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若者はなぜ仕事選びに失敗するのか
若 者はなぜ仕事 選びに失敗 するのか 経 済 学 部 4 回 生 寺 尾 ゼミナール 奥村 康平* 目次 はじめに I 若 年 層 をとりまく労 働 環 境 (1) 非 正 規 雇 用 の増 加 :その背 景 (2) 非 正 規 雇 用 の増 加 :所 得 の二 極 化 と人 件 費 減 尐 (3) 正 規 雇 用 者 の負 担 増 :労 働 時 間 の二 極 化 II 若 年 層 の望 む仕 事 (1) 若 年 層 の仕 事 選 択 の基 準 :求 職 時 (2) 若 年 層 の仕 事 選 択 の基 準 :離 職 時 III 日 本 的 雇 用 慣 行 の見 直 し (1) 長期雇用 (2) 新卒一括採用 (3) 年功的賃金体系 IV インセンティブ・メカニズムとしての日 本 的 雇 用 慣 行 (1) 「人 的 資 本 理 論 」による長 期 雇 用 の説 明 (2) 「人 的 資 本 理 論 」による年 功 的 賃 金 体 系 の説 明 (3) 「人 的 資 本 理 論 」による日 本 的 雇 用 慣 行 の説 明 の問 題 点 (4) インセンティブ・メカニズムとしての日 本 的 雇 用 慣 行 (5) インセンティブ・メカニズムとしての成 果 主 義 的 賃 金 体 系 おわりに 参考文献 1 はじめに 日 本 では、バブル崩 壊 以 降 、「失 われた 10 年 」を経 て、働 く人 々をとりまく環 境 が大 き く変 化 した。1985 年 に成 立 ・施 行 された男 女 雇 用 機 会 均 等 法 を契 機 とし た女 性 の社 会 進 出 はさらに進 み、情 報 技 術 の進 展 と相 俟 って、新 たな産 業 が生 ま れ、職 種 も増 加 し、 人 々 の 働 き 方 が多 様 化 し た とい う 点 で 、肯 定 的 に評 価 で き る環 境 の変 化 も尐 なく は な い。 しかしながら、ここ 10 年 間 、非 正 規 雇 用 者 は増 加 し、その数 は、現 在 、雇 用 者 の三 分 の一 を占 めるま でに至 ってい る。このことに付 随 して 、正 規 雇 用 者 の労 働 時 間 は増 加 し 、 現 在 、働 く人 々の間 では、所 得 と労 働 時 間 の双 方 における「二 極 化 」が進 行 している 。 いわ ゆる「 就 職 氷 河 期 」を経 て 、ここ数 年 間 は、四 年 制 大 学 卒 業 者 の就 職 状 況 が好 転 し、2009 年 3 月 卒 業 予 定 の学 生 に関 しては、空 前 の「売 り手 市 場 」と呼 ばれるほどで あった。しかしながら、2008 年 の秋 口 以 降 、国 内 の景 気 悪 化 とサブプライム・ローン問 題 に 端 を 発 した 世 界 的 な金 融 危 機 のあおり を受 けるか たちで 、 内 定 取 消 を行 う 企 業 も続 出 しており、2010 年 3 月 に卒 業 予 定 の学 生 は、すでに厳 しい就 職 戦 線 に直 面 してい る。 90 年 代 半 ば以 降 の長 引 く不 況 下 で、大 学 生 の就 職 活 動 は、その開 始 時 期 が早 まり、 長 期 化 することとなった。それでは、この就 職 活 動 の早 期 化 ・長 期 化 によって 、大 学 生 は 自 らにとって望 ましい職 業 選 択 を実 現 することができるようになったのであろうか 。素 朴 に 考 えて 、たとえ ばバブル期 以 前 の大 学 生 に比 べて 、現 在 の大 学 生 は、自 ら の仕 事 につ いて考 え る期 間 が長 くなり 、その機 会 も増 え た結 果 として 、仕 事 選 びや会 社 選 びに関 し て、失 敗 をしにくい環 境 が実 現 されていると判 断 してよいのであろうか 。 周 知 のように、四 年 制 大 学 卒 業 者 の 3 年 後 離 職 率 は、バブル崩 壊 以 降 徐 々に上 昇 しており、現 在 、その数 字 は 30%を超 過 している。3 人 に 1 人 以 上 が、最 初 に就 職 した 企 業 を 3 年 後 には辞 めており、そのうちの半 数 は、1 年 以 内 に離 職 しているのである。こ の事 実 を、労 働 市 場 における需 給 のミスマッチの結 果 とみなすことは 、はたして適 切 なの であろうか。 本 稿 は、若 年 層 が労 働 市 場 に参 入 する際 、何 を選 択 肢 と考 え 、どのよ うな評 価 基 準 にしたがって選 択 を行 うのが適 切 であるのかという問 題 について 、その経 済 分 析 を行 うも のである。 本 稿 の構 成 は、以 下 の通 りである。 2 ま ず、I章 では、現 在 、若 年 層 をめ ぐ る労 働 環 境 の現 状 を確 認 する 。ここで特 に着 目 することは、近 年 、非 正 規 雇 用 が増 加 していることの結 果 として、正 規 従 業 員 として採 用 されることのコストとリスクも増 加 しているという事 実 である 。 I I章 では 、現 在 、労 働 市 場 に参 入 する若 年 層 が 、ど のよ うな基 準 によ って仕 事 や 企 業 を評 価 し、選 択 しているのかについて、その概 要 を示 す。ここで着 目 するのは、入 職 時 には賃 金 が軽 視 されている一 方 で、賃 金 に不 満 をもって離 職 するケースが多 い という事 実 である。 III章 では、現 在 、多 くの企 業 において 、いわ ゆる日 本 的 雇 用 慣 行 の見 直 しが検 討 さ れてい る事 実 とその理 由 ならびに含 意 について考 察 を行 う 。ここでの主 要 な論 点 は、現 在 では、過 去 とは異 なり、たとえ大 企 業 の正 規 従 業 員 として採 用 されたとしても 、そのこと は必 ずしも安 定 した“ キャリアパス” が保 証 されることを意 味 するわけではないとい うことで ある。 続 くIV章 では、若 年 層 が入 職 時 にほとんど考 慮 することがない とい ってよい 、賃 金 体 系 の合 理 性 について議 論 を行 う。「年 功 的 賃 金 体 系 」ならびに「成 果 主 義 的 賃 金 体 系 」 をインセンティブ・メカニズムとして統 一 的 に扱 い 、それぞれの賃 金 体 系 の本 質 とその機 能 を経 済 学 的 に明 らかにする。その際 の主 要 な論 点 は、賃 金 体 系 の合 理 性 が、その賃 金 体 系 を採 用 している企 業 の成 長 の持 続 可 能 性 や従 業 員 の年 齢 構 成 等 などに応 じて 総 合 的 に定 まるということである。過 去 10 年 、日 本 では、成 果 主 義 的 な賃 金 体 系 を導 入 する企 業 が増 え たが、従 業 員 の労 働 意 欲 の低 下 を招 くなど 、失 敗 例 も多 く報 告 され ている。この章 の議 論 では、労 働 者 にとって、たんに自 らの選 好 と賃 金 体 系 とのマッチン グを考 慮 するだけでは、合 理 性 を欠 く選 択 をすることになることが示 される。 以 上 のよ うに、本 稿 では、若 年 層 が仕 事 を合 理 的 に選 択 するため に必 要 なことが 何 であるのか、経 済 学 的 な立 場 からそれを明 らかにする。 3 I 若 年 層 をとりまく労 働 環 境 ここではまず、若 年 層 をとりまく労 働 環 境 について、その現 状 を確 認 する。 (1)非 正 規 雇 用 の増 加 :その背 景 2008 年 における日 本 の総 雇 用 者 数 は 5,108 万 人 にのぼっている。そのうち、正 規 雇 用 者 の総 数 は 3,371 万 人 、非 正 規 雇 用 者 の総 数 は 1,737 万 人 である。つまり、現 在 、 会 社 勤 めをする人 のおよそ 3 人 に 1 人 が、非 正 規 雇 用 となっている。20 年 前 、非 正 規 雇 用 者 数 は全 雇 用 者 数 の 20%を下 回 っていた。この 10 年 間 で、4 人 に1人 から 3 人 に 1 人 の割 合 にまで非 正 規 雇 用 者 が増 加 したのである。同 じ期 間 において、非 正 規 雇 用 に占 めるパート・アルバイトの割 合 は 82%から 66%まで減 尐 した。非 正 規 雇 用 者 の増 加 の主 要 因 は、派 遣 ・契 約 社 員 ・嘱 託 社 員 といった雇 用 形 態 の増 加 である。 非 正 規 雇 用 が増 えた原 因 は、大 別 すると、以 下 の 3 つである。 第 一 に、90 年 代 後 半 の景 気 低 迷 をうけて企 業 においてリストラが進 められた結 果 、世 帯 主 で ある 男 性 の雇 用 不 安 が高 ま り 、世 帯 の 補 助 的 な 稼 ぎ 手 とし て の 女 性 パー トタ イ マーが増 加 したことによる。 第 二 に、1999 年 、派 遣 労 働 者 法 が「派 遣 対 象 業 種 が原 則 自 由 」というかたちに改 正 されたことによる。さらに 2003 年 には、派 遣 労 働 者 の雇 用 期 間 制 限 が 1 年 から 3 年 に 延 長 され、あわ せて 対 象 業 種 も 製 造 業 に ま で拡 大 された 。この ことで、 多 くの企 業 が非 正 規 雇 用 を用 いることとなった。 第 三 に、90 年 代 後 半 の景 気 後 退 によって、人 件 費 を抑 制 するために新 卒 採 用 が抑 制 されたことによる。いわゆる「就 職 氷 河 期 」といわれた 1993 年 ~2004 年 では、「フリー ター」に象 徴 される非 正 規 雇 用 を選 ばざるをえない新 規 学 卒 者 が続 出 した。 (2)非 正 規 雇 用 の増 加 :所 得 の二 極 化 と人 件 費 減 尐 非 正 規 雇 用 者 の増 加 は、労 働 者 や企 業 にどのような影 響 を及 ぼしている のだろうか。 厚 生 労 働 省 「毎 月 勤 労 統 計 調 査 」によれば、2007 年 時 点 での非 正 規 雇 用 者 の平 均 年 収 は 200 万 円 以 下 である。他 方 、正 規 雇 用 者 の平 均 年 収 は、400 万 円 である。現 在 、 非 正 規 雇 用 者 と正 規 雇 用 者 とでは、所 得 に倍 以 上 もの差 が生 じているわけである。 4 (%) 85 資本金1億円未満 80 75 資本金1~10億円未満 70 資本金10億円以上 65 60 企業規模計 55 50 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 (年) 図 1 労 働 分 配 率 の推 移 (財 務 省 「法 人 企 業 統 計 調 査 」 2007年 ) 非 正 規 雇 用 の増 加 は、企 業 の人 件 費 を減 尐 させることとなった。なぜなら、正 規 雇 用 者 に比 べて年 収 の尐 ない非 正 規 雇 用 者 が、その数 でも割 合 でも増 加 したからである。こ のことは、労 働 分 配 率 をみることでも確 認 できる。図 1は、労 働 分 配 率 の推 移 を示 してい る。90 年 代 以 降 、大 企 業 を中 心 として労 働 分 配 率 は低 下 する傾 向 にあり、全 体 でも労 働 分 配 率 は低 下 している。 (3)正 規 雇 用 者 の負 担 増 :労 働 時 間 の二 極 化 90 年 代 以 降 、非 正 規 雇 用 者 が増 加 したことで、正 規 雇 用 者 一 人 当 たりの仕 事 量 は 増 加 した。総 務 省 「労 働 力 調 査 」によれば、特 に、30 代 ・40 代 の男 性 を中 心 に、長 時 間 働 く正 規 雇 用 者 が増 加 しており、現 在 、その年 代 では、およそ 5 人 に 1 人 が、週 60 時 間 以 上 働 いている。週 60 時 間 以 上 働 く人 の割 合 は、10 年 前 と比 較 して、20%程 度 増 加 している。 「平 成 20 年 版 国 民 生 活 白 書 」によれば、現 在 、正 規 雇 用 者 の 3 人 に 2 人 が、仕 事 上 の責 任 や負 担 が増 えたという評 価 をしているが、その原 因 の内 訳 は、「個 人 での仕 事 が増 加 50%」、「昇 任 ・昇 格 40%弱 」、「社 員 数 の減 尐 30%」、「非 正 規 雇 用 者 の指 導 ・ 管 理 が増 加 20%」となっている。非 正 規 雇 用 が増 加 したことで、正 規 雇 用 者 の負 担 は、 5 質 的 にも増 加 したのである。 非 正 規 雇 用 者 の所 得 は相 対 的 に低 く、不 安 定 である。しかしながら、正 規 雇 用 者 とし て働 く場 合 には、負 担 の大 きい仕 事 を任 され、長 時 間 働 くことになる。これが、若 年 層 を とりまく労 働 環 境 の現 状 である。 II 若 年 層 の望 む仕 事 ここでは、若 年 層 が仕 事 を選 ぶ 際 の基 準 について検 討 をする。労 働 市 場 に参 入 する 若 年 層 が仕 事 を選 択 するにあたって合 理 的 な判 断 を行 っているかという問 題 、また、求 職 時 と離 職 時 での仕 事 に対 する考 え方 の相 違 について考 察 する。 (1)若 年 層 の仕 事 選 択 の基 準 :求 職 時 図 2は、若 年 層 が求 職 活 動 の際 に重 視 した項 目 を示 している。 仕事の内容 採用後の年収 会社の将来性 労働時間・休日・休暇 0 10 20 30 40 50 60 (%) 図 2 求 職 活 動 の際 に重 視 した条 件 ((独 )労 働 政 策 研 究 ・研 修 機 構 「若 年 者 の離 職 理 由 と職 場 定 着 に関 する調 査 」 2007年 ) 6 若 年 層 は、仕 事 を選 択 するにあたって、「仕 事 の内 容 」 や「 労 働 時 間 ・ 休 日 ・ 休 暇 」を重 視 している一 方 で、「採 用 後 の年 収 」はあまり重 視 していない。このような傾 向 は、近 年 に 特 徴 的 なことなのだろうか。 図 3は、新 入 社 員 が就 職 先 とした会 社 を選 択 した理 由 を示 している。 1987年 給料が高いから 1997年 実力主義の会社だから 2007年 仕事がおもしろいから 会社の将来性を考えて 自分の能力、個性が生かせる 0 図3 5 10 15 20 25 30 (%) 新 入 社 員 の会 社 の選 択 理 由 ((財 )社 会 経 済 生 産 性 本 部 「働 くことの意 識 調 査 」 2008年 ) ここでは、「自 分 の能 力 、個 性 を生 かせる」という理 由 が、この 20 年 間 を通 じて、最 多 となっている。「会 社 の将 来 性 を考 えて」という理 由 は、この 20 年 間 を通 じて減 尐 傾 向 に あり、それと対 照 的 に、「仕 事 がおもしろいから」という理 由 は、この 20 年 間 を通 じて増 加 傾 向 になる。この 20 年 間 を通 じて、新 入 社 員 が入 社 理 由 としてあげることが最 も尐 ない のは、「給 料 」である。およそ 20 人 に 1 人 程 度 しか、「給 料 」を重 視 していない。 一 般 的 に、若 年 層 は、仕 事 の内 容 を重 視 し、賃 金 に ついては重 視 していない と考 え ることができる。 (2)若 年 層 の仕 事 選 択 の基 準 :離 職 時 それでは、若 年 層 は、どのような理 由 で、離 職 するのであろうか。 図 4は、若 年 層 が離 職 する原 因 となった「仕 事 上 の悩 み」を示 したものである。 7 男性 労働時間が長い 女性 自分のキャリアや将来性 職場や人間関係 仕事がおもしろくない 賃金が低い 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 (%) 図 4 仕 事 上 の悩 み(内 閣 府 「国 民 生 活 に関 する世 論 調 査 」 2007年 ) ここで、求 職 時 にはほとんど考 慮 されていなかった 賃 金 を理 由 とした離 職 が多 いことに 注 目 したい。この事 実 から推 測 されることは、次 のことである。すなわち、若 年 層 は、仕 事 の内 容 は事 前 に調 査 して就 職 はするものの、「入 職 後 、どのような仕 事 がどのようなかた ちで評 価 され、それが報 酬 に結 びつくのか」という、企 業 レベルで決 定 されるはずの問 題 については、ほとんど考 えることなく就 職 をしている可 能 性 があるということである。 たとえば、(独 ) 労 働 政 策 研 究 ・ 研 修 機 構 「 勤 労 生 活 に関 する調 査 」 における 「日 本 型 雇 用 慣 行 等 に関 する評 価 」 なら び に( 独 ) 労 働 政 策 研 究 ・ 研 修 機 構 「 勤 労 生 活 に 関 する調 査 」 における「どのような人 に分 配 されるべきかについ ての考 え 方 」 という二 つ の資 料 を参 照 すると、長 期 雇 用 ・ 年 功 的 賃 金 体 系 などの日 本 的 雇 用 慣 行 に対 する若 年 層 の評 価 は高 ま ってい る一 方 で、 給 料 は実 績 を上 げた人 に分 配 するべき だとい う考 え方 をして若 年 層 も増 加 傾 向 にある。つまり、若 年 層 は、仕 事 を選 択 するにあたって、賃 金 体 系 に関 する合 理 的 な判 断 をしておらず、それが、高 い離 職 率 の一 因 となっている可 能 性 もあるわけである。 III 日 本 的 雇 用 慣 行 の見 直 し Ⅰ章 でみたように、若 年 層 をとりまく労 働 環 境 は大 きく変 化 してきており、他 方 、II章 で 8 みたように、若 年 層 は、そのような労 働 環 境 の変 化 に伴 う企 業 レベルでの変 化 を考 慮 せ ずに、労 働 市 場 に参 入 している可 能 性 が大 きい。 現 在 、多 くの企 業 において、日 本 的 雇 用 慣 行 が見 直 しの対 象 となってきている。 日 本 的 雇 用 慣 行 とは、一 般 には、長 期 安 定 的 な雇 用 (「長 期 雇 用 」)や年 齢 ・勤 続 年 数 に応 じた昇 進 ・ 昇 給 の体 系 ( 「 年 功 的 賃 金 体 系 」 ) として理 解 されてい る 。 ( 1 ) バブル 崩 壊 後 の 90 年 代 以 降 、日 本 経 済 の環 境 は大 きく変 化 し、従 来 の雇 用 ・賃 金 体 系 を見 直 す動 きが強 まり、労 働 市 場 を取 り巻 く環 境 も大 きく変 化 してきた 。このことの背 景 には、 短 期 的 な景 気 循 環 だけではなく、中 長 期 的 な尐 子 高 齢 化 やいわゆる経 済 のグローバル 化 、あるいは規 制 緩 和 などがある。 ここでは、日 本 的 雇 用 慣 行 が見 直 しの対 象 となってきている理 由 ならびに、具 体 的 に どのようなかたちでそれが見 直 されているのか について、その詳 細 をみることにする。 (1)長 期 雇 用 「長 期 雇 用 」とは、原 則 として、従 業 員 を定 年 まで雇 用 し続 けることを指 す。 現 在 、多 くの企 業 において、長 期 雇 用 は見 直 しが検 討 されている。 ( 独 )労 働 政 策 研 究 ・研 修 機 構 「企 業 の人 事 戦 略 と労 働 者 の就 業 意 識 に関 する調 査 」 (2003 年 )によれば、「従 業 員 に働 ける限 り働 いてもらうことを考 えている」という企 業 の割 合 は、全 体 のわずか 1%である。さら に、企 業 規 模 別 にみてみる。「原 則 として、従 業 員 を定 年 まで雇 用 する(出 向 ・転 籍 はなし)」と考 えている企 業 は、従 業 員 1,000 人 以 上 の 大 企 業 では 65%、中 小 企 業 全 体 では、およそ 80%となっている。長 期 雇 用 を前 提 とし て経 営 を行 ってい る企 業 の割 合 は、実 際 には、大 企 業 の方 が尐 ない のであ る。つま り、 現 在 、正 規 雇 用 者 であっても、必 ずしも「終 身 雇 用 」 を保 証 される存 在 ではなくなってき ているのである。 長 期 雇 用 が見 直 しの対 象 となってきてい るのは、 企 業 にと って人 件 費 をできるか ぎ り 抑 制 し、競 争 力 をもつ必 要 が生 じてきているからである。 90 年 代 以 降 の経 済 成 長 率 の 低 下 といわ ゆるグローバル化 の進 展 によ る国 際 的 な競 争 の激 化 から、コスト抑 制 の必 要 性 は高 まる一 方 であり、労 働 人 口 の高 齢 化 による人 件 費 の「自 然 増 」にも対 処 する必 要 があるからである。 (2)新 卒 一 括 採 用 9 日 本 的 雇 用 慣 行 におい て特 徴 的 な雇 用 方 法 は、いわ ゆる「 新 卒 一 括 採 用 ( 定 期 採 用 ) 」 である。新 卒 一 括 採 用 とは 、企 業 が 、 ほぼ毎 年 、高 校 ・ 大 学 等 の新 規 学 卒 者 を、 その卒 業 と同 時 に正 規 雇 用 者 として一 括 して採 用 することであり、これは、学 歴 別 人 事 管 理 に対 応 したものであるとともに、長 期 雇 用 の「入 口 」 となってい る。つまり、日 本 の企 業 においては、「 長 期 雇 用 」 とは、新 規 学 卒 者 を一 括 採 用 し、原 則 として 定 年 ま で雇 い 続 けることを意 味 する。 先 に述 べたよ うに、長 期 雇 用 は多 くの企 業 におい て 見 直 しを検 討 されている が、新 卒 一 括 採 用 に関 しては、そのような兆 しは見 られない。近 年 では、「 中 途 採 用 (4 年 以 上 の 継 続 した就 業 経 験 のある人 の採 用 )」や「第 二 新 卒 採 用 (新 卒 者 で 3 年 以 内 に離 職 した 人 の採 用 )」も尐 しずつ増 えてはきている。しかしながら、企 業 が新 卒 一 括 採 用 を重 視 す る姿 勢 には、現 在 のところ、変 化 が見 られない。その理 由 は、次 のとおりである。 新 卒 採 用 の利 点 は、「 人 材 確 保 のリスク が小 さい 」 「 従 業 員 全 体 の年 齢 構 成 のバラン スをとりやすい」ということである。 「 人 材 確 保 のリ スク が小 さい 」 とは、中 途 採 用 に比 べて 新 卒 者 の母 集 団 が大 き く 、採 用 できる確 率 が高 いということである。新 卒 者 は、毎 年 定 期 的 に労 働 市 場 に参 入 するこ とになるため、人 材 確 保 のための長 期 的 な計 画 も立 案 しやすくなる。 「従 業 員 全 体 の年 齢 構 成 のバランスをとりやすい」とは、毎 年 定 期 的 に採 用 を行 うこと によって、従 業 員 の年 齢 構 成 を調 整 しやすくなるということである。従 業 員 の年 齢 構 成 を 保 つことは、いわ ゆる 年 功 的 な賃 金 体 系 が採 用 されている場 合 に人 件 費 を管 理 するた めの、非 常 に重 要 な条 件 となる。 正 規 雇 用 に新 卒 一 括 採 用 と長 期 雇 用 が適 用 されているときには、新 規 学 卒 時 に非 正 規 雇 用 となった者 が正 規 雇 用 となることはきわめて困 難 となる。実 際 、 パート・アルバイト、 派 遣 等 で採 用 されている人 が正 規 雇 用 者 になる人 の割 合 は、90 年 代 以 降 、低 下 の一 途 を辿 っており、現 在 、およ そ 20 %程 度 である。 (2 ) この意 味 で、正 規 雇 用 が減 尐 しな がら も新 卒 一 括 採 用 が維 持 されていることによ って、非 正 規 雇 用 者 となることの機 会 費 用 は増 加 し続 けていると考 えることもできる。 さら に、新 規 学 卒 者 にと っては、正 規 雇 用 が減 尐 しながら も 新 卒 一 括 採 用 が維 持 さ れていることは、新 卒 時 に 1 回 だけある採 用 機 会 の機 会 費 用 が大 きくなっているこ とを意 味 する。新 卒 時 に正 規 雇 用 者 として採 用 されなければ、非 正 規 雇 用 となるわけであるが、 そこから正 規 雇 用 へと転 身 することはきわめて困 難 だからである。 10 (3)年 功 的 賃 金 体 系 年 功 的 賃 金 体 系 とは、 年 齢 ・ 勤 続 年 数 に応 じて上 昇 する賃 金 の体 系 のことであ る。 その本 質 は、「仕 事 の成 果 を次 の仕 事 (昇 進 )で報 いること」である。つまり、若 い時 の働 きを、将 来 の出 世 (昇 進 )で報 いるという制 度 である。 ここ 10 年 ほどで、年 功 的 賃 金 体 系 を見 直 す企 業 が増 えてきている。そして、年 功 的 賃 金 体 系 を代 替 あるいは補 完 するかたちで 導 入 することが検 討 されるのが、いわ ゆる成 果 主 義 的 賃 金 体 系 である。成 果 主 義 的 賃 金 体 系 の本 質 は 、「仕 事 の成 果 をタ イムリー にキャッシュで支 払 う」 ということである。つまり、仕 事 の 成 果 をその都 度 評 価 して 、それを そのときに支 払 う賃 金 に反 映 させるということである。 厚 生 労 働 省 「就 労 条 件 総 合 調 査 」 (2004 年 ) によれば、「個 人 の業 績 を賃 金 に反 映 させる」と回 答 した企 業 は 40%を上 回 っている。企 業 規 模 別 にみると、99 人 以 下 の小 企 業 では 40%だが、1,000 人 以 上 の大 企 業 では 80%にも上 っている。さらに、大 企 業 に 関 していえ ば、「 今 後 、成 果 主 義 的 賃 金 体 系 を導 入 する予 定 が全 くない 」 と回 答 した企 業 は、わずか 15%に留 まっている。 つま り、現 在 では、大 企 業 を中 心 に日 本 的 雇 用 慣 行 が見 直 され、成 果 主 義 的 賃 金 体 系 の導 入 が検 討 されつつあるのである。一 言 でいえば、大 企 業 の正 社 員 になったから といっても、もはや、必 ずしも安 泰 ということではないのである。 経 済 成 長 の低 下 や国 際 競 争 の激 化 、尐 子 高 齢 化 などが背 景 となって、企 業 には人 件 費 抑 制 の圧 力 がかかっている。そのことに対 処 するために、企 業 では、日 本 的 雇 用 慣 行 の見 直 しが行 われつつあり、さらにそれは、大 企 業 が先 駆 け るようなかたちで実 現 され つつある。「 大 企 業 =安 定 ・ 安 泰 」 とい うイメージで捉 え ることは、必 ずしも適 切 ではない 状 況 になってきているのである。 IV インセンティブ・メカニズムとしての日 本 的 雇 用 慣 行 一 般 に、「 日 本 的 」 と称 される雇 用 慣 行 の特 徴 として は 、長 期 的 な雇 用 関 係 ( 「 終 身 雇 用 」)と年 齢 ・勤 続 年 数 に応 じて上 昇 する賃 金 の体 系 (「年 功 的 賃 金 」)とがあげられる 。 これまで、それら が見 直 しの対 象 となってきてい るとい う事 実 とその背 景 につい て考 察 を 11 重 ねてきたが、ここでは、日 本 的 雇 用 慣 行 の経 済 学 的 な分 析 を行 うことによ って、現 在 起 こっている問 題 の本 質 を見 極 めるための手 がかりを得 ることとしたい。 (1)「人 的 資 本 理 論 」による長 期 雇 用 の説 明 長 期 的 な雇 用 関 係 の成 立 を、歴 史 や文 化 的 背 景 からではなく、経 済 学 的 に説 明 す るものとしては、企 業 による「人 的 資 本 形 成 」という観 点 から 、経 済 合 理 性 を備 えたシステ ムとして捉 えるものがある。 ( 3 ) これは、次 のようなことである。 日 本 の企 業 において新 規 学 卒 者 として一 括 採 用 される常 用 雇 用 者 は 、企 業 内 での 長 期 にわ たる教 育 ・訓 練 を通 じて 、他 企 業 の雇 用 者 や資 本 と容 易 には代 替 できない 生 産 要 素 として、すなわち「企 業 特 殊 的 人 的 資 本 」として確 保 されることになる 。この場 合 、 短 期 的 な業 績 の変 動 が生 じたときには、雇 用 調 整 の対 象 とするよりも、高 額 の機 械 設 備 と同 様 に、企 業 にとっては、「 遊 休 」すなわち「労 働 保 蔵 」 を選 択 することが合 理 的 であり うる。その結 果 、長 期 雇 用 が実 現 されることになる。 (2)「人 的 資 本 理 論 」による年 功 的 賃 金 体 系 の説 明 人 的 資 本 理 論 によ れば、年 齢 ・勤 続 年 数 に応 じて賃 金 が上 昇 する年 功 的 賃 金 体 系 は、次 のような経 済 合 理 性 を備 えたシステムとして理 解 される 。 企 業 は、新 規 学 卒 者 として一 括 採 用 した若 年 雇 用 者 の教 育 ・訓 練 にかかる費 用 (の 一 部 ) を、その生 産 性 を下 回 る賃 金 を支 払 うことによ って賄 う 。そして、蓄 積 された人 的 資 本 から得 られる収 益 (の一 部 ) を、年 齢 ・勤 続 年 数 に応 じた賃 金 上 昇 のかたちで支 払 う。つま り、雇 用 される者 にとっては、若 年 時 にその生 産 性 を下 回 る賃 金 を受 け取 るとき 、 その差 額 が実 質 的 に「強 制 貯 蓄 」として機 能 し 、離 職 することの機 会 費 用 となる 。さら に、 雇 用 される者 にとって 、その「 強 制 貯 蓄 」は、将 来 、( 企 業 業 績 に応 じて) その還 付 金 の 額 が定 まる「出 資 」ともなるわけである。 (3)「人 的 資 本 理 論 」による日 本 的 雇 用 慣 行 の説 明 の問 題 点 以 上 みたように、人 的 資 本 理 論 によ れば、長 期 雇 用 ・ 年 功 的 賃 金 体 系 をその特 徴 と する日 本 的 雇 用 慣 行 には経 済 合 理 性 があるということになる 。企 業 は、雇 用 者 の教 育 ・ 訓 練 を通 じて企 業 特 殊 的 人 的 資 本 を形 成 する 。このとき、企 業 は、雇 用 者 を短 期 的 な 調 整 の対 象 とはしなくなる 。そして、企 業 は、若 年 雇 用 者 への「 賃 金 の後 払 い 」によ って 12 その教 育 ・訓 練 にかかる費 用 を賄 う。若 年 雇 用 者 にとっては、このことによる「強 制 貯 蓄 」 が““人 質 ””となるので、“持 ち逃 げ”ができなくなり、同 一 企 業 への定 着 率 も高 まることに なるわけである。 人 的 資 本 理 論 が説 明 する長 期 雇 用 ・年 功 的 賃 金 体 系 が中 長 期 的 に安 定 して持 続 するため には、若 年 雇 用 者 の人 数 が常 に上 の世 代 の人 数 よ りも増 加 し続 けること( した がって、雇 用 者 数 が増 加 し続 けること) 、そして、企 業 が持 続 的 に成 長 することが必 要 と なる。なぜなら ば 、特 定 の時 点 でみれば 、「 賃 金 の後 払 い 」 とは世 代 間 の所 得 移 転 にほ かなら ず、その原 資 が確 保 ・ 維 持 され 、システムが破 綻 しない ため には 、雇 用 者 の 総 数 が増 加 する必 要 があるからである。さらに、若 年 雇 用 者 の「強 制 貯 蓄 」の収 益 率 が高 まる ためには、企 業 が成 長 する必 要 がある。 経 済 成 長 率 が低 下 し 、尐 子 高 齢 化 が進 行 している現 在 の日 本 においては 、日 本 的 雇 用 慣 行 を説 明 する理 論 としての人 的 資 本 理 論 の実 証 的 妥 当 性 は 多 尐 なりと も損 な われているとも考 えられるが、仮 にそのことを問 わないとしても、人 的 資 本 理 論 による日 本 的 雇 用 慣 行 の説 明 は、次 の意 味 で、不 十 分 であると考 えられる。 人 的 資 本 理 論 は、長 期 雇 用 や年 功 的 賃 金 体 系 を企 業 がすでに採 用 している場 合 に は、それを維 持 することが合 理 的 であることを説 明 することはできる 。しかし、人 的 資 本 理 論 は、企 業 が、長 期 雇 用 や年 功 的 賃 金 体 系 の他 に代 替 的 な選 択 肢 を有 しているとき 、 企 業 にとって 、長 期 雇 用 や年 功 的 賃 金 体 系 を選 択 するインセンティブがあるということを .... 説 明 できる もので はない 。 つま り 、人 的 資 本 理 論 は 、雇 用 者 に 長 期 雇 用 ・ 年 功 的 賃 金 ... 体 系 を選 択 するインセンティブがあることは説 明 してい るが 、企 業 に それら を選 択 するイ ンセンティブがあることを十 分 には説 明 していないのである 。 (4)インセンティブ・メカニズムとしての日 本 的 雇 用 慣 行 「効 率 賃 金 仮 説 」とは、一 言 でいえば、「賃 金 の上 昇 は雇 用 者 の生 産 性 を上 昇 させる」 という仮 説 である。賃 金 の上 昇 が雇 用 者 の生 産 性 を上 昇 させる理 由 としては 、優 秀 な従 業 員 の採 用 を可 能 にする 、あるい は、離 職 の機 会 費 用 を上 昇 させるため に 、雇 用 者 は 労 働 努 力 を高 める等 の理 由 が考 えられる。 本 節 では、効 率 賃 金 仮 説 を拡 張 すると 、企 業 にとって年 功 的 賃 金 体 系 を採 用 するイ ンセンティブが存 在 することを説 明 できることを示 す 。 いま 、企 業 における(代 表 的 )雇 用 者 の生 産 性 が 、図 5のような曲 線 で描 かれるものと 13 する。入 職 時 には低 かった生 産 性 は、年 齢 とともに徐 々に上 昇 し、ピークを迎 えた後 、緩 やかに低 下 していくものとする。 効 率 賃 金 仮 説 が成 立 しているとするとき 、雇 用 者 に支 払 う賃 金 を上 昇 させると、雇 用 者 の生 産 性 は上 昇 する 。しかしながら 、このとき 、すべての年 齢 の雇 用 者 の賃 金 を同 額 だけ上 昇 させることは、企 業 にとって有 益 ではない 。なぜなら、離 職 することの機 会 費 用 、 すなわち離 職 によって失 う生 涯 所 得 の割 引 現 在 価 値 は、中 高 年 雇 用 者 よりも若 年 雇 用 者 の方 が大 きいから である。したがって 、生 産 性 を上 昇 させるために必 要 な賃 金 の上 昇 幅 は、若 年 雇 用 者 の方 が中 高 年 雇 用 者 よ りも小 さくてよ い 。その結 果 、賃 金 プロ ファイ ルは、図 5のような形 状 になるとする。 図5 年功的賃金体系 いま 、(代 表 的 )雇 用 者 が図 5の時 点 で失 職 したとし、その場 合 には、市 場 全 体 の平 均 賃 金 (図 5の「市 場 平 均 賃 金 」)の賃 金 を支 払 う企 業 で雇 用 される とする。このとき、図 5の灰 色 部 分 の面 積 に等 しい分 だけ、生 涯 所 得 が減 尐 することになる。この生 涯 所 得 の 減 尐 分 の時 点 での割 引 現 在 価 値 を実 質 的 な離 職 コストとすると、雇 用 者 の離 職 コストは、 14 入 職 時 と退 職 時 が 最 低 となり 、こ の企 業 で 支 払 わ れ る賃 金 と市 場 平 均 賃 金 とが等 し く なった直 後 に最 高 となる。したがって、入 職 直 後 と退 職 直 前 の雇 用 者 を除 くほぼすべて の雇 用 者 の生 産 性 を、賃 金 を操 作 することによ って高 めることが可 能 となる 。図 5におい て、雇 用 者 の生 産 性 のプロファイルが市 場 平 均 賃 金 よりも高 くなっているのは 、そのため である。つま り、雇 用 者 に支 払 う賃 金 総 額 を一 定 に留 め るとしても 、賃 金 体 系 を年 功 的 にすることによ って、企 業 は、市 場 平 均 以 上 の生 産 性 を雇 用 者 から引 き出 すことができ るわけである。 賃 金 体 系 が年 功 的 になっているとき 、雇 用 者 にとっては、若 年 時 には生 産 以 下 の賃 金 を受 け取 ることで企 業 に「 貸 付 」を行 ってい ることになるから 、解 雇 されない ように労 働 努 力 を高 め るインセンティブが与 え られ 、同 一 企 業 に勤 め 続 けるインセンティブも与 えら れる。つま り、雇 用 者 にとって 賃 金 が「後 払 い」 となることによ って、長 期 雇 用 が実 現 され やすくなる。この点 は、人 的 資 本 理 論 による説 明 と同 様 である。 しかしながら、「効 率 的 -年 功 的 賃 金 仮 説 」 の下 では 、人 的 資 本 理 論 による説 明 とは 異 なり、企 業 と雇 用 者 との利 害 は必 ずしも一 致 しない 。これは、次 のようなことである。 人 的 資 本 理 論 による説 明 では、企 業 特 殊 的 人 的 資 本 が形 成 されるときには、企 業 と 雇 用 者 がともに人 的 資 本 形 成 のため の費 用 を負 担 し、その収 益 もともに享 受 することに なる。つまり、人 的 資 本 の形 成 は、企 業 と雇 用 者 との「共 同 出 資 」である。したがって、他 の条 件 に変 化 がないのに雇 用 関 係 を解 消 することは 、企 業 ・雇 用 者 の双 方 にとって「不 利 益 変 更 」 となるわけである。逆 に言 えば、雇 用 関 係 解 消 によ って生 じる 不 利 益 以 上 の 不 利 益 を企 業 あ るい は雇 用 者 が被 ら ないかぎり 、解 雇 あるい は離 職 が発 生 しない とい う ことになる。 他 方 、「効 率 的 -年 功 的 賃 金 仮 説 」の下 では、年 齢 ・勤 続 年 数 の長 い雇 用 者 は、そ の生 産 性 以 上 の賃 金 を支 払 われることになるため 、雇 用 者 には定 年 まで同 一 企 業 で働 くインセンティブが与 えられる。しかし、企 業 には、人 件 費 を削 減 するために高 年 齢 の雇 用 者 を解 雇 するインセンティブが常 に与 えられる 。なぜなら、企 業 は、勤 続 年 数 の長 い 高 年 齢 の雇 用 者 に対 しては、その生 産 性 以 上 の賃 金 を支 払 っているからである。このこ とが含 意 するのは、年 功 的 賃 金 体 系 を選 択 するインセンティブが与 えられる企 業 とそうで ない企 業 とが区 別 されるということである。すなわち、経 済 成 長 率 の低 下 や所 属 する産 業 の低 迷 、雇 用 者 の高 齢 化 の進 行 等 があるときには、年 功 的 賃 金 体 系 を維 持 しないこ とによる利 益 が年 功 的 賃 金 体 系 を維 持 することによる利 益 を上 回 る可 能 性 があるため 、 15 企 業 には、年 功 的 賃 金 体 系 を見 直 すインセンティブが与 えられることになる。そして、III 章 でみたような、現 在 の日 本 企 業 における日 本 的 雇 用 慣 行 の見 直 しは、経 済 学 的 には、 このような観 点 から解 釈 することができるのである。 (5)インセンティブ・メカニズムとしての成 果 主 義 的 賃 金 体 系 先 にみたよ うに、年 功 的 賃 金 体 系 は、総 人 件 費 を変 更 せずに雇 用 者 の生 産 性 を上 昇 させることができるインセンティブ・ メカニズム である。そして 、年 功 的 賃 金 体 系 を長 期 的 に持 続 させるインセンティブが与 え ら れるのは 、倒 産 リスク が小 さく 、雇 用 者 の年 齢 構 成 のバランスが取 れている企 業 である。 90 年 代 以 降 、多 くの日 本 企 業 において 、いわゆる成 果 主 義 的 な賃 金 体 系 が導 入 さ れたが、現 在 では、そのような賃 金 制 度 の改 革 は 、期 待 されたほどの効 果 を生 まなかっ たと理 解 されている。 ( 4) しかし、それら の事 例 の多 くは、成 果 主 義 的 な賃 金 体 系 そのも のに起 因 する失 敗 例 であるとい うよ りは 、「 成 果 」 に関 する客 観 的 で計 測 可 能 な指 標 が 存 在 しえない 業 務 に成 果 主 義 を適 用 するなどの技 術 的 な問 題 に起 因 するものである と いえる。 ( 5) 一 般 に、経 済 主 体 にインセンティブを与 えるためには、その経 済 主 体 にインセンティブ とその構 造 を認 識 させることが不 可 欠 である。たとえば、企 業 が 持 続 的 に成 長 しており 、 雇 用 者 の数 と比 較 して管 理 職 のポストが十 分 に存 在 する場 合 には 、仕 事 に対 する報 酬 を、そのときに支 払 う賃 金 ではなく、昇 進 (将 来 の高 賃 金 ) とすることは 、雇 用 者 にとって インセンティブ・メカニズムとして機 能 することになる 。しかしながら、企 業 の成 長 が伸 び悩 み、雇 用 者 が高 年 齢 化 する場 合 には 、昇 進 の可 能 性 は低 くなるため 、仕 事 に対 する報 酬 を昇 進 とすることは、雇 用 者 にとって信 頼 度 の低 いものとなり、インセンティブ・メカニズ ムとしては機 能 しない 。そして 、このような場 合 には、仕 事 の成 果 をその都 度 評 価 してそ の都 度 賃 金 で支 払 うという 、成 果 主 義 的 な賃 金 体 系 がインセンティブ・ メカ ニズムとして 機 能 する可 能 性 が大 きくなるわけである。 つまり、年 功 的 賃 金 体 系 と成 果 主 義 的 賃 金 体 系 とは、ともにインセンティブ・メカニズム で ある とい う 点 で は相 違 がない 。両 者 の本 質 的 な違 い は 、「 将 来 の高 賃 金 」 が イン セン ティブとなるのか、そうではなく、「現 在 の高 賃 金 」がインセンティブとなるのかという点 にあ る、つまり、「将 来 の高 賃 金 」が雇 用 者 の持 続 的 な生 産 性 向 上 のための努 力 を引 き出 す ことにつながるか、そうではなく、「現 在 の高 賃 金 」が雇 用 者 の持 続 的 な生 産 性 向 上 のた 16 めの努 力 を引 き出 すことにつながるかという点 にあるのである 。 90 年 代 以 降 、多 くの日 本 企 業 において成 果 主 義 的 な賃 金 体 系 が導 入 されたことは 、 経 済 学 的 には 、企 業 業 績 の低 迷 とい う短 期 的 な原 因 と 尐 子 高 齢 化 の 進 行 とい う中 長 期 的 な原 因 とによ って 、企 業 がインセンティブ・ メカ ニズムとしての年 功 的 賃 金 体 系 を維 持 できなくなったことによるものと理 解 することができる 。つまり、企 業 がたんに人 件 費 を削 減 するためだけに年 功 的 賃 金 体 系 を見 直 し、成 果 主 義 的 賃 金 体 系 を導 入 したと見 るこ とは正 確 ではなく、経 済 学 的 には、「経 済 環 境 の変 化 によって、企 業 ・雇 用 者 双 方 に とってのインセンティブの構 造 が変 化 した」と理 解 するべきである。 以 上 述 べたことの含 意 を要 約 的 に述 べると、次 のようになる。 若 年 層 が、入 職 時 に、その企 業 で採 用 されてい る賃 金 体 系 を見 て 、自 ら の選 好 との マッチングだけを考 慮 して評 価 することは 、その選 択 の合 理 性 を損 なう可 能 性 があるとい うことである 。なぜならば 、企 業 の採 用 する賃 金 体 系 が合 理 的 であるか 、すなわち、イン センティブ・メカ ニズムとして有 効 に機 能 するか否 かは 、その企 業 の業 績 や、その企 業 を とりま く経 済 環 境 によ って決 ま るから である 。たとえ ば、年 功 的 賃 金 体 系 を採 用 してい る 企 業 が持 続 的 に成 長 しており 、その従 業 員 の年 齢 構 成 のバラ ンスがとれているならば 、 そのような「古 い」賃 金 体 系 を採 用 している企 業 が行 う他 の経 営 判 断 も合 理 的 でありうる 。 い ずれにせよ 、このような総 合 的 な判 断 をすることは 、若 者 が仕 事 選 びをする際 に不 可 欠 であることだけは間 違 いないのではないだろうか 。 おわりに I章 では、非 正 規 雇 用 者 の増 加 によって所 得 と労 働 時 間 の二 極 化 が生 じ、若 年 層 を とりま く労 働 環 境 が厳 しくなってい る現 状 を確 認 した。 それは、非 正 規 雇 用 者 の労 働 環 境 が 厳 しい だ け で はな く 、 正 規 雇 用 者 の労 働 環 境 も厳 し さ を 増 してい る とい うも ので あ る。 II章 では、若 年 層 の仕 事 選 択 の基 準 について考 察 をした。若 年 層 は、求 職 時 には賃 金 体 系 への関 心 が非 常 に低 い一 方 で、離 職 の理 由 としては、賃 金 への不 満 が大 きなも のとなっている。 ( 6) この事 実 から推 測 されるのは、若 年 層 は、「入 職 後 、どのような仕 事 .. がどのようなかたちで評 価 され、それが報 酬 に結 びつくのか」という賃 金 体 系 の問 題 につ いては、ほとんど判 断 をすることなく就 職 をしてい る可 能 性 があるとい うことである。つまり、 若 年 層 の高 い 離 職 率 の原 因 が、労 働 市 場 における需 給 のミ スマッチだ けにあるわ けで 17 はない可 能 性 があるということである。 III章 では、日 本 的 雇 用 慣 行 とその現 状 について、事 実 の確 認 と考 察 を行 った。現 在 、 日 本 的 雇 用 慣 行 が見 直 されつつある背 景 には、経 済 成 長 の低 下 や国 際 競 争 の激 化 、 あるいは尐 子 高 齢 化 による労 働 人 口 の年 齢 構 成 のバランスが崩 れたことなどがある。大 企 業 を中 心 に成 果 主 義 的 賃 金 体 系 の導 入 が 検 討 されており、「 大 企 業 の正 社 員 にな れば安 泰 」とはいえなくなってきている現 状 を確 認 した。 IV章 では、「 年 功 的 賃 金 体 系 」 ならびに「成 果 主 義 的 賃 金 体 系 」 をインセンティブ・メ カ ニズムとして統 一 的 に扱 い 、それぞれの賃 金 体 系 の本 質 とその機 能 を経 済 学 的 に明 ら かにした。両 者 の本 質 的 な違 い は、「将 来 の高 賃 金 」 がインセンティブとなるのか、そう ではなく、「 現 在 の高 賃 金 」 がインセンティブとなるのかという点 にある 。それぞれのインセ ンティブは企 業 の経 済 状 況 や従 業 員 の 年 齢 構 成 などによ って合 理 的 になりうるかが決 ま る 。そして 、日 本 的 雇 用 慣 行 の変 化 は、 経 済 環 境 の 変 化 によ って、 インセンテ ィブ の 構 造 が変 化 したことに起 因 すると理 解 できることを示 した。 本 稿 における以 上 の議 論 の含 意 は、次 の通 りである。 若 者 が仕 事 選 びに失 敗 しないため には、たんに 賃 金 制 度 が自 分 に合 ってい るかどう かを考 えるだけでは不 十 分 であり、その企 業 がその企 業 にふさわしい賃 金 体 系 を採 用 し ているかどうかを見 極 めることが不 可 欠 だということである。別 の言 い方 をすれば、仕 事 選 .. . .. びに失 敗 しない ためには、仕 事 に就 く 際 の問 題 だけではなく、仕 事 を 続 ける 際 に問 題 と なることまで視 野 に入 れるべきだということである。 以 上 、本 稿 では、現 在 、若 者 が仕 事 を選 択 する際 の環 境 がどのよ うなものであり、仕 事 の選 択 を合 理 的 に行 うために考 慮 することが必 要 な問 題 とその経 済 学 的 な分 析 結 果 を示 した。四 年 制 大 学 卒 業 者 の職 業 ・企 業 選 択 の際 の意 識 ・ 行 動 に関 するデータ等 も 数 多 く存 在 するが、それら を参 照 した、四 年 制 大 学 卒 業 者 に焦 点 を当 てた議 論 につい ては、今 後 の課 題 としたい。 18 参考文献 小 野 旭 『変 化 する日 本 的 雇 用 慣 行 』(日 本 労 働 研 究 機 構 、1997 年 )。 梶 井 厚 志 『戦 略 的 思 考 の技 術 』(中 公 新 書 、2002 年 )。 熊 沢 誠 『若 者 が働 くとき』(ミネルヴァ書 房 、2006 年 )。 玄 田 有 史 『仕 事 のなかの曖 昧 な不 安 』(中 央 公 論 新 社 、 2001 年 )。 小 池 和 男 『職 場 の労 働 組 合 と参 加 』(東 洋 経 済 新 報 社 、 1977 年 )。 小 杉 礼 子 『大 学 生 の就 職 キャリア』(剄 草 書 房 、2007 年 )。 斎 藤 貴 男 『成 果 主 義 神 話 の崩 壊 』(旬 報 社 、2005 年 )。 城 繁 幸 『内 側 から見 た富 士 通 「成 果 主 義 」の崩 壊 』(光 文 社 、2004 年 ) 城 繁 幸 『若 者 はなぜ3年 で辞 めるのか』(光 文 社 新 書 、2006 年 )。 城 繁 幸 『3年 で辞 めた若 者 はどこへ行 ったのか』(ちくま新 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2007」(2006 年 12 月 13 日 )。 脚注 * 本 稿 の作 成 にあたり、私 を支 えてくれた家 族 やゼミナールの同 級 生 、先 輩 ・後 輩 に深 く感 謝 したい。また、私 の論 文 作 成 を気 にかけ、会 う度 に励 ましの言 葉 をかけていただい た経 済 学 部 の多 くの教 員 の方 々に深 く感 謝 申 し上 げる。また、ゼミナールの担 当 教 員 で ある寺 尾 建 教 授 、ならびに、論 文 の審 査 にあたって有 益 なコメントを多 数 いただいた 2 名 の匿 名 の教 員 の方 々に、深 く感 謝 申 し上 げる。 ( 1 ) 日 本 的 雇 用 慣 行 が成 立 した歴 史 的 背 景 については 、①近 世 商 家 源 流 説 ②戦 時 経 済 遺 産 説 ③「内 部 労 働 市 場 」論 の3つの説 が存 在 する。 ①近 世 商 家 源 流 説 これは、近 世 商 家 の雇 用 慣 行 と現 代 企 業 の雇 用 慣 行 とのあいだに連 続 性 があるとす る 説 である。 具 体 的 には 、終 身 雇 用 制 ・ 生 活 給 ・ 貯 金 制 度 ・ 賞 与 ・ 退 職 金 等 が商 家 の 奉 公 人 管 理 に由 来 する 、とする説 である。しかしながら 、たとえば、終 身 雇 用 に関 しては、 近 世 商 家. では、病 . . .死 によ る奉 公 人 の大 量 脱 落 があり、尐 数 の健 康 な奉 公 人 と商 家 との あいだに事 後 的 に 長 期 雇 用 が成 立 したにすぎず、事 前 に長 期 雇 用 が想 定 されていたわ けではなかった。生 活 給 ・ 貯 金 制 度 ・ 賞 与 ・ 退 職 金 等 に関 しても 、近 世 商 家 におい て 、 外 形 的 にそのようにみなせる制 度 は存 在 してい たが 、現 代 企 業 におけるそれとは性 格 ・ 位 置 づけが基 本 的 には異 なるものとみなすべきであるというのが 、現 在 では定 説 となって いるようである。 ②戦 時 経 済 遺 産 説 これは、日 本 的 雇 用 慣 行 とりわけ年 功 賃 金 の起 源 が第 二 次 大 戦 時 の戦 時 労 働 統 制 にあるとする説 である。年 齢 ・在 職 年 数 という要 因 によってのみ定 期 昇 給 が実 現 されると い う制 度 が 、戦 時 中 、多 く の企 業 が産 業 報 国 会 の一 括 的 な 管 理 下 にお かれてい た 時 .... 期 、定 着 をみたのは事 実 である。しかしながら 、戦 時 労 働 統 制 によ って はじめ て 定 期 昇 給 制 度 が定 着 したわけではない。戦 時 経 済 の進 展 に伴 って職 員 の数 が急 増 し 、その相 対 的 地 位 が低 下 した結 果 、職 員 と工 員 とのあい だの待 遇 格 差 が縮 小 したこと と 相 俟 っ て、結 果 的 に、年 齢 ・在 職 年 数 という要 因 と昇 給 とのあいだの相 関 が高 まったとはい える ものの、そのことと、戦 時 経 済 そのものが年 功 賃 金 の起 源 であるという主 張 とは区 別 され なければならない。 ③「内 部 労 働 市 場 」論 「内 部 労 働 市 場 」論 の主 張 の概 要 は、次 のようなものである。レベル・タイプの異 なる 多 種 多 様 な職 務 の存 在 する 、すなわち「内 部 労 働 市 場 」 の存 在 する大 企 業 においては 、 従 業 員 は、OJTによって企 業 特 殊 的 技 能 を身 につけながら 、下 位 にある、賃 金 の低 い 職 務 から、上 位 にある賃 金 の高 い職 務 へと移 行 する。その過 程 において 、従 業 員 の賃 金 プロファイルは、年 齢 ・在 職 年 数 にともなって賃 金 が上 昇 するかたちになる。また、従 業 員 が身 につける企 業 特 殊 的 技 能 は、他 の企 業 においては通 用 しないため 、従 業 員 に は離 職 の動 機 が存 在 しないことになる。その結 果 として 、長 期 雇 用 が実 現 される。従 業 員 は、同 じ企 業 に長 期 間 雇 用 されることになるので 、会 社 ごとに団 結 し、企 業 内 労 働 組 合 が結 成 される。さらに、「内 部 労 働 市 場 」論 によれば、経 済 の発 展 段 階 に応 じて、すな わち、経 済 おける大 企 業 の存 在 割 合 に応 じて 、年 功 賃 金 ・終 身 雇 用 ・企 業 別 組 合 の実 現 頻 度 が定 まることになり、したがって、年 功 賃 金 ・終 身 雇 用 ・企 業 別 組 合 は日 本 に特 殊 的 ではないという含 意 が導 かれることになる。しかしながら 、学 界 においては、この説 は、 実 証 的 根 拠 が不 十 分 であるという理 解 が一 般 的 である。 ( 2 ) 厚 生 労 働 省 「平 成 15 年 版 労 働 経 済 白 書 」p.13。 ( 3 ) 例 えば、小 池 和 男 『職 場 の労 働 組 合 と参 加 』(東 洋 経 済 新 報 社 、1977 年 )。 20 (4) 例 えば、城 繁 幸 『内 側 から見 た富 士 通 「成 果 主 義 」の崩 壊 』(光 文 社 、2004 年 )、高 橋 伸 夫 『虚 妄 の成 果 主 義 』(日 経 BP社 、2004 年 )が詳 しい。 ( 5 ) 例 えば、NEC では、個 人 だけでなく、事 業 部 別 の成 果 でも報 酬 に差 をつけている。 所 属 する事 業 部 による格 差 については、「事 業 部 の括 りは大 きすぎて、自 分 の努 力 では どうにもならないので、納 得 性 が低 い」という否 定 的 な意 見 もある 。このような事 業 部 別 成 果 主 義 の場 合 、異 動 の機 会 が公 平 であるか否 かも重 要 である。従 業 員 にとって納 得 の いく評 価 制 度 でない限 り、従 業 員 が自 らの労 働 努 力 を高 めることには繋 がらないであろ うし、かえって逆 効 果 になる可 能 性 もあるだろう。 .. ( 6 ) 「現 在 の労 働 時 間 に比 べて現 在 の賃 金 水 準 が低 い」と判 断 するために若 年 層 が離 職 するということもありうるかもしれない。しかしながら、将 来 においては労 働 時 間 に比 べ て賃 金 水 準 が高 くなるということが十 分 に期 待 される場 合 には、現 在 の労 働 時 間 に比 べ て現 在 の賃 金 水 準 が低 くとも若 年 層 が離 職 を選 択 しないことは合 理 的 でありうる。した .. がって、若 年 層 の賃 金 への不 満 とは、賃 金 体 系 への不 満 であると考 えることができる。 21