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建材から放散する臭気の評価方法の検討
建材から放散する臭気の 評価方法の検討 においを感じる仕組み においの正しい評価のためには、においを感じる仕組みの把握が重要である。 視覚や聴覚などの他の感覚系に比して嗅覚では、におい受容の仕組みさえよく分かっていなかったが、 最近、生体におけるにおいを感じる仕組みが明らかになってきた! 嗅細胞 系球体 嗅球 嗅球へ ボウマン氏腺 嗅細胞 ➋ 嗅覚神経 ➍大脳 嗅覚神経 ➌ 嗅球 嗅小包 嗅上皮 嗅覚神経 後鼻腔 鋤鼻器 支持細胞 ❶ 嗅粘膜 嗅繊毛 <嗅上皮の構造> 上咽頭 ※ 嗅細胞から嗅球部への嗅覚神経投射 同じにおい受容蛋白を発現している嗅細胞からの嗅 覚神経は特定の同一の系球体にのみ結合している。 ❶ 嗅粘膜 →❷ 嗅覚神経→ ➌ 嗅球→ ➍大脳皮質 空気中のにおい分子 前鼻孔 固有鼻腔 後鼻腔 咽頭 食物中のにおい 図1 においを感じる仕組み 1.におい分子情報と嗅細胞の関係(解明) :嗅細胞膜におけるにおいリセプータの数は動物1000個、人間300個である。By Buck and Axelら(ノーベル賞(2004年)) 2. 嗅細胞から嗅球への神経機構(解明) :あるにおい情報を持った嗅細胞と嗅球内の系球体とは1対1に対応している。 3. 嗅球以後の大脳内におけるにおいの情報処理の仕組み(解明中) :脳内の断層画像の撮影、脳内の血流の測定 におい評価技術 身の回りのにおい “心地よいと感じる香り” “不快と感じる悪臭” におい評価の難しさ 1) 人の場合、情報の収集は殆ど視覚と聴覚によって行われている。 2) 強度、快・不快、においの質などの要素によって影響を受ける。 3) 人の生理的・心理的要素、経験によって影響を受ける。 4) 体調、年齢、性別によってにおいを感じる感度が変化する。 5) 同じにおいをしばらく嗅いでいると順応して感じなくなってしまう。 におい評価技術 においは、におい物質からの情報を人間に伝達する役割を担っているので、 におい全体を分析・評価するには、 物質的側面と人間的側面を総合的に評価する必要がある。 心理・生理学的測定 [においを感じる空間] 自宅:トイレ、台所·食堂、浴室、玄関、庭·ベランダ 自宅以外:飲食店、病院、ホテル、デパート、乗物 生体測定 [においの重要性] 快適な生活空間を創造する上で 重要な環境要素の一つ 悪臭領域:換気、消臭剤などの使用、脱臭装置 芳香領域:香気によるストレス緩和(精油の心理効果) 化学機器分析法 物質測定 官能評価 嗅覚測定法 (リフレックス(覚醒作用)、リラックス(鎮静作用) におい環境の現状把握や対策による効果を 判定することが重要 客観性のある評価尺度でにおいを数値化 図1 におい評価方法 心理・生理作用の測定 心理テスト、脳波の測定法(PET、fMRI) 化学機器分析法 GC/MS, HPLC 嗅覚測定法 三点比較式臭袋法 ※悪臭防止法、日本建築学会の室内臭気基準 室内における建材臭と知覚空気質 知覚空気質を定める重要な要素である室内臭気 知覚空気質 健康被害が認められるものでなくても、室内臭気の存在により 外来者および在室者が不快を感じ、心理的・精神的ストレスを 受ける室内環境は健全でない。 80% 室内における建材臭評価の必要性 外来者の20%以上の人が不快を訴えない知覚空気質を要求している。 建材臭は室内臭気発生源の一つである。しかし、建材臭を評価 する日本国内での標準試験法は設けられていない。 図1 ASHRAE換気基準 7.9 Before After 本研究では建材臭評価法の検討と共に建材臭が 知覚空気質に及ぼす影響に関して評価する 表1 室内臭気発生源としての建材臭 場所 居間 寝室 発生源 重要な臭気 人間 喫煙 建材 体臭 たばこ臭 建材臭 排ガス臭 カビ臭 糞尿臭 体臭 冷暖房機 ペット 住宅 便所 台所 食堂 浴室 玄関 事務所 学校 事務室 教室 便器 床 調理 生ごみ 食器棚 シンク下 冷蔵庫 排水口 壁·天井材 下駄箱 人間 建材 喫煙 冷暖房機 20% 排泄物臭 調理臭 生ごみ臭 食品臭 カビ臭 食品臭 排水口臭 カビ臭 履物臭 体臭 建材臭 たばこ臭 排ガス臭 カビ臭 31.8 μV Before After μV 0 0 アルファ波(8~13Hz)の頭皮上分布 P300の頭皮上分布 「リラクセーション度の指標」 「賦活度の指標」 →臭気は自身は気づかなくても、脳の機能に好ましくない作用を及ぼす。 図2 香りが脳機能に与える効果(ex.ラベンダ) 住宅 学校 人間 体臭 建材 建材臭 事務所 喫煙 たばこ臭 冷暖房機 排気ガス臭、カビ臭 高齢者施設 病院 天井材 壁 材 事務室の建材臭 床材 図3 オフイス空間における建材臭 壁 材 (嗅覚測定法) ISO基準における建材臭評価法 ヨーロッパを中心に提案され、現在議論中であるISO 1600028(Determination of odour emissions from building products using test chamber)試験法はチャンバーを用いた放散試験EN ISO 16000-9(Indoor air- Determination of volatile organic compounds- Part 9: Test chamber method)をもとにし、 パネル選定試験で合格した人の嗅覚を用いて放散試験により 放散された建材由来の臭気を評価する。 表1 アセトンを基準臭とした知覚強度範囲 Π [pi] 0 1 容認率( acceptability ):順応していない人の中で、その臭気 を嗅ぎ、受けいれるか若しくは受け入れないかを確認することで 臭気を評価する尺度である。 方法:パネルは2回に渡って(実行間5分以上休憩)チャンバー からの空気を嗅いで容認性を評価し、その結果を図2の左側に 示した棒にマークを付けて表示する(最初は棒の左側①、次は 棒の右側②)。容認率評価の結果は図2の右側に示したように マークの位置から算出する。 知覚強度( perceived intensity ):対象臭気を嗅ぎ、その臭気強 度が参考物質(例:アセトン)においてどの臭気強度レベルであ るかを確認することで臭気を評価する尺度である。 方法:知覚強度を表す単位としてpiが用いられる。知覚強度を 用いた評価の前に、アセトンの閾値濃度である20 mg/m3を0 pi とし、段階的に濃度を高めながら15 pi(320 mg acetone/m3 air に相当)までの濃度別アセトンサンプルを用意し、5日間、 パネルがそれらの濃度の区別ができるように訓練(表2)させる。 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 mgm3 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 220 240 260 280 300 320 ※ 0 pi = アセトン混合空気の閾値濃度(20mg acetone/m3 air) ※ アセトン混合空気の濃度は時間経過によらず、一定に維持されること。 濃度誤差は±1pi(10mg acetone/m3 air)の範囲であること。 Training Day 評価尺度および方法 2 表2 パネル訓練方法 Topic Sample content Introduction Training Pre-selection Training Familiarization Day 1 Day 2 Day 3 Training Familiarization Day 4 Training Familiarization Day 5 Training Familiarization 8 acetone samples 6 acetone samples 2 building material samples 2 unknown acetone samples Building material 1 at 6 odor concentrations (dilution process) 2 unknown acetone samples Building material 1 at 6 odor concentrations (dilution process) 6 acetone samples 2 concentrations of each of the two building materials Clearly acceptable ①② +1.0 +0.5 Just acceptable Just unacceptable +0.1 - 0.1 +0.5 (a) ディフューザー (b) マスク (c) テドラーバッグ 図1 臭気提示方法 Clearly unacceptable - 1.0 図2 アンケート様式(容認性) (嗅覚測定法) 日本建築学会環境基準の建材臭評価法 現在、日本国内では建材臭評価のための標準試験方法が 定められておらず、日本建築学会で定められた室内の臭気に 関する管理基準書にて木材(2種類)、合板、畳、コンクリートの 建材に対する臭気濃度および臭気強度の基準値(暫定値)が 提案されている。その基準値は、竹村らの実験結果による。 攪拌用ファン 内圧調整用袋 実験方法 フレックスポンプ 試料採取用袋 建材 データ不足、既存放散試験法による評価が必要 図2 建材臭発生(放散試験) 100 木材(ナラ) 80 60 40 20 0 100 畳 80 60 40 20 0 100 コンクリート 80 60 非容認者率(%) 100 木材(ベイヒ) 80 60 非容認者率(%) ➊ 建材臭でチャンバー内を満し、1時間後、臭気を捕集する。 ➋ 1, 3, 10, 30, 100倍の5段階(ベイヒは300倍も含めた6段階)の 希釈したにおい袋を用意する。 ➌ 主観評価を行い、臭気強度と容認性を求める。 ➍ 主観評価に続き、嗅覚疲労が十分回復できると思われる15分後、 臭気濃度を求めるために三点比較式臭袋法試験を3回行う。 ➎ 非容認者率20%を基準にして臭気強度および臭気濃度を求める。 40 20 0 A 3.8 1.5 B 臭気濃度 60 80 100 · 10 臭気強度 3.8 3.3 4.3 1.5 3.1 非容認者率(%) 建材名 木材(ベイヒ) 木材(ナラ) 合板 畳 コンクリート 非容認者率(%) 表1 建材に対する臭気濃度および臭気強度の基準値(暫定値) ①木材(ベイヒ) ②木材(ナラ) ③合板 図1 対象建材 ④畳 ⑤コンクリート C D E 臭気強度 60 0 100 畳 80 60 なし 10 40 20 0 A 3.3 C D E 臭気強度 4.3 B C D E 臭気強度 F A : 無臭 B :やっと検知できる(検知閾値) C :何のにおいであるかがわかる 弱いにおい(認知閾値) D :やっと検知できるにおい E : 強いにおい F : 強烈なにおい 3.1 B F 100 木材(ナラ) 80 60 40 20 40 20 100 合板 80 60 図4 臭気強度と非容認者率 100 木材(ベイヒ) 80 60 01 F 40 20 0 A 図3 三点比較式臭袋法 102 103 臭気濃度 40 20 0 100 コンクリート 80 60 40 20 104 01 100 合板 80 60 80 10 10 102 103 臭気濃度 40 20 0 1 100 10 102 103 臭気濃度 104 ln( P / 100 − P) = A log C + B 104 図5 臭気濃度と非容認者率 P C A, B : 非容認率 : 臭気濃度 : 定数 (機器分析法) におい識別装置を用いた建材臭評価 嗅覚感覚量を装置で定量化する方法 嗅覚レセプタの代わりに複数の臭いセンサー素子を用い、 それらのセンサーからの信号を脳に代わってコンピューター により多変量解析などを行うものである。 (1982年英国ペルソートらにより提案) 10個のセンサーでにおい質の情報や強さが評価できる。 成分量 嗅覚感覚量 主観的感覚 客観的 分析型官能評価 嗜好型官能評価 三点比較式臭袋法 快 (臭気指数、臭気濃度) 不快 成分 におい識別装置 GC/MS におい嗅ぎGC (a) 20L chamber (b) CLIMPAQ 図2 放散試験用小型チャンバー Thermometer &Hygrometers Thermometer &Hygrometers Air-control valve Filter Sampling Vent 20 liter chamber CLIMPAQ Sampling Compressor MFC MFC 脳波測定、fMRI 図1 におい定量化方法におけるにおい識別装置の位置づけ Vent Vent Activated Water carbon Air-control valve 硫化水素 20 15 10 5 0 -5 Air mixer Magnetic fan 図3 放散試験仕組み Air-control valve 硫化水素 80 60 40 20 0 -20 20L CLIMPAQ 類似度:基準9系統のガスに対する類似性を100%表示にて表 炭化水素系 硫黄系 炭化水素系 硫黄系 現したもので、におい質の定性的な評価に主眼をおいたもので ある。 臭気寄与: 「センサ出力」の強弱を加味し、人間の臭覚相当の 芳香族系 アンモニア アンモニア芳香族系 補正(閾値補正)を実施して、単位を臭気指数相当の値として 「におい質と強度」の寄与具合を示したものである。 アミン系 アミン系 エステル系 (類似度とはやや異なった見え方となり、サンプル相互比較の際、 エステル系 類似度と臭気寄与の高低関係が逆転することもある)。 アルデヒド系 有機酸系 アルデヒド系 有機酸系 臭気指数相当値:全体としてのにおいの強度を臭気指数相当の 図4 臭気寄与 図5 類似度(%) 値で示したものである。 表1 臭気指数相当値 活用例:異なるチャンバー(20L チャンバー、CLIMPAQ)における 1回目 2回目 3回目 平均 PVC Flooringから放散するにおいの臭気指数相当値を求め、に 20L chamber 16.7 16.6 16.7 16.7 おい評価に適した小型チャンバーを検討した。 CLIMPAQ 16.4 16.4 16.4 16.4 (機器分析法) におい嗅ぎGCを用いた建材臭評価 TDS Panelist FID Splitte r (Helium) Make-up Gas 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 TDS : Thermal Desorption System 3.0E+02 FID : Flame Ionization Detector Abundance Abundance 複合建材(高含水SL材) 塩化ビニル床仕上材 +接着剤+床下地材 (含水率11~13%) 2.0E+01 F 1.5E+01 2E1H Phenol ⓵ [Phenol] Phenol ➋ [2E1H] Pungent ➂ Green leaf, herb ➃ Solvent ➄ Burnt sugar 2.5E+02 2.0E+02 (13.60) (14.70) (15.40) (15.50) (16.20) ➅ Burnt sugar ➆ Green leaf, herb ➇ Sweet ➈ Sweat ➉ Fruit, fresh ➋ ➂ (16.90) (17.00) (17.80) (18.60) (20.80) ➃ ➄ 1.5E+02 ⓵ 1.0E+02 ➅ ➆ 5.0E+01 ➈ ➇ ➉ 0.0E+00 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 R.T. (min) 図3 塩化ビニル床材+接着剤+低含水SL材(パネル一人) 3.0E+02 2.5E+02 Abundance 複合建材(低含水SL材) 塩化ビニル床仕上材 +接着剤+床下地材 (含水率4%) A B C D E 1-Butanol ④ ⑤ R.T. (min) 2.5E+01 1.0E+01 ⓷ 1.0E+02 図2 塩化ビニル床材のみ(パネル一人) 試験体 3.0E+01 ② 1.5E+02 0.0E+00 図1 におい嗅ぎGCの仕組み 塩化ビニル床仕上材 (単体) ➊ 2.0E+02 (13:60) (14:20) (14:70) (15:60) (16:20) 5.0E+01 A : Detection by FID B : Report by Panelist Sniff port ➊ [Phenol] Phenol ➁ Rubber ⓷ [2E1H] Fruit ➃ Putrid ➄ Burnt sugar 2.5E+02 B GC Oven Capillary column A 3.0E+02 Abundance 建材臭を捕集、試料を加熱脱着などによりGCに導入、分離する ことにより、建材から放散するVOCsなどのうち臭気寄与成分を嗅 覚を利用して定性する技術である。 2.0E+02 1.5E+02 ➀ (01.90) ➀ [1-Butanol] solvent (06.70) ➁ Sour ⓷ [Phenol] Phenol (13.60) (14.20) ➃ Rubber ➎ [2E1H] Pungent (14.70) (15.50) ➅ Solvent (15.60) ➆ Putrid (16.00) ➇ Sour ② ➎ ➃ ⓷ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ⑪ ⑫ ⑬ ⑭ ⑮ ➈ Burnt sugar ➉ Green leaf, herb ⑪ Sweet ⑫ Bread, almond ⑬ Rubber ⑭ Sweet ⑮ Sweat ⑯ Fruit, fresh (16.20) (16.70) (17.00) (17.30) (17.70) (17.80) (18.60) (20.10) 1.0E+02 ⑯ 5.0E+00 5.0E+01 0.0E+00 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 0.0E+00 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 R.T. (min) 図1 塩化ビニル床材+接着剤+高含水SL材(パネル複数) R.T. (min) 図4 塩化ビニル床材+接着剤+高含水SL材(パネル一人)