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音声模倣発達過程の理解に向けた認知発達ロボティクスの試み 1

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音声模倣発達過程の理解に向けた認知発達ロボティクスの試み 1
解説
音声模倣発達過程の理解に向けた認知発達ロボティクスの試み
吉川雄一郎,浅田稔 (JST ERATO 浅田共創知能システムプロジェクト)
点からも非常に興味深い.しかし従来の発達心理学
における観察に基づくアプローチでは,統制の困難
要旨
ヒトの乳児は周りの大人とのどのような相互
さのため,長期にわたる発達のしくみを取り扱うこ
作用を通じて,またどのような仕組みで,大人が話
とは一般に容易ではない.これに対し,認知発達ロ
す言葉を獲得するのか.本稿では,この問題に対し
ボティクス [7] と呼ばれる分野では,そのような乳
て,従来の観察に基づくアプローチを補うことが期
児の発達過程を構成的に理解することを目指し,音
待されている認知発達ロボティクスでの取り組みを
声模倣ができるようになるロボットを実現する研究
取り上げる.はじめに,親との相互模倣を通じて乳
が進められている.本稿では,筆者らのグループで
児が母音を獲得していく過程を構成する研究につい
進めてきた音韻と語彙の共有化,すなわち音声相互
て紹介し,親が乳児を模倣することの役割と仕組み
模倣発達の構成に関する研究について紹介し,議論
について議論する.次に,乳児に対する物の提示や
する.
物の名前の教示などの働きかけを含む,より自然な
養育者の振る舞いのもとで音声模倣および語彙を獲
2
得する過程を構成する研究を紹介し,これらの共発
達を可能にする仕組みについて議論する.
言葉の共有化の構成的課題
声を聴取する乳児の能力は,生誕直後は言語圏に
キーワード 音声模倣,語彙獲得,相互模倣,知覚運
よらないユニバーサルなものであるが,徐々に乳児
動バイアス,自己模倣バイアス,共発達
が属する言語圏の声を聴取するのに特化していく [1].
また,はじめは非音韻様の発話しかできないが,咽
1
頭蓋の沈下 [8] に従って,徐々に養育者の声に適応し
はじめに
ていく [2].これらの過程を経て,乳児は 8 か月にな
音声言語によるコミュニケーションを実現するた
る頃に単母音を,14 か月になる頃に連続する母音の
めには,そこで交わされる言葉の単位系,すなわち
模倣を示すようになると言われている [4].この模倣
対話者同士が音韻系や語彙を共有していること,あ
発達の初期のマイルストーンに達するためには,自
るいはその実感が必要がある.乳児は生後,音韻知
分の声と自分の声を産出するための構音運動の関連
覚能力を徐々に母国語に特化させていくこと [1],こ
付けることだけでなく,生後の周りの大人とのやり
れに並行して発話できる声を大人のそれに徐々に近
とりの中から,親の声と自分の声の対応を見出すこ
づけていくこと [2] が知られている.またその収斂
と(音韻の共有化)が求められる.
を待たず,乳児とその養育者の間に模倣的なやりと
またこの母音を模倣するようになる時期に前後し
り [3, 4] や言葉によるやり取り [5] が見られ始め,養
て,乳児は大人が理解できる言葉を発しはじめる [5]
育者との相互作用が乳児の音韻発達に重要な役割を (語彙の共有化).親の声と自分の声の対応づけがで
果たしていると考えられる [6].では,養育者とのど きることで,言葉の獲得が促進される可能性がある.
のような相互作用,そして学習メカニズムが言葉の
一方,不完全にでも獲得された乳児の言葉は,寛容
共有化を可能にしているのだろうか.
な解釈を伴った親の模倣を誘発し,逆に両者の声の
そのような問いは人の発達を知るという観点のみ
対応の鮮鋭化も促進される可能性がある.これらが
ならず,人と関わる知的人工物を設計するという観
真ならば,これらを相互促進する重層的な共有化(音
韻と語彙の共有化の共発達)のしくみを持つことが
〒 565-0871 大阪府吹田市山田丘2−1 大阪大学大学院工学研
究科 FRC-1 401
吉川雄一郎
E-mail:[email protected]
求められる.
1
2.1
相互模倣による音韻共有化モデル
2.1.1
養育者が乳児を模倣することの意味
従来の構成的研究では,音韻共有化の発達は自身
乳児が何を模倣すべきかを発見するのに,何がヒ
の発話運動と生成される音声の関係の知覚運動学習
ントになりうるのかを生後 6 か月までの親子のイン
課題として取り扱われることが多かった [9, 10].し
タラクションの観察から考える.初期の親子インタ
かし実際の音韻共有化の発達過程では,発達する乳
ラクションにおいては,養育者側からの模倣がより
児(あるいはロボット)と,その発達の目標あるい
頻繁に見られることが報告されている [3].また,乳
は導き手となる養育者が,それぞれ異なる身体で声
児の発声が音韻様であるときに母親は高頻度で乳児
を発し,聞き取らざるを得ないことが無視できない. の音声を模倣すること [13] や,母親の模倣が乳児の
人の音声は,声帯に呼気が送り込まれることにより 音韻様の発声の頻度を高めること [14] などが報告さ
生じた空気の振動が,声道を通過する際に共鳴する
れている.これらのことから,乳児の音韻発達にお
ことによって産出されるため,その音響特性を表す
いて養育者に自身の発話を模倣されることが重要な
フォルマント(共鳴周波数)は声道がどのように形
役割を果たしていることが示唆されるが,その具体
作られているかによって決まる.従って,身体の違
的な機能については明らかでない.これに対し,我々
いのため,両者が発することができる声の音響特徴
の研究グループでは養育者による模倣に二つの役割
の範囲は異なり(図 1 参照),養育者の声と物理的
があるとの仮説を提案している(図 2).一つは,乳
に同じ音響特性を再現しようとしても,それが産出
児の行動に対応する養育者の行動,すなわち身体構
可能範囲内のものであるとは限らない.
造の違いを吸収する対応づけを正しく学習するため
の正解例を乳児に例示する働きである.そしてもう
一つは,養育者が乳児の発声を再現する時に身体構
造の違いのため完全には再現できず,無意識のうち
㻝㻝
に自身の普段よくする行動,つまり母音の発話に置
き換えた模倣をすることで,乳児の発話カテゴリを
母音に誘導する働きである.
養育者の
プロトタイプ
対応の例示
×◎○
◎●○
△◎×
...
×●△
図 1 声域の比較:日本人成人男性10人による日
×◎○?
本語母音発話の分布(五角形),乳児の声域(文献
不完全な模倣
(自身のプロト
タイプに漸近)
[11] の図から適応),発話ロボット [12] の声域(十
字の点)
×●○
◎●○?
誘導
また人は体内にある鼓膜の振動として音を聴取す
るため,相手の声についてはその気導音のみが知覚
されるのに対し,自身の声については気導音と体内
不完全な模倣
(自身のプロト
タイプ/過去
の発話に漸近)
◎●○
◎●○!!
を伝わってきた骨導音とが合わさった形で知覚され
る.従って,自分自身にとっては相手と物理的に同
じに知覚される声を産出できたとしても,それから
図 2 養育者の模倣の二つの役割
骨導音が除かれた気導音を聴取する他者にとっては,
同じと知覚される音になっているとは限らない.従っ
この考えに基づき Miura et al.[12] は,発話ロボッ
て,物理的な音響特徴そのものを模倣の指標とする
ト (図 3) を試作し,その発話を養育者役の実験者に
のではなく,乳児は何が対応するのかをどのように
模倣させることを通じて,人が同じと思える母音の
発見可能かが重要な問いとなる.
発話をロボットに獲得させる問題に取り組んだ.先
行研究 [15] を参考に試作したロボットは,人工声帯
に圧縮空気を流入することで基本周波数の音源を生
2
成し,シリコーン製の人工声道でこれを共鳴させる
いう概念を提案し,計算機シミュレーションによっ
ことで音声を産出し,人工声道の喉・顎・舌にあた
て,二つのバイアス (図.4) が乳児の,身体構造の対
る筒の部分と唇にあたる開口部を電動モータにより
応付けの学習と並行した音韻共有化過程に及ぼす効
変形させることで,様々なフォルマントの音を調音
果を検討している.
することができる.
前者の知覚運動バイアスは,次の事前実験から判
明した.シンセサイザによって生成された音声を被
験者に聞かせ,単純な模倣を依頼しても,模倣音声
は,被験者自身の母音の周りに集中することが明ら
かになった.すなわち人は,無意識のうちに他者の模
formant
倣音声を自身の音声に引き込んでいることがわかっ
た.これは,知覚範疇によるマグネット効果 [17] に
より,連続的に分布している音を離散的な音カテゴ
リ(この場合,自身の各母音のいずれか)として聞こ
うとしてること,これに加え発声する場合も,発声
器官そのものの拘束を反映して範疇化されたモータ
図 3 発話ロボット:Burpy
コマンドにバイアスされることで,その効果が増幅
されると考えられる.さらに相互模倣の過程で,曖
昧な音声も,予測により,期待する音声に聞こえる
ロボットと人それぞれが生成可能な音声のフォル
と仮定し,これが後者の自己模倣バイアスである.
マントの分布範囲をおおよそ対応づける一次変換,お
よび人の口の形を大まかに再現する視覚的な模倣メ
™£þÎðû@.×
ûPÂéÎð
カニズムにより,ロボットは観測した人の母音発話
±l ·
^20G
を,人によっては母音と聞き取れる程度に模倣する
¬kÌ
^20G
ことができる.しかし,どのような変形により生成
$Sþôñ…
¬þÎð
される音が,より母音様であると人に思わせるもの
ôñ…þ
Îðe{VM2e
であるかは不明であった.Miura et al.[12] は,これ
をフォルマント空間上の発話プロトタイプを適応さ
せる問題と捉え,人の発話音声がその人の典型的な
^20Gåï
Gþôñ…þ
G
þôñ…þ
ÌÎð
c7ylV5ë
発話音声とどのように異なるかを基に,発話プロト
図 4 養育者の知覚運動バイアスと自己模倣バイアス
タイプを移動させる学習メカニズムを提案した.ロ
ボットの発話が人に模倣されることを仮定したイン
タラクション実験を実施し,実際にロボットの発話
Oudeyer は,知覚マグネット効果を考慮した音韻
認識メカニズムを持つエージェントの集団が,相互
に模倣するやりとりを通じて,集団の中で音韻が共
する母音をより明瞭なものへと誘導できたことが報
告されている.
有化されていく過程を計算機上でシミュレートした
2.1.2
[18].しかし,エージェント同士は同じ構音機構を持
養育者の模倣メカニズム
つこと,各エージェントは代わる代わる様々なエー
Miura et al.[12] の研究では,本来未知であるはず
ジェントと模倣相互作用をすることが想定されてい
の身体構造の対応付け,すなわち人とロボットの声域
る.人の乳児が置かれている状況はやりとりの相手
をおおまかに対応付ける写像が与えられていた.ま
が身体構造の異なる何人かの大人にある程度限られ
た,人の模倣が誘導的な働きを持つことが議論され
ており,これについて直接シミュレートしたもので
ていたが,どのようなしくみで人がそのような模倣
はなかった.Ishihara et al.[16] はこの問題に対して,
を示すのかについての議論は十分ではなかった.模
養育者との相互模倣を通じて,自身の声域と養育者
倣一般に言われているように,人は何かを模倣する
の声域の対応付けを推定しながら,人が母音と聞き
際,感覚器からの信号をそのまま模写し,行動する
取れる発話の獲得を可能にする養育者の模倣メカニ
わけではなく,なんらかの知覚運動バイアスがかか
ズムをモデル化することを試みている.
ると考えられる.Ishihara et al.[16] はさらに相互作
彼らは,計算機上で養育者役のエージェントと乳
用がフィードバックを増幅する自己模倣バイアスと
児役のエージェントを相互に模倣させた.図.5 に,二
3
つのバイアスの強さを変えて相互作用させたときの, るという仮説が提唱されている [20].実際の人間に
養育者と乳児が発声した発話音声のフォルマントの
よる相互模倣を通じた検証,神経科学的基盤の考慮
分布を示す.赤の分布が乳児の模倣音声であり,5
による妥当性に関する検証が,今後欠かせない課題
つの黒点は相互作用終了時の乳児の5つの母音プロ
である.
トタイプの位置を示す.青の分布は養育者の模倣音
声である.図 5(a) は,両方のバイアスが存在し,相
2.2
互模倣を通じて,互いに正しい母音位置に収束して
いる様子を示す.図 5(b) では,知覚運動バイアスに
語彙と音韻の相互拘束的共有化
従来の構成的研究では,音韻に関する共有化過程
より収束しているものの,正しい位置ではない.図
は単独で扱われることが多く,語彙に関する共有化
5(c) と (d) では,自己模倣バイアスのみが作用して 過程の研究 [21, 22] とは別々に研究されることが多
いる場合と二つのバイアスがともに無い状態で,ば かった.しかし,人の乳児が初語を示しはじめ [5],
らけた音を互いに適当に模倣しあっている.以上か 名詞や動詞など種々の品詞の語彙を理解,利用する
ら,模倣における二つのバイアスがバランスした状 ようになっていく過程 [23] は,生後 1 年前後の乳児
態で両方存在していることが,乳児の音韻の共有化 が音声模倣を示し始める時期 [4] と同期しているよ
を誘導している可能性が示唆される.
うであり,双方の発達がどのように影響しあうのか,
またそれはどのようなメカニズムによって起こるの
か,は興味深い問いである.
2500
2500
2000
のを乳児に提示したりすることも多いと考えられる.
F2[mel]
F2[mel]
2000
養育者は,環境中の物体を乳児に見せながらその
ラベルを教示したり,乳児の発話に近いラベルのも
1500
1000
従って,従来の構成的研究のように養育者を乳児の
1500
Infant voices
Caregiver voices
Target vowel pentagon
Caregiver vowel pentagon
Infant vowel prototypes
発話を模倣するだけの存在とみなすのではなく,こ
1000
れら全てを含む,より自然な振る舞いを示す存在で
200 400 600 800 1000 1200 1400 1600
F1[mel]
200 400 600 800 1000 1200 1400 1600
F1[mel]
あると想定する必要がある.Sasamoto et al. [24] は,
音声に関する二つの処理経路を示唆する近年の脳科
(a) 両方のバイアスがか
かる場合
(b) 知覚運動バイアスの
みがかかる場合
学の知見 [25] を参考に,乳児が自身の発話,養育者
の発話,物体,それぞれについて表象する層が相互
に結合するマッピングを持つと考え,このような養
2500
2500
2000
2000
育者との相互作用を通じて音声模倣(自身と養育者
物体,養育者の発話と物体の表象のマッピング)の
F2[mel]
F2[mel]
の発話の表象のマッピング)と語彙(自身の発話と
1500
1500
1000
1000
発達の相互作用のモデル化に取り組んでいる.より
自然な仮定として,養育者が必ずしも乳児の発話に
200 400 600 800 1000 1200 1400 1600
F1[mel]
(c) 自己模倣バイアスの
みがかかる場合
正しく対応する行動をしない場合,例えば,乳児が
不明瞭な発話を行うため養育者が正しく模倣できな
200 400 600 800 1000 1200 1400 1600
F1[mel]
い場合が想定され,従来の構成的研究で想定されて
いたような単純に対応付ける学習方法では,誤った
(d) どちらのバイアスも
かからない場合
マッピングを学習する恐れがある.
図 5 知覚運動バイアスと自己模倣バイアスの違いに
よる相互模倣発話分布の違い
また最近では,さらに乳児の構音可能領域が徐々
に拡大していくことを考慮したシミュレーションを
通じて,乳児に対する養育者の発話の分布が大人に
対するそれよりも拡大するというマザリーズ [19] が,
乳児の生成する音声に対する養育者の期待と関連す
4
図 6 想定するインタラクション
が与えられない状況での音韻と語彙の共発達が実現
されている可能性が示唆される.この実験では,成
功率という表現で構音や知覚の未熟さが考慮されて
いたものの,実際には,その範疇化はこれらの発達
と並行して起こると考えられ,モデルのさらなる拡
張が必要である.
これに対し彼らは,任意の二つの層の間のマッピ
1
1
0.8
0.8
Performance
Performance
図 7 相互連結型クロスモーダルマップ
0.6
0.4
proposed (200k step)
proposed (20k step)
direct
0.4
0.2
0.2
ングを学習する際に,学習途上のマッピングによる
0.6
proposed
direct
0
0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9
予測と照らし合わせることにより,観測した事象を
0
1
Success rate
0.025
0.15
0.275
0.4
Success rate
対応の正解例とみなしてよいかを判断させる方法を
(a) 養育者の成功率が一様
に変化する場合
提案した.具体的には,観測した事象を,これから
学習するマッピングによる予測,さらに他のマッピ
ングを連結したものによる予測と照らし合わせ,他
とよく一致するものを対応すべきものとみなさせる.
(b) 養育者の模倣の成功率
だけが変化する場合
図 8 養育者の行動の対応確率と学習後の達成度
これにより,他のマッピングを学習した経験を利用
することで,養育者の行動だけに依存した学習を防
ぎ,上述した誤った対応関係を学習する問題を回避
終わりに
3
できると期待される.
これを検証するため,goo baby[26] を参考に,10
本稿では,乳児の音韻および語彙の共有化の発達
か月から 18 か月までに乳児が獲得するとされる語
過程に対する構成論的アプローチとして,最初に音
彙の中から名詞単語を抽出し,選ばれた 39 個の単
韻の共有化を誘導する養育者の模倣メカニズムにつ
語のやりとりを想定した計算機シミュレーションを
いて,次に音韻と語彙の共有化の共発達を可能にす
実施した.各ステップで,ロボットはランダムに行
る乳児の学習メカニズムについての一連の研究を紹
動を決定し,養育者は,ロボットの発話の模倣,教
介した.このように,乳児だけでなく養育者,ある
示,提示のいずれかの行動を選択する.養育者の行
いは模倣だけでなく語彙に関するマッピングという
動の恣意性や乳児の発話の未熟さを考慮し,これら
ように,乳児の発達を支える複数の要素の間の相互
の養育者の行動の成功率,すなわち乳児が対応する
作用をモデル化を進めていくことで,実際の乳児に
事象を観測できる確率を変え,200,000 回の相互作
対しては倫理的には許されない操作的な統制を施し
用の後の提案手法の学習達成度(39 個の物体に関し
た計算機上の実験を実施し,発達過程の理解に対し
て対応する表象が正しく想起できる確率)を評価し
て洞察を得る発達の動的モデルを得ることが期待さ
た(図 8(a)).養育者の応答を対応するデータである
れる.これらの研究を統合し,音韻と語彙の共発達
とみなしてそのまま学習する方法(点線)では,養
における養育者の誘導的役割をモデル化すること,
育者が正しく模倣や提示,教示を行う状況でしか学
さらに人との相互作用を通じて音声模倣および語彙
習が出来ないのに対し,提案手法 (実線) では,養育
を獲得するロボットを実現することを通じ,モデル
者の正しい行動の割合が減少しても,頑強に正しい
の妥当性の検証,修正していくことが今後の課題と
対応関係を学習できていることがわかる.また興味
なる.
深いことに,養育者の模倣の成功率をチャンスレベ
ル (この場合約 0.025) まで下げたとしても,教示と
謝辞
提示の成功率がある程度(この場合それぞれ 0.4)で
阪大)には日頃から討論を通じて貴重なご意見を頂
本稿を作成するにあたり,細田耕准教授(JST/
あれば,教示と提示により獲得されるマッピングを
いた.また三浦勝司君,石原尚君,笹本勇輝君をは
用いることで,模倣のマッピングを獲得可能であっ じめとする大阪大学大学院の大学院生諸君には,本
た (図 8(b)).
稿で紹介した研究の推進に献身的に協力して頂いた.
彼らの方法のような複数経路の情報統合により,実
彼らの貢献なしに本稿は作成しえず,深く感謝する.
際に乳児が曝されているような疎にしか対応の情報
5
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吉川雄一郎(よしかわゆういちろう)
2005 年大阪大学大学院工学研究科知能・機能創成工学専
攻博士後期課程修了.在学中,日本学術振興会特別研究
員 (DC2).同年株式会社国際電気通信基礎技術研究所知
能ロボティクス研究所研究員.2006 年 4 月 JST ERATO
浅田共創知能システムプロジェクト研究員.コミュニケー
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Markham: Infant vocalizations are conditioned
both by maternal imitation and motherese speech,
Infant Behavior and Development, 19, 670, (1996).
浅田稔(あさだみのる)
大阪大学大学院工学研究科知能・機能創成工学専攻教授.
JST ERATO 浅田共創知能システムプロジェクト研究統
括.IEEE フェロー.日本赤ちゃん学会理事.日本ロボッ
ト学会などの会員
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