ケニア、ナイロビ郊外で初めて発見されたアウストラロピテクス

ケニア、ナイロビ郊外で初めて発見されたアウストラロピテクス
（題目邦訳）カンティス：ケニア、ナイロビ郊外にある大地溝帯断層崖上の新しいアウ
ストラロピテクス化石産地
Journal of Human Evolution （人類進化学雑誌）5 月号掲載
東アフリカに位置するエチオピア、ケニア、タンザニアは鮮新世
1)
人類化石の産地とし
て知られるが、それら全ては、都市から隔絶し、乾燥したアフリカ大地溝帯の内部にある。
ケニアと日本が中心となった国際チームは、大地溝帯の断層崖上に位置するナイロビ郊外
のカンティス
2)
（高度 1700m）において、初めて大地溝帯以東から猿人化石を発見した。
化石産出層の年代を放射年代測定と古地磁気により 350 万年前と決定し、化石の特徴から
アウストラロピテクス・アファレンシス
3)
と同定した。4 点の化石から、少なくとも成人
男性 1 人と乳児 2 人の存在が確認された。1995 年にチャドで猿人化石が発見され、猿人の
分布がアフリカ中部に広がっていた事が明らかになったが、同様に大地溝帯を越えて東部
に広がり猿人が棲息していた可能性が示された点はきわめて重要である。また、ケニアの
南部地域で猿人化石の発見は初めてであり、カンティスは、エチオピアからタンザニアに
いたるアファレンシス猿人の分布の空白域を埋めたことになる。
カンティスから発見された哺乳類の多くは、同時代の大地溝帯底の化石産地で知られて
いるものと属レベルでは共通するが、新種も認められた。化石の安定同位体分析
4)
、動物
相の分析から、カンティスは湿潤ではあったが、大地溝帯底の化石産地に比べ、より樹木
が少ない草原環境であった事が示された。種の違いはそうした環境の差に関係した可能性
がある。この点は、アファレンシス猿人の環境適応能力の高さを示唆する。
他の鮮新世化石産地と異なる特性から、カンティスは、研究上貴重な遺跡であると同時
に、ナイロビ近郊という立地条件から、同国の教育・観光面において、非常に大きな可能
性をもつ。残念ながら、ナイロビにおける近年の急速な宅地開発が遺跡の近くに迫ってお
り、遺跡の保存が喫緊の課題である。
この調査は、日本学術振興会二国間交流事業、リーキー財団、ウェンナーグレン財団、
古生物科学基金等の補助を受けて行われた。
1) 地質時代区分。530-260 万年前。
2) ナイロビのベッドタウン、オンガタ・ロンガイ地区。
3) 棲息年代は 370 万年-300 万年前。エチオピアで発見された女性骨格「ルーシー」やタ
ンザニア、ラエトリの足跡化石で知られる。
4) 植物食哺乳類の歯化石に含まれる炭素の同位体比から消費した植物が森林性かサバン
ナ性かが推定できる。
中新世
鮮新世
（年前）
更新世
後期
後期
600万
前期
500万
400万
後期
300万
中期
200万
前
現代
100万
オロリン・トゥゲネンシス
原人・旧人・新人
アルディピテクス (Ar.) 属
Ar. カダバ
ホモ (H.) 属
Ar. ラミダス
”
H. エレクタス
アウストラロピテクス (Au.) 属
サヘラントロプス・チャデンシス
Au. アナメンシス
H. ハビリス
370-300万年前
古代型 H. サピエンス
Au. アファレンシス
猿人
現代型 H. サピエンス
Au. ガルヒ
“ケニアントロプス・プラティオプス”
(? Au. アファレンシス)
( ? Au. “セディバ”)
Au. アフリカヌス
Au. エチオピクス
頑丈型アウストラロピテクス
（パラントロプス属）
Au. ボイセイ
Au. ロバスタス
人類種の年代（分類については包括的な枠組み）
オモ
コンソ
エチオピア
西トゥルカナ
コービ・フォラ
アリア・ベイ
ロメクウィ
トロ・メナラ
コロ・トロ
ロサガム
ハダール
ディキカ
チャド
カナポイ
ミドルアワシュ
エチオピア
ルケイノ
タバリン
ケニア
チェソワンジャ
ケニア
タンザニア
ナイロビ
ウラハ
マラウィ
ペニンジ
オルドバイ
ステルクフォンテイン
タウング
ラエトリ
マカパンスガット
クロムドライ
スワルトクランス
タンザニア
南アフリカ
1000 km
100 km
猿人が発見されている地域
1
コロ・トロ(チャド)
ハダール / ディキカ
マカ
コービ・フォラ
ロサガム
ナイロビ
ラエトリ
200 km
アウストラロピテクス・アファレンシス化石の産地（不確定なものの含む）
カンティス Kantis
2 km
-1.390552, 36.723755 (緯度経度よりGoogle mapで検索可）
2
カンティス，ナイロビ (2012年9月)
下顎左側第1乳臼歯
5 mm
舌側面
1 cm
頬側面
舌側面
遠心面
上顎犬歯（男性成人）
外側
前面
内側
後面
左尺骨近位部（男性成人）
3
ナイロビ郊外オンガタ・ロンガイ地区：星印が遺跡
4