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0.276MB - 文部科学省平成22年度看護師の人材養成システムの確立
【当院の取り組み概要】 ニーズにより専任看護師(職務) 、管理看護師 当院は、高度先進医療を提供する特定機能 (職位) 、専門看護師(資格)の領域に大別し 病院であり、病床数 696 床の地域の中核病院 、能力をスタンダード、ミドル、ハイの 3 段 である。当院の大学病院としての基本理念は 階 6 レベルの枠組みを設定し、それぞれの段 「生命の尊重と個人の尊厳の保持を基調とし、 階の役割とその能力を明確にすることを検討 先端的で、かつ生きる力をはぐくむ医療を実 した。 仕事に対するモチベーションに寄与し、 践するとともに、人間愛に溢れた医療人を育 個々のキャリアデザインに対応できるよう、 成すること」である。平成 22 年に「文部科 ミドルレベル以上になると自らがキャリアを 学省看護師の人材養成システムの確立」事業 選択できる複線型キャリアパスを策定した。 に採択され、 「愛と知と技のバランスのとれた (図1) 看護職養成~自己啓発力を高め看護実践力向 また、既存のキャリア開発支援システム( 上を目指すプラン~」の中で患者中心の看護 CDSS)を改変し、キャリアパスを可視化す ができる看護実践能力を備えた人材育成に取 るキャリア形成支援システムを開発した。こ り組んでいる。この事業のひとつの柱である れまで、CDSS は個人の教育活動や研修履歴 「キャリアパスの構築」は、看護職者が職業 をデータ保存して自己管理でき、ラダー評価 を通して成長・発達や組織の目標達成を通じ などの履歴がポートフォリオに蓄積され、主 ての拡充と発展を目指すものである。これま に教育判定のツールとして活用していた。し では、 自らキャリアを選択する仕組みがなく、 かし、より高い専門性のある仕事に取り組む キャリアが評価されにくいため、働き甲斐を 意欲を引き出すためには、看護師のキャリア 見いだせない中堅層が増え、退職者の増加に の全容を提示して、その中での現在の自分の もつながってきた。その課題に対して、自ら 位置を知ることや将来像と現在の自分の差を 学び続ける自律した看護師を育成するための 知る必要があった。新システムは全看護職員 ワークライフバランス体制を強化し、看護職 の人事管理データと教育情報データを統合し、 の多様な生き方を支援し、個人のキャリアに 人的資源の基礎データを継続管理することに 応じた役割と成果を明確にするキャリアパス より、効率的に個人のキャリア形成を支援す の策定した。生涯を通じたキャリアパスを全 るシステムへとバージョンアップすることと 職員に周知し、キャリアパスと連動した人材 なった。 (図 2) 育成システムへと発展させることに取り組ん 【キャリアパスを可視化するシステム開発】 だ。最終目標は、これらの取り組みの成果と 既存のキャリア開発支援システム(CDS して、自律的に自己のキャリアを考え、目的 S)は、教育のPDCA(P:教育計画、D に向かって生き生きと働き続けることができ :研修受講、e ラーニング閲覧・自己学習、 る看護師の生涯教育の機会とその質を保証す C:研修評価・ラダー評価、A:ポートフォ るシステムの構築である。 リオ・教育方法改善)サイクルを回し、教育 【キャリアパス構築への取組】 情報を管理するものとして、全看護職員が利 キャリアパス構築には、事業において「キ 用していた。今回、キャリアパス構築を機会 ャリア開発委員会」を設置し、 「キャリア開発 に、個々の看護職の実績(能力)を保存して プロジェクト」と「キャリア開発支援システ 3 段階 6 レベルのキャリア獲得を支援するた ムプロジェクト」が連携して取り組み、看護 めに、教育情報と職員管理情報を一元管理で 部教育企画会議の承認を受けながら進めた。 きるシステムを構築した。 (図 3) キャリアパスの枠組みは、本院の看護職の 新システムのデータベースには教育関連の データに加えて、キャリアに合わせた資格や めに活動した成果 経験などの人事管理データを連携させ、次の 1) 能力評価 ポストへの基準と変更ルールを理解できるよ 2) 実績評価 うにした。新システムでは個人のキャリアレ 3) 情意評価 ベルを示すキャリアパス画面を表示できるた 4. 処遇・活用:ミドルレベル以上に位置付 め、より高度なキャリアの取得や将来を考え された場合は複線型人事制度を導入。報 てキャリアアップやキャリア移動を目指す時、 酬や権限の委譲、仕事内容に反映 個人は目的のキャリアレベルに到達するため 次に、上記 4 項目の認定基準に対する各キ に、どのような資格や経験が必要であるかを ャリアレベル別に求められる評価基準の詳細 一目で理解することが可能となった。 (図 4) を決定した。 (表 1) 従来通り、評価システムも連携しており、 【人事評価(業績評価)システム】 キャリア形成支援システム内で職務能力を適 人事評価(業績評価)は、業績を向上させ 切に自己評価、他者評価を行った結果により る目的達成のため、 定められた基準と照合し、 承認されたレベル獲得状況や、個人が発生源 どの水準にあるのかを評価するもので、キャ 入力した研修実績情報などが、ポイント化さ リアレベル認定を受ける際の主な評価項目と れ、情意評価とともに業績評価を行うデータ なる。既存のラダーレベル認定システムで使 となる。これらは、CDSS 内の個人のポート 用していた能力資質項目からキャリアレベル フォリオに連動して蓄積され、個人のキャリ 認定体制へ向けて、評価指標の整合性を検証 アを自己管理できるデータベースができ、キ した。さらに個人の活動を公平性、客観性を ャリアを目指すプロセスが明確になる。 (図 5 持って評価するために、評価基準を検討し、 ) 実用可能なものに再構築した。 システム内でキャリアパスが可視化されて 1) 能力評価 いるため、個人の看護師は、キャリアパスの 能力評価は、 職務能力を評価するものであり、 要件とキャリア取得状況を確認し、今後目標 一般看護師と管理者の2種類を設定した。 とする獲得レベルを意識して、自らが進む道 ① 一般看護師用(表 2) (表 3) 筋を選択できる。キャリアデザインを描き、 現状のラダーレベル到達度や現場のニーズ 不足している能力資質を獲得するために専門 を調査し、評価指標および基準の妥当性を検 職として自己研鑚を積み、計画的にキャリア 討した。既存の「能力評価」の指標は当院で アップの取得申請を行うことが可能となった。 定める 169 項目の看護行為(NIC 項目)の用 (図 6) 語を能力資質項目として使用し、ラダーⅠ~ 【キャリアレベル認定基準】 Ⅲの認定を行ってきた。一般看護師であるス キャリアパスの構成要素を明確にイメージ タンダードレベル(キャリアレベルⅠ・Ⅱ) するためにキャリアレベルの定義を検討し、 看護師は、標準的看護実践能力を持つ新人・ 認定基準を以下の 4 項目に設定した。 (図 7) 若手看護師を想定しており、既存のラダーレ 1. キャリアレベル能力の概要:各キャリア ベルのⅠ~Ⅲに相当する。キャリアレベルⅠ レベルに求められる能力や資格の概要 2. 申請に必要な条件:キャリアアップを申 請する際に整えておくべき条件 3. 人事評価(業績評価) :看護師個々の能力 資質項目及び部署の成果・業績向上のた は、新人レベルの実践能力であるので厚労省 から示された看護職員到達目標と照合し合致 できることを検証した。NIC の下位項目であ るアクティビティの到達基準値を下方修正し、 既存ラダーの NIC65 項目から 80 項目へと追 加修正した。キャリアレベルⅡは、既存のラ がら将来に向けてキャリアアップを指導でき ダーⅠ~Ⅲの 169 項目の NIC の文言および るようにした。 (図 9) 基準値を部分修正することにより評価項目と 2)実績評価(ポイント制) (表 8) して妥当であると判断した。したがって、ス 実績評価は、個人の取得資格・目標管理 タンダードレベルの能力評価の到達基準はキ の達成状況(業務の量と質、改善の実績) 、 ャリアレベルⅠで 80 項目、キャリアレベル 研修受講履歴(自己啓発)など看護への貢 Ⅱで169 項目の実践能力獲得を目標とするこ 献度を評価する。自己研鑚・自己学習する とが決定した。 実績を評価し、 「自己研鑚の到達度」を確認 実践状況の評価基準は 1(ひとりでできる) するため、ポイント制を導入した。個人の 2(指導のもとできる) 、3(演習でできる) 、 自己申告制であり、CDSS に実績入力する 4(知識としてわかる) 、5(できない)の 5 と、上司が内容を確認し、看護ケアにつな 段階評価とし、NIC の下位項目であるアクテ がる研修・活動に参加する看護職者にはポ ィビティ毎に基準を設定している。 (表 4) ( イントを付加する。ポイントは、キャリア 表 5) レベル認定を受ける際の要件として必要で 169 項目の看護行為項目の評価は CDSS ( あり、 看護職者として、 常に学習を継続し、 キャリア開発支援システム)へ達成状況を入 ケアの質向上に励んでいる証となる。1 年 力し、自己評価・他者評価を行い、本人と上 間の維持ポイントは 20 ポイントであり、 司の合意のもと承認される。 (図 8) 育児や介護休暇中の期間は換算されないな 新人看護師の他者評価は まず、実地指導 者である指導ナースが実施したものを部署の ど、臨機応変に対応する。 3) 情意評価(表 9) (表 10) 副師長が師長が確認し、師長が確定を行う。 情意評価は、これまでは勤務評定として行 部署の一般看護師は、部署の副師長が他者評 ってきた項目を改変したものであり、仕事へ 価を実施し、師長が確定する。一般看護師の の意欲と態度を評価するものである。職務遂 他者評価は、副師長が行い、師長が確認して 行、対人援助を含め、専門職として看護師に 承認を行う。 求められる規律性・責任制を中心とした意欲 ② 管理者用(表 6) (表 7) ・態度などの項目を設定している。一般看護 看護管理領域においては、看護マネジメン 実践能力(20 項目)看護管理能力(18 項目) ト能力を評価する指標として 9 項目のアカン を設定しており、他者評価を行う。 (図 10) タビリティ(成果責任)があり、その下位項 以上、3つの評価システムによりキャリア 目の構成要素コンピテンシー34 項目を評価 レベル認定のための条件を整え、師長の査定 項目としており、これまでは看護師長のみが を加え、キャリアレベルの申請を行い、認定 自己評価できるシステムとなっていた。 承認を受ける。 キャリアレベル認定フローは、 キャリアレベル移行に伴い、副師長も管理能 キャリア形成支援センターで申請された条件 力を自己評価できるようにシステムを改変し をシステム上で確認し、条件を満たしている た。看護管理領域のキャリアレベルⅢ・Ⅳの かを書類審査した後、看護部認定委員会にて 評価項目に設定するために、現状の看護体制 認定に必要な条件を確認し、認定証を発行す に合わせて文言を修正し、副師長の業務に合 る。 わせて、評価基準を新たにレベル毎に設定し 【キャリアパスと連動した人材育成システ た。副師長の自己評価に対して直属の上司で ム】 ある師長が他者評価を行い、能力を確認しな 3段階6レベルのキャリアパスを構築し、 各キャリアレベルに求められる能力や資格を 上を図り、意欲的に生涯教育に取り組む姿勢 示して、認定制度を整え、個人と組織のキャ も見られるようになってきた。看護部の目的 リア管理する仕組みができた。 を達成するために求められる知識、技能、企 個人のキャリアレベルの判定には、 「能力評 画力、判断力をもつ看護職者を育成し、看護 価」 「実績評価」 「情意評価」を行い、定めら ケアの充実と活性化を図るための教育研修体 れた基準との関係でどの水準にあるのかをキ 系も見直し、キャリアパスの役割・職務に応 ャリアパスで個人の立ち位置が示される。評 じた全体の教育のシステムへと発展させるこ 価は自己評価を基本とし、第三者評価者を上 とができた。 (図 12) 司である師長などと複数にして客観性を高め、 【今後の展望】 できる限り公平性のある評価基準を設定して 当院の求める自律した看護師とは「自分が 個人の能力を評価している。しかし、職位の 決めた看護実践をきちんと実行する能力を備 ポスト数や予算に限りがあることから、部署 えていること」であり、キャリア開発はキャ 間の相対的な順位付けをし、上位何割かを選 リア(職歴)とパス(経路)を棚卸しして、 考対象とし、その中から自己申告や過去の評 それぞれの看護師の能力を適切に評価するこ 価結果、職務への適正などを総合的に判断す とから始まる。日々の看護実践を個人の履歴 るように整備している。 として蓄積していく過程が重要であり、これ 組織では、全体を俯瞰して人員配置シミュ までの職歴を見える化できるキャリア形成支 レーションができるため、適切にジョブロー 援システム内のキャリアパスは、職業人生の テーションを計画し、部署の特性を考慮した 価値を証明する有効なツールになると考える。 人事異動ができるよう人事管理を行うことが キャリア開発は、自らのライフサイクルに 可能になる。各部署のキャリアレベル取得状 応じたキャリアをデザインし、個人と組織の 況を判定し、個人の能力に合わせて、適材適 相互作用によって行われることが基本である。 所の配置や育成的ローテーションを行い、部 ミドルレベル以上の者は個人の意志によって 署間の看護の力量差を是正することができる。 キャリアを選択できるが、一般看護師として このように個人のキャリアを包括的に管理 現状のキャリアに留まりたい時期もあり、キ して、組織と個人のベクトルを一致させ、看 ャリアアップを望まないというキャリアも選 護実践を通じて自己実現を図ることができる 択できる。一般看護師(ジェネラリスト)と 仕組みが整った。 して自分の看護を大事にしたい、という意思 これまでの事業の成果として、人材育成と を表明する声もあり、複線型のキャリアパス 活用、能力評価と処遇を含めたキャリアパス においてジェネラリストのキャリアレベルを を構築し、生涯ガイドラインなどを小冊子に 認め、中堅看護師のモチベーション維持にも まとめ、全職員に配布し、看護部の人材育成 つながる。 の考え方を周知した。 (図 11)年度初めの看 この事業による意識改革が定着することに 護部長方針の説明会にもこの冊子を使用し、 より、多様な生き方を支援するキャリアパス 看護部の方針として、自らのキャリアを継続 を有効活用し、当院の看護職員であることに 的に発展させることのできる自律した看護職 自信と誇りを持って、生涯を通じて看護職と 者を育成することが明らかになった。 して活躍し続けてもらえるよう支援を継続し この事業の過程を通して、自己啓発力を支 援する助成制度などが決定し、自己啓発を積 極的に奨励することにより、看護師の能力向 ていきたい。