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2015 年 6 月 MADO Vol.38 より抜粋

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2015 年 6 月 MADO Vol.38 より抜粋
2015 年 6 月 MADO Vol.38 より抜粋
投信市場でさらに存在感を増す
「アロケーション型」「ラップ型」の分類から見えてくるもの
NISA のスタートを控えて一気に設定が増加した「アロケーション型バランスファンド」。足下ではい
わゆる「ラップ型ファンド」が注目されていることもあり、この商品カテゴリーへの関心はさらに高ま
っている。そこで、小誌モニターへの緊急アンケートで現状を聞くとともに、さらなる追加採用、今
後の営業推進の目安となるよう、各ファンドの分類も試みたので参考にしてほしい。
今期から本格的に「コア・サテライト戦略」を導入しているという販売会社は少なくない。そのコア
商品として、アロケーション型のバランスファンド、ラップ型ファンドへの関心が高まっているが、こ
れらのファンドがすでに売れ筋の上位に食い込む販売会社も出てきた。
商品採用は急拡大したものの販売手法の定着はこれから
そこで、地方銀行の本部担当者、販売担当者からなる本誌モニターにアロケーション型、ラップ
型ファンドの採用状況について緊急アンケートを実施したところ(N=60)、すでに「複数そろえてい
る」という回答が 53.3%にものぼった(図1参照)。しかも、「1本だけ」という回答を合わせると 80%
近く、さらに「これから採用する予定」を合わせると 90%近くにまでなり、もはやラインアップに不可
欠な存在になりつつあるようだ。
とはいえ、「経営陣からのプレッシャーで仕方なく採用した」と本音を覗かせる地方銀行の本部
担当者も多く、必ずしも前向きなケースばかりではない。そこで、アンケートでは現在の販投信市
場でさらに存在感を増す「アロケーション型」「ラップ型」の分類から見えてくるもの売状況について
も聞いてみたが、「まったく販売できていない」が 16.7%で、「販売が好調」の 15.0%を上回る結果と
なった(図2参照)。 「基本的に売れ筋商品は高分配型商品に集中している。顧客も販売員も中
長期運用を前提にした分散投資よりも短期的に運用成果を受け取り、一定の利益を確保して乗り
換える傾向にある。リーマン・ショック時の分散効果が発揮されなかった経験も尾を引いている」
(関東甲信越地方・地銀)といったあたりが、販売が伸びていない代表的な理由だろうか。
もっとも、一方で「安定的に販売できている」と「一部の顧客に限って販売できている」とを合わせ
ると約 45%になる。「販売経験のある行員は、既存客へサテライトファンド、かつ月次分配型ファン
ドを販売している。既存客からの値上がりや分配期待には、ラップ型、アロケーション型ファンドで
は物足りないと行員自身が逃げ腰。一方、経験の浅い行員には本部研修で新規客へのラップ型
ファンド提案のロープレを徹底しつつあり、金額は少ないものの安定的に販売できるようになって
きている」(関東甲信越地方・地銀)。
その他にも、「金融庁の方針や証券会社の『ラップ』への注力などにより、『残高を意識した』方針
にしたところで、徐々に販売額増加の方向に向かっている」(九州沖縄地方・地銀)、「投信そのも
のが分配ありきで発展した側面もあるため、もう少し時間がかかると考えており、まだ結果を求め
るべきではない」(関東甲信越地方・地銀)といった声があり、今はまだ定着の途上にあると見るべ
きかもしれない。
時間軸と配分の対象という2つの軸が整理のポイント
これだけアロケーション型、ラップ型ファンドの採用が進み、しかも複数ラインアップする販売会
社が出てきたことを考えると、顧客への提案時の使い分け、あるいはさらなる追加採用のために
も、商品ごとに特徴を整理しておく必要があるはずだ。しかし、それが簡単ではないのも事実で、
多くのファンドが「相場環境に応じて機動的に資産配分を変更する」ことを特色にあげてはいるも
のの、どこに違いがあるのかまではなかなか理解しにくい。
「例えば機関投資家であれば、アロケーションの頻度、さらにはそもそも何を配分するのかで整
理しているケースが多い」と指摘するのは、三菱アセット・ブレインズ(MAB)の執行役員で主席フ
ァンドアナリストの竹内慎太郎氏。具体的には、まず長期でアロケーションをするのか、短期でア
ロケーションをするのかという時間軸。もう1つが投資額を配分するのか、リスク量を配分するの
かという軸で考えるという(表1参照)。「表の上段左側の代表が、特に年金運用の世界で重視さ
れる戦略的アセットアロケーションと呼ばれるもので、リターンの8割方は資産配分に基づくという
考え方のもとに基本的な資産配分を決め、それを比較的長期で維持します。上段右側はもっと短
期間に資産配分を変更するもので、タクティカル・アセット・アロケーションに代表されるベータに加
えてアルファも取りにいく戦略がここに位置付けられるでしょう」(竹内氏)。 それに対して、下段
のリスク量を配分するというのは比較的新しい概念だ。とはいえ、リスク量というのは絶えず変動
するため、長期でコントロールするのは難しく、下段左側の戦略はほとんど存在しない。一方で右
側の相場環境に応じて短期で変更する「リスクコントロール型アセットアロケーション」は広まりつ
つあるという。アロケーション型、ラップ型はこのうち上段右側か下段右側、あるいはその両方に
位置すると考えられる。ただし、具体的な商品をこの表に当てはめるのは、なかなか難しい作業
のようだ。
というのも、「時間軸で分けるには資産配分の変更頻度を調べる必要がありますが、そもそも目
論見書には『適宜』としか書かれていないものが大半です」と話すのは、MAB のシニアファンドア
ナリストである奥村史氏。「加えて、下方リスクに対する管理手法、さらには配分変更の幅、つまり
基本的な配分比率があってそのプラスマイナス 30%以内といった制限を設けているのか、いない
のかといった点も確認しておいたほうがいいでしょう。ただし、いずれも開示資料にはあまり明記さ
れていないのです」。結局は配分変更の頻度にしても「必要に応じて」ということなのかもしれない
が、やはり目安があったほうが分かりやすいのは確かで、このあたりは改善が求められるのでは
ないだろうか。
また、もう1つの軸である配分変更の対象が金額なのか、あるいはリスク量なのかについても、
「目論見書に『リスクパリティ運用』とか『リスクに着目した運用を行う』などと書いてある場合はあり
ますが、では、書いていないものがこの表の上段に位置付けられるのかといえば、必ずしもそうで
はありません」と奥村氏。さらにはターゲットとするリスク水準が明記されているファンドすら少数派
であるという。「現状ではどういう運用を目指しているのかが曖昧で、おそらく販売される皆様は苦
労されているのではないでしょうか」(奥村氏)。
4つのカテゴリーへの分類でファンドの特徴が見えてくる
そこで今回は、主なアセットアロケーション型、ラップ型ファンドのうち、1年以上のトラックレコー
ドのあるものを取り上げ、月次の収益率をベースとして竹内氏、奥村氏に分類してもらった。もちろ
ん、いずれも過去の実績であり、しかも1年間と比較的短期であることから、あくまで参考データで
ある点は注意してほしい。
そのカテゴリーは、「リスク選好型」「リスク中庸型」「リスク回避型」に加え、少し視点が異なる区
分ではあるものの「為替ヘッジ型」という4つ(図3参照)。この分類から見えてきた主なポイントは、
まず「リスクの高いファンド(リスク選好型)が 1 年の収益率も高い」という点。特に他のカテゴリーと
収益率が大きく乖離したのは昨年 11 月で、「内外株式が大きく上昇したため、リスク性資産の配
分比率の高いファンド(リスク選好型)が優位となった」と奥村氏は分析する。
もう1つのポイントは、「資産配分にかかわる運用方針も収益性を左右する」ということ。「『結果』
は過去データからの検証に過ぎず、資産配分戦略が奏功した結果なのか、あるいは一定の配分
幅が決められていて、単にその比率が市場動向にマッチしただけなのか、を確認しておく必要が
あります」(奥村氏)。
唯一「リスク回避型」に位置付けられた「ニッセイ安定収益追求型ファンド」は、「リスク/リター
ン・プロファイルのみから見ると、極めて特徴的なファンド」だと奥村氏は話す。「いわゆるマルチ・
アセットによる収益獲得を狙うファンドというよりも、資産間の逆相関を利用することで、『円金利+
αを狙う』といった意図が極めて強く表れていると見ていいでしょう」。もう1つのカテゴリー「為替ヘ
ッジ型」については、「為替ヘッジを行わないファンドと比較すると、まったく異なるリスク/リター
ン・プロファイルとなるので別区分とした」という。
「結局は取るべきリスク水準に見合った資産配分の方針をきちんと立て、ライフサイクルや経済
サイクルによって見直すのが基本となります。そこに付加価値を生むのがアロケーション型、ラッ
プ型ファンドといえますが、その付加価値が時間軸にあるのか、配分変更の対象にあるのか、あ
るいは新しいアセットクラスを投資対象に加えたことにあるのか、それらの議論が混在している点
に分かりにくさがあるのかもしれません」(竹内氏)。
むろんアロケーション型、ラップ型ファンドをコアにするということ自体は、投信ビジネスをより進
化させることにつながるはずだ。しかし、それが単なる品ぞろえで終わってしまっては意味がなく、
今期は多くの販売会社が推進のステージに入ったといっていい。だからこそ、それぞれの商品の
特性を、特に他のファンドと比較したうえで理解しておく必要があるのではないだろうか。
以 上
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