Citation
神戸法學雜誌 / Kobe law journal,48(2):357-412
Issue date
1998-09
Resource Type
Departmental Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
publisher
DOI
URL
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81004895
Create Date: 2017-04-01
刑事弁護活動の日常と刑事弁護士論の展開
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一九九八年九月
人
第四八巻第二号
本稿の視角
従来の刑事弁護士研究とその方法論上の問題
プロフエツション内部の﹁専門分化﹂
観察の経緯と問題点
観察の経緯
今回の調査に伴う方法論上の問題
観察対象の素描
取扱い事件について
r
告
神戸法学雑誌
ー﹃刑事専門﹄弁護士の観察研究によって│
次
、》〆
本稿の目的
目
依頼者との関係
次
回
刑事弁護活動の日常と刑事弁護士論の展開
一
一
一
一
一
一
第四章
第三章
第二章
第一章
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ナ
法
戸
神
第五章
刑事弁護業務の経済的基盤
捜査・訴追機関との関係
裁判所との関係
弁護士間の関係
役務の質的評価
活動スタイルの形成過程
結論と合意
﹁刑事専門﹂弁護士の形成における依頼者層の変貌と活動スタイルの価値中立性
弁護士の専門分化とプロフエツション性
︿参照および引用文献表﹀
本稿の目的
た領域への関与を組織的に増大させることによって、刑事裁判全体を改革していく糸口にするというシステマティ
獄など)を個別に取り上げて刑事司法の運用改善を求める以外に、刑事弁護という活動の余地が大きく残されてい
て、一九八 0年代末から弁護士会の対応姿勢が変貌した。それは、実務上の諸問題(菟罪事件、接見交通、代用監
弁護士の活動のなかでもとくに刑事弁護については、改革志向をもった意欲的な弁護士と弁護士会の努力によっ
士研究に対する合意を引き出そうするものである。
域における弁護士の活動スタイルとそれを取り巻く環境とを描き出し、そこから刑事弁護活動の将来と今後の弁護
本稿は、刑事専門弁護士の事件処理行動を直接観察することによって得られた知見を基に、専門分化した活動領
第一章
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.
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ツクな取り組みであり、現在もそのプロセスは進行中である(日本弁護士連合会一九九六)。
このような実務の動向に対応して、すでに筆者は、刑事弁護役務を研究対象として短期間の法廷観察と面接調査
を実施し、刑事弁護役務全体に携わっている弁護士たちの存在形態が刑事事件への関与の目的や程度において多様
なものであることを報告し、その類型化を行っている(畑一九九三、一九九四)。そこで、今回は、すでに抽出し
た刑事弁護士類型の中から、量と質の両面において刑事弁護役務の最も重要な担い手となっているにもかかわら
ず、その特異性のために等閑祝されてきた﹁刑事専門﹂弁護士層に対象を絞って、新たに観察調査を行った。その
結果、﹁刑事専門﹂弁護士の中にさえさらにいくつかの類型が存在し、従来みられた﹁検察官出身型﹂の活動スタ
イルに、﹁新左翼系の労弁出身型﹂と呼ぴうる新たなスタイルが加わっていることが判明した。すなわち、刑事弁
護という領域で、一見相反する活動スタイルが棲み分けを行いながらも若干の競争を展開していたのである。
ところが、日本においては、弁護士の専門分化が語られることに対して規範的な抵抗があれ、とくに刑事専門弁
護士については、その存在についてさえ言及がなされることは少ない。しかし、プロフエツションが専門分化して
いくことは、社会変動を前提とすれば必然であり、基本的には肯定的に評価すべき現象である(冨8558Lω デ
FSBBDS∞
NL∞・和田一九九八)。現状の専門分化が社会に存在する弁護役務の需要に対応する形で機
出oEN 骨
能的に進行していると考えれば、本稿の知見は、すでに始まっており将来さらに進行するであろう弁護士人口の拡
大と、弁護士の業務領域の改善・開拓とを実現するにあたって、有益な示唆を与えるはずである。
そこで、本稿は結論として次のとおり主張する。
刑事弁護への関与は、弁護士として当然の責務であると一般に考えられているが、実際には弁護士各人の個性
への関与を増進させる方策を検討する場合、従来なされてきた規範的または経済的な観点からの説明と提案ばかり
を反映して特別に選択されている。したがって、現在刑事弁護を担当していない弁護士も対象に含めつつ刑事弁護
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ではなく、各弁護士の職歴と主要な依頼者層の性格といった社会的諸因子を充分に考慮した上で説明と提案がなさ
れなければならない。
凶刑事弁護という確立した一つの実務分野の中においてさえ専門分化が存在しているという事実は、当該実務分
野において、一方では弁護技術上洗練された最先端の部分が存在し、他方では通常の事件処理から取り残された周
辺的部分とが存在することを意味する。したがって、専門分化の存在は、最先端部分の水準に達していない一般弁
護士を啓蒙する一方で、﹁汚れた﹂仕事を選別し回避している弁護士たちを批判する意義をもっ。
以下、第二章で刑事弁護に対する本稿の視角を提示し、第三章で今回行った観察の経緯を提示する。第四章では、
観察から得られたデ lタ を 各 ﹁ 刑 事 専 門 ﹂ 弁 護 士 ご と に 整 理 し た の ち 、 刑 事 弁 護 の 専 門 性 の 内 容 、 専 門 役 務 を 提 供
﹁取扱い業務﹂しか表示しては
する主に四つの活動スタイル、及びそれらが形成された過程を描写する。最後に第五章で、刑事専門弁護士の専門
広告・宣伝の禁止という観点から、日本では弁護士の専門表示は許されておらず、
性と活動スタイルが刑事弁護士論と弁護士論一般に対してもつ合意を提示する。
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ならないとされる(日本弁護士連合会弁護士倫理に関する委員会一九九六一五 O) 。建設的な広告解禁論としては、
本稿の視角
棚瀬(一九八七一一一九 1 二二六、 一六一 1二OO) 、和田(一九九八)がある。
第二章
一従来の刑事弁護士研究とその方法論上の問題
刑事弁護という法的役務は、日本の法社会学において久しく顧みられることがなかった。しかし、一九九 0年 代
に入ると、前記の実務動向へ敏感に反応して、弁護士会による質問票調査や村山虞維教授による調査報告が現れる
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よ う に な っ た ( 千 葉 大 学 弁 護 士 業 務 研 究 会 一 九 九 O、村山一九九二、
一九九五、
一九九六 a、 一九九六b、
一九九七)。また、一九九五年からは、法律学者と実務家とが協力・提携して﹃季刊刑事弁護﹄(現代人文社)と
称する専門誌も発行されるようになり、実務家による事例の報告と分析の集積が進み、理論的にも技術的にも大幅
な進展が見られる。その結果、刑事弁護とその専門性に対する従来の評価は、現在見直されつつある。
もっとも、法社会学的考察としては、刑事弁護に携わる弁護士の社会学的属性が十分に考察されてきたわけでは
ないし、依頼者との関係の日常的な具体像も充分に検討されているわけではない。また、方法論的にも、従来の調
査研究にはかなり改善の余地があるので、問題点をいくつか指摘してみる。
社会現象の調査において主として使われてきた方法は、質問票、面接、および観察である。これらのうちで最も
頻繁かつ容易に実施できるのは質問票調査であって、これまでに日本で行われた刑事弁護活動の調査研究において
は 、 そ れ が 主 要 な 方 法 と な っ て い る ( 千 葉 大 学 弁 護 士 業 務 研 究 会 一 九 九 O、 村 山 一 九 九 二 、 一 九 九 五 、 一 九 九 六
a、一九九六b) 。しかし、この方法では、実際の活動場面における弁護士の状況認識や、弁護士の特性その他の
多様な要因と現実の行動との関連性や、各要因の説明力を検討することはできない。そこで、さらに面接調査を補
足することによって、弁護士自身から行動の事後的な説明を受けようとする(村山一九九五、一九九六 a
) 。とこ
ろが、そのような事後的説明が具体的な行動場面での現実を伝えるものであるという確証はない。したがって、実
務の現場を観察して具体的な事例を収集し分析対象として確定するという基礎的な作業が必要となる。そのために
筆者は観察研究を行い、より一層実証的に議論を組み立てようとした。それが本稿の方法論的立場である。
また、従来の研究が行っている規範的評価に伴う問題点も指摘しておきたい。たとえば、かなり詳細に行われて
いる面接調査であっても、分析の段階では、回答者自身の視点よりも分析者の視点から加工され解釈されることが
一般的である。そして、実務の現場からみれば誤解に近いような数字の解釈も散見される。さらに、当番弁護士制
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度や国選弁護制度の実態の評価として、(いつ)接見に赴いたか、受任をしたか、黙秘権を告知したか、準抗告を
したか、証人を呼んだか、などといった法律上可能な行動の有無を調べ、結論として、本来なされるべき活動がな
されていないのでそれらを行うべきだという趣旨の提言を行う研究報告も存在する(大出一九九四、川崎
一九九五)。しかし、これは、理論上可能なことと実務上行われていることとの聞に当然生じる差異を指摘するギ
ャップ研究にすぎない。法社会学的には、そのような差異の生じる要因や要因間の複雑な関係を解明したうえでな
ければ規範的評価を下すことはできないはずなのであって、取り組まねばならない作業はまだ多い。
そこで、筆者は、具体的なケ l スを分析単位として、﹁良質な﹂弁護役務が日常的にどのようなプロセスを経て
供給されていくのかを確定し、今後の評価基準となる基本的な行動パタンを確定しようと考えた。そのためには観
察調査の実施が不可欠なのであった。
すでに筆者は、一九九一年に行った短期間の集中的な法廷観察と面接調査を基にして、二つの都市での知見か
ら、刑事弁護活動全体が一般にどのような弁護士たちによって担われているのかを解明しようと試みている(畑
一九九一二)。その研究において、刑事弁護に携わる弁護士たちは、主要な選任形態と事件負担の程度から、六つの
類型に整理された。そのうち、活動時間の七割以上が主に私選の刑事事件に投入されるという集団を、類型①﹁刑
事専門﹂と定義した。その他、数量的基準によって、類型②﹁国選専門﹂、類型③﹁刑事密着﹂、類型④﹁刑事接
近﹂、類型⑤﹁国選中心﹂、類型⑥﹁私選限定﹂という分類がなされ、刑事弁護役務の全体像と各類型の特徴を把
握した。
先に指摘したように、現在の実務では、役務の供給拡大のために、当番弁護士制度の設立・拡充、それと関連し
て役務供給の支援態勢強化、刑事弁護センターの組織化、日本型公設弁護人事務所の実験的開設(棲井一九九八)
などの企画が着々と進んでいる。この動きを筆者の枠組みでまとめれば、類型③﹁刑事密着﹂のベテラン層が、類
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型④﹁刑事接近﹂と類型⑤﹁国選中心﹂内の新規参入者を日常的に動員して、役務強化の動機付けを与える一方、
類型⑥﹁私選限定﹂の刑事弁護無関心層は、必要が感じられた場合に、活発な弁護士の能力ある人材と技術的知識
を利用するという構造になる。残る類型②﹁国選中心﹂の高齢者は、あまり好意的に評価されないことが多いが、
実際には弁護の比較的容易な底辺の事件処理を担当しているので重要な存在意義を有する。そして、類型①﹁刑事
専門﹂弁護士は、類型③と同じく啓蒙的な役割を担うこともあるが、活動の中心は個々の事件処理自体にある。そ
の事件処理過程には、検察官出身の弁護士による謝罪型の弁護スタイルと学生運動経験者による闘争型の弁護スタ
イルとが窺われたものの、短期間の法廷観察と面接調査では、それら活動スタイルのダイナミクスを把握するまで
には至らなかった。そこで、より一層厚い記述と定性的分析を目指して今回の研究が計画・実施されたのである。
プロフ工ツション内部の﹁専門分化﹂
日本におけるプロフェッション研究の先駆者である石村(一九六九一一 O二)は、プロフエツション内部でさら
に具体的活動領域が細分化する現象を﹁専門分化﹂と定義する。そして、弁護士業務の場合、法領域ごとや依頼者
別の分類が存在するものの、それは医師の場合ほど明確な専門分化ではないとする。また、専門分化の要因として
は、主観的要因(弁護士・依頼者関係)と客観的要因(法的知識の量的・質的変化)があり、プロフエツションに
は社会一般に奉仕する使命がある以上、専門分化はプロフエツシヨンに内在する固有の法則であるとする(同一
D
その他にも専門分化の推進力として、プロフエツション内部における競争と外部に対する
二二二)。さらに、専門分化のビジネス的側面として、仕事の種類の固定化による依頼者数の確定、経費の節約な
どの利点があるという
職域競争とが挙げられる(同一一一一六)。本稿では、日本の刑事弁護において実在する専門分化を、このような石
村の視点にそって理解する。石村の視点は、その先駆的地位にもかかわらず後続の研究者によって充分に活用され
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たとは言い難いのであって、その応用は法社会学者の使命である。
本稿で、とくに﹁刑事専門﹂という弁護士類型を検討対象として選択する独自の意義は二つある。
第一の意義は、専門的な活動現場においてこそ当該分野の特徴や問題点が最も顕著に表われることである。専門
的に活動している者による実務の運用を具体的に把握し分析すれば、当該実務分野全体に対して適用可能な評価基
準が獲得されるであろう。これは定性的な分析をする上で有意義である。
第二の意義は、﹁刑事専門﹂という弁護士類型が実在しているにもかかわらず論究の対象とされることが少なか
った状況を克服することである。日本の弁護士に関しては、一般に、専門分化の存在自体を否定する実務家の見解
がある(座談会一九九一一八五、野開発言、池本一九九四一一一一一五)。とくに刑事弁護に関しては、たとえば石田
(一九九一)は、刑事事件の専門家は職業として成り立たないとし、刑事事件を多く扱う弁護士がいるとしても刑
事事件専門の弁護士と呼ぶべきではないとする。そして、すべての弁護士が業務の一部として分担していく方向を
主張するのである。また、刑事弁護の専門化の可能性に言及がなされた場合であっても、それは、アメリカの公設
弁護人制度を想定して、公費による刑事専従の弁護人制度の創設を提言するものである(荒木一九九一二一二二四、
笠井一九九三一一九 O、後藤一九九六一一六二)。しかし、部分的ではあるにせよ﹁刑事専門﹂弁護士は現に存在
しえているのであるから、新たな制度の導入を検討する以前に、現行制度の下での刑事弁護活動の展開可能性を検
討する余地がまだ残されているのである。
そこで、本稿で考察対象となる、日本の弁護士というプロフエツション内部においてすでに実在する専門分化
が、二つの社会関係を示していることを指摘しておく。
その第一は、刑事実務に全執務時間の七O %以上を投入する﹁刑事専門﹂弁護士が存在するという点で、弁護士
相互間に分業という社会関係が存在することである。その第二は、﹁刑事専門﹂弁護士の主要な依頼経路ないし選
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任形態が国選ではなく私選であるという点で、
一定の依頼者層・支持基盤が存在し、したがって、弁護士と一般市
民との聞に、固定客層の形成・維持という相互依存の社会関係が存在することである。
ここで専門性の具体的内容をなすのは個々の弁護活動であって、それらの日常的反復によって構成されるものを
本稿では﹁活動スタイル﹂と呼ぶ。弁護士の﹁専門性﹂とはパそのように客観的に認識される質的差異なのであっ
て、単なる相対的差異でしかない﹁得意分野﹂として主観的に認識されるだけのものではない。、つまり、﹁刑事専
門﹂弁護士は、刑事事件への現実の関与において突出した存在なのであって、その意味で識別可能であり抽出可能
なのである。そして、彼らは、依頼者層から良質の役務を提供しているという評価を受けた上で依頼を受けており、
それに対して再び期待にそった役務を提供することを反復継続することによって、業務の経済的基盤を確立してい
るのである。かくして、﹁専門性﹂と﹁活動スタイル﹂は安定していく。本稿の分析は、このような﹁刑事専門﹂
なお、様々な学術分野におけるフィールドワークの体験例については、須藤(一九九六)が詳しい。日本の法社会
観者として非参与観察をすることが多かった。
者は、弁護士に同行することで実務の現場に参加する機会をもったが、実務教育を受ける司法修習生とは違って、傍
観察調査の意義(確証の獲得、合理化の排除など)については、福武(一九八四一一一一一一 1 一一八)を参照。観察
かわらず、そのような属性を独立変数または従属変数として操作し分析する可能性には考慮を払っていない。
一O件を越える者が四名も含まれ、また、そのうち一人は五 O年以上にわたって刑事事件専円であったというにもか
二二三)も参照。ただし、荒木(一九九三二八五)は、調査対象の三八名の弁護士のなかに刑事の手持件数が
刑事弁護の専門性強化につき、後藤(一九九六)、笠井(一九九三二八九)を参照。また、荒木(一九九三一
弁護士像を明瞭に提起するはずである。
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学研究においては、重厚な警察研究(宮淳一九八五、村山一九九 O) などを除き、法役務提供機関の日常的な役務供
与過程の観察という調査手法を採用した例は少ない。
たとえば村山(一九九六 a 二一五)は、国選弁護活動と私選弁護活動の違いとして、まず﹁最初に行う活動﹂を挙
げ、国選では記録閲覧謄写、私選では起訴後であっても面会と、全く異なることを指摘して、これが選任形態に対応
者に対する誠実義務と弁護人の真実義務とのバランスが後者に傾きすぎる、という倫理上の危慎を表明している。な
捜査機関等への積極的供述を勧めるか、黙秘権の行使を勧めるかについて、生粋の弁護士との差異が生じるし、依頼
て、弁護士の笠井(一九九三二八人)は、右のような見解を踏まえた上で、検事退官者の場合、被疑者・被告人に
に取扱ってもらったり、保釈についても早く出してもらえる、という利点に対して否定的な評価を下している。そし
田 ( 一 九 八 九 二 O三)は、ヤメ検が検察官時代の﹁顔﹂を使って警察・検察と接触し、起訴・不起訴の決定で有利
ここで無視されているのは、検察官出身の、いわゆるヤメ検と呼ばれる弁護士たちである。たとえば、弁護士の内
(一九九四一四一 O) も、ほほ同旨。
同様な違法捜査の手が及ぶのをチェックするために、暴力団員の弁護を引き受け観察しているのだ、という。若松
たとえば山之内(一九八四一四 O四)は、暴力団への捜査は違法捜査の最先端・集大成であるので、 一般市民へも
は、筆者の認識とほぼ合致している。
担当の若い年代と高齢者層、刑事弁護への情熱を絶やさない少数、検事退官者という四類型を提示している。これ
笠井(一九九三一一八六)は、村山(一九九二) の調査結果を援用しながら、刑事弁護の担い手として、国選弁護
ギャップ研究の限界と問題性については、和田(一九九六一一一二三)を参照。
護人の選任を受け、選任届を裁判所へ提出しなければ、記録謄写の手続さえできない点が考慮されていない。
する弁護士の考え方の相違を示すとしている。しかし、この評価は、私選の場合、通常、まず面会をして本人から弁
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﹁ヤメ検は取引をするし、ボルし:::。これが権力を腐敗させる﹂という否定的な意見を引用している。
お、荒木(一九九三二=一三)も、日本に存在する刑事専門弁護士はいわゆる保釈弁護士やヤメ検と呼ばれる人々で
あり、
これに対して、ジャーナリストの北村(一九七九)のように、尋問能力や法律論の展開によって、検察官出身の弁
護士が疑獄事件等の大型刑事裁判で活躍している例を肯定的に取り挙げる場合もある。具体的な活動例として、向江
(一九七四一二二O)、魚住(一九九八一三五八)も参照。
笠井(一九九三一一八五)は、例外的に刑事事件の継続的依頼があるのは、非合法集団または政治的党派によるも
のであり、弁護士会内外からの批判に耐え得る﹁確信犯的﹂な弁護士のみが携わるものと思われるので、平均的な弁
観察の経緯と問題点
た 。 当 初 か ら 、 具 体 的 な 目 的 はA弁 護 士 の 行 動 パ タ ン を 把 握 す る こ と で あ る と 明 言 し 、 観 察 期 間 は そ の 目 的 が 達 成
こともあって快諾を得た。そして、﹁最低﹂一 1 二 週 間 程 度 の 観 察 を す る 予 定 で 、 一 九 九 四 年 四 月 か ら 調 査 を 始 め
心を抱いていた。そこで、実験的に観察を試みたいとの申し出をしたところ、 A弁 護 士 が 筆 者 の 研 究 を 覚 え て い た
その弁護士の事務所が﹁飛び込み﹂の依頼も受ける方針をもっ﹁市民弁護封﹂事務所であると聴いて筆者は強い関
今 回 の 調 査 の 出 発 点 は 、 以 前 の 調 査 で ﹁ 刑 事 専 門 ﹂ に 該 当 す る と 筆 者 が 認 識 し て い たA弁護士である。とくに、
観察の経緯
本章では、今回行った観察の経緯と、その方法論上の問題について説明する。
第三章
とらえつつ、この﹁平均的な弁護士﹂という固定観念を脱しようとするものである。
護士への広がりをもっとは考えにくい、とする。これに対して、本稿は、将来の多様な方向への専門分化を肯定的に
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されるまでとなる旨、 A弁護士へ告げていた。しかし、現実に観察を開始してみると、観察しはじめた事件が二週
間で終結することはほとんどない点に気づいた。そこで、連続的な観察を二カ月ほど続けた後は、公判に係属した
事件の追跡を主たる目的とした。その結果、観察は断続的なものへと移っていき、集中的には一 O月まで、最終的
には翌年一月初旬まで、 A弁護士に同行して観察を実施することができた。
A弁護士は団塊の世代に属し、学生運動の経験をもち、検挙歴も有している。高裁不所在地の中規模弁護士会支
部に弁護士登録し、経営形態は弁護士三名の経費共同事務所である。刑事の手持事件は約三 O件であり、民事事件
も数十件抱えている。これは一見民事の仕事量の方が多いように思えるが、処理の速度という点を踏まえると、刑
事の方が民事よりも事件の入れ代わりが激しいため、二疋期間の投入時間としては、刑事の比重が七割以上という
ことになる。明け方に事件記録を読んで書面の起案をし、昼は法廷、夜は接見というのが典型的な一日の過ごし方
である。
次に、その問、法廷等で時折接触していたB弁護士へも同種の観察を依頼した。同年一一月から一カ月と短期間
ではあったが、集中的に事務所を訪問した。 B弁護士は、昭和一桁生まれで元検事正、中規模弁護士会本部に登録
している。刑事の手持事件は一 O件程度であり、民事事件も同じ程度の件数を受任している。
同様にして、二一月からは C弁護士の事務所を訪問し、翌年の初めまで観察した。 C弁護士は、明治生まれで戦
前は検察官をしており、戦後まもなく中規模弁護士会本部に登録し、刑事専門弁護士として開業し、現在に至って
いる。刑事の手持事件は一 O数件であり、民事事件は開業当初から取扱っていないという。全盛時には三 O件くら
いの手持刑事事件があったようであるが、観察したときはその直前に事件が減少し、年末の取締期間になってやや
件数が回復したところであった。事務所の処理態勢は旧式のままであり、和文タイプライターを使用して格調高い
文語調の書面を作成していた。ファクスもなかった。
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当初の予定では、筆者は長くとも半年間で観察を終える予定であった。しかし、予測したよりも長期間の観察が
必要であることに気がついたことと、 A弁護士から同世代の他の弁護士との比較も有意義なのではないかとの示唆
を受けたことから、年度末の翌年三月まで期間を延長して、さらに観察中に顔見知りとなった隣接都市の二人の刑
事 専 門 弁 護 士D ・E へも観察の依頼をした。この延長部分は、翌年の一月中旬から開始した。
D弁護士は団塊の世代に属し、高裁所在地である大規模弁護士会本部に登録している。刑事の手持事件は二 O数
件であり、数年前からは、捜査段階の刑事事件が連続して数件入ってくる際に民事も取扱っていると処理が煩わし
いため、民事事件はほとんど受任しない方針に切り替えたという。実際、民事の依頼が来ても他の特定の弁護士を
紹介していた。
三月初旬からは、 E弁護士の事務所を訪問した。 E弁護士も団塊の世代であり、大規模弁護土会本部に登録して
いる。刑事の手持事件は二 O件前後で、民事事件も一般に取り扱っている。 A弁護士と同様に事件負担が重いため、
深夜になるまで事務所で打合せや書面の作成をしたり、土曜・日曜にも接見を行うなどして調整している。なお、
観察を終えた直後の四月からは、より刑事に専念するために勤務弁護士を一名雇うこととなった。
このようにして、結果的に五名となった観察対象の弁護士がもっ主な属性をまとめたのが、表一である。
BD
中規模・本部中規模・本部大規模・本部
観察対象弁護士らの主な特性﹀
A
p
u
二一三 1 一四六
単独
労弁
団塊(四 O代)
二O日
大規模・本部
弁護士
一一一日二二日一三五日
所属弁護士会中規模一支部
O日
O代)
一九九五年三月
観察出動日数七
O代 一 団 塊 ( 四
元検察幹部一元検察官一学生運動、労弁
六 O代 一 人
単独一単独一単独
世代団塊(四
経歴学生運動、労弁
1一
一
一
一
一
一O件 二 五 件 一 二 五 件
1八 六 一 八 七
あり一なし一原則なし
登録
五六1六 五 一 六 六
平 均 手 持 刑 事 事 件 主δ 件
し な い 一 し な いす る
五五
民事事件の有無一あり
登録一登録
以下、本文では、ケ l ス番号として示す。
しない
あり
二O件
国選弁護一する
革新系弁護士
企業一法律家団体
未登録
当番弁護士一登録
保 守 系 弁 護 士 一 暴力
力団団関関
係係
一市民団体
今回の調査に伴う方法論上の問題
だし、観察とは言っても、個人の私的な関係が前提となっていたため、公式の資格をもった司法修習生とは違つ
こ の よ う に 、 約 一 年 間 に わ た っ て ﹁ 学 者 の 卵﹁
﹂
秘書
﹁﹂研 修 中 の 人 ﹂ な ど と 称 し て 非 参 与 観 察 を 実 施 し た 。 た
(
*
)
主要な依頼者層一暴力団関係
I1
経営形態経費共同
O代)
集中的観察期間一九九四年四:一()月 一九九四年一一月二九九四年二一月二九九五年一よ一月
C
表
観察事件番号(*)一
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て、警察や拘置所の接見室内などといった一般市民の立入禁止区域には入ることができなかった。したがって、せ
いぜい室内から漏れ聞こえて来る声、しかも弁護士側の発言のみを廊下で立ち聞きしているに過ぎず、また、電話
のやりとりも当然に弁護士側の話しか聞こえないため、記録されたものは全く片面的かつ断片的である。また、観
察対象の弁護士がコントロールできる範囲で傍聴させてもらった弁護団会議や依頼者との打合せにおいてもベ初対
面の依頼者や弁護士の前で公然と詳細なメモをとることは憧られる場合が多く、逐語的な記録はとることができな
5宏.同dggBSミ.および、離婚弁護士の研究ではあ
かった。外国の研究例を見ると、本来秘密であるはずの相談の現場に、依頼者に対する抵抗感なしに研究者が立ち
入っている(たとえば最近の観察研究として、冨
RS丘5
るが、∞R巳hwFZE258) の で 、 研 究 目 的 に よ る 機 密 性 の 解 除 は 今 後 実 現 し て い か な け れ ば な ら な い 課 題 で あ
る
。
しかし、本稿の目的は、事件事実の解明ではなく、対象である弁護士がもっ活動スタイルを把握することである。
つまり、弁護士論を展開するうえで、調査結果から抽出された活動スタイルにより、役務提供の人的・組織的構造
に対する理解が深まれば成功なのであって、調査方法や成果の厳密さは相対的なものである。したがって、日本の
刑事弁護研究の現到達段階においては、筆者の行った穏やかな様式による観察調査にも充分に意義がある。
ところで、観察調査に伴う最大の問題は、常態的過程への撹乱要素の問題である(福武一九八四一一二ハ)。つ
まり、観察対象である弁護士が観察者の存在を意識して行動に変異や偏りを生じさせてしまう危険の存在である。
しかし、今回の研究対象は実務経験の豊富な法律家のみであり、活動のスタイルはすでに確立されているので、観
察者の存在によってとくに日常の活動スタイルが崩れたということは少なかったと考える。
最後に、標本の代表性または事例の典型性という問題がある(福武一九八四二ハ六)。これについて、観察対象
の五名の弁護士たちは合法的な活動範囲を堅持していたと思われる。ところが、これに対して、刑事専門弁護士の
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周辺には、懲戒や検挙の対象となる可能性のある行為までもする﹁アウトロ l﹂も存在している。実際、それらの
弁護士は、観察対象の弁護士と顧客獲得や事件処理の面で具体的な競争(敵対に近い)関係にあったため、今回の
観察中に筆者が直接の接触を試みることは臨時跨しなければならなかったことを述べておく。これによって、比較的
順法的な役務を選択して観察したことになり、その限りで事例の包括性はやや減少している。この規範逸脱的事例
﹁市民弁護士﹂とは、大企業や富裕層ではなく一般市民を顧客対象として活動する弁護
朝日新聞(一九八七)、毎日新聞(一九八七 a、b) および譲責新聞(一九八七 a、b) によれば、自らが弁護し
働者側の弁護士﹁労弁﹂が、その活動の幅を広げたために改名したものであるという。
士のことである。なお、類似する概念として﹁民衆の弁護士﹂がある(塚原一九九六一八八)。これは、かつての労
A弁護士の説明によれば、
の包含という課題は、先に指摘した機密性の打破と並んで、今後克服すべき課題である。
(叩)
(日)
ている被疑者から依頼されて、指名手配中の共犯に逃走資金を渡し、犯人隠匿罪で書類送検され、また、別の銃万法
違反事件においても拳銃隠しの工作をした旨、公判で証言された弁護士がいる。なお、同弁護士は、送検の翌月に請
求退会して弁護士職を辞めている(現在は復帰)。
第四章観察対象の素描
本稿の着目点は、各弁護士の活動スタイルを抽出することにある。そのためにまず、弁護士の行動と、それに影
響を及ぼす諸因子を描写する。本章において記述される諸因子は主に視聴覚による観察を通じて把握されたもので
あり、それは具体的な事件と弁護士を取り巻く人間関係にほかならない。時系列上は、その意味での諸因子が、活
動スタイルに媒介されて取捨選択を受けつつ、具体的な行動に影響を及ぼしていると考える。そして、弁護士の行
刑事弁護活動の日常と刑事弁護士論の展開
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動とその結果は、当然、その諸因子、すなわち人間関係に立ち返って影響を及ぼすことにもなるため、この関連は
循環的で連鎖的なものとなる(畑一九九三一一一一五i 一一一七)。
以下では、諸因子を、取扱い事件の性格、依頼者との関係、業務の経済的基盤、警察・検察との関係、裁判所と
の関係、弁護士との関係、弁護活動の成果という項目に分けて描写していき、最後にそれらを各弁護士の活動スタ
イルとしてまとめる。
取扱い事件について
まず、刑事事件の取扱い量を件数から検討してみる。
観察開始時に各弁護士が受任していた手持刑事事件については、 A弁護士の手持刑事事件は通常三 O件前後、 B
(
ロ
)
弁護士は一 O件前後、 C弁護士は一 O数件、 D弁護士は二五 1三 O件
、 E弁護士は二 O件 前 後 で あ る と 考 え ら れ
る。また、観察中に依頼された事件については、 A弁護士の場合、七カ月で一三件の新規受任なので、年間の推定
受任件数は五一件、同様に B弁護士は年間二一件、 C弁護士は年間六 O件
、 D弁護士は年間一一一一件、 E弁護士は
年間四八件となる。しかし、 A弁護士以外は観察期間が短く、とくに C弁護士とD弁護士はそれぞれ年末と年始の
休み明けという時期であったため、普段よりもやや依頼が多かったようであり、その分を大幅に割り引いて考えな
ければならない。したがって、今回の調査では、手持件数の方が﹁行動スタイル﹂の指標としては適切である。
ちなみに、一人の弁護士が同時に担当しうる事件数については、二疋の推量が可能である。依頼者が起訴されて
公判に入ると、各公判期日まで二週間1二カ月間程度の間隔があく。また、争点の複雑な事件については、捜査段
階から弁護団を組み作業を分担して対処する傾向がある。そのため、捜査段階に被疑者が身体拘束下にある事件
は、最大で数件から一 O件の処理が同時に可能である。それに公判に係属している事件を合わせると、一人の弁護
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誌 乱珊
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土が同時に二 0 1三O件程度の刑事事件を処理することが可能である。とくに、民事事件も一般的に取扱っている
A弁護士と E弁護士の多忙さは顕著であり、早朝または夜間の休息・睡眠時間や休日の余暇を削って弁護活動に投
入しているという、まるで火の車のような状況であった。
次に、取扱う刑事事件の性質として、罪名についても言及しておく。
A弁護士、 C弁護士、 D弁護士は覚せい剤取締法違反事件の処理が最も多い(件数の約三分のこ。とくに営利
目的の事案が依頼される点に特徴があるが、数としては自己使用の事件も多い。また、暴力団関係の恐喝、銃砲万
剣類所持等取締法違反、暴行・傷害などの事案もある。カード詐欺や賭博関係なども暴力団関係の犯罪としては典
型的なものである。
これに対して、公職選挙法違反、贈収賄、横領・背任などの、いわゆるホワイトカラー犯罪の弁護依頼と受任が
比較的少ないのは、それらの事件が民事関係の顧問弁護士の方へ弁護依頼が行くためのようである(たとえば、逮
捕直後に個人的に依頼がきたものの、それよりも早く支援組織の方を通じて三人の弁護人がすでに選任されていた
ケ l ス一一五。以下、ケース番号は表一の観察事件番号と対応する)。また、事件内容が複雑な贈収賄、横領・背
任事件になると、 B弁護士やE弁護士は、事実分析や理論適用の専門能力を買われて企業や他の弁護士から依頼さ
れている点が目立った。
なお、 B弁護士の取扱い件数が少ない理由は、事案複雑な事件の分析を他の弁護士から委嘱されることがあり、
一件あたりの投入時聞が多くなる側面が存するからである(たとえば、観察後に控訴審において逆転無罪判決が言
い渡されたケ l ス六三)。実際、土曜・日曜も事務所に出勤して尋問の準備やデスクワ iクを行っており、多忙で
あった。
このように刑事専門弁護士は、他の弁護士と比較して刑事事件の取扱い量が非常に多く、また事件の性質にも明
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﹁常時三、四十人の刑事被告人を担当し、年
らかな特色がある。そこで次に、このような大量かつ特殊な事件の弁護を依頼してくる人々との関係を検討する。
当時日本最大の広域暴力団の顧問であった山之内幸夫弁護士の場合、
間百件近い判決の確定を見てきた﹂(山之内一九八四一四 OO) という。同氏の活動スタイルが﹁刑事専門﹂である
c
かどうかは不明であるが、この数字は、本稿の対象である A、 、D各弁護士と類似するものである。
一被には刑事の手持事件が一 O件を超えることは少ない。日本弁護士連合会業務対策委員会(一九八一一八二 i
(その他の)高
八七)111同(一九九こでは刑事の手持件数を提示していないため、本稿では一九八 O年の調査に拠っているーーー
によれば、刑事事件を一一件以上有している弁護士は、東京で一・一一一%、大阪・名古屋で二・三%、
件を超えていたという。
一一一一一)によれば、千葉の弁護士六七名中、刑事事件の年間受任件数が三 O件を超える者が三名で、うち一名は五 O
件を超える弁護士が札幌と青森に二名ずつ存在することになる。また、千葉大学弁護士業務研究会(一九九 O 一
間受任件数が五 O件を超える者はいないが、国選・私選それぞれで最も多い者が同一人物であるとすれば、年間三 O
ているが、国選事件と私選事件とを別々に提示しているので、各個人の正確な年間受任件数はわからない。刑事の年
なお、村山による調査(一九九六 a 一三 O四、二九六、二五四、二四六)では、年間新規受任件数として把握され
活動している三八名の弁護士のなかには、本稿で検討対象となっているスタイルの弁護士は存しないことになる。
五名いる。)検察官出身の弁護士が含まれていないこともあわせて考えると、結局、荒木の面接対象となった東京で
事事件が一 O件を超える弁護士が四名挙がっているが、 一番多い者でも一五1 一七件である(ただし、勤務弁護士が
裁所在地で五・五%、高裁不所在地で九・八%であるという。また、荒木(一九九三一一八五) の調査では、手持刑
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依頼者との関係
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刑事専門弁護士には、取扱う事件の罪名からも明らかなように、暴力団員およびその関係者や薬物密売関係者か
らの弁護依頼が多い。また、弁護士の世話や弁護費用の肩代わりは組織から組員への報奨・報酬であるという(警
察庁一九八九二一二、同一九允三二一一)。したがって、依頼経路を詳細に検討すると、本人からの依頼とその家
族や背後組織からの依頼とで、弁護士と依頼者との関係が異なったりする。
たとえば D弁護士が関与したケ l ス一一七では、まず被疑者の所属組織(暴力団)から依頼があり、﹁(刑事専
門ではない)若い弁護士でもいいから﹂とりあえず事件の内容││覚せい剤関連なのかどうか、そして覚せい剤の
自己使用(遊興)なのか営利目的所持等(仕事)なのかーーを確認してほしい旨の要望がなされる。早速赴いた初
回接見の際、被疑者本人は弁護人選任を断るが、事件内容の報告を弁護士から受けた組織としては弁護を依頼す
る。しかし、組織から届けたはずという弁護費用が到着しないため一時放置状態になる。その後、 D弁護士は気に
なって接見に赴き弁護人の選任を受ける。ここで本人が費用を捻出することになるが、家族関係が不安定で段取り
がうまく行かない。その問、警察としては、組事務所等に対する捜索差押令状をとるために、疎明資料として本件
被疑者の供述が必要であるから、組織への所属までも否認している被疑者を厳しく追及する。それに促されて、本
人から毎日のように接見希望の連絡がくるようになり、また、友人関係からも捜査の進行を心配した問い合わせが
弁護人のところへ連続的になされる。結局、友人が弁護費用を肩代わりすると申し出て、覚せい剤に関係していた
こと(所属組織の建前では禁止されている)がなるべく所属組織の関係者に広まらぬよう慎重に弁護活動を進める
ことで、依頼者本人向けの弁護方針が固まった。
これは、紹介者と依頼者の目的が交錯する例である。刑事手続の上では、被疑者・被告人本人の利益・権利の擁
護(日本弁護士連合会弁護士倫理に関する委員会一九九五一四四)が弁護活動の中心になるので、 D弁護士も被疑
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者に対して﹁それで、覚せい剤を入手したのは?これは言うてくれでもいいけど。(他の人に)一一百うてほしくな
0
・:僕だってOO会(暴力団名)の依頼で来ている・:あ
ければ僕は言わないし﹂と述べ、被疑者本人の秘密を守る姿勢を示している。しかし、その後すぐに、﹁(暴力団
幹部の) Tさんとしては、誰から入手したのかが知りたい
とは Tさんへ貴方のことを伝えなければならない﹂と当初の目的を告げる。つまり、二重の役割を背負って活動し
ているわけである。その後、紹介者である組織が弁護費用を拠出しないため、本人自身が依頼をし、﹁できるだけ
軽なるように・:できるだけ広まらんよう、大事にならんようしよう﹂という、組織と被疑者との聞に一線を画する
弁護方針が確立したわけである。
これに対して、初めての被疑者からの依頼の場合としては、 D弁護士のケl ス一一二が一つの典型である。ここ
では、接見に赴いて一通り話を聞いたところ、﹁拘禁ノイローゼ﹂気味ではあるが、弁解に明らかに不合理な点も
あるため、争点となるであろうポイントだけを指摘し、弁護費用の持参を受任の条件にして接見を終えている。お
このように、実際に受任までに至るには、組織的背景
そらくこのまま依頼はないであろう、というのがD弁護士の感想であった。そうであるとすれば、今回の接見に要
ω
o
した交通費と相談料は、弁護士側の負担ということにな
があったほうが容易であると言える。
また、同じ組織の人間から依頼があるということは、複数の共犯者から同時もしくは相前後して依頼がなされ、
利害相反の関係にあって両方向時には弁護できないことが認識された場合や、その可能性がある場合には、弁護士
倫理上深刻な問題が生じることを意味する(弁護士倫理二六条。日本弁護士連合会弁護士倫理に関する委員会
一 O七および一一八において、 D弁護士は、二件の弁護を依頼・紹介してき
一九九五⋮一 O六)。たとえばケ l ス
一一一一において、 D弁護士は二件とも独立開
た薬物密売人に対し、彼自身が逮捕された場合に弁護できなくなる可能性を警告した。そのような場合には、信頼
できる弁護士を一方に紹介しなければならなくなる(ケ l ス一一一、
旦A
業後間もない同じ若手弁護士へ共犯弁護の協力を仰いだ)。
さらに、依頼関係が複雑で困難な事態となる、もう一つの典型は、一人の被疑者・被告人に複数の弁護人が付く
場合である。たとえば A弁護士が関与したケ i ス二このように、本人がすでに弁護人を依頼しているにもかかわら
ず、組織や友人が独自に弁護の依頼をして、捜査や公判経過などの情報収集をするために他の弁護士を依頼し、都
合三名の弁護士が選任された例があった。しかし、そのような便宜的に依頼された弁護人は、あまり被疑者・被告
人本人のためには活動せず、最終的には被告人本人が依頼し選任した一人の弁護士 (A弁護士)が公判において必
要な弁護活動をする方向に収殺していった。
その上、組織・知人と家族と本人という、三者間の関係が複雑になって交錯することもある。たとえば、 A弁護
士と D弁護士によれば、知人が弁護士を紹介する場合、その知人が家族から預かった着手金より紹介料を無断で差
し引いてから弁護士に渡すこともあるという。そのような状況は、弁護士倫理二二条﹁依頼者紹介の対価﹂支払の
禁止に抵触する可能性がある。もちろん、そのような着服行為を直接に見聞する機会は弁護士自身にもないが、紹
介者が相場通りの着手金(一般に三 O万円前後)を執撤に値切ろうとする際には、そのような着服の意図が窺われ
るという (A弁護士)。
また、ここで注目しておくべきもう一つの事実は、弁護士を利用して手続上具体的に得られる効果以外に、
ることに気がついているだけに、依頼を断ることは紹介者の地位を庇めることにもなりかねず、逆に、弁護士の方
制・威嚇にもなり、外界と連絡の可能性をもつだけでも大きな意義があるという。弁護士側もそのような意味があ
ることは、拘禁場所内(主に留置場、拘置所。刑務所も含む)において同房者や取調官や留置管理官・看守への牽
行為や弁護費用の肩代りは手柄・功績となる。とくに紹介者が拘禁されている場合、弁護士を紹介しうる地位にあ
社会において弁護士を紹介する行為がもっている象徴的な意味である。弁護士の役務が希少財であるかぎり、紹介
般
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も紹介を断りにくくなると言えよう。
以上に述べたとおり、刑事弁護の依頼関係は、被疑者・被告人本人が有する社会関係によって左右される。とく
に刑事専門弁護士については、犯行や弁護依頼に組織的背景のある場合が多く、弁護方針が複雑化し処理が困難と
なる場合がよくある。
覚せい剤密売者と暴力団との密接な関係については、警察庁(一九九一一七 O) 、法務総合研究所(一九九五一
三一四)を参照。平成元年の暴力団の年間収入のうち、覚せい剤によるものが約三五%と第一位を占めており、ま
た、覚せい剤事犯受刑者の約六割が暴力団関係者である。
これは、弁護士にとっては、初回の接見後受任しない場合には交通費と日当が弁護士会から支給される当番弁護士
制度よりも、経済的に過酷な状況である。
一般論を批判した(畑一九九三二三三)。
態勢は、どのようなものであろうか。観察では報酬関係について完全には把握できないという限界はあったもの
それでは、刑事事件によって業務の経済的基盤を確立している﹁刑事専門﹂弁護士の実際の認識および事務処理
を考慮して、
一九九六二ヱハ)。それに対して、筆者はすでに、私選・国選の別、事案の性格、経営面での負担、提供役務など
刑事弁護という業務は一般に儲からないと言われる(荒木一九九三一一八九、笠井一九九三一一八五、小坂井
かし、弁護士自身にとっては、業務として弁護活動を行っている以上、経済的側面が当然重要な問題となってくる。
前節でみたように、弁護士を依頼するに至る経緯は、当事者の社会的・人格的な特性が色濃く反映している。し
刑事弁護業務の経済的基盤
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の、筆者が発見したのは、他の弁護士と比較して遜色なく事務所経営が成り立つという事実である。以下、各弁護
士のケ i スを若干提示して概観を得たあと、事務処理態勢の特徴を指摘し、他の弁護士と同等に事務所経営が成り
立っていることを示したい。
まず、 A弁護士の相場は、起訴前・起訴後の区別なく着手金が三 O万円(報酬規定では起訴後地裁合議の最低
額)であり、さらに刑に執行猶予が付くなどした場合の成功報酬が三 O万円であるというのが標準である。 C弁護
士も同様であった。ただし、 A弁護士の場合、観察の一年ほど前までは旧来の報酬規定のまま着手金を二 O万円に
設定していたが、若手の弁護士から、 A弁護士を引き合いに出されて依頼者に値切られるという苦情が出て、標準
の三 O万円に増額したという。このように、 A弁護士は、比較的安価に役務を提供してきたわけであるが、自分を
﹁安く使おうとする依頼者は嫌い﹂であり、単に一般市民を主要な顧客対象にして相応な請求をしているだけであ
一 O、二一
って、主観的にはことさら安価に役務提供を行うつもりはないという。その証拠に、他方では、ケ l ス
のように実刑になる可能性の高い事案において、一年以上にわたって事実関係を厳密に争った結果刑の執行猶予が
獲得できた場合、一 O O万円程度の報酬を得ていた例もある。また、国選事件でも﹁事案複雑﹂﹁準備充実﹂﹁弁
論充実﹂などという裁判所の評価がなされ、通常数万円のところが二 O万円もの報酬が出て弁護士のほうが驚いて
いた例もあった(ケlス七)。
しかし、私選であっても、否認事件のケ l ス
一 (A弁護士)では、以前からの依頼者であった同房者の紹介で捜
査段階で受任し、起訴直後に関係者から五万円を貰ったのみで公判審理が進み、数回傍聴にも来ていた被告人の兄
姉が受任後一年をへて、やっと法廷に持参したのがやはり五万円であった。結局、判決前後に残りの着手金二 O万
円程度を支払ってもらったとのことであるが、判決結果は実刑であったため報酬はなしであった。
これに対して、皮肉なことに、保釈の許可が出て判決でも刑の執行猶予が容易に付くような初犯者の比較的軽微
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な事件の方が、弁護活動も円滑に進んで報酬も確実に入るため、かえって儲かることになるという。また、国選事
件であっても、自白事件であれば、記録読み、接見、法廷出頭、弁論要旨作成などを合わせても実働数時間しか所
要していないので、国選の日当・報酬の数万円でも実費としてなら相当であると考えられている。
C弁護士の場合にも、逮捕前から依頼を受けて活動した私選事件(ケ l ス八五)において、九万円しか支払われ
ないことに対して、
事務員﹁追加ないみたい。ただ働きやわ。﹂
C弁護士﹁国選と一緒ゃなあ。保釈要らん (申請の予定がない)から、ええわ。﹂
というやり取りがあった。
また、ケ l ス七三の紹介者に対する電話では、次のような発言もあった。
C弁護士﹁ところで、俺とこの費用、誰が出すねん。本当は、どこの弁護士も先銭ゃないと動きよらへんぞ。こな
いだもバパかけられて(只働きさせられて)、 OO(地名)警察行け言うて行ったら、﹃(弁護は)もう
いいです﹄言うて、その後、金もって来よらへん。:::(本件は)OO(支部所在地)の事件ゃから大変
OO(本庁所在地)やったら、ウチとこ裁判所の
や。タクシー乗ったり、身銭切ってまで行くの嫌やぞ。
前で、すぐや。只や。本人(は金を)もっとる? ちゃんとしてくれよ。:::ゼニ一銭もなしで走り回る
のしんどいぞ。こないだもパパかけられて。:::いや、ウチとこの金や。それなら国選の方が得や。国選
やったらゼニくれるよ。ちゃんとしてくれよ。﹂
事務員の感想﹁Nさん(紹介者)、電話ばっかりやわあ。自分の時は誰か(着手金)持ってきはったけど。:::先
生やったら(お金を)持って行かんでも動いてくれはるって、みんな知つてはるねん。﹂
このように、私選事件の着手金または報酬がゼロから一OO万円までとぱらつきが激しいため、手弁当で活動を
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強いられる私選事件の場合と較べれば、一般に安価とばかり強調される国選事件の方が確実な収入源になるという
特異な認識が、ときおり現実の問題として表面化してくるのである。
なお、 A弁護士は、民事の場合でも一般市民が顧客対象であって、億単位の訴額になるような高額の報酬が見込
まれる事件は依頼がないため、民事と刑事との差異があまり感じられないという。そもそも金員等を取り立てる原
告側からよりも、取り立てられる被告側からの依頼の方が多いからである。
このようなA弁護士の感覚に対して、 B弁護士の場合、事件数も少ないため、その分、事件報酬の単価が高いよ
うであった。たとえば、ケース二二二をA弁護士へ紹介するにあたって、着手金が五 O万円である点につき、 B弁護
士が﹁安くて悪いけど﹂と言及したとのことで、五O万円で安ければ普段はいくらになるのであろうかと、 A弁護
士が感心していた。ただし、 B弁護士は長期の任官生活を経ているので相応の年金が支給されており、とりあえず
事件報酬によって事務所経費程度が捻出できればよいという経営方針のようである。また、その方策としても、事
務作業は家族の協力を得ていた。
D弁護士は、着手金の標準額を四O万円に設定しているが、実際には三O万円に減額することも多く(略式命令
で終結したケ l ス一O九、覚せい剤使用関連のケ l ス 一 一 七 、 二 一 こ 、 実 質 的 に は A弁護士やC弁護士の場合と
類似している。とくに依頼者との関係が深くなってくると、勝手に依頼者の方で値切り、一O万円や一五万円しか
もって来ないことがある、と不満を述べていた。他方、依頼者の家族や組織的基盤が堅実かっ富裕であれば比較的
高額の着手金が支払われる。ケース一二ハの場合、着手金は一 O O万円であったとのことで、後に弁護団に参加し
たE弁護士へも同額が支払われたようである。
E弁護士の場合、着手金の標準は五 O万円であり、自己の提供する専門役務を考慮すれば当然の額であるとのこ
とであった。また、とくに争点が複雑な事件になると弁護団態勢をとる方針にしており、もう一人弁護士を付ける
刑事弁護活動の日常と刑事弁護士論の展開
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ために、もう五 O万円を準備させて合計一 O O万円を着手金として依頼者へ用意させるとのことであった。
このように、着手金・報酬の取り方にも各弁護士の個性が窺われるが、事件の内容や依頼者の性格によって獲得
できる収入の差は大きい。したがって、業務基盤の安定度を客観的かつ端的に把握するには、雇用しえている事務
職員の数が一つの指標となろう。日本弁護士連合会業務対策委員会(一九九一二三)によれば、弁護士一人当り
の事務員数は、単独経営の事務所で一・四九人であるという。つまり、一人か二人かに分かれるわけである。弁護
(白)
士一人につき事務員一人ならば標準的で、二人の事務員が付いているならば、その弁護士の業務量は多く、二人の
人件費を捻出できるほど﹁儲かっている﹂のである。
A弁護士の場合、弁護士三人の事務所に事務員五人の態勢であった。実質的には、他の二人の同僚弁護士よりも
圧倒的に A弁護士の業務量が多いので、常時事務員二人を使用している状況であった。 B弁護士は、家族二人の協
力を得ていたが、実質一名が常勤であった。 C弁 護 士 の 事 務 所 に は 、 観 察 の 半 年 前 ま で 事 務 員 二 人 態 勢 で あ っ た
が、都合で一人辞めて観察時は一人であった。しかし、観察中の筆者が走り使いや電話番をする必要に迫られる場
合も度々あり、業務が多忙な日には二名態勢を要する執務状態であった。 D弁護士の事務所は一人態勢であり、民
事を取扱わない分多忙さは緩和されていた。民事もする E弁護士の事務所は二人態勢であった。
以上、事務処理態勢の点から言えば、 A弁護士、 C弁護士、 D弁護士の場合、事件の性格によって得られる収入
にばらつきがあり、着手金を貰っていない旨を依頼者に接触する度に再三述べたり、また、得られるべき収入の不
足が口癖のようになっている。しかし、全くの只働きはごく少数であり、年間五0 1一O O件近くの刑事事件を処
理することで、事務所経営を継続できる標準的な収入は得ているのである。
これに対し、 B弁護士とE弁護士は、依頼者層の相違から比較的事件単価が高く、収入の入り方は安定している。
ただ、総じて刑事の場合、報酬が多いのは実際に時間と能力を投入した結果であって、さほど弁護活動をせず楽を
して利潤を得ることができる場合は稀で、一件あたり数十万円程度である。着手金以外の報酬が得られにくい実刑
事案も比較的多い。しかし、そうであるからといって現在以上に事件負担を増やすことはできないのであって、現
在の執務態勢が限界ではないかと思われる。したがって、収入面での発展可能性は少ないと言える。
(渇)
ちなみに、これらの弁護士が刑事専門として事務所を経営して行くことができるのは、地域の犯罪発生状況と関
本稿の観察対象となった五名の弁護士の事務所所在地である三つの都市のうち、 一つは犯罪発生率が全国でトップ
手が不足し、三人体制では指示や処理が混乱するという。
事務﹁職員二人体制﹂の意義については、若松(一九九五一一三二)を参照。弁護士一人につき、 一人体制では人
連していることは言うまでもない。
(日)
(時)
クラスの都市であり、もう一つは、伝統的な暴力団組織の本拠地が所在する都市である。残る一つの都市は、それら
一一つの都市に挟まれた位置に存している。
捜査・訴追機関との関係
的、技術的な言葉を用いてもっともらしく説明し、結局は同じ主張を長々とあれこれ書けば、いかにも充実した弁
の質が低い﹂とし、菟罪事件の責任の一端は弁護士にあり、﹁ひんぱんに依頼者に会って愚痴を聞いてやり、法
執 筆 当 時 検 察 官 で あ っ た 河 上 ( 一 九 八 八 a 一一六)は、﹁刑事専門弁護士が存在しないし、存在したとしても、そ
るまでもない存在﹂とされ、観察中も捜査段階で弁護人が選任されたケ l スを全く見聞しなかったという。また、
の 捜 査 活 動 に 対 す る 弁 護 士 か ら の 統 制 に 関 す る 認 識 に つ い て 、 ﹁ 弁 護 士 は 、 通 常 の ケ i スでは、それとして意識す
捜査側の抱く刑事専門弁護士観を直接に取扱った研究はない。宮津(一九八五二二六五)によれば、第一線刑事
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刑事弁護活動の日常と刑事弁護士論の展開
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護活動をしたように本人も思い、依頼者も思うかもしれないが﹂、法的知識の不足する弁護活動では、ただ金儲け
だけの弁護士という汚名が残るにすぎない、と手厳しい見解を提示している(一九八八b 一三六九)。
これに対して、実在の刑事専門弁護士が有する警察・検察との関係は、弁護士自身の経歴から二種類に分かれる。
すなわち、検察官出身の B弁護士と C弁護士は、事件の処理に注目して捜査側と積極的に接触しようとする行動を
とっていた。他方、団塊の世代に属し、学生運動経験をもち、司法修習期間には反戦法律家連合に所属し、弁護士
になってからは労働者側の法律家団体に所属して、労働公安関係刑事事件の弁護活動を行ってきたというほぼ共通
の体験をもっ、いわば﹁過激派系﹂(法曹問題研究会一九八七一九一一)(以下、新左翼系という)に属する A弁 護
検察官出身者の場合
士
、 D弁護士、 E弁護士は、依頼者の意向に注目して捜査側との接触には慎重かつ消極的な態度をとっていた。
︿タイプ一﹀
元検察官である弁護士の具体的な行動としては、取調担当検察官の執務室へ赴いて、弁護人選任届を提出しなが
ら陳情を行ったりすることがある(ケ!ス五八、六 O) 。B弁護士によれば、有罪のなかにも﹁ケシカらん罪﹂と
いう検察官独自の概念(伊藤一九七五一三五四も参照)があって、-それに該当すれば起訴猶予にすればよいのであ
るが、ときおり﹁変な正義感﹂をもった検察官がいて起訴しなくてもよいものまで起訴することがあるので説得に
行かねばならないという。要するに、捜査側と情報交換をしたり陳情を行うことによって、事件の処分を落ち着く
場所に落ち着かせるという、起訴便宜主義に則った弁護スタイルであると言えよう。また、 B弁護士の場合、顧問
格をしている企業のために、非公開の情報を検察庁ル iトからいち早く入手する行動もみられた。また、公務員関
連の犯罪では、とくに検察庁から弁護依頼の指名がかかることもあった(ケ l ス六四)。
次に、 C弁護士の活動スタイルは、警察との関係において独特であって、接見の際には必ずと言ってよいほど刑
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事課の部屋へ立ち寄って挨拶をし、事件に関する話や雑談を行う習慣をもっている。ただし、捜査官との会話と言
ってもほんの数分程度のものであるから、個別に観察する限りではさしたる意味のない行動のように思われる。し
かし、ケ l ス八三一では、その情報収集の過程全体をみると、一貫した活動スタイルとして認識できるのである。
このケ i スは、貸金を返還させようとした暴力団員の行為に関連して三名が検挙された恐喝未遂事件と、それに
関連する窃盗事件である。張り込み刑事による現場での逮捕が予想外であったため、当初、被疑者たちは犯行を頑
強に否認しており、初回の接見の際には、取調官の方も何とか被疑者をなだめてもらいたいという雰囲気のもと、
にぎやかに弁護人との挨拶と名刺交換がなされた。その後、軽微である事件内容に不審を抱きつつも、 C弁護士は
接見によって事件内容を少しずつ把握しながら、被疑者たちの連絡役を務める。そして、初回接見後一週間たっ
て、たまたま予定に入っていた地裁支部への出廷のあと、取調担当検事の執務室へ直接弁護人選任届を提出しに赴
いたところ、二名の本件担当警察官と遭遇する。そして、雑談を交えながらの情報交換が行われ、じつは恐喝未遂
と窃盗の件は﹁引きネタ﹂であり、捜査側の本当の狙いは以前に発生した発砲事件に関する被疑者からの情報提供
であることが判明する。さらに翌日には、被疑者の生活状況も弁護人が把握するものとはかなり異なっていたこと
が関係者からの電話で判る。ここに至って、主要な弁護方針が固まり、軽微な被疑事実は早く認めて捜査に協力
し、早期に釈放してもらう方向で行動するよう被疑者らを説得する活動に入る。また、一人の被疑者の健康問題が
浮上し、その対応の手続に乗り出したところ、その聞に窃盗事件の二名は勾留期限満了で釈放される。しかし、情
報提供も拒みつつ恐喝未遂の被疑事実も否認している主犯格に対しては、さらに一 0日間の勾留延長がなされ、弁
護費用が払えないこともあって放置状態となる。内妻からの電話の中で弁護士が保釈に言及する場面があったの
で、否認のまま起訴されるという予測を弁護人はもっていたようであるが、結局、勾留期限満了前日に罰金二 O万
円の略式命令で釈放される処分となり、出迎えの連絡手配を関係者にすることで弁護活動が終了した。
刑事弁護活動の日常と刑事弁護士論の展開
387
このように、捜査官との接触を重ねることによって事件の筋を見出だす手掛かりを得るのが、 C弁護士独特の弁
護手法である。とくに、方針が定まるまでは不利益なことに言及しないよう被疑者たちへ助言を与えて情報統制を
行っていた点では、巧妙であると言えよう。しかも、ケ l ス七六では警察署の警務課長から留置場で暴れている被
疑者の処置への協力を頼まれる場面があり(これは精神安定剤が切れたためであることが後に判明)、官側で処理
困難な問題に直面した場合には警察と相互協力の関係にあることが窺われた。そのような関連から、弁護を求める
新左翼系の場合
被疑者に警察官がC弁護士を紹介することも多いという。
︿タイプ二﹀
他方、捜査官憲に対して懐疑的・慎重な態度を崩さないのが﹁新左翼系﹂の弁護士である。あくまで依頼者の主
(盟)
張・弁解にそって﹁教科書通り﹂の弁護を行い、国家権力との対峠というスタンスも辞さない。被疑者の弁解が正
確に録取されそうもない場合は、連日接見を行って黙秘権の行使を具体的に指示する。それによって、証拠が揃わ
ず不起訴になることもあるし、起訴されて公判で全面的に争うこともある(ケ lス一二ハ・一四三。以下、﹁・﹂
でつなぐ場合は同一事件である)。また、不起訴になった場合でさえ、逆に厳格な見方をして、検察官が予想とは
異なって起訴しなかったことに疑問を呈することもあった(ケ l ス二五の余罪不起訴に対する A弁護士の感想)。
この﹁新左翼系﹂の弁護士たちに対して、捜査側の見方は分裂している。依頼者の言い分を尽くじて偏らない妥
当 な 処 分 ま た は 判 決 結 果 に も ち 込 む も の と 評 価 し て 、 被 疑 者 に 紹 介 す る 警 察 官 も い る 一 方 ( ケ i ス一二、
(四)
一二 O) 、多くの捜査官は、これらの弁護士が常に捜査妨害を行っているものと受け取って強い不信感を抱いてい
るようである(ケi ス一一六・一四二一)。しかし、有罪の事実関係が明白な事件では、﹁新左翼系﹂であっても
示談交渉の相手方を教えてもらうために捜査官と接触することはあるし、軽微な事件や疑問点の存する場合には、
電話で担当検察官に陳情を行ったりしていた。この点では、警察・検察との接触が多い B弁護士、 C弁 護 士 と 類 似
するところである。なお、ケ l ス三 Oでは、取調担当検察官が自白の説得に応じない被疑者を説得するよう頼んで
くる場面もあったが、当然、 A弁護士は断った。
また、﹁新左翼系﹂の公判での弁護活動も、捜査段階と同様に依頼者の弁解を重視するスタイルであるから、公
判立会検察官の見方も分裂している。被告人の怒意的な行動や不合理な弁解を統制すべきであるのに被告人の言い
なりになって弁護を行っており、本来の職責を果たしていないとする見解(河上一九八八二二六七)もあれば、捜
査担当検察官が見逃していた事実の指摘を謙虚にうけとめて、争う弁護人の意義を評価する場合もあるという。
このような姿勢の違いがなぜ出てくるのかについて、元検察官の吉嶋(一九九六)は、﹁人権感覚﹂や﹁セン
ス﹂といった検察官の個性や、配属部署での警察との関係によって、違法収集証拠に対する検察官の取扱いが異な
(却)
ることを指摘しており、検察官の抱く弁護士観を検討して行く上で興味深い。しかし、このような問題の解明は、
本格的な検察官研究に譲らなければならない。
最近の労働公安関係刑事事件の内容(一九八七年から九一年までに判決または決定があった分)は、最高裁判所事
捜査段階での黙秘戦術に対して疑問が呈せられている。しかし、捜査段階での虚偽の弁解や公判審理での詳細な証拠
無罪判決(東京地裁平成六年二一月一六日判決・判例時報一五六二号一四一 1 一五四頁)においては、弁護人による
黙秘権行使の助言に批判的な見解として、宇川(一九九七二二こを参照。また、比較的最近の強姦致傷事件の
事件の種類が認識できる。また、その中には観察対象の A弁護士や D弁護士が弁護を担当した事件も含まれている。
あるため統計処理にはなじまないが、通称事件名別索引(同輯で九三件分)も付されており、当局側が関心を寄せる
務総局刑事局(一九九三)を参照すればおおよその内容が把握できる。この資料は、裁判実務用に編纂されたもので
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調べと事実認定が存したことに照らせば、捜査段階で黙秘するよりも有効な弁解とそれに基づく弁護活動が可能であ
当番弁護士に対する不信感として、勝丸(一九九五一四四九)を参照。
ったかのように断じる裁判所の見解は自家撞着に陥っている。
(四)
日米の検察官に関する重厚な比較研究である
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gロ(忌浅い81おむ)は、検察官と弁護人の関係も取扱ってい
(却)
る。そこでは、強姦事件の公判で傍聴した不活発な弁護、弁護人に対する外国人被疑者の感想一言、取調べに立会い
を要求した弁護人に対する検察官の反応、ある著名な左翼弁護士に対してとった検察官の態度などが観察デ lタとし
て挙げられている。ただし、弁護人に多様な類型が存在することを前提としているにもかかわらず、単純にアメリカ
の当事者敵対主義的な部分と日本の情状弁護とを比較する点には疑問がある。
裁判所との関係
告人に対して感銘と納得を与える充実した審理を行うにあたって、弁護人の活動に対する裁判官の期待は大きいと
などが存しており、統一見解のないまま裁判官個人が悩みながら量刑審理を行っている様子が窺われる。また、被
する姿勢の相違、量刑基準の重い﹁地獄部﹂と軽い﹁極楽部﹂の区別や、﹁教育的量刑審理﹂に対する姿勢の相違
(同会一九九四、萩尾一九八三)によれば、比較的真撃な裁判官のなかでさえ、量刑の画一性や客観的公平性に対
・発言の終了を待望する態度を示す裁判官もいるからである。また、量刑審理に関する全国裁判官懇話会の報告
ば、椅子ごと斜め向きになったり、目をつむって(眠って)いたり、天井を仰いだりして、明らかに被告人の弁解
された。なぜならば、被告人や証人の方を見つめ、身を乗り出すようにして、領きながら供述を聞く裁判官もいれ
の際に担当裁判官の顔付きを挑めるだけでも、当該裁判官の事件および被告人・弁護人に対する姿勢は容易に看取
筆者は、公判が被告人の弁解・主張を展開する場であるとの視煎に立って、弁護人の公判活動を観察した。傍聴
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(忽)
いう(萩尾一九八三二二、二七)。
刑事専門弁護士は事件処理量が多く、裁判所との接触も多くなるため、裁判官との継続的な関係ができ、裁判官
の性格・個性を知る機会も多い。それは主に量刑基準に関するものである。とくに、同種事案において様々な裁判
官の訴訟指揮や量刑を体験するため、ある程度の経験的予測ができるようになる。そして、検察官と同様に、弁護
の意義について、刑事裁判官の見方にも個性があって、同種の事案でも判決結果が大きく分かれるという印象を弁
一 O、二一を担当した裁判官と、法律上執行猶予が可能
護士はもっていた(長期間争って執行猶予の付いたケ l ス
であるにもかかわらず実刑にされたケ l ス九、三三を担当した裁判官とを対置して語った A弁護士の感想)。な
お、弁護士側としては、自己の活動スタイルと依頼者の意向が現実の行動に及ぼす影響が強いため、とくに裁判官
の性格によって弁護方針を変更するということは少ない。
次に、刑事専門弁護士と裁判所との関係として、弁護士側は裁判所・裁判官を選ぶことができないが、裁判所側
は弁護士を選択できることがある。例えば A弁護士の場合、弁護士会支部に登録しており、若い弁護士の数が限定
されている地域的事情と、当該地域の犯罪状況により重大事件の発生も多いことから、合議事件や特異な性格の被
告人の国選弁護人として、裁判所からとくに依頼されることがあるという。
総じて公判での立証活動は、情状が中心である。自称﹁否認の A﹂と呼ぶ A弁護士は、罪体を争う形で書証の取
調べに不同意し、証人尋問による取調べをしてもらいながらも、じつは犯行態様や経緯を公判でより一層明らかに
することによって量刑上の効果を狙うという、折衷的な様式で弁護活動を行っており、公判中心主義の原則に忠実
な弁護活動を好む。そのように丁寧な証拠の取調べの結果、結局は有罪になるのではあるが、それでも精密な審理
の結果刑期や未決勾留日数などの点で裁判所から有利に考慮された点を指摘し講評して、被告人を納得させるので
ある。この説得材料が形成される点に、丁寧な弁護活動の大きな意義がある。
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この点については、裁判所の方も、とくに合議事件の訴訟指揮には慎重な姿勢が窺われた。したがって、 一見遠
回りのようであるが、被告人に言い分を尽くさせた上で判決を言い渡し、結果的に手続を円滑に進めようという考
慮が窺われるのである(ケ1 ス一一一一の学生運動関係事件﹀。このような、公判審理に対しては自己に有利に働く方
向での機能を追求する被告人側の事情については、当然裁判官もよく判っているため、争点さえ明確にして証拠関
係を争えば、裁判結果は別として、丁寧な審理を行ってくれるという。
このとおり、裁判所と刑事専門弁護士との関係は、ときおり弁護士の量刑予測などがはずれることはあるものの、
もちろん、これは、研究対象である弁護活動に焦点をあわせた限定的な見方である。現行刑事裁判の運用が被害者
総じて事件の処理に向けた良好な関係にあると言えよう。
(幻)
側の視点を欠落させている問題については、二木(一九九七一一七)を参照。
ただし、被告人の話に対して、よく分かったような顔をして聞いておきながら相場通りの量刑をするのは問題であ
けられる。
﹁刑事専門﹂弁護士相互間の関係とに分
一四四)が典型である。これを、同僚からの﹁水平的依頼﹂と呼んでおく。とくにE弁護士には、その傾向が顕著
で質問を受けたり、弁護の協力を仰がれ、いわば﹁指南役﹂として弁護団に参加し、無罪を争う場合(ケ l ス
いわゆる一般の民事業務中心の弁護士との関係では、﹁刑事専門﹂弁護士の弁護能力を知る他の弁護士から電話
﹁刑事専門﹂弁護士と民事中心弁護士の関係と、
るという、左陪席担当裁判官の意見がある(萩尾一九八三二一六、 N裁判官の発言)。
弁護士聞の関係
(辺)
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弁護士同士の関係は、
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である。
他方、専門能力を欠く弁護士が弁護に失敗した事件において再び弁護をやり直すといった、上向きの﹁垂直的依
頼﹂と呼ぶべき類型も考えられる。これには、菟罪の可能性がある事件の場合もあれば、単に依頼者が特異な性格
をもっているために公判が紛糾していることもある。
これら二方向の依頼は、弁護活動の不足を補っているという点では共通である。しかし、前者の﹁水平的依頼﹂
による活動は、組織的で華やか、かつ高級な仕事のように見え、後者の﹁垂直的依頼﹂による活動は、孤独で後始
末的な汚れ役を買って出ているかのような外観がある。
垂直的な依頼による事例として、ケース一九は、暴力団の周辺に位置している中年男性同士が電話で口論した結
果、被告人が相手方へ赴き、それぞれが刃物をもち合って一方が刺したという喧嘩殺人の事件である。捜査段階で
当番弁護士が接見したものの、重大事件であるため着手金と記録謄写費用として百万円を要求したところ、結局支
払えなかったため受任に至らず、そのまま起訴されて国選弁護人が付された。しかし、その国選弁護人が、第一回
公判で単万直入に過剰防衛を主張しようとし、罪体立証は書証のみによって行わせる方針であったところ、公判準
備の接見を省略して打合せが乏しかったことも加わって、何らかの形で争ってくれるものと思っていた被告人は不
安になった。その結果、被告人は知人の紹介で A弁護士を私選弁護人として選任した(これにより国選弁護人は解
(お)
任)。 A弁護士は、現場にいた証人のうち、比較的中立で信用できる者一名を法廷で証言させ、情状立証をしたの
ち、殺意の存否、正当防衛、過剰防衛、情状と、主張できる弁解を一通り述べる弁論を行った。結局、未必の故意
が認定され、求刑一 O年に対して懲役七年未決勾留日数二四 O日算入(弁護人の予想は懲役八年三 O O日算入であ
った)に﹁できるだけ減刑はしておきました﹂という裁判長の説明付きの判決が言い渡された。
機会的な事犯であれば、人一人を死なせる結果を生じさせて反省的な供述に追い込まれ、弁護人の方から殺意の
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(泌)
存否について疑問を差し挟むのが典型であろう。ところが、上記のケ l ス一九やケ l ス七のように、自己の意思に
より刃物で相手を殺傷し、捜査段階での取調べに対しても自白をしておきながら、公判に至って、まるで相手が偶
(お)
然に死亡したかのように解釈し、少しでも自己に有利な方向へ裁判を進めようとするのも、刑事弁護の世界ではこ
れまた一つの典型なのである。
このように、累犯者に対する弁護活動は心理的にもまた労力的にも大きな負担を伴うものであり、ここに一般の
弁護士が刑事事件の集中を嫌う事情があるように思われる。ただし、依頼者の求めているものは、さほど困難な活
動ではなく、よく取り調べてもらいたいということであって(萩尾一九八一二一二三寸 J裁判官発言)、そうである
とすれば、基本的な弁護活動を着実に行うことで充分対応できる性質の要求なのである。
なお、 B弁護士が第一審の途中から参加して、後に控訴審で逆転無罪となったケ l ス六三では、第一審と弁護団
は同じなので、一見して﹁水平的依頼﹂のようにみえる。しかし、実際の控訴審の尋問準備や書面作成は、ほとん
どB弁護士の担当であった。実際、公判廷においても、捜査段階から選任されている弁護士は、被告人質問中に法
廷で民事の書面の起案をしたり、別の裁判所の和解期日に出頭するため途中で退席したりするなど、弁護への関与
度がかなり低くなっており、実質的には﹁垂直的依頼﹂であったと言える。
次に、﹁刑事専門﹂弁護士相互では、競争関係にあって依頼が重複することもある。しかし、同じ弁護活動を二
重にすることはないので、同じ着手金をとっておきながらほとんど何も弁護活動をしない﹁飾り﹂のような形で受
任してくる弁護士もいる。これは組織との連絡役を務めているのである。そのような事態に対して、低い着手金で
多く働かされることの多い A弁護士は、﹁﹃祝儀﹄弁護士はやめてくれ﹂と愚痴をこぼしていた。
比較的多数の弁護人が交錯する具体的な例としては、ケース一八・九 Oがある。
本件は、被告人 Hが配偶者との別れ話のとりまとめを知人Iに依頼したところ、ーが暴力団組員である JとKを
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雇って配偶者と接触させた結果、偶然的な事情も加わって Kが配偶者を殺害してしまったという事件である。逃走
していた実行犯から順番に逮捕され、 JとKが当初選任したQ弁護士は、 Kが殺害後に被害者から時計を盗んだ点
に着目し、強盗殺人で死刑か無期懲役になる可能性を示唆して殺人として犯行を認めるよう助言したという。また、
Q弁護士はI へ
、 JとKがI の犯行への関与を供述している旨情報を提供したという。その後、事件が公判に至っ
たころ、 Q弁護士が自己都合により辞任したため、 KはA弁護士を選任し、 Jは別の弁護士を依頼した (Jは、さ
らに後で検察官出身の二人の弁護士に弁護を依頼する)。ーは地元の元裁判官の弁護士を選任したが、その後D弁
護士を拘置所に呼んで相談する機会をもった。当時、 A弁護士が公判の打合せのため拘置所で頻繁に Kと面会して
いた様子は、被告人HやD弁護士に目撃されていた。その際、 D弁護士が A弁護士に相談したところ、責任を回避
しようとして不合理な弁解を繰り返すーには説得して真実を供述させる方が全員にとって好ましいとの A弁護士の
勧めもあったが、結局、着手金が用意できなかったため受任に至らなかった。
さらに複雑なのは、捜査段階から否認していた被告人 H の弁護人である。 Hは、関連会社の顧同格であった弁護
士たち (N ・G-P) に弁護を依頼し、主にN弁護士の事務所の勤務弁護士Pが本件を担当していた。しかし、 P
弁護士は長期化する公判審理の過程において、依頼者との接見によって信頼関係を維持・発展させることを怠った
ために、 Hとその家族は不安になり、強力な弁護団を作ろうと、さらに元裁判官の S弁護士を選任し、その上、著
名な暴力団の顧問弁護士を選任する話も出た。ところが、暴力団関係の事件に暴力団顧問の弁護士はよくないとい
う理由で弁護団から猛反対を受けてその話は潰れ、その後、関係者の世話や拘置所内の評判から公判審理の半ばに
D弁護士を選任することとなった。第一審の裁判は、数年にわたる審理をへて、結局全員が有罪となった。 Hは刑
期が比較的短期となったものの、無罪を主張して控訴した。 H本人と家族から評判の悪かったN弁護士と P弁護士
は、控訴審の弁護団に参加できなかった。 Hから控訴審の弁護を一任されていたS弁護士の強い要求によって、参
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加 し な い 予 定 で あ っ たD弁護士も控訴審に主任弁護人として加わった。そこでさらに、 D弁 護 士 は 、 第 一 審 の 裁 判
において Hと 直 接 の 関 連 が な い K の弁護人を務めていたA弁 護 士 を 弁 護 団 に 参 加 さ せ 、 最 終 的 にD ・S ・O-Aと
い う 四 人 の 弁 護 団 で 控 訴 審 の 弁 護 を 展 開 す る こ と に な っ た 。 こ の ケl ス の 控 訴 審 に お け る 弁 護 団 会 議 で は 、 主 任 の
D弁 護 士 は 進 行 役 を 務 め 、 元 高 裁 裁 判 官 のS弁護士は審理をする裁判官の行動を説明し、 A弁 護 士 は 証 言 態 度 の 助
言をするなど、役割分担に各弁護士の個性が窺われた。
このように、弁護人を雇う資力やツテを有する依頼者は、様々な弁護士を選択しうる機会をもっ。これに対して、
弁護士の方にも能力や性格に差異があるため、弁護役務は、特有のアクセスルートを通じて、いわば商品化されて
この犯行時の攻撃性・利那的感覚と、捜査段階の宿命主義・自己縮小、そして公判段階での責任転嫁という暴力団
かなくなるという。
という。その結果、被告人自身、自白が犯行時の心境を述べたものか、犯行後の心理状態を述べたものかの区別が付
直面して著しく動揺・狼狽し、捜査官から責任の重さを理詰めに追及されて、殺意を認める反省供述に追い込まれる
野村(一九九四⋮二二三)によれば、機会的な殺人事犯において、被疑者・被告人は、人の死という重大な事態に
ながら、正当防衛、過剰防衛、 一般情状を主張する司法修習生の重畳的な弁護方針案に対して疑問を唱えている。
なお、司法研修所の弁護教官であった古口(一九九六一一七こは、起案において実践的な弁護方針を求めておき
いると言えよう。次節では、この商品となりうる刑事専門弁護士の能力面を考察してみる。
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、 一一九)を参
員特有の性格変遷につき、岩井(一九六一二一七二九1七四こおよびマッツア(一九八六一一 O五
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役務の質的評価
動であった。その背景では、弁護人を通じて示談も行われていた。
たり、黙秘や供述の仕方を指導して、被疑者が不利益な供述を録取されるリスクを回避することが、主要な弁護活
ース四 O) 。これらのケ l スでは、有罪の証拠とされてしまう稚拙な虚偽の弁解を真実に基づく正確な表現に整え
る立替金をめぐって起こった恐喝のケ l ス三七、交通事故による休業補償金の請求方法をめぐって生じた詐欺のケ
で、予想通り不起訴または刑の軽い罪名に落ちる、いわゆる認定落ちの罰金ですむ場合もあった(死んだ子に対す
また、訴追段階における弁護の効果としては、弁護士の助言通り常識的な判断に基づく弁解を強く打ち出すこと
らの)控訴の可能性は充分あるから(覚倍しておくように)﹂と具体的に指摘することがあった。
実の読み上げを六分間、量刑の事情、執行猶予の説明、生活上の注意点に一一一分間を費やした後):::(検察側か
された際、裁判長自身が理由説明において﹁求刑と較べて激減、著しく軽い。(﹁起訴状と基本的に同じ﹂認定事
一O O万円であったのに対し、懲役三年未決勾留日数二五 O日算入、保護観察付執行猶予五年という判決が言い渡
といった形が典型的なものである。たとえばケ l ス一二の麻薬取締法違反事件において、求刑が懲役七年追徴金
かし、通常の成功例としては、付かないと予測された刑の執行猶予が付いたり、刑の酌量減軽に顕著な成果が出る
余地の多い事件の依頼が他の弁護士からなされることの多い E弁護士は、無罪判決を比較的多く獲得している。し
公判の終結段階における弁護の効果としては、まず無罪判決の獲得が挙げられる。実際、処理困難な上に争いの
た
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務の内実はもっと多彩で複雑であることが判り、その結果、役務について複数の評価基準を獲得することができ
純に﹁刑事専門﹂弁護士は﹁良質の﹂役務を提供しているものと推定した。しかし、今回の観察調査によれば、役
筆者は、以前に行った面接調査(畑一九九三)の段階では、同一の弁護士に依頼が連続するという事実から、単
七
他方、弁護活動の結果とは別に、弁護活動の過程自体から役務の質を問うこともできる。たとえば、公判の立証
段階においても、なしうることを着実に行って、依頼者本人が感銘を受け納得した上で処分を受けること(萩尾
一九八三二二、 H裁判官発一言)は、裁判と弁護の重要な機能である。
さらに、弁護活動の過程に対する継続的観察によれば、専門性の要素として挙げられるのは、機動力、効率性、
包容力、評判である(河合一九八一一一一五三以下を参照)。
第一の機動力は、まず接見活動に現れる。知己からの紹介があろうとなかろうと、依頼があればとにかく都合を
つけて逮捕勾留の場所へ接見に赴くという姿勢である。とくに、土曜・日曜や夜間に接見に赴くことも多く、ま
た、着手金も受領しないまま、活動を開始・継続することが少なくない。
また、 C弁護士の例では、民事業務を行っていない結果公判期日の予定等が比較的早く入りやすいので、手続を
迅速に進ませることができる。ケース七 O では、起訴から数日後に第一回公判期日を開いてもらい、その公判直後
に保釈を申請して即日保釈の許可が下り、円滑に保釈手続が進んだ。とくに裁判所の門前に事務所が位置している
という地の利もあって、手続進行の速度とその把握という点では有利な条件が整っている。その結果、﹁あの先生
(お)
に頼めば一発で保釈が出る﹂という噂が拘置所や一部の留置場で形成されている。ただし、弁護士としては、依頼
者に言質を与えてはかえって負担になるため、そのような評判の内容を否定する。それにもかかわらず、実際には
執務態勢上の利点から、他の弁護士よりも良好な役務が提供できる機会が多く、定評が維持されるのである。
第二に、効率性である。これは、類似事件の経験から事件処理の内容自体が迅速かつ的確に進むという事件単位
で生じる側面と、同時多数の事件受任による業務一般上に現れる側面とがある。主に民事事件との関連において、
多数事件同時受任という業務態勢に対しては、迅速な裁判を受ける権利の観点から荒木(一九九一二一二九五)によ
る現状批判が存するが、刑事事件を多数行っている場合にはいささか事情が異なる。たとえば拘置所の場合、
度
刑事弁護活動の日常と刑事弁護士論の展開
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の機会に複数の被告人と接見することができる。また、警察署においても複数名と接見したり、依頼者が身体拘束
されている警察署同士が近接する場合には、タクシーを乗り継いで半日で数署を回って接見するという態様で、業
務に効率性が出てくる。これは、法廷活動についても同様である。
第三に、包容力である。これは、依頼者との人格的な接触によって信頼関係を形成する上で不可欠であるという。
端的には、嘘や思い込みの混じることが多い依頼者の弁解・言い分を聞いてあげることから弁護活動は始まるので
あるが、これが普通の弁護士にはできない場合が多いという。
とくにA弁護士の場合は活動方針が徹底している。すなわち、依頼者の嘘を弁護人が非難しだしては弁護活動に
ならないので、被告人には偽証罪が適用されない現行法制もふまえ、﹁被疑者・被告人には嘘を付く権利がある﹂
ものと考えて弁解を聞き、被告人に﹁付き合う﹂活動スタイルを確立している。
第四に、評判がある。これは、前述のような保釈の面での評判形成が典型である。ケース一二 Oでは、保釈許可
を口頭で保証しながら自白をとったある刑事が、起訴後なかなか保釈されないため被告人から突き上げをくらい、
自分が捜査を担当した被告人の保釈手続を依頼しに来所して、﹁先生 (D弁護士)に頼んで駄目なら諦めもつく。
もし、僕が被疑者なら先生に弁護を依頼する﹂と語っていた。
この他、留置場や拘置所、さらには刑事裁判体験者のなかでは、すでに高い評価と信頼が形成されているため、
たまたま受任した事件の依頼者さえもが、評判を信じて弁護を一任してくれて事件処理が円滑に進むこともあると
いう。ただし、この評判は限定された場所において個人間で伝達される情報なので、消滅もしやすい。
以上のような諸点において、﹁刑事専門﹂弁護士と他の弁護士の役務との聞には、顕著な差異が生じているので
ある。端的に言えば、依頼者が相談を求めた際に着実に対応しているかどうか、である。
刑事弁護活動の日常と刑事弁護士論の展開
3
9
9
(お)
また、弁護士倫理二三条﹁有利な結果の請負﹂禁止規定に抵触する可能性もある(日本弁護士連合会弁護士倫理に
関する委員会一九九六一九八)。
活動スタイルの形成過程
いう執務スタイルの現れである。
(幻)
力の依頼もある。受任件数は少ないが、それは、一つの事件の処理に長期間・長時間の労力を集中的に投入すると
て、大企業、中小企業経営者らが主要な顧客層となり、また、事件の紹介経路として保守系の弁護士からの弁護協
凶 B弁護士は、検察庁への在籍期間が三 O年以上と長かったため、検察庁幹部出身者特有の依頼者層を有してい
イルを基本にすえた原則的な弁護活動を展開した結果、全国レベルの信頼を有する結果となっている。
たまたま市民団体からなされた際にも、臨時踏することなく引き受けることができ、普段行っている事件処理のスタ
るスタイルを確立していることである。これにより、一般には処理困難と受け取られる公安関係事件の弁護依頼が
る。特徴は、依頼されたら原則として断らないという姿勢を取ることによって、日常的に刑事事件の処理に従事す
あるわいせつ図面頒布事件の弁護をしたことによって私選の依頼者層(暴力団関係)を獲得し、現在に至ってい
や裁判所から良い評判を得て、いまも国選の重大事件や凶悪事件の弁護依頼が継続してなされている。さらには、
多様な国選事件を数多く引き受けかつ丁寧に処理する機会をもって弁護経験を重ね、勾留場所内の被疑者・被告人
ての活動スタイルを開業当初から選択した。また、登録場所が支部であり若手が比較的少ないという地域性から、
川 A弁護士は、民事刑事問わず一般市民の事件を幅広く処理していくという、いわば町医者ならぬ﹁町弁﹂とし
観察を通じて判明する限りにおいて描写してみると、次のようになる。
最後に、このような﹁良質な﹂役務を提供できる各弁護士の活動スタイルが形成されてきたプロセスを、今回の
J
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且A
o
E弁護士は、もともと著名な元刑事裁判官の事務所の勤務弁護士として業務を開始し、とにかく﹁一流﹂にな
刑事に限らず﹁(司法修習)OO期の知恵袋﹂と呼ばれるほど、同期の弁護士たちからも技術面での信頼を得てお
ることを目指して、その事務所に依頼される刑事事件を主に処理することで弁護経験を深めてきたという。また、
山間
また、弁護士会において教育的役割も果たしている。
一 O八のように、犯行直後に相談がなされる場合もあって、活動内容はますます多彩となって発展している。
ケl ス
う。その結果、刑事における予防法務とでも言うべき、指名手配中の者からの捜査機関への出頭に関する相談や、
(匁)
とにより徐々に拘置所内での評判が形成された。現在の活動スタイルを確立させるのに一 O年以上を費やしたとい
功して依頼者層を獲得し、また、頻繁かつ熱心に拘置所へ通って各依頼者との信頼関係を形成・発展させていくこ
の経験がなく、私選事件のみで刑事弁護の業績を積み上げてきている。その過程としては、暴力団幹部の弁護に成
経験を得て闘争的な刑事弁護の技術を修得していったという。ただし、 D弁護士には、 A弁護士と違って国選弁護
するいわゆる﹁労弁﹂として自らの活動スタイルを位置付けていた。そこで、労働刑事事件や公安事件などの裁判
凶 D弁護士は、革新政党色の濃い共同事務所の勤務弁護士として活動をスタートし、もともと労働者側の弁護を
階層の職員や依頼者層との幅広い良好な関係形成に向けて、非公式の手段を駆使してきているのであ泌
事務所近隣へお裾分けするなどの気配りを忘れない。このように、法律家に限らず、刑事司法制度に携わる多様な
は、尋問する際に書記官・速記官へメモを与えて調書作成の際の便宜を計ったり、さらには、依頼者からの贈物を
にベテラン弁護士、暴力団関係者、暴力対策課の刑事などが遊びに来るよう開放的な雰囲気を保持したり、法廷で
ている。この点では、 A弁護士の﹁町弁﹂スタイルと類似したところがある。ただし、その方策としては、事務所
ている。警察・検察・裁判所との友好関係を形成・維持しながら独特の﹁地域密着型﹂のスタイルで活動を展開し
ωc 弁護士は、比較的早期に検察庁を退官し、開業当初から刑事専門として事務所を構え、すでに四 O年を超え
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刑事弁護活動の日常と刑事弁護士論の展開
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り、現在の主要な依頼経路は、他の弁護士を通じたものとなっている。その結果、通常の弁護能力では処理できな
い難事件の弁護依頼が比較的多く、これにより弁護団を組んで活動した結果、さらに弁護活動の成功を収め、同業
者の間で著名になっている点に特徴がある。また、弁護士会では教育的役割も担当しており、若手弁護士からの協
力要請も多い。
︿
小
﹂の語句は、市民弁護士とほぼ同義である。
(叩)も参照。
(幻)
この個人的な専門化のプロセスと類似する事例として、医療過誤の分野ではあるが、小笠(一九九八)がある。
必要性を示唆する活動スタイルである。
これは、回ZEZG(H可也)の法曹三者で構成される裁判所コミュニティという視野を、より一層拡大して検討する
(却)
(お)
が可能となろう。
官 (
C) 、富裕層対象の労弁 (
E
) 、中間層対象の労弁 (
D
) 、中間層・貧困層対象の労弁 (A) という性格付け
登録であり国選事件を受任している点も考慮すると、富裕層対象の元検察官 (
B
) 、中間層・貧困層対象の元検察
(B ・E) と 中 間 ・ 貧 困 層 (A ・C-D) とで相違がみられた(本章二を参照)。これに加えて、 A弁 護 士 が 支 部
聞には捜査段階の弁護スタイルに顕著な相違がある(本章四を参照)。第二に、主要な顧客層の面では、富裕層
ま ず 第 一 に 、 経 歴 に お い て 、 検 察 官 出 身 者 (B ・C) と労働者側弁護士 (A ・D-E) と い う 構 図 が あ り 、 両 者
動スタイルを異にしていることが判明した。
以上、五名の弁護士が、刑事専門という共通の特色を有しつつも、いくつかの点において異なる性格を有し、活
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第五章
結論と含意
以上に提示した知見から、刑事弁護という実務領域に﹁刑事専門﹂弁護士が実在し、職歴(個人的事情)と主要
な依頼者層(客観的事情)とによって、各人固有の実務スタイルを有しながら活動していることが理解された。本
章では、結論として、以上の知見の合意を、刑事弁護士論と弁護士論一般というこつの領域に分けて探ってみた
i
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﹁刑事専門﹂弁護士の形成における依頼者層の変貌と活動スタイルの価値中立性
弁護士が刑事弁護へ関与するに至る過程は、弁護士自身を含む全関係者の多様な特性を反映した特殊で個別的な
相互作用の連鎖である。それは、従来なされてきた規範的または経済的な観点からの説明のみでは理解できないほ
どの多様性を有していた。実務は必ずしも報酬の多寡に比例して動いているわけではないし、そもそも刑事事件や
刑事弁護依頼者に内在する直接・間接の関与阻害因子も多い。したがって、刑事弁護に携わるには、弁護士倫理を
援用した規範的因子や確実な報酬といった経済的因子以外に、何らかの強い動機付けが不可欠になってくる。その
︿
25
gsu三日日)が見
ことをよく理解させるのが、各弁護士の職歴と主要な依頼者層の性格といった、個々の弁護士を取り巻く社会的諸
因子なのである。
とくに新左翼系の刑事専門弁護士には、社会改革的な志向を含んだ﹁ラディカル性﹂
受けられた。すなわち、旧来の検察官出身型とは違って、団塊の世代の刑事専門弁護士たちは、法律学者と盛んに
交流・提携して弁護活動の法理論的な進展を図ったり、死刑廃止運動などの社会運動に協力したり、その他行政訴
訟へも積極的に関与するといった特色を有する。このような人々にとって、刑事事件の日常的処理とは、その背後
に社会変革への欲求を伴っているのである。
刑事弁護活動の日常と刑事弁護士論の展開
4
0
3
ところで、新左翼系の刑事専門弁護士が、暴力団関係者や薬物密売者といった、イデオロギー的には一見相容れ
ないと思われる依頼者を多く擁しているのはなぜであろうか。新左翼系が当初注目していた労働者は、一般大衆と
しての広がりをもった依頼者層であるのに対して、暴力団関係者は社会から疎外された﹁病理集団﹂(岩井
一九六三)である。刑事弁護﹁市場﹂への新規参入者である彼ら自身にしてみれば、もともと新左翼系の法律家団
体に所属し、労働組合に対する弾圧事件での弁護活動経験をへて、活動スタイルを形成してきたはずである。それ
にもかかわらず、現在、暴力団組員や薬物密売者・使用者の弁護を中心に活動がなされている。とくに A弁護士と
D弁護士には、その転換傾向が著しい。いわば労働者側の﹁労弁﹂から暴力団側の弁護士﹁暴弁﹂へと、主要な依
頼者層が移行したかのようである。それはなぜであろうか。
﹁刑事専門﹂弁護士の中でも、その最も理論的な部分を新左翼系弁護士が担っていることを考えれば、刑事弁護
の将来を考える場合、新左翼系弁護士が一見相容れない依頼者を多く担当することになった経緯の理解は重要であ
る。なぜならば、刑事事件における依頼者の特性が今後も大きく変わることがないとすれば、刑事弁護の発展は、
(初)
新左翼系弁護士と同様に﹁病理集団﹂のメンバーをも代理する意欲をもった弁護士を確保することにかかっている
からである。一つの説明としては、労働・公安関係刑事事件の発生件数が減少した結果、戦闘的な弁護手法を求め
る依頼者層の需要が労働者団体から暴力団組織へ移行した可能性が考えられる。しかし、この仮説の妥当性を論証
するためには、暴力団に対する取締官憲側の変化も具体的に解明する必要が生じるであろう。
他方、このような動きがいまだ生じず、新左翼系も登場していない一九七 0年代以前には、旧来の検察宮出身の
刑事専門弁護士は今日よりも寡占的に刑事弁護役務を提供していたと考えられる。観察の時点では双方のスタイル
が並存していたが、検察官出身型のスタイルはさほど変わりはなく安定していた。新規参入の新左翼系としても、
主要な依頼者層となった組織が有する従来通りの需要に対応するため、ある程度は起訴便宜主義に則った検察官と
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法
戸
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の交流を重視する弁護活動(例えば、神山一九九六一一一一四 i一二六)を取り入れる必要を感じているであろう。
ここで強調しておきたいのは、もともと新左翼系の有していた活動スタイルこそが依頼者層の移行を可能にした
のであり、また、その結果、元来のスタイルは相当部分が維持されているという点である。このようにほぼ同一の
弁護活動スタイルが一見相反する社会的性格をもった集団双方に対して同様に適用可能であったということは、そ
の活動スタイルが社会的に価値中立的な技術であったと解することができる。これは法の文言に忠実な方向で、つ
まり﹁教科書通り﹂の原理原則に忠実な方法で活動をしているからにほかならない。このような理解は、刑事専門
弁護士の活動スタイルが技術として一般の弁護士により模倣され伝播する可能性をも示しているのである。
今後の経験的な研究としては、刑事弁護の供給源である多くの弁護士を視野に含める必要があろう。たとえば、
検察官出身の弁護士、裁判官出身の弁護士、旧左翼系(自由法曹団・青年法律家協会所属)の弁護士の職歴と活動
スタイルをさらに把握していかねばならないであろう。
弁護士の専門分化とフロフエツション性
前述のとおり、専門分化はプロフエツションに内在する法則であるとされる(石村一九六九一一二三)ので、こ
の観点からも現状を評価してみる。
本稿の対象は、刑事という法領域における主要な依頼者層を基盤とした専門分化であった。つまり、刑事弁護の
専門分化は、弁護士と依頼者間の具体的な関係の積み重ねの結果であり、依頼者層の需要に対する供給の結果であ
った。さらに、石村が客観的要因として考察していた法的知識の面ではどうであろうか。前節で指摘したとおり、
新規参入の新左翼系の弁護士は、活動領域の拡大を求めて条文解釈の限界にまで挑戦し、刑事手続における法的知
識の発展に実務上も理論上も貢献し、その知識の伝播にも参加している。しかし、検察官出身の弁護士には、この
刑事弁護活動の日常と刑事弁護士論の展開
4
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5
ような展開はあまりみられない。ここに、検察官出身者による専門分化の不徹底があったと言えよう。
(E
∞
58R. と自称するA弁護士
この他にも、専門分化の帰結として、ニ疋の実務領域に着目して多量事件の効率的処理を行う可能性 (C弁護士
の例)、一般の弁護士の処理能力からはずれた事件を処理する専門家の存在意義
の例)についても重要な知見がえられた。実際に、本来提供すべき役務が提供できないという事態は、プロフエツ
ションとして致命的なことである。とくに刑事弁護の場合、必要的弁護制度の対象となる比較的重大な事件の処理
において裁判手続が停止してしまう危険がある。
最後に、刑事弁護の将来像について、司法制度の改革・強化の観点から若干言及しておく。
本稿で見たとおり、すでに自然発生的な専門分化が現れており、依頼者と他の弁護士に肯定的に評価されている
という事実自体、各人が同質の専門能力をもって包括的な役務提供にあたっているという、古典的なプロフエツシ
ヨン論の建前を否定している。現状は、むしろ、プロフエツション内部において専門分化の程度を高め、あらゆる
問題の各々について、高い能力をもった専門家を多数生み出すことによって、弁護士職全体として社会の需要を高
水準で充たす方向を示唆しているのである。このように考えると、刑事弁護の強化・改善は、非専門家を多数動員
することをめざす現行の当番弁護士制度の拡大・強化よりも、刑事弁護専門家の養成と組織化を中心として追求す
べきことになる。その意味で、弁護士層内部においてアメリカの公設弁護人制度に対する関心が高まっている(日
本弁護士連合会刑事弁護センター一九九八)のは正当な方向である。
新左翼系弁護士のように社会変革の意欲を持った多数の弁護士を公設弁護人として組織化し、事務所経営の苦労
から開放したうえで刑事弁護に専念させることができれば、検察官に対抗しうる専門的能力の組織的展開という意
義だけでも、きわめて大きい。具体的には、まず公設弁護人が弁護の必要性につき事件の選別を行い、日常的な案
件については非専門家弁護士の参加を認め、重要事件の大半は公設弁護人が担当し、少数の特殊事案については民
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聞の専門家弁護士を動員するといった、混合的な制度が可能ではないだろうか。
さらに言えば、将来、理想主義的な熱意をもった学生を多数弁護士職に引き付けるために、臨床的なプログラム
を導入するなど法学教育の改革や、法学教育と法曹養成の連結が図られなければならない。もっとも、これらの制
度論的研究は、それ自体で詳細かっ慎重な検討を必要とするものであり、本稿の目的の外にある。ここでは、刑事
﹁弁護士が逃走手助け 金渡し﹁大阪を離れろ﹄
書類送検﹂朝日新聞縮刷版七月三 O日夕刊一五面
最近の具体例として、渡辺(一九九八二二六 1二二二)を参照。
大川(一九九四)および海川(一九九四)も参照。
九O年六八件、九四年三六件と、これまた激減している(兵庫県地方労働委員会事務局一九九五一二九九)。なお、
激減している(労働省労政局一九九五一一 O四)。また、兵庫県に限っても、八五年に二二五件であったものが、
七四年九五八一件、七九年三四九二件、八四年三八五五件、八九年一四三三件、九三年六五七件と八 0年代後半から
的な指標として、争議行為を伴う労働争議の発生件数を採用すると、全国レベルでは、 一九六九年に四四八二件、
司法統計は刑法犯と特別法犯という罪名によって処理されており、労働刑事事件という項目での統計はない。代替
弁護研究が司法制度改革の一つの糸口になりうる旨を表明することで、本稿を閉じることにする。
(初)
(訂)
一九八七
︿参照および引用文献表﹀
朝日新聞
﹃迅速な裁判を受ける権利﹄成文堂
﹃刑事弁護のらせん階段﹄第一法規
﹃刑事訴訟法を実践する﹄日本評論社
一九九三
一九九四
一九九六
荒木伸恰
五十嵐二葉
池本美郎
刑事弁護活動の日常と刑事弁護士論の展開
4
0
7
一九六九
﹁改訂
﹁現代のプロフエツション﹂至誠堂
﹁﹃刑事弁護﹂と弁護士﹂自由と正義四二巻七号三五 1三八頁
石村善助
一九七五
﹁病理集団の構造 親分乾分集団研究﹄誠一信書房
一九九
伊藤車蔵
一九六
﹁被疑者段階の刑事弁護﹂日本弁護士連合会編﹃現代法律実務の諸問題(日弁連研修叢書・平成四年
石田省三郎
岩井弘融
一九九三
勝丸充啓
神山啓史
一九九四
一九九四
一九八九
一九九七
一九九八
﹁当番弁護士活動の現状と課題
﹁労働事件の弁護はどのように行うか﹂竹津他(一九九四二二五四i三七二)
﹁公安事件の弁護はどのように行うか﹂竹津他(一九九四二二七三 1三八九)
﹃弁護士
﹁司法取引を考える (l) ﹂判例時報一五八三号三一 1四七頁
﹁許永中失跡カギを握る男﹂文義春秋七六巻四号三四八1一二六六頁
全国実態調査を踏まえて﹂日弁連刑事弁護センター編﹃刑事弁護﹄
﹁地方における専門化
または一二世紀の弁護士にとっての刑事弁護﹂宮川他
医療事故事案の場合﹂自由と正義四九巻三号八四1九五頁
一九九八
﹁プロフエツションとしての刑事弁護
一九九五
﹁被疑者段階の弁護活動
﹁特集
公判(審判)前における弁護活動の要諦﹄問弁護士会(一 1四七
当番弁護士活動による刑事事件を題材に﹂第二東京弁護士会研修文化委員
会編﹃平成七年度春季専門研修叢書
一九九六
被疑者弁護の現状と課題 検察現場からのコメント﹂刑法雑誌三四巻三号一一一一 i 二 六 頁
(一九九三一一六九1 一九八)
一九九三
八号二ニ 1 一七頁
之はの現場 u の仕事人たち﹂講談社現代新書
一九九四
版)下﹄第一法規(八一 1 一一四頁)
捜査と証拠﹄近代警察杜
上田園慶
大出良知
大川真郎
海川道郎
内田雅敏
宇川春彦
魚
笠井
昭
r
台
豊
住
笠
河合弘之
一九八八 a
一九八二
﹁日本の刑事司法の特色
北村定道
川崎英明
一九七九
一九九五
一九九六
棲井光政
座談会
須藤健一編
一九九八
一九九
﹁刑事弁護と当番弁護士
検察の立場から﹂三井他(一九八八一一一 1二五
コメント一己三井他(一九八八二二六七 i三七O)
研究者による実態調査から﹂法社会学四七号一二八 1 一
一
一
一
四
頁
﹃警察白書(平成三年版)
﹃警察白書(平成元年版)
特集暴力団対策法施行後一年を振り返って﹄大蔵省印刷局
特集薬物問題の現状と課題﹄大蔵省印刷局
特集暴力団対策の現状と課題﹄大蔵省印刷局
﹁ロッキード・グラマン等の疑獄事件にみるヤメ検の実力診断﹂財界展望二三巻五号八六 1九O頁
﹃警察白書(平成五年版)
﹁司法研修所における刑事弁護教育の現状﹂自由と正義四七巻八号二ハ九 i 一七三頁
﹁﹃取調可視化﹂論の現在 取調﹃全過程﹄の録音に向けて(三) ﹃取調録音権﹄試論﹂大阪弁護士
﹃労働関係刑事事件判決集 第一四輯﹂法曹会
﹁日本型公設弁護人事務所の開設に取り組む﹂自由と正義四九巻一号二五 1一二三頁
﹁対談﹃弁護士業務と専門化﹄﹂自由と正義四二巻七号八二 1 一O七頁
文化系研究者の知識と経験﹂嵯峨野書院
第一四回全国裁判官懇話会報告 V ・完(刑事分科会・量刑審
理の活性化の方策 量刑の公平と個別的妥当性の調和を求めて)﹂判例時報一四九二号三 1
﹁人間社会が求める司法の心
﹃フィールドワークを歩く
一九九四
一九九六
全国裁判官懇話会
一九九三
﹁﹃アクションプログラム﹄を読んで②﹂自由と正義四七巻六号一六四 1 一六二頁
会刑事弁護委員会編﹁刑弁情報﹄ 一三号一一 1三五頁
一九九六
一九九六
一九九三
一九九
一九八九
百
日
最高裁判所事務総局刑事局
藤
﹃弁護士という職業﹄一一一一新書
河上和雄
﹁被疑者・弁護人の防御活動(捜査段階)
頁
一九八人 b
章
警察庁編
向
口 同 同
小坂井久
古
後
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誌 E班
~色
雑
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神
刑事弁護活動の日常と刑事弁護士論の展開
4
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9
一九八七
二一頁
一九九四
﹃刑事弁護の技術(下)﹄第一法規
﹁千葉県における刑事弁護活動(一) (二・完)﹂千葉大学法学論集四巻二号
一八 0 1一五二頁・五巻一号二二六1 一九三頁
﹁刑事司法改革の実現に向けてのアクション・プログラム第一回・第二回﹂自由と正義四七
﹁自由競争論の中の弁護士像と﹃民衆の弁護士﹄﹂自由と正義四七巻二号七八 1九 O頁
一九九 O
﹃現代社会と弁護士﹄日本評論社
竹津哲夫・渡部保夫・村井敏邦編
棚瀬孝雄
一九九六
千葉大学弁護士業務研究会
塚原英治
一九九六
巻五号一六 0 1一四六頁・同六号一七八 i 一六五頁
タ
日本弁護士連合会
護
セ
ン
編
一九九八
野村侃靭
浩人
萩尾孝至
畑
一九九四
﹁殺人事件の弁護はどのように行うか
﹁注釈弁護士倫理
補訂版﹄有斐閣
殺意の争い方﹂竹津他(一九九四二一二三 1 一四七)
起訴前・第一審公判の実態調査から﹂六甲台論集四 O巻一号一二 0 1
﹁刑事弁護の全体像﹂法社会学四六号一一一七 1一一一一一頁
一四一頁
﹁刑事弁護の実像を求めて
決)﹂判例時報一 O六五号四1二七頁
全国裁判官懇話会報告I (刑 事 分 科 会 ・ 刑 事 自 白 事 件 の 審 理 と 判
﹁よりよき司法の実現のために
一九九四
一九九三
一九八三
一九九六
﹃アメリカの刑事弁護制度﹄現代人文社
書﹂自由と正義四二巻二二号
﹁弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査報告﹂自由と正義三二巻一 O号
~
一九八
刑
事
弁
日本弁護士連合会業務対策委員会
メ
』
A、
﹁日本の法律事務所 60 弁 護 士 業 務 の 経 済 的 基 盤 に 関 す る 実 態 調 査 報 告
連
一九九
士
日本弁護士連合会業務対策委員会
日
日本弁護士連合会弁護士倫理に関する委員会編
本
弁
護
同
直
毎日新聞
丸島俊介
三井誠他編
一九九七
平成七年版
薬物犯罪の現状と対策﹄大蔵省印刷局
﹃平成六年版 年報﹄同局
﹁刑事専門弁護士の活動スタイル﹂法社会学四九号一二三 1一二八頁
﹁社会調査
一九九五
一九八四
﹃交通死﹄岩波新書
﹃犯罪白書
﹃素顔の弁護士会﹄立花書房
補訂版﹂岩波書庖
一九九七
一九八七
一九九五
﹁手配の男に五O万円渡す
(非行理論研究会訳)成文堂
下巻﹄有斐閣(三六九 1四O七頁)
弁護士が逃走手助け 大阪﹂毎日新聞縮刷版七月二二日夕刊一O面
一九八七 a
現代の少年非行論﹂
﹃平野龍一先生古稀祝賀論文集
﹁漂流する少年
﹁刑事裁判の経年変化﹂
﹁詐欺男の逃走助けた弁護士を書類送検 大阪﹂毎日新聞縮刷版七月二二日夕刊一O面
一九九
一九八六
集計結果から﹂日弁連刑事弁護センター編﹃刑事弁
下﹄有斐閣
﹁当番弁護士制度に関する全国会員アンケート
その理念と実践
﹃刑事手続 上﹄筑摩書房
﹃変革の中の弁護士
﹃犯罪捜査をめぐる第一線刑事の意識と行動 組織内統制への認識と反応﹄成文堂
一九九三
一九八八
一九九四
宮川光治他編
一九八五
﹃警遅警察の研究﹄成文堂
﹃鬼検事﹂法学書院
一九九 O
﹁刑事国選弁護の実証的検討﹂財団法人法律扶助協会四O周年記念誌編纂委員会編﹃リ lガル・エイ
ドの基本問題﹄法律扶助協会(三 O七1三三八頁)
一九九二
九
七
四
宮津節生
向江環悦
村山真維
護﹄八号七 1 二一頁
マッツァ、デイヴィド
松尾浩也
一九八七 b
法務省法務総合研究所編
法曹問題研究会
二木雄策
福
兵庫県地方労働委員会事務局編
同
武
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雑
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刑事弁護活動の日常と刑事弁護士論の展開
4
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同
同
同
吉嶋
護世買新聞
一九九五
一九九六 a
﹁東京における刑事弁護活動﹂法社会学四七号一七一一一 1 一七七頁
﹁法律業務の社会組織と刑事弁護 札幌・青森調査から﹂千葉大学法学論集一 O巻三号一六一 1
﹁弁護士活動とその社会的基盤﹂
﹁岩波講座現代の法5 現代社会と法システム﹄岩波書店(一二九
﹁国選弁護活動の現状と課題﹂季刊刑事弁護六号二二 1二九頁
二三二頁
一九九六 b
一九九七
﹁元組員のピストル押収 弁護士が下工作伊仲介
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大阪高裁で明るみ﹂讃責新聞大阪版七月三日
﹁検察実務と違法収集証拠排除法則﹂渡辺修編﹃刑事手続の最前線﹂三省堂(一五五 1 一六五頁)
﹁山口組顧問弁護士の手記﹂文義春秋六二巻一一号三九八 1四O九頁
ー一六 O頁)
一九八四
一九九六
一九八七 a
﹁弁護士が法廷で偽証 被告の組員に迎合 ピストル不法所持 大阪府警が事情聴取﹂讃責新聞大
社会面二二
一九八七 b
阪版八月一日社会面二三
一九九四
一九九五
﹃法社会学の解体と再生﹄弘文堂
﹁暴力団事件の弁護はどのように行うか﹂竹津他(一九九四一四 O 一1四一一一一)
﹁私の法律事務所経営体験記﹄新日本教育図書
﹃労働運動白書(平成七年版)﹄日本労働研究機構
一九九六
﹁弁護士業務規制のゆくえと広告の解禁﹂自由と正義四九巻六号二 0 1一二一頁
一九九五
若松芳也
一九九八
﹃刑事弁護雑記帳﹂日本評論社
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若松敏幸
和田仁孝
一九九八
労働省労政局監修・日本労働研究機構編
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山間幅禦跡巡'且岳仲
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