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「受注型企画旅行におけるフィービジネスの可能性」 -提案領域拡大

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「受注型企画旅行におけるフィービジネスの可能性」 -提案領域拡大
日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014
《論 文》
受注型企画旅行におけるフィービジネスの可能性
-提案領域拡大による収益性向上の一考察-
い し か わ
か つ
み
石川 尅巳
一般財団法人日本ホテル教育センター 理事
This paper aims to advocate fee business in the area of the made-to-order group tours. It has been said that the travel industry
should change its profit model from commission business to fee business. However, the definition of so-called fee business is still
unclear, case by case or person by person.
After defining the fee business in this paper, I would like to illustrate how the fee business can be applied in the made-to-order
group tours which contain MICE* factors. This paper may be of great use to any ordinary salespersons in the travel industry.
MICE:An abbreviation of Meeting, Incentive, Convention and Event/Exhibition
1.はじめに
2.先行研究
“無料”という観念が我が国では依然とし
本稿は広く各社の営業担当者が携わっ
旅行業界におけるフィービジネスに関
て根強い、とした。
ている受注型企画旅行(一般的な団体旅
してはいくつかの先行研究がある。まず
北村嵩(2012)(5)は、最新の BTM(6)
行)において、収益性を向上させるため
太田久雄(1995)(3)は、同年2月にアメ
業界事情を紹介し、業務出張に関わるフ
の方策として、フィービジネスの適用可
リカで導入された航空会社による「コミ
ィービジネスの変化について詳述した。
能性を論じるものである。
ッションキャップ」制度が日本でも旅行
そのなかで、日本ではほとんど見られな
旅行業界では、コミッションビジネス
業の経営環境を大きく変化させる兆しと
いが、アメリカではオンライン系の業務
からフィービジネスへといった戦略転換
受け取るべきであろうと切り出し、旅行
出張専用サイトの進出が始まり、既存の
が中長期計画などに示されつつある
業の基本がコミッション(手数料)制度
BTM 会社はコンサルティングや MICE
しかし、フィービジネスは人により、あ
。
からフィー(報酬)制度への転換促進を
分野への新たなフィービジネスを開拓し
るいは場合により意味が一定でなく不明
予感させる、と指摘した。その上で、フ
つつある、という状況が説明された。
確であるのが実態ではないか。そこで、
ィー制度の下では、すべてのサービスコ
以上のように、先行研究は幾つか見ら
初めに今回論じるフィールドである受注
ストはその一つひとつを厳密に評価せざ
れるものの、いずれも今回取り上げた受
型企画旅行の現状を概観したのちに、本
るを得ないとした。とくに情報化社会で
注型企画旅行という分野でフィービジネ
稿におけるフィービジネスの定義と範囲
は情報それ自体では顧客の方が詳しい場
スを論考しようとするものではなかっ
を明示することとする。次に、受注型企
合が多いと指摘し、
情報を知識に加工し、
た。なお付言すると、概観的ではあるが
画旅行についてフィービジネスが適用し
さらに貴重なアドバイス・付加価値につ
共著書のなかで、石川尅巳(2012)(7)が
得る領域およびその条件を考察する。ま
なげるといった反対給付なしに、フィー
受注型企画旅行を含めたフィービジネス
た実例をテキストとして具体的にケース
制度の導入はあり得ない、とした。そし
全般に言及している。
スタディーを行ったのち、MICE(2)分野
て、できる分野からフィー制度を導入す
でいかにフィービジネスを展開していく
ることを真剣に考えることが今必要であ
3.受注型企画旅行の現状
か、その可能性を提示してみたい。
る、と締めくくっている。
3-1 受注型企画旅行の登場と特徴
今回はフィービジネスに力を入れつつ
また、内藤錦樹(2011)
は、観光産
今回論考する分野として限定した受注
ある法人専門旅行会社および MICE 専門
業の収益向上に言及し、低収益性となる
型企画旅行は、2005年施行の旅行業法改
会社の幹部に直接ヒアリングして現状を
要因の分析ののち、付加価値率が高く比
正に伴い新設され、標準旅行業約款のな
確認、その上で筆者の経験・知見から分
較的安定的な法人需要・MICE・教育研
かで定められた旅行取引形態である(8)。
析を加えるという手法を採用した。
修・冠婚葬祭等、観光以外の需要を取り
それまであった主催旅行と包括料金特約
込むべきと論じた。一方で、サービスは
付き企画手配旅行を統合して
「企画旅行」
(1)
(4)
-13-
日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014
とし、そのうち募集性のないものが受注
る。券面額と実際の仕入価格との差があ
質性が旅行にはある。そのため、とくに
型企画旅行とされた。
とで返金されるキックバック(KB)や一
取扱料金に関しては安いほうが良いとい
2005年改正以前の企画手配旅行では、
定以上の販売量を約束することで販売奨
うことになるのである。また、企画料金
官公庁や厳しい顧客などから内訳明細を
励金を得るスケールメリット(SM)など
についても、正式には1996年施行の旅行
求められた場合、費用(運輸・宿泊など
が格差収入の源泉の例である。
業法改正で標準旅行業約款に明記されて
に支払う)と報酬(取扱料金・企画料金
近年、インターネットなどの IT 技術
からと歴史が浅く、収受ヘの理解を得る
など)の明示が義務づけられていた
。
の進展で、運輸業・宿泊業において顧客
ことは簡単ではない。旅程管理などにつ
これでは、総旅行費用から引き算すると、
との直接的結びつきが強まり、その一方
いて旅行会社としての企画性がどれほど
収益としての報酬部分がどれほどあるの
で旅行業の仲介価値が逓減している。旅
あるのか。なかなか顧客側の納得を得ら
かが明らかになってしまう。仕入努力を
行会社に対する販売手数料および各種の
れないまま今日に至っているのが実情で
して安い仕入をすればするほど、値引き
販売奨励金もそれに伴って逓減してお
はないだろうか。
交渉にさらされやすくなる、という問題
り、必然的に値付け幅の縮小=収入低下
が生じていた。
が徐々に進行している。せっかく仕入に
4.フィービジネスとはどういうものか
業界の再三の要請の末、旅程保証責任・
ついて自社としての自由な値決めが認め
4-1 フィービジネスの定義
旅程管理責任・特別補償の三つの責任を
られたにもかかわらず、その格差原資が
フィーの意味を辞書で調べてみる(12)。
新たに負う代わりに、仕入の各項目につ
どんどん減少しているのである。
fee (1)
:a fixed charge
いて自社としての値決め=「値付け権」
受注型企画旅行の営業担当者は、代わ
が受注型企画旅行では法的に認定され
りの収益を何にもとめるかという問いに
た。つまり、一般的な団体旅行の販売に
日々直面しているのではないだろうか。
(9)
おいて旅行費用明細の随意化がなされた
のであった。この仕入値束縛からの解放
により、営業担当者の見積自由度が大い
(2)
:a charge for a professional
service
いずれも charge(上に荷重するもの)
という費用=報酬であり、
(1)固定的に
3-3 受注型企画旅行における購買側か
らの収益の現状
決められたものであるか、または(2)
専門的サービスに対するものか、のいず
に広がり、収益性の向上に寄与する基盤
受注型企画旅行におけるもう一つの収
れかという意味であろう。
整備がなされたわけである。
入は購買側(顧客側)からの取扱料金・
このフィーを収受するビジネスがフ
さらに、旅行企画の契約書面の料金内
企画料金などである。なかでも企画料金
ィービジネスであるが、実際の内容は業
訳のなかに企画料金の率または額を明示
は旅行会社にとって多ければ多いほど良
界によって異なっている。一つ目の意味
した場合、契約後の旅行取り消しの際は、
いものである。旅行業界との関わりが長
でのフィービジネスといえば、金融業界
取消料が掛からない段階でも企画料金に
い弁護士の三浦雅生(2006)(10)は、日本
でのさまざまな定額・定率の手数料商売、
ついては収受できるとした。
旅行業協会主催のセミナーのなかで、仮
不動産業界での賃貸斡旋、結婚式場紹介
以上のような受注型企画旅行の登場と
に契約解除になった場合でも企画料金は
業、などが挙げられる。二つ目の意味で
収益基盤の法的整備は、旅行会社が高収
最低限貰える報酬であると規定されてい
は、弁護士費用や監査法人の監査報酬、
益を享受する契機になったのか。しかし
るので、値切りに遭遇した場合には、全
あるいは M&A のコンサルティング報
実態はそう単純ではなかった。収益の現
体の料金は減額しても企画料金自体は余
酬、などがある。
状について、販売側からと購買側の双方
り下げないほうが良い、としている。
本稿ではフィービジネスの定義を、上
から検証したい。
しかし、別建てのフィーやチャージに
記に示された二つのフィーのどちらか
対しては、これまで我が国の社会通念と
を、または両方とも含むようなフィーを
して、つねに購買側の厳しい目があると
収受するビジネス、という広義のものと
いう実態がある。筆者が教育旅行専門支
したい。
3-2 受注型企画旅行における販売側か
らの収益の現状
受注型企画旅行の販売側から旅行会社
店の担当であった当時
でも、取扱料金
が得る収益は大きく分けて二つある。一
x%・企画料金 y%がなかなか受け入れて
つ目は航空・鉄道・宿泊などの代理販売
もらえず、入札に勝つために相当割り引
に対する定率の販売手数料(コミッショ
いていたという記憶がある。
旅行業界においては、一部の個人向け
ン)である。二つ目は仕入努力または大
どの旅行会社に依頼しても、仕様書に
市場、とくにオーダーメード型旅行につ
量販売などにより原価そのものの低減化
指定された運輸・宿泊・食事などの各要
いてフィービジネスが行われてきた。一
を図り、いわゆる販売価格と通常の仕入
素はそれぞれのサプライヤーが提供する
例として、芦屋の高台にある白亜の一軒
価格の差を格差収入として得るものであ
ものであり同じではないか、といった同
家で主に女性向けの海外個人旅行の相談
(11)
-14-
4-2 旅行業界におけるフィービジネス
の先例
日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014
を受け、手配・販売する旅行会社がある。
成約した場合は総額の15%をフィーとし
て購入者から受け取り、成約しなかった
場合は相談料として30分2,100円を受け
取る、というものである(13)。また、JTB
系列のウエディングプラザ南青山では、
初めに31,500円のコーディネート料を申
し受けることを案内し、あらかじめ了解
表-1 フィーの損益計算書的表現例
企画料・コーディネート料・営業管理費(料)
売 上 会場費・制作費・印刷費・外注費・労務費など、の売価
事務局経費(通信費・旅費交通費・人件費)など、の売価
売 上 原 価 会場費・制作費・印刷費・外注費・労務費など、の原価
売上総利益 (売上-売上原価)
販 管 費 事務局経費(通信費・旅費交通費・人件費)など、の原価
営 業 利 益 (売上総利益-販管費)
(筆者作成)
を得た上で実際の海外ウエディングやハ
ネムーン旅行の相談に入っている。
献し、最終的に営業利益の増大に貢献す
に取り扱いを限定せず、顧客の課題や目
法人向け市場では、先行研究のなかで
るのである。次章では受注型企画旅行へ
的を共有し、その解決に向けて関係する
紹介したように、出張管理を行う BTM
の適用について考察することとしたい。
周縁の領域にストレッチする提案力が必
要となる。
事業で外資系企業や大手企業を対象とし
てフィービジネスが行われている。これ
は、出張に伴うさまざまな管理経費ヘの
5.受注型企画旅行でのフィービジネス
の適用
5-2 フィー収受の条件
反対給付として購買側がフィーを支払う
5-1 適用の領域
領域が広がったからといって、すぐに
ものである。また、福利厚生代行事業
本稿のフィールドである受注型企画旅
フィービジネスが展開できるわけではな
でもアウトソース対価として一人当たり
行に関し、どのような領域でフィービジ
い。顧客側からフィーが取れる条件とし
いくらといった定額方式、あるいは実際
ネスが適用されるかについて、考察を進
ては、少なくとも次の三つがある。
の利用に応じた精算方式でのフィービジ
める。
まず、専門性である。その課題を解決
ネスが成立している。
まず、基本の旅行事業も、実際のとこ
する専門的能力がなければ顧客側は満足
ろ従来からのフィービジネス適用領域の
しない。
4-2で紹介したウエディングプラ
4-3 フィービジネスの範囲
一部である。すなわち、輸送・宿泊・食
ザ南青山では、海外挙式・ハネムーンに
4-1および4-2で例示したように、フ
事などの旅行自体の手配について計画・
ついての旅行そのものの知識はもちろ
ィービジネスは手数料・費用・報酬・請
実行・管理する領域であり、フィーとし
ん、式場やホテルの詳細な比較情報を持
負料・コンサルティング料・相談料・コー
て顧客側に提示するのは、定率または定
ち、関連する情報、例えば貸衣裳、ジュ
ディネート料・管理費・代行料など、さ
額の取扱料金および企画料金である。こ
エリー、写真などの知識も含め、ウエデ
まざまな名目で請求するフィーで成立し
の二つの料金については、常に値切りの
ィングの専門家であって初めて31,500円
ているビジネスモデルである。
可能性にさらされていることは3-3で述
のコーディネート料収受を実現してい
さらに、広告業界を例にとってフィー
べた通りである。
る。
を列記してみたい
。広告業界は販売促
次に、旅行自体からいったん離れ、旅
次に、代理性である。顧客自体ではな
進事業(プロモーション)の分野で旅行
行を通じて実現させたい顧客の目的のほ
く任せてもらったほうがより経済的で効
業界とは競合関係にあり参考となる。フ
うに注目してみよう
率的である、と言えるかどうかである。
ィーの種類は、報酬あり、コストあり、
ての学校の目的は大きな意味での教育で
顧客側がフィーを支払う源泉として考え
エクスペンス(経費)ありの、多種多様
あろう。また企業にあっては、シェアの
る費目は、顧客自体の人件費・システム
のものを含んでいる。具体的な項目とし
拡大や利益の増大などであろう。目的を
経費などである。
ては、企画料・コーディネート料・営業
知り、そのことが達成されるための方策
最後に、統合性である。旅行中にとい
管理費(料)
・会場費・制作費・印刷費・
を検討し、旅行事業外での提案を行うこ
うポジショニングを生かし、ワンストッ
外注費・労務費・事務局経費などである。
とが新たなフィービジネスの始まりとな
プサービス、あるいはトータル管理を提
これらのフィーを損益計算書的に表現
る。大事なのは、その提案を旅行の一部
案することである。統合的な管理を可能
するとおおむね表-1のごとくであり、売
としてまぶしてしまう、すなわち紛れさ
とするためには、必要な事柄をすべて網
上・売上原価・販管費(販売費及び一般
せるのではなく、
「外出し」の形にするこ
羅し、旅行のなかで課題解決を図るため
管理費)に大別される。
とにある。そうして初めて、その提案が
のシナリオを作成しなければならない。
表-1で明らかなように、売上原価およ
フィービジネスの適用領域に入ってくる
上記の専門性・代理性・統合性の三つ
び販管費を含めた費用等を顧客から別途
ということになるのである。
の条件に適合することで、顧客は営業担
収受することは、売上総利益の増大に貢
営業担当者にあっては、旅行分野のみ
当者を信認し「業務推進支援費用」とし
(14)
(15)
。修学旅行におい
(16)
-15-
日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014
てフィーを支払う準備が整うというわけ
表-2 表彰式関連 請求書明細 (想定例)
である。
1.企画料
一旅行会社として条件を満たすことが
2.企画案作成費
困難な場合は、グループ企業との協業を
図ることや、自らが中心となって関係す
る業者と連携することも必要であろう。
営業担当者自身が総合プロデューサーと
しての視野と実行力を身につけなければ
ならない。
6.フィービジネスのケーススタディー
6-1 逃したフィービジネス
受注型企画旅行のなかで企業・法人向
けの主要な部分を占めるのはインセンテ
ィブ(報奨)旅行である。インセンティ
ブ旅行は MICE の I のことであるが、実
は他の MICE 要素である販促イベント
(E)および企業ミーティング(M)が付
随的に含まれることが多いという特徴が
ある。旅行という非日常のなかで催され
る、
企業ミーティングや販促イベントは、
¥1,050,000
¥315,000
3.印刷費
出席者用当日式次第・席次表
表彰者名簿
グランドブッフェ メニュー
¥525×500=¥262,500
¥420×500=¥210,000
¥210×500=¥105,000
4.制作費
社員・スタッフ用アロハ制服
表彰式横断幕
出席者ネームカード・ケース
¥4,200×50=¥210,000
¥10,500
¥315×500=¥157,500
5.事務局経費
ホテル内事務局ルーム設置費一式
現地臨傭スタッフ(3日間)
¥525,000 ¥12,600×5×3=¥189,000
6.会場関係費
グランドボールルーム(Waikiki)
役員・表彰者控室
スタッフ控室
¥735,000 ¥126,000×2=¥252,000
¥105,000
7.当日運営関係費
進行台本費(制作・印刷)
人件費 総括プロデューサー
部門プロデューサー
補助スタッフ
音響・照明関係費
¥861,000
¥14,700×10=¥147,000 ¥84,000
¥42,000×3=¥126,000
¥15,750×12=¥189,000
¥315,000
8.管理料(当日運営関係費×15%)
¥577,500
¥378,000
¥714,000
¥1,092,000
(¥861,000×0.15)
合計
¥129,150
¥5,116,650
(筆者作成)
より強いインパクトがあると期待される
からであろう。
6-2 想定できたフィービジネス
ィングでは広告会社が50%、PCO(17)が
例えば筆者の古い事例を紹介する。あ
もし、前節に掲出した筆者の事例にお
20%、旅行会社は30%としている(18)。旅
る消費財メーカーの販売店報奨旅行で、
いて、フィービジネスを知悉する営業担
行会社が取り扱っている予算ボリューム
ハワイへの500名の団体旅行を実施した。
当者であればどうしたであろうか。まず
は全体の半分以下であるのが現状であ
顧客の目的は、キャンペーンで優秀な成
逸失したフィービジネスの項目である
り、周辺には拡大可能な領域が大きく広
績を収めた販売店主を慰労し、表彰式で
が、表彰式の企画案の作成費、印刷費、
がっていると理解してよいであろう。
晴れの舞台を味わってもらい、またやる
制作費、事務局経費、会場関係費、当日
もちろん、販促イベントと企業ミーテ
ぞという気持になるよう、強い印象を持
運営関係費、などが挙げられる。さらに
ィングの分野はすでに他業界が主戦場と
って帰ることであった。随意契約で予算
全体の企画料や管理料も含めることがで
している領域であり、
プロモーション(販
は潤沢であり、5日間の短い日程にもか
きた可能性がある。
促)分野であれば電通・博報堂のような
かわらず旅行部分の売上は大きかった。
その請求書明細を作ればおよそ表-2の
広告会社が、ミーティング分野であれば
メインイベントは最終日のホテルバン
ごとくである。旅行部分の請求書ととも
コングレなどの PCO 会社が、大きな仕
ケットルームにおける表彰式であった
に、上記のように表彰式関連の請求を別
事になればなるほど立ちはだかってい
(MICE の E と M が合わさったような催
建てで行ったならば、旅行での収益に加
る。従来は、これらの業界が主導権を握
し)
。現地法人のスタッフと添乗員が不眠
え、さらに大幅な増収が図れたのではな
り、旅行業界が旅行部分の下請けに甘ん
不休で準備と斡旋に当たった。結果、表
いだろうか。
じた時代が長く続いていた。
しかしひとたび場所が動き、人が動く
彰式は大成功に終わり、主催者からは感
謝の言葉をいただいた。ところが、この
表彰式の経費請求はホテルへの実費支払
7.MICE 分野でのフィービジネス展開
の可能性
という旅行の場でプロモーション活動を
行うのであれば、
事情は違うはずである。
い分のみで、あとのすべては紛れたまま
株式会社JTB法人東京(当時)によれ
旅行業界の強みが十分に発揮されるので
終えてしまった。進行管理がセミプロ級
ば、販促イベントの総予算のうち従来広
はないだろうか。
であった現地法人の F 君をはじめ皆のが
告会社が主に取り扱ってきた制作関連の
まず場所であるが、ミーティングやイ
んばり、ほか諸々のフィー要素はいわば
ボリュームは60%であり、旅行関連は40
ベントの会場は主にホテル・観光施設・
旅行の一部と化したという事例である。
%であるとしている。また会議・ミーテ
コンベンションセンターなどが多い。こ
-16-
日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014
れらは旅行会社が常日頃から仕事を共に
け声はかなり前からでている。にもかか
しているパートナーであり、お互いのコ
わらず歩みが遅いことには相応の理由が
ミュニケーションも取れている。旅行会
あるのかもしれない。組織は部(支店)
・
社との人事交流を行っているところも少
課・グループといった階層的なもので良
なくない。
いのか、経理面では旅行勘定をはじめと
また、人が動く、人を動かすという仕
する従来からの管理会計がフィービジネ
事は旅行会社の本業である。人を動かす
スを表現できるのか、棚卸し
ノウハウ(斡旋力)、ロジスティクス(進
はないか、システム面ではフィービジネ
行管理力)などは旅行会社が最も得意と
スの事例供覧(ナレッジの共有)ができ
(6)
する領域である。広告会社や PCO 会社
ているか、人事教育面ではフィービジネ
(7)
ではその機能もインフラも整っていな
スを推進するプロデューサー型人材の育
沢登次彦・石川尅巳・加藤英一・島川
い。ライバル業界にはない旅行という有
成プログラムを用意しているか、など理
崇・阿部虎児・矢嶋敏朗共著『旅行業
利な場を持ち、旅のチカラ
由・課題を見つけ出し、一つひとつ対応
が利用でき
(19)
も必要で
(20)
へ」
、日本国際観光学会論文集第3号
(1995年)
内藤錦樹「観光産業の収益向上に関す
(4)
る一考察」
、
日本国際観光学会第14回全
国大会研究発表(2011年10月)
北 村 嵩「ノ ー コ ミ ッ シ ョ ン 時 代 の
(5)
BTM」
、日本国際観光学会第142回例会
講演(2012年12月)
Business Travel Management の略
松園俊志・森下晶美編著、藤本幸男・
概論』
、同友館、2012年、160~161頁
るという、旅行業界の有利なポジショニ
する努力が必要であろう。
(8)
ングが最大限に発揮されるのである。
すでに少数の先進的な営業担当者は、
(9)
標準旅行業約款第12条の3
もちろん、大きな仕事を主幹事会社と
顧客の旅行周縁の提案領域に着目し、全
算「例」を提示するだけでよいが、顧
して取るためには越えるべき課題があ
体のプロデューサーになってフィービジ
客から「例」は内訳明細と何が違うの
る。その一つは、もっとリスクテイクし
ネスを実践し、高収益を上げているので
かと問われて答に窮していた。結局、
て先行投資を惜しまないこと、例えば「日
ある。障害となる課題があるかもしれな
自社の値付けは許されていなかったた
程+見積」に毛の生えたような貧弱な企
いが、まずはすべての営業担当者が、旅
画書で勝負していないだろうか。億の仕
行の前後・左右の領域にストレッチし、
事を取るのであれば、数百万の企画書・
旅行外の MICE 要素を探し当て、小さな
の活かし方」
、日本旅行業協会、平成18
ビジュアルプレゼンテーション制作があ
提案からでもフィービジネスに挑戦して
年度受注型企画旅行推進セミナー
って当然であろう。
いただきたいものである。
包括料金特約付き企画手配旅行では積
め、仕入値を出さざるを得なかった。
三浦雅生「問題提起 受注型企画旅行
(10)
(2006年11月)
あるいは、大きな仕事でも裏方に徹し
(11)
すぎてせっかくの宣伝機会を逸していな
(12)
いか。最近でこそ、世界陸上、世界フィ
1996~99年
Webster's
謝辞
Ninth
New
Collegiate
Dictionary 中辞典
ギュアスケートなどで旅行会社のロゴを
本稿をまとめるにあたり、株式会社
見かけるが、もっと主催者に宣伝料でお
JTB コーポレートセールスの香取早太
返しし、そのかわり大々的に社名を天下
氏、株式会社JTBコミュニケーションズ
に見せてもよいのではないだろうか。
の坂本典幸氏・上野文彦氏・中山隆一氏
などに代わって構成員のためにレジ
からはフィービジネスの現状についての
ャーなどの福利厚生サービスを提供す
8.おわりに
解説と社内資料の提供をいただきまし
る事業。JTB ベネフィットなどの会社
本稿を起こした動機は、法人営業を専
た。会社生活晩年では現場から離れてい
門とする多くの営業担当者が利益なき繁
た筆者のために、最新情報をご教示下さ
忙に陥り、長時間労働で疲弊している現
ったことに深甚の謝意を表します。
し、手をこまねいていれば状況はさらに
悪化していくことが明らかである。それ
Handbook』
、JHRS(JTB 能 力 開 発)、
Professional Congress Organizer の略
日 比野健「グローバル化とツーリズ
(1)
基調講演(2013年10月)
、中長期計画の
ンビジネスからフィービジネス ” とのか
『JTB
Marketing Service Business
(17)
て、これまで述べたフィービジネスに力
冒頭に紹介したように、“ コミッショ
がある。
(15)
前掲『旅行業概論』
、135頁
註記・引用文献
ム」、日本国際観光学会第16回全国大会
主張である。
企業・官公庁の総務・人事・健保組合
(16)
を打開するブレークスルーの一つとし
を入れるべきである、というのが筆者の
経営フォーラム(2010年2月)
(14)
2012年(抄録)
状を憂えたことにある。航空・鉄道・宿
泊などの販売側からの収入原資が漸減
「フィービジネスを切り拓け」
、JATA
(13)
高橋一夫編著『旅行業の扉』
、碩学舎、
(18)
2013年、170頁
2007年にJATA海外旅行委員会で初め
(19)
ひとつとして提示
て提唱された、旅には「文化の力」
「交
M
eeting, Incentive
(Tour)
, Convention,
流の力」
「経済の力」
「健康の力」
「教育
Event/Exhibition の略
の力」の五つの力がある、という考え
太 田久雄「コミッションからフィー
方で、現在はもっぱら「旅のチカラ」
(2)
(3)
-17-
日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014
と表記される。
発生主義に基づき当年度に帰すべき数
(20)
字を計上し、残額を次年度に繰り越す
年度末の会計作業。大型のフィービジ
ネスは年度をまたがることが多い。棚
卸しにより営業担当者の当年度への成
績按分が可能となる。
【本論文は所定の査読制度による審査を経たものである。
】
-18-
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