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コレクティブDCとその論点

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コレクティブDCとその論点
研究ノート
コレクティブ DC とその論点1
2015 年 10 月
三井住友信託銀行ペンション・リサーチ・センター研究理事
杉田
健
要旨
コレクティブ DC(Collective Defined Contribution)は、資産運用実績に応じて給付
額が決まるので雇用主の追加負担がない点は通常の DC(確定拠出年金)と同様ですが、
資産運用は個人の自己責任ではなく合同で行う制度です。コレクティブ DC はオランダ
で始まり、英国において今年から導入されました。また、類似の制度としてデンマーク
の ATP、スイスの職域年金、カナダの目標給付制度、および中国の企業年金制度があ
ります。コレクティブ DC の論点としては、会計上の取扱い、自動的な給付減額時の問
題、世代間のリスク移転などがあげられています。
1.
はじめに
コレクティブ DC(Collective Defined Contribution)は、CDC、集団型 DC、集団的 DC、
集団運用型 DC とも呼ばれ、資産運用実績に応じて給付額が決まるので雇用主の追加負担
がない点は通常の DC(確定拠出年金)と同様ですが、資産運用は個人の自己責任ではなく
合同で行う制度です。本稿では以下「コレクティブ DC」という言葉を使うことにし、概要
と成立の経緯および論点を解説します。コレクティブ DC はオランダで始まり、英国でも
本年(2015 年)3 月 3 日の法改正により導入が決まりました。雇用主の拠出が一定で、雇
用主は資産運用のリスクを負わず、資産運用が目標のリターンを達成できない場合等は、
給付を減額することで均衡をとります。賃金・物価スライド部分の減額に留まらず、元々
の年金額を割り込んで調整が行われることもあります。個人勘定は作らず、リタイア時に
はプールされた資産から年金が支給されます。通常の DC とコレクティブ DC の比較は以
下の表1のとおりです。
表 1 通常の DC とコレクティブ DC の比較
通常の DC
コレクティブ DC
雇用主拠出
資産運用実績による追加負担なし
資産運用実績による追加負担なし
個人勘定
あり
なし
積立金の運用
個人毎に自己責任で行う
集合的に行う
給付額
資産運用実績に応じて決まる
資産運用実績に応じて決まる
世代間のリスク
個人毎であり、共有されない
共有
1 本稿は「三井住友信託ペンションジャーナル(ペンション・リサーチ・センター特集号)Vol.4(June 2015)
」掲載の
論稿に加筆したものです。
1
概念図を示すと、以下の図 1 のようになります。
図1
通常の DC とコレクティブ DC の比較図
通常のDC
コレクティブDC
企業
企業
掛金
掛金
掛金
掛金
コレクティブDC制度
個人
個人
運用
運用
・・・
個人
運用
各個人が自分のDC口座内で運用を行う
(運用結果は各個人によって異なる)
運用
給付
個人
個人
・・・
個人
個人の勘定には入らず、制度全体で合同運用する
(運用結果が全従業員に一律で適用される)
本稿の構成は以下のとおりです。次の第 2 節でオランダのコレクティブ DC の内容・経
緯を概観し、第 3 節で英国の動きを解説し、第 4 節でコレクティブ DC の論点として長所・
短所を示し、第 5 節でコレクティブ DC に類似した制度としてデンマークの ATP、スイス
の職域年金、カナダの目標給付制度、および中国の企業年金を取り上げ、第 6 節でオラン
ダのコレクティブ DC を巡る議論の論点に触れた後に、第 7 節でまとめを述べます。
2.
オランダで始まったコレクティブ DC
(1)オランダの年金制度(PPI(2014)による)
オランダの年金制度は図 2 に掲げるとおり 3 階建てになっており、1階は AOW と呼ば
れる公的年金、2階は強制適用の職域年金、3 階は任意の個人年金です。1階の AOW は国
が運営する賦課方式の年金で、最低賃金と連動し、単身の年金受給者は最低賃金の 70%、
配偶者がいる場合は各人が 50%ずつ受け取ることができます。2 階部分の職域年金は、積
立方式で 3 つのグループに分かれ、産業別の年金基金(73 基金)、単独企業により設立され
た企業年金ファンド(274 基金)、独立した専門職のための年金基金があります。3 階部分
は個人が契約する終身年金保険商品が該当し、2 階部分への上積み、または 2 階部分がない
自営業者等への上積みとして利用されます。コレクティブ DC は 2 階部分の職域年金の一
形態です。
2
図2
オランダの年金制度
個人年金(任意)
職域年金(強制)
終身年金保険(積立方式)
職域年金(積立方式)
公的年金(強制)
AOW(賦課方式)
自営業者等
(2)オランダのコレクティブ DC の給付額の決定方法
フォルダー(2007)により、オランダのコレクティブ DC における、積立比率を反映し
た給付額の決定方法を解説します。例えば、従来の制度では、基本となる給付額が「平均
給与×2%×勤続年数」となっており、これに給与上昇と過去遡及給与上昇を反映させて賃
金・物価スライドを実現していたとします。コレクティブ DC は、基本となる給付額に積立比
率を反映させた「調整率」を乗じるものです。
A. 積立比率が良好で 140%以上であれば、調整率は「1+給与上昇率+過去遡及給与上昇率」
で従来と変わりません。
B. 積立比率が 105%~140%となると、調整率は「1+(積立比率―105%)/(140%-105%)×給
与上昇率」となります。すなわち積立比率が悪いと、過去遡及給与上昇はあきらめ、さらに
給与上昇へのキャッチアップを削っていきます。
C. 積立比率が 105%を切ると、調整率は「積立比率/105%」となり、給与上昇へのスライド
をあきらめる、のみならず名目給付額を削減していきます。名目給付額の削減については
監督当局の事前承認は不要となっています。
なおオランダの監督当局は、日本の日銀に相当する中央銀行です。また図 3 に示すように、
2011 年から積立比率の変化を 10 年分割で反映させるようになっています。
3
図 3 オランダのコレクティブ DC のイメージ
給付額=平均給与×2%×勤続年数×調整率
☆ 導入当初の調整率の定義
積立比率
140%以上
調整率
・導入当初のオランダのDBは積立水準が非常に高い状態であった
ため、積立状況が悪化するということを想定せずに調整率を設定。
・しかし、金融危機が生じたため、積立状況が悪化した時の対応に
ついて2011年に改めて検討
・その結果、積立比率の低下を「10年分割」で給付額に反映させる
方法に変更
1+給与上昇率+過去遡及給与上昇率
105%~140% 1+(積立比率-105%)/(140%-105%)×給与上昇率
105%以下
積立比率/105%
※ 例えば、積立比率が105%→84%(2割ダウン)になった場合
調整率1.0
調整率0.98
3
・・・
調整率0.8
給付額( 年目)
2
調整率0.94
給付額( 年目)
給付額( 年目)
給付額( 年目)
減額前給付額
1
調整率0.96
10年間で2割カット
(この間で積立比率が上昇すれば、その上昇分も10年分割で
調整率を改善)
10
このように積立状況が悪いと給付を削減していくので、母体企業にとって追加拠出を迫
られるリスクがありません。集合運用であり資産運用を運用の専門家にまかせることがで
き、投資教育も必要ありません。オランダの会計士はこの制度を会計上では確定拠出年金
(DC)として取り扱い、債務をバランスシートに計上する必要はないとしています。
オランダのコレクティブ DC 制度は個人勘定がないので、加入者から見ると「給付額が
多少変動する平均給与比例の制度」です。法的には DB(確定給付型年金)であり、オラン
ダの年金財政基準(FTK)に従い、リスクに対応するバッファーを積み立てています。給
付現価が一定でないのですが、監督当局は平均的に給付現価に対応する掛金拠出を義務付
けています。この点で、オランダのコレクティブ DC は、厳密にいえば DB 的な要素が潜
在していると言えましょう。会計士は掛金が変動するのなら DC でないと考えるところで
すが、オランダの会計士は掛金が 5 年間一定であれば DC として扱って良いと判断してい
ます。
(3)オランダのコレクティブ DC 成立の経緯
オランダの年金制度の 2 階の職域年金部分は、1999 年から 2001 年にかけて崩壊したド
ット・コムバブルの影響を受けてパフォーマンスが悪化し、年金財政基準(FTK)の積立
基準が厳しかったこともあり、それまで主流だった最終給与比例制度から全期間平均給与
比例制度に多くの制度が移行しました。最終給与比例の場合は基金から脱退またはリタイ
アする時点で年金額が決定しますが、全期間給与比例制度の場合は過去の給与を必ずしも
すべて再評価する必要がないので、給与改定に伴う後発債務が発生しにくいからです。産
業別基金が全期間給与比例制に移行したのと同様に、企業別の年金基金も、大半が全期間
給与比例制度に移行しました。さらに企業別の年金基金を中心に、DB からコレクティブ
DC への動きがありました。これは会計上の負債に伴うリスクを母体企業から取り去ること
が主な目的だったと言われています。
4
3.
英国の動き
英国ではコレクティブDCが2008年から公的な文書に見られ、研究が開始されたことがわ
かります。すなわち企業年金のリスクを雇用主だけに負わせずに従業員にも分担させる議
論は、すでに2008年6月5日公表の労働年金省(DWP)の市中協議(Public Consultation、
意見募集とも訳される)のための文書「リスク共有協議」(Risk Sharing Consultation)に
表れています(DWP(2008))。この文書によれば近年のDBからDCへの移行は、雇用主がDB
に内在するリスクに気がついたからであり、オランダ・デンマーク・スイスにならいリス
クを雇用主のみならず従業員にも共有させることを検討する必要があるとし、具体的には
インデクセーション(物価スライド)を条件付きにすることおよびコレクティブDCを挙げ
ています。
これらの検討は断続して続き、コレクティブDCにつながりました。まず、2012年夏に年
金担当相の指示で「目標建て年金実務ワーキング」(Defined Ambition Industry Working
Group)が組成され、座長はAndrew Vaughanが務め、雇用主と従業員の間でリスクを共
有する目標建て(Defined Ambition)制度に関する実務的な検討が進められました。コレクテ
ィブDCは目標建て制度の一種です。DWPは2012年11月に「職域年金の再活性化」
(Reinvigorating workplace pensions)(DWP(2012))という報告書をまとめ、さらに2013
年11月には市中協議のための報告書であるDWP(2013)を公表しました。市中協議は2013年
12月19日に終了しました。また同時並行的にDWPは市場調査を実施し、市中協議および市
場調査を踏まえて2014年6月26日に法案が英国議会に提出され2015年3月3日に成立しまし
た。英国の会計基準でコレクティブDCが、通常のDCと同様に企業の債務に計上されない
かが、今後注目されるところです。
4.
コレクティブ DC の長所・短所
コレクティブ DC については賛否両論あり、検討の論点となっています。例えば AON
Hewitt(2014)は好意的であり、Morgan(2013)は否定的です。現在論じられている長所・
短所をまとめると、以下のとおりとなります。
(1)コレクティブ DC の長所
x オランダのように DB 的な規制がなければ、資産運用実績に応じて給付額が決まるた
め、雇用主に追加負担が発生しません。
x 従業員が投資判断をする必要がありません。
x 資産をまとめて運用するため、図 3 で示した積立比率の低下を 10 年分割で給付額に反
映させる平滑化が可能です。
x スケールメリットにより、運用報酬・管理費用が安くなる可能性があります。
x コレクティブ DC ファンドから年金が支給されるので、保険会社から年金保険を購入
しなくても良く、割安になる可能性があります。
5
(2)コレクティブ DC の短所
x 資産運用結果が目標リターンに達しないと、DB の場合は雇用主が追加拠出で給付額を
保証しますが、コレクティブ DC の場合は直ちに給付減額につながる可能性がありま
す。この結果、スライド部分を超えて給付減額が自動的に行われる可能性があり、加
入者・受給者から運用に関与した者の責任を問う声が出るなどトラブルになる可能性
があります。
x 従業員の投資機会がありません。
x 世代間の公平性の問題が生じる可能性があります。コレクティブ DC では、運用リス
クが雇用主と従業員で共有されますが、従業員間の共有もされることになるため、制
度設計によっては世代間のリスク移転が生じます。例えば運用環境が悪くて積立状況
が悪化し給付減額が必要になった場合に、加入者の給付減額が受給者の給付減額より
も先行する制度設計の下では、運用リスクが高年齢者から若年齢者に移転することに
なります。このため加入者・受給者の制度への信頼が制度運営の前提となりますが、
少なくとも強制加入にする必要があるでしょう。
x 資産運用を行う者と、資産運用のリスクを負担(享受)する者が一致しません。資産
運用を行う者と、資産運用のリスクを負担(享受)する者について、既存の制度とコ
レクティブ DC を比較すると以下の表 2 のようになります。
「運用を行う者」と「運用
リスクの負担(享受)者」が異なる場合、受け取る者が納得できるようなガバナンス
の強い運営が求められます。従業員にリスクを負担させつつ運用指図を認めないのは
矛盾しているとの意見もあります。
表 2 運用を行う者と運用リスクの負担(享受)者
CB
運用を行う者
DB
DC
会社
従業員
会社
会社
従業員
会社※1
運用リスクの
(指標連動型)
CB
(運用実績連動
型)
コレクティブ
DC
会社
労使※2
元本以上:従業員
負担(享受)者
従業員
元本以下: 会社
※1 別途、指標が想定していた利率を下回る場合のリスクは従業員が負います
※2 オランダの集団型 DC では、労使双方(受給者を含む)の代表者からなる年金基金が
実行機関となります
5.
コレクティブ DC に類似した制度
本節では、コレクティブ DC に類似した制度としてすでに実施されているものを幾つか
取り上げます。
6
(1)デンマークの ATP(富永(2010))
デンマークの ATP は公的年金の一部で積立方式により運営されており、運用実績が給付
に反映する制度です。デンマークの年金制度は 3 階層からなり、1階部分には公的年金で
ある国民年金の他に、被用者を中心に強制適用される労働市場付加年金(ATP)がありま
す。2階部分は,労働市場年金と呼ばれる職域年金、3階部分は個人年金です。ATP は,
政府から独立した行政法人により運営される確定拠出型年金制度で、16 歳から 64 歳までで
週 9 時間以上働く被用者に強制適用されます。自営業者は任意加入です。拠出の 80%は据
置年金保険を購入するために用いられます。これは拠出段階で予定利率が決まるので完全
に給付が保証されています。拠出金の残る 2 割は ATP が運用し、運用が好調であれば配当
があります。この運用成果により給付額が変動する点がコレクティブ DC に類似していま
す。ATP は保険会社規制に服しています。
(2)スイスの職域年金(ガナリン(2014))
スイスの職域年金(ペンションカッセ)は大部分が合同運用の確定拠出型年金です。ス
イスの年金制度は基礎年金、職域年金および任意の個人年金貯蓄の3階層からなっていま
す。職域年金は 2013 年現在で 2500 余りあり、スイス連邦社会保険局が全体的な指導・監督を
しています。職域年金は連邦企業法の定める最低限の給付を提供しなければなりませんが、
ほとんどの職域年金が最低限以上の保証をしています。年金額の給付算定方式は 2 通りで、
確定給付方式と確定拠出方式があり、後者が主流です。確定給付方式は、定年前の最終給
与を基準に、例えば最終給与の6割を年金として支給します。確定拠出方式は、掛金総額
に毎年付利した金額をもとに年金原資を累積し、支給開始時に年金換算率を掛けて算出し
ます。この場合の付利は 2013 年は 1.5%、2014 年は 1.75%です。確定拠出と言っても個人
に運用の裁量はありません。
(3)カナダの目標給付制度
カナダでは、目標給付(ターゲット・ベネフィット)制度が公務員や地方公共団体等の
職域年金として実施例があります。カナダの年金制度は 3 階層からなります。1 階は公的年
金で税方式の基礎年金ならびに積立方式のカナダ年金(ケベック州以外)およびケベック
年金(ケベック州)です。2 階は職域年金、3 階は個人年金です。カナダの職域年金は DB
が主流でしたが、現在は 6 割の DB が新規加入を停止して、DC 化が進展しています
(Vettese(2015))。最近 DB と DC の中間的な形態として、目標給付制度が注目されています。
厚生労働省(2014)によれば目標給付制度とは、掛金の設定について①雇用主が負担する
掛金を固定し、積立不足の際は従業員からの掛金を増加させる、または②雇用主が負担す
る掛金を所定の上限の範囲内で変動させることにより、積立不足などに対応します。給付
の構造は、保護レベルが高く最後の手段としてのみ減額が可能な「基本給付」と、比較的
保護レベルが低く基本給付が減額される前に減額が可能な「副次的給付」の 2 層構造から
7
なっています。要するに雇用主の拠出を固定とするかまたは一定の範囲に収めることとし
て、積立状況が良いと自動的に給付増額し、積立状況が悪くなると自動的に給付を副次的
給付・基本給付の順で減額する制度です。従って給付水準は運用状況により変動しますが、
変動幅は純粋な DC よりは緩やかだろうと予想されています。公務員や地方公共団体等の
職域年金で実施例がありますが、既に導入した先において給付の変動は今のところ穏やか
なものです。カナダの公務員の労働組合や年金受給者の団体は DB 制度を目標給付制度に
変更するのは大反対しています。Vettese(2014)は目標給付制度の問題点を二つあげていま
す。第一は給付額が変動することが十分理解されない可能性があることです。最近の市中
協議書(コンサルテーション・ペーパー)では 90%の確率で基本給付が削減されない、75%
の確率で副次的給付が削減されない設計になっていますが、給付削減の可能性がないわけ
ではなく DB に限りなく近い制度と誤解されるのはまずいとしています。給付の確実性を
望むのであれば運用収益を給付に反映させずにバッファーとして保有することになります
が、それでは自分で運用をしたほうが収益が良くなる可能性が高いのです。さらに自分の
資金から発生した運用益をためておいて、それが他人の年金の保全に使われることも理解
されるか疑問としています。第二は契約の性格がわかりにくいということです。DC の場合
は雇用主および従業員が拠出して、従業員が自己責任で運用するのですから契約の性格・
責任分担が明確で、このゆえに DC に関する不満は驚くほど少ないとのことです。一方、
目標給付制度の場合はある程度の給付の安全性がありながら給付額が変動しますので、契
約の性格・責任分担がわかりにくく、運用がうまくいかずに給付削減が発生すると不満の
もとになるとしています。
(4)中国の企業年金
中国の企業年金は個人勘定があるものの原則として集合的に運用する確定拠出年金です。
中国の年金は、公的年金である「基本養老保険(強制加入:日本の厚生年金に相当)」
、「企
業年金(任意:2004 年法施行)」
、「個人貯蓄」の 3 階建てで構成されます。中国で認めら
れている企業年金は、確定拠出(DC)型のみであり、運用実績が個人の給付額に直結します。
日本の DC と同様、会社掛金がベースとなり、従業員自身も会社掛金を上限に任意に拠出す
ることができます。日本の DC との大きな相違点は、運用に関する個人の選択権が法令上想
定されていないことです。このため、法律で定めた制限の範囲で、受託人(=日本の運営
管理機関)が運用戦略を定め、全従業員の資産を一括して運用することが原則となってい
ます。現実的には受託人に株式の運用比率を変えた 2~3 の運用プランを提供させ、その範
囲内で従業員個人に選択を促している会社(日系含む)も見受けられます(藤田(2014))。
6.
オランダにおける、コレクティブ DC についての議論
オランダにおいてコレクティブ DC が現状のままで良いのか、それとも改善すべきなの
かは議論があるところであり、様々な識者が議論をしています。
8
Kocken(2012)は、図 3 で紹介した積立比率の低下を 10 年分割で給付額に反映させる方法
については、受給者に気前が良すぎて制度の持続性に疑問があるとしています。例えばリス
クフリーレートが 0%、リスクプレミアムが 2%、従って期待リターンが 2%とし、インフレ率
も 2%と仮定します。現状の制度では表 3 の「年金協定による評価」欄のとおり、期待リターン
どおり 2%資産が増加したら 102 とします。もしも 0%のリターンしかなかった場合は、予定
よりも 2%低いということですので 10 分の 1 をして 0.2 を 102 から控除して 101.8 としま
す。しかし、そもそもリターンを平滑化してリスクを 10 分の 1 にしているのでこれはおかし
いと Kocken は主張しています。2%資産が増加したのなら、その資産のリスクの 10 分の 1
しかリスクを取っていないので 100.2%とすべきと主張しています。Kocken の主張する市
場整合的評価は表の右の欄です。モンテカルロシミュレーションを実施する(杉田(2014))と、
確かに従来の評価方法では一定の確率で資産が枯渇する場合が発生します。こうなると若
者に負担がしわ寄せされます。一方で、市場整合的評価の方法の場合は資産の枯渇はないも
のの、大幅な剰余が出る場合があり、剰余金の公正な分配が課題となります。また、剰余金
の分配が少ないまたは無いケースについては、もともとの利回りが実際の利回りの 10 分の
1 水準であり、自分で優良社債を買うなどして運用した方が有利となるケースが多いと考え
られます。
表 3 100 の資産に対する 1 年後の評価額(期待リターンは 2%)
市場ショック後1年目の年金年額(ユーロ)
実現した年間リターン(%)
年金協定による評価
市場整合的評価
4%
102.20
100.40
2%
102.00
100.20
0%
101.80
100.00
-2%
101.60
99.80
-4%
101.40
99.60
Lundbergh et al.(2014)は、デンマークの ATP のように個人毎の持ち分を明らかにする
制度を良いとしています。
7.
まとめ
以上、コレクティブ DC について解説してきましたが、雇用主の追加負担がない、従業
員が資産運用をしなくて良いという点を歓迎する意見がある一方で、世代間のリスク移転
が起きやすく制度設計が難しいと言えます。会計上の取り扱いも課題です。また、運用環
境が厳しくコレクティブ DC 特有の自動的な給付減額が発動した時に紛糾しないかも懸念
されているようです。むしろ DB と DC を組み合わせて二階建てにした方が、表2に掲載
するように階層毎に運用を行う者と運用リスクの負担者が一致して明快という意見もあり
9
ます。コレクティブ DC で先行しているオランダ、および今年から導入された英国の動向
に、注目していきたいと思います。
文献
[1]ガナリン裕見子(2014)「スイスの年金制度」年金と経済 Vol.33 No.1
[2]厚生労働省(2014)「柔軟で弾力的な給付設計」第 8 回社会保障審議会企業年金部会
9 月 11 日
資料4
[3]杉田健(2014)
「企業年金制度のリスク・マネジメントにおけるモンテカルロ・シミュレ
ーションの応用」12 月 24 日日本価値創造 ERM 学会第 8 回研究発表第回予稿集
[4]富永洋子(2010)「デンマークの年金制度」年金と経済 Vol29. No.2
[5]フォルダー(2007)
「オランダの職域年金事情
財政運営規制及び集団型 DC 制度の概要」
[6]藤田武敏(2014)「中国の年金制度」年金コンサルティングニュース 2014 秋号
三井住友
信託銀行
[7]Aon Hewitt(2014) “Collective Defined Contribution Plans
A new opportunity for
UK pensions?”
[8]Kocken, Theo (2012) “Pension Liability Measurement and Intergenerational Fairness: Two Case
Studies” Rotman International Journal of Pension Management, Vol. 5, No. 1, p. 16-24
[9]DWP(2008) “Risk Sharing Consultation”
[10]DWP(2012) “Reinvigorating workplace pensions”
[11]DWP(2013) “Public Consultation
Reshaping workplace pensions for future generations”
[12]Lundbergh, Stephan et al.(2014)”The best CDC design is collective implementation with clear
ownership rights” Investment&Pensions Europe September
[13]Morgan, Lesley-Ann(2013)” Defined Contribution: Collective DC – digging a deeper hole”
[14]PPI(2014)「Risk Sharing Pension Plans: The Dutch Experience” PPI Briefing Note Number 71
[15]Vettese, Fred(2014)”The Pitfall Target Benefit Plans Need to Avoid” Augst 22, Benefits Canada
[16]Vettese,Fred(2015)” Remembering why DC makes sense” March 3,Benefits Canada
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